JP2014079667A - Cis系薄膜太陽電池からの有価物回収方法 - Google Patents

Cis系薄膜太陽電池からの有価物回収方法 Download PDF

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Abstract

【課題】CIS系薄膜太陽電池に含まれるp型光吸収層、ひいては当該層中に含まれる有価物をより簡易かつ確実に分離・回収する方法を提供する。
【解決手段】CIS系薄膜太陽電池から有価物を回収する方法であって、
当該CIS系薄膜太陽電池における、基板、裏面電極層、p型CIS系光吸収層、バッファ層及び透明導電膜を順に含む積層体又はその細片化物を一価強塩基の水溶液に接触させることによりp型CIS系光吸収層を固形物として分離する工程を含む、CIS系薄膜太陽電池の有価物の回収方法に係る。
【選択図】図2

Description

本発明は、CIS系薄膜太陽電池から有価物を回収する方法に関する。
太陽電池は、太陽エネルギーをエネルギー源とする点でコスト的に有利であるほか、クリーンで設置場所を選ばないという利点もあいまって、実用化が進められており、その市場も拡大しつつある。太陽電池は、シリコン系をはじめとしてこれまで様々なタイプのものが開発されているが、特にp型光吸収層としてカルコパイライト型結晶構造を有するI−III−VI族化合物半導体を用いたCIS系薄膜太陽電池が注目されている。CIS系薄膜太陽電池は、比較的低コストで製造できるばかりでなく、可視から近赤外の波長範囲に大きな吸収係数を有するため、高い光電変換効率が期待できる。
一般に、CIS系薄膜太陽電池は、例えば図1に示すように、ガラス基板の上面から、金属裏面電極層、p型光吸収層、高抵抗バッファ層及び窓層(透明導電膜)が順に積層された構造となっている(特許文献6〜9参照。)。これらの層の中でも光電変換の機能を有するp型光吸収層は、厚さが数ミクロンの薄膜状であり、Cu、In、Ga、Se及びSを含むカルコパイライト構造のI−III−VI族化合物半導体からなる多元化合物半導体から構成されている。代表的な化合物半導体として、例えばCu(In,Ga)Se、Cu(In,Ga)(Se,S)、CuInS等が知られている。このように、光吸収層には、希少金属のインジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)等が多量に含まれることから、CIS系薄膜太陽電池の製造工程中に発生する規格外品から光吸収層を分離・回収し、さらには、回収された光吸収層に含まれる希少金属を回収する処理方法の開発が強く求められている。
ところで、CIS系薄膜太陽電池モジュールが市場に投入された後、製品寿命が到来した場合には大量の廃棄物が発生することが懸念されている。従って、資源の有効利用又は産業廃棄物の低減の観点から、CIS系薄膜太陽電池に含まれる有価物を分離・回収するとともに、各構成部品を再使用するための処理技術が求められている。このため、使用済みのCIS系薄膜太陽電池モジュールをリサイクル/リユースすることを目的とした研究開発が行われている。(例えば、特許文献1〜4参照。)
また、CIS系薄膜太陽電池生産の飛躍的な増大に伴い、CIS系薄膜太陽電池の製造工程において、規格外(オフスペック)品が発生し、これらの規格外品は産業廃棄物として処理されているのが現状である。CIS系薄膜太陽電池のほとんどを占めるガラス基板については、資源の有効利用の観点から、規格外品からガラス基板を回収し、再使用することが検討されている(例えば、特許文献5参照。)。
これらのリサイクル/リユース等を工業的規模で実現するため、CIS系薄膜太陽電池(モジュール)の構成部材を再使用するための回収方法、さらには前記モジュールの光吸収層に含まれる有用な希少金属を回収する技術についての研究開発が進められている。また、規格外品からガラス基板を回収し、再利用するための技術の研究開発も進められている。
例えば、CIS系薄膜太陽電池モジュールを500℃以下の温度で処理し、該モジュールの基板(CIS系薄膜太陽電池デバイス)側とカバーガラス側を接着している封止剤を軟化させてカバーガラスを分離除去したのち、基板上の積層構造薄膜の受光面に存在する窓層とバッファ層を高濃度酢酸溶液により溶解除去する。次に、光吸収層の表面に金属刃を押し当てて機械的に削り落とすこと(スクレーピング)により、光吸収層の金属粉として回収した後、金属裏面電極層を硝酸溶液により溶解除去してガラス基板を回収する方法が提案されている(特許文献6)。
