JP2014090084A - Cigs系太陽電池用密着性向上薄膜、及び該薄膜を備えたcigs系太陽電池 - Google Patents

Cigs系太陽電池用密着性向上薄膜、及び該薄膜を備えたcigs系太陽電池 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明はMo裏面電極層とCIGS系光吸収層との密着性を向上し、Mo裏面電極層とCIGS系光吸収層の界面の剥離という問題を解消し得る技術を提供すること。
【解決手段】本発明はCIGS系太陽電池のMo裏面電極層とCIGS系光吸収層の間に用いられる密着性向上薄膜であって、前記密着性向上薄膜はMo合金である。
【選択図】図2

Description

本発明はCIGS系太陽電池用密着性向上薄膜、及び該薄膜を備えたCIGS系太陽電池に関し、詳細には、Mo裏面電極層とCIGS系光吸収層との密着性に優れたCIGS系太陽電池用密着性向上薄膜、及び該薄膜を備えたCIGS系太陽電池に関するものである。
近年、太陽電池の光吸収層の材料として、シリコンの代わりにカルコパライト系の化合物半導体を使用した太陽電池の開発が行われている。カルコパライト系太陽電池の構成は、基板上に裏面電極層(正極)、光吸収層、バッファ層、透明導電層(負極)などが形成されたものである。カルコパライト系化合物は光吸収層に用いられており、代表的にはCIS(Cu+In+Se)系またはCIGS(Cu+In+Ga+Se)系の光吸収層が挙げられる。特にGaを含むCIGSはCISに比べてバンドギャップが大きくなり、バンドギャップが最適値に近くなるため、太陽光の変換効率が向上し、発電効率が高いことから注目されている。
図1に、CIGS系化合物半導体薄膜を光吸収層に用いた太陽電池の構成の一例を示す。図1に示す太陽電池は、ソーダライムガラスなどの基板1上にMoなどの裏面電極層2(Mo裏面電極層)、CIGS系薄膜のp型光吸収層4(CIGS系光吸収層)、CdSなどの高抵抗バッファ層5、窓層6、透明導電層7などが積層されて構成されている。上記太陽電池は、スパッタリング法によって裏面電極層を基板上に形成した後、蒸着法、スパッタリング法、塗布法などにより光吸収層、高抵抗バッファ層、窓層、透明導電層などが順次形成される。
CIGS系光吸収層の形成には、従来、スパッタリングにより形成されたCu−Ga膜およびIn膜を積層し、得られた積層膜についてSeを含有するガス雰囲気中で熱処理(セレン化処理)してCu−In−Ga−Se系化合物膜(CIGS系化合物膜)を形成する方法が用いられていた。しかし、このような成膜方法では、Cu−Ga二元系合金およびInのそれぞれの成膜用チャンバーとスパッタリングターゲットが必要であり、更にSe雰囲気中で熱処理を行うために熱処理炉も必要であり、製造コストが高いものであった。
そこで、CIGS系化合物膜を効率的に成膜するため、セレン化処理を行うことなく光吸収層を形成する手法として、Cu−In−Ga−Se系化合物粉末(CIGS系化合物粉末)を用いた印刷法や、Cu−In−Ga−Se系化合物(CIGS系化合物)を用いた蒸着法、またCu−In−Ga−Se四元系スパッタリングターゲット(CIGS四元系スパッタリングターゲット)を用いたスパッタリング法の開発が行われている。特にスパッタリング法は、成膜制御性に優れており、大面積基板上に均一で再現性の高い成膜ができる技術として注目されている。
ところで、CIGS系太陽電池には、製品信頼性(歩留まり)確保や光電変換効率向上の観点から、Mo裏面電極層とCIGS系光吸収層は密着性に優れていることが要求される。しかしながらMo裏面電極層とCIGS系光吸収層とは異なる熱膨張率(線膨張係数)を示す。また、CIGS四元系スパッタリングターゲットでCIGS光吸収層を成膜する場合、CIGS光吸収層が高い応力を持つことがある。そのため、例えばCIGS光吸収層成膜後の熱処理過程や、KCNエッチングプロセス、CIGS光吸収層の上に積層する膜の成膜過程において、Mo裏面電極層からCIGS系光吸収層が剥離するという問題が生じることがあった。そのため裏面電極と光吸収層との密着性を向上することが求められていた。
