実施例1である電池システムについて、図1を用いて説明する。図1は、電池システムの構成を示す図である。
図1に示す電池システムは、車両に搭載される。車両としては、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。ハイブリッド自動車は、車両を走行させるための動力源として、後述する組電池の他に、燃料電池や内燃機関等を備えている。電気自動車は、車両の動力源として、後述する組電池だけを備えている。
組電池10は、電気的に直列に接続された複数の単電池11を有する。組電池10を構成する単電池11の数は、組電池10の要求出力等に基づいて、適宜設定することができる。また、単電池11としては、リチウムイオン二次電池やニッケル水素電池などの非水二次電池を用いることができる。なお、組電池10は、電気的に並列に接続された複数の単電池11を含んでいてもよい。
単電池11の正極は、イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵および放出できる材料で形成される。正極の材料としては、例えば、コバルト酸リチウムやマンガン酸リチウムを用いることができる。単電池11の負極は、イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵および放出できる材料で形成される。負極の材料としては、例えば、カーボンを用いることができる。単電池11を充電するとき、正極は、イオンを電解液中に放出し、負極は、電解液中のイオンを吸蔵する。また、単電池11を放電するとき、正極は、電解液中のイオンを吸蔵し、負極は、イオンを電解液中に放出する。
組電池10は、システムメインリレー21a,21bを介して昇圧回路22に接続されており、昇圧回路22は、組電池10の出力電圧を昇圧する。昇圧回路22は、インバータ23と接続されており、インバータ23は、昇圧回路22からの直流電力を交流電力に変換する。モータ・ジェネレータ24は、インバータ23からの交流電力を受けることにより、車両を走行させるための運動エネルギを生成する。モータ・ジェネレータ24によって生成された運動エネルギは、車輪に伝達される。モータ・ジェネレータ24としては、三相交流モータを用いることができる。なお、本実施例では、昇圧回路22を設けているが、昇圧回路22を省略することもできる。
車両を減速させるときや、車両を停止させるとき、モータ・ジェネレータ24は、車両の制動時に発生する運動エネルギを電気エネルギ(交流電力)に変換する。インバータ23は、モータ・ジェネレータ24が生成した交流電力を直流電力に変換する。昇圧回路22は、インバータ23の出力電圧を降圧してから組電池10に供給する。これにより、回生電力を組電池10に蓄えることができる。
電流センサ25は、組電池10に流れる電流を検出し、検出結果をコントローラ30に出力する。電流センサ25によって検出された電流値に関しては、放電電流を正の値とし、充電電流を負の値とすることができる。なお、複数の電流センサ25を用いて、組電池10に流れる電流を検出することもできる。
温度センサ26は、組電池10の温度を検出し、検出結果をコントローラ30に出力する。温度センサ26の数は、適宜設定することができる。複数の温度センサ26を用いるときには、複数の温度センサ26によって検出された温度の平均値を組電池10の温度として用いたり、特定の温度センサ26によって検出された温度を組電池10の温度として用いたりすることができる。
監視ユニット27は、組電池10の電圧を検出したり、単電池11の電圧を検出したりし、検出結果をコントローラ30に出力する。ここで、組電池10を構成する複数の単電池11を複数の電池ブロックに分けたときには、監視ユニット27によって、各電池ブロックの電圧を検出することができる。各電池ブロックは、直列に接続された少なくとも2つの単電池11を含んでおり、複数の電池ブロックが直列に接続されることにより、組電池10が構成される。
コントローラ30は、システムメインリレー21a,21b、昇圧回路22およびインバータ23の動作を制御する。また、コントローラ30は、各種の情報を記憶するメモリ31を有する。メモリ31には、コントローラ30を動作させるためのプログラムも記憶されている。なお、本実施例では、コントローラ30がメモリ31を内蔵しているが、コントローラ30の外部にメモリ31を設けることもできる。
車両のイグニッションスイッチに関する情報は、コントローラ30に入力される。コントローラ30は、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わると、図1に示す電池システムを起動状態(Ready-On)とする。具体的には、コントローラ30は、システムメインリレー21a,21bをオフからオンに切り替えたり、昇圧回路22およびインバータ23を動作させたりする。また、コントローラ30は、イグニッションスイッチがオンからオフに切り替わると、図1に示す電池システムを動作停止状態(Ready-Off)とする。具体的には、コントローラ30は、システムメインリレー21a,21bをオンからオフに切り替えたり、昇圧回路22やインバータ23の動作を停止させたりする。
充電器28は、外部電源からの電力を組電池10に供給する。これにより、組電池10を充電(外部充電という)することができる。本実施例において、充電器28は、車両に搭載されているが、車両に搭載せずに、車両の外部に充電器(外部充電器という)を設置することもできる。充電器28は、充電リレー29a,29bを介して、組電池10に接続されている。充電リレー29a,29bがオンであるとき、外部電源からの電力を組電池10に供給することができる。
外部電源とは、車両の外部に設けられた電源であり、外部電源としては、例えば、商用電源がある。外部電源が交流電力を供給するとき、充電器28は、交流電力を直流電力に変換して、直流電力を組電池10に供給する。一方、外部電源が直流電力を供給するときには、外部電源からの直流電力を組電池10に供給するだけでよい。この場合には、外部電源の電圧を、他の電圧に変換することができる。
