JP2014082219A - リチウム二次電池用正極活物質とその製造方法、および該正極活物質を用いたリチウム二次電池 - Google Patents

リチウム二次電池用正極活物質とその製造方法、および該正極活物質を用いたリチウム二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】 微細で高容量が得られる高性能なリチウム二次電池用正極活物質を用いて、高い安全性と高容量を兼ね備え、かつサイクル寿命に優れたリチウム二次電池を提供することにある。さらに、このリチウム二次電池用正極活物質を得るために用いられる前駆体とその製造方法を提供するとともに、工業的な生産にも好適なその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 一般式LiSiO(1.90≦x≦2.15、0.90≦y≦1.10、MはMn、Fe、Ni、Coから選択される1種以上の元素)で表されるケイ酸金属リチウム塩からなるリチウム二次電池用正極活物質で、一次粒子および一次粒子が凝集した二次粒子からなるケイ酸金属リチウム塩粒子で構成され、一次粒子径は、SEM観察による測定において10〜300nm、正極活物質の比表面積が25〜35m/g、炭素含有量が3〜7質量%であり、前記ケイ酸金属リチウム塩粒子の電解液との接触面の少なくとも一部が、導電性を有する炭素質材料で被覆されていることを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、リチウム二次電池用正極活物質とその製造方法に関するもので、さらにこの正極活物質を用いたリチウム二次電池に関するものである。
現在、リチウム二次電池は軽量でエネルギー密度が高いことから、携帯電話、ノート型パソコン、その他IT機器などの小型電池に幅広く使用されてきており、IT機器の発展、普及に伴い、現在もその需要が世界的な規模で伸びている。
これらの小型電池には主として、LiCoO、LiCoNiMnO、LiNiAlOなどの層状岩塩化合物からなる正極活物質が用いられている。
さらに、これらの小型電池に加えて、産業用の大型電池として、ハイブリッド自動車(HEV)用、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)用、電力平準化用、電力貯蔵用など、さらに多方面にその需要の拡大が期待され、研究開発も盛んに行われている。
このような需要環境の中、産業用の大型電池が本格的に実用化されるための課題として、正極材料には、高い安全性、高寿命、高出力、低価格が要求されている。
このような状況下において高い安全性と優れたサイクル性能を示し、低価格で製造可能なLiFePOが、LiCoOやLiMn等の代替正極材料として注目されている。
このLiFePOは、リン酸の強固な骨格を有するため、安全で放電容量が高く、サイクル寿命の良い材料である。しかし、LiFePOの実容量は170mAh/gと理論値に達しており、更なる高容量化は困難である。
そこで、高安全性を維持しつつ更なる高容量化が期待される材料として、金属ケイ酸リチウム塩(LiMSiO:Mは遷移金属であり、Mn、Fe等)が提案されている(例えば、特許文献1)。このケイ酸金属リチウム塩を正極活物質として用いた場合、遷移金属(M)1モルに対し、2モルのLiを含有することから、容量の理論値は330mAh/gに達する。しかしながら、LiMSiOは、LiFePOと比べてもさらに電子伝導性が低く、得られている容量は理論値より大幅に低いため、粒子を微細化するとともに、さらに黒鉛などの導電性材料の被覆・複合化することにより、導電性を改善することが試みられている。そのケイ酸金属リチウム塩の製造方法としては、できる限り簡易な方法で、微細なLiMSiO粒子を得るとともに、導電性材料との複合化が可能であることが重要である。
これまで報告されているケイ酸金属リチウム塩の合成方法としては、固相法、水熱法、ゾル-ゲル法等が報告されている。固相法では、ケイ酸リチウムと2価の遷移金属原料として蓚酸塩を、溶媒中で混合し焼成することに高純度のケイ酸金属リチウム塩が得られることが開示されている(例えば、非特許文献1)。しかし、蓚酸塩は価格が高く、また強い毒性があるために人体や環境面でも好ましくなく、多量に合成する方法も確立されていない。
さらに、一般的に固相法では反応に必要な温度が高いために、1次粒子の粗大化や凝集成長しやすく、粒子径が大きくなる。このようにして得られたLiMSiOは、粒子が粗大で導電性が低いために、強力な微細化処理が必要となる。
また、蓚酸塩を用いることのないケイ酸金属リチウム塩として、水熱法により高純度のケイ酸金属リチウム塩が得られることが開示されている(例えば、非特許文献2)。ただし、水熱法では合成時に、生成物の2倍のリチウムが必要であり、工業的に多量に合成する場合には課題が多い。
さらに、短時間で効率的な上記ケイ酸金属リチウム塩の製造方法として、アルカリ金属、遷移金属およびケイ素の供給源となる化合物を混合、加熱して溶融した後、徐冷する工程を含む製造方法が提案されている(例えば、特許文献2)。この提案においては、原料を溶融状態にまで加熱するため、得られるケイ酸金属リチウム塩は粗大粒子となり、微粒化することが困難と思われる。
一方、導電性材料の被覆・複合化による電池特性の改善策も図られている。
ケイ酸金属リチウム塩と炭素材料を含む混合物を、不活性雰囲気中で熱処理することで、ケイ酸金属リチウム塩と炭素材料に由来する炭素成分とを含む非水電解質二次電池用正極活物質を製造することが提案されている(例えば、特許文献2)。この提案によれば、高安全性および大容量の非水電解質二次電池を提供できるとしているが、用いたケイ酸金属リチウム塩の粒子径は数十μmであり、微粒化の効果を十分に活用できているとは言い難い。
また、ケイ酸金属リチウム塩の表面に有機物の熱分解によって得られた伝導性炭素材料が均一に堆積して、この粒子表面において、規則的な電場分布が得られる電極材料が提案されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、この提案においても有機物を熱分解することによって粒子表面に炭素材料を堆積させる処理は、合成されたケイ酸金属リチウム塩に行われており、ケイ酸金属リチウム塩の微粒化を考慮したものではない。
