図1は、ハイブリッド方式の車両に搭載された火花点火式エンジン1と出力調整装置2との全体図を示している。
まず初めに図1を参照しつつ出力調整装置2について簡単に説明する。図1に示される実施例では出力調整装置2が、電気モータおよび発電機として作動する一対のモータジェネレータMG1,MG2と遊星歯車機構3とにより構成される。この遊星歯車機構3はサンギア4と、リングギア5と、サンギア4とリングギア5間に配置されたプラネタリギア6と、プラネタリギア6を担持するプラネタリキャリア7とを具備する。サンギア4はモータジェネレータMG1の回転軸8に連結され、プラネタリキャリア7はエンジン1の出力軸9に連結される。また、リングギア5は一方ではモータジェネレータMG2の回転軸10に連結され、他方では駆動輪に連結された出力軸12にベルト11を介して連結される。従ってリングギア5が回転するとそれに伴って出力軸12が回転せしめられることがわかる。
各モータジェネレータMG1,MG2は夫々対応する回転軸8,10上に取付けられかつ外周面に複数個の永久磁石を取付けたロータ13,15と、回転磁界を形成する励磁コイルを巻設したステータ14,16とを具備した交流同期電動機からなる。各モータジェネレータMG1,MG2のステータ14,16の励磁コイルは夫々対応するモータ駆動制御回路17,18に接続され、これらモータ駆動制御回路17,18は直流高電圧を発生するバッテリ19に接続される。図1に示される実施例ではモータジェネレータMG2は主に電動モータとして作動し、モータジェネレータMG1は主に発電機として作動する。
出力調整装置2は更に、モータジェネレータMG1の回転が許容されている非ロック状態からモータジェネレータMG1の回転が阻止されているロック状態に一時的に切り換えるロック機構LMを備えている。図1に示される実施例ではロック機構LMはクラッチを具備しており、このクラッチはモータジェネレータMG1のロータ13に固定されロータ13と共に回転可能なクラッチ板CL1と、ハウジングに固定され回転不能なクラッチ板CL2とを備える。クラッチ板CL2はクラッチ板CL1から離脱する位置とクラッチ板CL1と係合する位置との間を移動可能になっている。非ロック状態に切り換えるべきときにはクラッチ板CL2がクラッチ板CL1から離脱する位置に移動される。その結果、モータジェネレータMG1の回転が許容される。これに対し、ロック状態に切り換えるべきときにはクラッチ板CL2がクラッチ板CL1と係合する位置に移動される。その結果、モータジェネレータMG1の回転が阻止される。
電子制御ユニット20はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス21によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)22、RAM(ランダムアクセスメモリ)23、CPU(マイクロプロセッサ)24、入力ポート25および出力ポート26を具備する。アクセルペダル27にはアクセルペダル27の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ28が接続され、負荷センサ28の出力電圧は対応するAD変換機25aを介して入力ポート25に入力される。また入力ポート25にはクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ29が接続される。更に入力ポート25にはバッテリ19の充放電電流を表す信号およびその他の種々の信号が対応するAD変換器25aを介して入力される。一方、出力ポート26は各モータ駆動制御回路17,18に接続されると共に対応する駆動回路26aを介してエンジン1の制御すべき要素、例えば燃料噴射弁等に接続される。
モータジェネレータMG2を駆動せしめるときにはバッテリ19の直流高電圧がモータ駆動制御回路18において周波数がfmで電流値がImの三相交流に変換され、この三相交流がステータ16の励磁コイルに供給される。この周波数fmは励磁コイルにより発生する回転磁界をロータ15の回転に同期して回転させるのに必要な周波数であり、この周波数fmは出力軸10の回転数に基づいてCPU24で算出される。モータ駆動制御回路18ではこの周波数fmが三相交流の周波数とされる。一方、モータジェネレータMG2の出力トルクは三相交流の電流値Imにほぼ比例する。この電流値ImはモータジェネレータMG2の要求出力トルクに基づきCPU24において算出され、モータ駆動制御回路18ではこの電流値Imが三相交流の電流値とされる。
また、外力によりモータジェネレータMG2を駆動する状態にするとモータジェネレータMG2は発電機として作動し、このとき発生した電力がバッテリ19に回生される。外力によりモータジェネレータMG2を駆動するときの要求駆動トルクはCPU24において算出され、回転軸10にこの要求駆動トルクが作用するようにモータ駆動制御回路18が作動せしめられる。
このようなモータジェネレータMG2に対する駆動制御はモータジェネレータMG1に対しても同様に行われる。即ち、モータジェネレータMG1を駆動せしめるときにはバッテリ19の直流高電圧がモータ駆動制御回路17において周波数がfmで電流値がImの三相交流に変換され、この三相交流がステータ14の励磁コイルに供給される。また、外力によりモータジェネレータMG1を駆動する状態にするとモータジェネレータMG1は発電機として作動し、このとき発生した電力がバッテリ19に回生される。このとき回転軸8に算出された要求駆動トルクが作用するようにモータ駆動制御回路17が作動せしめられる。
次に遊星歯車機構3を図解的に示す図2(A)を参照しつつ各軸8,9,10に作用するトルクの関係と各軸8,9,10の回転数の関係について説明する。
図2(A)においてr1はサンギア4のピッチ円の半径を示しており、r2はリングギア5のピッチ円の半径を示している。今、図2(A)に示す状態でエンジン1の出力軸9にトルクTeを加えてプラネタリアギア6の回転中心部に出力軸9の回転方向に向かう力Fを発生させたとする。このときプラネタリアギア6との噛合部ではサンギア4およびリングギア5に夫々力Fと同じ向きの力F/2が作用する。その結果、サンギア4の回転軸8にはトルクTes(=(F/2)・r1)が作用し、リングギア5の回転軸10にはトルクTer(=(F/2)・r2)が作用することになる。一方、エンジン1の出力軸9に作用しているトルクTeはF・(r1+r2)/2で表されるのでサンギア4の回転軸8に作用するトルクTesをr1,r2,Teで表すとTes=(r1/(r1+r2))・Teとなり、リングギア5の回転軸10に作用するトルクTerをr1,r2,Teで表すとTer=(r2/(r1+r2))・Teとなる。
即ち、エンジン1の出力軸9に生じたトルクTeはサンギア4の回転軸8に作用するトルクTesとリングギア5の回転軸10に作用するトルクTerにr1:r2の比で分配されることになる。この場合、r2>r1であるのでリングギア5の回転軸10に作用するトルクTerはサンギア4の回転軸8に作用するトルクTesよりも必ず大きくなる。なお、サンギア4のピッチ円の半径r1/リングギア5のピッチ円の半径r2、即ちサンギア4の歯数/リングギア5の歯数をρとするとTesはTes=(ρ/(1+ρ))・Teと表され、TerはTer=(1/(1+ρ))・Teと表される。
一方、エンジン1の出力軸9の回転方向、即ち図2(A)において矢印で示されるトルクTeの作用方向を正転方向とすると、プラネタリキャリア7の回転を停止した状態でサンギア4を正転方向に回転させたとき、リングギア5は反対方向に回転する。このときサンギア4とリングギア5との回転数の比はr2:r1となる。図2(B)の破線Z1はこのときの回転数の関係を図解的に表している。なお、図2(B)において縦軸は零0に対し上方が正転方向、下方が逆転方向を示している。また、図2(B)においてSはサンギア4を示しており、Cはプラネタリキャリア7を示しており、Rはリングギア5を示している。図2(B)に示されるようにプラネタリキャリアCとリングギアRとの間隔をr1とし、プラネタリキャリアCとサンギアSとの間隔をr2としてサンギアS、プラネタリキャリアC、リングギアRの回転数を黒丸で表記すると各回転数を示す点は破線Z1で示される一直線上に位置することになる。
一方、サンギア4、リングギア5、プラネタリギア6間の相対回転を停止させてプラネタリキャリア7を正転方向に回転させるとサンギア4、リングギア5、プラネタリキャリア7は正転方向に同一回転速度で回転する。このときの回転数の関係が破線Z2で示されている。従って実際の回転数の関係は破線Z2に破線Z1を重疊させた実線Zで表され、斯くしてサンギアS、プラネタリキャリアC、リングギアRの回転数を表す点は実線Zで示される一直線上に位置することになる。従ってサンギアS、プラネタリキャリアC、リングギアRのうちのいずれか二つの回転数が決まると残りの一つの回転数が自ずと定まることになる。なお、前述したr1/r2=ρの関係を用いると図2(B)に示されるようにサンギアSとプラネタリキャリアCの間隔と、プラネタリキャリアCとリングギアRとの間隔は1:ρとなる。
