図1〜図13は本発明による一実施の形態およびその変形例を説明するための図である。以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
以下に説明する一実施の形態では、透過光を拡散させる光拡散フィルムを、液晶表示パネルとして構成された画像形成装置に適用し、液晶表示装置からなる表示装置を構成する例を説明する。しかしながら、以下の例に限られず、光拡散フィルムを、例えば陰極線管(CRT、ブラウン管)やプラズマディスプレイパネル(PDP)として構成された画像表示装置等に適用して表示装置を構成する用途や、透過光を拡散させる部材としての表示装置への適用以外の種々の用途に対して広く適用することができる。
<画像形成装置>
まず、図1および図2を主に参照して、表示装置10および画像表示装置15の全体構成について説明する。図1に示された表示装置10は、画像形成装置15としての液晶表示パネル16と、液晶表示パネル16を背面側から照明するバックライト20と、を有している。
液晶表示パネル15は、一対の偏光板11,12と、一対の偏光板11,12間に配置された液晶セル13と、を有している。出光側に配置された偏光板12の出光側には、表面機能シート14が設けられている。表面機能シート14は、特定の機能を発揮することを期待された層であって、画像形成装置15の最出光側面、すなわち表示装置10の表示面を形成している。表面機能シート14は、一例として、反射防止機能を有した反射防止層(AR層)、防眩機能を有した防眩層(AG層)、耐擦傷性を有したハードコート層(HC層)、帯電防止機能を有した帯電防止層(AS層)等の一以上を含むように構成され得る。
偏光板11,12は、入射した光を直交する二つの偏光成分に分解し、一方の方向の偏光成分を透過させ、前記一方の方向に直交する他方の方向の偏光成分を吸収する機能を有した偏光子を有している。図示された例において、出光側に配置された偏光板12は、偏光子18と、偏光子18の出光側に設けられた光拡散フィルム30と、を有している。光拡散フィルム30は、透過光を拡散させる機能を有している。また、光拡散フィルム30は、偏光子18と接合されて偏光板12を形成する本例において、偏光子18を保護する保護シートとしても機能する。ただし、偏光子18に別途の保護シートが設けられ、光拡散フィルム30が、もはや、偏光板12とは別途の部材として設けられていてもよい。なお、光拡散フィルム30については、後に詳述する。
以下においては、液晶表示パネル16に含まれる一対の偏光板を区別するため、表示装置10の配置状態に関係なく、入光側の偏光板11を下偏光板と呼び、出光側の偏光板12を上偏光板と呼ぶ。
液晶セル13は、一対の支持板と、一対の支持板間に配置された液晶と、を有している。液晶セル13は、一つの画素を形成する領域毎に、電界印加がなされ得るようになっている。そして、電界印加された液晶セル13の液晶の配向は変化するようになる。入光側に配置された下偏光板11を透過した特定方向(透過軸と平行な方向)の偏光成分は、一例として、電界印加されている液晶セル13を通過する際にその偏光方向を90°回転させ、電界印加されていない液晶セル13を通過する際にその偏光方向を維持する。このため、液晶セル13への電界印加の有無によって、下偏光板11を透過した特定方向の偏光成分が、下偏光板11の出光側に配置された上偏光板12をさらに透過するか、あるいは、上偏光板12で吸収されて遮断されるか、を制御することができる。
ところで、液晶セル13は、正面方向fdに進む入射光(光源光)に対する透過または遮断を正確に制御することができる。一方、正面方向fdから大きく傾斜した方向に進む光については、位相のずれが生じてしまうので、透過または遮断を正確に制御することができない。このため、正面方向から大きく傾斜した方向に進む光に対する位相のずれを補償することを目的として、位相差フィルムを設けることもある。ただしこの場合、位相差フィルムを設けることによって、バックライト20からの光の利用効率が低下してしまう。
このような事情から、画像形成装置15の背面側に配置されたバックライト20は、正面方向を中心とした狭い角度範囲内に進行方向が集光された光によって、液晶表示パネル16を背面側から照明できるように構成されている。なお、正面方向fdに集光された光によって画像形成装置15が照明される場合、画像を形成する光も正面方向fdを中心とした狭い角度範囲内にしか進み出ない。図示された形態においては、上偏光板12の偏光子18よりも出光側に配置された光拡散フィルム30が、画像を形成する光を拡散させ、表示装置10の視野角を拡大することができるようになっている。この光拡散フィルム30については、後に詳述する。
図1に示されたバックライト20は、エッジライト型(サイドライト型)の面光源装置として構成され、液晶表示パネル16を背面側から照明する。このバックライト20は、導光板21と、導光板21の側方に設けられた発光部23aを含んだ光源23と、を有している。導光板21の液晶表示パネル側となる出光側には、集光シート25が設けられている。また、導光板21の集光シート25側とは逆側に、反射シート29が設けられている。
光源23の発光体23aは、例えば、線状の冷陰極管等の蛍光灯、白熱電球、或いは、図示された例のように点状のLED(発光ダイオード)によって構成され得る。発光体23aは、導光板21の入光面をなす側面に対向して配置されており、発光体23aで発光された光は、当該側面を介して導光板21内に入射する。導光板21は、発光体23aからの光を、その入射面に直交する方向(導光方向)に導光する。ただし、導光板21は、その背面に設けられた白色拡散部や内添された拡散剤等からなる光取出要素を有している。このため、導光板21内を進む光は、導光方向に沿った光量分布が略均一となるように、導光方向に沿った導光板21の各位置から出射する。導光板21の背面側に出射した光は、反射シート29で反射されて、出光側に光路を変換される。
図示された例において、導光板21の出光側には、線状に延びる多数の第1単位プリズ21aが設けられている。第1単位プリズム21aは、導光方向に配列され、その配列方向に直交する方向に延びている。そして、導光板21から出光側に出射する光の導光方向に直交する成分は、この第1単位プリズム21aによって、正面方向fdに集光されるようになる。
導光板21から出射した光は、集光シート25bに入射する。集光シート25は、その入光側に突出した多数の第2単位プリズム25aを有している。第2単位プリズム25aは、第1単位プリズム21aの配列方向と直交する方向(すなわち、導光板21の導光方向)に配列されており、その配列方向と直交する方向に延びている。そして、集光シート25に入射する光の導光方向に沿った成分は、この第2単位プリズム25aによって、正面方向fdに集光されるようになる。
集光シート25を透過した光は、バックライト20からの照明光として、液晶表示パネル16を照明するようになる。バックライト20からの照明光は、導光板21の第1単位プリズム21aと集光シート25の第2単位プリズム25aとによって、直交する二方向において集光されている。したがって、バックライト20によって照明される液晶表示パネル16は、正面方向fdを中心とした狭い角度範囲内の方向に進む光を高い利用効率で利用して、画像を形成することができる。
なお、画像を形成する光は、光拡散フィルム30によって拡散されるので、表示装置10の観察者は、種々の方向から画像を観察することができる。とりわけ、後述するように、ここで説明する光拡散フィルム30は種々の拡散特性を発揮し得るので、表示装置10に所望の視野角特性を付与することが可能となる。
表示装置10に求められる水平視野角特性および垂直視野角特性は、通常、異なっている。例えば、家庭用テレビ受像機としての表示装置には、広い水平視野角が求められる一方で、垂直視野角を広くする必要は通常存在しない。また逆に、モバイル機器に組み込まれる表示装置には、覗き見防止の観点から水平方向視野角(横方向視野角)を絞り込むことが求められる一方で、垂直方向視野角(縦方向視野角)を水平方向視野角よりも広く設定することが求められる。このような表示装置の視野角特性に対する要望は、光拡散フィルム30が異方性の拡散特性を発揮することによって、実現され得る。
また、図1に示された表示装置10では、バックライト20からの照明光が異方性を持つ傾向、具体的には、導光方向に沿った成分が導光方向に直交する成分よりも強く集光される傾向が生じるが、光拡散フィルム30が異方性の拡散特性を発揮することにより、表示装置10の視野角特性を等方的にすることも可能である。このような表示装置10は、一例として、把持する方向を変化させて観察されることが想定されるタブレット端末用の表示装置に好適に使用することができる。
