JP2013237925A - 鋼製部材の溶接部塗装後耐食性改善方法および鋼製部材ならびに鋼製部材の製造方法 - Google Patents

鋼製部材の溶接部塗装後耐食性改善方法および鋼製部材ならびに鋼製部材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】足回り部材等、自動車部材をはじめとする鋼製部材の溶接部における塗装後耐食性を改善するための方法および鋼製部材ならびに鋼製部材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】鋼板同士を溶接接合してなる鋼製部材の溶接部に亜鉛粒子を噴射し、前記溶接部を亜鉛層で被覆する鋼製部材の溶接部塗装後耐食性改善方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車の足回り部材等に好適な、鋼板同士を溶接接合してなる鋼製部材に係り、特に溶接部における塗装後耐食性を改善する方法、鋼製部材および鋼製部材の製造方法に関する。
自動車や建築、電気機器などの分野では、炭素鋼を接合するために、一般にはArに20vol%程度のCOを混合させたシールドガス中で溶接を行う消耗電極式のアーク溶接が用いられる。更に、これら炭素鋼を接合して得られる部材は、耐食性を確保するため、溶接の後、引き続き電着塗装されることが多い。しかしながら、電着塗装を施しているにもかかわらず、使用が長期間にわたる場合や、厳しい腐食環境に晒される場合に、溶接部を起点として腐食が発生するという課題がある。
この塗装後の腐食は、溶接部、すなわち溶接ビード直上および溶接ビード止端部等の溶接ビード部や溶接熱影響部(溶接ビード部裏側を含む)から発生し、経時に伴い溶接部とその周辺を含む広い範囲で塗膜膨れを生じながら深く腐食が進む傾向がある。このようにして腐食が進行すると、溶接部と溶接部近傍の肉厚が減少して強度が低下する。そのため、使用中に特に溶接部が荷重を受けるような部材、例えば自動車の足回り部材では、強度不足によって部材そのものが破壊する可能性もある。
自動車部材の中でも特に自動車の足回り部材(例えば、ロアアーム等)は、強度や耐食性を確保する目的で比較的厚肉とされていることから、自動車の足回り部材の高強度薄肉化は、自動車車体の大幅な軽量化につながり、自動車燃費向上に極めて有効である。そのため、自動車の足回り部材には、薄板の高強度鋼板がその素材として適用されつつある。高強度鋼板を用いて自動車の足回り部材等を製造するに際しては、通常、高強度鋼板を加工、溶接によって所望の形状に成形したのち、耐食性を付与する目的で電着塗装が施される。
また、電着塗装を施すに際しては、その前処理としてリン酸亜鉛処理に代表される化成処理が施される。この化成処理は、基材となる鋼板と電着塗装によって形成される塗膜との密着性を向上させる目的で為される処理である。例えばリン酸亜鉛処理の場合には、基材となる鋼板および溶接部の表面にリン酸亜鉛結晶を成長させることにより、基材と塗膜との密着性を向上させている。しかしながら、このような措置が採られているにもかかわらず、経時に伴い溶接部およびその周辺で腐食がたびたび観測される。
以上のように、溶接部およびその周辺の耐食性向上は常に重要な課題とされている。ここで、かかる課題を解決すべく、自動車用部材等の部材を形成する基材として亜鉛系めっき鋼板が用いられる場合がある。しかしながら、亜鉛系めっき鋼板を加工、溶接によって所望の形状に形成する際、溶接時の加熱により溶接部周辺の亜鉛めっきが局部的に蒸発してしまう。そのため、非めっき材に比較すると耐食性向上の効果は認められるものの、その効果は限定的である。
溶接部およびその周辺に見られる腐食に関する課題に対しては、従来検討がなされており、その主な要因は(1)溶接部の主に溶接ビード直上に付着したスラグ、(2)溶接部に付着した溶接ヒューム、(3)溶接部の表面酸化、が挙げられる。
上記(1)〜(3)のように、スラグや溶接ヒュームが付着したり表面酸化が生じた部材に化成処理を施しても、溶接部およびその周辺において、化成処理層が形成されない領域が残る。このようにして化成処理層が形成されない領域では、電着塗装時に塗膜の付き回りが不十分となったり、形成される塗膜の密着性を十分に確保することができないため、耐食性が著しく低下し、腐食の発生・進行に伴い部材の肉厚が減少する。
