JP6783585B2 - 原子炉構造物の補修方法 - Google Patents

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本発明の実施形態は、原子炉構造物の補修方法に関する。
沸騰水型原子炉及び加圧水型原子炉等の原子力発電プラントでは、原子炉内の構造物及び機器(以下、原子炉構造物という。)の表面にき裂等の損傷が発生した場合、その原子炉構造物に対して構造上の健全性を評価し、その結果によって原子炉構造物の交換又は補修が行われている。
原子炉構造物に生じる代表的な損傷には、材料因子、環境因子、及び応力因子の三因子が重畳した場合に発生する可能性を有する応力腐食割れが挙げられる。一般に応力腐食割れによるき裂は、き裂先端において上記三因子の内、一つ以上の因子をなくすことで、その進展を防止できることが知られている。
そのため、き裂が生じた場合においても、それが原子炉構造物の健全性を確保可能な大きさであれば、き裂開口部を封止することで、き裂内部を外部環境から遮断し、その後のき裂の進展を停止させることができる。したがって、上記き裂開口部を封止することは、構造健全性を確保した上で原子炉の運転を継続可能とするために有効な手段である。
その他の損傷としては、原子力発電プラント内に意図しない海水が流入し、ハロゲンイオン濃度が増加した結果、原子炉構造物が孔食に代表される局部腐食を生じることが挙げられる。この場合も孔食の開口部を封止することで、孔食内部を外部環境から遮断し、その孔食の進展を停止させることができる。
上記き裂又は孔食等の局所的な損傷部の開口部を封止することにより補修する方法としては、その開口部に肉盛溶接又は表面溶融による溶融層で損傷部を被覆する方法と、板材でき裂開口部を覆いその板材の縁部をレーザ溶接することで、き裂開口部を外部環境から遮断する方法が知られている。
さらに、配管部等に認められる流動環境下における材料の減肉や、意図せずに構造物表面に生じた凹み、照射劣化のように経年的に構造物の材質が変化することに伴う耐食性低下等の大局的な損傷も考えられる。
特開2003−194984号公報
しかしながら、上述した各補修方法は、いずれも補修対象部位に溶接等による熱を加える必要があり、原子炉運転中に中性子の照射を受けた材料に対して適用した場合には、施工後に熱処理を必要とする場合があるとともに、その施工期間が長期間になるという課題がある。
本実施形態が解決しようとする課題は、補修対象部位に溶接等による熱を加えることなく、短期間で損傷部を補修可能な原子炉構造物の補修方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本実施形態に係る原子炉構造物の補修方法は、金属材料からなる原子炉構造物の表面に発生した損傷部を補修する原子炉構造物の補修方法であって、前記原子炉構造物の前記損傷部を除去又は減少させる損傷部処理工程と、前記損傷部処理工程の後に、前記原子炉構造物の前記損傷部の表面にあらかじめ生成している皮膜を除去する皮膜除去工程と、前記皮膜が除去された前記原子炉構造物の表面に中間層を形成する中間層形成工程と、前記損傷部内を封止して外部環境から遮断するメッキ層を形成するメッキ工程と、を有することを特徴とする。
また、本実施形態に係る原子炉構造物の補修方法は、金属材料からなる原子炉構造物の表面に発生した損傷部を補修する原子炉構造物の補修方法であって、前記原子炉構造物の損傷部を除去又は減少させる損傷部処理工程と、前記原子炉構造物の前記損傷部の表面にあらかじめ生成している皮膜を除去する皮膜除去工程と、前記原子炉構造物の損傷部に対して外部環境から遮断するメッキ層を形成するメッキ工程と、を有することを特徴とする。
本実施形態によれば、補修対象部位に溶接等による熱を加えることなく、短期間で損傷部を補修することができる。
第1実施形態の原子炉構造物の補修方法を示すフローチャートである。 第1実施形態において原子炉構造物の表面に発生したき裂補修後の状態を示す断面図である。 第1実施形態において原子炉構造物の表面に発生した孔食補修後の状態を示す断面図である。 第2実施形態の原子炉構造物の補修方法を示すフローチャートである。 第3実施形態の原子炉構造物の補修方法を示すフローチャートである。 第3実施形態において原子炉構造物の表面に発生した損傷部補修後の状態を示す断面図である。
