JP2014141541A - 摩擦材及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐熱性を向上させることができて、高い静摩擦係数μs及び安定した摩擦特性が得られること。
【解決手段】摩擦調整剤3及び熱伝導材4を溶媒5と混合して混合液6を作製し、この混合液6に硫酸バンド等の定着剤7を添加して摩擦調整剤3と熱伝導材4とを定着させ、定着させた摩擦調整剤3と熱伝導材4を含む混合液6の溶媒5を除去し粉末状の摩擦調整剤3及び熱伝導材4の定着物8を得、この粉末状の摩擦調整剤3及び熱伝導材4の定着物8を繊維成分2と混合し、抄造することによって抄紙体10を得る。
【選択図】図1

Description

本発明は、自動車等の自動変速機(Automatic Transmission、以下、単に「AT」とも略する。)や、オートバイ等の変速機に単数または複数用いられる摩擦板及びその製造方法に関するもので、特に、耐熱性を向上させた摩擦材及びその製造方法に関するものである。
近年、従来よりも低燃費化を目指したATの小型化・軽量化に伴い、摩擦材を使用したAT等において、摩擦材の枚数削減やサイズ縮小による軽量化、及び高効率化の必要性が高まってきており、そのためには、摩擦材の摩擦係数μを更に高くすることや耐熱性を向上させることが必要となっている。
このように摩擦材には、耐熱性、耐摩耗性、摩擦係数変化の少ない安定した摩擦特性等が要求される。そこで、これらの各種の特性を満足するために、摩擦材は複合材料によって構成されている。例えば、潤滑油中で使用される多板形クラッチ等の湿式摩擦係合装置にて、湿式摩擦プレートの湿式摩擦材として一般的に用いられている抄紙タイプの湿式摩擦材においては、パルプやアラミド繊維等の繊維基材と、摩擦調整剤や固体潤滑剤等の充填材とを抄造して得た抄紙体に、熱硬化性樹脂からなる樹脂結合剤を含浸し、加熱硬化することによって製造できることが知られている。
なお、ここで摩擦係合装置とは、自動変速機、変速機自体を意味するものではなく、必要枚数の摩擦材及びその摩擦材と圧接される対応する枚数のディスクプレート等のクラッチとしてエネルギ伝達及び遮断機能を有する機構を意味するものとする。
ここで、ATの小型化・軽量化に伴い、摩擦材を接着した複数のディスクプレート等のサイズ径を縮小しようとすると、摩擦材において高い係合力が求められることから、摩擦材に配合される充填材としての摩擦調整剤には、高い静摩擦係数μsを有し、高い係合力が得られるカシューダストやコルク等の有機質のものが一般的に用いられる。
しかしながら、これら有機質の摩擦調整剤は、耐熱性が低く、高温下において摩擦係数が急激に低下するため、熱劣化によって安定した摩擦係数を得ることができず、その摩擦特性に経時変化が生じやすかった。
また、摩擦材に使用されるその他の充填材として、摩擦材に適度な潤滑性を与え、その耐摩耗性を高めると共にその潤滑性により摩擦係数の微小変動を抑制し安定化する固体潤滑剤が知られており、この固体潤滑剤としては、熱伝導率が高く耐熱性も高いグラファイト等のカーボンが最も一般的に用いられている。
ところが、従来、これら充填材としての摩擦調整剤及びグラファイト等のカーボン粉末は、パルプやアラミド繊維等の繊維基材に単純に混ぜ合わせて抄紙していた。即ち、図5に示すように、従来は、離解・叩解した繊維基材に対して、充填材としての摩擦調整剤(有機、無機)及び熱伝導材(グラファイト等のカーボン粉末)をそれぞれ単独形態で混入して抄造に供されていた。
このため、充填材として摩擦調整剤及びグラファイト等のカーボンを配合した従来の摩擦材においては、摩擦調整剤とグラファイト等のカーボンが別々に分散した状態でランダムに存在し、グラファイト等のカーボンが有する熱伝導性の効果(摩擦熱の放熱作用)は十分に生かされていない状態にあった。
ここで、特許文献1にも、繊維質材料よりなる基材と、カシューダストとグラファイトからなる充填材と、分子中に金属原子と有機鎖とを持ち基材に含浸された有機無機複合バインダとよりなる摩擦材が開示されており、グラファイトとカシューダストを共存させることにより、摩擦面に発生した熱がグラファイトによって逃げやすくなり、カシューダストの耐熱性が低いという欠点が補われ、摩擦係数を更に大きくすることができる旨が記載されている。
そして、この特許文献1では、摩擦材の製造方法として、基材の抄紙時にグラファイトやカシューダストの充填材粉末を懸濁液中に混合する方法や、有機無機複合バインダのゾル溶液が含浸された紙状の基材表面に充填材であるグラファイトとカシューダストの混合粉末を振りかけて付着させることによって充填材としてのグラファイトとカシューダストを相手材と摺接する表層部に配置させた摩擦材を製造する技術が示されている。
また、特許文献2には、摩擦材の耐久性を向上させるために熱伝導性に優れたカーボンを配合した摩擦材が開示されており、この摩擦材においては、最表面部にあるカーボン粒が使用中に相手摩擦面との摩擦摺動により脱落を生じるのを防止するために、最表面部に配合したカーボン粒を除去して摩擦材の摺動表面部にはカーボン層の形成がないものとし、最表面から繊維数本分の下にカーボンの多い層が存在する構成としている。
特開2001−32869号公報 特開平11−092573号公報
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された発明においても、単純にカシューダスト等の摩擦調整剤粉末とグラファイト等のカーボン粉末を混合した混合粉末または混合懸濁液を基材中またはその表面に添加していることから、カシューダスト等の摩擦調整剤とグラファイト等のカーボンは互いに分散した状態でランダムに存在し、グラファイト等のカーボンが有する熱伝導性の効果(摩擦熱の放熱作用)は、十分に発揮されていない。
更に、特許文献2の発明においては、カーボン粒子の脱落防止のため最表面部からカーボン粒を除去しているため摩擦材全体での耐熱性が劣る可能性がある。
そこで、本発明は、従来技術のかかる不具合を解決するためのものであって、耐熱性を向上させることができて、高い静摩擦係数μs及び安定した摩擦特性が得られる摩擦材及びその製造方法の提供を課題とするものである。
請求項1の発明の摩擦材は、繊維成分と摩擦調整剤と熱伝導材を含有する摩擦材において、予め前記摩擦調整剤及び前記熱伝導材を互いに隣接状態に定着させた複合材を、前記繊維成分と混合したものである。
ここで、「繊維成分」は、摩擦材の骨格を形成するものであり、例えば、木材パルプ、リンターパルプ、麻、木綿、芳香族ポリアミド繊維、ナイロン、ポリエステル、レーヨン、フェノール繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ノボロイド繊維、炭化ケイ素等の有機繊維や、ガラス繊維、ロックウール、スラグウール、シリケート繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナ−シリカ繊維、チタン酸カリウム繊維、カーボン繊維、窒化ケイ素等の無機繊維や、スチール繊維、ステンレス繊維、ステンレススチール繊維、銅繊維、黄銅繊維、真鍮繊維等の金属繊維等が使用され、これらの繊維は、1種または2種以上を組み合わせて用いることが可能であり、摩擦材の使用用途に応じて適宜選択することができる。中でも、耐熱性が高い無機繊維、特にはガラス繊維が好ましく、有機繊維であっても木材パルプやアラミド繊維は優れた高温特性を有することから、抄紙タイプの摩擦材として使用するのに好ましい。なお、繊維状のものの他に、ウィスカ状のものやフィブリル化したものを使用することもできる。
また、「摩擦調整剤」は、摩擦材の所要の摩擦係数を保持するためのもので、摩擦材を接着した複数のディスクプレート等のサイズ径を縮小しようとした場合においては、高い静摩擦係数μsが得られる有機質の材料(有機化合物)を使用することで、高い係合力を有する摩擦材が得られる。この有機質の摩擦調整剤としては、例えば、カシューダスト、コルク、フッ素樹脂粉末、ラバーダスト等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上混合して使用することが可能であり、摩擦材の使用用途に応じて適宜選択することができる。しかし、摩擦材の使用用途等によっては、無機質の摩擦調整剤を使用することも可能である。この無機質の摩擦調整剤としては、例えば、珪藻土、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、ドロマイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、消石灰、マイカ、タルク、カオリン、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、酸化鉄、二硫化モリブデン、三硫化アンチモン、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ウオラストナイト等が挙げられる。
更に、「熱伝導材」は、摩擦材において摩擦調整剤に生じる摩擦熱を逃がすためのものであり、摩擦調整剤に定着可能で、熱伝導率が高いものであればよく、例えば、カーボンブラック、グラファイト(黒鉛)等のカーボン粉やカーボン繊維、アルミニウム等の金属粉が使用される。一般に、「カーボン」は熱伝導率が高いことから、より効率的に摩擦調整剤に生じる摩擦熱を逃すことができ、摩擦材において耐熱性及び摩擦特性の安定性の更なる向上を図ることができる。また、カーボンは自己潤滑性を有するため、潤滑剤としても機能させることができ、摩擦材において耐摩耗性の向上及び摩擦係数の微小変動を抑制して摩擦係数の安定化を図ることも可能である。この「カーボン」としては、カーボンブラック、グラファイト(黒鉛)のカーボン粉やカーボン繊維の他、石油・石炭のコークス、バルクメソフェーズカーボン等のカーボン質材料(黒鉛質カーボン・黒鉛化製カーボン)の粉末またはカーボン質材料の繊維が使用できる。
