以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
図1に火花点火式内燃機関の側面断面図を示す。
図1を参照すると、1はクランクケース、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は燃焼室5の頂面中央部に配置された点火プラグ、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートをそれぞれ示す。吸気ポート8は吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、各吸気枝管11にはそれぞれ対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに各燃焼室5内に配置してもよい。
サージタンク12は吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結され、吸気ダクト14内にはアクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17と例えば熱線を用いたエアフロメータ18とが配置される。一方、排気ポート10は排気マニホルド19を介して排気浄化触媒20を内蔵した触媒コンバータ21に連結され、排気マニホルド19内には空燃比センサ22が配置される。排気浄化触媒20としては排気ガス中の未燃HC、COおよびNOxを浄化することができれば、三元触媒、NOX吸蔵還元触媒、NOX選択還元触媒等、いかなる触媒を用いても良い。
一方、図1に示した実施形態ではクランクケース1とシリンダブロック2との連結部にクランクケース1とシリンダブロック2のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられており、さらに実際の圧縮作用の開始時期を変更可能な実圧縮作用開始時期変更機構Bが設けられている。なお、図1に示した実施形態ではこの実圧縮作用開始時期変更機構Bは吸気弁7の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構からなる。
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。エアフロメータ18及び空燃比センサ22の出力信号はそれぞれ対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。さらに入力ポート35にはクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火プラグ6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用アクチュエータ16、可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bに接続される。
図2は図1に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図を示している。図2を参照すると、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50内にはそれぞれ断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁面上には互いに間隔を隔ててそれぞれ対応する突出部50の間に嵌合せしめられる複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52内にもそれぞれ断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
図2に示したように一対のカムシャフト54、55が設けられており、各カムシャフト54、55上には一つおきに各カム挿入孔53内に回転可能に挿入される円形カム58が固定されている。これらの円形カム58は各カムシャフト54、55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム58の両側には図3に示すように各カムシャフト54、55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57が延びており、この偏心軸57上に別の円形カム56が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示したようにこれら円形カム56は各円形カム58の両側に配置されており、これら円形カム56は対応する各カム挿入孔51内に回転可能に挿入されている。
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54、55上に固定された円形カム58を図3(A)において矢印で示したように互いに反対方向に回転させると偏心軸57が互いに離れる方向に移動するために円形カム56がカム挿入孔51内において円形カム58とは反対方向に回転し、図3(B)に示したように偏心軸57の位置が高い位置から中間高さ位置となる。次いで更に円形カム58を矢印で示した方向に回転させると図3(C)に示したように偏心軸57は最も低い位置となる。
なお、図3(A)、図3(B)、図3(C)にはそれぞれの状態における円形カム58の中心aと偏心軸57の中心bと円形カム56の中心cとの位置関係が示されている。
図3(A)から図3(C)を比較するとわかるようにクランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離によって定まり、円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース1から離れる。すなわち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたクランク機構によりクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置を変化させていることになる。シリンダブロック2がクランクケース1から離れるとピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大し、したがって各カムシャフト54、55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