上記した問題を解決するために、例えば特許文献1には、アーク溶接後に電着塗装される構造体の溶接部およびその周辺の塗装後耐食性を改善する技術に関し、電着塗装前の溶接部およびその周辺に、pHが2以下で液温が30℃以上90℃以下の非酸化性の酸を用いたスプレー処理もしくは浸漬処理を施す技術が提案されている。そして、かかる技術によると、構造物を形成する母材や溶接ビードを、上記した特定の酸性溶液で溶解することにより、母材表面や溶接ビード表面のスラグを除去することが可能とされている。また、溶接ヒュームや溶接熱影響部等の母材表面における表面酸化に起因して生じた酸化物を、上記した特定の酸性溶液で溶解除去することが可能とされている。
また、特許文献2には、耐食性向上のために溶接後に電着塗装されることを前提とした炭素鋼のガスシールドメタルアーク溶接に関し、シールドガス中の酸化性ガス(CO、O)の量を低減する技術が提案されている。そして、かかる技術によると、スラグの発生が抑制されて電着塗装性が向上すると同時に、熱影響部での酸化が抑えられると共に溶接ヒューム付着が抑えられて、溶接部およびその周辺の塗装後の耐食性が改善するとされている。
さらに、特許文献3には、耐食性向上のために溶接後に電着塗装されることを前提とした炭素鋼のガスシールドメタルアーク溶接に関し、母材と溶接ワイヤに含まれる合計Si量を低減する技術が提案されている。そして、かかる技術によると、スラグの原因となるSiの含有量が低減される結果、スラグの発生が抑制されて塗装後の耐食性が改善するとされている。
さらに、特許文献4には、溶接後に重防食塗装される構造体の溶接部の耐食性を改善する技術に関し、どぶ漬けの亜鉛めっきを施した後、シリケート系塗装材料により塗装する技術が提案されている。そして、かかる技術によると、構造物を形成する母材や溶接ビードを、上記した亜鉛層で被覆し、亜鉛と化学結合型接着を発現するシリケート系塗装材料により塗装することにより、構造物全体の耐食性が改善するとされている。
さらに、特許文献5には、溶接ままで使用される構造体の溶接部の耐食性を改善する技術に関し、溶接部に、Al、Al−Zn合金、Zn、Zn合金の金属粒子とセラミックあるいは焼入れ鋼の硬質粒子を混合した粉末を噴射する技術が提案されている。そして、かかる技術によると、構造物を形成する母材や溶接ビードを、上記した原料粉末で噴射すると、ピーニング効果により溶接部の引張残留応力が低減して耐食性が改善するとともに、溶接部の疲労強度をも改善することが可能とされている。
特開平09−20994号公報 特開平08−33982号公報 特開平08−33997号公報 特開2003−253471号公報 特開2007−308737号公報
しかしながら、前述の従来技術には以下のような問題点がある。
特許文献1で提案される技術では、溶接部およびその周辺に、特定の酸性溶液を用いたスプレー処理もしくは浸漬処理を施しているが、塗装工程前に上記酸性溶液を洗浄することが必要となり、構造体や部材の製造工程が煩雑となる。また、鋼板を加工、溶接して所望の形状に成形された部材は、複雑多様な形状である。そのため、上記洗浄時、酸性溶液が十分に洗浄しきれずに部材の隙間に酸性溶液が滞留する場合があり、激しい腐食を誘発してしまうことがある。さらに、酸性溶液を使用するため、製造設備そのものが腐食環境に晒されることになり、設備が腐食してしまうことや、廃液や酸性溶液のヒュームなどが発生するため環境負荷が大きいことも、大きな問題となる。
また、特許文献2で提案される技術のように、シールドガス中の酸化性ガス(CO、O)の量を低減する場合、スラグが形成されず耐食性が良好になる傾向が認められるが、COガスを低減することで溶接部が不安定になり、溶接ビード溶け込み不良が発生する場合がある。このような溶接ビード欠陥は鋼製部材の強度低下に繋がるため、特許文献2で提案された技術を、自動車部材のように複雑な形状を有する部材に対して適用することは困難である。
また、特許文献3で提案される技術のように、母材と溶接ワイヤの組成を制限し、スラグの原因となるSi量を低減すれば、溶接部およびその周辺の塗装後の耐食性改善が期待できる。しかしながら、Siは、鋼板強度の向上に極めて有効な元素であり、近年、自動車の軽量化を目的として、Siを多く含む高強度鋼板の適用が拡大しつつある。このような趨勢に反し、特許文献3で提案された技術では、Si量を低減した鋼板を適用することが必要となるため、鋼板の板厚を薄くすると所望の強度を確保することができない。よって、特許文献3で提案された技術では、自動車軽量化の効果を期待することができない。
