本発明の精製方法においては、不純物を含有する化合物I、特に化合物Iのアルキル置換体を不純物として含有する化合物Iを、蒸留塔中で特定の脂肪族炭化水素の存在下で蒸留することにより、高純度の化合物Iを得ることができる。
本発明の精製方法において出発材料として使用する化合物Iは、化合物Iと不純物との混合物または組成物であり、本発明では、このような混合物または組成物を精製することにより、そこから不純物を除去するか、または不純物の含有量を低下させることができる。
本明細書においては、出発材料として使用する上記の化合物Iを「化合物I含有混合物」として呼ぶこともある。
本発明では、式Iで表される化合物Iにおいて、X1はCH2またはOである。そして、式Iで表される化合物Iにおいて、X2はN−RまたはOであり、ここでRは低級アルキル基を表す。「低級アルキル」とは、炭素原子及び水素原子からなる、炭素数が特に1〜4の飽和脂肪族炭化水素残基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基を挙げることができる。なお、本明細書において単にプロピルやブチルと言う場合には、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルといったそれらの異性体も包含するものとする。
本発明の1つの実施態様においては、式IにおけるX1はCH2であり、X2はN−Rであり、ここでRは上記で定義したとおりである。
本発明のさらなる実施態様において、式IにおけるX1はCH2であり、X2はOである。
また、本発明の別の実施態様においては、式IにおけるX1およびX2がいずれもOである。
式Iで表される化合物Iとしては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−プロピル−2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトンまたは炭酸エチレン等を挙げることができる。
本発明において、化合物Iに含まれる除去すべき「不純物」の一つは、化合物Iのアルキル置換体である。ここで、化合物Iの「アルキル置換体」とは、化合物Iの五員環内の少なくとも1つのCH2部の1つまたは2つの水素原子が低級アルキル基で置換された置換体を意味する。上記アルキル置換体は、好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基によって置換されている。ここで、上記アルキル置換体においては、化合物Iの五員環内のいずれのCH2部において水素原子が置換されていてもよい。そして、1つのアルキル置換体における上記低級アルキル基による置換の数についても、置換されるCH2部の数、置換される水素原子の数ともに任意であって、特に制限はされない。すなわち、式IのX1がCH2の場合には、五員環内の1つ、2つまたは3つのCH2部において、CH2中の1つまたは2つの水素原子が上記低級アルキル基によって置換されており、あるいは、式IのX1がOの場合には、五員環内の1つまたは2つのCH2部において、CH2中の1つまたは2つの水素原子が上記低級アルキル基によって置換されている。
本発明においては特に、化合物Iの五員環内の少なくとも1つのCH2部の1つまたは2つの水素原子がメチル基で置換されたアルキル置換体を首尾よく分離・除去できることが確認された。このような置換体を本明細書においては「メチル置換体」とも呼ぶ。好ましくは、上記メチル置換体は、化合物Iの五員環内の1つのCH2部において1つの水素原子がメチル基で置換されている。
その他に、「不純物」としては、図1、図3、図6において、化合物I及びアルキル置換体の他に現れるピークに相当するものがある。これらは、原料・製造由来の不純物、または経時変化(空気、水分、紫外線等による分解・反応)によって化合物Iから形成される不純物と考えられる。
例えば、化合物IがN−メチル−2−ピロリドンの場合には、このような不純物としては、例えばγ−ブチロラクトン(原料由来)や、経時変化によってN−メチル−2−ピロリドンから形成される不純物(以下、「N−メチル−2−ピロリドン派生物」とも呼ぶ)が考えられ、GC−MS分析によれば、当該N−メチル−2−ピロリドン派生物は一般的に50〜150の分子量、特に70〜120の分子量を有する。
上記のN−メチル−2−ピロリドン派生物として考えられるものは、例えば、N−メチル−2−ピロリドンの分解生成物・開裂生成物、N−メチル−2−ピロリドンの少なくとも1つのCH2部がカルボニル基の構造に変換された化合物、N−メチル−2−ピロリドンの少なくとも1つのCH2部においてCH2中の1つまたは2つの水素原子がヒドロキシル基によって置換された化合物、およびN−メチル−2−ピロリドンの五員環内のCH2とCH2の間の単結合のうちの1つが二重結合に変換された化合物等である。
上記のN−メチル−2−ピロリドンの分解生成物・開裂生成物の構造としては、例えば以下の式(i)および(ii)が考えられ得る。
上記のN−メチル−2−ピロリドンの少なくとも1つのCH2部がカルボニル基の構造に変換された化合物の構造としては、例えば以下の式(iii)〜(v)が考えられ得る。
上記のN−メチル−2−ピロリドンの少なくとも1つのCH2部においてCH2中の1つまたは2つの水素原子がヒドロキシル基によって置換された化合物の構造としては、例えば以下の式(vi)および(vii)が考えられ得る。
上記のN−メチル−2−ピロリドンの五員環内のCH2とCH2の間の単結合のうちの1つが二重結合に変換された化合物の構造としては、例えば以下の式(viii)および(ix)が考えられ得る。
なお、実施例1〜3で使用したN−メチル−2−ピロリドンの新液の分子量をGC−MSの化学イオン化法(CI法)によって測定すると、N−メチル−2−ピロリドンの他に、分子量50〜150の化合物が主に検出され、その中には、分子量73、87、97、113、115の化合物が含まれていた。上記の式(i)〜(ix)の化合物はいずれもこれらの分子量と合致するものである。
特に、原料由来のγ−ブチロラクトン、並びに式(i)、(ii)、(iii)および(viii)の化合物については、GC−MSの電気衝撃法(EI法)を用いて分析したところ、対応するマススペクトルが、マススペクトルライブラリーに登録されたスペクトルパターンと合致することが確認された。
また、化合物Iがγ−ブチロラクトンの場合には、アルキル置換体以外の不純物としては、例えば原料・製造由来の不純物、例えば、原料である1,4−ブタンジオールや、1,4−ブタンジオールに由来するアルデヒド類および環状ヘミアセタール類の化合物、およびテトラヒドロフラン系化合物が考えられ、GC−MS分析によればこれらの化合物は一般的に50〜180の分子量、特に70〜160の分子量を有する。
このような1,4−ブタンジオール由来のアルデヒド類や環状ヘミアセタール類、テトラヒドロフラン系化合物に関しては、特開平10−152485号や特開2003−286277号に開示されているように、γ−ブチロラクトンを1,4−ブタンジオールから製造した場合に不純物として含まれ得ることが既に知られており、上記アルデヒド類としては、例えば、上記文献に記載されるようなブチルアルデヒド、4−ヒドロキシブタナールおよびテトラヒドロフラノ−2−オキシブタナールが挙げられ、それ以外にも4−オキソブタナール等が考えられる。
また、上記環状ヘミアセタール類としては、例えば上記文献に記載されるような2−ヒドロキシテトラヒドロフランが挙げられる。
テトラヒドロフラン系化合物は1,4−ブタンジオールの脱水によって生成すると考えられ、例えば上記文献に記載されるようなテトラヒドロフランが挙げられ、それ以外にも、例えば、以下の式(1)〜(9)の構造:
が考えられ得る。また、上記の2−ヒドロキシテトラヒドロフランは環状ヘミアセタール類でもあるが、一方でテトラヒドロフラン系化合物としても認識される。上記式(1)〜(9)の化合物や2−ヒドロキシテトラヒドロフランは、原料の1,4−ブタンジオールがそのCH2部分において何等かの置換基によって既に置換されてしまっている場合に、当該置換基の種類に応じて主に生じるものであると考えられる。
なお、実施例4および比較例1で使用したγ−ブチロラクトンをGC−MSのCI法によって測定すると、γ−ブチルラクトンの他に、分子量50〜180の化合物が主に検出され、その中には、分子量102、116、130、144の化合物が含まれていた。上記の式(1)〜(9)の化合物はいずれもこれらの分子量と合致するものである。
