JP2014105796A - クラッチ機構およびクラッチ機構用の永久磁石の製造方法 - Google Patents

クラッチ機構およびクラッチ機構用の永久磁石の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】不可逆減磁の発生を抑制しつつ、ネオジム磁石材料および重希土類元素材料の使用量の低減化が可能なクラッチ機構を提供する。
【解決手段】永久磁石51によって形成される磁気回路に対して、永久磁石51による磁束の流れ方向と同一方向または逆方向の磁束を与えるように、電磁コイル54で磁束を発生させることにより、駆動側回転体30と従動側回転体40の連結と遮断の切り替えを行うクラッチ機構において、永久磁石51は、重希土類元素を含有するネオジム磁石であり、永久磁石51のうち、電磁コイル54が逆方向の磁束を永久磁石に与えたときに、不可逆減磁を起こしやすい領域、例えば、リング外周側の2つの角部の周辺領域は、他の領域と比較して、重希土類元素が多く含まれる構成とする。
【選択図】図7

Description

本発明は、永久磁石と電磁コイルを用いたクラッチ機構およびクラッチ機構用の永久磁石の製造方法に関するものである。
永久磁石と電磁コイルを用いた自己保持型のクラッチ機構が特許文献1、2等に開示されている。これは、永久磁石の磁力によって、駆動側回転体と従動側回転体との連結状態を維持するとともに、永久磁石によって形成される磁気回路に対して、永久磁石による磁束の流れ方向と同一方向または逆方向の磁束を与えるように、電磁コイルで磁束を発生させることにより、駆動側回転体と従動側回転体の連結と遮断の切り替えを行うものである。
これによれば、駆動側回転体と従動側回転体の連結と遮断の切り替え時以外には、電磁コイルの通電が不要であり、消費電力の低減が可能となる。
また、永久磁石としては、このネオジム磁石があり、このネオジム磁石にDy等の重希土類元素を添加することで、永久磁石の保磁力を向上できることが一般的に知られている。この場合、通常、永久磁石全体に均一に重希土類元素が添加される。
特開2011−805793号公報 特公平2−2007号公報
上記した構成のクラッチ機構の永久磁石として、重希土類元素が全体に均一に添加されたネオジム磁石を用いることができる。この場合、ネオジム磁石および重希土類元素は材料単価が高いため、永久磁石を構成する各材料の使用量が少ないことが好ましい。
しかし、重希土類元素が全体に均一に添加されたネオジム磁石を用いる場合では、下記の理由により、ネオジム磁石材料および重希土類元素材料の使用量の低減に限界がある。
すなわち、上記した構成のクラッチ機構では、連結と遮断の間の切り替えの際に、瞬間的とはいえ大きな逆磁界を永久磁石に与えるため、永久磁石の一部の領域が不可逆減磁を起こしやすくなることがわかった(後述する図8、9参照)。ここでいう不可逆減磁とは、永久磁石に与えられていた逆磁界を取り除いても、元の磁気特性に戻らない変化を意味する。
このため、その一部の領域で不可逆減磁がおきないように、ネオジム磁石材料および重希土類元素材料の使用量を設定する必要がある。換言すると、不可逆減磁を起こしやすい領域に合わせて、それ以外の領域においても重希土類元素の添加量を多くしたり、永久磁石全体のネオジム磁石材料の使用量を多くしたりしなければならない。
この結果、重希土類元素が全体に均一に添加されたネオジム磁石を用いる場合では、ネオジム磁石材料および重希土類元素材料の使用量の低減化ができず、上記した構成のクラッチ機構を安価に提供することが困難となっている。
本発明は上記点に鑑みて、不可逆減磁の発生を抑制しつつ、ネオジム磁石材料および重希土類元素材料の使用量の低減化が可能なクラッチ機構およびそれを実現できるクラッチ機構用の永久磁石の製造方法を提供することを目的とする。
本願発明は、永久磁石に大きな逆磁界が与えられたとき、永久磁石の内部は磁束密度が均一ではなく、永久磁石の内部には、不可逆減磁が起きやすい領域と、その領域と比較して不可逆減磁が起き難い領域とが存在することを見出し、この知見に基づいて、創出されたものである。
すなわち、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、駆動側回転体と従動側回転体の連結と遮断の切り替えを行う際に、永久磁石によって形成される磁気回路に対して、永久磁石による磁束の流れ方向と同一方向または逆方向の磁束を与えるように、磁束を発生させる電磁コイル(54)とを備えるクラッチ機構において、
永久磁石は、重希土類元素を含有するネオジム磁石であり、
永久磁石のうち、電磁コイルが逆方向の磁束を永久磁石に与えたときに、不可逆減磁を起こしやすい領域(51c、51d)は、他の領域と比較して、重希土類元素が多く含まれていることを特徴とするクラッチ機構。
本発明では、温度や電磁コイルから与えられる磁束の大きさ等の所定条件下で、不可逆減磁を起こしやすい領域での不可逆減磁の発生を抑制できるように、ネオジム磁石の大きさと、不可逆減磁を起こしやすい領域での重希土類元素の含有割合とが設定される。
このとき、本発明によれば、不可逆減磁を起こしやすい領域以外の他の領域での重希土類元素の含有量を少なくしているので、磁石全体に重希土類元素が均一に添加され、本発明と同じ所定条件下での不可逆減磁の発生を抑制できるように、重希土類元素の含有割合が設定されたネオジム磁石と比較して、重希土類元素の使用量を低減できる。
