定義
本発明をより容易に理解するために、一定の用語を先ず以下で定義する。以下の用語および他の用語に関する付加的な定義は、本明細書全体を通して記述されている。
「およそまたは約」:本明細書で用いる場合、「およそ」または「約」という用語は、1つ以上の当該値に適用される場合、記述参照値と類似する値を指す。ある実施形態では、「およそ」または「約」という用語は、別記しない限り、あるいはそうでない場合は本文から明らかな記述参照値のいずれかの方向で(より大きいかまたはより小さい)25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%またはそれ以下内にある一連の値を指す(このような数が考え得る値の100%を超える場合を除く)。
「寛解」:本明細書で用いる場合、「寛解」という用語は、ある状態の予防、軽減もしくは緩和、または対象の状態の改善を意味する。寛解は、疾患状態(例えば、サンフィリポ症候群B型)の完全な回復または完全な予防を含むが、必ずしも必要とするわけではない。いくつかの実施形態では、寛解は、関連する疾患組織で欠損している関連タンパク質(例えば、Naglu)の濃度またはその活性の増加を含む。
「生物学的に活性な」:本明細書で用いる場合、「生物学的に活性な」という語句は、生物学的系において、特に生物体において活性を有する任意の作用物質の特徴を指す。例えば、生物体に投与された場合、その生物体に及ぼす生物学的作用を有する作用物質は、生物学的に活性であるとみなされる。タンパク質またはポリペプチドが生物学的に活性である特定の実施形態では、当該タンパク質またはポリペプチドの少なくとも1つの生物学的活性を共有するそのタンパク質またはポリペプチドの一部分は、典型的には、「生物学的活性」部分として言及される。
「陽イオン非依存性マンノース−6−リン酸受容体(CI−MPR)」:本明細書で用いる場合、「陽イオン非依存性マンノース−6−リン酸受容体(CI−MPR)」という用語は、リソソームへの輸送を定められているゴルジ装置における酸加水分解酵素の前駆体上でマンノース−6−リン酸(M6P)タグを結合する細胞受容体を指す。マンノース−6−リン酸のほかに、CI−MPRは、他のタンパク質、例えばIGF−IIも結合する。CI−MPRは、「M6P/IGF−II受容体」、「CI−MPR/IGF−II受容体」、「IGF−II受容体」または「IGF2受容体」としても既知である。これらの用語およびその略語は、本明細書で互換的に用いられる。
「同時免疫抑制薬療法」:本明細書で用いる場合、「同時免疫抑制薬療法」という用語は、前処置、前状態調節として、またはある処置方法と平行して用いられる任意の免疫抑制薬療法を包含する。
「希釈剤」:本明細書で用いる場合、「希釈剤」という用語は、再構成処方物の調整のために有用な製薬上許容可能な(例えば、ヒトへの投与のために安全且つ非毒性の)希釈物質を指す。希釈剤の例としては、滅菌水、注射用静菌性水(BWFI)、pH緩衝溶液(例えば、リン酸塩緩衝生理食塩水)、滅菌生理食塩溶液、リンガー溶液またはデキストロース溶液が挙げられる。
「剤形」:本明細書で用いる場合、「剤形」および「単位剤形」という用語は、処置されるべき患者のための治療用タンパク質の物理的に別個の単位を指す。各単位は、所望の治療効果を生じるよう算定された予定量の活性物質を含有する。しかしながら、組成物の総投与量は、信頼できる医学的判断の範囲内で、担当医により決定される、と理解される。
「酵素補充療法(ERT)」:本明細書で用いる場合、「酵素補充療法(ERT)」という用語は、欠損した酵素を提供することにより酵素欠損症を補正する任意の治療戦略を指す。いくつかの実施形態では、欠損した酵素は、くも膜下腔内投与により提供される。いくつかの実施形態では、欠損した酵素は、血流中への注入により提供される。一旦投与されると、酵素は細胞に取り込まれ、リソソームに運ばれて、そこで酵素は、酵素欠損のためにリソソーム中に蓄積された物質を除去するよう作用する。典型的には、有効であるべきリソソーム酵素補充療法に関して、治療用酵素は、貯蔵欠陥が著しい標的組織内の適切な細胞中のリソソームに送達される。
「改善する、増加するまたは減少する」:本明細書で用いる場合、「改善する」、「増加する」または「減少する」という用語、または文法的同義語は、基線測定値、例えば本明細書に記載される処置の開始前の同一個体における測定値、あるいは本明細書に記載される処置の非存在下での一対照個体(または多数の対照個体)における測定値と比較した場合の値を示す。「対照個体」は、処置されている個体と同一型のリソソーム貯蔵疾患(例えば、サンフィリポ症候群B型)に罹患している個体であって、処置されている個体とほぼ同年齢である(処置個体と対照個体(単数または複数)における疾患の段階が比較可能であることを保証するため)。
「個体、対象、患者」:本明細書で用いる場合、「対象」、「個体」または「患者」という用語は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物対象を指す。処置されている個体(「患者」または「対象」とも呼ばれる)は、疾患に罹患している個体(胎児、幼児、小児、若者または成人)である。
「くも膜下腔内投与」:本明細書で用いる場合、「くも膜下腔内投与」または「くも膜下腔内注射」という用語は、脊柱管(脊髄周囲のくも膜下腔内空隙)への注射を指す。種々の技法、例えば穿頭孔あるいは槽または腰椎穿刺等を通した外側脳室注射が用いられ得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、本発明による「くも膜下腔内投与」または「くも膜下腔内送達」は、腰椎域または領域を介したIT投与または送達、すなわち、腰椎IT投与または送達を指す。本明細書で用いる場合、「腰部領域」または「腰椎域」という用語は、第三および第四腰椎(背中下部)間の区域、さらに包括的には、脊椎のL2〜S1領域を指す。
「リンカー」:本明細書で用いる場合、「リンカー」という用語は、融合タンパク質において、天然タンパク質中の特定位置に出現するもの以外のアミノ酸配列を指し、一般的に、柔軟性であるよう、または2つのタンパク質部分の間の構造物、例えばα−ヘリックスを間に置くよう意図される。リンカーは、スペーサーとも呼ばれる。
「リソソーム酵素」:本明細書で用いる場合、「リソソーム酵素」という用語は、哺乳動物リソソーム中の蓄積物質を還元し得るか、あるいは1つ以上のリソソーム貯蔵疾患症候を救出するかまたは改善し得る任意の酵素を指す。本発明に適しているリソソーム酵素は、野生型または修飾リソソーム酵素の両方を包含し、組換えおよび合成方法を用いて生成され得るし、あるいは天然供給源から精製され得る。
「リソソーム酵素欠損症」:本明細書で用いる場合、「リソソーム酵素欠損症」は、高分子物質(例えば酵素基質)をリソソーム中でペプチド、アミノ酸、単糖、拡散および脂肪酸に分解するために必要とされる酵素のうちの少なくとも1つにおける欠損に起因する遺伝子障害の一群を指す。その結果、リソソーム酵素欠損症に罹患している個体は、種々の組織(例えば、CNS、肝臓、脾臓、腸、血管壁およびその他の器官)中に物質を蓄積している。
「リソソーム蓄積症」:本明細書で用いる場合、「リソソーム蓄積症」という用語は、天然高分子物質を代謝するために必要な1つ以上のリソソーム酵素の欠損に起因する任意の疾患を指す。これらの疾患は、典型的には、リソソーム中に非分解分子の蓄積を生じて、貯蔵顆粒(貯蔵小胞とも呼ばれる)の数が増加する。これらの疾患および種々の例は、以下で詳細に記載される。
「ポリペプチド」:本明細書で用いる場合、「ポリペプチド」は、概して、ペプチド結合により互いに結合された少なくとも2つのアミノ酸の紐である。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、その各々が少なくとも1つのペプチド結合により他のものと結合される少なくとも3〜5つのアミノ酸を含み得る。ポリペプチドは、時として、「非天然」アミノ酸、あるいはそれでも任意にポリペプチド鎖に一体化し得る他の実体を包含する、と当業者は理解する。
「補充酵素」:本明細書で用いる場合、「補充酵素」という用語は、処置されるべき疾患において欠乏しているかまたは失われている酵素に少なくとも一部は取って替わるよう作用し得る任意の酵素を指す。いくつかの実施形態では、「補充酵素」という用語は、処置されるべきリソソーム蓄積症において欠乏しているかまたは失われているリソソーム酵素に少なくとも一部は取って替わるよう作用し得る任意の酵素を指す。いくつかの実施形態では、補充酵素は、哺乳動物リソソーム中の蓄積物質を減少し得るし、あるいは1つ以上のリソソーム蓄積症症候を救出するかまたは改善し得る。本発明に適している補充酵素は、野生型または修飾リソソーム酵素の両方を包含し、組換えおよび合成方法を用いて生成し得るし、あるいは天然供給源から精製され得る。補充酵素は、組換え、合成、遺伝子活性化または天然酵素であり得る。
「可溶性の」:本明細書で用いる場合、「可溶性の」という用語は、均質溶液を生成する治療薬の能力を指す。いくつかの実施形態では、それが投与されそれが標的作用部位(例えば、脳の細胞および組織)に輸送される溶液中の治療薬の溶解度は、標的作用部位への治療有効量の治療薬の送達を可能にするのに十分である。いくつかの因子が、治療薬の溶解度に影響を及ぼし得る。例えば、タンパク質溶解度に影響し得る関連因子としては、イオン強度、アミノ酸配列および他の同時可溶化剤または塩(例えば、カルシウム塩)の存在が挙げられる。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、カルシウム塩がこのような組成物から除去されるよう処方される。いくつかの実施形態では、本発明による治療薬は、その対応する薬学的組成物中で可溶性である。非経口投与薬のためには等張溶液が一般的に好ましいが、等張溶液の使用は、いくつかの治療薬、特にいくつかのタンパク質および/または酵素に関する適切な溶解度を制限し得る、と理解される。わずかに高張性の溶液(例えば、5mMリン酸ナトリウム(pH7.0)中に175mMまでの塩化ナトリウム)および糖含有溶液(例えば、5mMリン酸ナトリウム(pH7.0)中に2%までのスクロース)は、サルにおいて良好に耐容されることが実証されている。例えば、最も一般に認可されたCNSボーラス処方物組成物は、生理食塩水(水中150mMのNaCl)である。
「安定性」:本明細書で用いる場合、「安定な」という用語は、長期間にわたってその治療効力(例えば、その意図された生物学的活性および/または物理化学的完全性のすべてまたは大部分)を保持する治療薬(例えば、組換え酵素)の能力を指す。治療薬の安定性、ならびにこのような治療薬の安定性を保持する薬学的組成物の能力は、長期間にわたって査定され得る(例えば、少なくとも1、3、6、12、18、24、30、36ヶ月またはそれ以上)。概して、本明細書に記載される薬学的組成物は、それらが、一緒に処方される1つ以上の治療薬(例えば、組換えタンパク質)を安定化し、あるいはそれらの分解を遅くするかまたは防止し得るよう、処方されている。一処方物の状況では、安定処方物は、貯蔵時、および加工処理(例えば、凍結/解凍、機械的混合および凍結乾燥)中に、その中の治療薬が本質的にその物理的および/または化学的完全性および生物学的活性を保持するものである。タンパク質安定性に関しては、それは、高分子量(HMW)集合体の形成、酵素活性の喪失、ペプチド断片の生成および電荷プロファイルの移動により測定され得る。
「対象」:本明細書で用いる場合、「対象」という用語は、ヒトを含めた任意の哺乳動物を意味する。本発明のある実施形態では、対象は、成人、若者または幼児である。薬学的組成物の投与、および/または子宮内処置方法の実施も、本発明により意図される。
「実質的相同性」:「実質的相同」という語句は、アミノ酸または核酸配列間の比較に言及するために本明細書で用いられる。当業者に理解されるように、2つの配列は、それらが、対応する位置に相同な残基を含有する場合、一般的に「実質的に相同」であるとみなされる。相同残基は、同一残基であり得る。代替的には、相同残基は、ほぼ同様の構造的および/または機能的特徴を有する非同一残基であり得る。例えば、当業者に周知であるように、あるアミノ酸は、典型的には、「疎水性」または「親水性」アミノ酸として分類され、および/または「極性」または「非極性」側鎖を有するとして分類される。一アミノ酸の、別の同一型のアミノ酸への置換は、しばしば、「相同」置換とみなされ得る。
当該技術分野で周知であるように、アミノ酸または核酸配列は、種々のアルゴリズム、例えば市販のコンピュータープログラム、例えばヌクレオチド配列に関するBLASTN、ならびにアミノ酸配列に関するBLASTP、ギャップ化BLASTおよびPSI−BLASTを用いて比較され得る。このようなプログラムの例は、Altschul,ら,Basic local alignment search tool, J.Mol.Biol.,215(3):403−410,1990;Altschul,ら,Methods in Enzymology;Altschul,ら,“Gapped BLAST and PSI−BLAST:a new generation of protein database search programs”,Nucleic Acids Res.25:3389−3402,1997;Baxevanis,ら,Bioinformatics:A Practical Guide to the Analysis of Genes and Proteins,Wiley,1998;およびMisener,ら,(編),Bioinformatics Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology,Vol.132),Humana Press,1999に記載されている。相同配列を同定することのほかに、上記のプログラムは、典型的には、相同性の程度の指示を提供する。いくつかの実施形態では、2つの配列は、それらの対応する残基のうちの少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上が関連残基鎖上で相同である場合、実質的に相同であるとみなされる。いくつかの実施形態では、関連鎖は完全配列である。いくつかの実施形態では、関連鎖は、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500残基またはそれ以上の残基である。
「実質的同一性」:「実質的同一性」という語句は、アミノ酸または核酸配列間の比較に言及するために本明細書で用いられる。当業者に理解されるように、2つの配列は、それらが、対応する位置に同一の残基を含有する場合、一般的に「実質的に同一」であるとみなされる。当該技術分野で周知であるように、アミノ酸または核酸配列は、種々のアルゴリズム、例えば市販のコンピュータープログラム、例えばヌクレオチド配列に関するBLASTN、ならびにアミノ酸配列に関するBLASTP、ギャップ化BLASTおよびPSI−BLASTを用いて比較され得る。このようなプログラムの例は、Altschul,ら,Basic local alignment search tool,J.Mol.Biol.,215(3):403−410,1990;Altschul,ら,Methods in Enzymology;Altschul,ら,Nucleic Acids Res.25:3389−3402,1997;Baxevanis,ら,Bioinformatics:A Practical Guide to the Analysis of Genes and Proteins,Wiley,1998;およびMisener,ら,(編),Bioinformatics Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology,Vol.132),Humana Press, 1999に記載されている。同一配列を同定することのほかに、上記のプログラムは、典型的には、同一性の程度の指示を提供する。いくつかの実施形態では、2つの配列は、それらの対応する残基のうちの少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上が関連残基鎖上で同一である場合、実質的に同一であるとみなされる。いくつかの実施形態では、関連鎖は完全配列である。いくつかの実施形態では、関連鎖は、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500残基またはそれ以上の残基である。
「合成CSF」:本明細書で用いる場合、「合成CSF」という用語は、脳脊髄液と一致するpH、電解質組成、グルコース含量および浸透圧を有する溶液を指す。合成CSFは、人工CSFとも呼ばれる。いくつかの実施形態では、合成CSFはエリオットB溶液である。
「CNS送達に好適な」:本明細書で用いる場合、「CNS送達に好適な」または「くも膜下腔内送達に好適な」という語句は、それが本発明の薬学的組成物に関する場合、一般的に、このような組成物の安定性、耐容性および溶解度特性、ならびに標的送達部位(例えば、CSFまたは脳)にその中に含有される有効量の治療薬を送達するこのような組成物の能力を指す。
「標的組織」:本明細書で用いる場合、「標的組織」は、処置されるべきリソソーム蓄積症により影響を及ぼされる任意の組織、あるいは欠乏リソソーム酵素が正常に発現される任意の組織を指す。いくつかの実施形態では、標的組織は、リソソーム蓄積症に罹患しているかまたは罹患し易い患者において、検出可能な、または以上に高量の酵素基質が存在する、例えば当該組織の細胞リソソーム中に貯蔵される組織を包含する。いくつかの実施形態では、標的組織は、疾患関連病態、症候または特徴を示す組織を包含する。いくつかの実施形態では、標的組織は、欠乏リソソーム酵素が高レベルで正常に発現される組織を包含する。本明細書で用いる場合、標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末梢標的組織であり得る。標的組織の例は、以下で詳細に記載する。
「治療用部分」:本明細書で用いる場合、「治療用部分」という用語は、分子の治療作用を果たす分子の一部分を指す。いくつかの実施形態では、治療的部分は、治療活性を有するポリペプチドである。例えば、本発明による治療用部分は、天然Nagluタンパク質の代わりになることができるポリペプチドであり得る。いくつかの実施形態では、本発明による治療用部分は、Naglu欠損と付随した1以上の表現型をレスキューすることができるポリペプチドであり得る。いくつかの実施形態では、本発明による治療用部分は、サンフィリポ症候群B型患者において、1以上の症状を処置することができる。