図2に示したように各カムシャフト54、55をそれぞれ反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸にはそれぞれ螺旋方向が逆向きの一対のウォーム61、62が取付けられており、これらウォーム61、62と噛合するウォームホイール63、64がそれぞれ各カムシャフト54、55の端部に固定されている。この実施形態では駆動モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。なお、図1から図3に示される可変圧縮比機構Aは一例を示すものであっていかなる形式の可変圧縮比機構でも用いることができる。
一方、図4は図1において吸気弁7を駆動するためのカムシャフト70の端部に取付けられた可変バルブタイミング機構Bを示している。図4を参照すると、この可変バルブタイミング機構Bは機関のクランク軸によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転せしめられるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁駆動用カムシャフト70と一緒に回転し且つ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを具備しており、各ベーン75の両側にはそれぞれ進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
各油圧室76、77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76、77にそれぞれ連結された油圧ポート79、80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83、84と、各ポート79、80、82、83、84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは図4においてスプール弁85が右方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転せしめられる。
これに対し、吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは図4においてスプール弁85が左方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転せしめられる。
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転せしめられているときにスプール弁85が図4に示した中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。したがって可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させることができ、遅角させることができることになる。
図5において実線は可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。したがって吸気弁7の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、したがって吸気弁7の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
図1および図4に示した可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
次に図6を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図6の(A)、(B)、(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図6の(A)、(B)、(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
図6(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示した例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
図6(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。すなわち、図6(B)に示したように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。したがって実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図6(B)に示した例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
図6(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示した例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
次に図7および図8を参照しつつ本発明において用いられている超膨張比サイクルについて説明する。なお、図7は理論熱効率と膨張比との関係を示しており、図8は本発明において負荷に応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
図8(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図8(A)に示す例でも図6の(A)、(B)、(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図8(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。すなわち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合の、すなわち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が高くなるほど、すなわち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。したがって通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比はほとんど影響を与えないことが見出されたのである。すなわち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギが必要となり、斯くして実圧縮比を高めても理論熱効率はほとんど高くならない。