以下、本実施形態に係る原子炉構造物の補修方法について、図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は第1実施形態の原子炉構造物の補修方法を示すフローチャートである。図2は第1実施形態において原子炉構造物の表面に発生したき裂補修後の状態を示す断面図である。図3は第1実施形態において原子炉構造物の表面に発生した孔食補修後の状態を示す断面図である。
図2及び図3に示すように、金属材料からなる原子炉構造物1の表面には、き裂2又は孔食4が発生しているものとする。ここで、本実施形態で補修する損傷部は、き裂2又は孔食4等の局所的な損傷部である。また、本実施形態では、き裂2又は孔食4をまとめて説明する場合は損傷部とし、き裂2又は孔食4による開口部をまとめて説明する場合は損傷開口部とする。
また、原子炉構造物1とは、原子炉内に設置された構造物及び機器である。具体的には、例えば沸騰水型原子炉では、炉心を収納する原子炉圧力容器、炉心を包囲する炉心シュラウド、炉心の上下に設置された上部格子板及び炉心支持板、ジェットポンプ、ディフューザ、シュラウドサポートプレート等が挙げられる。炉心シュラウド、上部格子板、炉心支持板、ジェットポンプ等は、ステンレス鋼により構成されている。ディフューザ、シュラウドサポートプレート等には、Ni基合金が使用されている。
図2及び図3に示すように、原子炉構造物1のき裂2又は孔食4が形成された損傷開口部の近傍には、あらかじめ表面に酸化皮膜が生成されている。図1に示すように、本実施形態の原子炉構造物の補修方法は、原子炉構造物1の損傷部近傍にあらかじめ生成している酸化皮膜を除去する皮膜除去工程(ステップS10)と、皮膜が除去された原子炉構造物1の表面に中間層5を形成する中間層形成工程(ステップS15)と、この中間層形成工程の後に、損傷開口部内を封止して外部環境から遮断するメッキ層6を形成するメッキ工程(ステップS20)と、を有する。
ステップS10の皮膜除去工程では、その後形成するメッキ層6の密着性を向上させることを目的として原子炉運転中に原子炉構造物1の金属材料表面に生成している表面皮膜を除去する。
表面の皮膜を除去する方法としては、グラインダー加工、研磨加工、ブラスト材吹付加工等のうち少なくとも一種類の機械的処理と、シュウ酸や硫酸、塩酸等の酸性溶液を用いて施工部であるき裂2又は孔食4の近傍を陽極とする電解処理、シュウ酸や硫酸、塩酸等の酸性溶液による浸漬処理等のうち少なくとも一種類の化学的処理のいずれかを行う。上記電解処理の電解条件は電流密度0.1〜1.0A/cmとし、電解時間は2〜5分とする。
次いで、ステップS15の中間層形成工程では、無電解メッキ又は電解メッキにより中間層5を形成し、その中間層5の材質としては、ニッケル又は銅を用いている。
さらに、ステップS20のメッキ工程では、電解メッキによりメッキ層6を形成させ、き裂2又は孔食4が形成された損傷開口部を封止する。上記電解メッキは、メッキ液中に存在する金属イオンを原子炉構造物1の表面において還元することで、金属層を形成する方法である。この電解メッキは、100℃以下の低温で金属層を形成することが可能であり、かつ成膜速度も比較的早いという特徴がある。
具体的には、図2及び図3に示すようにき裂2又は孔食4による損傷開口部内には、外部環境に由来する水分が存在する。補修後は、上記損傷開口部にメッキ層6を形成させ、その損傷開口部内を外部環境から遮断する。メッキ層6は、損傷開口部内を外部環境から遮断することを目的とするため、必ずしもき裂2内部又は孔食4の内部に形成される必要はない。
メッキ層6により封止された損傷開口部内では、電気化学反応の結果、損傷の進展に重要な役割を果たし腐食反応速度に影響を及ぼす因子である水中の溶存酸素が徐々に減少していく。しかし、損傷開口部内は、外部環境とメッキ層6により遮断されているため、外部環境からの溶存酸素の供給はなく、溶存酸素の濃度が低下することに伴い、腐食反応速度が顕著に抑制される。その結果として、き裂2又は孔食4の進展は停止する。
メッキ層6の材質は、ニッケル、クロム、鉄のいずれかの単体又はそれらを主成分とする合金を用いる。合金メッキ層の例としては、鉄−クロム−ニッケル合金、ニッケル−タングステン合金、又はニッケル−クロム合金等が挙げられる。ニッケルメッキ条件の例としては、メッキ液に硫酸ニッケル溶液を用い、電流密度0.1〜0.3A/cm、温度50〜70℃とする。