なお、以下に説明する光拡散フィルム30は、以上に説明した構成の表示装置10、画像形成装置15、液晶表示パネル16、バックライト(面光源装置)20に限られることなく、公知の装置に対して適用され得る。例えば、バックライト20については、図2に示すような直下型の面光源装置を用いることもできる。
図2に示された、直下型のバックライト20は、発光体23aを有した光源23と、光源23の背面側に配置された反射シート29と、光源23に対向して配置された拡散板22と、拡散板22の出光側に配置された第1および第2の集光シート26,27と、を有している。第1および第2の集光シート26,27は、それぞれ、その出光側に突出する第1および第2の単位プリズム26a,27aを有している。第1および第2の単位プリズム26a,27aは、互い直交する方向に配列されており、各配列方向に直交する方向に延びている。各単位プリズム26a,27aがその配列方向に直交する光の成分を集光することにより、図2に示されたバックライト20からの光が、正面方向を中心とした狭い角度範囲内の方向に沿って進み、液晶表示パネル16を照明するようになる。
なお、図2に示す例において、図1に示された形態と同様に構成され得る部分には、同一の符号を付している。
他の公知の表示装置、画像形成装置、液晶表示パネルおよびバックライトについての詳細については、種々の公知文献(例えば、「フラットパネルディスプレイ大辞典(内田龍男、内池平樹監修)」2001年工業調査会発行)に記載されており、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。
なお、本明細書において、「フィルム」、「シート」、「板」等の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。したがって、例えば、「光拡散フィルム」は光拡散シートや光拡散板とも呼ばれ得るような部材も含む概念である。
また、本明細書において「フィルム面(シート面、板面)」とは、対象となるフィルム状の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となるフィルム状部材の平面方向と一致する面のことを指す。そして、本実施の形態においては、光拡散フィルム30のフィルム面、上偏光板12の板面、液晶表示パネル16のパネル面、表示装置10の表示面は、互いに平行となっている。さらに、本明細書において「正面方向」とは、光拡散フィルム30のフィルム面への法線方向であり、本実施の形態においては、上偏光板12の板面への法線方向、液晶表示パネル16のパネル面への法線方向、表示装置10の表示面への法線方向等にも一致する。
さらに、本明細書において、「出光側」とは、対象となる部材において、観察者へ向かう予定された光路における下流側(図1及び図2においては紙面の上側)、すなわち観察者側のことであり、「入光側」とは、この予定された光路における上流側のことである。また「背面側」とは、正面方向fdにおける「出光側」とは反対の側のことである。
さらに、本明細書において、「単位プリズム」とは、入射光に対して種々の光学的作用(例えば、反射や屈折)を及ぼし得る形状を有した要素(光学要素)を意味するものであり、光学要素として、単位光学要素、単位形状要素、単位レンズ等と呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば、「平行」や「直交」等の用語については、厳密な意味に縛られることなく、同様の光学的機能を期待し得る程度の誤差を含めて解釈することとする。
<光拡散フィルム>
次に、主として図3〜図9を参照しながら、光拡散フィルム30について説明する。
光拡散フィルム30は、少なくとも光拡散フィルムのフィルム面への法線方向(すなわち、正面方向)fdに進む特定波長の光を回折し、これにより、正面方向fdに進む光を拡散させる回折格子素子40を含んでいる。光拡散フィルム30に含まれる回折格子素子40とは、周期的な構造を有する格子パターン、または、連続的に変化する格子パターンを含む光学素子である。回折格子素子40は、格子パターン41に起因して透過光に対して回折現象を引き起こす。
回折格子素子40は、格子パターン41に応じたパターンで透過光に対して振幅変調を生じさせる振幅変調型の回折格子として構成されていてもよいし、或いは、格子パターン41に応じたパターンで透過光に対して位相変調を生じさせる位相変調型の回折格子として構成されていてもよい。さらには、回折格子素子40は、振幅変調および位相変調の両方を生じさせる複素振幅型の回折格子として構成されていてもよい。
回折現象を引き起こす回折格子素子40は、少なくとも第1変調領域42aおよび第2変調領域42bを有し、この第1変調領域42aおよび第2変調領域42bによって格子パターン41が画成される。振幅変調型の回折格子では、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの間で、拡散対象となる光の透過率が異なるようにすればよい。典型的な例として、可視光を拡散対象の光とする場合には、第1変調領域42aを透明に構成するとともに、第2変調領域42bを顔料等によって黒色の領域として構成すればよい。
位相変調型の回折格子素子40は、格子パターン41に対応したパターンで形成された凹凸面35からなる屈折率界面を含むようにすればよい。格子パターン41を画成する屈折率界面は、空気層との界面、すなわち凹凸面としての表面であってもよい。或いは、図4および図6に示すように、屈折率界面が、異なる屈折率を有する二つの層31,32の間に形成された凹凸面35からなり、光拡散フィルム30が、実質的に平行な一対の主面を有する、すなわち、厚みが一定のフィルム材として形成されていてもよい。このような光拡散フィルム30によれば、図1および図2に示す形態のように、光拡散フィルム30の両側に、例えば接着剤(本明細書では、粘着剤を含む概念)を介して、他のシート状部材を積層したとしても、この接着によって凹凸面35が埋められることもなく、光拡散フィルム30が期待された拡散機能を発揮し続けることができる。
なお、光拡散フィルム30が回折機能を有効に発揮し得る観点から、二つの層31,32の間の屈折率差は、0.1以上であることが好ましい。また、屈折率界面をなす凹凸面35よりも出光側に位置する第2層32が、光を拡散する拡散成分を含むようにしてもよい。第2層32が光拡散機能を有する場合には、凹凸面35に起因して生じ得る波長分散(色分散)を目立たなくさせることができる。
図4および図6は、正面方向fdに沿った光拡散フィルム30の断面の一例を示している。図4及び図6に示す例において、光拡散フィルム30は、凹凸面35を有した第1層31と、凹凸面35に沿うようにして第1層31の凹凸面35上に積層された第2層32と、を有している。第1層31および第2層32は、異なる屈折率を有した材料から構成されている。この結果、凹凸面35をなす凸部(第1層31を基準とした凹凸面の凸部であって、第2層32を基準とした凹凸面の凹部)36に対応する第2変調領域42bを透過する光に対して光拡散フィルム30から及ぼされる位相変調量θ2と、凹凸面35をなす凹部(第1層31を基準とした凹凸面の凹部であって、第2層32を基準とした凹凸面の凸部)に対応する第1変調領域42aを透過する光に対して光拡散フィルム30から及ぼされる位相変調量θ1と、が異なるようになり、結果として、光拡散フィルム30を透過する光は回折することになる。
具体的には、正面方向fdへ進む光に対して各領域から及ぼされる位相変調量を想定すると、凹凸面35をなす凸部36に対応する第2変調領域42bでの位相変調量θ2と、凹凸面35をなす凹部に対応する第1変調領域42aでの位相変調量θ2との間での差は、
h×(n1−n2)×2π/λ
となる。ここで、hは凸部36の高さを表しており、λは光の波長を表しており、n1は凸部36をなす第1層31の屈折率を表しており、n2は凸部36間に突出した第2層32の屈折率を表している。
回折格子素子40によって光拡散機能が発現される光拡散フィルム30を表示装置10に適用した場合には、広く利用に供されている光拡散剤を用いた従来の光拡散フィルムにおいて生じていた、外光の後方散乱を効果的に防止することができる。これにより、後方散乱に起因した表示画像のコントラスト低下を効果的に防止することができ、画像の鮮明度が低下する像ぼけを効果的に回避することも可能となる。
とりわけ、ここで説明する光拡散フィルム30は、光拡散フィルム30のフィルム面に沿って延びる二つの方向のそれぞれに周期性を有した格子パターン41で形成された回折格子素子41を含んでいる。二つの方向のそれぞれに周期性を有した格子パターン41によれば、一つの回折格子素子40を用いることによって、当該二つの方向に沿って所望の拡散特性を実現することができ、二つの方向において所望の視野角特性を表示装置10に付与することが可能となる。