これに対し、膨張比を高くすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。したがって膨張比は高くすれば高くするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。このように実圧縮比εを低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図7の実線で示す如く実圧縮比も膨張比と共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
このように実圧縮比が低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、したがって実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大幅に高めることができる。図8(B)は可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比を低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
図8(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少せしめられる。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図8(A)に示した通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図8(B)に示した場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。そこで、斯かるサイクルを超高膨張比サイクルと称する。
一般的に言って内燃機関では機関負荷が低いほど熱効率が悪くなり、したがって機関運転時における熱効率を向上させるためには、すなわち燃費を向上させるには機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが必要となる。一方、図8(B)に示した超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室5内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、したがってこの超高膨張比サイクルは機関負荷が比較的低いときにしか採用できないことになる。したがって本発明では機関負荷が比較的低いときには図8(B)に示す超高膨張比サイクルとし、機関高負荷運転時には図8(A)に示す通常のサイクルとするようにしている。
次に図9を参照しつつ運転制御全般について概略的に説明する。
図9には或る機関回転数における機関負荷に応じた吸入空気量、吸気弁閉弁時期、機械圧縮比、膨張比、実圧縮比およびスロットル弁17の開度の各変化が示されている。なお、図9は、触媒コンバータ21内の排気浄化触媒によって排気ガス中の未燃HC、COおよびNOxを同時に低減しうるように燃焼室5内における平均空燃比が空燃比センサ22の出力信号に基づいて理論空燃比にフィードバック制御されている場合を示している。
さて、前述したように機関高負荷運転時には図8(A)に示される通常のサイクルが実行される。したがって図9に示されるようにこのときには機械圧縮比は低くされるために膨張比は低く、図9において実線で示されるように吸気弁7の閉弁時期は図7において実線で示される如く早められている。また、このときには吸入空気量は多く、このときスロットル弁17の開度は全開に保持されているのでポンピング損失は零となっている。
一方、図9において実線で示されるように機関負荷が低くなるとそれに伴って吸入空気量を減少すべく吸気弁7の閉弁時期が遅くされる。またこのときには実圧縮比がほぼ一定に保持されるように図9に示される如く機関負荷が低くなるにつれて機械圧縮比が増大され、したがって機関負荷が低くなるにつれて膨張比も増大される。なお、このときにもスロットル弁17は全開状態又はほぼ全開状態に保持されており、したがって燃焼室5内に供給される吸入空気量はスロットル弁17によらずに主に吸気弁7の閉弁時期を変えることによって制御されている。
このように機関高負荷運転状態から機関負荷が低くなるときには実圧縮比がほぼ一定のもとで吸入空気量が減少するにつれて機械圧縮比が増大せしめられる。すなわち、吸入空気量の減少に比例してピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積が減少せしめられる。したがってピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は吸入空気量に比例して変化していることになる。なお、このとき図9に示される例では燃焼室5内の空燃比は理論空燃比となっているのでピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は燃料量に比例して変化していることになる。
機関負荷が更に低くなると機械圧縮比は更に増大せしめられ、機関負荷がやや低負荷寄りの中負荷L1まで低下すると機械圧縮比は燃焼室5の構造上限界となる限界機械圧縮比に達する。機械圧縮比が限界機械圧縮比に達すると、機械圧縮比が限界機械圧縮比に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では機械圧縮比が限界機械圧縮比に保持される。したがって低負荷側の機関中負荷運転時および機関低負荷運転時にはすなわち、機関低負荷運転側では機械圧縮比は最大となり、膨張比も最大となる。別の言い方をすると機関低負荷運転側では最大の膨張比が得られるように機械圧縮比が最大にされる。