そして、「摩擦調整剤と熱伝導材が定着」とは、摩擦調整剤と熱伝導材とが付着または凝集して互いに隣接状態に定着していることを意味し、通常抄紙に使用される硫酸バンド等の定着剤を使用することによって摩擦調整剤及び熱伝導材を定着させることができ、予め摩擦調整剤及び熱伝導材を定着させた後、繊維成分と混合することによって摩擦材中において摩擦調整剤及び熱伝導材が確実に定着された状態とすることができる。ここで、摩擦調整剤と熱伝導材とが互いに隣接状態に定着したものが複合材である。
なお、本発明の「摩擦材」は、例えば、抄紙して形成する抄紙タイプの摩擦材に適用可能である。この抄紙して形成する抄紙タイプの摩擦材は、主に、AT等において油中に浸した状態で使用されるクラッチ、ブレーキ等の摩擦係合装置において油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによってトルク伝達を得る湿式摩擦材として用いられるものである。そして、この抄紙によって形成する抄紙タイプの摩擦材は、摩擦調整剤と熱伝導材とを定着させた複合材を繊維成分と混合し、抄造して得られた抄紙体に、結合樹脂を含浸し、加熱硬化すること等によって形成されるものであり、芯金に接着して使用される。
請求項2の発明の摩擦材は、前記摩擦調整剤が有機化合物としたものである。
ここで、「有機化合物」とは、『炭素の酸化物や金属の炭酸塩など少数の簡単なもの以外のすべての炭素化合物の総称。』(長倉三郎他・編「岩波理化学辞典(第5版)」1392頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)であり、摩擦材の所要の摩擦係数を保持する摩擦調整剤として使用される有機化合物としては、例えば、カシューダスト、コルク、フッ素樹脂粉末、ラバーダスト等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上混合して使用することが可能であり、摩擦材の使用用途に応じて適宜選択することができる。中でも、コルクは、高い静摩擦係数μsが得られることから、ディスクプレート等のサイズ径を縮小した場合でも摩擦材にて高い係合力が得られる。
したがって、ディスクプレート等のサイズ径を縮小する場合において、摩擦調整剤としてはコルクが最適である。
請求項3の発明の摩擦材は、前記摩擦調整剤と前記熱伝導材が互いに隣接状態に定着した前記複合材が、前記摩擦調整剤の単体粒子または凝集体の周囲に前記熱伝導材の単体粒子または凝集体が定着している形態、または、前記熱伝導材の単体粒子または凝集体の周囲に前記摩擦調整剤の単体粒子または凝集体が定着している形態の少なくともどちらか一つの形態であるものである。
即ち、定着される前の前記摩擦調整剤と前記熱伝導材はそれぞれ単体粒子または凝集体の粒子形態であるの対し、前記摩擦調整剤と前記熱伝導材が定着されることで複合材となり、前記摩擦調整剤の単体粒子または凝集体の周囲に前記熱伝導材の単体粒子または凝集体が定着している形態、または、前記熱伝導材の単体粒子または凝集体の周囲に前記摩擦調整剤の単体粒子または凝集体が定着している形態の少なくともどちらか一つの形態となるものである。
ここで、摩擦調整剤と熱伝導材の定着形態は、定着される摩擦調整剤と熱伝導材の粒径によって制御でき、熱伝導材の粒径が摩擦調整剤の粒径より小さい場合に、「前記摩擦調整剤の単体粒子または凝集体の周囲に前記熱伝導材の単体粒子または凝集体が定着している形態」となり易く、熱伝導材の粒径が摩擦調整剤の粒径より大きい場合に、「前記熱伝導材の単体粒子または凝集体の周囲に前記摩擦調整剤の単体粒子または凝集体が定着している形態」となり易くなる。このように摩擦調整剤と熱伝導材の粒径を制御することにより、摩擦調整剤と熱伝導材が効率よく隣接状態に定着している形態を得ることができ、所望の摩擦による結合力と熱伝導による放熱性を得ることができる。
請求項4の発明の摩擦材は、前記摩擦調整剤100重量部に対して、前記熱伝導材は7.5重量部〜50重量部の範囲内で配合されたものである。
熱伝導材の添加量は多い程、その放熱作用により摩擦調整剤の耐熱性を向上させることができるが、その反面、熱伝導材の添加量が多すぎると、摩擦係数は僅かずつではあるが低下する傾向にある。また、熱伝導材の添加量は、余りにも少ないと実用上放熱効果が少なく耐熱性が満足できなくなる。このため、摩擦調整剤100重量部に対して熱伝導材は7.5重量部以上であることが好ましく、また、逆に多すぎると実用上十分な摩擦係数を維持することができなくなり、摩擦調整剤100重量部に対して熱伝導材は50重量部以下であることが好ましい。
なお、上記数値は、厳格なものでなく概ねであり、当然、原材料の種類等による誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
請求項5の発明の摩擦材の前記摩擦調整剤は、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内とし、前記熱伝導材はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内としたものである。
摩擦調整剤や熱伝導材の中位径が大き過ぎると、摩擦材においてその分布に偏りが生じ易く、摩擦特性や強度等の特性が部位によって偏る可能性がある。一方で、摩擦調整剤や熱伝導材の中位径があまりに小さいものは隣接状態に定着するときに粒子がほぐれにくく、熱伝導材の放熱効果や摩擦調整剤の摩擦特性が十分に発揮されない可能性もある。このため、前記摩擦調整剤はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内であり、前記熱伝導材はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内であるものが望ましい。
なお、上記数値は、厳格なものでなく概ねであり、当然、原材料の種類等による誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
ここで、JIS Z 8901「試験用粉体及び試験用粒子」の本文及び解説の用語の定義によれば、中位径とは、粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数(または質量)が、全粉体のそれの50%を占めるときの粒子径(直径)、即ち、オーバサイズ50%の粒径であり、通常、メディアン径または50%粒子径といいD50と表わされる。定義的には、平均粒子径と中位径で粒子群のサイズを表現されるが、ここでは、商品説明の表示、レーザ回折・散乱法によって測定した値である。
そして、「レーザ回折・散乱法によって測定した中位径」とは、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって得られた粒度分布において積算重量部が50%となる粒子径(D50)をいう。
請求項6の発明の摩擦材の製造方法は、繊維成分と摩擦調整剤と熱伝導材を含有する摩擦材の製造方法において、前記摩擦調整剤と前記熱伝導材は、前記繊維成分と混合される前に、予め隣接状態に定着させた複合材を作製し、前記繊維成分と混合したものである。
ここで、「繊維成分」は、摩擦材の骨格を形成するものであり、例えば、木材パルプ、リンターパルプ、麻、木綿、芳香族ポリアミド繊維、ナイロン、ポリエステル、レーヨン、フェノール繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ノボロイド繊維、炭化ケイ素等の有機繊維や、ガラス繊維、ロックウール、スラグウール、シリケート繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナ−シリカ繊維、チタン酸カリウム繊維、カーボン繊維、窒化ケイ素等の無機繊維や、スチール繊維、ステンレス繊維、ステンレススチール繊維、銅繊維、黄銅繊維、真鍮繊維等の金属繊維等が使用され、これらの繊維は、1種または2種以上を組み合わせて用いることが可能であり、摩擦材の使用用途に応じて適宜選択することができる。中でも、耐熱性が高い無機繊維、特にはガラス繊維が好ましく、有機繊維であっても木材パルプやアラミド繊維は優れた高温特性を有することから抄紙タイプの摩擦材を使用用途とする場合には好ましい。なお、繊維状のものの他に、ウィスカ状のものやフィブリル化したものを使用することもできる。
また、「摩擦調整剤」は、摩擦材の所要の摩擦係数を保持するためのもので、摩擦材を接着した複数のディスクプレート等のサイズ径を縮小しようとした場合においては、高い静摩擦係数μsが得られる有機質の材料(有機化合物)を使用することで、高い係合力を有する摩擦材が得られる。この有機質の摩擦調整剤としては、例えば、カシューダスト、コルク、フッ素樹脂粉末、ラバーダスト等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上混合して使用することが可能であり、摩擦材の使用用途に応じて適宜選択することができる。しかし、摩擦材の使用用途等によっては、無機質の摩擦調整剤を使用することも可能である。この無機質の摩擦調整剤としては、例えば、珪藻土、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、ドロマイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、消石灰、マイカ、タルク、カオリン、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、酸化鉄、二硫化モリブデン、三硫化アンチモン、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ウオラストナイト等が挙げられる。
更に、「熱伝導材」は、摩擦材において摩擦調整剤に生じる摩擦熱を逃がすためのものであり、摩擦調整剤に定着可能で、熱伝導率が高いものであればよく、例えば、カーボンブラック、グラファイト(黒鉛)等のカーボン粉やカーボン繊維、アルミニウム等の金属粉が使用される。特に、「カーボン」は熱伝導率が高いことから、より効率的に摩擦調整剤に生じる摩擦熱を逃すことができ、摩擦材において耐熱性及び摩擦特性の安定性の更なる向上を図ることができる。また、カーボンは自己潤滑性を有するため、潤滑剤としても機能させることができ、摩擦材において耐摩耗性の向上及び摩擦係数の微小変動を抑制して摩擦係数の安定化を図ることも可能である。この「カーボン」としては、カーボンブラック、グラファイト(黒鉛)のカーボン粉やカーボン繊維の他、石油・石炭のコークス、バルクメソフェーズカーボン等のカーボン質材料(黒鉛質カーボン・黒鉛化製カーボン)の粉末またはカーボン質材料の繊維が使用できる。