図2(C)はサンギアS、プラネタリキャリアC、リングギアRの回転数と、サンギアS、プラネタリキャリアC、リングギアRに作用するトルクを図解的に示している。図2(C)の縦軸および横軸は図2(B)と同じであり、また図2(C)に示される実線は図2(B)に示される実線に対応している。一方、図2(C)には回転数を表す各黒丸点に、対応する回転軸に作用するトルクが表記されている。なお、各トルクにおいてトルクの作用する方向と回転方向が同じ場合には対応する回転軸に対して駆動トルクが与えられている場合を示しており、トルクの作用する方向と回転方向とが逆の場合には対応する回転軸がトルクを与えている場合を示している。
さて、図2(C)に示される例ではプラネタリキャリアCにエンジントルクTeが作用しており、このエンジントルクTeがリングギアRに加わるトルクTerとサンギアSに加わるトルクTesとに分配されている。リングギアRの回転軸10には分配されたエンジントルクTerとモータジェネレータMG2のトルクTm2と車両を駆動するための車両駆動トルクTrとが作用しており、これらのトルクTer,Tm2,Trは釣合っている。図2(C)で示される場合にはトルクTm2はトルクの作用方向と回転方向が同じであるのでこのトルクTm2はリングギアRの回転軸10に駆動トルクを与えていることになり、従ってこのときモータジェネレータMG2は駆動モータとして作動している。図2(C)に示される場合にはこのとき分配されたエンジントルクTerとモータジェネレータMG2による駆動トルクTm2との和が車両駆動トルクTrと等しくなっており、従ってこのとき車両はエンジン1とモータジェネレータMG2とによって駆動されていることになる。
一方、サンギア5の回転軸8には分配されたエンジントルクTesとモータジェネレータMG1のトルクTm1とが作用しており、これらトルクTesとTm1とは釣合っている。図2(C)に示される場合にはトルクTm1はトルクの作用方向と回転方向とが逆方向であるのでこのトルクTm1はリングギアRの回転軸10から駆動トルクが与えられていることになり、従ってこのときモータジェネレータMG1は発電機として作動している。即ち、このとき分配されたエンジントルクTesはモータジェネレータMG1を駆動するためのトルクと等しくなっており、従ってこのときモータジェネレータMG1はエンジン1によって駆動されていることになる。
図2(C)においてNr,Ne,Nsは夫々リングギアRの回転軸10、プラネタリキャリアCの回転軸、即ち駆動軸9、サンギアSの回転軸8の回転数を示しており、従って図2(C)から各軸8,9,10の回転数の関係と各軸8,9,10に作用するトルクの関係が一目でわかることになる。図2(C)は共線図と称されており、図2(C)に示される実線は動作共線と称されている。
さて、図2(C)に示されるように車両駆動トルクがTrであり、リングギア5の回転数がNrであったとすると車両を駆動するための車両駆動出力PrはPr=Tr・Nrで表される。また、このときのエンジン1の出力PeはエンジントルクTeとエンジン回転数Neとの積Te・Neで表される。一方、このときモータジェネレータMG1の発電エネルギは同様にトルクと回転数の積で表され、従ってモータジェネレータMG1の発電エネルギはTm1・Nsとなる。また、モータジェネレータMG2の駆動エネルギもトルクと回転数の積で表され、従ってモータジェネレータMG2の駆動エネルギはTm2・Nrとなる。ここでモータジェネレータMG1の発電エネルギTm1・NsをモータジェネレータMG2の駆動エネルギTm2・Nrと等しくしてモータジェネレータMG1により発電された電力でもってモータジェネレータMG2を駆動したとすると、エンジン1の全ての出力Peが車両駆動出力Prに使用されることになる。このときにはPr=Peとなり、従ってTr・Nr=Te・Neとなる。即ち、エンジントルクTeが車両駆動トルクTrに変換されたことになる。従って出力調整装置2はトルク変換作用を行っていることになる。なお、実際には発電損失や歯車伝達損失が存在するのでエンジン1の全ての出力Peを車両駆動出力Prに使用することはできないが出力調整装置2がトルク変換作用を行っていることには変りはない。
図3(A)はエンジン1の等出力線Pe1〜Pe9を示しており、各出力の大きさの間にはPe1<Pe2<Pe3<Pe4<Pe5<Pe6<Pe7<Pe8<Pe9の関係がある。なお、図3(A)の縦軸はエンジントルクTeを示しており、図3(A)の横軸はエンジン回転数Neを示している。図3(A)からわかるように車両を駆動するのに要求されるエンジン1の要求出力Peを満たすエンジントルクTeとエンジン回転数Neの組合せは無数に存在し、この場合どのようなエンジントルクTeとエンジン回転数Neの組合せを選んでも出力調整装置2においてエンジントルクTeを車両駆動トルクTrに変換することができる。従ってこの出力調整装置2を用いると同一のエンジン出力Peの得られる所望のエンジントルクTeとエンジン回転数Neとの組合せが設定可能となる。本発明では後述するようにエンジン1の要求出力Peを確保しつつ最良の燃費を得ることのできるエンジントルクTeとエンジン回転数Neとの組合せが設定される。図3(A)に示す関係は予めROM22内に記憶されている。
図3(B)はアクセルペダル27の等アクセル開度線、即ち等踏込み量線Lを示しており、各等踏込み量線Lに対して夫々踏込み量Lがパーセンテージで示されている。なお、図3(B)の縦軸は車両の駆動に対して要求されている要求車両駆動トルクTrXを示しており、図3(B)の横軸はリングギア5の回転数Nrを示している。図3(B)から要求車両駆動トルクTrXはアクセルペダル27の踏込み量Lとそのときのリングギア5の回転数Nrから決定されることがわかる。図3(B)に示す関係は予めROM22内に記憶されている。
次に図4を参照しつつ車両を運転するための基本的な制御ルーチンについて説明する。なお、このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図4を参照すると、まず初めにステップ100においてリングギア5の回転数Nrが検出される。次いでステップ101ではアクセルペダル27の踏込み量Lが読み込まれる。次いでステップ102では図3(B)に示す関係から要求車両駆動トルクTrXが算出される。次いでステップ103では要求車両駆動トルクTrXにリングギア5の回転数Nrを乗算することによって要求車両駆動出力Pr(=TrX・Nr)が算出される。次いでステップ104では要求車両駆動出力Prに、バッテリ19の充放電のために増大すべき又は減少すべきエンジン出力Pdと、補機の駆動に必要なエンジン出力Phとを加算することによってエンジン1に要求される出力Pnが算出される。なお、バッテリ19の充放電のためのエンジン出力Pdは後述する図5(B)に示すルーチンにより算出されている。
次いでステップ105ではエンジン1に要求される出力Prを出力調整装置2におけるトルク変換の効率ηtで除算することにより最終的なエンジン1の要求出力Pe(=Pn/ηt)が算出される。次いでステップ106では図3(A)に示される関係からエンジンの要求出力Peを満たしかつ最小の燃費が得られる要求エンジントルクTeXと要求エンジン回転数NeX等が設定される。この要求エンジントルクTeXと要求エンジン回転数NeX等の設定は後述する。なお、本発明において最小の燃費とは、エンジン1の効率だけではなく出力調整装置2の歯車伝達効率等も考慮に入れた場合の最小の燃費を意味している。
次いでステップ107では要求車両駆動トルクTrXと要求エンジントルクTeXからモータジェネレータMG2の要求トルクTm2X(=TrX−Ter=TrX−TeX/(1+ρ))が算出される。次いでステップ108ではリングギア5の回転数Nrと要求エンジン回転数NeXからサンギア4の要求回転数NsXが算出される。なお、図2(C)に示す関係から(NeX−Ns):(Nr−NeX)=1:ρとなるのでサンギア4の要求回転数NsXは図4のステップ108に示されるようにNr−(Nr−NeX)・(1+ρ)/ρで表されることになる。
次いでステップ109ではモータジェネレータMG1の回転数が要求回転数NsXとなるようにモータジェネレータMG1が制御される。モータジェネレータMG1の回転数が要求回転数NsXになるとエンジン回転数Neは要求エンジン回転数NeXとなり、従ってエンジン回転数NeはモータジェネレータMG1によって要求エンジン回転数NeXに制御されることになる。次いでステップ110ではモータジェネレータMG2のトルクが要求トルクTm2XとなるようにモータジェネレータMG2が制御される。次いでステップ111では要求エンジントルクTeXを得るのに必要な燃料噴射量や目標とするスロットル弁の開度等が算出され、ステップ112ではこれらに基づいてエンジン1の制御が行われる。
