JP2014043614A - Ni又はNi合金スパッタリングターゲット及びその製造方法 - Google Patents

Ni又はNi合金スパッタリングターゲット及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】基板上に均一に成膜できるマグネトロンスパッタリング法に最適な、硬度分布を均一化し、漏れ磁場を均一に生成できるNi又はNi合金スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】熱間鍛造したNi又はNi合金を、加工率を多段階に変化させて冷間圧延を繰り返し、所定厚さの板体を形成した後、該板体に熱処理を施し、所定形状に加工して、ターゲットが作製される。そのターゲットは、漏れ磁束の面内バラツキが、12%以下である。
【選択図】図1

Description

本発明は、マグネトロンスパッタリング法におけるスパッタリングターゲットとして好適な、硬度分布を均一化して、漏れ磁場を均一に生成できるNi又はNi合金スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
近年、ハードディスク用磁気記録媒体、磁気ヘッド、LSIチップ等における薄膜を形成する方法として、スパッタリング法が広く知られている。このスパッタリング法の中でも、マグネトロンスパッタリング法が多用されている。このマグネトロンスパッタリング法では、基板とスパッタリングターゲットとを対向させ、スパッタリングターゲットの裏側に磁石を配置し、この状態で電圧を印加することによりスパッタリングして、基板上に成膜する。このスパッタリング時には、ターゲット表面から漏れ出る磁界により、電子は、その磁界の磁力線にそって螺旋状に運動する。ここで、プラズマが電子の周りに発生し、これにより、集中的にスパッタリングすることができる。このような直交電磁界空間内では、プラズマの安定化及び高密度化が可能であり、スパッタリング速度を大きくすることができるという特徴を有している。
一般に、このマグネトロンスパッタリング法を用い、Ni又はNi合金を使用して、磁性体薄膜を基板上に形成することが行なわれている。マグネトロンスパッタリング法では、磁界中に電子を捕らえて、効率よくスパッタリングガスを電離するが、ターゲット自体の磁気特性によって、スパッタリングターゲット表面近傍の磁界に影響を与えることが知られている。
従来では、Ni薄膜をこのマグネトロンスパッタリング法で成膜するために、高純度Niの塊を溶融し、鋳造したインゴットを熱間鍛造した後に、熱間圧延し、熱処理を施して、Niスパッタリングターゲットが製造されていた。しかし、このNiスパッタリングターゲットでは、スパッタリング面内の磁気特性が不均一であるため、成膜の均一性が大きく変動するという欠点があった。
そこで、スパッタリング膜のユニフォーミティに優れたマグネトロンスパッタリング用高純度Ni又はNi合金ターゲットの製造方法として、高純度Ni又はNi合金を熱間鍛造した後に、30%以上の圧延率による冷間圧延工程と、これをさらに200〜300°Cの温度による熱処理工程とからなり、該冷間圧延工程と該熱処理工程とを少なくとも2回以上繰り返すことが提案されている(例えば、特許文献1乃至3を参照)。
特開2003−166051号公報 特開2003−213405号公報 特開2009−120959号公報
以上に説明したNi又はNi合金スパッタリングターゲットの製造では、Ni又はNi合金によるインゴットを熱間鍛造し、その後に、冷間圧延と熱処理を少なくとも2回以上繰り返されている。この他に、Ni又はNi合金スパッタリングターゲットの製造に際して、冷間圧延ではなく、熱間圧延が用いることも行われている。この製造方法では、Ni又はNi合金によるインゴットが熱間鍛造され熱間圧延された板材から切り出されたターゲット素材を熱処理後、このターゲット素材に対して熱間圧延を施して所定厚さとし、この所定厚さとなった板材をさらに熱処理を施してから、所定寸法のスパッタリングターゲット材を切り出している。
