しかし、これら半導体特有の駆動方法および電極構造等は、大容量化に向けた集積光デバイス実現するにあたって、(1)電極配線の肥大化および複雑化と、(2)光変調動作における光吸収および非線形な応答特性が課題となっている。
図1は、2並列入れ子型MZ集積光変調素子をデュアル電極により駆動させる場合の構成を示す図である。第1の課題は、光デバイス集積化に伴う電極配線の肥大・複雑化である。図1のMZ集積光変調素子10(Dual parallel MZ modulators: DPMZMs)では、デュアル電極のための電極配線は、主に簡単な構造であるグランド−シグナル−グランド(G−S−G)型のコプレーナ配線が用いられる。デュアル電極型の光変調素子においては、一組のMZ導波路2、3に対して上下アームそれぞれに高周波配線を設ける必要がある。すなわち、MZ導波路2に対して高周波配線1a、1bが、MZ導波路3に対して高周波配線2a、2bが必要となる。このため、DPMZMsの場合には、合計4本の高周波配線が必要となる。さらに、これら電極配線は等長である必要が望ましい。結果として、電極配線の面積が肥大化してしまい、光変調素子のサイズが大きくなってしまう。この電極配線の肥大化および複雑化の問題は、2並列入れ子型よりもさらに複雑な並列入れ子型MZを作製する際に、より一層顕著となる。光デバイスの集積化には大きな障害となる。
一方、上述のように一組のMZ導波路に対して、1本の高周波配線で駆動可能な単一電極型の半導体光変調器も実現されている。この場合、デュアル電極型の構成と比べて半分の数の高周波配線で変調駆動が可能となる。さらに配線の等長化の条件も緩和されるため、不要な電極配線の肥大化は回避できる。しかしながら、単一電極型の構成を半導体光変調器に適応させるためには、電気的な素子容量の低減が求められる。
図2は、2並列入れ子型のMZ集積光変調素子を容量装荷型の電極により駆動させる場合の構成を示す図である。本構成では、デュアル電極型の構成の場合のG−S−G型コプレーナ配線ではなく、図2に示すように、容量装荷型の電極配線が用いられる。しかしながら、容量装荷型の電極配線であっても、不要に素子長が長くなり、電極設計が複雑化する等といった問題を有している。容量装荷型の電極配線でも、デュアル電極型の場合同様に、電極配線の肥大・複雑化は光デバイスの集積化の課題となる。
第2の課題は、光変調動作における光吸収及び非線形応答特性である。上述した通り、半導体光変調器においては高効率な光変調動作を実現させるために、FK効果やQCSEといった量子効果を、バンド吸収端付近で用いている。このため、変調特性に波長依存性が顕著となる。
図3は、従来技術のMZ半導体光変調器における駆動電圧と光消光比との関係を示す図である。FK効果やQCSEの量子効果を、バンド吸収端付近で用いることによって、図3に示すように、光消光比の最小値を生じさせる駆動電圧値は、波長によって異なり、変調特性の波長依存性が顕著となる。さらには、クラマス・クローニッヒの関係式より、屈折率変化量の増大に伴って、伝搬光の光吸収量を増大させてしまう。その結果、MZ干渉計の各アーム間の光強度がアンバランスとなり、光変調器における消光比等の光変調特性を劣化させる要因ともなる。
図5は、半導体光変調器で利用される半導体に特有の効果の特徴を比較した図である。図5に示した各量子効果の比較のように、FK効果およびQCSEは電界強度の2乗に比例して屈折率が変化し、屈折率は駆動電圧に対して非線形に応答する。このため、光電変換における線形応答性が悪くなり、結果として光信号品質の劣化を招く恐れがある。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、光信号の大容量化および光集積の大規模化に適応することができる、より小型で低ドリフト・高速な半導体MZ光変調素子を簡単な構造によって実現することを目的とする。
本発明は、このような課題を解決するために、請求項1の発明は、閃亜鉛鉱形半導体結晶基板の(110)面と等価な基板上の
に形成されたアーム導波路を有する少なくとも1つのマッハ・ツェンダー(MZ)干渉計を含む光変調素子において、前記アーム導波路のコアに屈折率変化を生じさせる単一の信号電極を備えたことを特徴とする半導体光変調素子である。上記のアーム導波路を形成する方向は、等価な結晶方向も含む。
