図1は、真空加熱炉Aの実施形態の一例を示している。図1(a)は正面から見た内部構造の概略を示しており、図1(b)は上方から見た(平面視した)場合の内部構造の概略であり、下部である冷却空間2の構造を示している。図1(b)では、構造が分かりやすいように、保持体3の上部の蓋部33を取って図示している。以下、図1の形態を代表例として説明するが、本発明は図1の形態に限定されるものではないことは言うまでもない。
真空加熱炉Aは、複数の基板Sを真空中で加熱する加熱炉である。この真空加熱炉Aは、有機半導体素子の製造に用いることができる。有機半導体素子としては、基板表面に有機層を含む複数の層を積層させることにより形成される半導体素子が挙げられる。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機太陽電池などが例示され、この真空加熱炉Aでは、有機エレクトロルミネッセンス素子を好適に製造することができる。
有機半導体素子の製造においては、基板Sの表面に塗布により層を形成した後、この層の上に蒸着して層をさらに積層させる工程を行う場合があり、その際、塗布した層の定着性を高めたり水分を除去したりするために、蒸着の前に加熱処理が行われる。このような加熱処理は、ベーク処理とも呼ばれ、層中の揮発成分の除去や、焼成、アニール化などの化学的又は物理的な処理を行うために行われる。例えば、有機層の塗布液で形成された塗布膜は、加熱処理により固体膜として形成される。真空加熱炉Aでは、そのような塗布層の加熱処理を効率よく行うことができる。
また、基板Sは、加熱処理の後、冷却することが求められる。基板Sは加熱時の温度のままでは、次工程の処理が行えなくなるおそれがある。そのため、温度の高くなった基板Sを冷却し、蒸着などの次工程に進むようにしている。本形態の真空加熱炉Aでは、次工程に適する温度になるように基板Sを真空中で冷却することができる。
本形態の真空加熱炉Aは、真空空間を形成するチャンバー10を有している。真空空間は、気体が排出されて形成された気圧の低い減圧空間であってよい。真空加熱炉Aでは、チャンバー10に、加熱空間1と冷却空間2とが設けられている。加熱空間1は、複数の基板Sを真空中で加熱するための空間(スペース)である。また、冷却空間2は、加熱後の複数の基板Sを冷却するための空間(スペース)である。本形態では、加熱空間1と冷却空間2とは、その間に区切りなどが設けられておらず、連通しており、同じ条件の真空状態が維持される空間となっている。いわば、一つのチャンバー10において、チャンバー10内を二つに分けて、一方を加熱空間1として形成し、他方を冷却空間2として形成している。加熱空間1と冷却空間2とが連通していることにより、複数の基板Sを加熱した後、スムーズに冷却することができる。
図1の形態では、チャンバー10は、縦長の直方体形状に形成されている。そして、チャンバー10内が上下に分けられて、上部が加熱空間1として形成され、下部が冷却空間2として形成されている。もちろん、下部が加熱空間1として形成され、上部が冷却空間2として形成されていてもよい。あるいは、チャンバー10を横長にして、加熱空間1と冷却空間2とが水平方向に並んで配置されたものであってもよい。ただし、加熱空間1と冷却空間2とが上下に配置されたような、図1の形態の方が、より有利に真空加熱冷却工程を行うことができる。また、上下に加熱空間1と冷却空間2とを配置することにより、基板Sを簡単に保持して移動することができる。
真空加熱炉Aは、複数の基板Sを略平行に配置して保持する保持体3を備えている。保持体3は、加熱空間1と冷却空間2との間を移動可能なように設けられている。保持体3の移動方向は、複数の基板Sの表面と垂直な方向、すなわち基板Sの法線方向になっている。本形態では、図1(a)の白抜き矢印で示すように、上部の加熱空間1と下部の冷却空間2との間を移動可能なように保持体3が設けられている。図1(a)では、保持体3が冷却空間2に配置している状態を示している。また、保持体3が加熱空間1に配置したときの状態を破線で示している。保持体3が加熱空間1に配置したときのポジションが加熱ポジションとなり、保持体3が冷却空間2に配置したときのポジションが冷却ポジションとなる。
保持体3は、複数の基板Sを略平行に保持するものである。保持体3は、耐熱性、耐圧性(耐真空性)、熱伝導性が高い材料で構成することが好ましい。そのため、保持体3は金属などの適宜の材料で形成することができる。保持体3としては、基板Sを側方から出し入れ可能に収納する基板カセットと呼ばれるものを用いることができる。保持体3は直方体形状のものであってよい。
図1に示す保持体3は、保持体3の外枠となる枠部32と、枠部32から内方に向かって水平に突出する保持爪31とを備えている。この保持体3では、枠部32は、保持体3の外枠の直方体を構成する四つの柱を有して構成されており、この柱の所定の高さ位置において保持爪31が設けられている。枠部32に囲まれた保持体3の内部は空洞になっており、この空洞に基板Sを側方から出し入れして収納ができるように形成されている。保持爪31は枠部32を構成する縦方向の柱に所定の間隔で複数設けられている。図1(b)に示すように、一の基板Sを保持するための保持爪31は、枠部32が立設している四隅に同じ高さの位置で形成されている。
本形態では、基板Sを載置した基板トレイ7を保持爪31の上に引っ掛けて載せることによって、基板Sを保持するようにしている。したがって、保持体3は、基板トレイ7を出し入れ可能なように形成されている。ここで、基板Sの保持構造としては、基板トレイ7を用いる構造に限定されない。例えば、基板Sとして、保持爪31に引っ掛かる大きさの基板Sを用い、基板トレイ7を用いずに、直接、基板Sを保持爪31の上に載せて保持してもよい。その場合、基板トレイ7を使用しなくてもよいので、装置を簡略化することが可能になる。また、基板トレイ7を通さずに直接加熱冷却することができるため、加熱冷却の効率を高めることができる。ただし、基板Sを傷つけたり破損したりしないためには、基板トレイ7を用いる方が好ましい。また、基板トレイ7を用いる場合、矩形状の基板Sだけでなく、円形や六角形などの所望の形状の基板Sを保持することもできる。あるいは、基板Sだけでは保持爪31に引っ掛けることのできない小型の基板Sを保持したり、小型の基板Sを複数載置したりすることができるという利点もある。一つの基板トレイ7に複数枚の基板Sを載置した場合、目的とする大きさの基板Sを複数枚並べて効率よく加熱冷却処理することが可能となる。