スパッタリングターゲットが磁性体の場合には、磁気的に閉回路を作るために、マグネトロンスパッタリングすることが極めて難しいという問題がある。このようなことから、スパッタリングターゲットのエロージョン領域を他の領域に比べて低い透磁率にして磁束の通路をつくり、ターゲット表面で漏れ磁束を増大させる提案がなされている。しかし、このスパッタリングターゲットでは、スパッタリングのエロージョンによるターゲット形状変化でスパッタリングライフを通じて、成膜の均一性が大きく変動するという欠点がある。
Ni又はNi合金による強磁性体スパッタリングターゲットでも、強力なマグネットを用いるなどのマグネトロンスパッタリング装置の改善によって、十分な成膜速度が得られるようになっている。しかし、Ni又はNi合金スパッタリングターゲットにおけるスパッタリング面内の磁気特性が不均一であるターゲットを用いると、エロージョン部の最深部が歪み、予定した均一な膜厚分布が得られないという問題がある。
圧延を施したスパッタリングターゲット素材の内部に存在する歪みは、等方的ではない。即ち、結晶粒が一方向に延ばされた集合組織となる。このため、三次元的に見た場合には、圧延面内においても、磁気特性に異方性が生ずる。そのため、Ni又はNi合金スパッタリングターゲットには、内部組織に歪み等がそのまま存在し、スパッタリング面内の磁気特性が不均一になるという欠点を有している。
しかしながら、上述した従来技術によるNi又はNi合金スパッタリングターゲットの製造方法では、熱間圧延の工程を多段階のパススケジュールで圧延したとしても、それらは、一方向の圧延であり、熱処理の工程を経ても、異常な粒成長を起こし、結晶粒組織の中に微細粒と粗大粒とが混在する不均一な金属組織に成り易い。スパッタリングターゲット材における結晶粒が粗大化し、結晶粒径のばらつきが生じると、そのターゲット材の面内における歪も不均一なものとなる。この様なスパッタリングターゲットを用いて、成膜を行った場合には、スパッタリング膜の均一性に大きく影響する。
また、このような粗大化した結晶粒と微細結晶粒とが混在する組織を持ったNi又はNi合金スパッタリングターゲットをマグネトロンスパッタ装置に設置した場合、そのスパッタリングターゲットの表面上に漏れ出る磁場(以下、漏れ磁場と略記する。)がターゲット面内において不均一になるという問題がある。つまり、その漏れ磁束の分布が不均一になることによって、プラズマが収束される量が変わるため成膜される膜厚分布が不均一になる。そのため、粗大化した結晶粒と微細結晶粒とが混在する組織を持ったNi又はNi合金スパッタリングターゲットをマグネトロンスパッタ装置でスパッタリング成膜を行おうとすると、基板上に均一な膜をスパッタリングできないという問題があった。
そこで、本出願の発明は、基板上に均一に成膜できるマグネトロンスパッタリング法に最適な、漏れ磁場を均一に生成できるNi又はNi合金スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、マグネトロンスパッタリング法でスパッタリングするのに好適なNi又はNi合金スパッタリングターゲットを得るべく、種々の研究を行った。スパッタリングターゲットの表面上に漏れ出る漏れ磁場がターゲット面内において均一にするには、スパッタリングターゲットの中心に至るまで、結晶粒が微細であり、かつ、結晶粒のバラツキができるだけ小さいことが重要であることが分かった。そこで、多段回の冷間圧延を施す最初の段階で、加工率を最も大きくし、ターゲット素材の中心まで加工を施すことにより、スパッタリングターゲットの面内方向だけでなく、厚さ方向においても、結晶粒の微細化と、結晶粒のバラツキの低減を実現できることが判明した。