以上のように、これまでの提案では、ケイ酸金属リチウム塩の微粒化と導電性材料の被覆・複合化を機能的に結合させて実施できたものはなく、微細で高性能なケイ酸金属リチウム塩を工業的に安価に製造するのは困難であった。
特開2001−266882号公報 特開2008−218303号公報 特開2008−186807号公報
A.Nyten,et al.,Electrochemistry Communications,vol.7,2005,p.156 R.Dominko,et al.,ELectrochemistry Communications,vol.8,2006,p.217
本発明の目的は、微細で高容量が得られる高性能なリチウム二次電池用正極活物質を用いて、高い安全性と高容量を兼ね備え、かつサイクル寿命に優れたリチウム二次電池を提供することにある。さらに、このリチウム二次電池用正極活物質を得るために用いられる前駆体とその製造方法を提供するとともに、工業的な生産にも好適なその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題の解決に鑑み、リチウム二次電池用正極活物質としてのケイ酸金属リチウム塩について鋭意研究した結果、遷移金属イオンを含む溶液と、ケイ酸イオンを含む溶液を特定のpHに保持しながら混合して共沈殿物を晶析させることでリチウム二次電池用正極活物質に好適な前駆体が得られることを見出した。
さらに、本発明者らは、該前駆体をリチウム化合物および炭素源と混合して焼成することでリチウム二次電池用として好適な正極活物質が得られること、その炭素源として炭水化物を用いるとともに、炭水化物と混合して焼成する前に特定温度で加熱した後に焼成を施すことによって、ケイ酸金属リチウム塩粒子が微細化されるとともに導電性が改善され、高容量化が可能なリチウム二次電池用正極活物質が得られることを見出し、本発明の完成に至ったものである。
すなわち、本発明の第1の発明であるリチウム二次電池用正極活物質は、一般式LiSiO(1.90≦x≦2.15、0.90≦y≦1.10、MはMn、Fe、Ni、Coから選択される1種以上の元素)で表されるケイ酸金属リチウム塩からなるリチウム二次電池用正極活物質であって、その一次粒子および一次粒子が凝集した二次粒子からなるケイ酸金属リチウム塩粒子で構成され、さらに一次粒子径がSEM観察による測定において10〜300nm、正極活物質の比表面積が25〜35m/g、炭素含有量が3〜7質量%であり、ケイ酸金属リチウム塩粒子の電解液との接触面の少なくとも一部が、導電性を有する炭素質材料で被覆されていることを特徴とするものである。
また、その炭素質材料は炭水化物の加熱分解により生成されたものであることが好ましい。
本発明の第2の発明であるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、一般式MSiO(0.90≦y≦1.10、MはMn、Fe、Ni、Coから選択される1種以上の元素)で表されるケイ酸金属塩であって、前記一般式中M元素の2価イオンを含む溶液とケイ酸イオン(SiO 2−)を含む溶液を混合して得たM元素とケイ酸の非晶質共沈殿物であるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体と、リチウム化合物、および炭素源とを混合した後、非酸化性雰囲気中で450℃〜750℃で焼成することを特徴とするものである。
また、その炭素源として融点が250℃以下の炭水化物を用いるとともに、混合後、焼成前に非酸化性雰囲気中において、炭水化物の融点以上、かつ300℃以下の温度に加熱処理することが好ましい。
また、その炭水化物は、単糖類および二糖類の少なくとも一種であることが好ましく、より好ましくは、スクロース、グルコースである。
さらに、上記焼成前に、前記前駆体の粉砕を行うことが好ましい。
本発明の第3の発明は、第1の発明におけるリチウム二次電池用正極活物質を用いた正極を備えるリチウム二次電池である。
本発明によれば、リチウム二次電池用正極活物質の原料として好適な前駆体を工業的に容易に得ることができ、その前駆体を用いることによって微細で高容量が得られる高性能なリチウム二次電池用正極活物質を形成することができる。
さらに、そのリチウム二次電池用正極活物質を用いた正極を備えたリチウム二次電池は、高い安全性と高容量を兼ね備え、かつサイクル寿命にも優れており、工業的価値が極めて高いものである。
実施例1で得られた正極活物質のX線回折分析の結果である。 実施例2で得られた正極活物質のX線回折分析の結果である。 実施例2で得られた前駆体のX線回折分析の結果である。
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質とその原料として用いられる前駆体、ならびに該正極活物質を用いた正極を備えたリチウム二次電池で構成される。さらに、その正極活物質とその前駆体の製造方法を含むものである。
まず、リチウム二次電池用正極活物質とその前駆体について説明した後、これらの製造方法について説明する。
[リチウム二次電池用正極活物質]
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、一般式LiSiO(1.90≦x≦2.15、0.90≦y≦1.10、MはMn、Fe、Ni、Coから選択される1種以上の元素)で表されるケイ酸金属リチウム塩からなる正極活物質で、一次粒子および一次粒子が凝集した二次粒子からなるケイ酸金属リチウム塩粒子で構成されている。
その一次粒子径は10〜300nm、二次粒子径は0.5〜10μmで、正極活物質の比表面積は25〜35m/g、炭素含有量は3〜7質量%であることを特徴とする。
用いるケイ酸金属リチウム塩は、放電容量の理論値は大きいが、電子伝導性が低いために現状のケイ酸金属リチウム塩を正極活物質に用いた電池の放電容量は、理論値より大幅に低いものとなっている。このため、本発明では、ケイ酸金属リチウム塩の一次粒子を微細化するとともに、リチウム二次電池用正極活物質に炭素を含有させることで、電子伝導性を改善することによって、高い放電容量を実現したものである。
さらに、ケイ酸金属リチウム塩はリチウム原子の挿抜によって充放電が行われるが、反応そのものは粒子表面と電解液との接触面で行われるため、リチウム原子の粒子表面への移動を容易にするとともに、電解液との接触面を増加させることが必要である。
