以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。ただし、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
(実施の形態1)
本実施の形態では、充放電による劣化が少なく、高充放電サイクル特性を有する二次電池用負極の構造及びその製造方法について、図1乃至図8を用いて説明する。
二次電池は電解液を用い、キャリアイオンを充放電反応に用いる二次電池である。特にキャリアイオンとしてリチウムイオンを用いる二次電池を、リチウム二次電池という。また、リチウムイオンの代わりに用いることが可能なキャリアイオンとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオン等がある。
(負極の構造)
図1(A)は、負極集電体の表面部分を拡大して模式的に示した断面図である。負極集電体101は、複数の突起部101bと、複数の突起部のそれぞれが共通して接続する基礎部101aを有する。このため、負極集電体101は、あたかも生け花で用いる剣山(Kenzan:Spiky Frog)のような構造をしている。図においては基礎部101aを薄く記載しているが、一般に突起部101bに対して基礎部101aは極めて厚い。
複数の突起部101bは、基礎部101aの表面に対して実質的に垂直方向に延びている。ここで「実質的に」とは、基礎部101aの表面と突起部の長手方向における中心軸とのなす角が90°であることが好ましいが、負極集電体の製造工程における水平だしの誤差や、突起部101bの製造工程における工程ばらつき、充放電の繰り返しによる変形等による垂直方向からの若干の逸脱を許容することを趣旨とした語句である。具体的には、基礎部101aの表面と突起部101bの長手方向における中心軸とのなす角が90°±10°以下であれば良く、好ましくは90°±5°以下である。なお、複数の突起部101bが基礎部101aから延びている方向を長手方向と呼ぶ。
負極集電体101には、集電体として使用する電位領域においてリチウムと合金化しない材料であり、耐食性の高い導電性材料を用いる。例えば、ステンレス、タングステン、ニッケル、チタン等に代表される金属、及びこれらの合金など、導電性の高い材料を用いることができる。また、負極集電体101の材料として、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。
特に、負極集電体101の材料として、チタンを用いることが好ましい。チタンは鋼鉄以上の強度を有する一方で、質量は鋼鉄の半分以下であり非常に軽い。また、チタンはアルミニウムよりも約2倍の強度を有し、他の金属よりも金属疲労が生じにくい。このため、軽量な電池の形成が実現できるとともに、繰り返しの応力に強い負極活物質の芯として機能させることができ、シリコンの膨張収縮による劣化や崩壊を抑制することができる。さらに、チタンはドライエッチングの加工に非常に適した材料であり、高いアスペクト比の突起部を集電体表面に形成することが可能である。
負極集電体101は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。網状等の開口を有する形状の集電体材料を用いた場合には、次に形成する突起部は開口部を除いた集電体材料の表面部分に形成する。
図1(B)は、負極集電体101上に負極活物質層102と高分子材料層108とが形成された負極100の断面図である。
負極活物質層102は、突起部101bが設けられていない基礎部101aの上面、突起部101bの側面及び上面、すなわち露出した負極集電体101の表面を覆って設けられている。当該構造において、負極集電体の突起部101bとその上面及び側面に設けられた負極活物質層102とを併せて構成される突起構造を、便宜上負極突起部107とよぶ。また、負極突起部107の形成されていない部分、すなわち、負極集電体の基礎部101a上に薄膜状の負極活物質層102が設けられた平坦な部分を、便宜上負極基礎部106とよぶ。
なお、活物質とは、キャリアイオンの吸蔵(又は挿入)及び放出(又は脱離)に関わる物質を指し、活物質と活物質層は区別される。
負極活物質として、リチウム金属との合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な合金系材料を用いることができる。例えば、Al、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Ag、Zn、Cd、In、Ga等のうち少なくとも一つを含む材料が挙げられる。このような元素は炭素に対して容量が大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと飛躍的に高い。このため、負極活物質にシリコンを用いることが好ましい。このような元素を用いた合金系材料としては、例えば、SiO、Mg2Si、Mg2Ge、SnO、SnO2、Mg2Sn、SnS2、V2Sn3、FeSn2、CoSn2、Ni3Sn2、Cu6Sn5、Ag3Sn、Ag3Sb、Ni2MnSb、CeSb3、LaSn3、La3Co2Sn7、CoSb3、InSb、SbSn等が挙げられる。
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO2)、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)、リチウム−黒鉛層間化合物(LixC6)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タングステン(WO2)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物を用いることができる。
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、Li3N型構造を持つLi3−xMxN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6Co0.4N3は大きな充放電容量(900mAh/g)を示し好ましい。
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、正極活物質としてリチウムイオンを含まないV2O5、Cr3O8等の材料と組み合わせることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも、あらかじめリチウムイオンを脱離させることでリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
負極活物質をシリコンとする場合には、非晶質(アモルファス)シリコン、微結晶シリコン、多結晶シリコン又はこれらの組み合わせを用いることができる。一般に結晶性が高い程シリコンの電気伝導度が高いため、導電率の高い電極として、電池に利用することができる。一方、シリコンが非晶質の場合には、結晶質に比べてリチウム等のキャリアイオンを吸蔵することができるため、放電容量を高めることができる。
また、負極活物質層102にリン、ボロン等の一導電型を付与する不純物元素が添加されたシリコンを用いてもよい。リン、ボロン等の一導電型を付与する不純物元素が添加されたシリコンは、導電性が高くなるため、負極の導電率を高めることができる。
負極集電体101の基礎部101aは、二次電池の端子として機能するとともに、複数の突起部101bの下地として機能する。基礎部101aと複数の突起部101bとは同一の金属部材からなり、基礎部101aと突起部101bとは物理的に連続している。このため、突起部101bと基礎部101aとの接続部は一体であるから強固に結合しており、基礎部101a及び突起部101b上に設けられる負極活物質層102の膨張、収縮により特に応力が集中する接続部においても該応力に耐える強度を有する。従って、突起部101bは負極突起部107の芯として機能することができる。
高分子材料層108は、負極基礎部106を完全に覆い、かつ、負極突起部107の根元部分を覆う。換言すれば、負極基礎部106と負極突起部107の根元部分は、高分子材料層108によって埋没する。従って、負極基礎部106の最表面に位置する負極活物質層102と、負極突起部107の側面に位置する負極活物質層102の一部は、高分子材料層108に接する。このように、負極突起部107の頭頂部を中心としてその一部を電解液に対して露出させる一方で、負極突起部107の大部分を高分子材料層108に埋没させることで、劣化の要因となる基礎部101a上の負極活物質層102を電解液から隔絶する。
高分子材料層108は、リチウム等のキャリアイオンと反応することがなく、またキャリアイオンを通過させることのない材料である。従って、高分子材料層108を設けることで当該高分子材料層が障害となり、負極基礎部106の負極活物質層102や負極突起部107の根元部分に位置する負極活物質層102へのキャリアイオンの吸蔵を抑制する。このため、当該負極活物質層の膨張収縮に伴う体積変化を低減し、負極100のサイクル劣化を抑えて信頼性を向上させることができる。
高分子材料層108を設ける際は、高分子材料層108によって、負極突起部107の根元から負極突起部107の高さの2/4以上4/4未満の範囲にあたる部分を覆うことが好ましい。ここで、負極突起部における「高さ」とは、負極突起部の長手方向の断面形状において、負極突起部の頂点(または上面)から負極基礎部の最表面まで垂直に下ろした線分の長さをいう。ただし負極基礎部106の表面が粗さを有する場合には、その粗さの平均値を高さの基準とする。負極突起部107の高さの4/4を超えた厚さの高分子材料層108で負極突起部107を覆うと、すなわち負極突起部107が完全に埋没する厚さの高分子材料層108を形成すると、キャリアイオンを吸蔵することができなくなり、二次電池の放電容量の形成が困難になる。一方、負極突起部107の高さの2/4よりも薄い高分子材料層108で負極突起部107を覆うと、キャリアイオンが負極基礎部106の負極活物質層102に吸蔵され膨張するため、負極活物質層102の剥離が進行するおそれがある。特に、高分子材料層108によって、負極突起部107の根元から負極突起部107の高さの3/4以上4/4未満の範囲にあたる部分を覆うことが好ましい。