請求項2の発明は、請求項1の半導体変調素子であって、前記信号電極によって電界が加えられる電界印加領域の半導体コア層は、絶縁または半絶縁性であることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1の半導体変調素子であって、前記信号電極によって電界が加えられる電界印加領域の半導体コア層は、少なくとも第1のn型クラッド層および第2のn型クラッド層によって埋め込まれているか、または、少なくともn型クラッド層およびp型クラッド層によって埋め込まれていることを特徴とすることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1の半導体変調素子であって、前記単一の電極は、前記MZ干渉計の2つのアーム導波路の内側に形成されたコプレーナ線路であり、前記基板面上で、前記コア層を挟んで接地電極と対向しており、前記コアは、前記コプレーナ線路の電極と前記接地電極との間に、前記コア層を囲むように形成された絶縁バッファ層を備え、前記バッファ層を介して前記単一の電極および前記接地電極と接続されていることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項4の半導体変調素子であって、前記単一の電極は、進行波型電極に集中定数型電極を付加した容量装荷型電極構造を持つことを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項1の半導体変調素子であって、前記単一の信号電極は、並走する前記アーム導波路の中央部に配置され、前記アーム導波路の両側に配置された2つのアース電極とともにグランド−シグナル−グランド(G−S−G)コプレーナ型導波路を形成することを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項1乃至6いずれかの半導体変調素子であって、前記単一の電極および前記アース電極によって、プッシュ・プル変調駆動が行われることを特徴とする。
請求項8の発明は、請求項1乃至7いずれかの半導体変調素子であって、前記コアは、積層方向の高さよりも、前記基板に平行な水平方向の幅の方が大きい構成であることを特徴とする。
本発明によって、MZ光変調器をG−S−Gコプレーナ回路上の単一の電極のみによってプッシュ・プル変調駆動させることができる。簡単な電極構造によって、高速・広帯域動作であって、かつ、高消光比でゼロチャープ駆動ができる、高精度な変調が半導体光変調素子を実現できる。従来技術で、多値化された変調方式に対応する直交変調器として用いられてきたLN光変調器と同程度の高消光比および非常に低いチャープ動作等を維持しながら、LN光変調器以上に、より小型で低ドリフト・高速動作が可能な半導体光変調素子を提供することができる。
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書および図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すとする。
本発明の半導体光変調器は、高速で高消光比かつゼロチャープ駆動が可能な半導体マッハ・ツェンダー(MZ)干渉型光変調素子を実現する。(110)面基板上の
にプレーナ型の光変調導波路を作製し、並走する光変調導波路アーム間の中央に単一の信号電極を設ける。単一の信号電極に、基板面と平行な水平方向へ電界を印加することにより、マッハ・ツェンダー干渉型光変調器をプッシュ・プル変調駆動させる。光変調導波路アームを作製する方向は、等価な結晶方向も含む。
図4は、本発明の第1の実施例の半導体光変調器の構成を示す図である。(a)は、変調器40を構成する基板を見た上面図であり、(b)は、上面図の左側(CW側)から見たb―b´線における断面図である。変調器40は、CWが入力される入力導波路と変調光が出力される出力導波路を持ち、2つのMMIカプラ48a、48bの間にアーム導波路が形成されている。本発明の第1の実施例に係る半導体変調器40では、(110)面基板47上の
に半絶縁性(SI:Semi-Insulating)コア層を有するMZ型光変調導波路44a、44bを形成した後で、導波路メサ両側面をn型のクラッド層46およびコンタクト層43で埋め込む。さらに、接地電極42a、42bをはさんだ簡単な構造のG−S−G配線からなる単一の電極41をMZ型光変調導波路44a、44bアーム間の中央に形成する。光吸収を伴わないポッケルス効果によって屈折率を変化させることで、コプレーナ型MZ型光変調器をプッシュ・プル変調駆動する。