本発明の正極活物質は、ケイ酸金属塩とリチウムが反応してケイ酸金属リチウム塩の一次粒子を生成し、さらに一次粒子が凝集して二次粒子を形成することで生成されている。したがって、その正極活物質の粒子の形態は、一次粒子および一次粒子が凝集した二次粒子となる。このような粒子の形態では、電解液との接触は主に一次粒子表面で行われるため、一次粒子径が大きいと、粒子内部から表面までのリチウム原子の移動する抵抗が増加する。したがって、一次粒子径を小さくすることが必要となる。
本発明では、一次粒子径を10〜300nmとして、粒子内部から表面へのリチウム原子の移動を容易とすることにより、充放電反応の抵抗を大幅に低減させている。しかしながら、一次粒子径は細かいことが充放電反応には有利であるが、10nm未満になると得られる正極活物質のかさ密度が低くなるため、体積あたりの正極活物質量が少なく、同容積の電池と比較すると容量が低下する問題点がある。一方、一次粒子径が300nmを超えると、充放電反応が阻害されるため、十分な電池の容量が得られなくなる。
さらに、二次粒子の粒径は、0.5〜10μmである。その粒径が0.5μm未満になると、一次粒子径と同様に得られる正極活物質のかさ密度が低くなり、同容積の電池と比較すると容量が低下する。粒径が10μmを超えると、二次粒子内部まで電解液が浸透せず、充放電反応が阻害され、十分な電池の容量が得られなくなる。
一方、充放電反応は、粒子表面と電解液との接触面で行われるため、一次粒子径を細かくするだけでは不十分である。一次粒子径を細かくすると凝集しやすくなるため、実際の電解液との接触面が減少することがある。このため、本発明では、電解液との接触面の指標として正極活物質の比表面積を用い、その比表面積を大きくすることで電解液との接触面を確保した。すなわち、比表面積を25〜35m/gとすることで、充放電反応が容易に行われ十分な電池容量が得られる。比表面積が25m/g未満では、充放電反応の抵抗が大きくなり電池の容量が低下する。一方比表面積が35m/gを超えると、上記かさ密度が低下して電池の容量も低下する。
本発明の正極活物質においては、炭素を3〜7質量%含有する。
この炭素の含有は、一次粒子径を細かくするとともに比表面積を大きくしても、ケイ酸金属リチウム塩粒子の導電性が低いと充放電反応に伴う電子の移動が阻害され、十分な電池の容量が得られない。そこで、炭素はケイ酸金属リチウム塩には固溶しないため、含有された炭素は、炭素単体もしくは炭素含有物(以下、総称して炭素質材料と記載する。)としてケイ酸金属リチウム塩の一次粒子外部に存在することとなる。炭素は一般的に導電性を有するため、この炭素質材料が存在することにより電子の移動が改善されて電池の容量が増加する。
炭素含有量が3質量%未満では、電子移動の改善に寄与する炭素が少なく、十分な電池容量が得られない。一方、炭素含有量が7質量%を超えると、同質量中に占めるケイ酸金属リチウム塩の量が少なくなり、電池容量が低下するためである。
特に、導電性を有する炭素質材料がケイ酸金属リチウム塩の一次粒子表面に存在すると、その一次粒子表面で起こる電池反応に伴う電子の移動の改善に対する効果が大きい。したがって、ケイ酸金属リチウム塩粒子の表面の少なくとも一部が炭素質材料で被覆されていることが好ましい。
このような炭素質材料は、特に限定されるものではないが、本発明の好ましい態様として後述する製造方法において、ケイ酸金属リチウム塩は炭水化物と混合されて熱処理されるため、炭素質材料は炭水化物の加熱分解により生成されたものであることが、製造を簡略化できるため好ましい。
次に正極活物質は、一般式LiSiO(1.90≦x≦2.15、0.90≦y≦1.10、MはMn、Fe、Ni、Coから選択される1種以上の元素)で表されるケイ酸金属リチウム塩からなる。
そのxが1.90未満であると、得られるケイ酸金属リチウム塩の結晶性が低下して、電池の正極として用いた場合に得られる電池の容量が低下してしまう。一方、xが2.15を越えると、製造時の焼成中に過剰なリチウムがケイ酸金属リチウム塩粒子の焼結を促進するため、得られる正極活物質の比表面積が低下して得られる電池の容量が低下する。
M元素は、遷移金属であればよいが、工業的に生産されている遷移金属としてMn、Fe、Ni、Coが挙げられ、これらから選択される1種以上の元素であればよい。特に、MnおよびFeは、資源的に豊富で安価であり、コスト面から好ましい。
[リチウム二次電池用正極活物質の前駆体]
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体は、一般式MSiO(0.90≦y≦1.10、MはMn、Fe、Ni、Coから選択される1種以上の元素)で表されるケイ酸金属塩であって、一般式中M元素の2価イオンを含む溶液とケイ酸イオン(SiO 2−)を含む溶液を混合して得たM元素とケイ酸の非晶質共沈殿物であることを特徴とするものである。
この共沈殿物は、Mと珪素が均一に分布したケイ酸金属塩の非晶質となっているため、リチウムとの反応が容易であり、反応温度を低温化することができる。非晶質であることは、X線回折分析において回折ピークが現れないことで確認できる。このため、本発明の正極活物質を製造するための焼成温度を低温化することが可能であり、一次粒子径が微細で比表面積の大きな正極活物質が得られる。
一方、リチウム二次電池用正極活物質にナトリウムが含有された場合、電池特性が劣化する。このため、このナトリウム量を低減することが必要であり、リチウム二次電池用正極活物質の前駆体に含有されるナトリウム量を低減することで達成できる。したがって、ケイ酸金属塩中のナトリウム含有量を1.0質量%以下とすることが好ましい。
この前駆体を用いることで、一次粒子径が微細で比表面積の大きな正極活物質が容易に得られることから、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体として好適である。
[リチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法]