このように本実施形態によれば、原子炉構造物1のき裂2又は孔食4の損傷部近傍にあらかじめ生成している皮膜を除去する皮膜除去工程(ステップS10)と、皮膜が除去された原子炉構造物1の表面に中間層5を形成する中間層形成工程(ステップS15)と、上記損傷部内を封止して外部環境から遮断するメッキ層を形成するメッキ工程(ステップS20)とを有することから、補修対象部位に溶接等による熱を加えることなく、短期間でき裂2又は孔食4を補修することが可能となる。
また、本実施形態によれば、メッキ工程の前に、皮膜を除去する皮膜除去工程を行い、皮膜が除去された原子炉構造物1の表面に中間層5を形成することにより、メッキ層6の密着性を一段と向上させることができる。
(第2実施形態)
図4は第2実施形態の原子炉構造物の補修方法を示すフローチャートである。なお、第2実施形態は、前記第1実施形態の変形例であり、前記第1実施形態と同一の部分には、同一のステップ番号を付して重複する説明を省略する。
本実施形態は、図4に示すようにステップS10の皮膜除去工程の前に、原子炉構造物1のき裂2又は孔食4の損傷部を除去又は減少させる損傷部処理工程(ステップS5)をさらに有している。
具体的に、損傷部処理工程(ステップS5)では、グラインダー加工、研磨加工、ブラスト材吹付加工等のうち少なくとも一種類の機械的処理と、シュウ酸や硫酸等の酸性溶液を用いて施工部であるき裂2又は孔食4の近傍を陽極とする電解処理、シュウ酸や硫酸、塩酸等の酸性溶液による浸漬処理等のうち少なくとも一種類の化学的処理のいずれかを行う。
なお、ステップS20のメッキ工程で形成するメッキ層6は、前記第1実施形態と同様に、ニッケル、クロム、鉄のいずれか単体又はそれらを主成分とする合金を用いる。合金メッキ層の例としては、鉄−クロム−ニッケル合金やニッケル−タングステン合金、ニッケル−クロム合金等が挙げられる。
このように本実施形態によれば、ステップS10の皮膜除去工程の前に、ステップS5の損傷部処理工程で原子炉構造物1の損傷部を除去又は減少させることにより、中間層5及びメッキ層6を形成し易くなり、一段と短期間でき裂2又は孔食4を補修することが可能となる。
(第3実施形態)
図5は第3実施形態の原子炉構造物の補修方法を示すフローチャートである。図6は第3実施形態において原子炉構造物の表面に発生した損傷部補修後の状態を示す断面図である。
なお、第3実施形態は、前記第1実施形態及び前記第2実施形態の変形例であり、前記第1実施形態及び前記第2実施形態と同一又は対応する部分には、同一の符号及びステップ番号を付して重複する説明を省略する。
本実施形態で補修する損傷部は、図示しないが、配管部等に認められる流動環境下における材料の減肉や、意図せずに表面に生じた凹み、照射劣化のように経年的に原子炉構造物1の材質が変化することに伴う耐食性の低下等の損傷部(以下、大局的な損傷部という。)とした例について説明する。なお、本実施形態は、前記第1実施形態及び前記第2実施形態と同様に、き裂2又は孔食4等の局所的な損傷部を補修する場合にも適用可能である。
図5に示すように、本実施形態の原子炉構造物の補修方法は、原子炉構造物1の大局的な損傷部を除去又は減少させる損傷部処理工程(ステップS5)と、原子炉構造物1の損傷部近傍にあらかじめ生成している酸化皮膜を除去する皮膜除去工程(ステップS10)と、損傷部に対して外部環境から遮断するメッキ層6を形成するメッキ工程(ステップS20)と、を有する。
本実施形態では、酸化皮膜を除去する皮膜除去工程(ステップS10)の前に、大局的な損傷部を除去又は減少させる損傷部処理工程(ステップS5)を行っている。
ステップS5の損傷部処理工程では、前記第2実施形態と同様に、グラインダー加工、研磨加工、ブラスト材吹付加工等のうち少なくとも一種類の機械的処理と、シュウ酸や硫酸等の酸性溶液を用いて施工部である損傷部の近傍を陽極とする電解処理、シュウ酸や硫酸、塩酸等の酸性溶液による浸漬処理等のうち少なくとも一種類の化学的処理のいずれかを行う。なお、本実施形態では、図6に示すように破線で示す大局的な損傷部7を実線で示す損傷部8のように減少させている。