「治療有効量」:本明細書で用いる場合、「治療有効量」という用語は、任意の医学的処置に適用可能な合理的利益/危険比で、処置対象に治療効果を付与する治療用タンパク質(例えば、Naglu)の量を指す。治療作用は、客観的(すなわち、何らかの試験またはマーカーにより測定可能)または主観的(すなわち、対象は、作用の指示を与えるかまたは作用を感じる)であり得る。特に、「治療有効量」は、例えば疾患に伴う症候を改善し、疾患の開始を防止するかまたは遅延し、および/または疾患の症候の重症度または頻度を下げることにより、所望の疾患または症状を処置し、改善し、または防止するために、あるいは検出可能な治療的または予防的作用を示すために有効な治療用タンパク質または組成物の量を指す。治療有効量は、一般に、多重単位用量を含み得る用量投与レジメンで投与される。任意の特定治療用タンパク質に関して、治療有効量(および/または有効用量投与レジメン内の適切な単位用量)は、例えば、投与経路、他の薬学的作用物質との組合せによって変わり得る。さらにまた、任意の特定患者に関する具体的治療有効量(および/または単位用量)は、種々の因子、例えば処置されている障害、および障害の重症度;用いられる具体的な薬学的作用物質の活性;用いられる具体的組成物;患者の年齢、体重、全身健康状態、性別および食事;投与時間、投与経路および/または用いられる具体的融合タンパク質の排出または代謝の速度;処置の持続期間;ならびに医療業界で周知であるような同様の因子によって決まる。
「耐容可能な」:本明細書で用いる場合、「耐容可能な」および「耐容性」という用語は、このような組成物が投与される対象において悪反応を引き出さないか、代替的には、このような組成物が投与される対象において重篤な悪反応を引き出さない本発明の薬学的組成物の能力を指す。いくつかの実施形態では、本発明の薬学的組成物は、このような組成物が投与される対象により良好に耐容される。
「処置」:本明細書で用いる場合、「処置」(さらにまた「処置する」または「処置すること」)という用語は、特定の疾患、障害および/または症状(例えば、サンフィリポ症候群B型)の1つ以上の症候または特徴を、部分的にまたは完全に、緩和し、改善し、軽減し、抑制し、その発症を遅延し、その重症度を減少させ、および/またはその発生率を減少させる治療用タンパク質(例えば、リソソーム酵素)の任意の投与を指す。このような処置は、関連疾患、障害および/または症状の徴候を示さない対象の、および/または疾患、障害および/または症状の早期徴候のみを示す対象のものであり得る。代替的にまたは付加的に、このような処置は、関連疾患、障害および/または症状の1つ以上の確立された徴候を示す対象のものであり得る。
特に本発明は、例えば、Naglueタンパク質の髄腔内(IT)投与によるサンフィリポ症候群B型(サンフィリポB)の治療方法および組成物を提供する。好適なNagluタンパク質は、組換えタンパク質、遺伝子活性化タンパク質または天然タンパク質であってもよい。いくつかの実施形態では、好適なNagluタンパク質は、組換えNagluタンパク質である。いくつかの実施形態では、組換えNagluタンパク質は、Nagluドメインおよびリソソーム標的化部分を含んでいる融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、リソソーム標的化ドメインは、IGF−II残基である。
本発明の種々の態様は、以下の節で詳細に記載される。節の記載内容は、本発明を限定するものではない。各説は、本発明の任意の態様に適用し得る。この出願において、「または」は、別記しない限り「および/または」を意味する。
治療用融合タンパク質
本発明によるサンフィリポB疾患の処置のために好適な治療用融合タンパク質は、Nagluドメイン(治療用部分とも呼ばれる)とリソソーム標的化部分とを含み得る。
Nagluドメイン
本発明による好適なNagludメインは、天然起源Naglueのタンパク質活性の代わりになることができる、またはNaglue欠損と付随した1以上の表現型もしくは症状をレスキュー救うことができるいずれの分子または分子の一部であり得る。いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用部分は、N末端とC末端とを有するポリペプチドおよび成熟ヒトNagluタンパク質に実質的に類似のまたは同一のアミノ酸配列である。
典型的には、ヒトNagluは、成熟型にプロセシングされる前駆体分子として生成される。このプロセスは、該タンパク質が小胞体に入ると、23個のアミノ酸シグナルペプチドを取り除くことによって生じる。典型的には、該前駆体型は、743個のアミノ酸を含む全長前駆体または全長Nagluタンパク質とも呼ばれる。前駆体タンパク質が小胞体に入ると、N末端の23個のアミノ酸が切断され、成熟型になる。このように、N末端の23個のアミノ酸は、通常、Nagluタンパク質活性に必要とされないと、考えられる。成熟型(配列番号1)のアミノ酸配列および典型的な野生型または天然起源ヒドNagluタンパク質の全長前駆体(配列番号2)を表1に示す。
このように、いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用部分は、成熟ヒトNagluタンパク質(配列番号1)である。いくつかの実施形態では、好適な治療用部分は、成熟ヒトNagluタンパク質の相同体または類似体であってもよい。例えば、成熟ヒトNagluタンパク質の相同体または類似体は、野生型または天然起源のNagluタンパク質(例えば、配列番号1)と比較して、1以上のアミノ酸置換、欠失および/または挿入を含むが、実質的なNagluタンパク質活性を保持している、修飾型成熟ヒトNagluタンパク質であり得る。このように、いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用部分は、成熟ヒトNagluタンパク質(配列番号1)と実質的に相同である。いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用部分は、配列番号1と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%以上相同のアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用部分は、成熟ヒトNagluタンパク質(配列番号1)と実質的に同一である。いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用部分は、配列番号1と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%以上同一のアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用部分は、成熟ヒトNagluタンパク質の断片または一部を含む。
あるいは、本発明に好適な治療用部分は、全長Nagluタンパク質である。いくつかの実施形態では、好適な治療用部分は、全長ヒトNagluタンパク質の相同体または類似体であり得る。例えば、全長ヒトNagluタンパク質の相同体または類似体は、野生型または天然起源の全長Nagluタンパク質(例えば、配列番号2)と比較して、1以上のアミノ酸置換、欠失および/または挿入を含むが、実質的なNagluタンパク質活性を保持している、修飾型全長ヒトNagluタンパク質であり得る。このように、いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用部分は、全長ヒトNagluタンパク質(配列番号2)と実質的に相同である。いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用部分は、配列番号2と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%以上相同のアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用部分は、配列番号2と実質的に同一である。いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用部分は、配列番号2と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%以上同一のアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用部分は、全長ヒトNagluタンパク質の断片または一部を含む。本明細書で用いる場合、全長Nagluタンパク質は、典型的にはシグナルペプチド配列を含む。
いくつかの実施形態では、治療用タンパク質は、標的化部分(例えば、リソソーム標的化配列)および/または膜透過ペプチドを含む。いくつかの実施形態では、標的化配列および/または膜透過ペプチドは、治療用部分の内在部分(例えば、化学結合を介して、融合タンパク質を介して)である。いくつかの実施形態では、標的化配列は、マンノース−6−リン酸残基を含む。いくつかの実施形態では、標的化配列は、IGF−I残基を含む。いくつかの実施形態では、標的化配列は、IGF−II残基を含む。
リソソーム標的化ドメイン
いくつかの実施形態では、治療用ドメイン(すなわち、Nagluドメイン)は、リソソーム標的化を容易にするために修飾される。例えば、好適なNagluドメインは、マンノース−6−リン酸非依存性的様式でリソソームへのNagluドメインを標的とし得るリソソーム標的化部分に融合し得る。好適なリソソーム標的化ドメインは、IGF−II、IGF−I、Kif、ApoE、TAT、RAPおよびp97ペプチドを含むペプチド類由来であってもよいが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、リソソーム標的化部分は、IGF−II受容体とも呼ばれるCI−MPRを、マンノース−6−リン酸非依存的様式で結合するタンパク質、ペプチドまたは他の残基である。
いくつかの実施形態では、リソソーム標的化部分は、ヒトインスリン様増殖因子II(IGF−II)に由来する。いくつかの実施形態では、GILTタグは、野生型または天然起源の成熟ヒトIGF−II(配列番号3)である。
成熟ヒトIGF−II(配列番号3)
AYRPSETLCGGELVDTLQFVCGDRGFYFSRPASRVSRRSRGIVEECCFRSCDLALLETYCATPAKSE
いくつかの実施形態では、リソソーム標的化部分は、アミノ酸置換、挿入または欠失を含んでいる修飾型成熟ヒトIGF−IIである。いくつかの実施形態では、GILTタグは、成熟ヒトIGF−II(配列番号3)の配列と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%同一の配列を有する。いくつかの実施形態では、リソソーム標的化部分は、成熟ヒトIGF−IIの断片である。特定の実施形態では、リソソーム標的化部分は、成熟ヒトIGF−II(配列番号3)の8〜67個のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、リソソーム標的化部分は、N末端欠失、C末端欠失または内部欠失を含む。例えば、リソソーム標的化部分は、成熟ヒトIGF−II(配列番号3)のN末端(例えば、fc.2〜7)にアミノ酸の欠失を含む。いくつかの実施形態では、リソソーム標的化部分は、天然起源のヒトIGF−IIと比較して、IGF−I受容体などの他の受容体への結合親和性が減少した修飾型ヒトIGF−IIペプチドである。
種々のさらなるリソソーム標的化部分は、当技術分野で知られており、且つ本発明を実施するのに用いられることができる。例えば、特定のペプチドベースのリソソーム標的化部分は、米国特許第7,396,811号、同第7,560,424号および同第7,629,309号;米国出願公開番号2003−0082176号、同2004−0006008号、同2003−0072761号、同20040005309号、同2005−0281805号、同2005−0244400号、および国際公開第WO03/032913号、同第WO03/032727号、同第WO02/087510号、同第WO03/102583号、同第WO2005/078077号、同第WO2009/137721号に記載されており、それらの開示全体を参照によって本明細書に組み込む。
リンカーまたはスペーサー
リソソーム標的化部分は、リソソーム酵素をコードするポリペプチドのN末端もしくはC末端に融合する、または内部に挿入されることができる。リソソーム標的化部分は、リソソーム酵素ポリペプチドに直接融合することができる、またはリンカーもしくはスペーサーによってリソソーム酵素ポリペプチドから分離されることができる。アミノ酸リンカーまたはスペーサーは、通常、可動性であるように、または2つのタンパク質残基の間のα−ヘリックスなどの構造を挿入するように設計される。リンカーまたはスペーサーは、配列GGGGGAAAAGGGG(配列番号4)、GAP(配列番号5)、GGGGGP(配列番号6)などのように比較的短いこともあり得、または例えば、10〜50個(例えば、10〜20個、10〜25個、10〜30個、10〜35個、10〜40個、10〜45個、10〜50個)などの長いアミノ酸長でもあり得る。いくつかの実施形態では、種々の短いリンカー配列は、タンデム反復で存在し得る。例えば、好適なリンカーは、タンデム反復で存在するGGGGGAAAAGGGG(配列番号4)のアミノ酸配列を含み得る。いくつかの実施形態では、そのようなリンカーは、GGGGGAAAAGGGG(配列番号4)の配列を構成する1以上のGAP配列をさらに含み得る。例えば、好適なリンカーは、GAPGGGGGAAAAGGGGGAPGGGGGAAAAGGGGGAPGGGGGAAAAGGGGGAP(配列番号5)のアミノ酸配列を含み得る。
いくつかの実施形態では、好適なリンカーまたはスペーサーは、配列番号5の配列と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%同一の配列を有し得る。
いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用タンパク質は、M6P残基を含み得る。いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用タンパク質は、
CI−MPRに対してより高い結合親和性を有するビスリン酸化オリゴ糖を含有し得る。いくつかの実施形態では、好適な酵素は、酵素あたりおよそ少なくとも20%のビスリン酸化オリゴ糖のほぼ平均まで含有する。他の実施形態では、好適な酵素は、酵素あたり約10%、15%、18%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%のビスリン酸化オリゴ糖を含有し得る。このようなビスリン酸化オリゴ糖は酵素上に天然に存在し得るが、酵素はこのようなオリゴ糖を保有するよう修飾され得る、ということに留意すべきである。例えば、好適な補充酵素は、UDP−GlcNAcからリソソーム酵素上のα−1,2−連結マンノースの6’位置へのN−アセチルグルコサミン−L−リン酸の移動を触媒し得るある種の酵素により修飾され得る。このような酵素を産生し、使用するための方法および組成物は、例えば、Canfieldらによる米国特許第6,537,785号および米国特許第6,534,300号(これらの記載内容を各々参照により本明細書に組み込む)に記載されている。
いくつかの実施形態では、本発明に好適な治療用タンパク質は、グリコシル化が不十分である。本明細書で用いる場合、「グリコシル化が不十分」とは、その内部で、天然起源の酵素上に通常存在する1以上の糖鎖構造(例えば、M6P残基)が、除外、除去、修飾または遮蔽されているタンパク質または酵素を指す。グリコシル化が不十分なリソソーム酵素は、従来の哺乳類細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞)がグリコシル化するようにはタンパク質をグリコシル化しない宿主(例えば、細菌または酵母菌)内で産生され得る。例えば、宿主細胞によって産生されるタンパク質は、マンノース受容体によって認識される、または完全に非グリコシル化され得る末端マンノース、フコースおよび/またはN−アセチルグルコサミン残基が欠けていることもある。いくつかの実施形態では、グリコシル化が不十分なリソソーム酵素は、哺乳類細胞または他の宿主内で産生され得るが、1以上の糖鎖残基(例えば、1以上のM6残基)を除去するため、または1以上の糖鎖残基を修飾もしくは遮蔽するために、化学処理または酵素処理され得る。そのような化学処理または酵素処理された酵素は、脱グリコシル化リソソーム酵素とも呼ばれる。いくつかの実施形態では、タンパク質をグリコシル化する哺乳類細胞または他の細胞内で合成される場合、1以上の潜在的なグリコシル化部位は、リソソーム酵素をコードする核酸の変異によって除去され、それによって酵素のグリコシル化を減少させる。いくつかの実施形態では、酵素のグリコシル化のレベルが減少するおよび/または修飾されるように、リソソーム酵素は、分泌シグナルペプチド(例えば、IGF−IIシグナルペプチド)を用いて産生され得る。グリコシル化が不十分なリソソソーム酵素または脱グリコシル化リソソーム酵素の例は、米国特許第7,629,309号および米国出願公開番号20090041741号と同20040248262号に記載されており、それらすべての解除位を参照によって本明細書に組み込む。
タンパク質の産生
本発明に好適な治療用タンパク質は、例えば、ヒト胎児由来腎臓(HEK)293細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、サル腎臓(COS)由来細胞、HT1080細胞、C10細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、3T3細胞、C127細胞、CV−1細胞、HaK細胞、NS/O細胞およびL−929細胞などの細胞培養しやすい、およびポリペプチドを発現しやすい、いずれの哺乳類細胞または細胞型内で産生され得る。具体的な非限定例としては、BALB/cマウス骨髄腫細胞系(NSO/l、ECACC番号85110503);ヒト網膜芽細胞(PER.C6(CruCell,Leiden,The Netherlands));SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1細胞系(COS−7,ATCC CRL1651);ヒト胎児由来腎臓細胞系(293細胞または浮遊培養で増殖用にサブクローニングされた293細胞、Grahamら,J.Gen Virol.,36:59(1977));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10);チャイニーズハムスター卵巣細胞+/−DHFR(CHO,Urlaub and Chasin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:421(1980); マウスセルトリ細胞(TM4,Mather,Biol.Reprod.,23:243−251(1980));サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76,ATCC CRL−1587);ヒト子宮頸癌細胞(HeLa、ATCC CCL2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL34);Buffaloラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB8065);マウス乳房腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら,Annals N.Y.Acad.Sci.,383:44−68(1982));MRC 5細胞;FS4細胞;およびヒト細胞腫細胞株(Hep G2)。いくつかの実施形態では、酵素は、CHO細胞内で産生される。いくつかの実施形態では、酵素は、エンドソームの酸性化欠損細胞系(例えば、END3相補群由来のCHO−K1)などのCHO由来細胞内で産生される。