また、アルキル置換体以外の不純物としては、上述したもの以外に、図1、3および6におけるGCピークのいずれかに相当するが未同定である不純物も含まれ得る。
本発明では、化合物Iを本発明の精製方法に付すことにより、化合物IがN−メチル−2−ピロリドンである場合には、上記のようなγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン派生物、および上記の未同定不純物についても化合物Iから除去できること、そして、化合物Iがγ−ブチロラクトンである場合には、上記のような1,4−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール由来のアルデヒド類や環状ヘミアセタール類、テトラヒドロフラン系化合物、および上記の未同定不純物についても化合物Iから除去できることが確認された。なお、N−メチルスクシンイミド(MSI、式(iii)の化合物)はアルカリ処理によって除去することも可能である。
従って、本発明は、化合物Iの精製方法であって、化合物Iを脂肪族炭化水素の存在下に蒸留することを特徴とする精製方法に関する。
1つの実施態様において、本発明は、蒸留に供される化合物Iが、化合物Iのアルキル置換体を不純物として含むことを特徴とする、上記の精製方法に関する。
さらなる1つの実施態様において、本発明は、蒸留に供される化合物Iが、
−化合物Iのアルキル置換体、および/または、
−上記化合物IがN−メチル−2−ピロリドンである場合には、γ−ブチロラクトンおよび/またはN−メチル−2−ピロリドン派生物、または
上記化合物Iがγ−ブチロラクトンである場合には、1,4−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール由来のアルデヒド類および環状ヘミアセタール類、ならびにテトラヒドロフラン系化合物からなる群から選択される少なくとも1種、
を不純物として含むことを特徴とする、上記の精製方法に関する。
本発明の1つの実施態様において、上記N−メチル−2−ピロリドン派生物は、N−メチル−2−ピロリドンの分解生成物・開裂生成物、N−メチル−2−ピロリドンの少なくとも1つのCH2部がカルボニル基の構造に変換された化合物、N−メチル−2−ピロリドンの少なくとも1つのCH2部においてCH2中の1つまたは2つの水素原子がヒドロキシル基によって置換された化合物、および/またはN−メチル−2−ピロリドンの五員環内のCH2とCH2の間の単結合のうちの1つが二重結合に変換された化合物である。
本発明のさらなる1つの実施態様において、上記N−メチル−2−ピロリドン派生物は、上記の式(i)〜(ix)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物である。
本発明のさらに別の実施態様において、上記の1,4−ブタンジオール由来のアルデヒド類および環状ヘミアセタール類は、ブチルアルデヒド、4−ヒドロキシブタナール、テトラヒドロフラノ−2−オキシブタナール、4−オキソブタナール、2−ヒドロキシテトラヒドロフランからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
本発明のさらなる1つの実施態様において、上記のテトラヒドロフラン系化合物は、テトラヒドロフラン、2−ヒドロキシテトラヒドロフランおよび上記式(1)〜(9)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
上述のように、化合物Iは新液として市販されているものであっても、アルキル置換体や、他の不純物を含んでしまっている場合がある。本発明においては、化合物Iのアルキル置換体や上記の他の不純物を含むこのような新液を化合物Iとして使用することができる。また、例えば化合物Iを溶剤として使用し、使用後に回収した化合物Iの廃液も、本発明の化合物Iとして使用することができる。本発明においては、不純物としてアルキル置換体および/または上記の他の不純物を含有し、蒸留操作に付すことが可能なものであればその形態に関わらず、いずれの形態の化合物I(例えば、市販品、新液、廃液、その他の形態の化合物I)も化合物Iとして使用することができる。
本発明では、上記のような不純物を含む化合物Iを脂肪族炭化水素の存在下で蒸留に付す。
ここで、上記の脂肪族炭化水素は、炭素原子及び水素原子からなり、飽和でも不飽和でもよく、鎖状でも、分岐状でも、または環式でもよい。好ましくは飽和脂肪族炭化水素が使用され、特に好ましくは鎖状の飽和脂肪族炭化水素が使用される。また、本発明では、1種の脂肪族炭化水素の存在下で蒸留を行うことができ、または2種以上の脂肪族炭化水素を任意の重量比で含む脂肪族炭化水素の混合物の存在下で蒸留を行うことができる。
好ましくは、上記脂肪族炭化水素は、8〜18の炭素数を有し、より好ましくは9〜14、特に好ましくは10〜12、最も好ましくは10の炭素数を有する。本発明においては、このような範囲にある炭素数を有する脂肪族炭化水素を用いた場合に、化合物Iのアルキル置換体および/またはその他の上記不純物を首尾よく除去できることが確認された。
本発明において使用できる脂肪族炭化水素としては、例えば、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、n−トリデカン、n−テトラデカン、n−ペンタデカン、n−ヘキサデカン、n−ヘプタデカン、n−オクタデカン、1−デセン、1−ウンデセン等、ならびにこれらの異性体が挙げられるがこれらに限定はされない。好ましくは、上記脂肪族炭化水素はn−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、n−トリデカンまたはn−テトラデカンあるいはこれらの異性体であり、より好ましくはn−デカン、n−ウンデカンまたはn−ドデカン、あるいはこれらの異性体である。本発明では、n−デカンを用いた場合に最も高い濃縮率を達成できることも確認された。よって、最も好ましくはn−デカンが上記脂肪族炭化水素として使用される。
本発明において、蒸留における脂肪族炭化水素の量は、蒸留中に、塔頂と塔底に脂肪族炭化水素が存在できる量であれば特に限定されない。ただし、脂肪族炭化水素の量が少なすぎたり、あるいは逆に多すぎる場合には、化合物Iのアルキル置換体および/または他の不純物の除去効果・除去効率が低くなってしまう。従って、化合物Iの含有量にもよるが、一般に、処理液に対して5〜200重量%、より好ましくは10〜100重量%、特に好ましくは15〜40重量%の量の脂肪族炭化水素の存在下で蒸留を行う。
本発明の精製方法では、化合物I含有混合物から化合物Iのアルキル置換体および/またはその他の上記不純物が極めて良好に除去される。そしてまた本発明の精製方法では、アルキル置換体等の不純物が実質的に除去された化合物I(もしくは当該不純物の含有量が十分に低下した化合物I)を塔頂留出物として回収することができるが、そのような効果に加えて、化合物Iから分離された不純物を蒸留塔の塔底に濃縮できるという効果も奏される。
なお、本発明の精製方法では、上記のように蒸留塔全体にわたって脂肪族炭化水素を存在させるが、当業者であれば、蒸留塔への脂肪族炭化水素の投入量を、使用する蒸留塔のサイズや他の蒸留条件に応じて適宜調節することにより、塔頂と塔底を含む蒸留塔全体にわたって脂肪族炭化水素を存在させることが可能である。
例えば、理論段数15段、塔直径30mmの不規則蒸留塔を使用してN−メチル−2−ピロリドンをデカンの存在下で蒸留する場合には、デカン250gと原料N−メチル−2−ピロリドン410gを仕込んで加温し、塔底温度120〜80℃、塔頂温度120〜50℃、圧力6〜4kPaで運転すると、塔頂および塔底を含めた塔全体にわたってデカンを存在させることができる。
そして、本発明では、本発明の精製方法が、特に、N−メチル−2−ピロリドンのメチル置換体の中でもメチル置換体(I)を、そして、γ−ブチロラクトンのメチル置換体の中でもα−メチル−ブチロラクトンおよびγ−バレロラクトンを良好に除去できることも見出された。
上記化合物IがN−メチル−2−ピロリドンである場合、五員環の1つのCH2部において1つの水素原子がメチル基で置換されているメチル置換体が3種類生じ得るが、ここでは、これらの3つのメチル置換体をそれぞれ「メチル置換体(I)」、「メチル置換体(II)」、「メチル置換体(III)」と呼ぶ。これらの「メチル置換体(I)」、「メチル置換体(II)」、「メチル置換体(III)」は、下記の「GC条件1」に記載される条件下でガスクロマトグラフィーによって化合物I含有混合物(化合物I=N−メチル−2−ピロリドン)を分析した場合に、それぞれ、N−メチル−2−ピロリドンのピークが検出される保持時間の0.315±0.025分後(メチル置換体(I))、0.694±0.025分後(メチル置換体(II))および0.967±0.025分後(メチル置換体(III))にピークとして検出されるメチル置換体である(これらはそれぞれ、図3において、保持時間11.517分、11.902分、12.158分にピークを示す化合物に相当する)。