図1(a)では、保持体3として10個の基板Sを収納可能なものが図示されている。そのため、この真空加熱炉Aでは、10個の基板Sを同時に加熱及び冷却することができる。各基板Sは、各基板Sに対応する基板トレイ7の上にそれぞれ載置されている。保持体3に収容する基板Sの数は、10個に限られるものではなく、3個以上、5個以上、8個以上などであってよい。ただし、基板Sの数が多くなりすぎると、装置が大きくなりすぎるおそれがあり、また、加熱冷却工程がかえって煩雑化するおそれもある。そのため、保持体3に保持する基板Sの数は、50個以下が好ましく、30個以下がより好ましく、20個以下がさらに好ましい。特に製造の容易性、管理の容易性から、保持体3に保持する基板Sの数は10個がもっとも好ましい。
保持体3の移動は、適宜の移動機構により行われるものであってよい。本形態では、加熱空間1と冷却空間2との間をスライドして移動することによって、保持体3を移動させることができる。例えば、上下に移動可能な移動機構としては、上方からロープ等で吊り下げる吊り下げ式の移動機構や、下部又は側部を支えて持ち上げる持ち上げ式の移動機構などであってよい。また、移動の際の揺れ動きなどを抑制するために、保持体3をレールなどのガイド部でガイドしてもよい。移動した保持体3は、加熱空間1及び冷却空間2に配置されると移動が停止して待機した状態となり、加熱空間1では基板Sの加熱が行われる加熱状態が開始され、冷却空間2では基板Sの冷却が行われる冷却状態が開始されることとなる。
保持体3の上部及び下部には、好ましくは蓋部33が設けられる。蓋部33は、基板Sの表面に略平行に配置されて枠部32に取り付けられるものである。保持体3の上部に蓋部33(上蓋部33a)を設けることにより、冷却状態のときに、加熱空間1に近い基板Sが加熱されることを抑制することができ、効率よく冷却を行うことができる。また、保持体3の下部に蓋部33(下蓋部33b)を設けることにより、加熱状態のときに、冷却空間2に近い基板Sが加熱されにくくなることを抑制することができる。また、下蓋部33bを設けて、冷却体4と下蓋部32bとを接触させるようにすると、後述のように冷却スピードを高めることができる。なお、蓋部33は、枠部32と一体に形成されていてもよい。
蓋部33は、輻射の影響を遮蔽するために設けられているため、反射率の高い(輻射率の低い)素材により形成されていることが好ましい。蓋部33の表面の加工としては研磨面を有することが好ましい。蓋部33は加熱ポジションにあっては、隣接する基板Sの加熱の妨げにならないことが要求され、冷却ポジションにあっては隣接する基板Sの冷却の妨げにならないことが要求されるため、単位面積当たりの熱容量が小さい方が好ましい。基本的には基板Sの単位面積当たりの熱容量よりも蓋部33の単位面積当たりの熱容量は小さいことが特に好ましい。蓋部33の厚みとしては0.1〜1mmが好ましい。
なお、保持体3は、チャンバー10内に脱着自在に取り付けられるものであってもよい。その場合、保持体3ごと基板Sをチャンバー10内に導入することができる。ただし、保持体3ごと基板Sを移動させる場合、保持体3は搬入口及び搬出口となる開口11を通してチャンバー10内に搬入出するため、開口11を大きくしなければならず、開口11が大きくなりすぎて装置の取扱い性が悪くなるおそれがある。そのため、真空加熱炉Aにおいては、保持体3はチャンバー10から取り出されないことが好ましい。
真空加熱炉Aには、適宜の排気機構が設けられていてよい。排気することにより、チャンバー10内(加熱空間1及び冷却空間2)を真空条件にすることができる。排気機構はチャンバー10に直接設けられてもよいし、チャンバー10の内部と連通する閉鎖空間を構成する他のチャンバーなどに設けられていてもよい。
本形態のチャンバー10には、基板Sを取り出すための開口11が設けられている。図1(a)では、開口11を二点鎖線で示している。本形態では、開口11は、チャンバー10の側壁の中央部において、冷却空間2の上部の位置に設けられている。開口11は、基板Sを搬出するものであるが、この開口11から基板Sを搬入するようにしてもよい。あるいは、基板Sの搬入口を他の部分に設けるようにしてもよい。開口11が搬出口と搬入口を兼ねると、装置構成が簡単になる。また、開口部分が減ることにより密閉性を高めて真空を作り出しやすくすることができる。図1(b)の矢印で示すように、基板Sは、水平方向に移動させることにより、開口11からチャンバー10内に導入したりチャンバー10の外部に導出したりすることができる。
開口11は、真空条件に入るときには蓋などによって塞がれるものであってもよい。それにより、チャンバー10内を密閉することができ、真空を作り出しやすくすることができる。蓋は開閉自在なものであってよい。また、開口11は閉じられなくてもよい。この場合、開口11を介してチャンバー10の内部と通じる空間が閉鎖空間として形成されていれば、その閉鎖空間も含めて全体として真空状態にすることができる。例えば、次工程を真空条件で行う場合、開口11をオープンにしておき、次工程の装置と合わせた空間を真空にすることができる。
開口11は、長手方向が水平方向となった矩形状又はスリット状の開口11であってよい。それにより、基板Sが開口11の長手方向に沿って配置されるため、基板Sを出し入れしやすくすることができる。基板トレイ7を用いる場合、開口11を通した搬入及び搬出は、基板トレイ7ごと行うことが好ましい。それにより、基板トレイ7を保持して基板Sをチャンバー10内に入れたり出したりすることができ、基板Sが傷ついたり破損したりすることを抑制することができる。もちろん、基板Sを載置していない基板トレイ7を保持体3に保持しておき、基板Sを開口11からチャンバー10内に導入して基板トレイ7上に載せるようにしてもよい。
基板S及び基板トレイ7の搬入及び搬出は、ロボットアームなどを使用して行うことができる。ロボットアームを用いることにより、真空条件を維持したまま、加熱冷却工程後に次工程に容易に移ることができる。また、ロボットアームにより、高速に位置精度よく保持して基板Sを保持体3に入れたり出したりすることができ、生産性を高めることができる。ロボットアームは基板トレイ7を掴むことによって基板Sを保持するものであってよい。
本形態では、開口11は、冷却空間2の上部に設けられている。このように、冷却空間2の上部に開口11が設けられていると、冷却工程後に、複数の基板Sを冷却空間2から搬出する搬出工程を行う際に、複数の基板Sのうちの加熱空間1に近い側の基板Sから順に冷却空間2の外部に搬出することが容易になる。保持体3は、加熱空間1と冷却空間2との間を行き来するが、加熱空間1から遠い側の基板Sから順に搬出するような方法では、基板Sの搬出中に複数の基板Sの一部が加熱空間1に配置されたり加熱空間1に近くなったりするおそれがある。加熱空間1や加熱空間1に近い位置に基板Sが配置すると、基板Sが再度加熱されてしまうことになる。しかしながら、開口11を冷却空間2の上部に設けることにより、加熱空間1に近い側から基板Sを搬出することができ、基板Sが再加熱されることを抑制して、冷却状態を維持したまま、基板Sをチャンバー10から搬出することができる。