ところでハイブリッド方式の車両ではバッテリ19の充電量を常時一定量以上に維持しておく必要があり、そこで本発明による実施例では図5(A)に示されるように充電量SOCを下限値SC1と上限値SC2との間に維持するようにしている。即ち、本発明による実施例では充電量SOCが下限値SC1よりも低下すると発電量を増大するためにエンジン出力が強制的に高められ、充電量SOCが上限値SC2を越えるとモータジェネレータによる電力消費量を増大するためにエンジン出力が強制的に低下せしめられる。なお、充電量SOCは例えばバッテリ19の充放電電流Iを積算することによって算出される。
図5(B)はバッテリ19の充放電の制御ルーチンを示しており、このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図5(B)を参照するとまず初めにステップ120において充電量SOCにバッテリ19に充放電電流Iが加算される。この電流値Iは充電時はプラスとされ、放電時はマイナスとされる。次いでステップ121ではバッテリ19に強制的に充電中であるか否かが判別され、強制的に充電中でないときにはステップ122に進んで充電量SOCが下限値SC1よりも低下したが否かが判別される。SOC<SC1になるとステップ124に進んで図4のステップ104におけるエンジン出力Pdが予め定められている値Pd1とされる。このときエンジン出力が強制的に増大せしめられ、バッテリ19が強制的に充電される。バッテリ19が強制的に充電されるとステップ121からステップ123に進んで強制的な充電作用が完了したか否かが判別され、強制的な充電作用が完了するまでステップ124に進む。
一方、ステップ122においてSOC≧SC1であると判別されたときにはステップ125に進んでバッテリ19から強制的に放電中であるか否かが判別される。強制的に放電中でないときにはステップ126に進んで充電量SOCが上限値SC2を越えたか否かが判別される。SOC>SC2になるとステップ128に進んで図4のステップ104におけるエンジン出力Pdが予め定められている値−Pd2とされる。このときエンジン出力が強制的に減少せしめられ、バッテリ19が強制的に放電される。バッテリ19が強制的に放電されるとステップ125からステップ127に進んで強制的な放電作用が完了したか否かが判別され、強制的な放電作用が完了するまでステップ128に進む。
次に図6を参照しつつ図1に示される火花点火式エンジンについて説明する。
図6を参照すると、30はクランクケース、31はシリンダブロック、32はシリンダヘッド、33はピストン、34は燃焼室、35は燃焼室34の頂面中央部に配置された点火栓、36は吸気弁、37は吸気ポート、38は排気弁、39は排気ポートを夫々示す。吸気ポート37は吸気枝管40を介してサージタンク41に連結され、各吸気枝管40には夫々対応する吸気ポート37内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁42が配置される。なお、燃料噴射弁42は各吸気枝管40に取付ける代りに各燃焼室34内に配置してもよい。一方、シリンダブロック31にはエンジン冷却水の温度を検出するための水温センサ31aが取り付けられる。
サージタンク41は吸気ダクト43を介してエアクリーナ44に連結され、吸気ダクト43内にはアクチュエータ45によって駆動されるスロットル弁46と例えば熱線を用いた吸入空気量検出器47とが配置される。一方、排気ポート39は排気マニホルド48を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒コンバータ49に連結され、排気マニホルド48内には空燃比センサ49aが配置される。また、触媒コンバータ49には排気管48aが連結され、排気管48aには三元触媒から流出する排気ガスの温度を検出するための温度センサ49bが取り付けられる。この排気ガスの温度は三元触媒の温度を表している。
一方、図6に示される実施例ではクランクケース30とシリンダブロック31との連結部にクランクケース30とシリンダブロック31のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン33が圧縮上死点に位置するときの燃焼室34の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられており、更に燃焼室34内に実際に供給される吸入空気量を制御するために吸気弁36の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構Bが設けられている。
図7は図6に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図8は図解的に表したエンジン1の側面断面図を示している。図7を参照すると、シリンダブロック31の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50内には夫々断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース30の上壁面上には互いに間隔を隔てて夫々対応する突出部50の間に嵌合せしめられる複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52内にも夫々断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
図7に示されるように一対のカムシャフト54,55が設けられており、各カムシャフト54,55上には一つおきに各カム挿入孔51内に回転可能に挿入される円形カム56が固定されている。これらの円形カム56は各カムシャフト54,55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム56間には図8においてハッチングで示すように各カムシャフト54,55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57が延びており、この偏心軸57上に別の円形カム58が偏心して回転可能に取付けられている。図7に示されるようにこれら円形カム58は各円形カム56間に配置されており、これら円形カム58は対応する各カム挿入孔53内に回転可能に挿入されている。
図8(A)に示すような状態から各カムシャフト54,55上に固定された円形カム56を図8(A)において実線の矢印で示される如く互いに反対方向に回転させると偏心軸57が下方中央に向けて移動するために円形カム58がカム挿入孔53内において図8(A)の破線の矢印に示すように円形カム56とは反対方向に回転し、図8(B)に示されるように偏心軸57が下方中央まで移動すると円形カム58の中心が偏心軸57の下方へ移動する。
図8(A)と図8(B)とを比較するとわかるようにクランクケース30とシリンダブロック31の相対位置は円形カム56の中心と円形カム58の中心との距離によって定まり、円形カム56の中心と円形カム58の中心との距離が大きくなるほどシリンダブロック31はクランクケース30から離れる。シリンダブロック31がクランクケース30から離れるとピストン33が圧縮上死点に位置するときの燃焼室34の容積は増大し、従って各カムシャフト54,55を回転させることによってピストン33が圧縮上死点に位置するときの燃焼室34の容積を変更することができる。
図7に示されるように各カムシャフト54,55を夫々反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸には夫々螺施方向が逆向きの一対のウォームギア61,62が取付けられており、これらウォームギア61,62と噛合する歯車63,64が夫々各カムシャフト54,55の端部に固定されている。この実施例では駆動モータ59を駆動することによってピストン33が圧縮上死点に位置するときの燃焼室34の容積を広い範囲に亘って変更することができる。なお、図6から図8に示される可変圧縮比機構Aは一例を示すものであっていかなる形式の可変圧縮比機構でも用いることができる。
一方、図9は図6において吸気弁36を駆動するためのカムシャフト70の端部に取付けられた可変バルブタイミング機構Bを示している。図9を参照すると、この可変バルブタイミング機構Bはエンジン1の出力軸9によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転せしめられるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁駆動用カムシャフト70と一緒に回転しかつ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを具備しており、各ベーン75の両側には夫々進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
