JP2014060974A - バチルス(Bacillus)属細菌のグリセリン資化能を向上させる方法 - Google Patents

バチルス(Bacillus)属細菌のグリセリン資化能を向上させる方法 Download PDF

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Abstract

【課題】バチルス(Bacillus)属細菌のグリセリン資化能を向上させる方法、及びグリセリン資化能が向上したバチルス(Bacillus)属細菌の形質転換体を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなるタンパク質、前記アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質もしくは前記アミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質、のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子をバチルス(Bacillus)属細菌に導入する工程を含む、バチルス(Bacillus)属細菌のグリセリン資化能を向上させる方法、及び前記タンパク質をコードする遺伝子をバチルス(Bacillus)属細菌に導入して得られた、グリセリン資化能が向上した形質転換体。
【選択図】なし

Description

本発明は、バチルス(Bacillus)属細菌のグリセリン資化能を向上させる方法に関する。
バイオ燃料であるバイオディーゼルは、化石燃料の代替エネルギーとして注目され、欧州等において盛んに生産されている。バイオディーゼルは油脂から製造され、その製造過程において副産物としてグリセリンが生成する。また、天然油脂から高級アルコールや脂肪酸を工業生産する際にも、グリセリンが副産物として生成されるため、このグリセリンを有効活用する道が模索されている。
なかでも、微生物を用いてグリセリンを有用物質に変換する技術は、環境にやさしく、注目されている。例えば、放線菌を用いてグリセリンを糖含有化合物へ変換する方法(非特許文献1参照)や、酢酸菌を用いてグリセリンをグリセリン酸へ変換する方法(特許文献1参照)等が報告されている。
また、グリセリンをより効率的に利用できるよう、微生物にグリセリン取込み能を付与する又は強化することも試みられている。例えば、グリセリン資化能の欠損しているコリネ型細菌にグリセリン資化能を付与する方法(特許文献2)、グリセリン取込み能のないアフリカツメガエルの細胞にLactococcus lactisEscherichia coli由来のグリセリンファシリテーター遺伝子を導入し、グリセリン取込み能を付与する方法(非特許文献2)、等が報告されている。また、L-アミノ酸生産能を有し、グリセロールデヒドロゲナーゼ及びジハイドロキシアセトンキナーゼの活性を増強されるように改変された腸内細菌科に属する微生物を、グリセロールを炭素源として含む培地に培養し、L−アミノ酸を該培地中又は菌体内に生成、蓄積させ、該培地又は菌体よりL−アミノ酸を採取する、L−アミノ酸の製造方法も報告されている(特許文献3)。
特開2009−159826号公報 国際公開第2007/013695号 国際公開第2008/102861号
Folia Microbiologica (2007), 52, pp451-456 Froger A et al., Microbiology (2001), 147, pp1129-1135
本発明では、バチルス(Bacillus)属細菌のグリセリン資化能を向上させる方法を提供する。さらに、本発明は、グリセリン資化能が向上したバチルス(Bacillus)属細菌の形質転換体を提供する。
本発明者等は上記課題に鑑み、微生物のグリセリン資化能を強化する方法について鋭意検討を行った。その結果、グリセリン資化能を有するバチルス(Bacillus)属細菌に、クレブシエラ(Klebisiella)属細菌由来のグリセリンファシリテーター遺伝子(以下、「glpF遺伝子」ともいう。)を導入して形質転換することで、形質転換体のグリセリンを含む培地での生育が向上することを見出した。本発明はこの知見に基づき完成されたものである。
すなわち、本発明は、下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子をバチルス(Bacillus)属細菌に導入する工程を含む、バチルス(Bacillus)属細菌のグリセリン資化能を向上させる方法、に関する。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
また、本発明は、前記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子をバチルス(Bacillus)属細菌に導入して得られた、グリセリン資化能が向上した形質転換体、に関する。
さらに、本発明は、前記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子をバチルス(Bacillus)属細菌に導入する工程、及び導入後の細菌をグリセリン含有培地で培養する工程を含む、バチルス(Bacillus)属細菌の生育性を向上させる方法、に関する。
本発明の方法によれば、バチルス(Bacillus)属細菌のグリセリン資化能を強化することができる。また、本発明の形質転換体は、優れたグリセリン資化能を有する。
本発明の形質転換体、すなわち、本発明の方法により資化能が強化されたバチルス属細菌は、グリセリンを原料として種々の代謝産物を産生できるため、グリセリンを有効に利用できる。
枯草菌由来GlpFタンパク質発現ベクター:pNKS1001,及びクレブシエラ・ニューモニエ由来GlpFタンパク質発現ベクター:pNKS1002の構成、並びに導入したSD配列(RBS)、ヒスチジンタグ付枯草菌GlpFタンパク質コード領域、ヒスチジンタグ付クレブシエラ・ニューモニエGlpFタンパク質コード領域を示した図である。 ウエスタンブロッティングにより各GlpFタンパク質導入株のGlpFタンパク質検出結果を示す図である。 グリセリン10%含有L培地にて各GlpFタンパク質導入株を25時間培養した後の、各導入株の生育性を示した図である。