また、開口11はチャンバー10の中央部に設けられている。そのため、保持体3を移動させることにより、複数の基板Sのそれぞれを開口11の側方に配置させることができるので、基板Sの搬入出を開口11から容易に行うことができる。
加熱空間1は、加熱体9により加熱されて形成されている。加熱体9は、ヒータなどで構成することができる。本形態では、真空内において加熱を行うため、加熱は輻射熱により行われる。本形態の加熱体9には加熱体接続配線9aが設けられおり、この加熱体接続配線9aに電気を流すことによって、ヒータなどの加熱体9が発熱して、加熱空間1を作り出すことができるようになっている。ヒータとしては、ランプヒータなどを用いることができ、好ましくは直管型ランプヒータを用いることができる。
加熱体9は、面状の加熱体9であることが好ましい。それにより、面状に基板Sに熱を加えて効率よく加熱することができる。ここで、面状の加熱体9とは、全体として面状となっていればよく、例えば、ヒータを構成する熱線が縦方向又は横方向に複数本並んで配置したものであってもよい。また、加熱体9は、保持体3の側面よりも大きい面状であることが好ましい。それにより、加熱体9で保持体3を側方で覆って加熱することができ、加熱性を高めることができる。加熱体9はチャンバー10の側壁に取り付けられるものであってよい。
加熱体9の配置は、特に限定されるものではないが、加熱空間1に配置された保持体3を側方から加熱するように配置されることが好ましい。それにより、保持体3に保持された複数の基板トレイ7の隙間を通して、側方から熱を各基板Sに与えることができ、加熱効率を高めることができる。本形態では、加熱体9は、保持体3よりも上下方向の長さが大きく、複数の基板Sの表面と垂直な方向に、複数の基板Sのうちの一方の基板Sから他方の基板Sの全長に亘る長さで設けられている。また、加熱体9は、保持体3よりも水平方向(前後又は左右の方向)の長さが大きく、基板Sの表面と平行な方向に、基板Sの一方の端部から他の端部の全長に亘る長さで設けられている。このように、加熱体9の縦方向及び横方向の長さが保持体3よりも長いことにより、保持体3を側方で覆って加熱することができる。加熱体9は、チャンバー10の対向する左右の側壁に設けられるものであってよい。それにより、両側方から加熱することができるため、加熱性を高めることができる。あるいは、加熱体9は、前後左右に四方を取り囲んで設けられるものであってもよい。それにより、加熱体9によって保持体3の周囲を取り囲んで加熱することができるため、加熱性をさらに高めることができる。
冷却空間2は、冷却体4によって冷却されて形成されている。冷却体4は、冷却源によって冷却されている。冷却源は、チャンバー10内における周囲の温度よりも低い温度で冷却された媒体である。このように、冷却体4は、自然放熱や熱拡散などといった熱の除去による受動的な冷却ではなく、冷却源で冷却されることによって、基板Sを能動的に冷却するように構成されている。冷却体4としては、冷却源としての冷媒を内部に流して冷却するものを用いることができ、例えば、冷却ジャケットを用いることができる。また、冷却体4として、ペルチェ素子を用いてもよい。真空条件下においては、特に効率よく冷却することが求められる。真空状態では、ガスなどによる伝熱や対流がないため、輻射によって熱が伝達する。したがって、輻射による熱の伝達では、加熱に対する時間よりも冷却に対する時間の方がかかる傾向にある。本形態では、冷却源によって積極的に冷却された冷却体4を設けているために、冷却に時間がかかりすぎることを抑制して、冷却速度を高めることができ、効率よく冷却することができる。
冷却体4は、面状の冷却体4であることが好ましい。それにより、面状に基板Sを効率よく冷却することができる。面状の冷却体4は板状のもの(冷却板)であってもよい。ここで、面状の冷却体4とは、全体として面状となっていればよく、例えば、冷却源の通路を構成する配管が縦方向又は横方向に複数本並んで配置したものであってもよい。また、板状の部材の中に冷却源の流路が管状に形成されたものであってもよい。
冷却体4の配置は、特に限定されるものではなく、冷却状態に配置された保持体3を周囲から冷却できるように配置されていればよい。本形態の冷却体4においては、冷却体4として、チャンバー10の側壁に沿って配置された冷却体4(側部の冷却体4)と、チャンバー10の底部に沿って配置された冷却体4(底部の冷却体4)とが設けられている。側部の冷却体4を設けることにより、保持体3に保持された複数の基板トレイ7の隙間を通して、側方から各基板Sを冷却することができ、冷却効率を高めることができる。また、底部の冷却体4を設けることにより、底部からも基板Sを冷却することができるため、冷却性を高めることができる。側部の冷却体4は、保持体3の側面よりも大きい面で構成されていることが好ましい。それにより、冷却体4で保持体3を覆って冷却することができ、冷却性をさらに高めることができる。また、底部の冷却体4は保持体3の底部よりも大きい面で構成されていることが好ましい。それにより、冷却体4で保持体3の底部を覆って冷却することができ、冷却性をさらに高めることができる。
本形態では、側部の冷却体4は、保持体3よりも上下方向の長さが大きく、複数の基板Sの表面と垂直な方向に、複数の基板Sのうちの一方の基板Sから他方の基板Sの全長に亘る長さで設けられている。また、側部の冷却体4は、保持体3よりも水平方向(前後又は左右の方向)の長さが大きく、基板Sの表面と平行な方向に、基板Sの一方の端部から他の端部の全長に亘る長さで設けられている。このように、冷却体4の縦方向及び横方向の長さが保持体3よりも長いことにより、保持体3を側方で覆って冷却することができる。
側部の冷却体4は、チャンバー10の対向する左右の側壁に設けられるものであってよい。それにより、両側方から冷却することができるため、冷却性を高めることができる。あるいは、側部の冷却体4は、前後左右に四方を取り囲んで設けられるものであってもよい。それにより、冷却体4によって保持体3の周囲を取り囲んで冷却することができるため、冷却性をさらに高めることができる。ただし、チャンバー10の側壁における開口11が設けられた部分には冷却体4が設けられていなくてもよい。それにより、開口11を通して基板Sを移動させることができる。
