JP5316137B2 - 光偏向素子 - Google Patents

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Description

本発明は、光偏向素子に関し、特に、フォトニック結晶を備えた光偏向素子に関する。
フォトニック結晶とは、第1の媒質中に屈折率の異なる第2の媒質が光の波長程度の周期で配列された結晶構造を有し、フォトニックバンド構造を備えた結晶体である。フォトニックバンド構造とは、特定の波長範囲の光の存在が禁止されるフォトニックバンドギャップが現れる特性である。フォトニック結晶は、このフォトニックバンド構造に起因して、従来の光学結晶とは異なる特有の光学特性を示す。
フォトニック結晶に特有の光学特性の1つとして、スーパープリズム効果がある。スーパープリズム効果とは、入射角や波長の僅かな変化に対して屈折角を大きく変化させる効果である。フォトニック結晶で構成されたプリズムは、通常の光学プリズムの100倍〜1000倍の光分解能を有することが報告されている(非特許文献1参照)。また、フォトニック結晶のスーパープリズム効果を利用した光走査装置や光偏向装置等が種々提案されている(特許文献1、2参照)。
例えば、特許文献1に記載された光走査装置は、光源、一方の媒質がPLZT等の強誘電体材料で構成されたフォトニック結晶、及びフォトニック結晶に印加する電圧を制御する電圧制御部を含んで構成されている。この光走査装置では、印加する電圧を制御してフォトニック結晶の屈折率を変化させ、光源からフォトニック結晶に入射される光ビームの偏向方向を大きく変化させて光走査を行っている。
また、特許文献2に記載された光偏向装置は、フォトニック結晶部、フォトニック結晶部に光を導入する光導入手段、及びフォトニック結晶部に機械的外力を印加する外力印加手段を含んで構成されている。この光偏向装置では、フォトニック結晶部に機械的外力を印加して変形させることにより、導入された光のフォトニック結晶部での屈折角を変化させ、入射角や波長を変化させずに導入された光を偏向している。
H.Kosaka等 "Superprism Phenomena in Photonic Crystals: Toward Microscale Lightwave Circuits" Journal of LIGHTWAVE TECHNOLOGY VOL.17, NO.11, pp2032-2038,(1999)
特開2006-178363号公報 特開2004-145317号公報
しかしながら、フォトニック結晶のスーパープリズム効果により得られる屈折角の変化には限界があり、例えばレーザテレビジョンなど、大きな偏向角度が要求される用途には屈折角の変化が不十分である、という問題がある。
特許文献1や特許文献2のように、フォトニック結晶に電界や応力を印加することで、フォトニック結晶の屈折角(屈折率)を変化させることができる。しかしながら、電界を印加することができる材料は、PLZT等の一部の強誘電体材料に制限される。また、フォトニック結晶に応力を印加する場合には、大きな偏向角度を得るために無理な応力を印加すると疲労破壊が発生する虞がある。
本発明は、上記問題を解決すべく成されたものであり、本発明の目的は、従来のフォトニック結晶を用いた光偏向素子と比較して、より大きな偏向角度が得られる光偏向素子を提供することにある。
上記目的を達成するための本発明は、第1方向で伝播された入射光が入射する入射端面、前記入射端面から入射されて伝播する伝播光を反射する少なくとも1つの反射面、及び前記反射面で反射された伝播光が前記第1方向とは異なる第2方向に出射する出射端面を少なくとも有するフォトニック結晶を備え、前記入射端面及び前記出射端面における2度のスーパープリズム効果により、前記第2方向と前記出射端面の法線とが成す出射角が、前記第1方向と前記入射端面の法線とが成す入射角又は入射光の波長に応じて変化して、光伝播方向を偏向する光偏向素子である。
