以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
図1は、本実施形態における自動車用の変速機1の概略を示す図である。エンジンEの駆動力を駆動輪に伝達する本実施形態の変速機1は、ミッションケースに保持されたベアリングに回転自在に軸支され、発進クラッチ2を介してエンジンEのクランクシャフトに接続された入力軸3を備えている。入力軸3は、エンジンEの駆動力によって回転するものであり、エンジンEからの動力の伝達経路の上流側に配される第1入力軸3aと、下流側に配される第2入力軸3bと、で構成され、これら第1入力軸3aおよび第2入力軸3bの間に、緩衝機構50が設けられている。詳しくは後述するが、この緩衝機構50は、入力軸3に設定トルク以上のトルク変動をもたらすスパイクトルクが生じると、すべり運動を生じさせて第1入力軸3aと第2入力軸3bとを相対回転させ、スパイクトルクを予め設定された設定トルクまでカットする。
また、変速機1は、ミッションケースに保持されたベアリングに回転自在に軸支され、入力軸3と相対回転自在に配された第1メインシャフト4および第2メインシャフト5を備えている。第1メインシャフト4および第2メインシャフト5は、入力軸3に対して平行に配されるとともに、互いに軸心を一致させた状態で、軸方向に離隔して対向配置されている。また、第1メインシャフト4は中空で構成され、第1メインシャフト4の内部に入力軸3(第2入力軸3b)が相対回転自在に挿通されている。さらに、ミッションケースには、ベアリングに回転自在に軸支され、入力軸3、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に対して平行に配された出力軸6が収容されている。
第1メインシャフト4および第2メインシャフト5には、それぞれ複数のドライブギヤDv(1速用ドライブギヤ11〜4速用ドライブギヤ14)が固定されている。より詳細には、第2メインシャフト5には、1速用ドライブギヤ11および3速用ドライブギヤ13が固定されており、第1メインシャフト4には、2速用ドライブギヤ12および4速用ドライブギヤ14が固定されている。このように、本実施形態の変速機1は、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に、それぞれギヤ比を異にする複数段のドライブギヤDvが設けられ、連続するギヤ比のドライブギヤDvが、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に交互に配されている。
一方、出力軸6は、駆動輪に接続されており、ドライブギヤDvそれぞれに噛合するドリブンギヤDn(1速用ドリブンギヤ21〜4速用ドリブンギヤ24)が相対回転自在に設けられている。また、出力軸6には、当該出力軸6にドリブンギヤDnを連結させて、当該ドリブンギヤDnと出力軸6とを一体回転させる連結状態、および、出力軸6とドリブンギヤDnとが相対回転する切り離し状態のいずれかを選択的に切り換えるギヤ切替機構30a、30bが設けられている。
ギヤ切替機構30aは、1速用ドリブンギヤ21と3速用ドリブンギヤ23との間に設けられ、出力軸6に対して1速用ドリブンギヤ21および3速用ドリブンギヤ23のいずれか一方を連結状態にしたとき、出力軸6に対して1速用ドリブンギヤ21および3速用ドリブンギヤ23のいずれか他方を切り離し状態にする。
具体的に説明すると、ギヤ切替機構30aは、1速用ドリブンギヤ21と3速用ドリブンギヤ23との間において、出力軸6に相対回転不能に固定されたハブ31aと、ハブ31aに出力軸6の軸方向に移動自在に保持されたスリーブ32aと、を有する。スリーブ32aの外周には、不図示のシフトフォークが係合されており、不図示のアクチュエータ(電動シリンダ等)によって出力軸6の軸方向に移動される。
また、ギヤ切替機構30aは、1速用ドリブンギヤ21に固定されたハブ21aと、3速用ドリブンギヤ23に固定されたハブ23aと、を備えている。これらハブ21a、23aは互いに対向配置されており、いずれもスリーブ32aに係合可能に構成されている。そして、スリーブ32aが図示のニュートラル位置にある場合には、スリーブ32aが1速用ドリブンギヤ21のハブ21aおよび3速用ドリブンギヤ23のハブ23aと切り離し状態にあり、1速用ドリブンギヤ21および3速用ドリブンギヤ23が、出力軸6に対して相対回転する。
これに対して、スリーブ32aが軸方向に沿って1速用ドリブンギヤ21側に移動されると、スリーブ32aが1速用ドリブンギヤ21のハブ21aに係合し、出力軸6のハブ31aと、1速用ドリブンギヤ21のハブ21aとが、スリーブ32aによって架け渡された状態となる。これにより、出力軸6に対して1速用ドリブンギヤ21が連結状態となり、1速用ドリブンギヤ21が出力軸6と一体回転するとともに、出力軸6に対して3速用ドリブンギヤ23が切り離し状態となり、3速用ドリブンギヤ23が出力軸6と相対回転する。また、スリーブ32aが軸方向に沿って3速用ドリブンギヤ23側に移動されると、スリーブ32aが3速用ドリブンギヤ23のハブ23aに係合し、出力軸6のハブ31aと、3速用ドリブンギヤ23のハブ23aとが、スリーブ32aによって架け渡された状態となる。これにより、出力軸6に対して3速用ドリブンギヤ23が連結状態となり、3速用ドリブンギヤ23が出力軸6と一体回転するとともに、出力軸6に対して1速用ドリブンギヤ21が切り離し状態となり、1速用ドリブンギヤ21が出力軸6と相対回転する。
なお、ここでは、ギヤ切替機構30aについて説明したが、ギヤ切替機構30bもギヤ切替機構30aと同様に構成されている。すなわち、ギヤ切替機構30bは、2速用ドリブンギヤ22と4速用ドリブンギヤ24との間において、出力軸6に相対回転不能に固定されたハブ31bと、ハブ31bに出力軸6の軸方向に移動自在に保持されたスリーブ32bと、2速用ドリブンギヤ22に固定されたハブ22aと、4速用ドリブンギヤ24に固定されたハブ24aと、を備えている。そして、スリーブ32bが図示のニュートラル位置にある場合には、スリーブ32bが2速用ドリブンギヤ22のハブ22aおよび4速用ドリブンギヤ24のハブ24aと切り離し状態にあり、2速用ドリブンギヤ22および4速用ドリブンギヤ24が、出力軸6に対して相対回転する。
一方、スリーブ32bが軸方向に沿って2速用ドリブンギヤ22側に移動されると、スリーブ32bが2速用ドリブンギヤ22のハブ22aに係合し、出力軸6のハブ31bと、2速用ドリブンギヤ22のハブ22aとが、スリーブ32bによって架け渡された状態となる。これにより、出力軸6に対して2速用ドリブンギヤ22が連結状態となり、2速用ドリブンギヤ22が出力軸6と一体回転するとともに、出力軸6に対して4速用ドリブンギヤ24が切り離し状態となり、4速用ドリブンギヤ24が出力軸6と相対回転する。また、スリーブ32bが軸方向に沿って4速用ドリブンギヤ24側に移動されると、スリーブ32bが4速用ドリブンギヤ24のハブ24aに係合し、出力軸6のハブ31bと、4速用ドリブンギヤ24のハブ24aとが、スリーブ32bによって架け渡された状態となる。これにより、出力軸6に対して4速用ドリブンギヤ24が連結状態となり、4速用ドリブンギヤ24が出力軸6と一体回転するとともに、出力軸6に対して2速用ドリブンギヤ22が切り離し状態となり、2速用ドリブンギヤ22が出力軸6と相対回転する。