ここで、保持体3は、冷却空間2内に配置されたときに冷却体4と接することが好ましい。保持体3に接する冷却体4は、複数の冷却体4のうちのいずれか一つであってよい。真空条件においては、輻射伝熱が支配的な環境となっている。輻射伝熱では、熱の伝達が媒体を通して伝わる場合に比べて遅く、冷却速度が遅くなる傾向にある。しかしながら、保持体3と冷却体4とが接することにより、輻射伝熱が支配的な真空の環境下において、伝導伝熱を用いて効率的に冷却することができる。特に、真空条件下における加熱と冷却とにおいては、熱伝達は輻射が支配的であり、加熱のスピードに比べて冷却のスピードは遅く、冷却速度をいかに速くするかが全体の処理速度を速める上で重要となる。その際、保持体3を冷却体4に接触させると、保持体3を熱伝導によって効率よく冷却することができ、さらに保持体3を通して基板Sの冷却を行うことができる。そのため、全体の処理速度を高めることが可能になるものである。
本形態においては、図1(a)に示すように、冷却状態となったときに、保持体3は底部の冷却体4と接するようにすることができる。保持体3における冷却体4との接触箇所は、枠部32であってもよいし、蓋部33であってもよい。蓋部33(下蓋部33b)が面状に冷却体4と接することが好ましく、下蓋部33bの全面において冷却体4と接することがより好ましい。面状に接した場合、接触面を通して熱伝導させることができるので、冷却性をさらに高めることができる。なお、蓋部33が保持体3と一体に形成されている場合、保持体3の底部が冷却体4と接触するものであってよい。なお、側部の冷却体4が保持体3と接するようにしてもよいが、その場合、保持体3の移動によって冷却体4が擦れるために、冷却体4が破損したり傷ついたりしやすくなるおそれがある。一方、底部の冷却体4と保持体3とが接するようにする場合、移動した保持体3は冷却空間2における停止位置において冷却体4と接することができ、冷却体4が擦れたりすることを抑制することができる。したがって、保持体3は底部の冷却体4と接触するようにすることが好ましいものである。
冷却体4は、複数の基板Sを輻射によって冷却する輻射構造5を有している。上記のように、真空の条件においては、熱の移動としては、輻射伝熱が支配的であり、加熱よりも冷却の方が温度変化のスピードが通常遅く、いかに冷却性を高めるかが重要である。本形態においては、輻射による冷却を効率よく行うための輻射構造5を設けることにより、冷却スピードを高めることができる。また、複数の基板Sを冷却する場合、保持体3に端部(基板表面に垂直な方向の端部)で保持された基板Sと、中央で保持された基板Sとでは、温度変化の仕方が異なり、中央で保持された基板Sは、輻射伝熱による放熱が阻害されやすくなるため、冷却されにくくなる傾向にある。しかしながら、輻射構造5によって冷却することによって、中央部に保持された基板Sの冷却スピードを高めることができ、端部と中央部とでの基板Sの温度変化の仕方を近づけて、冷却効率を向上させることができる。
輻射構造5は冷却体4の保持体3に対向する側の表面に面状(又は層状)に設けられていることが好ましい。輻射構造5が表面に設けられることにより、面状に冷却することが可能になり、効率よく冷却を行うことができる。なお、輻射構造5は、少なくとも側部の冷却体4の表面に設けられるものであってよいが、底部の冷却体4の表面には設けられていても設けられていなくても、どちらでもよい。底部の冷却体4が保持体3に接触する場合においては、底部に輻射構造5が設けられていなくても、冷却体4が保持体3に直接接触することによって冷却性を高めることができる。ただし、底部の冷却体4にも輻射構造5が設けられている方が、冷却空間全体としての冷却性をさらに高めることができる。
冷却体4は、本形態では、冷却源と直接接触する冷却体4の本体部4aと、輻射構造5を構成する輻射部材6とを有して構成されている。冷却体4の本体部は、輻射構造5よりも輻射率の低い材料で形成されている。このように、輻射構造5は、この輻射構造5よりも輻射率の低い材料で形成された冷却体4の本体部4aの表面に、本体部4aよりも輻射率の高い輻射部材6が設けられて形成されていることが好ましい。それにより、冷却性を効率よく高めることができる。ここで、輻射部材6は輻射性を高めることができる材料を用いて形成されるものであるが、冷却体4の全体において輻射性を高めようとすると、真空条件下での使用に適さないものになる場合がある。例えば、輻射性が高く加工性の高い材料としてセラミックといった多孔性材料などが挙げられるが、多孔性の材料は真空により構造が破壊されやすいため、真空条件下では使用しにくくなるおそれがある。また、ガラスは輻射率が高いが加工性が他の材料に比べて高くなく、また、真空条件で破壊されるおそれがある。そのため、冷却部4を本体部4aと輻射構造5との別の材料で構成して、輻射性を低くすることが好ましく、輻射構造5に輻射部材6を用いることが好ましいものでる。輻射性を高めるために、輻射構造5は多孔性の構造であったり、凹凸構造であったりしてもよい。また、真空条件下で使用しやすくするために、冷却体4の本体部4aは、非多孔性物質で構成することが好ましい。
図1(a)に示すように、冷却体4には、冷却源を流す配管(冷却配管16)がチャンバー10の外部から延伸して連結されている。冷却体4の冷却機構は、水冷であってもよいし、空冷であってもよく、適宜の冷却方式を用いることができる。また、ヒートポンプとして使用可能な適宜の冷却機構であってもよい。冷却源は、液体の場合、水であってもよいし、水溶液であってもよいし、有機溶剤などであってもよい。また、冷却源は、気体の場合、空気であってもよいし、冷媒ガスであってもよい。また、冷媒として使用可能な気液混合体を用いるようにしてもよい。冷却源の温度は特に限定されるものではないが、例えば−30〜30℃の範囲などにすることができる。具体的には、水で冷却する場合、0〜25℃であってよい。
冷却体4の本体部4aとしては、水冷ジャケットを用いることができる。水冷ジャケットは、内部の流路に連続的に水を流して冷却する冷却機構である。水冷ジャケットによれば、簡単に冷却体4を構成することができる。また、本体部4aの材料としては、例えば、ステンレス製のものを用いることができる。具体的には、SUS水冷ジャケットを用いることができる。それにより、簡単に冷却性の高い冷却体4を形成することができる。冷却体4の本体部4aの厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、10〜50mmの範囲内であってよい。