各油圧室76,77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76,77に夫々連結された油圧ポート79,80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83,84と、各ポート79,80,82,83,84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは図9においてスプール弁85が右方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転せしめられる。
これに対し、吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは図9においてスプール弁85が左方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転せしめられる。
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転せしめられているときにスプール弁85が図9に示される中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。従って可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させることができ、遅角させることができることになる。
図10において実線は可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。従って吸気弁36の開弁期間は図10において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、従って吸気弁36の閉弁時期も図10において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
図6および図9に示される可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
再び図6を参照すると、エンジン1は排気再循環(以下、EGRと称す)機構90を具備する。EGR機構90はサージタンク41と排気マニホルド48とを互いに連結するEGR通路91を備える。EGR通路91内にはエンジン1に供給されるEGRガス量を制御する電気制御式EGR制御弁92が配置され、EGR通路91周りにはEGR通路91内を流れるEGRガスを冷却する冷却装置93が配置される。EGRガスをエンジン1に供給するEGR作用を行うべきときにはEGR制御弁92が開弁される。これに対し、EGR作用を停止すべきときにはEGR制御弁92が閉弁される。また、EGRガス量を増大すべきときにはEGR制御弁92の開度が大きくされ、EGRガス量を減少すべきときにはEGR制御弁92の開度が小さくされる。なお、EGR通路91を吸気ポート37に連結してもよい。
次に図11を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図11の(A),(B),(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図11の(A),(B),(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
図11(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図11(A)に示される例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
図11(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。即ち、図11(B)に示されるように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。従って実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図11(B)に示される例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
図11(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図11(C)に示される例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
次に図12および図13を参照しつつ本発明において用いられている超高膨張比サイクルについて説明する。なお、図12は理論熱効率と膨張比と実圧縮比εとの関係を示しており、図13は本発明において要求エンジントルクTeに応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
図13(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図13(A)に示す例でも図11の(A),(B),(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図13(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。即ち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
図12における実線は実圧縮比εと膨張比とがほぼ等しい場合の、即ち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、即ち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。従って通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比ε、即ち膨張比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできないことになる。
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比εとを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果理論熱効率は膨張比が支配し、実圧縮比εが或る程度まで高くなると理論熱効率に対して実圧縮比εはほとんど影響を与えないことが見出されたのである。即ち、実圧縮比εを高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギが必要となり、斯くして実圧縮比εを高めても理論熱効率はほとんど高くならない。これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。従って膨張比は大きくすれば大きくするほど理論熱効率が高くなる。図12の破線は実圧縮比εを夫々5,6,7,8,9,10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。なお、図12において黒丸は実圧縮比εを5,6,7,8,9,10としたときの理論熱効率のピークの位置を示している。図12から、実圧縮比εを例えば10といった低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図12の実線で示す如く実圧縮比εも膨張比と共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
このように実圧縮比εが低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、従って実圧縮比εを低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大巾に高めることができることになる。図13(B)は可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比εを低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
図13(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少せしめられる。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図13(A)に示される通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図13(B)に示される場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。これが超高膨張比サイクルと称される所以である。