一方、図9に示される実施形態では機関負荷がL1まで低下すると吸気弁7の閉弁時期が燃焼室5内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期となる。吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達すると吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持される。
吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持されるともはや吸気弁7の閉弁時期の変化によっては吸入空気量を制御することができない。図9に示される実施形態ではこのとき、すなわち吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域ではスロットル弁17によって燃焼室5内に供給される吸入空気量が制御され、機関負荷が低くなるほどスロットル弁17の開度は小さくされる。
一方、図9において破線で示すように機関負荷が低くなるにつれて吸気弁7の閉弁時期を早めることによってもスロットル弁17によらずに吸入空気量を制御することができる。したがって、図9において実線で示される場合と破線で示される場合とをいずれも包含しうるように表現すると、本発明による実施形態では吸気弁7の閉弁時期は、機関負荷が低くなるにつれて、燃焼室内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期L1まで吸気下死点から離れる方向に移動せしめられることになる。このように吸入空気量は吸気弁7の閉弁時期を図9において実線で示すように変化させても制御することができるし、破線に示すように変化させても制御することができるが、以下本発明について吸気弁7の閉弁時期を図9において実線で示すように変化させた場合を例にとって説明する。
なお、前述したように図8(B)に示す超高膨張比サイクルでは膨張比が26とされる。この膨張比は高いほど好ましいが図7からわかるように実用上使用可能な下限実圧縮比ε=5に対しても20以上であればかなり高い理論熱効率を得ることができる。したがって本発明では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
ところで、図9に示したような機械圧縮比等の制御(以下、「通常制御」という)を行った場合、機関負荷に応じて、機関本体から排出された排気ガス中、すなわち排気浄化触媒20に流入する排気ガス中の未燃HCの量が変化する。このように機関負荷に応じて排気ガス中の未燃HCの量が変化する要因としては大別して下記の二つが挙げられる。
一つ目の要因は、機械圧縮比が高いほど、混合気の燃焼時に火炎の進行が不能なクレビス容積が増大すると共にSV比が大きくなることでクエンチ領域の比率が拡大することによるものである。このようにクレビス容積が増大し且つクエンチ領域の比率が拡大すると、燃焼室5内において燃焼の生じない混合気の量が増大し、その結果、機関本体から排出される未燃HC(未燃の燃料)の量が増大する。したがって、クレビス容積の増大等の観点からは、図10(A)に示したように機械圧縮比が高くなるほど、すなわち機関負荷が低いほど排気ガス中に含まれるHC量が増大する。
二つ目の要因は、機関負荷が高くなるほど、混合気(すなわち、吸入空気量)が多くなることによるものである。上述したようなクレビス容積等の影響を考慮しない場合、燃焼室5内に供給された混合気に対して一定の割合で未燃HCが発生することになる。したがって、燃焼室5内に供給された混合気が多くなるほど、排気ガス中に含まれる未燃HCの量が多くなる。したがって、吸入空気量の観点からは、図10(B)に示したように、機関負荷が高くなるほど排気ガス中に含まれるHC量が増大する。
最終的に排気ガス中に含まれる未燃HCの量に対する上記二つの要因の影響度合いは必ずしも全ての内燃機関で同一ではなく、各内燃機関の構成毎に異なる。したがって、或る内燃機関の構成ではクレビス容積の増大等の影響の方が大きく、その場合には機関負荷と排気ガス中に含まれる未燃HCとの関係は図11(A)に示したような関係となる。すなわち、機関負荷が低いほど排気ガス中に含まれる未燃HC量が増大する。一方、クレビス容積の増大等の影響が比較的小さい場合には機関負荷と排気ガス中に含まれる未燃HCとの関係は図11(B)に示したような関係となる。すなわち、低機関負荷から機関負荷が増大するにつれて最初は排気ガス中の未燃HC量が減少し、或る極小値に到達した後は機関負荷が増大するにつれて未燃HCの量が増大する。以下では、機関負荷と排気ガス中に含まれる未燃HCとの関係が図11(A)に示したような関係となる内燃機関について説明する。
ところで、機関排気通路内に配置された排気浄化触媒20の温度は内燃機関の運転状態に応じて変化する。排気浄化触媒20の温度を変化させる要因としては主に下記の二つが挙げられる。一つ目は、燃焼室5から排出されて排気浄化触媒20に流入する排気ガスの温度である。すなわち、排気浄化触媒20に流入する排気ガスの温度が高いと排気浄化触媒20の温度が上昇し、排気浄化触媒20に流入する排気ガスの温度が低いと排気浄化触媒20の温度が低下する。
ここで、燃焼室5から排出される排気ガスの温度は機関負荷に応じて変化し、機関負荷が高いほど燃焼室5から排出される排気ガスの温度が、すなわち排気浄化触媒20に流入する排気ガスの温度が高くなる。したがって、排気浄化触媒20に流入する排気ガスの温度という観点からは、機関負荷が低いと排気浄化触媒20の温度が低下し、機関負荷が高いと排気浄化触媒20の温度が上昇するといえる。
二つ目は、燃焼室5から排出されて排気浄化触媒20に流入する排気ガス中に含まれる未燃HCの量である。排気浄化触媒20に流入する排気ガス中に未燃HCが含まれていると、未燃HCが排気浄化触媒20で酸化されて発熱し、排気浄化触媒20の温度が上昇せしめられる。特に、排気浄化触媒20に流入する排気ガス中に含まれる未燃HCの量が多いほど排気浄化触媒20の温度が上昇する程度が大きくなる。したがって、未燃HCの量という観点からは、機関負荷と排気ガス中に含まれる未燃HCとの関係が図11(A)に示したような関係となる内燃機関では、機関負荷が高くなるほど排気浄化触媒20の温度が低くなる。