そこで、発明者らは、具体的な試験例として、Niスパッタリングターゲットの製造を試みた。先ず、熱間圧延により製造されたNi原材料を用意し、このNi原材料から矩形形状のNi板体を製作した。そして、このNi板体に対して、加工率を8.8%から2.2%まで変化させたプロファイルを有する加工条件で多段回の冷間圧延を実施した後に、500°の温度で熱処理を行い、所定形状に加工して、Niスパッタリングターゲットを製造した。この加工率プロファイルにおいては、初回(1段目)の冷間圧延の加工率を、最も大きくし、例えば、8.8%の加工率に設定され、それ以降の冷間圧延における加工率は、初回の加工率より低く設定され、最終回(最終段)の加工率が最も低く設定されている。
ここで製造された試験例のNiスパッタリングターゲットについて、厚み方向表面部、厚み方向中心部及び厚み方向裏面部における組織観察を行った。その組織観察をした画像写真が、図1の(b)に示されている。な、図1の(a)に、比較のため、熱間圧延により製造された従来例のNiスパッタリングターゲットについて、厚み方向表面部、厚み方向中心部及び厚み方向裏面部における組織観察の結果を示した。この画像写真から分かるように、試験例のNiスパッタリングターゲットの組織における結晶粒は、従来例のNiスパッタリングターゲットの組織に比べて、微細であり、かつ、そのバラツキが少ないことが観察された。ここで、図1の写真は厚み方向におけるバラツキについて観察したが、試験例のNiスパッタリングターゲットは面内方向においても、結晶粒が、微細であり、そのバラツキが少ないことが観察されている。特に、厚み方向中央部においても、面内方向のバラツキが小さいことが、試験例のNiスパッタリングターゲットの特徴であった。
次に、上記試験例のNiスパッタリングターゲット表面における漏れ磁束を測定した。この測定では、スパッタリングターゲットの裏側に磁石を配置して、その上側表面でガウスメーター測定端子により、漏れ磁束を検出した。図2には、Niスパッタリングターゲットの測定位置(黒点で表示)が示されている。その測定結果が、図3のグラフに示されている。グラフ(a)は、従来例のNiスパッタリングターゲットについての測定結果を、そして、グラフ(b)は、試験例のNiスパッタリングターゲットについての測定結果をそれぞれ示している。これらのグラフから、試験例のNiスパッタリングターゲットにおける漏れ磁束の測定結果が、従来例のNiスパッタリングターゲットの場合より、バラツキが小さいことが分かる。
また、上記試験例のNiスパッタリングターゲット及び上記従来例のスパッタリングターゲットの硬度分布を把握するため、図4に示される測定位置(P1〜P5)においてビッカース硬度を測定した。各測定位置の測定値の平均を算出して、測定値のバラツキを求めたところ、試験例のNiスパッタリングターゲットに係る硬度のバラツキは、従来例のNiスパッタリングターゲットのそれより大幅に小さいという結果が得られた。
以上の結果から、Niスパッタリングターゲットの製造に際して、熱間圧延により製造されたNi原材料から製作されたNi板体に対して、初回の冷間圧延には、8%以上の加工率を設定し、多段回の冷間圧延を実施した後に、熱処理を行うことにより、ターゲット素地中における結晶粒が、微細となり、かつ、大粒径の結晶粒が混在しない組織となり、しかも、ビッカース硬度分布のバラツキの低減、曳いては、漏れ磁束のバラツキの低減を実現できるという知見が得られた。なお、Ni合金スパッタリングターゲットの場合についても、同様の知見が得られた。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)本発明による薄膜形成用Ni又はNi合金スパッタリングターゲットは、Ni又はNi合金の結晶粒からなる組織を有する板体であって、前記板体における漏れ磁束の面内バラツキが、12%以下であることを特徴とする。
