図1は、マスクMの表面に電子ビームBを照射して所望のパターンを描画する電子ビーム描画装置を示している。この電子ビーム描画装置は、描画室1と、描画室1の天井部に立設した電子ビーム照射手段たる電子光学鏡筒2とを備えている。
描画室1には、ステージ3が配置されている。そして、ステージ3の上には、マスクMが載置されている。マスクMは、電子ビームの描画対象となる試料の一例であり、例えば、ガラス基板上にクロム膜などの遮光膜とレジスト膜とが積層されたものである。
ステージ3は、電子ビームBの光軸方向と直交するX方向およびY方向に移動可能である。ステージ3の上には、マーク台4が立設されている。マーク台4には、図示されない基準マークが設けられている。基準マークは、電子の反射率がマスクMと同程度の材料を用いて形成されることが好ましい。また、基準マークの形状は、矩形、円形、三角形または十字形などとすることができる。
電子ビーム描画装置は、描画途中で基準マークの位置を検出する。これにより、ビームドリフト量を測定して、描画位置が所望の位置となるように補正する。例えば、まず、描画直前に基準マークの座標を求め、次いで、描画中に描画動作を一時停止して再び基準マークの座標を求める。具体的には、電子ビームで基準マークの上を走査し、その反射電子を検出器に取り込む。得られた波形を解析することにより、基準マークの位置を検出することができる。次いで、先の座標との差を求めてビームドリフト量を検出する。尚、マーク台4を設けずに、マスクMの上に基準マークを設けてもよい。
図1において、電子光学鏡筒2は、内蔵する電子銃101から発せられた電子ビームBを所要の断面形状に成形した後、偏向させてマスクMに照射する部分である。
電子光学鏡筒2の内部には、図1で上から順に、電子銃101、照明レンズ102、ブランキング偏向器103、ブランキングアパーチャ104、第1成形アパーチャ105、投影レンズ106、成形偏向器107、第2成形アパーチャ108、主偏向器109、対物レンズ110、副偏向器111が配置されている。
電子銃101から発せられた電子ビームBは、照明レンズ102により、第1成形アパーチャ105に照射される。尚、ブランキングオン時(非描画時期)には、電子ビームBは、ブランキング偏向器103により偏向されて、ブランキングアパーチャ104の上に照射され、第1成形アパーチャ105には照射されない。
第1成形アパーチャ105には、矩形状の開口が設けられている。これにより、電子ビームBは、第1成形アパーチャ105を透過する際に、その断面形状が矩形に成形される。その後、電子ビームBは、投影レンズ106によって、第2成形アパーチャ108の上に投影される。ここで、成形偏向器107は、第2成形アパーチャ108への電子ビームBの投影場所を変化させる。これによって、電子ビームBの形状と寸法が制御される。
第2成形アパーチャ108を透過した電子ビームBの焦点は、対物レンズ110によりマスクMの上に合わせられる。そして、主偏向器109と副偏向器111とによって、マスクMの上での電子ビームBの照射位置が制御される。
描画室1と電子光学鏡筒2における電子ビームBの形状や照射位置、照射のタイミングなどは、照射制御部7を通じて全体制御部10によって制御される。
全体制御部10には、記憶媒体であるメモリ11が接続されている。メモリ11には、パターンデータが記憶されている。全体制御部10は、メモリ11からのパターンデータに基づいて、描画すべき図形の形状や位置を規定するレイアウトデータを作成する。
設計者(ユーザ)が作成したCADデータは、OASISなどの階層化されたフォーマットの設計中間データに変換される。設計中間データには、レイヤ(層)毎に作成されて各マスクに形成されるパターンデータ(設計パターンデータ)が格納される。メモリ11には、このパターンデータが記憶される。
ここで、一般に、電子ビーム描画装置は、OASISデータを直接読み込めるようには構成されていない。すなわち、電子ビーム描画装置の製造メーカー毎に、独自のフォーマットデータが用いられている。このため、OASISデータは、レイヤ毎に各電子ビーム描画装置に固有のフォーマットデータに変換されてから装置に入力される。
全体制御部10には、メモリ11を通じてフォーマットデータが入力される。パターンデータに含まれる図形は、長方形や三角形を基本図形としたものであるので、全体制御部10では、例えば、図形の基準位置における座標(x,y)、辺の長さ、長方形や三角形などの図形種を区別する識別子となる図形コードといった情報であって、各パターン図形の形、大きさ、位置などを定義したレイアウトデータが作成される。
さらに、数十μm程度の範囲に存在する図形の集合を一般にクラスタまたはセルと称するが、これを用いてデータを階層化することが行われている。クラスタまたはセルには、各種図形を単独で配置したり、ある間隔で繰り返し配置したりする場合の配置座標や繰り返し記述も定義される。
レイアウトデータは、電子ビームBのサイズにより規定される最大ショットサイズ単位で分割され、併せて、分割された各ショットの座標位置、サイズおよび照射時間が設定される。そして、描画する図形パターンの形状や大きさに応じてショットが成形されるように、描画データが作成される。描画データは、短冊状のストライプ単位で区切られ、さらにその中は副偏向領域に分割されている。つまり、チップ全体の描画データは、複数の帯状のストライプ単位と、ストライプ内に配置される複数の副偏向領域単位とからなるデータ階層構造になっている。
また、電子ビーム描画装置は、ステージ3のX方向およびY方向の位置を測定するステージ位置測定手段12を備えている。ステージ位置測定手段12は、ステージ3に固定したステージミラー3aへのレーザ光の入反射でステージ3の位置を測定するレーザ測長計を有する。
照射制御部7は、全体制御部10から入力される描画データに基づき、ステージ位置測定手段12で測定したステージ3の位置を確認しつつ、電子光学鏡筒2内の電子ビームBの成形制御や偏向制御を行って、マスクMの所要の位置に電子ビームBを照射する。
図2は、電子ビームによる描画方法の説明図である。この図に示すように、マスクMの描画領域51は、複数の短冊状のストライプ52に分割されている。電子ビームBによる描画は、ステージ3が一方向(例えば、X方向)に連続移動しながら、ストライプ52毎に行われる。ストライプ52は、さらに複数の副偏向領域53に分割されており、電子ビームBは、副偏向領域53内の必要な部分のみを描画する。尚、図2では、各ストライプ52の幅を同じとしている。この場合、通常、ストライプ52は、主偏向器109の偏向幅で決まる短冊状の領域であり、副偏向領域53は、副偏向器111の偏向幅で決まる単位領域である。
