フィルム状の機能材料には長尺に形成されたものがあり、この長尺の機能材料(以下、機能性ウェブと称する)から、用途に応じたサイズのシート(以下、機能性シートと称する)として製品となるべき部分が切り出される。
例えば、図1に示す機能性ウェブとしてのハードコートウェブ70から、予め決定された所定のサイズで図2に示すようにシート状に切り取ることにより、機能性シートとしてのハードコートシート71は得られる。ハードコートシート71は、例えば液晶ディスプレイ等の各種製品に用いられる。一方、ハードコートウェブ70からハードコートシート71が切り出された余剰材料120は、セルロースエステルを回収する対象物とされる。複層構造の機能材料である余剰材料120からセルロースエステルを回収する方法を以下に説明する。
余剰材料120は、ハードコートシート71と同じ構成をもち、例えば、図3に示すように、セルロースエステル層11と、機能層としてのハードコート121とを備える。セルロースエステルはセルロースエステル層11から回収される。なお、図3においては、厚み方向を矢線Tで示している。
セルロースエステル層11は、ハードコート121を塗布で形成する際や使用時における支持体である。ハードコート121を支持する観点でのセルロースエステル層11の厚みT11は、概ね20.0μm以上100.0μm以下の範囲内とされる。
セルロースエステル層11は、セルロースエステルから形成されている。セルロースエステルとしては、特に限定されず、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等が挙げられ、これらのうちいずれかひとつであってもよいし、これらのうちの数種の混合物であってもよい。
セルロースエステル層11には、各種の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、マット剤としての微粒子や、可塑剤、レタデーション調整剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
ハードコート121は、耐傷性を付与するために設けられるものであり、架橋分子構造をもつ。ハードコート121は、セルロースエステル層11の一方の面に、密着して層状に設けられる。ハードコート121の厚みT121は、概ね2.0μm以上20.0μm以下の範囲内である。
余剰材料120からセルロースエステルを回収する回収フロー130は、図4に示すように、破砕工程26と、ハードコート除去工程131と、けん化層除去工程21と、乾燥工程22とを有する。
余剰材料120からセルロースエステルを回収する効果や効率は、余剰材料120の個々の大きさに影響される。そこで、余剰材料120を破砕工程26に供し、この破砕工程26により所定のサイズ以下の材料片(例えばチップ状)にしてからハードコート除去工程131に供することが好ましい。これにより、セルロースエステルを回収する効果及び効率はより向上する。ただし、破砕工程26の有無は、目標とする回収の効果及び効率に応じて適宜決定すればよい。なお、回収の効果とは、回収されるセルロースエステルの収率である。
ハードコート除去工程131は、余剰材料120からハードコート121を除去してけん化材138を得る工程である。けん化材138の詳細については、別の図面を用いて後述する。ハードコート除去工程131は、アルカリ処理工程132と、けん化材洗浄工程133とを有する。
アルカリ処理工程132は、アルカリの水溶液(以下、アルカリ水溶液と称する)によりハードコート121の分解と溶解とを行うとともに、セルロースエステル層11の外周部をけん化してけん化材138を生成する工程である。このアルカリ処理工程132により、ハードコート121はけん化材138から脱離するが、一旦脱離したハードコート121の小片の少なくとも一部はけん化材138に付着することがある。また、分解や溶解しても脱離することなくけん化材138上に残っているハードコート121もある。このように、一旦脱離したハードコート121の小片がけん化材138に付着したり、分解したり溶解したハードコート121が脱離せずにけん化材138上に残っているものを、以下、粗製けん化材136と称する。
けん化材洗浄工程133は、アルカリ処理工程132により得られた粗製けん化材136を水で洗浄することにより、粗製けん化材136からハードコート121を除去する工程である。けん化材洗浄工程133は、水洗工程137と脱水工程32とを有する。
水洗工程137は、粗製けん化材136を水で洗浄し、アルカリ水溶液や分解したハードコート121をけん化材138から脱離させて除去する工程である。脱水工程32は、水洗工程137で洗浄に用いた水を、けん化材138から除去する工程である。なお、脱水工程32を経てもハードコート121がけん化材138上に残っている場合には、このけん化材138を、再度、水洗工程137と水洗工程137の後の脱水工程32とに供するとよい。このように、ハードコート除去工程131はけん化材洗浄工程133を複数有していてもよく、けん化材洗浄工程133の実施回数は特に限定されない。
けん化材洗浄工程133によりハードコート121が除去されることにより、けん化材138が得られるが、このけん化材138は、水洗工程137で用いた水が付着していたり、内部に含まれたいわゆる湿潤状態にある。
湿潤状態のけん化材138をけん化層除去工程21に供する。けん化層除去工程21は、酵素処理工程25とセルロースエステル材洗浄工程(以下、CE材洗浄工程と称する)27とを有する。酵素処理工程25は、セルラーゼ(セルロース分解酵素)の水溶液(以下、セルラーゼ水溶液と称する)により後述のけん化層155を分解する工程である。この分解により、けん化層155はセルロースエステル層11から脱離するが、このセルロースエステル層11には一旦脱離したけん化層155の小片の少なくとも一部が付着する。また、分解はしたもののセルロースエステル層11から脱離せずに残っている場合もある。このように、一旦脱離したけん化層155の小片がセルロースエスエル層11に付着したり、分解したけん化層155が脱離せずにセルロースエステル層11上に残っているものを、以下、粗製セルロースエステル材28と称する。なお、酵素処理工程25では、セルラーゼ水溶液に代えて、セルラーゼの懸濁液(以下、セルラーゼ懸濁液と称する)を用いてもよい。
