先ず、本発明を理解するうえで欠かせない概念である、電子の波動性(波動−粒子の二重性)について説明する。
例えば、電位勾配のある導体中では電子がドリフト運動をするとされる。この場合の電子は明らかに粒子と見なされる。従って、本発明においてそれら部位の設計に適用する考え方は、複雑な量子力学の理論よりは、むしろ、電子の持つ基本的な性質、即ち、波動−粒子の二重性、と言うことになる。
量子力学においては、一般に、運動中の自由電子を波束を使って一義的に表す。波束は電子1個が見出される空間的な確率振幅分布を表すので、波束の伝播速度としての群速度は電子の速度vに一致することになる。1個の電子が、観測される以前は確率波、観測されたときは粒子となるので、このような波動−粒子の二重性を相補的な二重性と呼ぶ。しかし、相補的な二重性では、運動中の電子の振る舞いが抽象的過ぎて、本発明が意図する設計には利用できない。
量子力学が創立される2年前の1923年にドブロイは物質波ないし位相波の概念を提示した(例えば、非特許文献1を参照)。ドブロイはこの論文で(a)静止した質量m0の物質粒子には振動数がν= m0c2/hで与えられる周期現象が伴い、(b)物質粒子の等速度運動(併進運動)が慣性系中に生成する位相波の位相はその周期現象と同位相となり、さらに、(c)位相波はエネルギーを運ばない、という位相波に関する3原則を示した。位相波の伝播速度としての位相速度は光速よりも速く、c2/v>cで与えられるので、位相波はエネルギーを運び得ない。また、静止質量m0の物質粒子の振動(振動数ν=m0c2/h)が位相波の源となるという意味で、この位相波は明らかに相対論的な波動である。数学的空間で定義される確率波と異なり、粒子の運動に伴って慣性系の中に生成され、伝播するので、この位相波は実在し得るとも考えられる。この位相波を提案者の名に因んでドブロイ波と呼ぶことにする。なお、量子力学においても、確率波の波長をドブロイ波長とも呼ぶが、この場合のドブロイ波長は実在性とは無縁であるとされてきた。粒子の振る舞いに関するこのモデルでは、運動する粒子としての電子とその電子を先導するドブロイ波とが同時に存在することになる。従って、この波動−粒子の二重性を同時完全二重性と呼ぶことが出来る。この同時二重性であれば、ドリフト運動する電子にドブロイ波が伴うという具体性のある描像が得られるので、電子回路のマクロな構造部分の設計に利用することができる。
導体や半導体からなる電子回路において、電位勾配の下、電子はドリフト運動しつつ移動する。ドリフト運動中、いったん散乱された電子が次に散乱されるまでの平均的な距離を平均自由行程と呼ぶ。このように、電子回路中での電子のミクロな運動のモデルでは、基本的に、電子を粒子と見なす。従って、個々の散乱ごとの電子の運動にドブロイ波を伴わせれば、同時二重性に基づく電子の運動のミクロな描像が得られる。ドリフト運動の速度は、個々の電子の平均的な移動速度であるから、ミクロな描像とマクロな描像との橋渡しが出来る。即ち、電子の平均的な移動速度vを用いて平均的なドブロイ波の位相速度をc2/vと定義すればよい。本発明においては、(1)粒子としての電子のミクロな運動、(2)平均的な移動速度を持つ個々の電子の平均的な運動、それに、(3)平均的なドブロイ波の伝播、という同時二重性に関する3要素を考慮してマクロな構造を設計することが出来る。
最初に、電子と、その電子に先行する平均的ドブロイ波とからなる同時二重性の概念を応用し、電子回路に含まれる配線構造の曲がり角や分岐部分の特性を改善する設計法について図1から図9を用いて説明する。
<第1実施形態>
中心線に関し線対称な直線的な配線構造の場合、電子は配線構造内の電位勾配に従って平均的には配線構造の中心線方向に進む。電子の平均的な運動方向が中心線の方向と一致しているので、電子に先行する平均的ドブロイ波は波面の中央に立てた波数ベクトルを中心線に一致させたまま直進する。わかり易く喩えれば、平均的ドブロイ波を中心線上を直進する光線に代表させることが出来る。ただし、この場合の光線は、通常の光線と異なり、伝播速度は光速を超えることになる。配線構造の曲がり角や分岐部分を設計する場合、一般的には、配線構造の壁(境界線)による平均的ドブロイ波の反射回数を最小にすることが重要な指針となる。そのような設計をすれば、電子の配線構造の壁との衝突回数も最小化されることが期待されるからである。
集積度の高い電子回路において他に考慮すべきは、電子の平均自由行程である。金属中の電子の平均自由行程は、0℃において0.1μm(100nm)程度、室温ではその半分の50nm程度とされる。従って、配線構造内の電位勾配にもよるが、0℃における値を基準にすると、電子の平均自由行程の100倍程度以下、即ち10μm程度以下の幅を持った配線構造が、平均自由行程を考慮して上記部位を設計すべき配線構造の目安となる。
同時二重性に基づいて配線構造の曲がり角を設計する場合の基本的な考え方を図16を用いて説明する。
図16は、配線構造の曲がり角の形状に関する従来例を示す。図16に示す配線構造101Aは従来の配線構造形状の基本的な例であり、幅wを有する配線構造101Aの中心線を一点鎖線で表したとき、同一直線上にはない3点P1、P2、P3を、P2を交点として直線で結ぶ中心線を持つ。図16に示すような、P1とP3を結ぶ円弧を中心線とする配線構造101Bも従来の配線構造の別の例として挙げられる。さらに付け加えると、P1とP3を最短距離で結ぶ中心線を持つ配線構造101Cも従来の配線構造である。配線構造101Bは配線構造の長さが短くなるという利点は持つが、LSIではむしろ直線的な輪郭を持つ配線構造101A又は配線構造101Cの形状が多用される。レイアウト上、配線構造101Cの形状を採用し難い場合などには、配線構造101Aの形状が用いられる。