そして、「摩擦調整剤と熱伝導材」の「定着」とは、摩擦調整剤と熱伝導材とが付着または凝集して互いに隣接状態に定着していることを意味し、通常、抄紙に使用される硫酸バンド等の定着剤を使用することによって摩擦調整剤及び熱伝導材を定着させることができ、予め摩擦調整剤及び熱伝導材を定着させた複合材を作製した後、繊維成分と混合することによって摩擦材中において摩擦調整剤及び熱伝導材が確実に定着された状態とすることができる。
なお、本発明の「摩擦材」は、例えば、抄紙して形成する抄紙タイプの摩擦材に適用可能である。この抄紙して形成する抄紙タイプの摩擦材は主に、AT等において油中に浸した状態で使用されるクラッチ、ブレーキ等の摩擦係合装置において油中に浸した状態で対向面に高圧をかけることによってトルク伝達を得る湿式摩擦材として用いられるものである。そして、この抄紙によって形成する抄紙タイプの摩擦材は、摩擦調整剤と熱伝導材とを定着させた複合材を形成した後、繊維成分と混合し、抄造して得られた抄紙体に、結合樹脂を含浸し、加熱硬化すること等によって形成されるものであり、芯金に接着して使用される。
請求項7の発明の摩擦材の製造方法は、前記摩擦調整剤が有機化合物であるものである。
ここで、「有機化合物」とは、『炭素の酸化物や金属の炭酸塩など少数の簡単なもの以外のすべての炭素化合物の総称。』(長倉三郎他・編「岩波理化学辞典(第5版)」1392頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)であり、摩擦材の所要の摩擦係数を保持する摩擦調整剤として使用される有機化合物としては、例えば、カシューダスト、コルク、フッ素樹脂粉末、ラバーダスト等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上混合して使用することが可能であり、摩擦材の使用用途に応じて適宜選択することができる。中でも、コルクは、高い静摩擦係数μsが得られるうえに、コルクを使用することでディスクプレート等のサイズ径を縮小した場合でも摩擦材にて高い係合力が得られる。したがって、ディスクプレート等のサイズ径を縮小する場合において、摩擦調整剤としてはコルクが最適である。
請求項8の発明の摩擦材の製造方法は、前記摩擦調整剤100重量部に対して、前記熱伝導材は7.5重量部〜50重量部の範囲内で配合されたものである。
熱伝導材の添加量は多い程、その放熱作用により摩擦調整剤の耐熱性を向上させることができるが、その反面、熱伝導材の添加量が多すぎると、摩擦係数は僅かずつではあるが低下する傾向にある。また、熱伝導材の添加量は、余りにも少ないと実用上放熱効果が少なく耐熱性が満足できなくなる。このため、摩擦調整剤100重量部に対して熱伝導材は7.5重量部以上であることが好ましい。また、逆に多すぎると実用上十分な摩擦係数を維持することができなくなり、摩擦調整剤100重量部に対して熱伝導材は50重量部以下であることが好ましい。
なお、上記数値は、厳格なものでなく概ねの値であり、当然、原材料の種類等による誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
請求項9の発明の摩擦材の製造方法において、前記摩擦調整剤はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内であり、前記熱伝導材はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内であるものである。
摩擦調整剤や熱伝導材の中位径が大き過ぎると、摩擦材においてその分布に偏りが生じ易く、摩擦特性や強度等の特性が部位によって偏る可能性がある。一方で、摩擦調整剤や熱伝導材の中位径があまりに小さいものは隣接状態に定着するときに粒子がほぐれにくく熱伝導材の放熱効果や摩擦調整剤の摩擦特性が十分に発揮されない可能性もある。このため、前記摩擦調整剤はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内であり、前記熱伝導材はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内であるものが望ましい。
なお、上記数値は、厳格なものでなく概ねであり、当然、原材料の種類等による誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
ここで、JIS Z 8901「試験用粉体及び試験用粒子」の本文及び解説の用語の定義によれば、中位径とは、粒子の直径の算術平均値であり、定義的には、中位径と中位径で粒子群のサイズを表現されるが、ここでは、商品説明の表示、レーザ回折・散乱法によって測定した値である。
そして、「レーザ回折・散乱法によって測定した中位径」とは、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって得られた粒度分布において積算値50%での粒子径をいう。
請求項1の発明に係る摩擦材によれば、摩擦調整剤及び熱伝導材が、繊維成分に混合される前に、予め互いに隣接状態に定着された複合材とし、当該複合材が前記繊維成分に混合されたものである。
このように、摩擦調整剤及び熱伝導材が予め定着された複合材とした後、繊維成分と混合されているので、摩擦材において摩擦調整剤と熱伝導材が別々に分散することなく、摩擦調整剤及び熱伝導材が定着した状態で分布し、必然的に摩擦調整剤の位置に熱伝導材が隣接することになる。
したがって、熱伝導材と摩擦調整剤が隣接し定着していることから、摩擦調整剤の隣に位置する熱伝導材によって摩擦調整剤に生じる摩擦熱を効率良く逃すことができ、摩擦調整剤の熱劣化を防止できる。これより、耐熱性を向上させることができると共に、摩擦調整剤が有する本来の高い静摩擦係数μs等の摩擦特性が十分に発揮されて高い静摩擦係数μsが得られ、また、摩擦特性の安定性も増す。
そして、これらの結果、耐久性を向上させることができ、また、ディスクプレート等の摩擦要素の枚数及び低減化や摩擦係合装置の軽量小型化を図ることが可能となる。
請求項2の発明に係る摩擦材によれば、前記摩擦調整剤は有機化合物であり、この摩擦調整剤としての有機化合物は、高い静摩擦係数μsを有することから、請求項1に記載の効果に加えて、高い静摩擦係数μsが得られるうえに、ディスクプレート等のサイズ径を縮小した場合でも、高い係合力が担保される。
請求項3の発明に係る摩擦材によれば、前記複合材は、前記摩擦調整剤の単体粒子または凝集体の周囲に前記熱伝導材の単体粒子または凝集体が定着している形態、または、前記熱伝導材の単体粒子または凝集体の周囲に前記摩擦調整剤の単体粒子または凝集体が定着している形態の少なくともどちらか一つの形態を有する。
ここで、摩擦調整剤と熱伝導材の定着形態は、定着される摩擦調整剤と熱伝導材の粒径によって制御でき、熱伝導材の粒径が摩擦調整剤の粒径より小さい場合に、「前記摩擦調整剤の単体粒子または凝集体の周囲に前記熱伝導材の単体粒子または凝集体が定着している形態」となり易く、また、熱伝導材の粒径が摩擦調整剤の粒径より大きい場合に、「前記熱伝導材の単体粒子または凝集体の周囲に前記摩擦調整剤の単体粒子または凝集体が定着している形態」となり易くなる。
そして、摩擦調整剤の単体粒子または凝集体の周囲に熱伝導材の単体粒子または凝集体が定着している形態の場合には、摩擦調整剤に生じた熱は、摩擦調整剤の外側に位置する熱伝導材に向かって放熱される一方で、熱伝導材の単体粒子または凝集体の周囲に摩擦調整剤の単体粒子または凝集体が定着している形態の場合には、摩擦調整剤の内側に位置する熱伝導材に向かって放熱され、熱伝導材と摩擦調整剤の定着形態により熱伝達の方向性が異なる。また、摩擦調整剤が外側に位置する形態の複合材と、熱伝導材が外側に位置する形態の複合材では、熱伝導性と摩擦係数の発現に相違が生ずることから得られる放熱特性と摩擦特性が異なるため、摩擦材に要求される特性に応じて複合材の形態を適宜選定することができる。
このように、請求項3の発明は請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、摩擦調整剤と熱伝導材の粒径を制御することにより、摩擦調整剤と熱伝導材が効率よく隣接状態に定着している形態を有する複合材を得ることができ、所望の摩擦による結合力と耐熱性を得ることができる。
請求項4の発明に係る摩擦材によれば、前記摩擦調整剤100重量部に対して、前記熱伝導材は7.5重量部〜50重量部の範囲内で配合される。
ここで、摩擦調整剤の配合量を100重量部とした場合において、熱伝導材の配合量が7.5重量部未満では、摩擦調整剤に対して熱伝導材が定着する量が少なく、熱伝導材によって摩擦調整剤に生じる熱を逃して摩擦調整剤の熱劣化を防止する効果が少なく実用的ではない。一方で、熱伝導材の配合量が50重量部を超えると、摩擦調整剤に対して熱伝導材の定着量が多すぎて、摩擦調整剤が有する高い静摩擦係数μs等の摩擦特性が阻害され、摩擦特性の低下を招く。
よって、前記摩擦調整剤100重量部に対して、前記熱伝導材は7.5重量部〜50重量部の範囲内で配合される本発明に係る摩擦材によれば、請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の効果に加えて、確実に耐熱性を向上させることができると共に、高い静摩擦係数μs及び安定した摩擦特性が得られる。
請求項5の発明に係る摩擦材によれば、前記摩擦調整剤はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内であり、前記熱伝導材はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内である。
ここで、中位径が2μm未満である摩擦調整剤や、中位径が2μm未満である熱伝導材は隣接状態に定着するときに粒子がほぐれにくく、摩擦調整剤の摩擦特性や熱伝導材の放熱効果が十分に発揮されない可能性もある。一方で、中位径が250μmを超える摩擦調整剤や、中位径が250μm超える熱伝導材は、摩擦材においてその分布に偏りが生じ易く、摩擦特性や強度等の特性が部位によって偏る可能性がある。