本発明では、蒸留塔の塔底に脂肪族炭化水素を存在させずに同様に蒸留を行うと(脂肪族炭化水素は塔内には存在するが塔底には存在しない)、メチル置換体(II)および(III)は化合物I含有混合物から多少除去されるが、メチル置換体(I)はほとんど除去されないこと、それに対して、塔底にまで脂肪族炭化水素を存在させて蒸留を行った場合には、メチル置換体(I)〜(III)のいずれもが極めて良好に除去できることが確認された。特に、本発明の方法では、塔底に脂肪族炭化水素が存在しない蒸留ではほとんど除去することができないメチル置換体(I)を極めて良好に除去することができる(表6)。
上記化合物Iがγ−ブチロラクトンである場合、五員環の1つのCH2部において1つの水素原子がメチル基で置換されているメチル置換体が3種類、すなわち、α−メチル−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンおよびこれら2つとは異なる位置がメチルで置換されたメチル置換体(本明細書では、「α/γ以外のメチル置換体」とも呼ぶ)が生じ得る。
本発明では、塔底に脂肪族炭化水素を存在させずに蒸留を行うと(脂肪族炭化水素は塔内には存在するが塔底には存在しない)、α/γ以外のメチル置換体は化合物I含有混合物からある程度良好に除去されるが、α−メチル−ブチロラクトンとγ−バレロラクトンはほとんど除去されないこと、それに対して、塔底に脂肪族炭化水素を存在させて蒸留を行った場合には、上記3種のいずれのメチル置換体も極めて良好に除去できることが確認された。特に、本発明の方法では、塔底に脂肪族炭化水素が存在しない蒸留ではほとんど除去することができないα−メチル−ブチロラクトンおよびγ−バレロラクトンを極めて良好に除去することができる(表7)。
従って、1つの実施態様において、本発明は、上記の化合物I含有混合物が、上記化合物IがN−メチル−2−ピロリドンである場合には、メチル置換体(I)を不純物として含むことを特徴とする、上記の精製方法に関する。
すなわち、1つの実施態様において、本発明は、上記の化合物I含有混合物が、上記化合物IがN−メチル−2−ピロリドンである場合には、メチル置換体(I)を不純物として含み、そして、上記メチル置換体(I)が以下の条件下:
測定装置:島津製作所製GC−17A,カラム:InertCap1(=NB−1)(長さ30m,内径0.25mm,膜厚1.50μm),検出器:FID,Inj温度250℃,検出器温度250℃,試料注入量0.5μL,スプリット比1:100,カラム温度条件:初期温度100℃(5分保持)10℃/分で230℃まで昇温、230℃(23分保持)、キャリアーガス:ヘリウムHe,キャリアーガス流量:29cm/s、
でガスクロマトグラフィーによって化合物I含有混合物を分析した場合に、N−メチル−2−ピロリドンのピークが検出される保持時間の0.315±0.025分後にピークとして検出されるメチル置換体であることを特徴とする、上記の精製方法に関する。
さらなる1つの実施態様において、本発明は、上記の化合物I含有混合物が、上記化合物Iがγ−ブチロラクトンである場合には、α−メチル−ブチロラクトンおよびγ−バレロラクトンを不純物として含むことを特徴とする、上記の精製方法に関する。
また、蒸留中に塔全体にわたって脂肪族炭化水素が存在することに関して、本発明ではさらに、塔底における脂肪族炭化水素濃度に応じて、アルキル置換体(および/またはその他の上記不純物)をさらに効率よく化合物Iから除去できることも確認された。
好ましくは、本発明の精製方法においては、蒸留中に蒸留塔の塔底に、蒸留塔内における化合物I含有混合物および脂肪族炭化水素の合計量を基準として、5重量%以上の脂肪族炭化水素を存在させることができる。
例えば、化合物IがN−メチル−2−ピロリドンである場合には、塔底に存在する脂肪族炭化水素の量は、蒸留塔内における化合物I含有混合物および脂肪族炭化水素の合計量を基準として、5重量%以上、好ましくは20%重量以上、より好ましくは30重量%以上、特に好ましくは34%重量以上であることができる。なお、塔底に存在する脂肪族炭化水素の量の上限は、通常の蒸留操作を実施できる量であれば特に制限されない。
図11に示されるように、塔底に存在する脂肪族炭化水素の量が30重量%以上になるとメチル置換体(II)の濃度が0.0001%以下という極めて低い値となり、塔底に存在する脂肪族炭化水素の量が34重量%以上になるとメチル置換体(II)濃度は検出限界以下となり、高純度化という観点から特に有利である。また、原料ではそれぞれ約0.02%および約0.09%であったメチル置換体(I)の濃度およびメチル置換体(I)〜(III)の合計濃度に関しても、塔底に存在する脂肪族炭化水素の量が30重量%以上、特に34重量%以上になると、約0.002%以下にまで顕著な減少を示す(図10および12)。
このように、本発明においては、化合物IがN−メチル−2−ピロリドンである場合、蒸留中に蒸留塔の塔底に存在する脂肪族炭化水素の量を30重量%以上、特に34重量%以上にすると、化合物Iに含まれるメチル置換体の濃度をより一層顕著に減少させられることが確認された。
また、化合物Iがγ−ブチロラクトンである場合には、塔底に存在する脂肪族炭化水素の量は、蒸留塔内における化合物I含有混合物および脂肪族炭化水素の合計量を基準として、5重量%以上、好ましくは20%重量以上、より好ましくは25重量%以上、特に好ましくは28重量%以上であることができる。
図13に示されるように、塔底に存在する脂肪族炭化水素の量が28重量%以上になるとメチル置換体(α−メチル−ブチロラクトン+γ−バレロラクトン)の濃度が検出限界以下となり、高純度化という観点から特に有利である。
また、α/γ以外のメチル置換体の濃度およびこれら3種のメチル置換体の合計濃度に関しても、塔底に存在する脂肪族炭化水素の量が20重量%以上、特に25重量%以上になると極めて顕著な減少を示す(図14および15)。
これらの濃度に関しては、図14および15に示されるように、塔底に存在する脂肪族炭化水素の量が高すぎると上昇する傾向が見られ、脂肪族炭化水素の塔底の量が39重量%以下、特に35重量%以下である場合に、上記の極めて顕著な減少効果は維持された。
ただし、これらの図に示される結果は、バッチ式で蒸留を行った場合のものである。ここでは、蒸留中に数回にわたって塔頂留出物(下層の化合物I含有層)を回収してその組成を分析しているが、同時に、この回収による塔内の原料量の低下は、脂肪族炭化水素の追加的添加とともに塔底の脂肪族炭化水素濃度(化合物I含有混合物と脂肪族炭化水素の合計を基準とする)の変動(増加)にも寄与している。従って、当該蒸留において高い脂肪族炭化水素塔底濃度が達成されている場合には、塔内における原料の量(体積)が減少しており、原料中でメチル置換体が濃縮された状態が生じている。図14および15の結果はこのような塔内の状態に起因するものであり、従ってこれは、バッチ蒸留においてこのような濃縮状態が形成されるとメチル置換体が塔頂留出物に含まれ易くなる傾向を示すものであると考えることができる。よって、化合物Iがγ−ブチロラクトンであり、蒸留がバッチ式で行われる場合には、蒸留中に蒸留塔の塔底に存在する脂肪族炭化水素の量は、好ましくは、20〜39重量%であり、より好ましくは、25〜35重量%であることができる。
本発明においては、化合物Iがγ−ブチロラクトンである場合、蒸留中に蒸留塔の塔底に存在する脂肪族炭化水素濃度が上記の範囲内である場合に、特に顕著なメチル置換体除去効果を達成できることが確認された。
なお、上記のような脂肪族炭化水素の塔底濃度に応じたアルキル置換体の除去効率に関する挙動は、連続式で蒸留を行った場合についても同様に当てはまるものである。