また、上記した磁石全体に重希土類元素が均一に添加されたネオジム磁石と比較して、重希土類元素の使用量を低減できる範囲内で、不可逆減磁を起こしやすい領域の重希土類元素の含有割合をより高く設定することで、不可逆減磁を起こしやすい領域での保磁力が向上して、不可逆減磁が起きにくくなるため、上記した磁石全体に重希土類元素が均一に添加されたネオジム磁石と比較して、永久磁石材料の使用量を減らすことが可能となる。
よって、本発明によれば、不可逆減磁の発生を抑制しつつ、ネオジム磁石材料および重希土類元素材料の使用量の低減化が可能なクラッチ機構を提供できる。
また、請求項4に記載の発明では、
永久磁石として、ネオジム磁石を用意する工程と、
永久磁石のうち不可逆減磁を起こしやすい領域の表面上に、重希土類元素の拡散源を配置した状態で加熱することにより、重希土類元素を永久磁石の結晶粒界に拡散させる加熱工程とを有することを特徴としている。
このようにして、請求項1に記載のクラッチ機構用の永久磁石を製造することができる。
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
第1実施形態におけるクラッチ機構の軸方向断面図である。 図1のA−A断面図である。 図1中の永久磁石単独の斜視図である。 図3のB−B断面におけるDyの濃度分布を示す模式図である。 図3の永久磁石の製造工程の一部を示す斜視図である。 図3の永久磁石の微細構造を示す模式図である。 (a)は第1実施形態のアーマチュアとプーリが連結された状態を説明するための説明図であり、(b)は連結された状態のアーマチュアとプーリとを切り離す際の説明図であり、(c)はアーマチュアとプーリが切り離された状態を説明するための説明図であり、(d)は切り離された状態のアーマチュアとプーリを連結させる際の説明図である。 比較例1のクラッチ機構に用いた永久磁石内部の磁場解析結果を示す図である。 比較例1のクラッチ機構に用いた永久磁石の150℃での減磁曲線を示す図である。 第2実施形態における永久磁石の製造工程の一部を示す図である。 第3実施形態における永久磁石の斜視図である。
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
(第1実施形態)
図1に示す本実施形態のクラッチ機構は、車両走行用駆動力を出力する駆動源としてのエンジン(図示せず)から回転駆動力を得て、圧縮機構を回転駆動させる圧縮機2のクラッチ機構に本発明を適用したものである。
圧縮機2は、冷媒を吸入して圧縮するものであり、圧縮機吐出冷媒を放熱させる放熱器、放熱器流出冷媒を減圧膨張させる膨張弁、および、膨張弁にて減圧された冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる蒸発器とともに、車両用空調装置の冷凍サイクル装置を構成する。
クラッチ機構20は、エンジンからの回転駆動力によって回転する駆動側回転体を構成するプーリ30と、圧縮機2の回転軸2aに連結された従動側回転体を構成するアーマチュア40とを有し、このプーリ30とアーマチュア40とを連結あるいは切り離す(遮断する)ことで、エンジンから圧縮機2への回転駆動力の伝達を断続するものである。なお、図1は、プーリ30とアーマチュア40とを連結させた状態を示している。
つまり、クラッチ機構20がプーリ30とアーマチュア40とを連結すると、エンジンの回転駆動力が圧縮機2に伝達されて、冷凍サイクル装置が作動する。一方、クラッチ機構20がプーリ30とアーマチュア40とを切り離すと、エンジンの回転駆動力が圧縮機2に伝達されることはなく、冷凍サイクル装置も作動しない。なお、クラッチ機構20は、冷凍サイクル装置の各種構成機器の作動を制御する空調制御装置から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
以下、クラッチ機構20の具体的な構成について説明する。図1に示すように、クラッチ機構20は、プーリ30、アーマチュア40、および、プーリ30とアーマチュア40とを連結させる吸引磁力を発生させる永久磁石51等を有するステータ50を備えている。
プーリ30は、圧縮機2の回転軸2aに対して同軸上に配置された円筒状の外側円筒部31、この外側円筒部31の内周側に配置されるとともに圧縮機2の回転軸2aに対して同軸上に配置された円筒状の内側円筒部32、並びに、外側円筒部31および内側円筒部32の回転軸方向一端側同士を結ぶように回転軸垂直方向に広がるとともに、中央部にその表裏を貫通する円形状の貫通穴が形成された端面部33を有している。
つまり、プーリ30は二重円筒構造で構成され、その軸方向断面形状は、図1に示すように、回転軸に対して線対称に位置付けられる2つのコの字形状となり、外側円筒部31の内周面、内側円筒部32の外周面および端面部33の内側面によって、中空円柱状空間が形成される。また、図1のA−A断面における軸方向垂直断面形状は、図2に示すように二重円形状になる。