ここで、排気浄化触媒20は、その温度が劣化温度以上となると劣化し、その排気浄化能力の低下を招く。このため、排気浄化能力を高いまま維持するためには、排気浄化触媒20の温度が劣化温度に到達しないように制御することが必要となる。ところが、図9に示したような機械圧縮比等の制御を行う内燃機関では、機関運転状態によっては排気浄化触媒20の温度が劣化温度に到達してしまう可能性があり、このことについて簡単に説明する。
機関高負荷運転状態が継続している場合、すなわち機械圧縮比が低い状態が続いている場合、排気浄化触媒20に流入する排気ガスの温度という観点からは排気浄化触媒20の温度が高くなるが、未燃HCの量という観点からは排気浄化触媒20の温度は低くなり、結果として排気浄化触媒20の温度は劣化温度未満に抑えられることになる。一方、機関低負荷運転状態が継続している場合、すなわち機械圧縮比が高い状態が続いている場合、未燃HCの量という観点からは排気浄化触媒20の温度は高くなるが、排気浄化触媒20に流入する排気ガスの温度という観点からは排気浄化触媒20の温度は低くなり、結果として排気浄化触媒20の温度は劣化温度未満に抑えられることになる。
しかしながら、機関高負荷運転状態が継続した後に機関負荷が低下せしめられた場合、すなわち排気浄化触媒20の温度が高い状態で機械圧縮比が高くされた場合、排気浄化触媒20に流入する排気ガスの温度は低温になり、排気浄化触媒に流入する排気ガス中に含まれる未燃HCの量は多くなる。この場合、機関負荷が低下せしめられても、すなわち排気浄化触媒20に流入する排気ガスの温度が低下しても排気浄化触媒20の温度は直ぐには低下しない。一方、排気浄化触媒20上での未燃HCの燃焼は機関負荷の低下に伴う未燃HCの増大直後から行われるため、機関負荷が低下した直後から未燃HCの燃焼によって排気浄化触媒の温度が上昇せしめられる。このため、この場合、排気浄化触媒20の温度が劣化温度以上となってしまう可能性がある。
そこで、本発明の実施形態では、排気浄化触媒20の温度が高い状態では、機関負荷が低下しても機械圧縮比をあまり高くしないようにしている。具体的には、排気浄化触媒20の温度が予め定められた基準温度以上である場合には、機械圧縮比に上限ガード値を設定し、機械圧縮比が上限ガード値以下になるように制御される。
図12は、排気浄化触媒20の温度が予め定められた基準以上である場合における、機関負荷と機械圧縮比の上限ガード値との関係を示している。図12からわかるように、機械圧縮比の上限ガード値は機関負荷が低いときには低く、機関負荷が高いときには高くされる。特に、図12に示した例では、機械圧縮比の上限ガード値は機関負荷が高くなるほど高くせしめられる。これは、図11(A)に示した機関負荷と未燃HC量との関係を考慮して、或いはそれに加えて機関負荷が高くなるほど燃焼室5から排出される排気ガスの温度が高くなることを考慮して設定される。
図13は、上述したように上限ガード値を用いて機械圧縮比を制御した場合の、機関負荷、機械圧縮比、排気浄化触媒20の温度及び吸気弁7の閉弁時期のタイムチャートである。図13の機械圧縮比における実線は実際の機械圧縮比の推移を、破線は上限ガード値の推移を、一点鎖線は機関負荷に基づいて図9に示したような通常制御を行おうとした場合における機械圧縮比の目標値(以下、「通常制御時の機械圧縮比の目標値」という)の推移をそれぞれ示している。
図示した例では、時刻t1まで機関負荷が高い状態となっている。このときの機械圧縮比及び吸気弁7の閉弁時期は図9に示した通常制御により設定されており、したがって、機械圧縮比は低く、吸気弁7の閉弁時期は吸気下死点近くまで進角されている。この結果、排気浄化触媒20の温度は基準温度Tr以上の高温となっている。
その後、時刻t1において、機関負荷が低下せしめられると、通常制御時の機械圧縮比の目標値は上昇せしめられる。一方、低下後の機関負荷に基づいて図12に示したような関係から上限ガード値が算出される。時刻t1において、通常制御時の機械圧縮比の目標値よりも上限ガード値の方が低いため、実際の機械圧縮比は上限ガード値に制御される。このように機械圧縮比を上限ガード値に制御することによって排気浄化触媒20の温度は時刻t1以降において上昇せず、徐々に低下せしめられる。
一方、時刻t1において吸気弁7の閉弁時期は圧縮上死点に向けて遅角せしめられ、図9に示した通常制御時の閉弁時期とされる。これにより、燃焼室5内への吸入吸気量は機関負荷に応じた吸入空気量とされる。なお、燃焼室5内への吸入空気量を機関負荷に応じた吸入空気量とすることができれば、吸気弁7の閉弁時期に加えてスロットル弁17によって吸入空気量を制御してもよい。
ところで、上述したように機械圧縮比を上限ガード値に制御した場合、すなわち機械圧縮比を通常制御時の機械圧縮比の目標値よりも低い圧縮比に制御した場合、結果的に実圧縮比が低くなるか、或いはスロットル弁17の開度を小さくすることによるポンピング損失の増大を招くことになる。したがって、この場合、熱効率が低下してしまう。
そこで、本実施形態では、時刻t1において機械圧縮比を図12に示したような関係に基づいた上限ガード値に設定した後、排気浄化触媒20の温度が低下するにつれて上限ガード値を徐々に上昇させるようにしている。すなわち、排気浄化触媒20の温度が低下すれば、機械圧縮比が増大しても、すなわち排気浄化触媒20に流入する未燃HC量が増大しても、排気浄化触媒20の温度は劣化温度までは上昇せしめられない。その一方で、機械圧縮比をできるだけ高い値とすることで、熱効率を高めることができる。したがって、本実施形態では、排気浄化触媒20の温度の低下に伴って上限ガード値を上昇させることで、排気浄化触媒20の過昇温を抑制しつつ熱効率の低下を抑制することができる。
このようにして、排気浄化触媒20の温度の低下に伴って上限ガード値を徐々に高めることによって、図13に示したように実際の機械圧縮比も徐々に高められる。その結果、時刻t2において通常制御時の機械圧縮比の目標値と上限ガード値が同一となり、時刻t2以降は実際の機械圧縮比が通常制御時の機械圧縮比の目標値となるように制御される。
図14は、上述したような機械圧縮比の設定制御の制御ルーチンのフローチャートである。図示した制御ルーチンは一定時間間隔の割込によって行われる。