平均的ドブロイ波の反射回数の最小化の観点から見ると、配線構造101Bは配線構造101Aに比べて配線長が短くなるという利点以上の利点がある。配線構造101Aにおいて、P1にいたる直線配線に入射する平均的なドブロイ波ψinを代表する光線は、P1とP2を通る直線配線の中心線に沿って進行し、ほぼ正面に位置する壁に反射されると、一旦はもときた方向に戻ることになる。従って、後続する電子も正面の壁で反射され得るため、そのような電子は配線構造の幅が狭くなるほどP2とP3を結ぶ直線配線に直ちに進入することが困難となる。なぜなら、もし、幅wが電子の平均自由行程より十分大きければ、P2にある角で、配線構造内の電位勾配により電子の進行方向をP3方向に向ける運動量の成分が生じるため、角を曲がりやすくなるからである。これに対し、配線構造101Bにおいては、直進する平均的な入射ドブロイ波ψinを代表する光線がP3以降の直線部分においてψoutとして出射するまでに壁で反射されるのは、図16において三角形の符号で示されている3箇所だけである。しかも、一般には、ψoutの進行方向は第2の直線部分の中心線の方向とは一致しない。配線構造101CではP2とP3を直線で結ぶため配線長が最も短くはなるが、対照的に、P1とP3とに位置する曲がり角における配線構造の壁で反射される回数は配線構造101Bよりも格段に多くなる。
電子の運動と平均的ドブロイ波の運動の違いを配線構造101Cを例により詳しく説明する。電子がP1にいたる直線部分にある場合、電子の平均的な運動方向は中心線の方向と一致しているので、電子に先行する平均的ドブロイ波を代表する超光速の光線は中心線上を直進する。従って、電子がまだP1にいたる直線部分にあっても、平均的ドブロイ波を代表する光線は、配線構造の壁で反射されつつ、P3以降の直線部分に到達していることになる。次に、電子がP2以降P3にいたる直線部分に到達した場合、電位勾配の影響を受けてP3方向の運動量の成分が生じるため、平均的ドブロイ波の波数ベクトルにもP3方向の成分が生じる。P2とP3との距離が電子の平均自由行程の100倍程度、即ち10μm(0℃)から5μm(室温)程度あれば、P3の直前にまで到達した電子は中心線方向の運動量ベクトルを持つであろう。そのような電子に伴う平均的ドブロイ波を表す光線の進行方向も中心線に一致する。そうであれば、平均的ドブロイ波ψinがP1における曲がり角に入射した状況と全く同じ状況がP3に位置する曲がり角の直前で再現されることになる。従って、平均的ドブロイ波を表す光線は、P3以降の配線構造の壁で数多く反射されることになる。結局、P2とP3との2箇所の曲がり角において局所的な発熱が起こり得る。
図1に、図16に示した従来の配線構造101CのP2とP3との2箇所の曲がり角における発熱を低減する本発明の配線構造100を示す。本発明の配線構造100においては、配線長が最も短い配線構造101Cよりもわずかながら短くなると同時に、P1にいたる直線配線を進行する平均的ドブロイ波ψinを代表する光線がψoutとして出射するまでに壁で反射される回数もP1とP3での2回のみとなる。この回数はP1とP3を通る配線構造における最も少ない反射回数となる。しかも、図16に示した配線構造101Bと異なり、平均的なドブロイ波ψoutを代表する光線がP3以降の直線部分の中心線に一致している。電子の壁との衝突回数が減れば、抵抗値を下げる効果が得られるので、発熱や信号の立ち上がり立下り特性の劣化が抑制される。
以上のように、複数の曲がり部分を含む配線形状の設計には、基本的には、平均的ドブロイ波の伝播と電子の平均自由行程との両者を考慮する必要がある。ただし、曲がり角1箇所に限れば、その設計の基本的な指針は、曲がり角の前にある第1の直線的な配線部分を中心線に沿って伝播する平均的なドブロイ波が、曲がり角の部位を通過した後、曲がり角に続く第2の直線的な配線部分を中心線に沿って伝播するように設計することが基本的な指針となる。
図1に示した配線構造100には、破線で描かれた円で囲まれた相似形の曲がり角が二箇所ある。そのうち、点P1における曲がり角の配線形状の設計の仕方を図2A,Bを用いて説明する。なお、図2Aは従来の配線構造における曲がり角の形状を示し、図2Bは図2Aに示した曲がり角の形状を本発明により改善した形状を示す。点P1をxy座標系の原点、即ち(x,y)=(0,0)、とし、点P1における配線構造の曲がりの角度をπ>Θ≧π/2とする。ここでP1とP3を結ぶ中心線のx軸となす角度をθとするとΘ=π/2+θが成り立つ。図2Bにおいて、∠Q2Q1Q4をθ1とすると、θ1=π/4−θ/2=π/2−Θ/2となる。途中の冗長な計算を省き、4点Q1、Q2、Q3、Q4のxy座標のみを以下に記す。
ここで、図2BにおけるP1を頂点とする二等辺三角形P1P6P7について考察する。P6とP7のxy座標は、4点Q1、Q2、Q3、Q4のxy座標を与える上記の式を用いて求めておく。曲がり部分における従来の配線形状の中心線の長さは二等辺三角形P1P6P7の一辺P1P6の二倍、即ち2P1P6で与えられる。これに対し本発明の曲がり部分における配線構造の中心線の長さはP6P7で与えられる。従って、曲がり部分において本発明の配線形状を用いることにより従来の配線形状に比べ短縮される配線長を△lとすると以下の式が得られる。