また、特許文献4で提案される技術のように、構造物を形成する母材や溶接ビードを、どぶ付けの亜鉛めっきで被覆し、亜鉛と化学結合型接着を発現するシリケート系塗装材料により塗装すれば、構造物全体の耐食性が改善することが期待できる。しかしながら、自動車足回り部材では、塗装の付き回り性が重要であり、塗装の付き回り性に優れたカチオン電着塗装が主流として用いられる。カチオン電着塗料にシリケートが添加剤として使用されることはあるが、カチオン電着塗装に代えて、シリケート系塗装材料を自動車用に適用することはできない。
また、特許文献5で提案される技術のように、溶接部に、Al、Al−Zn合金、Zn、Zn合金の金属粒子とセラミックあるいは焼入れ鋼の硬質粒子を混合した粉末を噴射すれば、溶接部の引張残留応力が低減することが期待できる。しかしながら、硬質粒子を混合すると耐食性の低下や化成処理性の低下に繋がるため、自動車用に対して適用することはできない。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、足回り部材等、自動車部材をはじめとする鋼製部材の溶接部における塗装後耐食性を改善するための方法および鋼製部材ならびに鋼製部材の製造方法を提供することを目的とする。
塗装後耐食性を改善するためには、鋼製部材の溶接部の強度など機械特性をそのまま維持しつつ、腐食要因を抑制、除去あるいは無害化することが重要である。腐食要因を抑制するためには、スラグ成分であるSi、Mn、Tiなどの元素を低減する、若しくは雰囲気の酸化性を低減する必要があるが、その場合、溶接部に必要な機械特性を満足することが極めて困難である。腐食要因を除去する方法としては、例えば化学的手法により除去する場合、スラグなどの酸化物が不活性なため、腐食性の液を用いて母材を含めて処理しなければならず、腐食要因を除去することは非常に困難である。また、機械的に除去する場合、母材を損傷せずにスラグや酸化物だけを除去して部品の品質を保つことが必要であるため、選択的にスラグや酸化物を取り除くことは非常に困難である。
そこで、本発明者らは、溶接部に亜鉛粒子を噴射し、溶接部に亜鉛層を形成させることにより、化成処理性を改善し、塗装欠陥を抑制することができ、その結果、腐食要因を無害化できることを見出した。
本発明は、以上の知見に基づき、鋭意研究を重ねた結果完成されたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]鋼板同士を溶接接合してなる鋼製部材の溶接部に亜鉛粒子を噴射し、前記溶接部を亜鉛層で被覆することを特徴とする鋼製部材の溶接部塗装後耐食性改善方法。
[2]前記亜鉛粒子の噴射温度が100℃以上400℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の鋼製部材の溶接部塗装後耐食性改善方法。
[3]前記亜鉛粒子の平均粒径が2μm以上50μm以下であることを特徴とする[1]または[2]に記載の鋼製部材の溶接部塗装後耐食性改善方法。
[4]前記亜鉛層の厚さが5μm以上100μm以下であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の鋼製部材の溶接部塗装後耐食性改善方法。
[5]前記亜鉛粒子の噴射圧力が1.0MPa以上5.0MPa以下であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の鋼製部材の溶接部耐食性改善方法。
[6]前記鋼製部材が自動車の足回り部材であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載の鋼製部材の溶接部塗装後耐食性改善方法。
[7]鋼板同士を溶接接合してなる鋼製部材の溶接部に亜鉛層が被覆されていることを特徴とする鋼製部材。
[8]鋼板同士を溶接接合してなる鋼製部材の溶接部に亜鉛粒子を噴射することにより、前記溶接部に亜鉛層を被覆させることを特徴とする鋼製部材の製造方法。