図3および図5に、格子パターン41の一例を示している。なお、上述した図4は、図3におけるIV−IV線に沿った断面図であり、上述した図6は、図5におけるVI−VI線に沿った断面図である。図3〜図6に示されて例では、各回折格子素子40が、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bからなる二種類の変調領域によって構成され、且つ、屈折率界面をなす凹凸面35によって、格子パターン41が画成されている。
図3に示された回折格子素子40において、格子パターン41は、光拡散フィルム30のフィルム面に沿って延びて互いに直交する第1方向d1および第2方向d2に配列された複数の第1変調領域42aと、各々が一つの第1変調領域42aの周囲を取り囲むように配置された複数の第2変調領域42bと、を有している。複数の第1変調領域42aは、第1方向d1および第2方向d2のそれぞれに周期性を持って配列されている。とりわけ図示された例では、複数の第1変調領域42aは、第1方向d1に一定のピッチで配列されるとともに第1方向d1への配列ピッチと同一または異なる一定のピッチで第2方向d2に配列されている。同様に、複数の第2変調領域42bは、第1方向d1および第2方向d2のそれぞれに周期性を持って配列されている。とりわけ図示された例では、複数の第2変調領域42bは、第1方向d1に一定のピッチで配列されるとともに第1方向d1への配列ピッチと同一または異なる一定のピッチで第2方向d2に配列されている。
また、図3に示された例では、二つの方向d1,d2のそれぞれに隣り合う二つの第2変調領域42bが、隣接して設けられている。すなわち、図3に示された例において、第2変調領域42bは、互いに接触して、例えば一体化している。したがって、ここで用いた「複数の第2変調領域42b」とは、一繋ぎに形成された領域を個々の第1変調領域42aに対応して区切ることによって得られた複数の小領域のことも、指している。その一方で、図3の例とは異なり、第1方向d1および第2方向d2の少なくとも一方向に隣り合う二つの第2変調領域42bが、分離して互いから離間していてもよい。
図3に示された例において、複数の第1変調領域42aは互いに同一に構成されており、第1変調領域42aの平面形状は、四角形形状、とりわけ正方形形状となっている。また、複数の第2変調領域42bは互いに同一に構成されており、第2変調領域42bの外輪郭の平面形状も、四角形形状、とりわけ正方形形状となっている。ただし、図3の例とは異なり、複数の第1変調領域42aおよび複数の第2変調領域42bの少なくとも一方が、互いに異なる構成を有するようにしてもよい。また、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの少なくとも一方の平面形状が、正方形形状以外の形状、さらには四角形形状以外の形状、例えば、円形状等になっていてもよい。
一方、図5に示された回折格子素子40において、格子パターン41は、光拡散フィルムのフィルム面に沿って延び互いに直交する第1方向d1および第2方向d2に配列された複数の第1変調領域42aと、二つの方向d1,d2に配列された複数の第2変調領域42bと、によって画成されている。複数の第1変調領域42aは、第1方向d1および第2方向d2のそれぞれに周期性を持って配列されている。とりわけ図示された例では、複数の第1変調領域42aは、第1方向d1に一定のピッチで配列されるとともに第1方向d1への配列ピッチと同一または異なる一定のピッチで第2方向d2に配列されている。同様に、複数の第2変調領域42bは、第1方向d1および第2方向d2のそれぞれに周期性を持って配列されている。とりわけ図示された例では、複数の第2変調領域42bは、第1方向d1に一定のピッチで配列されるとともに第1方向d1への配列ピッチと同一または異なる一定のピッチで第2方向d2に配列されている。第1変調領域42aおよび第2変調領域42bは、二つの方向d1,d2のそれぞれに、交互に配列されている。
図5に示された例では、二つの方向d1,d2のそれぞれに隣り合う第1変調領域42aおよび第2変調領域42bが、隣接して設けられている。すなわち、図5に示された例において、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bは、互いに接触して、交互に配列されている。ただし、図5の例とは異なり、隣り合う第1変調領域42aおよび第2変調領域42bが、第1方向d1および第2方向d2の少なくとも一方向にそって、分離して互いから離間していてもよい。
図5に示された例において、複数の第1変調領域42aは互いに同一に構成されており、第1変調領域42aの平面形状は、四角形形状、とりわけ正方形形状となっている。また、複数の第2変調領域42bは互いに同一に構成されており、第2変調領域42bの平面形状も、四角形形状、とりわけ正方形形状となっている。そして、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bは、互いに同一の形状を有している。ただし、図5の例とは異なり、複数の第1変調領域42aおよび複数の第2変調領域42bの少なくとも一方が、互いに異なる構成を有するようにしてもよい。また、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの少なくとも一方の平面形状が、正方形形状以外の形状、さらには四角形形状以外の形状、例えば、円形状等になっていてもよい。
図5に示された格子パターン41によれば、図5に点線で示すように、第1変調領域42aおよび第2領域42bを一定の面積比で含んでなる繰り返し単位が、第1方向d1および第2方向d2の両方に対して傾斜、例えば45°の角度をなして傾斜している第3方向d3および第4方向d4のそれぞれに、所定のピッチで配列されるようになる。このような格子パターン41を含む回折格子素子40によれば、繰り返し単位が配列された第3方向d3および第4方向d4bに、主として、光を回折して拡散させることになる。
ところで、光拡散フィルム30が表示装置10に適用される場合のように、光拡散フィルム30の入射光が非平行光束となることが想定される場合には、特定方向に進む特定波長の光についての0次回折効率が0%となるように、すなわち、特定方向に進む特定波長の光がすべて回折されるように、光拡散フィルム30が構成されていることが好ましい。このように構成された光拡散フィルム30によれば、回折格子素子40は、光拡散フィルム30のフィルム面への法線方向fdに沿って進む特定波長の光を、1次以上の回折光として透過させることになり、入射光を広い角度範囲内の方向に拡散させることができる。
とりわけ、表示装置10への適用時のように、入射光が正面方向fdを中心とした比較的に狭い角度範囲内の方向に進む場合には、光拡散フィルム30のフィルム面への法線方向fdに沿って進む特定波長の光についての0次回折効率が0%となるように、すなわち、光拡散フィルム30のフィルム面への法線方向fdに沿って進む特定波長の光が回折されるように、光拡散フィルム30が構成されていることが好ましい。また、光拡散フィルム30によって1次以上の回折光に回折される光の波長は、想定される光拡散フィルム30への入射光の中心波長としてもよいし、想定される光拡散フィルム30への入射光のうちの最大光量となる光の波長としてもよい。
一般に、回折格子素子40の格子パターン41が、特定方向からの特定波長の光に対して所定の位相変調を与える第1、…、第n(n≧2の整数)の位相変調領域を有する場合には、
が満たされると、特定波長の光が特定方向から光拡散フィルム30に入射した際に得られる回折光のうち0次光の強度がゼロとなる、すなわち、0次回折効率が0%となる。なお、この式中において、第k(k=1〜nの整数)の位相変調領域の位相変調量をθ
kとし、第kの位相変調領域の面積をS
kとしている。
図3に示された回折格子素子40の格子パターン41、並びに、図5に示された第2の回折格子素子40の格子パターン41では、格子パターン41が、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bのみから構成されている。したがって、特定方向からの特定波長の光に対して及ぼされる第k(kは、1または2)の変調領域の位相変調量をθ
kとし、第kの変調領域の面積をS
kとして、次の関係式が満たされる場合に、特定方向からの特定波長の光が一次以上の回折光として回折されるようになる。