図14に示したように、まずステップS11では、ガードフラグXgが1であるか否かが判定される。ガードフラグXgは、目標機械圧縮比が、機関負荷に基づいて図9に示したようなマップを用いて算出された目標機械圧縮比(以下、「通常制御時の目標機械圧縮比」という)ではなく上限ガード値とされている場合に1とされ、それ以外の場合に0とされるフラグである。ステップS11において、ガードフラグXgが0であると判定された場合にはステップS12へと進む。
ステップS12では、排気浄化触媒20の温度Tcatが基準温度Tr以上であるか否かが判定される。ここで、排気浄化触媒20の温度は、様々な方法で検出又は推定可能である。排気浄化触媒20の温度は、例えば、排気浄化触媒20内又は排気浄化触媒20下流側の排気通路内に設けられた温度センサ(図示せず)によって直接的に検出されてもよいし、機関回転数、機関負荷及び点火時期等に基づいて算出されてもよい。排気浄化触媒20の温度Tcatが基準温度Trよりも低いと判定された場合にはステップS13へと進む。ステップS13では、通常制御時の目標機械圧縮比εmt’が最終的な目標機械圧縮比εmtとされる。
一方、排気浄化触媒20の温度Tcatが基準温度Tr以上であると判定された場合にはステップS14へと進む。ステップS14では、内燃機関の減速が行われたか否か、すなわち機関負荷が低下せしめられたか否かが判定される。内燃機関の減速が行われていないと判定された場合にはステップS13へと進み、通常制御時の目標機械圧縮比εmt’が最終的な目標機械圧縮比εmtとされる。一方、ステップS14において内燃機関の減速が行われたと判定された場合にはステップS15へと進む。ステップS15では低下後の機関負荷に基づいて図12に示したようなマップを用いて機械圧縮比の上限ガード値εmgが算出される。次いで、ステップS16では、ガードフラグXgが1にセットされる。
次いで、ステップS17では、上限ガード値εmgが通常制御時の目標機械圧縮比εmt’以下であるか否かが判定される。上限ガード値εmgが通常制御時の目標機械圧縮比εmt’以下であると判定された場合にはステップS18へと進む。ステップS18では、上限ガード値εmgが最終的な目標機械圧縮比εmtとされる。
このように上限ガード値を用いた機械圧縮比の制御が開始された後の制御ルーチンでは、ステップS11においてガードフラグXgが1であると判定され、ステップS19へと進む。ステップS19では、前回の制御ルーチンにおける(すなわち所定時間前の)排気浄化触媒20の温度と今回の制御ルーチンにおける(すなわち現在の)排気浄化触媒20の温度との温度差ΔTcatが算出される。次いで、ステップS20では、前回の制御ルーチンにおける上限ガード値εmg’から、ステップS20で算出された温度差ΔTcatに所定の係数kを乗算したものが減算された値が新たな上限ガード値εmgとして更新され、ステップS17へと進む。
上限ガード値を用いた機械圧縮比の制御が開始されてから或る程度の時間が経過すると(図13の時刻t2に相当)、やがて上限ガード値εmgよりも通常制御時の目標機械圧縮比εmt’の方が低くなり、ステップS17において上限ガード値εmgが通常制御時の目標機械圧縮比εmt’よりも大きいと判定される。この場合、ステップS21へと進み、ガードフラグXgが0にリセットされると共に、次いでステップS13で通常制御時の目標機械圧縮比εmt’が最終的な目標機械圧縮比εmtとされる。
なお、上記実施形態では、上限ガード値は図12に示したように機関負荷のみに基づいて設定されている。しかしながら、上限ガード値は機関負荷以外のパラメータに基づいて設定されてもよく、例えば機関負荷が低下せしめられたときの排気浄化触媒20の温度にも基づいて算出されてもよい。この場合、上限ガード値は、排気浄化触媒20の温度が高いほど低く設定される。したがって、上限ガード値は、機関負荷及び排気浄化触媒20の温度に基づいて図15に示したように算出される。或いは、後述する第三実施形態又は第四実施形態のように、排気浄化触媒20の劣化度合いや内燃機関を搭載した車両の速度にも基づいて算出されてもよい。
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
ところで、上記実施形態における機械圧縮比の制御は、機械圧縮比と排気ガス中に含まれる未燃HCとの関係が図11(A)に示したような関係となる内燃機関に対するものであり、これらの関係が図11(B)に示したような関係となる内燃機関に対しては上記実施形態とは異なる制御が必要となる。そこで、以下では、図11(B)に示したような関係を有する内燃機関に対する機械圧縮比の制御について説明する。
斯かる内燃機関に対する機械圧縮比の制御としては二つの方法が考えられ、まず一つ目の方法について説明する。斯かる内燃機関においては、機関負荷が図11(B)の領域X内にあるときには、未燃HCの排出量がQhc以下の少ない量となっている。したがって、機関負荷が領域X内にあるときには、たとえ図9に示したような通常制御を行っても排気浄化触媒20の温度が劣化温度以上にまでは上昇しにくい。そこで、一つ目の方法では、排気浄化触媒20の温度が基準温度以上であっても、低下後の機関負荷が図11(B)の領域X内の機関負荷である場合には上限ガード値の設定を行わないこととしている。
図16は、上記一つ目の方法で機械圧縮比の設定制御をした場合の制御ルーチンを示すフローチャートである。図16のステップS31〜S41は、図14のステップS11〜S21と同様であるため、説明を省略する。
図16に示したように、ステップS34において、内燃機関の減速が行われたと判定された場合には、ステップS42へと進む。ステップS42では、低下後の機関負荷が上述した領域X内であるか否かが判定される。低下後の機関負荷が領域X内であると判定された場合にはステップS33へと進み、通常時の目標機械圧縮比εmt’が最終的な目標機械圧縮比εmtとされる。一方、ステップS42において低下後の機関負荷が領域X内でないと判定された場合にはステップS35へと進み、図12に示したようなマップを用いて機械圧縮比の上限ガード値εmgが算出される。