上式より、短縮される配線長△lは配線構造の幅wに比例し、曲がりの角度Θが大きいほど短くなることがわかる。このように、短縮される長さ△lは曲がりの角度Θと配線構造の幅wの関数となっているので、いくつかの具体例について△lを計算した結果を図2に示す。図2において、曲がりの角度についてはΘ=100°とΘ=135°の2サンプルとし、配線構造の幅についてはw=10μm、w=1μm、及びw=0.5μmの3サンプルとした。
配線長△lの分だけ配線構造の長さが短縮されれば、その分直接的に、配線構造の抵抗値が低減される。従って、配線構造中に同様の曲がり部分がn個所あれば、短縮される配線構造の全長はn△lとなり、低減される抵抗値もn倍となる。この抵抗値の低減は古典電磁気学的効果であるから、便宜上、マクロな効果と呼ぶことにする。
本発明の配線構造形状には、上記マクロ効果のみならず、配線構造の曲がり角における電子と配線構造の壁との衝突に起因する抵抗を減少させるミクロな効果も存在する。このミクロな効果は、電位勾配の大きさにも依存するが、相対的には、配線構造の幅wが小さくなるほど大きくなる。
なお、図1に示した配線構造100の点P3における曲がり角の配線構造形状も上記と同様な設計方法が適用できる。即ち、P1とP3を通る直線を新たなy軸とし、点P3を新たなxy座標系の原点とすればよい。従って、本設計方法を用いて、折れ線形状を有する任意の配線構造の設計が可能となる。このように、本設計方法は、コンピュ−ターを用いた設計にも適している。図2Bに示した設計例では、平均的ドブロイ波ψinが入射する第1の直線部分の中心線(y軸)上を進行する入射光線が、線分Q1Q2が表す反射面上の点P1で反射されたとして、その反射光線が第2の直線部分の中心線上を進行にするように線分Q1Q2を定めた。この場合、線分Q1Q2が平面鏡の断面を表すと考えればよい。ところで、P1で交わる第1の直線部分と第2の直線部分との二本の中心線がP1に入射する光線とそこでの反射光線とを表すようにするには、P1を含む反射面を平面鏡に限る必要はない。
図2CにP1を含む反射面を平面鏡から円筒鏡に置き換えた例を示す。同図において、三点Q1´、P1、Q2´を結ぶ曲線は点Cを中心とする円弧である。この円弧を円筒鏡の断面と見なしたとき、第1の直線部分の中心線(y軸)上を進む入射光線は点P1で反射され、その反射光線は平均的なドブロイ波ψoutが出射する第2の直線部分の中心線に一致する。この場合、三点Q3´、Q5、Q4´を結ぶ小円弧の中心も点Cである。因みに、点Cのxy座標は以下の式で与えられる。
本設計方法もコンピュ−ターを用いた設計に適している。なお、曲線を用いる配線構造形状は上記の例に限るものではない。一つだけ例を示す。線分Q1´Q1上に×印をつけた点Q1″と点P1、それに線分Q2Q2´上に×印をつけた点Q2″との三点を結びP1と点Cを通る直線上の点C´を中心とする円弧Q1″P1Q2″を外側の境界とし、線分Q3´Q3上に×印をつけた点Q3″と点Q5、それに線分Q4Q4´上に×印をつけた点Q4″との三点を結び点C´を中心とする小円弧Q3″Q5Q4″を内側の境界線とする配線構造形状も、上述の入射光線と反射光線との関係を満たす。従って、このような関係を満たす配線構造形状は無数に存在することがわかる。
以上に示した曲がり部分の配線構造形状の一般的な設計法は、LSIなどにおける実際の配線構造形状を設計するために容易に応用することが出来る。そのためには、曲がり部分の配線構造に関する本設計法における許容値について説明しておく必要がある。最も好ましい設計においては、P1で交わる第1の直線部分と第2の直線部分との二本の中心線がP1に入射する光線とそこでの反射光線とを表した。図2(B)に示した設計例の場合、線分Q1Q2のP1からの距離が±w/4となったときを許容限界とするが、この距離の変化±w/4に応じて線分Q1Q2の長さも変化する。この場合、反射光線は、第2の直線部分の中心線とw/4の距離を隔てはするものの、平行に進行する。図2(C)に示した設計例の場合、例えば、円弧Q1´Q2´のP1からの距離が±w/8となったときを許容限界とするが、この距離の変化±w/8に応じて円弧Q1´Q2´の曲率半径も変化する。この場合、許容限界を図2(B)の場合より厳しくしたのは、反射光線の進行方向が第2の直線部分の中心線との間でわずかながら角度を持つからである。さらに、本発明をLSIの製造工程に導入する場合、マスク上の配線構造形状の変更だけで済むので、1個1個のLSIの製造コストの上昇はゼロに等しい。このような特徴を持つ曲がり部分の配線構造形状は、曲がり角を有する他の異なる形状の配線構造に応用できる。