なお、上述したように、図3に示された回折格子素子40に含まれる複数の第1変調領域42aおよび複数の第2変調領域42bは、周期的に配列されて、格子パターン41を形成している。そして、複数の第1変調領域42aは互いに同一に構成され、複数の第2変調領域42bも互いに同一に構成されている。同様に、図5に示された回折格子素子40に含まれる複数の第1変調領域42aおよび複数の第2変調領域42bは、周期的に配列されて、格子パターン41を形成している。そして、複数の第1変調領域42aは互いに同一に構成され、複数の第2変調領域42bも互いに同一に構成されている。したがって、上記式中におけるS1を一つの第1変調領域42aの面積とするとともに、S2を一つの第2変調領域42bの面積として、上記式が満たされるか否かを判断すればよい。
図3に示された回折格子素子40および図5に示された回折格子素子40において、第1変調領域42aの面積S1と第2変調領域42bの面積S2とが等しく、且つ、第1変調領域42aの位相変調量θ1と第2変調領域42bの位相変調量をθ2との差が180°となるようにすればよい。図3に示された回折格子素子40では、第2変調領域42bをなす正方形外輪郭の一辺の長さが、第1変調領域42aをなす正方形形状の一辺の長さの21/2倍とすることにより、第1変調領域42aの面積S1と第2変調領域42bの面積S2とが等しくなる。一方、図5に示された回折格子素子40では、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bを同一に構成することにより、第1変調領域42aの面積S1と第2変調領域42bの面積S2とが等しくなる。
また、図3および図5に示された各回折格子素子40において、
h×(n1−n2)×2π/λ=π
が成り立つ場合に、第1変調領域42aの位相変調量θ1と第2変調領域42bの位相変調量θ2との差が180°となる。したがって、波長が555nmの緑色光を対象とする場合には、例えば、凹凸面35をなす凸部36の高さhを1.559μmとし、凸部36をなす第1層31の屈折率n1を1.588とし、凸部36間に突出した第2層32の屈折率n2を1.410とすれば、第1変調領域42aの位相変調量θ1と第2変調領域42bの位相変調量θ2との差が180°となる。
以上において、二つの方向のそれぞれに周期性を有した格子パターン41で形成された回折格子素子40に関する具体的な形態を説明したが、この形態は例示であり、種々の変更が可能である。例えば、格子パターン41が周期性を示す二つの方向が、90°以外の角度をなして交差するようにしてもよい。また、格子パターン41が周期性を示す二つの方向のうちの少なくとも一つが、直線(直線方向)ではなく曲線(曲線方向)に沿うようにしてもよい。
また、上述してきた回折格子素子40の各例において、回折格子素子40の格子パターン41が、第1変調領域42a及び第2変調領域42bからなる二つの変調領域のみによって画成されている例を示した。これに限られず、回折格子素子40の格子パターン41が、三以上の変調領域から画成されるようにしてもよい。例えば、回折格子素子40の格子パターン41が、図4および図6に示すように、屈折率界面をなす凹凸面35によって構成されている場合には、高さの異なる複数種類の凸部が形成されるようにしてもよい。すなわち、凹凸面35が、二段の凹凸面としてではなく、三段以上の凹凸面として構成されていてもよい。
さらに、光拡散フィルム30が、互いに異なる格子パターン41で形成された複数の回折格子素子40を含み、異なる格子パターン41で形成された複数の回折格子素子40が、光拡散フィルム30のフィルム面に沿ってずらして配列されるようにしてもよい。この形態において、各回折格子素子40が、光拡散フィルム30のフィルム面に沿って延びる二つの方向のそれぞれに周期性を有した格子パターン41を含むようにしてもよい。互いに異なる格子パターン41を有する複数の回折格子素子40を組み合わせることにより、極めて広い設計の自由度で光拡散フィルム30の拡散特性を調節することができ、表示装置10に所望の視野角特性を付与することが可能となる。
各回折格子素子40,40a,40bが、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bからなる二種類の変調領域によって構成され、且つ、屈折率界面をなす凹凸面35によって、格子パターン41,41a,41bが画成されている場合には、一つの光拡散フィルム30に含まれる二以上の回折格子素子40,40a,40bの間で、凹凸面35のピッチp、凹凸面35のピッチpに対する凹凸面35をなす凸部36の配列方向に沿った幅wの比(w/p)、凹凸面35をなす凸部36の配列方向、凹凸面35をなす凸部36の高さh、及び、凹凸面35の断面形状、のうちの一以上が異なるようにしてもよい。
また、格子パターン41の変調領域の繰り返し単位が周期性を示す方向が同一であるが当該方向への格子パターン41のピッチpが異なる二種類の回折格子素子40によれば、一具体例として、凹凸面35の配列方向が同一であるが凹凸面35のピッチpが異なる二種類の回折格子素子40によれば、凹凸面35の配列方向に沿った面内の種々の方向から観察した場合に生じ得る色分散を目立たなくさせることができる。
さらに、一つの光拡散フィルム30に含まれる複数の回折格子素子40のうちの二以上の回折格子素子40の間で、面積が異なるようにしてもよいし、一つの単位拡散要素45に含まれる複数の回折格子素子40が同一の面積を有するようにしてもよい。
さらに、第1回折格子素子40aの第1格子パターン41aに含まれる変調領域の繰り返し単位が周期性を示す方向と、第2回折格子素子40bの第2格子パターン41bに含まれる変調領域の繰り返し単位が周期性を示す方向とが、交差するようにしてもよい。一具体例としては、回折格子素子40が、第1回折格子素子40aとして図3に示された回折格子素子40を含むとともに、第2回折格子素子40bとして図5に示された回折格子素子40を含み、且つ、第2回折格子素子40bの第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの繰り返し単位が周期性を示す第3方向d3および第4方向d4と、第1回折格子素子40aの第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの繰り返し単位が周期性を示す第1方向d1および第2方向d2とが、交差するようにして、第1回折格子素子40aおよび第2回折格子素子40bが配列されることが好ましい。
このような例によれば、第1回折格子素子40aが主として光を回折する方向、すなわち、第1回折格子素子40aが主として光を拡散する第1方向d1および第2方向d2が、第2回折格子素子40bが主として光を回折する方向、すなわち、第2回折格子素子40bが主として光を拡散する第3方向d3および第4方向d4と、非平行になる。つまり、第1回折格子素子40aが周期性を示す二つの方向の少なくとも一方が、第2回折格子素子40bが周期性を示す二つの方向の少なくとも一方と非平行となっている光拡散フィルム30によれば、種々の方向において拡散特性を制御することが可能となる。
ところで、光拡散フィルム30のフィルム面に沿った各位置において、透過光に対して同様の拡散特性を発揮し得るようにする観点からは、図7に示すように、格子パターン41の異なる複数の回折格子素子40が単位拡散要素45を構成し、この単位拡散要素45が、光拡散フィルム30のフィルム面に沿って並べられて光拡散フィルム30に含まれるようにしてもよい。図7に示された例では、各単位拡散要素45が、第1回折格子素子40aおよび第2回折格子素子40bを含んでおり、第1回折格子素子40aの第1格子パターン41aは、第2回折格子素子40bの第2格子パターン41bとは異なるパターンとなっている。
一つの単位拡散要素45に含まれる複数の回折格子素子40の構成および組み合わせは、上述した光拡散フィルム30に含まれる複数の回折格子素子40の構成および組み合わせと同様にすることができる。すなわち、一つの単位拡散要素45に含まれる複数の回折格子素子40の間で、凹凸面35のピッチp、凹凸面35のピッチpに対する凹凸面35をなす凸部36の配列方向に沿った幅wの比、凹凸面35をなす凸部36の配列方向、凹凸面35をなす凸部36の高さh、及び、凹凸面35の断面形状、のうちの一以上が異なっているようにしてもよい。
また、一つの単位拡散要素45に含まれる複数の回折格子素子40のうちの二以上の回折格子素子40の間で、格子パターン41のピッチpが異なるようにしてもよい。とりわけ、格子パターン41に含まれる変調領域の繰り返し単位が周期性を示す方向が同一であるが当該方向への格子パターン41のピッチpが異なる二種類の回折格子素子40を含む光拡散フィルム30によれば、格子パターン41の配列方向に沿った面内の種々の方向から観察した場合に生じ得る色分散を目立たなくさせることができる。