外側円筒部31は、非磁性材(例えば、ステンレス)で形成されている。内側円筒部32および端面部33は、磁性材(例えば、鉄)にて一体的に形成され、後述する吸引用磁気回路MCaおよび非吸引用磁気回路MCbの一部を構成する。外側円筒部31は、一体的に形成された内側円筒部32および端面部33に対して、接着、圧入等によって接合されている。外側円筒部31の外周側には、図示しないVベルトが掛けられるV溝(具体的には、ポリV溝)が形成されている。内側円筒部32の内周側には、ボールベアリング34の外側レースが固定されている。
ボールベアリング34は、圧縮機2の外殻を形成するハウジングに対して、プーリ30を回転自在に固定するものである。そのため、ボールベアリング34の内側レースは、圧縮機2のハウジングに設けられたハウジングボス部2bに固定されている。
端面部33には、軸方向から見たときに径方向に2列に並んだ円弧状の複数のスリット穴33a、33bが形成されている。このスリット穴33a、33bは、端面部33の表裏を貫通している。また、端面部33の外側面は、プーリ30とアーマチュア40が連結された際に、アーマチュア40と接触する摩擦面を形成している。
そこで、本実施形態では、端面部33の表面の一部に、端面部33の摩擦係数を増加させるための摩擦部材35を配置している。この摩擦部材35は、非磁性材で形成されており、具体的には、アルミナを樹脂で固めたものや、金属粉末(例えば、アルミニウム粉末)の焼結材を採用できる。
次に、アーマチュア40は、磁性材(例えば、鉄)にて形成され、吸引用磁気回路MCaの一部を構成する。より具体的には、アーマチュア40は、回転軸垂直方向に広がるとともに、中央部にその表裏を貫通する貫通穴が形成された円板状部材である。このアーマチュア40の回転中心は、回転軸に対して同軸上に配置されている。
アーマチュア40には、プーリ30の端面部33と同様に、軸方向から見たときに円弧状の複数のスリット穴40aが形成されている。このスリット穴40aは、端面部33の径方向内側のスリット穴33aと端面部33の径方向外側のスリット穴33bとの間に位置付けられている。
また、アーマチュア40の一端側の平面は、プーリ30の端面部33に対向しており、プーリ30とアーマチュア40が連結された際に、プーリ30と接触する摩擦面を形成している。さらに、アーマチュア40の他端側の平面には、リベット41によって略円盤状のアウターハブ42が連結されている。
アウターハブ42は、後述するインナーハブ43とともに、アーマチュア40と圧縮機2の回転軸2aとを連結する連結部材を構成している。アウターハブ42とインナーハブ43は、それぞれ回転軸方向に延びる円筒部42a、43aを有しており、アウターハブ42の円筒部42aの内周面およびインナーハブ43の円筒部43aの外周面には、弾性部材である円筒状のゴム45が加硫接着されている。
さらに、インナーハブ43は、圧縮機2の回転軸2aに設けられたネジ穴にボルト44によって締め付けられることによって固定されている。
これにより、アーマチュア40、アウターハブ42、ゴム45、インナーハブ43、圧縮機2の回転軸2aが連結され、プーリ30とアーマチュア40が連結されると、アーマチュア40、アウターハブ42、ゴム45、インナーハブ43、圧縮機2の回転軸2aがプーリ30とともに回転する。
また、ゴム45は、アウターハブ42に対してプーリ30から離れる方向に弾性力を作用させている。この弾性力により、プーリ30とアーマチュア40が切り離された状態では、アウターハブ42に連結されたアーマチュア40の一端側の平面とプーリ30の端面部33の外側面との間に予め定めた所定間隔の隙間δ5(後述する図7参照)が形成される。
次に、ステータ50は、吸引磁力を発生させる永久磁石51、変位することによって永久磁石51が吸引磁力を発生させる吸引用磁気回路MCaの磁気抵抗を増減させる可動部材52、可動部材52を変位させる可動部材変位手段としての電磁コイル54、および、永久磁石51と電磁コイル54の固定部材としてのステータプレート56を有して構成される。
図2、3に示すように、永久磁石51は、リング(円環)形状であり、圧縮機2の回転軸2aに対して同軸上に配置されている。換言すると、永久磁石51は、圧縮機2の回転軸2aの周りにリング状に配置されている。また、図4に示すように、永久磁石51は、リング周方向に垂直な断面が4つの角部を有する矩形形状である。永久磁石51は、磁極が回転軸に垂直な方向に向いている内外単極の磁石であり、外側がN極、内側がS極である。
本実施形態の永久磁石51は、重希土類元素であるDyを部分的に含有するネオジム磁石である。具体的には、図4に示すように、この永久磁石51は、その断面におけるDy濃度分布において、高濃度領域(Dyが多く含まれる領域)と、0%領域(Dyが存在しない領域)と、Dy濃度がそれらの領域の間である中濃度領域とを有している。Dy高濃度領域は、リング外周側の2つの角部51a、51b周辺の領域(角部を含む)である2つの角部周辺領域51c、51dであり、後述するように、不可逆減磁を起こしやすい領域である。
このクラッチ機構20用の永久磁石51は、Dyを含まないリング形状のネオジム磁石を用意する工程と、そのネオジム磁石のうちリング外周側の2つの角部周辺領域(図5の斜線領域)の表面上に、Dyの拡散源を配置した状態で加熱する工程とを行うことで得られる。
Dyの拡散源の配置範囲は、Dyの拡散を考慮して決定され、例えば、2つの角部周辺領域よりも狭い範囲にDyの拡散源が配置される。