ステップS10の皮膜除去工程、ステップS20のメッキ工程は、それぞれの方法、メッキ層6の材質が前記第1実施形態と同様である。但し、本実施形態のメッキ工程(ステップS20)では、実線で示す減少された損傷部8にその表面形状に沿ってメッキ層6が形成されている。このメッキ層6を形成したことで、減少された損傷部8は外部環境から遮断される。
このように本実施形態によれば、損傷部処理工程(ステップS5)と、皮膜除去工程(ステップS10)と、メッキ工程(ステップS20)と、を有することから、補修対象部位に溶接等による熱を加えることなく、短期間で大局的な損傷部7を補修することが可能となる。
なお、本実施形態では、皮膜除去工程(ステップS10)の前に、損傷部処理工程(ステップS5)を行っているが、これに限らず皮膜除去工程の後に、損傷部処理工程を行ってもよく、また損傷部処理工程と皮膜除去工程を同時に行ってもよい。
(第4実施形態)
第4実施形態は、前記第3実施形態の補修方法に加えて、皮膜除去工程(ステップS10)の後で、メッキ工程(ステップS20)の前に、皮膜が除去された原子炉構造物1の表面に中間層5を形成する中間層形成工程(ステップS15)をさらに有している。
なお、中間層5を形成する方法及びその材質は、前記第1実施形態と同様である。また、ステップS10の皮膜除去工程、ステップS20のメッキ工程は、それぞれの方法、メッキ層6の材質が前記第1実施形態と同様である。
このように本実施形態によれば、メッキ工程の前に、皮膜を除去する皮膜除去工程を行い、皮膜が除去された原子炉構造物1の表面に中間層5を形成することにより、メッキ層6の密着性を一段と向上させることができる。
(その他の実施形態)
本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
なお、上記各実施形態では、皮膜除去工程(ステップS10)及びメッキ工程(ステップS20)において、電流密度を上記の値に設定したが、これに限らずそれ以上の値に設定することにより、それぞれの処理速度を高めることが可能となる。
1…原子炉構造物、2…き裂、4…孔食、5…中間層、6…メッキ層、7…損傷部、8…損傷部

Claims (7)

  1. 金属材料からなる原子炉構造物の表面に発生した損傷部を補修する原子炉構造物の補修方法であって、
    前記原子炉構造物の前記損傷部を除去又は減少させる損傷部処理工程と、
    前記損傷部処理工程の後に、前記原子炉構造物の前記損傷部の表面にあらかじめ生成している皮膜を除去する皮膜除去工程と、
    前記皮膜が除去された前記原子炉構造物の表面に中間層を形成する中間層形成工程と、
    前記損傷部内を封止して外部環境から遮断するメッキ層を形成するメッキ工程と、
    を有することを特徴とする原子炉構造物の補修方法。
  2. 前記損傷部は、局所的な損傷部であることを特徴とする請求項1に記載の原子炉構造物の補修方法。
  3. 金属材料からなる原子炉構造物の表面に発生した損傷部を補修する原子炉構造物の補修方法であって、
    前記原子炉構造物の損傷部を除去又は減少させる損傷部処理工程と、
    前記原子炉構造物の前記損傷部の表面にあらかじめ生成している皮膜を除去する皮膜除去工程と、
    前記原子炉構造物の損傷部に対して外部環境から遮断するメッキ層を形成するメッキ工程と、
    を有することを特徴とする原子炉構造物の補修方法。
  4. 前記メッキ工程の前に、前記皮膜が除去された前記原子炉構造物の表面に中間層を形成する中間層形成工程をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の原子炉構造物の補修方法。
  5. 前記損傷部は、局所的な損傷部又は大局的な損傷部のいずれかであることを特徴とする請求項3又は4に記載の原子炉構造物の補修方法。
  6. 前記メッキ層は、ニッケル、クロム、鉄のいずれかの単体又はそれらを主成分とする合金により形成されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の原子炉構造物の補修方法。
  7. 前記中間層は、ニッケル又は銅のメッキ層により形成されることを特徴とする請求項1又は2又は4のいずれか一項に記載の原子炉構造物の補修方法。
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