本発明は、第1の態様として、バチルス(Bacillus)属細菌にクレブシエラ(Klebsiella)属細菌由来のグリセリンファシリテータータンパク質(以下、「GlpFタンパク質」ともいう。)又はそれと機能的に同等のタンパク質をコードする遺伝子を導入して、バチルス(Bacillus)属細菌を形質転換し、該導入遺伝子が発現した形質転換体に関する。得られた形質転換体は、野生型バチルス(Bacillus)属細菌に比べて、グリセリン資化能が向上し、グリセリン含有培地での生育性に優れる。当該形質転換体は培地中のグリセリンを基質として代謝し、種々の有用な発酵生成物または反応生成物を作り出すことができる。
上記の観点から、本発明は第2の態様としては、クレブシエラ(Klebsiella)属細菌由来のGlpFタンパク質又はそれと機能的に同等のタンパク質をコードする遺伝子をバチルス(Bacillus)属細菌に導入する工程を含む、バチルス(Bacillus)属細菌のグリセリン資化能を向上させる方法に関する。同様に、第3の態様として、クレブシエラ(Klebsiella)属細菌由来のGlpFタンパク質又はそれと機能的に同等のタンパク質をコードする遺伝子を、バチルス(Bacillus)属細菌に導入する工程、及び導入後の細菌をグリセリン含有培地で培養する工程を含む、バチルス(Bacillus)属細菌の生育性を向上させる方法に関する。
1.形質転換体
はじめに、本発明の形質転換体(組換え微生物)について説明する。
(1)宿主
本発明の形質転換体の宿主としては、バチルス(Bacillus)属細菌を用いる。
バチルス属細菌としては、例えば、Alicyclobacillus acidoterrestrisBacillus acidoterrestris)、Alicyclobacillus cycloheptanicusBacillus cycloheptanicus)、Aneurinibacillus aneurinilyticusBacillus aneurinilyticus)、Aneurinibacillus migulanusBacillus migulanus)、Bacillus alcalophilusBacillus amyloliquefaciensBacillus atrophaeusBacillus azotoformansBacillus badiusBacillus bataviensisBacillus cereusBacillus circulansBacillus coagulansBacillus cohniiBacillus drentensisBacillus fastidiosusBacillus firmusBacillus flexusBacillus fumarioliBacillus korlensisBacillus krulwichiaeBacillus lentusBacillus licheniformisBacillus megateriumBacillus mojavensisBacillus mycoidesBacillus niaciniBacillus novalisBacillus odysseyiBacillus oleroniusBacillus pseudomycoidesBacillus psychrosaccharolyticusBacillus pumilusBacillus safensisBacillus simplexBacillus smithiiBacillus soliBacillus sonorensisBacillus sporothermoduransBacillus subtilisBacillus thuringiensisBacillus trypoxylicolaBacillus tusciaeBacillus vallismortisBacillus vietnamensisBacillus viretiBacillus weihenstephanensisBrevibacillus agriBacillus agri)、Brevibacillus borstelensisBacillus borstelensis)、Brevibacillus brevisBacillus brevis)、Brevibacillus centrosporusBacillus centrosporus)、Brevibacillus choshinensisBacillus choshinensis)、Brevibacillus formosusBacillus formosus)、Brevibacillus laterosporusBacillus laterosporus)、Brevibacillus parabrevisBacillus parabrevis)、Brevibacillus reuszeriBacillus reuszeri)、Geobacillus stearothermophilusBacillus stearothermophilus)、Geobacillus thermoglucosidasiusBacillus thermoglucosidasius)、Lysinibacillus fusiformisBacillus fusiformis)、Lysinibacillus sphaericusBacillus sphaericus)、Paenibacillus alginolyticusBacillus alginolyticus)、Paenibacillus alveiBacillus alvei)、Paenibacillus amylolyticusBacillus amylolyticus)、Paenibacillus chitinolyticusBacillus chitinolyticus)、Paenibacillus chondroitinusBacillus chondroitinus)、Paenibacillus curdlanolyticusBacillus curdlanolyticus)、Paenibacillus durusBacillus azotofixans)、Paenibacillus ehimensisBacillus ehimensis)、Paenibacillus glucanolyticusBacillus glucanolyticus)、Paenibacillus kobensisBacillus kobensis)、Paenibacillus lautusBacillus lautus)、Paenibacillus maceransBacillus macerans)、Paenibacillus