JP2013208071A - 魚醤から分離した乳酸菌、その培養物及びその利用 - Google Patents

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Abstract

【課題】石川県の伝統的な発酵食品、魚醤油であるいしるに含まれる機能性を有する乳酸菌又はその培養物、より具体的には、抗酸化作用及びサイトカイン産生誘導作用のいずれかの機能を有する乳酸菌の培養物、このような培養物を生成する乳酸菌、並びにその用途、特にいしるの短期速醸法等を提供する。
【解決手段】高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を、(1)塩、及び(2)イカの内臓、又はイワシ、サバ、アジ、タイ、若しくはメバルの魚体を含む発酵原料にスターターとして添加し、温度30〜50℃で発酵させる高温発酵工程を含むいしるの製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、抗酸化作用、又は抗アレルギー作用を有する乳酸菌の培養物、該培養物を生成する乳酸菌、及びこれらの利用に関する。より詳細には、前記乳酸菌又はその培養物を含有する抗酸化剤、抗アレルギー剤、該乳酸菌を利用するいしるの製造方法等に関する。
石川県能登及び加賀地域では、農産資源、水産資源が豊富であるうえ、年間を通じて豊かで良質な水に恵まれ、高品質なコメが産出される。これは、我が国発酵醸造の源である米麹の生産に適し、それを用いての各種発酵食品の製造に適している。また、夏は高温多湿であり、塩漬けの発酵・熟成が促進される。この地方ではこのような状況を活かし、発酵食品が伝統的に多種多様生産されている。その中の一つが、この地方でいしる(あるいはいしり)と呼ばれる魚類を原料とする魚醤油である。
能登地方で作られているいしるは、イカの内臓、又はイワシの魚体を、原料重量に対し18〜20%量の食塩とともに桶に入れ、1年〜2年間常温(一定温度にコントロールしない)で置き、発酵熟成させて製造される。発酵が進むと上層に油脂分や残渣、下層に液化部分と別れ、この下層液を加熱処理し、濾過したものが製品となる。いしるの製造工程を、図1に示す。このようないしるの発酵は魚自体の細胞に由来する酵素による自己消化と乳酸菌による乳酸発酵によるもので、これによって保存性が付与され、特有の風味が醸される。
乳酸発酵とは乳酸菌が糖を代謝(発酵)してその大部分を乳酸に変える反応である。高塩濃度下での乳酸発酵には、好塩性乳酸菌と呼ばれる乳酸菌がしばしば関与している。好塩性乳酸菌は、10〜30%の塩濃度下でも生存可能であり、漬物や魚醤或いは塩ぬか漬けなどに存在し、それらの主発酵菌である。そのような乳酸菌としてよく知られている種のひとつに、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)がある。
乳酸菌は古来より醸造食品や漬物中に多く含まれ、その乳酸発酵により、食品に風味を付与してきた。石川県では酒、味噌、醤油等のいわゆる醸造食品の他に、かぶらずし、なれずし等の多くの固有の伝統発酵食品があり、それらに乳酸菌が関与している。乳酸菌が関与する発酵食品中には、様々な生理活性を有する機能性物質が含まれており、乳酸菌が作り出す機能性物質、及びその機能が明らかにされつつある。
例えば、乳酸菌のもつ機能性の一つとして、ある種の乳酸菌の発酵生産物による抗酸化作用も報告されている(特許文献1及び2)。鉄が酸化によってさびるのと同様に人間の体が酸化状態に置かれることによって細胞が劣化するのを防ぐことを抗酸化作用という。体の細胞が劣化するのは人間が摂取した酸素が体内で変質してできる活性酸素が原因である。活性酸素は体内の毒物や細菌、ウイルスを解毒、消去するために必要だが、活性酸素の量が多いと体内で処理できず、正常な細胞まで攻撃してしまう。これが酸化であり、体の細胞が劣化するという現象である。この厄介者の活性酸素を取り除くのが抗酸化物質である。
また、ある種の乳酸菌について、サイトカイン産生誘導能(サイトカイン産生誘導作用)とその結果としての免疫調節機能(アレルギー抑制機能)が報告されている(特許文献3〜5)。例えば特許文献4には、味噌の醸造工程から単離された、Th1型サイトカインであるインターロイキン−12(IL-12)及びインターフェロン−γ(INF-γ)の産生誘導能を有し、且つIgEの産生抑制能を有するテトラゲェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を含有する抗アレルギー剤が記載されている。
このように、ある種の乳酸菌の機能性については報告があるものの、石川県の伝統発酵食品であるいしるに含まれる乳酸菌の機能性については、未だ知られていない。
また、いしるは、昔からの経験に基づき製造されてきたが、その発酵に1〜2年という長期間を有すること、また、発酵が時に不安定で常に良い品質の製品が得られるとは限らないなどの課題を有する。このため、安定した品質のいしるを、より短期間で製造できる技術の開発が望まれている。
特開2004−154055号公報 特開2004−154055号公報 特開2011−195513号公報 特開2011−4731号公報 特開2008−231094号公報
本発明は、石川県の伝統的な発酵食品、魚醤油であるいしるに含まれる機能性を有する乳酸菌又はその培養物、より具体的には、抗酸化作用及びサイトカイン産生誘導作用のいずれかの機能を有する乳酸菌の培養物、このような培養物を生成する乳酸菌、並びにその用途、特にいしるの短期速醸法等を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究を重ね、石川県の伝統発酵食品、いしるのもろみ(醪)から主要発酵好塩性乳酸菌を40株単離してその菌種を同定し、さらにその機能性について検討した。さらに、それらの菌種のいしる発酵適性について検討した。その結果、単離された好塩性乳酸菌やその培養物が、抗酸化作用の指標となるDPPHラジカル消去能、スーパーオキサイドラジカル消去能、鉄還元能及びORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity)、又は、抗アレルギー作用(免疫調節作用)の指標となるサイトカイン産生誘導作用を示すことを見出した。さらに、単離された乳酸菌の中には、高温(例えば、約35〜50℃)、高塩濃度(例えば、食塩濃度約10〜30%)でも長期に生育し、発酵を続けるものがあることを見出した。
このような乳酸菌やその培養物は、機能性を有する発酵食品等の開発に非常に有用なものである。例えばこのような乳酸菌やその培養物を使用することにより、抗酸化作用及び/又はサイトカイン産生誘導能を有する飲食品や医薬品等を製造することができる。例えば、分離した乳酸菌をスターターとして接種して、いしる、塩辛等の乳酸発酵食品の製造を行うことにより、おいしさとともに機能性が付与された乳酸発酵食品を提供することができる。また、該乳酸菌をスターターとして使用し、発酵食品を製造することで、発酵過程の管理が容易になるとともに、発酵時間の短縮、最終製品の安定性、機能性が増大するという効果が得られる。例えば、この乳酸菌株を純粋に培養したものをスターターとして添加して、いしる等の製造を行うことも可能である。
本発明者らはまた、いしるのもろみから分離したテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を、イカの内臓、イワシやサバ等の魚体を含む発酵原料にスターターとして加え、従来よりも高温の条件(約30〜50℃)で発酵を行う高温発酵工程を行うと、発酵熟成期間を1〜2カ月程度としても、従来の方法で製造されたものと同様の風味、及び成分(有機酸やアミノ酸含量)を有する魚醤油いしるを製造できることを見出した。つまり本発明者らは、従来の1〜2年間を要した発酵熟成期間を4〜9週間程度に短縮して安定した品質のいしるを製造できる、いしるの短期速醸法を見出した。