しかしながら、前記スクレーピング法は、金属刃を用いてパネル一枚毎に処理する必要があり、大掛かりな設備が必要になる。また、光吸収層は厚さがミクロンサイズと極めて薄いため、スクレーピング法により光吸収層を均一かつ完全に削り落とすことは極めて困難である。その結果、回収される光吸収層の収率は低くなり、その下に存在する裏面電極層中の成分(Mo等)が光吸収層に混入してしまう可能性がある。さらには、ガラス基板自体が破損したり、ガラス基板面を傷つけること(ガラス基板の劣化)が避けられず、CIS系薄膜太陽電池の製造を目的としたガラス基板の再利用は困難である。また、金属裏面電極層を溶解除去するために硝酸を用いるので、廃液中の硝酸体窒素濃度が増大し、硝酸イオンを除去するためのコストがかかる問題もある。なお、特許文献6では、スクレーピング法により回収した光吸収層の金属粉に含まれるインジウム、ガリウム、セレンの希少金属を個々に分離回収する方法には言及されていない。
光吸収層に含まれる希少金属の回収に関しては、電着法を利用してCIS系薄膜太陽電池デバイスから光吸収層の回収に関する研究報告がある(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照。)この報告は、薄膜太陽電池デバイスに含まれるすべての金属(銅、インジウム、セレン、亜鉛及びその他の金属)を無機酸により溶解し、各金属に適した電圧を印加し、各金属を電解液中に析出・回収する方法に関するものである。
しかしながら、上記方法は研究レベルに留まっており、工業的規模での製品モジュールの処理は検討されていない。実際、上記の方法では、電解装置の設備費用(イニシャルコスト)、電気エネルギー等のランニングコストの面でも事業化・実用化に課題が残されている。
CIS系薄膜太陽電池の廃棄材からインジウム、ガリウム、セレンを相互に分離回収することを想定し、インジウム、ガリウム、セレンの金属粉末を用いて湿式法により各金属元素をそれぞれ分離する方法が提案されている(特許文献4)。セレンの分離に関しては、前記金属を混合した粉末を塩酸及び過酸化水素の混合溶液で溶解した後、ヒドラジンを用いて溶液中のセレンのオキソ酸イオンをセレン単体に還元・析出して分離する。
しかしながら、特許文献4には、そもそもCIS系薄膜太陽電池から光吸収層を単離するための方法については何ら言及されていない。そのうえ、この処理には約1日(21時間)という多大な時間を要する。また、セレンを還元するための薬剤であるヒドラジンが高価であることに加え、毒劇物取締法の毒物に指定されており、引火性もあることから処理プロセスの作業時の安全にも問題がある。かりに、CIS系薄膜太陽電池から薄膜部を薬液で溶解させた場合、得られた全ての金属(銅、インジウム、セレン、亜鉛及びその他の金属)を含む溶液から所定の希少金属をそれぞれ分離・回収するためには、極めて煩雑な操作、回収に必要な複雑な処理装置の設置、廃棄材を溶解するために必要な多量の薬液(酸類)及び高価な薬剤(還元剤や抽出剤など)等の使用のほか、回収後に発生する多量の廃液処理を必要とするため、事業化を進める上で多くの課題があるのが現状である。
その他、インジウム、ガリウム等の相互分離に関する技術として、例えば、インジウム、ガリウムおよび亜鉛の相互分離を目的として、ホスフィン酸を配位子とするキレート抽出剤を金属に接触させる段階を含む金属の抽出方法(特許文献10)、インジウム、ガリウム及び亜鉛から選ばれる少なくとも一種の金属イオンを含有する硝酸アンモニウム溶液に、プロリン誘導体又はその塩を含む抽出剤の有機溶媒溶液を加える、金属イオンの抽出方法(特許文献11)、ガリウムイオンおよびインジウムイオンを含有する1.0mol/Lを上回る塩酸濃度の水溶液から、ガリウムイオンを高選択的に抽出する方法(特許文献12)等が提案されている。
しかし、いずれの方法においても、単に金属の相互分離が開示されているにとどまり、その前段階におけるCIS系薄膜太陽電池からの光吸収層の単離方法については何も言及されていない。
特開2003−142720 特開2006−179626 特開2007−59793 特開2011−63882 特開2011−129631 特開2004−186547 特開2011−9287 特開2012−4370 特開2012−4287 特開2009−256291 特開2010−180430 特開2010−189348
Proceedings of 26th IEEE Photovoltaic Specialist Conference (1997), p.1161-1163, R.E.Goozner, et al. Proceedings of 2nd World Conference on Photovoltaic Energy Conversion, 6-10(1998), p.597-600, S. Menezes.
