JP2014151266A - コロイド溶液の濃縮方法及び濃厚コロイド溶液 - Google Patents

コロイド溶液の濃縮方法及び濃厚コロイド溶液 Download PDF

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Abstract

【課題】分散質の沈着が発生しない無機酸化物コロイド溶液の濃縮方法及び濃厚コロイド溶液を提供する。
【解決手段】分散質として無機酸化物と、分散媒として水を含む初期コロイド溶液に、減圧下マイクロ波を照射して分散媒を気化させるコロイド溶液の濃縮方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、無機酸化物コロイド溶液の濃縮方法及び濃厚コロイド溶液に関する。
コロイド溶液は、産業において多用な局面で活用されているが、特に無機酸化物のコロイド溶液は、コーティング剤等の組成物化において有用である。
無機酸化物のコロイド溶液の製造方法は、大別すると(A)トップダウン法と、(B)ボトムアップ法が存在する。
(A)トップダウン法では、分散質としてバルク状態の無機酸化物から出発して、分散媒と混合し、粉砕・分散・分級等の操作を経てコロイド溶液とする。この手法では、粉砕や分散の工程において、多大な時間やエネルギーを要するため、産業上必ずしも有用であるとはいえないが、分散質と分散媒の混合比をスタートの時点において調整することができるため、濃厚コロイド溶液を得るという点においては有利である。例えば、特開2002−338245号公報(特許文献1)に提案されている。
(B)ボトムアップ法では、分散質になりうる無機酸化物の前駆体として金属アルコキシド等を用い、分散媒になりうる水やアルコール等の溶媒中において、ゾル−ゲル反応を起こさしめることによって、コロイド溶液を得る。この手法では、化学反応を用いるため、無機酸化物の粒子形状や粒径等を多様に制御することが可能となり、特にファインケミカル等の高品質を要求される分野への用途の製造方法として有用である。その一方で、化学反応では反応基質の濃度は生成物の性質を決定する重要ファクターであるため、例えば、高濃度の前駆体を含有する反応混合物を用いてゾル−ゲル反応を行った場合は、所望の粒子状態のコロイド溶液が得られるとは限らず、従って、濃厚コロイド溶液を得るという点においては不利である。
ところで、コーティング剤等にコロイド溶液を添加する場合は、該コロイド溶液は分散質の濃度が高いものを用いる方が好ましい。これは、コーティング剤は一般に、有効成分の樹脂等を溶剤で希釈したものが用いられるが、樹脂と溶剤の比率は重要な場合が多く、従って、組成物化に際して希薄なコロイド溶液を用いた場合には、組成物のバランスが崩れるためである。
そこで、(B)ボトムアップ法で製造したコロイド溶液は、産業上の有用性を向上させるために、適宜濃縮の工程を経て、濃厚コロイド溶液としている。
特開2008−74701号公報(特許文献2)には、コロイド溶液の濃縮方法として、加熱濃縮が提案されている。この手法は簡便に実施でき、また濃縮方法としても最も一般的であると考えられる。しかしながら、通常、コロイド溶液を加熱濃縮すると、分散質が沈着(scaling、sedimentation)する。このような現象は、コロイド溶液の有効成分が無駄になっているのみならず、プロセス化学においては化学機械の汚れの原因となり保守費用が嵩むため、避けることが好ましい。特許文献2では、このような問題やその回避方法について、全く言及されていない。
特開2005−126274号公報(特許文献3)には、コロイド溶液の濃縮方法として、ロータリーエバポレーターを用いる手法が提案されている。この手法では、加熱と減圧を組み合わせることによって、分散媒をより低温で留去することができるため、特許文献2の場合よりも沈着が少ない場合もあると考えられる。しかしながら、化学分野の当業者の常識として、ロータリーエバポレーターを用いたとしても、沈着の発生を免れえるとは考え難く、また、特許文献3においても本問題やその回避方法については、全く言及されていない。
特開2005−60219号公報(特許文献4)では、コロイド溶液の濃縮方法として、限外ろ過を用いる手法が提案されている。この手法は、通常は常温・加圧下で実施するため、分散質の沈着が問題となることはない。しかしながら、限外ろ過をナノ粒子を含有するコロイド溶液に適用すると、多くの場合、限外ろ過膜の目詰まりが発生し、処理効率の低下が問題となる。また、限外ろ過膜は分散質や分散媒の種類の影響を受けやすく、実施において一般性に欠けるという問題点も有している。
特表2008−516889号公報(特許文献5)では、コロイダルシリカ分散液を凍結乾燥処理する手法について、提案がなされている。この手法で企図されているのは、分散媒の完全な揮散によるコロイド溶液の乾固であって、コロイド溶液の濃縮ではない。また、コロイド溶液は状態変化に敏感な材料であり、濃縮を企図して凍結させることは好ましくない。
以上のように、コロイド溶液の濃縮において、様々な手法が提案されているが、分散質の沈着が発生せず、一般的で効率の良い濃縮方法は知られていなかった。
これまでに、コロイド溶液の濃縮において、分散質の沈着が発生せず、一般的で効率の良い手法が達成されていなかったのは、コロイド溶液系の表面自由ギブスエネルギーが大きいためであり、系全体としてはこの表面自由ギブスエネルギーを小さくする方向(分散質が凝集する方向)に自発的に進行する傾向があるためであり、即ち、分散媒を気化させるために与えたエネルギーが分散質粒子の凝集を促す活性化エネルギーにもなっていたためである。
換言すれば、コロイド溶液の分散媒のみを選択的に気化させるエネルギー源が見出されていなかったということである。
近年、化学分野においてマイクロ波をエネルギー源とする特徴的な工程が見出されている。例えば、Chemical Reviews 2007年,107巻,6号,2563−2591頁(非特許文献1)では、水系溶媒におけるマイクロ波を用いた化学反応が総説されている。ここから、水系溶媒の加熱全般にマイクロ波を用いることが可能であることは想起できる。しかしながら、金属酸化物コロイド溶液の濃縮にマイクロ波が用いられた工程で、その特徴的な有用性と具体的な利用方法に言及されたものは、見出されていない。この理由は、マイクロ波を濃縮工程に用いることは当業者にとって容易ではなかったからである。濃縮工程では、マイクロ波照射可能空間に対して金属酸化物コロイド溶液が減少していくわけであるが、このような過程では、マイクロ波によって誘導されたプラズマが発生しやすい環境となる。従って、技術的に困難が伴うと予想されるマイクロ波を用いた金属酸化物コロイド溶液の濃縮は、有意義な結果が得られるとは考えられておらず、加熱手段の一例として認識される程度であった。
特開2010−150589号公報(特許文献6)、及び特開2010−150568号公報(特許文献7)では、零価金属コロイド溶液の製造方法で使用する加熱手段の一例として、マイクロ波を用いることが示唆されている。これらの提案は、化学反応中でマイクロ波を用いることによるコロイド粒子の形状の制御等の定性的な特性に着眼したものであり、非特許文献1の範疇に近いものである。また、マイクロ波を濃縮に用いることの優位性や実施例、更に誘導プラズマ抑制方法等についても全く記されていない。
特開2002−172302号公報(特許文献8)では、りんごジュースのような有機コロイドの減圧凍結乾燥において、昇華エネルギー源としてマイクロ波を用いることが提案されている。しかしながら、この手法でも、特許文献5の場合と同様に、状態変化に敏感な無機コロイド溶液を凍結させることによる変質の問題があると考えられる。また、分散質の沈着抑制等の、マイクロ波を濃縮に用いることの優位性、更に誘導プラズマ抑制方法等についても全く記されていない。
以上のように、コロイド溶液の分散媒のみを選択的に気化させるエネルギー源としてのマイクロ波は、これまでにその有用性と利用方法が具体的に明らかにされていなかった。
特開2002−338245号公報 特開2008−74701号公報 特開2005−126274号公報 特開2005−60219号公報 特表2008−516889号公報 特開2010−150589号公報 特開2010−150568号公報 特開2002−172302号公報
Chemical Reviews 2007年,107巻,6号,2563−2591頁
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、分散質の沈着が発生しない無機酸化物コロイド溶液の濃縮方法及び濃厚コロイド溶液を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、次の(1)、(2)の2つの事実を知見し、本発明をなすに至った。
(1)分散質として無機酸化物と、分散媒として水を含むコロイド溶液に、減圧下マイクロを照射して分散媒を気化させることで、濃縮に伴う分散質の沈着及び凝集を抑制できるということ。
(2)分散媒として水が用いられているコロイド溶液においては、好ましくは工程を10mmHg以上760mmHg未満の圧力に保つことによって、系が飽和水蒸気で満たされるため、マイクロ波誘導プラズマの発生を抑制でき、安定的な濃縮が実現できるということ。
即ち、本発明は、濃厚コロイド溶液の製造方法、及び濃厚コロイド溶液を提供する。
[1]
分散質として無機酸化物と、分散媒として水を含む初期コロイド溶液に、減圧下マイクロ波を照射して分散媒を気化させることを特徴とするコロイド溶液の濃縮方法。
[2]
初期コロイド溶液が、分散質初期濃度が0.1質量%以上10質量%未満の希薄コロイド溶液であることを特徴とする[1]記載のコロイド溶液の濃縮方法。
[3]
圧力が10mmHg以上760mmHg未満であることを特徴とする[1]又は[2]記載のコロイド溶液の濃縮方法。
[4]
無機酸化物が、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化スズ及び酸化ホウ素からなる群より選ばれる一種類以上であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のコロイド溶液の濃縮方法。