副偏向領域53の基準位置の位置決めは、主偏向器109で行われ、副偏向領域53内での描画は、副偏向器111によって制御される。すなわち、主偏向器109によって、電子ビームBが所定の副偏向領域53に位置決めされ、副偏向器111によって、副偏向領域53内での描画位置が決められる。さらに、成形偏向器107と、第1成形アパーチャ105および第2成形アパーチャ108とによって、電子ビームBの形状と寸法が決められる。そして、ステージ3を一方向に連続移動させながら、副偏向領域53内を描画し、1つの副偏向領域53の描画が終了したら、次の副偏向領域53を描画する。ストライプ52内の全ての副偏向領域53の描画が終了したら、すなわち、ストライプエンド(ストライプの終端)に到達したら、ステージ3を連続移動させる方向と直交する方向(例えば、Y方向)にステップ移動させる。その後、同様の処理を繰り返して、ストライプ52を順次描画して行く。
副偏向領域53は、副偏向器111によって、主偏向領域よりも高速に電子ビームBが走査されて描画される領域であり、一般に最小描画単位となる。副偏向領域53内を描画する際には、パターン図形に応じて準備された寸法と形状のショットが成形偏向器107により形成される。具体的には、電子銃101から出射された電子ビームBが、第1成形アパーチャ105で矩形状に成形された後、成形偏向器107で第2成形アパーチャ108に投影されて、そのビーム形状と寸法を変化させる。その後、電子ビームBは、副偏向器111と主偏向器109により偏向されて、ステージ3上に載置されたマスクMに照射される。
マスクMに電子ビームBが照射されると反射電子が発生し、上述した電子ビーム光学鏡筒2内の各種レンズなどに衝突してチャージアップされ、これによって新たな電界が発生する。すると、マスクMへ向けて偏向された電子ビームBの軌道が変化し、描画位置が所望の位置からずれるドリフトが起こるので、描画途中でステージ3上の基準マークの位置を検出してドリフト量を測定し、描画位置が所望の位置となるように補正する。
ここで、従来は、予め設定された補正インターバルにしたがい、ストライプエンドまで描画を終えた後に、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークを走査してその位置を検出し、次いで、検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正していた。補正誤差を小さくしようとすると、測定の時間間隔を短くして、基準マークの検出回数を増やす必要がある。
そこで、本実施の形態では、マスクMに描画されるパターンの面積密度に応じて、ストライプをその長手方向に沿って1つ以上のブロックに分割する。ここで、電子ビーム描画を行うにあたっては、まず半導体集積回路のレイアウトが設計され、次いで、パターンレイアウトが定義されたレイアウトデータ(設計データ)が生成される。レイアウトデータはさらに複数のデータ処理を経た後、描画データとして生成される。描画は、この描画データにしたがって行われる。本実施の形態においては、描画データに対してブロック単位にフラグを付加する。そして、このフラグによってドリフト補正を行うか否かを判定する。
例えば、ブロックエンドにドリフト補正を行うフラグが付されていれば、次のブロックを描画する前に一旦描画を停止し、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させてその位置を検出する。そして、検出された位置を基にドリフト補正を行う。その後、電子ビームの照射位置を次のブロックに移動させて描画を行う。このブロックエンドにドリフト補正を行わないフラグが付されていれば、ドリフト補正を行わずに次のブロックに移動して描画を続ける。そして、ストライプエンドまで描画をし終えた後は、必ずドリフト補正を行うようにすることができる。
上記の工程を図1を参照して説明する。図1のレイアウトデータ生成回路13では、メモリ11からのパターンデータに基づいて、レイアウトデータが作成される。次いで、パターン面積密度演算回路17において、レイアウトデータのパターンの面積密度が求められる。次に、ストライプ情報取得回路18は、レイアウトデータをどのようなストライプに分割し、さらに各ストライプのブロックへの分割の数をどのようにするかについての情報を取得する。そして、取得した情報に基づき、ストライプ情報取得回路18において、レイアウトデータから、フラグを付加された描画データが生成する。
照射制御部7は、全体制御部10から入力される描画データに基づいて、マスクMの所要の位置に電子ビームBを照射する。照射制御部10によってフラグが付加された描画データが読み出されると、照射制御部10は、電子ビームBの照射位置を基準マークまで移動させる。その後、電子ビームBで基準マークの位置を走査し、ステージ位置測定手段12によってその位置を検出する。また、ドリフト量測定回路14でドリフト量を測定する。
フラグは、全てのブロックに付加されている必要はなく、例えば、ドリフト補正を行うブロックにのみフラグを付してもよい。この場合は、フラグを読み取ると、描画動作を停止してドリフト補正を行う。また、フラグは、ブロックエンドではなく、ブロックの最初に付加されていてもよい。例えば、ブロックの最初にドリフト補正を行うフラグが付されていれば、そのブロックの描画を終えたところで描画を停止し、ドリフト補正を行うことができる。
このように、本実施の形態では、ストライプを分割することによって新たに設けられたブロック単位でドリフト補正を行う。これにより、ストライプ単位でドリフト補正を行う従来法に比べて、ドリフト補正の精度を向上させることができる。
本実施の形態において、ストライプをブロックに分割する方法は、以下のようにして実施される。但し、これに限られるものではない。
まず、描画領域を基準となる幅のストライプに分割するとともに、描画領域を所定のサイズでメッシュ状に分割して複数の小領域を形成する。ここで、「基準となる幅」は適宜設定することができるが、その上限は主偏向器の偏向幅の最大値であり、下限はゼロより大きい値、例えば、副偏向器の偏向幅とすることができる。尚、メッシュは、(後述する)かぶり補正において、パターンの面積密度を算出する際に用いるメッシュと同じものとすることができる。