なお、スリーブ32aと1速用ドリブンギヤ21のハブ21aとの間、スリーブ32aと3速用ドリブンギヤ23のハブ23aとの間、スリーブ32bと2速用ドリブンギヤ22のハブ22aとの間、および、スリーブ32bと4速用ドリブンギヤ24のハブ24aとの間には、それぞれシンクロメッシュ機構(同期機構)が設けられている。
以上のように、本実施形態の変速機1は、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5のそれぞれに設けられた複数のドライブギヤDv、および、出力軸6に設けられドライブギヤDvに噛合する複数のドリブンギヤDnで構成される複数の歯車列を備えている。より詳細には、1速用ドライブギヤ11および1速用ドリブンギヤ21で構成される1速用歯車列、2速用ドライブギヤ12および2速用ドリブンギヤ22で構成される2速用歯車列、3速用ドライブギヤ13および3速用ドリブンギヤ23で構成される3速用歯車列、4速用ドライブギヤ14および4速用ドリブンギヤ24で構成される4速用歯車列を備えている。そして、ギヤ切替機構30a、30bが、これら複数の歯車列のいずれかを、第1メインシャフト4または第2メインシャフト5から出力軸6への動力伝達経路に切り替えることとなる。
ところで、上記したように、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5は、入力軸3に対して相対回転自在に設けられており、図示のニュートラルの状態では、入力軸3が、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5の双方に対して非連結状態に維持されている。そのため、ギヤ切替機構30a、30bによって動力伝達経路を構成する歯車列を選択し、1速用ドリブンギヤ21〜4速用ドリブンギヤ24のいずれかを出力軸6と一体回転させるだけでは、入力軸3の回転動力を出力軸6に伝達することはできない。したがって、変速の際には、ギヤ切替機構30a、30bによって歯車列を選択するのと同時に、入力軸3を、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5のいずれか一方に連結させるとともに、いずれか他方から切り離して非連結状態にする必要がある。
このように、入力軸3の回転動力の伝達経路を、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5のいずれかに選択的に切り換えるのが動力伝達機構100である。本実施形態では、動力伝達機構100として、第1メインシャフト4を入力軸3に対して連結状態または非連結状態に切り替える第1動力伝達機構100aと、第2メインシャフト5を入力軸3に対して連結状態または非連結状態に切り替える第2動力伝達機構100bと、を備えている。以下では、まず、上述の緩衝機構50の構成を説明した後に、動力伝達機構100の構成について詳細に説明する。
図2は、緩衝機構50の概略断面図である。本実施形態の緩衝機構50は、所謂、摩擦クラッチタイプの緩衝機構で構成されており、第1入力軸3aと第2入力軸3bとの間に設けられている。図2に示すように、緩衝機構50は、第2入力軸3bの端部にスプライン係合されるハブ51と、このハブ51の外周に固定された薄板円形状のインナープレート52と、を備えている。インナープレート52は、入力軸3の軸方向に複数、間隔を維持して配置されている。
また、第1入力軸3aの端部には、アウターケース53が固定されており、このアウターケース53の内周面に、薄板円形状のアウタープレート54が固定されている。このアウタープレート54は、入力軸3の軸方向に複数、間隔を維持して配置されており、上記のインナープレート52とアウタープレート54とが、入力軸3の軸方向に交互に積層されるように構成されている。
さらに、第2入力軸3bには、プレッシャプレート55が装着されている。このプレッシャプレート55は、第2入力軸3bと一体回転可能であり、かつ、第2入力軸3bに対して軸方向に移動可能にスプライン係合されている。また、緩衝機構50は、第2入力軸3bが挿通される円筒状の伝達部材56を備えており、この伝達部材56の内周面にベアリングbの外輪が固定され、プレッシャプレート55の外周面にベアリングbの内輪が固定されている。このとき、ベアリングbは、ストッパ57により、プレッシャプレート55および伝達部材56に対する軸方向の移動が規制されている。したがって、プレッシャプレート55と伝達部材56とは、ベアリングbによって相対回転するとともに、軸方向に一体となって移動することとなる。
なお、伝達部材56の一端にはフランジ部56aが形成されており、このフランジ部56aにレリーズフォーク58が係止されている。詳細な説明は省略するが、このレリーズフォーク58には、電子制御ユニットECUによって制御される不図示のアクチュエータが接続されている。そして、電子制御ユニットECUがアクチュエータを作動させると、レリーズフォーク58が入力軸3の軸方向に移動し、これに伴って伝達部材56、ベアリングb、プレッシャプレート55が一体となって軸方向に移動することとなる。
また、プレッシャプレート55には、インナープレート52およびアウタープレート54に対向する位置に押圧面55aが設けられており、この押圧面55aを、最も第2入力軸3b側に配置されたアウタープレート54に面接触させている。そして、アウターケース53の内周面には固定片59が固定されており、この固定片59と、プレッシャプレート55との間に、圧縮コイルバネからなる弾性部材60が介在されている。この弾性部材60は、プレッシャプレート55を第1入力軸3a側に付勢する付勢力を常時作用させており、この弾性部材60の付勢力によって、インナープレート52およびアウタープレート54間にクラッチトルク(設定トルク)が発生することとなる。
したがって、緩衝機構50は、第2入力軸3bに生じるトルクが設定トルク未満である場合に、第1入力軸3aと第2入力軸3bとを一体回転させ、設定トルク以上になると、第1入力軸3aと第2入力軸3bとを相対回転させることとなる。なお、緩衝機構50は設定トルクを変更可能に構成されている。具体的には、電子制御ユニットECUの制御によってレリーズフォーク58が移動すると、これと一体となってプレッシャプレート55の押圧面55aが移動する。これにより、インナープレート52とアウタープレート54との間の圧力が変化し、その結果、設定トルクが変更されることとなる。ただし、緩衝機構50は、上記の構成に限定されるものではなく、例えば、設定トルクが固定的に設定される構成であってもよい。
図3は、動力伝達機構100の分解斜視図であり、図4は、動力伝達機構100の組み付け状態を示す斜視図であり、図5は、動力伝達機構100の分解状態の概略断面図である。本実施形態の変速機1においては、第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bの2つの動力伝達機構100が設けられているが、これら第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bは、いずれも同一の構成である。