[5]
無機酸化物が、ゾル−ゲル反応によって調製されたものであることを特徴とする[4]記載のコロイド溶液の濃縮方法。
[6]
無機酸化物が、スズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体である[1]〜[3]のいずれかに記載のコロイド溶液の濃縮方法。
[7]
無機酸化物が、酸化チタンを核とし、該核の外側にアルミニウム及びジルコニウムの混合酸化物の殻を有する微粒子である[1]〜[3]のいずれかに記載のコロイド溶液の濃縮方法。
[8]
[1]〜[7]のいずれかに記載の方法によって濃縮されたコロイド溶液であって、分散質の濃度が10〜30質量%であることを特徴とする濃厚コロイド溶液。
本発明は、分散質の沈着が発生しない無機酸化物コロイド溶液の濃縮方法であって、簡便で有効性の高い濃縮方法を提供することができる。
実施例1でコロイド溶液の濃縮を行い、得られた濃厚コロイド溶液をガラス容器から取り出した後の容器の外観を示す電子写真画像である。 比較例1でコロイド溶液の濃縮を行い、得られた濃厚コロイド溶液をガラス容器から取り出した後の容器の外観を示す電子写真画像である。 実施例1で濃縮を行う前のコロイド溶液の分散質の透過型電子顕微鏡画像である。 実施例1で濃縮を行った後のコロイド溶液の分散質の透過型電子顕微鏡画像である。
以下に、本発明のコロイド溶液の濃縮方法及び濃厚コロイド溶液を詳細に説明する。
[コロイド溶液]
本発明で用いるコロイド溶液は、好ましくは1〜200nmの平均累計粒子径を有する無機酸化物粒子が水等の液体中に凝集せずに分散しているものである。
コロイド溶液の分散質
本発明で用いるコロイド溶液の分散質は、金属酸化物等の無機酸化物である。金属酸化物を構成する元素としては、13族元素、14族元素(炭素を除く)、第1系列遷移元素、第2系列遷移元素、第3系列遷移元素、ランタノイド等が挙げられる。13族元素では、特にアルミニウム、ホウ素、インジウム等から誘導される酸化物が好適であり、アルミナゾルが一般的に知られている。14族元素(炭素を除く)では、ケイ素、スズ等から誘導される酸化物が好適であり、シリカゾルが一般的である。第1系列遷移元素では、チタン、マンガン、亜鉛等から誘導される酸化物が好適である。これらの酸化物は、特定波長の光吸収材料として用いられることが多い。第2系列遷移元素では、イットリウム、ジルコニウム等から誘導される酸化物が好適である。これらの酸化物は、特定波長の光吸収及び蛍光材料として用いられることが多い。第3系列遷移元素では、ハフニウム、タンタル等から誘導される酸化物が好適である。ランタノイドでは、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、テルビウム、ジスプロジウム、イッテルビウム等から誘導される酸化物が好適である。これらの酸化物は、特定波長の光吸収及び蛍光材料として用いられることが多い。
本発明で用いるコロイド溶液の分散質は、前記の金属酸化物の群から選ばれるものであれば、一種単独で又は二種以上を複合したものを用いることができる。ここで述べる複合とは、広義の意味であり、単純混合及び化学結合を介して複合化されたものであればよい。化学結合を介した複合とは、下記一般式(1)で表されるような形態をいう。
(M1xm(M2yn (1)
ここで、M1は、Al、B、In、Si、Ge、Sn、Ti、Mn、Zn、Y、Zr、Hf、Ta、La、Ce、Pr、Nd、Tb、Dy、Ybの元素記号で表される金属元素のいずれか一種である。M2は、Al、B、In、Si、Ge、Sn、Ti、Mn、Zn、Y、Zr、Hf、Ta、La、Ce、Pr、Nd、Tb、Dy、Ybの元素記号で表される金属元素のいずれか一種であり、M1で選択されたものと同一ではない元素である。x、yは、M1の価数をaとすればx=a/2、M2の価数をbとすればy=b/2で表すことができる。m、nは、m+n=1を満たす実数であって、かつ0<m<1及び0<n<1を満たす。即ち、構造中において、M1とM2が酸素を介して結合した単位を有している。M1とM2は、構造中において散在していてもよく、また偏在していてもよい。M1とM2が構造中において散在しているものは、複数種の金属アルコキシドの共加水分解物において見られる構造である。M1とM2が構造中において偏在しているものは、コアシェル粒子(金属酸化物微粒子を核とし、この核の外側に他の金属酸化物の殻を有する粒子)において見られる構造であり、例えば、複数種の金属アルコキシドを種類に応じて段階的に加水分解することで形成される。
本発明で用いられる金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化スズ、酸化ホウ素、酸化インジウム等が挙げられる。これらのコロイド溶液を、例えばコーティング塗料に添加する場合には、目的に応じて一種類以上の金属酸化物が用いられることが普通であるので、本発明におけるコロイド溶液が複数種の金属酸化物を含有していることを妨げない。コーティング塗料にコロイド溶液を添加する目的には、機械的特性の付与、紫外線遮蔽特性の付与、電気伝導性の付与等が挙げられる。機械的特性の付与のためには、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化ホウ素及びこれらを構成する金属元素を一種類以上含有する複合酸化物が用いられることが多い。紫外線遮蔽特性の付与のためには、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム等を用いることが多く、更に機械的特性付与のための酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化スズ等と複合及び混合して用いることもできる。電気伝導性の付与のためには、酸化インジウム−酸化スズ複合体が用いられることが多い。何れにせよ、これらの金属酸化物は多様な機能を付与することができるものであるが、コロイド溶液としての化学工学上の様態は類似したものであり、従って、無機酸化物コロイド溶液の濃縮を考える場合には、ここに挙げた金属酸化物を一種単独又は二種以上を複合したものについて、一群として取り扱うことが可能である。
コロイド溶液の種類
無機酸化物コロイド溶液は、分散質の種類によって多様な機能性を有する。多様な機能性とは、例えば、コーティング組成物に添加した際に耐擦傷性や可撓性の付与を行える機械的特性、光の屈折率制御、紫外線遮蔽性、放射線遮蔽、蛍光性等の付与を行える光学特性、電気伝導性や誘電率の付与を行える電気的特性等である。このように、無機酸化物コロイド溶液は、それを構成する元素の種類も多様であれば、発現する機能も多様である。しかしながら、コロイド溶液としての化学工学上の様態は類似したものであり、従って、無機酸化物コロイド溶液の濃縮を考える場合には、ここに挙げた金属酸化物等の無機酸化物を一種単独又は二種以上を複合したものについて、一群として取り扱うことが可能である。化学工学上の様態とは、粉体工学や移動現象論の範疇において議論される物理的性質のことであり、例えば、分散質の粒子径や、ゼータ電位、分散質の沈着に関するスケール係数等である。これらの物理量を用いて議論している限りにおいて、無機酸化物コロイド溶液は分散質を構成する元素の種類が異なっていても、互いに比較考量可能で並列な集合として認識できる。従って、本明細書や実施例において全ての種類及び/又は組合せの無機酸化物(金属酸化物)コロイド溶液について詳細に言及されていないからといって、記述されていないコロイド溶液についても本発明の範囲に含まれることを妨げない。
コロイド溶液の分散質の粒子径(平均累計粒子径)は、種々の方法で測定できる。本発明での粒径の範囲は、レーザー光を用いた動的光散乱法で測定したものの体積基準の50%累積分布径(D50)として議論するが、傍証として電子顕微鏡法を用いて観測することも可能である。これらの測定法によって求められる値は、測定装置に依存したものではないが、例えば、動的光散乱法としては、ナノトラックUPA−EX150(日機装(株)製)、LA−910(堀場製作所(株)製)等の装置を用いることができる。また、電子顕微鏡法としては透過型電子顕微鏡H−9500(日立ハイテクノロジーズ(株)製)を装置として例示することができる。例えば、コロイド溶液をコーティング塗料に添加する場合は、可視領域における透明性が重要であるため、分散質の平均累計粒子径は、1〜200nmが好ましく、1〜100nmであることがより好ましく、1〜80nmであることが更に好ましく、1〜50nmであることが特に好ましい。分散質の平均累計粒子径が200nmを超えると、可視領域の光波長より大きくなり、散乱が顕著となる場合がある。また、1nm未満になると、分散質の系中での総表面積が極めて大きくなることにより、コロイド溶液としての取扱いが困難になる場合がある。
コロイド溶液のゼータ電位(ζ)は、電気二重層を有する固−液界面に電場を印加した際に、分散質粒子の泳動現象が見られるが、この泳動現象の電気泳動移動度に比例する値として認識される。ゼータ電位は種々の方法で測定できるが、このような値を測定する装置として、例えば、ELS−3000(大塚電子(株)製)を挙げることができる。本発明のような濃厚コロイド溶液については、該コロイド溶液の誘電率が分散媒と大きく異なることがある。ゼータ電位は、誘電率にも依存する関数であるため、このような場合は誘電率の測定を行えばよい。誘電率の測定装置としては、Model−871(日本ルフト(株)製)を例示することができる。ゼータ電位は、mVの単位で、−200<ζ<200の範囲に収まることが多い。ゼータ電位は、その絶対値が大きいほどコロイド溶液の分散系が安定していることを示している。従って、ゼータ電位の絶対値(|ζ|)は、3mV以上であることが好ましく、10mV以上であることがより好ましく、20mV以上であることが更に好ましい。ゼータ電位の絶対値(|ζ|)が3mV未満であると、コロイド溶液の分散質の分散安定性が十分ではない場合がある。ゼータ電位の絶対値(|ζ|)の上限は特に定めないが、通常は物理限界を有している(200mV程度)。
