JP2014005511A - 高周波焼入れ用鋼材の溶製方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.40〜0.60%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0.60〜0.90%、P:0.030%以下、S:0.008%以下、Cr:0.01%以上0.50%未満、Al:0.010〜0.040%、O:0.0015%以下およびN:0.020%以下を含有し、残部はFeおよび不純物の化学組成を満足し、取鍋精錬処理を行うことにより、硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成が、CaS:1.0%以上、MgS:0〜20%、かつ、CaS、MgSおよびMnSの3成分の合計が95%以上になるように硫化物系介在物を制御した高周波焼入れ用鋼材の溶製方法。
【選択図】なし
Description
工程1:転炉または電気炉から取鍋に出鋼した溶鋼中に、バブリングランスを介して、質量%で、CaO:40〜70%、Al2O3:30%以下を含有するCaO系精錬フラックスを、該CaO系精錬フラックス中のCa量がCa純分として溶鋼1t当たり1.0〜2.6kgの範囲で吹き込む工程。
(C:0.40〜0.60%)
Cは、高周波焼入れ後に転動部に必要な硬さを確保させる元素であり、0.40%以上の含有量とする必要がある。しかしながら、C含有量が0.60%を超えると、母材が硬くなって、鍛造性が著しく低下するとともに切削時の工具寿命の低下をきたし、さらには高周波焼入れした際の焼割れの原因となる。したがって、C含有量は0.40%以上0.60%以下とする。C含有量は好ましくは0.50%以上0.58%以下である。
Siは、高周波焼入れ後に転動部に必要な硬化層深さを確保するのに必要な元素であり、0.15%以上含有させなければならない。しかしながら、0.35%を超えてSiを含有させても焼入れ性向上効果は飽和し、さらに母材が硬くなって、鍛造性が著しく低下し、また、切削時の工具寿命の低下をきたしてしまう。したがって、Si含有量は0.15%以上0.35%以下とする。好ましいSi含有量は0.17%以上0.30%以下である。
Mnは、高周波焼入れ後に転動部に必要な硬化層深さを確保するのに必要な元素であり、0.60%以上含有させなければならない。しかしながら、0.90%を超えてMnを含有させても焼入れ性向上効果は飽和し、さらに母材が硬くなって、鍛造性が著しく低下し、また、切削時の工具寿命の低下をきたしてしまう。したがって、Mn含有量を0.60%以上0.90%以下とする。好ましいMn含有量は0.65%以上0.80%以下である。
Pは、結晶粒界に偏析して転動疲労寿命を短くしてしまう。特に、P含有量が0.030%を超えると、転動疲労寿命の低下が著しくなる。したがって、P含有量を0.030%以下とする。好ましいP含有量は0.025%以下である。Pの含有量は少なければ少ないほどよい。
Sは、硫化物を形成する元素であり、S含有量が0.008%を超えると、粗大な硫化物が残存するため転動疲労寿命を短くしてしまう。したがって、S含有量を0.008%以下とする。なお、転動疲労寿命の向上という観点から好ましいS含有量は0.006%以下である。S含有量は少なければ少ないほどよい。
Crは、高周波焼入れ後に転動部に必要な硬化層深さを確保するのに必要な元素であり、0.01%以上含有させなければならない。しかしながら、0.50%以上Crを含有させると、切削時の工具寿命の低下をきたしてしまう。したがって、Cr含有量を0.01%以上0.50%未満とする。好ましいCr含有量は0.05%以上0.40%以下である。
Alは、精錬工程で脱酸を行うために使用する元素である。しかし、Al含有量が0.040%を上回ると粗大な酸化物として残存し易くなり、転動疲労寿命の低下を招くことがある。したがって、Al含有量を0.040%以下とする。好ましいAl含有量は0.010%以上0.035%以下である。