通常、連続式蒸留では、原料を適切な速度で蒸留塔に定常的に供給し、それと同時に適切な速度で塔頂留出物と塔底液(または「缶出液」とも呼ぶ)とを塔から抜き出すことにより、蒸留塔内の組成分布が時間の経過によっても変化せずに一定となる状態、すなわち、定常状態を形成させる。従って、例えば、本発明において蒸留をバッチ式で行う場合には、蒸留に供される化合物I含有混合物と脂肪族炭化水素の合計量が上記の「蒸留塔内における化合物I含有混合物および脂肪族炭化水素の合計量」に相当するが、蒸留を連続式で行う場合には、上記のような定常状態にある蒸留塔内での化合物I含有混合物と脂肪族炭化水素の量が、上記の「蒸留塔内における化合物I含有混合物および脂肪族炭化水素の合計量」と実質的に等価であり、それに相当する。なお、連続式蒸留に関して、当業者であれば、蒸留塔のサイズや化合物I含有混合物・脂肪族炭化水素の初期供給量、他の蒸留条件に応じて、化合物I含有混合物の蒸留塔への供給速度と、塔頂留出物および缶出液の抜き出し速度とを適宜調節することにより、化合物I含有混合物を所望の量で塔内に含む定常状態を形成させることが可能である。
そして、連続式蒸留の場合、上記の定常状態では塔内の原料の量(体積)が一定となるため、バッチ式蒸留で得られた結果を、塔内の原料の量(体積)が同一に維持されたと仮定して再計算することによって、連続式蒸留の場合における脂肪族炭化水素の塔底濃度とメチル置換体除去効率との関係を近似的に把握できるものと考えられる。
図17は、そのような目的の下で、図10〜15(ならびに表2および3)に示したデータを、塔頂留出物(二層分離後の下層)の抜き取りによっても塔内の原料の量が減少せずにそのままの体積を維持したものとして計算し直し、それによって得られた結果を再度グラフ化したものである(図17A〜Fがそれぞれ図10〜15と対応する)。ここでは、塔内原料量の減少の影響が排除されるため、図10〜15に示したよりも良好なメチル置換体の除去効果を確認できるが(特に、塔底デカン濃度が高い領域において)、図17は基本的にはバッチ式で行った場合と同様の傾向を示すものであり、従って、連続式で蒸留を行った場合も、基本的にはバッチ式蒸留の場合と同様の傾向を示すと考えることができる。
以上のように、上記のような量の脂肪族炭化水素が塔底に存在する場合に、本発明の精製方法ではより一層良好にアルキル置換体(および/またはその他の上記不純物)を化合物Iから分離・除去することができる。
なお、塔底の脂肪族炭化水素量は、例えば、塔底液の組成をガスクロマトグラフィーで分析することにより、塔底液の量と脂肪族炭化炭素の割合から算出することができ、そして当業者であれば、蒸留塔のサイズや他の蒸留条件に応じて蒸留塔内に投入する脂肪族炭化水素の量を適宜調節することにより、塔底の脂肪族炭化水素量を所望の量に調節することができる。
従って、1つの実施態様において、本発明は、化合物Iを含有する混合物を蒸留塔中で蒸留して精製する方法であって、この混合物を脂肪族炭化水素の存在下に蒸留し、その際、塔頂と塔底の両方を含む蒸留塔全体にわたって脂肪族炭化水素が存在することを特徴とする精製方法に関する。
さらなる1つの実施態様において、本発明は、蒸留塔の塔底に、蒸留塔内における化合物I含有混合物および脂肪族炭化水素の合計量を基準として、5%重量以上の脂肪族炭化水素が存在することを特徴とする、上記の精製方法に関する。
また、1つの実施態様において、本発明は、上記化合物IがN−メチル−2−ピロリドンである場合には、蒸留塔の塔底に、蒸留塔内における化合物I含有混合物および脂肪族炭化水素の合計量を基準として、5重量%以上、好ましくは30重量%以上の脂肪族炭化水素が存在することを特徴とする、上記の精製方法に関する。
さらに別の実施態様において、本発明は、上記化合物Iがγ−ブチロラクトンである場合には、蒸留塔の塔底に、蒸留塔内における化合物I含有混合物および脂肪族炭化水素の合計量を基準として、5重量%以上、好ましくは25重量%以上の脂肪族炭化水素が存在することを特徴とする、上記の精製方法に関する。
なお、化合物Iを脂肪族炭化水素の存在下で蒸留するためには、蒸留塔に供す前に、化合物Iに上記脂肪族炭化水素を添加し、両者の混合物を蒸留塔に供給することができ、あるいは、化合物Iと上記脂肪族炭化水素は、別々に蒸留塔に供給することもできる。
本発明における、脂肪族炭化水素の存在下での化合物Iの蒸留は、公知の蒸留方法を特に制限なく採用することができ、例えば、バッチ式または連続式で蒸留を行うことができる。
使用される蒸留塔の種類も特に制限はされないが、塔頂部と塔底部とを有する蒸留塔が使用される。ここで、「塔頂」(または「塔頂部」)、「塔底」(または「塔底部」)とは、蒸留塔の塔頂(塔頂部)そのものまたは塔底(塔底部)そのものを意味し、そこに棚段や充填物は含まれない。蒸留塔としては、例えば、規則充填塔、不規則充填塔、棚段塔等を用いることができる。塔の段数は、使用する脂肪族炭化水素や還流比、他の蒸留条件等に応じて適宜選択することができるが、通常、(理論)段数5〜100段程度である。上記の「(理論)段数」とは、蒸留塔が棚段塔の場合には棚段の数を示し、棚段塔以外の塔、例えば充填塔を使用する場合には理論段数を示す。また、棚段部と充填物が充填された部分とを合わせ持つ蒸留塔の場合には、「(理論)段数」は、棚段の数と理論段数の合計である。本発明では、十分な数の段において脂肪族炭化水素と化合物Iの気液平衡が形成されるように、好ましくは、(理論)段数が5段以上、より好ましくは理論段数が10段以上の塔が使用される。ただし、あまり塔が高いと脂肪族炭化水素の使用量が多くなってしまうとともに、塔圧がかかり塔底の温度が高くなってしまうので、経済的コストおよび化合物の熱に対する安定性の観点から、(理論)段数5〜100段、好ましくは10〜75段、より好ましくは15〜50段の塔を用いるのが好ましい。
従って、本発明の1つの態様において、本発明は、上記蒸留が、(理論)段数5段以上の蒸留塔を使用して行われることを特徴とする、上記精製方法に関する。
本発明では、このような(理論)段数を有する蒸留塔を使用し、本明細書の記載から明らかとなる適切な他の条件の下で、塔全体にわたって脂肪族炭化水素を存在させ、好ましくは、蒸留塔の塔底に上記の量の脂肪族炭化水素を存在させることにより、極めて良好なアルキル置換体除去レベルを達成することができる。
上記蒸留における条件も特に制限されるものではなく、常圧または減圧下に実施することができる。しかしながら、物質の安定性の観点から、減圧下で蒸留を行うのが好ましい。上記蒸留は好ましくは、100kPa以下、より好ましくは2〜50kPa、さらに好ましくは3〜40kPa、特に好ましくは4〜30kPaの圧力下で行われる。好ましくは、蒸留は、窒素(N2)雰囲気下で行われる。塔底温度は、例えば、60〜190℃で実施することができる。また、塔頂温度は、例えば50〜120℃で実施することができる。物質の熱に対する安定性を考慮すると、塔底温度は好ましくは70℃〜150℃であり、特に好ましくは80℃〜120℃である。また、同様の観点から、塔頂温度は好ましくは60℃〜110℃、より好ましくは80℃〜110℃である。
また、連続的に蒸留を行う場合に、蒸留する液の供給箇所も特に制限はなく、蒸留塔の任意の箇所から供給することができる。この場合に、化合物Iと脂肪族炭化水素は同一の箇所から供給しても、または別々の箇所から供給してもよい。
上述のように、本発明における化合物Iとしては、蒸留操作に付すことが可能なものであれば、新液や廃液を含めていかなる形態のものを使用することもできる。
通常、このような化合物Iは、新液製造に用いられた合成方法や精製方法、あるいは廃液として回収される前の溶剤としての使用形態等によっても異なるが、一般に、市販の新液であれば、0.01〜0.5%程度のアルキル置換体を含有している。
また、例えば廃液を用いる場合であって、アルキル置換体やその他の上記不純物以外に他の成分を含む場合には、前処理(中和・吸着・蒸留等)を施してから蒸留に付すことが好ましい。特に、廃液の場合には化合物Iの原料や製造に由来しない不純物も含む場合があるため、そういった不純物を前処理によって除去しておくことが望ましい。当業者であれば、不純物の種類に応じて適宜、中和、吸着、蒸留あるいは従来から前処理として用いられるその他の処理から適当な処理を前処理として選択し実施することができる。前処理は、場合によっては、複数種の処理を選択してそれらを組み合わせて実施することも可能である。
さらに、例えば、N−置換ピロリドン類に着色物質が不純物として含まれる場合には、特公昭47−22225号公報に記載されるように、過マンガン酸カリウム等の酸化剤で処理することにより当該着色物質を除去することができる。また、例えばN−置換ピロリドン類がアミン臭以外の強い異臭を伴う場合には、特公昭46−32263号公報に記載されるように、水を添加して蒸留を行うことによって異臭成分を除去することができる。