分散質の沈着に関するスケール係数(ε)は、スケールが管内に付着した際の流量変化として定量化することができる。コロイド溶液がHagen−Poiseulle流れに従った場合、水頭から予想される流量Qと、実際の流量qが観測できる。このとき、スケール係数(ε)を下記式(2)で表現できる。
ε=(Q−q)/Q (2)
εは、0以上1以下の実数であることが好ましく、1に近い値であるほどスケールの発生が激しく、0に近いほどスケールの発生が少ない。εは、0以上0.1以下であることがより好ましく、0以上0.05以下であることが更に好ましく、0以上0.02以下であることが特に好ましい。スケールの発生は、ここで述べたような定量化のほかにも目視によって観察してもよい。
ゾル−ゲル反応
本発明では、特に濃縮に用いるコロイド溶液が、ゾル−ゲル反応によって調製されたものであることが好ましい。ゾル−ゲル反応では、無機酸化物の粒子形状や粒径等を多様に制御することが可能となり、特にファインケミカル等の高品質を要求される分野への用途の製造方法として有用である。その一方で、化学反応では反応基質の濃度は生成物の性質を決定する重要ファクターであるため、例えば、高濃度の前駆体を含有する反応混合物を用いてゾル−ゲル反応を行った場合は、所望の粒子状態のコロイド溶液が得られるとは限らず、従って、濃厚コロイド溶液を得るという点においては不利なことがある。本発明は、特に、ゾル−ゲル反応によって希薄なコロイド溶液しか得られない場合において、好適に用いることができる。
ゾル−ゲル反応では、下記一般式(3)で示される化合物を酸・塩基等の触媒存在下、加水分解縮合することが行われる。この反応によって、コロイド溶液を得ることができる。
31 k (3)
ここで、M3は、Al、B、In、Si、Ge、Sn、Ti、Mn、Zn、Y、Zr、Hf、Ta、La、Ce、Pr、Nd、Tb、Dy、Ybの元素記号で表される金属元素のいずれか一種である。X1は、炭素数1〜4の直鎖又は分岐型飽和アルコキシ基、置換可能なアミノ基、加水分解性基、置換活性な配位子、キレート型配位子、ハロゲン原子、硫酸基又は硝酸基である。X1の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基等のアルコキシ基、アミノ基、N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−プロピルアミノ基、N,N−ジプロピルアミノ基、N−イソプロピルアミノ基、N,N−ジイロプロピルアミノ基、N−ブチルアミノ基、N,N−ジブチルアミノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基等の鎖及び環式の置換可能なアミノ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基等のアルカノイルオキシ基等の加水分解性基、アリル基、ベンジル基、アルケニル基、シクロペンタジエニル基、インデニル基、t−ブトキシカルボニル基、フルオレニルメトキシカルボニル基、ベンジロキシカルボニル基、ニトロ基、カルボナト基、ホスファチジル基、ホスフェチジル基、ホスフィチジル基、シアノ基、イソシアノ基、スルホニル基、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基、スルファニル基、ピロスルホニル基等の置換活性な配位子、アセチルアセトン、シュウ酸イオン、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸イオン、グリオキシム基、N,N−ジメチルグリオキシム基、ウレイド基、チオウレイド基、酒石酸イオン、サリチル酸イオン、カテコラト基、ピナコラト基、β−チアジグリコール基、エチレングリコール基、プロピレングリコール基、グリセロール基等のキレート型配位子、臭素原子、塩素原子等のハロゲン原子が挙げられる。kは1〜4の整数である。
一般式(3)で示される化合物を、適切な酸・塩基等の触媒存在下、水性溶媒中で加水分解縮合することによって、対応する元素M3の酸化物を分散質として含有するコロイド溶液が得られ、このようにして調製された該コロイド溶液は本発明の濃縮方法によって、好適に濃縮することができる。
一般式(3)で示される化合物の具体例としては、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ(n−プロポキシ)アルミニウム、トリ(i−プロポキシ)アルミニウム、トリ(n−ブトキシ)アルミニウム、トリ(i−ブトキシ)アルミニウム、トリ(t−ブトキシ)アルミニウム、塩化アルミニウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム(III)、硝酸アルミニウム(III)、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリ(n−プロポキシ)ボラン、トリ(i−プロポキシ)ボラン、塩化ホウ素(III)、塩化インジウム(III)、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(i−ブトキシ)シラン、テトラ(t−ブトキシ)シラン、テトラクロロシラン、テトラキス(アセトナト)シラン、ビス(オキサラト)シラン、テトラメトキシゲルマン、テトラエトキシゲルマン、テトラ(n−プロポキシ)ゲルマン、テトラ(i−プロポキシ)ゲルマン、テトラ(n−ブトキシ)ゲルマン、テトラ(i−ブトキシ)ゲルマン、テトラ(t−ブトキシ)ゲルマン、塩化ゲルマニウム(IV)、テトラキス(アセトナト)ゲルマン、ビス(オキサラト)ゲルマン、塩化ゲルマニウム(II)、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ(n−プロポキシ)チタン、テトラ(i−プロポキシ)チタン、テトラ(n−ブトキシ)チタン、テトラ(i−ブトキシ)チタン、テトラ(t-ブトキシ)チタン、テトラキス(アセチルアセトナト)チタン(IV)、硫酸チタン(IV)、硝酸チタン(IV)、塩化チタン(IV)、塩化マンガン(II)、塩化亜鉛(II)、塩化イットリウム(III)、塩化ジルコニウム(IV)、塩化ハフニウム(II)、塩化タンタル(V)、塩化ランタン(III)、塩化セリウム(III)、塩化プラセオジウム(III)、塩化ネオジウム(III)、塩化テルビウム(III)、塩化ジスプロジウム(III)、塩化イッテルビウム(III)等が挙げられ、これらの化合物の加水分解縮合物を含むコロイド溶液は、本発明の濃縮方法によって、好適に濃縮することができる。
ゾル−ゲル反応に用いられる酸・塩基等の触媒の具体例としては、フッ化水素、塩酸、硝酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、マレイン酸、安息香酸、マロン酸、グルタール酸、グリコール酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機酸及び無機酸、テトラn−プロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−ブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−ペンチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−ヘキシルアンモニウムヒドロキシド、テトラシクロヘキシルアンモニウムヒドロキシド、テトラキス(トリフロロメチル)アンモニウムヒドロキシド、トリメチルシクロヘキシルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(トリフロロメチル)アンモニウムヒドロキシド、トリメチルt−ブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−プロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラn−ブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラn−ペンチルホスホニウムヒドロキシド、テトラn−ヘキシルホスホニウムヒドロキシド、テトラシクロヘキシルホスホニウムヒドロキシド、テトラキス(トリフロロメチル)ホスホニウムヒドロキシド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムヒドロキシド、トリメチル(トリフロロメチル)ホスホニウムヒドロキシド、トリメチルt−ブチルホスホニウムヒドロキシド等のヒドロキシド類、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、リン酸二水素一リチウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸二水素一セシウム、リン酸水素二リチウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二セシウム、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等の無機塩類、尿素、チオ尿素、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、インドール等の含窒素有機塩基等を用いることができる。
これらの酸・塩基等の触媒は、一般式(3)で示される化合物に対して、0.01〜10モル%用いることが好ましく、0.1〜5.0モル%用いることがより好ましく、0.5〜3.0モル%用いることが更に好ましい。10モル%を超えて用いた場合には、加水分解縮合が進行しすぎてゲル化することがある。0.01モル%未満用いた場合は、触媒として有効に作用しないことがある。これらの酸・塩基等の触媒によって加水分解縮合が促進されたことによって調製されたコロイド溶液は、本発明の濃縮方法によって、好適に濃縮することができる。