Oは、好ましくない不純物元素である。O含有量が多くなって、特に、0.0015%を超えると、圧下した後に粗大な酸化物として残存し、転動疲労寿命の低下を招く。したがって、O含有量を0.0015%以下とする。なお、好ましいO含有量は0.0012%以下である。O含有量は少なければ少ないほどよい。
Nは、過剰に含有すると粗大な窒化物を生成して、疲労強度の低下を招くおそれがある元素である。したがって、上限を設けて、N含有量を0.020%以下とした。
(V:0.30%以下)
Vは、Nと結合して窒化物を形成するため、高周波加熱時の結晶粒粗大化を抑制する作用を奏する。Vには、Cと結合することで母材の強度を上昇させる作用もある。ただし、0.30%を超えてVを含有させても高周波加熱時の結晶粒粗大化を防止する効果が飽和する。さらに、上記の場合には母材の強度が高くなり過ぎて切削性が低下してしまう可能性がある。したがって、含有させる場合のV含有量を0.30%以下とする。なお、高周波加熱時の結晶粒粗大化を抑制する作用と母材の強度を上昇させる作用をより有効に発揮させ、しかも十分な切削性を確保するために、含有させる場合のV含有量は0.01%以上0.20%以下とすることが好ましい。
Nbは、Nと結合して窒化物を形成するため、高周波加熱時の結晶粒粗大化を抑制する作用を奏する。Nbには、Cと結合することで母材の強度を上昇させる作用もある。ただし、0.10%を超えてNbを含有させても高周波加熱時の結晶粒粗大化を防止する効果が飽和する。さらに、上記の場合には母材の強度が高くなり過ぎて切削性が低下してしまう可能性がある。したがって、含有させる場合のNb含有量を0.10%以下とする。なお、高周波加熱時の結晶粒粗大化を抑制する作用と母材の強度を上昇させる作用をより有効に発揮させ、しかも十分な切削性を確保するために、含有させる場合のNb含有量は、0.01%以上0.10%以下とすることが好ましい。
(B:0.005%以下)
Bは、微量で鋼の焼入れ性を大きく向上させて、高周波焼入れ後に転動部に必要な硬化層深さを一層大きくすることができる元素である。しかしながら、B含有量が0.005%を超えてもその効果は飽和してしまう。したがって、含有させる場合のB含有量を0.005%以下とする。焼入れ性向上作用を安定して発揮させてより良好な高周波焼入れ性を確保するために、含有させる場合のB含有量は0.0003%以上0.005%以下とすることが好ましい。
Bを含有することによって焼入れ性が向上するのは、Bが固溶Bの状態で存在する場合である。そのため、BがNと結合してBNを形成した場合には、Bによる焼入れ性向上効果は期待できない。上記理由より、Bを含有させる場合には、BよりもNとの親和力が大きいTiを含有させる必要がある。しかしながら、0.05%を超える量のTiを含有させても、Nを固定する効果が飽和するばかりか、粗大なTiNが多量に生成してしまうため、転動疲労特性が低下する可能性がある。したがって、含有させる場合のTi含有量を0.05%以下とする。Bの焼入れ性向上作用を安定して発揮させるために、前述した量のBとともに含有させる場合のTi含有量は0.01%以上0.05%以下とすることが好ましい。
本発明の高周波焼入れ鋼材は、上記した化学組成範囲を満たした上で、硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成が「CaS:1.0%以上、MgS:0〜20%、かつ、CaS、MgSおよびMnSの3成分の合計が95%以上」という条件を満たすことにより、延伸した粗大な硫化物の生成が抑制され、優れた転動疲労寿命を確保することが可能になる。
CaSは、脱硫反応によって生成する硫化物である。CaS濃度が1.0%以上になると、延伸した粗大な硫化物の生成を抑制する効果を得られる。硫化物としてCaSだけが存在しても、つまり、CaS濃度が100%であっても構わない。したがって、硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成におけるCaS濃度を1.0%以上とする。