このような前処理は、廃液等の場合に限らず、化合物Iの新液を使用する場合であっても施すことができる。例えば、N−メチル−2−ピロリドンの場合に含まれ得るMSIは、アルカリ処理や通常の蒸留によって除去することも可能である。
以上のような前処理によって、化合物Iの純度をなるべく高めておくことが望ましく、本発明の精製方法に付される処理液(すなわち化合物I含有混合物)は約50%以上の化合物Iを含んでいることが好ましい。
処理液中の化合物Iの濃度をできるだけ高くしておくことにより、化合物Iのより一層高度な精製を達成することができる。
なお、上記のような処理は、本発明による蒸留を終えた後に、不純物の残存濃度に応じて後処理として行うこともできる。
本発明では、上記のように、化合物Iを脂肪族炭化水素の存在下に蒸留することにより、化合物Iから、化合物Iのアルキル置換体、および/または、上記化合物IがN−メチル−2−ピロリドンである場合には、γ−ブチロラクトンおよび/またはN−メチル−2−ピロリドン派生物、または上記化合物Iがγ−ブチロラクトンである場合には、1,4−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール由来のアルデヒド類および環状ヘミアセタール類および/またはテトラヒドロフラン系化合物を首尾よく分離・除去することができる。
具体的には、上記蒸留において、化合物Iのアルキル置換体および/またはその他の上記不純物は蒸留塔の塔底に濃縮される。一方、アルキル置換体および/またはその他の上記不純物が除去された高純度の化合物Iが、塔頂からの留分として得られる。特にアルキル置換体に関しては、蒸留条件にもよるが、通常、化合物Iに含まれる初期濃度の1/10以下までにアルキル置換体を除去することが可能であり、そして/あるいは、当該アルキル置換体を、蒸留塔の塔底に、好ましくは化合物Iに含まれる初期濃度(または塔頂留分中における化合物I濃度)の10倍以上にまで濃縮することができる。
なお、塔底に濃縮されたアルキル置換体および/またはその他の上記不純物は、連続蒸留の場合には、一定濃度で塔底から取り出すことも可能である。
通常、蒸留工程を1回行うことにより、十分に高純度の化合物Iを得ることができるが、再度、蒸留工程に供することによってさらにアルキル置換体および/またはその他の上記不純物を除去し、より一層高純度な化合物Iを得ることもできる。従って、例えば、化合物Iに含まれるアルキル置換体および/またはその他の上記不純物の初期濃度が高い場合には、上記の蒸留工程を数回繰返すことで、高純度の化合物Iを得る事も可能である。
このような再蒸留に関しても、公知の蒸留方法を特に制限なく採用することができ、例えば、バッチ式または連続式で蒸留を行うことができる。この場合にはもちろん、1回目の蒸留と同一の条件および同一の操作を用いて再蒸留を行うことも可能である。
なお、上記蒸留において、脂肪族炭化水素は塔底および塔頂を含めた蒸留塔全体にわたって存在するため、上記の塔頂からの留分中には、高純度の化合物Iの他に、添加した脂肪族炭化水素が場合により含まれ得る。しかしながら、脂肪族炭化水素と化合物Iは、必要に応じて冷却することにより二層分離させることができるため、それによって、あるいはそのような二相分離後の下層(化合物I含有層)を公知の蒸留方法を用いて、場合により水の存在下で蒸留することによって、上記のような脂肪族炭化水素は化合物Iから完全に分離・除去することができる。
また、このように塔頂留出物から除去した脂肪族炭化水素は、蒸留塔に戻すことにより再利用することも可能である。例えば、塔頂留出物に含まれる脂肪族炭化水素は上記のような二層分離後の上層に回収することができるため、この上層をそのまま蒸留塔に戻すことができる。
従って、塔頂からの留分に脂肪族炭化水素が含まれる場合であっても、上記のように化合物Iとの二層分離後にそれを再び、好ましくは連続的に蒸留塔に戻すことができる。そして、それにより、蒸留塔内部の脂肪族炭化水素の量が一定となるため、蒸留塔中の組成を一定に維持することができる。その場合には、蒸留塔内に形成された脂肪族炭化水素と化合物Iとの間の気液平衡が安定するため、化合物Iとそのアルキル置換体(および/またはその他の上記不純物)をより一層良好にかつ安定に分離することができる。
ここで、塔頂から留出された脂肪族炭化水素は、蒸留塔内に形成された気液平衡を崩さないように蒸留塔に戻すことが好ましく、使用する蒸留塔のサイズや他の蒸留条件にもよるが、例えば、0.1〜20ml/分、好ましくは1〜5ml/分の量で、蒸留塔に戻すことができる。
また、塔頂から留出された脂肪族炭化水素は、蒸留塔の任意の場所から蒸留塔に戻すことができ、例えば、塔頂からでも、塔底からでも、または途中の段からでも蒸留塔に戻すことができる。ただし、蒸留塔の塔頂から戻した場合に、他の部分から戻すよりも、蒸留塔全体の気液平衡を崩さずに脂肪族炭化水素を蒸留塔に戻すことができる。従って、塔頂から留出された脂肪族炭化水素は蒸留塔の塔頂部分から戻すのが好ましく、その場合には、蒸留塔の他の部分(例えば、途中の段)からは戻さずに、塔頂部分にのみ戻すことがより好ましい。
再利用という観点からは、塔頂から留出された脂肪族炭化水素のうちのできるだけ多くの量を蒸留塔に戻すことが好ましいが、蒸留塔内に形成された気液平衡を崩さないことを念頭に入れながら適宜、脂肪炭化水素を蒸留塔内に戻せばよく、言い換えれば、塔頂から留出された脂肪族炭化水素の少なくとも一部を蒸留塔内に戻すことが可能である。
さらに、本発明の精製方法においては、必要に応じて、上記のように塔頂留出物中の脂肪族炭化水素を蒸留塔に再び戻すことに加えて、またはその代わりに、フレッシュな脂肪族炭化水素を蒸留塔内に追加することも可能である。その場合でも、蒸留塔内に形成された気液平衡を崩さないように蒸留塔内に供給することが好ましく、塔頂部分のみから追加することが好ましい。脂肪族炭化水素は、使用する蒸留塔のサイズや他の蒸留条件にもよるが、例えば、0.1〜20ml/分、好ましくは1〜5ml/分の量で、蒸留塔に追加することができる。
従って、本発明の1つの実施態様において、本発明は、蒸留における塔頂留出物が脂肪族炭化水素を含み、塔頂から留出されたこの脂肪族炭化水素の少なくとも一部を、再び塔内に戻すことを特徴とする、上記精製方法に関する。
さらなる1つの実施態様において、本発明は、蒸留における塔頂留出物が脂肪族炭化水素を含み、塔頂から留出されたこの脂肪族炭化水素の少なくとも一部を、蒸留塔の塔頂から再び塔内に戻すことを特徴とする、上記精製方法に関する。
図16に本発明の1つの態様の模式図を示す。ここでは、塔頂留出物をデカンタ2に導入し、必要に応じて冷却して化合物I含有層(下層)と脂肪族炭化水素含有層(上層)に二層分離させ、下層を化合物Iとして回収する一方、脂肪族炭化水素含有層を導管等を介して蒸留塔の塔頂6に戻す。
また、本発明の精製方法に供される化合物Iがアルキル置換体以外の上記の不純物を含む場合には、このような不純物の中には、ブチルアルデヒドやテトラヒドロフランのように、上記蒸留において塔頂から留出されるものもあるが、ブチルアルデヒドやテトラヒドロフランは化合物I(γ−ブチロラクトン)よりも先に塔頂に濃縮されるので、γ−ブチロラクトンから容易に分離し、除去することができる。そして、塔頂から留出されるこれら以外の不純物についても、図2〜5、7および8を見ると除去されており、従って、もしそのような塔頂から留出される不純物が存在していたとしても、それらはブチルアルデヒドやテトラヒドロフランのように化合物Iよりも先に留出しているか、または上記の二層分離やその後の蒸留によって除去されているものと考えられる。
以上のような操作により、極めて高純度の化合物Iを安定的に得る事が可能である。
ここで、化合物Iが炭酸エチレンの場合、化合物Iに脂肪族炭化水素を添加して蒸留すると、化合物Iは塔底に、そして化合物Iに含有されていたアルキル置換体は、他の化合物Iの場合とは逆に塔頂に濃縮される。しかしながら、このような場合でも、塔底から炭酸エチレンを回収し、必要に応じて、再度蒸留を行うことにより、高純度の炭酸エチレンを得ることができる。
以上のように本発明によれば、従来は十分な分離・除去方法が知られていなかった化合物I中のアルキル置換体を簡単に分離・除去することが可能であり、更に、アルキル置換体以外の上記不純物も分離・除去できる。そしてこのような精製の結果として、本発明においては、非常に高純度な化合物Iを得ることができる。
