以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る運転支援装置の概略構成を表す概略構成図である。図2は、実施形態1に係るECUの概略構成の一例を示すブロック図である。図3、図4は、実施形態1に係る運転支援装置において操舵仕事率が表す意味について説明する線図である。図5は、実施形態1に係る運転支援装置を搭載した車両の走行状態の一例を表す模式図である。図6は、目標戻し制御の補償範囲について説明する線図である。図7は、実施形態1に係るECUの目標戻し制御部の概略構成の一例を示すブロック図である。図8は、実施形態1に係るECUのトルクゲインマップの一例である。図9は、実施形態1に係るECUによる制御の一例を説明するフローチャートである。図10は、実施形態1に係るECUの能動トルクゲインマップの一例である。図11は、実施形態1に係るECUの受動トルクゲインマップの一例である。
図1に示す本実施形態の運転支援装置1は、車両2に搭載され、車両2で運転支援を実行可能であると共に、当該車両2の操舵系の情報に基づいて運転者の操作意思を検出する操作検出装置としての機能も有している。運転支援装置1は、典型的には、操舵系の情報に応じた所定の指標に基づいて、運転者の操作意思を反映した操作として、操舵部材に対する能動操作と、操舵部材に対する受動操作とを区別して判定する。そして、運転支援装置1は、当該判定結果を車両2における各種制御に反映させることで、運転者の意思を反映させた運転支援を実現するものである。
ここで、操舵部材に対する能動操作とは、典型的には、運転者の操作意思が相対的に強く反映された操作である。一方、操舵部材に対する受動操作とは、典型的には、運転者の操舵意思が相対的に弱く反映された操作、例えば、外乱や安定性補償のために対応する消極的な操作である。さらに具体的に言えば、操舵部材に対する能動操作は、例えば、運転者が車両2を目標位置に移動させようとする積極的な操舵操作を含んでもよい。能動操作は、典型的には、能動的に仕事をしている状態、いわゆる筋電が発生している状態、脳から能動的に指令が出ている状態等であり、例えば、操舵部材をにぎって力を入れて操舵し車両2を直進状態から旋回状態に移行させるような操作である。一方、操舵部材に対する受動操作は、例えば、運転者が外乱に対して車両2を目標位置に維持しようとする操舵操作、操舵部材から手を放した手放し操作、又は、車両2の進行方向を一定に維持すべく操舵部材を保持する保舵操作等を含んでもよい。受動操作は、例えば、操舵部材に手を添えて路面外乱等に対応するような操作である。
本実施形態の運転支援装置1は、操舵仕事率に基づいた能動操作と受動操作との判定結果を車両2の操舵系の運転支援制御に反映させる。これにより、運転支援装置1は、例えば、運転者の特性によらない操舵系の運転支援を行う。
具体的には、運転支援装置1は、図1に示すように、車両2に搭載され、当該車両2で運転支援を実行可能である支援装置3と、操舵角検出装置としての操舵角センサ10と、トルク検出装置としてのトルクセンサ11と、支援装置3を制御する制御装置としてのECU20とを備える。操舵角センサ10は、車両2の操舵部材としてのステアリングホイール(以下、特に断りのない限り「ステアリング」と略記する。)4の操舵角を検出する。トルクセンサ11は、ステアリング4と共に回転する操舵軸部としてのステアリングシャフト(以下、特に断りのない限り「シャフト」と略記する。)5に作用するトルクを検出する。本実施形態の支援装置3は、ステアリング4への操舵操作に対する運転支援を行うものであり、車両2の操舵系を構成する操舵装置30を含んで構成される。
ここで、操舵装置30は、車両2に搭載され、車両2の操舵輪40を操舵するための装置である。本実施形態の操舵装置30は、車両2の操舵力を電動機等の動力により補助するいわゆる電動パワーステアリング装置(EPS:Electronic Power Steering)である。操舵装置30は、運転者からステアリング4に加えられた操舵力に応じた操舵補助力を得られるように電動機等を駆動することにより、運転者のステアリング操作(操舵操作)を補助する。
具体的には、操舵装置30は、図1に示すように、操舵部材としてのステアリング4と、操舵軸部としてのシャフト5と、R&Pギヤ機構(以下、特に断りのない限り「ギヤ機構」と略記する。)6と、左右一対のタイロッド7と、操舵アクチュエータとしてのEPS装置8とを備える。
ステアリング4は、回転軸線X1周り方向に回転操作可能な部材であり、車両2の運転席に設けられる。運転者は、回転軸線X1を回転中心としてこのステアリング4を回転操作することでステアリング操作(操舵操作)を行うことができる。つまり、操舵装置30が搭載された車両2は、運転者によってこのステアリング4が操作されることで、操舵輪40が操舵(転舵)される。
シャフト5は、ステアリング4の回転軸部をなすものである。シャフト5は、一端がステアリング4と連結され、他端がギヤ機構6と連結される。つまり、ステアリング4は、このシャフト5を介してギヤ機構6に接続される。シャフト5は、運転者によるステアリング4の回転操作に伴って、ステアリング4と共に中心軸線周り方向に回転可能である。シャフト5は、例えば、アッパシャフト、インタミシャフト、ロアシャフトなどの複数の部材に分割されていてもよい。
ギヤ機構6は、シャフト5と一対のタイロッド7とを機械的に連結するものである。ギヤ機構6は、例えば、いわゆるラックアンドピニオン方式の歯車機構を有し、シャフト5の中心軸線周り方向の回転運動を一対のタイロッド7の左右方向(典型的には車両2の車幅方向に相当)の直線的な運動に変換する。
一対のタイロッド7は、それぞれ基端部がギヤ機構6に連結され、先端部をなすタイロッドエンドがナックルアームを介して各操舵輪40に連結される。つまり、ステアリング4は、シャフト5、ギヤ機構6及び各タイロッド7等を介して各操舵輪40に連結される。
EPS装置8は、上記支援装置3を構成するものであり、ステアリング4への操舵操作に応じて動作する操舵アクチュエータである。EPS装置8は、運転者によるステアリング4に対するステアリング操作(操舵操作)を補助するものであり、当該ステアリング操作を補助するためのトルクを発生させるものである。EPS装置8は、運転者によりステアリング4に入力される操舵力(トルク)を補助する操舵補助力(アシストトルク)を出力する。言い換えれば、EPS装置8は、車両2の操舵輪40を電動機等によって駆動することで運転者のステアリング操作を支援する。EPS装置8は、アシストトルクをシャフト5に作用させることで運転者のステアリング操作をアシストする。ここでアシストトルクは、運転者によりステアリング4に入力される操舵力に相当するトルクを補助するトルクである。
ここでのEPS装置8は、電動機としてのモータ8aと、減速機8bとを有する。本実施形態のEPS装置8は、例えば、インタミシャフトなどのシャフト5にモータ8aが設けられたコラムEPS装置であり、すなわち、いわゆるコラムアシスト式のアシスト機構である。
モータ8aは、電力が供給されることで回転動力(モータトルク)を発生させるコラムアシスト用電動モータであり、例えば、操舵補助力としてアシストトルクを発生するものである。モータ8aは、減速機8b等を介してシャフト5に動力伝達可能に接続され、減速機8b等を介してシャフト5に操舵補助力を付与する。減速機8bは、モータ8aの回転動力を減速してシャフト5に伝達する。
EPS装置8は、モータ8aが回転駆動することにより、モータ8aが発生させた回転動力(トルク)が減速機8bを介してシャフト5に伝達され、これにより操舵アシストを行う。このとき、モータ8aが発生させた回転動力は、減速機8bにて減速されトルクが増大されてシャフト5に伝達される。このEPS装置8は、後述のECU20に電気的に接続され、モータ8aの駆動が制御される。
操舵角センサ10は、上述したようにステアリング4の操舵角を検出するものであり、ステアリングシステムにおける回転角センサである。ここでは、操舵角センサ10は、絶対角として操舵角を検出する。操舵角センサ10は、ステアリング4の回転角度である操舵角(ハンドル操舵角)を検出する。操舵角センサ10が検出する操舵角は、例えば、ステアリング4の中立位置を基準として左回り側が正の値、右回り側が負の値として検出されるが、この逆でもよい。なお、ステアリング4の中立位置とは、操舵角の基準となる位置であり、典型的には、車両2が直進走行する際のステアリング4の位置である。操舵角センサ10が検出する操舵角は、ステアリング4の中立位置では0°となる。操舵角センサ10は、ECU20と電気的に接続されており、検出した操舵角に応じた検出信号をECU20に出力する。
なお、運転支援装置1の操舵角検出装置は、操舵角センサ10に限らず、例えば、モータ8aのロータ軸の回転角を検出する回転角センサ12、ギヤ機構6のラックストローク又はピニオン回転角を検出するセンサ(不図示)、操舵輪40の切れ角を検出するセンサ(不図示)等を用いることもできる。この場合、操舵角検出装置は、例えば、回転角センサ12など、相対角として操舵角を検出するセンサである場合には、ステアリング4の絶対角を取得可能な機能を別途で有していればよい。