(2)本発明による薄膜形成用Ni又はNi合金スパッタリングターゲットの製造方法では、熱間鍛造したNi又はNi合金に、最初に加工率8%以上の冷間圧延を実施し、さらに加工率を多段階に変化させて冷間圧延を繰り返し、所定厚さの板体を形成した後、該板体に熱処理を施し、機械加工したことを特徴とする。
本発明の薄膜形成用Ni又はNi合金スパッタリングターゲットは、所定の冷間圧延により結晶粒の面内バラツキが小さくなり、熱処理により硬度の面内バラツキが小さくなり、これにより漏れ磁束の面内バラツキが抑制を達成したものである。
なお、本発明の薄膜形成用Ni又はNi合金スパッタリングターゲットにおいて、前記板体における硬度の面内バラツキは、10%以下であることが好ましい。この理由は、素材の板体全体における硬度の面内バラツキが10%を超えると、漏れ磁束のバラツキも大きくなって、漏れ磁場を均一に生成することができなくなるためである。
また、本発明の製造方法では、冷間圧延を多段回実施した後に、熱処理を行うことを基本にした。一方、冷間圧延と熱処理のセットを2回以上繰り返すことも行われているが、素材の板体中における結晶粒の粒径バラツキが大きくなりやすく、この粒径のバラツキに影響を受けて、硬度の面内バラツキも大きくなる可能性がある。また、1回のみの冷間圧延で、素材の板体を所定厚さに加工することは無理である。そのため、加工率を多段階に変化させた冷間圧延を繰り返すことによって、素材の板体中の結晶粒を微細にした。その後に、微細結晶粒を含む板体を熱処理することとした。なお、冷間圧延後の熱処理を省いた場合には、硬度の面内バラツキが発生してしまい、漏れ磁場も不均一になるため、加工の最後には、熱処理することが必要である。
本発明の製造方法においては、多段階で繰り返される冷間圧延の加工率を、1段目が8%以上になるようにした。この理由は、最初に大きく加工圧力を加えないと、素材の板体の中心部にまで、厚み方向の加工圧力が加わらず、厚み方向の、即ち、表面側、中心部、裏面側の組織にバラツキが発生するとともに、中心部において面内方向のバラツキも発生してしまうからである。
これとは逆に、最初の加工圧力を小さくしてしまうと、素材の板体の表面側と裏面側のみが加工されてしまうため、その表面が加工硬化されてしまう。その後に加工を施しても、中心部まで加工されない可能性があり、素材の板体における硬度の面内バラツキを10%以下とするためにも、最初(1段目)の加工率を最も大きくする必要がある。
なお、8%以上の加工率で実施される最初の冷間圧延の前に、例えば、2%程度以下の小さい加工率で冷間圧延を実施し、反りを矯正してもよい。加工率が十分に小さければ、その後の8%以上の冷間圧延によって中心部まで加工することができる。
冷間圧延前の板材の厚さは、8〜15mmであることが好ましい。8mm未満の板材に上述の冷間圧延を施すとスパッタリングターゲットとしては厚さが薄くなりすぎる。また、15mmを超えると冷間圧延後の厚さが厚すぎてスパッタができなくなるおそれがある。
以上の様に、本発明によるNi又はNi合金スパッタリングターゲットの製造方法によれば、熱間圧延により製造されたNi原材料から製作されたNi板体に対して、初回の冷間圧延には、最大の加工率を設定し、それ以降の冷間圧延には、初回の加工率より低い加工率を設定し、そして、最終回の冷間圧延には、最も低く設定した加工率プロファイルで多段回の冷間圧延を実施した後に、熱処理を行うことにしたので、ターゲット素地中における結晶粒が、微細となり、かつ、大粒径の結晶粒が混在しない組織となり、しかも、ビッカース硬度分布のバラツキの低減、曳いては、漏れ磁束のバラツキの低減を図ることができ、基板上に均一に成膜できるマグネトロンスパッタリング法に最適なNi又はNi合金スパッタリングターゲットを提供できる。