次に、二つ目の方法について説明する。上記実施形態では、図12に示したように、機械圧縮比の上限ガード値は機関負荷が高くなるほど高くなるように設定されており、これは図11(A)に示した機関負荷と未燃HC量との関係に基づいたものである。二つ目の方法では、図12に示したようなマップに代わり、別のマップを用いることとしている。このマップは、図11(B)に示した機関負荷と未燃HC量との関係を考慮して、或いはそれに加えて機関負荷が高くなるほど燃焼室5から排出される排気ガスの温度が高くなることを考慮して設定されている。
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態の火花点火式内燃機関の構成は基本的に第一実施形態の火花点火式内燃機関の構成と同一である。しかしながら、第二実施形態の火花点火式内燃機関では、排気浄化触媒20の温度及び機関負荷に基づいて常に機械圧縮比の上限ガード値が設定される。
図17は、本実施形態における機関負荷及び排気浄化触媒20の温度と上限ガード値との関係を示す、図12及び図15と同様な図である。図17からわかるように、本実施形態においても、機関負荷が高くなるほど且つ排気浄化触媒20の温度が高くなるほど上限ガード値が高くされる。特に、機関負荷が高く且つ排気浄化触媒20の温度が低い領域では上限ガード値が限界機械圧縮比まで高められ、したがって斯かる領域では事実上機械圧縮比の設定可能な領域は制限されない。本実施形態では、図17に示したようなマップを用いて、機関負荷及び排気浄化触媒20の温度に基づいて常に機械圧縮比の上限ガード値が設定される。
図18は、上述したように設定された上限ガード値を用いて機械圧縮比を制御した場合の機関負荷等のタイムチャートであり、図18の機械圧縮比における実線は実際の機械圧縮比の推移を、破線は上限ガード値の推移を、一点鎖線は通常制御時の機械圧縮比の目標値の推移をそれぞれ示している。
図示した例では、時刻t3まで機関負荷が高い状態となっており、また排気浄化触媒20の温度は高温となっている。このときも機関負荷に基づいて図17に示したマップを用いて上限ガード値が算出されるが、通常制御時の機械圧縮比の目標値がこの上限ガード値よりも低い値となっていることから、実際の機械圧縮比は通常制御時の機械圧縮比の目標値とされている。また、吸気弁7の閉弁時期は図9に示した通常制御により設定されており、したがって吸気弁7の閉弁時期は吸気下死点付近まで進角されている。
その後、時刻t3において機関負荷が低下せしめられると、この機関負荷の低下に伴って、図17に示したマップを用いて算出される上限ガード値が低下せしめられる。一方、通常制御時の機械圧縮比の目標値は機関負荷の低下に伴って上昇せしめられる。時刻t3において、通常制御時の機械圧縮比の目標値よりも上限ガード値の方が低いため、実際の機械圧縮比が上限ガード値に制御される。このように機械圧縮比を上限ガード値に制御することによって排気浄化触媒20の温度は時刻t3以降において徐々に低下せしめられる。また、図示した例では、時刻t3において吸気弁7の閉弁時期は圧縮上死点に向けて遅角せしめられ、図9に示した通常制御時の閉弁時期とされる。
時刻t3以降に排気浄化触媒20の温度が徐々に低下すると、それに伴って図17に示したマップを用いて算出される上限ガード値が徐々に上昇せしめられる。ただし、時刻t3〜時刻t4の間では、通常制御時の機械圧縮比の目標値よりも上限ガード値の方が低いため、実際の機械圧縮比は上限ガード値に制御される。
その後、排気浄化触媒20の温度の低下に伴って上限ガード値が徐々に上昇すると、ついには時刻t4において上限ガード値が通常制御時の機械圧縮比の目標値に到達し、時刻t4以降は通常制御時の機械圧縮比の目標値が上限ガード値以下となる。したがって、時刻t4以降においては、実際の機械圧縮比が通常制御時の機械圧縮比の目標値となるように制御される。
図19は、第二実施形態における機械圧縮比の設定制御を行う制御ルーチンのフローチャートである。図示した制御ルーチンは一定時間間隔の割込によって行われる。
図19に示したように、まずステップS51では、機関負荷及び排気浄化触媒20の温度に基づいて図17に示したマップを用いて上限ガード値εmgが算出される。次いで、ステップS52では、ステップS51で算出された上限ガード値εmgが通常制御時の目標機械圧縮比εmt’以下であるか否かが判定される。ステップS52において上限ガード値εmgが通常制御時の目標機械圧縮比εmt’以下であると判定された場合にはステップS53に進み、上限ガード値εmgが最終的な目標機械圧縮比εmtとされる。一方、ステップS52において上限ガード値εmgが通常制御時の目標機械圧縮比εmt’よりも大きいと判定された場合にはステップS54へと進む。ステップS54では通常制御時の目標機械圧縮比εmt’が最終的な目標機械圧縮比εmtとされる。
なお、図18からわかるように、第二実施形態における機械圧縮比の制御を行った場合であっても、結果的に、第一実施形態と同様に、機関負荷が高負荷から低負荷に変更されたときに排気浄化触媒の温度が高い場合には変更後の機関負荷に応じて機械圧縮比の上限ガード値が設定されると共に、この上限ガード値は、機関負荷が高負荷から低負荷に変更された後に排気浄化触媒20の温度が低くなるのに伴って高くせしめられることになる。
また、上記実施形態では、機関負荷と排気ガス中に含まれる未燃HCとの関係が図11(A)に示したような関係となる内燃機関を対象としている。
次に、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態の火花点火式内燃機関の構成は基本的に第一実施形態の火花点火式内燃機関の構成と同一である。しかしながら、第三実施形態の火花点火式内燃機関では、機関負荷等に加えて排気浄化触媒20の劣化度合いに基づいて機械圧縮比の上限ガード値が設定される。
ところで、一般に排気浄化触媒20は使用期間や使用態様等に応じて徐々に劣化する。このように排気浄化触媒20が劣化すると排気浄化触媒20内に流入した未燃HCの燃焼速度が低下し、未燃HCの燃焼によって排気浄化触媒20の温度が上昇する程度が小さくなる。したがって、排気浄化触媒20に流入する排気ガス中の未燃HC量が一定であったとしても、排気浄化触媒20の劣化度合いが低いほど未燃HCの燃焼によって排気浄化触媒20の温度が上昇する程度が高くなる。
このため、排気浄化触媒20の新品の状態に合わせて上限ガード値を設定すると、排気浄化触媒20が劣化したときには排気浄化触媒20の温度が高くなっていないにも関わらず機械圧縮比が上限ガード値以下に低く制御されることになる。したがって、機械圧縮比を不必要に低く制限することになり、結果的に、燃費の悪化を招くことになる。