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法は、一般式MSiO(0.90≦y≦1.10、M元素はMn、Fe、Ni、Coから選択される1種以上の元素)で表されるケイ酸金属塩を得る製造方法であって、一般式中のM元素の2価イオンを含む溶液とケイ酸イオン(SiO 2−)を含む溶液を、pH8〜11の範囲に調整、保持しながら混合して共沈殿物を晶析させ、固液分離後、水洗、乾燥することにより生成することを特徴とするものである。
なお、晶析反応を生じさせるためには、M元素の2価イオンを含む溶液(以下、M塩溶液と記載することがある。)と、ケイ酸イオンを含む溶液(以下、ケイ酸塩溶液と記載することがある。)と、ケイ酸イオンを含む溶液(以下、ケイ酸塩溶液と記載することがある。)を、混合してpHを調整してもよく、M塩溶液とケイ酸塩溶液を滴下して混合し、得られた混合液のpHを調整してもよい。しかしながら、このM塩溶液は酸性を示し、ケイ酸塩溶液はアルカリ性を示すため、直接混合した場合は、pHの制御が不十分な状態で反応が起こり、共沈殿しない場合があり、pHの制御に高い精度が要求される。このため、pHの制御を容易にするためには、まず、アルカリでpHを8〜11に調整した水などの溶媒である反応溶液を作製し、その反応溶液のpHを上記範囲に維持しながら、M元素の2価イオンを含む溶液(以下、M塩溶液と記載することがある。)と、ケイ酸イオンを含む溶液(以下、ケイ酸塩溶液と記載することがある。)を滴下することによってM元素とケイ酸の非晶質共沈殿物、すなわち非晶質ケイ酸金属塩を得ることが好ましい。反応溶液のpHを調整することで共沈殿物を容易に晶析させることができる。
ここで、反応溶液のpHが8未満であると、M元素が十分に沈殿せず、得られるケイ酸金属塩に組成ずれが生じる。また、pHが11を超えると、アルカリ成分が沈殿したケイ酸金属塩中に混入し、得られる前駆体に含有される不純物が増加してしまう。特に、後述するように、アルカリとして水酸化ナトリウムを用いた場合には、不純物としてのナトリウム量が増加して、最終的に得られたリチウム二次電池用正極活物質を用いたリチウム二次電池の特性が劣化してしまう。
この反応溶液中に含有されるM元素の2価のイオンとケイ酸イオンのモル比(M/ケイ酸比)は、ケイ酸金属リチウム塩の化学量論である1を中心に0.9〜1.1の範囲とすることができるが、0.95〜1.05とすることが好ましい。反応溶液のpHを上記範囲に調整した場合、反応溶液中に含有されるM元素イオンとケイ酸イオンは、共沈殿物として全量が晶析するため、そのM/ケイ酸比は、共沈殿物のM/ケイ酸比と一致する。また、M/ケイ酸比は、後工程であるリチウム二次電池用正極活物質の製造においても変化することがない。したがって、反応溶液中のM/ケイ酸比を0.9〜1.1の範囲とすることで、所望のM/ケイ酸比を有したケイ酸金属リチウム塩、すなわち、リチウム二次電池用正極活物質を得ることができる。
次に、M塩には、水溶性の2価のM塩を広く用いることができるが、無機塩が好ましく、共沈殿物に含有される不純物がない硫酸第1塩などを用いることが特に好ましい。また、M塩溶液中のM塩の濃度は、0.5〜2mol/Lとすることが好ましい。M塩濃度が、0.5mol/L未満では、反応中の液量が多くなりすぎ生産性が低下するため、好ましくない。M塩濃度が、2mol/Lを超えると、M塩溶液中でM塩が再析出することがあり、M/ケイ酸比の変動や設備故障の原因となることがあるため、好ましくない。
ケイ酸塩には、水溶性のものを用いることができるが、ケイ酸ナトリウムを用いることが好ましい。水溶性のケイ酸塩は少なくその多くが高価であるが、ケイ酸ナトリウムは、入手が容易で安価である。本発明者らは、上記pH範囲で晶析することにより、得られる共沈殿物、すなわち、ケイ酸金属塩中のナトリウムを正極活物質として用いた場合の電池特性に悪影響を及ぼさない範囲にまで低減できるとともに、微細な粒径でM元素と珪素が均一に分布した非晶質のケイ酸金属塩できることを見出した。
そのケイ酸ナトリウムは、液体であるため、単体でも用いることができる。したがって、ケイ酸塩溶液にケイ酸ナトリウムを用いる場合には、ケイ酸ナトリウム単体を含むものである。しかしながら、反応溶液への供給を容易にするため、ケイ酸ナトリウムは水溶液として用いることが好ましい。ケイ酸ナトリウムを水溶液として用いる場合、ケイ酸塩溶液中のケイ酸ナトリウムの濃度は、生産性と反応液への供給時の容易性を考慮すると、0.5〜2mol/Lとすることが好ましい。
ケイ酸ナトリウムの濃度が、0.5mol/L未満では、反応中の液量が多くなりすぎ生産性が低下するため、好ましくない。ケイ酸ナトリウムの濃度が、2mol/Lを超えると、該溶液の粘度が高くなるため、供給時の容易性が低下することがある。なお、ケイ酸ナトリウム以外のケイ酸塩を用いる場合においても、ケイ酸ナトリウムと同様の濃度範囲で用いることが好ましい。
なお、M塩溶液およびケイ酸塩溶液は、いずれも水溶液であるが、M塩およびケイ酸塩は蒸留水、イオン交換水などの純水に溶解することが好ましい。
反応溶液のpH調整には、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、アンモニアのうちから選ばれた一種以上を用いることができる。
水酸化ナトリウムは、安価なアルカリ源であり、pH9以下に保持した場合は残留ナトリウムも少ない。水酸化リチウムを用いた場合においても、基本的にはリチウムは沈澱しないが、少量のリチウムが前駆体に残留しても後工程でリチウム化合物と混合するため問題とならない。アンモニアは、排水中に多量の窒素が含有されるため、排水処理等の必要が生じる。さらに、水酸化リチウム、アンモニアは高価であるため、コスト的に不利となる。以上の理由より、前記pH調整には、水酸化ナトリウムを用いることが特に好ましい。
晶析反応時の雰囲気は、M元素の酸化を防止するため、非酸化性雰囲気、特に不活性雰囲気とすることが好ましい。ここで、不活性雰囲気は、M元素の酸化が防止できる程度に酸素を低減できていればよい。酸化性雰囲気で晶析反応を行うと、M元素が2価より酸化して、所望の組成比のケイ酸金属塩が得られないことがある。
使用する反応装置は、特に限定されるものではないが、反応を均一にするため攪拌羽根などを備える反応槽を用いることが好ましい。また、反応槽に上蓋を取り付けなどすることにより気密性を保持できるとともに不活性ガスを導入できる構造を有することが好ましい。不活性ガスを導入することで、M元素の酸化を十分に防止することができる。