外部電源からの電力を組電池10に供給する手段としては、有線又は無線を用いることができる。例えば、外部電源と接続されたコネクタ(いわゆるプラグ)を、車両に設けられたコネクタ(いわゆるインレット)に接続することにより、外部電源からの電力を組電池10に供給することができる。一方、電磁誘導や共振現象を利用することにより、外部電源からの電力を、非接触方式で組電池10に供給することができる。
次に、組電池10の充放電を制御する処理について、図2および図3に示すフローチャートを用いて説明する。図2および図3に示す処理は、予め設定された時間間隔(サイクルタイム)で繰り返して行われる。図2および図3に示す処理は、コントローラ30に含まれるCPUが、メモリ31に記憶されたプログラムを実行することにより行われる。
ステップS101において、コントローラ30は、電流センサ25の出力信号に基づいて、放電電流値を取得する。組電池10を放電しているときには、放電電流値が正の値になり、組電池10を充電しているときには、放電電流値が負の値になる。
ステップS102において、コントローラ30は、ステップS101の処理で得られた放電電流値に基づいて、組電池10のSOC(State Of Charge)を算出(推定)する。SOCは、組電池10の満充電容量に対する、現在の充電容量の割合である。コントローラ30は、組電池10を充放電したときの電流値を積算することにより、組電池10のSOCを算出することができる。組電池10を充放電したときの電流値は、電流センサ25の出力から取得することができる。
一方、監視ユニット27によって検出された組電池10の電圧に基づいて、組電池10のSOCを推定することもできる。組電池10のSOCは、組電池10のOCV(Open Circuit Voltage)と対応関係があるため、SOCおよびOCVの対応関係を予め求めておけば、OCVからSOCを特定することができる。OCVは、監視ユニット27の検出電圧(CCV:Closed Circuit Voltage)と、組電池10の内部抵抗による電圧変化量とから求めることができる。
ここで、組電池10(単電池11)の分極が解消された状態において、組電池10の内部抵抗による電圧変化量を無視できる程度の電流を組電池10に流したときに得られた監視ユニット27の検出電圧を、組電池10のOCVとみなすことができる。単電池11の充放電を行うと、単電池11に分極が発生するが、単電池11の充放電を行わずに、放置すると、単電池11の分極を解消させることができる。分極が発生しているとき、監視ユニット27の検出電圧には、分極に伴う電圧変化量も含まれるため、組電池10のOCVを取得するときには、分極が解消されていることが好ましい。なお、SOCの算出方法は、本実施例で説明する方法に限るものではなく、公知の方法を適宜選択することができる。
ステップS103において、コントローラ30は、温度センサ26の出力信号に基づいて、組電池10の温度を取得する。ステップS104において、コントローラ30は、ステップS102の処理で算出したSOCと、ステップS103の処理で取得した組電池10の温度とに基づいて、忘却係数を算出する。忘却係数は、単電池11の電解液中のイオンの拡散速度に対応する係数である。忘却係数は、下記式(1)の条件を満たす範囲で設定される。
0<A×Δt<1 ・・・(1)
上記式(1)において、Aは、忘却係数を示し、Δtは、図2および図3に示す処理を繰り返して行うときのサイクルタイムを示す。
例えば、コントローラ30は、図4に示すマップを用いて、忘却係数Aを特定することができる。図4において、縦軸は、忘却係数Aであり、横軸は、組電池10の温度である。図4に示すマップは、実験等によって予め取得することができ、メモリ31に記憶しておくことができる。
図4に示すマップにおいて、ステップS102の処理で取得したSOCと、ステップS103の処理で取得した温度とを特定することにより、忘却係数Aを特定することができる。イオンの拡散速度が速いほど、忘却係数Aが大きくなる。図4に示すマップでは、組電池10の温度が同じであれば、組電池10のSOCが高いほど、忘却係数Aが大きくなる。また、組電池10のSOCが同じであれば、組電池10の温度が高くなるほど、忘却係数Aが大きくなる。
ステップS105において、コントローラ30は、評価値の減少量D(−)を算出する。評価値は、組電池10(単電池11)の劣化状態(後述するハイレート劣化)を評価する値である。
ハイレートで単電池11の充電又は放電が継続的に行われると、単電池11の内部抵抗が増加し、単電池11の入出力性能が急激に低下し始める現象が発生することがある。この現象が継続して発生すると、単電池11が劣化してしまうことがある。ハイレートでの充電又は放電による劣化を、ハイレート劣化とよぶ。ハイレート劣化の要因の1つとしては、ハイレートでの充電又は放電が継続的に行われることにより、単電池11の電解液中の塩濃度が偏ってしまうことが考えられる。ハイレート充電およびハイレート放電では、塩濃度の偏り状態が相反する状態となる。ここで、放電によるハイレート劣化は、本発明における第1劣化成分に相当する。
ハイレート劣化を抑制するためには、ハイレート劣化が発生する前に、組電池10の充電又は放電を抑制する必要がある。そこで、本実施例では、ハイレート劣化を評価するための値として、評価値D(N)を設定し、評価値D(N)に基づいて、ハイレート劣化を抑制するための制御(組電池10の充放電制御)を行うようにしている。評価値D(N)の算出方法については、後述する。
評価値の減少量D(−)は、前回(直近)の評価値D(N−1)を算出したときから、1回のサイクルタイムΔtが経過するまでの間において、イオンの拡散に伴う塩濃度の偏りの減少に応じて算出される。例えば、コントローラ30は、下記式(2)に基づいて、評価値の減少量D(−)を算出することができる。
D(−)=A×Δt×D(N−1) ・・・(2)