したがって、前記摩擦調整剤はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内であり、前記熱伝導材はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内であることによって、請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載の効果に加えて、より確実に耐熱性を向上させることができると共に、摩擦材の部位によって偏りのない高い静摩擦係数μs及び安定した摩擦特性が得られる。
請求項6の発明に係る摩擦材の製造方法によれば、摩擦調整剤と熱伝導材は、繊維成分と混合される前に、予め隣接状態に定着させた複合材を形成した後、前記繊維成分と混合したものである。
このように、摩擦調整剤及び熱伝導材を予め定着させて形成した複合材を、繊維成分と混合しているので、摩擦材において摩擦調整剤と熱伝導材が別々に分散することなく、摩擦調整剤及び熱伝導材を定着した状態で分布させ、熱伝導材を摩擦調整剤に隣接させることができる。
したがって、熱伝導材と摩擦調整剤が隣接して定着していることから、摩擦調整剤の隣に位置する熱伝導材によって摩擦調整剤に生じる摩擦熱を効率良く逃すことができ、摩擦調整剤の熱劣化を防止することができる。これより、耐熱性が向上されると共に、摩擦調整剤が有する本来の高い静摩擦係数μs等の摩擦特性が十分に発揮されて静摩擦係数μsが高く、また、摩擦特性の安定性も増した摩擦材を得ることができる。
こうして、本発明に係る摩擦材の製造方法によれば、得られる摩擦材において耐熱性が向上されると共に、静摩擦係数μsが高く摩擦特性の安定性も増すことから、耐久性を向上させることができ、また、それらの結果、ディスクプレート等の摩擦要素の枚数の低減化や摩擦係合装置の軽量小型化を図ることが可能となる。
請求項7の発明に係る摩擦材の製造方法によれば、前記摩擦調整剤は有機化合物であり、この摩擦調整剤としての有機化合物は、高い静摩擦係数μsを有することから、請求項6に記載の効果に加えて、高い静摩擦係数μsが得られるうえに、ディスクプレート等のサイズ径を縮小した場合でも、高い係合力が得られる。
請求項8の発明に係る摩擦材の製造方法によれば、前記摩擦調整剤100重量部に対して、前記熱伝導材は7.5重量部〜50重量部の範囲内で配合される。
したがって、摩擦調整剤の配合量を100重量部とした場合において、熱伝導材の配合量が7.5重量部未満では、摩擦調整剤に対して熱伝導材が定着する量が少なく、熱伝導材によって摩擦調整剤に生じる熱を逃して摩擦調整剤の熱劣化を防止する効果が少なく実用的ではない。一方で、熱伝導材の配合量が50重量部を超えると、摩擦調整剤に対して熱伝導材の定着量が多すぎて、摩擦調整剤が有する高い静摩擦係数μs等の摩擦特性が阻害され、摩擦特性の低下を招くことになるが、前記摩擦調整剤100重量部に対して、前記熱伝導材は7.5重量部〜50重量部の範囲内で配合されるものではその可能性がない。
よって、前記摩擦調整剤100重量部に対して、前記熱伝導材は7.5重量部〜50重量部の範囲内で配合される本発明に係る摩擦材の製造方法によれば、請求項6または請求項7の何れか1つに記載の効果に加えて、確実に耐熱性が向上されると共に、静摩擦係数μsが高く、摩擦特性が安定した摩擦材を得ることができる。
請求項9の発明に係る摩擦材の製造方法によれば、前記摩擦調整剤はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内であり、前記熱伝導材はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内である。
ここで、中位径が2μm未満である摩擦調整剤や、中位径が2μm未満である熱伝導材は隣接状態に定着するときに粒子がほぐれにくく、また、摩擦調整剤の摩擦特性や熱伝導材の放熱効果が十分に発揮されない可能性もある。一方で、中位径が250μmを超える摩擦調整剤や、中位径が250μm超える熱伝導材は、摩擦材においてその分布に偏りが生じ易く、摩擦特性や強度等の特性が部位によって偏る可能性がある。
したがって、前記摩擦調整剤はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内であり、前記熱伝導材はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内であることによって、請求項6乃至請求項8の何れか1つに記載の効果に加えて、得られる摩擦材においてより確実に耐熱性を向上させることができると共に、摩擦材の部位によって偏りのない高い静摩擦係数μs及び安定した摩擦特性が得られる。
図1は本発明の実施の形態に係る摩擦材の製造工程を示すフローチャートである。 図2は本発明の実施の形態に係る摩擦材の光学顕微鏡写真であり、(a)は150倍、(b)は300倍である。 図3は従来の摩擦材の光学顕微鏡写真であり、(a)は150倍、(b)は300倍である。 図4は本発明の実施例に係る摩擦材の摩擦特性及び耐熱性に関する測定結果を比較例と比較して示したグラフであり、(a)は試験機において静摩擦係数μsが初期から10%低下したときのサイクル数に関するグラフ、(b)は試験機において2000サイクル実施したときのセパレートプレートの最高到達温度(S/P温度)に関するグラフである。 図5は従来の摩擦材の製造工程を示すフローチャートである。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、本実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は同一または相当する機能部分を意味するものであるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
本発明の実施の形態に係る摩擦材及びその製造方法について、図1乃至図3及び図5を参照して説明する。本実施の形態では、抄紙して形成する湿式摩擦材において適用した例で説明する。
本実施の形態における摩擦材1は、骨格を形成する繊維成分2に、充填材として摩擦調整剤3及び熱伝導材4を隣接状態に定着することによって複合材8を形成し、複合材8中の摩擦調整剤3に蓄熱する熱を熱伝導材4によって放熱させるものである。そして、繊維成分2に摩擦調整剤3及び熱伝導材4の定着物である複合材8を配合した後は、通常の湿式摩擦材の製造と同様、常法どおりに抄造してその基材となる抄紙体10が形成される。
即ち、本実施の形態の摩擦材1及びその製造方法を実施するに際しては、その基材である抄紙体10の作製に繊維成分2、摩擦調整剤3及び熱伝導材4が必要となる。
ここで、繊維成分2としては、木材パルプ、リンターパルプ、麻、木綿、芳香族ポリアミド繊維、ナイロン、ポリエステル、レーヨン、フェノール繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ノボロイド繊維、炭化ケイ素等の有機繊維や、ガラス繊維、ロックウール、スラグウール、シリケート繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナ−シリカ繊維、チタン酸カリウム繊維、カーボン繊維、窒化ケイ素等の無機繊維や、スチール繊維、ステンレス繊維、ステンレススチール繊維、銅繊維、黄銅繊維、真鍮繊維等の金属繊維等が使用される。これらの繊維は、1種または2種以上を組み合わせて用いることが可能であり、摩擦材の使用用途に応じて適宜選択することができる。中でも、無機繊維、特に、ガラス繊維やシリカ繊維等のセラミック繊維は耐熱性が高く、有機繊維であっても木材パルプ、アラミド繊維は優れた高温特性を有する。また、アクリル繊維は高弾性であることから、低密度を維持しつつ形状復帰性を有し、摩擦材のヘタリや歪み量を抑制して経時安定性を向上させることができる。なお、繊維状のものの他に、ウィスカ状のものやフィブリル化したものを使用することもできる。パルプ以外のこれらの繊維としては、一般に、相加平均(算術平均)長さが0.5〜5mm程度であり、繊維径(直径)において0.1〜6μmのものが使用される。ここで、抄紙タイプの摩擦材を使用用途とする場合には、一般的に繊維成分2としてパルプを含む。
本実施の形態においては、この繊維成分2は、離解・叩解してパルプ化したものが使用される。これによって、フィブリル化した繊維が空間を形成してばねのように弾性を生み、低密度を維持した状態で高弾性の摩擦材となり、高圧力をかけた時の歪み量も小さく、長時間高圧をかけた後のヘタリや密度変化が抑制され、経時安定性が向上する。なお、本発明を実施する場合には、パルプ状とした繊維に限定されるものではなく、針状等であってもよい。
因みに、「叩解」とは、『パルプスラリーを、リファイナー、ビーターなどの回転する向かい合った凹凸の刃の間を通過させることにより、パルプに連続的な圧縮・開放を繰り返して作用させて、パルプ繊維に膨潤、フィブリル化、切断を起こさせること』(社団法人日本化学会・編『化学便覧 応用化学編(第6版)』250頁,平成15年1月30日,丸善株式会社発行)である。
さらに、フィブリル(fibril)化とは、繊維内部のフィブリルが摩擦作用で表面に現れて毛羽立ち、ささくれる現象をいう。
また、本実施の形態の摩擦調整剤3には、高い静摩擦係数μsが得られるカシューダスト、コルク、フッ素樹脂粉末、ラバーダスト(ゴム粉)等の有機化合物が用いられ、これらは単独で、または2種以上混合して使用することが可能であり、摩擦材の使用用途に応じて適宜選択することができる。特に、コルクは、優れた静摩擦係数μsを有し、摩擦材1において優れた静摩擦係数μsを得ることができるうえに、ディスクプレート等のサイズ径を縮小した場合でも、優れた係合力を得ることができるため、ディスクプレート等のサイズ径を縮小する場合において好ましい。
これら摩擦調整剤3としての有機化合物は無機化合物に比べて耐熱性が低いが、後述するように、熱伝導材4と隣接状態に定着されることで摩擦調整剤3に蓄積した熱が熱伝導材4によって放熱され、有機質の摩擦調整剤3が有する耐熱性が低いという欠点が補われる。
