以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1(a)、(b)は、本発明の一実施の形態に係る鍵盤装置の1つの鍵に着目した要部の断面図である。本鍵盤装置は並列配置された複数の鍵10とそれらに対応するハンマ体HMとを有し、鍵盤楽器や電子鍵盤楽器に好適である。図1(a)、(b)では鍵10として白鍵が例示されている。本発明に関し、鍵10には白鍵及び黒鍵が該当するが、それらの構成、及びそれらに対応する構成要素の構成は基本的に同様である。以降、図1(a)、(b)の右方を前方とする。
鍵10は、後端部10aの鍵支点Pkを中心に押離鍵方向に回動自在に、不図示のフレームに配設される。鍵10は、その前半部の上下方向中間部10bが木質部であり、その他の部分は樹脂で構成される鍵構造体である。鍵10には駆動部11が突設されている。ハンマ体HMは対応する鍵10の下方に配置され、ハンマ支点Phを中心に回動自在に配設される。ハンマ体HMは、質量が集中している棒状部15を有し、自身の自重により図1の反時計方向に常に付勢されている。鍵盤装置本体(シャーシや棚板等)には、ハンマ上限ストッパ13、ハンマ下限ストッパ14が設けられる。
鍵支点Pkよりも前側において鍵10の後端部10aの上部には、上向当接部12が固定されている。また、鍵10の長手方向中間部の上部にクランク型のストッパ部材18が固定される。ストッパ部材18の後部のうち鍵10の上面から離間した部分の下面が下向当接部18aとなっている。上向当接部12の上面は上側を向き、下向当接部18aは上向当接部12よりも上方に位置し下側を向く。
本実施の形態では、カム機構部30の操作により、アコースティックグランドピアノのようなタッチ(以下、ピアノタッチ)とオルガンのようなタッチ(以下、オルガンタッチ)とを切り替えることを実現している。図1(a)、(b)では、いずれも鍵10は非押鍵状態であるが、カム機構部30による状態は、ピアノタッチ状態、オルガンタッチ状態をそれぞれ示している。
また、各鍵10の前部の下方にアクチュエータ40が配設される。アクチュエータ40は、ソレノイドコイル45に電流を流すことにより、プランジャ41が上方に突出するよう動作し、対応する鍵10の前部に力を与える。アクチュエータ40には、ソレノイドスプリング42が設けられており、電磁的な駆動力が発生していないときでも、鍵10の前部は、ソレノイドスプリング42の弾性による弱い力によってプランジャ41を介して上方(離鍵方向)に常時付勢されている。
後ろ側のアクチュエータ40のソレノイドコイル45、プランジャ41は、図示しない他の鍵に対応するものである。アクチュエータ40は、押鍵時のタッチ感触がプログラムされた感触の通りになるよう制御され、変更設定によって適宜異なるタッチ感触にも変更制御される。ピアノタッチとオルガンタッチの中間のタッチも実現が可能である。
詳細は後述するが、上下方向への可撓性があるカウンタースプリング23を片持ち支持する支持部である基部21の状態(位置ないし姿勢であり、本実施の形態では回転方向の位置)が可変である。ピアノタッチでは基部21が「第1の状態」(図1(a))となってカウンタースプリング23が上向当接部12に上側から当接・押圧する一方、オルガンタッチでは基部21が「第2の状態」(図1(b))となってカウンタースプリング23が下向当接部18aを下側から当接・押圧する。また、ハンマ体HMの回動位置は、基部21の第1の状態、第2の状態にそれぞれ対応して、対応する鍵10によって駆動される「駆動位置」と駆動されない「非駆動位置」に位置する。
ここで、タッチの重さは、押鍵したときの慣性力による影響を含めた動荷重と、非常にゆっくりと押鍵したときの静荷重とにより把握される。静荷重は、非押鍵状態において押鍵位置P1を押鍵して鍵10を押鍵方向に変位させ始めるのに必要な最低限の押鍵力である。押鍵時の静荷重の適正値は音域によっても異なり、低音側の方が重く設定される。静荷重は概ねピアノで55gf、オルガンで40gf程度とされるが、両者とも50gfでほぼ同じと考えてもよい。