従って、本発明の主な目的は、CIS系薄膜太陽電池に含まれるp型光吸収層、ひいては当該層中に含まれる有価物をより簡易かつ確実に分離・回収する方法を提供することにある。また、本発明は、CIS系薄膜太陽電池からガラス基板を比較的容易に回収する方法を提供することも目的とする。
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の処理工程を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記のCIS系薄膜太陽電池からの有価物回収方法に係る。
1. CIS系薄膜太陽電池から有価物を回収する方法であって、
当該CIS系薄膜太陽電池における、基板、裏面電極層、p型CIS系光吸収層、バッファ層及び透明導電膜を順に含む積層体又はその細片化物を一価強塩基の水溶液に接触させることによりp型CIS系光吸収層を固形物として分離する工程を含む、CIS系薄膜太陽電池の有価物の回収方法。
2. 前記工程が、1)積層体又はその細片化物を一価強塩基の水溶液に浸漬させることによりp型CIS系光吸収層を固形物として分離する工程及び2)分離されたp型CIS系光吸収層を回収する工程を含む、前記項1に記載の回収方法。
3. 一価強塩基が水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1種である、前記項1又は2に記載の回収方法。
4. 水溶液の一価強塩基のモル濃度が2mol/Lから飽和溶解度までの範囲である、前記項1〜3のいずれかに記載の回収方法。
本発明によれば、特定の処理によってp型CIS系光吸収層の単体を分離することができるので、希少金属が高濃度で含まれるp型CIS系光吸収層をCIS系薄膜太陽電池から固形物としてより簡易かつ確実に分離・回収することができる。すなわち、p型CIS系光吸収層を低コストかつ高収率で固形物として分離・回収することができる。このため、回収したp型CIS系光吸収層に含まれる希少金属のインジウム、ガリウム、セレン等の分別・回収が格段に容易になるばかりでなく、低コストでしかもコンパクトな装置で処理できるようになる。
また、本発明の方法では、ガラス基板に損傷をほとんど与えることなく、しかもほぼ単体で回収することができるので、その再利用が可能となる。
本発明の分離工程又はそれ以降の工程において使用する薬液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の安価な一価強塩基のほか、塩酸等を使用するのみである。すなわち、アルカリ廃液と酸廃液を中和処理することにより生成する化学種は、主として、無害な塩化ナトリウム、塩化カリウム等であることから、薬品のランニングコスト及び排水処理コストを効果的に抑制することができる。
これらの結果として、CIS系薄膜太陽電池の製造工程で発生する産業廃棄物の発生量を削減し、産業廃棄物処理費用を低減できるとともに、太陽電池の製造コスト低減の効果も期待できる。また、本発明で回収された有価物を太陽電池の製造に用いることによって、原料コストの削減にも貢献することができる。
実施例1〜7で用いたCIS系薄膜太陽電池の断面構造の概念図を示す。 本発明の方法に従って、CIS系薄膜太陽電池からp型CIS系光吸収層、ガラス基板単体の回収、並びに該光吸収層からのセレン回収方法の流れを示した図である。 実施例7において用いたセレン回収装置の概念図を示す。 実施例2において、水酸化ナトリウム水溶液の液温がp型CIS系光吸収層の剥離に及ぼす影響を示す。 実施例7において、剥離回収したp型CIS系光吸収層の熱分析(TG/DTA)の結果を示す。 本発明の方法に従って、CIS系薄膜太陽電池からp型CIS系光吸収層等を分離・回収する工程を示すイメージ図である。 実施例7において、積層体の細片化物のアルカリ処理を行うための装置の概略図である。
本発明のCIS系薄膜太陽電池の有価物の回収方法(本発明の回収方法)は、CIS系薄膜太陽電池から有価物を回収する方法であって、当該CIS系薄膜太陽電池における、基板、裏面電極層、p型CIS系光吸収層、バッファ層及び透明導電膜を順に含む積層体又はその細片化物を一価強塩基の水溶液に接触させることによりp型CIS系光吸収層を固形物として分離する工程(分離工程)を含むことを特徴とする。
CIS系薄膜太陽電池
本発明の回収方法の対象となるCIS系薄膜太陽電池は、いわゆる電池(セル)として基板、裏面電極層、p型CIS系光吸収層、バッファ層及び透明導電膜を順に含む積層体を含むものであり、このような構成を有する太陽電池は公知又は市販のものも含まれる。また、これらは公知の製造方法で製造することができる。本発明では、特に、使用済みのCIS系薄膜太陽電池、製造工程中で発生した規格外のCIS系薄膜太陽電池等を適用することができる。
例えば図1に示すように、CIS系薄膜太陽電池における積層体1は、基板2上に裏面電極層3、p型CIS系光吸収層4、バッファ層5及び窓層(透明導電膜)6の順で積層された構造(pnヘテロ接合デバイス)を有する。各層の厚みについては公知又は市販のCIS系薄膜太陽電池と同様であり、例えば光吸収層及び窓層がミクロンサイズであるのに対し、バッファ層はナノメートルサイズである。
基板2における材質は特に限定されず、例えばガラス、金属(合金、金属間化合物を含む。以下同じ。)、プラスチック等の各種材料を採用することができる。基板の厚みは材料等に応じて適宜設定できるが、通常は1〜5mmの範囲内とすれば良い。例えば、ガラス基板を採用する場合は、厚みが2〜5mm程度が好ましいので、例えば厚み約3mmのガラス基板等を好適に採用することができる。
裏面電極層3は、通常は金属裏面電極層として金属から構成されるものを使用でき、一般にモリブデン(Mo)が用いられるが、これ以外にもチタン(Ti)、クロム(Cr)等の耐セレン腐食性に優れた金属(特に高融点金属)を適用することもできる。裏面電極層の厚みは限定的ではないが、通常は200〜500nm程度とすれば良い。