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の〔1〕〜〔9〕を提供する。
〔1〕高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を、(1)塩、及び(2)イカの内臓、又はイワシ、サバ、アジ、タイ、若しくはメバルの魚体を含む発酵原料にスターターとして添加し、温度30〜50℃で発酵させる高温発酵工程を含むことを特徴とするいしるの製造方法。
〔2〕高温発酵工程を、2〜16週間連続して行う前記〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)がイカ内臓の発酵もろみより分離された乳酸菌であることを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載のいしるの製造法。
〔4〕高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物が抗酸化作用を有することを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のいしるの製造法。
〔5〕高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)が、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026(受託番号 NITE P-1289)である前記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のいしるの製造方法。
〔6〕イカ内臓の発酵もろみより分離された高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物を有効成分とすることを特徴とする抗酸化剤。
〔7〕イカ内臓の発酵もろみより分離された高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の菌体を有効成分とすることを特徴とする抗アレルギー剤。
〔8〕高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)が、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026(受託番号 NITE P-1289)である前記〔6〕又は〔7〕に記載の剤。
〔9〕高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026(受託番号 NITE P-1289)。
本発明の乳酸菌又はその培養物を用いると、抗酸化作用及び/又はサイトカイン産生誘導作用の機能を有する発酵食品等を製造することができる。さらに、本発明の乳酸菌をスターターとして使用し、発酵食品を製造することで、発酵過程の管理が容易になるとともに、最終製品の安定性や、抗酸化作用及び/又は抗アレルギー作用の機能性が増大するという効果も得られる。さらに、本発明の乳酸菌をスターターとして使用し、高温条件での発酵を行うことにより、従来の1年から2年間を要した魚類のいしるの発酵熟成期間を1〜3カ月程度に短縮することが可能であり、アミノ酸の生成量が従来法の場合と変わらず、しかも安定した品質の魚醤油を製造できるという効果が得られる。
図1は、いしるの製造工程を示す図である。 図2は、モデルいしるの発酵槽の下層からサンプリングしたもろみ中の生菌の増殖曲線(生菌数の推移)を示す図である。 図3は、いしるの高温発酵試験(速醸試験)中に、いしるから経時的にサンプリングしたもろみの抗酸化活性を示す図である。 図4は、分離したTetragenococcus halophilusのタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)活性を示す図である。 図5は、Tetragenococcus halophilusのサイトカイン(IL-12)産生誘導活性を示す図である。 図6は、Tetragenococcus halophilusのサイトカイン(IL-6)産生誘導活性を示す図である。 図7は、分離したTetragenococcus halophilusをスターターとして添加した場合(図7の上図)、及び添加しなかった場合(図7の下図)の高温発酵試験中のいしるのもろみ中の生菌の増殖曲線(生菌数の推移)を示す図である。 図8は、分離したTetragenococcus halophilusをスターターとして添加し、高温で速醸を行ったいしる中のアミノ酸の量の経時変化を示す図である。 図9は、速醸法により製造したいしるの官能評価の結果である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、イカ若しくはイワシの魚醤油又はそのもろみより分離された乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルスハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)であり、該乳酸菌及び/又はその培養物が下記の1)及び2)のうちの少なくとも1つの機能を有するものである。
1)抗酸化作用、2)サイトカイン産生誘導作用。
このような乳酸菌も、本発明に包含される。乳酸菌は、生菌であってもよく、死菌であってもよいが、生菌が好ましい。菌の形態も特に限定されず、菌体乾燥物等であってもよい。
本発明における高温耐性好塩性乳酸菌は、好ましくは、イカの内臓を発酵させて製造されるイカの魚醤油又はそのもろみ(イカ内臓の発酵もろみ)より分離された高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルスハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)であり、より好ましくは、イカ内臓の発酵もろみ(イカの魚醤油のもろみ)より分離された高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)である。
本明細書中、高温耐性であるとは、通常、約30〜50℃で発酵熟成(乳酸発酵)を行うことを意味し、好ましくは、約30〜50℃で乳酸発酵を行うものである。より好ましくは、約30〜40℃で乳酸発酵を行うものである。また、好塩性とは、通常、約10〜30%、好ましくは約15〜25%の塩(食塩)濃度中でも約2年以上生育でき、かつ発酵できることを意味する。本発明におけるイカ若しくはイワシの魚醤油又はそのもろみより分離された高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、通常約30〜50℃の高温及び約10〜30%の塩(食塩)濃度中でも生育し、発酵できるものである。好ましくは、約30〜50℃の高温及び約15〜25%の塩(食塩)濃度中でも約2年以上生育でき、かつ発酵できるものである。
前記乳酸菌、すなわち高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の分離源であるイカやイワシの魚醤油は、好ましくは、イカの内臓又はイワシの魚体を原料として製造されるイカ又はイワシの魚醤油いしるであり、より好ましくはイカの魚醤油である。魚醤油のもろみは、魚醤油の製造過程で、魚醤油の原料であるイカの内臓又はイワシを発酵させて得られる。もろみは、好ましくは、魚醤油の製造において、原料を約12カ月以上発酵させて得られるもの(発酵もろみ)であり、中でも、イカの内臓を約12カ月以上発酵させたイカ内臓の発酵もろみ(イカの魚醤油のもろみ)が好ましい。もろみには、通常もろみ液も含まれる。例えばイカやイワシの魚醤油であるいしるは、いずれも石川県の伝統的な発酵食品であり、市販されている。また、既知の方法により製造することもできる。乳酸菌の分離及び同定は、自体公知の方法により行うことができる。例えば、分離した乳酸菌が高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)であることは、培養温度が約37℃、培地の食塩濃度が約10%以上で生育すること、及び16SrRNA遺伝子解析により同定することにより通常確認することができる。