酵素は、例えば、昆虫(例えば、Sf−9、Sf−21、Hi5)植物(例えば、マメ科、穀類またはタバコ)、酵母(例えば、出芽酵母(S. cerivisae)、ピキア・パストリス(P.pastoris)、原核生物(例えば、大腸菌(E.coli)、枯草菌(B.subtilis)および他の桿菌属(Bacillus spp.、シュードモナス属(Pseudomonas spp.)、ストレプトマイセス属(Streptomyces spp.)または真菌などの種々の非哺乳類宿主細胞内でも発現し得る。
別の実施形態では、トランスジェニック非ヒト哺乳類は、それらの乳内でリソソーム酵素を産生することが示された。そのようなトランスジェニック非ヒト哺乳類は、マウス、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタまたはウシを含み得る。米国特許第6,118,045号および同第7,351,410号を参照されたい。各々を、それら全体を参照によって本明細書に組み込む。
くも膜下腔内送達
本発明による、Nagluドメインを含む治療用タンパク質、すなわち補充酵素は、CNSに送達される。CNS送達のために、これらに限定されるものではないが、実質内投与、側脳室内(ICV)投与、髄腔内(例えば、IT−腰椎内、IT−大槽)投与、ならびにCNSおよび/またはCSFへの直接的または間接的な注射のための他の技術と経路を含む種々の技術および経路が用いられる。
いくつかの実施形態では、治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に投与することにより、補充酵素はCNSに送達される。いくつかの実施形態では、くも膜下腔内投与は、CSF中への所望の補充酵素を送達するために用いられる。本明細書で用いる場合、くも膜下腔内投与(くも膜下腔内注射とも呼ばれる)は、脊柱管(脊髄周囲のくも膜下腔内空隙)への注射を指す。種々の技法、例えば穿頭孔あるいは槽または腰椎穿刺等を通した外側脳室注射が用いられ得るが、これらに限定されない。代表的方法は、Lazorthesら,Advances in Drug Delivery Systems and Applications in Neurosurgery,143−192およびOmayaら,Cancer Drug Delivery,1:169−179(これらの記載内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
本発明によれば、酵素は、脊柱管周囲の任意の領域で注射され得る。いくつかの実施形態では、酵素は、腰椎域または大槽中に注射されるか、あるいは脳室空隙中に脳室内注射される。本明細書で用いる場合、「腰部領域」または「腰椎区域」という用語は、第三および第四腰椎(下方背部)間の区域、さらに包括的には、脊椎のL2〜S1領域を指す。典型的には、腰部領域または腰椎区域を介したくも膜下腔内注射は、「腰椎IT送達」または「腰椎IT投与」としても言及される。「大槽」という用語は、頭蓋骨と脊椎の上部との間の開口部を介した小脳の周囲および下の空隙を指す。典型的には、大槽を介したくも膜下腔内注射は、「大槽送達」とも呼ばれる。「脳室」という用語は、脊髄の中央管と連続している脳中の空洞を指す。典型的には、脳室腔を介した注射は、脳室内大脳(ICV)送達と呼ばれる。
いくつかの実施形態では、本発明による「くも膜下腔内投与」または「くも膜下腔内送達」は、例えば、第三および第四腰椎(下方背部)間の区域、さらに包括的には、脊椎のL2〜S1領域の間に送達される腰椎IT投与または送達を指す。腰椎IT投与または送達は、本発明による腰椎IT投与または送達が遠位脊柱管へのより良好な且つより有効な送達を提供するという点で大槽送達を上回って区別されるが、一方、大槽送達は、特に、典型的には遠位脊柱管に良好に送達しない、ということが意図される。
IT送達のための安定な処方物
いくつかの実施形態では、所望の酵素は、くも膜下腔内送達のために安定処方物中で送達される。本発明のある実施形態は、少なくとも一部は、本明細書に開示される種々の処方物が、CNSの標的化組織、細胞および/または細胞小器官への1つ以上の治療薬(例えば、酵素)の有効な送達および分布を促す、という発見に基づいている。特に、本明細書に記載される処方物は、高濃度の治療薬(例えば、タンパク質または酵素)を可溶化し得るし、CNS構成成分および/または病因を有する疾患の処置のために対象のCNSにこのような治療薬を送達するのに適している。本明細書に記載される組成物は、それを必要とする対象のCNSに(例えばくも膜下腔内に)投与される場合、安定性改善および耐容性改善によりさらに特性化される。
本発明の前に、伝統的非緩衝化等張生理食塩水およびエリオットのB溶液(人工CSF)が、典型的にはくも膜下腔内送達のために用いられた。エリオットのB溶液に対するCSFの組成を表す比較は、以下の表2に含まれている。表2に示されているように、エリオットB溶液の濃度は、CSFの濃度と密接に類似している。しかしながら、エリオットのB溶液は、極度に低い緩衝剤濃度を含有し、したがって、特に長期間にわたって(例えば、貯蔵状態の間)、治療薬(例えばタンパク質)を安定化するために必要とされる適切な緩衝能力を提供し得ない。さらに、エリオットのB溶液は、いくつかの治療薬、特にタンパク質または酵素を送達するよう意図された処方物と非相溶性であり得るある種の塩を含有する。例えば、エリオットのB溶液中に存在するカルシウム塩は、タンパク質沈降を媒介し、それにより処方物の安定性を減少させ得る。
したがって、いくつかの実施形態では、本発明によるくも膜下腔内送達に適した処方物は、合成または人工CSFではない。
いくつかの実施形態では、くも膜下腔内送達のための処方物は、それらが、それとともに処方される1つ以上の治療薬(例えば、組換えタンパク質)を安定化し、あるいはその分解を遅くするかまたは防止し得るよう、処方されている。本明細書で用いる場合、「安定な」という用語は、長期間にわたってその治療効力(例えば、その意図された生物学的活性および/または物理化学的完全性のうちのすべてまたは大多数)を保持する治療薬(例えば、組換え酵素)の能力を指す。治療薬の安定性、ならびにこのような治療薬の安定性を保持する薬学的組成物の能力は、長期間(例えば、好ましくは少なくとも1、3、6、12、18、24、30、36ヶ月またはそれ以上)にわたって査定され得る。処方物の状況では、安定処方物は、貯蔵時および加工処理(例えば、凍結/解凍、機械的混合および凍結乾燥)の間、その中の治療薬が本質的にはその物理的および/または化学的完全性ならびに生物学的活性を保持するものである。タンパク質安定性に関しては、それは、高分子量(HMW)集合体の形成、酵素活性の損失、ペプチド断片の生成、および電荷プロフィールの移動により測定され得る。
治療薬の安定性は、特別な重要性を有する。治療薬の安定性は、長期間にわたる治療薬の生物学的活性または物理化学的完全性に関してさらに査定され得る。例えば、所定の時点での安定性は、早期時点(例えば、処方0日目)での安定性に対して、あるいは非処方治療薬に対して比較され得る。この比較の結果は、パーセンテージとして表される。好ましくは、本発明の薬学的組成物は、長期間にわたって(例えば、室温で、または加速貯蔵条件下で、少なくとも6〜12ヶ月間にわたって測定)、治療薬の生物学的活性または物理化学的完全性の少なくとも100%、少なくとも99%、少なくとも98%、少なくとも97%、少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも65%、少なくとも60%、少なくとも55%または少なくとも50%を保持する。
いくつかの実施形態では、治療薬(例えば、所望の酵素)は、本発明の処方物中で可溶性である。「可溶性の」という用語は、均質溶液を生成するこのような治療薬の能力を指す。好ましくは、それが投与されそれが標的作用部位(例えば、脳の細胞および組織)に輸送される溶液中の治療薬の溶解度は、標的作用部位への治療有効量の治療薬の送達を可能にするのに十分である。いくつかの因子が、治療薬の溶解度に影響を及ぼし得る。例えば、タンパク質溶解度に影響し得る関連因子としては、イオン強度、アミノ酸配列および他の同時可溶化剤または塩(例えば、カルシウム塩)の存在が挙げられる。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、カルシウム塩がこのような組成物から除去されるよう処方される。
したがって、くも膜下腔内投与に適した処方物は、種々の濃度で当該治療薬(例えば、酵素)を含有し得る。いくつかの実施形態では、適切な処方物は、約300mg/mlまで(例えば、約250mg/mlまで、200mg/mlまで、150mg/mlまで、100mg/mlまで、90mg/mlまで、80mg/mlまで、70mg/mlまで、60mg/mlまで、50mg/mlまで、40mg/mlまで、30mg/mlまで、25mg/mlまで、20mg/mlまで、10mg/mlまで)の濃度で当該タンパク質または酵素を含有し得る。いくつかの実施形態では、適切な処方物は、約0〜300mg/ml(例えば、約1〜250mg/ml、約1〜200mg/ml、約1〜150mg/ml、約1〜100mg/ml、約10〜100mg/ml、約10〜80mg/ml、約10〜70mg/ml、約1〜60mg/ml、約1〜50mg/ml、約10〜150mg/ml、約1〜30mg/ml)の間の範囲の濃度で当該タンパク質または酵素を含有し得る。いくつかの実施形態では、くも膜下腔内送達に適した処方物は、およそ1mg/ml、3mg/ml、5mg/ml、10mg/ml、15mg/ml、20mg/ml、25mg/ml、50mg/ml、75mg/ml、100mg/ml、150mg/ml、200mg/ml、250mg/mlまたは300mg/mlの濃度で、当該タンパク質を含有し得る。
いくつかの実施形態では、等張溶液が用いられる。いくつかの実施形態では、わずかに高張性の溶液(例えば、5mMリン酸ナトリウム(pH7.0)中に、300mMまで(例えば、250mMまで、200mM、175mM、150mM、125mMまで)の塩化ナトリウム)および糖含有溶液(例えば、5mMリン酸ナトリウム(pH7.0)中に3%まで(例えば、2.4%、2.0%、1.5%、1.0%まで)のスクロース)は、サルにおいて良好に耐容されることが実証されている。いくつかの実施形態では、適切なCNSボーラス処方物組成物は、生理食塩水(水中150mMのNaCl)である。
多数の治療薬、特に本発明のタンパク質および酵素は、本発明の薬学的組成物中でそれらの溶解性および安定性を保持するために、制御されたpHおよび特定の賦形剤を要する。以下の表3は、本発明のタンパク質治療薬の溶解性および安定性を保持するために重要であるとみなされるタンパク質処方物のある代表的態様を確認するのに役立つ。
薬学的組成物のpHは、水性薬学的組成物中の治療薬(例えば、酵素またはタンパク質)の溶解度を変更し得る付加的因子である。いくつかの実施形態では、本発明の薬学的組成物は、1つ以上の緩衝剤を含有する。いくつかの実施形態では、本発明による組成物は、約4.0〜8.0、約5.0〜7.5、約5.5〜7.0、約6.0〜7.0および約6.0〜7.5の間の上記組成物の最適pHを保持するのに十分な量の緩衝剤を含有する。他の実施形態では、緩衝液は、約50mMまで(例えば、約45mM、40mM、35mM、30mM、25mM、20mM、15mM、10mM、5mMまで)のリン酸ナトリウムを含む。適切な緩衝剤としては、例えば酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、他の有機酸およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(“トリス”)が挙げられる。適切な緩衝剤の濃度は、例えば、緩衝剤および処方物の所望の等張性によって、約1mMから約100mMまで、または約3mMから約20mMまでであり得る。いくつかの実施形態では、適切な緩衝剤は、約1mM、5mM、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、55mM、60mM、65mM、70mM、75mM、80mM、85mM、90mM、95mMまたは100mMの濃度で存在する。
いくつかの実施形態では、処方物は、処方物を等張に保つために等張剤を含有する。IT送達と結びつけて用いられる場合、「等張の」とは、当該処方物が本質的にはヒトCSFと同じ等張性を有することを意味する。等張処方物は、一般的に、約240mOsm/kg〜約350mOsm/kgの浸透圧を有する。等張度は、例えば、蒸気圧または凝固点型浸透圧計を用いて測定され得る。代表的等張剤としては、グリシン、ソルビトール、マンニトール、塩化ナトリウムおよびアルギニンが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、適切な等張剤は、約0.01〜5重量%(例えば、0.05、0.1、0.15、0.2、0.3、0.4、0.5、0.75、1.0、1.25、1.5、2.0、2.5、3.0、4.0または5.0重量%)の濃度で、処方物中に存在し得る。
いくつかの実施形態では、処方物は、タンパク質を保護するために安定化剤を含有し得る。典型的には、適切な安定化剤は、非還元糖、例えばスクロース、ラフィノース、トレハロース、またはアミノ酸、例えばグリシン、アルギニンおよびメチオニンである。処方物中の安定化財の量は、一般的に、処方物が等張であるような量である。しかしながら、高張処方物も適切であり得る。さらに、安定化剤の量は、治療薬の許容不可能な量の分解/凝集が起きるほど低すぎてはならない。処方物中の安定化剤の濃度の例は、約1mM〜約400mM(例えば、約30mM〜約300mM、および約50mM〜約100mM)、あるいは0.1〜15重量%(例えば、1〜10重量%、5〜15重量%、5〜10重量%)の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、安定化剤と治療薬の質量比は、約1:1である。他の実施形態では、安定化剤と治療薬の質量比は、約0.1:1、0.2:1、0.25:1、0.4:1、0.5:1、1:1、2:1、2.6:1、3:1、4:1、5:1、10;1、or 20:1であり得る。凍結乾燥に適切であるいくつかの実施形態では、安定化剤はリオプロテクタントでもある。
本発明の薬学的組成物、処方物および関連方法は、対象のCNSに種々の治療薬を(例えば、くも膜下腔内、脳室内または槽内に)送達するために、ならびに関連疾患の処置のために有用である。本発明の薬学的組成物は、リソソーム蓄積症に罹患している対象にタンパク質および酵素を送達するために特に有用である。
いくつかの実施形態では、処方物に界面活性剤を付加することが望ましい。界面活性剤の例としては、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20または80);ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188);トリトン;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);ラウリル硫酸ナトリウム;ナトリウムオクチルグリコシド;ラウリル−、ミリスチル−、リノレイル−またはステアリル−スルホベタイン;ラウリル−、ミリスチル−、リノレイル−またはステアリル−サルコシン;リノレイル−、ミリスチル−またはセチル−ベタイン;ラウロアミドプロピル−、コカミドプロピル−、リノレアミドプロピル−、ミリスタミドプロピル−、パルミドプロピル−またはイソステアラミドプロピル−ベタイン(例えば、ラウロアミドプロピル);ミリスタルニドプロピル−、パルミドプロピル−またはイソステアラミドプロピル−ジメチルアミン;ナトリウムメチルココイル−または二ナトリウムメチルオフェイル−タウレート;およびMONAQUAT(商標)シリーズ(Mona Industries,Inc.,Paterson,N.J.)、ポリエチルグリコール、ポリプロピルグリコール、ならびにエチレンおよびプロピレングリコールのコポリマー(例えば、プルロニック、PF68等)が挙げられる。典型的には、付加される界面活性剤の量は、それがタンパク質の凝集を減少させ、粒子の形成または泡立ちを最小限にするような量である。例えば、界面活性剤は、約0.001〜0.5%(例えば、約0.005〜0.05%または0.005〜0.01%)の濃度で処方物中に存在し得る。特に、界面活性剤は、約0.005%、0.01%、0.02%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%または0.5%等の濃度で処方物中に存在し得る。
いくつかの実施形態では、適切な処方物は、特に凍結乾燥処方物のために、1つ以上のバルク剤をさらに含み得る。「バルク剤」は、凍結乾燥混合物に質量を付加し、凍結乾燥ケークの物理的構造に寄与する。例えばバルク剤は、凍結乾燥ケークの外観を改良し得る(例えば、本質的に均一な凍結乾燥ケーク)。適切なバルク剤の例としては、塩化ナトリウム、ラクトース、マンニトール、グリシン、スクロース、トレハロース、ヒドロキシエチルデンプンが挙げられるが、これらに限定されない。バルク剤の濃度の例は、約1%〜約10%(例えば、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、4.5%、5.0%、5.5%、6.0%、6.5%、7.0%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%および10.0%)である。
本発明による処方物は、品質分析、再構成時間(凍結乾燥された場合)、再構成の質(凍結乾燥された場合)、高分子量、水分およびガラス転移温度に基づいて査定され得る。典型的には、タンパク質の質および生成物分析は、例えば、サイズ排除HPLC(SE−HPLC)、陽イオン交換−HPLC(CEX−HPLC)、X線回析(XRD)、変調型示差走査熱量測定(mDSC)、逆相HPLC(RP−HPLC)、多角度光散乱(MALS)、蛍光、紫外線吸収、ネフェロメトリー、毛細管電気泳動(CE)、SDS−PAGEおよびその組合せ(これらに限定されない)を含めた方法を用いる生成物分解率分析を包含する。いくつかの実施形態では、本発明による生成物の評価は、外観(液体またはケーク外観)を評価するステップを包含する。
一般的に、処方物(凍結乾燥化または水性)は、室温で長期間保存され得る。貯蔵温度は、典型的には、0℃〜45℃(例えば、4℃、20℃、25℃、45℃等)の範囲であり得る。処方物は、吸うかげる〜数年の間貯蔵され得る。貯蔵時間は、一般的に、24ヶ月、12ヶ月、6ヶ月、4.5ヶ月、3ヶ月、2ヶ月または1ヶ月である。処方物は、投与のために用いられる容器中に直接貯蔵されて、移送ステップを排除し得る。