トルクセンサ11は、上述したようにシャフト5に作用するトルクを検出するものである。ここでは、トルクセンサ11は、シャフト5に作用するトルク、言い換えれば、シャフト5に生じるトルクを検出する。トルクセンサ11は、例えば、EPS装置8の一部を構成する捩れ部材であるトーションバー(不図示)に作用するトルクを検出する。このトルクセンサ11により検出されたトルク(以下、「操舵トルク」という場合がある。)は、典型的には、運転者からステアリング4に入力される操舵力に応じてシャフト5に作用するドライバ操舵トルクや操舵輪40への路面外乱入力等に応じて操舵輪40側からタイロッドエンドを介してシャフト5に入力される外乱トルクなどが反映されたトルクである。トルクセンサ11が検出するトルクは、例えば、左回り側が正の値、右回り側が負の値として検出されるが、この逆でもよい。トルクセンサ11は、ECU20と電気的に接続されており、検出した操舵トルクに応じた検出信号をECU20に出力する。
ECU20は、運転支援装置1を搭載する車両2の各部を制御するものである。ECU20は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路である。ECU20は、例えば、上述のトルクセンサ11、操舵角センサ10、回転角センサ12等の種々のセンサやEPS装置8が電気的に接続される。回転角センサ12が検出した回転角は、例えば、ECU20によるモータ8aへの電流制御(出力制御)に用いられる。ここでは、ECU20は、さらに、車速センサ13等が電気的に接続される。車速センサ13は、車両2の走行速度である車速を検出するものである。ECU20は、この他、各種電流を検出する電流センサ、車両2に作用する横方向加速度を検出する横Gセンサ等の種々のセンサ、検出器等が電気的に接続されていてもよい。
ECU20は、種々のセンサから検出結果に対応した電気信号(検出信号)が入力され、入力された検出結果に応じてEPS装置8に駆動信号を出力しその駆動を制御する。ECU20は、検出された操舵操作物理量に基づいて、EPS装置8が発生させるトルクを調節する制御を実行可能である。
ECU20は、例えば、トルクセンサ11により検出された操舵トルク等に基づいて、EPS装置8を制御し、当該EPS装置8が発生させシャフト5に作用させるアシストトルクを調節し制御する。ECU20は、モータ8aへの供給電流であるモータ供給電流を調節することでモータ8aの出力トルクを調節し、アシストトルクを調節する。ここでモータ供給電流は、EPS装置8が要求される所定のトルクを発生させることができる大きさの電流である。このとき、ECU20は、例えば、回転角センサ12により検出された回転角等に基づいて、モータ8aへのモータ供給電流を制御するようにしてもよい。
上記のように構成される操舵装置30は、運転者からステアリング4に入力された操舵トルクと共に、ECU20の制御によってEPS装置8が発生させるトルク等がシャフト5に作用する。そして、操舵装置30は、シャフト5からギヤ機構6を介してタイロッド7に操舵力、操舵補助力が作用すると、このタイロッド7が運転者によるドライバ操舵トルクとEPS装置8が発生させるトルクとに応じた大きさの軸力によって左右方向に変位し操舵輪40が転舵される。この結果、操舵装置30は、運転者からステアリング4に入力される操舵力と、EPS装置8が発生させる操舵補助力とによって操舵輪40を転舵することができ、これにより、運転者によるステアリング操作を補助することができ、ステアリング操作に際して運転者の負担を軽減することができる。
本実施形態のECU20は、例えば、支援装置3を構成する操舵装置30を用いた操舵系の運転支援に関する制御として、例えば、アシスト制御、ダンピング制御、目標戻し制御等を実行する。ECU20は、上述した種々のセンサによる検出結果に基づいて操舵装置30のEPS装置8を制御し、アシスト制御、ダンピング制御、目標戻し制御を実行可能である。これらの制御は、EPS装置8が発生させるトルクを調節することで行われる。
アシスト制御は、上述したように、EPS装置8によって運転者によるステアリング4に対する操舵操作を補助するアシスト力を発生させる制御である。ダンピング制御は、EPS装置8によって操舵装置30の粘性特性に対応した減衰を模擬するダンピング力を発生させる制御である。操舵装置30は、ダンピング制御によりステアリング4の操舵速度を抑制する方向へ作用するダンピング力が付与されることで、ステアリング4の操舵速度が抑制される傾向となり、収斂性確保や操舵時の手ごたえを付与することができる。目標戻し制御は、ステアリング4の中立位置側への切り戻し操舵操作を補助する戻し制御である。より詳細には、目標戻し制御は、目標とする操舵速度に応じてEPS装置8によってステアリング4の中立位置方向にハンドル戻し力(ハンドル戻しトルク)を付与することで、ステアリング4を滑らかに中立位置側に戻す制御である。なお、本実施形態の戻し制御は、目標とする操舵速度に応じた目標戻し制御であるものとして説明するがこれに限らず、目標とする操舵速度にかえて操舵角に応じて中立位置側への切り戻し操舵操作を補助する、いわゆるハンドル戻し制御等であってもよい。
図2は、実施形態1に係るECUの概略構成の一例を示すブロック図である。ECU20は、例えば、機能概念的に、アシスト制御部21、ダンピング制御部22、目標戻し制御部23、加算器24等を含んで構成される。
アシスト制御部21は、アシスト制御における基本アシスト制御量を算出するものである。アシスト制御部21は、車速センサ13から車速Vに応じた検出信号が入力され、トルクセンサ11から操舵トルクTに応じた検出信号が入力される。アシスト制御部21は、入力された検出信号に基づいて、種々の手法により、基本アシスト制御量として、基本となるアシスト力に応じた目標のアシストトルクを演算する。アシスト制御部21は、演算した当該基本アシスト制御量に応じた電流指令値信号を加算器24に出力する。
ダンピング制御部22は、ダンピング制御におけるダンピング制御量を算出するものである。ダンピング制御部22は、車速センサ13から車速Vに応じた検出信号が入力され、操舵角センサ10から操舵角θに基づいた操舵速度θ’に応じた検出信号が入力される。ダンピング制御部22は、入力された検出信号に基づいて、種々の手法により、ダンピング制御量として、目標のダンピング力に応じたトルクを演算する。ダンピング制御部22は、演算した当該ダンピング制御量に応じた電流指令値信号を加算器24に出力する。
目標戻し制御部23は、目標戻し制御における目標戻し制御量を算出するものである。目標戻し制御部23は、車速センサ13から車速Vに応じた検出信号が入力され、トルクセンサ11から操舵トルクTに応じた検出信号が入力され、操舵角センサ10から操舵角θに基づいた操舵速度θ’に応じた検出信号が入力され、回転角センサ12からモータ8aのロータ軸の回転角に基づいたモータ角速度ωに応じた検出信号が入力され、操舵角センサ10から操舵角θに応じた検出信号が入力される。目標戻し制御部23は、入力された検出信号に基づいて、種々の手法により、目標戻し制御量として、目標とする操舵速度に応じたハンドル戻しトルクを演算する。目標戻し制御部23は、演算した当該目標戻し制御量に応じた電流指令値信号を加算器24に出力する。
加算器24は、アシスト制御部21から基本アシスト制御量に応じた電流指令値信号が入力され、ダンピング制御部22からダンピング制御量に応じた電流指令値信号が入力され、目標戻し制御部23から目標戻し制御量に応じた電流指令値信号が入力される。加算器24は、入力された電流指令値信号に基づいて、基本アシスト制御量とダンピング制御量と目標戻し制御量とを加算した目標の操舵制御量(最終的な目標トルクに相当する電流指令値)を演算する。加算器24は、演算した当該目標の操舵制御量に応じた電流指令値信号をEPSアシスト指令としてEPS装置8に出力し、EPS装置8のモータ8aを制御する。これにより、ECU20は、上記のようなアシスト制御、ダンピング制御、及び、目標戻し制御を実現する。
そして、本実施形態のECU20は、操舵系の情報に応じた所定の指標として、操舵角センサ10が検出した操舵角に関するパラメータとトルクセンサ11が検出した操舵トルクに関するパラメータとに基づいて、ステアリング4に対する能動操作と、ステアリング4に対する受動操作とを区別して判定する。ここでは、ECU20は、操舵角センサ10が検出した操舵角に関するパラメータとトルクセンサ11が検出した操舵トルクに関するパラメータとの積に応じた操舵仕事率に基づいて、能動操作と受動操作とを判定する。ECU20は、能動操作と受動操作とを判定した上でその強さを検出して制御に応用することもできる。
本実施形態のECU20は、判定結果に基づいて、支援装置3を構成する操舵装置30を制御し、支援装置3による運転支援、ここでは、操舵装置30を用いた目標戻し制御の制御量を変更する。つまり、ECU20は、操舵角センサ10が検出した操舵角に関するパラメータとトルクセンサ11が検出した操舵トルクに関するパラメータとの積に応じた操舵仕事率に基づいて、操舵装置30を制御し、目標戻し制御の制御量を変更する。例えば、ECU20は、操舵仕事率が予め設定される基準値以上である場合と、当該操舵仕事率が当該基準値より小さい場合とで、当該目標戻し制御の制御量を変更する。
ここで、ECU20による制御に用いられる操舵仕事率について説明する。この操舵仕事率は、典型的には、運転者意思による過渡的な操舵操作を表す傾向にある。