図6は、本発明の第2の実施例の半導体光変調器の構成を示す図である。(a)は、変調器60を構成する基板を見た上面図であり、(b)は、(a)の左側から見たb―b´線における断面図である。本発明の第2の実施例に係る半導体光変調器では、(110)面基板67上の
にノンドープコア層を有するMZ型光変調導波路64a、64bを形成した後で、導波路メサ側面を図6に示すようにn型のクラッド層66およびp型のクラッド層69ならびにコンタクト層65で埋め込む。第1の実施例と同様に、単一の信号電極61によってプッシュ・プル変調駆動する。MZ型光変調導波路を作製する方向は、等価な結晶方向も含む。以下、本発明の半導体光変調器の各実施例の構成について図面を用いてより詳しく説明する。
InP等の閃亜鉛鉱構造結晶の場合、電界を[001]方向へ印加することで、
ならびに
のコアの屈折率が、ポッケルス効果によって変化することが知られている。
図5は、半導体光変調器で利用される特有の効果を比較した図である。ポッケルス効果とは、結晶構造に起因した屈折率変化を利用する一次の電気光学効果である。したがって、FK効果やQCSEとは異なり、ポッケルス効果では、下の式(1)に示すように屈折率変化の増減が電界方向に依存し、電界がベクトル成分を有するという特徴がある。
上式で、n0は 結晶屈折率であり、r41はポッケルス定数(ここに単位)である。
特許文献1、2に開示された発明では、(100)基板上の
に光導波路を形成し、基板に垂直な方向である[001]方向([100]方向と等価)に電圧を印加することで、ポッケルス効果に起因した屈折率変化を利用している。一方で基板に平行な方向(水平方向)へ電圧を印加して上述のポッケルス効果に起因した屈折率変化を得ようとする場合、従来用いられてきた(100)基板上では、どのような方向に光導波路ストライプを形成しても、TE偏波またはTM偏波に対してポッケルス効果による屈折率変化は生じない。
これに対し、本発明の半導体光変調器では、図4および図6にそれぞれ示したように、(100)面基板ではなく、(110)面基板上にコプレーナ型光変調器40、60を形成する。本発明の構成の場合には、単一の電極41、61のみによって、
(図4で、基板に平行な水平方向45)へ電界を印加できる。この結果、
に電界成分を有する伝搬光((110)基板を使用する場合はTM偏波光)に対して、位相変調が加えられる。
本発明の半導体光変調器では、MZ干渉計の両アームのコア層44a、44b(64a、64b)の幅が等しい場合には、それぞれのアームに対して互いに逆相であってかつ変化量の絶対値が等しい位相変調を加えることが可能となる。すなわち、ゼロチャープのプッシュ・プル変調駆動が可能となる。特に、ポッケルス効果は電圧印加に起因した光吸収が生じないため、従来技術と比べて変調効率の波長依存性が小さく、広い波長範囲で広帯域動作が可能である。
また本発明の半導体光変調器では、積層方向の高さよりも水平方向の幅の方が大きいコア層に対して横方向から電圧を印加する構成となっており、基板垂直方向から電圧を印加する場合に比べて、デバイスのキャパシタンス容量成分が低減される。このため、本発明の半導体光変調器は、従来技術の構成に比べて、デバイスの高速動作にも適した構造である。
(100)面基板ではなく(111)面基板を用いて、メサ構造の導波路に対して基板に平行な水平方向へ電界を印加したとしても、本発明の(110)面基板を使用する場合以上に、屈折率変化を得ることができない。基板水平方向への電圧印加で位相変調を行う場合には、(110)面基板上の
に導波路ストライプを形成した場合に最大の屈折率変化が得られる。以下、本発明の半導体光変調器のより具体的な実施例について、詳細に述べる。
図4は、本発明の実施例1の半導体光変調器の構成を示す図である。本実施例では、基板47と平行な水平方向にn型のクラッド層46およびSI層44aからなるn−SI−n構造を形成している。結晶成長は,結晶再成長プロセスに適した有機金属気相成長(MOVPE)法によって行い、基板結晶は(110) 面方位の半絶縁性(SI)基板を用いる。なお、(110)面基板では基板表面にIII族原子およびV族原子が均等に露出しており、これが結晶成長における表面モホロジーの劣化を引き起こすと言われている。本実施例においては、(110)面から(111)B面方向へ3°傾けた基板を用いた。これによって、基板表面におけるV族原子の割合を増やし、表面モホロジーの良好な結晶成長膜を得た。