なお、カシューダストは、フェノール誘導体であるカルダノール及びカルドールを主成分とするカシューナットの殻液またはその重合体を、アルデヒド類或いはポリアミン類からなる硬化剤によって加熱下で重縮合させて硬化し、これを冷却した後ダスト状に粉砕したものであり、茶色の外観を呈する比較的軟質な茶ダストと、黒色の外観を呈する比較的硬質な黒ダストとが代表的である。茶ダストは一般に耐熱性が低い傾向にあり、そのため、従来においては、摩擦係合時の発熱が特に高いディスクブレーキパッドのような場合には、耐熱性がより高い黒ダストが主に使用されていたが、後述するように、熱伝導材4の付着によって摩擦調整剤3に蓄積した熱を放熱できることから、摩擦係合時の発熱が特に高いディスクブレーキパッドのような場合でも茶ダストの使用が可能となる。
また、コルク(cork)とは、コルクガシの樹皮のコルク組織を剥離、加工した弾力性に富む素材であり、コルクに似せて作った合成素材も合成コルクと呼ばれ、ここでは合成コルクの粒子をもコルクに含めるものとする。
更に、フッ素樹脂粉末としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(HFP−TFE)共重合体等の粉末が使用される。
熱伝導材4としては、カーボンブラック、グラファイト(黒鉛)等のカーボン粉やカーボン繊維、石油・石炭のコークス、バルクメソフェーズカーボン等のカーボン質材料(黒鉛質カーボン・黒鉛化製カーボン)の粉末またはカーボン質材料の繊維、アルミニウム等の金属粉等が使用される。なお、カーボン質材料として、その他、例えば、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂或いは石油・石炭系ピッチを非酸化性雰囲気下で、高温で炭化焼成し、更に、この炭化焼成体を所定の粒径に微粉砕して得たものを使用してもよい。また、カーボン質材料の繊維は、石油系ピッチから合成できる。更に、カーボン純度は90%以上が好ましい。また、カーボン粉のグラファイト(黒鉛)は、人造黒鉛であっても、天然黒鉛であってもよい。
この熱伝導材4は、有機質の摩擦調整剤3を100重量部とした場合に7.5重量部〜50重量部の範囲内で配合されるのが好ましい。熱伝導材4の配合量が7.5重量部未満では、有機質の摩擦調整剤3に対して熱伝導材4が定着する量が少なく、熱伝導材4によって摩擦調整剤3に生じる熱を逃して摩擦調整剤3の熱劣化を防止する効果が少なく実用的ではないからである。また、熱伝導材4の配合量が50重量部を超えると、有機質の摩擦調整剤3に対して熱伝導材4の定着量が多すぎて、有機質の摩擦調整剤3が有する高い静摩擦係数μsが阻害され、摩擦特性の低下を招くからである。よって、熱伝導材4は、有機質の摩擦調整剤3を100重量部とした場合に7.5重量部〜50重量部の範囲内で配合されるのが好ましい。
そして、本実施の形態においては、この摩擦調整剤3と熱伝導材4は互いに定着された複合材8の形態に形成された後、繊維成分2と混合される。
具体的には、図1のフローチャートに示されるように、本実施の形態に係る摩擦材1においては、プレ原料混合工程(ステップS1)にて、摩擦調整剤3の粉末及び熱伝導材4の粉末が溶媒5と混合されて摩擦調整剤3及び熱伝導材4を含有するスラリー状の混合液6が作製され、続いて、定着工程(ステップS2)にて、この摩擦調整剤3及び熱伝導材4を含有する混合液6に定着剤7が添加されて混合液6中の摩擦調整剤3と熱伝導材4とが定着される。
ここで、本実施の形態では、プレ原料混合工程(ステップS1)における摩擦調整剤3及び熱伝導材4を含有する混合液6の作製に溶媒5として水15が使用され、ミキサー等を用い摩擦調整剤3及び熱伝導材4を水中に分散させて混合液(懸濁液)6とした。
また、定着工程(ステップS2)において、摩擦調整剤3及び熱伝導材4を定着させる定着剤7としては、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDADMAC)、デンプン、ポリアクリルアミド、ポリアミンポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂等が使用される。特に硫酸バンド(硫酸アルミニウム)と前記有機樹脂等を組み合わせて使用することが好ましい。
このような定着剤7を摩擦調整剤3及び熱伝導材4を含有する混合液6に加え所定時間攪拌すると混合液6中の摩擦調整剤3と熱伝導材4とが定着される。
定着剤7によって混合液6中の摩擦調整剤3及び熱伝導材4が定着された後は、溶媒除去工程(ステップS3)にて、定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4を含有する混合液6から溶媒5が除去されて粉末状の摩擦調整剤3及び熱伝導材4の定着物である複合材8(定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4の粉末物)が形成される。
具体的には、本実施の形態においては、定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4を含有する混合液6を濾過することによって、混合液6中の溶媒5及び定着剤7を定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4と分離した後、定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4を加熱等によって乾燥させ溶媒5を完全に除去し、粉末状の摩擦調整剤3及び熱伝導材4の定着物である複合材8とした。
なお、この溶媒除去工程(ステップS3)においては、定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4を含有する混合液6から溶媒5を完全に除去して粉末状の摩擦調整剤3及び熱伝導材4の複合材8を得ることができれば、その方法は特に問われるものではなく、加熱温度・時間等の乾燥条件も溶媒5に応じて適宜設定される。
そして、本実施の形態においては、原料混合工程(ステップS4)にて、このようにして得られた粉末状の摩擦調整剤3及び熱伝導材4の複合材8が、溶媒5中で離解・叩解によってパルプ化した繊維成分2の混合液9へ投入され、攪拌される。
この混合液9中にポリビニルアルコール(PVA)等の定着剤7を投入し攪拌を経て、複合材8と繊維成分2を定着させる定着工程S6を実行する 。その後、通常の湿式摩擦材を製造するときと同様、常法どおりに、抄造工程(ステップS6)にて、長網式または丸網式等の抄紙機で抄造することによりシート状に抄紙され、乾燥された後、打ち抜き等の手段により所定の形状の抄紙体10となる。
更に、こうして得られた抄紙体10は、硬化工程(ステップS7)にて、結合樹脂としての熱硬化性樹脂が含浸され、熱風炉等で加熱硬化されることによって、本実施の形態にかかる摩擦材1となる。なお、このときの摩擦材1は湿式摩擦材の基材を成す湿式摩擦材基材である。ここで、結合樹脂には、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱硬化性樹脂が使用される。
このようにして作製された摩擦材1の複合材8は、定着される前の摩擦調整剤3と熱伝導材4はそれぞれ単体粒子または凝集体の単一種類の粒子形態であるの対し、摩擦調整剤3と熱伝導材4が粒子径に差を設けて定着されることで、摩擦調整剤3の単体粒子または凝集体の周囲に熱伝導材4の単体粒子または凝集体が定着している形態、または、熱伝導材4の単体粒子または凝集体の周囲に摩擦調整剤3の単体粒子または凝集体が定着している形態の少なくともどちらか一つの形態で摩擦材1中に分布する。
具体的には、熱伝導材4の粒径が摩擦調整剤3の粒径より小さい場合、摩擦調整剤3の単体粒子または凝集体の周囲に熱伝導材4の単体粒子または凝集体が定着した状態となる。
このように摩擦調整剤3の周囲に熱伝導材4が定着している場合、摩擦調整剤3に生じた熱は、摩擦調整剤3の外側に位置する熱伝導材4に向かって放熱される。一方で、熱伝導材4の粒径が摩擦調整剤3の粒径より大きい場合は、熱伝導材4の単体粒子または凝集体の周囲に摩擦調整剤3の単体粒子または凝集体が定着した状態となり、摩擦調整剤3に生じた熱は、摩擦調整剤3の内側に位置する熱伝導材4に向かって放熱されることになる。
つまり、複合材8の摩擦調整剤3と熱伝導材4の定着の形態によって熱の移動方向が異なり、その結果放熱特性が相違する。
また、複合材8の定着形態において、外側に定着するものが摩擦調整剤3と熱伝導材4では、複合材8が発現する摩擦係数に相違が生じ、これによって摩擦特性、更に言えば摩擦材1の係合力が異なることになる。
したがって、摩擦調整剤3と熱伝導材4の定着状態を制御することで複合材8は所望の耐熱性と摩擦特性を得ることが容易となる。そして、複合材8の定着状態の制御は摩擦調整剤3と熱伝導材4の粒子径を適宜選定することで成し得る。例えば、摩擦調整剤3の中位径より大きい中位径を有する熱伝導材4を使用した場合には、主に、熱伝導材4の周囲に摩擦調整剤3が定着するため、摩擦材1において摩擦調整剤3の周囲に熱伝導材4が定着したときより高い静摩擦係数μsを得ることが可能となる。勿論、摩擦調整剤3及び熱伝導材4の配合量を調節することによっても摩擦材1における耐熱性と摩擦特性を制御することも可能である。
ここで、摩擦調整剤3と熱伝導材4の粒径は中位径2μm〜中位径250μmが好適である。この理由は、摩擦調整剤3と熱伝導材4を隣接状態に定着するときに摩擦調整剤3と熱伝導材4の材料を各々溶媒中で攪拌して凝集状態をほぐした後、摩擦調整剤3と熱伝導材4を定着させる必要があるが、中位径が2μm未満であると粒子がほぐれにくく、また、摩擦調整剤3の摩擦特性や熱伝導材4の放熱効果が十分に発揮されない可能性もある。一方で、中位径(レーザ回折・散乱法によって測定)が250μmを超える摩擦調整剤3や、中位径が250μm超える熱伝導材4は、摩擦材においてその分布に偏りが生じ易く、摩擦特性や強度等の特性が部位によって偏る可能性があるためである。このため摩擦調整剤3と熱伝導材4の粒子径は中位径2μm〜中位径250μmとするのが良い。