操舵仕事率とは、ステアリング4に対する運転者の操舵操作における仕事率を表す指標であり、単位時間当たりに使われているエネルギを表す物理量である。操舵仕事率Pは、時間を「t」とした場合、操舵仕事量Wを用いて下記の数式(1)で表すことができる。ここで、操舵仕事量Wとは、ステアリング4に対する運転者の操舵操作における仕事を表す指標であり、使われたエネルギを表す物理量である。
P=dW/dt ・・・ (1)
ここでは、操舵仕事率Pは、例えば、操舵角センサ10が検出した操舵角θに応じた操舵速度(操舵角の微分値に相当)θ’とトルクセンサ11が検出した操舵トルクTとの積、又は、操舵角センサ10が検出した操舵角θとトルクセンサ11が検出した操舵トルクTに応じたトルク微分値T’との積のいずれか一方又は両方に基づいて算出される。操舵速度θ’と操舵トルクTとの積[θ’・T]に基づいた操舵仕事率Pは、典型的には、運転者意思による過渡的な操舵操作においてコース変更の意思等を反映する傾向にある。一方、操舵角θとトルク微分値T’との積[θ・T’]に基づいた操舵仕事率Pは、典型的には、運転者意思による過渡的な操舵操作において路面からの逆入力対応の意思等を反映する傾向にある。ECU20は、例えば、操舵仕事率Pが予め設定される仕事率基準値(基準値)ThP以上である場合にステアリング4に対する能動操作を検出し、操舵仕事率Pが当該仕事率基準値ThPより小さい場合にステアリング4に対する受動操作を検出する。
なお、仕事率基準値ThPの設定については、後述で詳細に説明する。
ECU20は、操舵速度θ’と操舵トルクTとの積[θ’・T]、又は、操舵角θとトルク微分値T’との積[θ・T’]のいずれか一方又は両方に基づいて操舵仕事率Pを算出し、これに基づいて運転者意思を判定し、支援装置3(操舵装置30)を用いた制御に反映させる。ECU20は、積[θ’・T]に基づいた操舵仕事率Pと、[θ・T’]に基づいた操舵仕事率Pとのどちらか一方を用いて運転者意思の判定を行ってもよいし、それぞれ個別に算出して両方を用いて運転者意思の判定を行ってもよい。また、ECU20は、積[θ’・T]に基づいた操舵仕事率と積[θ・T’]に基づいた操舵仕事率とを合成した操舵仕事率Pを算出して、運転者意思の判定を行ってもよい。ECU20は、例えば、下記の数式(2)を用いて操舵仕事率Pを算出することができる。
P=A・[θ’・T]+B・[θ・T’] ・・・ (2)
上記数式(2)において、「A」、「B」は、係数であり、各種条件や実車評価等に基づいて適宜設定可能な適合値である。ECU20は、上記の数式(2)において、係数A、Bを任意に設定することで、例えば、算出される操舵仕事率Pの用途、車両2の特性、運転者の特性等に応じて、適宜調節することができる。例えば、運転者意思によるコース変更の意思を反映させて能動操作と受動操作とを判定し運転支援を変更したい場合には、ECU20は、A=1、B=0とすることで、操舵仕事率Pの計算式を簡素化することができる。同様に、運転者意思による逆入力対応の意思を反映させて能動操作と受動操作とを判定し運転支援を変更したい場合には、ECU20は、A=0、B=1とすることで、操舵仕事率Pの計算式を簡素化することができる。また、ECU20は、係数A、Bを任意に調節することで、積[θ’・T]と積[θ・T’]とを所望の比率で合成した操舵仕事率Pを算出することができる。これにより、ECU20は、操舵仕事率Pにおけるそれぞれの意思の反映度合の配分を変更できるため、状況に応じて適切に能動操作と受動操作とを判定し運転支援を変更することが可能となる。
なお、ECU20は、上記の数式(2)に対して、さらに、スティーブンスの法則を適用して操舵仕事率Pを算出するようにしてもよい。この場合、ECU20は、例えば、上記の数式(2)の[θ’・T]にかえて、[k1・θ’a1・k2・Ta2]を適用してもよい。同様に、ECU20は、例えば、上記の数式(2)の[θ・T’]にかえて、[k3・θa3・k4・T’a4]を適用してもよい。「k1」、「k2」、「k3」、「k4」、「a1」、「a2」、「a3」、「a4」は、係数であり、各種条件や実車評価等に基づいて適宜設定可能な適合値である。これにより、ECU20は、例えば、運転者の感覚に対して非線形な物理量を線形に変換することができるので、操舵仕事率Pをより運転者の感覚にあわせた値にすることができ、より運転者の感覚にあわせた判定、運転支援が可能となる。
次に図3、図4を参照して上記のようにして算出される操舵仕事率Pが表す意味について説明する。図3は、積[θ’・T]に基づいた操舵仕事率Pが表す意味について説明する操舵特性図の一例であり、横軸を操舵トルクT、縦軸を操舵速度θ’としている。図4は、積[θ・T’]に基づいた操舵仕事率Pが表す意味について説明する操舵特性図の一例であり、横軸を(操舵)トルク微分値T’、縦軸を操舵角θとしている。
図3中、複数の点線で示す等ドライバ意図線L11は、等ドライバ意図を表す動作点(操舵速度θ’と操舵トルクTとの組み合わせ)の集合である。ここでは、運転者意図を表す指標として操舵仕事率Pを用いることができることから、等ドライバ意図を表す動作点とは、言い換えれば、操舵仕事率P(すなわち、積[θ’・T])が同等である操舵速度θ’と操舵トルクTとの組み合わせに相当する。つまり、各等ドライバ意図線L11は、操舵仕事率Pが同等となる操舵速度θ’と操舵トルクTとの組み合わせの集合である。[θ’・T]=P(一定)とした場合、θ’=P/Tと変形できるため、各等ドライバ意図線L11は、直角双曲線となる。例えば、図3中の動作点Aと動作点Bとは、ともに同一の等ドライバ意図線L11上に位置している。このため、動作点Aにおける操舵速度θ’と操舵トルクTとの組み合わせと、動作点Bにおける操舵速度θ’と操舵トルクTとの組み合わせとは、運転者が同等の操舵意図で操舵操作しているものと見ることができる。
そして、例えば、運転者によりステアリング4に対して能動操作がなされた場合、操舵速度θ’と操舵トルクTとの組み合わせで定まる動作点は、図3で表す操舵特性図において領域T11の近傍に位置する傾向にある。一方、例えば、運転者によりステアリング4に対して受動操作がなされた場合、操舵速度θ’と操舵トルクTとの組み合わせで定まる動作点は、図3において領域T12、T13、T14の近傍に位置する傾向にある。より詳細には、受動操作として、運転者により操舵操作自体がなされてないような場合、操舵速度θ’と操舵トルクTとの組み合わせで定まる動作点は、図3において領域T12の近傍に位置する傾向にある。受動操作として、運転者により保舵操作がなされた場合、操舵速度θ’と操舵トルクTとの組み合わせで定まる動作点は、図3において領域T13の近傍に位置する傾向にある。受動操作として、運転者により手放し操作がなされた場合(あるいはジャッキアップ時など軸力なしの場合)、操舵速度θ’と操舵トルクTとの組み合わせで定まる動作点は、図3において領域T14の近傍に位置する傾向にある。
図3のような各動作点と各領域T11、T12、T13、T14との関係は、実車評価等に応じて予めその傾向を特定することができる。したがって、ECU20は、検出された操舵速度θ’と操舵トルクTとの組み合わせで定まる動作点が、図3で表す操舵特性図において位置する領域に応じて、運転者の意思を判定することができる。つまり、ECU20は、例えば、操舵速度θ’と操舵トルクTとの組み合わせで定まる動作点が領域T11にある場合には運転者が能動操作を行ったものと推定、判別することができる。
そして、上記で説明した能動操作と受動操作との判別に用いる仕事率基準値ThPは、能動操作を行った際の操舵仕事率Pと、受動操作を行った際の操舵仕事率Pとに基づいて予め設定される。ここでは、例えば、図3で表す操舵特性図に基づいて、第1仕事率基準値ThP1が設定される。この第1仕事率基準値ThP1は、積[θ’・T]に基づいた操舵仕事率Pに対して設定される仕事率基準値ThPである。第1仕事率基準値ThP1は、図3で表す操舵特性図において、能動操作の領域と受動操作の領域との境界に位置する等ドライバ意図線L11に基づいて設定することができる。すなわち、例えば、実車評価等に基づいて能動操作の領域と受動操作の領域との境界に位置する等ドライバ意図線L11(あるいは、操舵速度θ’と操舵トルクTとの組み合わせで定まる動作点)を特定する。そして、当該特定した等ドライバ意図線L11(あるいは動作点)が表す操舵仕事率P(積[θ’・T])を第1仕事率基準値ThP1とする。
同様に、図4中、複数の点線で示す等ドライバ意図線L21は、等ドライバ意図を表す動作点(操舵角θとトルク微分値T’との組み合わせ)の集合である。等ドライバ意図を表す動作点とは、言い換えれば、操舵仕事率P(すなわち、積[θ・T’])が同等である操舵角θとトルク微分値T’との組み合わせに相当する。つまり、各等ドライバ意図線L21は、操舵仕事率Pが同等となる操舵角θとトルク微分値T’との組み合わせの集合である。[θ・T’]=P(一定)とした場合、θ=P/T’と変形できるため、各等ドライバ意図線L21は、直角双曲線となる。