本発明における乳酸菌の培養物は、通常、前記高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)(以下、単にテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)ともいう)を培地で培養した培養液若しくは培養上澄み、又はその処理物である。培養物には、前記テトラゲノコッカス・ハロフィルスが含まれていてもよい。テトラゲノコッカス・ハロフィルスは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。培養液又は培養上澄みの処理物として、該培養液又は培養上澄みの希釈液又は濃縮液、該培養液又は培養上澄みを乾燥させて得られる乾燥物、該培養液若しくは培養上澄みの粗精製物若しくは精製物、又はその乾燥物等が挙げられる。粗精製又は精製の方法は、本発明の効果を奏することになる限り特に限定されず、公知の手法により行うことができる。
乳酸菌の培養物は、公知の手法により得られる。例えば、発酵食品である前記イカ若しくはイワシの魚醤油又はそのもろみから分離した高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を、培地中で通常の条件で培養する方法が挙げられる。培地は、乳酸菌の培養に通常使用される炭素源、窒素源、ミネラル等を含むものであればよく、天然培地又は合成培地等を用いることができる。好ましくは、液体培地を用いる。培養物を得るための培養は、例えば、培養温度は、約5〜50℃とすることが好ましく、約25〜37℃とすることがより好ましい。培地のpHは、例えば約4〜8とすることが好ましく、約6〜7とすることがより好ましい。同時にpHを制御してもよく、酸又はアルカリを用いてpHの調整を行うことができる。また、pH3付近で乳酸生成能を有する菌については、培地のpHを3付近とすることもできる。培養時間は、通常約2日以上が好ましく、より好ましくは約3〜10日である。培養は、好気条件下で行ってもよく、嫌気条件下で行ってもよい。好ましくは嫌気条件下で行う。
このように培養した培養液又は培養上澄みを、培養物として使用することができる。
炭素源としては、例えばグルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ラクトース、スクロース、セロビオース、アラビノース、リボース、マンニトール、ソルビトール、メリビオース、トレハロース、廃糖蜜、グリセロール等が挙げられ、好ましくはグルコース、スクロース等である。窒素源としては、無機態窒素源では、例えばアンモニア、アンモニウム塩等、有機態窒素源では、例えば尿素、アミノ酸、タンパク質等をそれぞれ単独もしくは2種以上を混合して用いることができ、好ましくはアンモニウム塩、アミノ酸等である。またミネラル源として、おもにK、P、Mg、Sなどを含む、例えばリン酸一水素カリウム、硫酸マグネシウム等を用いることができる。この他にも必要に応じて、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸やビオチン、チアミン等の各種ビタミン等の栄養素を培地に添加することもできる。培地中の炭素源、窒素源等の濃度は、乳酸菌が生育できる通常の濃度であればよく、特に限定されない。通常、培養開始時の炭素源濃度は0.1〜15%(wt)程度が好ましく、より好ましくは1〜10%(wt)程度である。培養開始時の窒素源の濃度は、通常0.1〜15%(wt)程度、好ましくは1〜15%(wt)程度、より好ましくは1〜10%(wt)程度とすればよい。
培養物を得るための培地は、例えば、前記1)抗酸化作用、及び/又は2)サイトカイン産生誘導作用を有する培養物を得る場合には、窒素源としてタンパク質を含むことが好ましい。タンパク質は特に限定されないが、例えば、植物性タンパク質、動物性タンパク質等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。植物性タンパク質として、例えば、コメ、コムギ、オオムギ、ライムギ、トウモロコシ等の穀類由来のタンパク質;大豆、空豆、インゲン豆等の豆類由来のタンパク質が好適であり、中でも、大豆由来のタンパク質を好適に用いることができる。大豆由来のタンパク質として、脱脂大豆粉等を好適に使用できる。動物性タンパク質としては、肉エキス、哺乳類の乳由来のタンパク質等が挙げられ、哺乳類の乳由来のタンパク質が好ましい。哺乳類の乳としては、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ヒト等の乳が挙げられ、ウシの乳が好ましい。乳由来のタンパク質として、例えば、スキムミルク等が好適に使用できる。
前記タンパク質は、培地中に培養開始時の濃度として5〜15%(wt)程度とすることが好ましく、8〜10%(wt)程度とすることがより好ましい。
培養物は、例えば、前記高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を含むイカ又はイワシの魚醤のもろみ、前記高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)をイカ内臓、イワシ等の魚体に添加して発酵させることにより得られる発酵もろみ等であってもよい。
乳酸菌及びその培養物の抗酸化作用及びサイトカイン産生誘導作用は、公知の方法により確認できる。例えば、抗酸化作用であれば、DPPHラジカル消去活性の測定、スーパーオキサイドラジカル消去活性の測定、ORAC法、鉄還元法等の1以上を行うことにより評価することができる。DPPHラジカル消去活性等の測定は、公知の方法、例えば、実施例に記載された方法で行うことができる。また、サイトカイン産生誘導作用は、好ましくはTh1型サイトカインおよび免疫調節型サイトカイン産生誘導作用である。公知の方法、例えば実施例に記載された方法でTh1型サイトカインであるインターロイキン−12(IL-12)、免疫調節型サイトカインであるインターロイキン−6(IL-6)の産生誘導活性を測定することにより、サイトカイン産生誘導作用を評価することができる。
本発明は、イカ若しくはイワシの魚醤油又はそのもろみより分離された高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)であって、該テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、30〜50℃で発酵熟成を行うものであり、かつその培養物が抗酸化作用を有するテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)も、包含する。このようなテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、前記抗酸化作用を有する培養物を生成する乳酸菌として好ましい。前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)として、サイトカイン産生誘導作用を有するものがより好ましい。
本発明は、イカ若しくはイワシの魚醤油又はそのもろみより分離された高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)であって、該テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、30〜50℃で発酵熟成を行うものであり、かつ該乳酸菌が抗アレルギー作用(例えば、サイトカイン産生誘導作用)を有するテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)も、包含する。