図4A〜Dは配線構造の直角に曲がった部位に関する改善前と改善後の形状を示す。各矢印は電子が進入してくる方向を示す。従って電子に伴う平均的ドブロイ波もこの矢印の方向に直進するとしてよい。図4Aは改善前の配線構造を示す。平均的ドブロイ波が直進する先には垂直の壁が存在しているため、そこで反射され、直角に曲がった先の配線構造には侵入しがたい。図4Bは、最も単純な改善例を示す。斜線を施した部分には障害物があり配線ができないとする。この配線構造形状は、図2Aにおいてθ=0、θ1=π/4とすれば容易に得られる。ただし、この図4Bに示す配線構造の形状は既に公知である(特許文献1参照)。障害物が無い場合の配線構造形状を図4Cに示す。配線構造の全長を可能な限り短くする目的でこの形状が一般的に用いられる。破線の円で囲んだ二個所の配線構造形状は図2Bにおいて示した設計法に基づいて決められる。図4Cに示された配線構造の形状において、L1で示した直線的な配線部を省略した形状を図4Dに示す。図4Dにおいて、平均的ドブロイ波はP2とP3における2回の反射で直角に曲がるが、線分P1P2と線分P1P3の長さは必ずしも等しい必要はない。しかし、これらの長さが等しい場合、その長さは約1.85wと計算できる。このようにして、図4Dに示した曲がり角に類する任意の曲がり部分の配線構造形状を設計することが出来る。
図5Aに直線部分の中心線を距離dだけ横にずらした従来の配線構造形状を示す。この配線構造は入力側の直線部分の中心線上において、点P1で右に屈曲し、点P2で左に屈曲して元の直線部分と平行になる。この配線構造形状を本発明の設計法を用いて改善した例を図5B及び図5Cに示す。図5Bに示される配線構造において平均的なドブロイ波を代表する光線は中心線上を進行し、点P1と点P2で反射する。図5Cにおいて実線で描かれた配線構造は、図5Bに示された配線構造においてL2で示した直線部分を省略した形状を持つ。ただし、入力側の直線部分(第1の直線部分)と出力側の直線部分(第2の直線部分)との横ずれの距離はdより小さくなる。点線で示した配線部分はこの横ずれの距離dを保つようにした配線構造形状を示す。この場合、平均的なドブロイ波を表す光線は点P1と点P2´で反射する。ただし、第1の直線部分と第2の直線部分とをつなぐ斜めの部分の配線構造の幅はwより広くなる。何れの場合も、出力側の平均的なドブロイ波は、第2の直線部分の中心線に沿って進行する。
図6AにU字形をした従来の配線構造を示す。この配線構造形状を本発明の設計法を用いて改善した例を図6B及び6Cに示す。何れの場合も、出力側の平均的なドブロイ波は、配線構造の中心線に沿って進行する。ただし、図6Cに示した配線構造形状は図4Bに示した従来例を応用したものである。
以上すべての改善例においては、平均的なドブロイ波の反射面として平面が用いられた。すなわち、破線の円で囲んだ各曲がりの個所の配線構造形状は、基本的には、図2Bを用いて説明した設計法に基づいて決められた。しかし、これら平面による反射の代わりに、図2Cに示された円筒面による反射を用いる設計法により配線構造形状を定めることもできる。特に図4Dに示された配線構造の場合、破線の円で囲んだ2箇所の曲がりの部分の4本の線分からなる輪郭線は、中心が同じである2本の円弧に置き換えることが出来る。改善された何れの配線構造形状においても入力側の第1の直線部分の中心線に沿って進行する平均的なドブロイ波は、出力側の第2の直線部分においても中心線に沿って進行することとなる。
以上に示した曲がり部分の配線構造形状の設計法を同様の曲がり部分を有する他の配線構造形状、例えば分岐部分を有する配線構造形状、の設計に応用した場合の改善前と改善後の配線構造形状を図7A〜C及び図8A〜Cに示す。
図7A〜CにT字形に分岐する配線部に関する改善前と改善後の形状を示す。なお、簡単のため、矢印の方向から進入してくる電子を、1対1の割合で分岐する場合を考察する。図7Aに示された配線構造は改善前の配線構造である。この場合も進入してくる電子の正面には垂直の壁が立ちはだかっており、ドブロイ波が正反射(逆方向に反射)されるため、この部位での発熱や信号波形の劣化が起こる。図7Bに示される配線構造は、最も単純でマスク作成のための描画も容易な改善例を示す。破線の円で囲んだ個所の配線構造形状は、平均的なドブロイ波が、各配線構造の中心線に沿って伝播するという設計上の指針に基づいて決められる。
しかし、分岐前と分岐後の配線構造の幅が同一であるという課題が残る。この問題を解決し、各配線構造の幅も含めて設計された配線構造形状を図7Cに示す。配線構造の厚みを一定とすれば、断面積は配線構造の幅に比例する。従って、進入してくる電子の数を1対1に分岐するには、単純化すれば、分岐後の配線幅を分岐前の配線幅の半分にすればよい。破線の円で囲んだ三個所の配線構造形状は、基本的に、図2Bにおいて示した設計法に基づいて決められていることがわかる。なお、図7Cにおいて、分岐後の配線構造の幅はw/2に限るものではなく、w/2以上、w以下であればよい。
図8A〜CにT字形に分岐する配線部に関する他の例の改善前と改善後の形状を示す。本配線構造の場合も、矢印の方向から進入してくる電子の数を1対1に分岐するものとする。図8Aに示す配線構造は改善前の配線構造である。図8Bに示す配線構造は、最も単純でマスク作成のための描画も容易な改善例を示す。この配線構造の特徴は、横方向へ分岐する配線構造の分岐の仕方にある。同図において分岐直後の配線構造の長さlは、同配線構造の終端において、長さlの直線部分の中心線方向へ伝播する平均的なドブロイ波が形成される長さを意味する。配線構造の幅wや配線構造内の電位勾配にもよるが、長さlは平均自由行程の少なくとも数十倍程度以上あればよいであろう。ここでは、直線部分の長さが、その直線部分の終端部において上述のような平均的なドブロイ波が形成されるための必要最低限の長さであるとして描かれている。従って、この長さは、破線の円で囲んだ個所に図2Bにおいて示した設計法が適用できる必要最低限の長さでもある。