ゾル−ゲル反応には水性溶媒が用いられる。ゾル−ゲル反応に用いる水性溶媒としては、水、水と任意混合する1価アルコールを用いることができる。水と任意混合する1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールを例示することができる。これらの混合比は任意であるが、これらの4種のアルコールは、水よりも大きな飽和蒸気圧を有しているため、反応液をそのままコロイド溶液として用いる際に、このコロイド溶液に添加しても、優先的に気化する。従って、これらの混合分散媒からなるコロイド溶液の濃縮を行ったとしても、最終的には水分散コロイド溶液の濃縮を行っていることと等価である。従って、これらの水性溶媒を含有するコロイド溶液は、本発明の濃縮方法によって、好適に濃縮することができる。1価アルコールを含む場合、その含有量は、溶媒中50質量%未満であることが好ましい。1価のアルコールが50質量%以上であると、分散媒の有機溶媒としての性質が強くなるため、分散安定性が変化することがある。このようなときは、分散安定剤等を別途添加しなければならない場合がある。
ゾル−ゲル反応において、一般式(3)で示される化合物を前記水性溶媒中で加水分解縮合する場合、該化合物の定容量中における物質量(モル)の多寡、即ち、モル濃度は0.01〜1.0(モル・dm-3)の範囲で実施することが好ましい。より好ましくは0.05〜0.5(モル・dm-3)の範囲であり、更に好ましくは0.1〜0.3(モル・dm-3)の範囲である。モル濃度が1.0(モル・dm-3)を超えると、反応に伴う発熱が溶媒の熱容量を超えやすくなる場合があり、0.01(モル・dm-3)未満であると、多量の溶媒を用いることによって産業上不利になる場合がある。例えば、テトラエトキシシラン(21g、信越化学工業(株)製、商品名「KBE−04」)を水性溶媒(1dm3)中に含む反応混合物のモル濃度は0.1(モル・dm-3)であるが、このテトラエトキシシランが完全に加水分解して組成式SiO2のシリカゾルが生成したと仮定すると、その分散質初期濃度(C0)は、約0.6質量%となる。このような、希薄コロイド溶液は本発明によって、好適に濃縮することができる。
本発明で述べている分散質と同様のものを含有するコロイド溶液としては、例えば、コロイダルシリカゾル(日産化学(株)製、商品名「スノーテックス」シリーズ)、コロイダルアルミナゾル(日産化学(株)製、商品名「アルミナゾル」シリーズ)等が挙げられる。また、複数種の金属酸化物を分散質として含有するコロイド溶液としては、例えば、酸化スズ−酸化チタン複合粒子(日揮触媒化成(株)製、商品名「オプトレイク」シリーズ)等が挙げられる。これらのコロイド溶液は、市販品として、既に濃厚溶液(10〜20質量%)として供されている。しかしながら、このような濃厚コロイド溶液を用いた工程であって、化学反応又は製造工程で希釈されたことによって、分散質の濃度が10質量%未満に低下したために、再度コロイド溶液の濃縮を要するという場合には、本発明の濃縮方法を好適に用いることができる。また、酸化チタン−酸化ケイ素のコアシェル粒子を含有するコロイド溶液としては、例えば、公知の手法(Materials Research Bulletin 2008年、43巻、946−957頁)によって製造できる。また、酸化亜鉛−酸化ケイ素のコアシェル粒子を含有するコロイド溶液としては、例えば、公知の手法(Material Technology 2010年、28巻、5号、244−251頁)によって製造できる。また、インジウム−スズ複合酸化物粒子を含有するコロイド溶液としては、例えば、公知の手法(Quimica Nova 2012年、35巻、3号、473−476頁)で製造できる。例えば、これらの公知の手法によって製造したコロイド溶液であって、分散質の濃度が10質量%未満であるために濃縮を要するという場合には、本発明の濃縮方法を好適に用いることができる。
コアシェル微粒子を含むコロイド溶液
本発明で用いるコロイド溶液としては、とりわけ、上述した金属元素の酸化物の一種単独又は二種以上を複合したものを核とし、この核の外側に上述した金属元素の酸化物の一種単独又は二種以上を複合したものの殻を有するコアシェル微粒子を含有するコロイド溶液を用いるのが好ましい。このようなコアシェル微粒子含有コロイド溶液としては、酸化チタン−酸化スズ複合酸化物(スズを固溶した酸化チタン微粒子)を核とし、この核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル微粒子を含むコロイド溶液等が挙げられる。以下に、本発明で用いられるコアシェル微粒子(コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体)コロイド溶液について詳細に説明する。
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体(微粒子)コロイド溶液
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液は、スズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体を水等の水性分散媒中に分散したものである。
ここで、酸化チタンには、通常、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の3つがあるが、本発明では、光触媒活性が低く、紫外線吸収能力に優れた正方晶系ルチル型の酸化チタンをスズの固溶媒として用いることが好ましい。
固溶質としてのスズ成分は、スズ塩から誘導されるものであればよく、酸化スズ、硫化スズ等のスズカルコゲナイドが挙げられ、酸化スズであることが好ましい。スズ塩としては、フッ化スズ、塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ等のスズハロゲン化物、シアン化スズ、イソチオシアン化スズ等のスズ擬ハロゲン化物、又は硝酸スズ、硫酸スズ、燐酸スズ等のスズ鉱酸塩等を用いることができるが、安定性と入手の容易さから塩化スズを用いることが好ましい。また、スズ塩におけるスズは2価〜4価の原子価のものから選択できるが、4価のスズを用いることが特に好ましい。
スズを正方晶系酸化チタンに固溶させる場合、スズ成分の固溶量が、チタンとのモル比(Ti/Sn)で10〜1,000、より好ましくは20〜200である。スズ成分の固溶量が、チタンとのモル比(Ti/Sn)で10よりも少ないとき、スズに由来する可視領域の光吸収が顕著となり、一方、1,000を超えると、光触媒活性が充分に失活せず、結晶系も可視吸収能の小さいアナターゼ型となるため好ましくない。
スズ成分の固溶様式は、置換型であっても侵入型であってもよい。ここでいう、置換型とは、酸化チタンのチタン(IV)イオンのサイトにスズが置換されて形成される固溶様式のことであり、侵入型とは、酸化チタンの結晶格子間にスズが存在することにより形成される固溶様式のことである。侵入型では、着色の原因となるF中心が形成されやすく、また金属イオン周囲の対称性が悪いため金属イオンにおける振電遷移のフランク−コンドン因子も増大し、可視光を吸収し易くなる。そのため、置換型であることが好ましい。
スズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子の核の外側に形成される酸化ケイ素の殻は、酸化ケイ素を主成分とし、スズやアルミニウム等その他の成分を含有していてもよく、どのような手法で形成させたものであってもよい。例えば、該酸化ケイ素の殻は、テトラアルコキシシランの加水分解縮合によって形成することができる。テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン等の通常入手可能なものを用いればよいが、反応性と安全性の観点からテトラエトキシシランを用いることが好ましい。このようなものとして、例えば、市販の「KBE−04」(信越化学工業(株)製)を用いることができる。また、テトラアルコキシシランの加水分解縮合は、水中で行えばよく、アンモニア、アルミニウム塩、有機アルミニウム、スズ塩、有機スズ等の縮合触媒を適宜用いればよいが、アンモニアは該核微粒子の分散剤としての作用も兼ね備えているため、特に好ましい。
このようなスズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体全体に対する殻の酸化ケイ素の割合は、20〜50質量%、好ましくは25〜45質量%、より好ましくは30〜40質量%である。20質量%よりも少ないとき、殻の形成が不十分な場合があり、一方、50質量%を超えると、該粒子の凝集を促進し、分散液が不透明となる場合がある。
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体において、レーザー光を用いた動的光散乱法で測定した核となるスズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子の体積基準の50%累積分布径(D50)は30nm以下、より好ましくは50nm以下であり、コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体の体積基準の50%累積分布径(D50)は200nm以下が好ましく、より好ましくは80nm以下、更に好ましくは50nm以下である。上記核微粒子及びコアシェル型固溶体のD50値が上記上限値を超えるとき、分散液が不透明であるため好ましくない。また、特に限定されないが、通常、上記核微粒子のD50の下限値は、1nm以上、コアシェル型固溶体のD50下限値は、5nm以上である。なお、このような体積基準の50%累積分布径(D50、以下、「平均粒子径」ということがある。)を測定する装置としては、例えば、ナノトラックUPA−EX150(日機装(株)製)、LA−910(堀場製作所(株)製)等を挙げることができる。
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体を分散する水性分散媒としては、水、及び水と任意の割合で混合される親水性有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、蒸留水、純水等が好ましい。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールが好ましい。この場合、親水性有機溶媒の混合割合は、水性分散媒中0〜50質量%であることが好ましい。中でも、生産性、コスト等の点から脱イオン水、純水が最も好ましい。