次いで、小領域毎にパターンの面積密度を算出し、基準となる幅のストライプに含まれる小領域の面積密度の平均値を求める。この平均値が、本実施の形態におけるパターンの面積密度である。そして、得られた平均値に応じて、ストライプをブロックに分割する数(分割数)を調整する。例えば、面積密度の平均値が所定値より大きい場合には、その大きさの程度に応じて、2つまたはそれ以上の分割数となるように、ストライプを複数のブロックに分割する。このとき、ブロックの分割は、ストライプの幅の方向に、例えば、ストライプの伸びる方向に各ブロックが1列に配列するように行うことができる。
本実施の形態において、ストライプの分割によって設けられるそれぞれのブロックは、上述した副偏向領域を単位として構成されるものであることが好ましく、また、1つのストライプの分割により設けられる複数のブロックは、それぞれ略等しい数の副偏向領域からなることが好ましい。
一方、面積密度の平均値が所定値より小さい場合には、ストライプの分割数を1とし、1つのストライプが1つのブロックとなるようにする。すなわち、この場合、ストライプは実質的には分割されない。
以上の方法でストライプに設けられたブロックに対し、例えば、各ブロックエンドにドリフト補正を行うためのフラグを付しておけば、ブロック単位で、基準マークの位置の検出と検出された位置を基にしたドリフトの補正を行うことが可能である。すなわち、この方法によれば、従来と同様のストライプエンドまでの描画を終えた後のドリフト補正に加えて、ストライプエンドまでの描画の途中で、分割された各ブロックに基づく基準マークの位置検出とドリフト補正が実施される。
例えば、パターンの面積密度とドリフト量には相関があり、一般に、パターンの面積密度が大きいとドリフト量は大きくなる。そこで、例えば、1つのストライプ中におけるパターンの面積密度の平均値が50%以上である場合には、ストライプをその幅方向に2つのブロックに分割する。すると、1つのストライプにおいて、ブロックエンドが2つになるので、従来法に比較して、基準マークの位置を検出する動作を2倍にすることができる。これにより、次回検出するまでの時間を短くすることができるので、従来法では見逃していたドリフトを検出することができるようになり、ドリフト補正の精度を従来より向上させることが可能となる。
このとき、各ブロックが、上述した副偏向領域を単位とするものであれば、ブロック内のある1つの副偏向領域での描画を終えた後、次に別のブロック内のある副偏向領域で描画が開始される前に、ドリフト補正を実行することができる。また、1つのストライプの分割により設けられる各ブロックが、略等しい数の副偏向領域からなれば、ブロック単位で行われるドリフト補正は、略均等な間隔で行なわれる。これにより、高い精度でのドリフト補正が可能となる。
また、ストライプをブロックに分割する別の方法として、ストライプをブロックに分割する分割数を予め決めておくこともできる。すなわち、描画領域を基準となる幅のストライプに分割するとともに、そのストライプを幅の方向に、例えば、2〜10のように、予め決められた数のブロックに分割する。そして、描画領域を前述した方法と同様に、所定のサイズでメッシュ状に分割して複数の小領域を形成する。
次いで、小領域毎にパターンの面積密度を算出し、基準となる幅のストライプに設けられた各ブロックに含まれる小領域の面積密度の平均値を求める。この各ブロックに含まれる小領域の面積密度の平均値が、本実施の形態におけるパターンの面積密度である。そして、得られた平均値に応じて、ストライプに設けられたブロックに、ドリフト補正を行うためのフラグを付する。例えば、面積密度の平均値が所定値より大きい場合には、そのブロックに対して、ドリフト補正を行うフラグを付する。
一方、面積密度の平均値が所定値より小さい場合には、そのブロックに対して、ドリフト補正を行うフラグは付さない。すなわち、ドリフト補正を行わないフラグを付す。その結果、例えば、あるストライプを所定数で分割して設けられたブロックの全てにおいて、その面積密度の平均値が所定値より小さい場合、そのストライプのブロックには、ドリフト補正を行うためのフラグは付されないことになる。つまり、この場合、ストライプは実質的にブロックへ分割されないのと同様となる。
このとき、このストライプをブロックに分割する別の方法では、ストライプに設けられた各ブロックの面積密度の平均値に関わらず、そのストライプエンドに位置するブロックのブロックエンドでは、必ず、基準マークの位置検出とドリフト補正が実行されるように決めておくことができる。そのようにすれば、上述したように、ストライプを構成する全てのブロックの面積密度の平均値が所定値より小さい場合であっても、ストライプエンドで1回のドリフト補正が行われることになる。
この方法によっても、従来検出が困難であったドリフトを検出して補正精度を向上させることが可能である。すなわち、ストライプをブロックに分割する分割数を予め決めておき、ブロック単位での基準マークの位置の検出と検出された位置を基にしたドリフトの補正を行うことにより、従来から行われていたストライプエンドまでの描画を終えた後のドリフト補正に加えて、ストライプエンドまでの描画の途中でもドリフト補正を行うことになる。つまり、パターンの面積密度に応じて、ドリフト補正の回数を増やすことができるので、ドリフト補正後の誤差を小さくすることが可能となる。
本実施の形態においては、マスクMに描画されるパターンの面積密度に応じてストライプの幅を変えることが好ましい。これにより、ブロック単位のドリフト補正を行うことで基準マークの位置を検出する動作が増加し、結果として全体の描画時間が長くなるのを抑制することが可能である。すなわち、パターンの面積密度が小さい場合には、ドリフト量が小さくなると予測されるので、ストライプ幅を基準値より拡げることができる。また併せて、ブロックへの分割数を1にして、ストライプを実質的に分割しないようにすれば、基準マークを検出する回数を減らすことができる。これにより、ストライプをブロックに分割し、ブロック単位でドリフト補正を行うようにすることで増大した基準マークの検出回数を相殺し、全体の描画時間が増えるのを抑制することが可能である。
また、一方で、パターンの面積密度が大きい場合においても、ストライプ幅の基準値からの調整は、有利な効果を発揮する。すなわち、パターンの面積密度が大きいと、ドリフト量が大きくなることが予測されるので、ストライプをブロックに分割するとともに、ストライプ幅を基準値より狭くすることができる。