本発明に従って精製した化合物Iを以下の実施例で使用するガスクロマトグラフィーで分析した場合、該化合物I中における不純物の合計量は好ましくは、0.008%以下であり、より好ましくは0.005%以下であり、さらに好ましくは0.002%以下であり、特に好ましくは、検出限界以下である。
本発明の精製方法によって、例えばγ−ブチロラクトンの場合には、含有される不純物の合計量が0.005%以下、好ましくは0.002%以下であり、特に好ましくは不純物を実質的に含まないγ−ブチロラクトンが得られ、N−メチル−2−ピロリドンの場合には、含有される不純物の合計量が0.008%以下、好ましくは0.005%以下、さらに好ましくは0.002%以下であり、特に好ましくは不純物を実質的に含まないN−メチル−2−ピロリドンが得られる。
さらに、1つの実施態様において、本発明は、含有されるアルキル置換体の割合が0.008%以下、好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.002%である化合物I、特に好ましくはアルキル置換体を実質的に含まない化合物Iに関する。
また、1つの実施態様において、本発明は、含有されるアルキル置換体の割合が0.005%以下、好ましくは0.002%以下であるγ−ブチロラクトン、特に好ましくはアルキル置換体を実質的に含まないγ−ブチロラクトンに関する。
さらに、1つの実施態様において、本発明は、含有されるアルキル置換体の割合が0.008%以下、好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.002%以下であるN−メチル−2−ピロリドン、特に好ましくはアルキル置換体を実質的に含まないN−メチル−2−ピロリドンに関する。
ここで「実質的に含まない」とは、以下の実施例で使用するガスクロマトグラフィー分析条件下で、アルキル置換体の含有量が検出限界以下であることを意味する。また、不純物に関して「%」と記載した場合には、これは、上記のガスクロマトグラフィー分析における面積百分率、すなわち、ガスクロマトグラフの分析結果における全ピーク面積値に対する各不純物ピークの面積百分率を表す。
さらに、本発明によれば、極めて高純度のγ−ブチロラクトンが得られるため、当該γ−ブチロラクトンを、種々の公知のN−低級アルキル−2−ピロリドン製造方法において出発物質として用いることにより、アルキル置換体を実質的に含まない極めて高純度のN−低級アルキル(メチル、エチル等)−2−ピロリドンを製造することができる。
また、N−ビニル−2−ピロリドンもγ−ブチロラクトンを原料として製造することができ、従って、本発明において得られた高純度のγ−ブチロラクトンを、種々の公知のN−ビニル−2−ピロリドン製造方法において出発物質として用いることにより、アルキル置換体を実質的に含まない極めて高純度のN−ビニル−2−ピロリドンを製造することができる。
例えば、N−メチル−2−ピロリドンは、γ−ブチロラクトンをメチルアミンと、200〜350℃および約10MPaで反応させることにより製造することができ(ULLMAN’S,“Encyclopedia of Industrial Chemistry”,Vol.A22,p.458−460)、あるいは、γ−ブチロラクトンをアンモニアと反応させることにより2−ピロリドンを製造し、それのナトリウム塩をメチル化することによって製造することができる(浅原昭三、他4名・編、「溶剤ハンドブック」、講談社サイエンティフィック、1976年3月10日、p.748−752)。または、N−メチル−2−ピロリドンは、上記のように製造した2−ピロリドンをメタノールと反応させ、通常行われるような蒸留によって未反応メタノール、水、その他の低沸点生成物を除くことにより製造することもできる(特公昭46−32263号公報)。
また、上述のように、N−エチル−2−ピロリドンは、例えばN−ビニル−2−ピロリドンの水素化によって製造することができ、N−ビニル−2−ピロリドンは例えば、上記のようにγ−ブチロラクトンをアンモニアと反応させることにより製造した2−ピロリドンを、高圧オートクレーブにおいて、130〜160℃の温度および2.6MPa程度の圧力下でアセチレンと反応させることによって製造することができ、あるいは、γ−ブチロラクトンにエタノールアミンを作用させ1−(β−オキシエチル)−2−ピロリドンとし、水酸基を塩化チオニルで塩素に変え、脱塩酸することにより、製造することもできる(化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典(7巻)」、東京化学同人、昭和36年10月、p.482、およびULLMAN’S,“Encyclopedia of Industrial Chemistry”,Vol.A22,p.458−460)。
従って、1つの実施態様において、本発明は、本発明の精製方法に従って精製したγ−ブチロラクトンを原料として使用することを特徴とする、N−低級アルキル−2−ピロリドンの製造方法に関する。
また、1つの実施態様において、本発明は、本発明の精製方法に従って精製したγ−ブチロラクトンをメチルアミンと反応させることを特徴とする、N−メチル−2−ピロリドンの製造方法に関する。
さらに、1つの実施態様において、本発明は、以下の工程:
−本発明の精製方法に従って精製したγ−ブチロラクトンをアンモニアと反応させることにより2−ピロリドンを得ること、
−得られた2−ピロリドンをアセチレンと反応させることによりN−ビニル−2−ピロリドンを得ること、および
−該N−ビニル−2−ピロリドンを水素化すること、
を含むことを特徴とする、N−エチル−2−ピロリドンの製造方法に関する。
また、1つの実施態様において、本発明は、本発明の精製方法に従って精製したγ−ブチロラクトンを原料として使用することを特徴とする、N−ビニル−2−ピロリドンの製造方法に関する。
さらに、1つの実施態様において、本発明は、以下の工程:
−本発明の精製方法に従って精製したγ−ブチロラクトンをアンモニアと反応させることにより2−ピロリドンを得ること、および
−得られた2−ピロリドンをアセチレンと反応させること、
を含むことを特徴とする、N−ビニル−2−ピロリドンの製造方法に関する。
また、1つの実施態様において、本発明は、N−メチル−2−ピロリドンの製造における、上記の精製方法により精製されたγ−ブチロラクトンの使用に関する。
さらに、別の実施態様において、本発明は、N−エチル−2−ピロリドンの製造における、上記の精製方法により精製されたγ−ブチロラクトンの使用に関する。
別の実施態様において、本発明は、N−ビニル−2−ピロリドンの製造における、上記の精製方法により精製されたγ−ブチロラクトンの使用に関する。
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
三口フラスコに新液N−メチル−2−ピロリドン(メチル置換体合計濃度+MSI:0.17%)700gにデカン240gを添加して減圧蒸留を行った。なお、当該新液に含まれるアルキル置換体に関して、図1に示すガスクロマトグラフィーでのピークとしての検出に加え、GC−MSのCI法による該新液の測定においても、分子量113、127、141を有する化合物が検出された。蒸留条件は不規則充填塔(理論段数15段、塔直径30mm)を使用し、留出速度10〜20ml/分、塔底温度107℃、塔頂温度102℃と減圧度12kPaで運転した。塔頂の留出物は2層分離するので、上層のデカンリッチ留分はそのまま塔頂に戻し、下層のN−メチル−2−ピロリドンを取り出していき、塔底の量が200g程度になったら蒸留を止めて冷却する。塔底の下層(約70g)のみを取り出し、更に原料とデカンを追加して、最終的に原料3500gとデカン735gを使用して、デカン処理1回目の下層を2500g(メチル置換体合計濃度+MSI:0.02%)得た。そのうちの2000gをとり、それを同じ蒸留条件で2回のデカン処理減圧蒸留に付した。デカン処理3回目の下層として1500g(メチル置換体合計濃度+MSI:不検出)を得た。この下層に水を500g添加して、分離してきたデカンを除去し、不規則充填塔で通常蒸留(塔底温度100℃・減圧度2kPa)。水とデカンをカットして、回収率50%で3種類のメチル置換体不検出のN−メチル−2−ピロリドンを得た(図2)。
この実施例1では、1回目の蒸留によってメチル置換体濃度が原料中の初期濃度に比べて1/10以下にまで低下し、2回目以降ではガスクロマトグラフィーで検出できないレベルにまで減少した。