請求項の発明は、波数ベクトルに対する等周波数面を表す曲線において、該曲線の連続する各点における法線方向が急峻に変化する部分を有するフォトニック結晶であって、第1方向から入射された入射光が前記フォトニック結晶に入射する入射端面、前記入射端面から入射されて前記フォトニック結晶内を伝播する第1伝播光を反射する少なくとも1つの反射面、及び前記反射面で反射された第2伝播光が前記フォトニック結晶から前記第1方向とは異なる第2方向に出射する出射端面を有するフォトニック結晶を備え、前記入射端面においてスーパープリズム効果が生ずる、前記第1方向と前記入射端面の法線とが成す入射角と前記第1伝播光と前記入射端面の法線とが成す屈折角との角度関係、及び前記出射端面においてスーパープリズム効果が生ずる、前記第2伝播光と前記出射端面の法線とが成す入射角と前記第2方向と前記出射端面の法線とが成す出射角との角度関係が前記法線方向が急峻に変化する部分に基づいて求められると共に、スーパープリズム効果が生じる入射角で前記入射端面に入射した前記入射光に基づく前記第1伝播光が、前記反射面で反射されてスーパープリズム効果が生ずる入射角で前記出射端面に入射されるように、前記入射端面、前記出射端面、及び前記反射面相互間の角度が定められ、且つ前記出射角が、前記入射光の入射角又は波長に応じて変化して、光伝播方向を偏向する光偏向素子である。
請求項の発明は、前記フォトニック結晶は、二次元正方格子構造を有すると共に、平面視が三角形の外形形状を有し、前記入射端面が前記二次元正方格子構造の一方の周期方向に平行であり、前記出射端面が前記二次元正方格子構造の他方の周期方向に平行であり、且つ前記反射面が前記二次元正方格子構造の2つの周期方向の各々と交差する請求項1に記載の光偏向素子である。
請求項の発明は、前記フォトニック結晶の屈折率を変化させる屈折率変更手段を、更に備えた請求項1又は請求項2に記載の光偏向素子である。
請求項の発明は、前記屈折率変更手段が、前記フォトニック結晶に電界を印加する電界印加手段である請求項に記載の光偏向素子である。
請求項発明は、前記屈折率変更手段が、前記フォトニック結晶に外部から応力を印加する応力印加手段である請求項に記載の光偏向素子である。
本発明によれば、従来のフォトニック結晶を用いた光偏向素子と比較して、より大きな偏向角度が得られる光偏向素子を提供することができる、という効果がある。
本発明の光偏向素子の実施の形態の一例を示す斜視図である。 フォトニック結晶の一部を拡大して示す斜視図である。 本実施の形態で使用されるフォトニック結晶の周期構造を示す平面図である。 第2フォトニックバンドの第1ブリュアン領域内の波数ベクトルに対する等周波数面を示す平面図である。 図4に示す等周波数面の一部を拡大して示す平面図である。 (A)は空気側からフォトニック結晶に光が入射する様子を示す模式図であり、(B)はフォトニック結晶から空気側に光が出射する様子を示す模式図である。 図5に示す特定等周波数平面での空気側角度と結晶側角度との関係を示すグラフである。 本実施の形態に係る光偏向素子の動作原理を示す平面図である。 (A)〜(C)はスーパープリズム効果を2回利用できるフォトニック結晶の一例を示す平面図である。 (A)〜(C)はスーパープリズム効果を2回利用できるフォトニック結晶の他の一例を示す平面図である。 本発明の光偏向素子の実施の形態の変形例を示す斜視図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
<光偏向素子の概略構成>
図1は本発明の光偏向素子の実施の形態の一例を示す斜視図である。図2はフォトニック結晶の一部を拡大して示す斜視図である。図1に示すように、本実施の形態に係る光偏向素子10は、基板12、該基板12上に設けられた支持部14A〜14C、ガイド部16A〜16C、及び基板12の上方に保持されたフォトニック結晶18を備えている。フォトニック結晶18は、平板状の結晶体であり、図示されたX方向及びY方向に拡がる二次元面内を、光が伝播するように構成されている。
図2に示すように、フォトニック結晶18は、複数の円孔26が周期的に形成された二次元周期構造を有している。複数の円孔26の各々は、円形の開口を備え、表面18Aから裏面18Bまで貫通する貫通孔である。本実施の形態では、円孔26の内部は空気で満たされているため、以下では、円孔26を「空気ロッド26」と言い換える。
また、フォトニック結晶18は、入射光Linが入射する入射端面20、入射端面20から入射されてフォトニック結晶18内を伝播する伝播光を反射する反射面22、及び反射面22で反射された伝播光が出射光Loutとして出射する出射端面24を備えている。