より具体的には、1つのストライプ中におけるパターンの面積密度の平均値が所定値以上である場合には、基準値幅のストライプをその幅方向と直交する方向に2つに分割する。これにより、その基準値となる幅のストライプに含まれることになるブロックの数は2倍になる。そのため、例えば、ブロックエンドまで描画した後に基準マークの位置を検出する動作を、さらに2倍にすることができる。つまり、電子ビームによる基準マークの位置検出について、次回検出するまでの時間を一層短くすることができるので、従来法では見逃していたドリフトを検出することができるようになる。これにより、ドリフト補正の精度をより向上させることが可能となる。
このように、ストライプをその幅方向に分割して各ブロックに分割し、ブロック単位の基準マークの位置検出とドリフト補正を行うことで、ドリフト補正の精度を従来より向上させることが可能となる。加えて、ストライプ幅を基準値と比べて調整する工程を組み合わせることで、さらに、ドリフト補正の精度を向上させることができ、また一方で、全体の描画時間が増えるのを抑制することも可能になる。
以下、図面を用い、比較例となる技術と比較しながら、本発明の実施形態をより具体的に説明する。
図3は、本実施の形態の比較例であり、ストライプの幅が全て同じ基準の幅であってストライプのブロックへの分割がされない例である。S101〜S108は、それぞれストライプを示している。
図3では、例えば、Y軸方向に対して同じ基準の幅で複数の短冊状に分割されたS101について、ストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。次いで、S102を描画し、続いてS103を描画する。S103のストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。そして、検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正する。
次に、S104を描画し、続いてS105を描画する。S105のストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。同様に、S106を描画し、続いてS107を描画した後、電子ビームを照射して基準マークの位置を検出する。そして、検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正した後、S108を描画する。
一方、図4は、本実施の形態を示し、ストライプがブロックに分割され、ストライプ幅が異なる例である。尚、マスクMに描画されるパターンは、図3の例と同じとする。
図4において、S203、S204およびS208は、いずれも図3のストライプ幅と同じである。ここでは、これらの幅を基準となるストライプ幅とする。
S201、S202、S206およびS207の各ストライプ幅は、基準となるストライプ幅よりも狭い。これに対して、S205とS209の各ストライプ幅は、基準となるストライプ幅より広い。
図4に示すように、S201およびS206はそれぞれ、ブロックB201−1、B201−2、B201−3およびブロックB206−1、B206−2に分割されている。S201は、実質的に等しい大きさの3つのブロックB201−1、B201−2、B201−3に分割され、分割数は3である。一方、S206は、実質的に等しい大きさの2つのブロックB206−1、B206−2に分割され、分割数は2となっている。これら以外のS202〜S204およびS207〜S209の分割数はそれぞれ1であって、1つのストライプが1つのブロックを構成し、実質的なストライプの分割はされていない。
本実施の形態では、例えば、各ブロック(B201−1、B201−2、B201−3、B206−1、B206−2)にフラグを付加し、1つのブロックについて描画を終えたところで、ドリフト補正を行うことができる。すなわち、ブロックB201−1の描画を終えたところで描画を一旦停止し、電子ビームで基準マークの位置を検出する。次いで、ブロックB201−2の描画を終えたところで再び描画を停止して、電子ビームで基準マークの位置を検出する。この検出位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回の検出までの位置変動量としてドリフト補正する。ブロックB201−3、B206−1、B206−2についても同様であり、それぞれブロック単位での描画を終えたところで描画を停止して、ドリフト補正を行う。
一方、S202などのように、ストライプが分割されず、1つのストライプが1つのブロックとなるような場合には、描画後のドリフト補正を行わないようにすることもできる。あるいは、1つのストライプを描画し終えたところ、すなわち、ストライプエンドで必ずドリフト補正を行うようにすることもできる。
以上のようなドリフト補正を行うタイミングは、描画を開始する前に予め決定される。
上記例によれば、ブロックB201−1、B201−2、B201−3、B206−1、B206−1に分割されたS201やS206のようなストライプについては、各ブロックB201−1、B201−2、B201−3、B206−1、B206−1での描画を終えたところでドリフト補正が行われる。したがって、S201やS206は、図3の比較例と比べると、ドリフト補正が多く行われることになる。つまり、1つのストライプに対して、図3の比較例では、ストライプエンドでドリフト補正が行われるのみであったのに対して、図4の例によれば、ストライプエンド(この場合は、B201−3やB206−2のブロックエンドに相当する。)での補正に加えて、ストライプを描画している途中でも補正が行われることになる。
例えば、S201について、ブロックB201−1のブロックエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。次いで、S201のブロックB201−2のブロックエンドまで描画し、同様に、電子ビームで基準マークの位置を検出する。検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正する。次に、同様に、S201のブロックB201−3のブロックエンドまで描画し、同様に、電子ビームで基準マークの位置を検出する。尚、ブロックB201−3でのドリフト補正は、S201のストライプエンドでのドリフト補正と言い換えることもできる。