なお、上記の記載では、原料中のメチル置換体濃度を0.17%、1回目の蒸留後の塔頂留出物下層中のメチル置換体濃度を0.02%として記載しているが、この実施例1ではバッチ式で蒸留を行っており、さらに蒸留中にN−メチル−2−ピロリドン含有層である塔頂留出物下層を取り出していきながら、更に原料とデカンを追加している。従って、時間が経過するほど塔内のメチル置換体濃度が増加するため、蒸留初期から蒸留終了まで一定の比率でメチル置換体を除去できていても、時間が経過するほど、得られる塔頂留出物に含まれるメチル置換体濃度は増加していく。この状況下において実施例1では、蒸留初期から終了時までに連続的に採取した塔頂留出物を1つに合わせて測定しているため、ここで記載された蒸留後のメチル置換体濃度は、実際のメチル置換体除去率から期待される値よりも高い数値となっている。(このことは他の実施例にも当てはまる。)
実施例2
新液N−メチル−2−ピロリドン(メチル置換体合計濃度:0.0351%)430gにウンデカン170gを添加して減圧蒸留を行った。なお、当該新液に含まれるアルキル置換体に関して、図3に示すガスクロマトグラフィーでのピークとしての検出に加え、GC−MSのCI法による該新液の測定においても、分子量113、127、141を有する化合物が検出された。蒸留条件は不規則充填塔(理論段数15段、塔直径30mm)を使用し、留出速度10〜20ml/分、塔底温度87℃、塔頂温度85℃と減圧度5kPaで運転した。塔頂の留出物は2層分離するので、上層のウンデカンリッチ留分はそのまま塔頂に戻し、下層のN−メチル−2−ピロリドンを取り出していき、下層378g(メチル置換体合計濃度+MSI:不検出)得た。この下層に水を100g添加して、分離してきたウンデカンを除去し、不規則充填塔で通常蒸留(塔底温度100℃・減圧度2kPa)。水とウンデカンをカットして、回収率70%でウンデカン不検出・3種類のメチル置換体不検出のN−メチル−2−ピロリドンを得た(図4および5)。
実施例3
実施例2で使用したものと同じ新液N−メチル−2−ピロリドン(メチル置換体合計濃度:0.0351%)183gにドデカン172gを添加して減圧蒸留を行った。なお、当該新液に含まれるアルキル置換体に関して、GC−MSのCI法による該新液の測定において、分子量113、127、141を有する化合物が検出された。蒸留条件は不規則充填塔(理論段数15段、塔直径30mm)を使用し、留出速度10〜20ml/分、塔底温度107℃・塔頂温度100℃・減圧度4kPaで運転した。塔頂の留出物は2層分離するので、上層のドデカンリッチ留分はそのまま塔頂に戻し、下層のN−メチル−2−ピロリドンをGC測定すると、置換体が合計で0.0064%にまで減少した事を確認した。
実施例4
γ−ブチロラクトン(メチル置換体その他不純物合計濃度:0.1301%)1100gにデカン430gを添加して減圧蒸留を行った。なお、当該γ−ブチロラクトンに含まれるアルキル置換体に関して、図6に示すガスクロマトグラフィーでのピークとしての検出に加え、GC−MSのCI法による測定においても、分子量100、114、128を有する化合物が検出された。蒸留条件は不規則充填塔(理論段数15段、塔直径30mm)を使用し、留出速度10〜20ml/分、塔底温度110℃、塔頂温度105℃と減圧度30kPaで運転した。塔頂の留出物は2層分離するので、上層のデカンリッチ留分はそのまま塔頂に戻し、下層のγ−ブチロラクトンを取り出していく。デカン処理1回目の下層を870g(メチル置換体合計濃度:0.0243%)得た。そのうちの638gにデカン267gを添加して、同じ蒸留条件で2回のデカン処理減圧蒸留に付した。デカン処理3回目の下層として510g(メチル置換体:10ppm以下〜不検出)を得た。この下層を不規則充填塔で通常蒸留(塔底温度100℃・減圧度2kPa)でデカンをカットして、回収率50%でデカン不検出・置換体その他不純物4ppmのγ−ブチロラクトンを得た(図7および8)。
また、当該実施例4の蒸留の途中(蒸留開始8時間後)に、塔頂留出物の下層(以下、「TOP下層」とも言う)と塔底の下層(以下、「BTM下層」とも言う)の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフィーによって組成分析を行った。その結果を以下の表1に示す。
表1:TOP下層とBTM下層の組成分析
表1の結果は、化合物I含有層である塔頂留出物下層におけるメチル置換体濃度が原料中の初期濃度と比較して1/10以下になっていること、そして、蒸留塔の塔底(塔底液の下層)において、メチル置換体が塔頂留出物下層におけるよりも10倍以上にまで濃縮されていることを示す。また、表1から、実施例4の蒸留においてデカンが蒸留塔の塔底・塔頂の両方に存在していることもわかる。
実施例5
実施例1と類似の方法によりデカン存在下でN−メチル−2−ピロリドンの減圧蒸留を行った場合における、デカンの塔底濃度と塔頂留出物(下層)の組成との関係を調べた。具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(メチル置換体とその他の不純物の合計濃度:1.5189%)410gにデカン100g添加して減圧蒸留を行った。蒸留条件は不規則充填塔(理論段数15段、塔直径30mm)を使用し、留出速度12ml/分、塔底温度104℃、塔頂温度87℃と減圧度5kPaで運転した。
蒸留中に一定間隔(1時間毎)で塔頂留出物(二層分離後の下層)の一部をサンプルとして採取し、当該サンプルの組成をガスクロマトグラフィーによって分析した。サンプル採取は6回行った。1回目および4回目のサンプル採取後に、それぞれ150g、50gのデカンを蒸留塔に追加した。また、2回目、6回目のサンプル採取では塔頂留出物の上層(二層分離後)も採取し、さらに、6回目のサンプル採取では塔底液の組成も調べた。
結果を表2および図10〜12に示す。
表2:各デカン塔底濃度における塔頂留出物(下層)の組成分析(N−メチル−2−ピロリドン)
表中、
GC組成欄の各値は、ガスクロマトグラフィーにおける面積百分率(%)を表す。
単に「上層」、「下層」と記載した場合には、それぞれ塔頂留出物の上層、下層を示す。また、「上層」、「下層」に付した数字は回数を表し、例えば「下層1」は、1回目に採取した塔頂留出物の下層を意味する。
「BTM」は塔底、「NMP」はN−メチル−2−ピロリドンを意味し、BTMデカン存在量、BTMデカン濃度は、いずれも塔底全体(上層+下層)における値である。
なお、上述のように、本発明の精製方法では、脂肪族炭化水素は場合により塔頂留出物(上層、下層とも)にも含まれ得、実際にこの実施例5でも、デカンは塔頂留出物の下層にも存在する。そして、ここでは上記のように塔頂留出物の下層を採取していくため、それによって蒸留塔内のデカン濃度が減少する。表2ではこのようなデカンの減少量を、「(下層抜き取りによるデカン減少量)」として記載している。
表2の結果は、1回目のサンプル採取時で既に、塔頂留出物(下層)中のメチル置換体(I)〜(III)の合計濃度が、原料中の初期濃度に比べて1/10以下になることを示している。また、表2に示すように、デカンの塔底濃度が増加するにつれて、メチル置換体含有量がさらに減少した。
実施例6
実施例4と類似の方法によりデカン存在下でγ−ブチロラクトンの減圧蒸留を行った場合における、デカンの塔底濃度と、塔頂留出物(下層)の組成との関係を調べた。具体的には、γ−ブチロラクトン(メチル置換体とその他の不純物合計濃度:0.1507%)357gにデカン83g添加して減圧蒸留を行った。蒸留条件は不規則充填塔(理論段数15段、塔直径30mm)を使用し、留出速度12ml/分、塔底温度90℃、塔頂温度84℃と減圧度4kPaで運転した。
蒸留中に一定間隔(1時間毎)で塔頂留出物(二層分離後の下層)の一部をサンプルとして採取し、当該サンプルの組成をガスクロマトグラフィーによって分析した。サンプル採取は5回行った。また、1回目のサンプル採取後に57gのデカンを蒸留塔に追加した。5回目のサンプル採取では塔底液の組成も調べた。
結果を以下の表3および図13〜15に示す。
表3:各デカン塔底濃度における塔頂留出物(下層)の組成分析(γ−ブチロラクトン)
表中、
GC組成欄の各値は、ガスクロマトグラフィーにおける面積百分率(%)を表す。
単に「下層」と記載した場合には、塔頂留出物の下層を示す。また、「下層」に付した数字は回数を表し、例えば「下層1」は、1回目に採取した塔頂留出物の下層を意味する。
「BTM」は塔底、「GBL」はγ−ブチロラクトンを意味し、BTMデカン存在量、BTMデカン濃度は、いずれも塔底全体(上層+下層)における値である。
「(下層抜き取りによるデカン減少量)」という記載については、表2において説明したとおりである。