図8Bに示した配線構造をこのようにコンパクトにしたのは、もともと改善前の形状を示す図8Aの分岐配線構造が最もコンパクトだからである。もし、直線部分の長さlが十分長く2lであったとすると、図8Bに示した分岐配線構造は、長さlの分岐部分、長さlの第1の直線部分、曲がり部分、それに続く第2の直線部分との四つの異なる機能を有する配線部分から成ることになる。その場合、分岐部分に続く長さlの直線部分では、平均的ドブロイ波は直線部分の中心線に平行な方向へ伝播し、曲がり部分へと入射する。分岐前後での配線構造の幅も考慮した配線構造形状を図8Cに示す。破線の円で囲んだ二個所の配線構造形状は図2Bにおいて示した設計法に基づいて決められる。分岐後の各配線構造の幅は電子数の分岐比率に応じて適宜定めることが出来る。
本発明の配線構造形状を多層配線構造に適用した場合について図9A〜Cを用いて説明する。図9Aに従来の多層配線構造の一例を示す。上層の配線構造と下層の配線構造とは直交しており、スルーホールh1、h2、h3は上層の配線構造と下層の配線構造とを接続するために形成されている。本発明の設計法を用いて改善した例を図9Bと図9Cに示す。何れの場合も、配線構造の中心線の方向に長径を持つ楕円形状の開口を有するスルーホールh1、h2、h3の近傍で、上層の配線構造の平均的なドブロイ波の進行方向と下層の配線構造の平均的なドブロイ波の進行方向とが同一方向となっている。なお、スルーホールの開口の形状は楕円に限るものではないが、配線構造の中心線の方向の長さが、中心線に垂直方向の長さより長い形状が好ましい。これら二つの特徴により、電子を上層の配線構造から下層の配線構造へ円滑に移動させることが可能となる。また、図9Cに示した配線構造において、上層の配線構造と下層の配線構造のなす角度は45°に限るものではない。
以上すべての改善例においては、平均的なドブロイ波の反射面として平面が用いられた。すなわち、破線の円で囲んだ各個所の配線構造形状は、基本的には、図2Bにおいて示した設計法に基づいて決められた。しかし、図2Cに示しておいたように、これらの線分(平面)を円弧(円筒面)に代替することも可能である。従って、図4から図9までに示したすべての改善例において、破線の円で囲まれた配線構造部分の輪郭線としての2本の線分の少なくとも一方を円弧に変えることができる。
折れ曲がり部分を含む配線構造形状の設計に際して共通する設計上の要点は、平均的なドブロイ波の配線構造の壁における反射回数を可能な限り少なくすることと、入射側におけると同様、平均的なドブロイ波が出射側の直線的な配線構造の中心線に沿って進行するようにすることと、ショートカットを多用し、配線構造の全長も可能な限り短くすることとにあった。反射現象は入出方向に関して可逆的である。従って、以上の実施例において、電子ないし平均的ドブロイ波が進行する方向を示す矢印をすべて逆向きにしても同様の特性の改善がもたらされる。従って、これらの実施例は交流回路の配線構造にも適用できる。また、現実のLSIの回路における複雑な配線部であっても、以上に示された実施例やそれら実施例を目的に沿って変形し、組み合わせることによって全面的に改善することが出来る。高速信号処理の観点のみならず、省エネルギー、省資源の観点からも、LSIの高密度化と駆動電流の低電流化傾向は今後も続くことであろう。これまで、これら回路については、高密度化を優先するあまり、配線部の形状は定型化され、ほとんど放置されてきたといえる。
以上に示した配線構造形状を採用すれば、発熱や信号の劣化が抑制される方向にのみ働くため、現在よりも低い電流値でより高速の信号処理に対応できるようになる。これらの配線構造形状は、描画装置によってマザーマスクを作成し、それを転写することによって容易に多量のマスクに写しこむことが出来る。さらにこれらマスクをマスクアライナーやステッパー等の露光装置に装着することにより、通常のLSI量産行程に組み入れることができるため、新たな技術開発を必要としない。将来、X線露光が用いられる場合においても、X線露光用マスクにこれらの配線構造形状を採用することができる。またこれら配線構造形状は電子線描画装置や電子線露光装置を用いた電子回路製造工程においても容易に採用することができる。
なお、以上に示した配線構造形状の改善策は、ICやLSIなどに留まらず、よりスケールの大きな回路、例えばプリント基板上の配線部においても適用することが出来る。少なくとも、上述の式で与えられる配線構造の短縮効果(△l)は必ず得られるからである。しかも、短縮される配線長△lは配線構造の幅に比例するから、配線構造の幅が大きいほど配線構造の短縮量も大きくなる。
<第2の実施の形態>
LSIの配線部だけの信号伝達特性を改善しても、LSIに組み込まれているトランジスター等の各デバイスと配線部との連結面で電子の滞留が起これば、配線部の改良の効果が抑制されてしまうことになる。また、LSI全体としての特性の改善を図るには、各デバイス内部における異種材料の境界面における信号伝達特性も改善しなければならない。次に、電子とその電子に先行する平均的ドブロイ波とからなる同時二重性の概念を適用し、上記異種材料の境界面における信号伝達特性を改善するための方法を図10〜図15を用いて説明する。
図10Aに従来のNMOSFETの断面図を示す。このトランジスターを例に挙げて、Al又はCuなどにより形成された金属電極と、Si拡散層からなるソースないしドレイン電極との接合面との界面及び、ソースないしドレイン電極とSi基板との界面における信号伝達特性を改善する構成について説明する。