処方物は、凍結乾燥容器(凍結乾燥される場合)中に直接貯蔵され得るが、これは、再構成容器としても機能して、移送ステップを排除し得る。代替的には、凍結乾燥物質処方物は、貯蔵のためにより小さい増分で測定され得る。貯蔵は、一般的に、タンパク質の分解を生じさせる環境、例えば日光、紫外線他の形態の電磁放射線、過剰な熱または寒冷、休息名熱ショック、ならびに機械的衝撃への曝露(これらに限定されない)を避けるべきである。
いくつかの実施形態では、本発明による処方物は、液体または水性形態である。いくつかの実施形態では、本発明の処方物は凍結乾燥される。このような凍結乾燥処方物は、対象への投与の前に、それに1つ以上の希釈剤を付加することにより、再構成され得る。適切な希釈剤としては、滅菌水、注射用静菌性水および滅菌生理食塩溶液が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、再構成時、そこに含有される治療薬は安定で、可溶性であり、そして対象への投与時に耐容性を実証する。
本発明の薬学的組成物は、それらの耐容性により特性化される。本明細書で用いる場合、「耐容可能な」および「耐容性」という用語は、このような組成物が投与される対象において悪反応を引き出さないか、代替的には、このような組成物が投与される対象において重篤な悪反応を引き出さない本発明の薬学的組成物の能力を指す。いくつかの実施形態では、本発明の薬学的組成物は、このような組成物が投与される対象により良好に耐容される。
くも膜下腔内送達のための装置
本発明によるくも膜下腔内送達のために、種々の装置が用いられ得る。いくつかの実施形態では、くも膜下腔内投与のための装置は、流体アクセスポート(例えば注射用口);流体アクセスポートと流体連絡する第一流出口、および脊髄中への挿入のために設計された第二流出口;ならびに脊髄における中空体の挿入を固定するための固定機構を含有する。図42に示した非限定例として、適切な固定機構は、中空体の表面に載せられる1つ以上のノブ、および1つ以上のノブを覆って、中空体が脊髄から滑り落ちないようにする調整可能な縫合リングを含有する。種々の実施形態では、流体アクセスポートはレザバーを含む。いくつかの実施形態では、流体アクセスポートは、機械的ポンプ(例えば、注入ポンプ)を含む。いくつかの実施形態では、埋込みカテーテルは、レザバー(例えば、ボーラス送達のため)または注入ポンプと連結される。流体アクセスポートは、埋め込まれるかまたは外側に存在し得る。
いくつかの実施形態では、くも膜下腔内投与は、腰椎穿刺(すなわち、緩徐ボーラス投与)により、またはポート・カテーテル送達系(すなわち注入またはボーラス投与)を介して実施され得る。いくつかの実施形態では、カテーテルは腰椎の弓板間に挿入され、尖端は、包膜空隙に所望のレベル(一般的にL3〜L4)に装填される(図43A〜C)。
静脈内投与に比して、くも膜下腔内投与に適した単回用量投与容積は典型的に小さい。典型的には、本発明によるくも膜下腔内送達は、CSFの組成の平衡、ならびに対象の頭蓋内圧を保持する。いくつかの実施形態では、くも膜下腔内送達は、対象からのCSFの対応する除去がない時に実施される。いくつかの実施形態では、適切な単回用量投与容積は、例えば約10ml、8ml、6ml、5ml、4ml、3ml、2ml、1.5ml、1mlまたは0.5ml未満であり得る。いくつかの実施形態では、適切な単回用量投与容積は、約0.5〜5ml、0.5〜4ml、0.5〜3ml、0.5〜2ml、0.5〜1ml、1〜3ml、1〜5ml、1.5〜3ml、1〜4mlまたは0.5〜1.5mlであり得る。いくつかの実施形態では、本発明によるくも膜下腔内送達は、所望量のCSFを除去するステップを最初に包含する。いくつかの実施形態では、約10ml未満(例えば、約9ml、8ml、7ml、6ml、5ml、4ml、3ml、2ml、1ml未満)のCSFが先ず除去された後、IT投与がなされる。それらの場合、適切な単回用量投与容積は、例えば約3ml、4ml、5ml、6ml、7ml、8ml、9ml、10ml、15mlまたは20mlより大きい。
治療用組成物のくも膜下腔内投与を実行するために、種々の他の装置が用いられ得る。例えば、所望の酵素を含有する処方物は、髄膜癌腫症のための薬剤をくも膜下腔内投与するために一般に用いられるオンマヤ(Ommaya)レザバーを用いて投与され得る(Lancet 2:983−84,1963)。さらに具体的には、この方法では、脳室チューブは前角中に形成される穴を通して挿入され、頭皮下に設置されるオンマヤレザバーに連結され、レザバーは皮下穿刺されて、レザバー中に注入される補充されるべき特定酵素をくも膜下腔内送達する。個体への治療用組成物または処方物のくも膜下腔内投与のための他の装置は、米国特許第6,217,552号(この記載内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。代替的には、薬剤は、例えば単回注射または連続注入により、くも膜下腔内投与され得る。投薬処置は、単回用量投与または多数回用量投与の一形態であり得る、と理解されるべきである。
注射のためには、本発明の処方物は、液体溶液中に処方され得る。さらに、酵素は固体形態で処方され、使用直前に再溶解または懸濁され得る。凍結乾燥形態も包含される。注射は、例えば、酵素のボーラス注射または連続注入(例えば、注入ポンプを用いる)の形態であり得る。
本発明の一実施形態では、酵素は、対象の脳への外側脳室注射により投与される。注射は、例えば、対象の頭蓋骨に作られる穿頭孔を通してなされ得る。別の実施形態では、酵素および/または他の薬学的処方物は、対象の脳室中に外科的に挿入されるシャントを通して投与される。例えば、注射は、より大きい外側脳室中になされ得る。いくつかの実施形態では、より小さい第三および第四脳室への注射もなされ得る。
さらに別の実施形態では、本発明に用いられる薬学的組成物は、対象の大槽または腰椎区域への注射により投与される。
本発明の方法の別の実施形態では製薬上許容可能な処方物は、製薬上許容可能な処方物が対象に投与された後、少なくとも1、2、3、4週間またはそれ以上の間、対象に、本発明で用いられる酵素または他の薬学的組成物の持続性送達、例えば「緩徐放出」を提供する。
本明細書で用いる場合、「持続性送達」という用語は、投与後、長期間にわたって、好ましくは少なくとも数日間、1週間または数週間、in vivoで本発明の薬学的処方物を連続送達することを指す。組成物の持続性送達は、例えば、長時間にわたる酵素の連続治療効果により実証され得る(例えば、酵素の持続性送達は、対象における貯蔵顆粒の量の連続的低減により実証され得る)。代替的には、酵素の持続性送達は、長時間にわたるin vivoでの酵素の存在を検出することにより実証され得る。
標的組織への送達
上記のように、本発明の意外な且つ重要な特徴の1つは、本発明の方法を用いて投与される治療薬、特に補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)、ならびに本発明の組成物は、脳表面全体に効果的に且つ広範囲に拡散し、脳の種々の層または領域、例えば深部脳領域に浸透し得る、という点である。さらに、本発明の方法および本発明の組成物は、現存するCNS送達方法、例えばICV注射では標的化するのが困難である脊髄の出の組織、ニューロンまたは細胞、例えば腰部領域に補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)を効果的に送達する。さらに、本発明の方法および組成物は、血流ならびに種々の末梢器官および組織への十分量の補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)を送達する。
したがって、いくつかの実施形態では、補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、対象の中枢神経系に送達される。いくつかの実施形態では、補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、脳、脊髄および/または末梢期間の標的組織の1つ以上に送達される。本明細書で用いる場合、「標的組織」という用語は、処置されるべきリソソーム蓄積症により影響を及ぼされる任意の組織、あるいは欠損リソソーム酵素が正常では発現される任意の組織を指す。いくつかの実施形態では、標的組織としては、リソソーム蓄積症に罹患しているかまたは罹り易い患者において、例えば組織の細胞リソソーム中に貯蔵される酵素基質が検出可能量でまたは異常に高い量で存在する組織が挙げられる。いくつかの実施形態では、標的組織としては、疾患関連病態、症候または特徴を示す組織が挙げられる。いくつかの実施形態では、標的組織としては、欠損リソソーム酵素が抗レベルで正常では発現される組織が挙げられる。本明細書で用いる場合、標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織および/または末梢標的組織であり得る。標的組織の例は、以下で詳細に記載される。
脳標的組織
概して、脳は、異なる領域、層および組織に分けられ得る。例えば、髄膜組織は、脳を含めた中枢神経系を包む膜系である。髄膜は、3つの層、例えば硬膜、くも膜および軟膜を含有する。概して、髄膜の、ならびに脳脊髄液の主な機能は、脳神経系を保護することである。いくつかの実施形態では、本発明による治療用タンパク質は、髄膜の1つ以上の層に送達される。
脳は、大脳、小脳および脳幹を含めた3つの主な細区画を有する。大脳半球は、ほとんどの他の脳構造の上に位置し、皮質層で覆われている。大脳の下層には脳幹が横たわり、これは茎に似ており、その上に大脳が取り付けられている。脳の後部、大脳の下および脳幹の背後には、小脳が存在する。
脳の正中線近くおよび中脳の上に位置する間脳は、視床、視床後部、視床下部、視床上部、腹側視床および視蓋腹部を含有する。中脳(mesencephalon)は、midbrainとも呼ばれ、視蓋、外被、ventricular mesocoelia、ならびに大脳脚、赤核および第三脳神経核を含有する。中脳は、視覚、聴覚、運動制御、睡眠/覚醒、警戒および温度調節に関連する。
脳を含めた中枢神経系の組織の領域は、組織の深さに基づいて特性化され得る。CNS(例えば脳)組織は、表面または浅在組織、中深部組織および/または深部組織として特性化され得る。
本発明によれば、治療用タンパク質(例えば、補充酵素)は、対象において処置されるべき特定疾患に関連した任意の適切な脳標的組織(単数または複数)に送達され得る。いくつかの実施形態では、本発明による治療用タンパク質(例えば、補充酵素)は、表面および浅在脳標的組織に送達される。いくつかの実施形態では、本発明による治療用タンパク質は、中深部脳標的組織に送達される。いくつかの実施形態では、本発明による治療用タンパク質は、深部脳標的組織に送達される。いくつかの実施形態では、本発明による治療用タンパク質は、表面または浅在脳標的組織、中深部脳標的組織および/または深部脳標的組織の組合せに送達される。いくつかの実施形態では、本発明による治療用タンパク質は、脳の外表面の少なくとも4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mmまたはそれより下(または内側)の深部脳組織に送達される。
いくつかの実施形態では、補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、大脳の1つ以上の表面または浅在組織に送達される。いくつかの実施形態では、大脳の標的化表面または浅在組織は、大脳の表面から4mm内に位置する。いくつかの実施形態では、大脳の標的化表面または浅在組織は、軟膜組織、大脳皮質リボン組織、海馬、フィルヒョー・ロバン腔隙、VR腔隙内の血管、海馬、脳の下面の視床下部の部分、視神経および視索、嗅球および嗅突起ならびにその組合せから選択される。
いくつかの実施形態では、補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、大脳の1つ以上の深部組織に送達される。いくつかの実施形態では、大脳の標的化表面または浅在組織は、大脳の表面から4mmより下(例えば、5mm、6mm、7mm、8mm、9mmまたは10mm)に位置する。いくつかの実施形態では、大脳の標的化深部組織は、大脳皮質リボンを包含する。いくつかの実施形態では、大脳の標的化深部組織は、間脳(例えば、視床下部、視床、腹側視床および視床腹部等)、後脳、レンズ核、基底核、尾状核、被核、扁桃、淡蒼球およびその組合せの1つ以上を包含する。
いくつかの実施形態では、補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、小脳の1つ以上の組織に送達される。ある実施形態では、小脳の1つ以上の標的化組織は、分子層の組織、プルキンエ細胞層の組織、顆粒細胞層の組織、小脳脚およびその組合せからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、治療薬(例えば酵素)は、小脳の1つ以上の深部組織、例えばプルキンエ細胞層の組織、顆粒細胞層の組織、深部小脳白質組織(例えば、顆粒細胞層に比して深部)および深部小脳核組織(これらに限定されない)に送達される。
いくつかの実施形態では、補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、脳幹の1つ以上の組織に送達される。いくつかの実施形態では、脳幹の1つ以上の標的化組織は、脳幹白質組織および/または脳幹核組織を包含する。
いくつかの実施形態では、補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、種々の脳組織、例えば灰白質、白質、脳室周囲域、軟膜−くも膜、髄膜、新皮質、小脳、大脳皮質の深部組織、分子層、尾状核/被殻領域、中脳、脳橋または延髄の深部領域、およびその組合せ(これらに限定されない)に送達される。
いくつかの実施形態では、治療薬(例えば酵素)は、脳中の種々の細胞、例えばニューロン、グリア細胞、血管周囲細胞および/または髄膜細胞(これらに限定されない)に送達される。いくつかの実施形態では、治療用タンパク質は、深部白質の乏突起グリア細胞に送達される。
脊髄
概して、脊髄の領域または組織は、組織の深度に基づいて特性化され得る。例えば、脊髄組織は、表面または浅在組織、中深部組織、および/または深部組織として特性化され得る。
いくつかの実施形態では、補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、脊髄の1つ以上の表面または浅在組織に送達される。いくつかの実施形態では、脊髄の標的化表面または浅在組織は、脊髄の表面から4mm内に位置する。いくつかの実施形態では、脊髄の標的化表面または浅在組織は、軟膜および/または白質路を含有する。
いくつかの実施形態では、補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、脊髄の1つ以上の深部組織に送達される。いくつかの実施形態では、脊髄の標的化深部組織は、脊髄の表面から4mm内部に位置する。いくつかの実施形態では、脊髄の標的化深部組織は、脊髄灰白質および/または上衣細胞を含有する。
いくつかの実施形態では、補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、脊髄のニューロンに送達される。
末梢標的組織
本明細書で用いる場合、末梢器官または組織は、中枢神経系(CNS)の一部ではない任意の器官または組織を指す。末梢標的組織としては、血管系、肝臓、腎臓、心臓、内皮、骨髄および骨髄由来細胞、脾臓、肺、リンパ節、骨、軟骨、卵巣および精巣が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、本発明による補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、末梢標的組織の1つ以上に送達される。
生体分布および生物学的利用能
種々の態様において、標的組織に一旦送達されると、補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、細胞内に局在化される。補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、標的細胞(例えば、プルキンエ細胞のようなニューロン)のエクソン、軸索、リソソーム、ミトコンドリアまたは空胞に局在化され得る。例えば、いくつかの実施形態では、くも膜下腔内投与酵素は、酵素が血管周囲腔隙内に移動するよう(例えば、拍動補助対流機構により)、移動力学を実証する。さらに、投与タンパク質または酵素と神経細繊維との会合に関する活性軸索輸送機構も、中枢神経系の深部組織中への、くも膜下腔内投与タンパク質または酵素の分布に寄与し得るし、そうでなければそれを助長し得る。
いくつかの実施形態では、本発明に従って送達される補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、本明細書に記載される種々の標的組織において、治療的または臨床的有効レベルまたは活性を達成し得る。本明細書で用いる場合、治療的または臨床的有効レベルまたは活性は、標的組織において治療作用を付与するのに十分なレベルまたは活性である。治療作用は、客観的(すなわち、何らかの試験またはマーカーにより測定)または主観的(すなわち、対象が作用の指標または感覚を提示する)であり得る。例えば、治療的または臨床的有効レベルまたは活性は、標的組織における疾患に伴う症候(例えば、GAG貯蔵)を改善するのに十分である酵素レベルまたは活性であり得る。
いくつかの実施形態では、本発明に従って送達される補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、標的組織における対応するリソソーム酵素の正常レベルまたは活性の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%である酵素レベルまたは活性を達成し得る。いくつかの実施形態では、本発明に従って送達される補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、対照(例えば、処置を伴わない内因性レベルまたは活性)と比較して、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍増加する酵素レベルまたは活性を達成し得る。いくつかの実施形態では、本発明に従って送達される補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、標的組織中で、少なくとも約10nmol/時・mg、20nmol/時・mg、40nmol/時・mg、50nmol/時・mg、60nmol/時・mg、70nmol/時・mg、80nmol/時・mg、90nmol/時・mg、100nmol/時・mg、150nmol/時・mg、200nmol/時・mg、250nmol/時・mg、300nmol/時・mg、350nmol/時・mg、400nmol/時・mg、450nmol/時・mg、500nmol/時・mg、550nmol/時・mgまたは600nmol/時・mgの酵素レベルまたは活性の増加を達成し得る。