pabuliBacillus pabuli)、Paenibacillus peoriaeBacillus peoriae)、Paenibacillus polymyxaBacillus polymyxa)、Paenibacillus thiaminolyticusBacillus thiaminolyticus)、Paenibacillus validusBacillus validus)、Salimicrobium halophilumBacillus halophilus)、Sporolactobacillus laevolacticusBacillus laevolacticus)、Sporosarcina globisporaBacillus globisporus)、Sporosarcina psychrophilaBacillus psychrophilus)、Virgibacillus pantothenticusBacillus pantothenticus)等が挙げられる。
なかでも、グリセリン資化能向上の観点から、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、Bacillus amyloliquefaciensBacillus licheniformisBacillus megateriumBacillus thuringiensisBrevibacillus brevisBacillus brevis)、Geobacillus stearothermophilusBacillus stearothermophilus)が好ましく、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、Bacillus amyloliquefaciensBacillus megateriumBrevibacillus brevisBacillus brevis)がより好ましく、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)がさらに好ましい。
前記バチルス属細菌は、ATCC(American Type Culture Collection)、NBRC (Biological Resource Center, NITE)等の生物遺伝資源ストックセンターから、入手することができる。
(2)宿主に導入する遺伝子
宿主として用いられる前記バチルス属細菌に導入する遺伝子は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるGlpFタンパク質又はそれと機能的に同等のタンパク質をコードする遺伝子である。
GlpFタンパク質は、細胞膜上でチャネルを形成してグリセリン輸送を担う膜タンパク質で、グリセリン取込みタンパク質とも称される。GlpFタンパク質の働きにより、細胞外から細胞内へグリセリンが取り込まれる。細胞内に取り込まれたグリセリンは、続いてグリセロールキナーゼ(glpK)によってグリセロール−3−リン酸に変換され、解糖系や脂肪酸合成系に供給される。
GlpFタンパク質及び当該タンパク質をコードするglpF遺伝子は、大腸菌等の様々な微生物に存在することが知られている。本発明で宿主として用いるバチルス属細菌も、自身のGlpFタンパク質及びglpF遺伝子を有している。
本発明では、自身のGlpFタンパク質及びglpF遺伝子を有するバチルス属細菌を宿主として、これに異種由来のGlpFタンパク質をコードする遺伝子を導入し、発現させる。後述の実施例で示されているように、バチルス属細菌に異種由来のGlpFタンパク質をコードする遺伝子を導入することで、宿主本来のglpF遺伝子を導入した場合と比べて、グリセリン資化能が大きく向上する。
本発明で宿主として用いられる前記バチルス属細菌に導入するGlpFタンパク質をコードする遺伝子として、下記(a)のタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質

配列番号1で表されるアミノ酸配列は、クレブシエラ属細菌の1種であるクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)由来のGlpFタンパク質のアミノ酸配列である。当該タンパク質をコードする遺伝子としては、例えば、配列番号2で表される塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。
さらに本発明では、宿主として用いられる前記バチルス属細菌に導入する遺伝子として、前記(a)のタンパク質と機能的に同等のタンパク質をコードする遺伝子を用いることができる。
一般にタンパク質のアミノ酸配列は、必ずしも全領域の配列が保存されていなければタンパク質としての活性を示さないというものではなく、アミノ酸配列が多少変化しても同等の活性を保持しうることが知られている。本発明においても、配列番号1のアミノ酸配列が一部変化したアミノ酸配列を有し、かつグリセリン取り込み活性が保持されたタンパク質コードする遺伝子、導入遺伝子として用いることができる。
ここで、「前記(a)のタンパク質と機能的に同等のタンパク質をコードする遺伝子」とは、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的機能、生化学的機能を有するタンパク質をコードしている遺伝子をいう。
配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的機能、生化学的機能を有するタンパク質としては、下記(b)又は(c)のタンパク質が挙げられる。本発明では、下記(b)又は(c)のタンパク質をコードする遺伝子、導入遺伝子として用いることができる。
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
前記(b)において、アミノ酸配列の同一性は、グリセリン資化能向上の観点から、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。
本発明においてアミノ酸配列の同一性とは、比較する2つのアミノ酸配列を必要に応じて間隙を導入して整列(アラインメント)させ、得られる最大のアミノ酸配列の同一性(%)をいう。アミノ酸配列の同一性は通常の方法により解析することができ、例えば、BLASTアルゴリズムを実装したNCBI BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)のblastpや、Genetyx Win実装のHomology search、などにより算出することができる。