このような問題を解消する技術としては、例えば特許文献1のように裏面電極と光吸収層の間に、単一の遷移金属の窒化物を含む中間層を形成して密着性の向上を図る技術が提案されている。
また例えば特許文献2には、CIGS系光吸収層の形成過程において、In、Cu、Gaを含有するプリカーサを形成した後、該プリカーサにアルカリ金属含有液を付着させてからセレン化することで、密着性の向上を図る技術が提案されている。
特開2012−114414号公報 特許第4680183号公報
上記したようにCIGS四元系スパッタリングターゲットを用いた場合は、均一で再現性の高い成膜ができる点でセレン化処理する従来の成膜方法よりも有用である。しかしながら、CIGS四元系スパッタリングターゲットを用いた場合は、順次膜を積層してセレン化処理する場合と比べて、密着性が低く、膜応力が生じるとCIGS光吸収層がMo裏面電極から剥離し易いという問題があった。現状ではCIGS四元系スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法で成膜されたCIGS光吸収層の耐剥離性を向上させる技術は未だ確立されていない。
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的はMo裏面電極層とCIGS光吸収層との密着性を向上し、Mo裏面電極層とCIGS光吸収層の界面の剥離という問題を解消し得る技術を提供することである。
上記課題を解決し得た本発明とは、CIGS系太陽電池のMo裏面電極層とCIGS系光吸収層の間に用いられる密着性向上薄膜であって、前記密着性向上薄膜はMo合金であることに要旨を有するMo裏面電極層とCIGS系光吸収層との密着性に優れたCIGS系太陽電池用密着性向上薄膜である。
また前記Mo合金が、合金成分としてAgを含むことも本発明の好ましい実施態様である。
更に本発明には、基板、Mo裏面電極層、CIGS系光吸収層、透明導電層の順に積層されたCIGS系太陽電池において、上記密着性向上薄膜を備えたCIGS系太陽電池も含まれる。
本発明は、Mo裏面電極層とCIGS光吸収層の間にMo合金層を用いた密着性向上薄膜(中間層)を設けているため、Mo裏面電極層とCIGS光吸収層との熱膨張率の差によって生じる膜応力を緩和し、CIGS光吸収層の剥離という問題を解消できた。また本発明は上記Mo合金層を設けても、十分な光電変換効率を有する太陽電池を提供することができた。
図1は、従来のCIGS系太陽電池の構成の概略説明図である。 図2は、本発明のCIGS系太陽電池の構成の概略説明図である。 図3(a)〜(g)は実施例の各試料((a)は純Mo、(b)はMo−Ag合金、(c)はMo−W合金、(d)はMo−Ta合金、(e)はMo−Ti合金、(f)はMo−Zr合金、(g)はMo−Nd合金)の断面をSEM観察(走査型電子顕微鏡:倍率3万倍)した図面代用写真である。
以下、本発明に至った経緯を説明しつつ、本発明のCIGS系太陽電池用密着性向上薄膜、および該薄膜を備えた太陽電池について説明する。
上記したようにCIGS光吸収層の剥離は、Mo裏面電極層とCIGS光吸収層の熱膨張率が異なることに起因する。そこで本発明者らは密着性が低いCIGS四元系スパッタリングターゲットで形成したCIGS光吸収層についても密着性向上薄膜をMo裏面電極層とCIGS系光吸収層との間に中間層として設けることがCIGS光吸収層の剥離の抑制に有効に作用すると考え、特に前述した特許文献1とは視点を変えて、最適な密着性向上薄膜の成分組成について鋭意研究を重ねた。
その結果、以下に説明するように密着性向上薄膜としてMoに合金元素を添加したMo合金を用いることがCIGS系光吸収層の剥離抑制に有効であることを見出した。
まず、本発明では密着性向上薄膜をMo裏面電極層と同じくMoを主体とする構成にした。これは密着性向上薄膜とMo裏面電極層との膨張率をほぼ同程度とすることで、膜応力差を少なくできるからである。そのため、本発明の密着性向上薄膜は、Mo裏面電極層との密着性に優れており、熱履歴が加えられてもMo裏面電極から剥離する可能性が低い。