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、腰部領域を標的化するために特に有用である。いくつかの実施形態では、本発明に従って送達される補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、少なくとも約500nmol/時・mg、600nmol/時・mg、700nmol/時・mg、800nmol/時・mg、900nmol/時・mg、1000nmol/時・mg、1500nmol/時・mg、2000nmol/時・mg、3000nmol/時・mg、4000nmol/時・mg、5000nmol/時・mg、6000nmol/時・mg、7000nmol/時・mg、8000nmol/時・mg、9000nmol/時・mgまたは10,000nmol/時・mgの腰部領域における酵素レベルまたは活性の増加を達成し得る。
概して、本発明に従って送達される補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、CSFならびに脳、脊髄および末梢器官の標的組織中で十分に長い半減期を有する。いくつかの実施形態では、本発明に従って送達される補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、少なくとも約30分、45分、60分、90分、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、12時間、16時間、18時間、20時間、25時間、30時間、35時間、40時間、3日まで、7日まで、14日まで、21日まで、または1ヶ月までの半減期を有し得る。いくつかの実施形態では、本発明に従って送達される補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、投与の12時間、24時間、30時間、36時間、42時間、48時間、54時間、60時間、66時間、72時間、78時間、84時間、90時間、96時間、102時間または1週間後に、CSFまたは血流中に検出可能なレベルまたは活性を保持し得る。検出可能なレベルまたは活性は、当該技術分野で既知の種々の方法を用いて決定され得る。
ある実施形態では、本発明に従って送達される補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、投与後(例えば、対象への薬学的組成物のくも膜下腔内投与の、1週間、3日、48時間、36時間、24時間、18時間、12時間、8時間、6時間、4時間、3時間、2時間、1時間、30分後、またはそれ未満の後)、対象のCNS組織および細胞中で、少なくとも30μg/mlの濃度を達成する。ある実施形態では、本発明に従って送達される補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、対象の標的化組織または細胞(例えば、脳組織またはニューロン)中で、このような対象への投与後(例えば、対象へのこのような薬学的組成物のくも膜下腔内投与の、1週間、3日、48時間、36時間、24時間、18時間、12時間、8時間、6時間、4時間、3時間、2時間、1時間、30分後、またはそれ未満の後)、少なくとも20μg/ml、少なくとも15μg/ml、少なくとも10μg/ml、少なくとも7.5μg/ml、少なくとも5μg/ml、少なくとも2.5μg/ml、少なくとも1.0μg/mlまたは少なくとも0.5μg/mlの濃度を達成する。
くも膜下腔内投与によるサンフィリポ症候群の処置
サンフィリポ症候群、すなわちムコ多糖症III型(MP III)は、グリコサミノグリカン(GAG)の分解に関与する酵素の欠乏によって特徴付けられる稀な遺伝性疾患である。酵素が不在の場合、部分的に分解したGAG分子は、体内から除去されることができなく、種々の組織のリソソーム内に蓄積し、進行性の広範な体性機能障害を生じさせる(Neufeld and Muenzer,2001)。
MPS IIIA型、B型、C型およびD型と名付けられたMPS IIIの4つの異なる型が同定されている。各型は、GAGヘパラン硫酸の分解に関与する4種類の酵素の1つの欠損を表す。すべての型には、特徴的な粗い顔つき、肝脾腫大、角膜薄濁および骨格の変形を含む同じ臨床症状を様々な程度で含まれる。しかし、中でも注目すべきは、重度でかつ進行性の認識能力の喪失である。これは、ニューロン内のヘパラン硫酸の蓄積だけでなく、GAGの一次的蓄積に起因するガングリオシドGM2、GM3およびGD2のその後の上昇にも関係している(Walkley 1998)。
ムコ多糖症IIIB型(MPS IIIB;サンフィリポB疾患)は、酵素アルファ−N−アセチル−グルコサミニダーゼ(Naglu)の欠乏により特性化される常染色体劣性障害である。この酵素の非存在下では、GAGヘパランスルフェートはニューロンおよびグリア細胞のリソソーム中に蓄積するが、脳の外側には余り蓄積しない。
この障害の限定性臨床的特徴は中枢神経系(CNS)変性であって、これにより、主要な発達里程標石を失い、あるいはそれを達成できなくなる。進行性認知低下は、痴呆および若年死亡率を最高度に高める。当該疾患は、典型的には、幼児において発現し得、且つ罹患した個体の寿命は、通常、10代後半から20代前半を超えることはない。
本発明の組成物および方法を用いて、サンフィリポBを患う、または同型に感受性の高い個体を有効に処置し得る。本明細書で用いる場合、「処置する」または「処置」という用語は、当該疾患に伴う1つ以上の症候の寛解、当該疾患の1つ以上の症候の発症の予防または遅延、および/または当該疾患の1つ以上の症候の重症度または頻度の低下を指す。
いくつかの実施形態では、処置は、サンフィリポB患者における神経学的障害の重症度および/または発生率を部分的にまたは完全に緩和し、寛解し、軽減し、抑制し、発症を遅延し、重症度および/または発生率を減少させることを指す。本明細書で用いる場合、「神経学的障害」という用語は、中枢神経系(例えば、脳および脊髄)の機能障害に伴う種々の症候を包含する。神経学的障害の症候としては、例えば、発育遅延、進行性認知障害、聴力損失、言語発達障害、運動技能の欠乏、多動性障害、攻撃性および/または睡眠障害等が挙げられ得る。
したがって、いくつかの実施形態では、処置は、種々の組織におけるリソソーム貯蔵(例えば、GAG)の減少を指す。いくつかの実施形態では、処置は、脳標的組織、脊髄ニューロン、および/または末梢標的組織におけるリソソーム貯蔵の減少を指す。ある実施形態では、リソソーム貯蔵は、対照と比較して、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれ以上減少する。いくつかの実施形態では、リソソーム貯蔵は、対照と比較して、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍減少する。いくつかの実施形態では、リソソーム貯蔵は、LAMP−1染色法によって決定される。
いくつかの実施形態では、処置は、ニューロン(例えば、プルキンエ細胞を含有するニューロン)における空胞形成の減少を指す。ある実施形態では、ニューロンにおける空胞形成は、対照と比較して、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれ以上減少する。いくつかの実施形態では、空胞形成は、対照と比較して、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍減少する。
いくつかの実施形態では、処置は、種々の組織内のNaglu酵素活性の増加を指す。いくつかの実施形態では、処置は、脳標的組織、脊髄神経ニューロンおよび/または末梢標的組織内のNaglu酵素活性の増加を指す。いくつかの実施形態では、Naglu酵素活性は、対照と比較して約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、200%、300%、4000%、500%、600%、700%、800%、9000% 1000%またはそれ以上増加する。いくつかの実施形態では、Naglu酵素活性は、対照と比較して少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍増加する。いくつかの実施形態では、Naglu酵素活性の増加は、少なくとも約10nmol/時・mg、20nmol/時・mg、40nmol/時・mg、50nmol/時・mg、60nmol/時・mg、70nmol/時・mg、80nmol/時・mg、90nmol/時・mg、100nmol/時・mg、150nmol/時・mg、200nmol/時・mg、250nmol/時・mg、300nmol/時・mg、350nmol/時・mg、400nmol/時・mg、450nmol/時・mg、500nmol/時・mg、550nmol/時・mg、600nmol/時・mgまたはそれ以上である。いくつかの実施形態では、Naglu酵素活性は、腰部領域で増加する。いくつかの実施形態では、腰部領域でのNaglu酵素活性の増加は、少なくとも約2000nmol/時・mg、3000nmol/時・mg、4000nmol/時・mg、5000nmol/時・mg、6000nmol/時・mg、7000nmol/時・mg、8000nmol/時・mg、9000nmol/時・mg、10,000nmol/時・mgまたはそれ以上である。
ある実施形態では、本発明による処置は、リソソーム蓄積症に関連した1つ以上の病理学的または生物学的マーカーの存在、または代替的にはその蓄積の減少(例えば、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、90%、95%、97.5%、99%またはそれ以上の減少)、または完全排除を生じる。このような減少または排除は、CNSの細胞および組織(例えば、ニューロンおよび乏突起グリア細胞)において特に明らかであり得る。例えば、いくつかの実施形態では、対象への投与時に、本発明の薬学的組成物は、対象のCNS細胞および組織において(例えば、大脳皮質、小脳、尾状核および被殻、白質および/または視床において)、バイオマーカーリソソーム膜タンパク質1(LAMP1)の蓄積の減少を実証するかまたは達成する。LAMP1は、リソソーム膜において高度に発現される糖タンパク質であり、その存在は、リソソーム蓄積症患者を増加させる(Meikle,ら,Clin Chem.(1997)43:1325−1335)。したがって、リソソーム蓄積症を有する患者におけるLAMP1の存在または非存在(例えば、LAMP染色により確定される)は、リソソーム活性の有用な指標、ならびにリソソーム蓄積症の診断およびモニタリングの両方のためのマーカーを提供し得る。
したがって、本発明のいくつかの実施形態は、疾患(例えば、リソソーム蓄積症)に関連する1つ以上の病理学的または生物学的マーカーの存在または蓄積を減少するか、そうでなければ排除する方法に関する。同様に、本発明のいくつかの実施形態は、リソソーム蓄積症に関連した1つ以上の病理学的または生物学的マーカー(例えばLAMP)の分解(または分解速度)を増加させる方法に関する。
いくつかの実施形態では、処置は、認知能力の喪失の進行低減を指す。ある実施形態では、認知能力の喪失の進行は、対照と比較して、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれ以上減少する。いくつかの実施形態では、処置は、発育遅延の減少を指す。ある実施形態では、発育遅延は、対照と比較して、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれ以上減少する。
いくつかの実施形態では、処置は、生存(例えば、生存時間)増大を指す。例えば、処置は、患者の平均余命増大を生じ得る。いくつかの実施形態では、本発明による処置は、処置を伴わない同様の疾患を有する1人以上の対照個体の平均余命と比較して、約5%より多く、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約105%、約110%、約115%、約120%、約125%、約130%、約135%、約140%、約145%、約150%、約155%、約160%、約165%、約170%、約175%、約180%、約185%、約190%、約195%、約200%またはそれ以上、患者の平均余命を増大する。いくつかの実施形態では、本発明による処置は、処置を伴わない同様の疾患を有する1人以上の対照個体の平均余命と比較して、約6か月より長く、約7か月、約8か月、約9か月、約10か月、約11か月、約12か月、約2年、約3年、約4年、約5年、約6年、約7年、約8年、約9年、約10年またはそれ以上、患者の平均余命を増大する。いくつかの実施形態では、本発明による処置は、患者の長期間生存を生じる。本明細書で用いる場合、「長期間生存」という用語は、約40年、45年、50年、55年、60年またはそれより以上の生存時間または平均余命を指す。
「改善する」、「増加する」または「減少する」という用語は、本明細書で用いる場合、対照と対比する値を示す。いくつかの実施形態では、適切な対照は、基線測定値、例えば、本明細書に記載される処置の開始前の同一個体における測定値、あるいは本明細書に記載される処置の非存在下での一対照個体(または多数の対照個体)における測定値である。「対照個体」は、処置されている個体とほぼ同一年齢および/または性別である、サンフィリポBに苦しむ個体である(処置個体および対照個体(単数または複数)における疾患の段階が比較可能であることを保証するため)。
処置されている個体(「患者」または「対象」とも呼ばれる)は、サンフィリポBを有するかまたはサンフィリポBを発症する可能性を有する個体(胎児、幼児、小児、若者または成人)である。個体は、残留内因性Naglu発現および/または活性を有し得るし、あるいは測定可能な活性を有さない。例えば、サンフィリポBを有する個体は、正常Naglu発現レベルの約30〜50%未満、約25〜30%未満、約20〜25%未満、約15〜20%未満、約10〜15%未満、約5〜10%未満、約0.1〜5%未満であるNaglu発現レベルを有し得る。
いくつかの実施形態では、個体は最近、疾患と診断された個体である。典型的には、早期治療(診断後にできるだけ早く開始する治療)は、疾患の影響を最小化して、治療の有益性を最大にするために重要である。
免疫寛容
一般的に、本発明による補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)のくも膜下腔内投与は、対象において重篤な副作用を生じない。本明細書で用いる場合、重症副作用は、実質的免疫応答、毒性または死(これらに限定されない)を誘導する。本明細書で用いる場合、「実質的免疫応答」という用語は、重症または重篤免疫応答、例えば適応T細胞免疫応答を指す。
したがって、多くの実施形態において、本発明の方法は、同時免疫抑制剤療法(すなわち、前処置/前状態調節として、あるいは当該方法と平行して用いられる任意の免疫抑制剤療法)を包含しない。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、処置されている対象における免疫寛容誘導を包含しない。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、T細胞免疫抑制剤を用いる対象の前処置または前状態調節を包含しない。
いくつかの実施形態では、治療薬のくも膜下腔内投与は、これらの作用物質に対する免疫応答を高め得る。したがって、いくつかの実施形態では、酵素補助療法に対して寛容な補助酵素を患者に接種させることが有用であり得る。免疫寛容は、当該技術分野で既知の種々の方法を用いて誘導され得る。例えば、T細胞免疫抑制剤、例えばシクロスポリンA(CsA)および抗増殖剤、例えばアザチオプリン(Aza)を、低用量の所望の補充酵素の毎週くも膜下腔内注入と組合せた初期30〜60日レジメンが、用いられ得る。
当業者に既知の任意の免疫抑制剤は、本発明の組合せ療法と一緒に用いられ得る。このような免疫抑制剤としては、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、CTLA4−Igおよび抗TNF剤、例えばエタネルセプト(例えば、Moder,2000,Ann.Allergy Asthma Immunol.84,280−284;Nevins,2000,Curr.Opin.Pediatr.12,146−150;Kurlbergら,2000,Scand.J.Immunol.51,224−230;Ideguchiら,2000,Neuroscience 95,217−226;Potterら,1999,Ann.N.Y.Acad.Sci.875,159−174;Slavikら,1999,Immunol.Res.19,1−24;Gazievら,1999,Bone Marrow Transplant.25,689−696;Henry,1999,Clin.Transplant.13,09−220;Gummertら,1999,J.Am.Soc.Nephrol.10,1366−1380;Qiら,2000,ransplantation 69, 1275−1283参照)が挙げられるが、これらに限定されない。抗IL2受容体(アルファ−サブユニット)抗体ダクリズマブ(例えば、ゼナパックス TM)(これは、移植患者において有効であることが実証されている)も、免疫抑制剤として用いられ得る (例えば、Wisemanら,1999,Drugs 58,1029−1042;Beniaminovitzら,2000,N.Engl J.Med.342,613−619;Ponticelliら,1999,Drugs R.D.1,55−60;Berardら,1999,Pharmacotherapy 19,1127−1137;Eckhoffら,2000,Transplantation 69,1867−1872;Ekbergら,2000,Transpl.Int.13,151−159参照)。付加的免疫抑制剤としては、抗CD2(Brancoら,1999,Transplantation 68,1588−1596;Przepiorkaら,1998,Blood 92,4066−4071)、抗CD4(Marinova−Mutafchievaら,2000,Arthritis Rheum.43,638−644;Fishwildら,1999,Clin.Immunol.92,138−152)および抗CD40リガンド(Hongら,2000,Semin.Nephrol.20,108−125;Chirmuleら,2000,J.Virol.74,3345−3352;Itoら,2000,J.Immunol.164,1230−1235)が挙げられるが、これらに限定されない。
投与