前記高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、好ましくは、イカ内臓の発酵もろみ(イカの魚醤油の発酵もろみ)より分離された高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)である。
前記高温耐性菌好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)として、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026等が好ましい。テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026は、イカ内臓の発酵もろみ(イカの魚醤油の発酵もろみ)から分離された乳酸菌である。
テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに寄託申請し、以下の受託番号で受託された。
Tetragenococcus halophilus 5BX15-026(受託番号:NITE P-1289)(受託日2012年3月22日)
高温耐性好塩性乳酸菌であるテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026は、サイトカインであるIL-12及びIL-6産生誘導作用を示し、このため優れた抗アレルギー作用を示すため好ましい。また、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026は、その培養物が強いプロテアーゼ活性を示し、これにより抗酸化作用を示すものであるため好ましい。
前記高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)、及びその培養物は、発酵食品から分離された乳酸菌及びその培養物であることから、安全性が高いものである。このような乳酸菌及びその培養物は、1)抗酸化作用及び/又は2)抗アレルギー作用を有する医薬、機能性食品等の飲食品の製造のためにも好適に利用される。
本発明は、イカ内臓の発酵もろみより分離された高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物を有効成分とする抗酸化剤も包含する。本発明の抗酸化剤の有効成分である培養物は、抗酸化作用を有するテトラゲノコッカス・ハロフィルスの培養物である。
本発明は、イカ内臓の発酵もろみより分離された高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の菌体を有効成分とする抗アレルギー剤も、包含する。
高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)、及び1)抗酸化作用及び/又は2)抗アレルギー作用を有するその培養物、並びにその好ましい態様等は、上述した通りである。高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、好ましくはテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026(受託番号:NITE P-1289)である。
本発明の抗酸化剤は、抗酸化作用、例えばDPPHラジカル消去作用等を有する前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物に、所望により薬学上許容される公知の添加剤等を添加及び混合し、従来充分に確立された公知の製剤製法を用いることにより容易に製造される。
テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物の製剤中の含有量は、通常、最終製剤中に約0.000001〜99質量%である。テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物の投与量は、本発明の効果を奏することになる限り特に限定されず、投与対象等に応じて適宜設定すればよい。
本発明の抗アレルギー剤は、抗アレルギー作用、例えばサイトカイン産生誘導作用を有する前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の菌体又は該菌体を含む培養物等に、所望により薬学上許容される公知の添加剤等を添加及び混合し、従来充分に確立された公知の製剤製法を用いることにより容易に製造される。
テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の菌体の製剤中の含有量は、通常、最終製剤中に約0.000001〜99質量%である。テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の菌体の投与量は、本発明の効果を奏することになる限り特に限定されず、投与対象等に応じて適宜設定すればよい。
本発明の抗酸化剤及び抗アレルギー剤の剤型は特に限定されないが、経口投与の剤型等が好ましい。添加剤は特に限定されず、公知のものを使用することができる。また必要ある場合には、他の薬剤との併用も可能である。
本発明の抗酸化剤及び抗アレルギー剤は、前述した医薬品として用いることができる他、機能性食品、特定保健用食品又はドリンク剤などの飲食品として用いることができるものである。例えば抗アレルギー剤は、アトピー性皮膚炎、花粉症、気管支喘息等におけるアレルギー症状を予防、治療又は改善するための機能性食品、特定保健用食品又はドリンク剤などの飲食品として用いることができる。飲食品組成物中に含まれるテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物、又はテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の菌体の量は、通常、最終組成物中に約0.000001〜99質量%の範囲から適宜選択して決定することができる。なお、「予防」には発症を抑制する又は遅延させることが含まれる。「治療」には、症状又は疾病を完全に治癒させることの他、症状を改善又は緩和することも含まれる。
本発明の抗酸化剤及び抗アレルギー剤は、食品添加剤等としても好適に使用される。前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を含有する食品添加剤は、飲食品の抗酸化作用、及び/又は抗アレルギー作用を強化させるために好適に使用することができるものである。例えば、飲食品に本発明の抗酸化剤や抗アレルギー剤を添加すると、該剤を添加しない場合と比較して飲食品の抗酸化作用又は抗アレルギー作用を強化することができる。飲食品の抗酸化作用や抗アレルギー作用を強化することには、本来抗酸化作用や抗アレルギー作用を有しない飲食品にこのような作用を付与することも含まれる。
前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)及びその培養物は、1)抗酸化作用及び/又は2)抗アレルギー作用が強化された飲食品の製造のために好適に使用される。イカ若しくはイワシの魚醤油又はそのもろみより分離された高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物の、抗酸化作用及び/又は抗アレルギー作用が強化された飲食品を製造するための使用も、本発明に包含される。
前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を用いて前記飲食品を製造する方法は特に限定されず、例えば、飲食品の製造において前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を添加する方法等が挙げられる。飲食品としては特に限定されないが、例えば後述する発酵食品等が好ましい。