また、前記(c)において、「1又は数個のアミノ酸」は、グリセリン資化能向上の観点から、1〜10個のアミノ酸であることが好ましく、1〜5個のアミノ酸であることがより好ましく、1〜3個のアミノ酸であることがさらに好ましい。
さらに、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質をコードする遺伝子として、下記(d)〜(f)のDNAからなる遺伝子が挙げられ、本発明ではこれらの遺伝子も導入遺伝子として用いることができる。
(d)配列番号2で表される塩基配列と80%以上の同一性を有し、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号2で表される塩基配列において、1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入、又は付加された塩基配列からなるDNAであって、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f)配列番号2で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質をコードするDNA
前記(d)において、塩基配列の同一性は、グリセリン資化能向上の観点から、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。
本発明において塩基配列の同一性とは、比較する2つの塩基配列を必要に応じて間隙を導入して整列(アラインメント)させ、得られる最大の塩基配列の同一性(%)をいう。塩基配列の同一性は通常の方法により解析することができ、例えば、BLASTアルゴリズムを実装したNCBI BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)のblastpや、Genetyx Win実装のHomology search、などにより算出することができる。
前記(e)において、「1又は数個の塩基」は、グリセリン資化能向上の観点から、1〜10個の塩基であることが好ましく、1〜5個の塩基であることがより好ましく、1〜3個の塩基であることがさらに好ましい。
また、前記(f)において、「ストリンジェントな条件」としては、Molecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell.,Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載のサザンハイブリダイゼーション法等が挙げられ、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに42℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等のタンパク質をコードする遺伝子としてより好ましくは、クレブシエラ属細菌由来のglpF遺伝子であり、具体的には、配列番号7に示すEnterobacter aerogenesKlebsiella mobilis;配列番号2との同一性89%)、配列番号8に示すKlebsiella oxytoca(配列番号2との同一性90%)、配列番号9に示すKlebsiella rhinoscleromatis(配列番号2との同一性97%)、Klebsiella ozaenaeRaoultella ornithinolyticaKlebsiella ornithinolytica)、Raoultella planticolaKlebsiella planticola)、Raoultella terrigenaKlebsiella terrigena)由来のglpF遺伝子が挙げられる。
上述の遺伝子の中でも、グリセリン資化能向上の観点から、前記バチルス属細菌に導入する遺伝子として特に好ましくは、配列番号2に示すクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)由来のglpF遺伝子である。
前記バチルス属細菌に導入する遺伝子の取得方法は特に限定されない。配列番号1のGlpFタンパク質のアミノ酸配列や配列番号2のglpF遺伝子の塩基配列情報に基づき、クローニング、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、ハイブリダイゼイション法など通常の方法により行うことができる。例えば、配列番号2の塩基配列情報を基にして作製したプライマー対を用いて、クレブシエラ属細菌や他の微生物のcDNA又はゲノミックDNAを鋳型として通常の方法でPCRを行うことにより得ることができる。また、これらの配列情報に基づき、通常の方法により化学合成して得ることもできる。
また、クレブシエラ属細菌や他の微生物のglpF遺伝子やはGlpFタンパク質の配列情報は、例えば、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)やEMBL(http://www.ebi.ac.uk/embl/)といった公共のデータベースから入手することができる。
さらに、上記のようにして得られたDNAに部位特異的変異(site−directed mutagenesis)を導入することで、該DNAの特定のバリアント、すなわち、該DNAと特定の塩基配列同一性を有するDNA、該DNAに特定の変異(欠失、置換等)が導入されたDNA、該DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを得ることができる。
(3)発現ベクター
前記バチルス属細菌に遺伝子を導入する方法は特に限定されず、導入遺伝子がバチルス属細菌内で発現しうる方法であればよい。例えば、目的遺伝子を適当なベクターに連結して発現ベクターを構築し、これを前記バチルス属細菌に導入する方法、相同組換えによって宿主ゲノム上に目的遺伝子を挿入する方法、などが挙げられる。好ましくは、目的遺伝子を挿入した発現ベクターで前記バチルス属細菌を形質転換する方法である。