(a)の画像写真は、従来例のNiスパッタリングターゲットについて、厚み方向表面部、厚み方向中心部及び厚み方向裏面部における組織観察の結果を示す。(b)の画像写真は、本発明のNiスパッタリングターゲットについて、厚み方向表面部、厚み方向中心部及び厚み方向裏面部における組織観察の結果を示す。 従来例及び本発明のNiスパッタリングターゲットについて、漏れ磁束を測定した箇所を説明する図である。 従来例及び本発明のNiスパッタリングターゲットについて、漏れ磁束を測定した結果を示すグラフである。 従来例及び本発明のNiスパッタリングターゲットについて、平均結晶粒径を求める原理を説明する図である。 従来例及び本発明のNiスパッタリングターゲットにおける硬度測定の箇所を説明する図である。
つぎに、この発明のNi又はNi合金スパッタリングターゲットについて、以下に、実施例により具体的に説明する。
〔実施例〕
先ず、高純度のNi塊、又は、Fe、Vなどを含むNi合金塊を用意し、真空溶解し、鋳造し、鋳造したインゴットを1180℃で熱処理の後に、これを熱間鍛造して、1180℃で熱処理後、今度は、熱間圧延により、150mm厚さから、11mm厚さまで圧延する。この圧延の途中において、3回、1180℃で中間焼鈍が行われる。この熱間圧延されたNi又はNi合金の板体を、Ni又はNi合金スパッタリングターゲットを作製するための原材料の板体とした。ここで、得られた原材料の板体から、140mm×330mmの矩形と、230mm×230mmの正方形との2種類の加工形状を有する複数の加工素材を切り出した。切り出されたいずれの加工素材も、厚さは、11mmである。
高純度Niによる矩形の加工素材としては、実施例1〜5の加工素材を、そして、正方形の加工素材として、実施例6、7の加工素材をそれぞれ用意した。また、Ni合金の場合については、矩形の加工素材として、実施例8〜10の加工素材を、そして、正方形の加工素材として、実施例11〜13の加工素材をそれぞれ用意した。
<圧延加工条件>
表1に示されるように、素材形状に応じて、加工条件A〜Dの加工率プロファイルを設定した。素材形状が140mm×330mmの矩形である加工素材に対しては、矩形の短辺方向に冷間圧延を行うこととし、素材形状が230mm×230mmの正方形である加工素材に対しては、正方形の直交する2辺に沿って交互に冷間圧延を行うこととした。そして、加工条件A〜Dの加工率プロファイルのいずれにおいても、最初(1段目)の圧延における加工率が最も大きく設定され、これ以降には、それより小さい複数段の加工率が設定されている。加工率プロファイルにおける圧延段数は、表1から分かるように、加工条件A〜Dの間で異なっている。なお、冷間圧延は、常温で行われる。

実施例1〜13の加工素材に基づいたNi又はNi合金スパッタリングターゲットの製造には、順次、多段回の冷間圧延の工程1、熱処理の工程2、矯正の工程3が用意されている。この工程1では、表1に示された加工条件の冷間圧延プロファイル(パススケジュール)に従って、加工率が異なる複数回の冷間圧延が実施された。また、工程2では、複数回の冷間圧延が完了した後に所定形状に加工したターゲット板体を、500〜800℃の範囲で、1時間の熱処理を施した。そして、工程3では、熱処理されたターゲット板体の反りを測定し、その反りについて、1mm以下であれば、「ほぼ無し」として、スパッタリングに支障が無いと判断でき、それを超えていれば、「反り大」と判定した。反り大の場合には、プレス機を使用して矯正を施し、スパッタリングに支障が無い状態にした。以上で、実施例1〜13のNi又はNi合金スパッタリングターゲットが得られ、その様子が、表2に示されている。
〔比較例〕
実施例との比較のため、比較例1〜5の加工素材を用意した。これらの加工素材は、140mm×330mmの矩形の加工形状を有している。比較例1〜5の加工素材は、実施例1〜5の加工材料の場合と同様にして、熱間圧延されたNiの板体を、Niスパッタリングターゲットを作製するための原材料とし、この原材料の板体から、140mm×330mmの矩形の加工形状を有する加工素材を切り出した。