そして、例えば、運転者によりステアリング4に対して能動操作がなされた場合、操舵角θとトルク微分値T’との組み合わせで定まる動作点は、図4で表す操舵特性図において領域T21の近傍に位置する傾向にある。一方、例えば、運転者によりステアリング4に対して受動操作がなされた場合、操舵角θとトルク微分値T’との組み合わせで定まる動作点は、図4において領域T22、T23、T24の近傍に位置する傾向にある。より詳細には、受動操作として、運転者により操舵操作自体がなされてないような場合、操舵角θとトルク微分値T’との組み合わせで定まる動作点は、図4において領域T22の近傍に位置する傾向にある。受動操作として、運転者により外乱に対して保舵操作がなされた場合、操舵角θとトルク微分値T’との組み合わせで定まる動作点は、図4において領域T23の近傍に位置する傾向にある。受動操作として、運転者により旋回時に保舵操作がなされた場合、操舵角θとトルク微分値T’との組み合わせで定まる動作点は、図4において領域T24の近傍に位置する傾向にある。
図4のような各動作点と各領域T21、T22、T23、T24との関係は、実車評価等に応じて予めその傾向を特定することができる。したがって、ECU20は、検出された操舵角θとトルク微分値T’との組み合わせで定まる動作点が、図4で表す操舵特性図において位置する領域に応じて、運転者の意思を判定することができる。
そして、ここでは、例えば、図4で表す操舵特性図に基づいて、第2仕事率基準値ThP2が設定される。この第2仕事率基準値ThP2は、積[θ・T’]に基づいた操舵仕事率Pに対して設定される仕事率基準値ThPである。第2仕事率基準値ThP2は、図4で表す操舵特性図において、能動操作の領域と受動操作の領域との境界に位置する等ドライバ意図線L21に基づいて設定することができる。すなわち、例えば、実車評価等に基づいて能動操作の領域と受動操作の領域との境界に位置する等ドライバ意図線L21(あるいは、操舵角θとトルク微分値T’との組み合わせで定まる動作点)を特定する。そして、当該特定した等ドライバ意図線L21(あるいは動作点)が表す操舵仕事率P(積[θ・T’])を第2仕事率基準値ThP2とする。
なお、仕事率基準値ThPは、上記の数式(2)等を用いて積[θ’・T]と積[θ・T’]とを所望の比率で合成した操舵仕事率Pを算出し、能動操作と受動操作とを判定する場合も、上記と同様にして設定すればよい。
そして、ECU20は、例えば、上記のように設定される仕事率基準値ThPと、数式(2)等を用いて算出した操舵仕事率Pとに基づいて、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThP以上である場合に能動操作を検出し、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合に受動操作を検出する。そして、ECU20は、能動操作の場合と受動操作の場合とで、操舵装置30を用いた目標戻し制御の制御量を変更する。つまり、ECU20は、言い換えれば、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThP以上である場合と、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合とで、操舵装置30を用いた目標戻し制御の制御量を変更する。ECU20は、例えば、積[θ’・T]に基づいた操舵仕事率Pと、積[θ・T’]に基づいた操舵仕事率Pとをそれぞれ個別に算出して目標戻し制御の制御量変更を行う場合、仕事率基準値ThPとして、上述の第1仕事率基準値ThP1、第2仕事率基準値ThP2をそれぞれ用いればよい。
また、操舵仕事率Pの大きさは、運転者意思(能動操作の意思、受動操作の意思)の強さを表すものでもある。したがって、ECU20は、算出した操舵仕事率Pの大きさを目標戻し制御の制御量に反映するようにしてもよい。つまり、ECU20は、操舵仕事率Pに基づいて、支援装置3を構成する操舵装置30のEPS装置8(操舵アクチュエータ)の制御量(アシストトルク、モータ供給電流等)を変更するようにしてもよい。これにより、ECU20は、操舵仕事率Pを通じて検出した運転者意思の強さを目標戻し制御に反映させることができ、運転者意思の強さを補償し当該運転者意思の強さに応じた運転支援を行うことができる。
本実施形態のECU20は、上記で説明したように、操舵仕事率Pと仕事率基準値ThPに基づいて、能動操作の場合と受動操作の場合とで、目標戻し制御の制御量を変更する。
ここで、例えば、図5に例示するように、この運転支援装置1が搭載された車両2が高速道路ランプウェイ等を走行している場合を例に挙げて説明する。この場合の、目標戻し制御の補償範囲について図6を参照して説明する。図6中、向って左上の表に、例えば、操舵トルクTの大小に応じて目標戻し制御の有無を判定する比較例に係るECUによる目標戻し制御の補償範囲を示す。この場合、比較例に係るECUは、車両2が高速道路ランプウェイ等を走行している際に、操舵角θの絶対値が所定より大きく、操舵トルクTの絶対値が所定より小さければ(0の場合も含む)、手放し操作であるものと判定する。この場合、比較例に係るECUは、目標戻し制御を行うことで、手放しでの切り戻し操舵操作を補助するという制御効果を得ることができる。一方、比較例に係るECUは、操舵角θの絶対値が所定より大きく、操舵トルクTが所定より大きければ、切り込み操作であるものと判定する。この場合、比較例に係るECUは、当該切り込み操作時は能動動作、受動操作を問わず目標戻し制御を行わない。
しかしながら、このような切り込み操作時であった場合でも、状況によっては目標戻し制御を行ってハンドル戻り特性を向上させたい場面も存在するが、操舵トルクTの大小に応じた目標戻し制御の有無判定では細かな制御の切り分けが難しい傾向にある。例えば、運転者の能動的な意思によりさらに切り込んで曲がりたい場合等、能動操作がなされた場合には目標戻し制御を抑制することで、すっきりとした操舵特性にすることが可能である。一方、例えば、外乱等による車両挙動変化に対して受動的にトルクをかける場合等、受動操作がなされた場合には目標戻し制御を継続することで、切り戻し操舵操作を補助しハンドル戻り特性を向上させるが可能である。
そこで、本実施形態のECU20は、上記のように、操舵仕事率Pと仕事率基準値ThPに基づいて、運転者の能動操作と受動操作とを判別し、能動操作の場合と受動操作の場合とで、目標戻し制御の制御量を変更する。ECU20は、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThP以上である場合にステアリング4に対する能動操作に対応する目標戻し制御(運転支援)とし、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合にステアリング4に対する受動操作に対応する目標戻し制御(運転支援)とする。これにより、ECU20は、運転者の意思を反映させた運転支援の実現を図っている。
ここでは、ECU20は、能動操作と受動操作の判定のための指標、すなわち、操舵仕事率Pとして、積[θ’・T]に基づいた操舵仕事率P1、及び、積[θ・T’]に基づいた操舵仕事率P2を用い、仕事率基準値ThPとして、第1仕事率基準値ThP1、及び、第2仕事率基準値ThP2を用いる。ECU20は、操舵仕事率P1が第1仕事率基準値ThP1以上である場合、又は、操舵仕事率P2が第2仕事率基準値ThP2以上である場合に、運転者により能動操作がなされたものと判定する。ECU20は、操舵仕事率P1が第1仕事率基準値ThP1より小さく、かつ、操舵仕事率P2が第2仕事率基準値ThP2より小さい場合に、運転者により受動操作がなされたものと判定する。
そして、ECU20は、図6中、向って右下の目標戻し制御の補償範囲に関する表に示すように、運転者により受動操作がなされたものと判定した場合に目標戻し制御を継続する一方、運転者により能動操作がなされたものと判定した場合に、受動操作がなされたものと判定した場合と比較して目標戻し制御を抑制する。つまり、ECU20は、操舵仕事率P(操舵仕事率P1、操舵仕事率P2)が仕事率基準値ThP(第1仕事率基準値ThP1、第2仕事率基準値ThP2)より小さい場合に目標戻し制御を継続する一方、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThP以上である場合に、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合と比較して目標戻し制御を抑制する。
具体的には、ECU20は、操舵角センサ10が検出した操舵角θに関するパラメータとトルクセンサ11が検出した操舵トルクTに関するパラメータとの積に応じた操舵仕事率Pが予め設定される仕事率基準値ThP以上である場合、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合と比較して、目標戻し制御の目標戻し制御量を相対的に小さくすることで、目標戻し制御を抑制する。つまり、ECU20は、典型的には、操舵仕事率P(操舵仕事率P1、操舵仕事率P2)と仕事率基準値ThP(第1仕事率基準値ThP1、第2仕事率基準値ThP2)に基づいて、運転者によって能動操作がなされたと判定できる場合、運転者によって受動操作がなされたと判定できる場合と比較して、目標戻し制御量を相対的に小さくすることで、目標戻し制御を抑制する。