ピアノタッチ状態(図1(a))において、非押鍵状態では、ハンマ体HMはその自重によりハンマ下限ストッパ14に棒状部15が当接して回動初期位置が規制されている。それと同時に、ハンマ体HMの被駆動部16が鍵10の駆動部11と当接し、鍵10の回動初期位置(レスト位置)も規制される。なお、鍵10と係合して鍵10の離鍵方向へのさらなる回動を規制するためのストッパを設けてもよい。
押鍵されると、ハンマ体HMの被駆動部16を鍵10の駆動部11が駆動する。すると、ハンマ体HMが押鍵方向に対応する回動方向(図1の時計方向)に連動して回動し、ハンマ上限ストッパ13に棒状部15が当接する。これにより、ハンマ体HM及び鍵10の回動終了位置(エンド位置)が規制される。
また、本鍵盤装置には、回動体であるリンク構体20が設けられる。リンク構体20及びカム機構部30が、押鍵時の静荷重を調節する静荷重調節手段を構成する。以下、図1に図2も併せて静荷重調節手段を説明する。
図2(a)、(b)はそれぞれ、静荷重調節手段の平面図、回転操作部の側面図である。
静荷重調節手段は、複数の鍵10に共通に設けられ、本実施の形態では全ての鍵10に共通に本鍵盤装置に1つ設けられる。リンク構体20は基部21を有し、基部21が、鍵盤装置本体に対して回動支点Paを中心に図1の時計及び反時計方向に回動自在に配設されている。
リンク構体20は、リンクアーム22、カウンタースプリング23を有する。カム機構部30は、第1のカム31、第2のカム32、回動軸部33、回転操作部34を有する。カム機構部30の各構成要素とリンクアーム22は1つしか存在しないが、カウンタースプリング23は各鍵10ごとに設けられる。
リンク構体20において、基部21は、鍵10の後方に配置される。リンクアーム22は鍵盤装置本体の側部近傍において基部21に固定され、側面視クランク型に形成され、下部が鍵10の後端部10aの下方に延びている。カウンタースプリング23は、その基端部が基部21に固定されて前方(図1の右方)に延び、片持ち状態で基部21に支持され、基部21の回転と共に位置ないし姿勢(位置及び/または姿勢)が可変である。カウンタースプリング23は鍵10の後端部10aの上方に配置され(図1)、ハンマ体HMを有する鍵盤装置において配置スペースを有効に活用している。カウンタースプリング23の先端は鍵10の後端部10aの上方に位置する。
図1(a)、(b)に示すように、カウンタースプリング23の先端は下方に凸となるように湾曲形成されており、湾曲した部分の下端が上向当接部12を押圧することができる第1の押圧部23aとなっている。また、カウンタースプリング23の先端はほぼ水平となっていて、下向当接部18aを上方に押圧することができる第2の押圧部23bとなっている。
カウンタースプリング23は、その弾性によって第1の押圧部23aが上向当接部12を押圧する状態においては、対応する鍵10に押鍵方向への力を助成する助成力を与える。一方、カウンタースプリング23は、その弾性によって第2の押圧部23bが下向当接部18aを押圧する状態においては、対応する鍵10に押鍵方向に対する反力を与える。
図1、図2に示すように、カム機構部30において、回動軸部33が、鍵盤装置本体に対して回動自在に軸支される。第1のカム31及び第2のカム32は回動軸部33に固定され、鍵盤装置本体に対して回動軸部33と共に一体に回転するように構成される。第1のカム31は、側面視で卵型に形成され(図1)、尖った部分が、対応するハンマ体HMの棒状部15を駆動する駆動部31aとなる。
第2のカム32は、鍵並び方向においてリンクアーム22と同じ位置に設けられる(図2(a))。第2のカム32は、リンクアーム22の下部の被当接部22a(図1)を摺動駆動するカム面32aを有する。リンク構体20は不図示の付勢手段により図1の反時計方向に常に強く付勢されている。カム面32aの後端側(図1の左側)の領域が被当接部22aと当接してリンクアーム22の回動位置を規制する。回動軸部33が、図1(a)から図1(b)に示す状態にまで回転するにつれて、カム面32aの後端位置が徐々に後方に変位するように形成されている。なお、第2のカム32及びリンクアーム22はそれぞれ、鍵盤装置本体の左右両側に一対設けてもよい。