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体と水性分散媒とから形成されるコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液において、上記コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体の濃度は、0.1質量%以上10質量%未満が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%、更に好ましくは1〜3質量%である。なお、この水性分散媒中には、後述するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体の製造過程において使用された塩基性物質(分散剤)等を含んでいることを許容する。特に、塩基性物質は、pH調整剤、分散剤としての性質を兼ね備えているので、上記水性分散媒と共に適当な濃度の水溶液にして用いてもよい。但し、コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液には、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物、リン酸化合物、リン酸水素化合物、炭酸化合物及び炭酸水素化合物以外の分散剤(塩基性物質)を含有していないことが好ましい。これは、上記塩基性物質を含有させておくことによって、従来、酸化チタン微粒子の分散剤として使用せざるを得なかった高分子分散剤を敢えて使用する必要がなくなり、従って、該高分子分散剤を含む酸化チタン微粒子分散剤をコーティング剤に適用した際に生じていた塗膜(硬化膜)の耐擦傷性及び基材との密着性に係る阻害を回避できるためである。
このようなコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体水分散液における塩基性物質(分散剤)としては、例えば、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、リン酸二水素一リチウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸二水素一セシウム、リン酸水素二リチウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二セシウム、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等を挙げることができ、特に、アンモニア及び水酸化ナトリウムが好ましい。
このような構成のコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液は高い透明性を有し、例えば、1質量%濃度のコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液が満たされた光路長1mmの石英セルを通過する550nmの波長の光の透過率が通常80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上である。なお、このような透過率は、紫外可視透過スペクトルを測定することによって、容易に求めることができる。
特に、以下に述べるスズを固溶したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液の製造方法によるものは、該固溶体を得るに際し、製造工程中で粉砕や分級等の機械的単位操作を経ていないにもかかわらず、上記の特定の累積粒度分布径にすることができるので、生産効率が非常に高いだけでなく、上記の高い透明性を確保できる。
コアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液の製造方法
上述した構成を有するスズを固溶したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体水分散液の製造方法は、次の工程(A)、(B)からなる。
・工程(A)
この工程では、先ず、スズ成分が正方晶系酸化チタンに固溶している正方晶系酸化チタン固溶体微粒子の水分散体を調製する。この水分散体を得る方法は、特に限定されないが、原料となるチタン化合物、スズ化合物、塩基性物質及び過酸化水素を水性分散媒中で反応させて、一旦、スズを含有したペルオキソチタン酸溶液を得た後、これを水熱処理してスズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子分散液を得る方法が好ましい。
前段のスズを含有したペルオキソチタン酸溶液を得るまでの反応は、水性分散媒中の原料チタン化合物に塩基性物質を添加して水酸化チタンとし、含有する不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してペルオキソチタン酸とした後にスズ化合物を添加して、スズを含有したペルオキソチタン酸溶液とする方法でも、水性分散媒中の原料チタン化合物にスズ化合物を添加した後に塩基性物質を添加してスズを含有した水酸化チタンとし、含有する不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してスズを含有したペルオキソチタン酸溶液とする方法でもよい。
ここで、原料のチタン化合物としては、例えば、チタンの塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸塩、これらの水溶液にアルカリを添加して加水分解することにより析出させた水酸化チタン等が挙げられ、これらの一種を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用してもよい。
スズ化合物としては、前述のスズ塩が、それぞれ前述の固溶量となるように使用される。また、水性分散媒、塩基性物質も、それぞれ前述のものが、前述の配合となるように使用される。
過酸化水素は、上記原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン、つまりTi−O−O−Ti結合を含む酸化チタン系化合物に変換させるためのものであり、通常、過酸化水素水の形態で使用される。過酸化水素の添加量は、チタン及びスズの合計モル数の1.5〜5倍モルとすることが好ましい。また、この過酸化水素を添加して原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン酸にする反応における反応温度は、5〜60℃とすることが好ましく、反応時間は、30分〜24時間とすることが好ましい。
こうして得られるスズを含有したペルオキソチタン酸溶液は、pH調整等のため、塩基性物質又は酸性物質を含んでいてもよい。ここでいう、塩基性物質としては、例えば、アンモニア等が挙げられ、酸性物質としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸、リン酸、過酸化水素等の無機酸及び蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸が挙げられる。この場合、得られたスズを含有したペルオキソチタン酸溶液のpHは1〜7、特に4〜7であることが取り扱いの安全性の点で好ましい。
次いで、後段のスズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子コロイド溶液を得るまでの反応は、上記スズを含有したペルオキソチタン酸溶液を、圧力0.01〜4.5MPa、好ましくは0.15〜4.5MPa、温度80〜250℃、好ましくは120〜250℃、反応時間1分〜24時間の条件下での水熱反応に供される。その結果、スズを含有したペルオキソチタン酸は、スズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子に変換されていく。
本発明においては、こうして得られるスズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子分散液に、1価アルコール、アンモニア、及びテトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランを配合する。
1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、及びこれらの任意の混合物が使用され、特に好ましくはエタノールが使用される。このような1価アルコールの配合量は、上記酸化チタン微粒子分散液100質量部に対して、100質量部以下、好ましくは50質量部以下で使用される。特に、1価アルコールの配合量を変えることによって、次工程において、スズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子からなる核の外側に形成する酸化ケイ素の殻の厚さを制御することが可能になる。一般に、1価アルコールの配合量を増やせば、テトラアルコキシシラン等のケイ素反応剤の反応系への溶解度が増大する一方で酸化チタンの分散状態には悪影響を与えないので、該殻の厚さは厚くなる。即ち、次工程において得られるスズを固溶したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体水分散液は、製造工程中で粉砕や分級等の機械的単位操作を経ていないにもかかわらず、上記特定の累積粒度分布径の範囲にすることができ、可視部における透明性を付与し得る。
アンモニアは、アンモニア水であり、スズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子分散液中にアンモニアガスを吹き込むことによってアンモニア水の添加に代えても良く、更に該分散液中でアンモニアを発生し得る反応剤を加えることによってアンモニア水の添加に代えても良い。アンモニア水の濃度は、特に限定されるものではなく、市販のどのようなアンモニア水を用いてもよい。本発明の工程においては、例えば、28質量%の濃アンモニア水を用いて、スズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子分散液のpHを9〜12、より好ましくは9.5〜11.5となる量までアンモニア水を添加することが好ましい。