図10Aに示されたように、このトランジスターはキャリアー(正孔)注入用のソース電極9に接続するAlないしCuなどからなる金属電極3、引き出し用のドレイン電極4に接続する金属電極1、それにイオン注入されたポリSi膜からなるゲート電極2を持つ。断面に斜線が施されている部分は絶縁膜である。ソース電極9とドレイン電極4はn+層である。金属電極と半導体電極との接合面5と8は、平坦で、電気伝導度が急激に変化しているため、正孔とは逆方向に移動する電子に伴うドブロイ波を反射しやすい。従って、電子がこれら接合面へ入射しても一度で通過できるとは限らず、反射と再入射を何回か繰り返す場合があり得る。入射と反射の繰り返し回数が増せば、電子の滞留が生じるとともに、より多くの発熱や信号波形の劣化を招く。接合面においてドブロイ波が半導体側に一部でも透過しない限り、電子も半導体側に入り込めない。
このようなドブロイ波を伴う電子の反射を抑制するために、金属電極と半導体電極との接合面5と8における半導体側の面に微細な凹凸を設け、入射したドブロイ波を拡散反射ないし透過吸収させることとした。そのような微細構造の概略に関する四つの例を図11A〜Dに示す。図11Aは接合面上の一次元構造を示し、図11B〜Dは接合面上の二次元構造を示す。個々の微小構造体の底面の大きさに対する高さの比をアスペクト比と呼ぶ。高さが高い方、即ち、アスペクト比が大きい方がドブロイ波を拡散反射ないし透過吸収させるためにより効果的である。各微小構造において、頭頂部はとがっているほうがよい(図11A〜C参照)。さらに、図11Bに示すように接合平面そのものが残存しないほうがよい。わかりやすく言えば、いわゆる無反響室の壁面のような構造が望ましく、図11Cに示す微小構造はその壁面構造に類似している。ただし、製造技術の面から見ると、図11A〜Cに示すこれら先のとがった微細構造体の作成は困難である。その点、図11Dに示した先端部分の平坦な微細構造体の作成は比較的容易である。これら微細構造の形状は、金属電極と半導体電極との接合面の面積を拡大するので、電流を流れやすくするとの見方がある。しかし、このような古典電磁気学に基づくアナログ的な効果に加えて、上述の微視的な構造体と同時二重性を持つ電子の振る舞いとに基づくデジタル的な透過確率の増大が得られることを図12A,Bを用いて説明する。
図12Aは図11Aに示した微細構造の断面図である。本来の接合面はx軸上にあるとする。個々の構造の断面は二等辺三角形(正三角形)であり、底辺の長さを2d、頂角θを60度とする。底辺を除く二辺の長さの合計は4dとなるから、微細構造の表面の面積は、本来の接合面の面積の2倍となる。上方からx軸に垂直にドブロイ波が入射すると、このドブロイ波は微細構造面で3回反射されてもと来た方向に戻る。仮に、平坦な接合面に入射した電子10個のうち、1個だけが接合面を通過出来るとすれば、この微細構造を設けることにより通過電子は3個となり、透過率は3倍となる。図12Bに示す微細構造は図12Aに示した構造と同じ表面積を持つ別の微細構造である。この場合、上方からx軸に垂直にドブロイ波が入射しても、一回反射してもとに戻るため、入射した電子10個のうち1個しか接合面を通過せず、微細構造がない場合と変わらない。このように、本発明の微細構造の効果はその表面積の大小に直接依存するものではなく、入射ドブロイ波がもと来た方向に戻るまでに何回反射されるかという反射回数のみに依る。図12Aに示した微細構造において、頂角θが90度であれば反射回数は2回に減る。アスペクト比が大きいほうがよいとするのは反射回数を増すためである。針の束のように個々の針の先のアスペクト比が極端に大きくなると、何回反射しても入射光はもと来た方向には戻らない。従って、これら微細構造体の設計上の要点は、頂角θを何度にするかということに尽きる。頂角θが120度以上では1回の反射しか起こらないので全く意味をなさない。90度以下として少なくとも2回反射を起こさせることが必要で、60度以下であれば3回以上の反射が起こり得るのでより一層好ましいことになる。
しかし、図11A〜Cに示した微細構造は、それらの先端がとがっているため、加工上の困難が伴う。簡単のため、図12A,Bに示す例では、ドブロイ波が真上から垂直に入射するとした。ところが、平らな基板上に形成された実際の電子回路では、配線構造の設計においても考察したように、平均的なドブロイ波はむしろ平板的な導波路内を伝播する。斜め方向からドブロイ波が入射するのであれば、作成の容易な図12Bに示した平坦な頭頂部を有する微細構造であってもその側面が反射回数の増大に寄与し得ることは容易に理解出来る。接合面上に二次元的に配列された平坦な頭頂部を有する微細構造の一例を図11Dに示す。
