次に、この発明を図を参照して具体的に説明する。この発明で制御の対象とする車両のドライブトレーンおよび制御系統を図1に示してある。すなわち、この図1に示す車両Veは、エンジン1と、そのエンジン1の出力側に連結されてエンジン1が出力する動力を駆動輪2へ伝達する自動変速機3とを備えた車両であって、さらに、この図1に示す例は、駆動輪2に対して動力伝達可能に連結されたモータ4を備えたハイブリッド車両となっている。
エンジン1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する内燃機関である。この図1では、スロットル開度を電気的に制御することが可能な電子制御式のスロットルバルブや、燃料噴射量を電気的に制御することが可能な電子制御式の燃料噴射装置を備えていて、所定の負荷に対して回転数を電気的に制御することにより燃費が最も良好な最適運転点に設定できるガソリンエンジンが搭載された例を示している。
自動変速機3は、エンジン1の出力トルクを伝達・遮断する入力クラッチとして、第1クラッチ5および第2クラッチ6を備えたいわゆるデュアルクラッチ式の変速機であって、この図1に示す例では、5速の前進変速段と1速の後進変速段とを設定することが可能な構成となっている。第1クラッチ5および第2クラッチ6は、いずれも、例えば摩擦クラッチによって構成され、全てのトルクを伝達する完全係合状態と、トルクを伝達しない解放状態と、これらの中間の状態であり係合の度合いに応じた大きさのトルクを伝達する半係合状態とに制御できるように構成されている。
第1クラッチ5の一方の係合部材5aにエンジン1のクランク軸(出力軸)1aが連結され、他方の係合部材5bに自動変速機3の第1入力軸7が連結されている。同様に、第2クラッチ6の一方の係合部材6aにエンジン1のクランク軸1aが連結され、他方の係合部材6bに自動変速機3の第2入力軸8が連結されている。なお、この図1に示す例では、便宜上、第1クラッチ5および第1入力軸7と第2クラッチ6および第2入力軸8とが、互いに並列に配置された状態を示している。実際には、いずれか一方のクラッチおよび入力軸を中空軸とし、他方のクラッチおよび入力軸と互いに相対回転可能な2重構造にすることにより、各クラッチ5,6および各入力軸7,8を、それぞれ同一軸線上に縦列に配置する構成が広く採用されている。
自動変速機3の出力軸11と第1入力軸7との間に、第1伝動機構9が設けられている。同様に、出力軸11と第2入力軸8との間に、第2伝動機構10が設けられている。第1伝動機構9は、第1入力軸7と出力軸11との間で選択的に動力伝達可能に連結されて変速比が異なる複数の変速段を設定する構成のものであり、この図1に示す例では、5速の前進変速段のうち第1速、第3速、第5速の前進の奇数段と後進段とを選択的に設定できるように構成されている。
具体的には、第1伝動機構9は、第1速を設定するための第1速ギヤ対12、第3速を設定するための第3速ギヤ対13、第5速を設定するための第5速ギヤ対14、および後進段を設定するための後進段ギヤ対15と、これらいずれかのギヤ対を介して選択的に第1入力軸7に連結される第1カウンタ軸16と、第1入力軸7と第1カウンタ軸16との間で、第1速ギヤ対12を選択的に動力伝達可能な状態に設定する第1速係合機構17と、第3速ギヤ対13を選択的に動力伝達可能な状態に設定する第3速係合機構18と、第5速ギヤ対14を選択的に動力伝達可能な状態に設定する第5速係合機構19と、後進段ギヤ対15を選択的に動力伝達可能な状態に設定する後進段係合機構20とから構成されている。