CE材洗浄工程27は、酵素処理工程25により得られた粗製セルロースエステル材28を水で洗浄することにより、粗製セルロースエステル材28からけん化層155やその小片を除去する工程である。CE材洗浄工程27は、水洗工程31と脱水工程32とを有する。水洗工程31は、粗製セルロースエステル材28を水で洗浄し、セルラーゼ水溶液や分解したけん化層155をセルロースエステル層11から脱離させて除去する工程である。脱水工程32は、水洗工程31で洗浄に用いた水を、セルロースエステル層11から除去する工程である。なお、脱水工程32を経てもけん化層155がセルロースエステル層11上に残っている場合には、再度、水洗工程31と水洗工程31の後の脱水工程32とを繰り返すとよい。このように、けん化層除去工程21は、CE材洗浄工程27を複数有していてもよく、CE材洗浄工程27の実施回数は特に限定されない。
CE材洗浄工程27によりけん化層155が除去されることにより、セルロースエステル層11がセルロースエステル材として残るが、このセルロースエステル材は、水洗工程31で用いた水が付着していたり、内部に含まれたいわゆる湿潤状態にある。そこで、CE材洗浄工程27により得られるセルロースエステル材を、以下、湿潤セルロースエステル材33と称する。
乾燥工程22は、CE材洗浄工程27により得られた湿潤セルロースエステル材33を乾燥する工程である。この乾燥工程22により、湿潤セルロースエステル材33に付着している水や内部に含まれている水を蒸発させる。これにより湿潤セルロースエステル材33は乾燥してセルロースエステル材34になる。このように、セルロースエステルは、一定の大きさをもつセルロースエステル材34として回収され、得られる。
余剰材料120からセルロースエステル材34を回収する回収設備90は、図5に示すように、クラッシャ37と、ハードコート除去装置141と、けん化層除去装置38と、乾燥ユニット42とを備える。
クラッシャ37は、余剰材料120を、より小さなサイズに切断するためのものであり、切断機(図示無し)と、送出機(図示無し)とを有する。切断機(図示無し)は、供給された余剰材料120を、サイズがより小さくなるように、例えばチップ状の材料片に切断する。切断機としては、例えばロータリカッタやスリッタ等を用いる。送出機は、切断機により切断された余剰材料120をアルカリ処理ユニット142へ送る。送出機としては、例えば、余剰材料120に風を吹き付けることにより余剰材料120をアルカリ処理ユニット142へ送る風送機等を用いる。破砕工程26が無い場合には、クラッシャ37は設けなくてもよい。
ハードコート除去装置141は、ハードコート除去工程131(図4参照)のために用いるものであり、アルカリ処理ユニット142と、洗浄ユニット41とを有する。アルカリ処理ユニット142は、アルカリ処理工程132に用いられ、粗製けん化材136を得るためのものである。ハードコート除去装置141に備えられる洗浄ユニット41は、けん化材洗浄工程133に用いられ、けん化材138を得るためのものである。なお、ハードコート除去装置141の詳細については別の図面を用いて後述する。
けん化層除去装置38は、けん化層除去工程21(図4参照)に用いるものであり、酵素処理ユニット39と、洗浄ユニット41とを有する。酵素処理ユニット39は、酵素処理工程25(図4参照)に使用され、粗製セルロースエステル材28を得るためのものである。けん化層除去装置38に備えられる洗浄ユニット41は、CE材洗浄工程27に用いるものであり、湿潤セルロースエステル材33を得るためのものである。なお、けん化層除去装置38の詳細については別の図面を用いて後述する。
乾燥ユニット42は、乾燥工程22に用いられ、湿潤セルロースエスエル材33を乾燥してセルロースエステル材34を得るためのものである。乾燥ユニット42は、湿潤セルロースエスエル材33を収容する収容部(図示無し)と、乾燥した気体を収容部に供給する送風部(図示無し)と、収容部の内部の雰囲気を外部に排出する排出機構(図示無し)とを備える。湿潤セルロースエステル材33が収容された収容部に、乾燥した気体、例えば乾燥した空気を送風部から供給することにより、湿潤セルロースエステル材33に付着している水や内部に含まれる水が蒸発する。蒸発した水は排出機構により外部に排出される。この排出により、収容部内の雰囲気における湿度の上昇が抑制され、湿潤セルロースエステル材33は効率的に乾燥されセルロースエステル層11がセルロースエステル材34として得られる。
ハードコート除去装置141について、図6を参照しながら説明する。アルカリ処理ユニット142は、容器146と、温度コントローラ147とを備える。容器146には、余剰材料120とアルカリ水溶液148とが案内される供給口146aが例えば上部に形成されている。容器146は、アルカリ水溶液148を貯留し、余剰材料120が供給される。この容器146の内部でアルカリ水溶液148と余剰材料120とは接触する。容器146では、余剰材料120がアルカリ水溶液148に浸漬されるように接触することが好ましい。
アルカリ水溶液148の水素イオン指数pHは、11.0以上14.0以下の範囲内であることが好ましい。これにより、ハードコート121がより確実に、より効率的に分解したり溶解する。アルカリ水溶液148の水素イオン指数pHは、12.0以上14.0以下の範囲内であることがより好ましく、13.0以上14.0以下の範囲内であることがさらに好ましい。アルカリ水溶液148のpHは、アルカリの濃度を調整することにより調整する。
アルカリ水溶液148は、ハードコート121を分解することと溶解することとのために用い、アルカリが水に溶解した水溶液である。アルカリとしては、水酸化ナトリウム(NaOH)が好ましい。
アルカリ水溶液148におけるアルカリの濃度は、5%以上10%以下の範囲内であることが好ましい。すなわち、アルカリの質量をM3、水の質量をM4とするときに、(M3/M4)×100が5%以上10%以下の範囲内であることが好ましい。これにより、ハードコート121がより確実に、より効率的に分解したり溶解する。アルカリ水溶液148におけるアルカリの濃度は、6%以上8%以下の範囲内であることがより好ましい。
容器146におけるアルカリ水溶液148と余剰材料120との接触時間、すなわちアルカリ処理工程132の時間は、120分以上540分以内の範囲であることが好ましく、180分以上360分以内の範囲であることがより好ましい。