発現ベクターの母体となるベクターとしては、目的遺伝子を前記バチルス属細菌に導入することができ、前記バチルス属細菌の細胞内で当該遺伝子を発現可能なベクターであればよい。また、染色体外で自立増殖・複製するベクターであってもよいし、染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。具体的には、プラスミド、ファージ及びコスミド等が挙げられる。なかでも、発現ベクター調製時に使用される大腸菌等の微生物と形質転換の宿主となるバチルス属細菌との間で移動可能なシャトルベクターが好ましい。
具体的なベクターとしては、pMM1522(MoBiTec社)、pWH1520(MoBiTec社)、pHY300PLK(タカラバイオ)、及びこれらから誘導されるハイブリッドプラスミドが挙げられる。
また、上記ベクターは、挿入した遺伝子が確実に発現できるよう、目的遺伝子の挿入領域の上流に適当な発現プロモーターを有していることが好ましい。プロモーターは、グリセリンにより抑制されず下流に存在する遺伝子を発現できるものであれば特に制限はなく、宿主等に応じて適宜選択できる。具体的には、tacプロモーター、xyloseプロモーター等を用いることができる。
発現ベクターは、上記プロモーターや挿入遺伝子に加え、リボソーム結合部位(SD配列)等を含む翻訳開始領域、ターミネーター等の発現調節領域や、複製開始点、選択マーカー等を適宜有していることが好ましい。
選択マーカーとしては、抗生物質耐性遺伝子(例えば、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、ネオマイシン、カナマイシン、アンピシリン、テトラサイクリン、スペクチノマイシン)等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。形質転換処理後の微生物を上記抗生物質を含む培地中に培養し、生育してきた微生物を選抜することによって、形質転換体を容易に選抜することができる。
発現ベクターの構築方法は特に限定されるものではなく、適宜選択された母体となるベクターの所定の箇所に、目的遺伝子をコードするDNAを挿入すればよい。例えば、ベクターとして上記のpMM1522プラスミドを用いる場合、目的遺伝子を当該プラスミドが有するキシロースプロモーターの下流に連結すればよい。遺伝子の挿入は、制限酵素処理やライゲーション等の通常の手法により行うことができる。
作製した遺伝子挿入後の発現ベクターを大腸菌等のホスト細胞に導入し、ホスト細胞を増殖させることで発現ベクターを複製し、増殖したホスト細胞から公知の方法で発現ベクターを回収することができる。
(4)形質転換
次に、上記で構築した発現ベクターで前記バチルス属細菌を形質転換、細胞内に目的遺伝子を導入する。
宿主への発現ベクターの導入方法としては特に制限はなく、通常の方法を用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法、一般的なコンピテントセル形質転換方法(J.Bacterial.93,1925(1967))、プロトプラスト形質転換法(Mol.Gen.Genet.168,111(1979))、エレクトロポレーション法(FEMS Microbiol.Lett.55,135(1990))又はLP形質転換方法(T.Akamatsu及びJ.Sekiguchi,Archives of Microbiology,1987,146,p.353-357;T.Akamatsu及びH.Taguchi,Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry,2001,65,4,p.823-829)等を用いることができる。
形質転換体の選抜方法に特に制限はなく、例えば、選択マーカーとして薬剤耐性遺伝子が形質転換体に導入されている場合には、当該薬剤に対する耐性を指標として選抜することができる。形質転換体に目的遺伝子が組み込まれていることの確認は、例えば、形質転換体から常法に従ってDNAを抽出し、PCR法もしくはサザンハイブリダイゼーション法等の通常の方法により行うことができる。
(5)形質転換体のグリセリン資化能
得られた形質転換体は、形質転換されていないバチルス属細菌に比べ、グリセリン資化能が向上し、グリセリン含有培地での生育性に優れる。
形質転換体のグリセリン資化能の向上は、グリセリン含有培地で形質転換体及び比較対象として宿主として用いたバチルス属細菌をそれぞれ培養し、グリセリンの取込み速度をおよび細菌細胞量の変化(生育性)を追跡、比較することにより確認することができる。グリセリンの取込み速度の測定は、培地中に残存するグリセリンの濃度をHPLCやグリセリン測定キット等を用いて測定できる。また細菌細胞量の変化の測定は、分光光度計による吸光度の変化を測定することにより実施することができる。
2.形質転換体を用いた有用物質の生産
得られた形質転換体をグリセリン含有培地で培養し、培地又は形質転換体内に発酵生成物又は反応生成物を生成、蓄積させた後、培地または形質転換体細胞からこれらの生成物を採取することにより、グリセリンを原料として有用な発酵生成物又は反応生成物を製造することができる。
(1)形質転換体の培養
形質転換体の培養に用いる培地は、グリセリンを含有していればよく、使用した宿主に応じて適宜選択できる。
培地に用いるグリセリンは、市販品であってもよく、バイオ燃料等の製造時に副産物として生じるグリセリンを用いることもできる。副産物として生じるグリセリンを用いることで、余剰物質処理にかかるエネルギー低減、廃棄による環境汚染の低減といった副次的な効果が得られ、環境負荷の低減にもつながる。更に、副産物として生じるグリセリンは安価に購入できるので、コスト面でもメリットがある。
培地中のグリセリン濃度は、使用したバチルス属細菌に応じて適宜選択することができる。グリセリン資化能向上の観点、発酵生成物又は反応生成物を効率よく製造する観点からは、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、よりさらに好ましくは2.0質量%以上である。取り扱い性等の点から、含有量の上限値としては、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、よりさらに好ましくは10質量%以下である。
培地には、上記グリセリン以外にも、通常の培地に添加される炭素源、窒素源、無機塩類、金属塩、各種の有機物、無機物、界面活性剤、消泡剤などを、適宜選択して添加することができる。これらの培地成分は、必要に応じて培地中に追添してもよい。