以上説明してきたように本実施の形態の複合材8は、複合材8自体が摩擦調整機能と放熱機能を発現するため優れた耐熱性と摩擦特性を有する。この複合材8は、溶媒中で離解・叩解によってパルプ化した繊維成分2の混合液へ混合されることで作製される湿式摩擦材基材だけでなく、直接繊維成分2等と混合して形成される摩擦材にも適用できる。
以下、本実施の形態に係る摩擦材1及びその製造方法を更に具体化した実施例について、主に、図1、図2、図4及び図5を参照して説明する。
まず、実施例にかかる摩擦材1の作製に際して、基材としての抄紙体10を次のように作製した。即ち、初めに、図1に示すように、摩擦調整剤3としてコルク13の粉末と熱伝導材4としてグラファイト14の粉末を溶媒5としての水15に入れてミキサーで攪拌し、均一に混合分散させるプレ原料混合工程(ステップS1)を実施し、コルク13及びグラファイト14を含有するスラリー状の混合液6(懸濁液)を作製した。なお、コルク13とグラファイト14の配合は表1に基づいて行った。
ここで、摩擦調整剤3としてのコルク13の粉末には、天然のコルクガシの樹皮のコルク組織を剥離、加工したコルクの粒子を用い、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置を用いたレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が50μmで、粒度分布が10μm〜180μmのものを使用した。
また、熱伝導材4としてのグラファイト14の粉末には、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が140μmで、粒度分布が45μm〜180μmのものを使用した。
次いで、コルク13及びグラファイト14を含有する混合液6に定着剤7を適量添加して攪拌し、混合液6中のコルク13及びグラファイト14を定着させる定着工程(ステップS2)を実施した。
更に、コルク13及びグラファイト14が定着状態にある混合液6を濾過した後、熱盤または熱風オーブンを使用して定着状態にあるコルク13及びグラファイト14を加熱乾燥させ、水分を完全に除去する溶媒除去工程(ステップS3)を実施し、摩擦調整剤3及び熱伝導材4の定着物である複合材8(定着状態にあるコルク13及びグラファイト14の粉末物)を得た。なお、乾燥の際には、定着状態にあるコルク13及びグラファイト14同士が固まらないよう攪拌して分散性を良くしながら乾燥させた。
続いて、このようにして得られた粉末状のコルク13及びグラファイト14の複合材8を、表1の配合量に基づいて溶媒としての水中で離解・叩解してパルプ化した繊維成分2としてのパルプとアラミド繊維の混合液9へ投入し、原料混合工程(ステップS4)によって攪拌により混合を実施した。その後、これら混合物に、定着剤7を投入し、攪拌することで、繊維成分2と複合材8との定着を行う定着工程(ステップS5)を経て、長網式または丸網式等の抄紙機で抄造することによりシート状に抄紙し、乾燥する抄造工程(ステップS6)を実施した。その後、摩擦材1の基材となる所定形状の抄紙体10を作製し、結合樹脂の熱硬化性樹脂11に抄紙体10を含浸させた後加熱硬化させる硬化工程(ステップ7)を実施することで実施例1及び実施例2の摩擦材1を作製した。
このようにして得られた本実施の形態にかかる実施例1の光学顕微鏡写真を図2に示す。また、比較のために、従来の製造工程を示した図5のフローチャートに従って製造した摩擦材、即ち、表1の配合量に基づいて水中で離解・叩解してパルプ化した繊維成分2と水15の混合液9に、摩擦調整剤3の粉末と熱伝導材4の粉末をそれぞれ単独形態で混合し(ステップS4)、これら混合物を攪拌し、また実施例と同様に定着剤7の投入、攪拌を経て定着工程(ステップS5)にて定着した後、抄造して(ステップS6)抄紙体10とし、更にこの抄紙体10に実施例1及び実施例2と同様の熱硬化性樹脂11を含浸し加熱硬化する(ステップS7)ことによって比較例1乃至比較例3の摩擦材12を作製した。
従来の摩擦材について実施例1に対応する比較例2の光学顕微鏡写真も併せて図3に示す。
図3の顕微鏡写真に示すように、従来の摩擦材においては、摩擦調整剤3と熱伝導材4が別々に繊維成分2中に分散した状態でランダムに存在しているのに対し、図2の顕微鏡写真に示すように、本実施の形態にかかる摩擦材1においては、摩擦調整剤3が存在するところに常に熱伝導材4が隣接して定着した複合材8が繊維成分2に定着しており、摩擦調整剤3及び熱伝導材4が定着して互いに隣接した状態で繊維成分2中に分布していることが確認された。
因みに、ここでは、摩擦調整剤3(コルク13)の中位径(140μm)よりも熱伝導材4(グラファイト14)の中位径(50μm)が小さいことから、図2の顕微鏡写真においては、主に、摩擦調整剤3(コルク13)の周囲に熱伝導材4(グラファイト14)が定着した状態となっている。
このように、本実施の形態にかかる摩擦材1においては、定着剤7によって予め摩擦調整剤3及び熱伝導材4を定着させた複合材8を形成した後、繊維成分2と混合して抄紙することにより、摩擦調整剤3及び熱伝導材4が定着した状態で分布し、熱伝導材4が常に摩擦調整剤3に付着して隣接する。
このため、本実施の形態にかかる摩擦材1によれば、摩擦調整剤3に定着して隣接する熱伝導材4によって摩擦調整剤3に生じた摩擦熱が効率良く逃され、摩擦調整剤3の熱劣化が防止されて耐熱性が向上される。更に、摩擦調整剤3の熱劣化が防止されることで、摩擦調整剤3が有する高い静摩擦係数μs等の摩擦特性の安定性が増し、その特性が十分に発揮され、また、摩擦調整剤3の配合量を増大させることもできる。よって、より高い静摩擦係数μsを得ることが可能となる。
そして、本実施の形態にかかる摩擦材1によれば、このように摩擦調整剤3の熱劣化が防止されることで耐熱性が向上されると共に、摩擦特性の安定性も増すことから、そのライニングの長寿命化を図り耐久性を向上させることが可能である。更に、摩擦調整剤3の熱劣化が防止され耐熱性が向上されることで、摩擦特性の安定性が増し、また、摩擦調整剤3の配合量を増大させることが可能となり、より高い静摩擦係数μsを得ることができる。これらの結果、ディスクプレート等の摩擦要素の枚数を少なくでき、また、摩擦係合装置の軽量小型化を図ることが可能となる。
なお、本発明を実施する場合には、摩擦材1の基材である抄紙体10の構成成分は上記繊維成分2、摩擦調整剤3及び熱伝導材4に限定されるものではなく、摩擦材1の使用用途に応じてその他の摩擦性能等を向上するための体質充填材等の各種添加材を適宜添加することができる。このような添加材は、抄紙する時までに抄紙体に含まれるようにしてもよいし、あるいは抄紙体形成後に添加材の分散液をスプレー等の手段で塗布したり抄紙体を添加材の分散液中を通したりすること等によって表面にコーティングするようにしてもよい。
そして、上述のようにして得られた本実施の形態にかかる摩擦材1(湿式摩擦材)は、通常の湿式摩擦材と同様に、自動変速機のディスクプレート等の基板に接着して、油中で使用できる。
なお、ここでは、繊維成分2としてパルプとアラミド繊維、摩擦調整剤3として、コルク13(中位径:140μm、粒度分布:45μm〜180μm)、熱伝導材4として、グラファイト14(中位径:50μm、粒度分布:10μm〜180μm)を使用した。
次に、こうして得られた抄紙体10を、熱硬化性樹脂としてのレゾール系フェノール樹脂の溶液中に浸漬して含浸させ、自然乾燥させた後、熱風炉等によって熱処理してフェノール樹脂を硬化する硬化工程(ステップS7)を実施し、本実施例に係る摩擦材1を得た。
次に、このように製造した本実施例に係る摩擦材1について、その摩擦特性及び耐熱性に関する評価試験を行った。
具体的には、摩擦性能試験の試験装置としてSAE#2テスターを用い、4枚のセパレートプレートの間に、供試体となる摩擦材を芯金に接着して作製した摩擦プレートを3枚組み込み、標準負荷耐久評価を行った。
このときの供試体となる摩擦材を芯金に接着して作製した摩擦プレートとしては、サイズ:外径140mm×内径110mmのもの使用し、試験条件としては、潤滑油としてATF(登録商標のもの)を用い、油温:100℃、潤滑油量:1000ml/min(フルディップの状態)、摩擦回転数:4000rpm、ピストンによる面圧:0.7MPa、イナーシャ(Is)0.343kg・m2の条件で行った。
これらの条件で、静摩擦係数μsが初期から10%低下するときの試験機のSAE#2のサイクル数及び試験機のSAE#2において2000サイクル実施したときのセパレートプレートの任意の点1箇所における平均最高到達温度(S/P温度)の測定を行った。ここで最高到達温度の測定は200サイクルごとの平均を測定しているため平均最高到達温度としている。
供試体である実施例に係る摩擦材については、熱伝導材4としてのグラファイト14の配合量(配合比)を変えて、実施例1及び実施例2とし、実施例2ではグラファイト14の配合量(配合比)を実施例1よりも増やした。実施例1及び実施例2の具体的な配合組成については、表1に示す。
更に、実施例に係る摩擦材1との対比のために、比較例1乃至比較例3の摩擦材についても同様に評価試験を行った。
これら比較例に係る摩擦材については、熱伝導材4としてのグラファイト14を配合しないものを比較例1とし、熱伝導材4としてのグラファイト14の配合量(配合比)を実施例1と同じにしたもの、即ち、摩擦材の配合組成が実施例1と同じものを比較例2とし、更に、実施例2と同じグラファイト14の配合量(配合比)としたもの、即ち、摩擦材の配合組成が実施例2と同じものを比較例3とし、表1に具体的な配合組成を示す。
上記各実施例と比較例においては、パルプとアラミド繊維(繊維成分2)へのコルク13(摩擦調整剤3)と、グラファイト14(熱伝導材4)の混合時における形態が相違し、実施例1及び実施例2では、予めコルク13(摩擦調整剤3)とグラファイト14(熱伝導材4)を定着させた形態に形成された粉末状の複合材8がパルプとアラミド繊維(繊維成分2)に混合されているのに対し、比較例2及び比較例3では、パルプとアラミド繊維(繊維成分2)とコルク13(摩擦調整剤3)の粉末とグラファイト14(熱伝導材4)の粉末をそれぞれ単独形態で混合している。ここで比較例1だけは、熱伝導材4を含まない水準である。また、実施例1と比較例2、実施例2と比較例3は、摩擦調整剤3に対する熱伝導材4の配合比が同じであることから、摩擦調整剤3と熱伝導材4が繊維成分2と混合される時における形態の相違によって、摩擦材1の特性に与える影響がどのように関係しているかが明らかになる。