図2(a)に示すように、回動軸部33は回転操作部34に連結固定され、回転操作部34の回転操作によって回転する。回転操作部34は、非押鍵状態におけるハンマ体HMの回動位置を操作により切り替える切り替え手段である。回転操作部34は、固定部17の外側に配置され、手動操作が可能な位置に配置される。固定部17は、鍵盤装置本体に対して固定的な部分であって、例えば、シャーシ側部や側板等である。図2(b)に示すように、回転操作部34には2つの締結穴36A、36Bが形成されている。締結穴36A、36Bのいずれかを介してネジまたはピン等の締結具35を、固定部17に形成されているネジ穴またはピン穴でなる締結部に螺合または嵌合により係合することで、その位置にて回転操作部34の回転方向の位置が規定・維持される。これにより、回動軸部33、ひいてはカム31、32の回転方向の位置も規定・維持される。
すなわち、締結穴36A、36Bによって、カム機構部30は2つの安定位置のいずれかに維持される。締結穴36Aで螺合される位置が図1(a)に示すピアノタッチ状態に対応し、締結穴36Bで螺合される位置が図1(b)に示すオルガンタッチ状態に対応する。
ところで、アクチュエータ40は、不図示のCPUの制御に基づきプランジャ41が推力を発揮することで鍵10に力を付与して力覚を与える。力覚を与えるための力覚制御データは、不図示の記憶部に力覚付与テーブルとして予め記憶されている。ただし、力覚を与えるように制御することは必須でない。本実施の形態では、力覚制御を行わない場合の静荷重を考察する。プランジャ41は押離鍵の全行程において鍵10と当接しているものとし、アクチュエータ40のうち押鍵時の静荷重に関与するのはソレノイドスプリング42による付勢力だけであるとする。
かかる構成において、締結穴36Aを介して締結具35を固定部17の締結部に係合すると、図1(a)に示すピアノタッチ状態となる。すなわち、第2のカム32のカム面32aは後方に大きくせり出す。リンク構体20は図1(a)の反時計方向に常に付勢されているため、リンクアーム22の被当接部22aがカム面32aに当接した位置で、リンク構体20の反時計方向の回転位置が規制される。
この状態では、基部21が第1の状態であり、押鍵行程においてカウンタースプリング23が弾性的に撓んだ状態で第1の押圧部23aが上向当接部12に上側から当接し、鍵10が押鍵方向に付勢されて押鍵力に対し助成力が与えられる。第1の押圧部23aが上向当接部12を弾性的に押圧する状態は押離鍵の全行程において継続される。
一方、第1のカム31の駆動部31aは後方を向いており、ハンマ体HMの棒状部15に当接していない。従って、ハンマ体HMは、ハンマ下限ストッパ14に棒状部15が当接した回動初期位置で静止している。すなわちハンマ体HMは、鍵10によって駆動される駆動位置に位置している。この状態で押鍵されれば、鍵10の回動動作に対してハンマ体HMによる慣性力が付与される。
このような図1(a)に示すピアノタッチ状態において、押鍵時の静荷重は、鍵支点Pk周りの回転モーメントのバランスによって決定される。静荷重として次のものが関与する。
まず、押鍵時に図1の反時計方向(離鍵方向)の回転モーメントを生じさせるものとして、ハンマ体HMの被駆動部16が鍵10の駆動部11を上方に付勢する力と、アクチュエータ40のソレノイドスプリング42が鍵10を上方に付勢する力とがある。これら2つは、押鍵に対して反力を作用させるものであり、ハンマ体HM及びソレノイドスプリング42が「押鍵反力発生手段」となる。
一方、押鍵時に図1の時計方向(押鍵方向)の回転モーメントを生じさせるものとして、カウンタースプリング23の第1の押圧部23aが上向当接部12を押圧する助成力と、鍵10自体の自重と、押鍵位置P1での押鍵力とがある。
そして、これらすべての回転モーメントが作用する環境で、押鍵開始時に鍵10が押鍵方向に動き始めるのに必要な押鍵位置P1での押鍵力が静荷重となる。図1(a)に示すピアノタッチ状態において、静荷重がアコースティックグランドピアノの適正な静荷重(例えば50gf)と同じとなるように、カウンタースプリング23の第1の押圧部23aによる押圧力が設定されている。
次に、締結穴36Aから締結具35を一旦抜き、回転操作部34を図2(b)の時計方向に回転させ、締結穴36Bを介して締結具35を固定部17の締結部に係合すると、図1(b)に示すオルガンタッチ状態となる。すなわち、第2のカム32のカム面32aの後方へのせり出しが小さくなり、リンク構体20は自身への付勢力によって反時計方向に回動して図1(b)に示す位置となる。