温度コントローラ147は、容器146の内部の温度を制御し、これにより容器146中のアルカリ水溶液148と余剰材料120との温度を制御する。アルカリ処理工程132中のアルカリ水溶液148の温度は、45℃以上65℃以下の範囲内に調整することが好ましい。これにより、ハードコート121がより効果的、効率的に分解される。したがって、ハードコート121に接触する間のアルカリ水溶液148の温度を、上記温度範囲内に保持することが好ましい。アルカリ水溶液148の温度は、50℃以上60℃以下の範囲内であることがより好ましい。
アルカリ処理ユニット142は、アルカリ水溶液148と余剰材料120との混合物を攪拌するための攪拌機150を備えることが好ましい。攪拌機150は、容器146の内部に配される攪拌羽150a及び回転軸150bと、コントローラ150cとを備える。回転軸150bはコントローラ150cにより所定の速度で周方向に回転する。攪拌羽150aは回転軸150bに固定され、回転軸150bと一体に回転する。攪拌羽150aの回転により、アルカリ水溶液148と余剰材料120との混合物が攪拌され、ハードコート121がより確実に、より効率的に分解したり溶解する。
容器146には、アルカリ水溶液148を外部に排出する開閉自在な排出口146bが例えば底部に形成されている。排出口146bは、アルカリ水溶液148及び余剰材料120が供給される間と、アルカリ処理工程132中は閉状態とされ、アルカリ処理工程132後には開状態とされる。アルカリ処理工程132に使用したアルカリ水溶液148は、この排出口146bから廃液151として排出される。排出口146bには、粗製けん化材136の排出を抑止するフィルタ146cが設けられている。
ハードコート除去装置141の洗浄ユニット41は、アルカリ処理ユニット142と同様に構成されている。洗浄ユニット41は、容器56と、温度コントローラ57とを備え、さらに攪拌機60を備えることが好ましい。
容器56は、容器146と同様に構成されており、水58とアルカリ処理工程132で生成した粗製けん化材136とが案内される供給口56aが、例えば上部に形成されている。容器56は、水58を貯留し、粗製けん化材136が供給される。容器56における水洗工程137では、粗製けん化材136が水58に浸漬されるように接触することが好ましい。この容器56の内部で粗製けん化材136が水58で清浄化される。この水洗工程137では、温度コントローラ57は容器56の内部の温度を制御し、これにより容器56中の水58と粗製けん化材136との温度を制御する。なお、水58としては例えば井水を用いることができる。
攪拌機60は、水58と粗製けん化材136との混合物を攪拌するためのものである。攪拌機60は、攪拌機150と同様に構成され、攪拌羽60aと、回転軸60bと、コントローラ60cとを備える。回転軸60bと一体に攪拌羽60aが回転することにより、水58と粗製けん化材136との混合物が攪拌され分解や溶解したハードコート121がけん化材138からより確実に、より効率的に剥がれる。
容器56には、例えば底部に、水58と分解や溶解したハードコート121とを外部に排出する開閉自在な排出口56bが形成されている。排出口56bは、水58及び粗製けん化材136が容器56へ供給される間と、水洗工程137中とは閉状態とされ、脱水工程32中は開状態とされる。水洗工程31に使用した水58は、この排出口56bから廃液61として排出される。水58の排出に伴い、分解や溶解したハードコート121は排出される。排出口56bには、湿潤状態のけん化材138の排出を抑止するフィルタ56cが設けられている。水洗工程31により得られた湿潤状態のけん化材138はこのフィルタ56cにより外部へ排出されることなく容器56中にとどまる。
なお、この実施態様では、アルカリ処理工程132のためにアルカリ処理ユニット142を使用し、けん化材洗浄工程133のためにハードコート除去装置141の洗浄ユニット41を使用している。しかし、ハードコート除去工程131はこの態様に限られない。例えば、アルカリ処理ユニット142と同じ構成のひとつの装置を、アルカリ処理工程132とけん化材洗浄工程133との両工程に用いてもよい。
けん化層除去装置38について、図7を参照しながら説明する。酸素処理ユニット39は、アルカリ処理ユニット142と同様な構成をもち、容器46と、温度コントローラ47とを備える。
容器46には、けん化材138とセルラーゼ水溶液48とが案内される供給口46aが例えば上部に形成されている。容器46は、セルラーゼ水溶液48を貯留し、けん化材138が供給される。この容器46の内部でセルラーゼ水溶液48とけん化材138とが接触する。容器46では、けん化材138がセルラーゼ水溶液48に浸漬されるように接触することが好ましい。なお、セルラーゼ水溶液48に代えて、セルラーゼ懸濁液を用いる場合には、容器46にはセルラーゼ懸濁液が貯留される。
温度コントローラ47は、容器46の内部の温度を制御し、これにより容器46中のセルラーゼ水溶液48とけん化材138との温度を制御する。
酵素処理ユニット39は、セルラーゼ水溶液48とけん化材138との混合物を攪拌するための攪拌機50を備えることが好ましい。攪拌機50は、攪拌機150と同様の構成をもち、攪拌羽50aの回転により、セルラーゼ水溶液48とけん化材138との混合物が攪拌される。
容器46には、セルラーゼ水溶液48を外部に排出する開閉自在な排出口46bが例えば底部に形成されている。排出口46bは、セルラーゼ水溶液48及びけん化材138が供給される間と、酵素処理工程25中は閉状態とされ、酵素処理工程25後には開状態とされる。酵素処理工程25に使用したセルラーゼ水溶液48は、この排出口46bから廃液51として排出される。排出口46bには、粗製セルロースエステル材28の排出を抑止するフィルタ46cが設けられている。
セルラーゼ水溶液48は、後述のけん化層155を分解するためのものであり、セルラーゼが水に溶解した水溶液である。セルラーゼ水溶液48のセルラーゼは、少なくとも3種の酵素を含む酵素群であり、3種の酵素とは、セロビオハイドロラーゼ(CBH)と、エンドグルカナーゼ(EG)と、β−グルコシダーゼ(BGL)とである。セルラーゼ水溶液48がけん化層155に接触すると、上記3種の酵素が協働してけん化層155を分解する。CBHは、けん化層155を成す分子のうち結晶性部分を末端から分解する。EGはけん化層155を成す分子のうち非晶性部分をランダムに分解する。BGLは、セロビオース構造のβ結合部位を分解する。