上記実施例と比較例について、その摩擦特性及び耐熱性に関する評価試験を行った測定結果を表1の下段に示す。また、摩擦特性及び耐熱性に関する測定結果についてグラフ化したものを図4に示す。
摩擦材1の高温での耐久性の指標としての試験機のSAE#2において静摩擦係数μsが初期から10%低下するときのサイクル数の評価から、サイクル数が多いほど長期にわたり静摩擦係数μsが安定していると判断できる。また、この試験では、2000サイクル実施したときにセパレートプレートの平均最高到達温度(S/P温度)を測定している。この平均最高到達温度(S/P温度)が低いほど摩擦材の放熱性が良好であるといえることから摩擦材1の耐熱性を判断する指標となる。
まず、図4(a)から分かるように比較例1乃至比較例3は従来の方法として予めグラファイト13は摩擦調整剤14と定着されずに抄紙体が作製されているものの、摩擦材中のグラファイト14の量を増やすことにより前記サイクル数が伸びることが確認される。ここで、実施例1は比較例2とグラファイト14の量が同じであり、実施例2は比較例3と同じグラファイト14の量であるが、実施例1及び実施例2に係る摩擦材1は、比較例2及び比較例3と比較して、サイクル数が多くなっている。
より具体的には、比較例2では、グラファイト14(熱伝導材4)を配合していない比較例1よりサイクル数は多いものの、6500サイクル時点で摩擦係数μsが初期から10%低下したのに対し、この比較例2とグラファイト14(熱伝導材4)の配合量が同じであるがコルク13(摩擦調整剤3)及びグラファイト14(熱伝導材4)を複合材8として繊維成分2に定着させた実施例1によれば、8000サイクルまでサイクル数を延ばすことができた。更に、実施例1及び比較例2より多くのグラファイト14(熱伝導材4)量を配合した比較例3では、8500サイクル時点で摩擦係数μsが初期から10%低下したのに対し、この比較例3とグラファイト14(熱伝導材4)の配合量が同じであるがコルク13(摩擦調整剤3)及びグラファイト14(熱伝導材4)を複合材8として繊維成分2に定着させた実施例2によれば、10000サイクルまでそのサイクル数を延ばすことができた。
上記結果より、予め熱伝導材と摩擦調整剤を複合材8として定着させてから、繊維成分2と混合して抄紙体を形成した抄紙体を用いた摩擦材は、従来の方法で作製した摩擦材よりも静摩擦係数μsが長期間安定し、耐久性向上に効果があると判断することができる。
次に、試験機のSAE#2において2000サイクル実施したときのセパレートプレートの平均最高到達温度(S/P温度)については図4(b)に示されるように、比較例1乃至比較例3の結果より、従来の方法でも摩擦材中のグラファイト量を増やすことで、セパレートプレートの平均最高到達温度が低下できる。しかし、比較例2、比較例3と同じグラファイト量でありながら、本発明である予めコルク13とグラファイト14を複合材8として定着させた後、繊維成分2と混合して抄紙することによって得た実施例1、実施例2に係る摩擦材は、セパレートプレートの平均最高到達温度を更に低下できることが確認された。
より具体的には、比較例2では、平均最高到達温度が223℃と、グラファイト14(熱伝導材4)を配合していない比較例1の238℃より低い値であったものの、この比較例2とグラファイト14(熱伝導材4)の配合量が同じであるが予めコルク13(摩擦調整剤3)とグラファイト14(熱伝導材4)を複合材8として定着させた実施例1によれば、平均最高到達温度は221℃とより低い値であった。また、実施例1及び比較例2より多くのグラファイト14(熱伝導材4)量を配合した比較例3では、S/P温度が218℃であったのに対し、この比較例3とグラファイト14(熱伝導材4)の配合量が同じであるが予めコルク13(摩擦調整剤3)とグラファイト14(熱伝導材4)を複合材8として定着させた実施例2によれば、平均最高到達温度が216℃と更に低い値となった。
これより、実施例1及び実施例2に係る摩擦材1は、比較例1乃至比較例3に係る摩擦材よりも、放熱性が向上し、摩擦材の平均最高到達温度を下げる効果があることから耐熱性が高いことが分かる。
こうして本実施例の摩擦材1は、従来の摩擦材よりも、耐熱性が向上すると共に、静摩擦係数μsの安定性が増したことにより、摩擦特性が長期間安定して持続することから耐久性が向上することが確認された。この際、本実施の形態では、コルク13等の有機質の摩擦調整剤3を使用しているため摩擦調整材3の有する高い静摩擦係数μsが長期間保持される。
また、実施例1と実施例2の比較から、熱伝導材4としてのグラファイト14の配合量を多くすることで、静摩擦係数μsが初期から10%低下するまで実施できるサイクル数がより多くなり、試験機のSAE#2において2000サイクル実施したときのセパレータの平均最高到達温度がより低くなることから、優れた耐熱性及び摩擦特性安定性が得られる。しかし、上述したように、コルク13等の有機質の摩擦調整剤3を100重量部とした場合にグラファイト14等の熱伝導材4の配合量が50重量部を超えると、コルク13等の有機質の摩擦調整剤3に対してグラファイト14等の熱伝導材4の定着量が多くなりすぎて、コルク13等の有機質の摩擦調整剤3が有する高い摩擦係数μsが阻害され、摩擦特性の低下を招くことから、その上限値は、コルク13等の有機質の摩擦調整剤3を100重量部とした場合、グラファイト14等の熱伝導材4の配合量が50重量部であることが望ましい。
一方で、コルク13等の熱伝導材4の配合量が7.5重量部未満では、コルク等の有機質の摩擦調整剤3に対してグラファイト14等の熱伝導材4が定着する量が少なく、コルク13等の有機質の摩擦調整剤3に対して十分な放熱効果が得られず、コルク13等の有機質の摩擦調整剤3の熱劣化を十分に防止することができないため、その下限値は、コルク13等の有機質の摩擦調整剤3を100重量部とした場合、グラファイト14等の熱伝導材4の配合量が7.5重量部であることが望ましい。
このように本実施例の摩擦材1において、耐熱性が向上し、かつ、有機質の摩擦調整剤3の使用による高い静摩擦係数μsの摩擦安定性が向上したのは、比較例2及び比較例3に係る従来の摩擦材においてはパルプとアラミド繊維(繊維成分2)、コルク13(摩擦調整剤3)及びグラファイト14(熱伝導材4)がそれぞれ単独形態で混合され抄紙されているのに対し、本実施例の摩擦材1においては、硫酸バンド等(定着剤7)によって予めコルク13(摩擦調整剤3)及びグラファイト14(熱伝導材4)を定着させて複合材8とした形態に形成している。
そして、この形態を維持してパルプとアラミド繊維(繊維成分2)と混合して抄紙することにより、コルク13(摩擦調整剤3)及びグラファイト14(熱伝導材4)が定着した複合材8としての形態の状態で繊維成分2中に分布している。これによって、グラファイト14(熱伝導材4)とコルク(摩擦調整剤3)が互いに付着していることから、コルク13(摩擦調整剤3)に生じた摩擦熱がコルク(摩擦調整剤3)の隣に位置するグラファイト14(熱伝導材4)によって効率良く逃され、コルク13(摩擦調整剤3)の温度上昇が抑制されて熱劣化が防止されたためであると考えられる。その結果、コルク13(摩擦調整剤3)の熱劣化が防止されたことで耐熱性が向上でき、コルク13(摩擦調整剤3)が有する本来の高い摩擦係数μs等の摩擦特性が十分に発揮されて高い摩擦係数μsが得られ、また、摩擦特性の安定性も増した。
このようにして、本実施例の摩擦材1においては、耐熱性が向上されると共に、高い摩擦係数μsが長期間保持されて摩擦特性の安定性が増すことで、耐久性が向上した。したがって、本実施例の摩擦材1によれば、ディスク枚数の削減や摩擦係合装置のサイズ縮小による省スペース化も可能となって、低コスト化を図ることも可能となる。即ち、高負荷条件での使用が可能となり、自動変速機等において好適に使用することができる。
つまり、上記実施の形態に係る摩擦材1は、パルプやアラミド繊維等の繊維成分2と、コルク13等の摩擦調整剤3と、グラファイト14等の熱伝導材4を含有する摩擦材1において、摩擦調整剤3と熱伝導材4が、繊維成分2と混合される前に、予め隣接状態に定着された複合材8の形態に形成され、この複合材8が繊維成分2と混合されたことにより、摩擦材1中において摩擦調整剤3及び熱伝導材4が定着した状態で分布しているものである。
また、上記実施の形態に係る摩擦材1の製造方法は、パルプやアラミド繊維等の繊維成分2と、コルク13等の摩擦調整剤3と、グラファイト14等の熱伝導材4を含有する摩擦材1の製造方法において、摩擦調整剤3及び熱伝導材4を水等の溶媒5と混合して混合液6を作製し、この混合液6に硫酸バンド等の定着剤7を添加して摩擦調整剤3と熱伝導材4とを定着させ、定着させた摩擦調整剤3と熱伝導材4を含む混合液6の溶媒5を除去し粉末状の摩擦調整剤3及び熱伝導材4の定着物である複合材8(定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4の粉末物)を得た後、水等の溶媒5中で離解、叩解した繊維成分2と混合したものである。つまり摩擦調整剤3と熱伝導材4を、繊維成分2と混合する前に、予め隣接状態に定着させた複合材8の形態を形成し、この複合材8を繊維成分2と混合することで摩擦材1を製造する方法である。
より具体的には、上記実施の形態に係る摩擦材1の製造方法は、摩擦調整剤3及び熱伝導材4を水等の溶媒5と混合して摩擦調整剤3と熱伝導材4を含む混合液6を作製するプレ原料混合工程(ステップS1)と、この混合液6に硫酸バンド等の定着剤7を添加して摩擦調整剤3と熱伝導材4とを定着させる定着工程(ステップS2)と、定着させた摩擦調整剤3と熱伝導材4を含む混合液6の溶媒5を除去し、粉末状の摩擦調整剤3及び熱伝導材4の定着物である複合材8(定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4の粉末物)とする溶媒除去工程(ステップS3)の複合材8の形成工程と、その後複合材8と繊維成分2とを混合する混合工程を具備するものである。ここで、湿式摩擦材の基材とする抄紙体を作製するためには、混合工程はさらに、粉末状の複合材8を予め水等の溶媒中で離解、叩解されている繊維成分2と混合する原料混合工程(ステップS4)と、原料混合工程で得られた混合液に定着剤7を投入して攪拌する定着工程(ステップS5)と、定着工程で得られた混合液を抄造する抄造工程(ステップS6)とを具備するものとなる。