リンク構体20の回動に伴い、カウンタースプリング23も反時計方向に回動する。従って、カウンタースプリング23の第1の押圧部23aが上向当接部12から上方に離れると共に、第2の押圧部23bが下向当接部18aに当接する。すなわち、この状態では、基部21が第2の状態であり、押鍵行程においてカウンタースプリング23が弾性的に撓んだ状態で第2の押圧部23bが下向当接部18aに下側から当接し、鍵10が離鍵方向に付勢されて押鍵力に対し反力が与えられる。
第2の押圧部23bが下向当接部18aから力を受けることによりリンク構体20に加わる回転モーメントに対し、リンク構体20が反時計方向に付勢されることによる回転モーメントは十分に大きいとする。従って、第2の押圧部23bが下向当接部18aから力を受けてもそれによってリンク構体20が時計方向に回転してしまうことはない。第2の押圧部23bが下向当接部18aを弾性的に押圧する状態は押離鍵の全行程において継続される。
一方、回転操作部34を時計方向に回転させることで、第1のカム31の駆動部31aがハンマ体HMの棒状部15を上方に駆動し、ハンマ体HMは図1(b)に示すような回動終了位置(非駆動位置)に変位し、そのまま維持される。この状態では、押鍵開始時にはハンマ体HMの被駆動部16が鍵10の駆動部11から離れているため、ハンマ体HMによる復帰力は鍵10に与えられない。すなわちハンマ体HMは、鍵10によって駆動されない非駆動位置に位置している。この状態で押鍵されても、ハンマ体HMによる慣性力は付与されない。ただし、押し切り操作時の押鍵終了間際には駆動部11は被駆動部16に当接する。
このようなオルガンタッチ状態(図1(b))においては、ピアノタッチ状態(図1(a))に比べ、ハンマ体HMの復帰力が働かなくなる分だけ押鍵反力が小さくなる一方、カウンタースプリング23の弾性による力が助成力ではなく押鍵反力として働き、これらが静荷重として関与することになる。
ここで、ピアノタッチ状態とオルガンタッチ状態とでは、カウンタースプリング23による助成力または反力とハンマ体HMによる反力との総合による回転モーメントが等しくなるように設定されている。その結果、オルガンタッチ状態においても、静荷重はピアノタッチ状態の場合と変わらない。その一方、ハンマ体HMによる慣性力は作用しなくなるので、タッチ感触はオルガンらしくなる。
リンク構体20の反時計方向への付勢力に抗して回転操作部34を反時計方向に回転させれば、再びピアノタッチ状態に戻すことができる。このように、回転操作部34の回転操作という簡単な操作により、慣性力があるピアノタッチと慣性力のないオルガンタッチとを、静荷重を変化させることなく切り替えることが可能となる。
このように、簡単な操作で、ハンマ体HMによる慣性有りのピアノタッチ状態と慣性無しのオルガンタッチ状態とに状態を切り替えると共に、各状態において静荷重を略一致させ、適正な静荷重を維持することができる。アコースティックグランドピアノとオルガンとにタッチ感触を切り替えるのに特に好適である。
本実施の形態によれば、基部21の状態(位置ないし姿勢)を変化させることで、カウンタースプリング23の弾性による押圧力を、上向当接部12または下向当接部18aのいずれに対して加えるかを切り替えることができる。よって、押鍵に対する反力と助成力とを切り替え可能にして、押鍵荷重を大きく調節可能にすることができる。
また、ハンマ体HMの回動位置が駆動位置と非駆動位置とに切り替わるので、ハンマ体HMによる慣性力の有無を切り替えることができる。しかもその切り替えは基部21の状態の切り替えに連動するので、慣性力の有無の切り替えに連動して、カウンタースプリング23によるバネ性の助成力と反力の発生を切り替えることができる。
また、ハンマ体HMが駆動位置に位置するときと非駆動位置に位置するときとで、押鍵時の静荷重が略一致するので、慣性有りと無しの各状態の静荷重を略一致させることができる。
ところで、基部21が第1の状態にあるときでも、第1の押圧部23aが上向当接部12を押圧する強さの程度を段階的または無段階に調節可能に構成してもよい。例えば、オルガンタッチ状態において、第1の押圧部23aが上向当接部12を押圧する度合を弱めて、助成力を少し残すようにカウンタースプリング23の位置ないし姿勢の変化を設定してもよい。これはカウンタースプリング23の位置ないし姿勢やバネ定数の選定によって如何ようにも設定可能である。