Dyの拡散源を配置する方法としては、ディップ法、シャワー法、ロールコート法等の金属粉末の一般的な塗布方法が挙げられる。ディップ法の場合、Dyの酸化物またはフッ化物の粉末を溶剤で液状またはペースト状にしたものに永久磁石51の一部を浸し、シャワー法の場合、上記粉末を含む液体を回転する磁石表面に垂らし、ロールコート法の場合、上記粉末を含む液体を浸したスポンジに永久磁石51の角部51a、51bを押し付けながら、永久磁石51を回転させれば良い。
また、加熱温度としては、Dyを結晶粒子間の結晶粒界に拡散させることができる温度とする。ここで、図6に示すように、ネオジム磁石は、NdFe14Bの結晶粒子511と、結晶粒子511の間の粒界512とが存在する微細構造を有している。粒界512(特に、結晶粒子511の周囲)には結晶粒子よりもNd成分が多いNdリッチ相が存在しており、粒界512の溶融温度は結晶粒子511よりも低い。したがって、加熱温度を結晶粒子511の溶融温度よりも低く、粒界512の溶融温度よりも高くすることで、Dyを結晶粒界512に拡散させることができる。
図1に示すように、電磁コイル54は、2つのコイル部(第1コイル部54a、第2コイル部54b)に分割されており、永久磁石51の軸方向両側に、永久磁石51を挟み込むように配置されている。なお、第1コイル部54aおよび第2コイル部54bは、同一の巻き線を2つに分割したものなので、一方に通電することで、他方にも同時に通電することができる。
また、図1、2に示すように、円筒形状のヨーク部材53が永久磁石51の外周側に隣接して配置されている。ヨーク部材53は磁性材(例えば、鉄)で形成されている。永久磁石51の板厚(径方向の厚み)t1は、電磁コイル54の板厚よりも小さく、電磁コイル54の板厚と永久磁石51の板厚との差がヨーク部材53の板厚となっている。
そして、第1コイル部54a、永久磁石51、ヨーク部材53および第2コイル部54bは、接着剤等で互いに一体的に固定されて、円筒状の構造体55を形成している。
可動部材52は、磁性材(例えば、鉄)にて形成され、圧縮機2の回転軸2aに対して同軸上に延びる円筒状部材である。そして、可動部材52は、構造体55の外周側に、回転軸方向に同軸上に変位可能に配置されている。従って、可動部材52の変位方向は、圧縮機2の回転軸2a方向に一致する。
本実施形態では、図1に示すように、永久磁石51および電磁コイル54からなる構造体55は内側円筒部32の外周側に配置され、可動部材52は構造体55よりも外周側に配置され、外側円筒部31は可動部材52の外周側に配置されている。
また、可動部材52の回転軸方向(図1の左右方向)の全長は、構造体55の回転軸方向の全長よりも短く形成されている。これにより、可動部材52が、プーリ30の端面部33側に移動すると、永久磁石51がプーリ30の端面部33の反対側に形成する磁気回路の磁気抵抗を増加させる空隙(エアギャップ)が形成される。逆に、可動部材52が、プーリ30の端面部33の反対側に移動すると、永久磁石51がプーリ30の端面部33側に形成する磁気回路の磁気抵抗を増加させる空隙(エアギャップ)が形成される。
ステータプレート56は、構造体55が接着等の接合手段によって固定される固定部材であるとともに、磁性材(例えば、鉄)にて形成され、非吸引用磁気回路MCbの一部を構成する。より具体的には、ステータプレート56は、回転軸垂直方向に広がるとともに、中央部にその表裏を貫通する貫通穴が形成された円板状部材である。
さらに、ステータプレート56は、圧縮機2のハウジングにスナップリング等の固定手段によって固定されている。また、ステータプレート56を軸方向から見た際の外周形状は、プーリ30の中空円柱状空間の開口側の外周形状と同等の外径を有する円形状になっている。
そして、このステータプレート56が、プーリ30の中空円柱状空間の開口側を閉塞するように配置されることによって、構造体55および可動部材52が、プーリ30の中空円柱状空間の内部に位置付けられる。
この際、可動部材52の最外周側とプーリ30の外側円筒部31の内周側との間には隙間δ1が設けられ、構造体55の内周側と内側円筒部32の外周側との間には隙間δ2が設けられ、構造体55のうち、プーリ30の端面部33側の端部と端面部33との間には隙間δ3が設けられている。これにより、プーリ30が回転しても、可動部材52および構造体55に接触してしまうことを防止できる。
さらに、ステータプレート56には、図1、2に示すように、複数(本実施形態では、3つ)の略円柱状のピン57が圧入、かしめ等の固定手段によって固定されている。この複数のピン57は、非磁性材(例えば、アルミニウム)で形成されている。複数のピン57の頂部側(プーリ30の端面部33側)には、ステータプレート56に固定される根本側よりも外径が拡大した拡径部57aが形成されている。
一方、可動部材52のステータプレート56側端部には、径外周側に広がる円板状の鍔部52gが形成されており、この鍔部52gに、ピン57の拡径部57aよりも径の小さい複数の係止穴52bが形成されている。これにより、可動部材52がプーリ30の端面部33へ変位しても、拡径部57aと係止穴52bが当接することによって、可動部材52の可動範囲が規制される。
その結果、可動部材52がプーリ30の端面部33へ変位しても、可動部材52と端面部33との間には隙間δ4が設けられ、プーリ30が回転しても、可動部材52に接触することを防止でき、可動部材52が回転軸周りに回転してしまうことを防止できる。