次いで、S202の描画に移動する。S202のブロックへの分割数は1である。つまり、S202は、1つのブロックによって構成されている。この場合は、そのブロックエンドであるストライプエンドまで描画した後、電子ビームで基準マークの位置を検出する。検出された位置と、ブロックB201−3の描画後に検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正する。
S203についても、1つのブロックによって構成されており、その1つのブロックエンドであるストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。
次に、S204については、ブロックエンドであるストライプエンドまで描画をした後にドリフト補正を行わず、そのままS205の描画を行う。
S205も1つのブロックによって構成されており、そのブロックエンドであるストライプエンドまで描画をし、その後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。そして、検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正する。
次に、S206については2つのブロックB206−1、B206−2に2分割されており、ブロックB206−1のブロックエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正する。
次いで、S206のブロックB206−2のブロックエンドまで描画し、同様に、電子ビームで基準マークの位置を検出する。検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正する。
次に、S207については、1つのブロックによって構成されており、そのブロックエンドであるストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。
S208についてもS207と同様である。そして、検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正した後、S209を描画する。
このように、図4の例では、S201とS206を、それぞれブロックに分割している。また、S201、S202、S206およびS207の各ストライプ幅は、基準となるストライプ幅よりも狭く、S205とS209の各ストライプ幅は、基準となるストライプ幅より広い。すなわち、所定のストライプについて、その幅を変えている。これにより、ドリフト補正の精度を向上させつつ、全体の描画時間が増加するのを抑制することができる。このことを図3の例と比較しながら説明する。
図4において、S201とS202は、それぞれ、基準となるストライプをその幅方向と直交する方向に2つに分割して得られたものとする。一方、図3のストライプ幅は、いずれも基準となるストライプ幅である。したがって、この場合、図3のS101の幅は、図4のS201とS202を合わせた幅に一致する。また、S201は、さらにブロックB201−1〜B201−3に3分割されている。
図3では、S101について、ストライプエンドまで描画した後、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させ、電子ビームで基準マークの位置を走査してその位置を検出する。これに対して、図4では、S201について、各ブロックB201−1〜B201−3のブロックエンドまで描画した後に、毎回、基準マークの位置を検出する。次いで、S202をブロックエンド、すなわちストライプエンドまで描画し、同様に、基準マークの位置を検出する。つまり、図3の例で、描画開始から基準マークの位置を検出するまでの間に、図4の例では、基準マークの位置を4回検出していることになる。
図3のS101におけるパターンの面積密度が、S102におけるパターンの面積密度より大きいとすると、S101におけるドリフト量は、S102におけるドリフト量よりも大きいことが予想される。このため、S102と同じ描画時間を要してS101を描画したのでは、ドリフトを十分に検出できないおそれがある。
これに対して、図4の例(S201とS202)では、図3の例(S101)で基準マークを1回検出する間に4回検出するので、図3の例で検出できないドリフトも検出できるようになる。したがって、図4の例によれば、ドリフト補正精度を図3の例より向上させることができる。
ところで、一般に、電子ビームの照射開始直後は、パターンの面積密度に関係なく、ドリフトの変化量が大きくなる。図5はこの様子を示したものである。
図5に実線で示すように、ドリフトの変化量は、電子ビームの照射開始直後で大きく、その後、次第に小さくなっていく傾向を有する。このため、電子ビームの照射開始直後におけるドリフト補正の間隔は短い方が好ましい。本実施の形態では、電子ビームの照射開始直後における補正間隔が短くなるように、ストライプを分割するとともにストライプ幅を狭くすることが好ましい。
図5において、破線は、ドリフト量測定の時間間隔を示しており、パターンの面積密度のみを考慮してストライプ幅が各ストライプ間で等しくなるように決定した場合の一例である。つまり、破線によって示される期間のそれぞれにおいて、対応する第1のストライプ、第2のストライプ、第3のストライプの描画が行われる。
破線の例において、電子ビームの照射は、第1のストライプで開始される。例えば、第1のストライプのストライプエンドまで描画を終えた後に、電子ビームの照射位置を基準マークまで移動させてその位置を検出する。第2のストライプについても同様に描画を行い、そのストライプエンドに達したら、電子ビームで基準マークの位置を検出する。そして、検出された位置と、前回検出された位置との差分を線形補間して得られる値を、次回検出までの位置変動量としてドリフト補正した後、第3のストライプを描画する。
尚、破線の第1のストライプ、第2のストライプおよび第3のストライプの各パターンの面積密度はいずれも同じとする。したがって、これらのストライプの幅は等しく、また、破線で示す通り、ドリフト量の測定が行われる時間間隔も等しい。