例えば、発酵食品の製造において、前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を添加して発酵させる工程を含むことにより、1)抗酸化作用及び/又は2)抗アレルギー作用が強化された発酵食品を製造することができる。このような発酵食品の製造方法も、本発明に包含される。1)抗酸化作用及び/又は2)抗アレルギー作用が強化されたとは、前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を添加しない場合と比較して、該食品が高い1)抗酸化作用及び/又は2)抗アレルギー作用を示すことをいう。
発酵食品としては、乳酸発酵を利用して製造されるものが好ましく、例えば、イカ、イワシ、サバ等の魚類の魚醤油等が好ましく、中でもイカの内臓、イワシ若しくはサバの魚体を原料とする魚醤油いしる等がより好ましい。これら以外にも、牛乳等の哺乳類の乳又は豆乳から製造されるヨーグルト、乳酸菌入り米麹、ブルーベリージュース等を用いたジェラート(アイスクリーム)、味噌、醤油、チーズ、清酒、ワイン、漬物、パン等の製造において、前記高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物を使用することにより、前記1)抗酸化作用及び/又は2)抗アレルギー作用が強化された発酵食品を製造することができる。
前記発酵食品の製造方法においては、好ましくは、発酵食品の製造において、発酵(好ましくは乳酸発酵)の際に前記乳酸菌又はその培養物を添加して発酵を行う。前記高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)又はその培養物の添加量、前記乳酸菌又はその培養物を添加して発酵させる条件等は、発酵食品の種類により適宜選択すればよく、特に限定されない。好ましくは、発酵温度は約5〜50℃とする。
例えば、前記テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)をスターターとして接種して、乳酸発酵食品の製造を行うことも好ましい。これにより、おいしさとともに機能性が付与された乳酸発酵食品を効率よく提供することができる。また、該乳酸菌をスターターとして使用し、発酵食品を製造することで、発酵過程の管理が容易になるとともに、最終製品の安定性、機能性が増大するという効果も得られる。
前記イカ若しくはイワシの魚醤又はそのもろみから分離された、高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)をいしるの製造においてスターターとして用い、30〜50℃の高温条件で発酵を行うと、短期間に発酵熟成を進めることができ、いしるを例えば1〜3カ月程度の短期間で製造することができる。
本発明は、高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を、(1)塩、及び(2)イカの内臓、又はイワシ、サバ、アジ、タイ、若しくはメバルの魚体を含む発酵原料にスターターとして添加し、温度30〜50℃で発酵させる高温発酵工程を含むいしるの製造方法も包含する。好ましくは、イカ若しくはイワシの魚醤油又はそのもろみから分離されたテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を純粋に培養したものをスターターとして添加する。分離した菌の純粋培養は、通常の方法で行うことができる。高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、1種又は2種以上使用することができる。
高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)及びその好ましい態様等は、上述した通りである。前記高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、好ましくはイカ内臓の発酵もろみより分離された乳酸菌である。より好ましくは、その培養物が抗酸化作用を有する高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)である。また、上述したサイトカイン産生誘導作用を有する高温耐性好塩性乳酸菌を用いることも好ましい。特に好ましくは、高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)として、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026(受託番号 NITE P-1289)等を使用する。
本発明において使用される発酵原料は、塩と、イカの内臓、又はイワシ、サバ、アジ、タイ、若しくはメバルの魚体とを含む。中でも本発明の方法においては、塩と、イカの内臓、又はイワシの魚体とを含む発酵原料が好適に用いられ、より好ましくは、塩と、イカの内臓を含む発酵原料を用いる。塩(塩化ナトリウム)の添加量は、イカの内臓、又はイワシ、サバ、アジ、タイ、若しくはメバルの魚体に対して、好ましくは約15〜40重量%、より好ましくは約20〜30重量%である。発酵原料は、塩、イカの内臓、イワシ、サバ、アジ、タイ、若しくはメバルの魚体以外のものを含んでいてもよい。例えば、所望により公知の添加物等を適宜添加してもよい。
スターターとして添加するテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の添加量は、例えば、イカの内臓、又はイワシ、サバ、アジ、タイ、若しくはメバルの魚体に対して105〜108CFU/g 程度とすることが好ましく、107〜108 CFU/g 程度とすることがより好ましい。
発酵原料の発酵は、好ましくは嫌気条件で行う。例えば、密閉できる容器中に前記発酵原料及びテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を入れて発酵を行うことが好ましい。また、原料を入れた容器を脱気等した後、容器を密閉して発酵を行うことも好ましい。容器は、約30〜50℃の温度に耐えられるものであればよい。嫌気条件で発酵を行うために、例えば、発酵をN2ガス気流下、あるいは真空条件で行うことも好ましい。
本発明の製造方法は、温度約30〜50℃、好ましくは約30〜40℃、より好ましくは約35〜40℃で発酵を行う高温発酵工程を含む。高温発酵工程は、例えば、通常約1週間以上、好ましくは約2〜16週間、より好ましくは約4〜12週間行う。より好ましくは、前記期間連続して高温発酵工程を行う。このような高温発酵工程は、前記スターターを添加した発酵原料を入れた容器を前記温度にインキュベートすること等により行うことができる。このような高温条件で発酵を行うことにより、短期間に発酵熟成を進めることができ、いしるを例えば2カ月程度の短期間で製造することができる。
本発明の製造方法においては、所望により、前記高温発酵工程の前又は後に、温度を制御しないで発酵させる工程、例えば、室温又は常温での発酵工程を行ってもよい。室温又は常温での発酵工程は、好ましくは、高温発酵工程の後に行う。室温又は常温での発酵の期間は、通常4〜6週程度とすることが好ましい。前記高温発酵工程を経ることにより、例えばその前又は後に室温又は常温で発酵を行っても、発酵開始から(高温発酵工程も含めて)通常8〜12週間程度でいしるを製造することができる。このような方法により、例えば従来1〜2年を要した発酵熟成期間を例えば2カ月程度に短縮しても、従来法で製造したものと同じ良好な品質のいしるを製造することができる。このため本発明の製造方法は、いしるの短期間速醸方法として好適に用いられる。
発酵が終了した後の発酵物は、そのままいしるとして用いることができるが、発酵終了後、約80〜100℃で加熱することにより発酵を停止させることが好ましい。加熱後、ろ過等の公知の手法により沈殿等を分離し、魚醤油いしるが得られる。