微細構造は平均的なドブロイ波の入射方向を考慮して設計すればよいことが示された。さらに、微細構造の大きさは、電子の平均自由行程との関係において決められるべきことを図13A,Bを用いて説明する。図13Aには、アスペクト比が1で、一辺の長さが電子の平均自由行程の数倍の大きさを持つ構造に、左上方から若干斜めに傾いて電子e1が入射する様子を示す。凹凸構造が平均自由行程よりは大きいので、凹部に入射する電子の内、構造の側面近傍に入射する電子はドリフト運動によって進行方向が曲げられ、側面で一回目の反射をし、直ちに底面に向かい、そこで2回目の反射をするといったことが起こり得る。ここで示したかったことは、構造が平均自由行程の数倍程度の大きさであれば、この凹凸構造の側面も入射電子の単位時間あたりにおける反射回数の増大に寄与し得ることである。凹凸構造が十分に大きい場合を考察する。0℃での金属中の電子の平均自由行程を100nmとすると、一辺の大きさが少なくともその数十倍になれば、十分に大きな凹凸構造と言えよう。数十倍を5〜6十倍とすれば、そのような一辺の大きさは少なくとも5μmから6μmとなり、巨視的な大きさに達する。凹部に入射する電子の内、構造の側面近傍に入射する電子の割合は著しく減少するが、ドリフト運動だけでは無く、電場により側面方向に進行方向が曲げられ、そこで最初に反射される電子が増えることになる。しかし、それらの電子が直ちに底面でも反射されるといったことは起こり難いので、単位時間あたりにおける反射回数の増大への寄与は少ない。これに対し、図13Bには、同じくアスペクト比が1で、一辺の長さが電子の平均自由行程の二分の一ないし三分の一程度の大きさを持つ構造に、左上方から若干斜めに傾いて電子e1が入射する様子を示す。傾きが小さく、垂直入射に近い場合、一回のドリフト運動ないし一自由行程で溝の底に到達、かつ反射して溝から飛び出してしまう。ところが、最初から45°の入射角を持った電子e2の場合は、一回の自由行程の間に、溝の右側面、底面、左側面と三回の反射を起こし得る。簡単のため、三回の反射を前提にすれば、この凹凸構造が設けられた界面における平均自由時間あたりの透過確率(透過率)は単なる平面境界における透過確率の2倍となる。一辺の長さが30nmから50nmであれば、このような微細構造の作成はそれほど困難ではない。また、アスペクト比を高めて単位時間あたりの透過率を一層上げることも出来よう。因みに、十分大きな凹凸構造の場合、入射角が45°であっても、単位時間あたりの透過率は単なる平面境界における透過率より若干大きくなる程度と言える。以上のように、微細な凹凸構造の断面形状が矩形波状であっても、平均的なドブロイ波が斜めから入射する場合、電子の実効的な透過率を大幅に増大し得ることがわかる。透過率は電子の速度、従って、駆動電圧にも依存する。実効的な透過率が増すことは駆動電圧が下げられることを意味する。
図10Aに示したNMOSFETの半導体電極4の上面に図13Bに示した微細構造を設けた様子を図14Aに示す。不図示の金属電極中を伝播してきた平均的なドブロイ波は、斜め上方から45°の入射角をもってy軸と平行に配列された格子面に入射する。同一方向から入射する電子は、一回の自由行程によって溝の内部で3回の反射を起こし得るため、透過率の向上に寄与することになる。参考のため、x軸と平行に配列された格子構造も示しておいた。容易にわかるように、同じ格子構造であっても、z軸の周りに90°回転した場合、透過率の大幅な向上は期待できなくなる。平均的なドブロイ波の入射角θ(波数ベクトルkとz軸のなす角度)が45°よりも大きくなると、微細構造のアスペクト比を高めた効果と同様の効果が得られ、透過率向上を計ることが出来る。このように、微細構造の設計にあたっては、(1)微細な凹凸の空間的な構造と平均的な入射ドブロイ波の伝播方向との関係、と(2)凹凸構造の大きさと電子の平均自由行程との関係、とが極めて重要になる。
入射角が64.8°以上の場合に好適な微細構造の一部を切り出して描いた平面図と側面図とを図14Bに示す。同図において、微小四角柱の一辺の長さと高さを何れもaとし、四角柱の間の溝の幅bをb=aとする。1平均自由行程内に3回の反射をするという前提を設けた場合、平均的なドブロイ波の波数ベクトルkと微細構造を設ける前のもともとの境界面に立てた法線とのなす角度θは以下の式で与えられる。
従ってθ≧64.8°が得られる。1平均自由行程を100nmとしたとき、a≦21nmであれば、微細構造の表面で3回の反射を起こし得ることになる。ただし、これらの計算においては、簡単のため、電子の1平均自由行程内の軌道は直線的であるとした。溝の面積は四角柱の上面の面積の3倍ある。従って、平均自由時間当りの個々の電子に関する透過率は平坦な界面の場合の2.5倍となる。なお、四角柱の間の溝の幅bをaよりも狭くすれば、θは64.7°以下に出来る。
以上のように、金属電極と半導体電極との接合界面に適切な微細構造を設けることにより、界面における本質的な透過率に変化はないものの、上述の意味における単位時間当りの透過率を向上させられることになる。その結果、信号の立ち上がり立下り特性が改善され、その分ビットレートを上げ、高速化を計ることが出来る。また、見かけ上界面における抵抗値が下がるので、同じ電流値を維持するための駆動電圧を下げることが可能となり、省エネルギー化を図ることも出来る。
なお、金属電極と半導体電極との接合面における信号伝達特性を向上させる本発明の方法はNMOSFETに限らず、他の一般的な半導体デバイスなどの電子デバイスにも適用できる。即ち、ここで言うところの電子デバイスとしてはトランジスターやIC、LSI等、電子固有のデバイスのほかに光電変換、表示、発光などの各デバイスが挙げられる。
次に、半導体電極とSi基板との界面における信号伝達特性を改善する構成について図10A〜Cを用いて説明する。