高分子材料層108は、二次電池の電解液に接するため、電解液に対して耐溶解性を有するものである必要がある。また、負極100の電位を下げた際に、還元し分解するものでないことが必要である。すなわち、高分子材料層108にはこれらの条件を充足する、一般に負極活物質合剤層に用いるバインダ(結着剤)を広く適用することが可能である。例えば、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレン・イソプレン・スチレンゴム、アクリルニトリル・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、イソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリプロピレンオキサイド等の材料を用いることができる。
次に、図2(A)を用いて、突起部101bの好ましい具体的な形状を説明する。図2(A)に示すように、突起部101bは、基礎部101aとの接続部近傍において、内側に凸の曲率を有する形状であることが好ましい。突起部の根元を湾曲させて基礎部101aの表面と突起部101bの側面(突起部の根元の端部104)とを、角部を持たない滑らかな曲線とすることで、一点に応力が集中することを防止し、構造上強固な突起とすることができる。また、高分子材料層108が隙間をつくることなく負極突起部107の根元を覆うことができるため、より確実に負極基礎部106へのキャリアイオンの吸蔵を抑制することが可能となる。これによって、負極活物質層102の負極基礎部106からの剥離を抑制することができる。
また、図2(A)に示すように、突起部101bの側面と上面との境界部分(突起部の上面の端部103)に丸みを帯びさせることで端部への応力集中を緩和し、負極上方からの圧力に対して機械的強度を持たせることができる。
また、複数の突起の間には隙間が設けられており、リチウムイオンの挿入により露出している部分の活物質層が膨張しても、突起を被覆する活物質層同士の接触を低減することが可能である。
また、複数の突起部は並進対称性を有し、負極100において均一性高く形成されているため、正極及び負極においての局所的な反応が低減し、キャリアイオン及び活物質の反応が正極及び負極の間で均質に生じる。これらのため、負極100を二次電池に用いた場合、高速な充放電が可能となると共に、充放電による活物質の崩壊及び剥離を抑制でき、サイクル特性がさらに向上した二次電池を製造することができる。
さらには、突起の形状を概略同形とすることができるため、局所的な充放電を低減すると共に、活物質の重量を制御することが可能である。また、突起の高さが揃っていると、電池の製造工程時において局所的な荷重を防ぐことが可能であり、歩留まりを高めることができる。これらのため、電池の仕様を制御しやすい。
次に、図1(B)とは異なる負極の構造を、図2(B)を用いて説明する。図2(B)に示す負極は、既述の図1(B)の負極に対して負極集電体101の突起部の先端に保護層105を有する点において異なる。
負極集電体101は、図1(B)に示す負極と同様の材料、構造で形成される。負極集電体の基礎部101a上に、突起部101bが設けられている。さらに本負極においては、突起部101bの先端部に保護層105が形成され、基礎部101a及び突起部101bを有する負極集電体101と、保護層105を被覆するように負極活物質層102が設けられている。
保護層105の厚さは、100nm以上10μm以下が好ましい。保護層はエッチング工程におけるハードマスクとして機能させるため、集電体材料のエッチングの際に用いるガス種に対して高いエッチング耐性を有する材料であることが好ましい。保護層105の材料として、例えば窒化珪素膜、酸化珪素膜、酸窒化珪素膜等の絶縁体を用いることができる。
これら絶縁体を保護層105として用いることで、フォトレジストよりも高いエッチング選択性を得ることができる。
その他、リチウムと合金化する材料を選択する場合には、保護層105は負極活物質層の一部として利用することができ、二次電池の高容量化に寄与する。また電気伝導性の高い材料を選択する場合には、保護層105は負極集電体の突起部の一部として機能させることができる。ただし電池の初回充電時にリチウムイオンと反応して不可逆容量を形成する材料は、保護層105として選択すべきではない。
本実施の形態に示す突起部101bの形状について、図3を用いて説明する。突起部101bには図3(A)に示す円柱状の突起110を用いることができる。円柱状の突起110は基礎部に平行な断面形状が円であるため、全方向からの応力を等方的に受けることができ、均質な負極となる。図3(B)及び(C)は同様に円柱状であり、柱が内側に凹んでいる場合の突起111と外側に突出している場合の突起112を示している。これらの形状は、図3(A)に示す単純な円柱状の突起と比較して、突起に付加される応力をその形状によって制御できるため、適切な構造設計を施すことにより、機械的強度をさらに向上させることができる。図3(D)に示す突起113は図3(A)の円柱の上面を湾曲させた構造である。図3(A)に示す円柱状の突起110に対し、上面の端部にかかる応力を緩和することができることに加え、突起113上の負極活物質の被覆性を向上させることができる。図3(E)に示す突起114は円錐状であり、図3(F)に示す突起115はこの頂部を湾曲させた突起である。また、図3(G)に示す突起116は、円錐状であり、頂部に平坦面を設けた突起である。突起114、115及び116で示すように、その形状を円錐状とすることで、特に負極集電体の基礎部との接続面積を増やし、応力耐性を強化することができる。図3(H)に示す突起117は、板状の突起である。図3(I)に示す突起118は、パイプ状の突起である。内部に空洞を有するパイプ状とすることで、空洞内にも負極活物質を配置することができ、負極の放電容量を増加させることができる。
以上の突起は基礎部101aとの接続部近傍において、図2(A)に示すように、内側に凸の曲率を有する形状であることが好ましい。突起部の根元を湾曲させて基礎部101aの表面と突起部101bの側面とを、角部を持たない滑らかな曲線とすることで、一点に応力が集中することを防止し、構造上強固な突起とすることができる。
以上に示した突起部101bの形状は一例であって、本実施の形態に示す突起部101bはこれら突起110乃至118の形状に限られない。突起部101bはこれらの形状の要素の組み合わせであっても良く、これらの形状の変形であってもよい。また、複数の突起部101bは、突起110乃至118のうちから複数の突起を選択して形成してもよい。
特に、突起110、111、112、116、117、118はいずれも頂部に平坦面を有しているため、後述するスペーサを突起の上方に形成する場合には、平坦面によってスペーサを支持することができるため、セパレータレスの構成に適した構造である。なお、図1(A)においては、突起部101bとして円柱状の突起110を用いて示す。
また、頂部に平坦面を有する突起においては、平坦面の形状は突起110、111、112、116で示される円状、突起117で示される矩形状、突起118で示されるパイプ状に限られず、C字型、I字型、L字型、H字型、S字型、T字型、U字型、V字型等の多角形状、楕円状、その他平坦面が形成可能な任意の形状とすることができる。
以上の突起部101bの形状は、いずれもその上面又は側面に負極活物質層102を形成することが可能であり、当該形状の突起部101bを有する負極突起部107の根元部分を、高分子材料層108で覆うことができる。
本実施の形態に示す負極集電体101の上面形状について、図4を用いて説明する。
図4(A)は、基礎部101aと、基礎部101aから突出する複数の突起部101bの上面図である。ここでは、上面形状が円形である複数の突起部101bが配置されている。図4(B)は、図4(A)を方向aに移動したときの上面図である。図4(A)及び図4(B)おいて、複数の突起部101bの位置が同一である。また、ここでは、図4(A)において、方向aに移動したが、方向b、方向cにそれぞれ移動しても、図4(B)と同様の配置となる。すなわち、図4(A)に示す複数の突起部101bは突起の断面が並ぶ平面座標において、並進操作において対称である並進対称性を有する。
また、図4(C)は、基礎部101aと、基礎部101aから突出する複数の突起部の上面図である。ここでは、上面形状が円形である突起部101bと、上面形状が正方形である突起部101cが交互に配置されている。図4(D)は、突起部101b、突起部101cを方向cに移動したときの上面図である。図4(C)及び図4(D)の上面図において、突起部101b、突起部101cの配置が同一である。すなわち、図4(C)に示す複数の突起部101b、突起部101cは並進対称性を有する。
複数の突起を並進対称に配置することで、複数の突起それぞれの電子伝導性のばらつきを低減することができる。このため、正極及び負極においての局所的な反応が低減され、キャリアイオン及び活物質の反応が均質に生じ、拡散過電圧(濃度過電圧)を防ぐと共に、電池特性の信頼性を高めることができる。
複数の突起部101bについて、断面形状における幅(直径)は、50nm以上5μm以下である。また、複数の突起部101bの高さは、1μm以上100μm以下である。従って突起部101bのアスペクト比(縦横比)は、0.2以上2000以下である。
ここで、突起部101bにおける「高さ」とは、突起部の長手方向の断面形状において、突起部101bの頂点(または上面)から基礎部101aの表面まで垂直に下ろした線分の長さをいう。なお、基礎部101aと突起部101bとの界面は必ずしも明確ではない。後述するように、同一の集電体材料から基礎部101aと突起部101bを形成するためである。このため、集電体の基礎部101aと突起部101bとの接続部において、基礎部101aの上面と同一平面上にある集電体中の面を、基礎部と突起部との界面として定義する。ここで、基礎部の上面には、基礎部と突起物との界面は除かれる。また、基礎部の上面が粗い場合には、その平均粗さの位置をもって基礎部の上面とする。
また、一の突起部101bと、隣り合う他の突起部101bとの間隔は、突起部101b上に形成する負極活物質層102の膜厚の3〜5倍とすることが好ましい。突起部101b同士の間隔を負極活物質層102の膜厚の2倍とすると、負極活物質層102の形成後の突起の間隔に隙間がなくなる一方で、間隔を5倍以上とすると、高分子材料層108により埋没する負極基礎部106の面積が増大し、負極突起部107を形成して表面積を増大させる効果が薄れるためである。
これらの結果、負極100を用いた二次電池の充電により負極突起部107に設けられた負極活物質層102の体積が膨張しても、突起同士が接触せず、突起の崩壊を妨げることができると共に、二次電池の充放電容量の低下を妨げることができる。
(負極の製造方法1)
次に、図1(B)に示す負極100の製造方法について、図5を用いて説明する。
図5(A)に示すように、集電体材料121上にエッチング工程におけるマスクとなるフォトレジストパターン120を形成する。