また密着性向上薄膜をMo主体とすることで、Mo裏面電極層、及びCIGS系光吸収層との電気的オーミック接合も確保できる。そのため、本発明の密着性向上薄膜を有する太陽光電池は良好な密着性とセル特性(光電変換効率)を奏することができる。
Mo合金を用いて密着性向上薄膜を作製した場合、CIGS系光吸収層の剥離が抑制される詳細な理由は不明であるが、Mo合金を用いた密着性向上薄膜とCIGS系光吸収層との界面の空孔を抑制すると密着性が向上する傾向があることがわかった。
図3(a)〜(g)は、後記する実施例1で作製したものである。すなわち、基板上にMo裏面電極層、Mo−20原子%X合金(X=Ag、W、Ta、Ti、Zr、Nd)を用いた密着性向上薄膜、或いは比較対象である純Moを用いて形成した中間層、CIGS系光吸収層を順次形成し、加熱処理(真空雰囲気中で550℃、2時間)を施した試料[裏面電極層:750nm/密着性向上薄膜(または中間層)50nm/CIGS系光吸収層:2μm]を作製した。図3はこの試料の断面をSEM観察(走査型電子顕微鏡:倍率3万倍)し、CIGS系光吸収層(上側)と密着性向上薄膜(下側)との界面近傍を写したものである。
なお、この図3に示す例は、合金成分の添加量を20原子%とした場合の結果を示すものであるが、合金成分としてAgを20原子%含有するMo合金を用いた密着性向上薄膜(図3(b))において、CIGS光吸収層との密着性向上効果が顕著であることを示す好適な例であるため採用したものである。したがって、合金成分の種類や添加量によって、図3に示すSEM写真と異なる状態となることがあり、後記するように好適な添加量は合金成分によって異なる。
図3(a)は、Mo裏面電極層とCIGS系光吸収層の間に純Moを用いた中間層を形成した積層体のCIGS系光吸収層と中間層の界面近傍の拡大図である。この図から該界面(点線枠内)には、空孔が無数存在していることがわかる。純Moを用いた中間層ではCIGS系光吸収層が容易に剥離してしまい、密着性向上効果が得られなかった。
なお、純Moを用いた中間層は、Mo裏面電極層と同じく合金成分を含まない成分組成であり密着性が悪いものである。この例からもMo裏面電極層とCIGS系光吸収層の間に、合金成分を含まない中間層を介在させただけでは密着性が改善しないことがわかる。
図3(b)〜(g)は、Mo裏面電極層とCIGS系光吸収層の間にMo−X合金(X=Ag、W、Ta、Ti、Zr、Nd)を用いて密着性向上薄膜を形成した積層体のCIGS系光吸収層と該密着性向上薄膜との界面近傍図である。これらのうち、合金成分としてAgを含有させたMo合金を用いて密着性向上薄膜を形成した図3(b)は、CIGS系光吸収層と密着性向上薄膜との界面が緻密に形成されており、空孔は殆ど形成されていないことがわかる。このMo−Ag合金を用いて密着性向上薄膜を形成した場合、CIGS系光吸収層の剥離が最も抑制されており、他の合金成分を用いたものよりも密着性に優れていた。
またAg以外の他の合金成分(W、Ta、Ti、Zr、Nd)を含有させたMo合金を用いた密着性向上薄膜を形成した図3(c)〜(g)は、上記図3(b)に示すMo−Ag合金には劣るが、上記純Moを用いた場合よりも空隙が少なかった。
上記結果から、中間層とCIGS系光吸収層との界面に無数の空孔が形成されると、該空孔が密着性阻害要因になると考えられる。そしてこの空孔の形成を抑制することが密着性向上に有効に作用すると考えられる。
また図3(b)〜(g)に示すように、密着性向上薄膜に用いるMo合金に添加する合金成分の種類によって、密着性向上薄膜とCIGS系光吸収層との界面の状態が異なり、更に合金成分の添加量によっても空孔の状態が異なることから、密着性向上薄膜とCIGS系光吸収層との界面の空孔の形成が抑制されるように、合金成分の種類と添加量は適宜調整すればよい。
次にMo合金を用いた密着性向上薄膜を含むCIGS系太陽電池のセル特性(光電変換効率)について調べた。CIGS系太陽電池として使用する場合には、密着性が優れているだけでなく、光電変換効率も良好であることが要求されるからである。