CBHの質量は、セルラーゼの質量の87質量%以上93質量%以下の範囲内であり、CBHの質量に対するEGとBGLとの質量の和、すなわち{(EGの質量)+(BGLの質量)}/(CBHの質量)の値は0.04以上0.15以下であることが好ましい。これにより、けん化層155がより確実に、より効率的に分解される。
セルラーゼは、起源菌(生産菌)がトリコデルマ リーセイ(trichoderma reesei)である酵素群と、アクレモニウム(Acremonium)属である酵素群とを含むことが好ましい。すなわち、セルラーゼは、トリコデルマ リーセイ(trichoderma reesei)由来の酵素群と、アクレモニウム(Acremonium)属由来の酵素群とを混合したものが好ましい。タイプA〜Fのセルラーゼの起源菌は、トリコデルマ リーセイであり、タイプGのセルラーゼの起源菌はアクレモニウム(Acremonium)属である。
上記3種の酵素を含むセルラーゼとしては、表1の「セルラーゼ」欄のタイプA〜タイプHがより好ましい。なお、セルラーゼのタイプA〜タイプHを含む各セルラーゼ水溶液48についても、下記の表1の「セルラーゼ水溶液48の種類」欄のように、以下の説明においてはタイプA〜タイプHと称する。
表1におけるタイプHのセルラーゼは、タイプAのセルラーゼとタイプGのセルラーゼとの混合物であるので、「商品名」欄には「混合物」と記載している。タイプAとタイプGのセルラーゼは、いずれも水溶液として流通しており、タイプGのセルラーゼは、水溶液での質量比(タイプA:タイプG)が2:3〜9:1の範囲であることがより好ましい。
また、タイプGのセルラーゼの各起源菌は、アクレモニウム属であり、タイプAのセルラーゼの起源菌は、トリコデルマ リーセイであるので、タイプHのセルラーゼは、アクレモニウム属由来のセルラーゼとトリコデルマ リーセイ由来のセルラーゼとの混合物である。
セルラーゼ水溶液48におけるセルラーゼの質量は、けん化材138の質量に対して0.1%以上であることが好ましい。すなわち、セルラーゼの質量をM1、けん化材138の質量をM2とするときに、(M1/M2)×100が0.1%以上であることが好ましい。これにより、けん化層155がより確実に、より効率的に分解される。セルラーゼ水溶液48におけるセルラーゼの質量は、けん化材138の質量に対して0.1%以上20%以下の範囲内であることがより好ましく、0.3%以上15%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.5%以上12%以下の範囲内(例えば7.2%)であることが特に好ましい。
セルラーゼ水溶液48は、セルラーゼとは異なる他の分解酵素(例えば、プロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ)を含まないことが好ましい。
セルラーゼが上記3種の酵素を含む場合には、セルラーゼ水溶液48は、水素イオン指数(pH)が3.0以上7.0以下の範囲内であることが好ましい。これにより、けん化層155がより効果的、効率的に分解される。セルラーゼ水溶液48のpHは、3.5以上6.5以下の範囲内であることがより好ましく、4.0以上6.0以下の範囲内(例えば、4.5)であることがさらに好ましい。
セルラーゼ水溶液48は、酢酸に酢酸ナトリウムを添加した液を混合している。この液の量を調整することにより、セルラーゼ水溶液48のpHは調整される。
セルラーゼが上記3種の酵素を含む場合には、酵素処理工程25中のセルラーゼ水溶液48の温度は、40℃以上70℃以下の範囲内に調整することが好ましい。これにより、けん化層155がより効果的、効率的に分解される。したがって、けん化層155に接触する間のセルラーゼ水溶液48の温度を、上記温度範囲内に保持することが好ましい。セルラーゼ水溶液48の温度は、45℃以上65℃以下の範囲内であることがより好ましく、50℃以上60℃以下の範囲内(例えば、55℃)であることがさらに好ましい。
けん化層除去装置38には、ハードコート除去装置141の洗浄ユニット41と同様の構成をもつ洗浄ユニット41が備えられる。すなわち、回収設備90は、2つの洗浄ユニット41を有する。けん化層除去装置38の洗浄ユニット41は、容器56と、温度コントローラ57とを備え、さらに攪拌機60を備えることが好ましい。
けん化層除去装置38に備えられる洗浄ユニット41の容器56の供給口56aは、水58と酵素処理工程25で得られた粗製セルロースエステル材28とを容器56の中へ案内する。容器56では、粗製セルロースエステル材28が水58に浸漬されるように接触することが好ましい。この容器56の内部で粗製セルロースエステル材28が水58で清浄化される。この水洗工程31では、温度コントローラ57は容器56の内部の温度を制御し、これにより容器56中の水58と粗製セルロースエステル材28との温度を制御する。攪拌機60は、水58と粗製セルロースエステル材28との混合物を攪拌する。
容器56の開閉自在な排出口56bは、水58及び粗製セルロースエステル材28が容器56へ供給される間と、水洗工程31中とは閉状態とされ、脱水工程32中は開状態とされる。水洗工程31に使用した水58は、この排出口56bから廃液61として排出される。水58の排出に伴い、分解したけん化層155は排出される。排出口56bのフィルタ56cは、湿潤セルロースエステル材33の排出を抑止する。
なお、本実施態様では、酵素処理工程25のために酵素処理ユニット39を用い、CE材洗浄工程27のためにけん化層除去装置38の洗浄ユニット41を使用している。しかし、けん化層除去工程21はこの態様に限られない。例えば、酵素処理ユニット39と同様に構成されるひとつの装置を、酵素処理工程25とCE材洗浄工程27との両工程に用いてもよい。また、アルカリ処理ユニット142と同様に構成されるひとつの装置を、アルカリ処理工程132とけん化材洗浄工程133と酵素処理工程25とCE材洗浄工程27とのすべての工程に用いてもよい。
上記構成の作用について説明する。余剰材料120は、クラッシャ37に案内されると、切断機により、より小さいサイズに切断される。小さいサイズにされた余剰材料120は、送出機により、クラッシャ37とアルカリ処理ユニット142とを接続する配管を介してアルカリ処理ユニット142の容器146へ送られる。破砕工程26が無い場合には、クラッシャ37を介さずに、余剰材料120はアルカリ処理ユニット142の容器146へ案内される。