輻射部材6としては、輻射性の高い材料を用いて構成することができる。輻射構造5は輻射部材6の全体で輻射性が高められて形成されてもよいし、輻射部材6の表面が加工されて形成されていてもよい。輻射構造5の輻射率は0.5以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.7以上であることがさらに好ましく、0.8以上であることがさらにより好ましく、0.9以上であることがもっとも好ましい。輻射率は0から1の範囲で設定される数値であり、上限は1である。輻射構造5の輻射率は高ければ高い方がよく、上限は1となる。ただし、実用的な観点からは、輻射構造5の輻射率は0.99以下であってもよく、あるいは0.95以下であってもよい。
輻射構造5(輻射部材6)の材料として好適なものの一つとして、表面がアルマイト処理されたアルミが挙げられる。アルマイトは、アルミニウムの陽極酸化皮膜である。アルマイト処理は黒アルマイト処理であってよい。また、輻射構造5に用いるアルミは、アルミ板であってもよく、アルミシートであってもよい。ここで、ステンレスの輻射率は0.3付近、アルミの輻射率は0.1付近であり、ステンレスやアルミのみで冷却体4を構成すると輻射性が高くなく、冷却を効率よく行えなくなる可能性がある。一方、処理方法にもよるが、アルマイトにおいては、輻射率が0.8以上あるいは0.9以上にすることができ、輻射性を効率よく高めることができる。そのため、輻射部材6として、アルマイト処理されたアルミが好ましいものである。なお、アルマイト処理では、表面に凹凸や空隙などが形成されるなどして、輻射率が高くなるものと推測される。また、輻射構造5として、アルミ以外の金属や材料が用いられてもよい。例えば、金属の表面が凹凸面となることにより、輻射構造5を構成することができる。また、金属の陽極酸化被膜を輻射構造5として用いてもよい。例えば、チタン、ジルコニウム、マグネシウムなどは陽極酸化被膜を形成でき、これらを利用することもできる。
輻射部材6の厚みは1〜5mmであることが好ましい。すなわち、アルミ板又はアルミシートを用いる場合、その厚みは1〜5mmであることが好ましい。アルミの厚みがこの範囲になることにより、冷却性を効率よく高めることができる。また、アルミの厚みがこの範囲であると、取扱いが容易になる。
輻射構造5の材料として好適なものの他の一つとして、溶射された金属表面が挙げられる。例えば、ステンレスは輻射性が高くないが、溶射により輻射性を高めることができる。溶射した場合、表面に凹凸が形成されて輻射性が高まるものと考えられる。
輻射部材6の好ましい一例は、金属表面が粗面処理された後、その金属表面に輻射性の高い金属成分が積層された輻射部材6である。輻射部材6を構成する金属は、アルミニウムであってよい。また、粗面処理は、ブラスト処理であってもよく、エッチング処理であってもよく、その両方の処理が行われるものであってもよい。ブラスト処理はアルミ粒子により行うものであってよい。積層される金属成分は、例えばAlとTiを含むものであってよい。このような輻射部材6を用いることにより、真空条件における輻射冷却性を高めることができる。
輻射構造5は、上記のように、冷却体4の表面が陽極酸化処理又は粗面化処理されて形成されていることが好ましい。それにより、冷却体4による輻射冷却性を高めることができる。陽極酸化処理又は粗面化処理により形成される輻射構造5は、輻射部材6の表面に設けられるものであってよい。このとき、陽極酸化処理又は粗面化処理により形成された輻射構造5を表面に有する輻射部材6を、冷却体4の本体部4aの表面に取り付けることにより、表面に輻射構造5を有する輻射冷却性の高い冷却体4を形成することができる。また、冷却体4の本体部4aの表面に陽極酸化処理又は粗面化処理を直接行って、輻射構造5を形成するようにしてもよい。この場合、輻射部材6を用いずに冷却体4を構成することができる。なお、陽極酸化処理と粗面化処理との両方の処理が行われた表面を輻射構造5として利用してもよい。その場合、陽極酸化処理が行われた後に粗面化処理が行われていても、粗面化処理が行われた後に陽極酸化処理が行われていても、どちらでもよい。
図2は、冷却体4の一例を示している。冷却体4の本体部4aには冷却源流路12が設けられている。このように冷却源流路12が設けられることにより、冷却源を流して冷却体4を冷却させることができる。
図2(a)の形態では、冷却体4の本体部4aの表面に輻射構造5を構成する輻射部材6が設けられており、この輻射部材6はネジなどの差込み式の固定具13によって本体部4aに取り付けられている。ネジ止めによって輻射部材6を取り付けることにより、簡単に輻射構造5を冷却体4の表面に形成することができる。この形態では、輻射部材6は、本体部4aの内側(保持体3側)の表面全体において接している。このように、輻射部材6が直接、本体部4aと接することによって、冷却効率を高めることができる。また、ネジなどの固定具13によって物理的に固着した場合、固定性を高めることができ、輻射構造5を本体部4aから外れにくくすることができる。
図2(b)の形態では、冷却体4の本体部4aの表面に輻射構造5を構成する輻射部材6が設けられており、この輻射部材6は熱伝導シート14によって接着されている。熱伝導シートは、例えば、接着性を有する樹脂組成物のシートなどによって構成される。熱伝導性を高めるために、無機フィラーや金属フィラーを含むシートが用いられていてもよい。この形態では、輻射構造5が熱伝導シート14によって、接着しているために、熱伝導性と接着性が高められ、冷却を効率よく行うことができる。熱伝導シート14の厚みは、特に限定されるものではないが、熱伝導性と接着性を高める観点から、0.1〜1mmの範囲内であってよい。
図2(c)の形態では、冷却体4の本体部4aは表面に凹部12aが形成されており、この凹部12aが形成された面に、輻射構造5を構成する輻射部材6が取り付けられることにより、冷却体4が構成されている。冷却体4における冷却源流路12は、輻射部材6で被覆された凹部12aにより形成されている。この形態では、輻射部材6が直接、冷却源と接して冷却されるため、効率よく冷却を行うことができる。また、冷却体4における冷却源流路12が、本体部4aと輻射部材6との接合によって形成されるため、冷却源流路12を適宜の形状に設計しやすくすることができる。この形態においては、冷却源の流れる圧力に対向できるよう輻射部材6は厚みがある方が好ましい。例えば、輻射部材6の厚みは、冷却体4の本体部4aの厚みの1/4以上又は1/3以上であってもよい。なお、輻射部材6と本体部4aとはネジなどの固定具13で固定されていてよいし、熱伝導シートで接着されてもよいし、溶接で接合されていてもよい。
図2(d)の形態では、輻射構造5は溶射面によって構成されている。この輻射構造5は、輻射部材6を構成する部材の表面が溶射されて形成されている。本形態では、冷却体4の本体部4aと輻射部材6とは、同じ材料で構成されるものであってよい。例えば、ステンレスなどを用いることができる。この形態では、同じ材料によって輻射構造5と本体部4aとを構成することが可能になり、冷却体4を容易に作製することができる。また、溶射によって簡単に輻射性を高めることができる。なお、輻射部材6と本体部4aとは溶接で接合しているものであってよい。