ここでは、ECU20は、一例として、操舵仕事率P(操舵仕事率P1、操舵仕事率P2)が仕事率基準値ThP(第1仕事率基準値ThP1、第2仕事率基準値ThP2)以上である場合であってトルクセンサ11が検出した操舵トルクTが予め設定される所定トルク以上である場合に、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合と比較して目標戻し制御量を相対的に小さくすることで、目標戻し制御を抑制する。
一方、ECU20は、操舵仕事率P(操舵仕事率P1、操舵仕事率P2)が仕事率基準値ThP(第1仕事率基準値ThP1、第2仕事率基準値ThP2)より小さい場合に、操舵仕事率Pに応じて目標戻し制御量を変更することで、目標戻し制御を継続する。すなわちこの場合、ECU20は、操舵トルクTが予め設定される所定トルク以上である場合であっても目標戻し制御を継続し、目標戻し制御量を操舵仕事率Pに応じて調節する。
本実施形態のECU20は、例えば、目標戻し制御部23が目標戻し制御量を算出する際に用いるトルクゲインを、操舵仕事率Pに基づいて可変とすることで、操舵仕事率Pに基づいて目標戻し制御の制御量を変更する。
図7は、目標戻し制御部23の概略構成の一例を示すブロック図である。目標戻し制御部23は、例えば、機能概念的に、操舵速度目標値演算部23a、減算器23b、P制御量演算部23c、車速ゲイン演算部23d、微分演算部23e、指標演算部23f、能動・受動判定部23g、LPF(ローパスフィルタ)23h、トルクゲイン演算部23i、乗算器23j、LPF(ローパスフィルタ)23k、ガード処理部23l等を含んで構成される。
操舵速度目標値演算部23aは、目標戻し制御における目標とする操舵速度(目標の操舵角速度)を演算するものである。操舵速度目標値演算部23aは、操舵角センサ10から操舵角θに応じた検出信号が入力される。操舵速度目標値演算部23aは、入力された検出信号に基づいて、目標の操舵速度を演算し、当該目標の操舵速度に応じた演算信号を減算器23bに出力する。操舵速度目標値演算部23aは、例えば、目標操舵速度マップ(あるいはこれに相当する数式モデル)等に基づいて、操舵角θから目標の操舵速度を演算する。操舵速度目標値演算部23aは、典型的には、操舵角θが0(中立位置)のときに目標の操舵速度を0とし、操舵角θの絶対値の増加に伴って中立方向側への目標の操舵速度の絶対値を大きくする。
減算器23bは、操舵速度目標値演算部23aから目標の操舵速度に応じた演算信号が入力され、回転角センサ12からモータ8aのロータ軸の回転角に応じたモータ角速度ωに応じた検出信号が入力される。減算器23bは、入力された演算信号、検出信号に基づいて、フィードバック制御量として、目標の操舵速度から現在のモータ角速度ωを減算した目標操舵速度差分値Δθ’を演算する。減算器23bは、演算した当該目標操舵速度差分値Δθ’に応じた演算信号をP制御量演算部23cに出力する。
P制御量演算部23cは、いわゆるPID制御(Proportional Integral Derivative Controller)の制御量を演算するものである。P制御量演算部23cは、減算器23bから目標の操舵速度と現在のモータ角速度ωとの差分である目標操舵速度差分値Δθ’に応じた演算信号が入力される。P制御量演算部23cは、入力された演算信号に基づいて、目標戻し制御量の基本となる目標のハンドル戻しトルクを演算する。P制御量演算部23cは、演算した当該目標のハンドル戻しトルクに応じた電流指令値信号を乗算器23jに出力する。
車速ゲイン演算部23dは、目標戻し制御量を算出する際に用いる車速ゲインを演算するものである。車速ゲイン演算部23dは、車速センサ13から車速Vに応じた検出信号が入力される。車速ゲイン演算部23dは、入力された検出信号に基づいて、車速ゲインを演算し、当該車速ゲインに応じたゲイン信号を乗算器23jに出力する。車速ゲイン演算部23dは、例えば、車速ゲインマップ(あるいはこれに相当する数式モデル)等に基づいて、車速Vから車速ゲインを演算する。車速ゲイン演算部23dは、典型的には、車速Vの増加に伴って車速ゲインを小さくする。これにより、ECU20は、車速Vの増加に伴って目標戻し制御量を相対的に小さくすることができる。
微分演算部23eは、操舵トルクTのトルク微分値T’を演算するものである。微分演算部23eは、トルクセンサ11から操舵トルクTに応じた検出信号が入力される。微分演算部23eは、入力された検出信号に基づいて、操舵トルクTのトルク微分値T’を演算し、当該トルク微分値T’に応じた演算信号を指標演算部23fに出力する。
指標演算部23fは、能動操作と受動操作の判定のための指標を演算するものである。指標演算部23fは、操舵角センサ10から操舵角θに基づいた操舵速度θ’に応じた検出信号が入力され、トルクセンサ11から操舵トルクTに応じた検出信号が入力され、操舵角センサ10から操舵角θに応じた検出信号が入力され、微分演算部23eからトルク微分値T’に応じた演算信号が入力される。本実施形態の指標演算部23fは、当該指標として、積[θ’・T]に基づいた操舵仕事率P1を演算する第1仕事率演算部23m、積[θ・T’]に基づいた操舵仕事率P2を演算する第2仕事率演算部23nを含んで構成される。なお、指標演算部23fは、これに限らず、第1仕事率演算部23m、第2仕事率演算部23nのうちのいずれかを備えない構成でもよいし、積[θ’・T]と積[θ・T’]とを合成した操舵仕事率Pを演算する演算部を含んで構成されてもよい。
第1仕事率演算部23mは、操舵角センサ10から操舵角θに基づいた操舵速度θ’に応じた検出信号が入力され、トルクセンサ11から操舵トルクTに応じた検出信号が入力される。第1仕事率演算部23mは、入力された検出信号に基づいて、現在の制御周期での操舵速度θ’(t)と現在の制御周期での操舵トルクT(t)との積を演算することで操舵仕事率P1を演算する。第1仕事率演算部23mは、演算した当該操舵仕事率P1に応じた演算信号を能動・受動判定部23gに出力する。
第2仕事率演算部23nは、操舵角センサ10から操舵角θに応じた検出信号が入力され、微分演算部23eからトルク微分値T’に応じた演算信号が入力される。第2仕事率演算部23nは、入力された検出信号、演算信号に基づいて、現在の制御周期での操舵角θ(t)と現在の制御周期でのトルク微分値T’(t)との積を演算することで操舵仕事率P2を演算する。第2仕事率演算部23nは、演算した当該操舵仕事率P2に応じた演算信号を能動・受動判定部23gに出力する。
能動・受動判定部23gは、運転者の能動操作/受動操作を判別するものである。能動・受動判定部23gは、第1仕事率演算部23mから操舵仕事率P1に応じた演算信号が入力され、第2仕事率演算部23nから操舵仕事率P2に応じた演算信号が入力される。能動・受動判定部23gは、入力された演算信号と、上記で説明したようにして予め設定された第1仕事率基準値ThP1、第2仕事率基準値ThP2に基づいて運転者により能動操作がなされたか否かを判定する。
ここでは、能動・受動判定部23gは、下記の条件1、2のうちの1つ以上を満たしている期間が予め設定された所定期間継続したと判定した場合に、運転者により能動操作がなされたものと判定する。一方、能動・受動判定部23gは、下記の条件1、2のうちの1つ以上を満たしている期間が所定期間に満たないと判定した場合、下記の条件1、2のいずれも満たしていないと判定した場合に、運転者により受動操作がなされたものと判定する。なお、上記所定期間は、例えば、能動操作と受動操作とを確実に判別することができる期間として予め設定されればよい。
(条件1)操舵仕事率P1が第1仕事率基準値ThP1以上である(P1≧ThP1)。
(条件2)操舵仕事率P2が第2仕事率基準値ThP2以上である(P2≧ThP2)。
なおここでは、能動・受動判定部23gは、上記の条件1、2のうちの1つ以上を満たしている期間が予め設定された所定期間継続したと判定した場合に、運転者により能動操作がなされたものと判定するものとして説明したがこれに限らない。能動・受動判定部23gは、例えば、上記の条件1、2をすべて満たしている期間が所定期間継続したと判定した場合に、運転者により能動操作がなされたものと判定するようにしてもよい。
そして、能動・受動判定部23gは、上記判定結果に応じた判定信号と共に受動操作の強さを表す指標に応じた演算信号をLPF23hに出力する。ここで、上述したように、操舵仕事率Pの大きさは、運転者意思(能動操作の意思、受動操作の意思)の強さを表すものでもある。したがってここでは、能動・受動判定部23gは、受動操作の強さを表す指標として、操舵仕事率Pに応じた演算信号をLPF23hに出力する。受動操作の強さを表す指標は、操舵仕事率Pが相対的に大きいほど(操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さく絶対値が相対的に小さいほど)受動操作の意思が相対的に弱い(小さい)ことを表し、操舵仕事率Pが相対的に小さいほど(操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さく絶対値が相対的に大きいほど)受動操作の意思が相対的に強い(大きい)ことを表す。能動・受動判定部23gは、受動操作の強さを表す操舵仕事率Pとして、第1仕事率演算部23mから入力された操舵仕事率P1、第2仕事率演算部23nから入力された操舵仕事率P2、あるいは、上述した数式(2)に基づいて積[θ’・T]と積[θ・T’]とを合成した操舵仕事率Pに応じた演算信号をLPF23hに出力する。この場合、係数A、Bは、任意の値に設定されればよい。