容器146には、アルカリ水溶液148が案内され、アルカリ水溶液148は温度コントローラ147により前述の温度範囲となるように温度を制御されるともに、攪拌機150により攪拌される。余剰材料120は、容器146に案内されてアルカリ処理工程132へ供され、貯留されたアルカリ水溶液148に例えば浸漬されて接触する。これにより、架橋分子構造をもつハードコート121は、分解したり溶解する。アルカリ処理工程132中は、アルカリ水溶液148の温度は、前述の範囲内に保持され、アルカリ水溶液148と余剰材料120との混合物は攪拌機150により攪拌される。この攪拌により、ハードコート121の分解と溶解とがより促進する。
アルカリ処理工程132により、余剰材料120のセルロースエステル層11は外周部がけん化され、けん化材138(図8参照)となる。分解あるいは溶解したハードコート121の一部はこのようなけん化材138から脱離する。
アルカリ処理工程132の時間、すなわち、アルカリ水溶液148と余剰材料120との接触時間は、60分以上180分以内の範囲内であることが好ましく、80分以上120分以内の範囲内であることがより好ましい。
アルカリ処理工程132の後に、容器146からアルカリ水溶液148を廃液151として排出口146bから排出する。脱離してアルカリ水溶液148中に浮遊するハードコート121の小片は、アルカリ水溶液148とともに排出される。一方、粗製けん化材136は、排出口146bに設けられたフィルタ146cにより、排出されることなく容器146中に残る。
水58と粗製けん化材136とは、ハードコート除去装置141における洗浄ユニット41の容器56へ案内されると、攪拌機60により攪拌される。粗製けん化材136は、水58に例えば浸漬されて接触する。この水洗工程137により、けん化材138上に残っていたハードコート121がけん化材138から脱離して除去される。攪拌機60による攪拌により、ハードコート121はより効果的、効率的にけん化材138から脱離する。
水洗工程137の後の脱水工程32では、水58を排出口56bから廃液152として排出する。脱離して水58中に浮遊するハードコート121の小片は、水58とともに排出される。ハードコート121が容器56の内部へ残っている場合には、水洗工程137と脱水工程32とを繰り返す。このようなけん化材洗浄工程133を経て、けん化材138が湿潤状態で得られる。
酵素処理ユニット39の容器46には、所定の処方に予めつくられたセルラーゼ水溶液48が案内され、セルラーゼ水溶液48は温度コントローラ47により所定の範囲内となるように温度を制御されるともに、攪拌機50により攪拌される。けん化材138は、容器46に案内されると、貯留されたセルラーゼ水溶液48に例えば浸漬されて接触する。これにより、けん化層155が分解し、分解した一部はセルロースエステル層11から脱離する。この酵素処理工程25中は、セルラーゼ水溶液48の温度は、所定の温度範囲内に保持され、セルラーゼ水溶液48とけん化材138との混合物は攪拌機50により攪拌される。攪拌により、けん化層155がより効果的、効率的に分解する。
酵素処理工程25の時間、すなわち、セルラーゼ水溶液48とけん化材138との接触時間は、20分以上180分以内の範囲内であることが好ましく、60分以上180分以内の範囲内であることがより好ましく、90分以上180分以内の範囲内であることがさらに好ましい。
トリコデルマ リーセイ(trichoderma reesei)由来のセルラーゼと、アクレモニウム属由来のセルラーゼとが混合されたセルラーゼ水溶液48を用いることにより、けん化材155が分解するために要する時間がより短くなり、酵素処理工程25がより効率良く進む。例えば、タイプHのセルラーゼを用いることにより、タイプAとタイプGとのセルラーゼをそれぞれ単独で用いる場合に比べて酵素処理がより迅速に進み、より効率的に粗製セルロースエステル材28が生成する。
酵素処理工程25で使用されたセルラーゼ水溶液48は、容器46の排出口46bから廃液51として排出される。脱離してセルラーゼ水溶液48中に浮遊したけん化層155の小片は、セルラーゼ水溶液48とともに排出される。一方、粗製セルロースエステル材28は、排出口46bに設けられたフィルタ46cにより、排出されることなく容器46中に残る。
粗製セルロースエステル材28と水58とはけん化層除去装置38の洗浄ユニット41の容器56へ案内されて水洗工程31に供され、粗製セルロースエステル材28は、水58に例えば浸漬されて接触する。これによりけん化層155が脱離して除去される。また、攪拌機60による攪拌により、分解したけん化層155がセルロースエステル層11からより確実に、より効率的に剥がれる。
水洗工程31の後の脱水工程32では、水58を排出口56bから廃液61として排出する。脱離して水58中に浮遊したけん化層155の小片は、水58とともに排出される。脱水工程32を経たけん化層155が容器56の内部へ残っている場合には、水洗工程31と脱水工程32とを繰り返す。このようなCE材洗浄工程27により、湿潤セルロースエステル材33が得られる。
湿潤セルロースエステル材33は、乾燥ユニット42の収容部(図示無し)に案内されて乾燥工程22に供され、送風部(図示無し)からの乾燥した気体の供給により乾燥する。また、蒸発した水58は、排出機構(図示無し)により収容部外へ排出され、湿潤セルロースエステル材33の乾燥が促進される。このような乾燥工程22により、セルロースエステル材34が得られる。なお、セルラーゼによるけん化層155の分解は、粗製セルロースエステル材28に対する水58の接触の開始により容易に終了させることができる。したがって、この方法によるとセルロースエステル層11が分解され始める時点で酵素処理が終了するように水58を粗製セルロースエステル材28に接触させることで、セルロースエステル材34が高収率で回収される。
けん化材138について図8を参照しながら詳細を説明する。アルカリ処理工程132により、余剰材料120のセルロースエステル層11は、前述のように外周部がけん化される。これにより得られるけん化材138は、セルロースエスエル層11とけん化層155とを備える。けん化層155はセルロースエステル層11を覆うようにセルロースエステル層11の外周上に重なる。けん化層155はアルカリ処理工程132の前のセルロースエステル層11の一部がけん化して生成するものであるので、けん化材138の厚みT138はアルカリ処理工程132の前のセルロースエステル層11の厚みT11と略同等である。セルロースエステル層11を構成するセルロースエステルのアシル基置換度が2.86である場合には、アシル基置換度が0.5以上2.0以下の範囲のけん化層155が生成する。