本発明の製造方法により製造されるいしるは、発酵熟成期間が短いにもかかわらず、従来の方法で製造されたものと同程度のアミノ酸を含み、風味も従来の方法で製造されたものとほぼ同じである。また、従来の方法では、通常、温度等を特にコントロールせずに発酵させて製造されていたため、気候等により品質にばらつきが生じる場合があったが、本発明の製造方法によれば、高温発酵工程を行うことにより、発酵熟成期間を短縮できるだけでなく、安定した品質のいしるを製造することができるという効果も奏する。さらに、本発明で用いる高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、上述したように、該乳酸菌及び/又はその培養物が1)抗酸化作用及び/又は2)抗アレルギー作用を示すものであることから、本発明により得られるいしるは、抗酸化作用及び/又は抗アレルギー作用を有するという効果も奏する。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
参考例1
菌分離のためのいしるの仕込み(モデルいしるの製造)
イカいしるの製造方法
イカの内臓と18-20%濃度になる食塩を混ぜ直径15cm、深さ60cmのポリ容器に入れて、室温で発酵させてモデルいしるを製造した。図1に、いしるの製造工程の概略を示す。この容器の醪の上層、中層、下層から経時的にサンプリングを行い菌数測定および抗酸化活性の測定を行った。モデルいしるの製造は、2回(1回目、2回目)行った。
実施例1
1−1 乳酸菌の分離及び培養のための培地
イカいしるからの乳酸菌の分離には、MRS培地(市販品、Difco社製)55gを最終液量が1Lとなるような濃度に純水で溶解し、これに最終濃度3%、5%、10%および15%になるように食塩を、また最終濃度1.5%になるように寒天を添加して作製したプレート(MRS・NaCl寒天培地)を使用した。
分離した乳酸菌の液体培養培地にはMRS培地(市販品、Difco社製)に菌の分離に用いた培地と同濃度のNaClを添加した培地(これをMRS・NaCl培地という)を使用した。
1−2 培養方法及び条件
乳酸菌を純粋培養する最初の基本培養は次の方法で行った。試験管にMRS・NaCl液体培地8mlを入れ120℃、15分オートクレーブした。白金耳を用いて、乳酸菌コロニー又は冷凍保存液を一掻きMRS・NaCl液体培地の入った試験管にシードし、37℃で2〜3日間培養した。この培養液をそれぞれの目的に応じて使用した。
1−3 発酵食品からの乳酸菌の分離方法
参考例1で、菌株分離のために仕込まれたいしるの仕込み樽(モデル発酵槽)の上、中、下層それぞれのもろみ部分を、経時的にサンプリングし、滅菌した0.85%生理食塩水(10 ml/試験管)で懸濁後、適宜、希釈し、その0.2 mlをMRS・NaCl寒天培地に塗布し、30℃で7日間培養し、コロニーを形成させた。その際、嫌気条件にしない場合と嫌気にする場合の両方を併用した。コロニー数をカウントすることによって原液サンプルのグラム当たりの菌数を算出した。
それぞれのサンプルから得たコロニーの一部(おおよそ各サンプル毎に5コロニー)を8ml MRS・NaCl液体培地にて、37℃、7日間培養し、その培養液1 mlを滅菌した80%グリセリン0.2 mlの入ったバイアルに注入後、-80℃のフリーザーに保存するとともに、残りの培養液を16SrRNA遺伝子の解析を行うために、ゲノムDNAの調製に使用した。
1−4 16SrRNA遺伝子の解析による乳酸菌の同定
<乳酸菌よりゲノムDNAの調製>
Wizard(登録商標)Genomic DNA Purification Kit (Promega社製)を使用して、各乳酸菌よりゲノム DNAを調製した。
<PCRによる16SrDNA断片の増幅>
前記で抽出したゲノムDNAから、PCRにより16SrDNA断片を増幅した。PCRはEx Taq(登録商標)DNA Polymerase (タカラバイオ社)を用いて行い、16SrDNA用プライマーとして以下の配列のプライマーを用いた。
[7-F (プライマー名)]
5’-AGAGTTTGATYMTGGCTCAG-3’ (配列番号1)
[1510-R (プライマー名)]
5’-ACGGYTACCTTGTTACGACTT-3’ (配列番号2)
配列番号1及び2中、Yは、C(シトシン)又はT(チミン)、Mは、A(アデニン)又はC(シトシン)である。
PCRのサイクルは、以下の通りである。
96℃、2分→(96℃、15秒→50℃、15秒→72℃、1分30秒)を25サイクル→4℃で保温
増幅断片の精製は、QIAquick(登録商標)PCR purification kit (QIAGEN社) を使用して行った。キットで精製した DNA 溶液、並びに、前記の配列番号1のプライマー及び配列番号2のプライマーを用いて、以下のサイクルで、PCR 機を用いて各乳酸菌の16SrDNA断片を増幅反応した。
96℃、1分→(96℃、10秒→50℃、5秒→60℃、4分)を30サイクル
反応後、X terminator(登録商標)Solution (BigDye XTerminator 精製キット、Applied Biosystems社製) を使用して反応液を精製し、得られた上清 40〜50μl をシークエンサー用専用ラックに移し、Genetic Analyzer(製品名、3130xl Genetic Analyzer、Applied Biosystems社製)を用いてシークエンス解析した。
1−5 いしるのもろみより単離した乳酸菌の同定
本研究のために仕込まれた「いしる」のモデル発酵槽(参考例1)より、上中下層それぞれのもろみ液を継時的に2年間サンプリングした。サンプル毎に生菌を単離して、16SrRNA遺伝子の部分塩基配列(約700bp)の解析による菌株の属種の同定を行ったところ、仕込(発酵開始)から1月目にエンテロコッカス・フェカリス(Entercoccus faecalis)が0%NaCl・MRS培地で単離されたがそれ以外は、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)で、2ヶ月目、4.5ヶ月目、6ヶ月目、9ヶ月目、11ヶ月目、13.5ヶ月目、16.5ヶ月目、20.5ヶ月目においてはTetragenococcus halophilusが大部分を占める優勢菌であった。
「いしる」モデル発酵槽(1回目)よりサンプリングしたもろみ(発酵中の経時サンプル)より単離された菌種を表1に示した。表1中のNaCl濃度は、菌の分離に用いたNaCl・MRS寒天培地中のNaCl濃度である。また、モデル発酵槽(1回目)の下層(嫌気条件)からサンプリングしたもろみ中の菌数増殖曲線(生菌数の推移)を図2に示した。生菌数は、NaCl濃度の異なるNaCl・MRS寒天培地を用いて、実施例1の1−3に記載した方法で測定を行った。図2中の0%、3%、5%、10%、15%の記載は、菌の分離に用いたNaCl・MRS寒天培地中のNaCl濃度である。図2中、◆は、0%NaCl・MRS寒天培地で生育する菌数であり、■は、3%NaCl・MRS寒天培地で生育する菌数であり、▲は、5%NaCl・MRS寒天培地で生育する菌数であり、×は、10%NaCl・MRS寒天培地で生育する菌数であり、*は、15%NaCl・MRS寒天培地で生育する菌数である。
前記でモデルいしるから単離した40株のテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)に、以下の番号(1〜40)を付した。各乳酸菌の単離時期は、以下の通りである。
1〜5 モデルいしる1回目の1ヵ月後に分離された乳酸菌5株
6〜12 モデルいしる1回目の2ヵ月後に分離された乳酸菌7株
13〜17 モデルいしる1回目の4.5ヵ月後に分離された乳酸菌5株
18〜21 モデルいしる1回目の7ヵ月後に分離された乳酸菌4株
22〜28、及び40 モデルいしる1回目の9ヵ月後に分離された乳酸菌8株