生成した共沈殿物は、不純物低減の観点から洗浄を行う。特に、水酸化ナトリウムを用いてpHを調整した場合には、水洗によりナトリウムを十分に低減することが好ましい。
次に、洗浄後の沈殿物を乾燥することで、本発明の前駆体が得られる。
その乾燥時の雰囲気は、特に限定されるものではなく、酸化を防止するため、不活性雰囲気、還元雰囲気、真空、減圧のいずれかの雰囲気とすることが好ましい。また、乾燥温度も、特に限定されるものではないが、50〜200℃とすることが好ましい。乾燥装置は、雰囲気制御が可能な通常の乾燥装置を用いることが好ましい。
[リチウム二次電池用正極活物質の製造方法]
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、一般式LiSiO(1.90≦x≦2.15、0.90≦y≦1.10、MはMn、Fe、Ni、Coから選択される1種以上の元素)で表されるケイ酸金属リチウム塩からなるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、上記前駆体をリチウム化合物および炭素源と混合した後、非酸化性雰囲気中、450℃〜750℃で焼成することを特徴とする。
本発明の製造方法においては、焼成前に前駆体とリチウム化合物および炭素源を混合する。炭素源は、焼成中に導電性を有する炭素材料となり、リチウム二次電池用正極活物質を構成するケイ酸金属リチウム塩粒子を被覆する。これにより、ケイ酸金属リチウム塩粒子表面で起こる電池反応に伴う電子の移動を改善するものである。さらに、炭素源あるいは焼成中に生成した炭素材料は、ケイ酸金属リチウム塩粒子の粒成長を抑制する効果も有している。この効果と用いられる前駆体が微細であることにより、得られるケイ酸金属リチウム塩粒子を微細なものとすることができる。
用いる炭素源としては、焼成中に導電性を有する炭素材料となる炭水化物、あるいはアセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性炭素を用いることができる。特に、炭水化物は、毒性が低いため好ましい。
炭素源として融点が250℃以下の炭水化物を用い、前駆体とリチウム化合物および炭素源と混合後した後、焼成を行う前に非酸化性雰囲気中において、用いた炭水化物の融点以上、かつ300℃以下の温度に加熱処理することが特に効果的である。炭水化物を、この温度範囲で加熱することで、溶融した炭水化物が前駆体の一次粒子もしくは二次粒子間に浸透して、その粒子を均等に被覆する。これにより、十分な粒成長の抑制効果が得られるとともに、焼成後のケイ酸金属リチウム塩粒子表面に導電性を有する炭素材料の被覆層が形成される。
この炭水化物の融点が250℃を超えるか、あるいは加熱処理温度が300℃を超えると、炭水化物が浸透する前にケイ酸金属リチウム塩の生成反応が開始されるため、上記粒成長の抑制効果が十分には得られない場合がある。さらに、炭素材料の被覆層の形成も不十分となることがある。
使用する炭水化物としては、単糖類および二糖類の少なくとも一種であることが好ましく、スクロース、グルコースが特に好ましい。単糖類および二糖類は、300℃以下で溶融して上記熱処理において前駆体の粒子表面に浸透するため、好適である。
リチウム化合物は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウムなどリチウム二次電池用正極活物質の製造に通常に用いられるリチウム化合物を用いることができ、特に、安価で取扱いが容易な炭酸リチウムを用いることが好ましい。
混合は、前駆体とリチウム化合物および炭素源を均一に混合できればよく、シェイカーミキサー、ボールミル、遊星ミル、振動ミル、ビーズミルなどの混合機を用いることができる。前記混合は、通常に行われる条件で行うことができる。
さらに、本発明の製造方法においては、微細なケイ酸金属リチウム塩粒子を得るために焼成前に使用する前駆体を粉砕することが好ましい。粉砕は、混合の前あるいは後のいずれでもよいが、混合時に混合機として挙げた各種ミルを用いることで、粉砕と同時に十分な混合を行うことができるため好ましい。粉砕にはアルミナ、ジルコニア球を用いた乾式、湿式ミルを用いることができる。
炭素源は、粉砕前に前駆体およびリチウム化合物と混合して、これらの混合物として粉砕してもよいが、炭水化物、特に単糖類および二糖類の少なくとも一種を用いる場合には、加熱中に溶解して容易に粒子表面に浸透するため、上記粉砕後に混合してもよい。上記粉砕に湿式ミルを用いる場合、炭水化物は上記粉砕後に混合することが好ましい。
前駆体とリチウム化合物および炭素源を混合して得られた混合物を非酸化性雰囲気中で450〜750℃、好ましくは550〜700℃で焼成することにより良好な結晶性で微細なケイ酸金属リチウム塩(LiSiO)を得ることができる。
本発明の製造方法は、炭素源を含有する混合物を焼成するものであり、用いる炭素源にもよるが600℃以上で黒鉛化が進行するので、600〜700℃で保持することにより、黒鉛と複合化したケイ酸金属リチウム塩微粒子を得ることができる。
焼成時の雰囲気は、ケイ酸金属塩中のM元素および炭素源の酸化を抑制するため、加熱処理も含めて窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気あるいは還元雰囲気中とすることが好ましく、還元雰囲気中とすることがより好ましい。還元雰囲気としては、水素を含有した不活性ガス、特に水素を含有した窒素雰囲気とすることが好ましく、水素含有量は、1〜2容量%とすることが好ましい。
焼成時間は、特に限定されるものではなく、上記温度範囲で十分に結晶化したケイ酸金属リチウム塩が得られる時間とするが、例えば、1〜20時間とすることが好ましい。1時間未満では、ケイ酸金属リチウム塩の結晶性が十分でないことがあり、20時間を超えると、ケイ酸金属リチウム塩粒子の焼結が進行して微細な粒子が得られないことがある。また、この熱処理時間は、用いた炭水化物が溶融して前駆体に浸透する時間とすればよく、例えば、1〜5時間とすることが好ましい。
また、上記製造方法においては、前記混合物を焼成前に非酸化性雰囲気中400〜550℃で1〜10時間保持して仮焼することができる。仮焼することで、ケイ酸金属リチウム塩の結晶性を改善することができるため、微細な粒子を得るために焼成時間を短時間にした場合などにおいて十分な結晶性が得られない場合には有効である。なお、仮焼を行なった後、炭水化物を混合する場合には、粉砕後に炭水化物を混合することが好ましい。仮焼においても粒子の焼結がある程度進行するため、粉砕を行なわない場合には、加熱処理において炭水化物が十分に粒子間に浸透せず、得られたケイ酸金属リチウム塩粒子が粗大化することがある。