後記実施例2に示すように、基板1上にMo裏面電極層2、Mo−20原子%X群元素の密着性向上薄膜3(或いは純Moを用いた中間層)、CIGS系光吸収層4を形成した後、熱処理(真空雰囲気中で550℃、2時間)を行った。その後、バッファ層5、窓層6、透明導電層7、取り出し電極8、9を形成して図2に示すような構成の試験片(太陽電池12)を作製した。各試験片セル特性(光電変換効率)を測定した結果を後記する表1に示す。
この結果から、Mo−Ag合金を用いて密着性向上薄膜を形成した場合、他の合金成分と比べて光電変換効率が最も優れていることがわかる。また他の合金成分(X=Zr、Ta、Ti、Nd)を添加したMo−Ag合金を用いて密着性向上薄膜を形成した場合、Mo−Ag合金の例には劣るものの、純Moを用いて中間層を形成した場合よりも光電変換効率が高かった。
なお、Mo−W合金を用いた密着性向上薄膜の場合、太陽電池作製過程でCIGS光吸収層が剥離(KCNエッチングおよびCdS成膜過程で剥離)し、Wは添加量が20原子%程度の場合、密着性が得られないことがわかった。したがって、製品信頼性確保の観点からも太陽電池の製造過程で剥離することがないように合金成分、添加量を適宜調整することが望ましい。
これら試験結果と上記SEM写真における密着性向上薄膜とCIGS系光吸収層との界面の状態を考慮すると、密着性向上薄膜とCIGS系光吸収層との界面の空孔の有無は、密着性だけでなく光電変換効率にも影響を与えていると考えられる。すなわち、密着性向上薄膜とCIGS系光吸収層との界面の空孔の形成を抑制すると、密着性が良くなるだけでなく、良好な導電性を確保して光電変換効率の向上効果が得られると考えられる。
上記結果から、太陽電池として要求される密着性、及びセル特性(光電変換効率)を達成するには、密着性向上薄膜に用いるMo合金に添加する合金成分の種類や添加量を適宜調整して、密着性向上薄膜とCIGS系光吸収層との界面の空孔を抑制することが望ましい。
上記効果を奏する本発明に係るMo合金の成分組成はMoを主体(母相)とし、合金成分を含むものであるが、更に残部として不可避的不純物を含んでもよい意味である。もっとも、本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分を添加することも許容する趣旨である。
本発明の密着性向上薄膜を構成するMo合金に添加する合金成分としては、上記効果を奏するものであれば特に限定されない。合金成分としては例えば、Ag、W、Ta、Ti、Zr、Ndなどが例示され、これらの中でも特にAgが好ましい。
また密着性向上薄膜に用いるMo合金に添加する合金成分添加量は、特に限定されず、上記したように本発明の密着性向上薄膜とCIGS系光吸収層との界面の空孔の形成が抑制されるように、合金成分の種類に応じて、添加量を適宜調整すればよい。
本発明のMo合金を用いた密着性向上薄膜は、CIGS四元系スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法で形成したCIGS系光吸収層との密着性が良好であり、熱履歴が加えられてもCIGS系光吸収層の耐剥離性が向上する。
また本発明のMo合金を用いた密着性向上薄膜を備えた太陽電池は、CIGS系光吸収層の密着性、及びセル特性(光電変換効率)が良好である。
以下、本発明の実施形態について、図2に示すCIGS系太陽電池に基づいて説明するが、本発明は図2に示す構成に限定する趣旨ではなく、必要に応じて適宜変更を加えた構成にも適用される。
図2は、本発明にかかるCIGS系太陽電池の一例の概略断面図である。本発明に係るCIGS系太陽電池の基本構造は、基板1の上に、Mo裏面電極層2、密着性向上薄膜(Mo合金、好ましくはMo−Ag合金)3、CIGS系光吸収層4、透明導電層7が順に積層されているものである。
基板1としては特に限定されないが、ソーダライムガラスが好適である。ソーダライムガラスとは、シリカ(SiO)を主成分とし、ライム(CaCO)、ソーダ(NaCO)などを原料とするNaCO−CaCO−SiO系ガラスである。その具体的な成分組成等については特に限定されず、各種市販品を用いることができる。ソーダライムガラス基板は安価であるため、製造コストを削減できる。