コア層44a、44bのバンドギャップ波長は、動作光波長で電気光学効果が有効に作用しかつ光吸収が問題とならないように決定した。例えば、1.55μm帯の光変調デバイスとする場合には、コア層を発光波長が1.2μmのInGaAsP層によって形成する。1.2μmの波長領域で吸収の生じない、発光波長が1.5μm以下のInGaAsPまたはInGaAlAs等を用いても問題ない。
光変調領域におけるバルクのコア層は、少なくとも駆動電圧範囲内において耐圧が確保されるように1×104Ω・cm以上の抵抗値が確保できるように電子トラップ濃度の下限を設定する。同時に、直流から40GHzの変調周波数範囲で、SIコア層44a、44bの中心付近においても電圧降下が生じるように電子トラップ濃度の上限を設定する。半導体中の電子濃度を低く設定した場合(例えば電子濃度:1×1015cm−3)、上述の上限および下限の範囲を満足する電子トラップ濃度としては、例えば5×1015cm−3以上2×1016cm−3未満の範囲となる。なお、MOVPE装置において寄生的に生成される不純物キャリア(電子濃度)は通常1×1015cm−3から1×1016cm−3程度と一様に定まらない。寄生的な不純物キャリアのため、上述の上限および下限の範囲を満足する電子トラップ濃度も5×1015cm−3以上1×1017cm−3未満程度の範囲で変動する。しかしながら、本発明特有の単一電極による簡単な構成および高速・広帯域動作などの特徴は失われない。
バルクのコア層以外にも、例えば量子井戸構造や量子ドット構造のコア層を用いたとしても本発明特有の有用性は失われない。また、上述の上限および下限の範囲の要求を満たす、例えば、発光波長が1.1μm〜1.5μmのInGaAsPを用いても良い。
SIコア層44a、44bを、例えばコア層厚さが0.6μm堆積した後、光変調素子を光導波路として機能させために、例えばSiO2マスクを用いてドライエッチングによりSI−InP基板が露出するまでエッチング加工し、例えばコア幅が2.0μmのメサ構造を作製する。ここで、SiO2マスクは、
に光導波路を形成するものである。
光変調領域におけるコア層44a、44bの両側面には、結晶再成長によって、コア層のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する例えばn型InPなどのクラッド層46およびn型InGaAsなどの電極コンタクト層43が形成される。これらクラッド層のドーピング濃度は、コア層44a、44bにおいて効率良く電圧降下が生じるように5×1017cm−3以上とすることが望ましい。例えば、n型InPクラッド層46のドーピング濃度を1×1018cm−3とし、n型InGaAs電極コンタクト層43のドーピング濃度を5×1018cm−3とした。上述のn型InPなどのクラッド層46は、これに限られず、図4の(b)に示したように横方向45のように電界が印加できるのであれば、絶縁体などであっても良い。
また、電気的絶縁を確保するために、光変調が行われる領域以外のn型クラッド層46およびコンタクト層43を、ドライエッチングにより除去する。望ましくは、除去された領域に、コア層のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する例えばSI−InPなどのクラッド層を再び結晶再成長によって形成する。
電極コンタクト用に積層される層は、十分な導電性が確保できれば良い。したがって、n型不純物がドーピングされる半導体は、上述のInGaAsだけに限定されず、例えばInGaAsPなどを用いても良い。
上述のn−SI−n構造を形成した後、n型InGaAs電極コンタクト層43上に例えばTiを介したAu電極を形成する。光変調素子に用いられる信号電極は進行波型電極構造であることが望ましいが、この他にも例えば集中定数型または共振型の電極構造でも良い。
SIコア層44a、44bを光電子導波路として機能させるために、図4の(a)に示すように、例えば2つのMMIカプラ48a、48bを搭載したMZ導波路構造として、信号電極41にRF電気信号を入力する。光導波路へはTM偏波の連続(CW)光を入射させる。前述の通りn−SI−n構造はpin構造等とは異なり、正電圧または負電圧の何れを印加した場合でも、SI層において電圧降下が生じる。単一の信号電極41によって、2つのMZアーム導波路にはそれぞれ逆方向の電界が印加される。このため、電界方向に依存して屈折率の増減が変化する電気光学効果(ポッケルス効果)によりMZ光変調器として駆動させることで、単一電極41によるゼロチャープ駆動のプッシュ・プル変調動作が可能となる。