焼成炉は、雰囲気制御が可能な炉であればよいが、ガスの発生がない電気炉が好ましく、管状炉、マッフル炉などの静置炉やプッシャー炉、ローラーハースキルン、ロータリーキルン、流動床炉などの連続炉が使用できる。また、加熱処理、仮焼にも同様の炉を用いることができる。
上記製造方法によって得られる正極活物質は、微細なケイ酸金属リチウム塩粒子から構成されるが、焼成によって軽度の焼結が進行することがある。このような場合には、必要に応じて、解砕あるいは分級のいずれか、もしくは組み合せて、容易に微細なケイ酸金属リチウム塩粒子とすることができる。解砕および分級は、特に限定されるものではなく、通常の方法および条件で行うことができる。
本発明の製造方法によれば、水熱合成装置のような高圧容器を用いる必要がなく、また、安価で毒性の低い原料を用いて合成できるため、工業的に安価にケイ酸金属リチウム塩を製造することができる。
[リチウム二次電池]
本発明によるリチウム二次電池は、正極、負極、非水電解質など、一般のリチウム二次電池と同様の構成要素から構成される。
以下、本発明のリチウム二次電池の実施形態について、その構成要素、用途などの項目に分けて詳しく説明するが、以下の実施形態は例示にすぎず、本発明のリチウム二次電池は、本明細書に記載の実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
(a)正極
正極は、本発明の正極活物質、導電材および結着剤を含んだ正極合材から形成される。
詳しくは、粉末状の正極活物質、導電材を混合し、それに結着剤を加え、必要に応じて、粘度調整などのための溶剤をさらに添加して、正極合材ペーストを調整し、その正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布、乾燥、必要に応じて加圧することにより、シート状の正極を作製する。
導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体の1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
結着剤は、活物質粒子を繋ぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴムなどの含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂、その他の適切な材料を用いることができる。必要に応じて正極合材に添加する溶剤、つまり、活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
また、活性炭を、電気二重層容量を増加させるために添加することができる。
このような正極活物質、導電材、および結着剤を混合し、必要に応じて、活性炭、溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを調製する。
正極合材中のそれぞれの混合比も、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となりうる。正極合材の固形分の全体(溶剤を除く意味)を100質量%とした場合、一般のリチウム二次電池の正極と同様、それぞれ、正極活物質は60〜95質量%、導電材は1〜20質量%、結着剤は1〜20質量%とすることが望ましい。
たとえば、アルミニウムなどの金属箔集電体の表面に、充分に混練した上記の正極合材ペーストを塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、必要に応じて、その後に電極密度を高めるべくロールプレスなどにより圧縮することにより、正極をシート状に形成することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などを行い、電池の作製に供することができる。
(b)負極
負極には、金属リチウム、リチウム合金など、また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して、形成したものを使用する。このとき、負極活物質として、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極と同様に、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素樹脂などを、これら負極活物質および結着剤を分散させる溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(c)セパレータ
正極と負極の間にはセパレータを挟み装填する。セパレータは、正極と負極とを分離し電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの薄い微多孔膜を用いることができる。
(d)非水電解質
非水電解質は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiASF、LiN(CFSOなど、およびそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水電解質は、ラジカル補足剤、界面活性剤や難燃剤などを含んでいてもよい。
以上のように構成される本発明のリチウム二次電池であるが、その形状は円筒型、積層型など、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リードなどを用いて接続し、この電極体に上記の非水電解質を含浸させ、電池ケースに密閉して電池を完成させる。
本発明のリチウム二次電池においては、本発明のリチウム二次電池用正極活物質を正極材料として用いた正極を備えており、3.0〜4.5Vの電位で充放電を行なうことで、従来のリチウム金属複合酸化物よりも安全性がきわめて高く、さらに高容量を兼ね備えたリチウム二次電池を工業的に実現できる。