図2(e)の形態では、冷却部4の本体部4aの表面が溶射されており、この溶射された表面層によって輻射構造5が構成されている。この形態では、本体部4aの一部として輻射構造5を構成することができるため、部材数を減らすことができ、冷却体4を容易に作製することができる。また、溶射によって簡単に輻射性を高めることができる。
図1の形態においては、複数の基板Sにおける基板間のピッチ(隣り合う基板間の距離)は、一定の間隔になって示されているが、基板間のピッチはこれに限定されるものではない。基板間のピッチが保持体3の端部(上下方向の端部)と中央部とにおいて異なっていてもよい。基板間のピッチは、保持爪31の位置を変えたり、あるいは、基板トレイ7の厚みをトレイごとに変更したりすることによって変更することができる。基板間のピッチを簡単に変更可能にするためには、保持爪31は上下移動可能に枠部32に設けられていてもよい。例えば、保持爪31は枠部32に沿ってスライドして移動可能であったり、枠部32に脱着自在に取り付けられたりするものであってもよい。
図3は、保持体3による基板Sの配置の仕方の一例を示しており、基板間のピッチPの一例を示している。図3では、保持体3によって保持された状態の複数の基板Sを抜き出して描画しており、保持体3や基板トレイ7の図示は省略している。保持体3が冷却空間2に配置された際に、加熱空間1に近い側の基板Sから順番に、基板S1、S2、・・・との符号を付している。すなわち、図1の形態の真空加熱炉Aでは、一番上側に配置される基板Sが、基板S1となる。
図3では、基板S間の距離(ピッチP)が、隣り合う基板Sごとに異なっている。このように、保持体3は、冷却空間2に配置されたときに、複数の基板Sにおける基板間のピッチPが、加熱空間1に近い側の端部のピッチPよりも広いピッチPが中央側で形成されるように、複数の基板Sを保持していることが好ましい。それにより、冷却がされにくい保持体3の中央部に配置された基板Sを効率よく冷却することができ、全体の冷却性を高めることができる。また、基板Sの間の全てを大きく広げて配置する場合よりも、装置を小型化することが可能になる。
図3では、10個の基板Sを用いた場合を示しており、加熱空間1に最も近い基板Sを基板S1で示し、加熱空間1から最も遠い基板Sを基板S10で表している。そして、基板S1と基板S2との間のピッチをP1で表し、基板S2と基板S3との間のピッチをP2で表している。そして、以下同様に、順次、ピッチP3、P4、・・・として表し、基板S9と基板S10との間のピッチPをピッチP9として表している。すなわち、nを正の整数とした場合、基板Snと基板Sn+1との間のピッチPは、ピッチPnとして表すことができる。
保持体3が冷却空間2に配置したときに、加熱空間1に最も近い基板S1と、加熱空間1に2番目に近い基板S2との間の基板間の距離(ピッチP)は、ピッチP1である。また、保持体3が冷却空間2に配置したときに、加熱空間1から最も遠い基板S10と、加熱空間2から2番目に遠い基板S9との間の基板間の距離(ピッチP)は、ピッチP9である。なお、N個の基板Sを用いた場合、加熱空間2から離れた側の端部の基板Sは基板SNとして表すことができ、加熱空間2から離れた側の端部の基板間のピッチPは、PN−1として表すことができる。なお、Nは2以上の整数である。複数の基板Sのピッチを考慮する場合、Nは、例えば4又は5以上の整数であってよい。
そして、図3の形態では、中央部の基板間ピッチPである、例えば、ピッチP4、P5、P6は、加熱空間1に近い側の端部の基板間のピッチP1よりも大きくなっている。そのため、中央部において冷却されにくくなることを抑制して、効率よく複数の基板Sを冷却することができる。複数の基板Sが略平行に配置される場合、等間隔に基板Sが並ぶと、中央部では端部よりも冷却しにくくなるおそれがある。しかしながら、基板のピッチPが変わることにより、中央部を冷却しやすくすることができ、冷却速度をより均一化することが可能になるのである。
さらに本形態では、中央部のピッチP4、P5、P6は、保持体3の加熱空間1から遠い側の端部の基板間のピッチP9よりも、大きくなっている。そのため、中央部における冷却性をさらに高めることができる。
図3の基板Sの保持構造では、端部から中央部に向かうにつれて、徐々に基板間のピッチPが広がっている。すなわち、加熱空間1に近い側の端部では、ピッチPが、P1<P2<P3となっている。また、加熱空間1から遠い側の端部では、ピッチPが、P9<P8<P7となっている。このように、中央部に向かうほど基板間のピッチPが徐々に広がることも好ましい。それにより、中央部での冷却性をさらに高めることができる。
図3の形態では、さらに、保持体3は、加熱空間1に近い側の端部のピッチP1が加熱空間1から遠い側の端部のピッチP9よりも大きくなるように、複数の基板を保持している。本形態の真空加熱炉Aでは、加熱空間1と冷却空間2とが連通しており、加熱空間1に近い端部の基板S1は、加熱空間1に近いため冷却状態においても加熱空間1から漏れ出た熱が付与される可能性がある。そのため、加熱空間1に近い基板Sは冷却がされにくくなる可能性がある。そこで、加熱空間1に近い端部における基板Sのピッチ(P1)を反対側の端部の基板Sのピッチ(P9)よりも大きくすることによって、加熱空間1に近い基板Sが冷却されにくくなることを抑制し、全体の冷却効率を高めることができる。
また、前述のように、冷却状態においては、保持体3の底部は冷却体4に接することが好ましく、その場合、保持体3は冷却体4の伝熱によって直接冷却することが可能である。そして、直接冷却された場合、保持体3の底部に近い、加熱空間1とは遠い側の端部の基板S10や、それに隣接する基板S9は、冷却が促進されやすい。そのため、保持体3と冷却体4とが接触する形態においては、加熱空間1に近い側の端部のピッチP1を、加熱空間1から遠い側の端部のピッチP9よりも大きくすることが好ましい。それにより、冷却速度をより均一化させることができる。
ここで、基板Sの数が10個以外の場合も、ピッチPは前記と同様の関係が成り立つことが好ましい。例えば、N個の基板Sを用いた場合、保持体3の加熱空間1から遠い側の端部の基板間のピッチPはPN−1と表すことができる。また、保持体3の中央のピッチPをPmと表すとすると、mはNの半分付近の整数であり、例えば、mは、N/2、N/2−1、(N−1)/2、(N−1)/2−1などから選ばれるいずれかの整数にすることができる。このとき、前記の好ましい関係は、P1<Pmと表すことができる。また、より好ましい関係は、Pm>PNと表すことができる。また、さらに好ましい関係は、P1>PNと表すことができる。ピッチPがこのような関係になることにより、冷却効率を高めることができるものである。