さらに、一つの単位拡散要素45に含まれる複数の回折格子素子40のうちの二以上の回折格子素子40の間で、面積が異なるようにしてもよいし、一つの単位拡散要素45に含まれる複数の回折格子素子40が同一の面積を有するようにしてもよい。
さらに、第1回折格子素子40aが周期性を示す二つの方向の少なくとも一方が、第2回折格子素子40bが周期性を示す二つの方向の少なくとも一方と非平行となるようにしてもよい。このような光拡散フィルム30によれば、種々の方向において拡散特性を制御することが可能となる。
二以上の単位拡散要素45が、同一の組み合わせで複数の回折格子素子40を含んでいるとすると、各単位拡散要素45に同配向の光が入射した場合に、各単位拡散要素45から出射する光の強度の角度分布は同様となる。これにより、複数種類の回折格子素子40を含む光拡散フィルム30のフィルム面に沿った各位置における拡散特性を均一化することができる。とりわけ、各単位拡散要素45が、異なる格子パターン41を有する複数の回折格子素子40を含んでいるため、各回折格子素子40の回折特性を調節することにより、高い設計の自由度を確保しながら、単位拡散要素45に所望の拡散特性を付与することができる。
また、小面積の単位拡散要素45の拡散特性を評価することによって、大面積の光拡散フィルム30の拡散特性を評価することができる。したがって、後述するようにシミュレーション等によって、光拡散フィルム30の拡散特性を評価する際には、不規則な干渉縞を含むホログラム光学素子からなる光拡散フィルムと比較して、計算機での計算時間を大幅に短縮すること、シミュレーションの精度を大幅に向上させることが可能となる。
なお、図7に示された光拡散フィルム30では、単位拡散要素45が、光拡散フィルム30のフィルム面上を延びる直交する二方向のそれぞれに沿って、隙間無く並べて配列されている。しかしながら、単位拡散要素45は、隙間をあけて配列されてもよい。また、図7に示された正方配列とは異なり、隣り合う列の単位拡散要素45が半ピッチ又は一ピッチずれて配列される千鳥配列にて、単位拡散要素45が配列されていてもよい。また、図7に示された例とは異なり、単位拡散要素45の平面形状が、正方形以外の四角形形状であってもよいし、四角形形状以外の多角形形状であってもよいし、多角形形状以外の円形や楕円形等であってもよい。
さらに、光拡散フィルム30が大面積を有する表示装置10に適用される場合等には、光拡散フィルム30の拡散特性を、光拡散フィルム30のフィルム面に沿った各領域において積極的に変化させておいた方が良いこともある。この場合、図8および図9に示すように、光拡散フィルム30のフィルム面に沿って当該光拡散フィルム30を複数の領域に分割し、一つの領域に含まれる回折格子素子40と、他の領域に含まれる回折格子素子40とが、異なる構成を有するようにしてもよい。この場合、光拡散フィルム30の各領域において、所望の拡散特性が発現されるようになり、例えば表示装置10の視野角特性を有効に改善することができる。
図8に示された例では、光拡散フィルム30が、二点鎖線で囲まれた中央に位置する第1領域A1と、第1領域A1を取り囲むように設けられ第2領域A2と、に領域分割されている。第1領域A1には、一以上の回折格子素子40または二以上の単位拡散要素45が設けられ、第2領域A2には、第1領域A1とは異なる構成にて一以上の回折格子素子40または二以上の単位拡散要素45が設けられる。
図8に示された光拡散フィルム30が大型の表示装置10に適用される場合等には、第2領域A2での光拡散の程度が、第1領域A1での光拡散の程度よりも高くなるように、すなわち、第2領域A2の方が第1領域A1よりも広い領域に光を拡散することができるように設定されていてもよい。このような設定によれば、観察角度(観察方向と正面方向fdとによってなされる角度)が大きくなることから、暗く観察されやすくなる表示面の外縁部領域においても、より明るく画像を観察することが可能となる。
さらに、図9に示された例では、光拡散フィルム30の中央に第1領域A1が設けられ、第1領域A1の左右に第2領域A2および第3領域A3が設けられ、第1領域A1の上下に第4領域A4および第5領域A5が設けられている。第1〜第5領域A1〜A5には、互いに異なる構成を有し異なる拡散特性を呈する一以上の回折格子素子40または二以上の単位拡散要素45が設けられている。
一例として、第1領域A1が、正面方向fdに強度ピークをもたらす拡散特性を有するようにし、第2領域A2が、正面方向fdよりも表示面に向かって右側となる側(観察者から見た右側、中央側)に強度ピークをもたらす拡散特性を有するようにし、第3領域A3が、正面方向fdよりも表示面に向かって左側となる側(観察者から見た左側、中央側)に強度ピークをもたらす拡散特性を有するようにし、第4領域A4が、正面方向fdよりも下側に強度ピークをもたらす拡散特性を有するようにし、第5領域A5が、正面方向fdよりも上側に強度ピークをもたらす拡散特性を有するようにしてもよい。このような光拡散フィルム30によれば、正面方向fdに沿って第1領域A1に対面する位置から画像を観察した場合に、表示面の各位置に表示される画像をより均一な明るさで観察することが可能となる。
<拡散特性の評価方法>
ここで、互いに異なる格子パターン41で形成された複数の回折格子素子40を含む光拡散フィルム30の拡散特性の評価方法について説明する。
光拡散フィルム30が設計および作製されると、実際に種々の装置等に適用する前に、通常、得られた光拡散フィルム30の拡散特性を評価することになる。とりわけ、光拡散剤を内添してなる従来の光拡散フィルムについては、製造が容易であることから、実際に製造して得られた現物を適用対象物に組み込んで、拡散特性を評価すればよい。一方、上述した複数の回折格子素子40を含む光拡散フィルム30や、特許文献1(WO2005−0708483)および特許文献2(JP2001−356673A)に開示されているような計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムを製造するには、一般的に、超精密構造を有した型を製造する必要が生じる。このため、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムでは、高価な型を用意する前に、シミュレーションにより拡散特性が評価されることも多い。
しかしながら、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムを透過した出射光束について光強度の角度分布を計算する場合、ホログラムの干渉縞が不規則であって周期性を持たないことから、光拡散フィルムを比較的に大きな面積に区切って干渉縞のパターンをモデル化することになる。ホログラムが薄い(立体構造を無視してよい)場合には、ホログラムを厚みのない光変調面と考え、キルヒホッフ回折もしくはフレネル回折を用いること、又は、ホログラムパターンを周期構造にしてフーリエ変換を用いることができる。しかしながら、ホログラムが厚い(立体構造が無視できない)場合には、ホログラムの立体構造を考慮して、波動光学的に或いは電磁場解析光学的に計算を行った後に、キルヒホッフ回折もしくはフレネル回折やフーリエ変換により計算することになる。
このようにして、計算機合成ホログラムからの出射光束の強度に関する角度分布を求めることもできるが、数本〜数百本程度の干渉縞からなる非常に大きな面積の干渉縞のパターンも計算対象とすることになり、計算量が膨大となる。また、回折効率と回折方向とを分離して計算することができず、設計・評価の見通しが悪い。したがって、計算機合成ホログラムを用いた光拡散フィルムの拡散特性の計算は、極めて複雑で長時間化してしまう。
加えて、ホログラム干渉縞のパターンを或る程度の面積のモデルに置き換えることは、本来無限に広がる干渉縞のパターンを有限で計算することになる。したがって、計算結果は、必然的に誤差を含むことになる。さらに、干渉縞のパターンを有限で計算する場合には、パターンの端を適切に処置する必要もあり、このことが更なる誤差を引き起こしてしまう。
その一方で、上述した光拡散フィルム30では、不規則的な干渉縞を有した計算機合成ホログラムとは異なり、格子パターン41を形成する回折格子素子40を用いて光拡散機能を発現するようになっている。このため、個々の回折格子素子40の拡散特性は、計算機合成ホログラムの拡散特性と比較して、短時間で精度良く計算され得る。加えて、以下に説明する評価方法では、複数の回折格子素子40の面積比を用いることにより、異なる格子パターン41を有する複数の回折格子素子40を含む光拡散フィルム30の拡散特性を、短時間で精度良く算出することができる。以下、光拡散フィルム30の拡散特性の評価方法について説明する。