Mo裏面電極層2は、基板1の上側に形成され、電極(正極)として作用する金属薄膜である。裏面電極層を構成する金属薄膜としては導電性を有し、熱履歴で溶融することがないMoを用いる。
Mo裏面電極層2の膜厚についても特に限定されず、要求特性に応じた膜厚とすることができる。例えばMo裏面電極層2の膜厚は厚くし過ぎると膜応力が高くなることがあるため2000nm以下、より好ましくは1000nm以下とするのがよい。またMo裏面電極層2の膜厚が薄すぎると電極の抵抗を上昇させて発電効率が低下することがあるため、好ましくは250nm以上、より好ましくは500nm以上とするのがよい。
Mo裏面電極層2は蒸着法、スパッタリング法、塗布法など公知の方法で形成できる。これらの中でも、均一な膜を容易に形成できるスパッタリング法が望ましい。
次いでMo裏面電極2の上に本発明のMo合金(好ましくはMo−Ag合金)を用いた密着性向上薄膜3を形成する。密着性向上薄膜3は、一方の面がMo裏面電極層2、他方の面がCIGS系光吸収層4に接触するように配置される。
本発明の密着性向上薄膜3を形成する方法としては特に限定されず、各種公知の成膜方法を採用することができるが、本発明では特にスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法によって密着性向上薄膜3を形成することが望ましい。スパッタリング法を用いると均一に成膜できるため望ましい。スパッタリング法に用いるスパッタリングターゲットは、膜組成に対応したターゲットを用いればよい。好ましくはMoを主体とし、合金成分として上記したように密着性向上薄膜3とCIGS系光吸収層との界面の空孔ができるだけ抑制できるように添加量を調整した合金成分を含有するするターゲット(残部:不可避不純物)を用いればよい。
Mo合金を用いた密着性向上薄膜3を形成する際の成膜条件について、雰囲気ガスとしては、例えばArガスなどの不活性ガスが好ましいが、これに限定されず、所望の膜組成となるように選定すればよい。またガス圧は、特に限定されず、例えば1mTorr〜20mTorr程度である。ガス圧を高くすると密着性向上効果を奏するが、セル特性(光電変換効率)が低くなる傾向があるため、要求されるセル特性に応じて適宜ガス圧を調整すればよい。ガス流量は特に限定されず、おおむね、1〜10sccm(mL/分:標準状態)程度である。成膜時のパワー密度は、高くし過ぎると成膜した密着性向上薄膜3の特性が変化することがあるため5W/cm(4インチφターゲットの面積で規格化)以下とすることが望ましい(好ましい下限は1W/cm)。到達真空度は、膜中に含まれる不純物量を低減する観点から5×10−5Pa〜5×10−3Pa程度とすることが望ましい。
Mo合金を用いた密着性向上薄膜3による密着性向上効果は、膜厚が厚くなるほど高くなるため、所望の効果に応じて膜厚を変えればよい。例えば密着性向上薄膜3の膜厚は好ましくは5nm以上、より好ましくは7nm以上である。一方、上記密着性向上効果の観点からは密着性向上薄膜3の膜厚の上限は特に限定されない。しかし、膜厚が厚くなりすぎると、抵抗率が上昇して光電変換効率が低下ため、適宜膜厚を制御することが望ましい。例えば膜厚は100nm以下が好ましく、より好ましくは70nm以下であるが、所望の効果に応じて膜厚を設定すればよく、これに限定されない。
CIGS系光吸収層4は、密着性向上薄膜3の上側に形成され、光電変換作用を有する化合物薄膜である(p型光吸収層)。CIGS系光吸収層4の構成元素としては例えば銅、インジウム、ガリウム、セレンを含み、残部:不可避不純物である。CIGS系光吸光層4の成分組成は特に限定されず、公知の成分組成を採用することができる。例えば、Cu:In:Ga:Se=23:18:7:52である。
なお、本発明に用いられるCIGS系光吸収層4は上記以外の他の成分も含ませることができ、上記本発明の密着性向上薄膜3の作用効果を阻害しない範囲で必要に応じて適宜成分組成を変更させることも可能である。