このように本発明によれば、InP(110)面基板上の積層方向に垂直な水平方向にn−SI−n構造が形成されたG−S−Gコプレーナ型MZ光変調器を作製し、ポッケルス効果に起因した屈折率変化を用いて光変調動作を行うことで、単一電極駆動のプッシュ・プル光変調が可能となる。
InPなどのIII−V族化合物半導体は閃亜鉛鉱型結晶であり、本実施例で用いた(110)面基板以外にも等価な面を有する面方位(例えば(011)面など)基板を用いることができる。この場合においても、上述したn−SI−n構造(SI:Semi Insulation)の特徴が損なわれることはない。
ここで基板材料はInP以外にも、同構造を有する例えばGaAs、GaP、ZnS、ZnSeを用いることができる。本実施例においては、1.55μm波長帯に対応する光変調素子を用いたが、1.3μm波長帯に対応するものを用いても良い。また、例えばGaAsを用いれば、0.6〜1.3μm波長帯にも対応できる。
図6は、本発明の実施例2の半導体光変調器の構成を示す図である。(a)は、変調器60を構成する基板67面の上方から見た上面図であり、(b)は、上面図のb―b´線における断面図である。本実施例では、基板67と平行な水平方向にp−i−n構造を形成している。結晶成長は、結晶再成長プロセスに適した有機金属気相成長(MOVPE)法によって行い、基板結晶は(110) 面方位の半絶縁性(SI)基板を用いた。(110)面基板では基板表面にIII族原子及びV族原子が均等に露出しており、これが結晶成長における表面モホロジーの劣化を引き起こすと言われている。本実施例においては、(110)面から(111)B面方向へ3°傾けた基板を用いる。これによって、基板表面におけるV族原子の割合を増やし、表面モホロジーの良好な結晶成長膜を得た。
コア層64a、64bのバンドギャップ波長は、動作光波長で電気光学効果が有効に作用しかつ光吸収が問題とならないように決定した。例えば,1.55μm帯の光変調デバイスとする場合には、コア層を発光波長が1.2μmのInGaAsP層によって形成した。1.2μmの波長領域で吸収の生じない、発光波長が1.4μm以下のInGaAsPまたはInGaAlAs等を用いても問題ない。
光変調領域におけるコア層はノンドープ層であり、動作光波長で電気光学効果が有効に作用しかつ光吸収が問題とならないように、コア層のバンドギャップ波長および構造を決定した。例えば1.55μm帯の光変調デバイスとする場合、コア層を発光波長が1.2μmとなるようなバルクのInGaAsPとする。なお、バルクのコア層以外にも例えば量子井戸構造または量子ドット構造のコア層を用いたとしても、本発明特有の単一電極による簡単な構成および高速・広帯域動作などの特徴および有用性は失われない。また、上述の電気光学効果と光吸収の条件を満たす例えば、発光波長が1.1μm〜1.5μmのInGaAsPやInGaAlAsを用いることもできる。
コア層を例えば厚さが0.6μm堆積させた後、光変調素子を光導波路として機能させるために、例えばSiO2マスクを用いてドライエッチングによりSI−InP基板67が露出するまでエッチング加工し、例えばコア幅が2.0μmのメサ構造を作製する。ここで、SiO2マスクは、
に光導波路を形成するものである。
光変調領域におけるコア層64a、64bの両側面には、結晶再成長によって、コア層のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する例えばp型InPなどのクラッド層69、およびp型InGaAsなどの電極コンタクト層65を形成する。これらクラッド層69のドーピング濃度は、コア層で効率良く電圧降下が生じるように、5×1017cm−3以上とすることが望ましい。例えば、p型InPクラッド層69のドーピング濃度を1×1018cm−3とし、p型InGaAs電極コンタクト層65のドーピング濃度を1×1019cm−3とした。
さらに、MZアーム間の中央に埋め込まれた上述のp型層65、69が形成される領域を除いたMZアームの外側の領域のp型半導体層を、ドライエッチング加工により除去した後、n型InPなどのクラッド層66、およびn型InGaAsなどの電極コンタクト層63を結晶再成長によって形成する。これらクラッド層66のドーピング濃度も、p型InPクラッド層69と同様に、コア層で効率良く電圧降下が生じるように5×1017cm−3以上とすることが望ましい。例えば、n型InPクラッド層66のドーピング濃度を1×1018cm−3とし、n型InGaAs電極コンタクト層65のドーピング濃度を5×1018cm−3とした。上述のn型InPなどのクラッド層66は、これに限られず、図6の(b)コア層64a、64bにおいて横方向の電界が印加できるのであれば、絶縁体などであっても良い。