図10に示すように、ここで説明する光拡散フィルム30の拡散特性の評価方法は、
・光拡散フィルム30に含まれる回折格子素子40のそれぞれについて、対応する構成を有した回折格子素子モデルを設定する、モデル設定工程と、
・選択された複数の回折格子素子モデルのそれぞれについて、回折効率を計算する、第1計算工程と、
・入射光の強度の角度分布、各回折格子素子モデルでの回折方向、各回折格子素子モデルについて計算された回折効率、および、光拡散フィルム30内における各回折格子素子モデルの面積比を考慮して、出射光の強度の角度分布を計算する、第2計算工程と、
を含んでいる。
モデル設定工程は、評価対象となる光拡散フィルム30に含まれる複数の回折格子素子40を、回折格子素子モデルとして特定する。なお、光拡散フィルム30が、同一に構成された多数の単位拡散要素45からなる場合には、一つの単位拡散要素45に含まれる複数の回折格子素子40のみに着目すればよい。
次に、第1計算工程では、選択された複数の回折格子素子モデルのそれぞれについて、回折効率を計算する。各回折格子素子モデルについて、0次の回折効率、1次の回折効率、さらに必要に応じて2次以上の回折効率について計算する。回折格子素子モデルの格子パターンが二つの方向のそれぞれに周期性を示す場合には、二つの方向への回折効率をそれぞれ計算することになる。例えば、厳密結合波理論(Rigorous Coupled Wave Analysis)または時間領域差分法(FDTD Finite Difference Time Domain method)を用いて、各回折格子素子モデルについて、各次数の回折効率を計算することができる。厳密結合波理論や時間領域差分法を用いる場合には、入射光の入射角度、入射光の波長、回折格子素子モデルの構成(断面形状や凹凸面35での屈折率差)を特定して、各次の回折効率を計算することができる。したがって、評価対象となる光拡散フィルム30に複数波長域の光が入射することが想定されている場合、第1計算工程および次に説明する第2計算工程において、複数の波長域の光のそれぞれについて計算を実施すればよい。また、評価対象となる光拡散フィルム30に角度幅を持って光が入射することが想定される場合には、複数の入射角度に対して、回折効率を計算しておく。
最後に、第2計算工程では、入射光の強度の角度分布、各回折格子素子モデルでの回折方向、各回折格子素子モデルについて計算された回折効率、および、光拡散フィルム30内における各回折格子素子モデルの面積比を考慮して、出射光の強度の角度分布を計算する。出射光の強度の角度分布は、次の式を用いて計算することができる。
となっている。m番目の回折格子のn次の回折光分布を示すD
m,n(X, Y, x, y, λ)の式では、デルタ関数δを用いており、デルタ関数中の(d
x, d
y)は格子ベクトルである。したがって、D
m,n(X, Y, x, y, λ)の式は、入射光が回折格子素子モデルにより回折されて伝播方向が変わることを表している。また、O(X, Y, λ)は、基本的に光線追跡法で求められる。すなわち、まず、入射光束を多数の光線で表し、一本ごとの光線の回折格子素子モデルでの回折現象を計算する。その後、回折された光を集め、出射光束の強度の角度分布を得ている。計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムでは、このような方法により、O(X, Y, λ)を求めることは不可能である。
図11には、入射光束の強度の角度分布の一例を表すグラフが示されている。図11に示された入射光束は、図1に示したエッジライト型のバックライト20からの光を想定している。そして、図11のグラフでは、実線が、正面方向fdおよび導光板での導光方向の両方に沿った面内での入射光束の強度の角度分布を示しており、破線が、正面方向fdと導光方向に直交する方向との両方に沿った面内での入射光束の強度の角度分布を示している。
以上のような光拡散フィルム30の拡散特性の評価方法によれば、光拡散フィルム30に含まれる回折格子素子40が周期的な格子パターン41を有するとともに、異なる格子パターン41を有した二以上の回折格子素子40の面積比を利用しているので、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムのように、パターンの端部の形状を考慮する必要がなく、また、パターンの計算面積を検討する必要もない。これにより、誤差が少なく評価結果の精度が大幅に向上し、且つ、計算時間も短縮する。とりわけ、同一に構成された多数の単位拡散要素45からなる光拡散フィルム30では、そのごく一部分のみを計算対象とすればよく、大面積を計算する必要があった計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムと比較して、計算時間を大幅に短縮することができる。
なお、以上の説明においては、入射光が特定の偏光成分である例を示したが、入射光が二集類の偏光成分を含む場合にも、上述してきた評価方法を用いることができる。この例では、まず、第1計算工程において、TM(例えば第1方向d1に振動する偏光成分)およびTE(例えば、第2方向d2に振動する偏光成分)の二種類の偏光成分について回折効率をそれぞれ計算する。次に、第2計算工程において、入射光を偏光成分毎に、当該偏光成分に対して第1計算工程で計算された回折効率を考慮して、出射光強度の角度分布を計算することになる。
<設計方法>
以上で説明したように、互いに異なる格子パターン41で形成された複数の回折格子素子40を含む光拡散フィルム30の拡散特性は、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムの拡散特性と比較して、短時間で高精度に評価することができる。そして、本件発明者らは、この点を利用することにより、所望の拡散機能を発揮し得る光拡散フィルム30を、計算機を用いて短時間で高精度に設計し得ることを見いだした。以下、本件発明者らの知見に基づいた光拡散フィルム30の設計方法について説明する。
図12に示すように、ここで説明する光拡散フィルム30の設計方法は、
・光拡散フィルム30に含まれる複数の回折格子素子40のそれぞれについて、特定の構成を付与された回折格子素子モデルを選択する、モデル設定工程と、
・選択された複数の回折格子素子モデルのそれぞれについて、回折効率を計算する、第1計算工程と、
・入射光の強度の角度分布、各回折格子素子モデルでの回折方向、各回折格子素子モデルについて計算された回折効率、および、光拡散フィルム内における各回折格子素子モデルの面積比を考慮して、出射光の強度の角度分布を計算する、第2計算工程と、
前記計算された出射光の強度の角度分布に基づき、予め設定された条件が満たされるか否かを確認する、確認工程と、
を含んでいる。
まず、モデル設計工程では、互いに異なる格子パターンを有する複数の回折格子素子モデルが選択される。一例として、モデル設定工程で設定される各回折格子素子モデルが凹凸面としてモデル化されている場合には、複数の回折格子素子モデル間において、凹凸面35のピッチp、凹凸面35のピッチpに対する凹凸面35をなす凸部36の配列方向に沿った幅wの比(w/p)、凹凸面35をなす凸部36の配列方向、凹凸面35をなす凸部36の高さh、凹凸面35の断面形状、他の回折格子素子モデルに対する面積比、及び、凹凸面35の両側における屈折率差、のうちの一以上が異なるように、複数の回折格子素子モデルが選択され得る。回折格子素子モデルの格子パターンが二つの方向のそれぞれに周期性を示す場合には、いずれか一方の方向における凹凸面35のピッチpや凸部36の幅wを複数の回折格子素子の間で変化させればよい。
なお、モデル設定工程では、予め設定された条件が満たされることを考慮して、複数の回折格子素子モデルが選択されることが好ましい。この際、事前に得られている結果等に基づき、例えば、表2〜表4等の情報を事前に調査および獲得しておくとともに、この情報を所望の出射光の配向と対比して、複数の回折格子素子モデルを選択することが好ましい。
次に実施される第1計算工程および第2計算工程は、既に説明した光拡散フィルム30の拡散特性の評価方法における第1計算工程および第2計算工程と同様に行われる。第2計算工程を経ることにより、仮設計された光拡散フィルム30の拡散特性に関する情報が得られる。
確認工程では、得られた拡散特性に関する情報に基づき、モデル設定工程で仮設計された光拡散フィルム30が、想定される配向の入射光束に対して有効な光拡散機能を発揮し、これにより、出射光束の強度の角度分布に関する所定の条件が満たされるか否かを検討する。ここで確認される所定の条件とは、設計対象となる光拡散フィルム30に予定された用途等に応じて定められる条件である。