本実施の形態では、1つの反射面22を有する場合について説明するが、フォトニック結晶18には、必要に応じて複数の反射面22を設けることができる。
本実施の形態では、フォトニック結晶18は、平面視が直角三角形に近似した台形状である。入射端面20が1組の平行な対辺の一方を構成する下底であり、入射端面20と出射端面24とが直交し、反射面22及び出射端面24がもう1組の対辺を構成している。
フォトニック結晶18内を伝播する伝播光が反射面22で全反射される場合には、特に反射膜を設ける必要は無い。しかしながら、全反射されない場合には、反射面22上に反射膜を設ける。反射膜としては、銀、アルミニウム等の反射率の高い金属膜や誘電体多層膜等を用いることができる。金属薄膜や誘電体多層膜は、蒸着等により反射面22上に薄膜形成される。
基板12上には、フォトニック結晶18を所定高さに支持する、直方体状の支持部14A、支持部14B、及び支持部14Cが設けられている。フォトニック結晶18は、支持部14A〜14Cによって基板12から所定高さに支持されており、基板12とはZ方向に所定間隔で離間されている。フォトニック結晶18は、その表面18Aが露出し、その裏面18Bが基板12と対向するように支持されている。
また、支持部14A、支持部14B、及び支持部14Cの各々の上には、フォトニック結晶18を所定位置に保持するために、対応するガイド部16A、ガイド部16B、及びガイド部16Cが設けられている。フォトニック結晶18は、ガイド部16A〜16Cによって基板12上方の所定位置に保持されている。ガイド部16AはYZ平面に平行な当接面を備えている。ガイド部16Bは、平面視がL字状で、YZ平面に平行な第1当接面とXZ平面に平行な第2当接面とを備えている。ガイド部16CはXZ平面に平行な当接面を備えている。
入射端面20の一方の端部が、ガイド部16Aの当接面に当接されると共に、入射端面20の他方の端部が、ガイド部16Bの第1当接面に当接される。また、出射端面24の一方の端部が、ガイド部16Bの第2当接面に当接されると共に、出射端面24の他方の端部が、ガイド部16Cの当接面に当接される。これにより、フォトニック結晶18がX方向及びY方向の所定位置に位置決めされて保持されている。
上記の光偏向素子10では、第1方向で伝播された入射光Linが入射端面20からフォトニック結晶18に入射する。本実施の形態では、入射光Linの波長は一定とする。入射光Linは、空気とフォトニック結晶18との境界面でスーパープリズム効果により屈折されて、フォトニック結晶18内を伝播する。フォトニック結晶18内を伝播する伝播光は、反射面22で反射される。反射面22で反射された伝播光は、出射端面24から出射する。出射光Loutは、フォトニック結晶18と空気との境界面でスーパープリズム効果により屈折されて、空気内を第1方向とは異なる第2方向に伝播する。即ち、第1方向で伝播された入射光Linは、光偏向素子10で偏向されて、第2方向に伝播する出射光Loutとなる。
本実施の形態に係る光偏向素子10は、基板12としてシリコン基板を用いている。支持部14A〜14Cは、酸化シリコン(SiO)で構成されている。ガイド部16A〜16Cは、基板12と同様にシリコン層で構成されている。フォトニック結晶18は、シリコン層中に空気ロッド26が周期的に配置されたものである。
これらの材料で構成された光偏向素子10は、従来公知の半導体製造プロセスを用いて製造することができる。例えば、シリコン基板上に、酸化シリコン層を介してシリコン層が形成されたSOI基板(ウェハ)を準備する。フォトリソグラフィーにより、シリコン層上に所定パターンを有するエッチングマスクを形成する。このエッチングマスクを用いて、酸化シリコン層が露出するまでエッチングを行い、ガイド部16A〜16C及びフォトニック結晶18となる部分を残して、不要なシリコン層を除去する。
次に、フォトニック結晶18となるシリコン層の表面に、空気ロッド26を穿孔するための微細パターン(凹部)を電子線描画等により形成する。この微細パターンに従って酸化シリコン層に達するまでエッチングを行い、複数の空気ロッド26が周期的に配列されたフォトニック結晶18を形成する。XY平面に対し垂直な円孔が形成されるように、エッチング工程は、反応性イオンエッチング等のドライエッチングにより行う。次に、緩衝フッ化水素酸を用いて、支持部14A〜14Cを残して、不要な酸化シリコン層を除去する。フォトニック結晶18と基板12との間の酸化シリコン層も除去され、フォトニック結晶18が基板12から離間される。また、複数の空気ロッド26の各々が貫通する。