精錬段階にて鋼中にMgが取込まれ、硫化物系介在物中にMgSが混入する場合がある。MgS濃度が20%を上回るような条件では、鋼中に別に存在している酸化物系介在物中のMgO濃度が増加し、点列状の粗大な酸化物の生成を招くため、MgS濃度は20%以下に制限する。なお、硫化物系介在物中にMgSは存在していなくても構わない。したがって、硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成におけるMgS濃度を、0〜20%とする。
前述した硫化物組成は、次に述べる製造方法によって所定の範囲内に制御する。
取鍋内の溶鋼を粉体吹込み装置まで搬送した後、溶鋼にバブリングランスを介してArガスとともに精錬フラックスを吹込み、溶鋼を撹拌する。このフラックス吹込み工程で、CaO系精錬フラックスをCaO系精錬フラックス中のCa量がCa純分として溶鋼1tあたり1.0〜2.6kg吹き込む。
ε=(0.006183×Q×T)/W×ln[1+(9.8×ρ×H)/P+{1-(TG/T)}]・・・(1)
ε:ガス撹拌に伴う溶鋼1t当たりの撹拌動力密度(W/t)
Q:吹込みガス流量(L(Normal)/min)
T:溶鋼温度(K)
W:溶鋼量(t)
ρ:溶鋼の密度(7000kg/m3)
H:ガス吹込み深さ(m)
P:雰囲気圧力(N/m2)
TG:吹込みガス温度(K)
また、フラックス吹込み時間は、溶鋼脱硫および介在物組成制御の効果と、溶鋼温度低下の抑制の観点から5分間程度が適当である。
工程1を終了後、CaO:35〜65%、Al2O3:10〜35%、SiO2:10%以下(0%を含まない)、MgO:0〜15%、CaF2:0〜30%、CaO/SiO2:6以上およびCaO/Al2O3:1.8〜3.5を含有するスラグが、溶鋼1トン当たり5〜15kgの範囲で生成されるように、精錬剤を適宜調整して添加し、溶鋼中に浸漬した上吹きランスや取鍋底からArガスを吹き込んで、溶鋼および溶鋼上のスラグを追添加した精錬剤とともに撹拌して精錬処理する。
工程2を終了後、RH(溶鋼環流型真空脱ガス処理装置)を用いて、溶鋼の脱ガスおよび介在物量低減を図る溶鋼環流処理を行う。RHでの処理時間は、溶鋼成分を微調整するための合金鉄等の添加完了後に溶鋼を還流させる処理の時間が20分間以上必要であり、それを25分間以上行うことが溶鋼中介在物の存在量を十分低減するために好ましい。
その後、連続鋳造して横断面が300mm×400mm程度の鋳片にし、さらに、鋳片を分塊圧延および棒鋼圧延で、圧下比が10以上の熱間圧延を実施することが好ましい。圧下比とは鋳片の断面積を最終の圧下によって得られた圧延軸受鋼鋼材の断面積で除した値を示す。圧下比を10以上とすることによって、複数からなる群にて存在する介在物間の距離を大きくし、一体として判断される介在物が低減されるからである。
例えば、上記したように製造した棒鋼から、その長手方向横断面(つまり、棒鋼の圧延方向に直角に切断した面)に対して表面と中心の中間位置であるR/2部(「R」は棒鋼の半径を表す。)を基準として、圧延方向と平行な方向に適当な形状の板材を切り出して、その板材を、適宜焼きならし、球状化焼きなましを行った後、その板材から適当な形状の超音波疲労試験片を複数作製する。
取鍋内の溶鋼を粉体吹込み装置まで搬送した後、溶鋼にバブリングランスを介してArガスとともにCaO系精錬フラックスを吹込み、溶鋼を撹拌した。
その後、VADを用いてスラグメタル反応を伴うスラグ精錬処理を行い、溶鋼組成および介在物組成を調整するとともに、溶鋼温度を調整した。この時、追加する精錬剤として生石灰および工程1で吹き込んだ精錬用フラックスをCaO/Al2O3質量比で2〜3程度になるように調整したものと、CaF2源としての蛍石とを合計して6〜14kg/t添加した。VADではおよそ40分間処理し、その間に溶鋼温度はおよそ1580℃から1620℃で推移させた。