次に、図7に基づいて、上記構成における本実施形態のクラッチ機構20の作動を説明する。図7は、図1のB部の断面図を用いた説明図であり、図7では、図示の明確化のため、可動部材52以外の断面ハッチングを省略している。
まず、図7(a)に示すように、プーリ30とアーマチュア40が連結された状態では、可動部材52が、プーリ30の端面部33側に移動している。
このとき、永久磁石51によって、図7(a)の太実線に示す磁気回路、すなわち、可動部材52、端面部33、アーマチュア40、内側円筒部32の順で磁束が通過する磁気回路が形成される。図7(a)の太実線に示す磁気回路によって生じる磁力は、プーリ30とアーマチュア40とを連結させる吸引磁力となっている。従って、図7(a)の太実線に示す磁気回路は、本実施形態における吸引用磁気回路MCaである。
この際、本実施形態では、可動部材52がプーリ30の端面部33のスリット穴33a、33bよりも外周側に配置されているので、吸引用磁気回路MCaを通過する磁束を迂回させることができる。その結果、プーリ30側からアーマチュア40側へ通過する磁束およびアーマチュア40側からプーリ30側へ通過する磁束量を増加させて、吸引磁力を増加させることができる。
また、可動部材52が、プーリ30の端面部33側に移動している際には、可動部材52とステータプレート56との間に空隙(エアギャップ)が形成される。この空隙は、図7(a)の細破線に示すような、永久磁石51によって形成される可動部材52、ステータプレート56、内側円筒部32の順に磁束が通過する磁気回路の磁気抵抗を増加させ、これらの磁気回路によって生じる磁力を減少させる。
なお、図7(a)の細破線に示す磁気回路によって生じる磁力は、プーリ30とアーマチュア40とを連結させる吸引力として機能しない。従って、図7(a)の細破線に示す磁気回路は、本実施形態における吸引用磁気回路MCaとは異なる非吸引用磁気回路MCbである。
さらに、可動部材52が、プーリ30の端面部33側に移動している際には、吸引用磁気回路MCaの磁束量が増加しているので、可動部材52の位置は、プーリ30の端面部33側に維持される。
また、本実施形態では、ゴム45がプーリ30とアーマチュア40と離す方向に作用させる弾性力(反発力)が、可動部材52がプーリ30の端面部33側に移動している際の吸引磁力よりも小さくなるように設定されている。従って、電磁コイル54に電力を供給しなくても、プーリ30とアーマチュア40が連結された状態が維持される。すなわち、エンジンからの回転駆動力が圧縮機2へ伝達される。
次に、連結された状態のプーリ30とアーマチュア40とを切り離す際には、車両用空調装置の空調制御装置が、図7(b)に示すように、電磁コイル54に対して電力を供給する。より具体的には、電磁コイル54が、吸引用磁気回路MCaに対して永久磁石51による磁束の流れ方向と逆方向の磁束を与えて、吸引用磁気回路MCaを通過する磁束量を減少させるとともに、非吸引用磁気回路MCbに対して永久磁石51による磁束の流れ方向と同一方向の磁束を与えて、非吸引用磁気回路MCbを通過する磁束量を増加させる電磁力を発生するように電力を供給する。
これにより、図7(b)の細実線で示す吸引用磁気回路MCaによって生じる吸引磁力よりも、図7(b)の太破線で示す非吸引用磁気回路MCbによって生じる磁力が強くなり、可動部材52が、ステータプレート56側へ移動する。この移動に伴って、プーリ30とアーマチュア40が連結されているときよりも、非吸引用磁気回路MCbの磁気抵抗が減少して、非吸引用磁気回路MCbを通過する磁束量がさらに増加する。その結果、可動部材52の位置は、ステータプレート56側に維持される。
また、可動部材52がステータプレート56側に移動すると、可動部材52とプーリ30の端面部33との間に空隙(エアギャップ)が形成される。この空隙によって、プーリ30とアーマチュア40が連結されているときよりも、吸引用磁気回路MCaの磁気抵抗が増加するので、吸引磁力が減少する。その結果、ゴム45による反発力が吸引磁力を上回り、プーリ30とアーマチュア40が切り離される。すなわち、エンジンからの回転駆動力が圧縮機2へ伝達されなくなる。
次に、図7(c)に示すように、可動部材52がステータプレート56側に移動している際には、可動部材52がプーリ30の端面部33側に移動しているときよりも非吸引用磁気回路MCbの磁束量が増加しているので、可動部材52の位置は、ステータプレート56側に維持される。
さらに、可動部材52がステータプレート56側に移動している際の吸引磁力は、ゴム45による反発力よりも小さいので、電磁コイル54に電力を供給しなくても、プーリ30とアーマチュア40が切り離された状態が維持される。すなわち、エンジンからの回転駆動力は圧縮機2へ伝達されない。
次に、切り離された状態のプーリ30とアーマチュア40とを連結する際には、空調制御装置が、図7(d)に示すように、電磁コイル54に対して電力を供給する。より具体的には、電磁コイル54が、吸引用磁気回路MCaに対して永久磁石51による磁束の流れ方向と同一方向の磁束を与えて、吸引用磁気回路MCaを通過する磁束量を増加させるとともに、非吸引用磁気回路MCbに対して永久磁石51による磁束の流れ方向と逆方向の磁束を与えて、非吸引用磁気回路MCbを通過する磁束量を減少させる電磁力を発生するように通電する。