集電体材料121は、集電体として使用する電位領域においてリチウムと合金化しない材料であり、耐食性の高い導電性材料を用いる。例えば、ステンレス、タングステン、ニッケル、チタン等に代表される金属、及びこれらの合金など、導電性の高い材料を用いることができる。また、集電体材料121として、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。
特に、集電体材料121として、チタンを用いることが好ましい。チタンは鋼鉄以上の強度を有する一方で、質量は鋼鉄の半分以下であり非常に軽い。また、チタンはアルミニウムよりも約2倍の強度を有し、他の金属よりも金属疲労が生じにくい。このため、軽量な電池の形成が実現できるとともに、負極活物質層の芯として機能することで、シリコンの膨張収縮による劣化や崩壊を抑制することができる。さらに、チタンはドライエッチングの加工に非常に適した材料であり、高いアスペクト比の突起部を集電体表面に形成することが可能である。
集電体材料121は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。網状等の開口を有する形状の集電体材料を用いた場合には、次に形成する突起部は開口部を除いた集電体材料の表面部分に形成する。
フォトレジストパターン120は、フォトリソグラフィ工程で露光及び現像することによって所望の形状に形成することができる。また、フォトレジストパターン120はフォトリソグラフィの他、インクジェット法、印刷法等を用いて形成することもできる。
次に、フォトレジストパターン120を用いて、集電体材料121を選択的にエッチングし、図5(B)に示すように、基礎部101a及び複数の突起部101bを有する負極集電体101を形成する。集電体材料のエッチング方法としては、ドライエッチング法、ウエットエッチング法を適宜用いることができる。特にアスペクト比の高い突起部を形成する場合には、ドライエッチング法を用いることが好ましい。
例えば、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)装置を用い、エッチングガスとしてBCl3とCl2の混合ガスを用いて、集電体材料121をエッチングすることで、基礎部101a及び複数の突起部101bを有する負極集電体101を形成することができる。また、エッチングガスの流量比は適宜調整すればよいが、エッチングガスの流量比の一例として、BCl3とCl2それぞれの流量比を3:1とすることができる。また、ドライエッチングとして、平行平板型RIE(Reactive Ion Etching)法を用いることができる。
また、フォトレジストパターンの初期形状や、エッチング時間、エッチングガス種、印加バイアス、チャンバー内圧力、基板温度等のエッチング条件を適宜調整することによって、突起部101bを任意の形状とすることができる。
本実施の形態に示すように、フォトレジストパターン120をマスクとして用いて集電体材料121をエッチングすることで、長手方向に実質的に垂直に延びた複数の突起部を形成することができる。また、形状が略一致している均質な突起部を複数形成することができる。
形成した突起部101b以外の残存した集電体材料121は基礎部101aとなる。基礎部101aの表面は平坦であってもよく、エッチング工程によって粗い表面となっても良い。いずれの場合であっても、基礎部101aの表面は負極活物質層を介して高分子材料層で覆われるため、二次電池の特性に直接的に寄与しないためである。
エッチング工程により突起部101bを形成した後、マスクとして用いたフォトレジストパターン120をフォトレジスト剥離工程において除去する。
次に、負極集電体101上に負極活物質層を形成する。図5(C)に示すように、負極活物質層102は、負極集電体の露出する上面を覆うことが好ましい。すなわち、突起部101bの側面、上面、及び突起部101bが形成されていない基礎部101aの上面が負極活物質層102によって覆われるように形成する。
負極活物質層102としてシリコンを用いる場合、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法若しくは熱CVD法に代表される化学蒸着法、又はスパッタリング法に代表される物理蒸着法を用いて形成することができる。シリコンは、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコン又はこれらの組み合わせとすることができる。なお、シリコンは、リンが添加されたn型シリコン層、ボロンが添加されたp型シリコン層としてもよい。
次に、負極基礎部106上及び負極突起部107の根元部分を覆うように、高分子材料層108を形成する(図5(D))。高分子材料層の形成は、形成した負極活物質層102上に高分子材料を含む溶液を塗布し乾燥させることで形成する。高分子材料は溶液として塗布するため、溶液の滴下量に応じて負極基礎部106の表面から所定の深さで溜まる。これを減圧下等の環境で乾燥させることで高分子材料層が形成されるため、溶液の滴下量を制御することによって、任意の厚さの高分子材料層108を形成することができる。高分子材料の塗布及び乾燥は複数回繰り返して行うことで、高分子材料層108を積層してもよい。高分子材料層108は、負極突起部107の高さの2/4以上4/4未満の厚さであることが好ましい。例えば、負極突起部107の高さを3μmとした場合、高分子材料層108の厚さを1.5μm以上3μm未満とするとよい。
高分子材料層の形成のための塗布工程には、スピンコート法を用いることもできる。高分子材料を含む溶液の粘性が高い場合には、負極突起部107が障害となり、高分子材料層が均一に形成されない場合がある。このため、高分子材料を含む溶液が高分子材料層の被形成面に均一に広がるように、負極突起部107の配置を設計することもできる。なお、高分子材料を含む溶液の粘性が高い場合には、高分子材料層の被形成面の平坦性を高めておくことが好ましい。
(負極の製造方法2)
次に、図2(B)に示す負極100の製造方法について、図6(A)乃至(D)を用いて説明する。本製造方法では負極の製造方法1と比べ、保護層を形成しエッチングの際のハードマスクとして用いる点で異なる。
まず、負極の製造方法1で示したものと同等の集電体材料121上に保護層105を成膜する(図6(A)参照)。保護層105は、CVD法、スパッタリング法、蒸着法、めっき法等により形成することができる。保護層105の厚さは100nm以上10μm以下が好ましい。保護層105はエッチング工程におけるハードマスクとして機能させるため、集電体材料121のエッチングの際に用いるガス種に対して高いエッチング耐性を有する材料であることが好ましい。例えば保護層105の材料として、窒化珪素膜、酸化珪素膜、酸窒化珪素膜等の絶縁体を用いることができる。これら絶縁体を保護層105として用いることで、フォトレジストよりも高いエッチング選択性を得ることができる。その他、リチウムと合金化する材料を選択する場合には、保護層105は負極活物質の一部として利用することができ、二次電池の高容量化に寄与する。また電気伝導性の高い材料を選択する場合には、保護層105は負極集電体の突起部の一部として機能させることができる。ただし電池の初回充電時にリチウムイオンと反応して不可逆容量を形成する材料は、保護層105として選択すべきではない。
次に、図6(A)に示すように、保護層105上にフォトレジストパターン120を形成する。負極の製造方法1とは異なり、フォトレジストパターン120は保護層105をパターニング加工するために用いる。ドライエッチング法又はウエットエッチング法によって、フォトレジストパターン120をマスクに保護層105を所望のパターンに加工する(図6(B)参照)。ドライエッチングとしては、平行平板型RIE(Reactive Ion Etching)法や、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)エッチング法を用いることができる。
フォトレジストパターン120を薬液により剥離除去した後、図6(C)に示すように、個々のパターンに分離された保護層105をハードマスクとして用い、集電体材料121を選択的にエッチングする。このエッチング工程により、負極集電体101における突起部101b及び基礎部101aが形成される。
その後、図6(D)に示すように、突起部の設けられていない基礎部101aの表面、突起部101bの側面、及び保護層105の側面及び上面を覆うように、負極活物質層102を形成した後、負極突起部107の根元を覆って高分子材料層108を形成する。負極の製造方法1で示した方法と同様に行えばよい。
以上の製造方法により、突起部101bの直上に保護層105を有する負極100を形成することができる。なお、本製造方法においては保護層105のパターン加工後に、集電体材料121をエッチングする前にフォトレジストパターン120を除去したが、フォトレジストパターン120の除去は集電体材料121のエッチング後に行ってもよい。
突起部101bの高さが高い場合、すなわちエッチング時間が長い場合、フォトレジストパターンのみをマスクとするとエッチング工程においてマスクの厚さが徐々に薄くなり、一部のマスクが除去され、集電体材料121の表面が露出されてしまう。この結果、突起部101bの高さにばらつきが生じてしまう。しかし、分離された保護層105をハードマスクとして用いることで、集電体材料121の露出を妨げることが可能であり、突起部101bの高さのばらつきを低減することができる。
突起部101b直上の保護層105は、導電性材料であれば集電体の一部として機能することができる。また、リチウムと合金化する材料であれば、負極活物質の一部として機能することも可能である。
また、突起部101b直上の保護層105は、負極活物質層102の表面積を増加させることにも寄与する。特に、突起部101bの高さが高い場合には、エッチングに要する時間が長く、さらには製造可能な高さには限界がある。そこで、保護層105を厚く形成することで基礎部101a上の突起を長くすることができ、その結果電池の放電容量を増加させることができる。これにより、負極基礎部106における負極活物質層102を高分子材料層108で被覆することにより制限された容量を補填することができる。
集電体材料からなる突起部101bの高さと保護層105の高さ(膜厚)との比率は、膜厚やエッチング条件の制御により任意に調整することができる。このような比率の自由な設計によって、様々な効果を得ることができる。例えば保護層105と突起部101bの側面は、材料が異なり、また異なるエッチング工程により処理されているため、必ずしも形状が一致しない。このことを利用して、突起の形状を任意に設計することができる。また、保護層105と突起部101bとの界面位置を設計することで、機械的強度の高い突起構造体を形成することが可能である。