グリセリン以外の炭素源として具体的には、グルコース、マルトース、シュークロース、フルクトース、キシロース、セルビトース、可溶性デンプンなどが挙げられ、グルコース、マルトース、シュークロースを用いることが好ましい。
培地中のグリセリン以外の炭素源の濃度は、生育および実生産の観点から、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.025〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜3質量%である。
窒素源として具体的には、イーストエクストラクト、ペプトン、ビーフエクストラクト、魚肉エキス、硫安化合物、アンモニア化合物などが挙げられ、イーストエクストラクト、ペプトン、ビーフエクストラクトを用いることが好ましい。
無機塩類として具体的には、鉄、マグネシウム、マンガン、亜鉛、コバルト、ニッケルなどが挙げられ、マグネシウム、マンガン、亜鉛を用いることが好ましい。
グリセリン含有培地の好ましい1実施態様として、例えば、グリセリン10%L培地(バクトトリプトン(Difco社製)2%、イーストエクスラクト(Difco社製)1%、NaCl(和光社製)1%、グリセリン10%(W/V))が例示できる。
形質転換体の培養条件は、宿主として用いたバチルス属細菌に応じて適する条件を選択すればよい。
培養温度は、生育性向上の観点、グリセリン資化能向上の観点から、10〜45℃程度とすることが好ましく、25〜37℃程度とすることがより好ましい。
培地のpHは、生育性向上の観点、グリセリン資化能向上の観点から、5〜9程度とすることが好ましく、6〜8程度とすることがより好ましい。
培養時間は、生育性向上の観点、グリセリン資化能向上の観点から、8時間〜14日間程度とすることが好ましい。
宿主としてバチルス・サブチリスを用いる場合、30℃〜37℃、pH6.5〜7.5で、24時間〜150時間程度培養することが、生育性向上の観点、グリセリン資化能向上の観点からより好ましい。
形質転換体によって生産される発酵生成物又は反応生成物としては、バチルス属細菌がグリセリンの代謝によって生成する物質、グリセリン代謝によって生成するエネルギーを利用して産生される物質が挙げられる。具体的には、アミノ酸(フェニルアラニン、チロシンなど)、ペプチド類(ポリグルタミン酸(PGA)、プリパスタチン、サーファクチン、イツリンA、アグラスタチンなど)、糖類(レバンなど)、有機酸(イノシン酸など)、ビタミン類とその誘導体(メナキノン(ビタミンK2)など)、テルペン類(C35テルペン(セスクアテルペン)など)、等が挙げられる。
これらの発酵生成物や反応生成物は、化学品素材、酵素等の生合成の原料として用いることができる。
培養物からの発酵生成物又は反応生成物の採取方法は特に限定されず、微生物により生産された物質を単離、回収する際に通常用いられる方法で行うことができる。例えば、培養物や形質転換体から、ろ過、遠心分離、細胞の破砕、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、クロロホルム/メタノール抽出法、ヘキサン抽出法、エタノール抽出法等により目的の発酵生成物又は反応生成物を単離、回収することができる。
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の方法及び形質転換体を開示する。
<1> 下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子をバチルス(Bacillus)属細菌に導入する工程を含む、バチルス(Bacillus)属細菌のグリセリン資化能を向上させる方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上(好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
<2> 前記遺伝子がクレブシエラ(Klebsiella)属細菌由来の遺伝子である、<1>項記載の方法。
<3> 前記遺伝子がクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)由来の遺伝子である、<1>又は<2>項記載の方法。
<4> 前記バチルス(Bacillus)属細菌がバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)である、<1>〜<3>のいずれか1項記載の方法。
<5> 前記遺伝子を有する発現ベクターをバチルス(Bacillus)属細菌に導入する、<1>〜<4>のいずれか1項記載の方法。
<6> 下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子をバチルス(Bacillus)属細菌に導入して得られた、グリセリン資化能が向上した形質転換体。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上(好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
<7> 前記遺伝子がクレブシエラ(Klebsiella)属細菌由来の遺伝子である、<6>項記載の形質転換体。
<8> 前記遺伝子がクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)由来の遺伝子である、請求項<6>又は<7>項記載の形質転換体。
<9> 前記バチルス(Bacillus)属細菌がバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)である、<6>〜<8>のいずれか1項記載の形質転換体。
<10> 前記遺伝子を有する発現ベクターをバチルス(Bacillus)属細菌に導入する、<6>〜<9>のいずれか1項記載の形質転換体。
<11> 下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子をバチルス(Bacillus)属細菌に導入する工程、及び導入後の細菌をグリセリン含有培地で培養する工程を含む、バチルス(Bacillus)属細菌の生育性を向上させる方法。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上(好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