これにより、非吸引用磁気回路MCbによって生じる磁力よりも、吸引用磁気回路MCaによって生じる吸引磁力が強くなり、可動部材52が、プーリ30の端面部33側へ移動する。
この移動に伴って、プーリ30とアーマチュア40が切り離されているときよりも、吸引用磁気回路MCaの磁気抵抗が減少して、吸引用磁気回路MCaの磁束量がさらに増加する。その結果、吸引磁力がゴム45による反発力を上回り、プーリ30とアーマチュア40が連結される。すなわち、エンジンからの回転駆動力が圧縮機2へ伝達される。
次に、本実施形態のクラッチ機構20の効果を説明する。
まず、本実施形態と異なる永久磁石を用いた比較例1のクラッチ機構において、図7(a)〜(d)の各作動状態での永久磁石内部の磁場解析を行った結果について説明する。
比較例1では、永久磁石として、Dyが全体に均一に含まれるネオジム磁石を用いた。この永久磁石は、ネオジム磁石原料とDyが混合された粉末を成形し、焼成して得られたものであり、Dyの含有割合(重量%)が全体の5%である。この永久磁石の形状は第1実施形態と同じである。なお、比較例1のクラッチ機構は、永久磁石以外の構成については本実施形態と同じものである。
図8(a)〜(d)は、図1のB部内の永久磁石の断面を示しており、それぞれ、図7(a)〜(d)の作動状態のときの永久磁石内部の磁束密度分布を示している。
図8(a)、(c)に示すように、プーリ30とアーマチュア40の連結状態や切り離し状態では、磁石内部に、磁束密度が大きな領域と小さな領域とが存在しており、磁束密度分布が生じている。これは、連結状態や切り離し状態では、電磁コイル54から永久磁石に逆磁界が与えられないが、磁石内部がN極からS極までの最短ルートであるため、磁石内部に逆磁界がかかっている状態となり、磁石自身が逆磁界を有するからである。
一方、図8(b)、(d)に示すように、連結された状態のプーリ30とアーマチュア40とを切り離す際や、切り離された状態のプーリ30とアーマチュア40とを連結させる際では、連結状態や切り離し状態のときと同様に、磁石内部に磁束密度分布が生じているが、電磁コイル54から永久磁石に逆磁界が与えられるため、連結状態や切り離し状態のときと比較して、全体的に磁束密度が低下している。
より詳細には、図8(b)のプーリ30とアーマチュア40とを切り離す際では、図中下左右、すなわち、磁石断面のうちリング外周側の2つの角部周辺領域の磁束密度が、磁石内部で最小の値を示しており、約0.6T(テスラ)であった。また、図8(d)のプーリ30とアーマチュア40とを連結させる際では、同領域の磁束密度が、磁石内部で最小の値を示しており、約0.65Tであった。このことから、永久磁石51のうちリング外周側の2つの角部に最も大きな逆磁界が与えられることがわかる。
ここで、図9に示すDyを約5%含有するネオジム磁石の150℃における減磁曲線において、変曲点は0.6Tと0.65Tの間に位置し、変曲点よりも左側が不可逆減磁領域であり、変曲点よりも右側が可逆減磁領域である。なお、150℃の減磁曲線を用いたのは、本実施形態のクラッチ機構20の使用時における永久磁石51の最高温度が150℃だからである。
このことから、永久磁石のリング外周側の2つの角部周辺領域は、永久磁石の温度が150℃であって、プーリ30とアーマチュア40とを切り離す際では、図8(b)の2つの角部周辺領域が、図9の減磁曲線の不可逆減磁領域に属するため、不可逆減磁が起きてしまうことがわかった。
このため、上記した2つの角部周辺領域で不可逆減磁がおきないように、ネオジム磁石材料およびDyの使用量を設定する必要がある。
ちなみに、比較例1の永久磁石よりも磁石全体の板厚t1を薄くすると、磁石自身が有する逆磁界が大きくなるため、上記した角部周辺領域の磁束密度が低下し、図9の減磁曲線のうち変曲点からさらに左側に離れたところに位置する状態となる。また、Dyの含有量を減らすと、図9の減磁曲線の変曲点が図中右側にずれ、不可逆減磁を起こしやすくなる。
したがって、150℃において、上記した角部周辺領域で不可逆減磁がおきないようにするためには、比較例1の永久磁石と比較して、Dyの含有量を増やしたり、磁石全体の板厚を大きくしたりしなければならない。このとき、Dyが全体に均一に添加されたネオジム磁石を用いる場合では、上記した2つの角部周辺領域に合わせて、それ以外の領域においてもDyの添加量を多くしたり、永久磁石全体の板厚t1を厚くしたりしなければならない。
この結果、比較例1のように、Dyが全体に均一に添加されたネオジム磁石を用いる場合では、ネオジム磁石材料およびDy元素材料の使用量の低減化ができず、本実施形態のクラッチ機構を安価に提供することが困難となる。
これに対して、本実施形態では、永久磁石51のリング外周側の2つの角部51a、51bの周辺にのみDyを塗布し、所定時間、所定温度で加熱することにより、Dyを2つの角部周辺領域51c、51dに拡散させている。
このため、図4に示すように、2つの角部周辺領域51c、51dはDyが十分に拡散し、残留磁化は小さくなるが保磁力は高い領域となる。それに対して、2つの角部周辺領域51c、51dから遠い領域(濃度0%の領域)はDyが拡散せず、保磁力は低いが、残留磁化が高い領域となる。なお、ネオジム磁石はDyの含有量が多いほど磁石の強さである残留磁化の値が小さくなる。