一例として、確認工程において、特定の方向に沿った面内での出射光の強度の角度分布の半値角が、予め設定された角度以上となっているか(または予め設定された角度を超えているか)否かや、光拡散フィルム30のフィルム面への法線方向fdに進む出射光の強度が、予め設定された値以上となっているか(または予め設定された値を超えているか)否か、或いは、光拡散フィルム30のフィルム面への法線方向fdに進む出射光の強度が、予め設定された値未満となっているか(または予め設定された値以下となっているか)否か等が、判断され得る。
第1計算工程および第2計算工程において、複数の波長の光について計算が行われる場合には、確認工程において、各波長の光について計算された出射光の強度の角度分布に基づき、予め設定された条件が満たされるか否かが確認されるようにしてもよい。例えば、計算されたすべての波長の光に関する強度の角度分布が、所定の条件を満たすか否かが判断されてもよい。また、確認工程において、色度の角度変化が予め定められた条件として、確認されてもよい。具体例として、光拡散フィルム30のフィルム面への法線方向fdに沿った各波長の出射光の強度に関する最大値、最小値、平均値を特定し、最大値と前記最小値との間の差の平均値に対する比の値、すなわち上述した色分散係数が、予め設定された値以下となっているか(または予め設定された値未満となっているか)否かが、確認工程で判断されてもよい。
図12に示すように、確認工程で予め設定された条件が満たされていることが確認された場合には、計算対象となっていた回折格子素子モデルの構成が、対応する回折格子素子の構成として決定され、光拡散フィルムの設計が終了する。一方、確認工程で予め設定された条件が満たされていないことが確認された場合には、モデル設定工程まで戻って、光拡散フィルム30に含まれる複数の回折格子素子40のそれぞれについて特定の構成を付与された回折格子素子モデルを選択し直して、第1計算工程、第2計算工程および確認工程を再度行う。このとき二回目の確認工程で予め設定された条件が満たされていることが確認されれば、二回目に計算対象となっていた回折格子素子モデルの構成が、回折格子素子の構成として決定され、光拡散フィルムの設計が終了する。逆に、二回目の確認工程で予め設定された条件が満たされていないことが確認された場合には、その後に実施される確認工程で、予め設定された条件が満たされていることが確認されるまで、第1計算工程、第2計算工程および確認工程が繰り返し実施される。
一例として、確認工程で予め設定された条件が満たされていないことが確認された場合には、引き続き行われるモデル工程で複数の回折格子素子モデルを選択し直す際に、回折格子素子モデルの面積比のみが変更される、すなわち、各回折格子素子モデルの面積比以外の構成は維持されるようにしてもよい。このような手法を用いる場合には、最初のモデル設定工程において、選択される複数の回折格子素子モデルのうちの二以上の回折格子素子モデルの間で、格子パターン41の方向が互いに異なっていることが好ましい。このような手法によれば、再度の第2計算工程を行う際に、一回目の第2計算工程で得られた計算結果の一部を利用することが可能となり、さらに、一回目の第1計算工程で得られた計算結果をそのまま利用することにより、再度の第1計算工程を実際に実施する必要がなくなる。
なお、確認工程で予め設定された条件が満たされていないことが確認された場合には、引き続き行われるモデル設定工程で複数の回折格子素子モデルを選択し直す必要がある。次のモデルの条件値を決定する方法としては、評価値(条件が満たされた程度を表す値)が向上する方向にモデルの条件値を変化させる方法と、モデルの条件値を変えてみて評価値が向上するならその変化を採用して次に進む方法が例示され得る。前者には減衰最小自乗法(damped least−squares method:DLM)等が例示され、後者には遺伝的アルゴリズム(genetic algorithm:GA)やシミュレーテッドアニーリング(Simulated Annealing:SA)等が例示される。
以上のようにして、想定される入射光に対して有効な光拡散特性を発揮して出射光の配向を制御し得る光拡散フィルム30を、設計することができる。
なお、上述した実施の形態においては、確認工程において、計算された出射光の強度の角度分布に基づき、予め設定された条件が満たされるか否かを確認し、確認工程で予め設定された条件が満たされていないことが確認された場合には、モデル設定工程まで戻って、光拡散フィルムに含まれる複数の回折格子素子のそれぞれについて特定の構成を付与された回折格子素子モデルを選択し直し、第1計算工程、第2計算工程および確認工程を再度行う例を示した。しかしながら、これに限られない。
光拡散フィルムの設計方法が、上述したモデル設定工程、第1計算工程および第2計算工程を含むとともに、その後の確認工程において、第2計算工程で計算された出射光の強度の角度分布を評価するようにしてもよい。例えば、一度だけ、モデルの設定、回折効率の計算および出射光強度の角度分布の計算を行い、得られた出射光強度の角度分布を考慮して計算対象となっていた回折格子素子モデルの構成を修正し、修正した回折格子素子モデルの構成を対応する回折格子素子の構成として決定してもよい。この例によれば、蓄積されたデータや経験則、さらには製造による制限等を参酌して、回折格子素子モデルの構成の修正を行うことにより、再度の第1計算工程や再度の第2計算工程を省略しながら、或る程度の精度で所望の拡散特性を示す光拡散フィルムを設計することができる。したがって、想定される入射光に対して有効な光拡散特性を発揮して出射光の配向を制御し得る光拡散フィルム30の設計をさらに簡略化することができる。
また、別の光拡散フィルムの設計方法として、モデル設定工程において、互いに異なる構成を有する複数の光拡散フィルムモデルであって、各々が複数の回折格子素子モデルを含んでいる複数の光拡散フィルムモデルが設定され、第1計算工程、第2計算工程および確認工程が、各光拡散フィルムモデルに対して実施されるようにしてもよい。すなわち、モデル設定工程において、出射光強度の角度分布の調査対象となる光拡散フィルムのモデルとなり得る範囲を予め決定しておき、決定された範囲内の光拡散フィルムのモデルのすべて或いはいくつかに対して、第1計算工程、第2計算工程および確認工程を実施する。
そして、予め設定された条件に照らして、最も適した出射光強度の角度分布を示す光拡散フィルムモデルが選択され、当該選択された光拡散フィルムモデルに含まれた回折格子素子モデルの構成が、対応する回折格子素子の構成として決定され、光拡散フィルムの設計が終了するようにしてもよい。つまり、各光拡散フィルムのモデルについて得られた出射光強度の角度分布を比較して、予め設定された条件に照らして、最適な出射光強度の角度分布を呈した光拡散フィルムモデルの回折格子素子モデルの構成を、光拡散フィルムの対応する回折格子素子の構成とすることができる。
ここで予め設定された条件とは、上述した条件と同様とすることができる。例えば、予め設定された条件が、特定の方向に沿った面内での出射光の強度の角度分布の半値角であれば、最も大きな半値角を呈したモデルを、最適な出射光強度の角度分布を呈した光拡散フィルムモデルとすることができる。さらにこの際、第2の条件を色分散係数に設定しておき、所定の色分散係数を呈するモデルの中で最も大きな半値角を示したモデルを、最適な出射光強度の角度分布を呈した光拡散フィルムモデルとすることができる。予め設定された条件が、複数種類の条件であってもよい。
ところで、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムを設計する場合には、所望の出射光分布および想定される入射光分布を考慮に入れて、所定の回折特性を発揮し得る干渉縞(パターン)が計算されている。ただし、計算機での計算量の制約等から、一般に、計算機合成ホログラムの干渉縞の設計では、入射光を特定の入射角度からの平行光束であって且つ単色の光と仮定して、計算が行われている。このため、想定される入射光が、非平行光や複数波長域の光である場合には、入射角度および波長に応じて回折方向および回折効率が変化するので、設計時にはこの点を考慮しなければならなくなる。また、想定される入射光が、実際に、単色の平行光である場合であっても、回折効率は干渉縞の構造にも依存するため、やはらに何らかの補足的な計算が必要となる。とりわけ、干渉縞が立体構造となる場合には、回折効率の計算には非解析的な方法を用いることが必要となる。このようなことから、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムの設計には、莫大な計算時間を費やすこととなり、また結果として、設計において適した解に到達することも困難であった。