p型CIS系光吸収層4は、カルコパイライト型結晶構造を有するI−III−VI族化合物半導体からなる。かかる化合物半導体は光電変換機能を有する。このような化合物半導体として、例えば2セレン化銅インジウム・ガリウム(Cu(In、Ga)Se)、2セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(Cu(In,Ga)(Se,S))、2セレン化銅インジウム (CuInSe)、2イオウ化銅インジウム (CuInS)、2セレン・イオウ化銅インジウム (CuIn(SeS))、2セレン化銅ガリウム (CuGaSe)、2イオウ化銅ガリウム (CuGaS)、2イオウ化銅インジウム・ガリウム (Cu(InGa)S)等が挙げられる。p型CIS系光吸収層の厚みは限定的ではないが、通常は1〜3μm程度とすれば良い。前記のように、p型CIS系光吸収層は、希少金属(レアメタル)のインジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)が多量に含まれているため、前記光吸収層を固形分として単離することはきわめて有効である。
バッファ層5は、直列抵抗を増加させることなく、曲線因子(FF:Fill Factor)を向上させて高効率のCIS系薄膜太陽電池を実現するために設けられるものである。本発明では、一価強塩基の水溶液に溶解する材料からなるバッファ層であれば良く、一般に亜鉛化合物系バッファ層が採用できる。より具体的には、バッファ層は、Zn(O,S,OH)からなる半導体膜のほか、ZnS、ZnO等のII−VI族化合物半導体の混晶であるZn(O,S)系化合物半導体薄膜等であっても良い。バッファ層の厚みは限定的ではないが、通常は100nm程度とすれば良い。
窓層(透明導電膜)6は、n型の導電型を有し、禁制帯幅が広くて透明で抵抗値が低い材料から構成される。本発明では、一価強塩基の水溶液に溶解する材料からなる透明導電膜であれば良く、通常はZnO系導電膜が採用される。より具体的には、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とする半導体膜を好適に用いることができる。窓層(透明導電膜)の厚みは限定的ではないが、通常は0.5〜2.5μm程度とすれば良い。このような窓層は、一般にスパッタ法、MOCVD法等によって成膜することができる。
本発明では、必要に応じて、上記積層体中にこれらの層とは別の層が含まれていても良い。例えば、リーク電流を低減し、より高効率のCIS系薄膜太陽電池を得るために、裏面電極層と光吸収層の間に中間層(図示せず)が介在させても良い。中間層は、裏面電極層を構成する金属と光吸収層を構成するVI族元素との化合物から構成される。例えば、裏面電極層の材料としてモリブデンが用いられる場合は、中間層としてMoS層、Mo(S,Se)層等を好適に採用することができる。
分離工程
本発明では、分離工程として、前記積層体又はその細片化物を一価強塩基の水溶液(以下「一価強塩基水溶液」ともいう。)に接触させることによりp型CIS系光吸収層を固形物として分離する。分離工程及びその後の有価物の回収工程を含む工程図を図2に示す。また、分離工程を含む積層体の処理例のイメージ図を図6に示す。
前記積層体は、いわゆる太陽電池パネル(いわゆる電池セル)であり、これを公知の方法に従って太陽電池システムから取り出す。そして、取り出された積層体又はその細片化物を一価強塩基水溶液に接触させる。本発明では、分離工程において一価強塩基水溶液に接触させるという化学的な方法を採用することにより、積層体そのものを処理できるほか、その細片であっても個々の細片に含まれるp型CIS系光吸収層を選択的に固形物として分離することができる点も特徴の一つである。
特に、本発明では、例えば積層体が大きな1つのパネルであるような場合は、積層体を裁断、粉砕等の細片化処理がなされた細片化物(カレット状物)を分離工程に供することが望ましい。細片化処理する方法は特に制限されず、公知の粉砕機、破砕機等を用いることができる。また、細片化処理する場合の細片化物の大きさは特に限定されないが、通常は10〜100mm程度、特に10〜50mmの細片が好ましい。この場合の大きさは、本発明では、各細片化物の最長径をいう。このような細片化物は、所定の目開きを有する篩いによって分級することができる。上記のような所定の大きさの細片化物を用いることによって、分離工程の処理効率、作業性等をよりいっそう向上させることができる。また、ガラスを再利用する際に、大きさが10mm未満の細粒状のガラスが除外されることになるので、ガラスを再利用する場合の溶融時の空気混入等の問題を効果的に回避できる結果、より高品質なガラスを再生することも可能となる。ちなみに、細片化処理しなくても、当初より上記所定の大きさの範囲内の積層体である場合は、そのまま分離工程に供することができる。以下、特にことわりのない限り、積層体又はその細片化物を総称して「積層体」という。
一価強塩基水溶液は、一価強塩基を水に溶解させることによって調製することができる。この場合、一価強塩基としては、Ia族のアルカリ金属元素の塩基を用いることが好ましい。特に、コスト等の観点から、水酸化ナトリウム(NaOH)及び水酸化カリウム(KOH)の少なくとも1種がより好ましく、特に水酸化ナトリウムがより好ましい。なお、IIa族のアルカリ土類金属の塩基は、Ia族のアルカリ金属元素の塩基に比べて飽和溶解度が極端に低い(例えば水酸化マグネシウムの飽和溶解度は20℃において0.029mol/L,水酸化カリウムの飽和溶解度は25℃で0.023mol/L)ために高い濃度に設定できないために不適である。