上記式(2)において、AおよびΔtは、上記式(1)と同様である。D(N−1)は、前回(直近)に算出された評価値を示す。初期値としての評価値D(0)は、例えば、0とすることができる。
上記式(1)に示すように、「A×Δt」の値は、0から1までの値である。したがって、「A×Δt」の値が1に近づくほど、評価値の減少量D(−)が大きくなる。言い換えれば、忘却係数Aが大きいほど、又は、サイクルタイムΔtが長いほど、評価値の減少量D(−)が大きくなる。なお、減少量D(−)の算出方法は、本実施例で説明した方法に限定されるものではなく、塩濃度の偏りの減少を特定することができる方法であればよい。
ステップS106において、コントローラ30は、メモリ31に予め記憶された電流係数を読み出す。ステップS107において、コントローラ30は、ステップS102の処理で算出された組電池10のSOCと、ステップS103の処理で取得した組電池10の温度とに基づいて、限界値を算出する。
例えば、コントローラ30は、図5に示すマップを用いて、限界値を算出することができる。図5に示すマップは、実験等によって予め取得することができ、メモリ31に記憶しておくことができる。図5において、縦軸は、限界値であり、横軸は、組電池10の温度である。図5に示すマップにおいて、ステップS102の処理で取得したSOCと、ステップS103の処理で取得した温度とを特定することにより、限界値を特定することができる。
図5に示すマップでは、組電池10の温度が同じであれば、組電池10のSOCが高いほど、限界値が大きくなる。また、組電池10のSOCが同じであれば、組電池10の温度が高いほど、限界値が大きくなる。
ステップS108において、コントローラ30は、評価値の増加量D(+)を算出する。評価値の増加量D(+)は、前回(直近)の評価値D(N−1)を算出したときから、1回のサイクルタイムΔtが経過するまでの間において、放電に伴う塩濃度の偏りの増加に応じて算出される。例えば、コントローラ30は、下記式(3)に基づいて、評価値の増加量D(+)を算出することができる。
D(+)=B/C×I×Δt ・・・(3)
上記式(3)において、Bは、電流係数を示し、ステップS106の処理で取得した値が用いられる。Cは、限界値を示し、ステップS107の処理で取得した値が用いられる。Iは、放電電流値を示し、ステップS101の処理で取得した値が用いられる。Δtは、サイクルタイムである。
上記式(3)から分かるように、放電電流値Iが大きいほど、又は、サイクルタイムΔtが長いほど、評価値の増加量D(+)は大きくなる。なお、増加量D(+)の算出方法は、本実施例で説明した算出方法に限定されるものではなく、塩濃度の偏りの増加を特定することができる方法であればよい。
ステップS109において、コントローラ30は、今回のサイクルタイムΔtにおける評価値D(N)を算出する。評価値D(N)は、下記式(4)に基づいて算出することができる。
D(N)=D(N−1)−D(−)+D(+) ・・・(4)
上記式(4)において、D(N)は、今回のサイクルタイムΔtにおける評価値であり、D(N−1)は、前回(直近)のサイクルタイムΔtにおける評価値である。初期値としての評価値D(0)は、例えば、0に設定することができる。D(−)およびD(+)は、評価値Dの減少量および増加量をそれぞれ示し、ステップS105,S108の処理で算出された値が用いられる。
本実施例では、上記式(4)に表すように、塩濃度の偏りの増加と、塩濃度の偏りの減少とを考慮して、評価値D(N)を算出することができる。これにより、ハイレート劣化の要因と考えられる塩濃度の偏りの変化(増減)を、評価値D(N)に適切に反映させることができる。したがって、組電池10の状態がハイレート劣化の生じる状態にどの程度近づいているのかを、評価値D(N)に基づいて把握することができる。
ステップS110において、コントローラ30は、ステップS109の処理で算出した評価値D(N)が予め定められた目標値Dtar(+)よりも大きいか否かを判別する。目標値Dtar(+)は、放電によるハイレート劣化が発生し始める評価値D(N)よりも小さい値に設定され、予め設定しておくことができる。評価値D(N)が目標値Dtar(+)よりも大きければ、ステップS111の処理に進み、そうでなければ、ステップS117の処理に進む。
本実施例では、図6に示すように、目標値Dtar(+)は、評価値D(N)のプラス側において設定されている。目標値Dtar(+)は、正の値である。図6は、評価値D(N)の変化(一例)を示す図である。図6において、縦軸は評価値D(N)であり、横軸は時間である。
ステップS111において、コントローラ30は、評価値D(N)の積算を行う。具体的には、図6に示すように、評価値D(N)が目標値Dtar(+)よりも大きいとき、評価値D(N)のうち、目標値Dtar(+)よりも大きい部分(図6のハッチング領域)について、積算を行う。評価値D(N)が目標値Dtar(+)よりも大きくなるたびに、積算処理が行われる。評価値D(N)が目標値Dtar(+)よりも大きいときには、評価値D(N)および目標値Dtar(+)の差分が積算され、積算値ΣDex(N)が得られる。積算される評価値D(N)は、正の値であるため、積算値も正の値となる。
本実施例では、積算値ΣDex(N)を算出するときに、評価値D(N)および目標値Dtar(+)の差分を積算しているが、これに限るものではない。具体的には、評価値D(N)が目標値Dtar(+)よりも大きいときには、評価値D(N)および目標値Dtar(+)の差分ではなく、評価値D(N)自体を積算することができる。この場合には、評価値D(N)自体を積算することを考慮して、後述する閾値Kを変更すればよい。
ステップS112において、コントローラ30は、積算値ΣDex(N)が閾値よりも大きいか否かを判別する。閾値は、放電によるハイレート劣化を許容するための値であって、正の値である。すなわち、積算値ΣDex(N)が閾値を超えるまでは、ハイレート劣化を許容することができる。言い換えれば、積算値ΣDexが閾値を超える場合には、ハイレート劣化を許容できないため、後述するように、組電池10の充放電を制限することになる。