本実施の形態では、回転操作部34の回転操作により、全ての鍵10に対応するハンマ体HMが一斉に回動して回動位置が変化すると共に、全ての鍵10に対応するカウンタースプリング23の位置も一斉に移動する構成であった。ハンマ体HMの回動とカウンタースプリング23の位置可変の操作が、共通する1つの操作であるので、簡単な操作で全ての鍵10の静荷重を一斉に調節することができる。ただし、静荷重調節手段を全ての鍵10に1つではなく、複数の鍵10ごとに設けて、それら複数の鍵10の静荷重を一斉に調節できるように構成してもよい。
なお、押鍵に対する助成力を与える弾性部材として板状のカウンタースプリング23を例示したが、これに限らない。例えば、つるまきバネやゴムであってもよい。
また、アクチュエータ40を設けることは必須でない。アクチュエータ40を設けない場合は、アクチュエータ40のソレノイドスプリング42を「押鍵反力発生手段」から除外して、静荷重を考察することになる。
なお、カム機構部30を回転操作する操作手段として回転操作部34は例示である。また、ハンマ体HMを、少なくとも押鍵開始時において対応する鍵によって駆動されないような非駆動位置に維持する維持手段として、締結具35を用いて締結穴36を介して螺合等の締結をする構成も例示である。従って、これらの構成に限定されるものではない。例えば、回転操作部34にギヤを設けると共に、このギヤに噛み合うラックを固定部17に設け、適切な相対位置で両者を噛合させる構成を採用してもよい。そうすれば、締結具35や締結穴36は不要となる。
ところで、本実施の形態では、回転操作部34の共通の回転操作によって、カム機構部30における第1のカム31及び第2のカム32が一体に回転する構成であった。しかしこれに限られず、図3(a)、(b)に変形例を示すように、別個独自に回転する構成としてもよい。
図3(a)、(b)は、変形例のカム機構部30の平面図、回転操作部の側面図である。図3(a)に示すように、回動軸部33L、33Rが、それぞれ鍵盤装置本体に対して回動自在に軸支される。第1のカム31は、回動軸部33Rに固定される。回動軸部33Rは回転操作部34Rに連結固定されて、回転操作部34Rの回転操作によって回転する。第2のカム32は、回動軸部33Lに固定される。回動軸部33Lは回転操作部34Lに連結固定されて、回転操作部34Lの回転操作によって回転する。回転操作部34L、33Rは、それぞれ、固定部17L、17Rの外側に配置され、手動操作が可能な位置に配置される。
回転操作部34Rの構成は、図2(b)に示した回転操作部34と同じであり、2つの締結穴36A、36Bが形成されている(図示せず)。一方、回転操作部34Lには締結穴36A、36Bに加えて締結穴36C、36Dが形成されている。締結穴36A〜36Dのいずれかを介して締結具35Lを固定部17Lの締結部に係合することで、その位置にて回転操作部34Lの回転方向の位置が規定・維持される。これにより、回動軸部33L、ひいては第2のカム32の回転方向の位置も規定・維持される。
かかる構成において、回転操作部34Lと回転操作部34Rとは別個に操作可能である。ピアノタッチ状態とオルガンタッチ状態との慣性力の切り替えについては、回転操作部34Rを用いる。図1、図2で説明した回転操作部34の回転操作と同じように回転操作部34Rを回転させることでハンマ体HMの位置を変位させて慣性力の切り替えが実現される。
一方、ピアノタッチ状態とオルガンタッチ状態とで、カウンタースプリング23による助成力と反力とを切り替える際には、回転操作部34Lを用いる。回転操作部34Lには、4つの締結穴36A〜36Dが形成されているので、回転操作部34Lの回転位置を4段階で選択できる。
例えば、締結穴36A、36Cはいずれもピアノタッチ状態に対応するが、締結穴36Aで締結した場合よりも締結穴36Cで締結した場合の方が、カウンタースプリング23の第1の押圧部23aによる助成力が小さくなるように位置関係を設定する。また同様に、締結穴36B、36Dはいずれもオルガンタッチ状態に対応するが、締結穴36Bで締結した場合よりも締結穴36Dで締結した場合の方が、カウンタースプリング23の第2の押圧部23bによる反力が小さくなるように位置関係を設定する。