一価強塩基水溶液における一価強塩基の濃度は、上限として飽和溶解度の範囲内で使用することができるが、濃度が低すぎる場合は光吸収層が剥離しないおそれがあるほか、バッファ層及び窓層の溶解の速度が著しく低下する場合がある。従って、より効果的に前記光吸収層を固形分として分離するため、水溶液の一価強塩基のモル濃度が2mol/Lから飽和溶解度までの範囲とすることが好ましい。特に、水酸化ナトリウムを使用する場合は、水溶液のモル濃度が2.5mol/Lから飽和溶解度(例えば20℃で19.4mol/L)の濃度範囲で使用することがより好ましい。水酸化カリウムを使用する場合は、5.0mol/Lから飽和溶解度までの範囲とすることがより好ましい。
一価強塩基水溶液の液温は特に限定的ではないが、より効果的に前記光吸収層を固形分として分離するという見地より、一般的には20℃以上の範囲内において用いる一価強塩基の種類、処理される積層体の構成等に応じて適宜設定することが望ましい。例えば、水酸化ナトリウムを使用する場合の液温は20℃以上とすれば良い。また例えば、水酸化カリウムを使用する場合の液温は40℃以上とすることが好ましい。
本発明において、用いる一価強塩基に応じた濃度と液温のより好ましい組み合わせとしては、水酸化ナトリウムを使用する場合は、水溶液のモル濃度が2.5mol/Lから飽和溶解度(例えば20℃で19.4mol/L)の濃度範囲で使用することができ、液温は、水酸化ナトリウム溶液が氷結しない限り、特に限定されない。このときの経済性を考慮すると、好適には、水溶液の液温が20℃で、かつ濃度が5.0mol/Lである。また、水酸化カリウムを使用する場合は、液温が40℃以上で且つ5.0mol/Lから飽和溶解度の濃度範囲で使用できる。好ましくは、水溶液の液温が40℃で濃度が5.0mol/Lである。
なお、一価強塩基の種類によって、光吸収層の剥離の有無が生じたり、バッファ層及び窓層の溶解の速度が異なる理由は、Ia族のアルカリ金属元素のイオン半径の違いによるものと推定される。すなわち、ナトリウムイオンはカリウムイオンよりイオン半径が小さいので光吸収層に侵入し易くなる。このため、光吸収層に侵入し易いナトリウムイオンを用いる方が、剥離し易くなると推察される。
前記積層体を一価強塩基水溶液に接触させる方法は特に制限されず、例えば噴霧方法、浸漬方法等があるが、特に1)積層体を一価強塩基の水溶液に浸漬させることによりp型CIS系光吸収層を固形物として分離する工程及び2)分離されたp型CIS系光吸収層を回収する工程を含む浸漬方法によることが好ましい。
積層体を浸漬する方法は特に限定されず、例えば一価強塩基水溶液を満たした容器中に積層体が全て浸されるように浸漬すれば良い。この場合、p型CIS系光吸収層が完全に剥離するとともにバッファ層及び窓層が溶出するための必要な浸漬時間は、例えば一価強塩基の濃度、液温等により異なるが、一般的には室温(約15〜25℃)で通常20〜60分程度である。液温を高くすると、p型CIS系光吸収層の剥離の速度、バッファ層及び窓層の溶解の速度等をさらに増大することができる結果、処理時間を短縮できる。また、液比(積層体の単位重量に対する一価強塩基水溶液の体積の比率)は、通常2〜20cm/gであり、経済性又は操作性を考慮すると液比5〜10cm/gとすることが好ましい。
なお、本発明では、必要に応じて、積層体(特に細片化されていないもの)の浸漬に際し、ゴム製ブレード等を用いて薄膜部分を軽く擦ることによりp型CIS系光吸収層の剥離を促進することもできる。また、積層体及び/又は一価強塩基水溶液に振動を与えながら積層体を一価強塩基水溶液に浸漬することにより光吸収層の剥離をより一層促進することができる。振動を与える方法としては、例えば超音波攪拌下で積層体を一価強塩基水溶液に浸漬する方法を好適に採用することができる。
積層体を一価強塩基水溶液に浸漬することにより、p型CIS系光吸収層が固形物として分離(剥離)されるので、この分離されたp型CIS系光吸収層を一価強塩基水溶液から回収すれば良い。分離したp型CIS系光吸収層の固形物は、通常は鱗片状又は微粉状の形態で剥離しているが、これらはろ過、遠心分離等の公知の固液分離方法に従って回収すれば良い。なお、積層体が基板としてガラス基板が使用されている場合、通常はガラスは化学的耐久性の高い成分を含むので分離工程によってもガラスの表面が侵食されることは実質的に無視できる。
このように、本発明の分離工程によれば、図6に示すように、p型CIS系光吸収層4がその下層にある裏面電極層3(中間層を有する場合は中間層)から分離するとともに、その上層のバッファ層5及び窓層6(透明導電膜)は一価強塩基水溶液中に溶解する結果、p型CIS系光吸収層4は単独の固形物として分離される。
分離されたp型CIS系光吸収層中の構成元素の単離・回収
前記の分離工程において回収されたp型CIS系光吸収層からその構成元素を単離・回収することができる。例えば図2に示すように、構成元素としてセレン(Se)を回収する場合は乾式法(熱処理法)を好適に採用することができる。以下、乾式法によりセレンを回収する方法を説明する。
この方法に用いる装置の概念図を図3に示す。石英ガラス管31の内部に設置されたセラミック又は高珪酸ガラス製の容器32にp型CIS系光吸収層の固形物を入れ、ガスを流しながら管状電気炉33で一定時間加熱することにより、p型CIS系光吸収層の固形物に含まれるセレンが昇華し、これを空冷することにより凝結させてセレン単体又はセレン酸化物として分離、回収する。加熱温度は、セレンが完全に昇華する温度が800℃である(図5参照)ことから、これを超える温度であれば特に限定されないが、特に800℃〜850℃の温度範囲とすることが好ましい。p型CIS系光吸収層の固形物を構成する元素のうち、イオウ(S)はこの温度範囲よりも低い温度で揮発するため、昇温時に完全にほぼ揮発することができる。