(負極の製造方法3)
負極の製造方法1及び2では、フォトレジストパターンの形成にフォトリソグラフィ技術を用いて負極を製造したが、本製造方法においてはこれと異なる方法により図1(B)に示す負極100を製造する。本製造方法は、図7(A)乃至(D)を用いて説明する。本製造方法においては、ナノインプリント法を用いて負極集電体を製造する。
ナノインプリント法(ナノインプリントリソグラフィ)は1995年にプリンストン大学のStephen.Y.Chouらによって提案された微細配線加工技術であり、コスト高な露光装置を用いずに安価に10nm程度の解像度の微細加工が可能である点で注目されている。ナノインプリント法には、熱ナノインプリント法と光ナノインプリント法とがある。熱ナノインプリント法では熱加塑性のある固体樹脂を用い、光ナノインプリント法では光硬化性のある液体樹脂を用いる。
図7(A)に示すように、負極の製造方法1で示したものと同等の集電体材料121上に樹脂124を塗布形成する。樹脂124は、上述の熱ナノインプリント法の場合には熱可塑性樹脂を用い、光ナノインプリント法の場合には紫外線で硬化する光硬化性樹脂を用いる。熱可塑性樹脂としては、例えばPMMA(ポリメタクリル酸メチル)などを用いることができる。この集電体材料121上に形成した樹脂124にモールド123を押しつけて、樹脂124を所望のパターンに加工する。モールド123は熱酸化珪素膜等の上にレジストを塗布し、レジストを電子ビームにより直接描画することでパターニングし、これをマスクとしてエッチング加工したものを用いることができる。
熱ナノインプリント法の場合、モールドの押しつけの前に、熱可塑性樹脂を加熱して軟化させておく。モールド123を樹脂124に接触させて加圧することで樹脂124を変形させ、加圧した状態で冷却することで樹脂124を硬化させてモールド123の凹凸を樹脂124に転写する(図7(B)参照)。
一方、光ナノインプリント法の場合には、モールド123を樹脂124に接触させて樹脂124を変形させ、この状態で紫外線を照射して樹脂124を硬化させる。その後モールドを引き離すことで、モールド123の凹凸を樹脂124に転写することできる(図7(B)参照)。
熱ナノプリント法又は光ナノインプリント法のいずれの方法においても、モールド123を加圧しているため、樹脂124が押しつけたモールド123の下に残存する場合があり、変形加工された樹脂124の凹部の底に残膜が生じ得る。このため、酸素ガスを用いた異方性エッチング(RIE)を樹脂124の表面に施し、残膜を除去する工程を行う。以上の工程によって、エッチング工程におけるマスクとして機能する分離した樹脂124が形成される。
この後、負極の製造方法1と同様の方法により、樹脂124をマスクとして集電体材料121をエッチングし、複数の突起部101b及び基礎部101aを形成する(図7(C)参照)。樹脂124を除去した後、さらに、負極集電体101を覆って負極活物質層102を形成し、その後負極基礎部106及び負極突起部107の根元部分を覆って高分子材料層108を形成する(図7(D))。
以上により、フォトリソグラフィ技術を用いずに微細構造を有する負極集電体101を製造することができる。特に本製造方法においては、高価な露光装置やフォトマスクを用いることがないため、安価に負極100を製造することができる。また、集電体材料121としてシート状の材料を用いることができ、Roll to Roll法で製造することができるため、本製造方法は負極の大量生産に適している。
(負極の製造方法4)
本製造方法においては、負極の製造方法1乃至3に記載の方法と異なる方法により図1(B)に示す負極100を製造する。本製造方法について、図8(A)乃至(C)を用いて説明する。本製造方法は、集電体材料の表面に突起部を形成した後、該材料とは異なる導電材料からなる導電層で被覆して負極集電体を製造する。
まず図8(A)に示すように、負極の製造方法1乃至3で説明した方法等により集電体材料125に突起部を形成する。またプレス加工によって突起部を成形してもよい。突起部はこの後さらに導電層により被覆されるため、被覆する導電層の膜厚を考慮した径とすべきである。
本製造方法において集電体材料125には、負極活物質層の芯として機能することが困難な材料であっても、導電層を被覆するため選択することができる点において利点がある。例えば、銅やアルミニウムは電気伝導度が高く、また金属加工に適している。このためプレス加工による突起部の形成も可能である。しかし、延性及び展性が大きいため、負極活物質層の芯として構造的な強度が十分に高いとはいえない。またアルミニウムは表面に絶縁体である不動態皮膜を形成するため、アルミニウム表面に直接活物質層を接触させても電極反応は生じない。このため、これらの集電体材料上に導電層126を別途形成することで、上記課題を解決することができる。
また、集電体材料125が負極活物質層の芯として機能することが可能な材料であっても、さらに硬度の高い材料からなる導電層を被覆することで、機械的強度を一層強化することができる。
図8(B)に示すように、突起部を形成した集電体材料の表面を覆って導電層126を形成する。これによって、突起部101b及び基礎部101aを有する負極集電体101が形成される。
導電層126は、リチウムと合金化しない導電性材料を用いることができる。例えば、ステンレス、タングステン、ニッケル、チタン等に代表される金属、及びこれらの合金を用いることができる。
導電層126はめっき法、スパッタリング法、蒸着法、MOCVD法(有機金属気相成長法:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)等によって形成することができる。
その後、図8(C)に示すように、導電層126上に負極活物質層102、高分子材料層108を既述の方法により形成し、負極100を製造する。
本製造方法によって、例えば銅からなる集電体材料に、スパッタリング法によってチタンからなる導電層を成膜することより、強度の高い突起部を形成することができる。このため、高分子材料層による負極基礎部へのリチウム吸蔵の抑制に加えて、リチウムの挿入脱離によるシリコン負極活物質の膨張収縮に対する負極突起部の芯として機能の強化により、負極の信頼性を向上させることができる。
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
(実施の形態2)
本実施の形態では、二次電池の構造及び製造方法について説明する。
はじめに、正極及びその製造方法について説明する。
図9(A)は正極300の断面図である。正極300は、正極集電体301上に正極活物質層302が形成される。
正極集電体301には、ステンレス、金、白金、亜鉛、鉄、銅、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれらの合金など、導電性の高い材料を用いることができる。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。正極集電体301は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。
正極活物質層に用いる正極活物質としては、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能な材料を用いることができ、例えば、オリビン型の結晶構造、層状岩塩型の結晶構造、又はスピネル型の結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物等が挙げられる。
オリビン型構造のリチウム含有複合酸化物としては、例えば、一般式LiMPO4(Mは、Fe(II)、Mn(II)、Co(II)、Ni(II)の一以上)で表される複合酸化物が挙げられる。一般式LiMPO4の代表例としては、LiFePO4、LiNiPO4、LiCoPO4、LiMnPO4、LiFeaNibPO4、LiFeaCobPO4、LiFeaMnbPO4、LiNiaCobPO4、LiNiaMnbPO4(a+bは1以下、0<a<1、0<b<1)、LiFecNidCoePO4、LiFecNidMnePO4、LiNicCodMnePO4(c+d+eは1以下、0<c<1、0<d<1、0<e<1)、LiFefNigCohMniPO4(f+g+h+iは1以下、0<f<1、0<g<1、0<h<1、0<i<1)等が挙げられる。
特にLiFePO4は、安全性、安定性、高容量密度、高電位、初期酸化(充電)時に引き抜けるリチウムイオンの存在等、正極活物質に求められる事項をバランスよく満たしているため、好ましい。
層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、LiNiO2、LiMnO2、Li2MnO3、LiNi0.8Co0.2O2等のNiCo系(一般式は、LiNixCo1−xO2(0<x<1))、LiNi0.5Mn0.5O2等のNiMn系(一般式は、LiNixMn1−xO2(0<x<1))、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2等のNiMnCo系(NMCともいう。一般式は、LiNixMnyCo1−x−yO2(x>0、y>0、x+y<1))が挙げられる。さらに、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)O2、Li2MnO3−LiMO2(M=Co、Ni、Mn)等も挙げられる。
特に、LiCoO2は、容量が大きい、LiNiO2に比べて大気中で安定である、LiNiO2に比べて熱的に安定である等の利点があるため、好ましい。
スピネル型の結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物としては、例えば、LiMn2O4、Li1+xMn2−xO4、Li(MnAl)2O4、LiMn1.5Ni0.5O4等が挙げられる。
LiMn2O4等のマンガンを含むスピネル型の結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物に、少量のニッケル酸リチウム(LiNiO2やLiNi1−xMO2(M=Co、Al等))を混合すると、マンガンの溶出を抑制する、電解液の分解を抑制する等の利点があり好ましい。