第1速ギヤ対12は、第1入力軸7に一体に固定されている駆動ギヤ12aと、第1カウンタ軸16に対して選択的に相対回転または一体回転可能に装着されている従動ギヤ12bとから構成されている。この第1速ギヤ対12は、第1伝動機構9で設定する複数の変速段のうち最も変速比が大きい第1速を設定するものであり、駆動ギヤ12aの歯数よりも従動ギヤ12bの歯数が多くなるように構成されている。したがって駆動ギヤ12aから従動ギヤ12bに対してトルクを伝達する場合、すなわち第1入力軸7から第1カウンタ軸16側へトルクを伝達する場合には、減速機構として機能するようになっている。
第3速ギヤ対13は、第1入力軸7に一体に固定されている駆動ギヤ13aと、第1カウンタ軸16に対して選択的に相対回転または一体回転可能に装着されている従動ギヤ13bとから構成されている。この第3速ギヤ対13は、第1速よりも変速比が小さく、かつ第5速よりも変速比が大きい第3速を設定するものであり、駆動ギヤ13aの歯数よりも従動ギヤ13bの歯数が多くなるように構成されている。したがって駆動ギヤ13aから従動ギヤ13bに対してトルクを伝達する場合、すなわち第1入力軸7から第1カウンタ軸16側へトルクを伝達する場合には、第1速よりも減速比が小さい減速機構として機能するようになっている。
第5速ギヤ対14は、第1入力軸7に一体に固定されている駆動ギヤ14aと、第1カウンタ軸16に対して選択的に相対回転または一体回転可能に装着されている従動ギヤ14bとから構成されている。この第5速ギヤ対14は、第1伝動機構9で設定する複数の変速段のうち最も変速比が小さい第5速を設定するものであり、駆動ギヤ14aの歯数よりも従動ギヤ14bの歯数が少なくなくなるように構成されている。したがって駆動ギヤ14aから従動ギヤ14bに対してトルクを伝達する場合には、増速機構として機能するようになっている。言い換えると、従動ギヤ14bから駆動ギヤ14aに対してトルクを伝達する場合、すなわち第1カウンタ軸16から第1入力軸7側へトルクを伝達する場合には、減速機構として機能するようなっている。
後進段ギヤ対15は、第1入力軸7に一体に固定されている駆動ギヤ15aと、その駆動ギヤ15aにアイドルギヤ15cを介して噛み合わされ、かつ第1カウンタ軸16に対して選択的に相対回転または一体回転可能に装着されている従動ギヤ15bとから構成されている。この後進段ギヤ対15は、その名のとおり車両Veを後進させるためのものであり、発進段である第1速ギヤ対12で設定される変速比と同等またはそれよりも大きな変速比が設定されるように構成されている。したがって駆動ギヤ15aから従動ギヤ15bに対してトルクを伝達する場合、すなわち第1入力軸7から第1カウンタ軸16側へトルクを伝達する場合には、減速機構として機能するようになっている。
第1速係合機構17は、第1カウンタ軸16上で第1速の従動ギヤ12bに隣接して配置され、第1カウンタ軸16に相対回転可能に装着された従動ギヤ12bを第1カウンタ軸16に対して選択的に一体に固定するように構成されている。例えば、第1カウンタ軸16の回転と従動ギヤ12bの回転とを同期させ、それら第1カウンタ軸16と従動ギヤ12bとをスプライン結合させるシンクロメッシュ機構によって構成されている。
第3速係合機構18は、第1カウンタ軸16上で第3速の従動ギヤ13bに隣接して配置され、第1カウンタ軸16に相対回転可能に装着された従動ギヤ13bを第1カウンタ軸16に対して選択的に一体に固定するように構成されている。同様に、例えば、第1カウンタ軸16の回転と従動ギヤ13bの回転とを同期させ、それら第1カウンタ軸16と従動ギヤ13bとをスプライン結合させるシンクロメッシュ機構によって構成されている。
また、第5速係合機構19は、第1カウンタ軸16上で第5速の従動ギヤ14bに隣接して配置され、第1カウンタ軸16に相対回転可能に装着された従動ギヤ14bを第1カウンタ軸16に対して選択的に一体に固定するように構成されている。同様に、例えば、第1カウンタ軸16の回転と従動ギヤ14bの回転とを同期させ、それら第1カウンタ軸16と従動ギヤ14bとをスプライン結合させるシンクロメッシュ機構によって構成されている。