ステップS112において、積算値ΣDex(N)が閾値よりも大きいときには、ステップS114の処理に進み、そうでなければ、ステップS113の処理に進む。ステップS112の処理で用いられる閾値は、固定値ではなく、後述するように、ハイレート劣化許容値および追加許容値に基づいて設定される。閾値を設定する方法については、後述する。
ステップS113において、コントローラ30は、組電池10の充電制御に用いられる出力制限値を最大値に設定する。出力制限値は、組電池10の放電を許容する上限値(電力[kW])である。コントローラ30は、組電池10の出力電力が出力制限値よりも高くならないように、組電池10の放電を制御する。
最大値としての出力制限値は、予め決めておくことができる。組電池10の出力を制限するときには、出力制限値が最大値よりも小さい値に設定される。出力制限値は、最大値および最小値の間で変化させることができる。最小値としての出力制限値は、例えば、0[kW]とすることができる。この場合には、組電池10の放電が行われなくなる。
ステップS114において、コントローラ30は、出力制限値を最大値よりも小さい値に設定する。ステップS112からステップS114の処理に進むときには、ハイレート劣化を許容できない状態となっているため、出力制限値を低下させることにより、組電池10の出力を制限する。ここで、出力制限値を低下させるほど、組電池10の出力が制限されることになる。例えば、コントローラ30は、積算値ΣDex(N)および閾値の差分に応じて、最大値に対して出力制限値を減少させる量を設定することができる。具体的には、コントローラ30は、下記式(5)に基づいて、出力制限値を算出することができる。
Wout=Wout(MAX)−L×(ΣDex(N)−K) ・・・(5)
上記式(5)において、Woutは、放電制御に用いられる出力制限値を示し、Wout(MAX)は、出力制限値の最大値を示す。Lは、係数を示す。Kは、ステップS112の処理で説明した閾値を示す。上記式(5)に示す「L×(ΣDex(N)−K)」の値は、出力制限値を減少させる量を示しており、係数Lを変化させることにより、出力制限値の減少量を調整することができる。具体的には、車両のドライバビリティを考慮して、減少量を調整することができる。
ステップS115において、コントローラ30は、組電池10の放電制御に関する指令をインバータ23に送信する。この指令には、ステップS113又はステップS114の処理で設定された出力制限値に関する情報が含まれる。これにより、組電池10の放電電力が、出力制限値を超えないように、組電池10の放電が制御される。
ステップS116において、コントローラ30は、今回の評価値D(N)および積算値ΣDex(N)をメモリ31に記憶する。評価値D(N)をメモリ31に記憶することにより、評価値D(N)の変化を監視することができる。また、積算値ΣDex(N)をメモリ31に記憶することにより、次回の評価値D(N+1)が目標値Dtar(+)よりも大きくなったときに、積算値ΣDex(N)を更新することができる。
ステップS110の処理からステップS117の処理に進んだとき、コントローラ30は、評価値D(N)をメモリ31に記憶する。ステップS110からステップS117の処理に進むときには、積算値ΣDex(N)が算出されないため、今回の評価値D(N)だけがメモリ31に記憶される。これにより、評価値D(N)の変化を監視することができる。
本実施例によれば、積算値ΣDex(N)が閾値よりも大きいときには、組電池10の放電を制限することにより、放電によるハイレート劣化を抑制することができる。これにより、閾値よりも小さくなる方向に、積算値ΣDex(N)を変化させることができる。一方、積算値ΣDex(N)が閾値に到達するまでは、出力制限値が最大値に設定されたままであるため、組電池10の出力を最大限に確保することができる。
本実施例では、サイクルタイムΔtごとに評価値D(N)をメモリ31に記憶し、メモリ31に記憶された前回(直近)の評価値D(N−1)を用いて、今回の評価値D(N)を算出しているが、これに限るものではない。例えば、電流値の履歴に基づいて、評価値D(N)を算出することができる。電流値が変化することに応じて、評価値D(N)が変化するため、電流値の履歴を取得しておけば、評価値D(N)を算出することができる。例えば、電流値の履歴だけをメモリ31に記憶しておき、電流値の履歴を用いて、特定のサイクルタイムΔtにおける評価値D(N)を算出することができる。
次に、図3のステップS112の処理で用いられる閾値を設定する処理について、図7および図8を用いて説明する。図7および図8に示す処理は、コントローラ30に含まれるCPUが、メモリ31に記憶されたプログラムを実行することにより行われる。図7および図8に示す処理は、車両が停止しているとき、すなわち、イグニッションスイッチがオフのときに実行される。
ステップS201において、コントローラ30は、外部充電を行うか否かを判別する。例えば、外部電源と接続されたコネクタ(いわゆるプラグ)が、車両に設けられたコネクタ(いわゆるインレット)に接続されているとき、コントローラ30は、外部充電を行うと判別する。外部充電を行うときには、ステップS202の処理に進み、外部充電を行わないときには、ステップS204の処理に進む。
ステップS202において、コントローラ30は、組電池10が満充電状態であるか否かを判別する。ステップS201からステップS202の処理に進むときには、外部充電が行われるため、ステップS202の処理では、外部充電によって、組電池10が満充電状態となったか否かを判別する。コントローラ30は、監視ユニット27の出力に基づいて、組電池10が満充電状態であるか否かを判別することができる。