またCIGS系光吸収層4は単層構造の他、異なる成分組成の2層以上の積層構造とすることもできる。CIGS系光吸収層4の膜厚(全厚)についても特に限定されず、例えば0.5μm〜2μm程度とすることができる。
スパッタリング法を用いたCIGS系光吸収層4の成膜条件は公知であり、本発明では通常用いられている成膜方法を適宜採用できる。CIGS四元系スパッタリングターゲットは特に限定されず、一つのスパッタリングターゲットに四元素(Cu、In、Ga、Se)を含むものに限らず、任意の2元素、または3元素のスパッタリングターゲットに他の元素チップをチップオンしたものであってもよい。本発明では、例えば以下のスパッタリング条件(成膜条件)が好ましく用いられる。
真空到達度:7×10-6torr以下
ガス圧:2〜20mtorr
パワー密度:1〜6W/cm2
(4インチφのスパッタリングターゲットでパワー:75〜500W)
基板温度:23℃〜600℃
またCIGS系光吸収層4を成膜した後、必要に応じて真空加熱処理(真空雰囲気アニール)を行って、膜質の改善を図ってもよい。加熱処理を行うことによって、CIGS系光吸収層4中の結晶粒の成長が促進されてCIGS層中の欠陥密度が減少し、太陽電池の光電変換効率が一層向上する。
加熱処理時の雰囲気はCIGS系光吸収層の酸化を防止することが望ましく、好ましい雰囲気は真空雰囲気、Ar等の不活性ガス雰囲気である。また真空度は1×10−4Torr以下、より好ましくは7×10−5Torr以下である。
また加熱処理温度は少なくとも結晶粒を成長させることができる500℃以上とすることが好ましく、より好ましくは525℃以上である。一方、加熱温度が高くなりすぎると、基板が変形したり、結晶粒度が小さくなって粒界が多くなるため光生成キャリアの消失が生じたりすることがあるため、好ましくは600℃以下、より好ましくは580℃以下である。
上記加熱温度域での保持時間は、短すぎると結晶粒成長効果が十分に得られないため、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1.0時間以上とする。一方、保持時間が長くなりすぎるとCIGS系吸収層4の結晶粒度が小さくなることがあるため、好ましくは4時間以下、より好ましくは2時間以下である。
次にCIGS系光吸収層4の上に必要に応じてバッファ層5(n型半導体層)を形成する。バッファ層5としてはCdS、ZnS、Zn、Seなどを用いることができる。バッファ層5はケミカルバスデポジション法(CBD法)や浸漬塗布法など公知の方法によって形成することができる。一般的にバッファ層は10〜200nm程度であるが、設計に応じて適宜調整すればよい。
続いてバッファ層5の上側に励起されたキャリアを収集する透明導電層(n型透明導電層)7を形成する。透明導電層7は光透過性を有し、かつ導電性を有する材料で構成されており、例えばITO、やZTO(スズ添加酸化亜鉛)、ZnOAl、ZnOGa、CuAlOなどが例示される。透明導電層7は公知の方法で形成すればよく、例えばスパッタリング法、スプレー法、コーティング法などが挙げられる。
透明導電層7の膜厚は特に限定されないが、膜厚を厚くし過ぎるとCIGS光吸収層4に到達する光量が減ってしまい、光電変換効率が低下することがあるため、好ましくは5000nm以下、より好ましくは2000μm以下とする。透明導電層5の膜厚の下限も特に限定されず、例えば50nm以上が好ましく、より好ましくは70nm以上である。
バッファ層5と透明導電層7の間に必要に応じて入射光を透過させる窓層(例えば、CdS、ZnO、ZnMgOなど)6をスパッタリング法など公知の方法で設けてもよい。
取り出し電極8は透明導電層7に接続され、透明導電層7で収集されたキャリアを導線11から移送する機能を有している。取り出し電極8としては例えばAl、Ag、Au、Cuなど所望の材料を用いることができる。同様に取り出し電極9も密着性向上薄膜3に接続され、導線10を介してキャリアを移送する機能を有する。
上記CIGS系太陽電池12の透明導電層7側から光(太陽光)が照射されると、起電力が生じるため、電極から導線を通じて電流を取り出すこと(出力)ができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