加熱時の保持時間は、固形物をセレンが完全に昇華するのに必要であれば良い。好適には1時間であるが、これに限定されない。熱処理のときに用いる気体は酸化性雰囲気を提供するガスであれば特に制限されず、所望の気体を適宜用いることができる。例えば、酸化性雰囲気を提供する気体としては、例えば空気、酸素ガス、オゾンガス等の気体の物質からなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。固形物中の各元素の融点及び沸点は、銅が1085℃及び2562℃、インジウムが157℃及び2072℃、ガリウムが30℃及び2403℃、セレンが217℃及び685℃である。酸化雰囲気で熱処理することにより、固形物中の元素はそれぞれ酸化物となるが、各酸化物の融点は酸化銅が1201℃、酸化インジウムが2000℃以上、酸化ガリウムが1740℃である。酸化セレンについては、340℃で昇華分解する。これらのことから、酸化雰囲気で800℃に加熱することにより固形物中のセレンのみがセレン単体または酸化セレンとして回収できる。
セレン元素の回収は、昇華したセレンガスを冷却して固化することにより回収できる。セレンを捕集する材料として、例えば図3のように石英ガラスウール34等の耐熱性繊維、多孔質材等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。セレンガスの冷却温度は100℃以下であれば良く、通常の水冷法又は空冷法により達成できるが、これに限定されない。
また、セレン以外の元素についても、必要に応じて分離回収することができる。分離回収の方法自体は公知の方法に従って実施することができる。例えば、図2に示すように、セレン回収後に残存する元素がインジウムとガリウムを含む場合は、特開2011−63882、特開2009−256291、特開2010−18043、特開2010−189348等に開示された公知の方法に従って両者を分離回収することができる。
ガラスの分離・回収
本発明において、基板としてガラス基板が使用されている場合は、そのガラスを分離・回収することもできる。例えば、前記の分離工程において、積層体からp型CIS系光吸収層が分離された後は、ガラス基板(積層体の細片化物を用いる場合はガラス基板の細片化物)及びその上に積層された裏面電極層を含む固形物(残渣ガラス)を酸性水溶液に接触(特に酸性水溶液中に浸漬)させることによって、裏面電極層(及び中間層を有する場合は中間層)を溶解した後、ガラス単体を固形物として回収する。
上記で用いる酸性水溶液としては特に限定されないが、塩酸水溶液を好適に用いることができる。塩酸水溶液の濃度は、裏面電極層(及び中間層を有する場合は中間層)が溶解できる濃度であれば特に限定されないが、好適にはモル濃度で1mol/Lから12mol/Lの濃度範囲で使用することが望ましい。液温は、特に限定されないが、通常は20〜70℃程度の範囲とすることが好ましい。この場合の塩酸溶液の浸漬時間も、裏面電極層(及び中間層を有する場合は中間層)が溶出できる時間であれば特に限定されないが、経済性を考慮すると通常は室温(20℃)で浸漬時間が1〜2時間の範囲で使用することが望ましい。裏面電極層(及び中間層を有する場合は中間層)の溶出を促進させるため、塩酸に過酸化水素を加えた混合溶液を用いることもできる。このときの過酸化水素は1〜8mol/Lの濃度範囲で使用することができる。また、裏面電極層を溶解した酸性水溶液からは、モリブデンを回収することができる。
前記塩酸処理により裏面電極層(及び中間層を有する場合は中間層)を溶出除去したガラス単体を水洗・乾燥した後、回収する。回収されたガラスは、ガラス基板の原料となるガラスカレットとしてリサイクルすることができる。また、一枚板を処理する場合は、CIS系薄膜太陽電池の製造に戻して基板として再利用することもできる。
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
なお、本実施例では、CIS系薄膜太陽電池における積層体として、以下のものを使用した。すなわち、ガラス基板上に順に
a)裏面電極層(Mo系電極層)、
b)中間層(Mo−S系中間層)、
c)p型CIS系光吸収層(2セレン化銅インジウム・ガリウム(Cu(In、Ga)Se)系光吸収層)、
d)バッファ層(ZnO系バッファ層)及び
e)窓層(透明導電膜)(ZnO系透明導電膜)
が積層された積層体(pnヘテロ接合デバイス)を用いた。
実施例1
水酸化ナトリウム水溶液は水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製 特級)を蒸留水に溶解させたものを使用し、濃度はそれぞれ0.25、0.63、1.25、2.50、3.00、3.75、5.00、6.25、7.50mol/Lの6種類とした。積層体の重量と水酸化ナトリウム水溶液の体積の液比(積層体の単位重量当たりの水酸化ナトリウム水溶液の体積をいう。実施例2以降も同じ。)が10cm/gとなるように、ビーカー中で縦4cm×横5cmの積層体10gを水酸化ナトリウム水溶液100mlに浸漬し、20℃に設定した恒温器(タバイエスペック(株)製「PG−2KHP」)内に静置した。24時間後、処理された積層体の外観を観察した。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を孔径0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製メンブレンフィルターでろ過し、ろ液中の亜鉛濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置((株)島津製作所製「ICPS−7510」)で測定した。その結果を表1に示す。表1中の評価は、以下の通りである。