図3〜図5に示すように、動力伝達機構100は、第1ハブ110、第1スリーブ120、第2ハブ130、第2スリーブ140を備えている。第1ハブ110は、円筒状の第1ハブ本体部111と、この第1ハブ本体部111の外周面から径方向外方に隆起するとともに、第1ハブ本体部111における軸心方向の一端側から他端側まで延在する隆起部112と、を備えている。隆起部112は、第1ハブ本体部111の周方向(回転方向)に等間隔を維持して複数(本実施形態では6つ)設けられており、これによって第1ハブ110の外周には、複数の凹凸が等間隔を維持して形成されることとなる。
また、各隆起部112は、その一端側の端部から、さらに第1ハブ本体部111の径方向外方に突出する突出部112aを備えており、この突出部112aから、第1ハブ本体部111の軸心方向に第1ドグ113を突出させている。つまり、第1ドグ113は、第1ハブ本体部111よりも径方向外方であって、かつ、軸方向に突出した位置において、第1ハブの周方向(回転方向)に等間隔を維持して複数設けられることとなる。
第1スリーブ120は、第1ハブ110の外周に嵌合される環状のリング部材で構成される。より詳細には、第1スリーブ120は、第1ハブ110の外周形状とほぼ一致する内周形状を有するリング状の第1スリーブ本体部121を備えており、この第1スリーブ本体部121内に、第1ハブ110が挿通可能に構成されている。つまり、第1スリーブ120を第1ハブ110の外周に嵌合した状態では、当該第1スリーブ120は、第1ハブ110と一体回転するとともに、回転状態を維持したまま、回転軸の軸方向に移動可能となっている。
また、第1スリーブ120は、第1スリーブ本体部121の一方の側面から軸方向に突出する第2係合ドグ122を備えている。第2係合ドグ122は、第1ハブ110に形成された第1ドグ113と同一方向に突出しており、第1スリーブ本体部121の周方向(回転方向)に等間隔を維持して複数(本実施形態では6つ)設けられている。この第2係合ドグ122は、第1スリーブ120が第1ハブ110の外周に嵌合して、もっとも突出部112a(第1ドグ113)側に移動したときに、第1ハブ本体部111よりも軸方向に突出する寸法関係を維持している。また、第2係合ドグ122は、第1ハブ110において周方向(回転方向)に隣接する2つの第1ドグ113の中間に位置しており、径方向の位置が第1ドグ113よりも内側になるように形成されている。
第2ハブ130は、組み付け状態において、第1ハブ110に対して軸心方向に僅かな間隙を維持して対向配置される。この第2ハブ130は、円筒状の第2ハブ本体部131と、この第2ハブ本体部131の外周面から径方向外方にわずかに隆起するとともに、第1ハブ本体部111における軸心方向の一端側から他端側まで延在する隆起部132と、を備えている。隆起部132は、第2ハブ本体部131の周方向(回転方向)に等間隔を維持して複数(本実施形態では6つ)設けられており、これによって第2ハブ130の外周には、複数の凹凸が等間隔を維持して形成されることとなる。
また、各隆起部132の一端側の端部には、第2ハブ本体部131よりも軸心方向に突出する第2ドグ133が設けられている。この第2ドグ133は、第1ハブ110の第1ドグ113よりも径方向の位置が内側であって、かつ、組み付け状態において、第1スリーブ120の第2係合ドグ122と係合可能な位置に形成されている。つまり、第2ドグ133は、第1スリーブ120の第2係合ドグ122と係合可能であって、かつ、軸方向に突出した位置において、第2ハブ130の周方向(回転方向)に等間隔を維持して複数設けられることとなる。
第2スリーブ140は、第2ハブ130の外周に嵌合される環状のリング部材で構成される。より詳細には、第2スリーブ140は、第2ハブ130の外周形状とほぼ一致する内周形状を有するリング状の第2スリーブ本体部141を備えており、この第2スリーブ本体部141内に、第2ハブ130が挿通可能に構成されている。つまり、第2スリーブ140を第2ハブ130の外周に嵌合した状態では、当該第2スリーブ140は、第2ハブ130と一体回転するとともに、回転状態を維持したまま、回転軸の軸方向に移動可能となっている。
また、第2スリーブ140は、第2スリーブ本体部141の一方の側面から軸方向に突出する第1係合ドグ142を備えている。第1係合ドグ142は、第2ハブ130に形成された第2ドグ133と同一方向に突出しており、第2スリーブ本体部141の周方向(回転方向)に等間隔を維持して複数(本実施形態では6つ)設けられている。この第1係合ドグ142は、第2スリーブ140が第2ハブ130の外周に嵌合した状態で、第2ハブ130において周方向(回転方向)に隣接する2つの第2ドグ133の中間に位置し、かつ、第2ドグ133よりも径方向外方に位置するように形成されている。また、第1係合ドグ142は、第2スリーブ140が第2ハブ130の外周に嵌合して、もっとも第2ドグ133(第1ハブ110)側に移動したときに、第1ハブ110の第1ドグ113に係合可能な位置に配されている。
なお、第1スリーブ120および第2スリーブ140は、アクチュエータの作動によって軸方向に移動するシフトフォーク200に接続可能に構成されている。シフトフォーク200は、半リング状の部材で構成されており、その内周面に、周方向に延在する連係溝201が形成されている。この連係溝201には、第1スリーブ120の第1スリーブ本体部121および第2スリーブ140の第2スリーブ本体部141が、約半周に亘って回転自在に収容され、シフトフォーク200を軸方向に移動させることで、第1スリーブ120および第2スリーブ140が、回転状態を維持したまま軸方向に移動するようになっている。
上記の構成からなる動力伝達機構100は、同軸上に配された、例えば、第1回転部材および第2回転部材を、これら両回転部材が一体回転する連結状態、または、両回転部材が切り離されて相対回転する非連結状態に切り換えるものである。このとき、動力伝達機構100は、第1ハブ110を第1回転部材と一体回転するように設けるとともに、第2ハブ130を第2回転部材と一体回転するように設けることで、上記の連結状態および非連結状態の切り換えが実現される。
本実施形態の変速機1では、図1に示すように、第1メインシャフト4を入力軸3(第2入力軸3b)に対して連結状態または非連結状態に切り替えるべく、第1動力伝達機構100aにおいては、入力軸3(第2入力軸3b)に第1ハブ110(第1スリーブ120)が設けられ、第1メインシャフト4に第2ハブ130(第2スリーブ140)が設けられる。また、第2メインシャフト5を入力軸3(第2入力軸3b)に対して連結状態または非連結状態に切り替えるべく、第2動力伝達機構100bにおいては、入力軸3(第2入力軸3b)に第1ハブ110(第1スリーブ120)が設けられ、第2メインシャフト5に第2ハブ130(第2スリーブ140)が設けられる。
図6は、動力伝達機構100の連結状態および非連結状態を説明する図であり、図6(a)は、動力伝達機構100の非連結状態を示し、図6(b)は、動力伝達機構100の連結状態を示している。図6に示すように、第1ハブ110における第1ハブ本体部111の内周にはスプライン溝が形成されており、このスプライン溝によって、第1ハブ110が入力軸3(第2入力軸3b)にスプライン係合される。同様に、第2ハブ130における第2ハブ本体部131の内周にはスプライン溝が形成されており、このスプライン溝によって、第2ハブ130が第1メインシャフト4または第2メインシャフト5にスプライン係合される。