図10Aにおいて、ドレイン電極4とソース電極9とには金属電極1と3が接続しており、ゲート電極2はイオン注入されたポリSi膜からなる。ドレイン電極4とソース電極9とは、ゲート電極2へのイオン注入時と同時にゲート電極をマスクとしてイオン注入されて得られたn+層である。斜線部はSiO2絶縁膜を示す。ここでは、破線で描かれた二つの円で示された半導体電極とp−Si基板との境界部分6,7に着目する。これらの部分のみを取り出した平面図を図10Bに示す。図10Bは、ゲート電極2を通して半導体電極とp−Si基板との境界部分10,11とを示す。半導体電極とp−Si基板との境界はそれぞれ破線で示されている。このような直線的な境界(面)ではドブロイ波の反射とそれに伴う電子の反射が起きやすい。
半導体電極とp−Si基板との境界部10,11におけるドブロイ波の反射を抑制するための方法の一例を図10Cに示す。図10Cにおいて、ゲート電極13の左右にはドレイン電極12とソース電極14とが位置する。ゲート電極13の左右の境界線はこれまでの直線を改め、鋸歯状とした。このような縁を持ったゲート電極をマスクとしてイオン注入すると、ゲートの下に位置するドレイン電極12とソース電極14の縁も破線で示したような鋸歯状となる。これまでの直線的な境界とは異なり、微細な凹凸部でのドブロイ波の反射は多数回反射となるため、電子が透過する確率を上げる効果が得られる。従って、半導体内部での信号伝達特性が向上する。なお境界線の形状は、図10Cに示した規則的なものに限らず、不規則であってもよい。本実施例の半導体デバイスを製造するには、ゲート電極13を形成するために必要とされる露光用マスク等の変更だけで済ませられ、従来の製造工程を用い容易に製造することができる。
以上に示した半導体内部での信号伝達特性を向上させる方法もNMOSFETに限らず、他の一般的な半導体デバイスなどの電子デバイスにも適用できる。また、既に示した金属電極と半導体電極との接合面における信号伝達特性を向上させる方法も、半導体デバイスなどの電子デバイスの構造に応じてデバイス内部での信号伝達特性を向上させる目的に使用できる。また、微細構造は上記実施形態で示した形状に限らず、最も好ましくは、入射電子の一平均自由行程内で、少なくとも二回の反射が起き得る面を持てばどのような構造であってもよい。なお、二ないし三平均自由行程内で、少なくとも二回の反射が起き得る構造であっても、十分、好ましい効果が得られる。半導体内部での電子の平均自由行程は半導体の種類によって数倍程度の範囲で異なっている。しかし、概して、金属中でのそれよりは長く、微細構造作成上の問題にはならない。以上の方法は、電子デバイスに限らず、一般的に、配線構造等における異種材料の接合部にも適用できることは明らかである。さらには、界面の存在する同種材料の接合部に用いても、接触抵抗を実効的に低減させる効果が期待できる。
以上のように、金属と半導体などの電子デバイスとの接合面や、電子デバイス内部における異種電子材料界面におけるドブロイ波の反射を抑制し透過吸収を促すことは、それらの面に起因する発熱や信号劣化を抑制する効果をもたらす。これらの効果によって電子デバイスに起因する発熱や信号劣化が低減されれば、一個のデジタル信号を形成するための電子数をより少なくし、その結果信号の伝送速度(ビットレート)をも上げることが出来る。これら本発明の効果は、電子デバイスの駆動電流をより少なくすることも可能にするので、当然、消費電力の低減を図ることに転用することができる。
ところで、第一の実施の形態において示された各種の新規配線構造形状は、それら配線構造形状を持った配線パターンをマスク上に形成し、そのマスクを半導体露光装置に装着することにより、通常のLSI量産行程に組み入れることができた。また、第二の実施の形態においても、異種電子材料界面に微細構造を設けるためのマスクを作成し、そのマスクを半導体露光装置に装着することにより所望の半導体デバイスを量産することができる。そのような半導体露光装置の概略を図15に示す。同図において、不図示の光源にはエキシマレーザーが用いられる。光源からの光束15はホモジナイザーとしてのハエの目レンズ16を照明する。個々のハエの目レンズが作る点光源の配列を二次光源面17とし、二次光源面17からの各発散光束はコンデンサーレンズ18を経てマスク19を一様に照明する。照明されたマスクパターンは投影レンズ20によりフォトレジストが塗布されたウエハー23上に結像される。マスクを置かなければ、二次光源面17は投影レンズの射出瞳21内に点線22で示したように結像する。この光源像22は有効光源と呼ばれる。結像した有効光源22の大きさが、図に示したように、射出瞳21の大きさより小さい場合には部分的コヒーレント照明となる。
なお、本発明の思想または範囲から逸脱しない限り、上記実施例の具体的な記載内容に対し、各種の変更を施すことが可能である。
本発明の第1の態様によれば、配線構造の中心線に沿って伝播する平均的なドブロイ波が、その伝搬方向と逆方向に反射されることが抑制されるので、配線構造の抵抗を下げることができる。なお、平均的なドブロイ波の伝播方向とは、ドリフト運動をする電子の平均的な運動方向と同義である。
上式より、短縮される配線長△lは配線構造の幅wに比例し、曲りの角度Θが大きいほど短くなることがわかる。このように、短縮される長さ△lは曲りの角度Θと配線構造の幅wの関数となっているので、いくつかの具体例について△lを計算した結果を図3に示す。図3において、曲りの角度についてはΘ=100°とΘ=135°の2サンプルとし、配線構造の幅についてはw=10μm、w=1μm、及びw=0.5μmの3サンプルとした。