組電池10が満充電状態となったときには、外部充電が終了し、図1に示す電池システムは、動作停止状態となる。ここで、組電池10が満充電状態であるときには、ステップS204の処理に進み、組電池10が満充電状態でなければ、ステップS203の処理に進む。外部充電が途中で停止された場合には、ステップS202からステップS203の処理に進む。ステップS203において、コントローラ30は、イグニッションスイッチがオフであるか否かを判別する。イグニッションスイッチがオフであるときには、ステップS204の処理に進み、イグニッションスイッチのオンのままであるときには、ステップS209の処理に進む。
ステップS204において、コントローラ30は、組電池10の充放電制御に関する現在の状態を確認する。この状態には、積算値ΣDex_offと、組電池10のSOCと、ハイレート劣化許容値ΣDh_ref(基準閾値に相当する)と、追加許容値ΣD_add(追加閾値に相当する)とが含まれる。積算値ΣDex_offは、現在の積算値ΣDex(N)、言い換えれば、イグニッションスイッチがオフとなったときの積算値ΣDex(N)である。組電池10のSOCは、イグニッションスイッチがオンからオフに切り替わったときに取得されているSOCである。
ハイレート劣化許容値ΣDh_refとは、ハイレート劣化を許容する範囲を特定する値であって、積算値ΣDexに対応した値である。すなわち、ハイレート劣化許容値ΣDh_refは、積算値ΣDexをパラメータとして用いて、ハイレート劣化を許容する範囲を特定する。
ハイレート劣化許容値ΣDh_refは、組電池10の温度および使用状態(Ah/km)から特定することができる。組電池10の使用状態(Ah/km)は、車両の走行距離に対する組電池10の充放電量であり、走行距離センサの出力と電流センサ25の出力とに基づいて算出することができる。ここで、組電池10の温度と、組電池10の使用状態と、ハイレート劣化許容値ΣDh_refとの関係を示すマップを、実験などによって予め求めておけば、このマップを用いて、ハイレート劣化許容値ΣDh_refを特定することができる。すなわち、組電池10の温度および使用状態を特定することにより、ハイレート劣化許容値ΣDh_refを特定することができる。ハイレート劣化許容値ΣDh_refを特定する方法について、以下に具体的に説明する。
まず、コントローラ30は、充放電を行っていないときの組電池10の温度と、充放電を行っているときの組電池10の温度と、充放電を行っているときの組電池10の通電量とを取得する。組電池10の充放電を行っていない場合としては、例えば、組電池10が搭載された車両が放置されており、イグニッションスイッチがオフとなっている場合がある。組電池10の温度は、温度センサ26の出力に基づいて取得することができる。また、通電量は、電流センサ25の出力に基づいて取得することができる。
なお、充放電を行っていないときの組電池10の温度を取得するために、例えば、外気温を検出するために車両に予め設けられた温度センサ(温度センサ26とは異なる)を用いることができる。また、充放電を行っていないときの組電池10の温度としては、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わった直後の温度センサ26の検出結果を用いることもできる。一方、車両の停止によって組電池10の充放電を行っていないとき、コントローラ30は、所定の周期で起動し、温度センサ26の出力に基づいて、組電池10の温度を取得することができる。
次に、コントローラ30は、上述した組電池10の温度および通電量に基づいて、組電池10(単電池11)の材料劣化(第2劣化成分に相当する)を推定する。組電池10(単電池11)の劣化には、上述したハイレート劣化の他に、材料劣化がある。材料劣化とは、単電池11を構成する部材の材料に依存した劣化である。すなわち、単電池11を使用し続けるほど、単電池11の材料が劣化し、材料劣化は増加することになる。また、材料劣化には、組電池10の充放電を行っていないときの劣化成分(保存劣化という)と、組電池10の充放電を行っているときの劣化成分(通電劣化という)とが含まれる。
保存劣化は、充放電を行っていないときの組電池10の温度、言い換えれば、車両を放置しているときの組電池10の温度に基づいて、推定することができる。充放電を行っていないときの組電池10の温度と、保存劣化との対応関係を示すマップを、実験などによって予め用意しておけば、充放電を行っていないときの組電池10の温度から保存劣化を推定することができる。保存劣化を推定するためのマップは、メモリ31に予め記憶しておくことができる。
通電劣化は、充放電を行っているときの組電池10の温度および通電量(平均値)に基づいて、推定することができる。充放電を行っているときの組電池10の温度および通電量と、通電劣化との対応関係を示すマップを、実験などによって予め用意しておけば、組電池10の温度および通電量から通電劣化を推定することができる。通電劣化を推定するためのマップは、メモリ31に予め記憶しておくことができる。保存劣化および通電劣化を推定できれば、材料劣化を推定することができる。すなわち、保存劣化および通電劣化の合計が材料劣化となる。
次に、コントローラ30は、推定した材料劣化に基づいて、ハイレート劣化許容値ΣDh_refを推定するためのマップを特定する。ハイレート劣化許容値ΣDh_refを推定するためのマップは、図9および図10に示すように、ハイレート劣化許容値ΣDh_refと、充放電を行っているときの組電池10の温度(ここでは、平均温度)と、組電池10の使用状態(Ah/km)との関係を示すものである。図9および図10に示すハイレート劣化許容値ΣDh_refの軸は、矢印の方向に進むほど、ハイレート劣化許容値ΣDh_refが大きくなることを意味する。
図9および図10に示すマップは、材料劣化が互いに異なるときのマップである。図9に示すマップに対応した材料劣化は、図10に示すマップに対応した材料劣化よりも大きくなっている。組電池10(単電池11)の劣化は、材料劣化およびハイレート劣化に分けられるため、材料劣化が大きくなれば、放電によるハイレート劣化を許容する割合が小さくなり、ハイレート劣化許容値ΣDh_refも小さくなる。組電池10の温度および使用状態(Ah/km)が等しいとき、図9に示すハイレート劣化許容値ΣDh_refは、図10に示すハイレート劣化許容値ΣDh_refよりも小さくなっている。