本発明によれば、鋼製部材の溶接部に亜鉛粒子を噴射することにより、腐食要因とされるスラグ、酸化物の一部が取り除かれるとともに、残存するスラグ、酸化物については亜鉛層で被覆される。これにより本来不活性であった鋼製部材の溶接部およびその周辺の表面が活性な亜鉛層に置き換わるため、欠陥のない健全な化成処理、電着塗装を施すことができる。その結果、塗膜密着性が改善されるため、従来の溶接のみによる鋼製部材に比べて塗装後耐食性を著しく改善することができる。
評価に用いた隅肉溶接試験材を示す簡略図である。(実施例1) 溶接部周辺の健全性評価を行う位置を示す図である。 腐食促進試験のサイクルを示す図である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明は、鋼板同士を溶接接合してなる鋼製部材の溶接部に亜鉛粒子を噴射することを特徴とする。亜鉛粒子の噴射により、鋼製部材の溶接部およびその周辺には、亜鉛層が形成される。本来不活性であった鋼製部材の溶接部およびその周辺の表面が活性な亜鉛層に置き換わるため、欠陥のない健全な化成処理、電着塗装を施すことができる。その結果、腐食起点が低減するとともに、塗膜密着性が改善される。なお、本発明において溶接部とは、溶接ビード(直)上や溶接ビード止端部、溶接熱影響部のことを示す。
亜鉛粒子の噴射には、コールドスプレー、プラズマ溶射、フレーム溶射等を用いることができる。特に、コールドスプレーは低温での噴射処理ができるため、溶接部および鋼板に対して熱影響による機械特性などの変化がなく好適である。
噴射する金属粒子としては、化成処理性や耐食性に優れる亜鉛粒子が最適である。亜鉛粒子を溶接部に噴射すると、溶接部およびその周辺に付着しているスラグやヒューム、酸化物の一部がその衝撃によって除去されながら、亜鉛粒子は溶接ビードを含めて溶接部周辺の鋼板表面を被覆する。その結果、亜鉛層が形成される。
亜鉛粒子の噴射温度としては、100℃以上400℃以下が好ましい。噴射温度が400℃以下であれば、亜鉛粒子が溶融することなく被覆できる。また、100℃以上であれば、基板への密着性が向上し、結果として耐食性が特に良好となる。なお、亜鉛粒子の噴射温度とは、後述する粒子を噴出するキャリアガスの温度に相当する。
亜鉛粒子を噴射する範囲としては、例えば、溶接ビードを中心として幅30mm程度が好ましい。これに限定されないが、溶接部は全面被覆されるように噴射し、鋼板が熱影響により変色している部分は可能な限り全面被覆されるように噴射することが望ましい。
噴射する亜鉛粒子の平均粒径は、2μm以上50μm以下が好ましい。ここで、平均粒径とは、レーザー回折・散乱法によって求められた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。亜鉛粒子の平均粒径が2μm以上であれば、鋼板との衝突直前に減速するといった摩擦による影響がなくなる。また、50μm以下であれば母材表面の凹凸の影響を受けなくなるため、亜鉛粒子がより緻密に基板に密着し、塗膜密着性が特に良好となる。
亜鉛粒子の噴射により形成される亜鉛層の厚さは、5μm以上100μm以下が好ましい。亜鉛層の厚さが5μm以上であれば、溶接ビード止端部の形状やスラグの寸法によらず、スラグや酸化物を亜鉛層で完全に被覆することができる。また、100μm以下であれば、皮膜内部応力による密着性低下の影響を受けなくなるため、化成処理性や塗膜密着性が特に良好となる。なお、亜鉛層の厚さは磁気式膜厚計や化学溶解による重量法で測定する。
亜鉛粒子の噴射圧力は、1.0MPa以上5.0MPa以下が好ましい。噴射圧力が1.0MPa以上であれば、亜鉛粒子が十分に変形するため、より亜鉛粒子が溶接部に密着する。その結果、亜鉛層が緻密に形成されるため、塗膜密着性が特に良好となる。また、5.0MPa以下であれば、亜鉛粒子が変形しすぎることがないため、亜鉛層の表面形状が安定となり、塗装後においてより良好な表面外観が得られる。なお、亜鉛粒子の噴射圧力は亜鉛粒子が噴出される際の圧力であり、噴射ノズル手前に設置した圧力計により制御する。また、亜鉛層の形成にあたり、キャリアガスは、N、Heが好ましい。噴射時間としては、1〜3秒が好ましい。