また、正極活物質として、一般式Li(2−j)MSiO4(Mは、Fe(II)、Mn(II)、Co(II)、Ni(II)の一以上、0≦j≦2)で表される複合酸化物を用いることができる。一般式Li(2−j)MSiO4の代表例としては、Li(2−j)FeSiO4、Li(2−j)NiSiO4、Li(2−j)CoSiO4、Li(2−j)MnSiO4、Li(2−j)FekNilSiO4、Li(2−j)FekColSiO4、Li(2−j)FekMnlSiO4、Li(2−j)NikColSiO4、Li(2−j)NikMnlSiO4(k+lは1以下、0<k<1、0<l<1)、Li(2−j)FemNinCoqSiO4、Li(2−j)FemNinMnqSiO4、Li(2−j)NimConMnqSiO4(m+n+qは1以下、0<m<1、0<n<1、0<q<1)、Li(2−j)FerNisCotMnuSiO4(r+s+t+uは1以下、0<r<1、0<s<1、0<t<1、0<u<1)等が挙げられる。
また、正極活物質として、AxM2(XO4)3(A=Li、Na、Mg、M=Fe、Mn、Ti、V、Nb、Al、X=S、P、Mo、W、As、Si)の一般式で表されるナシコン型化合物を用いることができる。ナシコン型化合物としては、Fe2(MnO4)3、Fe2(SO4)3、Li3Fe2(PO4)3等が挙げられる。また、正極活物質として、Li2MPO4F、Li2MP2O7、Li5MO4(M=Fe、Mn)の一般式で表される化合物、NaF3、FeF3等のペロブスカイト型フッ化物、TiS2、MoS2等の金属カルコゲナイド(硫化物、セレン化物、テルル化物)、LiMVO4等の逆スピネル型の結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物、バナジウム酸化物系(V2O5、V6O13、LiV3O8等)、マンガン酸化物系、有機硫黄系等の材料を用いることができる。
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンの場合、正極活物質層302として、上記リチウム化合物及びリチウム含有複合酸化物において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、ベリリウム、またはマグネシウムを用いてもよい。
また正極活物質層302は、正極集電体301上に直接接して形成する場合に限らない。正極集電体301と正極活物質層302との間に、正極集電体301と正極活物質層302との密着性の向上を目的とした密着層や、正極集電体301の表面の凹凸形状を緩和するための平坦化層、放熱のための放熱層、正極集電体301又は正極活物質層302の応力を緩和するための応力緩和層等の機能層を、金属等の導電性材料を用いて形成してもよい。
図9(B)は、正極活物質層302として、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な粒子状の正極活物質303と、当該正極活物質303の複数を覆いつつ、当該正極活物質303が内部に詰められたグラフェン304で構成される正極活物質層302の平面図である。複数の正極活物質303の表面を異なるグラフェン304が覆う。また、一部において、正極活物質303が露出していてもよい。
なお、本明細書においてグラフェンとは、単層のグラフェン、又は2層以上100層以下の多層グラフェンを含むものをいう。単層グラフェンとは、π結合を有する1原子層の炭素分子のシートのことをいう。
また本明細書において後述する酸化グラフェンとは、上記グラフェンが酸化された化合物のことをいう。なお、酸化グラフェンを還元してグラフェンを形成する場合、酸化グラフェンに含まれる酸素は全て脱離されずに、一部の酸素はグラフェンに残存する。グラフェンに酸素が含まれる場合、酸素の割合は、全体の2atomic%以上20atomic%以下、好ましくは3atomic%以上15atomic%以下である。
ここで、グラフェンが多層グラフェンである場合、酸化グラフェンを還元したグラフェンを有することで、グラフェンの層間距離は0.34nm以上0.5nm以下、好ましくは0.38nm以上0.42nm以下、さらに好ましくは0.39nm以上0.41nm以下である。通常のグラファイトは、単層グラフェンの層間距離が0.34nmであり、本発明の一態様に係る二次電池に用いるグラフェンの方が、その層間距離が長いため、多層グラフェンの層間におけるキャリアイオンの移動が容易となる。
正極活物質303の粒径は、20nm以上100nm以下が好ましい。なお、正極活物質303内を電子が移動するため、正極活物質303の粒径はより小さい方が好ましい。
また、正極活物質303の表面にグラファイト層が被覆されていなくとも十分な特性が得られるが、グラファイト層が被覆されている正極活物質とグラフェンを共に用いると、キャリアが正極活物質間をホッピングし、電流が流れるためより好ましい。
図9(C)は、図9(B)の正極活物質層302の一部における断面図である。正極活物質303、及び該正極活物質303を覆うグラフェン304を有する。グラフェン304は断面図においては線状で観察される。同一のグラフェンまたは複数のグラフェンにより、複数の正極活物質を内包する。すなわち、同一のグラフェンまたは複数のグラフェンの間に、複数の正極活物質が内在する。なお、グラフェンは袋状になっており、該内部において、複数の正極活物質を内包する場合がある。また、グラフェンに覆われず、一部の正極活物質が露出している場合がある。
正極活物質層302の厚さは、20μm以上100μm以下の間で所望の厚さを選択する。なお、クラックや剥離が生じないように、正極活物質層302の厚さを適宜調整することが好ましい。
なお、正極活物質層302は、グラフェンの体積の0.1倍以上10倍以下のアセチレンブラック粒子や1次元の拡がりを有するカーボンナノファイバー等のカーボン粒子など、公知の導電助剤を有してもよい。
なお、正極活物質においては、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が膨張するものがある。このため、充放電により、正極活物質層が脆くなり、正極活物質層の一部が崩落してしまい、この結果二次電池の信頼性が低下する。しかしながら、正極活物質が充放電により体積膨張しても、当該周囲をグラフェンが覆うため、グラフェンは正極活物質の分散や正極活物質層の崩落を妨げることが可能である。すなわち、グラフェンは、充放電にともない正極活物質の体積が増減しても、正極活物質同士の結合を維持する機能を有する。
また、グラフェン304は、複数の正極活物質と接しており、導電助剤としても機能する。また、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な正極活物質を保持する機能を有する。このため、正極活物質層にバインダを混合する必要が無く、正極活物質層当たりの正極活物質量を増加させることが可能であり、二次電池の放電容量を高めることができる。
次に、正極活物質層302の製造方法について説明する。
粒子状の正極活物質及び酸化グラフェンを含むスラリーを形成する。次に、正極集電体301上に、当該スラリーを塗布した後、還元雰囲気での加熱により還元処理を行って、正極活物質を焼成すると共に、酸化グラフェンに含まれる酸素を脱離させ、グラフェンに間隙を形成する。なお、酸化グラフェンに含まれる酸素は全て脱離されず、一部の酸素はグラフェンに残存する。以上の工程により、正極集電体301上に正極活物質層302を形成することができる。この結果、正極活物質層の導電性が高まる。
酸化グラフェンは酸素を含むため、極性溶媒中では負に帯電する。この結果、酸化グラフェンは互いに分散する。このため、スラリーに含まれる正極活物質が凝集しにくくなり、焼成による正極活物質の粒径の増大を低減することができる。このため、正極活物質内の電子の移動が容易となり、正極活物質層の導電性を高めることができる。
ここで、正極300の表面にスペーサ305を設けた例を図10に示す。図10(A)はスペーサを有する正極の斜視図であり、図10(B)は、図10(A)の一点波線A−Bの断面図である。
図10(A)及び図10(B)に示すように、正極300は、正極集電体301上に正極活物質層302が設けられた構造を採る。正極活物質層302上に、さらにスペーサ305が設けられる。
スペーサ305は、絶縁性を有し、且つ電解液と反応しない材料を用いて形成することが可能である。代表的には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド、ポリアミド、の有機材料、ガラスペースト、ガラスフリット、ガラスリボン等の低融点ガラスを用いることができる。
スペーサ305は、スクリーン印刷等の印刷法、インクジェット法等を用いて形成することができる。このため、任意の形状を形成することが可能である。
スペーサ305は、正極活物質層302の直上に薄膜状に平面的に形成するが、矩形、多角形、円等の開口部を複数有する。従って、スペーサ305の平面形状は、格子状、円又は多角形の閉ループ状、多孔質状等の形状を取り得る。あるいは開口部が線状に延在することで、複数のスペーサがストライプ状に配列する構成であってもよい。スペーサ305が有する開口部によって、正極活物質層302の一部が露出する。この結果、スペーサ305が正極及び負極の接触を防ぐ機能を果たすとともに、開口部により正極負極間のキャリアイオンの移動を確保する。
スペーサ305の厚さは、1μm以上5μm以下、好ましくは2μm以上3μm以下とすることが好ましい。この結果、従来の二次電池のように、正極及び負極の間に厚さ数十μmのセパレータを設けた場合と比較して、正極及び負極の間隔を狭めることが可能であり、正極及び負極の間のキャリアイオンの移動距離を短くできる。このため、二次電池内に含まれるキャリアイオンを充放電のために有効に活用することができる。
以上のことから、スペーサ305の設置によって、二次電池におけるセパレータを不要とすることができる。この結果、二次電池の部品数を削減することが可能であり、コストを削減できる。
図11に、スペーサ305を用いたセパレータレスの二次電池の例を示す。図11(A)は、上記の負極の製造方法で作製した負極100と、既述の正極300とをスペーサ305を介して組み合わせた電池であり、これらの間は電解液306により満たされている。負極100の突起部とスペーサ305とが接するように、突起部又はスペーサの形状を設計する。機械的強度を保持するため、突起部とスペーサとの接触は面で行われることが好ましい。従って、互いに接する部分となるスペーサ305の表面、及び負極100の突起部の表面はできるだけ平坦であることが好ましい。
このため、図11(B)に示すように、特に負極の製造方法2で作製した、突起部の上部に保護層105を有する負極を用いることが好ましい。
なお、図11においては、全ての突起部とスペーサとが接触しているが、必ずしも全ての突起部がスペーサと接する必要はない。すなわち、スペーサ305中の開口部と対向する位置に負極の複数の突起部のうち一部が位置していても問題ではない。