例えば、低温環境では、材料劣化が発生しにくいため、放電によるハイレート劣化を許容する割合を大きくすることができる。図9および図10に示すマップを、材料劣化の程度に応じて複数用意しておけば、推定した材料劣化に対応するマップを特定することができる。図9および図10に示すマップは、メモリ31に予め記憶させておくことができる。
保存劣化や通電劣化は、組電池10の使用状態や使用環境に応じて変化するため、保存劣化や通電劣化を特定するときには、最も劣化を進ませる状態を想定して設定することができる。すなわち、ハイレート劣化許容値ΣDh_refは、組電池10の劣化が最も進んだ状態を想定して設定することができる。
上述したように、保存劣化は、充放電を行っていないときの組電池10の温度から推定されるが、組電池10が特定の温度であっても、組電池10のSOCに応じて、保存劣化は変化してしまう。具体的には、組電池10のSOCが高くなるほど、保存劣化が大きくなってしまう。そこで、特定の温度に対応した保存劣化を予め設定するときには、組電池10のSOCが変化する範囲の上限値(最も劣化を進ませる状態)を考慮することができる。
また、通電劣化は、組電池10の温度および通電量(平均値)から推定されるが、通電量(平均値)が同じであっても、組電池10の充放電を行っているときの電流値の挙動は互いに異なることがある。上述したように、ハイレート劣化は、ハイレートでの放電によって発生するため、電流値の挙動に依存する。そこで、特定の通電量に対応した通電劣化を予め設定するときには、ハイレート劣化に影響を与えやすい電流値の挙動(最も劣化を進ませる状態)を考慮することができる。
上述したように、保存劣化や通電劣化として、最も劣化を進ませる状態を想定して、ハイレート劣化許容値ΣDh_refを特定しておけば、組電池10がいかなる使用状態や使用環境にあっても、積算値ΣDex(N)がハイレート劣化許容値ΣDh_refを超えてしまうのを防止することができる。
一方、組電池10の使用状態や使用環境によっては、保存劣化や通電劣化が、最も劣化した状態まで到達していないこともある。すなわち、ハイレート劣化許容値ΣDh_refは、上述したように、組電池10の劣化が最も進行しやすい状態を想定して設定されているため、積算値ΣDex(N)がハイレート劣化許容値ΣDh_refに到達していても、ハイレート劣化を更に許容できることがある。そこで、本実施例では、ハイレート劣化許容値ΣDh_refに加えて、ハイレート劣化を更に許容する値として、追加許容値ΣD_addを設定している。追加許容値ΣD_addを設定する方法については、後述する。
ステップS205において、コントローラ30は、組電池10の温度が所定範囲内であるか否かを判別する。コントローラ30は、温度センサ26の出力に基づいて、組電池10の温度を取得することができる。本実施例では、後述するように、イグニッションスイッチがオフになった後の組電池10の抵抗値と、イグニッションスイッチがオンになった後の組電池10の抵抗値とを用いて、組電池10の材料劣化を算出している。
ここで、抵抗値を測定する条件が異なってしまうと、材料劣化の算出精度も低下してしまう。具体的には、組電池10の抵抗値は、組電池10の温度が低下するほど変動(上昇)しやすいため、組電池10の温度が低下した状態で、抵抗値を測定してしまうと、材料劣化の算出精度が低下してしまうことがある。そこで、材料劣化の算出精度が低下するのを抑制するために、組電池10の抵抗値を測定するときには、組電池10の温度が所定範囲内であることを確認するようにしている。所定範囲は、材料劣化の算出精度を考慮して、適宜設定することができる。組電池10の抵抗値は、組電池10の温度が低下するほど変動しやすいため、所定範囲の下限値だけを設定することもできる。
ステップS205において、組電池10の温度が所定範囲内であるときには、ステップS206の処理に進み、そうでないときには、ステップS209の処理に進む。
ステップS206において、コントローラ30は、組電池10の抵抗値R1を算出する。例えば、コントローラ30は、監視ユニット27の出力に基づいて、組電池10を定電流で放電したときの電圧変動を取得する。これにより、コントローラ30は、電流値および電圧変化量に基づいて、組電池10の抵抗値R1を算出することができる。なお、組電池10の抵抗値R1を算出する方法は、上述した方法に限るものではなく、抵抗値R1を算出できればよい。
ステップS207において、コントローラ30は、イグニッションスイッチがオンであるか否かを判別する。ステップS204からステップS206までの処理は、イグニッションスイッチがオフとなった直後に行われ、抵抗値R1を算出した後は、組電池10が充放電されずに放置される。ステップS207において、イグニッションスイッチがオフであれば、コントローラ30は、イグニッションスイッチがオンになるまで待機する。一方、運転者からの指示を受けて、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わると、ステップS208の処理に進む。
ステップS208において、コントローラ30は、温度センサ26の出力に基づいて、組電池10の温度を取得し、組電池10の温度が所定範囲内であるか否かを判別する。ステップS208の処理は、上述したステップS205の処理と同様の目的で行われる。組電池10の温度が所定範囲内であれば、ステップS212(図8参照)の処理に進み、そうでなければ、ステップS209の処理に進む。
ステップS209において、コントローラ30は、所定期間内において、追加許容値ΣD_addが更新されているか否かを判別する。ここで、所定期間とは、現在を基準として、現在よりも過去の期間である。所定期間は、適宜設定することができる。ここで、所定期間を長くしすぎると、更新された追加許容値ΣD_addが、現在の組電池10の状態からかけ離れてしまうため、この点を考慮して、所定期間を設定することができる。所定期間内に追加許容値ΣD_addが更新されているときには、ステップS210の処理に進み、そうでないときには、ステップS211の処理に進む。