本発明の溶接母材である鋼板としては、特に制限されず、鋼板全般を対象とし、例えば亜鉛めっき鋼板でもよい。また、本発明の溶接方法はアーク溶接であればよく、その種類は特に限定されるものではない。例えば、炭酸ガスシールド溶接、MAGパルス溶接など全般に本発明を適用することができる。
本発明は、ロアアーム等、自動車の足回り部材に対して好適である。自動車の足回り部材は通常、鋼素材を所定形状に成型後、りん酸亜鉛処理(化成処理)および電着塗装を施すことにより製造される。
本発明を用いて製造される鋼製部材では、溶接部およびその周辺に付着しているスラグやヒューム、酸化物を完全に亜鉛粒子で被覆できるため、欠陥のない化成処理、電着塗装を施すことができる。結果として溶接部の耐食性が大幅に改善され、溶接部における腐食および薄肉化が抑制される。本発明によれば、従来困難とされていた足回り部材の大幅な薄肉化が可能となる。
表1に示す成分を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる熱延鋼板(板厚2.6mm)と、表2に示す成分を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる溶接棒を用いて、図1のような隅肉溶接試験材を作製した。溶接は、Ar−20vol%COを用いたMAGパルス溶接で行い、その溶接条件を表3に示す。コールドスプレーにより試験材の溶接部に亜鉛粒子を噴射して亜鉛層を形成した。表4に示すように、亜鉛粒子の噴射温度、粒径、亜鉛層の厚さ、噴射圧力の異なる各試験材を作成した。また、比較例として、Al、Cu、Ni、Ti粒子をそれぞれ噴射した試験片、Zn粒子に硬質粒子(SiO)10質量%を混合した粉末を噴射した試験片、Zn粒子に硬質粒子(Al)10質量%を混合した粉末を噴射した試験片も作製した。コールドスプレーは、プラズマ技研工業株式会社製のPCS−1000を用いて、キャリアガスにN、噴射圧力0.5〜6.0MPa、温度50℃、100℃、350℃、粒子供給量1〜150g/min、噴射時間1〜3秒の条件で行った。なお、噴射時間により亜鉛層の厚さを制御した。また、噴射幅は溶接ビード部を中心に幅30mmとした。
次いで試験片に40℃のアルカリ脱脂液:FC−E2001(日本パーカライジング(株)製、アルカリ度:18.3ptまたは18.5pt)に120秒間浸漬する脱脂処理を施したのち、表面調整処理およびりん酸亜鉛処理を順次施す化成処理を施した。表面調整処理は、脱脂処理後の試験片を、室温の表面調整剤:PL−ZTH(日本パーカライジング(株)製)20秒間浸漬することにより行った。また、りん酸亜鉛処理は、35℃のPB−SX35(日本パーカライジング(株)製、全酸度21.5pt、遊離酸度0.7pt、促進剤濃度4.0pt)に120秒間浸漬することにより行った。
溶接部の化成皮膜の健全性評価は、以下に示す方法で実施した。
溶接ビード上(図2のa点)および溶接ビード止端部(図2のb点)、そして溶接ビード止端部から1mm離れた位置(図2のc点)を走査型顕微鏡(SEM)で観察し(倍率:500および1500倍、各5視野)、観察30視野の領域の全てがりん酸亜鉛結晶で完全に覆われているものを◎(合格)、スケ面積率(りん酸亜鉛結晶が析出していない面積率)が20%以下の状態でりん酸亜鉛結晶が析出しているものを○(合格)、1視野でもスケ面積率が20%越えの状態でりん酸亜鉛結晶が析出しているものを×(不合格)として評価した。
次いで、塗装後密着性および耐食性の評価を行うため、りん酸亜鉛処理後の試験片に自動車用電着塗装(カチオン電着塗装)を施した。電着塗装の膜厚は、平坦部で20±1μmになるように調整した。なお、自動車用電着塗装条件は以下のとおりである。
塗料の種類:商品名GT−10(関西ペイント(株)製)
電着浴の浴温:28℃
負荷電圧:200〜220V(試験片により適宜変更)
焼付け温度:170℃(PMT(=到達板温)として)×20分
塗装後密着性の評価は、塗装外観と塗膜密着性で評価した。塗装外観は光学顕微鏡による観察で判断した。溶接ビード上および溶接ビード止端部に塗膜が欠陥なく完全に被覆されているものを◎(合格)、1mm未満の無塗装の欠陥部が存在するものを○(合格)、1mm以上の塗装欠陥がある場合を×(不合格)とした。また、塗膜密着性は、5質量%NaCl(40℃)に120時間浸漬し、水洗して乾燥し、溶接ビード部を中心として幅50mmの範囲にセロハンテープを貼り付けた後、引き剥がすテープ剥離試験を実施し、塗膜剥離が認められないものを◎(合格)、塗膜の剥離径が長径1mm未満のものを○(合格)、1mm以上のものを×(不合格)とした。