(実施例1)
実施例1では、合金成分の異なるMo−X合金を用いて密着性向上薄膜や合金成分を含まない純Moを用いた中間層を形成して、密着性について調べた。
(試料の作製)
ソーダライムガラス基板(セントラル硝子社製、20mm角、厚さ0.7mm)上に、純Moスパッタリングターゲット(φ6インチ)を用いてスパッタリング(ULVAC社製バッチ式スパッタ装置SH−350−C10)を行い、膜厚750nmのMo膜(Mo裏面電極層に相当)を成膜した。スパッタリング条件は以下の通りである。
スパッタリング条件
DCマグネトロンスパッタリング方式
ガス:Arガス
ガス圧:12mTorr
パワー密度:3.3W/cm2(4インチφターゲットの面積で規格化)
真空到達度:7×10-6Torr以下
基板温度:23℃
電極間距離:100mm
続いてMo膜上に、純Moスパッタリングターゲット、或いはMo−20原子%X(X=Ag、W、Ta、Ti、Zr、Ndの何れか1種)スパッタリングターゲットを用いて、上記バッチ式スパッタ装置にてスパッタリングを行い、膜厚50nmの密着性向上薄膜(または純Mo中間層)を成膜した。スパッタリング条件は以下の通りである。
スパッタリング条件
DCマグネトロンスパッタリング方式
ガス:Arガス
真空到達度:7×10-6Torr以下
電極間距離:100mm
基板温度:23℃
パワー:3.3W/cm2(4インチφのスパッタリングターゲット)
ガス圧:12mTorr
続いて密着性向上薄膜上に、CIGS四元系スパッタリングターゲット(成分組成:Cu:In:Ga:Se=21:20:8:51、直径φ4インチ)を用いて上記バッチ式スパッタ装置にてスパッタリングを行い、膜厚2.0μmのCIGS系光吸収層を成膜した。スパッタリング条件は以下の通りである。
スパッタリング条件
RFマグネトロンスパッタリング方式
ガス:Arガス
真空到達度:7×10-6Torr以下
電極間距離:100mm
基板温度:300℃
パワー:2.5W/cm2(4インチφのスパッタリングターゲット)
ガス圧:12mTorr
CIGS系光吸収層を形成した後、赤外線ランプ加熱装置(アルバック理工社製:QHC−P610CP)を用いて真空雰囲気(6×10-5Torr以下)で550℃、2時間にて加熱処理(真空雰囲気アニール)を行った。なお、昇温速度はいずれも50℃/分とした。また加熱処理後は10℃/分で50℃以下になるまで冷却してから取り出した。
得られた各試料の任意の断面(膜厚方向断面)をSEM観察(倍率:3万倍)した結果を図3に示す。図3(a)は密着性向上薄膜として純Mo、(b)はMo−Ag合金、(c)はMo−W合金、(d)はMo−Ta合金、(e)はMo−Ti合金、(f)はMo−Zr合金、(g)はMo−Nd合金である。
密着性向上薄膜としてMo−Ag合金を用いた場合、他の合金成分を添加したMo−X合金(X=W、Ta、Ti、Zr、Nd)や純Moを用いた場合と比べて、密着性向上薄膜とCIGS系光吸収層との界面の空孔が殆どなく、CIGS系光吸収層の密着性が最も良好であった。
また密着性向上薄膜としてAg以外の合金成分を添加したMo−X(X=W、Ta、Ti、Zr、Nd)合金を用いた場合、純Moを用いた場合と比べて界面の空孔が抑制されており、CIGS系光吸収層の密着性も良好であった。
中間層として純Moを用いた場合は、界面の空孔が多く、CIGS系光吸収層の密着性に劣った。
(実施例2)
実施例2では、各種合金成分を含むMo−X合金を用いた密着性向上薄膜、或いは純Moを用いた中間層を形成した太陽電池を作製して、合金成分がセル特性(光電変換効率)に及ぼす影響について調べた。
実施例1と同様にして基板1上にMo裏面電極層2、各密着性向上薄膜3(純Moの中間層)、CIGS系光吸収層4を形成した。続いて、KCN溶液に5分間浸漬処理してからCBD法により膜厚80nmのCdS層(バッファ層5)を形成した。続いてCdS層上に、スパッタ法により層厚100nmのZnO層(窓層6)を形成した。更にZnO層上に、スパッタ法により層厚100nmのITO(Sn添加In)層(透明導電層7)を形成し、更に取り出し電極8、9(材質:Ag)を形成して図2に示すような構成の試験片(太陽電池12)を作製した。尚、ZnO層、およびITO層の成膜条件は以下の通りである。