一方、排気浄化触媒20が或る程度劣化した状態に合わせて上限ガード値を設定すると、排気浄化触媒20が新品のときには排気浄化触媒20における未燃HCの燃焼速度が速いため排気浄化触媒20の温度が劣化温度以上にまで上昇してしまうことになる。
そこで、本実施形態では、機関負荷に加えて排気浄化触媒20の劣化度合いに基づいて上限ガード値を設定するようにしている。
図20は、機械圧縮比と排気ガス中に含まれる未燃HCとの関係が図11(A)に示したような関係にある内燃機関における、機関負荷及び排気浄化触媒20の劣化度合いと上限ガード値との関係を示す図である。図20から分かるように、排気浄化触媒20の劣化度合いが高くなるほど、上限ガード値が高くされる。
このように排気浄化触媒20が新品の状態にあるとき(劣化度合いが低いとき)には上限ガード値を低く設定することにより、未燃HCが多量に排気浄化触媒20に流入することが抑制され、よって排気浄化触媒20の温度が劣化温度以上にまで上昇してしまうのを抑制することができる。一方、排気浄化触媒20が或る程度劣化した状態にあるとき(劣化度合いが高いとき)には上限ガード値を高く設定することにより、排気浄化触媒20の過昇温を抑制しつつ機械圧縮比をできるだけ高く設定することができ、よって燃費の悪化を抑制することができる。
なお、排気浄化触媒20の劣化度合いは、様々な方法で検出又は推定することが可能である。例えば、内燃機関の総運転時間や排気浄化触媒20の温度履歴等に基づいて劣化度合いを推定してもよいし、排気浄化触媒20の酸素吸蔵能力に基づいて劣化度合いを推定してもよい。このように酸素吸蔵能力に基づいて排気浄化触媒20の劣化度合いを推定するのは、酸素吸蔵能力を有する排気浄化触媒20では排気浄化触媒20の劣化度合いが高くなると酸素吸蔵能力が低下するためである。この場合、例えば、排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比をリッチ側からリーン側へ或いはリーン側からリッチ側へと反転させる空燃比制御を行うと共に、排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比が反転した後に排気浄化触媒20から流出する排気ガスの空燃比が反転するまでの期間の長さを検出することによって酸素吸蔵能力が、すなわち排気浄化触媒20の劣化度合いが推定される。
また、上記実施形態では、第一実施形態の図12に示したマップの代わりに、図20に示したマップを用いるようにしている。しかしながら、例えば、図15に示したマップにパラメータとして触媒劣化度合いを加えて、機関負荷、触媒温度及び触媒劣化度合いに基づいて上限ガード値を算出するようにしてもよい。
或いは、図12、図15等に示したマップを用いて算出された上限ガード値を触媒劣化度合いに基づいて補正するようにしてもよい。この場合、例えば、図12、図15等に示したマップを用いて算出された上限ガード値から、図21に示したような触媒劣化度合いに基づいたガード値減少補正量を減算したものが最終的な上限ガード値として用いられる。
次に、本発明の第四実施形態について説明する。第四実施形態の火花点火式内燃機関の構成は基本的に第一実施形態の火花点火式内燃機関の構成と同一である。しかしながら、第四実施形態の火花点火式内燃機関では、機関負荷等に加えて内燃機関を搭載した車両(図示せず)の速度に基づいて機械圧縮比の上限ガード値が設定される。
ところで、一般に、排気浄化触媒20は内燃機関を搭載した車両の床下等に配置される。したがって、外気温が一定である場合には、車両の速度が速いほど排気浄化触媒20の温度が低下せしめられることになる。
このため、車両が停止状態にあるときに合わせて上限ガード値を設定すると、車両が或る程度の速度で走行しているときには外気により排気浄化触媒20が冷却されているにも関わらず機械圧縮比が上限ガード値以下に低く制御されることになる。したがって、機械圧縮比を不必要に低く制限することになり、結果的に、燃費の悪化を招くことになる。
一方、車両が或る程度の速度で走行しているときに合わせて上限ガード値を設定すると、車両が停止状態にあるときには外気により排気浄化触媒20がほとんど冷却されず、排気浄化触媒20の温度が劣化温度以上にまで上昇してしまうことになる。
そこで、本実施形態では、内燃機関を搭載した車両の速度に基づいて上限ガード値を設定するようにしている。
図22は、機械圧縮比と排気ガス中に含まれる未燃HCとの関係が図11(A)に示したような関係にある内燃機関における、機関負荷及び車両の速度と上限ガード値との関係を示す図である。図22から分かるように、車両の速度が高くなるほど、上限ガード値が高くされる。
このように車両の速度が低いときには上限ガード値を低く設定することにより、未燃HCの流入量を抑制することができ、これにより排気浄化触媒20がほとんど冷却されないときであっても排気浄化触媒20が劣化温度以上にまで昇温してしまうことが抑制される。一方、車両の速度が速いときには上限ガード値を高く設定することにより、排気浄化触媒20の過昇温を抑制しつつ機械圧縮比をできるだけ高く設定することができ、よって燃費の悪化を抑制することができる。
なお、車両の速度は車速センサ等様々な検出手段によって検出可能である。
また、上記実施形態では、第一実施形態の図12に示したマップの代わりに、図22に示したマップを用いるようにしている。しかしながら、例えば、図15に示したマップにパラメータとして車両の速度を加えて、機関負荷、触媒温度及び車両の速度に基づいて上限ガード値を算出するようにしてもよい。
或いは、図12、図15等に示したマップを用いて算出された上限ガード値を車両の速度に基づいて補正するようにしてもよい。この場合、例えば、図12、図15等に示したマップを用いて算出された上限ガード値から、図23に示したような車両の速度に基づいたガード値減少補正量を減算したものが最終的な上限ガード値として用いられる。或いは、本実施形態に第三実施形態を組み合わせて、図12、図15等に示したマップを用いて算出された上限ガード値から、図21及び図23の両マップに基づいて算出されたガード値減少補正量の合計値を減算したものが、最終的な上限ガード値として用いられてもよい。