<フォトニック結晶の特徴>
次に、本発明の光偏向素子に適用されるフォトニック結晶の一例について説明する。図3は本実施の形態で使用されるフォトニック結晶の周期構造を示す平面図である。黒丸が、空気ロッド26の円形の開口部を表している。図3に示すように、フォトニック結晶18は、シリコン層を背景として、複数の空気ロッド26が、X方向及びY方向に周期的に配列された正方格子構造を有している。
ここで、シリコンの屈折率は3.45であり、空気の屈折率は1である。図3に示すように、空気ロッド26の直径2r(半径r×2)を0.4μmとし、空気ロッド26のピッチaを1μmとする。ピッチaは、正方格子の格子定数に相当する。また、本実施の形態では、入射光Linの波長λは1.55μmとする。即ち、フォトニック結晶18は、第1の媒質(シリコン)中に、屈折率の異なる第2の媒質(空気)が光の波長程度の周期で配列された結晶構造を有している。
フォトニック結晶の周期構造の情報が与えられると、平面波展開法という計算方法を用いて、フォトニックバンド構造を求めることができる。フォトニックバンド構造とは、光波の角周波数ωと波数ベクトルkとの関係を示したものである。この角周波数ωと波数ベクトルkとの関係は「光の分散関係」とも称される。フォトニックバンド構造には、特定の波長範囲の光の存在が禁止されるフォトニックバンドギャップが現れる。
また、フォトニックバンド構造には、複数のフォトニックバンドが存在する。低周波数領域側から数えてn番目のフォトニックバンドが、第nフォトニックバンドである。フォトニック結晶は周期構造を有するために、波数空間内の「第1ブリュアン領域」と呼ばれる特定領域だけに着目すればよい。また、結晶構造の対象性から、第1ブリュアン領域内のΓ、X、Mの各点を頂点とする三角形の「規約領域」に存在する波数空間(Γ→X→M→Γ)についてのみフォトニックバンド構造が求められる。
通常、光波等の波動が屈折率nの媒質1から屈折率nの媒質2に入射する場合には、入射角θと屈折角θとの間にはスネルの法則が成立し、nsinθ=nsinθの関係が成立する。しかしながら、光波が空気からフォトニック結晶に入射する場合、及び光波がフォトニック結晶から空気に出射する場合には、スネルの法則は成立せず、フォトニック結晶が有する高い分散関係により、スーパープリズム効果と称される全く異なる屈折効果を得ることができる。
本実施の形態では、図3に示すフォトニック結晶の周期構造から得られるフォトニックバンド構造において、第2フォトニックバンドはバンド端で高い分散性を有し、点Γの近傍で上に凸の曲線となる。図4は上記の第2フォトニックバンドの第1ブリュアン領域内の波数ベクトルに対する等周波数面を示す平面図である。横軸は波数ベクトルkのx方向成分k、縦軸は波数ベクトルkのy方向成分kである。図面の右側には、光の角周波数ωを表す濃度が図示されている。以下では、光の角周波数ωを単に周波数という。周波数が低いほど等周波数面の色が濃くなり、周波数が高いほど等周波数面の色が薄くなる。この波数ベクトルに対する等周波数面は、フォトニック結晶の周期構造や材料等の設定に応じて、固有に得られるものである。
図4に示すように、第2フォトニックバンドの第1ブリュアン領域では、外側から内側に行くほど等周波数面の色が薄くなり、周波数が高くなっている。フォトニック結晶中での光(エネルギー)の伝播方向は、群速度vにより決定される。群速度vは光の角周波数ωの波数ベクトルkに対する勾配であり、群速度vを求めるには波数ベクトルk=(k,k)が必要になる。群速度vは、正確には、波数ベクトルkに対する光の波長の固有値を表す等周波数面(分散曲面)ω(k)に対し、下記式により算出される。
=∇ω(k)
図5は、図4に示す等周波数面の一部(太線で示した特定の等周波数面X)を拡大して示す平面図である。なお、等周波数面Xは、強調のために太線で図示されているが、周波数が低い訳ではなく、両側に隣接する等周波数面の中間に在る周波数値を有する。接線方向の運動量保存により得られる波数ベクトルkのy方向成分をkとすると、kを表す直線と注目する等周波数面との交点が、波数ベクトルkのx方向成分kとなる。群速度vは、周波数ωの波数ベクトルkに対する勾配である。図4に示す例では、光の伝播方向は、この交点(k,k)での等周波数面の法線方向を周波数が増加する方向に向く。