<12> 前記遺伝子がクレブシエラ(Klebsiella)属細菌由来の遺伝子である、<11>項記載の方法。
<13> 前記遺伝子がクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)由来の遺伝子である、請求項<11>又は<12>項記載の方法。
<14> 前記バチルス(Bacillus)属細菌がバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)である、<11>〜<13>のいずれか1項記載の方法。
<15> 前記遺伝子を有する発現ベクターをバチルス(Bacillus)属細菌に導入する、<11>〜<14>のいずれか1項記載の方法。
<16> <6>〜<10>のいずれか1項に記載の形質転換体をグリセリン含有培地で培養する工程、及び培養物から発酵生成物または反応生成物を取得する工程を含む、発酵生成物または反応生成物の製造方法。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例
1.GlpFタンパク質発現用ベクターの構築
(1)枯草菌由来GlpFタンパク質発現用ベクター
枯草菌GlpFタンパク質(配列番号3、配列番号1のアミノ酸配列との同一性37%)をコードするglpF遺伝子(配列番号4、配列番号2の塩基配列との同一性48%)を組み込んだベクターpNKS1001を構築した(図1)。
枯草菌glpF遺伝子は、枯草菌168株の染色体を鋳型に、プライマーBSglpFF-1(GCTTTTTACTAGTGACTTTAGG(配列番号5)、下線がSpeI)及びプライマーBSglpFR-2(AATGTACGTAGATCTTTAATGGTGATGGTGATGGTGAATATATTT(配列番号6)、下線AGATCTBglIIを、下線ATGGTGATGGTGATGGTGがヒスチジンタグ(His6)をコードするDNA配列)を用いてPCR法で増幅した。なお、増幅したglpF遺伝子のDNA配列の後ろには、後述のウエスタンブロッティング法に用いるためのヒスチジンタグ(His6)を付加した。
増幅したglpF遺伝子のDNAを制限酵素処理し、ライゲーション反応により、pMM1522(MoBiTec社製、耐性マーカー(アンピシリン、テトラサイクリン)、キシロースプロモーターを持つベクター)のSpeI−BamHIサイトに挿入して、ベクターpNKS1001を構築した(図1)。
(2)クレブシエラ・ニューモニエ由来GlpFタンパク質発現用ベクター
クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae 342)のGlpFタンパク質(配列番号1)をコードするglpF遺伝子(配列番号2)を組み込んだベクターpNKS1002を構築した(図1)。
クレブシエラ・ニューモニエのglpF遺伝子は、5’上流にSpeIおよび自身のSD配列を、3’下流にBglIIを付加したDNA配列として人工合成し、ベクターpCR2.1(インビトロジェン社製)にサブクローニングした。サブクローニングしたDNA配列は、シークエンスにより確認した。なお、DNA配列の人工合成、サブクローニング、及びシークエンスによる確認方法は、オペロン社に依頼し、定法に基づき行った。
サブクローニングしたベクターから、SpeI−BglIIの各制限酵素サイトでクレブシエラ・ニューモニエ glpF遺伝子を切り出し、ライゲーション反応によりベクターpMM1522のSpeI−BamHIサイトに挿入して、ベクターpNKS1002を構築した。なお、サブクローニングベクターから切り出されたglpF遺伝子のDNA配列の後ろには、後述のウエスタンブロッティング法に用いるためのヒスチジンタグ(His6)が付加されている。
上記で示したGlpFタンパク質発現用ベクターは、大腸菌DH5α株(タカラバイオ社製)もしくはJM109株(タカラバイオ社製)に導入し、作成および複製した。大腸菌の培養には、L培地(バクトトリプトン(Difco社製)1%、イーストエクスラクト(Difco社製)0.5%、NaCl(和光社製)0.5%)を用いた。
2.発現ベクター導入株の作製
上記で得られた各発現ベクターを、枯草菌(バチルス・サブチリス)168株に導入して形質転換し、GlpFタンパク質発現ベクター導入株を得た。形質転換は、SPI培地(0.20% 硫酸アンモニウム(和光社製)、1.40% リン酸水素二カリウム(和光社製)、0.60% リン酸二水素カリウム(和光社製)、0.10% クエン酸三ナトリウム二水和物(和光社製)、0.50% グルコース(和光社製)、0.02% カザミノ酸(Difco社製))、及びSPII培地(0.20% 硫酸アンモニウム(和光社製)、1.40% リン酸水素二カリウム(和光社製)、0.60% リン酸二水素カリウム(和光社製)、0.10% クエン酸三ナトリウム二水和物(和光社製)、0.50% グルコース(和光社製)、0.01% カザミノ酸(Difco社製)、5mM 硫酸マグネシウム(和光社製)、0.40μM 塩化マンガン(和光社製)、5μg/ml トリプトファン(和光社製))を用いてコンピテント法により行い、15μg/mLテトラサイクリンを含むLB寒天培地に生育した菌株をGlpFタンパク質発現ベクター導入株として選択した。
3.ウエスタンブロッティングによるGlpFタンパク質の発現確認
各GlpFタンパク質発現ベクター導入株でGlpFタンパク質が発現していることを、ウエスタンブロッティング法により確認した。
前記各導入株の培養には、L培地(バクトトリプトン(Difco社製)1%、イーストエクスラクト(Difco社製)0.5%、NaCl(和光社製)0.5%)を用いた。抗生物質は、テトラサイクリン15μg/mLの濃度で適時使用した。
培養は、L培地にて16時間、37℃で前培養し、前培養液をL培地に2%植菌し、37℃にて細胞増殖期中期まで培養した。培養開始から6時間後に、pMM1522の持つキシロースプロモーター誘導のため、キシロースを終濃度0.5%で添加した。培養開始25時間後の培養液を遠心分離して、培養上清と沈殿した培養菌体とを得た。この培養菌体をリゾチーム処理後、10mM Tris−HClバッファーに懸濁し、SDS−PAGE用サンプルバッファーを加えて加熱処理した。その後、遠心して得られた上清をライゼートサンプルとした。