一方、図5において、点線は、ドリフト量測定の時間間隔の他の例を示している。これは、パターンの面積密度に加えて、電子ビームの照射直後におけるドリフトの変化量を考慮して、各ストライプのブロックへの分割数を決定した場合に対応する。点線によって示される期間のそれぞれにおいて、対応する第1のブロック、第2のブロック、第3のブロック、・・・、第6のブロックの描画が行われる。ここで、第1のブロック、第2のブロックおよび第3のブロックによって1つのストライプが構成される。すなわち、第1のストライプは、これら3つのブロックに分割される。また、第4のブロックおよび第5のブロックによって、別の1つのストライプが構成される。すなわち、第2のストライプは、これら2つのブロックに分割される。第6のブロックは、第3のストライプに対応しており、1つのストライプが1つのブロックから構成される例、すなわち、ストライプからブロックへの分割が実質的には行われない例に対応する。
図5に実線で示すドリフト量を見ると、その変化量は、破線の第1のストライプを描画しているときの方が、破線の第2のストライプを描画しているときより大きい。そして、破線の第3のストライプを描画しているときのドリフト量は略一定である。したがって、ドリフト補正の精度を向上させる点からは、ドリフトの変化量に応じた測定間隔となるようにストライプを分割し、その分割数を決定することが好ましい。すなわち、変化量の大きいところでは、ストライプの分割数を多くして測定間隔が短くなるようにし、変化量の小さいところでは、ストライプの分割数を少なくして測定間隔が長くなるようにする。こうして得られたのが、ストライプの分割による第1のブロックから第6のブロックであり、ドリフト量測定の時間間隔は点線で示す通りである。
図5において、例えば、第1のブロックを描画している際のドリフトの変化量は、第4のブロックを描画している際のドリフトの変化量より大きい。そして、第1のブロックに対応する点線の間隔は、第4のブロックに対応する点線の間隔より短くなっている。これは、第1のブロックの描画時間が、第4のブロックの描画時間より短いことを示しており、つまり、第1のブロックの方が、第4のブロックより、ドリフト量測定までの時間間隔が短いことを示している。
また、図5において、例えば、第6のブロックを描画している際のドリフトの変化量は、第1のブロックを描画している際のドリフトの変化量より小さい。そして、第6のブロックに対応する点線の間隔は、第1のブロックに対応する点線の間隔より長くなっている。これは、第6のブロックの描画時間が、第1のブロックの描画時間より長いことを示しており、つまり、第6のブロックの方が、第1のブロックより、ドリフト量測定までの時間間隔が長いことを示している。
また、上述したように、点線の第1のブロック、第2のブロックおよび第3のブロックは、破線で示す第1のストライプをその幅方向に3つに分割して得られたものである。これらのブロックはこの順に描画され、また、それぞれのブロックエンドまで描画した後に基準マークの位置検出が行われる。つまり、この場合には、破線の第1のストライプを描画して基準マークを検出するまでの間に、3回の位置検出が行われることになる。
点線で示す、第4のブロックおよび第5のブロックは、破線で示す第2のストライプをその幅方向に2つに分割して得られたものである。これらのブロックはこの順に描画され、また、それぞれのブロックエンドまで描画した後に基準マークの位置検出が行われる。つまり、この場合には、破線の第2のストライプを描画して基準マークを検出するまでの間に、2回の位置検出が行われることになる。
点線で示す第6のブロックは、破線で示す第3のストライプと同じ幅を有しており、ストライプのブロックへの分割数が1であって、実質的なブロックへの分割がされていないものである。したがって、点線で示す第6のブロックは、第3のストライプと同じように描画される。そして、ブロックエンドに達した後は、破線の第3のストライプと同様に、基準マークの位置検出が行われる。
このように、点線で示す6つのブロックによれば、ドリフトの変化量の大きいところで測定回数を増やすので、ドリフト補正の精度を向上させることができる。一方、ドリフトの変化量の小さいところでは、測定回数を減らすので、ドリフトの変化量の大きいところで測定回数を増やすことで全体の描画時間が長くなるのを抑制することが可能である。
また、図5の例においてさらにドリフト補正の精度を向上させるためには、上述のストライプのブロックへの分割とともに、ストライプの幅を狭くすることも有効である。破線で示す第1のストライプをその幅方向に3つに分割して点線の第1のブロック、第2のブロックおよび第3のブロックを形成するのと併せて、破線の第1のストライプをその幅方向と直交する方向に2分割しておけば、それらの分割によって1つのストライプから得られるブロックの数は、3つを2倍した6つになる。6つのブロックのそれぞれについて、ストライプエンドまで描画した後に基準マークの位置検出が行われる場合、破線の第1のストライプを描画して基準マークを検出するまでの間に、6回の位置検出が行われることになる。
このように、1つのストライプをその幅方向に分割し、さらにその幅方向と直交する方向に分割する場合、ドリフトの変化量の特に大きいところで測定回数を増やすことができる。これにより、ドリフト補正の精度を向上させることが可能となる。
また、一方で、ストライプの幅を広くし、併せて、ストライプのブロックへの分割数を1にすることで、ストライプエンドまで描画した後に行われる基準マークの位置検出の回数を減らし、ひいては、その時間間隔を大きくすることができる。すなわち、ドリフトの変化量の小さいところでは、測定回数を減らすことができる。
このように、ストライプの分割数とともにストライプの幅を調整することで、ドリフトの変化量の小さいところでは、測定回数を減らすことができ、ドリフトの変化量の大きいところでは測定回数を増やすことができる。これにより、ドリフト補正の精度を向上させるとともに、全体の描画時間が長くなるのを抑制することが可能である。
尚、上記したように、パターンの面積密度とドリフト量には相関があり、パターンの面積密度が大きいとドリフト量は大きくなる。そして、ストライプ間のパターンの面積密度の変化量もドリフト量に影響する。すなわち、パターンの面積密度の変化量が大きいほど、ドリフト量は大きくなる。このため、ストライプのブロックへの分割数を決定するに際しては、パターンの面積密度に加えて、パターンの面積密度の変化量も考慮することが好ましい。具体的には、パターンの面積密度が大きく、且つ、次に描画するストライプとのパターンの面積密度の変化量が大きいものほど、ストライプのブロックへの分割数を大きくすることが好ましい。尚、併せて、電子ビームの照射開始からのドリフトの変化量も考慮すればより好ましい。