例えば、図5に示すように、特定の等周波数面Xについて見ると、光の伝播方向は点線で図示した矢印の方向を向くことになる。平面視が略矩形状の等周波数面Xでは、4つの角部において等周波数面Xを表す曲線の連続する各点における法線方向が大きく変化し、群速度v(換言すれば、光の伝播方向)が急峻に変化する。この群速度vの急峻な変化が、スーパープリズム効果の本質である。例えば、図5に示す例では、4つの角部において、法線方向は一定方向に連続して約90°変化する。
<光偏向素子の動作原理>
図6(A)は空気側からフォトニック結晶に光が入射する様子を示す模式図であり、図6(B)はフォトニック結晶から空気側に光が出射する様子を示す模式図である。なお、図6(A)及び(B)では、入射角及び屈折角を一般的に定義するために、通常の屈折状態を示しているが、フォトニック結晶を用いた場合には、上述したように全く異なる屈折効果を得ることができる。なお、屈折角の符号は、通常の屈折状態での値を正とし、これと反対の状態を負とする。
図6(A)に示すように、本実施の形態に係る光偏向素子10の光入射部30(図8参照)では、第1方向で伝播された入射光Linが入射端面20からフォトニック結晶18に入射角θで入射する。入射角θは、入射端面20の法線と入射光Linの伝播方向(第1方向)とが成す角度である。図6(A)では、空気側角度θとも記述する。入射光Linは、空気とフォトニック結晶18との境界面で屈折角θで屈折されて、フォトニック結晶18内を伝播する。屈折角θは、入射端面20の法線と伝播光の伝播方向とが成す角度である。図6(A)では「結晶側角度θ」とも記述する。
図6(B)に示すように、本実施の形態に係る光偏向素子10の光出射部32(図8参照)では、反射面22で反射された伝播光は、出射端面24に対し入射角θで入射する。入射角θは、出射端面24の法線と伝播光の伝播方向とが成す角度である。図6(B)では「結晶側角度θ」とも記述する。出射光Loutは、フォトニック結晶18と空気との境界面で屈折角θで屈折されて、空気内を第1方向とは異なる第2方向に伝播する。屈折角θは、出射端面24の法線と出射光Loutの伝播方向とが成す角度である。図6(B)では「空気側角度θ」とも記述する。
図7は図5に示す特定の等周波数面Xでの空気側角度と結晶側角度との関係を示すグラフである。このような空気側角度と結晶側角度との関係は、等周波数面毎に得ることができる。図7から分かるように、領域Aでの関係から、入射角θ(空気側角度θ)が+25°の近傍で僅かに変化する間に、屈折角θ(結晶側角度θ)は0°→−70°まで大幅に変化する。このように、空気側からフォトニック結晶に光が入射する際に、スーパープリズム効果が発生する。
一方、図7から分かるように、領域Bでの関係から、入射角θ(結晶側角度θ)が0°の近傍で僅かに変化する間に、屈折角θ(空気側角度θ)は0°→+25°まで大幅に変化する。このように、フォトニック結晶から空気側に光が出射する際にも、スーパープリズム効果が発生する。
換言すれば、領域Aでの関係から光入射部30で1回目のスーパープリズム効果を得ることができると共に、領域Bでの関係から光出射部32において2回目のスーパープリズム効果を得ることができる。図5に示す特定の等周波数面の例では、入射角θが略0°の場合、即ち、フォトニック結晶から空気側に伝播光が出射する際に、伝播光が出射端面24に対し略垂直に入射する場合に、光出射部32で2回目のスーパープリズム効果を得ることができる。
図8は本実施の形態に係る光偏向素子の動作原理を示す平面図である。上述した通り、本実施の形態に係る光偏向素子10は、2段階のスーパープリズム効果を得ることができるように、フォトニック結晶18の形状及び周期構造を設計したものである。その動作原理を以下に詳しく説明する。
図8に示すように、光偏向素子10の光入射部30では、第1方向で伝播された入射光Linが、入射端面20からフォトニック結晶18に入射角θで入射する。入射光Linは、空気とフォトニック結晶18との境界面において屈折角θで屈折されて、フォトニック結晶18内を伝播する。このとき、図7に示す領域Aの関係から、スーパープリズム効果を得ることができる。即ち、入射角θを+25°の近傍で僅かに変化させて、屈折角θを0°→約−70°まで大幅に変化させることができる。この例では、入射角θの符号は正、屈折角θの符号は負であり、屈折角θは入射端面20の法線lに対し入射角θと同じ側に開いている。