上述したように膨張比を高くすると理論熱効率が向上し、燃費が向上する。従って膨張比はできる限り広い運転領域において高くすることが好ましい。しかしながら図13(B)に示されるように超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室34内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、従ってこの超高膨張比サイクルは燃焼室34内に供給される吸入空気量が少ないとき、即ち要求エンジントルクTeが低いときしか採用できないことになる。従って本発明による実施例では要求エンジントルクTeが低いときには図13(B)に示す超高膨張比サイクルとされ、要求エンジントルクTeが高いときには図13(A)に示す通常のサイクルとされる。
次に図14を参照しつつ要求エンジントルクTeに応じてエンジン1がどのように制御されるかについて説明する。
図14には要求エンジントルクTeに応じた機械圧縮比、膨張比、吸気弁36の閉弁時期、実圧縮比、吸入空気量、スロットル弁46の開度および燃費の各変化が示されている。燃費は、車両が予め定められた走行モードで予め定められた走行距離を走行したときの燃料消費量を示しており、従って燃費を示す値は燃費が良好になるほど小さくなる。なお、本発明による実施例では触媒コンバータ49内の三元触媒によって排気ガス中の未燃HC,COおよびNOxを同時に低減しうるように通常燃焼室34内における平均空燃比は空燃比センサ49aの出力信号に基いて理論空燃比にフィードバック制御されている。図12は、このように燃焼室34内における平均空燃比が理論空燃比とされているときの理論熱効率を示している。
一方、このように本発明による実施例では燃焼室34内における平均空燃比が理論空燃比に制御されているのでエンジントルクTeは燃焼室34内に供給される吸入空気量に比例し、従って図14に示されるように要求エンジントルクTeが低下するほど吸入空気量が減少せしめられる。従って要求エンジントルクTeが低下するほど吸入空気量を減少させるために図14において実線で示されるように吸気弁36の閉弁時期が遅らされる。このように吸気弁36の閉弁時期を遅らせることによって吸入空気量が制御されている間はスロットル弁46が全開状態に保持されている。一方、要求エンジントルクTeが或る値Te1よりも低くなると吸気弁36の閉弁時期を制御することによっては吸入空気量を必要とする吸入空気量に制御しえなくなる。従って要求エンジントルクTeがこの値Te1、即ち限界値Te1よりも低いときには吸気弁36の閉弁時期は限界値Te1のときの限界閉弁時期に保持され、このときにはスロットル弁46によって吸入空気量が制御される。
一方、前述したように要求エンジントルクTeが低いときには超高膨張比サイクルとされ、従って図14に示されるように要求エンジントルクTeが低いときには機械圧縮比を高めることによって膨張比が高くされる。ところで図12に示されるように例えば実圧縮比εを10とした場合、膨張比が35程度のときに理論熱効率がピークとなる。従って要求エンジントルクTeが低いときには膨張比が35程度になるまで機械圧縮比を高めることが好ましい。しかしながら膨張比が35程度になるまで機械圧縮比を高めるのは構造上の制約から困難である。そこで本発明による実施例では要求エンジントルクTeが低いときにはできる限り高い膨張比が得られるように機械圧縮比が構造上可能な最大機械圧縮比とされている。
一方、機械圧縮比を最大機械圧縮比に維持した状態で吸入空気量を増大すべく吸気弁36の閉弁時期が早められると実圧縮比が高くなる。しかしながら実圧縮比は最大でも12以下に維持する必要がある。従って要求エンジントルクTeが高くなって吸入空気量が増大せしめられるときには実圧縮比が最適な実圧縮比に維持されるように機械圧縮比が低下せしめられる。本発明による実施例では図14に示されるように要求エンジントルクTeが限界値Te2を越えたときには実圧縮比が最適な実圧縮比に維持されるように要求エンジントルクTeが増大するにつれて機械圧縮比が低下せしめられる。
要求エンジントルクTeが高くなると機械圧縮比は最小機械圧縮比まで低下せしめられ、このときには図13(A)で示される通常のサイクルとなる。
ところで本発明による実施例ではエンジン回転数Neが低いときには実圧縮比εが9から11の間とされる。ただし、エンジン回転数Neが高くなると燃焼室34内の混合気に乱れが発生するためにノッキングが発生しづらくなり、従って本発明による実施例ではエンジン回転数Neが高くなるほど実圧縮比εが高くされる。
一方、本発明による実施例では超高膨張比サイクルとされたときの膨張比が26から30とされている。一方、図12において実圧縮比ε=5は実用上使用可能な実圧縮比の下限を示しており、この場合、膨張比がほぼ20のときに理論熱効率がピークとなる。理論空燃比がピークとなる膨張比は実圧縮比εが5よりも大きくなるにつれて20よりも高くなり、従って実用上使用する可能性のある実圧縮比εを考えると膨張比が20以上であることが好ましいと言える。従って本発明による実施例では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
また、図14に示される例では機械圧縮比は要求エンジントルクTeに応じて連続的に変化せしめられている。しかしながら機械圧縮比は要求エンジントルクTeに応じて段階的に変化させることもできる。
一方、図14において破線で示すように要求エンジントルクTeが低くなるにつれて吸気弁36の閉弁時期を早めることによっても吸入空気量を制御することができる。従って、図14において実線で示される場合と破線で示される場合とをいずれも包含しうるように表現すると、本発明による実施例では吸気弁36の閉弁時期は、要求エンジントルクTeが低くなるにつれて、燃焼室34内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期まで吸気下死点BDCから離れる方向に移動せしめられることになる。
ところで膨張比が高くなると理論熱効率が高くなり、燃費が良好となる、即ち燃費が小さくなる。従って図14において要求エンジントルクTeが限界値Te2以下のときに燃費が最も小さくなる。しかしながら限界値Te1とTe2の間では要求エンジントルクTeが低くなるにつれて実圧縮比が低下するのでわずかばかり燃費が悪くなる、即ち燃費が高くなる。また、要求エンジントルクTeが限界値Te1よりも低い領域ではスロットル弁46が閉弁せしめられるために燃費は更に高くなる。一方、要求エンジントルクTeが限界値Te2よりも高くなると膨張比が低下するために要求エンジントルクTeが高くなるにつれて燃費が高くなる。従って要求エンジントルクTeが限界値Te2のとき、即ち要求エンジントルクTeの増大により機械圧縮比が低下せしめられる領域と機械圧縮比が最大機械圧縮比に維持されている領域との境界において燃費は最も小さくなる。
燃費が最も小さくなるエンジントルクTeの限界値Te2はエンジン回転数Neに応じて若干変化するが、いずれにしてもエンジントルクTeを限界値Te2に保持しておくことができれば最小の燃費を得られることになる。本発明ではエンジン1の要求出力Peが変化してもエンジントルクTeを限界値Te2に維持するために出力調整装置2が用いられている。
図14を参照して説明したように、超高膨張比サイクルにおいて、エンジントルクTeが限界値Te1よりも低いときには、機械圧縮比が予め定められた機械圧縮比、例えば20以上に維持されると共に吸気弁36の閉弁時期が吸気下死点から離れた側に維持されつつスロットル弁46の開度を制御することによって吸入空気量が制御される。これを第1の超高膨張比サイクルと称することにする。一方、エンジントルクTeが限界値Te1よりも高いときには機械圧縮比が予め定められた機械圧縮比に維持されると共にスロットル弁45が全開状態に保持されつつ吸気弁36の閉弁時期を遅らせることにより吸入空気量が制御される。これを第2の超高膨張比サイクルと称することにする。従って、超高膨張比サイクルでは第1の超高膨張比サイクルと第2の超高膨張比サイクルのいずれか一方が行われる。
次に、図15を参照しつつエンジン1の制御方法について説明する。
図15において実線P1は、超高膨張比サイクルが行われたときに燃費が最小となるエンジントルクTeとエンジン回転数Neの関係を示している。従って、超高膨張比サイクルが行われるときにエンジントルクTeとエンジン回転数Neを実線P1上のエンジントルクTeとエンジン回転数Neに設定すると燃費が最小となる。
一方、図15において実線P2は、通常のサイクルが行われたときに燃費が最小となるエンジントルクTeとエンジン回転数Neの関係を示している。従って、通常のサイクルが行われるときにエンジントルクTeとエンジン回転数Neを実線P2上のエンジントルクTeとエンジン回転数Neに設定すると燃費が最小となる。