本発明の方法は、本明細書に記載される治療有効量の補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)の単回ならびに反復投与を意図する。補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、対象の状態の性質、重症度および程度によって、一定間隔で投与され得る。いくつかの実施形態では、本発明の治療有効量の補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)は、一定間隔で(例えば、年1回、6ヶ月に1回、5ヶ月に1回、3ヶ月に1回、隔月(2ヶ月に1回)、毎月(1ヶ月に1回)、隔週(2週間に1回)、毎週)、定期的にくも膜下腔内投与され得る。
いくつかの実施形態では、くも膜下腔内投与は、他の投与経路(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腸管外、経皮的、または経筋肉的に(例えば、経口的または経鼻的に))と組み合わせで用いられ得る。いくつかの実施形態では、他の投与経路(例えば、静脈内投与)は、隔週、毎月、2ヶ月に1回、3ヶ月に1回、4ヶ月に1回、5ヶ月に1回、6ヶ月に1回、毎年投与以下の頻度で実施され得る。
本明細書で用いる場合、「治療有効量」という用語は、主として、本発明の薬学的組成物中に含有される治療薬の総量に基づいて確定される。一般的に、治療有効量は、対象に対して意義のある利益(例えば、根元的疾患または症状を処置し、調整し、治癒し、防止し、および/または改善すること)を達成するのに十分である。例えば、治療有効量は、所望の治療的および/または予防的作用を達成するのに十分な量、例えばリソソーム酵素受容体またはそれらの活性を調整し、それによりこのようなリソソーム蓄積症またはその症候を処置する(例えば、対象への本発明の組成物の投与後の、「ゼブラ体」の存在または出現の、あるいは細胞空胞形成の減少または排除)ために十分な量であり得る。一般的に、それを必要とする対象に投与される治療薬(例えば、組換えリソソーム酵素)の量は、対象の特質によって決まる。このような特質としては、対象の症状、疾患重症度、全身健康状態、年齢、性別および体重が挙げられる。これらのおよびその他の関連因子によって、適切な投与量を、当業者は容易に決定し得る。さらに、最適投与量範囲を同定するために、客観的および主観的検定がともに任意に用いられ得る。
治療有効量は、多重単位用量を含み得る用量投与レジメンで一般に投与される。任意の特定の治療用タンパク質に関しては、治療有効量(および/または有効用量投与レジメン内の適切な単位用量)は、例えば投与経路、他の薬学的作用物質との組合せによって変わり得る。さらにまた、任意の特定患者のための具体的治療有効量(および/または単位用量)は、種々の因子、例えば処置されている障害および障害の重症度;用いられる具体的薬学的作用物質の活性;用いられる具体的組成物;患者の年齢、体重、全身健康状態、性別および食餌;投与時間;投与経路、および/または用いられる具体的融合タンパク質の排出または代謝速度;処置の持続期間;ならびに医療業界で周知であるような因子によって決まり得る。
いくつかの実施形態では、治療有効用量は、約0.005mg/kg脳重量〜500mg/kg脳重量、例えば、約0.005mg/kg脳重量〜400mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜300mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜200mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜100mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜90mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜80mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜70mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜60mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜50mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜40mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜30mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜25mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜20mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜15mg/kg脳重量、約0.005mg/kg脳重量〜10mg/kg脳重量の範囲である。
いくつかの実施形態では、治療有効用量は、約0.1mg/kg脳重量より多く、約0.5mg/kg脳重量より多く、約1.0mg/kg脳重量より多く、約3mg/kg脳重量より多く、約5mg/kg脳重量より多く、約10mg/kg脳重量より多く、約15mg/kg脳重量より多く、約20mg/kg脳重量より多く、約30mg/kg脳重量より多く、約40mg/kg脳重量より多く、約50mg/kg脳重量より多く、約60mg/kg脳重量より多く、約70mg/kg脳重量より多く、約80mg/kg脳重量より多く、約90mg/kg脳重量より多く、約100mg/kg脳重量より多く、約150mg/kg脳重量より多く、約200mg/kg脳重量より多く、約250mg/kg脳重量より多く、約300mg/kg脳重量より多く、約350mg/kg脳重量より多く、約400mg/kg脳重量より多く、約450mg/kg脳重量より多く、約500mg/kg脳重量より多い。
いくつかの実施形態では、治療有効用量は、mg/体重1kgによっても定義され得る。当業者が理解するように、脳重量および体重は相関し得る(Dekaban AS.“Changes in brain weights during the span of human life:relation of brain weights to body heights and body weights,”Ann Neurol 1978;4:345−56)。したがって、いくつかの実施形態では、投与量は、表4に示されるように換算され得る。
いくつかの実施形態では、治療有効用量は、mg/CSF 15ccによっても定義され得る。当業者が理解するように、脳重量および体重に基づいた治療有効用量は、mg/CSF 15ccに換算され得る。例えば、成人におけるCSFの容積は約150mLである(Johanson CE,ら,“Multiplicity of cerebrospinal fluid functions:New challenges in health and disease,”Cerebrospinal Fluid Res.2008 May 14;5:10)。したがって、成人への0.1mg〜50mgの単一用量注射は、成人では約0.01mg/CSF 15cc(0.1mg)〜5.0mg/CSF 15cc(50mg)用量である。
任意の特定の対象に関して、具体的な投与量レジメンは、個体の必要性、ならびに酵素補充療法の投与を施すかまたは指図する専門家の判断によって経時的に調整されるべきであり、そして本明細書に記述される投与量範囲は単なる例であって、本発明の範囲または実行を限定するものではない、とさらに理解されるべきである。
キット
本発明はさらに、本発明の処方物を含有するキットまたは他の製品を提供し、そしてその再構成(凍結乾燥された場合)および/または使用のための機器を提供する。キットまたはその他の製品としては、容器、IDDD、カテーテル、ならびにくも膜下腔内投与および関連外科手術に有用な任意のその他の物質、装置または設備が挙げられ得る。適切な容器としては、例えばボトル、バイアル、注射器(薬剤充填済み注射器)、アンプル、カートリッジ、レザバーまたはlyo−jectsが挙げられる。容器は、種々の材料、例えばガラスまたはプラスチックから作られ得る。いくつかの実施形態では、容器は薬剤充填済み注射器である。適切な薬剤充填済み注射器としては、ベイクドシリコーン被覆膜を有するホウケイ酸ガラス注射器、噴霧シリコーンを有するホウケイ酸ガラス注射器またはシリコーンを含有しないプラスチック樹脂注射器が挙げられるが、これらに限定されない。
典型的には、容器は、処方物、ならびに再構成および/または使用に関する指示を示し得る容器上の、または容器に付随したラベルを保持し得る。例えば、ラベルは、処方物が上記のようなタンパク質濃度に再構成される、ということを示し得る。ラベルはさらに、処方物が、例えばIT投与のために有用であるかまたは意図される、ということを示し得る。いくつかの実施形態では、容器は、補充酵素(例えば、Naglu融合タンパク質)を含有する単一用量の安定処方物を含有し得る。種々の実施形態において、単一用量の安定処方物は、約15ml未満、10ml、5.0ml、4.0ml、3.5ml、3.0ml、2.5ml、2.0ml、1.5ml、1.0mlまたは0.5mlの容量で存在する。代替的には、処方物を保持するよう基は、多数回使用バイアルであって、これは、処方物の反復投与(例えば、2〜6回投与)を可能にし得る。キットまたは他の製品はさらに、適切な希釈剤(例えば、BWFI、生理食塩水、緩衝化生理食塩水)を含む第二容器を包含し得る。希釈剤および処方物の混合時に、再構成化処方物中の最終タンパク質濃度は、一般的に、少なくとも1mg/ml(例えば、少なくとも5mg/ml、少なくとも10mg/ml、少なくとも25mg/ml、少なくとも50mg/ml、少なくとも75mg/ml、少なくとも100mg/ml)である。キットまたは他の製品はさらに、商業的および使用者の見地から望ましい他の物質、例えば他の緩衝剤、希釈剤、充填剤、針、IDDD、カテーテル、注射器および使用説明書を伴う添付文書を包含し得る。
本発明は、以下の実施例を参照することにより、さらに十分に理解されるであろう。しかしながら、それらは本発明の範囲を限定するよう意図されるべきでない。引用文献はすべて、参照により本明細書に組み込む。
実施例
実施例1:rhNagluタンパク質およびNaglu融合タンパク質の発現
本実施例は、髄腔内注射を通してサンフィリポB患者の中枢神経系への直接投与を目的とする組換えヒトNagluタンパク質の開発を示す。
サンフィリポB型(サンフィリポB)は、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(Naglu)の欠損に起因する常染色体劣性遺伝障害である。Nagluは、ヘパリン硫酸分解経路でオリゴ糖の非還元末端からα−N−アセチルグルコサミンを除去する酵素である。Nagluをコードしているヒト遺伝子は、染色体17q21.1上に長さ8.2kb以上にわたる6個のエクソンを有する。ヒトNagluは、シグナルペプチドを含む743個のアミノ酸の前駆体として、細胞内で合成される。Nagluの全長アミノ酸配列は、以下の表5に示す:
該タンパク質が小胞体に入ると、23個のアミノ酸シグナルペプチドが除去される。結果として生じる成熟Nagluタンパク質は、硫酸ヘパリンの酵素の分解が起こるリソソームに分別されるか、または細胞外間隙に分泌される。成熟組換えヒトNagluの分子量は、グリコシル化を含まない80.2kDaとグリコシル化の付加重量を含む約93.4kDaである。その中のアミノ酸残基1〜123が切断されている成熟Nagluタンパク質配列は、以下の表6に示す。
組換えヒトNaglu(rhNaglu)を生成するために、ヒトNagluのcDNAを発現ベクターに挿入して、HT1080細胞系にトランスフェクトした。Naglu酵素活性アッセイを用いて、高発現しているHT1080クローンをスクリーニングした。Nagluを発現しているHT1080細胞によって産生された分泌タンパク質は、ヒトNagluの成熟型である。HT1080細胞によって産生された組換えヒトNagluをグリコシル化した。rhNagluは、合成基質、4−MU−N−アセチルα−D−グルコサミニドに対して十分に活性である。
組換えNagluと、尿中、胎盤および肝臓のNagluなどの天然源から単離されたNaglueとの間の最も著しい違いは、マンノース−6−リン酸グリカン(M6P)の欠如である。組換えNagluにおけるM6Pの欠如は、CHOおよびHEK293細胞由来のrhNagluの研究において数人の研究者によって報告されている。rhNagluを発現したHT1080も、M6Pグリカンが欠乏していることがわかった。組換えNagluにおけるM6Pの欠如の機序は、わかっていない。本発明者らは、組換えNagluにおける細胞送達のためにM6Pへの依存を克服する試みの中で、いくつかの融合タンパク質とグリカン修飾型を開発した(図1〜3)。
Naglu−TAT
Nagluと、HIV由来のタンパク質形質導入ドメインとの融合タンパク質をNaglu−TAと名付けた。Naglu−TATを設計して、生成し、次いで精製した。TATペプチドは、細胞膜を通って細胞質へのタンパク質形質導入を促進することが示された。リソソーム酵素βグルクロニダーゼと融合したTATペプチド(GUS−TAT)は、MPSVIIマウスへの静脈内注射後に、腎臓内のリソソーム貯蔵がGUSよりも大幅な減少をもたらしたことが以前に証明されている(Grubb JHら,Rejuvenation Research 13:2,2010)。別の実験では、rhNagluと比較して、サンフィリポB患者の線維芽細胞においてNaglu−TATの細胞取り込みが改善されたことを示した(データ不掲載)。しかし、in vivo生体分布試験は、髄腔内注射後、NagluTATがrhNagluと同様の生体分布を示し、且つ細胞取り込みをわずかに改善したことを示した。この試験では、大部分の該タンパク質が髄膜内に残り、脳の実質への浸透は極めて限られていた。この結果は、TATペプチドが媒介する送達が、受容体が媒介するNaglu細胞取り込みに取って代わるには十分でなかったことを示した。
Naglu−Kif
Naglu−Kifは、Kifunensineを培地に添加することによる修飾型細胞培養プロセスを用いて生成した。Naglu−Kifを計画して生成し、次いで精製した。高マンノースグリカンの産生を高めて、複合糖質の添加を抑制するために、Kifunensineを添加することで、rhNagluのグリコシル化経路を変更した。Kifunensineは、ゴルジα−マンノシダーゼI活性を阻害し、それによって高マンノースグリカンの除去を阻害して、複合グリカンのカップリングの抑制を生じさせる。その結果、Naglu−Kifは、大部分は高マンノースグリカンを含む。マクロファージ由来の細胞系を用いる細胞取り込みによって、Naglu−Kifのマンノース受容体依存取り込みを確認した。しかし、in vivo実験では、カニューレ処置した野生型ラットの脳脊髄液への髄腔内注射後、Naglu−Kifは、rhNagluよりも、脳の実質への分布の改善を示さなかった。マンノース受容体が媒介したNaglu−Kifの取り込みは、CNS内でrhNaglu送達を促進しないと結論づけた。
Naglu−ApoE
低密度リポタンパク質受容体(LDLR)をNagluの細胞取り込みで利用するために、ApoE(アポリポタンパク質E)の受容体結合ドメインをNagluのC末端に融合した。このアプローチは、BBBでLDLRの存在を支持する研究に基づいた(Begley DJら,Current Pharmaceutical Design,2008,14,1566−1580)。予備マウスによるin vivo試験は、サンフィリポBマウスに静脈内投与したNaglu−ApoEが脳に輸送されなかったことを示した。
rhNagluの静脈内与
in vivo実験を行って、BBBを通る輸送におけるrhNagluおよびNaglu−IGFIIを調べた。この試験は、サンフィリポBマウスにrhNagluおよびNaglu−IGFIIを静脈内投与すると、脳内でいずれの酵素をもたらさず、かつ処置したマウスの脳に何ら病理組織学的な改善が見られなかったことを示した。
Naglu−IGFII
インスリン様増殖因子IIの配列(aa8〜67、8−67IGFII)の一部を、Naglu配列のC末端に融合することで、Naglu−IGFIIを構築した。全長IGFII分子と比較して、8−67IGFIIは、M6P/IGFII受容体と2〜10倍高い親和性で結合するが、IGFI受容体と結合するその能力は、30倍減少すると報告されている(Hashimoto R,JBC 1995 270(30):18013−18018)。
Naglu−IGFII分子は、Nagluと8−67IGFIIとの間に挿入されたリンカー配列を含む。このリンカー配列は、各端が隣接する2つの「GAP」配列と、各反復の間に1つの「GAP」配列とを含む、3つのタンデム反復「GGGGGAAAAGGGG」からなっていた。リンカーの実際の配列は、以下の表7に示す。
組換えNaglu−IGFII融合体を生成するために、cDNAを発現ベクター、pXD671に挿入して、ヒト線維芽細胞系にトランスフェクトした。組換えNaglu−IGFII融合タンパク質のタンパク質配列は、以下の表8に示す。
Nsglu酵素活性アッセイを用いて、高発現しているHT1080クローンをスクリーニングした。Naglu−IGFIIの発現をさらに増加させるために、選択した細胞系を、同じ転写単位を担持するさらなる発現プラスミドと再度トランスフェクトした。1回トランスフェクトした細胞系および2回トランスフェクトした細胞系の双方において、分泌されたNagluIGFIIは、全長成熟Naglu配列と、全長8−67IGFIIとを含んでいる。Naglu−IGFII融合タンパク質は、同じ合成基質である4−MU−N−アセチルα−D−グルコサミニドへの酵素活性を示した。図4〜6は、2回トランスフェクトしたNaglu−IGFII細胞系を用いた代表的な産生推移をグラフで示す。図4に示したこのNaglu−IGF−II細胞系の産生推移は、Naglu−IGFIIの0.5pcd(1日あたり、100万細胞あたりのピクトグラム)を達成した。
rhNagluおよびNaglu−IGFIIの精製
rhNaglu、NagluIGFII、Naglu−ApoEおよびNaglu−Kifに対して、同様の精製プロセスを用いた。Naglu−TATに対しては、改変型精製プロセスを用いた。rhNagluおよびNaglu−IGFIIタンパク質の精製を以下にまとめる。
rhNagluおよびNaglu−IGFIIの精製の場合、3段階のプロセスを用いた(図7)。第一に、条件培地を、限外濾過(UF)装置を使用して濃縮した。次いで、条件培地をブチルセファロースクロマトグラフィーカラム(ブチル)に、続いてQセファロースクロマトグラフィーカラム(Q)に適用した。精製したタンパク質を、貯蔵のためにPBS(リン酸ナトリウム11.9mM、リン酸カリウム2.7mM、pH7.4の塩化ナトリウム137mM)からなる処方物に緩衝液交換した。逆相高圧液体クロマトグラフィーで調べると、精製したrhNagluおよびNaglu−IGFIIの純度は、それぞれ99%と95%であった(データ不掲載)。
rhNagluおよびNaglu−IGF−IIの生化学的特性