フォトニック結晶18内を伝播する伝播光は、反射面22により反射角θで反射される。伝播光が反射面22に入射する入射角と反射角θとは等しい。反射角θは、反射面22の法線lと反射された伝播光の伝播方向とが成す角度である。本実施の形態では、入射端面20と出射端面24とが直交しているので、屈折角θと反射角θとを等しくすることで、出射端面24の法線lと伝播光の伝播方向とが成す入射角θが0°となる。即ち、反射面22で反射された伝播光は、出射端面24に対し略直角に入射する。
光偏向素子10の光出射部32では、出射光Loutは、フォトニック結晶18と空気との境界面において屈折角θで屈折されて、出射端面24から出射する。出射端面24から出射された出射光Loutは、空気内を第1方向とは異なる第2方向に伝播する。このとき、図7に示す領域Bの関係から、スーパープリズム効果を得ることができる。即ち、入射角θを0°の近傍で僅かに変化させて、屈折角θを0°→約+25°まで大幅に変化させることができる。この例では、入射角θの符号は負、屈折角θの符号は正であり、屈折角θは出射端面24の法線lに対し入射角θと同じ側に開いている。
上述した通り、本実施の形態では、フォトニック結晶18に反射面22を設けたことで、フォトニック結晶18内を伝播する伝播光の進行方向を変更して、光入射部30と光出射部32とでスーパープリズム効果を利用することができるようにしたものである。特に、入射端面20と出射端面24とが直交している場合には、屈折角θと反射角θとを等しくすることで、出射端面24に対し伝播光を垂直に入射させることができ、光出射部32でスーパープリズム効果を利用することが容易になる。
スーパープリズム効果を2回利用することで、2段階のスーパープリズムがテコのように働いて、従来のフォトニック結晶を用いた光偏向素子と比較して、はるかに大きな偏向角度を得ることができる。例えば、入射光Linが入射端面20の法線lに対し入射角θ(=+25°)で入射し、出射光Loutが出射端面24の法線lに対し屈折角θ(=+25°)で出射すると仮定すると、入射光Linは、光偏向素子10により50°まで偏向されて、出射光Loutとして出射することになる。
<変形例>
(フォトニック結晶の変形例)
図9(A)〜(C)はスーパープリズム効果を2回利用できるフォトニック結晶の一例を示す平面図である。上記の実施の形態に係るフォトニック結晶もこの例に含まれる。
バンド端で高い分散性を有するフォトニックバンドの第1ブリュアン領域内の波数ベクトルに対する等周波数面(図4参照)において、図9(B)に示す特定の等周波数面を備える場合に、図9(A)に示す外部屈折角と結晶内屈折角との関係を示すグラフを得ることができる。図9(A)の外部屈折角は、図7の空気側角度に相当する。また、図9(A)の結晶内屈折角は、図7の結晶側角度に相当する。光入射部では(あ)→(い)の領域を利用してスーパープリズム効果を得ることができ、光出射部では(い)→(う)の領域を利用してスーパープリズム効果を得ることができる。
図9(B)に示す平面視が略矩形状の特定の等周波数面では、図5と同様に、光の伝播方向は点線で図示した矢印の方向を向くことになる。従って、4つの角部において等周波数面の接線の傾きが大きく変化し、群速度vが急峻に変化する。この群速度vの急峻な変化により、スーパープリズム効果が得られる。フォトニック結晶内での光の伝播方向(あ)、(い)、(う)は、図9(A)に示す外部屈折角と結晶内屈折角との関係(あ)、(い)、(う)に相当する。光入射部では(あ)→(い)の領域での群速度vの急峻な変化により、光出射部では(い)→(う)の領域での群速度vの急峻な変化により、スーパープリズム効果を各々得ている。
図9(C)に示す特定の等周波数面を備える場合にも、図9(A)に示す外部屈折角と結晶内屈折角との関係を示すグラフが得ることができる。図9(C)に示す特定の等周波数面も、波数ベクトルkのy方向成分「k」軸に対して対称に配置された4つの角部を備えており、光の伝播方向は点線で図示した矢印の方向を向くことになる。従って、図9(B)と同様に、4つの角部での群速度vの急峻な変化により、光入射部と光出射部とでスーパープリズム効果を得ることができる。