×:亜鉛イオンが十分に溶解せず、p型CIS系光吸収層が剥離しない。
△:亜鉛イオンがほぼすべて溶解し、p型CIS系光吸収層が剥離しない。
〇:亜鉛イオンがほぼすべて溶解し、p型CIS系光吸収層が剥離する。
◎:亜鉛イオンがほぼすべて速く溶解し、p型CIS系光吸収層の剥離速度が速い。
表1の結果からも明らかなように、2.5mol/L以上の濃度ではCIS系光吸収層が剥離し、亜鉛も完全に溶解しており、特に5.00mol/L以上の濃度では亜鉛の溶解も、CIS系光吸収層の剥離も比較的速くなることがわかる。すなわち、p型CIS系光吸収層がその下層の裏面電極層から剥離するとともに、その上層のバッファ層及び窓層が溶解しているということから、p型CIS系光吸収層が単体で固形物として分離されていることがわかる。
実施例2
水酸化ナトリウム水溶液は水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製 特級)を蒸留水に溶解させたものを使用し、濃度は5.00mol/Lとした。液比が10cm/gとなるように、ビーカー中で3cm×6cmの積層体9gを水酸化ナトリウム水溶液90mlに浸漬し、マグネチックスターラーで撹拌しながら恒温器(タバイエスペック(株)製「PG−2KHP」)内に静置した。液温は20℃、30℃及び40℃で一定とした。浸漬開始から1、3、5、10、20分後に水酸化ナトリウム水溶液をサンプリングし、孔径0.2μmのPTFE製メンブレンフィルターでろ過した後、亜鉛濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置((株)島津製作所製「ICPS−7510」)で測定した。その結果を図4に示す。図4に示すように、温度が高いほど亜鉛の溶解する速度が上昇した。また、いずれの温度においても浸漬開始から20分後には亜鉛が完全に溶解した。p型CIS系光吸収層の剥離状況について、表2に示す。表2中の評価は、以下の通りである。
△:p型CIS系光吸収層が剥離する。
〇:p型CIS系光吸収層がほぼ全て剥離する。
◎:p型CIS系光吸収層が完全に剥離する。
表2の結果からも明らかなように、20分後にはいずれの溶液温度でもCIS系光吸収層が剥離しており、溶液温度が高いほど剥離が速くなることがわかる。
実施例3
強塩基水溶液として、和光純薬工業(株)製の特級グレードの水酸化ナトリウムを蒸留水に溶解させたものを使用し、濃度は3.00、5.00mol/Lとした。液比が10cm/gとなるように、ビーカー中で縦4cm×横5cmの積層体10gを強塩基水溶液100mlに浸漬し、恒温器(タバイエスペック(株)製「PG−2KHP」)内に静置した。液温は20℃及び40℃で一定とした。24時間後、処理された積層体の外観を観察した。次いで、強塩基水溶液を孔径0.2μmのPTFE製メンブレンフィルターでろ過後、ろ液の亜鉛濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置((株)島津製作所製「ICPS−7510」)で測定した。その結果を表3に示す。表3中の評価は、以下の通りである。
×:亜鉛イオンが十分に溶解せず、p型CIS系光吸収層が剥離しない。
△:亜鉛イオンがほぼすべて溶解し、p型CIS系光吸収層が剥離しない。
〇:亜鉛イオンがほぼすべて溶解し、p型CIS系光吸収層が剥離する。
◎:亜鉛イオンがほぼすべて速く溶解し、p型CIS系光吸収層の剥離速度が速い。
表3に示すように、水酸化ナトリウム水溶液では、いずれの濃度、いずれの温度でもCIS系光吸収層が剥離し、亜鉛も溶解し、40℃ではCIS系光吸収層が完全に剥離できることがわかる。
実施例4
強塩基水溶液として、和光純薬工業(株)製の特級グレードの水酸化カリウムを蒸留水に溶解させたものを使用し、濃度は5.00mol/Lとした。液比が10cm/gとなるように、ビーカー中で縦4cm×横5cmの積層体10gを強塩基水溶液100mlに浸漬し、恒温器(タバイエスペック(株)製「PG−2KHP」)内に静置した。液温は40℃で一定とした。24時間後、処理された積層体の外観を観察した。次いで、強塩基水溶液を孔径0.2μmのPTFE製メンブレンフィルターでろ過した後、ろ液の亜鉛濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置((株)島津製作所製「ICPS−7510」)で測定した。その結果、亜鉛イオンがほぼすべて溶解し、p型CIS系光吸収層が剥離したことが確認された。
実施例5
水酸化ナトリウム水溶液は水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製 特級)を蒸留水に溶解させたものを使用し、濃度は5.00mol/Lとした。液比が10cm/gとなるように、積層体を水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、CIS系光吸収層を剥離させた。孔径0.2μmのPTFE製メンブレンフィルターでろ過後、CIS系光吸収層を蒸留水で洗浄し、110℃で乾燥させ、CIS系光吸収層を得た。得られたCIS系光吸収層を塩酸と過酸化水素の混合溶液(いずれの濃度も3mol/L)に浸漬し、完全に溶解させた。溶液中に溶解した成分を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置((株)島津製作所製「ICPS−7510」)で測定した。その結果、剥離回収したCIS系光吸収層に含まれる元素のうち、セレン、インジウム、銅、ガリウムの含有は認められたが、モリブデンは検出されなかった。以上のことから、アルカリ処理によりCIS系光吸収層のみを剥離・回収できることがわかる。
実施例6