rhNaglu、Naglu−TAT、Naglu−IGFII、Naglu−KifおよびNaglu−ApoEのNaglu変異体のすべては、合成基質、4−メチルウンベリフェリル−N−アセチル−α−D−グルコサミニドへの同様の生物活性を示した。高速アニオン交換クロマトグラフィーによるグリカン分析および単糖分析によって決定すると、これらの変異体のすべては、リン酸化糖鎖付加に対して陰性であった。
以下の節に、rhNagluおよびNaglu−IGFIIだけの生化学特性をまとめる(表9)。表9に示すように、rhNagluとNaglu−IGFIIの生化学的比較は、これらの2つの特性間で同様の酵素活性と安定性を示している。示差走査熱量測定で測定した熱安定性の最適pH値は、rhNagluの場合、pH5〜pH6.5であり、Naglu−IGFIIの場合、pH6〜pH6.5であった。この結果は、リソソームの酸性環境下で、最適安定性を示すためのリソソーム加水分解産物の要件と一致している。
さらに、Bradfordタンパク質アッセイで決定すると、Naglu−IGFIIは26mg/mLまでうまく濃縮され、4℃で最高3ヶ月間の貯蔵後、凝集または活性の消失の兆候はなかった。pH6.5のリン酸ナトリウム5mM、塩化ナトリウム150mM、0.005%のポリソルベート20からなる処方物(例えば、髄腔内投与用)を、Naglu−IGFII処方物に対しても検査した。PBS処方物でのNaglu−IGFIIと髄腔内処方物でのNaglu−IGFIIとの間では、同様の安定性と溶解度が観察された(データ不掲載)。
Nagluの結晶構造
rhNagluの開発におけるブレイクスルーの1つは、PEPRによるNagluの結晶構造の決定であった。この成果は、Nagluの構造の洞察と、タンパク質の安定性および製剤要件を予測する際の支援をもたらした。サンフィリポB患者の変異体をNagluの3D構造上に並べることで、創薬のための洞察とツールを提供することになると思われる。
結晶(図8)は、マンノシダーゼ−I阻害剤、Kifunensineで処置した培地から精製したrhNagluタンパク質から得た。Naglu−Kifは、rhNagluと同一のタンパク質配列を含んでいるが、グリコシル化パターンは異なっている。Naglu−Kifの得られた結晶をpH7.5で増殖させて、Naglu−Kifの構造を2.4Å解像度でX線結晶構造解析によって分析した。Naglu構造(図9)は、N末端ドメイン(ドメイン−I、aa24−126)、それに続く触媒グルタミン酸を含む(α/β)8バレルドメイン(ドメイン−II、aa127−467)およびC末端ヘリックスドメイン(ドメイン−III、aa468−743)の3つの異なるドメインを有すると確認する。同様のドメイン構造は、Nagluの細菌相同体である、別の糖質分解酵素のファミリー−89タンパク質(cpGH89)で観察されている(Ficko−Blean E,ら,PNAS May 6,2008 vol.105 no.18 6560−6565)。その活性部位は、ドメイ−ンIIとドメイン−IIIの間の間隙であり、触媒残基は、ドメイン−II上に位置するE316とE446として確認する。
Naglu分子の最密対称三量体配列は、結晶構造で見ることができる(図10)。これは、分析超遠心(AUC)実験およびインライン式多角度光散乱(SEC−MALS)による分子ふるいクロマトグラフィー実験から観察された天然の会合状態と一致している。ドメイン−IIの疎水性相互作用と水素結合は、タンパク質の三量体立体構造を保持する。H227は、三量体形成の間、隣接する分子のR297とスタッキング相互作用を形成するように見える。さらに、E302は、K301と分子間水素結合相互作用を形成する。
Nagluは、6つの潜在的なN−グリコシル化部位(N261、N272、N435、N503,N526およびN532)があり、これらの6部位のすべては、結晶構造内でグリコシル化される。N2727とN435の各々に付着した2つのNAG分子およびN261、N503、N526とN532の各々に付着した1つのNAG分子の明確な電子密度は、2.4Å解像度での電子密度図で見られた。残りのグリカン構造は、糖部分が露出した溶媒の柔軟性のため、電子密度図で明瞭に見えない。
Nagluの構造情報は、Nagluの安定性分析および分子レベルの特徴付けで役立つ。Nagluにはシステインが8個あり、そのうちの4個は、2つのジスルフィド架橋(Cys273−Cys277とCys504−Cys509)を形成する。他の4個(C97、C99、C136およびC405)は、精製および結晶化プロセスの間に還元剤を使用しなくても、結晶構造内に還元したシステインとして現れる。C97とC99は、互いに近接しており、表面近くで部分的に露出している。しかし、C136とC405は、覆われており、構造に基づく分子間ジスルフィド結合を形成することはなさそうである。
現在、利用可能な構造情報に基づいて、サンフィリポB患者の変異体をマッピングすることで、小分子シャペロンの合理的設計など、この疾患に対する将来の創薬の可能性に光明を投じることになると思われる。文献(Yogalingam 2001)で報告されている重度のサンフィリポBの変異体は、結晶構造上にマッピングされている。変異体の数個のクラスターは、活性部位、ドメイン−III内に3つのグリコシル化部位を含むループ、および3つのドメイン間の界面など、構造的領域または機能的領域に関連し得る(図10)。加えて、変異体のクラスターは、N末端のドメイン−IおよびC末端のヘリックス束ドメイン−IIIに見られ得る。変異しているこれらの残基の大部分は、水素結合相互作用および他の非共有結合相互作用の一部であり、且つNagluの構造安定化に関与している。
実施例2:rhNagluおよびNaglu−IGFIIのin vitro試験
サンフィリポB患者線維芽細胞の2種類の株であるGM02391(P359L)およびGM01426(E153K)、ならびに正常ヒト線維芽細胞系を用いて、Nagluの各変異体による細胞内取り込みの機序が研究されてきた。線維芽細胞は、その細胞系でM6P受容体が発現されることを理由に、リソソーム酵素の細胞内取り込み試験のために、研究者により伝統的に使用されている。
線維芽細胞をrhNagluまたはNaglu−IGFIIとともに37℃で4時間、インキュベートすることにより、細胞内取り込み試験を行った。インキュベーション後に細胞を洗浄して溶解させ、細胞溶解物中のNaglu酵素活性を測定した。rhNagluと線維芽細胞とのインキュベーションでは、細胞内に検出可能な酵素はほとんど見られなかった。これに対し、Naglu−IGFIIと線維芽細胞とのインキュベーションでは、細胞内に顕著なレベルの酵素が見られた(図11)。内部に取り込まれたNaglu−IGFIIの量は、インキュベーションに用いる酵素の量を増加させるにつれて飽和に達した。用量依存的な取り込みの飽和は、受容体介在型の細胞内取り込みの典型的な結果である。さらに、Naglu−IGFIIの内部取り込みは、外因性のM6Pによっては阻害されなかったが、外因性のIGFIIによって完全に阻害された(図11)。この結果は、Naglu−IGFIIの線維芽細胞への内部取り込みが、グリコシル化とは無関係にM6P/IGFII受容体に依存することを示しいていた。
また、rhNagluおよびNaglu−IGFIIのリソソームへの輸送を試験する実験も行った。サンフィリポB患者線維芽細胞(GM01426)を本試験に使用した。最初にタンパク質と細胞とインキュベートした後に、細胞を抗ヒトNagluポリクローナル抗体で染色することにより、rhNagluおよびNaglu−IGFIIの検出を調べた。LAMP−1(リソソーム膜タンパク質1)の免疫蛍光染色をリソソームの検出に用いた。rhNagluおよびNaglu−IGFIIのリソソームとの共局在を共焦点顕微鏡により可視化した(図12)。
タンパク質と細胞のインキュベーションの4時間後に、広範なNaglu−IGFIIの内部取り込みが観察され、Naglu−IGFIIとリソソームの共局在が示された。これに対し、同じ時間内でrhNagluの内部取り込みは示されず、リソソームとの共局在は観察されなかった。さらにこの結果は、Naglu−IGFIIが細胞内に取り込まれ、適切な細胞区画であるリソソームへ輸送されるという証拠を与えるものであった。内部の取り込まれたNaglu−IGFIIのサンフィリポB患者線維芽細胞内での半減期は1.5日であると決定された(データ不掲載)。
実施例3:マウスモデルでのin vitro試験
野生型(wt)カニューレ処置ラット
in vivoでの分子スクリーニングには、サンフィリポBマウスモデルに加え、欠損動物モデルではないwtカニューレ処置ラットも用いた。カニューレ処置ラットでは、脊髄の上腰部および下位胸部にカニューレを外科手術によりに埋入し、カニューレからCSFへ35μlの単回注射を行った。この動物モデルを用いた分子スクリーニングで評価した基準は、脳および脊髄のNaglu活性アッセイおよび免疫組織化学であった。
サンフィリポBマウスモデル
サンフィリポBのマウスモデル(Naglu−/−マウス、サンフィリポBマウス)はE.Neufeldらにより作製された(Li HHら,PNAS 96(25):14505−14510;1999)。マウスNaglu遺伝子のエクソン6を、選択マーカーのネオマイシン耐性遺伝子の挿入により破壊する。得られたホモ接合体Naglu−/−マウスは完全にNaglu欠損であり(図13)、全GAGが肝臓および腎臓に蓄積される。Nagluが完全に欠損しているにもかかわらず、このマウスは全般的に健康であり、寿命が8〜12か月ある。約5か月齢で他のリソソーム酵素発現の変化が起こり、このような変化としては、肝臓および脳におけるs−ガラクトシダーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルクロニダーゼおよびβ−ヘキソサミニダーゼの代償性増加、肝臓におけるα−L−イズロニダーゼの上昇(脳では見られない)、ならびに肝臓および脳におけるノイラミニダーゼの減少が挙げられる。通常、尿閉および尿路感染症の結果、死亡する。サンフィリポBの病理変化を叙述するために、サンフィリポBマウスモデルが文献中で広く研究されてきた。Naglu−/−マウスのCNS病理に関連する表現型に関しては、4.5か月齢での活動性低下が報告されているが、他の年齢での活動亢進も観察されている。
Naglu−/−マウス神経病理変化に関しては、EM(電子顕微鏡)によるニューロン、マクロファージおよび上皮細胞の空胞および封入体が記載されている。これらの病理変化は通常、33日齢から始まり、マウスの年齢が上がるとともに徐々に悪化する。アストロサイトおよびミクログリア細胞の活性化も組織病理学的解析により示されている。2種類のガングリオシドGM2およびGM3の生化学的分析では、脳における5倍および9倍の増加が示されている(GM2およびGM3はNagluの直接の基質ではなく、短時間のERT後に有意な減少を示すことが困難であり得るため、POCのエンドバイオマーカーとして使用されなかった)。
Naglu酵素活性およびGAGレベルの測定による生化学的分析を行い、また抗ヒトNaglu抗体、抗LAMP−1抗体、抗Iba−1抗体および抗GFAP抗体の免疫組織化学による組織学的解析を行った。本試験で使用した抗ヒトNaglu抗体は、wtマウスの内因性マウスNagluまたはサンフィリポBマウスの変異Nagluとは結合しないマウスモノクローナル抗体であった。LAMP−1免疫染色では、リソソーム膜タンパク質であるリソソーム膜タンパク質−1と結合する抗体を使用した。Iba−1染色では、ミクログリア細胞およびマクロファージ細胞に特異的なイオン化カルシウム結合アダプタータンパク質と結合する抗体を使用した。GFAP染色では、アストロサイトに特異的なグリア線維性酸性タンパク質と結合する抗体を使用した。
サンフィリポBマウスへの頭蓋内(IC)注射によるin vivoでの生物活性スクリーニング
本試験の目的は、Naglu酵素の生物活性をin vivoで評価することであった。本試験では、サンフィリポBマウスの脳へのIC注射によりタンパク質を投与した。本試験のためのサンフィリポBマウスの年齢を8週齢に厳密に一致させた。IC注射経路が、分子の有効性を評価するための最良の計画であった。神経細胞内に取り込まれてリソソーム蓄積を減少させる能力により、Nagluタンパク質を評価した。免疫組織化学を用いて生体内分布を評価した。そして、リソソーム蓄積を、LAMP−1免疫染色法の陽性染色の数および大きさにより特徴付けた。
サンフィリポBマウスの頭蓋から右側大脳皮質への直接注射によりIC注射を行った。各個体に2マイクロリットルまたは35μgのNagluタンパク質を注射した。注射の7日後にマウスを屠殺した。注射の3、7および14日後にマウスを屠殺する予備試験で、屠殺時間を予め定めた。予備試験から、免疫組織化学試験には注射の7日後が最適な時間であることが決定された。脳切片を横断面で切り(図14)、NagluおよびLamp−1による免疫染色を行った。rhNaglu処置およびNaglu−IGFII処置サンフィリポBマウスにおけるニューロンおよびグリア細胞の両方への細胞内取り込みが、抗ヒトNaglu抗体を用いた免疫組織化学により示された(図14〜16)。細胞内取り込みに関して、rhNaglu処置したサンフィリポBマウスとNaglu−IGFII処置したサンフィリポBマウスとの間に有意な差は見られなかった。さらに、rhNaglu処置およびNaglu−IGFII処置マウスの両方の脳組織のLAMP−1免疫染色は、リソソーム蓄積の有意なレベルの減少を示している。rhNaglu処置およびNaglu−IGFII処置群両方におけるリソソーム蓄積減少のレベルは、正常wtマウスとほぼ同じレベルであった。
またリソソーム蓄積の減少は、IC注射後にNaglu−TAT、Naglu−KifおよびPerT−Nagluで試験したサンフィリポBマウスでも観察された(データ不掲載)。本試験により、Nagluのすべての変異体のin vivo生物活性が示された。
別の試験では、Naglu欠損マウスに溶媒を、または代わりに、PBSに溶かした組換えNaglu−IgF−II融合タンパク質構築物(Naglu)を週1回の投与で1回、2回もしくは3回、IT投与した。未処置の野生型マウス群を未処置野性型対照として使用し、Nagluを含まない溶媒を投与した。最後の注射の24時間後にマウスを屠殺した後、免疫組織化学(IHC)および組織病理学解析用に組織標本を作成した。
組換えNagluのIT投与後に、Naglu欠損マウス脳組織へのNagluの分布が明らかであった。図17Aに示されるように、Naglu欠損マウスへの組換えNagluのIT投与では、溶媒をIT投与したNaglu欠損マウスに比べて、白質組織における細胞空胞化の広範な減少がもたらされた。同様に、図17Bに示されるように、形態計測学的解析により、処置マウスの白質組織におけるLAMP1免疫染色が、未処置Naglu欠損マウスに比べて顕著に減少していることが明らかとなり、これは疾患病態の改善を示すものである。
図18A〜18Bに示されるように、評価した脳組織の各領域(皮質、尾状核および被殻(CP)、視床(TH)、小脳(CBL)ならびに白質(WM))では、Naglu処置マウスにおいて、LAMP陽性領域が未処置のNaglu欠損対照マウスに比べて減少し、野性型マウスのLAMP陽性領域にほぼ近かった。Nagluの2回または3回のIT投与(図18B)後に、解析した脳組織の各領域のLAMP陽性領域が、単回投与に比べてさらに減少していたのは特に注目すべきことである(図18A)。
これらの結果により、IT投与したNagluが、Naglu欠損マウスモデルにおいてサンフィリポ症候群B型のようなリソソーム蓄積症の進行を変化させることができることも確認され、さらに、IT投与したNagluのような酵素が、サンフィリポ症候群B型のようなリソソーム蓄積症に伴うCNS発症を治療することができることも確認される。
wtカニューレ処置ラットへの髄腔内(IT)注射による分子スクリーニング
本試験は、ポートによる薬物投与アプローチを直接模倣するものである。脳実質内への生体内分布を判定するために、Nagluタンパク質をIT注射によりwtカニューレ処置ラットに投与した。
これらのラット内にあるカニューレは、脊髄の上腰部および下位胸部に留置されていた(図19)。ラットに35μlまたは385μgのrhNaglu、Naglu−TAT、Naglu−IGFIIおよびPerT−Nagluをカニューレから注射した(溶解度の限度により、Naglu Kifは38.5μgしか注射されなかったが、これは他のNagluの10倍少ない)。注射の4時間および24時間後に屠殺を行った。
脳および脊髄の組織を採取し、Naglu活性アッセイによる測定を行った。処置個体の脳では、Naglu−TATおよびNaglu−IGFII処置個体が、rhNagluおよび他のすべてのNaglu変異体で処置した個体よりも高い活性を示した(図20)。全般的な傾向として、全処置個体において、脊髄でのNaglu活性の方が脳での活性よりも有意に高かった(データ不掲載)。この現象は、IT注射に近い部位ほどタンパク質が多く吸収されたことを示しているのかもしれない。
免疫組織化学解析により、IT注射の24時間後のNaglu−IGFII処置群の脳における生体内分布が、他のすべてのNaglu変異体で処置した群よりも広範であることが示された(図21および図22)。rhNaglu処置個体では、タンパク質が脳の髄膜でのみ観察された。脊髄切片では、IHCにより、灰白質ニューロンでのrhNagluの細胞内取り込みがいくらか示されたが、その程度は脊髄ニューロンでのNaglu−IGFII取り込みに比べれば、はるかに少なかった(データ不掲載)。
Naglu−TATをIT注射した群では、脳組織において最も高いNaglu活性が生化学的分析により観察されたが、IHCでは、髄膜に留まっているだけで、脳実質内へのNaglu−TATの浸透は示されなかった。IT注射後の脳でのNagluの細胞内取り込みがM6P/IGFII受容体に依存することの有力な証拠である、髄膜を越えた生体内分布が、Naglu−IGFIIを除く他のすべてのNaglu変異体において示されなかった。本試験により、Naglu−IGFIIがサンフィリポBのための薬物開発のリード分子であることが示された。
実施例4:NAGLU−IGFIIを用いた概念実証試験
実験計画
サンフィリポBマウスにおけるNaglu−IGFIIのIT注射後の生体内分布およびリソソーム蓄積の逆転の両方を示すための概念実証試験を計画した。本試験では、3群の8週齢のサンフィリポBマウスをNaglu−IGFIIのIT注射により処置した。各IT注射は、10μl体積または260μgのNaglu−IGFIIであった。処置群は、1回注射群、2回注射群および3回注射の3つであった。1回注射群では、0日目にタンパク質の単回投与を行った。注射の24時間後にマウスを屠殺した。2回注射群では、0日目と7日目に2回のIT注射を行い、最後の注射の24時間後にマウスを屠殺した。3回注射群では、0日目、7日目および14日目にIT注射を行い、最後の注射の24時間後にマウスを屠殺した。3群の溶媒処置マウスも含まれていた。溶媒対照群では、サンフィリポBマウスに処置群と同じ時間間隔で溶媒を注射し、処置群と同じ方法で屠殺した。