耐食性評価では、電着塗装試験片をSAEJ2334に準拠した腐食促進試験(複合サイクル試験)に供した。すなわち、図3に示すように、各試験片を、(i)相対湿度100%、50℃の湿潤環境に6時間保持したのち、(ii)25℃の塩水(0.5質量%NaCl+0.1質量%CaCl+0.075質量%NaHCO)に15分間浸漬し、次いで(iii)相対湿度50%、60℃の乾燥環境に17時間45分保持する一連のサイクル(i)〜(iii)を平日の5日間行い、休日(土、日)の2日間は上記(iii)に続いて(iv)相対湿度30%、50℃の乾燥環境に3時間保持する一連のサイクル(i)〜(iv)を行った。平日および休日の合計で120サイクルの試験を経た各試験片について、塗膜剥離剤((株)ネオス製、商品名:CS500)を用いて電着塗装を剥離し、ISO8407に準拠して腐食生成物を除去した。各試験片の溶接ビード止端部近傍(試験片の70mm幅方向の両エッジ5mmを除き、溶接ビード止端部より60mmまでの位置)の腐食部について、まず目視で腐食深さの深い部分を選択し、腐食により薄肉化した部分の厚みをマイクロメーターで測定して腐食深さ(元板厚との差)を求めた。これを10回以上繰り返し、最も大きい値を最大腐食深さとして求めた。最大腐食深さが0.7mm未満のものを◎(合格)、0.8mm未満のものを○(合格)、0.8mm以上のものを×(不合格)と判断した。
表4に上記条件で実施した結果を示す。
噴射する粒子を亜鉛粒子にすることにより、良好な化成処理性および塗膜密着性、さらに良好な塗装後耐食性が認められた。また、亜鉛粒子の噴射温度を100℃以上とすることで、耐食性の向上が認められた。また、噴射する亜鉛粒子の粒径を2μm以上50μm以下とすることで、塗膜密着性の顕著な改善効果が得られた。また、亜鉛層の膜厚を5μm以上100μm以下とすることで、化成処理性や塗膜密着性のさらなる改善効果が認められた。噴射圧力を1.0MPa以上5.0MPa以下にすることにより、塗膜密着性の改善効果および塗装外観の改善効果が認められた。さらに上記を組み合わせることにより、より一層良好な塗装後耐食性が認められた。なお、亜鉛以外の金属であるAl、Cu、Ni、Tiを用いた場合、および、Znに硬質粒子を混合した粉末を用いた場合、りん酸亜鉛系の化成処理液に対して、いずれの金属も反応性が低いために化成処理性に劣り、結果として塗膜密着性が低く、塗装後耐食性に劣った。

Claims (8)

  1. 鋼板同士を溶接接合してなる鋼製部材の溶接部に亜鉛粒子を噴射し、前記溶接部を亜鉛層で被覆することを特徴とする鋼製部材の溶接部塗装後耐食性改善方法。
  2. 前記亜鉛粒子の噴射温度が100℃以上400℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の鋼製部材の溶接部塗装後耐食性改善方法。
  3. 前記亜鉛粒子の平均粒径が2μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼製部材の溶接部塗装後耐食性改善方法。
  4. 前記亜鉛層の厚さが5μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼製部材の溶接部塗装後耐食性改善方法。
  5. 前記亜鉛粒子の噴射圧力が1.0MPa以上5.0MPa以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の鋼製部材の溶接部耐食性改善方法。
  6. 前記鋼製部材が自動車の足回り部材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼製部材の溶接部塗装後耐食性改善方法。
  7. 鋼板同士を溶接接合してなる鋼製部材の溶接部に亜鉛層が被覆されていることを特徴とする鋼製部材。
  8. 鋼板同士を溶接接合してなる鋼製部材の溶接部に亜鉛粒子を噴射することにより、前記溶接部に亜鉛層を被覆させることを特徴とする鋼製部材の製造方法。
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