また、電気的絶縁を確保するために、光変調が行われる領域以外のn型クラッド層66およびコンタクト層63を、ドライエッチングにより除去する。望ましくは、除去された領域に、コア層のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを有する例えばSI−InPなどのクラッド層を再び結晶再成長によって形成する。
電極コンタクト用に積層される層は、十分な伝導性が確保できれば良い。したがって、p型不純物またはn型不純物がドーピングされる半導体は、上述のInGaAsに限定されず、例えばInGaAsPなどを用いても良い。
上述のpin構造を形成した後、n型InGaAs電極コンタクト層63、およびp型InGaAs電極コンタクト層65上に例えばTiを介したAu電極を形成する。光変調素子に用いられる信号電極は進行波型電極構造であることが望ましいが、この他にも例えば集中定数型または共振型の電極構造であっても良い。
コア層を光電子導波路として機能させるために、図6の(a)に示すように、例えば2つのMMIカプラ68a、68bを搭載したMZ導波路構造として、信号電極61にRF電気信号を入力する。光導波路へはTM偏波の連続(CW)光を入射させる。本実施例のpin構造では、逆バイアス電圧を印加することでコア層に高電界が印加されるため、電極Aには負電圧のバイアス印加の下で変調電気信号を入力させる。2つのMZアーム導波路にはそれぞれ逆方向の電界が信号電極Aによって印加されるため、電界方向に依存して屈折率の増減が変化する電気光学効果(ポッケルス効果)によりMZ光変調器として駆動させることで、単一の電極61によるゼロチャープ駆動のプッシュ・プル変調動作が可能となる。
このように本発明によれば、InP(110)面基板上の積層方向に垂直な水平方向にpin構造が形成されたG−S−Gコプレーナ型MZ光変調器を作製し、ポッケルス効果に起因した屈折率変化を用いて光変調動作を行うことで、単一電極駆動によるプッシュ・プル光変調が可能となる。
InPなどのIII−V族化合物半導体は閃亜鉛鉱型結晶であり、本実施例で用いた(110)面基板以外にも等価な面を有する面方位(例えば(011)面など)基板を用いることができる。この場合においても、上述したpin構造の特徴が損なわれることはない。
ここで基板材料は、上述のInP以外にも、同構造を有する例えばGaAs、GaP、ZnS、ZnSeを用いることができる。本実施例においては、1.55μm波長帯に対応する光変調素子を用いたが、1.3μm波長帯に対応するものを用いても良い。また、例えばGaAsを用いれば、0.6〜1.3μm波長帯にも対応できる。
上述の実施例1、実施例2の光変調器においては、コア層として、キャリアドープ半導体を使用していた。しかしながらキャリアドープされていない真性半導体を使用して、実施例1、2と同様の特徴を持つ光変調器を構成することもできる。すなわち、本実施例の光変調器(光変調素子)は、閃亜鉛鉱形半導体結晶基板の(110)面と等価な基板上の
に形成されたアーム導波路を有する少なくとも1つのマッハ・ツェンダー(MZ)干渉計を含む光変調素子において、このアーム導波路のコアに屈折率変化を生じさせる単一の信号電極を備えている。さらに、前記単一の電極は、前記MZ干渉計の2つのアーム導波路の内側に形成されたコプレーナ線路であって、前記基板面上で、前記コア層を挟んで接地電極と対向しており、前記コアは、前記コプレーナ線路の電極と前記接地電極との間に、前記コア層を囲むように形成された絶縁バッファ層を備え、前記バッファ層を介して前記単一の電極および前記接地電極と接続されている。
図7は、本発明の実施例3の半導体光変調器の構成を示す図である。図7の(a)は、本実施例の変調器70を基板面の上方から見た上面図であり、図7の(b)は上面図の左側(入力側)から光の進行方向を見たa−a´線における断面図である。変調器70は、CWが入力される入力導波路と変調光が出力される出力導波路を持ち、2つのMMIカプラ77a、77bの間にアーム導波路76が形成されている。