このとき、本実施形態の永久磁石51の2つの角部周辺領域51c、51dにおけるDy含有割合を、Dyが全体に均一に添加されたネオジム磁石のDy含有割合よりも高くすると、2つの角部周辺領域51c、51dは、保磁力が向上して、不可逆減磁が起きにくくなるため、永久磁石51の板厚t1を薄くすることが可能となる。
すなわち、本実施形態の永久磁石51の2つの角部周辺領域51c、51dにおけるDy含有割合を、比較例1の永久磁石のDy含有割合(5%)よりも高くした場合、その場合のDy含有割合での減磁曲線は、図9の減磁曲線と比較して、変曲点の位置が左側にシフトし、その変曲点に対応する磁化の大きさが小さくなる。このため、角部周辺領域51c、51dのDy含有割合を高くした分、永久磁石全体の板厚t1を薄くできる。例えば、磁石全体の板厚t1を薄くすると、磁石内部全体の磁束密度が小さくなり、角部周辺領域51c、51dの磁束密度が0.60よりも小さくなるが、減磁曲線の変曲点に対応する磁石内部の磁化の大きさが0.4Tまで下がった場合、プーリ30とアーマチュア40とを切り離す際に、2つの角部周辺領域51c、51dでの磁化の大きさが0.4を超える範囲内で、磁石全体を薄くできる。
このとき、永久磁石51の全体ではなく、一部の狭い領域(高濃度領域、中濃度領域)のみにDyを含有させ、他の領域(濃度0%の領域)にはDyを含有させないので、Dyの使用量を低減できる。
また、本実施形態の永久磁石51は、Dyが存在しない領域(濃度0%の領域)があり、その領域では、Dyの含有量を増やした場合のように残留磁化が低下することがなく、残留磁化が大きい。このことからも、Dyが全体に均一に添加されたネオジム磁石を用いる場合と比較して、永久磁石の板厚t1を薄くできる。
以上のことから、本実施形態によれば、不可逆減磁の発生を抑制しつつ、ネオジム磁石材料およびDy元素材料の使用量の低減化が可能となり、本実施形態のクラッチ機構20を安価に提供することが可能となる。
(第2実施形態)
本実施形態は、第1実施形態に対して永久磁石51の製造方法を変更したものである。その他は第1実施形態と同じである。
第1実施形態では、ネオジム磁石51表面のうちリング外周側の2つの角部51a、51bの周辺(角部51a、51bの両隣に位置する角部近傍)のみにDy拡散源を配置したが(図5の斜線領域参照)、本実施形態では、図10の斜線領域のように、ネオジム磁石51表面のうちリング外周面の全域にDy拡散源を配置する。
リング外周側の2つの角部51a、51bの近傍のみに、選択的に、Dy拡散源を配置(塗布)することが困難な場合は、このようにDy拡散源を配置しても良い。このようにDy拡散源を配置しても、リング外周面の両端に位置するリング外周側の2つの角部周辺領域51c、51dにDyを拡散させることができる。
(第3実施形態)
本実施形態は、第1実施形態に対して永久磁石51の形状を変更したものであり、その他は第1実施形態と同じである。
第1実施形態では、リング形状の1つの永久磁石51を用いていたが、本実施形態では、図11に示すように、リングを周方向で複数に分割した形状の永久磁石51を複数用いる。そして、第1実施形態の永久磁石51と同様の機能を発揮するように、これらの永久磁石51をリング状に配置する。このとき、複数の永久磁石51同士は、接触していても離れていても良い。
本実施形態においても、1つの永久磁石51は、リング周方向に垂直な断面が4つの角部を有する矩形形状であり、リング外周側の2つの角部51a、51bの周辺領域に、Dyを他の領域よりも多く含ませることで、第1実施形態と同様の効果が得られる。
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、下記のように、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
(1)上記した各実施形態では、永久磁石を1つのリング状に配置したが、2重等の複数のリング状に配置しても良い。また、上記した各実施形態では、1つのリング状の永久磁石の両隣に、電磁コイルを配置したが、両隣の一方に電磁コイルを配置しても良い。すなわち、永久磁石がなすリングの数や、電磁コイルの数や、永久磁石および電磁コイルの配置については、上記した各実施形態に限られず、上記した各実施形態と同様の作動が得られる範囲内で、種々の変更が可能である。
また、上記した各実施形態では、可動部材52を用いていたが、特許文献2のように、可動部材を用いずに、永久磁石によって形成される磁気回路に対して、永久磁石による磁束の流れ方向と同一方向または逆方向の磁束を与えるように、電磁コイルで磁束を発生させることにより、駆動側回転体と従動側回転体の連結と遮断の切り替えを行う構成としても良い。すなわち、本発明のクラッチ機構は、連結と遮断の間の切り替えの際に、永久磁石によって形成される磁気回路(特に永久磁石)に対して逆磁界が与えられる構成のクラッチ機構に対して適用が可能である。
本発明では、永久磁石のうち、図8のように、クラッチ機構の各作動状態での永久磁石の磁場解析結果において、永久磁石のうち磁束密度が最も小さな領域が、不可逆減磁が起きやすい領域であるので、他の領域よりもDyが多く含まれるようにすれば良い。