試験結果の評価には、生化学的分析および組織学的解析の両方を適用した。生化学的分析には、組織中の酵素量を測定するNaglu活性アッセイおよびリソソーム蓄積の減少を評価する総GAGアッセイが含まれていた。肝臓および脳が生化学的分析の2つの対象組織であった(図23および図24)。組織学的解析には、形態学的評価のための組織のH&E染色(データ不掲載)、ならびに抗ヒトNaglu抗体、LAMP、IbaおよびGFAPによる免疫組織化学染色(IbaおよびGFAP染色は不掲載)が含まれていた。
本試験で使用した抗ヒトNaglu抗体は、wtマウスの内因性マウスNagluまたはサンフィリポBマウスの変異Nagluと結合しないマウスモノクローナル抗体であった。AMP−1免疫染色では、リソソーム膜タンパク質と結合する抗体を使用した。Iba−1染色では、ミクログリア細胞およびマクロファージ細胞に特異的なイオン化カルシウム結合アダプタータンパク質と結合する抗体を使用した。GFAP染色では、アストロサイトに特異的なグリア線維性酸性タンパク質と結合する抗体を使用した。
Naglu免疫蛍光法の代表的な顕微鏡像を図25に示す。代表的な脳の断面図を図26に示す。Naglu−IGFIIは、髄膜に近い大脳皮質内では検出されたが、尾状核、視床および白質のような皮質下領域では見られなかった(データ不掲載)。同じ皮質下領域におけるLAMP−1、Iba−1およびGFAPの免疫染色ではリソソーム蓄積の逆転が確かに示されたことから、深部脳領域においてNaglu免疫染色が陰性であったのは、おそらくNaglu免疫蛍光法の感度が原因である考えられた。
Lamp−1免疫染色の代表的な顕微鏡像を図27〜図31に示す。タンパク質の分布および有効性の程度を示すために、大脳皮質、尾状核、視床および白質のような皮質下領域、ならびに小脳皮質を免疫組織化学解析のために選択した。Iba−1およびGFAP免疫染色の結果から(データ不掲載)、LAMP−1免疫染色で見られたものは、ニューロンに加え、サンフィリポBマウスモデルにおいて冒されることが報告されている2つの細胞型であるミクログリア細胞およびアストロサイト(Li,2002,Ohmi 2002)における変化の複合効果であることが示された。技術的限界により、ニューロンにおけるリソソーム蓄積をLAMP−1免疫染色で明らかにすることはできなかった。ニューロンで空胞および封入体のようなリソソーム蓄積を最も良好に観察するためには、電子顕微鏡法を通常用いる(本試験にはEMは含まれていなかった)。
細胞型の同定がニューロンおよびグリア細胞に限定されていたことが理解されるであろう。ニューロンは一般に、1つ以上の濃染した核小体を含む比較的大型で淡色の核、および頻繁に検出される細胞質により同定された。グリア細胞は一般に、小型で濃い核および目立たない細胞質により同定された。異なる型のグリア細胞、例えばアストロサイト、ミクログリア細胞、上衣細胞およびオリゴデンドロサイトなどの区別は通常、細胞型に特異的なマーカーでの染色により行うのが最も良い。
Naglu−IGFIIのIT注射後の大脳皮質、尾状核、視床、白質および小脳において、LAMP−1免疫染色により示されたリソソーム蓄積の減少に加え、ミクログリア細胞の大きさおよび突起の数の減少がIba−1免疫染色により示され、またアストロサイトの細胞の大きさおよび突起の長さ/数の減少がGFAP免疫染色により示された(データ不掲載)。さらに、免疫組織化学で調べたものと同じ領域の脳組織のH&E染色(ヘマトキシリンおよびエオシン)による組織病理学的解析では、Naglu−IGFIIの3回のIT注射後のグリア細胞内において空胞の減少が示された。また上記の結果はすべて、Naglu−IGFIIのIT注射用量依存的効果も示していた。
Naglu−IGFIIのIT注射後のサンフィリポBマウスの生化学的分析では、Naglu活性が脳および肝臓で検出された。脳および肝臓における総GAGの減少により、Naglu−IGFIIの有効性が示された。免疫組織化学により、脳の実質におけるNaglu−IGFIIの生体内分布が示された。脳の大脳皮質領域だけでなく、脳の皮質下領域である白質および小脳皮質においても、リソソーム蓄積の減少、ミクログリア細胞およびアストロサイトの大きさおよび突起の減少がLAMP−1、Iba−1、GFAPの免疫染色、およびH&E染色による組織病理学的解析により示された。
結論
特に、融合タンパク質のNaglu−IGFIIが、Nagluの天然の基質と同様の構造を有する基質に対してin vitro酵素活性を示すということが示された。in vitroの細胞内取り込み試験により、この分子が、M6P/IGFII受容体によりM6Pグリコシル化とは無関係に細胞に取り込まれることが示された。内部に取り込まれたNaglu−IGFIIはリソソームと共局在することが示された。Naglu−IGFIIは、サンフィリポBマウスへのIC注射後にin vitroでリソソーム蓄積を減少させることが示された。Naglu−IGFIIは、rhNagluならびに他のNaglu融合型および修飾型に比べて、IT注射後のwtカニューレ処置ラットの脳実質内への浸透において、これらすべてのものよりも優れていた。最後に、サンフィリポBマウスへのNaglu−IGFII融合タンパク質のIT注射により、髄膜を十分に越えた広範な分布が示され、また大脳皮質および皮質下領域におけるリソソーム蓄積の逆転が観察された。まとめると、これらのデータは、Naglu−IGFIIがサンフィリポB疾患治療のための候補薬物であることを示している。
実施例5:NAGLU−IGFIIの毒性、薬物動態(PK)および組織生体内分布試験
マウスでの概念実証試験
3群(n=3)のNaglu(−/−)マウスに、260μgのNaglu−IGFIIを含む10μLを単回ボーラスIT腰椎注射により投与した。260μgの用量は、520mg/脳重量kgの用量(マウスの脳=0.0005kg)に置き換えられる。1つ目の群では、0日目に注射を行い、注射の24時間後に屠殺を行った。2つ目の群では、0日目と7日目に注射を行い、最後の注射の24時間後に屠殺を行った。3つめの群では、0日目、7日目および14日目に注射を行い、最後の注射の24時間後に屠殺を行った。各Naglu−IGFII投与群を、年齢/疾患重症度に関する対照となる溶媒対照グループと対にした。
脳および肝臓におけるNaglu酵素活性は、3つのNaglu−IGFII投与群とも同等であった。NAGLU酵素活性を肝臓と脳で比較すると、肝臓において10倍以上のrhNaglu酵素活性が見られた。ラットおよび幼若ザルでのピボタルな毒性試験における投与の1か月、3か月および6か月後のrhHNS酵素活性のレベルが、脳および肝臓において同等であったことから、Naglu(−/−)マウスに投与したrhNaglu用量の一部は、ITではなく全身に送達されたということが考えられた。それでも、3回のIT注射後には、脳における総GAGレベルが統計的に有意な減少を示した(p<0.05)。肝臓においては、総GAGレベルが減少するという用量依存的傾向が見られ、これは2回または3回投与した群において統計的に有意であった(p<0.05)。
IT注射後のNaglu−IGFIIの生体内分布が、髄膜を十分に越えた脳実質内で観察されたが、深部皮質下領域は抗Naglu抗体による免疫染色で陰性であった。リソソーム膜タンパク質(LAMP)免疫染色によるリソソーム活性の減少が、2回または3回投与した群でのみ観察された。リソソーム活性が減少した領域には、大脳皮質ならびに尾状核、視床および白質の深部皮質下領域が含まれていた。したがって、Naglu−IGFII投与個体での各種免疫染色パラメータの減少は、抗NAGLU免疫染色が見られないにもかかわらず、治療レベルのNAGLUが存在し得ることを示していた。2回または3回投与した群においてのみ、アストロサイトのグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)免疫染色の減少およびミクログリア細胞/マクロファージのイオン化カルシウム結合アダプター分子(Iba)染色の減少により、炎症性応答の減弱が明らかとなった。解析した領域には、大脳皮質ならびに尾状核、視床および白質の深部皮質下領域が含まれていた。
ラットでの試験
IT投与したNaglu−IGFIIの毒性学的評価のためのげっ歯類として、S−Dラットを選択した。その結果、16匹のラット(雌雄それぞれ8匹)に、組換えNaglu−IGFIIを3日おきに、最大投与可能用量(MFD)ならびにMFDの約1/4および1/2(それぞれ低用量レベルおよび中用量レベル)で、合計8回投与した。
単回投与でのPK/生体内分布試験をS−Dラットで行い、雌雄の個体にIT−L投与した後、CSFおよび血清中濃度または組織分布をそれぞれ決定した。
Naglu−IGFIIのIT−L投与を、毒性学および安全性薬理学(神経、呼吸器および心血管の安全性)の観点から雌雄両方の個体で評価するための毒性学試験を計画した。本試験の毒性学的評価には、臨床観察、体重、摂餌量、臨床病理学、適切な安全性薬理学的評価(身体検査および心電図検査による)、肉眼的組織評価および顕微鏡評価が含まれる。限られた数のCSFおよび血清試料を採取し、Naglu−IGFIIに関して、および被検試料に対する抗体に関して解析する。Naglu−IGFIIの組織分布および細胞内局在を、それぞれ酵素活性アッセイおよび免疫組織化学により定量化する。さらに、選択した試験には、あらゆる重要で顕著な毒性学的所見の可逆性、または遅発性出現の可能性を評価する回復期間が含まれる。
サルにおける試験
カニクイザルが遺伝的および解剖学的にヒトに類似しており、より適切な種であると考えられたため、IT投与したNaglu−IGFIIの毒性学的評価のためのげっ歯類以外の種としてこれを選択した。サンフィリポBの臨床試験で計画されている患者集団が小児であるため、Naglu−IGFIIの髄腔内薬物送達装置(IDDD)による投与に関する慢性の6か月間の毒性学試験を幼若カニクイザルで行う。幼若カニクイザルは一般に、試験開始時の年齢が1歳未満(約7〜9か月齢)であり、試験開始時の体重が900g〜1,500gの間である。1か月間の反復投与による幼若カニクイザル毒性試験から得られたデータを、用量レベルの選択および6か月間の幼若ザル試験の計画の指針とする。反復投与毒性学試験は、予想される1〜6か月の期間にわたる臨床適用経路(IT−Lボーラス)および投与頻度(隔週;EOW)を模倣するように計画されている。
上記のように、毒性学試験は、Naglu−IGFIIのIT−L投与を、毒性学および安全性薬理学(神経、呼吸器および心血管の安全性)の観点から雌雄両方の個体で評価するために計画されている。本試験の毒性学的評価には、臨床観察、体重、摂餌量、臨床病理学、適切な安全性薬理学的評価(身体検査および心電図検査による)、肉眼的組織評価および顕微鏡評価が含まれる。限られた数のCSFおよび血清試料を採取し、Naglu−IGFIIに関して、および被検試料に対する抗体に関して解析する。Naglu−IGFIIの組織分布および細胞内局在を、それぞれ酵素活性アッセイおよび免疫組織化学により定量化する。さらに、選択した試験には、あらゆる重要で顕著な毒性学的所見の可逆性、または遅発性出現の可能性を評価する回復期間が含まれる。
実施例6:NAGLU−IGFIIのEOW髄腔内投与
本実施例は、Naglu−/−マウスモデルにおいて、EOWで6回の注射でのIT腰椎投与(3か月間の試験)の実現可能性を判定するために計画されたものである。本投与レジメンは、週1回の投与よりも臨床的に適切であり得る。
8週齢のNaglu−/−雌雄マウスを以下の実験計画に従って調べた:
肝臓、脳および血清でのNaglu活性アッセイ、血清での抗Naglu抗体アッセイ、ならびに肝臓および脳でのBCAアッセイを含む生理学的試験を行った。脳、脊髄および肝臓でのNaglu IHC、ならびに脳および脊髄でのLamp染色を含む組織学的試験を行った。
脳、脊髄および肝臓を採取し、10%NBFで固定した。5μmのパラフィン切片を組織学的染色用に作成した。Nagluの免疫組織化学的(IHC)染色を用いて、注射したタンパク質の細胞内取り込みを検出した。H&E染色を用いて形態学的変化を観察した。リソソームの活性および病的状態の指標であるLAMP、活性化したアストロサイトおよびミクログリア細胞に対する2つのCNS病理マーカーであるGFAPおよびIba−1を、組織病理学的改善の評価に用いた。
溶媒処置およびNaglu−IGFII処置マウスの脳、脊髄および肝臓におけるNaglu免疫染色では、脳および脊髄において、注射したNagluが髄膜(M)でのみIHCで検出され、Naglu陽性染色は他のどの領域でも検出されないことが示された(図32)。肝臓においては、類洞細胞(S)がNaglu陽性であり、肝細胞(H)ではNaglu取り込みが見られなかった。
溶媒処置およびNaglu−IGFII処置マウスの肝臓および脊髄におけるLAMP免疫染色およびH&E染色では、溶媒処置個体に比べ、Nagluで処置した肝臓および脊髄の両方の全体にわたりLAMP染色が減少していることが示された。H&E染色により、処置群では溶媒処置個体に比べ、肝細胞における細胞空胞化が明らかに減少していることが示された(図33および図34)。
溶媒処置およびNaglu−IGFII処置マウスの脳におけるH&E染色では、3か月間のNaglu−IGFIIの6回の隔週IT注射後に、脳における形態学的改善が示された。処置群の脳では、全検査領域の細胞空胞化(矢印)が溶媒群に比べて減少していた(図35)。
3か月間の6回のIT Naglu注射後の各種脳領域におけるLAMP IHCでは、SFBマウスへのNaglu IT投与により、溶媒処置群に比べ、全検査領域においてリソソーム活性が減少していることがLAMP免疫染色で明らかに示された(図35)。この減少は、LAMP陽性細胞の数が減少していること、細胞の大きさが小さいこと、および染色が明るいことを特徴とした。他の脳領域に比べて、脊髄に近い脳の尾状核の位置にある小脳および脳幹において顕著な減少が見られた。また、白質、海馬および視床を含めた深部脳領域でも明らかな減少が見られた。
3か月間の6回のIT Naglu注射後の各種脳領域におけるIba IHCでは、ミクログリア細胞の活性化が明らかとなった(図36)。Naglu処置群において、溶媒処置群と比べて、陽性細胞数および染色強度の減少は見られなかった。しかし、検査したすべての脳領域において、陽性ミクログリア細胞の細胞形態が、溶媒群の大型で空胞のある細胞に比べて細胞の大きさが小さくなって変化していた(挿入図)。
3か月間の6回のIT Naglu注射後の各種脳領域におけるGFAP IHCでは、アストロサイトの活性化が明らかとなった(図37)。溶媒処置群に比べて、GFAP陽性染色が小脳および脳幹では減少し、他の検査領域ではわずかに減少していた。
細胞内取り込みに関しては、これらのデータは、脳および脊髄において、3か月間の6回の隔週Naglu IGFII IT注射の後のみでNagluが髄膜細胞で検出されたことを示している。脳および脊髄の他のどの領域でも、NagluはIHCにより検出されなかった。肝臓では、Naglu陽性染色が類洞細胞で見られた。
脳および脊髄において、3か月間のNaglu−IGFIIの6回の隔週IT注射後に、IHCでは注射したNagluが検出されなかったが、脳および脊髄全体にわたり組織病理学的改善が見られた。H&E染色では、検査したすべての脳領域で細胞空胞化の減少が示された。処置群の脊髄の全体にわたり、および深部脳領域である白質、海馬および視床を含む評価したすべての脳領域で、LAMP染色が減少し、Naglu−IGFII処置群の小脳および脳幹では顕著な減少が見られた。アストロサイトに対するGFAP染色の染色減少パターンは、LAMPほど劇的な減少ではなかったが、LAMP染色と一致していた。Iba−1染色により、検査したすべての脳領域において、ミクログリア細胞の大きさの減少が示された。肝臓では、H&E染色により細胞空胞化の減少が示され、Naglu処置群においてはLAMP染色の顕著な減少が見られた。
実施例7:サンフィリポB患者の治療
例えばIT送達による、CNSへの直接投与を用いて、サンフィリポ症候群B型(サンフィリポB)患者を効果的に治療することができる。本実施例は、サンフィリポBの患者に対して、隔週(EOW)、全40週で、髄腔内薬物送達装置(IDDD)により投与する、3用量レベルまでのNaglu−IGFIIおよび/またはrhNagluの安全性を評価するために計画された、多施設用量漸増試験を示すものである。ヒト治療に適した髄腔内薬物送達装置の様々な例を、図38〜41に図示する。
最大20患者まで登録:
コホート1:5患者(最低用量)
コホート2:5患者(中間用量)
コホート3:5患者(最高用量)
無作為に5患者を無治療とする。
以下の基準を含むか否かに基づき、試験する患者を選択する:
サンフィリポAの患者において、40週間、用量を漸増してIT注射により投与するNagluの安全性を判定する。さらに、認知機能に対するNaglu−IGFIIおよび/またはrhNagluの臨床活性、ならびに単回および反復投与の血清中薬物動態および脳脊髄液(CSF)中濃度を評価する。
本明細書に記載の化合物、組成物および方法は、特定の実施形態に従って具体的に記載されているが、後の実施例は単に本発明の化合物を例示するためのものであり、これらを限定することを意図するものではない。
本明細書および特許請求の範囲で使用される冠詞「a」および「an」は、そうでないことが明記されない限り、複数形の指示対象を含むということを理解するべきである。あるグループの1つ以上の要素の間に「または(もしくは、あるいは)」が含まれる請求項または記載事項は、そうでないことが明記されるかまたは文脈から明らかでない限り、1つ、2つ以上またはすべてのグループの要素が所与の製品または工程に存在する、使用されるまたは関連する場合に満たされるものとする。本発明は、グループの中の正確に1つの要素が所与の製品または工程に存在する、使用されるまたは関連する実施形態を含む。また本発明は、グループの2つ以上の要素または全要素が所与の製品または工程に存在する、使用されるまたは関連する実施形態も含む。さらに本発明は、別途明記されない限り、または矛盾もしくは不一致が生じることが当業者に明らかでない限り、列挙されている1つ以上の請求項の1つ以上の制限、要素、条項、記述用語などが、基本請求項に従属する別の請求項に(または関連する他の任意の請求項として)組み込まれるすべての変更、組合せおよび置換を包含するということを理解するべきである。要素が列挙されている場合(例えば、マーカッシュ群またはこれと同様の形式において)、要素の各下位グループも開示され、任意の要素(1つまたは複数)がそのグループから除外され得ることを理解するべきである。一般に、本発明または本発明の態様が特定の要素、特徴などを含むという場合、本発明の特定の実施形態または本発明の特定の態様は、このような要素、特徴などからなる、またはこのような要素、特性などから本質的になるということを理解するべきである。簡潔にするために、これらの実施形態があらゆる場合に正確に本明細書に具体的に記載されているわけではない。本発明の任意の実施形態または態様が、本明細書において具体的に除外されることが記載されているか否かにかかわらず、請求項から明確に除外され得ることも理解するべきである。本発明の背景を説明するために、および本発明の実施に関するさらなる詳細を提供するために本明細書において参照される刊行物、ウェブサイトおよびその他の参考資料は、参照により本明細書に組み込まれる。