なお、基板Sの厚みは、隣り合う基板S間の距離よりもはるかに小さいものである。そのため、複数の基板SのピッチPを設定する際は、基板Sの厚みを無視して考えてもよい。例えば、基板SのピッチPは、隣り合う基板Sにおける対向する面の距離と考えてもよいし、一方の基板Sの表面から隣り合う他方の基板Sの表面までの距離と考えてもよい。あるいは、隣り合う基板Sにおいて、一方の基板Sの厚み方向の中心位置から他方の基板Sの厚み方向の中心位置までの距離と考えてもよい。また、複数の基板SのピッチPは、いわば基板Sの面間隔として設定されるものであってよい。
図4は、基板トレイ7に載置された基板Sの一例を示している。複数の基板Sは、各基板Sが基板トレイ7に載置されて保持体3に保持されている。その際、基板トレイ7には、基板Sとは重ならない位置に貫通孔8が設けられていることが好ましい。貫通孔8が設けられることにより、貫通孔8を通して輻射することが可能になるので、冷却性を高めることができる。また、貫通孔8は、この貫通孔8が設けられた基板トレイ7に隣接する基板トレイ7に載置された基板Sと、輻射構造5との間において、この貫通孔8を通過する直線Lを結ぶことが可能なように形成されていることが好ましい。図4(b)では、基板トレイ7aに設けられた貫通孔8aが、基板トレイ7aに隣接する基板トレイ7bに載置された基板Sbと、輻射構造5との間において、貫通孔8aを通過する直線Lを結ぶことが可能なように形成されている様子が図示されている。このように貫通孔8が設けられることにより、この貫通孔8を通して、直接、熱の輻射を行うことができるため、冷却性をさらに高めることができる。
輻射による熱伝導では、媒体を通さないため、冷却体4の輻射が直接基板Sに浴びることが可能なように基板Sが配置されることが有利である。そこで、貫通孔8を設けると、図4(b)に示すように、輻射構造5から基板Sを見た場合に、直近の基板Sだけでなく、下方の基板Sなどを直接見ることができるように配置することになり、輻射による熱伝導性が高まる。したがって、基板トレイ7に貫通孔8を設けることが好ましいものである。
図4(a)の基板トレイ7の形態では、矩形状の基板Sの外周に沿って、複数のスリット状の貫通孔8が設けられている。このように、基板トレイ7の外周に貫通孔8を設けることにより、冷却体4による輻射の熱伝導を受けやすくすることができる。なお、図示の形態では、貫通孔8は基板トレイ7の四辺に設けられている例を示しているが、対向する二辺であってもよい。なお、貫通孔8は、基板トレイ7の中央における基板Sが載置される箇所にさらに設けられてもよい。それにより、基板Sの中央を冷却することが可能になり、さらに冷却効率を高めることができる。ただし、中央に貫通孔8を設けると、基板トレイ7の強度が低下したり、貫通孔8の角によって基板Sが傷ついたりするおそれもあるため、貫通孔8は基板トレイ7の中央に設けないことも好ましい。
次に、有機半導体素子の製造方法を説明する。有機半導体素子の製造においては、上記の真空加熱炉Aを好適に用いることができる。それにより、加熱及び冷却の効率を高めることができる。
有機半導体素子の一例は有機エレクトロルミネッセンス素子である。有機エレクトロルミネッセンス素子としては、基板Sの表面に、第1の電極層、複数の有機層、第2の電極層が積層されて形成されている構造のものを製造することができる。複数の有機層は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、中間層などから選ばれる複数の適宜の層であってよい。
有機半導体素子の製造方法にあっては、複数の基板Sを真空中で加熱した後に冷却する真空加熱冷却工程を含んでいる。この真空加熱冷却工程は、例えば、塗布層を形成した後、蒸着を行う前に行うことができる。有機層を積層する際に、下部の層を塗布で形成し、上部の層を蒸着により形成する場合があるが、本工程では、このような塗布層の形成後の基板Sを効率よく加熱処理することができる。塗布層は、有機膜であってよい。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子においては、基板Sの表面に電極層が形成され、さらにこの電極層の表面に一又は複数の有機膜が積層形成された基板Sを加熱処理の対象として用いることができる。
まず、図1の形態の真空加熱炉Aにおいて、基板Sを基板トレイ7に載置し、基板トレイ7ごと基板Sを開口11からチャンバー10内に入れて、保持体3に保持する。基板Sの導入は、1枚ずつ行うものであってよい。基板Sの導入は冷却空間2で行うことが好ましい。加熱空間1で基板Sを導入すると、最初に導入された基板Sと最後に導入された基板Sとの熱履歴が異なることになる可能性があり、複数の基板Sにおいて加熱処理のぶれが大きくなるおそれがある。
基板Sの導入は、例えば、まず、保持体3を冷却空間2に配置し、開口11の高さ位置に保持体3の一番上側の保持爪31が配置している状態で、開口11から一番上側の基板S(S1)を導入するようにする。そして、保持体3を上方に移動させて、すぐ下側の保持爪31を開口11の側方に配置させ、二番目の基板S(S2)を導入する。この動作を繰り返して、保持体3の底部に配置される基板S(S10)を導入する。これにより、加熱処理を行う複数の基板Sの全てを保持体3に保持することができる。このとき、複数の基板Sは、各基板Sが基板トレイ7に載置されて保持体3に保持されることになる。また、保持体3は、複数の基板Sを略平行に配置して保持することになる。なお、基板Sの導入は複数枚(例えば2枚ずつ)で行うなどの方法であってもよい。また、基板Sの導入は、底部の基板S(S10)から順次に導入して、上部の基板S(S1)までを導入するようにしてもよい。その場合、導入された基板Sを冷却空間2内に保持できるため、不要に加熱されることを抑制することができる。
次に、チャンバー10内を真空にする。真空は、チャンバー10内の気体をポンプなどで排気することにより行うことができる。真空に際しては、開口11を蓋などで塞いでもよい。あるいは、開口11をオープンにしたまま、開口11と連通する空間ごと真空にしてもよい。例えば、基板Sの搬送を行う搬送空間や、蒸着するための蒸着空間などと一緒に真空にすることができる。なお、真空は基板Sの導入前に行ってもよい。例えば、基板Sの導入前にチャンバー10内を開口11によって連通する空間ごと真空にし、その後、基板Sをチャンバー10に導入してもよい。