そして、後進段係合機構20は、第1カウンタ軸16上で後進段の従動ギヤ15bに隣接して配置され、第1カウンタ軸16に相対回転可能に装着された従動ギヤ15bを第1カウンタ軸16に対して選択的に一体に固定するように構成されている。同様に、例えば、第1カウンタ軸16の回転と従動ギヤ15bの回転とを同期させ、それら第1カウンタ軸16と従動ギヤ15bとをスプライン結合させるシンクロメッシュ機構によって構成されている。
一方、第2伝動機構10は、第2入力軸8と出力軸11との間で選択的に動力伝達可能に連結されて変速比が異なる複数の変速段を設定する構成のものであり、この図1に示す例では、5速の前進変速段のうち前進の偶数段である第2速と第4速とを選択的に設定できるように構成されている。
具体的には、第2伝動機構10は、第2速を設定するための第2速ギヤ対21、および第4速を設定するための第4速ギヤ対22と、これら第2速ギヤ対21または第4速ギヤ対22を介して選択的に第2入力軸8に連結される第2カウンタ軸23と、第2入力軸8と第2カウンタ軸23との間で、第2速ギヤ対21を選択的に動力伝達可能な状態に設定する第2速係合機構24と、第4速ギヤ対22を選択的に動力伝達可能な状態に設定する第4速係合機構25とから構成されている。
第2速ギヤ対21は、第2入力軸8に一体に固定されている駆動ギヤ21aと、第2カウンタ軸23に対して選択的に相対回転または一体回転可能に装着されている従動ギヤ21bとから構成されている。この第2速ギヤ対21は、第2伝動機構10で設定する複数の変速段のうち最も変速比が大きい第2速を設定するものであり、駆動ギヤ21aの歯数よりも従動ギヤ21bの歯数が多くなるように構成されている。したがって駆動ギヤ21aから従動ギヤ21bに対してトルクを伝達する場合、すなわち第2入力軸8から第2カウンタ軸23側へトルクを伝達する場合には、減速機構として機能するようになっている。
第4速ギヤ対22は、第2入力軸8に一体に固定されている駆動ギヤ22aと、第2カウンタ軸23に対して選択的に相対回転または一体回転可能に装着されている従動ギヤ22bとから構成されている。この第4速ギヤ対22は、上述の第1伝動機構9で設定される第3速よりも変速比が小さく、かつ第5速よりも変速比が大きい第4速を設定するものであり、駆動ギヤ22aの歯数と従動ギヤ22bの歯数とがほぼ同じになるように、または駆動ギヤ22aの歯数が従動ギヤ22bの歯数よりも若干少なくなるように構成されている。したがって駆動ギヤ22aから従動ギヤ22bに対してトルクを伝達する場合、すなわち第2入力軸8から第2カウンタ軸23側へトルクを伝達する場合には、減速比がほぼ1の伝動機構として、または増速機構として機能するようになっている。
第2速係合機構24は、第2カウンタ軸23上で第2速の従動ギヤ21bに隣接して配置され、第2カウンタ軸23に相対回転可能に装着された従動ギヤ21bを第2カウンタ軸23に対して選択的に一体に固定するように構成されている。例えば、上記の第1伝動機構における各係合機構17,18,19,20などと同様に、第2カウンタ軸23の回転と従動ギヤ21bの回転とを同期させ、それら第2カウンタ軸23と従動ギヤ21bとをスプライン結合させるシンクロメッシュ機構によって構成されている。
第4速係合機構25は、第2カウンタ軸23上で第4速の従動ギヤ22bに隣接して配置され、第2カウンタ軸23に相対回転可能に装着された従動ギヤ22bを第2カウンタ軸23に対して選択的に一体に固定するように構成されている。同様に、例えば、第2カウンタ軸23の回転と従動ギヤ22bの回転とを同期させ、それら第2カウンタ軸23と従動ギヤ22bとをスプライン結合させるシンクロメッシュ機構によって構成されている。