図10(A)〜(C)はスーパープリズム効果を2回利用できるフォトニック結晶の他の一例を示す平面図である。バンド端で高い分散性を有するフォトニックバンドの第1ブリュアン領域内の波数ベクトルに対する等周波数面において、図10(B)に示す特定の等周波数面を備える場合に、図10(A)に示す外部屈折角と結晶内屈折角との関係を示すグラフを得ることができる。
図10(A)に示す関係から、光入射部では(あ)→(い)の領域を利用し、光出射部では(い)→(う)の領域を利用して、スーパープリズム効果を得ることができる。詳しくは、光入射部では(あ)→(い)の領域の関係から、入射角θ(外部屈折角θ)を僅かに変化させて、屈折角θ(結晶内屈折角θ)を大幅に変化させることができる。入射角θの符号は正、屈折角θの符号は正である。また、光出射部では(い)→(う)の領域の関係から、入射角θ(結晶内屈折角θ)を僅かに変化させて、屈折角θ(外部屈折角θ)を大幅に変化させることができる。
図10(B)に示す平面視が略矩形状の特定の等周波数面では、図5とは反対に、光の伝播方向は点線で図示した矢印の方向(外側)を向くことになる。しかしながら、4つの角部において等周波数面の接線の傾きが大きく変化する点は、図5と同様であり、4つの角部で群速度vが急峻に変化する。この群速度vの急峻な変化により、スーパープリズム効果が得られる。フォトニック結晶内での光の伝播方向(あ)、(い)、(う)は、図10(B)に示す外部屈折角と結晶内屈折角との関係(あ)、(い)、(う)に相当する。
図10(C)に示す特定の等周波数面を備える場合にも、図10(A)に示す外部屈折角と結晶内屈折角との関係を示すグラフが得ることができる。図10(C)に示す特定の等周波数面も、波数ベクトルkのy方向成分「k」軸に対して対称に配置された4つの角部を備えており、光の伝播方向は点線で図示した矢印の方向を向くことになる。従って、図10(B)と同様に、4つの角部での群速度vの急峻な変化により、光入射部と光出射部とでスーパープリズム効果を得ることができる。
ここで、光入射部と光出射部とでスーパープリズム効果を得るための条件を整理する。このように2度のスーパープリズム効果を得るためには、フォトニック結晶において、波数ベクトルに対する等周波数面を表す曲線の連続する各点における法線方向が急峻に変化する必要がある。図9及び図10の例では、法線方向が一定方向に連続して約90°変化する例を示したが、法線方向が急峻に変化するとは、スネルの法則に従う通常屈折の場合に比べて変化が大きいことを意味している。
(応力印加手段を追加した変形例)
図11は本発明の光偏向素子の実施の形態の変形例を示す斜視図である。変形例に係る光偏向素子10Aは、フォトニック結晶18の表面18上に上部電極34を設けると共に、基板12の裏面に下部電極36を設けた以外は、上記実施の形態に係る光偏向素子10と同じ構成であるため、同じ構成部分には同じ符号を付して説明を省略する。
上記光偏向素子10Aでは、上部電極34と下部電極36との間に電圧を印加すると、静電気力によりフォトニック結晶18が撓んで上下に変形する。このフォトニック結晶18の変形により生じる応力によって、フォトニック結晶18のフォトニックバンド構造が変化する。フォトニックバンド構造の変化に応じて、光入射部30及び光出射部32での入射角θ、屈折角θ、入射角θ、及び屈折角θの各々が変化し、入射光Linが光偏向素子10Aにより偏向される角度も変化する。印加する電圧を制御することで、上記実施の形態に係る光偏向素子10よりも偏向角度を大きくすることができる。
光偏向素子10Aは、上記実施の形態に係る光偏向素子10と同様の材料で構成することができる。上部電極34及び下部電極36は、銅(Cu)、金(Au)、アルミニウム(Al)等の金属電極とすることができる。なお、フォトニック結晶18と上部電極34との間にポリイミド等からなる緩衝層を設けることが好ましい。緩衝層を設けることにより金属電極による光学損失を低減することができる。
(その他の変形例)
なお、上記の実施の形態では、応力を印加してフォトニック結晶を変形させ、フォトニックバンド構造を変化させる例について説明したが、フォトニック結晶に電界を印加してフォトニックバンド構造を変化させることもできる。