ステップS210において、コントローラ30は、更新された追加許容値ΣD_addを、このままの値に維持する。追加許容値ΣD_addに関する情報は、メモリ31に記憶されるが、ステップS210の処理では、メモリ31に記憶された追加許容値ΣD_addが保持されることになる。
ステップS211において、コントローラ30は、追加許容値ΣD_addを0に設定する。ステップS209からステップS211の処理に進むときには、追加許容値ΣD_addを更新してから所定期間(ステップS209で説明した期間)が経過しているため、更新された追加許容値ΣD_addを用いると、ハイレート劣化を進行させてしまうおそれがある。すなわち、現在の組電池10の状態は、更新された追加許容値ΣD_addに対応していない可能性が高く、この追加許容値ΣD_addを用いると、ハイレート劣化を過度に許容してしまうおそれがある。そこで、ステップS211の処理では、追加許容値ΣD_addを0に設定し、ハイレート劣化許容値ΣDh_refだけに基づいて、組電池10の充放電制御が行われるようにしている。
ステップS212において、コントローラ30は、積算値ΣDex_onを確認する。積算値ΣDex_onは、イグニッションスイッチがオンに切り替わった後に算出された積算値ΣDex(N)である。ハイレート劣化は、塩濃度の偏りによって発生するが、塩濃度の偏りは、組電池10を充放電させずに放置させることによって、解消方向に変化させることができる。
すなわち、イグニッションスイッチがオフとなっている期間が長いほど、塩濃度の偏りを解消させやすくなる。このため、イグニッションスイッチがオンとなった後に取得された積算値ΣDex_onは、イグニッションスイッチがオフとなった直後に取得された積算値ΣDex_off(図7のステップS204の処理参照)よりも小さくなりやすい。
ステップS213において、コントローラ30は、組電池10の抵抗値R2を算出する。例えば、コントローラ30は、監視ユニット27の出力に基づいて、組電池10を定電流で放電したときの電圧変動を取得する。これにより、コントローラ30は、電流値および電圧変化量に基づいて、組電池10の抵抗値R2を算出することができる。なお、組電池10の抵抗値R2を算出する方法は、上述した方法に限るものではなく、抵抗値R2を算出できればよい。
抵抗値R2を算出するときには、抵抗値R2を算出するときの組電池10のSOCが、抵抗値R1を算出するときの組電池10のSOCに対して大幅に変化していないことを確認することが好ましい。組電池10のSOCが大幅に変化してしまうと、組電池10の抵抗値も変動しやすいため、後述する材料劣化の算出精度が低下してしまうおそれがある。
そこで、材料劣化の算出精度が低下するのを抑制するためには、組電池10のSOCを揃えた状態において、抵抗値R1,R2を算出することが好ましい。抵抗値R1,R2を算出するときにおいて、許容されるSOCの変化量は、材料劣化の算出精度などを考慮して適宜設定することができる。
ステップS214において、コントローラ30は、組電池10の材料劣化を算出する。材料劣化が進行すると、組電池10の抵抗値が上昇するため、材料劣化は、組電池10の抵抗値によって規定することができる。材料劣化の抵抗値Rmは、下記式(6)に基づいて算出することができる。
ステップS206の処理で算出された抵抗値R1と、ステップS213の処理で算出された抵抗値R2とは、図11に示す関係を有する。抵抗値R1には、材料劣化に相当する抵抗値Rmと、積算値ΣDex_offに対応した抵抗値(ハイレート劣化に対応した抵抗値)とが含まれる。また、抵抗値R2には、材料劣化に相当する抵抗値Rmと、積算値ΣDex_onに対応した抵抗値(ハイレート劣化に対応した抵抗値)とが含まれる。
図11に示すように、イグニッションスイッチがオフとなった後の抵抗値R1と、イグニッションスイッチがオンとなった後の抵抗値R2とでは、ハイレート劣化(ΣDex_off,ΣDex_on)に相当する抵抗値だけが変化しており、材料劣化に相当する抵抗値Rmは変化していない。上述したように、組電池10を充放電せずに放置すれば、塩濃度の偏りを解消方向に変化させることができ、ハイレート劣化に相当する抵抗値を低下させることができる。一方、イグニッションスイッチがオフとなった後に、再びオンになるまでの期間では、材料劣化は進行し難く、材料劣化に相当する抵抗値Rmは、変化しないとみなすことができる。
図11に示す関係によれば、下記式(7)の関係が成り立つ。下記式(7)を変形すれば、上記式(6)が得られる。
なお、組電池10を十分に放置すれば、塩濃度の偏りを解消させることができ、この場合には、積算値ΣDex_onが0となり、抵抗値R2は、材料劣化に相当する抵抗値Rmと等しくなる。このため、組電池10を充放電させずに放置している時間を計測し、計測時間が、塩濃度の偏りを解消させる解消時間よりも長くなったときには、抵抗値R2を測定するだけで、材料劣化に相当する抵抗値Rmを算出することができる。ここで、解消時間は、実験などによって予め求めておくことができる。この場合には、上記式(6)を用いなくても、抵抗値R2を算出するだけで、抵抗値Rmが分かることになる。
ステップS215において、コントローラ30は、ハイレート劣化許容値ΣDh_thを算出する。ハイレート劣化許容値ΣDh_thは、組電池10の劣化が想定通りに進行するときの抵抗値から算出することができる。組電池10を所定期間の間、使用し続けるためには、言い換えれば、想定上の寿命まで組電池10を使用し続けるためには、図12に示すように、所定期間t_thが経過したときの組電池10の抵抗増加率Rate_thを設定しておく必要がある。