そして、LPF23hは、能動・受動判定部23gから能動操作についての判定結果に応じた判定信号、及び、受動操作の強さを表す指標(操舵仕事率P)に応じた演算信号が入力される。LPF23hは、入力された受動操作の強さを表す指標(操舵仕事率P)に応じた演算信号に対して、制御の安定化のためノイズ除去を目的として所定の低周波数成分以外の周波数成分を除去するフィルタ処理を行う。LPF23hは、能動操作についての判定結果に応じた判定信号、及び、当該フィルタ処理を施した当該演算信号をトルクゲイン演算部23iに出力する。
トルクゲイン演算部23iは、目標戻し制御量を算出する際に用いるトルクゲインを演算するものである。トルクゲイン演算部23iは、トルクセンサ11から操舵トルクTに応じた検出信号が入力され、LPF23hから能動操作についての判定結果に応じた判定信号、及び、受動操作の強さを表す指標(操舵仕事率P)に応じた演算信号(フィルタ処理後の信号)が入力される。トルクゲイン演算部23iは、入力された検出信号、判定信号、演算信号に基づいて、トルクゲインを演算し、当該トルクゲインに応じたゲイン信号を乗算器23jに出力する。
トルクゲイン演算部23iは、能動・受動判定部23gによって、運転者により能動操作がなされたものと判定された場合、操舵トルクTが予め設定される所定トルク以上であるならば、運転者により受動操作がなされたものと判定される場合と比較してトルクゲインを相対的に低減する。これにより、ECU20は、操舵仕事率P(操舵仕事率P1、操舵仕事率P2)が仕事率基準値ThP(第1仕事率基準値ThP1、第2仕事率基準値ThP2)以上である場合であって操舵トルクTが所定トルク以上である場合に、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合と比較して目標戻し制御量を相対的に小さくすることができる。
一方、トルクゲイン演算部23iは、能動・受動判定部23gによって、運転者により受動操作がなされたものと判定された場合、受動操作の強さを表す指標(操舵仕事率P)に応じてトルクゲインを変更する。これにより、ECU20は、操舵仕事率P(操舵仕事率P1、操舵仕事率P2)が仕事率基準値ThP(第1仕事率基準値ThP1、第2仕事率基準値ThP2)より小さい場合に、操舵仕事率Pに応じて目標戻し制御量を変更することができる。
一例として、トルクゲイン演算部23iは、例えば、図8で例示するようなトルクゲインマップ(あるいはこれに相当する数式モデル)m1に基づいて、操舵トルクTからトルクゲインを演算する。ここでは、トルクゲインマップm1は、横軸が操舵トルクT、縦軸がトルクゲインを示す。トルクゲインマップm1は、操舵トルクTとトルクゲインとの関係を記述したものである。トルクゲインマップm1は、操舵トルクTとトルクゲインとの関係が実車評価等を踏まえて予め設定された上で、ECU20の記憶部に格納されている。
図8に例示するトルクゲインマップm1では、線L31が運転者により能動操作がなされたものと判定された場合のトルクゲインを表し、線L32が運転者により受動操作がなされたものと判定された場合のトルクゲインを表している。線L32は、受動操作の強さを表す指標(操舵仕事率P)に応じて複数本設定されている。トルクゲインは、運転者により能動操作がなされたものと判定された場合、すなわち、操舵仕事率P(操舵仕事率P1、操舵仕事率P2)が仕事率基準値ThP(第1仕事率基準値ThP1、第2仕事率基準値ThP2)以上である場合には、線L31に示すように、操舵トルクTが所定トルク未満の領域では一定であり、操舵トルクTが所定トルク以上の領域では当該操舵トルクTの増加に伴って減少し最終的に0となる。ここで、所定トルクは、例えば、実車評価等に応じて予め任意に設定されればよい。また、トルクゲインは、運転者により受動操作がなされたものと判定された場合、すなわち、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合には、線L32に示すように、操舵トルクTが上記所定トルク未満の領域では運転者により能動操作がなされた場合と同等であり、操舵トルクTが上記所定トルク以上の領域では0より大きく、運転者により能動操作がなされた場合のトルクゲインより大きな値に設定される。そして、トルクゲインは、運転者により受動操作がなされたものと判定された場合、受動操作の強さを表す指標の減少(操舵仕事率Pの増加)に伴って減少すると共に、少なくとも操舵トルクTが上限トルク(上限トルク>所定トルク)以上の領域で一定となる。ここで、上限トルクは、例えば、実車評価等に応じて予め任意に設定されればよい。トルクゲイン演算部23iは、運転者により能動操作がなされたものと判定された場合、トルクゲインマップm1の線L31に基づいて、操舵トルクTから能動操作時のトルクゲイン(以下、「能動トルクゲイン」という場合がある。)を算出し、当該能動トルクゲインに応じたゲイン信号を乗算器23jに出力する。トルクゲイン演算部23iは、運転者により受動操作がなされたものと判定された場合、トルクゲインマップm1の線L32に基づいて、操舵トルクTから受動操作時のトルクゲイン(以下、「受動トルクゲイン」という場合がある。)を算出し、当該受動トルクゲインに応じたゲイン信号を乗算器23jに出力する。
乗算器23jは、目標のハンドル戻しトルクに応じた電流指令値信号を、車速ゲイン、及び、トルクゲインによって増幅するものである。乗算器23jは、P制御量演算部23cから基本となる目標のハンドル戻しトルクに応じた電流指令値信号が入力され、車速ゲイン演算部23dから車速ゲインに応じたゲイン信号が入力され、トルクゲイン演算部23iからトルクゲインに応じたゲイン信号が入力される。乗算器23jは、目標のハンドル戻しトルクに応じた電流指令値信号に車速ゲイン及びトルクゲインを乗算して増幅し、車速ゲイン及びトルクゲインによって補正された目標ハンドル戻しトルクを演算し、当該補正された目標ハンドル戻しトルクに応じた電流指令値信号をLPF23kに出力する。
このとき、乗算器23jは、運転者により能動操作がなされたものと判定された場合、すなわち、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThP以上である場合には、トルクゲイン演算部23iによって算出された上述の能動トルクゲインを用いて補正後の目標ハンドル戻しトルクを算出する。この結果、ECU20は、運転者により受動操作がなされたものと判定された場合(操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合)と比較して、補正後の目標ハンドル戻しトルクを相対的に小さくすることができ、ひいては、最終的な目標戻し制御量を相対的に小さくすることができる。
一方、乗算器23jは、運転者により受動操作がなされたものと判定された場合、すなわち、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合には、トルクゲイン演算部23iによって算出された上述の受動トルクゲインを用いて補正後の目標ハンドル戻しトルクを算出する。この結果、ECU20は、受動操作の強さを表す指標である操舵仕事率Pに応じて補正後の目標ハンドル戻しトルクを調節することができ、ひいては、運転者の意思に応じて最終的な目標戻し制御量を調節することができる。
LPF23kは、乗算器23jから補正された目標ハンドル戻しトルクに応じた電流指令値信号が入力される。LPF23kは、入力された目標ハンドル戻しトルクに応じた電流指令値信号に対して、制御の安定化のためノイズ除去を目的として所定の低周波数成分以外の周波数成分を除去するフィルタ処理を行う。LPF23kは、当該フィルタ処理を施した電流指令値信号をガード処理部23lに出力する。
ガード処理部23lは、LPF23kからフィルタ処理後の目標ハンドル戻しトルクに応じた電流指令値信号が入力される。ガード処理部23lは、当該フィルタ処理後の目標ハンドル戻しトルクに応じた電流指令値信号に対して、目標戻し制御量の急変を抑制するため所定の上下限値に基づいてガード処理を施して、最終的な目標戻し制御量を演算し、当該目標戻し制御量(ガード処理後の最終的な目標ハンドル戻しトルク)に応じた電流指令値信号を加算器24に出力する。
この結果、このECU20は、能動操作がなされた場合、受動操作がなされた場合等に、それぞれに応じて運転者の意思を反映させた目標戻し制御を実現することが可能となる。すなわち、ECU20は、運転者により受動操作がなされたものと判定した場合に目標戻し制御を継続する一方、運転者により能動操作がなされたものと判定した場合に、受動操作がなされたものと判定した場合と比較して目標戻し制御を抑制し、例えば、目標戻し制御を行わないようにすることができる。
次に、図9を参照してECU20による制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。
まず、ECU20は、操舵角センサ10、トルクセンサ11の検出結果に基づいて、操舵トルクT、操舵速度θ’、操舵角θを計測する(ステップST1)。