スペーサと接する負極100の突起部は、スペーサ305とともに、正極300と負極100との間隔を保持する役割を果たす。従って、突起部に十分な機械的強度があることが重要となる。このため、突起部を形成する負極活物質層の芯に集電体材料を配置し、さらに銅等に比べ強度の高いチタンを用いることは極めて意義のある構成といえる。
次に、二次電池の構造及び製造方法の一形態について、図12を用いて説明する。ここでは、二次電池の断面構造について、以下に説明する。
図12(A)は、コイン形(単層式偏平型)の二次電池の外観図であり、図12(B)は、その断面図である。
コイン形の二次電池6000は、正極端子を兼ねた正極缶6003と負極端子を兼ねた負極缶6001とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット6002で絶縁シールされている。上記のように正極6010は、正極集電体6008とこれに接するように設けられた正極活物質層6007により形成される。一方、負極6009は、負極集電体6004とこれに接するように設けられた負極活物質層6005により形成される。正極活物質層6007と負極活物質層6005との間にはセパレータ6006と、電解液(図示せず)を有する。正極6010は、上記工程により得られた正極活物質層6007を用いる。
負極は、実施の形態1に示す負極100を適宜用いて形成すればよい。
正極集電体6008及び正極活物質層6007はそれぞれ、本実施の形態に示す正極集電体301及び正極活物質層302を適宜用いることができる。
セパレータ6006には、セルロース(紙)、または空孔が設けられたポリプロピレン、ポリエチレン等の絶縁体を用いることができる。
なお、正極6010として、前述した図10に示すスペーサ305を有する正極を用いる場合には、セパレータ6006を設けなくともよい。
電解液の溶質は、キャリアイオンであるリチウムを有するリチウム塩を用いる。代表例としては、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiPF6、Li(C2F5SO2)2N等のリチウム塩がある。
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンの場合、電解液の溶質として、上記リチウム塩において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、ベリリウム、またはマグネシウムを用いてもよい。
また、電解液の溶媒としては、キャリアイオンの移送が可能な材料を用いる。例えば非水系電解液を用いるとよい。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒の代表例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、γーブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等があり、これらの一つまたは複数を用いることができる。また、電解液の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性に対する安全性が高まる。また、二次電池の薄型化及び軽量化が可能である。ゲル化される高分子材料の代表例としては、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、フッ素系ポリマー等がある。また、電解液の溶媒として、難燃性及び難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一つまたは複数用いることで、二次電池の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇しても、二次電池の破裂や発火などを防ぐことができる。
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることができる。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
正極缶6003、負極缶6001には、耐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。特に、二次電池の充放電によって生じる電解液による腐食を防ぐため、ニッケル等を腐食性金属にめっきすることが好ましい。正極缶6003は正極6010と、負極缶6001は負極6009とそれぞれ電気的に接続する。
これら負極6009、正極6010及びセパレータ6006を電解液に含浸させ、図12(B)に示すように、正極缶6003を下にして正極6010、セパレータ6006、負極6009、負極缶6001をこの順で積層し、正極缶6003と負極缶6001とをガスケット6002を介して圧着してコイン形の二次電池6000を製造する。
次に、図13(A)及び(B)を用いて円筒型の二次電池の構造を説明する。円筒型の二次電池7000は図13(A)に示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)7001を有し、側面及び底面に電池缶(外装缶)7002を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)7002とは、ガスケット(絶縁パッキン)7010によって絶縁されている。
図13(B)は、円筒型の二次電池の断面を模式的に示した図である。中空円柱状の電池缶7002の内側には、帯状の正極7004と負極7006とがセパレータ7005を間に挟んで捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセンターピンを中心に捲回されている。電池缶7002は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶7002には、耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(ステンレス鋼など)を用いることができる。特に、二次電池の充放電によって生じる電解液による腐食を防ぐため、ニッケル等を腐食性金属にめっきすることが好ましい。電池缶7002の内側において、正極、負極及びセパレータが捲回された電池素子は、対向する一対の絶縁板7008、7009により挟まれている。また、電池素子が設けられた電池缶7002の内部は、電解液(図示せず)が注入されている。電解液は、コイン形の二次電池と同様のものを用いることができる。
正極7004及び負極7006は、上述したコイン形の二次電池の正極及び負極と同様に製造すればよいが、円筒型の二次電池に用いる正極及び負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成する点において異なる。負極7006は、実施の形態1に記載の負極を用いることで、高容量の二次電池を製造することができる。正極7004には正極端子(正極集電リード)7003が接続され、負極7006には負極端子(負極集電リード)7007が接続される。正極端子7003及び負極端子7007は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子7003は安全弁機構7012に、負極端子7007は電池缶7002の底にそれぞれ抵抗溶接される。安全弁機構7012は、PTC素子(Positive Temperature Coefficient)7011を介して正極キャップ7001と電気的に接続されている。安全弁機構7012は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ7001と正極7004との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子7011は温度が上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO3)系半導体セラミックス等を用いることができる。
なお、本実施の形態では、二次電池として、コイン形及び円筒型の二次電池を示したが、封止型二次電池、角型二次電池等様々な形状の二次電池を用いることができる。また、正極、負極、及びセパレータが複数積層された構造、正極、負極、及びセパレータが捲回された構造であってもよい。
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
(実施の形態3)
本発明の一態様に係る二次電池は、電力により駆動する様々な電気機器の電源として用いることができる。
本発明の一態様に係る二次電池を用いた電気機器の具体例として、テレビ、モニタ等の表示装置、照明装置、デスクトップ型あるいはノート型のパーソナルコンピュータ、ワードプロセッサ、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記憶された静止画又は動画を再生する画像再生装置、ポータブルCDプレーヤ、ラジオ、テープレコーダ、ヘッドホンステレオ、ステレオ、置き時計、壁掛け時計、コードレス電話子機、トランシーバ、携帯無線機、携帯電話、自動車電話、携帯型ゲーム機、玩具、電卓、携帯情報端末、電子手帳、電子書籍、電子翻訳機、音声入力機器、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、電気シェーバ、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、電気掃除機、温水器、扇風機、毛髪乾燥機、エアコンディショナー、加湿器、除湿器などの空調設備、食器洗い器、食器乾燥器、衣類乾燥器、布団乾燥器、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫、懐中電灯、チェーンソー等の電動工具、煙感知器、放射線測定器、透析装置等の医療機器、などが挙げられる。さらに、誘導灯、信号機、ベルトコンベア、エレベータ、エスカレータ、産業用ロボット、電力貯蔵システム等の産業機器の他、制御装置により電力の自律分散的な制御を行う電力網であるスマートグリッドのための蓄電装置も挙げられる。また、二次電池からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電気機器の範疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車(EV)、内燃機関と電動機を併せ持ったハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、これらのタイヤ車輪を無限軌道に変えた装軌車両、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車、自動二輪車、電動車椅子、ゴルフ用カート、小型又は大型船舶、潜水艦、ヘリコプター、航空機、ロケット、人工衛星、宇宙探査機や惑星探査機、宇宙船などが挙げられる。