例えば、描画領域を基準となる幅のストライプに分割するとともに、所定のサイズでメッシュ状に分割して複数の小領域を形成する。そして、小領域毎にパターンの面積密度を算出して、基準となる幅のストライプに含まれる小領域の面積密度の平均値を求め、この平均値に応じてストライプの基準となる幅とブロックへの分割数を調整する。その後、ストライプ間におけるパターンの面積密度の変化量に応じてさらに幅と分割数を調整する。
次に、図1および図6を用いて、本実施の形態による描画方法を説明する。
まず、図1のメモリ11からのパターンデータに基づいて、全体制御部10のレイアウトデータ生成回路13でレイアウトデータが作成される(図6の工程(1))。
次に、パターン面積密度演算回路17において、レイアウトデータのパターンの面積密度が求められる(工程(2))。例えば、基準となるストライプ幅を決定するとともに、主偏向領域をメッシュ状に分割する。そして、メッシュ毎にパターンの面積密度を計算し、1つのストライプに含まれるメッシュのパターンの面積密度の平均値を求める。また、パターン面積密度演算回路17では、ストライプ間のパターンの面積密度の変化量も求めることができる。
尚、電子ビーム描画装置においては、レジスト膜に照射された電子がその表面で反射し、さらに電子ビーム描画装置の光学部品に反射した後、レジスト膜を広範囲に渡って再照射してしまう現象(かぶり効果)が見られる。この現象は、レジスト膜に電子が照射されて発生した二次電子によっても引き起こされる。かぶり効果によって、描画されるパターンの寸法は変動する。そこで、レジストに蓄積される電子ビームの蓄積照射量が調整される。このとき、寸法変動には周囲のパターンの面積密度が影響することから、パターンの面積密度の値を用いて寸法変動を補正することが行われている。本実施の形態においては、かぶり補正で求めたパターンの面積密度を転用してもよい。例えば、図6の工程(2)において、パターン面積密度演算回路17へかぶり補正で求めたパターンの面積密度のマップを送ってもよい。
ストライプ情報取得回路18は、レイアウトデータをどのようなストライプに分割し、さらに各ストライプのブロックへの分割の数をどのようにするかについての情報を取得する(工程(3))。例えば、パターン面積密度演算回路17で取得されたパターンの面積密度やストライプ間のパターンの面積密度の変化量の情報は、ストライプ情報取得回路18が取得する情報である。
メモリ11に格納されている履歴データも、ストライプ情報取得回路18が取得する情報の1つである。ここでいう履歴データとは、以前に描画されたレイアウトパターンに関する情報であって、ドリフト補正後に残る設計値との差を基準値より小さくするのに必要な情報のことである。
ドリフト補正では、補間によって描画時点でのドリフト値を予測している。つまり、マスク上に設けた基準マークを検出してドリフト量を算出し、描画時点のドリフト値を補間により予測演算して補正している。このため、ドリフト補正精度をいかに向上させたとしても、ドリフト補正後の描画位置と設計位置とを完全に一致させることは困難である。尚、本願において、ドリフト補正後の描画位置と設計位置との差を「補正残差」と称す。
補正残差は、マスクパターンの位置精度より十分に小さいものとする必要があり、特に、回路パターンの微細化が進んでいる近年にあっては、補正残差を一層小さくすることが求められている。そこで、過去の描画データを基に、補正残差を基準値より小さくするのに必要な情報を履歴データとしてメモリ11に格納しておく。例えば、以前に描画されたレイアウトパターンの中で今回描画するパターンと同様のパターンに関するドリフト量のマップは、履歴データの1つとなる。さらに、この履歴データの中で、(図5に示すような)電子ビームの照射開始直後におけるドリフトの変化量のデータは、ストライプのブロックへの分割数を決定する上で、さらには、ストライプ幅を決定するうえで参照される重要な情報の1つである。
尚、本実施の形態において、かぶり補正で求めたパターンの面積密度を転用する場合、そのマップをストライプ情報取得回路18へ送り、レイアウトデータをストライプに分割し、さらに、ストライプをブロックに分割する際の情報の1つとしてもよい。この場合、図6の工程(2)は不要とすることができる。
ストライプ構成回路19は、ストライプ情報取得回路18からの情報を基に、レイアウトデータを所定のストライプ幅に分割し、さらにブロックに分割する(工程(4))。このとき、レイアウトデータのパターンの面積密度に応じて、ストライプのブロックへの分割数を変え、さらには、ストライプの幅を変える。例えば、パターン面積密度演算回路17からのデータが、レイアウトパターンを基準となる幅のストライプに分割したときの各ストライプのパターンの面積密度であるとする。この場合、パターンの面積密度が所定値以上であれば、ストライプの分割数を2以上とし、さらに必要な場合には、ストライプの幅が基準値より狭くなるようにする。また、パターンの面積密度が所定値以下であれば、ストライプの分割数を1とし、さらに必要な場合は、ストライプ幅を基準値より広くなるようにする。例えば、1つのストライプ中におけるパターンの面積密度が50%以上である場合には、ストライプをその幅方向に2つに分割する。
ストライプ構成回路19では、パターンの面積密度だけでなく、電子ビームBの照射開始直後におけるドリフトの変化量や、ストライプ間のパターンの面積密度の変化量も考慮に入れて、ストライプのブロックへの分割数を決定することが好ましく、さらに必要な場合には、ストライプの幅を決定することが好ましい。
尚、電子ビームBの照射が開始される第1のストライプについては、第1のストライプの前に描画されるストライプがないため、パターンの面積密度の変化量を求めることができない。そこで、第1のストライプについては、例えば、メモリ11に保存された履歴データから、同様のパターンにおける第1のストライプのドリフト量を参照してストライプのブロックへの分割数と幅を決定することができる。あるいは、上記の通り、第1のストライプでドリフトの変化量が大きくなる傾向はパターンの面積密度によらないので、パターンの種類に関係なく、第1のストライプの分割数と幅を設定することもできる。