<圧延加工条件>
この比較例1〜5の加工素材からNiスパッタリングターゲットを製造するために、表1に示されるように、加工条件EとZを用意した。加工条件Eは、常温で実施される冷間圧延とし、加工率の異なる多段回の冷間圧延の工程b1と、熱処理の工程cとが用意された。また、加工条件Zでは、850℃の温度で熱間圧延が実施される場合であり、順次、熱処理の工程a、加工率の異なる多段回の熱間圧延の工程b2、熱処理の工程c、矯正の工程dが用意された。この工程aにおいて、800℃の温度で、1時間の熱処理が施された後に、工程b1では、加工条件Eで設定された冷間圧延が行われ、工程b2では、加工条件Zで設定された熱間圧延が行われる。次に、圧延が完了した後に所定形状に加工したターゲット板体を、工程cで、450℃の温度で、1.5時間の熱処理を施した。そして、工程dにおいて、熱処理されたターゲット板体の反りを測定したところ、加工条件Eによる比較例1の板体には、反りはほぼ無しと判定できたが、加工条件Zによる板体は、いずれも、その反りが1mmを超えていたので、「反り大」と判定した。そこで、矯正を施し、スパッタリングに支障が無い状態にした。以上で、比較例1〜5のNiスパッタリングターゲットが得られ、その様子が、表2に示されている。

表2に示された実施例4のNiスパッタリングターゲットでは、反りが大きくなっているが、これは、1回1回の加工率が大きく、歪みの入り方が不均一のためである。また、正方形の直交する2辺に沿って交互に冷間圧延を行う、所謂、クロス圧延で反りが発生しにくい理由は、クロスで圧延することで、歪みが均一に入りやすいため、反りが発生しにくい。
表2に示されるように、実施例1〜7のNiスパッタリングターゲット及び実施例8〜13のうち、実施例4を除く全てにおいて、加工後の反りは、「ほぼ無し」との判定が得られ、矯正処理は行われなかった。しかし、実施例4のNiスパッタリングターゲットと、比較例2〜5のNiスパッタリングターゲットとについては、「反り大」との判定であり、矯正処理が、「要」と判断され、いずれについても、矯正処理が施された。その結果、実施例1〜7のNiスパッタリングターゲット、実施例8〜13のNi合金スパッタリングターゲット、及び、比較例1〜5のNiスパッタリングターゲットのいずれもが、スパッタリング装置に装着でき、スパッタリングに適したものであることが確認された。
次に、以上の様にして得られた実施例1〜7のNiスパッタリングターゲット、実施例8〜13のNi合金スパッタリングターゲット、及び、比較例1〜5のNiスパッタリングターゲットについて、平均結晶粒径、漏れ磁束、硬度(ビッカース硬さ)を測定した。それらの測定結果が、表3に示されている。
<平均結晶粒径測定>
平均結晶粒径の測定では、先ず、光学顕微鏡にて撮影して写真上において、図4に示されるように、任意の場所に、60mm×60mmの範囲に、20mm間隔の格子を設定する。その格子中におけるA、B、C、Dのライン上にある結晶粒の個数を測定し、測定したA、B、C、Dの個数から平均値を算出する。そして、以下に示す計算式により、推定の平均結晶粒径を算出する。
平均結晶粒径d=3/2×60×1000/(写真の実倍率×結晶粒の個数の平均値)
<漏れ磁束の測定>
磁束測定用の装置には、非磁性体の材質(例えば、アルミニウム)からなり、スパッタリングターゲットを載せるテーブルと、その下側には、スパッタリングターゲットの表面に磁束を発生させるための磁石(馬蹄形磁石:Dexter社製アルニコ磁石5K215)とが配置されている。そして、テーブルに載置されたスパッタリングターゲットの上側に、相対的な測定位置を調整できるホールプローブを置き、このホールプローブに、ガウスメーターが接続されている。