一方、ここで説明した光拡散フィルムの設計方法によれば、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムの設計における問題を解消することができ、且つ、比較的に短時間で行うことが可能な計算に基づき、所望の拡散特性を呈する光拡散フィルム30を精度良く設計することができる。
<製造方法>
次に、回折格子素子40を含む光拡散フィルムの製造方法について説明する。ここで説明する光拡散フィルムの製造方法は、光拡散フィルム30を設計する工程と、設計された光拡散フィルム30を作製する工程と、を含む。光拡散フィルムを設計する工程は、上述した設計方法を採用することができる。一方、設計された光拡散フィルム30の作製は、一般には、型を用いて樹脂を硬化させることにより、作製される。したがって、まず、所望の光拡散フィルム30を作製するための型を作製する方法の一例について説明する。
まず、合成石英等の基板上に表面低反射クロム薄膜を積層したフォトマスクブランク板のクロム薄膜上に、ドライエッチング耐性のあるレジスト層を薄膜状に形成する。ドライエッチング用レジストとしては、一例として、日本ゼオン株式会社製のZEP7000等を使用することができ、レジストの積層は、スピンナー等を用いた回転塗付によって行うことができる。このレジスト層に対し、パターン露光を行なうが、パターン露光は、板状のパターン、レーザー描画装置によるレーザービームの走査、又は、電子線描画装置による電子線の走査により行うことができる。この露光によりレジスト樹脂が硬化した易溶化部分と、未露光部分と、が形成されるので、現像液を噴霧して行なうスプレー現像等によって、溶剤現像して易溶化部分を除去し、レジストパターンを形成する。
形成されたレジストパターンを利用して、ドライエッチングにより、レジストで被覆されていない部分のクロム薄膜を除去し、除去した部分において、下層の石英基板を露出させる。次いで、露出した石英基板に対して、同様にドライエッチングを施して、石英基板をエッチングし、エッチングの進行により生じた凹部と、クロム薄膜およびレジスト薄膜とが下から順に被覆している石英基板の元の部分からなる凸部とを形成する。この後、レジスト薄膜を溶解等により除去し、石英基板がエッチングされて生じた凹部と、頂部にクロム薄膜が積層した部分からなる凸部とを有する石英基板を得る。
以上の方法のみでは、凸部と凹部の、二値的(高低の二段、深さとしては、元の石英基板の表面に加えて、もうひとつのレベルの面が生じる。) のものしか得られないが、上記で得られたものに対し、さらにレジストの形成→パターン露光→レジストの現像→クロム薄膜のドライエッチング→石英基板のドライエッチング→ レジスト除去からなる、フオトエッチングの工程を繰り返すことにより、1 回目のフォトエッチングにより生じた凹部および凸部に対してさらにフォトエッチングを施すことができる。これを複数回繰り返すことにより、複数の高低差を有する凹凸を精度よく得ることが可能である。このようにして、所定の段数を得た後、クロム薄膜をウェットエッチングにより除去し、石英基板表面に所定の段数の深さの凹凸が形成された光拡散フィルム30の型を得ることができる。
次に、作製した光拡散フィルム30用の型を用いて光拡散フィルム30を作製する方法について説明する。まず、当該型を使用して光拡散フィルム30の第1層31を作製するが、第1層31の作製は、例えば当該型を、加熱により軟化する樹脂層に押し付ける方法、インジェクション法、又は、キャスティング法等を利用することできる。これら方法に使用する樹脂としては、熱可塑性および熱硬化性のいずれも使用することができる。
工業的に好ましいのは、紫外線硬化性樹脂を含む未硬化樹脂組成物を型の凹凸が形成された面に接触させ、樹脂組成物の反対側に第1層31の基材層となるフィルムをラミネートして、樹脂組成物を型とプラスチックフィルム(基材フィルム)との間に挾んだ状態とする。かかる状態から、紫外線を照射する等して樹脂組成物を硬化させ、しかる後に該フィルムと、硬化して且つ格子パターン41をなす凹凸面35が賦形された該紫外線硬化性樹脂組成物層と、を型から離型すると、第1層31が形成される。すなわち、透光性を有する基材層の一方の面上に凹凸面35を有する樹脂層が積層することによって、第1層31が形成される。
第1層31を形成するための具体的な装置として、図13に示された成型装置60を用いることができる。図13に示された装置60は、略円柱状の外輪郭を有した成型用型70を有している。成型用型70の円柱の外周面(側面)に該当する部分に円筒状の型面(凹凸面)72が形成されている。円柱状からなる成型用型70は、円柱の外周面の中心を通過する中心軸線CA、言い換えると、円柱の横断面の中心を通過する中心軸線CAを有している。すなわち、成型用型70は、中心軸線CAを回転軸線として回転しながら、成型品としての光拡散フィルム30の第1層31を成型するロール型として構成されている。
図13に示すように、成型装置60は、帯状に延びる基材フィルム50と成型用型70の型面72との間に流動性を有した樹脂組成物53を供給する材料供給装置64と、基材フィルム50と成型用型70の凹凸面72との間の樹脂組成物53を硬化させる硬化装置66と、をさらに有している。硬化装置66は、硬化対象となる樹脂組成物53の硬化特性に応じて適宜構成され得る。また、成型装置60は、樹脂組成物53を塗布された基材フィルム50を成型用型70上に保持するための一対のローラ68を有している。このような成型装置60を用いることにより、第1層31を連続的に製造することができる。
次に、第1層31上に第2層32を積層する。第2層32は、硬化する前の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は、紫外線硬化樹脂等をスキージを用いて第1層31上に塗工し、その後に、樹脂を当該樹脂に対応した硬化方法により硬化させることによって、形成され得る。また、第2層32として接着剤(粘着剤を含む概念)を用いることもできる。この場合、第1層31上に接着剤を塗布する方法を用いることができる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
本発明による光拡散フィルムを、次のようにして用意した。そして、この光拡散フィルムの有無による輝度の角度分布の変化を調査した。
〔光拡散フィルム〕
光拡散フィルムは、図3および図4に示された構成を有する格子パターン41で形成された回折格子素子40を含むようにした。すなわち、回折格子素子は、光拡散フィルムのフィルム面に沿って延び互いに直交する二つの方向のそれぞれに互いに同一な一定のピッチで配列された複数の第1変調領域と、各第1変調領域の周囲を取り囲む第2変調領域と、を有するようにした。二つの配列方向のそれぞれに隣り合う二つの第2変調領域が、互いに接触するようにした。複数の第1変調領域を互いに同一に構成し、第1変調領域の平面形状を正方形形状とした。また、複数の第2変調領域を互いに同一に構成し、第2変調領域の外輪郭の平面形状を正方形形状とした。
また、光拡散フィルムは、図4に示すように第1層及び第2層を含むように構成し、第1層及び第2層の界面によって回折格子素子の格子パターンが形成されるようにした。そして、正面方向に沿って進む555nmの波長を有する緑色光に対する回折格子素子での0次回折効率が0%となるように、回折格子素子を構成した。具体的には、回折格子素子の格子パターンを画成する凹凸面の凸部の高さhを1.559μmとし、当該凸部をなす第1層の屈折率n1を1.588とし、当該凸部間に突出した第2層の屈折率n2を1.410とした。
この光拡散フィルムは、上述した製造方法にしたがって、型を用いた賦型により作製した。
〔評価方法〕
図1に示された構成を有するエッジライト型のバックライトを作製した。このバックライトの発光面上に作製した光拡散フィルムを配置して、光拡散フィルム上にて輝度を測定した。なお、光拡散フィルムは、その回折格子素子の配列方向のうちの一つがバックライトの導光方向と平行になるようにして、バックライト上に配置した。また、光拡散フィルムを配置することなくバックライトの発光面上で輝度を測定した。輝度の測定には、輝度計BM−7(TOPCON社製)を用いた。
図14に、光拡散フィルム上で測定された輝度の角度分布を示し、図15に、光拡散フィルムを設けることなくバックライトの発光面上で測定された輝度の角度分布を示す。図14および図15に示された輝度の角度分布は、共に、正面方向および導光方向の両方に平行な面内での輝度の分布である。また、図14および図15に示された輝度を測定する際、バックライトの出力は同一とした。図14および図15に示された輝度の角度分布から明らかなように、光拡散フィルムを設けることによって、視野角を大幅に拡大することができた。