このとき、第2ハブ130は、第1ハブ110に対して回転軸の軸方向に僅かな間隙を維持して対向配置される。また、第2ハブ130に形成された第2ドグ133は、第1ハブ110に形成された第1ドグ113の径方向内側に位置するとともに、第1ドグ113と第2ドグ133とが、回転軸に垂直な方向に一部または全部が重なる位置関係を有している。
そして、図6(a)に示すように、第1スリーブ120および第2スリーブ140が互いに離隔する方向に移動した非連結状態(ニュートラル状態)では、第1スリーブ120の第2係合ドグ122が、第2ハブ130の第2ドグ133よりも第1ハブ110側に位置している。また、第2スリーブ140の第1係合ドグ142が、第1ハブ110の第1ドグ113よりも第2ハブ130側に位置している。したがって、図6(a)に示す非連結状態では、第2係合ドグ122と第2ドグ133とが非係合状態となり、第1係合ドグ142と第1ドグ113とが非係合状態となり、第1ハブ110と第2ハブ130とが相対回転可能となる。これにより、動力伝達機構100の非連結状態では、入力軸3(第2入力軸3b)と、第1メインシャフト4または第2メインシャフト5とが相対回転することとなる。
これに対して、図6(b)に示すように、第1スリーブ120および第2スリーブ140が互いに近接する方向に移動した連結状態では、第2スリーブ140の第1係合ドグ142が、第1ハブ110における第1ドグ113の回転軌跡上に位置する。したがって、第2スリーブ140の第1係合ドグ142は、第1ハブ110の第1ドグ113に係合可能な状態となる。こうした連結状態において、例えば車両が加速する場合には、入力軸3(第2入力軸3b)の回転動力が、第1ハブ110、第1ドグ113、第1係合ドグ142、第2スリーブ140、第2ハブ130を介して、第1メインシャフト4または第2メインシャフト5に伝達される。これにより、エンジンEの駆動力は、入力軸3から第1メインシャフト4または第2メインシャフト5へと伝達されるとともに、いずれかの歯車列を介して出力軸6へと伝達されることとなる。
また、この連結状態では、第1スリーブ120の第2係合ドグ122が、第2ハブ130における第2ドグ133の回転軌跡上に位置する。したがって、第1スリーブ120の第2係合ドグ122は、第2ハブ130の第2ドグ133に係合可能な状態となる。こうした連結状態において、例えば車両が減速する場合には、第2ハブ130、第2ドグ133、第2係合ドグ122、第1スリーブ120、第1ハブ110を介して、第1メインシャフト4または第2メインシャフト5側から入力軸3(第2入力軸3b)側に動力伝達がなされる。
なお、詳しくは後述するが、第1係合ドグ142と第1ドグ113とが係合して、入力軸3(第2入力軸3b)と、第1メインシャフト4または第2メインシャフト5との間で動力伝達が行われているとき、第2係合ドグ122と第2ドグ133とは、回転方向に離間する関係を維持している。同様に、第2係合ドグ122と第2ドグ133とが係合して、入力軸3(第2入力軸3b)と、第1メインシャフト4または第2メインシャフト5との間で動力伝達が行われているとき、第1係合ドグ142と第1ドグ113とが回転方向に離間する関係を維持している。つまり、第1ハブ110と第2スリーブ140とが係合している場合には、第2ハブ130と第1スリーブ120とが非係合状態となり、第2ハブ130と第1スリーブ120とが係合している場合には、第1ハブ110と第2スリーブ140とが非係合状態となる。
このことからも明らかなように、第1ハブ110の第1ドグ113および第2スリーブ140の第1係合ドグ142は、ドライブ用の動力伝達を担うものとなり、第2ハブ130の第2ドグ133および第1スリーブ120の第2係合ドグ122は、コースト用の動力伝達を担うものとなる。
次に、本実施形態の変速機1における動力伝達経路の切り替え操作について説明する。図7は、第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bの接続関係を説明する図である。既に説明したように、変速機1においては、第1メインシャフト4の入力軸3に対する連結状態または非連結状態の切り替えが第1動力伝達機構100aによってなされ、第2メインシャフト5の入力軸3に対する連結状態または非連結状態の切り替えが第2動力伝達機構100bによってなされる。
そして、図7に示すように、第1動力伝達機構100aにおいては、第1ハブ110が入力軸3(第2入力軸3b)にスプライン係合され、第2ハブ130が第1メインシャフト4にスプライン係合される。したがって、第1ハブ110および第1スリーブ120は、入力軸3と常時一体回転し、第2ハブ130および第2スリーブ140は、第1メインシャフト4と常時一体回転することとなる。また、第2動力伝達機構100bにおいては、第1ハブ110が入力軸3(第2入力軸3b)にスプライン係合され、第2ハブ130が第2メインシャフト5にスプライン係合される。したがって、第1ハブ110および第1スリーブ120は、入力軸3と常時一体回転し、第2ハブ130および第2スリーブ140は、第2メインシャフト5と常時一体回転することとなる。
そして、変速機1は、第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bを連結状態または非連結状態に切り替えるシフト装置Sを備えている。シフト装置Sは、上述のシフトフォーク200を備えており、不図示のアクチュエータを作動させることで、シフトフォーク200を軸方向に移動させ、これによって第1スリーブ120および第2スリーブ140を入力軸3の軸方向に移動させる。ここでは、理解を容易にするために、第1スリーブ120に接続されたシフトフォーク200を第1シフトフォーク200aとし、第2スリーブ140に接続されたシフトフォーク200を第2シフトフォーク200bとする。
ここで、シフト装置Sは、第1シフトフォーク200aおよび第2シフトフォーク200bをアクチュエータに接続するロッド210、211を備えており、アクチュエータの動力が、ロッド210、211を介して第1シフトフォーク200aおよび第2シフトフォーク200bに伝達されるようにしている。本実施形態では、第1動力伝達機構100aに接続された第1シフトフォーク200aと、第2動力伝達機構100bに接続された第2シフトフォーク200bとがロッド210で連結され、第1動力伝達機構100aに接続された第2シフトフォーク200bと、第2動力伝達機構100bに接続された第1シフトフォーク200aとがロッド211で連結されている。
したがって、アクチュエータによってロッド210を入力軸3の軸方向に移動させると、第1動力伝達機構100aに接続された第1シフトフォーク200aと、第2動力伝達機構100bに接続された第2シフトフォーク200bとが、一体となって同一方向に移動する。同様に、アクチュエータによってロッド211を入力軸3の軸方向に移動させると、第1動力伝達機構100aに接続された第2シフトフォーク200bと、第2動力伝達機構100bに接続された第1シフトフォーク200aとが、一体となって同一方向に移動する。