本実施例の光変調器では、進行波電極であるコプレーナ線路72の各領域に、集中定数型の容量を与える容量付加電極75a、75bを付加した容量装荷型電極を採用している。後に図7の(b)とともに詳細に説明するが、本実施例の光変調器70では、(110)基板上に形成されたMZ光導波路の各アーム導波路76に対して基板に平行な方向(水平方向)へ電界が印加されるように、容量付加電極75a、75bおよび接地電極71a、71bが絶縁膜を介して接続されていることを特徴とする。従来技術の容量装荷型光変調器(例えば特許文献2)と比べて、より簡単な光導波路の構造によって容量装荷型光変調器を構成することができる。さらに次に述べる2つの理由から、電気的および光学的反射点を減らすことができる。この結果、従来技術の容量装荷型光変調器の構成と比べて、さらに高速な変調動作が可能となる。
第1に、コプレーナ線路72に対する電極パッド73、74をMZアーム導波路76の2つの導波路間の領域内に設けることによって、高速の変調信号が印加される高周波線路であるコプレーナ線路72と、光導波路76とが交差するのを回避できる。
第2に、G−S−Gコプレーナ線路からG−Sスロットライン線路への線路切替が不要となる。従来技術の(100)基板上に形成される容量装荷型の電極を採用した場合では、上述の線路形態の切替が必要であった。
本実施例の光変調器の作製において、結晶成長は、結晶再成長プロセスに適した有機金属気相成長(MOVPE)法によって行い、基板結晶は(110) 面方位の半絶縁性(SI)基板82を用いる。なお、(110)面基板では基板表面にIII族原子及びV族原子が均等に露出しており、これが結晶成長における表面モホロジーの劣化を引き起こすといわれている。本実施においては、(110)面から(111)B面方向へ3°傾けた基板を用いた。これによって、基板表面におけるV族原子の割合を増やし、表面モホロジーの良好な結晶成長膜を得た。
MZアーム導波路76のコア層80a、80bのバンドギャップ波長は、動作光波長で電気光学効果が有効に作用しかつ光吸収が問題とならないように決定した。例えば、1.55μm帯の光変調デバイスとする場合には、発光波長が1.2μmのInGaAsP層によってコア層を形成する。1.2μm波長領域で吸収の生じない、発光波長が1.4μm以下のInGaAsPまたはInGaAlAs等を、コア層に用いても何ら問題はない。
本実施例の光変調器においては、光変調領域におけるコア層はノンドープ層である。したがって、本実施例におけるコア層は、真性(ノンドープ)半導体で構成され、i―コア層(intrinsic)とも言う。この点で、キャリアドープ半導体を使用していた実施例1および実施例2と相違している。i―コア層において効率的に電界が印加されるように、i―コア層内の電子濃度は例えば1×1016cm−3以下とすることが望ましい。コア層内の電子濃度を1×1016cm−3以上とした場合においても、変調効率はやや低下する。しかしながら、簡単な電極構造によって、高速・広帯域動作であって、かつ、高消光比でゼロチャープ駆動ができる高精度な変調が可能となる本発明の有用性は失われない。
また、動作作光波長で電気光学効果が有効に作用しかつ光吸収が問題とならないようにコア層のバンドギャップ波長や構造を決定した。例えば1.55μm帯で動作する光変調器とする場合には、コア層は発光波長が1.2μmとなるようなバルクのInGaAsPとした。なお、バルクのコア層以外にも、例えば量子井戸構造や量子ドット構造のコア層を用いたとしても、上述の本発明の有用性は失われない。また、他のコア層の構造例として、発光波長が1.1μm〜1.5μmのInGaAsPやInGaAlAsを用いたとしても本発明の有用性は失われない。
図7の(b)に示したように、SI−InP基板82上に、ノンドープ半導体を使用したi−クラッド層を形成した後で、上述のようなi−コア層を、例えばコア層厚さが0.6μmまで堆積させる。次に、光変調素子を光導波路として機能させるために、例えばSiO2マスクを用いてドライエッチングによりSI−InP基板82が露出するまでエッチング加工し、メサ構造(例えばコア幅が1.6μm)を作製する。ここで、SiO2マスクは、
に光導波路を形成するものである。
i―コア層80a、80bを形成後、光学的なバッファ層78としてSiO2膜(例えば、膜厚0.2μm)をウエハ全体にさらに形成する。最後に、例えばTiを介したAu電極を形成する。電極パターンは図7の(a)に示したような容量装荷型とし、信号線路の特性インピーダンスZoが50Ωとなるように設計する。ここで伝送線路を無損失とした場合には、特性インピーダンスZoは次式で表される。
式(2)に基づいて、容量付加電極75a、75bによって容量Cを調整して、電極部全体の特性インピーダンスZoが50Ωとなるよう設計を行う。