ハンマ体HMの慣性力の有無は任意に選択できるので、結局、ハンマ体HMを有した鍵盤装置において、慣性力の有無にかかわらず、押鍵時の静荷重を容易に、しかも大きく調節することが可能となる。
なお、この変形例では、カウンタースプリング23による助成力を段階的に調節可能としたが、回転操作部34Lを任意の回転位置で固定する手段を設ければ、無段階での調節も可能となる。
ところで、上記した各種の実施形態において、カウンタースプリング23によって鍵10の後端部10aが直接に押圧されるようにしてもよい。また、押圧される箇所は、鍵支点Pkより前側の部分であればよい。
また、カウンタースプリング23と鍵10との係合位置につき、第1の押圧部23aよりも第2の押圧部23bの方が少し前方であったが、前後位置を逆転させてもよいし、ほぼ同じとなるよう構成してもよい。第1の押圧部23aや第2の押圧部23bの前後方向における位置の設定によって、カウンタースプリング23のバネ定数を変えることができ、助成力や反力の大きさを所望に設定することができる。
なお、基部21を第1の状態と第2の状態に遷移させるに際し、基部21は回転変位であったが、これに限られない。上向当接部12及び下向当接部18aに対するカウンタースプリング23の位置関係を変更できる構成であれば、例えば平行変位を伴う構成であってもよい。
なお、本実施の形態ではハンマ体HMを有するとしたが、ハンマ体HMを有しない鍵盤装置においても、カウンタースプリング23による反力と助成力とを切り替え可能にする構成を適用してもよい。基部21は第1の状態と第2の状態との間の途中の状態をとることが可能なように構成してもよく、ハンマ体HMを有しない鍵盤装置においては特に有用である。押鍵行程においてカウンタースプリング23が上向当接部12及び下向当接部18aのいずれにも当接しない状態となり得るようにしてもよい。そのようにすれば、オルガンのようなタッチにおいて静荷重の調節範囲が大きく広がると共に、より細かな調節が可能になる。
ところで、カウンタースプリング23は、上下のいずれの方向に撓む場合も、基部21からの片持ち支持の位置を起点として片持ち梁の態様で撓む構成であった。しかしこれに限られず、図4に変形例を示すように、撓む方向によって支点が変わるようにしてもよい。
図4(a)〜(c)は、変形例のリンク構体20の模式的な側面図である。図4(a)、(b)に示す第1の変形例では、基部21に対して固定された上向きの途中支点19を設ける。基部21が第1の状態(図1(a))にあるときには、カウンタースプリング23が上方に撓むので、途中支点19はカウンタースプリング23に係合することがない(図4(a))。
しかし、基部21が第2の状態(図1(b))にあるときには、カウンタースプリング23が下方に撓むので、カウンタースプリング23が、延設方向の途中位置で途中支点19に係合する。すると、カウンタースプリング23は単なる片持ち梁としてではなく、途中支点19で上方への集中荷重を受ける梁となる。そのため、図1の構成に比し、助成力に変わりはないが、下向当接部18aを押圧することによる押鍵反力が大きくなる。
また、図4(c)に示す第2変形例では、途中支点19を下向きに設ける。この構成では、基部21が第2の状態(図1(b))にあるときには、図1の構成と変わりはないが、基部21が第1の状態(図1(a))にあるときには、カウンタースプリング23が上方に撓むので、カウンタースプリング23が、延設方向の途中位置で途中支点19に係合する。そのため、第1変形例(図4(a)、(b))とは逆の作用となり、図1の構成に比し、押鍵反力に変わりはないが、上向当接部12を押圧することによる助成力が大きくなる。
なお、カウンタースプリング23は鍵10の下方に配置することも可能である。その場合、上向当接部12に相当する部材とストッパ部材18に相当する部材を共に鍵10の下面に固定すると共に、両者間にカウンタースプリング23を介在させる。
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。