表3の結果も、デカンの塔底濃度に応じて、メチル置換体含有量がさらに減少することを示し、特にα−メチル−ブチロラクトンとγ−バレロラクトンの含有量が顕著に減少した。
比較例1
実施例4で使用したものと同じγ−ブチロラクトン(メチル置換体その他不純物合計濃度:0.1301%)972gについて減圧蒸留を行った。なお、当該γ−ブチロラクトンに含まれるアルキル置換体に関して、GC−MSのCI法による測定において、分子量100、114、128を有する化合物が検出された。蒸留条件は不規則充填塔(理論段数15段、塔直径30mm)を使用し、留出速度10〜20ml/分、塔底温度115℃、塔頂温度110℃と減圧度4kPaで運転した。
回収率58%でγ−ブチロラクトン純度99.93%を得た。メチル置換体その他の不純物は完全カット出来なかった。特にメチル置換体の濃度は初期濃度と殆ど変わらない(図9)。
実施例7
実施例1と類似の方法によりデカン存在下でN−メチル−2−ピロリドン(組成は、表4の「原料」の欄に記載されるとおりである)の減圧蒸留を行った。この実施例7では、原料712gにデカン350g添加して減圧蒸留を行った。蒸留条件は不規則充填塔(理論段数15段、塔直径30mm)を使用し、留出速度12ml/分、塔底温度107℃、塔頂温度102℃と減圧度12kPaで運転した。
塔頂の留出物は2層分離するので、上層のデカンリッチ留分はそのまま塔頂に戻し、下層のN−メチル−2−ピロリドン層を一定時間(1時間)毎に採取し、その時の塔頂留出物(二層分離後の下層)と塔底液(二層分離後の下層)の組成を調べた。
結果を以下の表4に示す。
表4:蒸留中に塔頂留出物の上層を蒸留塔の塔頂に戻した場合の塔頂留出物(下層)および塔底液(下層)の組成分析
表中の各値は、ガスクロマトグラフィーにおける面積百分率(%)を表す。
「TOP1下層」、「BTM1下層」はそれぞれ、塔頂留出物の下層および塔底液の下層を示す。「下層」の前に付した数字は回数を表し、例えば「TOP1下層」は、1回目に採取した塔頂留出物の下層を意味する。
「NMP」、「メチル置換体(I)」、「メチル置換体(II)」、「メチル置換体(III)」は、上記で説明したとおりである。
表4に示すとおり、実施例7における蒸留により、塔頂留出物(下層)中のメチル置換体(I)〜(III)の合計濃度は、原料中の初期濃度に比べて1/10以下に減少した。また、各回の採取サンプルについて、各メチル置換体が塔底(下層)において塔頂留出物(下層)の10倍以上に濃縮されたこともわかる。
実施例8
塔頂留出物の上層のデカンリッチ留分を蒸留塔の塔頂ではなく、理論段数15段の下から5段目に戻す点を除いて、実施例7と同様にN−メチル−2−ピロリドンの減圧蒸留を行い、蒸留開始3時間後に同様に、塔頂留出物(二層分離後の下層)と塔底液(二層分離後の下層)の組成を調べた。
表5:蒸留中に塔頂留出物の上層を理論段数15段の下から5段目に戻した場合の塔頂留出物(下層)および塔底液(下層)の組成分析
表中の各値は、ガスクロマトグラフィーにおける面積百分率(%)を表す。
また、「TOP下層」および「BTM下層」は、それぞれ塔頂留出物の下層および塔底液の下層を意味し、「NMP」はN−メチル−2−ピロリドンを意味する。
表5の結果は、蒸留中に塔頂留出物の上層を理論段数15段の下から5段目に戻した場合であっても、N−メチル−2−ピロリドンからメチル置換体が除去されるが、塔頂から戻した場合(実施例7)と比較して除去される量が小さいことを示す。
(実施例7では、塔頂留出物(下層)中のメチル置換体(I)〜(III)の合計濃度が原料中初期濃度の1/10以下に減少したが、実施例8では1/10までは減少していない。)
比較例2および実施例9
実施例1と類似の方法によりデカン存在下でN−メチル−2−ピロリドン(組成は、表6の「原料」の欄に記載されるとおりである)の減圧蒸留を行った。この比較例2では、デカンが塔底に存在しないようにするために、デカンの添加量を少量に設定し、原料365gにデカン32gを添加して減圧蒸留を行った。塔底温度120℃、塔頂温度87℃(デカンが塔底に存在しないので、デカンが塔底に存在している場合より温度は高くなる)と減圧度4kPaで運転した。
塔頂の留出物は2層分離するので、下層のN−メチル−2−ピロリドン層を一定時間(1時間)毎に採取し、その組成を調べた。
また、1回目および2回目のサンプル採取後に、合わせて135gのデカンを蒸留塔に添加することにより、3回目のサンプルは、塔底にデカンが存在する状態で蒸留を行った後に採取した(実施例9)。
結果を以下の表6に示す。
表6:蒸留中に蒸留塔の塔底にデカンが存在しない場合、およびその後デカンを追加して塔底にデカンを存在させて蒸留を行った場合の塔頂留出物(下層)の組成分析(N−メチル−2−ピロリドン)
表中の各値は、ガスクロマトグラフィーにおける面積百分率(%)を表す。
「下層1」〜「下層3」、「NMP」、「BTM」は、上記の各表で説明したとおりである。
表6の結果は、蒸留中に塔底にデカンが存在しない場合には、メチル置換体(II)および(III)は多少除去されるが、メチル置換体(I)はほとんど除去されないことを示し(比較例2)、そして、塔底にデカンを存在させた場合(実施例9)には、メチル置換体(I)〜(III)を極めて良好に除去できること、特に比較例2ではほとんど除去することができなかったメチル置換体(I)であっても極めて良好に除去できることを示す。
比較例3および実施例10
実施例4と類似の方法によりデカン存在下でγ−ブチロラクトン(組成は、表7の「原料」の欄に記載されるとおりである)の減圧蒸留を行った。この比較例3では、デカンが塔底に存在しないようにするために、デカンの添加量を少量に設定し、原料372gにデカン32gを添加して減圧蒸留を行った。塔底温度114℃、塔頂温度84℃(デカンが塔底に存在しないので、デカンが塔底に存在している場合より温度は高くなる)と減圧度4kPaで運転した。
塔頂の留出物は2層分離するので、下層のγ−ブチロラクトン層を一定時間(1時間)毎に採取し、その組成を調べた。
また、2回目および3回目のサンプル採取後に、合わせて128gのデカンを蒸留塔に添加することにより、4回目のサンプルは、塔底にデカンが存在する状態で蒸留を行った後に採取した(実施例10)。
結果を以下の表7に示す。
表7:蒸留中に蒸留塔の塔底にデカンが存在しない場合、およびその後デカンを追加して塔底にデカンを存在させて蒸留を行った場合の塔頂留出物(下層)の組成分析(γ−ブチロラクトン)
表中の各値は、ガスクロマトグラフィーにおける面積百分率(%)を表す。
「下層1」〜「下層4」、「GBL」、「BTM」は、上記の各表で説明したとおりである。
表7の結果は、蒸留中に塔底にデカンが存在しない場合には、α−メチル−ブチロラクトンとγ−バレロラクトンはほとんど除去されないこと(α/γ以外のメチル置換体はある程度良好に除去される)、そして、塔底にデカンを存在させた場合(実施例10)には、これら3種のメチル置換体がいずれも極めて良好に除去できること、特に比較例3ではほとんど除去することができなかったα−メチル−ブチロラクトンおよびγ−バレロラクトンであっても極めて良好に除去できることを示す。
<測定方法>
N−メチル−2−ピロリドン或いはγ−ブチロラクトンのメチル置換体濃度と不純物濃度は下記GC条件1で、デカン、ウンデカンおよびドデカンの濃度は下記GC条件2で測定した。実施例2および4で得られた精製物のメチル置換体濃度と不純物濃度については下記GC条件2でも測定を行った。(なお、実施例5〜10ならびに比較例2および3におけるデカン濃度は、GC条件1で測定した。)
GC条件1:
測定装置:島津製作所製GC−17A, カラム:InertCap1(=NB−1)(長さ30m, 内径0.25mm, 膜厚1.50μm), 検出器:FID, Inj温度250℃, 検出器温度250℃, 試料注入量0.5μL, スプリット比1:100, カラム温度条件:初期温度100℃(5分保持)10℃/分で230℃まで昇温、230℃(23分保持)。キャリアーガス:ヘリウムHe, キャリアーガス流量:29cm/s。
GC条件2:
測定装置:島津製作所製GC−17A, カラム:DB−WAX(長さ30m, 内径0.25mm, 膜厚0.25μm), 検出器:FID, Inj温度200℃, 検出器温度200℃, 試料注入量0.5μL, スプリット比1:80, カラム温度条件:初期温度50℃(5分保持)10℃/分で200℃まで昇温、200℃(20分保持)。キャリアーガス:ヘリウムHe, キャリアーガス流量:29cm/s。