本実施例では、コプレーナ線路72のみが存在するときの特性インピーダンスを70Ωに設計し、さらに容量付加電極75a、75bを付加することによって特性インピーダンスが50Ωとなるように設計した。具体的には、コプレーナ信号線路72の電極幅を30μm、電極厚を2μmおよび信号線路−接地電極間隔を60μmとした。さらに、各々の容量付加電極75a、75bについては、例えば電極長Tを150μm、直列に隣り合う電極間隔gを30μm、電極幅を2μmとした。なお、電極パターン設計は上記の数値例だけに限定されない。例えばコプレーナ線路の特性インピーダンスZoを60Ωとした場合にも、容量付加電極の長さTや間隔gを適宜調整することによって50Ωに合わせることができる。
次に、図7の(b)を参照しながら、本実施例の光変調器の断面構造についてさらに説明する。SIコア層を光電子導波路として機能させるために、図7の(b)に示すような断面のメサ構造を含むMZ導波路を構成する。(a)に示したように、MZ導波路は、2つのMMIカプラ77a、77bの間のMZアーム導波路のコア層80a、80bで構成されている。コプレーナ線路72に対しては、その両端の信号電極パッド73、74に、RF電気信号を入力する。光導波路に対しては、一方の端部(例えば、左端部の入射導波路)から、TM偏波の連続(CW)光を入射させる。
本実施例において、のi−コア層80a、80bにおいては、信号電極の容量付加電極75aと対向する接地電極71aとの間で、光バッファ層78を介して、基板面と平行な方向に電界が印加される。バッファ層78は、上記の2つの電極71a、75a間に高抵抗のSiO2層を挿入して、電極間に電流を流さないようにする。これによって、i−コア層80aの基板面と平行な方向に電界が生じる。この際、バッファ層78の厚さは、バッファ層内で過度の電圧効果が生じて、i−コア層での電圧降下が起こらない状況を避けるため、適切に選択する。例えば、バッファ層78の厚さが大きすぎると、ほとんどの電圧降下がバッファ層内だけで生じて、i−コア層で電界が印加されない。したがって、光が電極金属に吸収されてしまうことを考慮しつつ、バッファ層78の厚さを薄くするのが好ましい。
2つのMZアーム導波路のi−コア層80a、80bには、信号電極(コプレーナ線路72)によってそれぞれ逆方向の電界が印加される。すなわち、容量付加電極75aと接地電極71aとの間の電界と、容量付加電極75bと接地電極71bとの間の電界とは、互いに正反対の向きを持つ。このため、例えば、i−コア層80a、80bにおける電界方向に従って屈折率の増減が変化する電気光学効果(ポッケルス効果)によってMZ光変調器として駆動させることで、単一電極(電極Aコプレーナ線路72)によるプッシュ・プル変調動作(ゼロチャープ駆動)が可能となる。
このように本発明によれば、InP(110)面基板上にG−S−G型の容量装荷型電極75a、75bを設けて、コプレーナ型MZ光変調器を作製し、ポッケルス効果に起因した屈折率変化を用いて光変調動作を行うことで、単一電極駆動によるプッシュ・プル光変調が可能となる。
ここで基板82の材料として、InP以外に、同構造を有する例えばGaAs、GaP、ZnS、ZnSeを用いた場合においても、本発明特有の単一電極による簡単な構成および高速・広帯域動作などの特徴ならびに有用性は変わらない。また、本実施例においては、1.55μm波長帯に対応する光変調素子を用いたが1.3μm波長帯に対応するものを用いても良い。また例えばGaAsを用いれば、0.6〜1.3μm波長帯にも対応できる。
以上詳細に述べてきたように、本発明によって、MZ光変調器をG−S−Gコプレーナ回路上の単一の電極のみによってプッシュ・プル動作させることができる。簡単な電極構造によって、電極配線の肥大化および複雑化の問題を解消する。さらに、高速・広帯域動作であって、かつ、高消光比でゼロチャープ駆動をすることのできる、高精度変調が可能な半導体光変調素子を実現できる。
ポッケルス効果に起因した屈折率変化を利用して、変調の非線形性の問題を解消する。デジタルコヒーレント通信で期待される16QAMや64QAMなどの高精度な光変調が要求される高密度直交変調等を実現することができる。従来技術で多値化された変調方式に対応する直交変調器として用いられてきたLN光変調器と同程度の高消光比および低チャープ動作等を維持しながら、LN光変調器以上に、より小型で低ドリフト・高速動作可能な半導体光変調素子を提供することができる。