水酸化ナトリウム水溶液は水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製 特級)を蒸留水に溶解させたものを使用し、濃度は5.00mol/Lとした。液比が10cm/gとなるように、積層体を水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、CIS系光吸収層を剥離させた。水溶液中からガラス基板、金属裏面電極層及び中間層からなる残部を回収し、蒸留水で洗浄後に乾燥させた。その後、塩酸と過酸化水素の混合溶液(塩酸濃度1mol/L、過酸化水素濃度1mol/L)に浸漬し、金属裏面電極層を溶解させた。得られたガラスの化学組成を蛍光X線分析装置((株)リガク製「ZSX100e」)で測定した結果を表4に示す。
表4に示すように、ガラス基板は、薄膜層に含まれる元素(Zn,Cu,In,Ga,Se,S,Mo)のうち、イオウ(S)以外は全く検出されなかった。このことから、積層された薄膜層の全ての層がCIS系薄膜太陽電池から完全に除去された。イオウ(S)の含有率は0.0055wt%であり、ガラス基板の原料に由来する硫酸根と推察される。以上の結果から、ガラス基板は、太陽電池製造におけるガラス基板の製造に再利用できることがわかる。
実施例7
剥離回収したp型CIS系光吸収層をTG/DTA装置((株)リガク製 TG8120)により熱分析した結果を図5に示す。測定条件は、空気200ml/min流下、室温から10℃/min昇温、1000℃ 30min保持とした。TG曲線により約350℃から重量減少が始まり、約800℃で減少が停止した。DTA曲線では3ヶ所の発熱ピーク(519℃、730℃、745℃)が認められた。気体中で加熱することによりp型CIS系光吸収層中のセレンが昇華し、約800℃で完全に昇華されるものと推定された。
次に、図3に示す電気炉加熱装置の石英ガラス管内に予めセラミック皿に計量した前記p型CIS系光吸収層の固形物 50mg を入れ、100 ml/minの空気ガスを流しつつ昇温し、800℃で1時間保持した。加熱装置出口部及び充填した石英ウールに付着した物質を塩酸及び過酸化水素でそれぞれ溶解し、金属成分を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置((株)島津製作所製「ICPS−7510」)で分析した。また、熱処理後の残渣を同様に塩酸及び過酸化水素で溶解し、金属成分を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置で分析した。その結果を表5に示す。
表5に示すように、加熱装置出口部及び充填した石英ウールに付着した物質からはセレンのみが検出され、熱処理後の残渣からはセレンが検出されなかった。また、このときのセレンの回収率は99.8wt%であった。加熱によるp型CIS系光吸収層中のインジウム、ガリウムは完全に残存し、銅も98.8wt%と極めて高い残存率を示した。これらの結果から、p型CIS系光吸収層の固形物を空気中で加熱することによりセレンのみを選択的に回収することができた。また、前記光吸収層の固形物に含まれる銅、インジウム及びガリウムの量は、前記加熱によってほとんど変化しないことが確認された。
実施例8
図7に示すような回転容器70を用いて積層体の細片化物のアルカリ処理を実施した。図7に示すように、積層体を50mm〜10mm大のカレット状に破砕した細片化物71(10kg)を内径250mm×長さ600mmの塩化ビニル樹脂製容器72に入れ、これに5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を15L加え、架台74に設けられた2つのローラー73,73上で常温下10rpmにて1時間回転させた。その後、その内容物を5メッシュ金網を通してバットに受けたところ、CIS系光吸収層が剥離し、細片化物から分離した。バット内アルカリ水溶液には微粉状で黒色のCIS系光吸収層が沈降した。バット内のアルカリ水溶液から上澄み液を除いた後、フィルターでCIS系光吸収層をろ過、水洗、乾燥して個体として回収した。前記金網上に残った上記のアルカリ処理済み細片化物を、水洗した上記の容器に再度投入し、塩酸と過酸化水素の混合溶液(塩酸濃度1.5mol/L、過酸化水素濃度0.6mol/L)13Lを加え、随時容器内に発生する酸素をガス抜き弁75からベントしながら、1時間かけて10rpmで回転した後、内容物を5メッシュ金網を通してバットに受け、これを水洗・乾燥して、透明なガラス基板を得た。得られたガラス基板をフッ化水素酸に完全溶解し、高周波誘導結合プラズマ発光分析装置((株)島津製作所製「ICPS−7500」)で分析したところ、セレン、銅、インジウム、ガリウム、モリブデンはいずれも検出されなかった。

Claims (4)

  1. CIS系薄膜太陽電池から有価物を回収する方法であって、
    当該CIS系薄膜太陽電池における、基板、裏面電極層、p型CIS系光吸収層、バッファ層及び透明導電膜を順に含む積層体又はその細片化物を一価強塩基の水溶液に接触させることによりp型CIS系光吸収層を固形物として分離する工程を含む、CIS系薄膜太陽電池の有価物の回収方法。
  2. 前記工程が、1)積層体又はその細片化物を一価強塩基の水溶液に浸漬させることによりp型CIS系光吸収層を固形物として分離する工程及び2)分離されたp型CIS系光吸収層を回収する工程を含む、請求項1に記載の回収方法。
  3. 一価強塩基が水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の回収方法。
  4. 水溶液の一価強塩基のモル濃度が2mol/Lから飽和溶解度までの範囲である、請求項1〜3のいずれかに記載の回収方法。
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