テトラアルコキシシランとしては、上述したものを用いることができるが、テトラエトキシシランが好ましい。テトラエトキシシランには、それ自体の他、テトラエトキシシランの(部分)加水分解物も用いることができる。このようなテトラエトキシシラン又はテトラエトキシシランの(部分)加水分解物としては、市販のどのようなものでも良く、例えば、商品名「KBE−04」(テトラエトキシシラン:信越化学工業(株)製)、商品名「シリケート35」,「シリケート45」(テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物:多摩化学工業(株)製)、商品名「ESI40」,「ESI48」(テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物:コルコート(株)製)等を使用してもよい。これらのテトラエトキシシラン等は、一種を用いても、複数種を用いてもよい。
テトラアルコキシシランの配合量は、加水分解後の酸化ケイ素を含有する酸化チタンに対して20〜50質量%、好ましくは25〜45質量%、より好ましくは30〜40質量%となるように用いる。20質量%よりも少ないとき、殻の形成が不十分となり、50質量%よりも多いとき、該粒子の凝集を促進し、分散液が不透明となることがあるため好ましくない。
スズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子分散液に、1価アルコール、アンモニア、及びテトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランを加えて混合する方法は、どのような方法で実施してもよく、例えば、磁気撹拌、機械撹拌、震盪撹拌等を用いることができる。
・工程(B)
ここでは、上記(A)の工程で得られた混合物を急速加熱することにより、スズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体の微粒子を形成させる。
工程(A)で得られた混合物を急速加熱する方法は、既存のどのようなものであってもよく、マイクロ波による加熱、高い熱交換効率を達成できるマイクロリアクター、及び大きな熱容量を持った外部熱源との熱交換等を用いることができる。特に、マイクロ波を用いた加熱方法は、均一且つ急速に加熱することができるため好ましい。なお、マイクロ波を照射して加熱する工程は、回分工程であっても連続工程であってもよい。
急速加熱法は、室温から分散媒の沸点直下(通常、10〜90℃、特に10〜80℃程度)に達するまでの時間が10分以内であることが好ましい。これは、10分を超える加熱方法のとき、該粒子が凝集することとなり、好ましくないからである。
このような急速加熱法にマイクロ波加熱を用いるときは、例えば、その周波数が300MHz〜3THzの電磁波の中から適宜選択することができる。日本国内においては、電波法によって、通常使用可能なマイクロ波周波数帯域が、2.45GHz、5.8GHz、24GHz等に決められているが、なかでも2.45GHzは、民生用にも多く使用されており、この周波数の発振用マグネトロンは設備価格上有利である。しかしながら、この基準は特定の国や地域の法律や経済状況に依存したものであり、技術的には周波数を限定するものではない。マイクロ波の出力は100W〜24kW、好ましくは100W〜20kWの定格を有する限り、市販のどのような装置を用いてもよい。例えば、μReactorEx(四国計測工業(株)製)、Advancer(バイオタージ(株)製)等を用いることができる。
マイクロ波加熱のとき、加熱に要する時間を10分以内とするためには、マイクロ波の出力を調節するか、回分反応の場合は反応液量を、連続反応の場合は反応流量を適宜調節して行うことができる。
このようにして得られたスズを固溶したコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体コロイド溶液は、本発明の濃縮方法に好適に用いることができる。
また、本発明のコロイド溶液に用いられる微粒子としては、市販品を用いてもよく、例えば、アルミニウム及びジルコニウム表面処理酸化チタン微粒子(テイカ(株)製)、製品名:MT−100HD)、酸化ケイ素含有酸化チタンナノ微粒子(アルドリッチ(株)製、製品番号637262)等を挙げることができる。これらを水等の水性分散媒に所定濃度となるように分散させてコロイド溶液を得ることができる。
コロイド溶液の分散媒
本発明で用いるコロイド溶液の分散媒は水を含む。水分散コロイド溶液は分散媒の状態変化によって、変質する可能性があるため大気圧下においては、0℃以上100℃以下で扱うことが通常である。本発明における濃縮工程においても、0℃以上100℃以下で実施することが好ましく、20℃以上80℃以下で実施することがより好ましく、40℃以上60℃以下で実施することが更に好ましい。
本発明で用いるコロイド溶液の分散媒には、更に、水と任意混合する1価アルコールを共存させることができる。水と任意混合する1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールの4種を例示することができる。これらの4種のアルコールは、水よりも大きな飽和蒸気圧を有しているため、コロイド溶液に添加しても、優先的に気化する。従って、これらの混合分散媒からなるコロイド溶液の濃縮を行ったとしても、最終的には水分散コロイド溶液の濃縮を行っていることと等価である。これらの1価アルコールは、水との共沸を利用するために意図的に添加する場合もあるが、ゾル−ゲル反応の前駆体である金属アルコキシドの加水分解によって結果的に系中に存在している場合もある。1価アルコールを含む場合、その含有量は、分散媒中50質量%未満であることが好ましい。
[コロイド溶液の濃縮方法]
マイクロ波
本発明のコロイド溶液の濃縮では、マイクロ波を用いることを特徴とする。マイクロ波は、伝導伝熱とは異なり、分散媒を直接励起することができるため、効率的に水を気化することができる。このような目的に用いることができるマイクロ波としては、その周波数が300MHz〜3THzの電磁波の中から適宜選択することができる。日本国内においては、電波法によって、通常使用可能なマイクロ波周波数帯域が、2.45GHz、5.8GHz、24GHz等に決められているが、なかでも2.45GHzは、民生用にも多く使用されており、この周波数の発振用マグネトロンは設備価格上有利である。しかしながら、この基準は特定の国や地域の法律や経済状況に依存したものであり、技術的には周波数を限定するものではない。マイクロ波の出力は100W〜24kW、好ましくは100W〜6kWの定格を有する限り、市販のどのような装置を用いてもよい。例えば、μReactorEx(四国計測工業(株)製)、Advancer(バイオタージ(株)製)等を用いることができる。
減圧
本発明のコロイド溶液の濃縮では、工程中の圧力を10mmHg以上760mmHg未満で実施することが好ましい。特に、15〜450mmHgの圧力で実施することが好ましく、20〜100mmHgの圧力で実施することがより好ましい。工程中の圧力が10mmHg未満では、マイクロ波誘導プラズマが発生しやすくなる場合がある。また、760mmHg以上では、コロイド溶液の分散媒が気化しにくくなる場合がある。
マイクロ波の種類と圧力の組合せ
コロイド溶液の濃縮工程における、マイクロ波の周波数と定格及び圧力の組合せとしては、それぞれにおいて最も好適であるものを組み合わせたものが更に好適である。従って、2.45GHz・100W〜6kWのマイクロ波を照射しつつ、20〜100mmHgの圧力で実施することが、最も好ましい。
マイクロ波を照射する際のコロイド溶液の温度は10〜90℃、特に60〜85℃が好ましく、照射時間は、30秒〜100分間、特に30秒〜30分間、とりわけ1〜10分間が好ましい。
コロイド溶液の濃縮
コロイド溶液の濃縮とは、該コロイド溶液の濃度を上昇させる単位操作のことをいう。コロイド溶液の濃度は、分散質のコロイド溶液中における質量%で規定することができる。即ち、コロイド溶液中の分散質の質量を(P)、コロイド溶液中の分散媒の質量を(Q)とすると、コロイド溶液の濃度(C(質量%))は、下記式(4)で表すことができる。
C={P/(P+Q)}×100 (4)
従って、ある単位操作の前の初期コロイド溶液の濃度をC0、該単位操作の後のコロイド溶液の濃度をC1とした場合に、C0とC1が下記式(5)を満足する操作は、全て濃縮方法の範疇に属する。
1>C0 (5)
コロイド溶液の濃度範囲
本発明では、特に、分散質初期濃度(C0)が0.1質量%以上10質量%未満である希薄コロイド溶液を用いることが好ましい。この濃度範囲は、本発明で用いられる無機酸化物コロイド水溶液が、ゾル−ゲル反応によって誘導されたものであることを特に想定しているためである。化学反応は、反応性を制御するために反応基質の濃度を規定して行うことが多く、ゾル−ゲル反応も例外ではない。反応基質の濃度は定容量中における物質量(モル)の多寡、即ちモル濃度で規定されることが多い。ゾル−ゲル反応では、一般的に濃度が0.01〜1.0(モル・dm-3)の範囲で実施することが好ましい。より好ましくは0.05〜0.5(モル・dm-3)の範囲であり、更に好ましくは0.1〜0.3(モル・dm-3)の範囲である。モル濃度が1.0(モル・dm-3)を超えると、反応に伴う発熱が溶媒の熱容量を超えやすくなる場合があり、0.01(モル・dm-3)未満であると、多量の溶媒を用いることによって産業上不利になる場合がある。例えば、テトラエトキシシラン(21g、信越化学工業(株)製、商品名「KBE−04」)を水性溶媒(1dm3)中に含む反応混合物のモル濃度は0.1(モル・dm-3)であるが、このテトラエトキシシランが完全に加水分解して組成式SiO2のシリカゾルが生成したと仮定すると、その分散質初期濃度(C0)は、約0.6質量%となる。この例からも分かるように、本発明で指定している分散質初期濃度0.1質量%以上10質量%未満、という範囲は通常の化学反応を行う上で常識的な範囲である。