さらに、RH(溶鋼環流型真空脱ガス処理装置)を用いて、溶鋼の脱ガスおよび介在物量低減を図る溶鋼環流処理を行った。RHでの処理時間は、溶鋼成分を微調整するための合金鉄等の添加完了後に溶鋼環流処理を25〜30分間行い、溶鋼温度調整や成分微調整のための処理を含めて、全部でおよそ40分間であった。この時、溶鋼温度はおよそ1530℃から1570℃で推移させた。
その後、連続鋳造法により鋳込み、300mm×400mmサイズの鋳片を得た。
先ず、上記した直径70mmの棒鋼から、その長手方向横断面(つまり、棒鋼の圧延方向に直角に切断した面)に対して表面と中心の中間位置であるR/2部(「R」は棒鋼の半径を表す。)を基準として、圧延方向と平行な方向に厚さ14mm、幅45mm、長さ200mmの板材を切り出して、その板材を、900℃で60分間保持した後に大気中で室温まで空冷する焼ならしを行った。その板材から粗形状の超音波疲労試験片を各鋼19本ずつ採取した。
その後さらに、直径70mmの棒鋼の中心から、棒鋼の長手方向が素形材の厚みとなるように、直径が60mmで厚みが10mmの素形材をスライスして採取した。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.40〜0.60%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0.60〜0.90%、P:0.030%以下、S:0.008%以下、Cr:0.01%以上0.50%未満、Al:0.040%以下、O:0.0015%以下およびN:0.020%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有する高周波焼入れ用鋼材の溶製方法であって、
下記工程1〜工程3の順に取鍋精錬処理を行うことにより、
硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成が、質量%で、CaS:1.0%以上、MgS:0〜20%、かつ、CaS、MgSおよびMnSの3成分の合計が95%以上になるように、硫化物系介在物を制御することを特徴とする高周波焼入れ用鋼材の溶製方法。
工程1:転炉または電気炉から取鍋に出鋼した溶鋼中に、バブリングランスを介して、質量%で、CaO:40〜70%、Al2O3:30%以下を含有するCaO系精錬フラックスを、該CaO系精錬フラックス中のCa量がCa純分として溶鋼1t当たり1.0〜2.6kgの範囲で吹き込む工程。
工程2:工程2の処理終了時の溶鋼上スラグ組成が、質量%で、CaO:35〜65%、Al2O3:10〜35%、SiO2:10%以下(0%を含まない)、MgO:0〜15%、CaF2:0〜30%、CaO/SiO2:6.0以上およびCaO/Al2O3:1.8〜3.5であって、かつ、そのスラグ量が、溶鋼1トン当たり5〜15kgになるように精錬剤を添加し、溶鋼および溶鋼上スラグをその添加した精錬剤とともに撹拌する工程。
工程3:溶鋼環流型真空脱ガス処理装置を用いて、溶鋼成分調整後に溶鋼を還流させる処理を20分間以上行う工程。 - Feの一部に代えて、質量%で、V:0.30%以下およびNb:0.10%以下のうちの1種以上を含有する請求項1に記載の高周波焼入れ用鋼材の溶製方法。
- Feの一部に代えて、質量%で、B:0.005%以下およびTi:0.05%以下を含有する請求項1または請求項2に記載の高周波焼入れ用鋼材の溶製方法。
- 制御される前記硫化物系介在物は、前記工程1〜工程3の順に取鍋精錬処理を施した後に溶鋼を連続鋳造し、その後分塊圧延および棒鋼圧延して製造した棒鋼を対象として超音波疲労破壊試験を行った際に、その破壊起点となる硫化物系介在物であることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の高周波焼入れ用鋼材の溶製方法。
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