29 モデルいしる1回目の13.5ヵ月後に分離された乳酸菌1株
30〜32 モデルいしる1回目の20.5ヵ月後に分離された乳酸菌3株
33〜39 モデルいしる2回目の10ヵ月後に分離された乳酸菌7株
40番のテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)は、発酵9か月後のいしるもろみの下層から15%NaCl・MRS寒天培地、嫌気条件で分離されたテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026である。
前記乳酸菌のうち、40番のテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026については、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託申請し、以下の受託番号で受託された。
Tetragenococcus halophilus 5BX15-026(受託番号:NITE P-1289)(受託日:2012年3月22日)
実施例2
2−1 抗酸化作用
DPPHラジカル消去活性、スーパーオキサイドラジカル消去を測定した。また、ORAC法、鉄還元法によっても抗酸化作用を評価した。
測定に用いるサンプルには、実施例3のいしるの速醸試験で作製したTetragenococcus halophilus 5BX15-026を添加した速醸イシル醪の下層から経時的にサンプリングしたもろみ(もろみ液)を、生理食塩水で10倍希釈したものを使用した。
DPPHラジカル消去活性測定方法
96ウエルマイクロプレートのウエルにサンプル150μLを入れ、それに400μMのジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)溶液 50μLを加え、30分間室温暗所で反応後、540nmの吸光度を測定した。カテキンの検量線よりサンプルに含まれるカテキン当量を求めた。
スーパーオキサイドラジカル消去活性測定方法
96ウエルマイクロプレートに50μLのサンプルを入れ、100μLの0.1Mリン酸緩衝液(pH7.2)、25μLの2mMニコチンアミドジヌクレオチド(NADH)溶液、25μLの0.5mMニトロブルーテトラゾリウム(NBT)溶液、25μLの0.03mMフェナジンメトサルフェイト(PMS)溶液を順番に加え、室温暗所で30分間反応させた後、540nmの吸光度を測定した。カテキンの検量線よりサンプルに含まれるカテキン当量を求めた。
ORAC法
96ウエルマイクロプレートに75mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶かしたサンプル20μLを入れ、120μLの0.117μMフルオレセイン溶液を加え、37℃で15分間静置した後、40mMのアゾビスアミノプロパンジヒドロクロライド(AAPH)溶液を加え、蛍光プレートリーダー(励起:485nm、放射:520nm)で80分間の測定強度の積算値(AUC)を測定した。
トロロックスの検量線よりサンプルに含まれるトロロックス当量を求めた。
鉄還元法
96ウエルマイクロプレートに25μLのサンプルを入れ、25μLの0.1Mリン酸緩衝液(pH7.2)、50μLの1%のフェリシアン化カリウム溶液を順に加えて37℃に1時間静置した。そのあと25μLの10%トリクロロ酢酸溶液、100μLの蒸留水、25μLの0.1%塩化第二鉄溶液を加え、620nmの吸光度を測定した。カテキンの検量線よりサンプルに含まれるカテキン当量を求めた。
2−2 プロテアーゼ活性
モデルいしる(参考例1)の発酵途中のもろみから実施例1の方法で分離された40株のTetragenococcus halophilus(前記1〜40の菌株)を用いた。
水1LにMRS broth粉末55g、NaCl 50g、精製寒天末8gを加え、オートクレーブ(121℃、15分)滅菌した。滅菌後、寒天が固まらない程度に冷まし、スキムミルク30gを加えた。よく撹拌し、シャーレに20mLずつ分注した。NaCl・MRS培地に活性測定するTetragenococcus halophilusの菌株を1種ずつ移植して37℃で約24時間培養した。その培養液を滅菌したペーパーディスクに染ませて、上記のスキムミルク培地に置き、37℃、嫌気条件下で培養した。一週間後にスキムミルクが溶けて出来た透明なハロウの径を測定した。
2−3 サイトカイン産生誘導活性
参考例1で製造したモデルいしるより分離されたTetragenococcus halophilus(前記1〜40の菌株)それぞれをNaCl・MRS培地に移植し、37℃で1-2日間培養した後、遠心分離(3000rpm、10min)で菌を集め、滅菌したPBSで洗浄した。その菌体を滅菌PBSに1×108/mLに懸濁して、80℃で10分間加熱処理をした。遠心分離で菌体を集め、10%FCSと55μMの2−メルカプトエタノールを含むRPMI1640培地で1×108/mLの懸濁液を調製した。ヒトマクロファージ系の細胞株THP1細胞を10%FCSと55μMの2−メルカプトエタノールを含むRPMI1640培地で培養し、2×106/mLの細胞懸濁液を調製した。96ウエルマイクロプレートのウエルに100μLの細胞懸濁液を入れ、そこに1×108/mLに調製されたTetragenococcus halophilusの加熱処理菌体溶液100μLを加え、37℃のCO2インキュベーターで24時間培養した。培養上清を遠心分離(12000rpm、10min)で回収し、そこに含まれるサイトカインをELISAキット(ERISA MAXTM、BioLegend)を用いて測定した。標準サンプルの検量線より上清中に含まれるサイトカインの量を求めた。
2−4 結果
図3に、実施例3で製造した速醸いしるのもろみの下層中の抗酸化活性の経時変化を示す。図3中、■はスーパーオキサイドラジカル消去活性測定結果を、▲はORAC法による測定結果を、◆は、DPPHラジカル消去活性測定結果を、×は鉄還元法による測定結果を、それぞれ示す。図3から、いしるのもろみは抗酸化活性を示すことが分る。
モデルいしるから分離されたTetragenococcus halophilus 12株のプロテアーゼ活性(透明なハロウの径)を、図4に示す。
図4中の菌株番号1〜8は、モデルいしるの培養9か月後の下層から分離されたTetragenococcus halophilus(それぞれ実施例1で分離した22〜28、及び40番の菌株)である。図4中の菌株8は、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026(受託番号:NITE P-1289)である。図4中の菌株9〜11は、モデルいしる培養20.5ヵ月後の下層から分離されたTetragenococcus halophilus(それぞれ実施例1で分離した30〜32番の菌株)である。図4から、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026は高いプロテアーゼ活性を示すことが分る。
サイトカイン産生誘導活性の測定結果を、図5〜6に示す。図5は、IL-12(THP1)産生誘導活性である。図6は、IL-6(THP1)生成誘導活性である。図5及び図6中の横軸の菌株番号は、実施例1で付した菌株の番号(1〜40)に対応する。図5及び図6の菌株40は、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026(受託番号:NITE P-1289)である。なお、図5及び図6では、横軸のスペースの関係で、1つおきに番号を表示している。
実施例3
いしるの速醸試験を行った。また、速醸試験で作製したいしるの乳酸含量、及びアミノ酸含量を測定した。乳酸含量、及びアミノ酸含量の測定は、以下の方法により行った。
3−1 乳酸含有量測定