即ち、C0は、0.1質量%以上10質量%未満であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましく、1〜3質量%であることが更に好ましい。C0が0.1質量%未満であると、濃縮操作によって製造可能なコロイド溶液の収率が小さいため産業効率上好ましくない場合がある。また、C0が10質量%以上である場合は、既に濃厚コロイド溶液と呼べるものであるため、本発明では対象としない。C1は、10〜30質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましく、10〜20質量%であることが更に好ましい。C1が10質量%未満である場合は、濃縮が十分ではないため好ましくない。また、C1が30質量%を超えると、コロイド溶液がゲル化しやすくなる場合がある。
前記のコロイド溶液の濃度(C)は、該コロイド溶液を強制乾固した際の質量変化を測定することによって、容易に計測できる。計測に用いる什器は特に限定されないが、例えば、直径60mmのアルミニウム製の皿(質量X)の上に、コロイド溶液の一定量(質量Y)を精密秤量(例えば、島津製作所(株)製AUX−220が使用可能である)し、105℃のオーブン(例えば、エスペック社製パーフェクトオーブンが使用可能である)で3時間処理して分散媒を揮発させ、天秤室で30分間静置した後に、分散質が乾固したアルミニウム製の皿を精密秤量して値(質量Z)を得たとすれば、C(質量%)は下記式(6)に示すようにX、Y及びZによって、必要十分に決定できる。
C={(Z−X)/Y}×100 (6)
ここで、計量皿とコロイド溶液の合計値(X+Y)は天秤の最小秤量の10倍以上、最大秤量の1/10以下であることが好ましい。最小秤量の10倍未満であると、分銅誤差が大きくなる場合があり、最大秤量の1/10を超えると乾燥時間が長くなる場合がある。また、計量皿に対するコロイド溶液の割合の値(Y/X)は、0.1以上10以下であることが好ましく、これ以外の範囲では、分銅誤差が大きくなる場合がある。
オーブンでの加熱は、100℃以上150℃以下で実施することが好ましい。100℃未満では乾燥に時間を要する場合があり、150℃を超えると、分散質が乾燥中に飛び散る可能性がある。乾燥に要する時間は、オーブン中を適宜観察して決定すればよい。また、オーブンから出した試料は天秤上での空気対流の発生を抑制するために、天秤が静置されている部屋で30分以上放置して、同室温と恒等にした後に精密秤量することが好ましい。このようにして測定したコロイド溶液の濃度は、小数点以下2桁の有効数字を持つ。これは即ち次の理由による。例えば、島津製作所(株)製AUX−220による精密秤量では小数点以下4桁の質量計測が可能であるが、最後の一桁は実験操作上の攪乱を受けやすく、実質的な有効桁数は少数点以下3桁である。式(6)では、濃度が除算によって求められることが記されているが、同程度の有効桁数を持つ数同士の除算では、有効数字を繰り上げることが好ましく(例えば、Erwin Kreyszig著、Advanced Engineering Mathematics、John Wiley & Sons Inc出版、2005年、参照)、従って、小数点以下2桁の有効数字を持つ。
濃縮工程の特徴
本発明では、コロイド溶液の濃縮に伴って、分散質の沈着及び/又は凝集(スケール)の発生が見られないことを特徴とする。分散質の沈着は、コロイド溶液の有効成分が無駄になっているのみならず、プロセス化学においては化学機械の汚れの原因となり保守費用が嵩むため、避けることが好ましい。コロイド溶液の濃縮において、分散質の沈着が発生する原因は、コロイド溶液系の表面自由ギブスエネルギーが大きいためであり、系全体としてはこの表面自由ギブスエネルギーを小さくする方向(分散質が凝集する方向)に自発的に進行する傾向があるためであり、即ち、分散媒を気化させるために与えたエネルギーが分散質粒子の凝集を促す活性化エネルギーにもなり得るためと考えられる。
本発明では、マイクロ波の照射によってコロイド溶液の分散媒を選択的に気化させることができるため、分散質の沈着及び/又は凝集(スケール)の発生が見られない。分散質の沈着及び/又は凝集(スケール)は、濃縮工程中及び/又は濃縮工程後の濃縮容器を目視によって観察することで確認できる。
本発明では、マイクロ波を照射しても濃縮工程中においてマイクロ波誘導プラズマが発生しないことが好ましい。該濃縮工程を10mmHg以上760mmHg未満で実施することにより、濃縮系中を飽和水蒸気で満たすことができるので、マイクロ波誘導プラズマの発生を抑制できる。工程中の圧力は、15〜450mmHgの圧力で実施することが好ましく、20〜100mmHgの圧力で実施することがより好ましい。工程中の圧力が10mmHg未満では、マイクロ波誘導プラズマが発生しやすくなる場合がある。また、760mmHg以上では、コロイド溶液の分散媒が気化しにくくなる場合がある。圧力の調整の方法は、特に限定されないが、調圧弁による調整や圧力センサーを用いた自動制御を行うことによって容易に実施できる。例えば、調圧弁としては、Swagelok社製の減圧/背圧レギュレーター(商品名、Kシリーズ)、又はボールバルブ(商品名、60シリーズ)等を好適に用いることができる。例えば、圧力センサーを用いた自動制御としては、ビュッヒ社製のバキュームコントローラー(商品名、V−850)を好適な装置とすることができる。
濃厚コロイド溶液
本発明の濃厚コロイド溶液は、分散質として無機酸化物と、分散媒として水を含むコロイド溶液において、減圧下マイクロ波の照射によって分散媒を気化させるコロイド溶液の濃縮方法によって製造された濃厚コロイド溶液であって、分散質の濃度が10〜30質量%、特に10〜25質量%である濃厚コロイド溶液であることが好ましい。分散質の濃度は、10〜20質量%であることがより好ましい。分散質の濃度が30質量%を超えると、コロイド溶液がゲル化しやすい場合があり、10質量%未満であると、コーティング塗料等に添加する際に有効成分が不足する場合がある。
該濃厚コロイド溶液は、分散質濃度が10質量%未満の希薄コロイド溶液から濃縮工程によって製造されたことを特徴とし、濃縮工程で分散質の沈着及び/又は凝集が発生しないため、産業上有利に製造されたものである。産業上有利な製造は、収率によって定量的に規定することができる。初期分散質濃度C0の希薄コロイド溶液(質量N0)から、濃縮操作によって濃厚コロイド溶液(質量N1)が得られ、その濃度がC1であったとすると、収率M(%)は下記式(7)のように表現できる。
M=(N1×C1)×100/(N0×C0) (7)
分散質の沈着及び/又は凝集が見られない場合は、質量保存の法則によってMは100%に等しい。しかしながら、分散質の沈着及び/又は凝集が起こった場合は、C1は理論的に予測されるより小さくなる。また、濃縮工程後に液移送やろ過を行った場合には、コロイド溶液が化学機械に付着することによって回収不能となる分があるために、N1は理論的に予測されるより小さくなることが普通である。従って、実際の工程では式(8)を満たすような値が得られる。
0×C0 ≧ N1×C1 (8)
濃縮工程の収率Mは、80%以上100%以下であることが好ましく、85%以上100%以下であることがより好ましく、90%以上100%以下であることが更に好ましく、95%以上100%以下であることが最も好ましい。収率Mが、80%以下である場合には、分散質の沈着及び/又は凝集が激しく発生する場合がある。
以下、調製例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
コロイド溶液(1)の製造
[調製例1]
コロイド溶液(1)として、酸化チタン−酸化スズ複合酸化物を核とし酸化ケイ素を殻とするコアシェル微粒子を分散質とし、水を分散媒とするものを調製した。先ず、核となる酸化チタン微粒子を含有する分散液を製造し、次いで、テトラエトキシシランを加水分解縮合することで、コアシェル微粒子を含有するコロイド溶液とした。
核となる酸化チタン−酸化スズ複合酸化物微粒子は、出願人らの先願発明(特願2012−160347号)と同様に合成した。即ち、36質量%の塩化チタン(IV)水溶液(石原産業(株)製、製品名:TC−36)66.0gに塩化スズ(IV)五水和物(和光純薬工業(株)製)1.8gを添加し、良く混合した後、これをイオン交換水1,000gで希釈した。この金属塩水溶液混合物に5質量%のアンモニア水(和光純薬工業(株)製)300gを徐々に添加して中和、加水分解することによりスズを含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときの水酸化チタンスラリーのpHは8であった。得られた水酸化チタンの沈殿物を、イオン交換水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後のスズを含有する水酸化チタン沈殿物に30質量%過酸化水素水(和光純薬工業(株)製)100gを徐々に添加し、その後60℃で3h撹拌して十分に反応させた。その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、半透明のスズ含有ペルオキソチタン酸溶液(固形分濃度1質量%)を得た。容積500mLのオートクレーブ(耐圧硝子工業(株)製、製品名:TEM−D500)に、上記のように合成したペルオキソチタン酸溶液350mLを仕込み、これを200℃、1.5MPaの条件下、240分間水熱処理した。その後、オートクレーブ内の反応混合物を、サンプリング管を経由して、25℃の水浴中に保持した容器に排出し、急速に冷却することで反応を停止させ、酸化チタン分散液(i)を得た。
磁気回転子と温度計を備えたセパラブルフラスコに、酸化チタン分散液(i)1,000質量部、エタノール100質量部、アンモニア2.0質量部を室温(25℃)で加えて磁気撹拌した。このセパラブルフラスコを氷浴に浸漬し、内容物温度が5℃になるまで冷却した。ここに、テトラエトキシシラン18質量部(信越化学工業(株)製、商品名「KBE−04」)を加えた後に、セパラブルフラスコをμReactorEx(四国計測工業(株)製)内に設置して、周波数2.45GHz・出力1,000Wのマイクロ波を1分間にわたって照射しながら磁気撹拌した。その間、温度計を観測して内容物温度が85℃に達するのを確認した。得られた混合物を定性ろ紙(Advantec 2B)でろ過し、コロイド溶液(1)を得た。