なお、上記電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うための主電源として、本発明の一態様に係る二次電池を用いることができる。あるいは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電気機器への電力の供給を行うことができる無停電電源として、本発明の一態様に係る二次電池を用いることができる。あるいは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電気機器への電力の供給と並行して、電気機器への電力の供給を行うための補助電源として、本発明の一態様に係る二次電池を用いることができる。
図14に、上記電気機器の具体的な構成を示す。図14において、表示装置8000は、本発明の一態様に係る二次電池8004を用いた電気機器の一例である。具体的に、表示装置8000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体8001、表示部8002、スピーカー部8003、二次電池8004等を有する。本発明の一態様に係る二次電池8004は、筐体8001の内部に設けられている。表示装置8000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8004を無停電電源として用いることで、表示装置8000の利用が可能となる。
表示部8002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
図14において、据え付け型の照明装置8100は、本発明の一態様に係る二次電池8103を用いた電気機器の一例である。具体的に、照明装置8100は、筐体8101、光源8102、二次電池8103等を有する。図14では、二次電池8103が、筐体8101及び光源8102が据え付けられた天井8104の内部に設けられている場合を例示しているが、二次電池8103は、筐体8101の内部に設けられていてもよい。照明装置8100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8103を無停電電源として用いることで、照明装置8100の利用が可能となる。
なお、図14では天井8104に設けられた据え付け型の照明装置8100を例示しているが、本発明の一態様に係る二次電池は、天井8104以外、例えば側壁8105、床8106、窓8107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
また、光源8102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
図14において、室内機8200及び室外機8204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る二次電池8203を用いた電気機器の一例である。具体的に、室内機8200は、筐体8201、送風口8202、二次電池8203等を有する。図14では、二次電池8203が、室内機8200に設けられている場合を例示しているが、二次電池8203は室外機8204に設けられていてもよい。あるいは、室内機8200と室外機8204の両方に、二次電池8203が設けられていてもよい。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機8200と室外機8204の両方に二次電池8203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
なお、図14では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る二次電池を用いることもできる。
図14において、電気冷凍冷蔵庫8300は、本発明の一態様に係る二次電池8304を用いた電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫8300は、筐体8301、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303、二次電池8304等を有する。図14では、二次電池8304が、筐体8301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫8300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫8300の利用が可能となる。
なお、上述した電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電気機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る二次電池を用いることで、電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
また、電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、二次電池に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫8300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行われない夜間において、二次電池8304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行われる昼間において、二次電池8304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
(実施の形態4)
次に、電気機器の一例である携帯情報端末について、図15を用いて説明する。
図15(A)及び図15(B)は2つ折り可能なタブレット型端末である。図15(A)は、開いた状態であり、タブレット型端末は、筐体9630、表示部9631a、表示部9631b、表示モード切り替えスイッチ9034、電源スイッチ9035、省電力モード切り替えスイッチ9036、留め具9033、操作スイッチ9038、を有する。
表示部9631aは、一部をタッチパネルの領域9632aとすることができ、表示された操作キー9638にふれることでデータ入力をすることができる。なお、表示部9631aにおいては、一例として半分の領域が表示のみの機能を有する構成、もう半分の領域がタッチパネルの機能を有する構成を示しているが該構成に限定されない。表示部9631aの全ての領域がタッチパネルの機能を有する構成としてもよい。例えば、表示部9631aの全面をキーボードボタン表示させてタッチパネルとし、表示部9631bを表示画面として用いることができる。
また、表示部9631bにおいても表示部9631aと同様に、表示部9631bの一部をタッチパネルの領域9632bとすることができる。また、タッチパネルのキーボード表示切り替えボタン9639が表示されている位置に指やスタイラスなどでふれることで表示部9631bにキーボードボタン表示することができる。
また、タッチパネルの領域9632aとタッチパネルの領域9632bに対して同時にタッチ入力することもできる。
また、表示モード切り替えスイッチ9034は、縦表示または横表示などの表示の向きを切り替え、白黒表示やカラー表示の切り替えなどを選択できる。省電力モード切り替えスイッチ9036は、タブレット型端末に内蔵している光センサで検出される使用時の外光の光量に応じて表示の輝度を最適なものとすることができる。タブレット型端末は光センサだけでなく、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサなどの他の検出装置を内蔵させてもよい。
また、図15(A)では表示部9631bと表示部9631aの表示面積が同じ例を示しているが特に限定されず、一方のサイズともう一方のサイズが異なっていてもよく、表示の品質も異なっていてもよい。例えば一方が他方よりも高精細な表示を行える表示パネルとしてもよい。
図15(B)は、閉じた状態であり、タブレット型端末は、筐体9630、太陽電池9633、充放電制御回路9634、バッテリー9635、DCDCコンバータ9636を有する。なお、図15(B)では充放電制御回路9634の一例としてバッテリー9635、DCDCコンバータ9636を有する構成について示しており、バッテリー9635は、上記実施の形態で説明した二次電池を有している。
なお、タブレット型端末は2つ折り可能なため、未使用時に筐体9630を閉じた状態にすることができる。従って、表示部9631a、表示部9631bを保護できるため、耐久性に優れ、長期使用の観点からも信頼性の優れたタブレット型端末を提供できる。
また、この他にも図15(A)及び図15(B)に示したタブレット型端末は、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報をタッチ入力操作又は編集するタッチ入力機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有することができる。
タブレット型端末の表面に装着された太陽電池9633によって、電力をタッチパネル、表示部、または映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池9633は、筐体9630の片面又は両面に設けることができ、バッテリー9635の充電を効率的に行う構成とすることができる。なおバッテリー9635としては、本発明の一態様に係る二次電池を用いると、小型化を図れる等の利点がある。
また、図15(B)に示す充放電制御回路9634の構成、及び動作について図15(C)にブロック図を示し説明する。図15(C)には、太陽電池9633、バッテリー9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3、表示部9631について示しており、バッテリー9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3が、図15(B)に示す充放電制御回路9634に対応する箇所となる。
まず、外光により太陽電池9633により発電がされる場合の動作の例について説明する。太陽電池で発電した電力は、バッテリー9635を充電するための電圧となるようDCDCコンバータ9636で昇圧または降圧がなされる。そして、表示部9631の動作に太陽電池9633からの電力が用いられる際にはスイッチSW1をオンにし、コンバータ9637で表示部9631に必要な電圧に昇圧または降圧をすることとなる。また、表示部9631での表示を行わない際には、スイッチSW1をオフにし、スイッチSW2をオンにしてバッテリー9635の充電を行う構成とすればよい。