図8ではセルロースエステル層11とけん化層155との境界を説明の便宜上図示しているが、この境界は必ずしも明確でなくてもよく、例えば目視で認めることができなくてもよい。なお、図8においては、厚み方向に矢線Tを付している。
なお、セルロースエステルを回収する対象物としての余剰材料120には、ハードコート121のセルロースエステル層11と密着する一方の面とは反対側の面に、他の機能層がさらに備えられていてもよい。他の機能層としては、例えば反射防止層がある。このような場合であっても、上記実施態様によりハードコート121とともに反射防止層も除去されて、セルロースエステル材34が回収される。
以下、余剰材料120がさらに反射防止層を備えた場合の反射防止層について詳細をそれぞれ説明する。
(反射防止層)
反射防止層は、ポリマーであるバインダや重合開始剤、分散剤等からなる少なくとも1層の層より構成される。したがって、反射防止層は2層以上の複層構造を有していても良い。反射防止層を構成する層としては、例えば、光拡散層、低反射率層、中屈折率層、高屈折率層、光学補償層、防眩性付与層等が挙げられる。また、反射防止層を構成する層は同一種でも良いし、異なる組成を有する層でも良く、上記の中から、適宜選択して所望の反射防止層を形成すれば良い。ただし、優れた反射防止効果を得るためにも、層として防眩性付与層を含んでいることが好ましい。
また、反射防止層に使用されるバインダとしては、飽和炭化水素鎖又はポリエーテル鎖を主鎖として有するポリマーであることが好ましい。このようなポリマーを構成するモノマーの構造や、芳香族環の有無、或いはハロゲン原子、硫黄原子、リン原子、窒素原子等の原子の有無、等を適宜選択してバインダとなるポリマーを用いることにより、形成させる層の屈折率を好適に調整することが可能となる。
反射防止層には、複数の透光性微粒子が添加されていることが好ましい。以下、可視光領域で吸収のない微粒子を透光性微粒子と称する。このような透光性微粒子を反射防止層中に複数添加させると、微粒子としての作用により層の屈折率を容易に調整することができる他に、透光性微粒子は光を透過させるため、層の防眩性を好適に調整することができる。透光性粒子については、特開2003−302506号公報の[0044]に具体的記載があり、本発明に適用することができる。なお、透光性微粒子は、形成させる層の屈折率に応じて屈折率差を考慮しながら適宜選択することが好ましい。
透光性微粒子としては、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、インジウム、亜鉛、錫、アンチモンのうち、少なくとも1種の金属酸化物であることが好ましい。また、その平均粒径は、0.2μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以下であり、特に好ましくは0.06μm以下である。上記の金属酸化物としては、例えば、TiO2、ZrO2、Al2O3、In2O3、ZnO、SnO2、Sb2O3、ITO、SiO2等が挙げられる。中でも、TiO2及びZrO2は、高屈折率化の点で好ましい。なお、各微粒子の表面を、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等で処理すると、バインダに対する分散性や相溶性を向上させることができるので好ましい。上記の微粒子の添加量は、添加させる層の全質量に対して10〜90%であることが好ましく、より好ましくは20〜80%であり、特に好ましくは、30〜75%である。
透光性微粒子のうち、防眩性を付与する目的で用いられる微粒子としては、フィラ粒子よりも粒径が大きく、平均粒径が1〜10μm程度のマット粒子が好ましく用いることができる。マット粒子としては、例えば、シリカ粒子、TiO2粒子等の無機化合物粒子や、アクリル粒子、架橋アクリル粒子、ポリスチレン粒子、架橋スチレン粒子、メラミン粒子、ベンゾグアナミン粒子等の有機化合物粒子等が挙げられる。中でも、高い防眩性を発現させることができることから、架橋スチレン粒子、架橋アクリル粒子、シリカ粒子を用いることが好ましい。マット粒子の形状は、真球或いは不定形と問わず、特に限定されるものではない。粒径や形状の異なる2種類以上のマット粒子を併用させることも可能である。なお、防眩性の層を形成させるためには、マット粒子の含有量が、形成させる層1m2辺りに対して10〜2000mgであることが好ましい。より好ましくは、100〜1400mgである。
上記マット粒子は、層中で均一に分散されていることが好ましい。また、各粒子の粒子径が略同一であることが好ましい。例えば、平均粒径よりも20%以上大きい粒子を粗大粒子とするとき、全粒子に含まれる粗大粒子が含まれる割合は1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以下である。したがって、マット粒子は、粒径が略同一であり、層中に均一に分散させることを目的として、出来る限り程度の強い分級が多く行われたものを用いることが好ましい。なお、上記に示す微粒子は、粒径が光の波長よりも十分に小さいため、光の散乱が生じない。
上記の方法で回収されたセルロースエステル材34は、溶液製膜方法によりフィルムを製造するためのポリマー成分として用いられる。図9に示すように、溶液製膜方法によりフィルム160を製造するための溶液製膜設備161は、例えば、流延装置164と、テンタ165と、乾燥装置166と、巻取装置167とを上流側から順に備える。
流延装置164は、ドープ171から湿潤フィルム172を形成するためのものである。流延装置164は、支持体としてのベルト173と、ローラ176,177と、流延ダイ178とを備える。ベルト173は環状に形成されており、ローラ176,177に巻き掛けられる。ローラ176,177の少なくとも一方は、駆動機構(図示無し)により周方向に回転し、この回転によりベルト173は長手方向に走行して周回する。流延ダイ178は、ベルト173上に配されている。流延ダイ178は案内されてきたドープ171を流出する。