この様な測定用装置を用いて、図2に示されるように、スパッタリングターゲットの上側表面における17点(図中では、黒点で表示され、中心点と、中心から放射状に延びる45度間隔の線上の各々にある2点との合計)について、磁束量(KG)を測定した。その17点における磁束量に基づいて、平均値を算出し、以下に示す式により、漏れ磁束のバラツキ(%)を求めた。
漏れ磁束のバラツキ(%)=(平均値から最も離れた測定値−平均値)/平均値×100
<硬度の測定>
スパッタリングターゲットについて、図5に示されるように、ターゲット表面における5点(黒点:P1〜P5)について、ビッカース硬度を測定した。ビッカース硬度の測定には、ビッカース硬度計(MVK−G13)を用いて、SPEEDダイヤル:3、荷重100gにて、5回測定し、その測定値の平均値を測定結果とした。

表3によれば、実施例1〜7のNiスパッタリングターゲットにおいて測定された平均結晶粒径の大きさは、厚み方向の表面部、中央部、裏面部の測定部位間で、大きな差異がなく、スパッタリングで消耗されてターゲット材が薄くなっても、結晶粒の大きさがあまり変化せず、安定したスパッタリングを行えることが確認され、また、実施例8〜13のNi合金スパッタリングターゲットについても、同様である。
また、実施例1〜7のNiスパッタリングターゲットに関して測定された硬度のバラツキ(%)をみると、そのバラツキは、従来例1、2のNiスパッタリングターゲットにおける硬度のバラツキ(%)より大幅に小さいことが分かる。これは、実施例1〜9のNiスパッタリングターゲットが、熱間鍛造したNi加工素材について、冷間圧延が繰り返された後に、適切な熱処理を施されたことによるものであり、スパッタリングターゲットの硬度分布の均一化、即ち、面内の歪みの均一化が確認されたことになる。その硬度分布の均一化、面内歪みの均一化を実現できたので、実施例1〜7のNiスパッタリングターゲットに関する漏れ磁束のバラツキ(%)においても、そのバラツキが、従来例1、2のNiスパッタリングターゲットにおける漏れ磁束のバラツキ(%)より大幅に小さくなっており、漏れ磁束の均一化を図ることができた。さらに、この漏れ磁束の均一化は、実施例8〜13のNi合金スパッタリングターゲットについても、同様である。
以上の様に、実施例1〜7のNiスパッタリングターゲット及び実施例8〜13のNi合金スパッタリングターゲットの製造において、表1に示される加工条件に従い、最初に8%以上の加工率に設定された多段回の加工率による冷間圧延が施されることにより、ターゲット素材における硬度分布の均一化、面内歪みの均一化、曳いては、漏れ磁束の均一化を図ることができたので、Ni又はNi合金スパッタリングターゲットをマグネトロンスパッタリング法に供するのに、最適なものとなった。なお、比較例1の場合には、多段回の加工率による冷間圧延が施されているが、最初に小さい加工率で圧延するため、板体の表面が加工硬化してしまい、次段の加工率を8%以上に大きくしても、圧延加工が板体の中心まで及ばず、微細化を果たすことができなかった。結果として、漏れ磁束のバラツキが、実施例1〜13のスパッタリングターゲットの場合より大きい。

Claims (2)

  1. Ni又はNi合金の結晶粒からなる組織を有する板体であって、
    前記板体における漏れ磁束の面内バラツキが、12%以下であることを特徴とする薄膜形成用Ni又はNi合金スパッタリングターゲット。
  2. 熱間鍛造したNi又はNi合金に、最初に加工率8%以上の冷間圧延を実施し、さらに加工率を多段階に変化させて冷間圧延を繰り返し、所定厚さの板体を形成した後、該板体に熱処理を施し、機械加工したことを特徴とする薄膜形成用Ni又はNi合金スパッタリングターゲットの製造方法。


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