より詳細に説明すると、入力軸3と第1メインシャフト4とを連結状態に切り替える場合には、ロッド210を一方(図7中、右方向)に移動させるとともに、ロッド211を他方(図7中、左方向)に移動させる。つまり、第1動力伝達機構100aにおいて、第1スリーブ120および第2スリーブ140が互いに近接する方向にロッド210、211を移動させる。これにより、第1動力伝達機構100aにおいては、入力軸3(第2入力軸3b)と第1メインシャフト4とが連結状態となる。また、このとき、第2動力伝達機構100bにおいては、ロッド210、211の移動により、第1スリーブ120および第2スリーブ140が互いに離隔する方向に移動する。これにより、第2動力伝達機構100bにおいては、入力軸3(第2入力軸3b)と第2メインシャフト5とが非連結状態に維持されることとなる。
一方、上記とは逆に、入力軸3と第2メインシャフト5とを連結状態に切り替える場合には、ロッド211を一方(図7中、右方向)に移動させるとともに、ロッド210を他方(図7中、左方向)に移動させる。つまり、第2動力伝達機構100bにおいて、第1スリーブ120および第2スリーブ140が互いに近接する方向にロッド210、211を移動させる。これにより、第2動力伝達機構100bにおいては、入力軸3(第2入力軸3b)と第2メインシャフト5とが連結状態となる。また、このとき、第1動力伝達機構100aにおいては、ロッド210、211の移動により、第1スリーブ120および第2スリーブ140が互いに離隔する方向に移動する。これにより、第1動力伝達機構100aにおいては、入力軸3(第2入力軸3b)と第1メインシャフト4とが非連結状態に維持されることとなる。
以上のように、シフト装置Sのロッド210を一方に移動させ、ロッド211を他方に移動させることで、アクチュエータの動力が第1シフトフォーク200a、第2シフトフォーク200bを介して第1動力伝達機構100aに入力され、入力軸3と第1メインシャフト4とが連結状態となる。また、これと同時に、アクチュエータの動力が第2シフトフォーク200b、第1シフトフォーク200aを介して第2動力伝達機構100bに入力され、入力軸3と第2メインシャフト5とが非連結状態となる。そして、シフト装置Sのロッド210を他方に移動させ、ロッド211を一方に移動させると、アクチュエータの動力が第1シフトフォーク200a、第2シフトフォーク200bを介して第2動力伝達機構100bに入力されて、入力軸3と第2メインシャフト5とが連結状態となる。また、これと同時に、アクチュエータの動力が第1シフトフォーク200a、第2シフトフォーク200bを介して第1動力伝達機構100aに入力されて、入力軸3と第1メインシャフト4とが非連結状態となる。
上記のようにして、ロッド210、211を第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bに接続することで、シフト装置Sのアクチュエータを2つに削減することができる。つまり、動力伝達経路を切り換える際には、第1動力伝達機構100aの第1スリーブ120および第2スリーブ140と、第2動力伝達機構100bの第1スリーブ120および第2スリーブ140とで、合計4つのスリーブを作動する必要があるが、本実施形態では、2つのアクチュエータで4つのスリーブを作動する。このように、シフト装置Sのアクチュエータを削減することができることから、変速機1全体の軽量化および省スペース化を図ることが可能となる。また、入力軸3に対して第1メインシャフト4および第2メインシャフト5が同時に連結されてしまうと、変速機1がロックされて破損するおそれがある。しかしながら、本実施形態のように、第1動力伝達機構100aの連結動作と、第2動力伝達機構100bの切り離し動作とが、機械的に同期して行われることから、変速機1がロックされるおそれがなく、故障率を低減することができる。
図8は、ニュートラル状態における第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bを説明する図である。なお、図8以降の各図において、(a1)は、第1動力伝達機構100aの第1ハブ110、第1スリーブ120、第2ハブ130、第2スリーブ140を示し、(b1)は、第2動力伝達機構100bの第1ハブ110、第1スリーブ120、第2ハブ130、第2スリーブ140を示す。また、(a2)は、第1動力伝達機構100aの第1ハブ110および第2スリーブ140を示し、(b2)は、第2動力伝達機構100bの第1ハブ110および第2スリーブ140を示す。また、(a3)は、第1動力伝達機構100aの第1スリーブ120および第2ハブ130を示し、(b3)は、第2動力伝達機構100bの第1スリーブ120および第2ハブ130を示す。
変速機1のニュートラル状態では、第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bのいずれも非連結状態となっている。したがって、図8に示すように、第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bのいずれにおいても、第2スリーブ140の第1係合ドグ142は、第1ハブ110の第1ドグ113の回転軌跡上から退避した非係合状態となり、第1スリーブ120の第2係合ドグ122は、第2ハブ130の第2ドグ133の回転軌跡上から退避した非係合状態となっている。
図9は、ニュートラル状態から第2メインシャフト5の連結状態への切り替え動作を説明する第1の図であり、図10は、ニュートラル状態から第2メインシャフト5の連結状態への切り替え動作を説明する第2の図である。ここでは、一例として、ニュートラル状態から1速に変速する場合について説明する。ニュートラル状態から1速に切り替える場合には、第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bの切り替え操作に先だって、まず、ギヤ切替機構30aによって、1速用ドリブンギヤ21を出力軸6に連結する(図7参照)。このとき、入力軸3はエンジンEの駆動力によって、図9中、矢印方向に回転している。
そして、第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bの切り替え操作では、第1動力伝達機構100aの第1スリーブ120および第2動力伝達機構100bの第2スリーブ140が図中白抜き矢印で示す方向に移動するように、シフト装置Sがロッド210を作動する。すると、図9(b1)、(b2)に示すように、第2動力伝達機構100bにおける第2スリーブ140の第1係合ドグ142が、第1ハブ110の第1ドグ113の回転軌跡上に進入する。このとき、第1ハブ110は、入力軸3と一体回転していることから、第1ハブ110の回転によって第1ドグ113が第1係合ドグ142に係合される。これにより、第2動力伝達機構100bが連結状態となり、第1ハブ110および第2スリーブ140を介して、入力軸3から第2メインシャフト5に動力伝達がなされることとなる。このようにして第2メインシャフト5が回転すると、1速用ドライブギヤ11および1速用ドリブンギヤ21からなる歯車列を介して、出力軸6に回転動力が伝達されることとなる。