複数の基板Sをチャンバー10内に入れた後、保持体3を加熱空間1に移動させて加熱体9に囲まれた状態で保持し(加熱ポジション)、加熱処理工程に移る。加熱空間1によって基板Sが加熱される温度は、加熱処理に適した温度であってよい。例えば、100〜200℃にすることができる。加熱処理の時間は、特に限定されるものではないが、有機膜の定着が可能な時間であればよく、例えば、5〜30分の範囲内であってよい。加熱処理においては、全ての基板Sが所定の温度に達したときに加熱終了の時点となる。
そして、加熱空間1から冷却空間2に保持体3を移動させて冷却体4に囲まれた状態で保持し(冷却ポジション)、加熱された複数の基板Sを冷却する。保持体3の移動方向は、複数の基板Sの表面と垂直な方向(法線方向)であってよい。それにより、冷却体4を保持体3の周囲における側方に配置せることができ、複数の基板Sを側方から効率よく冷却することができる。このとき、本形態の真空加熱炉Aでは、輻射構造5を有するとともに冷却源によって冷却された冷却体4によって、複数の基板Sを冷却することができる。そのため、輻射による冷却性を高めることができ、効率よく冷却することが可能になる。また、冷却ポジションとなったときに保持体3が冷却体4に接するようにすると、熱伝導によって冷却することができるため、冷却性をさらに高めることができる。
有機半導体素子の製造では、基板トレイ7には、上記で説明した貫通孔8が設けられていることが好ましい。それにより、輻射による冷却性を高めることができ、効率よく冷却することができる。
冷却空間2によって基板Sが冷却される温度は、次工程に適する温度、例えば蒸着に適する温度であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、0〜50℃の範囲内にすることができる。冷却工程では、全ての基板Sが所定の温度に達したとき(例えば50℃以下又は40℃以下)に冷却終了の時点となる。
ここで、加熱空間1は加熱体9の駆動によって作り出すことができる。例えば、加熱体9に給電することにより、加熱体9を発熱させて加熱空間1を形成することができる。また、冷却空間2は、冷却体4の駆動によって作り出すことができる。例えば、冷却源が冷却源流路12を流れることによって冷却体4が冷却し、冷却空間2を形成することができる。加熱体9及び冷却体4の駆動は、基板Sの導入前であってよい。すなわち、加熱空間1及び冷却空間2は、基板Sの導入前にあらかじめ形成されていてよい。それにより、効率よく基板Sの加熱及び冷却を行うことができる。
冷却工程の後は、開口11から基板Sを取り出して、次工程に送り出すことができる。本形態では、基板Sを真空条件下で冷却しているために、真空状態を維持したまま、次工程に進むことができる。例えば、次工程が真空蒸着の場合は、真空状態を維持したまま、真空蒸着を行って、塗布層の上に蒸着層を形成することができる。
図1の形態の真空加熱炉Aでは、開口11が冷却空間2の上部に設けられている。そのため、真空加熱冷却工程後に、複数の基板Sを冷却空間2から搬出する搬出工程を行うにあたって、複数の基板Sのうちの加熱空間1に近い側の基板Sから順に冷却空間2の外部に搬出するようにすることができる。それにより、基板Sの再加熱を抑制することができ、複数の基板Sの全てを、冷却状態を維持したまま次工程に送り出すことができる。また、搬送中に冷却ポジションを維持することができるため、基板Sを十分に冷却することができる。
基板Sを取り出すにあたって、開口11が蓋などによって閉じられている場合には、蓋を開ける。このとき、あらかじめチャンバー10の内部と通じる空間を真空状態にしておくことができる。また、開口11が閉じられていない状態で真空空間が形成されている場合には、そのまま真空状態を維持して基板Sを開口11から取り出すことができる。
基板Sの取り出しは、保持体3の一番上に配置された基板S(S1)を基板トレイ7ごと取り出した後、保持体3を上方に移動させて、二番目の基板S(S2)を取り出し、以下同様に、順次に下方の基板Sを取り出すことにより行うことができる。保持体3の底部の配置された基板S(S10)を取り出すことにより基板Sの取り出しは終了する。このように、上部の基板Sから順番に取り出す場合、取り出す基板Sよりも下側の基板Sは、冷却空間2内に配置されることになる。そのため、基板Sが再加熱されることを抑制することができる。
真空加熱炉Aから取り出された基板Sは、蒸着などの次工程に進むことができる。有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する場合には、塗布膜を形成し加熱処理及び冷却した基板Sが、真空加熱炉Aから取り出される。その後、真空下で他の有機膜や電極層などの適宜の層を蒸着法、スパッタ法等に代表される真空下の気相成膜によって形成することができる。真空状態を維持して積層を行うことにより、水分の浸入を抑制して、劣化の少ない素子を製造することができる。そして、積層体が形成された基板Sを窒素雰囲気などの不活性条件下に置き、この条件下で対向基板などにより積層体の封止を行うことによって、有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することができる。真空状態からそのまま不活性条件に移行して封止を行うことにより、水分の浸入をさらに抑制して、劣化の少ない素子を製造することができる。
図5に、真空加熱炉Aを用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を製造したときの、複数の基板Sにおける加熱及び冷却の際の温度の変化例を示す。このグラフでは、等間隔のピッチで10枚の基板Sを並べた場合における基板S1、S5、S10の中央付近の温度を示している。横軸は時間、縦軸は温度である。この装置では、保持体3は、冷却空間2に配置されたときに、底部の冷却体4と接するように構成されている。
図5のグラフに示すように、保持体3の中央に配置される基板S(S5)は、端部の基板S(S1、S10)よりも温度が変化しにくく、加熱に時間を要するとともに、冷却に時間を要することが分かる。また、加熱空間1から遠い側の端部の基板S(S10)よりも加熱空間1に近い側の端部の基板S(S1)の方が冷却されにくいことが分かる。そこで、図3の形態で説明したように、基板間のピッチPを調整することによって、保持体3の中央部での基板Sの冷却性を高めることができ、全体の冷却効率を向上することができるものである。また、このグラフから、保持体3の底部にある基板S10は、保持体3と冷却体4との接触により、他の基板S(S1、S5)よりも冷却速度が高められていることが分かる。