ウエスタンブロッティングは、セミドライシステム(バイオラッド社製)を用いて行った。SDS−PAGEによるタンパク質分離後、タンパク質をPVDF膜(ミリポア社、イモビロン-P)に転写した。タンパク質の検出は、イムノスターLD検出システム(和光純薬工業株式会社製)を用いた。抗His6抗体(和光純薬工業株式会社製)およびマウス用HRP標識二次抗体(GEヘルスケア社製)を使用してHis6タグ付タンパク質を検出した。
結果を図2に示す。図2の各レーンは、レーン1:168(枯草菌168株、キシロース誘導なし)、レーン2:168(枯草菌168株、キシロース誘導あり)、レーン3:168+pNKS1001(枯草菌由来GlpFタンパク質導入株、キシロース誘導なし)、レーン4:168+pNKS1001(枯草菌由来GlpFタンパク質導入株、キシロース誘導あり)、レーン5:168+pNKS1002(クレブシエラ・ニューモニエ由来GlpFタンパク質導入株、キシロース誘導なし)、レーン6:168+pNKS1002(クレブシエラ・ニューモニエ由来GlpFタンパク質導入株、キシロース誘導あり)、をそれぞれ示す。
図2に示すように、キシロース誘導後の枯草菌GlpFタンパク質導入株(168+pNKS1001)及びクレブシエラ・ニューモニエ GlpFタンパク質導入株(168+pNKS1002)から、GlpFタンパク質のバンドが検出され、発現が確認された。
4.グリセリン含有培地での生育性評価
導入したGlpFタンパク質の発現が確認できた各GlpFタンパク質導入株を、グリセリン含有培地で培養して、その生育性を評価した。
GlpFタンパク質導入株の培養には、グリセリン10%L培地(バクトトリプトン(Difco社製)2%、イーストエクスラクト(Difco社製)1%、NaCl(和光社製)1%、グリセリン10%(W/V))を用いた。抗生物質は、テトラサイクリン15μg/mLの濃度で適時使用した。
培養は、L培地にて16時間、37℃培養した前培養液を、グリセリン10%L培地に2%植菌し、37℃にて細胞増殖期中期まで培養した。培養開始から6時間後に、pMM1522のもつキシロースプロモーターの誘導のためキシロースを終濃度0.5%で添加した。培養開始後25時間後に、吸光度計にて培養液の吸光度(A600)を測定した。
測定した培養液の濁度を生育の指標として、各GlpFタンパク質導入株のグリセリン含有培地での生育性を評価した。陰性対象として、枯草菌168株を用い、同様に培養して生育性を評価した。結果を図3に示す。なお、生育性は、培養液の濁度(A600)を指標に、各導入株のキシロース誘導なしのものをコントロール(100%)として、キシロース誘導後のものを相対値(%)にて示した。
図3に示すように、枯草菌GlpFタンパク質導入株(168+pNKS1001)は、野生型の枯草菌168株(168)とほぼ同程度の生育性しか示さず、キシロースによる誘導後も生育性に大きな変化はなかった。
これに対し、クレブシエラ・ニューモニエのGlpFタンパク質導入株(168+pNKS1002)では、キシロース誘導により約13%も生育性が向上した。
以上の結果から明らかなように、枯草菌GlpFタンパク質導入株とクレブシエラ・ニューモニエ GlpFタンパク質導入株は、ともに導入したGlpFタンパク質を発現させているにも関わらず、クレブシエラ・ニューモニエ GlpFタンパク質導入株のみで、グリセリン含有培地での生育性が向上した。グリセリン含有培地上での生育性の向上は、培養液量あたりの細胞数の増加を意味し、グリセリン取込み能を示す指標の一つである。すなわち、クレブシエラ・ニューモニエ由来のGlpFタンパク質の導入が、枯草菌のグリセリン資化能向上に非常に有用であることが確認できた。

Claims (9)

  1. 下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子をバチルス(Bacillus)属細菌に導入する工程を含む、バチルス(Bacillus)属細菌のグリセリン資化能を向上させる方法。
    (a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
    (c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
  2. 前記遺伝子がクレブシエラ(Klebsiella)属細菌由来の遺伝子である、請求項1記載の方法。
  3. 前記遺伝子がクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)由来の遺伝子である、請求項1又は2記載の方法。
  4. 前記バチルス(Bacillus)属細菌がバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  5. 下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子をバチルス(Bacillus)属細菌に導入して得られた、グリセリン資化能が向上した形質転換体。
    (a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
    (c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
  6. 前記遺伝子がクレブシエラ(Klebsiella)属細菌由来の遺伝子である、請求項5記載の形質転換体。
  7. 前記遺伝子がクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)由来の遺伝子である、請求項5又は6記載の形質転換体。
  8. 前記バチルス(Bacillus)属細菌がバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)である、請求項5〜7のいずれか1項記載の形質転換体。
  9. 下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子をバチルス(Bacillus)属細菌に導入する工程、及び導入後の細菌をグリセリン含有培地で培養する工程を含む、バチルス(Bacillus)属細菌の生育性を向上させる方法。
    (a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
    (c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグリセリン取り込み活性を有するタンパク質
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