なお、このとき、第1動力伝達機構100aにおいては、図9(a1)、(a3)に示すように、第1スリーブ120が、ニュートラル状態よりもさらに第2ハブ130から離隔した方向に移動することとなる。
次に、上記の状態で、図10に示すように、第1動力伝達機構100aの第2スリーブ140および第2動力伝達機構100bの第1スリーブ120が図中白抜き矢印で示す方向に移動するように、シフト装置Sがロッド211を作動する。すると、図10(b1)、(b3)に示すように、第2動力伝達機構100bにおける第1スリーブ120の第2係合ドグ122が、第2ハブ130の第2ドグ133の回転軌跡上に進入する。これにより、第1スリーブ120の第2係合ドグ122と、第2ハブ130の第2ドグ133とが係合可能な状態となるが、このとき、第2係合ドグ122と第2ドグ133との間には、回転方向に間隙が維持されている。
なお、このとき、第1動力伝達機構100aにおいては、図10(a1)、(a2)に示すように、第2スリーブ140が、ニュートラル状態よりもさらに第1ハブ110から離隔した方向に移動することとなる。以上のように、シフト装置Sがロッド210、211を作動させることにより、ニュートラル状態から1速への変速が完了する。
次に、加速時におけるアップシフトについて説明する。なお、以下において、「加速」とは、エンジンEの駆動力によって車両が加速する状態をいうものであり、例えば、坂を下るときに、自重によって車両が加速する状態をいうものではない。ここでは、一例として、1速の加速中において2速にアップシフトする場合について、図7、図11および図12を用いて説明する。
図11は、加速時における第2メインシャフト5から第1メインシャフト4への動力伝達経路の切り替えを説明する第1の図であり、図12は、加速時における第2メインシャフト5から第1メインシャフト4への動力伝達経路の切り替えを説明する第2の図である。上記したように、車両の1速状態では、ギヤ切替機構30aによって1速用ドリブンギヤ21が出力軸6に連結されており、1速用ドライブギヤ11および1速用ドリブンギヤ21からなる歯車列を介して動力伝達が行われている(図7参照)。
この状態において車両の加速中に2速にアップシフトする場合には、ギヤ切替機構30bによって、2速用ドリブンギヤ22を出力軸6に連結する。すると、出力軸6の回転動力が、2速用ドリブンギヤ22および2速用ドライブギヤ12を介して第1メインシャフト4に伝達される。このとき、第1メインシャフト4の回転数は入力軸3よりも小さく、第1動力伝達機構100aにおいては、第1メインシャフト4側に位置する第2ハブ130および第2スリーブ140と、入力軸3側に位置する第1ハブ110および第1スリーブ120との間に差回転(回転数の差)が生じている。図11においては、第1ハブ110、第1スリーブ120、第2ハブ130、第2スリーブ140の回転方向を実線矢印で示しているが、この実線矢印の長さで回転速度の差を示している。
そして、第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bの切り替え操作では、第1動力伝達機構100aの第2スリーブ140および第2動力伝達機構100bの第1スリーブ120が図中白抜き矢印で示す方向に移動するように、シフト装置Sがロッド211を作動する。すると、図11(a1)、(a2)に示すように、第1動力伝達機構100aにおける第2スリーブ140の第1係合ドグ142が、第1ハブ110の第1ドグ113の回転軌跡上に進入する。このとき、第1ハブ110と第2スリーブ140との間には差回転が生じていることから、第1ハブ110の回転によって第1ドグ113が第1係合ドグ142に係合される。これにより、第1動力伝達機構100aが連結状態となり、第1ハブ110および第2スリーブ140を介して、入力軸3から第2メインシャフト5に動力伝達がなされることとなる。
このように、1速から2速へのアップシフトの際には、第2メインシャフト5と入力軸3とが動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に第1メインシャフト4側に切り換わる。換言すれば、1速用ドライブギヤ11および1速用ドリブンギヤ21を介した動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に2速用ドライブギヤ12および2速用ドリブンギヤ22に切り換わるため、トルク切れを生じることなく変速がなされることとなる。
なお、1速での車両の加速状態では、第2動力伝達機構100bにおける第1スリーブ120の第2係合ドグ122と、第2ハブ130の第2ドグ133とが、回転方向に離間した非係合状態となっている(図10(b3)参照)。したがって、シフト装置Sによるロッド211の作動により、第2動力伝達機構100bにおいては、図11(b1)、(b3)に示すように、第1スリーブ120が、ニュートラル状態よりもさらに第2ハブ130から離隔した方向に移動することとなる。
また、第1動力伝達機構100aにおいて、第1ドグ113と第1係合ドグ142とが係合し、動力伝達経路が2速用ドライブギヤ12および2速用ドリブンギヤ22に切り替わると、入力軸3の回転数が低下する。その結果、図12において実線矢印で示すように、第2動力伝達機構100bにおいて、第1ハブ110に対する第2スリーブ140の相対回転数が大きくなる。そこで、図12において、第1動力伝達機構100aの第1スリーブ120および第2動力伝達機構100bの第2スリーブ140が図中白抜き矢印で示す方向に移動するように、シフト装置Sがロッド210を作動する。すると、図12(b1)、(b2)に示すように、第2動力伝達機構100bにおける第2スリーブ140が、ニュートラル状態よりもさらに第1ハブ110から離隔した方向に移動する。
また、これと同時に、第1動力伝達機構100aにおいては、図12(a1)、(a3)に示すように、第1スリーブ120の第2係合ドグ122が、第2ハブ130の第2ドグ133の回転軌跡上に進入する。これにより、第1スリーブ120の第2係合ドグ122と、第2ハブ130の第2ドグ133とが係合可能な状態となるが、車両の加速状態では、第2係合ドグ122と第2ドグ133との間で、回転方向に間隙が維持されている。
以上のようにして、第1動力伝達機構100aが連結状態、第2動力伝達機構100bが非連結状態に切り替わったところで、ギヤ切替機構30aによって1速用ドリブンギヤ21を出力軸6から切り離すと、1速から2速へのアップシフトが完了することとなる。このように、本実施形態の変速機1によれば、トルク切れを生じることなく、アップシフトを行うことができる。なお、ここでは、1速から2速への加速時アップシフトについて説明したが、2速から3速、3速から4速への加速時アップシフトの動作原理も上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
次に、減速時におけるダウンシフトについて説明する。なお、以下において、「減速」とは、エンジンブレーキによる車両の減速状態をいうものであり、例えば、坂を上るときに車両が減速する状態をいうものではない。ここでは、一例として、2速の減速中において1速にダウンシフトする場合について、図7、図13〜図15を用いて説明する。