次に、ECU20は、ステップST1で計測された操舵トルクTに基づいて、トルク微分値T’=dT/dtを演算する(ステップST2)。
次に、ECU20は、ステップST1で計測された操舵トルクT、操舵速度θ’、操舵角θ、ステップST2で演算されたトルク微分値T’に基づいて、現在の制御周期での操舵仕事率P1=θ’(t)・T(t)、操舵仕事率P2=θ(t)・T’(t)を演算する(ステップST3)。
次に、ECU20は、ステップST3で演算された操舵仕事率P1、操舵仕事率P2に基づいて、運転者により能動操作がなされたか否かを判定する(ステップST4)。ECU20は、例えば、(P1≧ThP1)or(P2≧ThP2)である状態が所定期間以上継続したか否かを判定することで、運転者により能動操作がなされたか否かを判定する。
ECU20は、ステップST4にて運転者により能動操作がなされたと判定した場合(ステップST4:Yes)、目標戻し制御量を算出する際に用いるトルクゲインとして能動トルクゲインを選択し(ステップST5)、後述のステップST7の処理に移行する。この場合、ECU20は、例えば、図10で例示するような能動トルクゲインマップ(あるいはこれに相当する数式モデル)m1−1に基づいて、操舵トルクTから能動トルクゲインを演算する。なお、この図10に例示する能動トルクゲインマップm1−1は、図8で説明したトルクゲインマップm1の線L31に応じたマップに相当する。
一方、ECU20は、ステップST4にて運転者により能動操作がなされていない、すなわち、受動操作がなされたと判定した場合(ステップST4:No)、目標戻し制御量を算出する際に用いるトルクゲインとして受動トルクゲインを選択し(ステップST6)、後述のステップST7の処理に移行する。この場合、ECU20は、例えば、図11で例示するような受動トルクゲインマップ(あるいはこれに相当する数式モデル)m1−2に基づいて、操舵トルクTから受動トルクゲインを演算する。なお、この図11に例示する受動トルクゲインマップm1−2は、図8で説明したトルクゲインマップm1の線L32に応じたマップに相当する。この図11の受動トルクゲインマップm1−2では、線L32として線L32a、L32b、L32cの3本が例示されていると共に、受動操作の強さを表す指標として、上述した数式(2)に基づいて積[θ’・T]と積[θ・T’]とを合成した操舵仕事率Pを用いた場合を図示している。この場合、受動トルクゲインは、当該操舵仕事率Pの増加に伴って減少する。
そして、ECU20は、ステップST7の処理では、ステップST5、又は、ステップST6で選択されたトルクゲインを用いて目標戻し制御量を演算し、当該目標戻し制御量に基づいたEPSアシスト指令をEPS装置8に出力し当該目標戻し制御量の補償制御を実施することで、目標戻し制御を実行し(ステップST7)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。
上記のように構成される運転支援装置1は、操舵角に関するパラメータと操舵トルクに関するパラメータとの積に応じた操舵仕事率が予め設定される基準値以上である場合と、当該操舵仕事率が当該基準値より小さい場合とで、支援装置3による運転支援、ここでは、操舵装置30を用いた目標戻し制御の制御量を変更する。これにより、運転支援装置1は、能動操作がなされた場合、受動操作がなされた場合等に、それぞれに応じて、運転者の意思を反映させた目標戻し制御を実現することができる。つまり、運転支援装置1は、操舵仕事率等に基づいて能動操作と受動操作とを区別して判定し、判定された運転者の操作意思を目標戻し制御に反映させることで、運転者にとって違和感の少ない運転支援を行うことができる。
より詳細には、運転支援装置1は、操舵仕事率が仕事率基準値以上である場合(能動操作と判定できる場合)、操舵仕事率が仕事率基準値より小さい場合(受動操作と判定できる場合)と比較して、目標戻し制御量、言い換えれば、目標戻し制御によるハンドル戻しトルクを相対的に小さくする。これにより、運転支援装置1は、操舵仕事率が仕事率基準値より小さい場合に目標戻し制御を通常通り継続する一方、操舵仕事率が仕事率基準値以上である場合に、操舵仕事率が仕事率基準値より小さい場合と比較して目標戻し制御を抑制することができる。
ここでは、運転支援装置1は、操舵仕事率が仕事率基準値以上である場合(能動操作と判定できる場合)であって操舵トルクが予め設定される所定トルク以上である場合に、操舵仕事率が仕事率基準値より小さい場合と比較して目標戻し制御量を相対的に小さくし、典型的には0とする。この結果、運転支援装置1は、運転者によりステアリング4に対して能動操作がなされたと判定できる場合に、目標戻し制御により運転者による操作が制限されてしまうことを抑制することができ、運転者による快適なステアリング操作を阻害することを抑制できる。
一方、運転支援装置1は、操舵仕事率が仕事率基準値より小さい場合(受動操作と判定できる場合)に、操舵仕事率に応じて目標戻し制御量を変更する。この結果、運転支援装置1は、運転者により受動操作がなされた場合であっても、例えば、操舵トルクが大きい場合にハンドル戻り特性を向上させることができる。この結果、この運転支援装置1は、運転者によりステアリング4に対して受動操作がなされたと判定できる場合に、目標戻り制御により適切にハンドル戻しトルクを作用させることができ、運転者による操作を楽にさせることができる。
この結果、運転支援装置1は、例えば、車両2が高速道路ランプウェイ等を走行している場合の切り込み操作時に、運転者の能動的な意思によりさらに切り込んで曲がりたい場合等、能動操作がなされた場合には目標戻し制御を抑制することで、すっきりとした操舵特性にすることができる。一方、運転支援装置1は、例えば、外乱等による車両挙動変化に対して受動的にトルクをかける場合等、受動操作がなされた場合には目標戻し制御を継続することで、切り戻し操舵操作を補助しハンドル戻り特性を向上させるができる。
以上で説明した実施形態に係る運転支援装置1によれば、車両2のステアリング4への操舵操作に対する運転支援を行う支援装置3と、ステアリング4の操舵角を検出する操舵角センサ10と、ステアリング4と共に回転するシャフト5に作用するトルクを検出するトルクセンサ11と、支援装置3を制御し、ステアリング4の中立位置側への切り戻し操舵操作を補助する戻し制御を実行可能であるECU20とを備える。ECU20は、操舵角センサ10が検出した操舵角に関するパラメータとトルクセンサ11が検出したトルクに関するパラメータとの積に応じた操舵仕事率(操舵仕事率P1、P2等)が予め設定される基準値(第1仕事率基準値ThP1、第2仕事率基準値ThP2等)以上である場合と、当該操舵仕事率が当該基準値より小さい場合とで、目標戻し制御(戻し制御)の制御量を変更する。
したがって、運転支援装置1、ECU20は、運転者により能動操作がなされた場合、受動操作がなされた場合等に、操舵仕事率に基づいて、当該運転者の意思を反映させた運転支援、ここでは、目標戻し制御を実現することができ、例えば、運転者にとって違和感の少ない運転支援を行うことができる。
なお、上述したように、本実施形態の戻し制御は、目標戻し制御であるものとして説明するがこれに限らず、単に操舵角に応じて中立位置側への切り戻し操舵操作を補助するハンドル戻し制御等であってもよい。この場合であっても、運転支援装置1、ECU20は、操舵仕事率に基づいて当該運転者の意思を反映させたハンドル戻し制御を実現することができきる。
[実施形態2]
図12は、実施形態2に係るECUの目標戻し制御部の概略構成の一例を示すブロック図である。図13は、実施形態2に係るECUによる制御の一例を説明するフローチャートである。実施形態2に係る運転支援装置、及び、制御装置は、制御の内容が実施形態1とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略する。また、実施形態2に係る運転支援装置、及び、制御装置の各構成については、適宜、図1等を参照する。
図12に例示する本実施形態の運転支援装置201のECU20は、機能概念的に、目標戻し制御部23(図2参照)にかえて、目標戻し制御部223を含んで構成される。本実施形態の目標戻し制御部223は、操舵仕事率Pに基づいて能動操作・受動操作の判定を行わずに、操舵仕事率Pに基づいて直接的にトルクゲインを演算し、目標戻し制御量を演算し、これにより、運転者の意思を反映させた目標戻し制御量を演算する。
目標戻し制御部223は、例えば、機能概念的に、操舵速度目標値演算部23a、減算器23b、P制御量演算部23c、車速ゲイン演算部23d、微分演算部23e、指標演算部223f、LPF(ローパスフィルタ)223g、受動操作ゲイン演算部223h、乗算器23j、LPF(ローパスフィルタ)23k、ガード処理部23l等を含んで構成される。操舵速度目標値演算部23a、減算器23b、P制御量演算部23c、車速ゲイン演算部23d、微分演算部23e、乗算器23j、LPF(ローパスフィルタ)23k、ガード処理部23lについては、図7で説明した構成とほぼ同様の構成であるので、その説明をできる限り省略する。