ZnO層:スパッタリング条件
RFマグネトロンスパッタリング方式
ガス:Arガス
ガス圧:1mTorr
成膜パワー:3.2W/cm2
真空到達度:5×10-6Torr以下
基板温度:室温
電極間距離:120mm
ITO層:スパッタリング条件
RFマグネトロンスパッタリング方式
ガス:Arガス
ガス圧:0.8mTorr
成膜パワー:1.9W/cm2
真空到達度:2.2×10-6Torr以下
基板温度:室温
電極間距離:50mm
セル特性(光電変換効率)はI−V特性を測定して評価した。結果を表1に示す。
得られた太陽電池のうち、密着性向上薄膜としてMo−Ag合金を用いた場合、他の合金成分を添加したMo−X合金(X=W、Ta、Ti、Zr、Nd)や純Moを用いた場合と比べて、光電変換効率が1.2%程度で最も高く、太陽電池として良好なセル特性を示した。
また密着性向上薄膜としてAg以外の合金成分を添加したMo−X(X=Ta、Ti、Zr、Nd)合金を用いた場合、Mo−Ag合金の例には劣るものの、純Moを用いて中間層を形成した場合よりも光電変換効率が高かった。
なお、合金成分としてWを用いたMo−W合金の密着性向上薄膜を用いた例では、KCNエッチングおよびCdS成膜時にCIGS系光吸収層が剥離してしまい、20原子%の添加量では、太陽電池として要求される密着性向上効果が得られなかった。
(実施例3)
実施例3では、Mo−Ag合金を用いて密着性向上薄膜を形成した太陽電池を作製して、密着性向上薄膜の有無、及び密着性向上薄膜の成膜条件(特にガス圧)がセル特性(光電変換効率)に及ぼす影響について調べた。
No.1とNo.2は、Mo裏面電極層および本発明の密着性向上薄膜(Mo−Ag合金)の成膜時のガス圧を夫々12mTorr(No.1:高ガス圧条件)、2mTorr(No.2:低ガス圧条件)とし、CIGS系光吸収層4の膜厚は1.5μm、CIGS系光吸収層を形成した後の熱処理は真空雰囲気で550℃、1時間とした以外は、上記実施例2と同様にして図2に示すような構成の試験片(太陽電池)を作製した。
またNo.3とNo.4は、密着性向上薄膜を形成しなかった以外は、それぞれ上記No.1、No.2と同様にして図1に示すような構成の試験片(太陽電池)を作製した。
上記実施例2と同様にしてセル特性を測定した。結果を表2に示す。
光電変換効率を測定した結果、本発明の密着性向上薄膜(Mo−Ag合金)を用いたNo.1、2の太陽電池は、密着性向上薄膜を設けなかったNo.3、4の太陽電池と比べて光電変換効率が高かった。またNo.1とNo.2より、密着性向上薄膜の成膜時のガス圧を低くすると、光電変換効率が高くなった。
1 基板
2 Mo裏面電極層
3 密着性向上薄膜
4 CIGS系光吸収層
5 バッファ層
6 窓層
7 透明導電層
8、9 取り出し電極
10、11 導線
12 太陽電池

Claims (3)

  1. CIGS系太陽電池のMo裏面電極層とCIGS系光吸収層の間に用いられる密着性向上薄膜であって、
    前記密着性向上薄膜はMo合金であることを特徴とするMo裏面電極層とCIGS系光吸収層との密着性に優れたCIGS系太陽電池用密着性向上薄膜。
  2. 前記Mo合金が、合金成分としてAgを含むものである請求項1に記載のCIGS系太陽電池用密着性向上薄膜。
  3. 基板、Mo裏面電極層、密着性向上薄膜、CIGS系光吸収層、透明導電層の順に積層されたCIGS系太陽電池において、
    請求項1または2に記載の密着性向上薄膜を備えたCIGS系太陽電池。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN113073245A (zh) * 2021-03-24 2021-07-06 湖南大学 一种银钼合金薄膜及其制备方法与应用

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