また、上記の実施の形態では、入射光の波長を一定とする例について説明したが、入射光の波長を変化させてスーパープリズム効果を得ることで、光偏向素子の偏向角度を変化させることもできる。この場合にも、フォトニック結晶の光入射部と光出射部とで、スーパープリズム効果を2回利用することで、従来のフォトニック結晶を用いた光偏向素子と比較して、より大きな偏向角度を得ることができる。
また、上記の実施の形態では、フォトニック結晶の第1の媒体をシリコンとし、第2の媒体を空気としたが、上述した2段階のスーパープリズム効果が得られるようにフォトニック結晶を構成すればよく、材料はこれらには限定されない。例えば、シリコン層をPLZT等の強誘電体に変更することもできる。この場合には、電界の印加によりフォトニック結晶の屈折角(屈折率)を変化させて、更に偏向角度を大きくすることができる。
また、上記の実施の形態では、空気とフォトニック結晶との境界面での屈折率を用いたが、光波が空気からフォトニック結晶に入射する場合には限定されない。ガラス等の他の媒質からフォトニック結晶に光波が入射される場合や、フォトニック結晶から他の媒質に光波が入射される場合もある。
更に、上記の実施の形態では、フォトニック結晶に1つの反射面を設けて2度のスーパープリズム効果を得る例について説明したが、フォトニック結晶に複数の反射面を設けることもできる。複数の反射面を設けることで、入射端面及び出射端面の交差角を任意に設定することができる。また、入射端面、反射面及び出射端面の配置や、反射面の個数を変更することで、0°〜180°の任意の範囲において、所望の偏向角度を得ることが可能となる。
10 光偏向素子
10A 光偏向素子
12 基板
14A 支持部
14B 支持部
14C 支持部
16A ガイド部
16B ガイド部
16C ガイド部
18 フォトニック結晶
18A 表面
18B 裏面
20 入射端面
22 反射面
24 出射端面
26 空気ロッド(円孔)
30 光入射部
32 光出射部
34 上部電極
36 下部電極

Claims (5)

  1. 波数ベクトルに対する等周波数面を表す曲線において、該曲線の連続する各点における法線方向が急峻に変化する部分を有するフォトニック結晶であって、第1方向から入射された入射光が前記フォトニック結晶に入射する入射端面、前記入射端面から入射されて前記フォトニック結晶内を伝播する第1伝播光を反射する少なくとも1つの反射面、及び前記反射面で反射された第2伝播光が前記フォトニック結晶から前記第1方向とは異なる第2方向に出射する出射端面を有するフォトニック結晶を備え、
    前記入射端面においてスーパープリズム効果が生ずる、前記第1方向と前記入射端面の法線とが成す入射角と前記第1伝播光と前記入射端面の法線とが成す屈折角との角度関係、及び前記出射端面においてスーパープリズム効果が生ずる、前記第2伝播光と前記出射端面の法線とが成す入射角と前記第2方向と前記出射端面の法線とが成す出射角との角度関係が前記法線方向が急峻に変化する部分に基づいて求められると共に、
    スーパープリズム効果が生じる入射角で前記入射端面に入射した前記入射光に基づく前記第1伝播光が、前記反射面で反射されてスーパープリズム効果が生ずる入射角で前記出射端面に入射されるように、前記入射端面、前記出射端面、及び前記反射面相互間の角度が定められ、
    且つ前記出射角が、前記入射光の入射角又は波長に応じて変化して、光伝播方向を偏向する光偏向素子。
  2. 前記フォトニック結晶は、二次元正方格子構造を有すると共に、平面視が三角形の外形形状を有し、前記入射端面が前記二次元正方格子構造の一方の周期方向に平行であり、前記出射端面が前記二次元正方格子構造の他方の周期方向に平行であり、且つ前記反射面が前記二次元正方格子構造の2つの周期方向の各々と交差する請求項1に記載の光偏向素子。
  3. 前記フォトニック結晶の屈折率を変化させる屈折率変更手段を、更に備えた請求項1又は請求項2に記載の光偏向素子。
  4. 前記屈折率変更手段が、前記フォトニック結晶に電界を印加する電界印加手段である請求項に記載の光偏向素子。
  5. 前記屈折率変更手段が、前記フォトニック結晶に外部から応力を印加する応力印加手段である請求項に記載の光偏向素子。
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