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明する。なお、実施例で用いたケイ酸金属リチウム塩の金属の分析方法、X線回折及び比表面積の測定方法、電池容量の評価方法は、以下の通りである。
(1)元素の分析:
ICP発光分析装置(VARIAN社、725ES)を用いて、ICP発光分析法により分析した。
(2)X線回折:
粉末X線回折装置(PANALYTICAL社製、X‘Pert PRO MRD)を用いて、得られた正極活物質について、Cu−Kα線による粉末X線回折で測定した。
(3)比表面積の測定:
BET法測定機(ユアサアイオニックス株式会社製 カンタソーブQS−10)を用いて、窒素ガス吸着によるBET法で行った。
(4)電池容量の評価:
得られた正極活物質について、以下の手順でコイン型電池を作製し、電池の充放電容量を測定して評価した。正極活物質に導電材としてアセチレンブラック33質量%、結着材としてポリビニリデンフルオライド(PVDF)17質量%、N−メチルピロリドン(NMP)溶液を添加混合し、上記正極活物質50質量%−導電材33質量%−PVDF17質量%の混合物を得た。この混合物をアルミ箔上に塗布し、80℃で乾燥後、電極寸法の直径11mmに打ち抜き、プレス圧98MPa(1.0tonf/cm)でプレスして電極を作製した。この電極を正極とし、グローブボックス内で負極として金属Li、電解液として電解質LiClO1モル/Lを含有するエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(容積比でEC/DMC=1/1)を用いてC2023コイン電池を作製した。電池の充放電を、充電0.2mA/cm、4.5V、休止12時間、放電0 .2mA/cm、1.5V、50℃の条件で実施し、2サイクル目の放電容量を評価値として用いた。
硫酸鉄7水和物(和光社製試薬特級:純度99.5wt%)1モル(278g)を蒸留水1Lに入れ溶解し、M塩溶液とした。ケイ酸ナトリウム(関東化学社製、鹿1級)をSiとして1モル(180g)を蒸留水1Lに入れ溶解し、ケイ酸塩溶液とした。また、25%水酸化ナトリウム水溶液をpH調整溶液とした。
撹拌機付5Lのセパラブルフラスコに1Lの純水をいれ、内部を窒素で置換しながら、30分攪拌した。次に、pH調整溶液を、pHコントローラを用いてpHを8.9〜9.1に制御しながら、M塩溶液およびケイ酸塩溶液をそれぞれ毎分10mlの速度で添加した。滴下終了後、セパラブルフラスコ内を窒素で置換しながら、撹拌を30分間継続して晶析反応を完全に進行させた。この晶析によって生成した共沈殿物を吸引濾過で濾過して回収した。共沈殿物を水洗後、真空乾燥機中80℃で乾燥し、リチウム二次電池用正極活物質の前駆体を得た。得られた前駆体をX線回折測定した結果、回折ピークが得られず、前駆体は鉄とケイ素の非晶質であることが確認された。
この得られた前駆体30g、炭酸リチウム(関東化学社製鹿特級:99.0%)14.1gおよびエタノール70mlを、直径1mmジルコニアボールが650gの入った内容積250mlジルコニア製ポットに入れ、遊星ボールミル(フリッチュジャパン製)により300rpmで30分間混合粉砕した。その後、ジルコニアボールを篩い分けし、真空乾燥によりエタノールを除去し、前駆体と炭酸リチウムの混合物(1次混合物)を得た。
得られた1次混合物30gとスクロース4.9gを、直径5mmジルコニアボールが350gの入った内容積250mlジルコニア製ポットに入れ、遊星ボールミルにより200rpmで10分間混合した。ジルコニアボールを篩い分けし、前駆体と炭酸リチウムおよびスクロースの混合物を作製した。
この混合物を、電気炉を用いて2容量%水素含有の窒素を1L/分で炉内をパージしながら、昇温速度10℃/分で、190℃で2時間保持した後、650℃で5時間焼成してリチウム二次電池用正極活物質を形成した。その正極活物質のリチウム:鉄:ケイ素の組成比は、2.01:0.99:1.00であり、炭素含有量は4.8質量%であり、ナトリウム含有量は0.9質量%であった。また、X線回折によりケイ酸鉄リチウムと同定された(図1)。この正極活物質について走査顕微鏡(SEM)による観察を行ったところ、一次粒子径は50〜250nmであった。また、BET法により求めた比表面積は30.9m/gであった。電池容量の評価結果を表1に示す。
硫酸マンガンn水和物(中央電工製:99.9wt%)174g(Mnとして1モル)を蒸留水1Lに溶解した溶液をM塩溶液として用いたこと以外は実施例1と同様の方法で正極活物質を得るとともに評価した。
得られた正極活物質のリチウム:マンガン:ケイ素の組成比は、2.02:0.98:1.00であり、炭素含有量は4.5質量%であり、ナトリウム含有量は0.8質量%であった。また、X線回折によりケイ酸マンガンリチウムと同定された(図2)。前駆体についても実施例1同様にX線回折測定した結果、得られた前駆体はマンガンとケイ素の非晶質であることが確認された(図3)。
この正極活物質についてSEM観察を行ったところ、一次粒子径は50〜200nmであった。また、BET法により求めた比表面積は33.3m/gであった。電池容量の評価結果を表1に示す。
硫酸鉄7水和物139gと硫酸マンガンn水和物87g(Fe、Mn各0.5モル)を蒸留水1Lに溶解した溶液をM塩溶液として用いたこと以外は実施例1同様の方法で正極活物質を得るとともに評価した。
得られた正極活物質のリチウム:鉄:マンガン:ケイ素の組成比は、2.01:0.49:0.51:1.00であり、炭素含有量は4.6質量%であり、ナトリウム含有量は0.8質量%であった。また、X線回折により、ケイ酸鉄リチウムおよびケイ酸マンガンリチウムと同定された。前駆体についても実施例1同様にX線回折測定した結果、得られた前駆体は鉄およびマンガンとケイ素の非晶質であることが確認された。この正極活物質についてSEM観察を行ったところ、一次粒子径は50〜250nmであった。また、BET法により求めた比表面積は31.7m/gであった。電池容量の評価結果を表1に示す。
(比較例1)
炭酸リチウムの混合量を13.0gとした以外は、実施例1と同様の方法で正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質のリチウム:鉄:ケイ素の組成比は、1.86:0.99:1.00であり、炭素含有量は4.4質量%であり、ナトリウム含有量は0.8質量%であった。また、X線回折により、ケイ酸鉄リチウムと同定される微弱ピークが検出された。この正極活物質についてSEM観察を行ったところ、一次粒子径は50〜250nmであった。また、BET法により求めた比表面積は27.8m/gであった。電池容量の評価結果を表1に示す。