支持体としては、ベルト173に代えてドラム(図示無し)を用いてもよい。ベルト173の近傍には、ローラ181が配されており、駆動機構(図示無し)により周方向に回転する。湿潤フィルム172が巻き掛けられる。
ローラ181の下流に配されるテンタ165は、湿潤フィルム172を乾燥しながら幅方向に張力を付与するためのものである。テンタ165は、例えば、湿潤フィルム172の各側端部を把持する複数のクリップ(図示無し)と、クリップが取り付けられたチェーン(図示無し)と、チェーンの走行路を構成するレール(図示無し)と、送風機(図示無し)とを備える。
複数のクリップは、チェーンの長手方向に並ぶように取り付けられており、レール上をチェーンが走行することにより各クリップはチェーンの走行路上を搬送される。湿潤フィルム172の各側端部に配されるレールとレールとの距離を変えることにより湿潤フィルム172に付与される幅方向の張力が変えられる。送風機は湿潤フィルム172の搬送路上に設けられ、乾燥した気体を流出する。
乾燥装置166は、湿潤フィルム172を乾燥してフィルム160にするためのものであり、湿潤フィルム172を支持する複数のローラ166aと、送風機(図示無し)を複数備える。巻取装置167は長尺のフィルム160をロール状に巻き取るためのものであり、巻き芯がセットされてこの巻き芯を周方向に回転する。
上記構成の作用を説明する。ドープ171は、セルロースエステル材34を溶媒183に溶解することによりつくられる。セルロースエステル材34に加えて、セルロースをエステル化することにより新たにつくられたセルロースエステルからなるセルロースエステル材184を用いてもよい。また、ドープ171には、可塑剤や紫外線吸収剤等の添加剤を添加してもよい。走行中のベルト173に対して流延ダイ178から連続的にドープ171を流出することにより、ベルト173上に流延膜182が連続的に形成される。流延膜182は、ベルト173の走行により搬送される間に、送風機等の乾燥手段(図示無し)により乾燥されたり、冷却または加熱される等により、自己支持性をもつようになる。
回転するローラ181に湿潤フィルム172を巻き掛けることにより、流延膜182は剥がされる。湿潤フィルム172は、テンタ165により幅方向に所定の張力を付与されながら乾燥をすすめられる。乾燥中の湿潤フィルム172に対する幅方向における張力を調整することにより、湿潤フィルム172の幅を拡げたり、小さくしたり、一定に保持したりする。乾燥装置166に案内された湿潤フィルム172は搬送されながら乾燥し、フィルム160となる。巻取装置167に案内されてくるフィルム160は巻き芯の回転により巻き芯に巻き取られる。
上記の実施態様は、セルロースエステルを回収する対象物が、セルロースエステル層11とハードコート121とのみから構成される場合であるが、本発明はこの態様に限られない。例えば、セルロースエステルを回収する対象物は、セルロースエステル層11のハードコート121が形成されている表面とは反対側の表面に光学異方性部(図示無し)が形成されているものであってもよい。光学異方性部は、周知の通り、通常は液晶層と液晶層の液晶化合物を配向させる配向層とから構成される。配向層はセルロースエステル層11に密着して配され、液晶層は配向層上に配される。配向層は、例えばポリビニルアルコール(PVA)や変性PVAから形成され、厚みは概ね0.2μm以上1.0μm以下の範囲内である。液晶層は、例えば液晶性ディスコティック化合物や棒状液晶化合物から形成され、厚みは概ね0.5μm以上3.0μm以下の範囲内である。
セルロースエステル層11の一方の表面にハードコート121が配され、他方の表面に光学異方性部が配される材料のセルロースエステル層11からセルロースエステルを回収する方法は、光学異方性部を除去する光学異方性部除去工程を、けん化層除去工程21の前に有する。この方法は、例えば、図4の回収フロー130における破砕工程26とハードコート除去工程131との間、または、ハードコート除去工程131とけん化層除去工程21との間に、光学異方性部除去工程を有する。このように、光学異方性部を除去してからハードコート121を除去してもよいし、ハードコート121を除去してから光学異方性部を除去してもよい。
光学異方性部除去工程は、熱水処理工程を有し、さらに洗浄工程を有してもよい。熱水処理工程は、所定の範囲内に温度が調整された液体の水に光学異方性部を浸漬する等して接触させ、これにより光学異方性部の配向層の分解と溶解とを行う工程である。水の温度は、90℃以上とする。この熱水処理工程により、光学異方性部はセルロースエステル層11から脱離する。一旦脱離した光学異方性部の小片の少なくとも一部がセルロースエステル層11に付着する場合には、洗浄工程に供することにより、付着した光学異方性部を除去する。洗浄工程は、水で洗浄する工程である。熱水処理と洗浄とは、アルカリ処理ユニット142や洗浄ユニット41と同様の構成の装置で行うことができる。
次に、本発明について実施例を挙げてさらに詳細に説明する。また、本発明に対する比較実験として下記の比較例を実施した。なお詳細は実施例1で説明し、実施例2,比較例1については、実施例1と同じ処理や条件の説明を略す。
図1及び図2に示すように、ハードコートウェブ70から所定の寸法をもつ矩形のハードコートシート71を切り出した。余剰材料120について、図4に示す回収フロー130によりセルロースエステルをセルロースエステル材34として回収した。セルロースエステル材34の回収は、図5に示す回収設備90により行った。
50gの余剰材料120をクラッシャ37へ供給し、クラッシャ37により破砕した。破砕工程26では、クラッシャ37の切断機により、余剰材料120をより細かくなるように切断し、概ね0.5cm×0.5cm〜1.0cm×1.0cmの大きさの材料片(チップ)にした。この材料片にされた余剰材料120をクラッシャ37の送出機により、ハードコート除去装置141へ風送した。
アルカリ処理ユニット142の容器146には、アルカリ水溶液148と余剰材料120とを供給し、これらの混合物の温度を温度コントローラ147により50℃以上60℃以下の範囲内に保持した。アルカリ水溶液148のアルカリはNaOHであり、アルカリの濃度は7%であり、アルカリ水溶液148の水素イオン指数pHは12.5である。アルカリ処理工程132の間は、容器146内を攪拌機150により攪拌し続けた。アルカリ処理工程132の時間は、100分とした。