抵抗増加率Rate_thは、組電池10の寿命を特定する抵抗増加率である。所定期間t_thに対応した抵抗増加率Rate_thを設定すれば、図12に示すように、組電池10を使用し始めたときの抵抗増加率(時間が0のときの抵抗増加率)と、抵抗増加率Rate_thとを結ぶ線が、想定通りの劣化に相当する。図12に示す抵抗増加率の線は、組電池10を想定通りに劣化させるときに、組電池10の劣化(ハイレート劣化および材料劣化を含む)を許容する上限値となる。
ここで、抵抗増加率とは、現在の組電池10の抵抗値(Rc)と、初期状態にある組電池10の抵抗値(Rini)との比(Rc/Rini)で表される。初期状態とは、組電池10の劣化を判断するときの基準となる状態であり、例えば、初期状態としては、組電池10を製造した直後の状態とすることができる。組電池10が初期状態にあるとき、抵抗増加率は、1となる。そして、組電池10の劣化が進行するほど、言い換えれば、組電池10の抵抗値が上昇するほど、抵抗増加率は上昇することになる。
図12に示すマップを予め用意しておけば、組電池10を使用し初めてからの時間を特定することにより、現在の時間に対応した抵抗増加率(上限値)を特定することができる。ここで、抵抗増加率は、積算値ΣDex(N)と相関関係があり、抵抗増加率が上昇すれば、積算値ΣDex(N)も上昇し、抵抗増加率が低下すれば、積算値ΣDex(N)も低下する。このため、抵抗増加率および積算値ΣDex(N)の対応関係を予め求めておけば、抵抗増加率を積算値ΣDex(N)に変換することができる。
ステップS215の処理では、現在の時間に対応した想定上の抵抗増加率を特定してから、この抵抗増加率に対応した積算値ΣDex(N)を算出する。算出された積算値ΣDex(N)は、ハイレート劣化許容値ΣDh_thとなる。
ステップS216において、コントローラ30は、ステップS204の処理で確認したハイレート劣化許容値ΣDh_refが、ステップS215の処理で算出したハイレート劣化許容値ΣDh_thよりも大きいか否かを判別する。ハイレート劣化許容値ΣDh_refがハイレート劣化許容値ΣDh_thよりも大きいときには、ステップS217の処理に進み、そうでなければ、ステップS218の処理に進む。
ステップS217において、コントローラ30は、追加許容値ΣD_addを0に設定する。すなわち、ステップS216からステップS217の処理に進むときには、ハイレート劣化許容値ΣDh_refがハイレート劣化許容値ΣDh_thを超えているため、追加許容値ΣD_addを更に設定してしまうと、ハイレート劣化を更に許容させてしまう。この場合には、組電池10の劣化を進行させてしまい、図12で説明した寿命まで組電池10を使用し続けることができなくなってしまう。そこで、ステップS217の処理では、追加許容値ΣD_addを0に設定している。
ステップS218において、コントローラ30は、ステップS204の処理で確認したハイレート劣化許容値ΣDh_refと、ステップS215の処理で算出したハイレート劣化許容値ΣDh_thとに基づいて、追加許容値ΣD_addを算出する。ここで、図12に示す想定上の抵抗増加率を積算値ΣDex(N)で表すと、図13に示す関係を有する。
図13に示すように、組電池10を想定通りに劣化させるときの積算値ΣDex(N)から、材料劣化に相当する積算値ΣDex(N)を減算すれば、ハイレート劣化許容値ΣDh_thが得られる。ステップS216からステップS218の処理に進むときには、ハイレート劣化許容値ΣDh_thがハイレート劣化許容値ΣDh_refよりも大きいため、ハイレート劣化許容値ΣDh_thからハイレート劣化許容値ΣDh_refを減算すれば、追加許容値ΣD_addを算出することができる。
追加許容値ΣD_addを所定時間で除算すれば、所定時間の間における時間毎の追加許容値ΣD_addを算出することができる。所定時間は、適宜設定することができ、例えば、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わる頻度などを考慮して設定することができる。
図3のステップS112の処理で用いられる閾値としては、ハイレート劣化許容値ΣDh_refに追加許容値ΣD_addを加算した値が用いられる。追加許容値ΣD_addが0に設定されたとき、閾値としては、ハイレート劣化許容値ΣDh_refが用いられる。また、ステップS217又はステップS218の処理で算出された追加許容値ΣD_addは、メモリ31に記憶される。
本実施例によれば、追加許容値ΣD_addを設定することにより、追加許容値ΣD_addの分だけ、ハイレート劣化を許容することができる。すなわち、ハイレート劣化許容値ΣDh_refを基準として組電池10の出力を制限する場合と比べて、追加許容値ΣD_addの分だけ、組電池10の出力を確保することができる。このように組電池10の出力を確保することにより、車両の動力性能を向上させることができる。
また、追加許容値ΣD_addは、想定上の抵抗増加率に対応した積算値ΣDex(N)と、ハイレート劣化許容値ΣDh_refとの関係に基づいて設定されるため、組電池10の劣化(特に、ハイレート劣化)が想定以上に進行してしまうのを抑制することができる。これにより、組電池10の劣化を想定上の劣化に沿って変化させることができ、組電池10の寿命が短縮されてしまうのを抑制することができる。
なお、本実施例では、ハイレート劣化許容値ΣDh_refおよび追加許容値ΣD_addのそれぞれを算出しているが、これに限るものではない。すなわち、ハイレート劣化許容値ΣDh_refおよび追加許容値ΣD_addを含めたハイレート劣化許容値ΣDh_thを直接算出することもできる。
上述したように、積算値ΣDex_off,ΣDex_onおよび抵抗値R1,R2を取得すれば、材料劣化に相当する抵抗値Rmを算出することができる。また、図12を用いれば、想定上の抵抗増加率に対応した積算値ΣDex(N)を算出できる。想定上の劣化に対応した積算値ΣDex(N)から、材料劣化(抵抗値Rm)に相当する積算値ΣDex(N)を減算すれば、ハイレート劣化許容値ΣDh_thを算出することができる。この場合には、ハイレート劣化許容値ΣDh_refを算出する必要が無くなる。