コロイド溶液(2)の製造
[調製例2]
コロイド溶液(2)として、酸化チタンを核とし、アルミニウムとジルコニウムの混合酸化物を殻とする微粒子を分散質とし、水を分散媒とするものを調製した。
アルミニウム及びジルコニウム表面処理酸化チタン微粒子(テイカ(株)製、製品名:MT−100HD、20g)にイオン交換水(1,960g)及び高分子分散剤(BYC Chemie製、製品名:Disperbyk190.20g)を加え、ジルコニアビーズ((株)ニッカトー製、製品名:TZ−B30、φ0.03mm、400g)を用いてビーズミル(寿工業(株)製、ウルトラアペックスミルUAM015)により6時間分散し、コロイド溶液(2)を得た。
コロイド溶液(1)の初期濃度測定
直径60mmのアルミニウム製の皿(3.5102g)の上に、コロイド溶液(1)を一定量(2.9950g)精密秤量(島津製作所(株)製AUX−220使用)し、105℃のオーブン(エスペック社製パーフェクトオーブン使用)で3時間処理して分散媒を揮発させ、天秤室で30分間静置した後に、分散質が乾固したアルミニウム製の皿を精密秤量して値(3.5669g)を得た。これらの値から、コロイド溶液は1.89質量%であることが明らかとなった。
コロイド溶液(2)の初期濃度測定
直径60mmのアルミニウム製の皿(3.4955g)の上に、コロイド溶液(2)を一定量(3.1077g)精密秤量(島津製作所(株)製AUX−220使用)し、105℃のオーブン(エスペック社製パーフェクトオーブン使用)で3時間処理して分散媒を揮発させ、天秤室で30分間静置した後に、分散質が乾固したアルミニウム製の皿を精密秤量して値(3.5591g)を得た。これらの値から、コロイド溶液は2.05質量%であることが明らかとなった。
コロイド溶液の濃縮操作
[実施例1]
マイクロ波照射装置として四国計測工業(株)製、商品名「μReactoer Ex」を用いた。ダイヤフラムポンプ(ビュッヒ(株)製、商品名「V−700」)に接続された、マイクロ波照射装置内の硼珪酸ガラス製2L丸底フラスコに、コロイド溶液(1)(1,000g)を投入し、磁気攪拌を行いながら、減圧度制御計(ビュッヒ(株)製、商品名「V−850」)を用いて30mmHgまで減圧した。この状態において、マイクロ波を平均して500Wの出力で照射し、コロイド溶液の温度を50℃に維持した。分散質の蒸発と凝縮が観測された。70分後、150gの濃厚コロイド溶液(3)が得られた。濃厚コロイド溶液(3)の濃度を先ほどと同様の手法によって測定したところ、12.40質量%であった。濃縮操作終了時の硼珪酸ガラス製2L丸底フラスコを観察したところ、スケールの発生は見られなかった。また、そのフラスコの状態をカメラ(ペンタックス(株)製、商品名「K−200」)を用いて電子写真画像(図1)として記録した。
[実施例2]
実施例1で用いたコロイド溶液(1)をコロイド溶液(2)(1,000g)に変えたほかは、実施例1と同様の操作を行った。70分後、160gの濃厚コロイド溶液(4)が得られた。濃厚コロイド溶液(4)の濃度を先ほどと同様の手法によって測定したところ、12.44質量%であった。濃縮操作終了時の硼珪酸ガラス製2L丸底フラスコを観察したところ、スケールの発生は見られなかった。
[実施例3]
実施例1の濃縮操作の条件に変えて、減圧度を80mmHg、コロイド溶液の温度を70℃とした以外には、実施例1と同様の操作を行った。70分後、150gの濃厚コロイド溶液(5)が得られた。濃厚コロイド溶液(5)の濃度を先ほどと同様の手法によって測定したところ、12.35質量%であった。濃縮操作終了時の硼珪酸ガラス製2L丸底フラスコを観察したところ、スケールの発生は見られなかった。
[比較例1]
磁気攪拌子を備えた硼珪酸ガラス製2L丸底フラスコに、クライゼン型蒸留頭を取り付け、凝集系をジムロート冷却管で捕捉できるようにした。この濃縮装置をダイヤフラムポンプ(ビュッヒ(株)製、商品名「V−700」)に接続した。該硼珪酸ガラス製2L丸底フラスコに、コロイド溶液(1)(1,000g)を投入し、磁気攪拌を行いながら、減圧度制御計(ビュッヒ(株)製、商品名「V−850」)を用いて30mmHgまで減圧した。コロイド溶液の入ったフラスコをオイルバス(浴温50℃)で加熱した。分散質の蒸発と凝縮が観測された。3時間後、150gの濃厚コロイド溶液(6)が得られた。濃厚コロイド溶液(6)の濃度を先ほどと同様の手法によって測定したところ、10.21質量%であった。濃縮操作終了時の硼珪酸ガラス製2L丸底フラスコを観察したところ、スケールの発生が観測された。また、そのフラスコの状態をカメラ(ペンタックス(株)製、商品名「K−200」)を用いて電子写真画像(図2)として記録した。
[比較例2]
硼珪酸ガラス製2L丸底フラスコに、コロイド溶液(1)(1,000g)を投入し、ロータリーエバポレーター(ビュッヒ(株)製、商品名「RII」)を用いて濃縮を行った。濃縮時の条件は実施例1と同様に、減圧度制御計(ビュッヒ(株)製、商品名「V−850」)を用いて30mmHgまで減圧し、湯浴(浴温50℃)で加熱した。5時間後、150gの濃厚コロイド溶液(7)が得られた。濃厚コロイド溶液(7)の濃度を先ほどと同様の手法によって測定したところ、7.92質量%であった。濃縮操作終了時の硼珪酸ガラス製2L丸底フラスコを観察したところ、スケールの発生が観測された。
濃縮後にスケールの発生が観測できなかったものを「○」、濃縮後にスケールの発生が観測されたものを「×」として評価した。
実施例1と比較例1及び比較例2は、何れも同じ温度(50℃)及び同じ圧力(30mmHg)で濃縮を行ったものであるが、加熱方法が異なっている。マイクロ波を用いた実施例1では、スケールの発生がみられず高収率で濃縮ができたのに対し、油浴及び湯浴(ロータリーエバポレーター)では、スケールの発生がみられたことから、本発明におけるマイクロ波使用の優位性が明らかとなった。実施例2では、実施例1とは異なった種類のコロイド溶液を用いて濃縮を行ったが、実施例1と同様にスケールの発生がみられずに、高収率で濃厚コロイド溶液を得ることができた。このことから、本発明の濃縮方法は、特定の種類のコロイド溶液に限定されるものではなく、広範な適用範囲を有することが示唆された。実施例3では、実施例1とは異なった温度(70℃)及び圧力(80mmHg)で濃縮を行ったが、実施例1と同様にスケールの発生がみられずに、高収率で濃厚コロイド溶液を得ることができた。温度や圧力は濃縮工程にかかる時間と相関するものの、本発明の技術的特徴である「スケールの発生しない濃縮」を達成するためにはマイクロ波の使用が重要であることが明らかとなった。
平均粒子径測定、電子顕微鏡観察及びゼータ電位の測定
実施例1においてコロイド溶液が変質していないことを確認するために、平均粒子径測定、電子顕微鏡観察及びゼータ電位の測定を行った。平均粒子径は、レーザー光を用いた動的光散乱法(日機装(株)製、装置名「ナノトラックUPA−EX150」)によって測定した体積基準の50%累積粒度分布径(D50)から求めた。電子顕微鏡観察では、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ(株)製、装置名「H−9500」)において、試料をマウントした銅製マイクログリット(応研商事(株)製、製品名「タイプB」)を300kVの電子線で観察することによって行った(濃縮前の画像を図3、濃縮後の画像を図4として示した)。ゼータ電位は、レーザー光を用いたヘテロダイン法(大塚電子(株)製、装置名「ELS−3000」)を用いて行った。これらの測定結果を表2に示した。なお、ゼータ電位の測定時には濃度を1.0質量%に希釈し、アンモニアを用いてpHを9に調整した際の値を示した。
表2並びに図3及び図4から、本発明の濃縮の前後におけるコロイド溶液の特性は大きく変化しておらず、分散媒を効率的に留去できると同時に温和な濃縮法であることが明らかとなった。
本発明のコロイド溶液の濃縮方法は、無機コロイド溶液を用いる産業上の分野、即ち塗料等の製造工程に利用可能である。本発明によって得られた濃厚コロイド溶液の塗料への応用、及び無機酸化物微粒子を含有する塗料において有効濃度を向上させるために本発明の方法が利用可能である。

Claims (8)

  1. 分散質として無機酸化物と、分散媒として水を含む初期コロイド溶液に、減圧下マイクロ波を照射して分散媒を気化させることを特徴とするコロイド溶液の濃縮方法。
  2. 初期コロイド溶液が、分散質初期濃度が0.1質量%以上10質量%未満の希薄コロイド溶液であることを特徴とする請求項1記載のコロイド溶液の濃縮方法。
  3. 圧力が10mmHg以上760mmHg未満であることを特徴とする請求項1又は2記載のコロイド溶液の濃縮方法。
  4. 無機酸化物が、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化スズ及び酸化ホウ素からなる群より選ばれる一種類以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のコロイド溶液の濃縮方法。
  5. 無機酸化物が、ゾル−ゲル反応によって調製されたものであることを特徴とする請求項4記載のコロイド溶液の濃縮方法。
  6. 無機酸化物が、スズを固溶した正方晶系酸化チタン微粒子を核とし、該核の外側に酸化ケイ素の殻を有するコアシェル型正方晶系酸化チタン固溶体である請求項1〜3のいずれか1項記載のコロイド溶液の濃縮方法。
  7. 無機酸化物が、酸化チタンを核とし、該核の外側にアルミニウム及びジルコニウムの混合酸化物の殻を有する微粒子である請求項1〜3のいずれか1項記載のコロイド溶液の濃縮方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項記載の方法によって濃縮されたコロイド溶液であって、分散質の濃度が10〜30質量%であることを特徴とする濃厚コロイド溶液。
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