アルカリ処理工程132で得られた粗製けん化材136をけん化材洗浄工程133に供するために、ハードコート除去装置141の洗浄ユニット41へ案内した。けん化材洗浄工程133の実施回数は1回である。水58の温度は、20℃とした。けん化材洗浄工程133の間は、容器56内を攪拌機60により攪拌し続けた。
ハードコート除去工程131における1回の脱水工程32を経て得られた湿潤状態のけん化材138をけん化層除去装置38へ案内して、けん化層除去工程21に供した。けん化層除去工程21における条件を表2に示すように互いに異なる条件にした複数の実験を行い、それぞれ実験1〜実験12とした。なお、酵素処理工程25の時間は、いずれの実験も180分とした。セルラーゼ水溶液48は、酢酸に酢酸ナトリウムを添加した液を混合することにより、水素イオン指数pHを表2の「液のpH」欄に示す値になるように調整した。なお、酵素処理工程25においては、けん化材138は、セルラーゼ水溶液48中に浸漬させた。
各セルラーゼ水溶液48におけるセルラーゼの質量は、けん化材138の質量に対する割合として、表2の「濃度」欄に%の単位で示す。酵素処理工程25中のセルラーゼ水溶液48の温度は、表2の「液の温度」欄に℃の単位で示す。
酵素処理工程25により得られた粗製セルロースエステル材28を、けん化層除去装置38の洗浄ユニット41へ案内して、CE材洗浄工程27へ供した。CE材洗浄工程27の実施回数は1回とした。
けん化層除去工程21により得られた湿潤セルロースエステル材33を、乾燥ユニット42へ供して乾燥し、セルロースエステル材34を得た。各実験で得られたセルロースエステル材34の質量は、表2の「セルロースエステル材」欄にgの単位で示す。
得られたセルロースエステル材34につき、光学異方性部74とけん化層155との除去の程度をそれぞれ評価した。評価は、以下の目視評価法により行った。各実験の評価結果は表2に示す。
<目視評価法>
15gのセルロースエステル材34を溶剤85.0gに溶解して、セルロースエステル材34の濃度が15%のドープをつくった。溶剤は、メチレンクロライド78.0gとメタノール6.8gとの混合物である。得られたドープを目視で観察し、ゲル状や固体の異物を確認した。これらの異物のうち径が100μm以上のものの数に基づき、ドープを以下の基準で評価した。A〜Cは合格レベルであり、D〜Eは不合格レベルである。
A:0個以上2個以下
B:3個以上5個以下
C:6個以上10個以下
D:11個以上20個以下
E:21個以上
[比較例1]
(1)比較実験1
実施例1と同様に50gの余剰材料120をクラッシャ37で切断して、概ね0.5cm×0.5cm〜1.0cm×1.0cmの大きさの材料片(チップ)にした。この材料片にされた余剰材料120に対して下記の洗浄研磨工程に供した。
まず、研磨剤を含む洗浄液と細かくした余剰材料120とを、実施例1で用いた酵素処理ユニット39の容器46と同様の構成をもつ容器に入れ、余剰材料120を洗浄液に浸漬した。研磨剤としては珪藻土を用いた。セルラーゼ水溶液は使用していない。そこで、表2の「セルラーゼ水溶液の種類欄」には「珪藻土処理」と記載する。洗浄液における珪藻土の質量は、余剰材料120の質量に対して表2の「濃度」欄に示す百分率とした。洗浄液の温度は、表2の「液の温度」欄に℃の単位で示し、洗浄液の水素イオン指数は表2の「液のpH」欄に示す。
得られたセルロースエステル材の質量は、表2の「セルロースエステル材」欄にgの単位で示す。また、得られたセルロースエステル材につき、実施例1と同様に評価した。評価結果は表2に示す。
(2)比較実験2
実施例1のセルラーゼ水溶液48に代えて、水を用いた。そこで、表2の「セルラーゼ水溶液の種類」欄には「セルラーゼ添加無し」と記載するとともに、「濃度」欄には「0.0」と記載する。この水には、酢酸に酢酸ナトリウムを添加した液を混合し、この混合により水のpHを表2の「液のpH」欄に示す値となるように調整した。その他の条件は、実施例1と同じである。
実施例1の酵素処理工程25の時間を30分に代え、これを実験1とした。また、実施例1におけるセルラーゼ水溶液48を表3の「セルラーゼ水溶液」欄に示すものにそれぞれ代えて、実験2〜6とした。なお、実験2〜6の酵素処理工程25の時間は、いずれも30分とした。
得られたセルロースエステル材34の質量は表3の「セルロースエステル材」欄にgの単位で示す。また、得られたセルロースエステル材34につき、ハードコート121及びけん化層155との除去の程度をそれぞれ評価した。評価は、前述の目視評価法により行った。各評価結果は表3に示す。
実施例1の余剰材料120に代えて、セルロースエステル層11の一方の面にハードコート121、他方の面に反射防止層が備えられた余剰材料(図示無し)を用いた。反射防止層は3層構成とされており、セルロースエステル層11側から防弦性付与層、高屈折率層、低屈折率層の順に積層されたものである。この余剰材料を、アルカリ処理工程132,けん化材洗浄工程133に供し、けん化材138を得た。アルカリ処理工程132の時間は、90分とし、アルカリ水溶液148でのアルカリ水溶液148と余剰材料との混合物の温度は95℃とした。アルカリ処理工程132、けん化材洗浄工程133についてのその他の条件は、実施例1と同じである。得られたけん化材138から、下記の実験1〜3でセルロースエステル材34をそれぞれ回収した。
実験1〜3では、それぞれ45gのけん化材138を酵素処理工程25に供し、その後、CE材洗浄工程27、乾燥工程22を経て、セルロースエステル材34を得た。用いたセルラーゼ水溶液48は、実験1ではタイプA、実験2ではタイプG、実験3ではタイプHである。実験1ではタイプAのセルラーゼ(エンチロンMIT conc)を2g、実験2ではタイプGのセルラーゼ(エンチロンBAS)を2g使用し、実験3では、1gのエンチロンMIT concと1gのエンチロンBASとの混合物をタイプHのセルラーゼとした。酵素処理工程25は、水素イオン指数pHが4.5、セルラーゼ水溶液48の温度が55℃、酵素処理時間が1時間、の条件で実施している。また、セルラーゼ水溶液48と45gのけん化材138を入れた状態の全質量は150gとした。
実験1〜3で得られた各セルロースエステル材34を、メチレンクロライド78.0gに溶解し、前述の目視評価法、すなわち得られた液を目視で観察し、A〜Eの基準で評価した。実験1の結果はA(異物の数は2個)、実験2の結果はC(異物の数は8個)、実験3の結果はA(異物の数は0個)であった。