本実施形態の指標演算部223fは、第1仕事率演算部23m、第2仕事率演算部23nに加えて、トルクゲインを設定するための指標として、積[θ’・T]に基づいた操舵仕事率P1と積[θ・T’]に基づいた操舵仕事率P2とを合成した操舵仕事率Pを演算する第3仕事率演算部223oを含んで構成される。第3仕事率演算部223oは、上述した数式(2)に基づいて、第1仕事率演算部23mが演算した操舵仕事率P1と、第2仕事率演算部23nが演算した操舵仕事率P2とを合成した操舵仕事率Pを演算する。この場合、係数A、Bは、任意の値に設定されればよい。第3仕事率演算部223oは、合成した操舵仕事率Pに応じた演算信号をLPF223gに出力する。この操舵仕事率Pの大きさは、上述したように、運転者意思(能動操作の意思、受動操作の意思)の強さを表すものでもある。なお、指標演算部223fは、合成した操舵仕事率Pにかえて操舵仕事率P1、又は、操舵仕事率P2に応じた演算信号をLPF223gに出力するようにしてもよい。
LPF223gは、指標演算部223fの第3仕事率演算部223oから操舵仕事率Pに応じた演算信号が入力される。LPF223gは、操舵仕事率Pに応じた演算信号に対して、制御の安定化のためノイズ除去を目的として所定の低周波数成分以外の周波数成分を除去するフィルタ処理を行う。LPF223gは、当該フィルタ処理を施した当該演算信号を受動操作ゲイン演算部223hに出力する。
受動操作ゲイン演算部223hは、目標戻し制御量を算出する際に用いるトルクゲインを演算するものである。受動操作ゲイン演算部223hは、LPF223gから操舵仕事率Pに応じた演算信号(フィルタ処理後の信号)が入力される。受動操作ゲイン演算部223hは、入力された演算信号に基づいて、トルクゲインを演算し、当該トルクゲインに応じたゲイン信号を乗算器23jに出力する。
一例として、受動操作ゲイン演算部223hは、例えば、図12で例示するようなトルクゲインマップ(あるいはこれに相当する数式モデル)m2に基づいて、操舵仕事率Pからトルクゲインを演算する。ここでは、トルクゲインマップm2は、横軸が操舵仕事率P、縦軸がトルクゲインを示す。トルクゲインマップm2は、操舵仕事率Pとトルクゲインとの関係を記述したものである。トルクゲインマップm2は、操舵仕事率Pとトルクゲインとの関係が実車評価等を踏まえて予め設定された上で、ECU20の記憶部に格納されている。トルクゲインマップm2では、トルクゲインは、操舵仕事率Pが大きくなるほど運転者により行われた能動操作の強さが大きいことを表し、仕事率基準値ThPに相当する仕事率(トルクゲインマップm2では例えば、縦軸と横軸との交点の値)を境界として操舵仕事率Pが小さくなるほど受動操作の強さが大きいことを表す。そして、トルクゲインマップm2では、トルクゲインは、操舵仕事率Pの増加に伴って減少し、第1所定仕事率以上の領域で最終的に0となる。また、トルクゲインマップm2では、トルクゲインは、操舵仕事率Pの減少に伴って増加し、第2所定仕事率以下の領域で一定となる。ここで、第1所定仕事率、第2所定仕事率は、例えば、実車評価等に応じて予め任意に設定されればよい。第1所定仕事率、第2所定仕事率は、典型的には、上述の所定トルク、上限トルクに応じて設定される。上述の仕事率基準値ThPは、第1所定仕事率と第2所定仕事率との間に位置する。トルクゲインマップm2は、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThP以上である場合(運転者によって能動操作がなされたと判定できる場合)、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合(運転者によって受動操作がなされたと判定できる場合)と比較して、戻し制御量が相対的に小さくなるように、トルクゲインが設定される。さらに言えば、トルクゲインマップm2は、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合に目標戻し制御が通常通り継続され、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThP以上である場合に、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合と比較して目標戻し制御量が相対的に抑制されるように、トルクゲインが設定される。受動操作ゲイン演算部223hは、トルクゲインマップm2に基づいて、操舵仕事率Pからトルクゲインを算出し、当該トルクゲインに応じたゲイン信号を乗算器23jに出力する。
したがって、ECU20は、受動操作ゲイン演算部223hが操舵仕事率Pに基づいてトルクゲインを可変とすることで、操舵仕事率Pに基づいて目標戻し制御の制御量を変更することができる。すなわち、ECU20は、典型的には、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThP以上である場合(運転者によって能動操作がなされたと判定できる場合)、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合(運転者によって受動操作がなされたと判定できる場合)と比較して、トルクゲインを相対的に小さくし、目標戻し制御量を相対的に小さくすることができる。つまり、ECU20は、例えば、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合に目標戻し制御を継続する一方、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThP上である場合に、操舵仕事率Pが仕事率基準値ThPより小さい場合と比較して目標戻し制御を抑制することができることができる。
次に、図13を参照してECU20による制御の一例を説明する。なおここでも、図9と重複する説明についてはできる限り省略する。
ECU20は、ステップST2の処理の後、ステップST1で計測された操舵トルクT、操舵速度θ’、操舵角θ、ステップST2で演算されたトルク微分値T’に基づいて、現在の制御周期での操舵仕事率P1=θ’(t)・T(t)、操舵仕事率P2=θ(t)・T’(t)を演算する。そして、ECU20は、演算した操舵仕事率P1、P2、予め設定される係数A、Bに基づいて、操舵仕事率P=A・P1+B・P2を演算する(ステップST203)。
次に、ECU20は、ステップST203で演算した操舵仕事率Pに応じた演算信号に対して、ローパスフィルタ(LPF)処理を行う(ステップST204)。
次に、ECU20は、ステップST204でローパスフィルタ処理を行った操舵仕事率Pに基づいて、トルクゲインを演算し(ステップST205)、ステップST7の処理に移行する。ECU20は、例えば、上述のトルクゲインマップm2(図12参照)に基づいて操舵仕事率Pからトルクゲインを算出する。
上記のように構成される運転支援装置201は、操舵角に関するパラメータと操舵トルクに関するパラメータとの積に応じた操舵仕事率が予め設定される基準値以上である場合と、当該操舵仕事率が当該基準値より小さい場合とで、支援装置3による運転支援、ここでは、操舵装置30を用いた目標戻し制御の制御量を変更する。これにより、運転支援装置201は、能動操作がなされた場合、受動操作がなされた場合等に、それぞれに応じて、運転者の意思を反映させた目標戻し制御を実現することができる。つまり、運転支援装置201は、操舵仕事率等に基づいて運転者の操作意思を目標戻し制御に反映させることで、運転者にとって違和感の少ない運転支援を行うことができる。
ここでは、運転支援装置201は、操舵仕事率が仕事率基準値より小さい場合に目標戻し制御を通常通り継続する一方、操舵仕事率が仕事率基準値以上である場合に、操舵仕事率が仕事率基準値より小さい場合と比較して目標戻し制御を抑制することができる。この結果、運転支援装置201は、運転者によりステアリング4に対して能動操作がなされた場合に、目標戻し制御により運転者による操作が制限されてしまうことを抑制することができ、運転者による快適なステアリング操作を阻害することを抑制できる。また、運転支援装置201は、運転者によりステアリング4に対して受動操作がなされた場合に、目標戻り制御により適切にハンドル戻しトルクを作用させることができ、運転者による操作を楽にさせることができる。
以上で説明した実施形態に係る運転支援装置201、ECU20は、運転者により能動操作がなされた場合、受動操作がなされた場合等に、操舵仕事率に基づいて、当該運転者の意思を反映させた運転支援、ここでは、目標戻し制御を実現することができ、例えば、運転者にとって違和感の少ない運転支援を行うことができる。
なお、上述した本発明の実施形態に係る運転支援装置、及び、制御装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。本実施形態に係る運転支援装置、及び、制御装置は、以上で説明した各実施形態の構成要素を適宜組み合わせることで構成してもよい。
以上の説明では、運転支援装置の制御装置は、車両の各部を制御するECUであるものとして説明したが、これに限らず、例えば、それぞれECUとは別個に構成され、このECUと相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行う構成であってもよい。
以上の説明では、操舵装置は、コラムアシスト式のコラムEPS装置を示したがこれに限らず、例えば、ピニオンアシスト式、ラックアシスト式のいずれの方式にも適用可能である。