このとき、クラッチ機構の使用時の最高温度における永久磁石の減磁曲線に基づいて、不可逆減磁を起こしやすい領域での不可逆減磁の発生を抑制できるように、ネオジム磁石の大きさと、不可逆減磁を起こしやすい領域でのDyの含有割合とが設定される。
ここで、図8の磁場解析結果は、図1の構成のクラッチ機構20のものであり、図1の構成では、リング形状の永久磁石51のうち、リング外周側の2つの角部51a、51bの周辺領域において、磁束密度が最小となったが、条件によっては、リング内周側の2つの角部の周辺領域において、磁束密度が最小となる場合もある。
なお、この条件としては、永久磁石と電磁コイルとの位置関係、永久磁石のN極とS極の向き、リング形状の永久磁石の内周面と外周面の面積の関係等が挙げられる。また、本発明者の経験によれば、クラッチ機構が図1以外の他の構成であっても、永久磁石の角部周辺での磁束密度が最小となり、永久磁石の角部周辺に最も大きな逆磁界がかかる傾向があることがわかっている。
したがって、永久磁石のうち、リング内周側の2つの角部の周辺領域もしくはリング外周側の2つの角部の周辺領域が、他の領域よりもDyが多く含まれるようにすれば良い。リング内周側の2つの角部の周辺領域にDyを多く含ませる場合では、加熱工程において、永久磁石のリング内周側の2つの角部の周辺領域にのみDy拡散源を配置したり、リング内周面の全域にDy拡散源を配置したりすれば良い。
(2)第1実施形態では、永久磁石のうち不可逆減磁を起こしやすい領域以外の他の領域(Dy濃度が0%の領域)は、Dyが含まれていなかったが、Dyが含まれていても良い。なお、永久磁石の残留磁化を大きくするという観点では、他の領域におけるDy含有量が極めて低いか、他の領域にDyを存在させないことが望ましい。
(3)上記した各実施形態では、重希土類元素として、Dyを用いたが、Dyに限らず、Tb(テルビウム)等の他の元素を用いても良い。この場合、Tbの拡散源として、Tbの酸化物またはフッ化物を用いることができる。
(4)上記した各実施形態では、クラッチ機構20をエンジン10から圧縮機2への動力伝達の断続に適用した例を説明したが、本発明のクラッチ機構の適用はこれに限定されない。エンジンあるいは電動モータ等の駆動源と回転駆動力によって作動する発電機との動力伝達の断続等に幅広く適用可能である。
(5)上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
20 クラッチ機構
30 プーリ(駆動側回転体)
40 アーマチュア(従動側回転体)
51 永久磁石
54 電磁コイル

Claims (6)

  1. 駆動源からの回転駆動力によって回転する駆動側回転体(30)と、
    前記駆動側回転体に連結されることによって前記回転駆動力が伝達される従動側回転体(40)と、
    前記駆動側回転体と前記従動側回転体とを連結させるための吸引磁力を発生させる永久磁石(51)と、
    前記駆動側回転体と前記従動側回転体の連結と遮断の切り替えを行う際に、前記永久磁石によって形成される磁気回路に対して、前記永久磁石による磁束の流れ方向と同一方向または逆方向の磁束を与えるように、磁束を発生させる電磁コイル(54)とを備えるクラッチ機構において、
    前記永久磁石は、重希土類元素を含有するネオジム磁石であり、
    前記永久磁石のうち、前記電磁コイルが前記逆方向の磁束を前記永久磁石に与えたときに、不可逆減磁を起こしやすい領域(51c、51d)は、他の領域と比較して、前記重希土類元素が多く含まれていることを特徴とするクラッチ機構。
  2. 前記他の領域は、重希土類元素が含まれないことを特徴とする請求項1に記載のクラッチ機構
  3. 前記永久磁石は、リング形状もしくはリングを複数に分割した形状であり、リング周方向に垂直な断面が4つの角部を有する矩形形状であり、
    前記不可逆減磁を起こしやすい領域は、リング内周側の2つの角部の周辺領域もしくはリング外周側の2つの角部(51a、51b)の周辺領域であることを特徴とする請求項1または2に記載のクラッチ機構。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1つに記載のクラッチ機構用の永久磁石の製造方法であって、
    前記永久磁石として、ネオジム磁石を用意する工程と、
    前記永久磁石のうち不可逆減磁を起こしやすい領域の表面上に、重希土類元素の拡散源を配置した状態で加熱することにより、前記重希土類元素を前記永久磁石の結晶粒界に拡散させる加熱工程とを有することを特徴とするクラッチ機構用の永久磁石の製造方法。
  5. 前記ネオジム磁石を用意する工程では、リング形状もしくはリングを複数に分割した形状であって、断面が4つの角部を有する矩形形状の前記ネオジム磁石を用意し、
    前記加熱工程では、リング内周側の2つの角部の周辺領域もしくはリング外周側の2つの角部の周辺領域に、前記拡散源を配置することを特徴とする請求項4に記載のクラッチ機構用の永久磁石の製造方法。
  6. 前記加熱工程では、リング内周面の全域もしくはリング外周面の全域に、前記拡散源を配置することを特徴とする請求項5に記載のクラッチ機構用の永久磁石の製造方法。

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