図13は、2速の減速状態を説明する図であり、図14は、減速時における第1メインシャフト4から第2メインシャフト5への動力伝達経路の切り替えを説明する第1の図であり、図15は、減速時における第1メインシャフト4から第2メインシャフト5への動力伝達経路の切り替えを説明する第2の図である。上記したように、車両の2速状態では、ギヤ切替機構30bによって2速用ドリブンギヤ22が出力軸6に連結されており、2速用ドライブギヤ12および2速用ドリブンギヤ22からなる歯車列を介して動力伝達が行われている(図7参照)。
また、2速の減速状態では、図13(a3)に示すように、第1動力伝達機構100aにおいて、第1スリーブ120の第2係合ドグ122と、第2ハブ130の第2ドグ133とが係合されて、入力軸3と出力軸6との間の動力伝達がなされている。また、このとき、図13(a2)に示すように、第1動力伝達機構100aにおいては、第2スリーブ140の第1係合ドグ142と、第1ハブ110の第1ドグ113とが回転方向に離間した状態となっている。
こうした車両の減速中に1速にダウンシフトする場合には、まず、ギヤ切替機構30aによって、1速用ドリブンギヤ21を出力軸6に連結する(図7参照)。すると、出力軸6の回転動力が、1速用ドリブンギヤ21および1速用ドライブギヤ11を介して第2メインシャフト5に伝達される。このとき、第2メインシャフト5の回転数は入力軸3よりも大きく、第2動力伝達機構100bにおいて、第2メインシャフト5側に位置する第2ハブ130および第2スリーブ140と、入力軸3側に位置する第1ハブ110および第1スリーブ120との間に差回転が生じている。なお、図13では、第1ハブ110、第1スリーブ120、第2ハブ130、第2スリーブ140の回転方向を実線矢印で示し、この実線矢印の長さで回転速度の差を示している。また、図13(b2)、(b3)の破線矢印は、ギヤ切替機構30aによって1速用ドリブンギヤ21が出力軸6に連結されたときの、第2ハブ130および第2スリーブ140の回転方向および回転速度を示している。
そして、第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bの切り替え操作では、図14に示すように、第1動力伝達機構100aの第2スリーブ140および第2動力伝達機構100bの第1スリーブ120が図中白抜き矢印で示す方向に移動するように、シフト装置Sがロッド211を作動する。すると、図14(b1)、(b3)に示すように、第2動力伝達機構100bにおける第1スリーブ120の第2係合ドグ122が、第2ハブ130の第2ドグ133の回転軌跡上に進入する。このとき、第2ハブ130と第1スリーブ120との間には差回転が生じていることから、第2ハブ130の回転によって第2ドグ133が第2係合ドグ122に係合される。これにより、第2動力伝達機構100bが連結状態となり、第2ハブ130および第1スリーブ120を介して、入力軸3と第2メインシャフト5との間で動力伝達がなされることとなる。
このように、2速から1速へのダウンシフトの際には、第1メインシャフト4と入力軸3とが動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に第2メインシャフト5側に切り換わる。換言すれば、2速用ドライブギヤ12および2速用ドリブンギヤ22を介した動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に1速用ドライブギヤ11および1速用ドリブンギヤ21に切り換わるため、トルク切れを生じることなく変速がなされることとなる。
なお、2速での車両の減速状態では、第1動力伝達機構100aにおける第2スリーブ140の第1係合ドグ142と、第1ハブ110の第1ドグ113とが、回転方向に離間した非係合状態となっている(図13(a2)参照)。したがって、シフト装置Sによるロッド211の作動により、第1動力伝達機構100aにおいては、図14(a1)、(a2)に示すように、第2スリーブ140が、ニュートラル状態よりもさらに第1ハブ110から離隔した方向に移動することとなる。
また、第2動力伝達機構100bにおいて、第2ドグ133と第2係合ドグ122とが係合し、動力伝達経路が1速用ドライブギヤ11および1速用ドリブンギヤ21に切り替わると、入力軸3の回転数が上昇する。その結果、図15において実線矢印で示すように、第1動力伝達機構100aにおいて、第2ハブ130に対する第1スリーブ120の相対回転数が大きくなる。そこで、図15において、第1動力伝達機構100aの第1スリーブ120および第2動力伝達機構100bの第2スリーブ140が図中白抜き矢印で示す方向に移動するように、シフト装置Sがロッド210を作動する。すると、図15(a1)、(a3)に示すように、第1動力伝達機構100aにおける第1スリーブ120が、ニュートラル状態よりもさらに第2ハブ130から離隔した方向に移動する。
また、これと同時に、第2動力伝達機構100bにおいては、図15(b1)、(b2)に示すように、第2スリーブ140の第1係合ドグ142が、第1ハブ110の第1ドグ113の回転軌跡上に進入する。これにより、第2スリーブ140の第1係合ドグ142と、第1ハブ110の第1ドグ113とが係合可能な状態となるが、車両の減速状態では、第1係合ドグ142と第1ドグ113との間で、回転方向に間隙が維持されている。
以上のようにして、第2動力伝達機構100bが連結状態、第1動力伝達機構100aが非連結状態に切り替わったところで、ギヤ切替機構30bによって2速用ドリブンギヤ22を出力軸6から切り離すと、2速から1速へのダウンシフトが完了することとなる。このように、本実施形態の変速機1によれば、トルク切れを生じることなく、ダウンシフトを行うことができる。なお、ここでは、2速から1速への減速時ダウンシフトについて説明したが、3速から2速、4速から3速への減速時ダウンシフトの動作原理も上記と同様である。
なお、動力伝達経路の切り替え時、すなわち、変速の際には、互いに差回転が生じた状態で、第1係合ドグ142を第1ドグ113に飛び込ませたり、第2係合ドグ122を第2ドグ133に飛び込ませたりする。そのため、変速の際には、トルクが瞬間的に跳ね上がって元に戻るといった変動、すなわち、スパイクトルクが生じてしまう。このように、変速の際にスパイクトルクが生じると、ドグの係合による衝撃音や、入力軸3、第1メインシャフト4、第2メインシャフト5、出力軸6を支持するベアリングの外輪とミッションケースとの当たりによる騒音等が生じたり、スパイクトルクによって捩じれが生じ、駆動輪やミッションケースに振動が生じたりする。
そこで、本実施形態の変速機1では、入力軸3にトルク変動を吸収するための緩衝機構50を設けることとしており、この緩衝機構50によって、変速の際に生じるスパイクトルクを、予め設定された設定トルクまでカットするようにしている(図7参照)。具体的には、変速の際にスパイクトルクが生じ、入力軸3に生じるトルクが予め設定されたリミットトルク(設定トルク)以上になると、緩衝機構50によって、第1入力軸3aと第2入力軸3bとが相対回転する。したがって、第1入力軸3aと第2入力軸3bとの間の動力伝達において、緩衝機構50で設定されたリミットトルク(設定トルク)以上のトルク伝達がなされることはなく、常に、リミットトルク未満のトルク伝達がなされることとなる。これにより、変速の際に、騒音や振動を十分に抑制することが可能となり、変速機1が搭載された車両等の振動が低減され、当該車両における乗り心地を向上することが可能となる。