なお、太陽電池9633については、発電手段の一例として示したが、特に限定されず、圧電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段によるバッテリー9635の充電を行う構成であってもよい。例えば、無線(非接触)で電力を送受信して充電する無接点電力伝送モジュールや、また他の充電手段を組み合わせて行う構成としてもよい。
また、上記実施の形態で説明した二次電池を具備していれば、図15に示した電気機器に特に限定されないことは言うまでもない。
(実施の形態5)
さらに、電気機器の一例である移動体の例について、図16を用いて説明する。
実施の形態1又は2で説明した二次電池を制御用のバッテリーに用いることができる。制御用のバッテリーは、プラグイン技術や非接触給電による外部からの電力供給により充電をすることができる。なお、移動体が鉄道用電気車両の場合、架線や導電軌条からの電力供給により充電をすることができる。
図16(A)及び(B)は、電気自動車の一例を示している。電気自動車9700には、二次電池9701が搭載されている。二次電池9701の電力は、制御回路9702により出力が調整されて、駆動装置9703に供給される。制御回路9702は、図示しないROM、RAM、CPU等を有する処理装置9704によって制御される。
駆動装置9703は、直流電動機若しくは交流電動機単体、又は電動機と内燃機関と、を組み合わせて構成される。処理装置9704は、電気自動車9700の運転者の操作情報(加速、減速、停止など)や走行時の情報(上り坂や下り坂等の情報、駆動輪にかかる負荷情報など)の入力情報に基づき、制御回路9702に制御信号を出力する。制御回路9702は、処理装置9704の制御信号により、二次電池9701から供給される電気エネルギーを調整して駆動装置9703の出力を制御する。交流電動機を搭載している場合は、図示していないが、直流を交流に変換するインバータも内蔵される。
二次電池9701は、プラグイン技術による外部からの電力供給により充電することができる。例えば、商用電源から電源プラグを通じて二次電池9701に充電する。充電は、AC/DCコンバータ等の変換装置を介して、一定の電圧値を有する直流定電圧に変換して行うことができる。二次電池9701として、本発明の一態様に係る二次電池を搭載することで、充電時間の短縮化などに寄与することができ、利便性を向上させることができる。また、充放電速度の向上により、電気自動車9700の加速力の向上に寄与することができ、電気自動車9700の性能の向上に寄与することができる。また、二次電池9701の特性の向上により、二次電池9701自体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、燃費を向上させることができる。
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
(負極の作製)
負極集電体として、材料に0.7mm厚のシート状のチタン(以下、チタンシートという。)を用いた。当該チタンの純度は99.5%である。このチタンシート上にフォトレジストパターンを形成した後、フォトレジストから露出したチタンシートの表面をドライエッチング法によりエッチングした。エッチングは、ソース(13.56MHz)/バイアス(3.2MHz)を1000/80W、圧力を0.67Pa、エッチングガスをBCl3とCl2の混合ガスとしてその流量を150/50sccm、基板温度を−10℃とした条件下で440秒行った。当該エッチングにより、基礎部及び突起部を有する負極集電体を形成した。
この後、負極集電体上に負極活物質層となる非晶質シリコンを、減圧CVD装置により500nmの厚さで形成した。非晶質シリコン層の成膜は、モノシラン(SiH4)と窒素(N2)とをそれぞれ300sccmの流量で反応室に導入し、圧力100Pa、基板温度550℃の条件で、2時間20分かけて行った。これにより、負極集電体の突起部を芯とした負極突起部と、負極集電体の基礎部とその上の負極活物質層とからなる負極基礎部を形成した。
次に、負極突起部及び負極基礎部上に高分子材料を含む溶液を塗布した。高分子材料としてSBR分散液を用いた。SBR分散液は、下記の構造式に示すスチレン及びブタジエンを骨格としてアクリル酸エステルや有機酸を少量含むランダムコポリマー粒子が、水に分散したものである。
負極突起部を形成したチタンシートを真空ベルジャー内に設置して、事前に概略70℃の温度で加熱し、この状態でSBR分散液を滴下した。SBR分散液の滴下後、概略70℃のまま減圧して数分間乾燥した。乾燥後はサンプルの重量は0.2mg増加していたため、0.2mgのSBRが塗布されたものと考えられる。以上の一連の工程は1回のみ行ったが、二回以上繰り返し行って高分子材料層の膜厚の均一化を行ってもよい。以上の工程により、負極突起部の根元部分及び負極基礎部上に高分子材料層を形成した。
作製した負極を観察した写真を、図17に示す。図17(A)乃至(C)は、作製した負極を鳥瞰したSEM(Scanning Electron Microscope)による観察像であり、図17(A)から図17(C)にかけて拡大観察したものである。非晶質シリコンで被覆された複数の負極突起部401が、周期的に配列している様子が確認できる。また、負極突起部401を囲む高分子材料層402が確認できる。負極突起部401は、頭頂部近傍を除き大部分を高分子材料層402に埋没させている。このため、負極突起部401が有する負極活物質層へのキャリアイオンの挿入経路は、SEM像において露出して観察される負極突起部401の頭頂部近傍に制限される。
図18(A)乃至(C)も同様に、複数の負極突起部403を有する負極に高分子材料層404を塗布したものを示すSEM像である。図17に示す負極と異なり、高分子材料層404の膜厚が薄いため、負極突起部403の側面の大部分が露出している。しかし、負極突起部403の根元が高分子材料層404に覆われているため、キャリアイオンが負極基礎部へ直接挿入されることを抑制することができる。
なお、図19も同様に、複数の負極突起部405を有する負極に高分子材料層406を塗布したものを示すSEM像であるが、図17、図18に示す負極と異なり、高分子材料層406の膜厚が極めて薄いため、所々で高分子材料層406に被覆されていない部分(SEM像において黒く見える箇所)が確認される。また、高分子材料層406の膜厚が十分でないため、負極突起部405の根元が覆われていない。このような場合、キャリアイオンが負極基礎部における負極活物質層に吸蔵されるため、負極活物質の膨張収縮によって剥離が生じてしまう。
(電池特性)
上記のように作製した本発明に係る負極を用いた電池の特性を評価した。特性の評価は、対極にリチウムを用いた二極式セルにより行った。電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で1:1の割合で混合した混合溶液中へ六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1モル/リットルの濃度で溶解したものを用いた。充放電は初回のみ0.05C(20時間で充電)のレートで行い(CC−CV)、2回目以降は0.25C(4時間で充電)のレートで行った(CC)。なお、放電容量がシリコンの理論容量の半分となる2100mAh/gの範囲において評価を行った。
図20に、特性評価の結果を示す。縦軸は負極の容量(単位:mAh/g)、横軸は充放電のサイクル数を示す。曲線501は、上記のように作製した、高分子材料層としてSBRを用いて負極突起部の大部分を埋没させた負極についてのサイクル特性の測定結果である。サイクル初期において容量の減少が見られるが、30サイクル程度で目的の容量に回復した。40サイクル以降から少しずつ容量が低下するが、炭素(黒鉛)の理論容量と比較して大きな容量を維持している。
図21に、サイクル特性の測定後における負極の状態を観察したSEM像を示す。図21(A)は負極表面を鳥瞰したSEM像であり、図21(B)は図21(A)の一部を拡大観察したSEM像である。充放電の繰り返しにより負極突起部601のシリコンは突起形状を失い膨張している。しかし、負極表面は若干のクラック602が見られるものの、負極活物質が剥離するほどの著しい損傷は確認されていない。
なお、図21(C)は、図21(A)及び(B)と同一表面上で異なる場所を観察したものである。負極突起部601を裂くクラック602が観察されるが、クラック602の内部において、高分子材料層603のみが露出して確認された。高分子材料層は横方向に開口を拡げた格子のように観察される。負極作製時には縦横等間隔に負極突起部が配列していたことを考えると、SBRからなる高分子材料層603が、負極表面が左右の方向に裂けクラック602が生じた際に、その弾性により同方向に延びたと考えられる。このことから、高分子材料層603が持つ弾性によって、裂けた負極表面を繋ぎとめ、負極活物質の集電体の基礎部又は突起部からの剥離を抑制していると推測される。
(比較例)
また、本発明に係る負極の評価のため、比較として、高分子材料層を設けていない負極を用いた電池の特性を評価した。当該負極は高分子材料層を形成していないことを除いて、上記と同様の作製方法による同様の構造の負極である。すなわち、チタンシートは上記と同等の0.7mm厚のものである。また、形成した負極活物質層は、上記と同条件の減圧CVD法により成膜した膜厚約500nmの薄膜状の非晶質シリコンである。図20において、曲線502が当該比較のための測定結果である。60サイクルまでは安定して2100mAh/gの容量を維持するものの、60サイクル以降は急激に容量が低下していることが分かる。この容量の急激な低下は、充放電の繰り返しに伴うシリコンの膨張収縮により、集電体からシリコンの剥脱が進んでいるものと考えられる。
比較例として用いた高分子材料層を有さない負極の充放電後の表面は、図22に示すSEM像のように、負極突起部604がクラック605によって群れに分断され、剥離が進行している。
(評価)
以上のことから、高分子材料層で負極基礎部及び負極突起部の根元近傍をコートしていない比較例においては、あるサイクルを境に急激に容量が低下することが分かった。一方、本発明に係る負極を用いた場合には、急激な容量の低下を抑えることができた。これらの比較から、SBR等の高分子材料層によって負極基礎部及び負極突起部の根元を含む一部を覆うことで、充放電容量が高く、また充放電による劣化が少ない二次電池用負極ができることが確認された。