ストライプ構成回路19において、レイアウトパターンは所定のストライプに分割される。また、各ストライプは、さらに所定数のブロックに分割される。本実施の形態では、描画データに対して、ブロック単位で、ドリフト量の測定を行うか否かの判定をするためのフラグがされているので、実質的に、各ブロックには、フラグが付されていることになる。この描画データは、照射制御部7に送られて描画が行われる(工程(5))。具体的には、照射制御部7は、この描画データに基づき、ステージ位置測定手段12で測定したステージ3の位置を確認しつつ、電子光学鏡筒2内の電子ビームBの成形制御や偏向制御を行って、マスクMの所要の位置に電子ビームBを照射する。
第1のストライプが複数のブロックに分割されている場合、第1のストライプの第1番目のブロックを描画し、その第1番目のブロックのブロックエンドに到達した後は、工程(6)においてドリフト量の測定を行うか否かの判定を行う。この判定は、描画データを構成する各ブロックに付されたフラグにしたがって行われる。そして、ドリフト量の測定を行う場合には、工程(7)に進む。具体的には、電子ビームBの照射位置を基準マークまで移動させる。そして、電子ビームBで基準マークの位置を走査してその位置を検出し、ドリフト量測定回路14でドリフト量を測定する。
尚、ストライプが複数のブロックに分割されている場合、通常は、ブロック単位でドリフト補正がされることを想定している。そのため、工程(6)において、特にドリフト量の測定を行うか否かの判定が必要となるのは、ストライプのブロックへの分割数が1であって、実質的にストライプがブロックに分割されていない場合である。
次に、測定したドリフト量に基づいて、ドリフト補正量演算回路15でドリフト補正値を算出する(工程(8))。メモリ11には補正係数が格納されているので、ドリフト補正量演算回路15でこの情報を呼び出し、ドリフト量に応じた補正値を算出する。
ストライプ構成回路19で生成された描画データは設計値のデータである。そこで、この設計値の描画データと、ドリフト補正量演算回路15からの補正値のデータとを、加算器16で加算して合成する。これにより、設計値の描画データが書き換えられ、ビームドリフト量が補正された描画データが得られる。
続いて、補正された描画データに基づき、第1のストライプの第2番目のブロックの描画が行われる(工程(5))。
第1のストライプの第2のブロックエンドに到達した後は、工程(6)において、ドリフト量の測定を行うか否かの判定を行う。この判定は、第1番目のブロックと同様に、描画データを構成する各ブロックに付されたフラグにしたがって行われる。ドリフト量を測定する場合には、工程(7)と工程(8)を行った後、工程(5)に進んで描画を行う。
工程(6)において、ドリフト量の測定を行わないと判定した場合には、工程(9)に進んで描画を終えるか否かの判定を行う。描画すべきパターンがある場合には、工程(5)に戻って描画を行う。このとき、前回測定したドリフト量、すなわち、第2番目のブロックのドリフト量から、その次の第3番目のブロックにおけるドリフト量を補間により予測し、ドリフト補正量演算回路15で、このドリフト量に基づく補正値を算出して、第3番目のブロックの描画データに加算する。その後、補正された描画データに基づき、第3番目のブロックを描画する。尚、第3番目のブロックは、第1のストライプに含まれる場合もあるが、第2のストライプに含まれるブロックである場合もある。
一方、工程(9)で描画すべきパターンがない場合には、かかる一連の描画工程を終了する。
図7は、ドリフト補正残差の時間変化について、本実施の形態と従来法とを比較した例である。
破線は、従来法による補正残差の時間変化を示したものである。また、破線の矢印は、従来法におけるドリフト量測定のタイミングを示している。
従来法では、描画途中における基準マークの位置検出を一定の時間間隔で行う。つまり、破線の矢印で示すように、ドリフト量の測定は一定の時間間隔で行われる。このため、測定と測定の間でドリフトが生じた場合、これを検出することができない。その結果、ドリフト補正の精度が低下し、補正残差が許容範囲を超えることが起こる。特に、描画開始直後は、ドリフトの変化量が大きいため、図7に示すように、許容範囲を超える補正残差が見られやすい。尚、許容範囲の大きさは、マスクパターンの位置精度より十分に小さい値である。
一方、図7において、実線は、本実施の形態による補正残差の時間変化を模式的に示したものである。また、実線の矢印は、本実施の形態におけるドリフト量測定のタイミングを示している。
本実施の形態では、パターンの面積密度に応じてストライプのブロックへの分割数を変え、さらに、ストライプ幅を変える方法を併用して、ドリフト測定の間隔を調整している。パターンの面積密度が同じであれば、ストライプのブロックへの分割数を多くすることにより、ブロックエンドまで描画するのに要する時間は短くなる。さらに、ストライプ幅を狭くすることにより、ブロックエンドまで描画するのに要する時間は、より短くなる。ドリフト量の測定が、ブロックエンドに達した後に行われるのであれば、ブロックエンドまでの描画時間が短くなれば、ドリフト測定の時間間隔も短くなる。したがって、本実施の形態では、従来法では検出が困難であった急に起こるドリフトを検出して、補正の精度を向上させることができるので、補正残差が許容範囲を超えないようにすることが可能である。
また、本実施の形態においては、描画開始直後のドリフトの変化量の大きさを考慮に入れてストライプのブロックへの分割数とストライプ幅を決めることで、ドリフト補正の精度を一層向上させることができる。さらに、パターンの面積密度の小さいところでは、ストライプの分割数を小さくし、また、ストライプ幅を広くして、ドリフト測定の間隔を長くすることにより、全体の描画時間が長くなるのを抑制することができる。
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
例えば、本実施の形態においては、主偏向器と副偏向器を有する電子ビーム描画装置について述べたが、本発明はこれに限られるものではない。主偏向器と副偏向器の二段(あるいは複数段)ではなく、一段の偏向器で電子ビームを偏向しながらマスク上での照射位置を決定してパターンを描画する電子ビーム描画装置であっても構わない。
さらに、上記実施の形態では電子ビームを用いたが、本発明は、これに限られるものではなく、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームを用いた場合にも適用可能である。