本発明による実施例では、エンジン1の要求出力Peが図15に破線で示さる境界出力PYよりも低いときには超高膨張比サイクルが行われる。言い換えると、エンジン1の要求出力Peが境界出力PYよりも低いときには、機械圧縮比が予め定められた圧縮比以上に維持されると共に吸気弁36の閉弁時期が吸気下死点から離れた側に維持されつつスロットル開度又は吸気弁36の閉弁時期を制御することにより吸入空気量が制御される。この場合、要求エンジントルクTeXと要求エンジン回転数NeXは図15の実線P1上のエンジントルクTeとエンジン回転数Neに設定される。従って、エンジン1の要求出力Peに応じエンジントルクTeとエンジン回転数Neが実線P1に沿って変化される。
これに対し、エンジン1の要求出力Peが境界出力PYよりも高いときには通常のサイクルが行われる。即ち、機械圧縮比が予め定められた圧縮比以下に維持されると共に吸気弁36の閉弁時期が吸気下死点に近い側に維持されつつスロットル開度を制御することにより吸入空気量が制御される。この場合、要求エンジントルクTeXと要求エンジン回転数NeXは図15の実線P2上のエンジントルクTeとエンジン回転数Neに設定される。従って、エンジン1の要求出力Peに応じエンジントルクTeとエンジン回転数Neが実線P2に沿って変化される。
ところで、図16に破線で示されるように、サンギアSの回転数Nsが負値になると、即ちサンギアSが逆回転すると、好ましくない動力循環が生ずる。動力循環が生ずると燃費が悪化する。そこで本発明による実施例では、非ロック状態における燃費とロック状態における燃費とを比較し、ロック状態における燃費が非ロック状態における燃費よりも小さいときには、ロック機構LMによりロック状態に切り換えるようにしている。ロック状態に切り換えられると、図16に実線で示されるようにリングギアRの回転数Nrが維持されながらサンギアSの回転数Nsがゼロに維持される。これに対し、非ロック状態における燃費がロック状態における燃費よりも小さいときには非ロック状態に維持され、又は非ロック状態に戻される。
本発明による実施例では、非ロック状態における燃費は、非ロック状態においてエンジン1が運転されたと仮定したときに車両の要求出力を発生するのに必要なエンジン1での燃料消費量およびバッテリ19での電力消費量から推定される。同様に、ロック状態における燃費は、ロック状態においてエンジン1が運転されたと仮定したときに車両の要求出力を発生するのに必要なエンジン1での燃料消費量およびバッテリ19での電力消費量から推定される。
ただし、通常のサイクルが行われているときにはロック状態に切り換えられても燃費が小さくならない。従って本発明による実施例では、ロック状態に切り換えられるのは超高膨張比サイクルが行われているときであり、通常のサイクルが行われているときには非ロック状態に維持される。
図15において実線P3は、ロック状態において超高膨張比サイクルが行われたときに燃費が最小となるエンジントルクTeとエンジン回転数Neの関係を示している。従って、ロック状態において超高膨張比サイクルが行われるときにエンジントルクTeとエンジン回転数Neを実線P3上のエンジントルクTeとエンジン回転数Neに設定すると燃費が最小となる。
ロック状態のもとで超高膨張比サイクルが行うべきときには、要求エンジントルクTeXと要求エンジン回転数NeXは図15の実線P3上のエンジントルクTeとエンジン回転数Neに設定される。従って、エンジン1の要求出力Peに応じエンジントルクTeとエンジン回転数Neが実線P3に沿って変化される。
なお、図15に示される実線P1,P2,P3は動作線と称される。
ところで、図14を参照して説明したように、超高膨張比サイクルにおいてエンジントルクTeが限界値Te1よりも低いときには吸気弁36の閉弁時期が吸気下死点から離れた側に維持されつつスロットル弁46の開度を制御することによって吸入空気量が制御される第1の超高膨張比サイクルが行われる。一方、エンジントルクTeが限界値Te1よりも高いときにはスロットル弁45が全開状態に保持されつつ吸気弁36の閉弁時期を制御することにより吸入空気量が制御される第2の超高膨張比サイクルが行われる。その結果、第1の超高膨張比サイクルではポンピングロスが増大してしまう。
一方、エンジン1の燃費のみを考えると、ロック状態における燃費は、非ロック状態における燃費よりも大きくなっている。そうすると、第1の超高膨張比サイクル時であってロック状態時には燃費がかなり大きくなるということになる。
一方、エンジン1にEGRガスを供給すれEGR作用を行えばポンピングロスを低減でき、従って燃費を小さくすることができる。
そこで本発明による実施例では、第1の超高膨張比サイクル時であってロック状態時にEGR作用を行うようにしている。その結果、第1の超高膨張比サイクル時であってロック状態に燃費が増大するのが抑制される。
第1の超高膨張比サイクルではエンジントルクTeが高くなるにつれてスロットル開度が大きくなる。スロットル開度が大きいときにEGR作用を行うと、排気ガスが吸気ダクト43内を逆流してスロットル弁46を通過し、吸入空気量検出器47に到るおそれがある。この場合、吸入空気量検出器47が吸入空気量を正確に検出できないおそれがある。
また、超高膨張比サイクルでは、吸気弁36の閉弁時期が大幅に遅くされているので、燃焼が必ずしも安定ではない。この状態でEGR作用を行うと、燃焼が更に不安定になるおそれがある。特に、第1の超高膨張比サイクルが行われる低負荷時には、燃焼がより不安定になるおそれがある。
そこで本発明による実施例では、ロック状態時であっても、スロットル開度を表すエンジントルクTeが許容上限TeUよりも高いときにはEGR作用が停止され、エンジントルクTeが許容上限TeUよりも低いときにEGR作用が行われる。また、ロック状態時であっても、エンジン回転数Neが許容下限NeLよりも低いときにEGR作用が停止され、エンジン回転数Neが許容下限よりも高いときにEGR作用が行われる。
即ち、図17に示されるように、エンジントルクTeおよびエンジン回転数Neにより定まるエンジン運転状態が、エンジントルクTeが許容上限TeUよりも低くかつエンジン回転数Neが許容下限NeLよりも高い領域AEGR内にあるときにEGR作用が行われ、エンジン運転状態が領域AEGR外にあるときにはEGR作用が停止される。このようにすると、吸入空気量を正確に検出しつつ安定した燃焼を得ることができる。
EGR作用が行われるときのEGR制御弁92の開度VEGRは図18に示されるようにエンジントルクTeおよびエンジン回転数Neの関数としてマップの形で予めROM22内に記憶されている。
一方、第1の超高膨張比サイクル時であって非ロック状態時にはEGR作用は行われない。その結果、EGR作用により燃焼が不安定になるのが阻止される。
図19は上述のサイクル制御を実行するルーチンを示している。このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図19を参照すると、まず初めにステップ200ではエンジン1の出力Peが境界出力PYよりも低いか否かが判別される。Pe<PYのときには次いでステップ201に進み、超高膨張比サイクルが行われる。これに対し、Pe≧PYのときにはステップ202に進んで通常のサイクルが行われる。
なお、超高膨張比サイクルから通常のサイクルに切り換えられるとき又は通常のサイクルから超高膨張比サイクルに切り換えられるときには、エンジン1の出力Peが維持される。また、非ロック状態からロック状態に切り換えられるとき又はロック状態から非ロック状態に切り換えられるときにも、エンジン1の出力Peが維持される。即ち、図15に示されるように、曲線P1上の点X1で表されるエンジン運転状態において超高膨張比サイクルが行われているときに通常のサイクルに切り換えるべきときには、エンジン1の出力PeがPe4に維持されるようにエンジン運転状態が曲線P2上の点X2に変化される。一方、点X1で表されるエンジン運転状態からロック状態に切り換えるべきときには、エンジン1の出力PeがPe4に維持されるようにエンジン運転状態が曲線P3上の点X3に変化される。
図20は上述のロック制御を実行するルーチンを示している。このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図20を参照すると、まず初めにステップ300ではエンジン1において超高膨張比サイクルが行われているか否かが判別される。超高膨張比サイクルが行われているときには次いでステップ301に進み、非ロック状態における燃費FbULおよびロック状態における燃費FbLが推定される。続くステップ302ではロック状態における燃費FbLが非ロック状態における燃費FbLよりも小さいか否かが判別される。FbL<FbULのときには次いでステップ303に進み、ロック機構LMが作動され、ロック状態に切り換えられる。これに対し、FbL≧FbULのときには次いでステップ304に進み、ロック機構LMが停止され、非ロック状態に戻される。