(比較例2)
炭酸リチウムの混合量を15.5gとした以外は、実施例1と同様の方法で正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質のリチウム:鉄:ケイ素の組成比は、2.19:0.98:1.00であり、炭素含有量は4.8質量%であり、ナトリウム含有量は0.9質量%であった。また、X線回折により、ケイ酸鉄リチウムと同定された。この正極活物質についてSEM観察を行ったところ、一次粒子径は50〜250nmの球状粒子と、数100nm板状粒子が観察された。また、BET法により求めた比表面積は21.8m/gであった。電池容量の評価結果を表1に示す。
(比較例3)
焼成温度を800℃とした以外は、実施例1と同様の方法で正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質のリチウム:鉄:ケイ素の組成比は、2.01:0.98:1.00であり、炭素含有量は1.6質量%であり、ナトリウム含有量は0.9質量%であった。また、X線回折により、ケイ酸鉄リチウムと同定された。この正極活物質についてSEM観察を行ったところ、一次粒子径は数μmであった。またBET法により求めた比表面積は12.3m/gであった。電池容量の評価結果を表1に示す。
(比較例4)
焼成温度を400℃とした以外は、実施例1と同様の方法で正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質のリチウム:鉄:ケイ素の組成比は、2.01:0.98:1.00であった。また、X線回折により酸化鉄とケイ酸リチウムと同定され、ケイ酸鉄リチウムは得られなかった。
(比較例5)
晶析反応時のpHを6に制御した以外は、実施例1と同様の方法で正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質のリチウム:鉄:ケイ素の組成比は、2.01:0.85:1.00であった。鉄を十分に共沈殿させることができず、ケイ酸鉄リチウムが得られなかった。
(比較例6)
晶析反応時のpHを12に制御した以外は、実施例1と同様の方法で正極活物質を得るとともに評価した。得られた正極活物質リチウム:鉄:ケイ素の組成比は、2.01:0.99:1.00であった。また、X線回折を行うとケイ酸鉄リチウムとケイ酸ナトリウムに由来するピークが検出された。正極活物質中のナトリウム含有量は4.5質量%と高く、異相としてケイ酸ナトリウムが検出された。
Figure 2014082219
実施例1および2では、1電子反応の理論容量(166mAh/g)が得られ、鉄とマンガンの複合系である実施例3では、それ以上の容量である184Ah/gが得られている。
一方、リチウムの組成比が本発明の範囲となっていない比較例1および2、焼成温度が高い比較例3は、電池容量が大幅に低いことがわかる。さらに、焼成温度が低い比較例4、晶析時のpHが本発明の範囲となっていない比較例5および6では、ケイ酸金属リチウム塩が得られなかった。

Claims (8)

  1. 一般式LiSiO(1.90≦x≦2.15、0.90≦y≦1.10、MはMn、Fe、Ni、Coから選択される1種以上の元素)で表されるケイ酸金属リチウム塩からなるリチウム二次電池用正極活物質であって、
    一次粒子および一次粒子が凝集した二次粒子からなるケイ酸金属リチウム塩粒子で構成され、
    前記一次粒子径は、SEM観察による測定において10〜300nm、
    前記正極活物質の比表面積が25〜35m/g、炭素含有量が3〜7質量%であり、
    前記ケイ酸金属リチウム塩粒子の電解液との接触面の少なくとも一部が、導電性を有する炭素質材料で被覆されていることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
  2. 前記炭素質材料が、炭水化物の加熱分解により生成されたものであることを特徴とする請求項2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
  3. 請求項1または2に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、
    一般式MSiO(0.90≦y≦1.10、MはMn、Fe、Ni、Coから選択される1種以上の元素)で表されるケイ酸金属塩であって、前記一般式中M元素の2価イオンを含む溶液とケイ酸イオン(SiO 2−)を含む溶液を混合して得たM元素とケイ酸の非晶質共沈殿物であるリチウム二次電池用正極活物質の前駆体と、リチウム化合物、および炭素源とを混合した後、非酸化性雰囲気中で450℃〜750℃で焼成することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
  4. 前記炭素源が、250℃以下の融点の炭水化物を用いるとともに、混合後、焼成前に非酸化性雰囲気中において、前記炭水化物の融点以上、かつ300℃以下の温度で加熱処理することを特徴とする請求項3に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
  5. 前記炭水化物が、単糖類および二糖類の少なくとも一種であることを特徴とする請求項4に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
  6. 前記炭水化物が、スクロース、グルコースの少なくとも一種であることを特徴とする請求項5に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
  7. 前記焼成前に前記前駆体の粉砕を行うことを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
  8. 請求項1または2に記載のリチウム二次電池用正極活物質を用いた正極を備えることを特徴とするリチウム二次電池。
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