したがって、本実施の形態に係る摩擦材1及びその製造方法によれば、複合材8の形態に形成することによって熱伝導材4が摩擦調整剤3に隣接し定着していることから、摩擦調整剤3の隣に位置する熱伝導材4によって摩擦調整剤に生じる摩擦熱を効率良く逃すことができ、摩擦調整剤の熱劣化を防止することができる。これより、複合材8の放熱性は摩擦調整剤3単独のときに比べて向上する。このため複合材8の耐熱性は摩擦調整剤3単独のときに比べて優れることとなり摩擦材1の耐熱性を向上させることができると共に、摩擦調整剤が有する本来の高い静摩擦係数μs等の摩擦特性が十分に発揮されて高い静摩擦係数μsが得られ、また、摩擦特性の安定性も増す。
そして、これらの結果、耐久性を向上させることができ、また、ディスクプレート等の摩擦要素の枚数を低減化や摩擦係合装置の軽量小型化を図ることが可能となり、低コスト化にも繋がる。
以上、本実施の形態においては、摩擦調整剤3と熱伝導材4を溶媒と混合して混合液6とし、これに定着剤7を添加するだけで、摩擦調整剤3と熱伝導材4とを隣接状態に定着した複合材8を形成できることから、簡単に摩擦調整剤3と熱伝導材4とを隣接状態に定着した複合材8を摩擦材1中に分布させることができる。
また、本実施の形態においては、摩擦調整剤3が有機化合物であり、この摩擦調整剤3としての有機化合物は、高い静摩擦係数μsを有することから、摩擦材1において高い静摩擦係数μsが得られるうえに、ディスクプレート等のサイズ径を縮小した場合でも、高い係合力が得られる。
そして、上記実施例では、摩擦調整剤3としてコルクが使用されており、このコルクは、摩擦調整剤3としての有機化合物の中でも柔軟性等に優れていて、これらの特性によって優れた摩擦特性を有することから、摩擦材1において、高い静摩擦係数μsを含む優れた摩擦特性が得られるうえに、ディスクプレート等のサイズ径を縮小した場合でも、優れた係合力が得られる。
更に、本実施の形態においては、熱伝導材4としてカーボンを用いており、カーボンは熱伝導率が高いことから、より効率的に摩擦調整剤3に生じる摩擦熱を逃すことができ、摩擦材1において耐熱性及び摩擦特性の安定性の更なる向上を図ることができる。また、カーボンは自己潤滑性を有するため、潤滑剤としても機能させることができ、滑り摩擦係合時の円滑なトルク伝達性にも優れることから、摩擦材1において耐摩耗性が向上して安定したトルク伝達を行うことができ、スリップ時等の不連続すべりに起因する異音、振動を少なくすることができる。また、摩擦係数の微小変動を抑制して摩擦係数の安定化を図ることも可能となる。
なお、上記実施の形態においては、定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4(粉末状の摩擦調整剤3及び熱伝導材4の複合材8)を繊維成分2と混合した後、抄紙し、更に結合樹脂を含浸し加熱硬化して形成することにより、繊維成分2中に定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4が隣接状態で定着した複合材8の形態で均一に分布された摩擦材1となる。このため、後述する定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4が摩擦表面に多く配合された場合と比較し、相手面との摩擦摺動により定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4の脱落が生じることは少ないことから、摩擦特性の変化が防止され、より安定した摩擦特性が得られる。
しかし、本発明を実施する場合には、定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4の複合材8と繊維成分2とが混合される原料混合工程(ステップS4)後の製造工程は、上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、抄造工程(ステップS6)の抄紙の段階で遅降性を示す材料、例えば、紙用の糊、澱粉糊等の植物性の糊、合成樹脂系の合成糊等、無機系のバインダ等の粘性の高い流体、または、その浮力によって遅降性を持たせる質量の大きい流体を添加することによって、定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4の沈降速度を制御し、抄紙された紙の表面に定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4が多く配合された面を形成することも可能である。これによって、摩擦材の摩擦表面に摩擦係数μsを高くする摩擦調整剤3及びそれに定着した熱伝導材4の層が設けられることになり、定着状態にある摩擦調整剤3及び熱伝導材4の特性がより充分に発揮され、より高い摩擦係数μsが得られる摩擦材とすることができる。
また、上記実施の形態においては、摩擦調整剤3と熱伝導材4とを定着させた後、繊維成分2と混合し抄紙して形成する湿式摩擦材において適用した例で説明したが、本発明を実施する場合には、このような湿式摩擦材に限られず、例えば、摩擦調整剤3と熱伝導材4とを定着させた後、繊維成分2と混合し、これを金型に充填してプレス成形し、熱処理ことにより、乾式摩擦材等の摩擦材を形成することも可能であり、乾式摩擦材等の摩擦材にも適用できる。
更に、上記実施の形態においては、摩擦調整剤3として有機化合物を使用したが、本発明を実施する場合には、珪藻土、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、ドロマイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、消石灰、マイカ、タルク、カオリン、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、酸化鉄、二硫化モリブデン、三硫化アンチモン、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ウオラストナイト等の無機化合物(無機質の材料)を使用することも可能である。無機質の摩擦調整剤3であっても、熱伝導材4が付着して摩擦調整剤3に生じる熱を熱伝導材4によって放熱させることができる。しかし、摩擦材を接着した複数のディスクプレート等のサイズ径を縮小しようとすると、有機質の摩擦調整剤3は無機質のものよりも高い静摩擦係数μsを有することで高い係合力が得られることから、有機質の摩擦調整剤3の方が好適である。
本発明を実施するに際しては、摩擦材1のその他の部分の組成、成分、配合量、材質等、また、摩擦材1の製造方法のその他の工程について、本実施の形態に限定されるものではない。
また、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
1 摩擦材
2 繊維成分
3 摩擦調整剤
4 熱伝導材
5 溶媒
6 混合液
7 定着剤
12 アラミド繊維
13 コルク
14 グラファイト
15 水

Claims (9)

  1. 繊維成分と摩擦調整剤と熱伝導材を含有する摩擦材において、
    予め前記摩擦調整剤及び前記熱伝導材を互いに隣接状態に定着させた複合材を、前記繊維成分と混合してなることを特徴とする摩擦材。
  2. 前記摩擦調整剤は、有機化合物であることを特徴とする請求項1に記載の摩擦材。
  3. 前記摩擦調整剤と前記熱伝導材が互いに隣接状態に定着した前記複合材は、前記摩擦調整剤の単体粒子または凝集体の周囲に前記熱伝導材の単体粒子または凝集体が定着している形態、または、前記熱伝導材の単体粒子または凝集体の周囲に前記摩擦調整剤の単体粒子または凝集体が定着している形態の少なくともどちらか一つの形態としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の摩擦材。
  4. 前記摩擦調整剤100重量部に対して、前記熱伝導材は、7.5重量部〜50重量部の範囲内で配合されたことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の摩擦材。
  5. 前記摩擦調整剤は、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内とし、前記熱伝導材はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内としたことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載の摩擦材。
  6. 繊維成分と摩擦調整剤と熱伝導材を含有する摩擦材の製造方法において、
    前記摩擦調整剤と前記熱伝導材は、前記繊維成分と混合される前に、予め隣接状態に定着させた複合材を形成させた後、前記繊維成分と混合してなることを特徴とする摩擦材の製造方法。
  7. 前記摩擦調整剤は、有機化合物であることを特徴とする請求項6に記載の摩擦材の製造方法。
  8. 前記摩擦調整剤100重量部に対して、前記熱伝導材は、7.5重量部〜50重量部の範囲内で配合されたことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の摩擦材の製造方法。
  9. 前記摩擦調整剤はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内とし、前記熱伝導材はレーザ回折・散乱法によって測定した中位径が2μm〜250μmの範囲内としたことを特徴とする請求項6乃至請求項8の何れか1つに記載の摩擦材の製造方法。
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