なお、トルク切れを生じることなく変速を可能とする変速機は、例えば、上記の特許文献1、2に示されるように、従来提案されているものであるが、こうした従来の変速機では、スパイクトルクを吸収するために、全てのギヤに緩衝機構を組み込むこととしている。この場合、各ギヤ段に緩衝機構を設けることから、コストが上昇したり、ギヤの大きさによっては十分な緩衝性能を発揮できなかったりするという課題があった。しかしながら、本実施形態の変速機1によれば、入力軸3に緩衝機構50を設けることで、1つの緩衝機構50によって、全ての変速段への変速に対応することが可能となり、低コスト化を図りつつも十分な緩衝性能をもたらすことが可能となる。
以上説明したように、本実施形態の動力伝達機構100は、相対回転する第1スリーブ120および第2スリーブ140を互いに近接する方向に移動させることで連結状態となり、第1スリーブ120および第2スリーブ140を互いに離隔する方向に移動させることで非連結状態となる。このように、第1スリーブ120および第2スリーブ140を、入力軸3の軸方向において互いに反する方向に動作させることで、連結状態および非連結状態の切り替えが実現されるので、第1スリーブ120および第2スリーブ140を作動させるアクチュエータを、2つの第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bにおいて共有することができる。
そして、第1動力伝達機構100aおよび第2動力伝達機構100bにおいて、連結状態および非連結状態の切り替えが、同一のアクチュエータによって、同時にかつ機械的になされるので、変速機1がロックされてしまうおそれがない。しかも、同一のアクチュエータを用いることから、全てのスリーブが個別にアクチュエータによって制御される場合よりも、制御プログラムを簡素化することができ、また、部品点数を削減してコストを低減することが可能となる。
また、本実施形態では、第1ハブ110の第1ドグ113および第2スリーブ140の第1係合ドグ142が、ドライブ用のドグとして主に加速時の動力伝達を担い、第2ハブ130の第2ドグ133および第1スリーブ120の第2係合ドグ122が、コースト用のドグとして主に減速時の動力伝達を担う。このように、ドライブ用のドグと、コースト用のドグとがそれぞれ別個に設けられた変速機は、上記した特許文献1、2に示されるように、従来公知である。これら従来提案されている変速機では、ドライブ用のドグとコースト用のドグとが、同一円周状に交互に配置されているが、このときのハブやドグ、スリーブの寸法は、相対的に伝達トルクが大きいドライブ用のドグを基準として設計される。その結果、ドライブ用のドグと同一円周状に配されるコースト用のドグは、必要以上のトルク伝達が可能な過剰能力となっており、コースト用のドグに着目すると、不必要に部品が大型化されて重量増になっているという課題がある。
本実施形態の動力伝達機構100によれば、第2ドグ133および第2係合ドグ122が、第1ドグ113および第1係合ドグ142よりも径方向の位置が内側に位置している(図3、図4参照)。したがって、本実施形態の変速機1のように、第1ドグ113および第1係合ドグ142をドライブ用のドグとして機能させ、第2ドグ133および第2係合ドグ122をコースト用のドグとして機能させれば、コースト用のドグを小型化することができ、その結果、動力伝達機構100および変速機1全体の軽量化を図ることができる。
また、本実施形態では、第1動力伝達機構100aにおいては、第2スリーブ140が第1メインシャフト4側に設けられ、第2動力伝達機構100bにおいては、第2スリーブ140が第2メインシャフト5側に設けられている。第2スリーブ140は、ドライブ用のドグとして機能する第1係合ドグ142を備えているため、図3および図4からも明らかなように、第1スリーブ120よりも大径となっている。したがって、第2スリーブ140は、第1スリーブ120に比べて重量が大きくなるが、本実施形態の変速機1では、相対的に重量の大きい第2スリーブ140を、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に設けている。換言すれば、第1スリーブ120および第2スリーブ140のうち、相対的に重量の小さい第1スリーブ120を入力軸3に設けている。これにより、入力軸3に作用する回転慣性力を小さくすることができ、よってスパイクトルクのさらなる低減が実現されている。
なお、上記実施形態の動力伝達機構100の構成は一例に過ぎず、本発明の目的を実現可能な範囲で適宜設計変更可能であることは言うまでもない。上記実施形態では、図8〜図15に示すように、第1ドグ113と第1係合ドグ142とが噛合する噛合面、および、第2ドグ133と第2係合ドグ122とが噛合する噛合面をテーパ形状としている。これにより、第1ドグ113と第1係合ドグ142との係合や、第2ドグ133と第2係合ドグ122との係合が、意図せず解除されてしまうことがないようにしている。
また、第1係合ドグ142における噛合面と反対側の端面もテーパ状に形成されている。これは、第2スリーブ140が、意図に反して第1ハブ110側に移動してしまった場合に、第1ドグ113によって第1係合ドグ142が軸方向に弾かれるようにするためである。同様に、第2ドグ133の噛合面と反対側の端面もテーパ状に形成されており、第1スリーブ120が、意図に反して第2ハブ130側に移動してしまった場合に、第2ドグ133によって第2係合ドグ122が軸方向に弾かれるようにしている。このように、上記実施形態では、第2ドグ133および第1係合ドグ142には、意図せずに係合がなされることを回避するためのテーパが形成されているが、こうしたテーパは、第1ドグ113や第2係合ドグ122に設けることも可能である。
また、上記実施形態では、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5のそれぞれに複数のドライブギヤDvを固定し、これら複数のドライブギヤDvそれぞれに噛合するドリブンギヤDnを、出力軸6に相対回転自在に設けることとした。したがって、ギヤ切替機構30a、30bは出力軸6に設けられることとなり、出力軸6にドリブンギヤDnを連結させて当該ドリブンギヤDnと出力軸6とを一体回転させる連結状態、および、出力軸6とドリブンギヤDnとが相対回転する切り離し状態のいずれかを選択的に切り換えることとなる。しかしながら、ドライブギヤDvを第1メインシャフト4または第2メインシャフト5に相対回転自在に設けるとともに、ギヤ切替機構30a、30bを、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に設け、ドリブンギヤDnを出力軸6に固定することとしても構わない。いずれにしても、ギヤ切替機構30a、30bの配置、歯車列の構成は限定されるものではない。
また、上記実施形態の変速機1は、動力伝達機構100を適用した一例に過ぎず、動力伝達機構100は、上記の構成以外の変速機にも広く適用可能である。
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。