図21は上述のEGR制御を実行するルーチンを示している。このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図21を参照すると、まず初めにステップ400では第1の超高膨張比サイクルが行われているか否かが判別される。第1の超高膨張比サイクルが行われているときには次いでステップ401に進み、ロック状態であるか否かが判別される。ロック状態であるときには次いでステップ402に進み、エンジン運転状態が領域AEGR内にあるか否かが判別される。エンジン運転状態が領域AEGR内にあるときには次いでステップ403に進み、EGR作用が行われる。これに対し、ステップ400において第1の超高膨張比サイクルが行われていないとき、ステップ401において非ロック状態であるとき、およびステップ402においてエンジン運転状態が領域AEGR外にあるときには、ステップ404に進み、EGR作用が停止される。
なお、図17に示される例では領域AEGRがエンジントルクTeおよびエンジン回転数Neにより規定される。別の実施例では、領域AEGRがエンジントルクTeのみ又はエンジン回転数Neのみにより規定される。
次に、EGR制御の別の実施例を説明する。
この別の実施例では、図22に示されるように、EGR制御弁92の開度VEGRが小さいときには開度VEGRが大きいときに比べて許容上限TeUが大きく設定される。即ち、EGRガス量が少なくなるにつれて領域AEGRが拡大される。このようにしているのは、EGRガス量が少ないときには、エンジントルクTeが大きくても、即ちスロットル開度が大きくても、吸入空気量の誤検出の可能性が低いからである。
また、この別の実施例では、図23に示されるように、EGR制御弁92の開度VEGRが小さいときには開度VEGRが大きいときに比べて許容下限NeLが小さく設定される。即ち、EGRガス量が少なくなるにつれて領域AEGRが拡大される。このようにしているのは、EGRガス量が少ないときには、EGRガスによる燃焼安定性への影響が小さいからである。
更に、図23に示されるように、エンジン冷却水温THWが高いときにはエンジン冷却水温THWが低いときに比べて許容下限NeLが小さく設定される。即ち、エンジン冷却水温THWが高くなるにつれて領域AEGRが拡大される。このようにしているのは、エンジン冷却水温THWが高いときには、EGRガスによる燃焼安定性への影響が小さいからである。
更に、エンジン冷却水温THWが許容下限THWLよりも低いときにはEGR作用が停止される。エンジン冷却水温THWが過度に低いときにはEGRガスによる燃焼安定性への影響が大きいからである。
図24は上述のEGR制御を実行するルーチンを示している。このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図24を参照すると、まず初めにステップ400では第1の超高膨張比サイクルが行われているか否かが判別される。第1の超高膨張比サイクルが行われているときには次いでステップ401に進み、ロック状態であるか否かが判別される。ロック状態であるときには次いでステップ401aに進み、エンジン冷却水温THWが許容下限THWL以上か否かが判別される。THW≧THWLのときには次いでステップ401bに進み、領域AEGRが決定される。即ち、図22および図23から許容上限TeUおよび許容下限NeLが決定される。続くステップ402ではエンジン運転状態が領域AEGR内にあるか否かが判別される。エンジン運転状態が領域AEGR内にあるときには次いでステップ403に進み、EGR作用が行われる。これに対し、ステップ400において第1の超高膨張比サイクルが行われていないとき、ステップ401において非ロック状態であるとき、ステップ401aにおいてTHW<THWLのとき、およびステップ402においてエンジン運転状態が領域AEGR外にあるときには、ステップ404に進み、EGR作用が停止される。
次に、図25を参照して本発明による更に別の実施例を説明する。
EGR作用が停止された直後は、吸気ダクト43、サージタンク41、吸気枝管40、吸気ポート37にEGRガスが残存しており、このEGRガスは順次各気筒に吸入される。ところが、このとき各気筒に吸入されるEGRガス量にバラツキが生ずるおそれがある。その結果、各気筒での燃焼にバラツキが生じ、トルク変動が大きくなるおそれがある。
一方、超高膨張比サイクルが行われていると、燃焼が不安定になるおそれがある。また、第2の超高膨張比サイクルではスロットル弁46が全開に保持されるのでEGRガスがスロットル弁46上流の吸気ダクト43にまで逆流するおそれがある。その結果、吸気通路内のEGRガスが長時間にわたって残存し続けることになる。このことはトルク変動が生ずるおそれのある期間が長くなることを意味している。
そこで図25に示される実施例では、超高膨張比サイクルを行うべきであっても、EGR作用が停止されたときには、機械圧縮比が予め定められた圧縮比以下に維持されると共に吸気弁の閉弁時期が吸気下死点に近い側に維持されつつスロットル開度を制御することにより吸入空気量が制御される通常のサイクルが一時的に行われる。
即ち、図25に示されるように、時間ta1においてEGR作用が停止されると、超高膨張比サイクルを行うべきであっても、超高膨張比サイクルが停止され、通常のサイクルが行われる。次いで、時間ta2になると、即ち一定時間dtaが経過すると、超高膨張比サイクルに戻される。その結果、燃焼が不安定になるのが阻止される。また、吸気通路内に残留するEGRガスが速やかに除去される。なお、一定時間dtaは吸気通路内に残留するEGRガスをほぼゼロまで減少させるのに必要な時間に設定される。
図26は図25に示される実施例のサイクル制御を実行するルーチンを示している。このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図26を参照すると、まず初めにステップ200ではエンジン1の出力Peが境界出力PYよりも低いか否かが判別される。Pe<PYのときには次いでステップ200aに進み、EGR作用が停止されてから一定時間dtaが経過したか否かが判別される。EGR作用が停止されてから一定時間dtaが経過したとき、即ちEGR作用が停止された直後でないときには次いでステップ201に進み、超高膨張比サイクルが行われる。これに対し、ステップ200においてPe≧PYのとき、およびステップ200aにおいてEGR作用が停止されてから一定時間dtaが経過していないとき即ちEGR作用が停止された直後には、ステップ202に進んで通常のサイクルが行われる。
次に、図27を参照して本発明による更に別の実施例を説明する。
EGR作用が行われると排気ガスの温度が低くなる。このため、例えばEGR作用が長時間にわたって行われると、触媒コンバータ49に内蔵された触媒の温度がその活性温度よりも低くなるおそれがある。
そこで図27に示される実施例では、ロック状態時であってEGR作用時に排気ガス温度が予め定められた許容下限を越えて低下したときには、ロック状態に維持されつつEGR作用が停止される。EGR作用が停止されても排気ガス温度が許容下限よりも低いときには、ロック状態から非ロック状態に切り換えられると共に超高膨張比サイクルから通常のサイクルに切り換えられる。通常のサイクルに切り換えられても排気ガス温度が許容下限よりも低いときには、昇温制御が行われる。
即ち、図27に示されるように、時間tb1において排気ガスの温度TEGが許容下限TEGLを越えて低下したときには、EGR作用を行うべきであっても、ロック状態に維持されつつEGR作用が停止される。
EGR作用が停止されると排気ガス温度TEGが上昇するはずである。にもかかわらず、時間tb2において、EGR作用が停止されてから一定時間dtb1が経過しても排気ガス温度TEGが許容下限TEGLよりも低いときには、ロック状態に維持すべきであっても、ロック状態から非ロック状態に切り換えられる。また、超高膨張比サイクルに維持すべきであっても、超高膨張比サイクルから通常のサイクルに切り換えられる。
通常のサイクルに切り換えられると排気ガス温度TEGが上昇するはずである。にもかかわらず、時間tb3において、通常のサイクルに切り換えられてから一定時間dtb2が経過しても排気ガス温度TEGが許容下限TEGLよりも低いときには、排気ガス温度TEGを上昇させるための昇温制御が行われる。この昇温制御は例えば点火時期を遅角することにより行われる。別の実施例では、図5(B)に示されるバッテリ19の充放電制御においてバッテリ19が強制的に充電される。その結果、エンジン1の出力Peが増大され、排気ガス温度TEGが上昇される。
昇温制御が行われると排気ガス温度TEGが上昇する。図27に示される例では時間tb4において排気ガス温度TEGが許容下限TEGLに達し、このとき昇温制御が停止される。また、EGR作用を停止しつつ通常のサイクルから超高膨張比サイクルに戻されると共に非ロック状態からロック状態に戻される。次いで、一定時間dtb3が経過すると、EGR作用が再開される。