Merck Chemicals Japanの乳酸測定キットを用いて行った。すなわち、キットに付属されている試験紙の先端部にサンプル溶液を染み込ませ、キットの測定部位にセットし、5分間反応させた。5分後、測定終了の合図音が鳴ると測定画面に乳酸量が表示されるのでその値を記録した。
3−2 アミノ酸含有量測定
アミノ酸含有量は、日立社製 L-8500 アミノ酸分析システムを用いた高速液体クロマトグラフィーにより測定し、検出はニンヒドリンを用いたポストカラム法により行った。
3−3 いしるの速醸試験(高温発酵試験)
スターターとして機能を有する好塩性乳酸菌Tetragenococcus halophilusを添加し、発酵促進のため高温でインキュベートし、添加した好塩性乳酸菌の菌数変化と乳酸及びアミノ酸の生成を目安に検討した。機能を有する好塩性乳酸菌Tetragenococcus halophilusとしては、実施例1で「いしる」のモデル発酵槽より分離したテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026株(受託番号:NITE P-1289)を使用した。
具体的には、3L容容器に、イカの内臓2Kg、及び食塩400gを入れ、これにスターターとしてテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026株を2×1010cells添加した。嫌気条件下、高温(37℃)で11週間インキュベートし、その間、1週間ごとに発酵中のサンプル(もろみ液)を採取した。このサンプリングしたもろみ中の菌数は、実施例1に記載の方法において、10%NaClを含むMRS寒天培地および標準寒天培地、並びにNaClを含まないMRS寒天培地および標準寒天培地で測定した。また、乳酸とアミノ酸の生成量を、9週目までのサンプルで測定した。
参考例2
実施例3の方法において、スターター(テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026株)を添加しなかった以外は、同様の操作を行ってサンプルを製造した。実施例3と同様に、1週間ごとに発酵中のサンプルを採取して、菌数を調査した。また、乳酸とアミノ酸の生成量を、9週目までのサンプルで測定した。
図7に、実施例3(図7の上図)及び参考例2(図7の下図)における前記高温発酵試験中の生菌の増殖曲線(生菌数の推移)を示す。図7中、◆は、NaClを含まないMRS寒天培地、■は、10%NaClを含むMRS寒天培地、▲は、NaClを含まない標準寒天培地、×は、10%NaClを含む標準寒天培地をそれぞれ用いて測定した生菌数を示す。「いしる」のモデル発酵槽より分離したTetragenococcus halophilus 5BX15-026を添加しなかった発酵(参考例2、図7の下図)ではO%NaClの培地で生育できる菌の増殖が見られた。T.halophilusをスターターとして添加した発酵(実施例3、図7の上図)ではそのような菌の増殖は殆ど見られなかった。つまりスターター添加の場合は、無添加の場合に見られる0%食塩培地で分離される菌株の生育がほとんど見られず、雑菌の生育が無いと考えられる結果を得た。
また実施例3及び参考例2において、発酵開始後9週目までのいしる中の生成乳酸及びアミノ酸量を測定したところ、乳酸量は従来法で製造したものより若干低くかったが(データは示さず)、アミノ酸量は従来法と変わらない生成量が示された。図8に、スターターとしてテトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026株を添加して高温で速醸して製造した実施例3のいしるのアミノ酸量の経時変化を示す。図8に示すアミノ酸の量は、市販のイカのいしる(有限会社カネイシ社製)のアミノ酸量を分析した値(データは示さず)とほぼ同じであった。この結果から、いしるの製造における高温インキュベート(高温発酵)時間は9週間ぐらいで十分であることが分った(図8)。図8の各アミノ酸量における5本のバーは、左からそれぞれ高温発酵期間1週間、2週間、4週間、6週間、9週間後にサンプリングしたサンプル中のアミノ酸量を示す。
実施例4
上記の実施例3の方法(速醸法)で作製したいしるを従来法で作られたいしると比較するため、実施例3で製造したいしる、及び従来法で作られたいしるの官能テストを12人のパネラーにて行なった。実施例3では、それぞれ2回サンプルを製造し、それぞれのサンプルを評価した。従来法で製造されている製品の例として、有限会社カネイシ社製のいしる(市販品)を用いた。その結果、実施例3で製造したいしるは、従来法で作られた製品より香りが少し劣るが、甘み、旨味、酸味が高く、苦みや塩味が少なく、総合評価ではやや高い値を示す製品であることが分った(図9)。図9の各評価項目における3本のバーは、左からそれぞれ、実施例3において1回目に製造したサンプル(菌添加)、実施例3において2回目に製造したサンプル(菌添加)、及び市販品の評価結果である。
本発明の機能性を有する乳酸菌をスターターとして添加し、高温条件での発酵を行うことにより、従来の1年から2年間を要した魚類のいしるの発酵熟成期間を1〜2カ月程度に短縮することが可能であり、アミノ酸の生成量が従来法の場合と変わらない魚類のいしるを製造可能である。したがって、本発明は産業上大変有利な製造法であり、産業上の利用の可能性は大きい。また、本発明によれば、優れた抗酸化作用及び/又は抗アレルギー作用を有する医薬、飲食品等を製造することができる。

Claims (9)

  1. 高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)を、(1)塩、及び(2)イカの内臓、又はイワシ、サバ、アジ、タイ、若しくはメバルの魚体を含む発酵原料にスターターとして添加し、温度30〜50℃で発酵させる高温発酵工程を含むことを特徴とするいしるの製造方法。
  2. 高温発酵工程を、2〜16週間連続して行う請求項1に記載の製造方法。
  3. 高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)がイカ内臓の発酵もろみより分離された乳酸菌であることを特徴とする請求項1又は2に記載のいしるの製造法。
  4. 高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物が抗酸化作用を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のいしるの製造法。
  5. 高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)が、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026(受託番号 NITE P-1289)である請求項1〜4のいずれか一項に記載のいしるの製造方法。
  6. イカ内臓の発酵もろみより分離された高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の培養物を有効成分とすることを特徴とする抗酸化剤。
  7. イカ内臓の発酵もろみより分離された高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)の菌体を有効成分とすることを特徴とする抗アレルギー剤。
  8. 高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)が、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026(受託番号 NITE P-1289)である請求項6又は7に記載の剤。
  9. 高温耐性好塩性乳酸菌テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)5BX15-026(受託番号 NITE P-1289)。
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