即ち、通常のサイクルでは吸入空気量を制御するためにスロットル開度が制御される。このため、図27に示されるように、通常のサイクルに切り換えられると、スロットル弁46下流の吸気通路内の圧力である吸気圧力Pinが低下する。吸気圧力Pinが低いときにEGR作用を再開すると、即ちEGR制御弁92を開弁すると、EGRガスが急激にサージタンク41内に流入し、エンジン1に供給されるEGRガス量が大幅に増大するおそれがある。一方、超高膨張比サイクルが行われると、通常のサイクルが行われているときに比べて、吸気圧力Pinが高くなる。
そこで図27に示される実施例では、排気ガス温度TEGが許容下限TEGL以上になったときにはまず超高膨張比サイクルに戻され、次いでEGR作用が再開される。その結果、エンジン1に供給されるEGRガス量が急激に増大するのが抑制される。なお、一定時間dtb3は吸気圧力Pinが上昇するのに必要な時間に設定される。
図28は図27に示される実施例の排気ガス温度制御を実行するルーチンを示している。このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図28を参照すると、まず初めにステップ500では排気ガス温度TEGが許容下限TEGLよりも低いか否かが判別される。TEG<TEGLのときには次いでステップ501に進み、フラグXSEGRがセットされているか否かが判別される。このフラグXSEGRはEGR作用を停止すべきときにセットされ(XSEGR←1)、それ以外はリセットされる(XSEGR←0)。フラグXSEGRがリセットされているときには次いでステップ502に進み、フラグXSEGRがセットされる。従って、ロック状態に維持されつつEGR作用が停止される。
ステップ501においてフラグXSEGRがセットされているときには次いでステップ503に進み、EGR作用が停止されてから一定時間dtb1が経過したか否かが判別される。一定時間dtb1が経過していないときにはステップ502に進む。一定時間dtb1が経過したときにはステップ504に進み、フラグXSSCがセットされているか否かが判別される。このフラグXSSCは超高膨張比サイクルを停止すべきときにセットされ(XSSC←1)、それ以外はリセットされる(XSSC←0)。フラグXSSCがリセットされているときには次いでステップ505に進み、フラグXSSCがセットされる。従って、通常のサイクルに切り換えられる。
ステップ504においてフラグXSSCがセットされているときには次いでステップ506に進み、超高膨張比サイクルが停止されてから一定時間dtb2が経過したか否かが判別される。一定時間dtb2が経過していないときにはステップ505に進む。一定時間dtb2が経過したときにはステップ507に進み、フラグXTがセットされる。このフラグXTは昇温制御を行うべきときにセットされ(XT←1)、それ以外はリセットされる(XT←0)。従って、昇温制御が開始される。
ステップ500においてTEG≧TEGLのときには次いでステップ508に進み、フラグXTがリセットされと共にフラグXSSCがリセットされる。従って、昇温制御が停止されると共に超高膨張比サイクルに戻される。続くステップ509では超高膨張比サイクルに戻されてから一定時間dtb3が経過したか否かが判別される。一定時間dtb3が経過していないときには処理サイクルを終了する。一定時間dtb3が経過したときには次いでステップ510に進み、フラグXSEGRがリセットされる。従って、EGR作用が再開される。
図29は図27に示される実施例のサイクル制御を実行するルーチンを示している。このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図29を参照すると、まず初めにステップ200ではエンジン1の出力Peが境界出力PYよりも低いか否かが判別される。Pe<PYのときには次いでステップ200bに進み、フラグXSSCがリセットされているか否かが判別される。フラグXSSCがリセットされているときには次いでステップ201に進み、超高膨張比サイクルが行われる。これに対し、ステップ200においてPe≧PYのとき、およびステップ200bにおいてフラグXSSCがセットされているときにはステップ202に進んで通常のサイクルが行われる。続くステップ203ではフラグXTがセットされているか否かが判別される。フラグXTがリセットされているときには処理サイクルを終了する。フラグXTがセットされているときには次いでステップ204に進み、昇温制御が行われる。
図30は図27に示される実施例のEGR制御を実行するルーチンを示している。このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図30を参照すると、まず初めにステップ400では第1の超高膨張比サイクルが行われているか否かが判別される。第1の超高膨張比サイクルが行われているときには次いでステップ401に進み、ロック状態であるか否かが判別される。ロック状態であるときには次いでステップ402に進み、エンジン運転状態が領域AEGR内にあるか否かが判別される。エンジン運転状態が領域AEGR内にあるときには次いでステップ402aに進み、フラグXSEGRがリセットされているか否かが判別される。フラグXSEGRがリセットされているときには次いでステップ403に進み、EGR作用が行われる。これに対し、ステップ400において第1の超高膨張比サイクルが行われていないとき、ステップ401において非ロック状態であるとき、ステップ402においてエンジン運転状態が領域AEGR外にあるとき、およびステップ402aにおいてフラグXSEGRがセットされているときには、ステップ404に進み、EGR作用が停止される。
次に、本発明による更に別の実施例を説明する。
EGRガス中には例えば固体炭素や炭化水素からなる粒子状物質が含まれており、この粒子状物質がEGR制御弁92に付着すると、EGR制御弁92が閉弁状態又は開弁状態で固着するおそれがある。
EGR制御弁92が閉弁状態で固着したときには、EGR作用を行うべきときであってもEGR作用が行われない。この場合、ロック状態のもとで超高膨張比サイクルが行われたときの燃費は通常のサイクルが行われたときの燃費よりも小さい。
そこで、EGR制御弁92が閉弁状態で固着したと判別されたときには、図31に示されるように、超高膨張比サイクルが許容されると共にロック状態が許容される。即ち、エンジン1の要求出力Peが境界出力PYよりも低いときには超高膨張比サイクルが行われる。また、超高膨張比サイクルが行われているときにロック状態における燃費が非ロック状態における燃費よりも小さいときにはロック状態に切り換えられる。言い換えると、サイクル制御およびロック制御はEGR制御弁92が固着していないときと何ら変わることはない。
一方、EGR制御弁92が開弁状態で固着したときには、EGR作用を停止すべきときであってもEGR作用が行われる。この場合、上述した吸入空気量の誤検出が発生するおそれがある。
一方、通常のサイクルではスロットル開度を制御することにより吸入空気量が制御される。このため、広いエンジン運転領域にわたってスロットル弁46が部分的に閉弁される。従って、超高膨張比サイクルを行うよりも、通常のサイクルを行ったほうが、EGRガスが吸入空気量検出器47に到達する危険性が低い。
そこで、EGR制御弁92が開弁状態で固着したと判別されたときには、図32に示されるように、超高膨張比サイクルが禁止され、通常のサイクルが行われる。なお、通常のサイクルが行われると、非ロック状態に保持される。
EGR制御弁92が固着したか否かは例えば次のようにして判別される。即ち、吸気圧力およびエンジン回転数により定まるエンジンに吸入される総ガス量と、吸入空気量検出器47により検出される新気の量とから実際のEGRガス量が算出される。EGR作用を行うべきときにEGRガスがエンジン1に供給されていないときにはEGR制御弁92が閉弁状態で固着していると判別される。一方、EGR作用を行うべきでないときにEGRガスがエンジン1に供給されているときにはEGR制御弁92が開弁状態で固着していると判別される。
図33は本発明による更に別の実施例のサイクル制御を実行するルーチンを示している。このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図33を参照すると、まず初めにステップ200ではエンジン1の出力Peが境界出力PYよりも低いか否かが判別される。Pe<PYのときには次いでステップ200cに進み、EGR制御弁92が閉弁状態で固着しているか否かが判別される。EGR制御弁92が閉弁状態で固着していないとき、即ちEGR制御弁92が固着していないか又は開弁状態で固着しているときには次いでステップ201に進み、超高膨張比サイクルが行われる。これに対し、ステップ200においてPe≧PYのとき、およびステップ200cにおいてEGR制御弁92が閉弁状態で固着しているときには、ステップ202に進んで通常のサイクルが行われる。