そして、第1カウンタ軸16および第2カウンタ軸23は、それぞれ、カウンタギヤ対26を介して、出力軸11に常時動力伝達可能に連結されている。すなわち、第1カウンタ軸16に一体に固定されたカウンタギヤ26aと、出力軸11に一体に固定されたカウンタギヤ26cとが噛み合わされているとともに、第2カウンタ軸23に一体に固定されたカウンタギヤ26bと、出力軸11のカウンタギヤ26cとが噛み合わされている。そしてその出力軸11が、デファレンシャルギヤ27および駆動軸28を介して、駆動輪2に常時動力伝達可能に連結されている。
さらに、この発明で制御の対象とする車両Veは、駆動力源として、上述のエンジン1に加えて、モータ4が備えられている。この図1に示す例では、モータ4の出力が直接第2入力軸8に伝達されるように、モータ4の回転軸4aと第2入力軸8とが連結されている。そしてここでは、モータ4は、駆動電力が供給されることによりトルクを出力するモータとしての機能と、トルクが与えられることにより発電電力を発生する発電機としての機能との両方を兼ね備えたモータ・ジェネレータが用いられている。そのようなモータ4としては、例えば永久磁石式同期モータ(PM)あるいは誘導モータ(IM)などの交流モータが採用される。
なお、この発明におけるモータ4は、上記のように第2入力軸8に連結される構成の他に、例えば第1入力軸に対して動力伝達可能に連結されていてもよく、あるいは、出力軸11または駆動輪2に対して直接動力伝達可能に連結されていてもよい。要は、モータ4は、第1クラッチ5および第2クラッチ6よりも駆動輪2側の動力伝達経路内のいずれかの回転部材に動力伝達可能に連結されていればよい。
このように、駆動力源としてエンジン1に加えて、モータ4が設けられることにより、モータ4が出力するトルクによってエンジン1のクランク軸1aを回転させることができる。すなわち、この図1に示す例では、第2クラッチ6を係合状態または半係合状態に制御しつつ、第2速係合機構24および第4速係合機構25をいずれも解放状態にして第2入力軸8と第2カウンタ軸23との間の動力伝達を遮断した状態で、モータ4でトルクを出力することにより、そのモータ4の出力トルクをエンジン1のクランク軸1aへ伝達させることができる。そしてその伝達されたトルクによってクランク軸1aを回転させることができる。この場合、モータ4の出力トルクの大きさおよび出力時間を適宜制御することにより、クランク軸1aを所望する回転角度で回転させることができる。
また、第2クラッチ6を解放状態に制御しつつ、第2速係合機構24または第4速係合機構25のいずれかを係合状態にして第2入力軸8と第2カウンタ軸23との間を動力伝達可能にした状態で、モータ4でトルクを出力することにより、そのモータ4の出力トルクを駆動輪2へ伝達させることができる。したがって、エンジン1の運転を停止した状態で、モータ4のみの出力により駆動力を発生させる、いわゆるEVモードで車両Veを走行させることができる。また、エンジン1の出力またはエンジン1およびモータ4の両方の出力により駆動力を発生させ、いわゆるHVモードで車両Veを走行させている場合に、モータ4の出力トルクを増大させることにより、要求駆動力に対するトルクの不足分を補うことができる。あるいは、後述するエンジン停止位置制御を実行する際の第1クラッチ5または第2クラッチ6の係合制御時に、モータ4の出力トルクを増大させて、制動側のトルクが増大することにより生じる駆動力の落ち込みを補償することができる。
モータ4は、前述したように、モータと発電機との両方の機能を有する周知の交流モータにより構成されている。したがって、モータ4は、インバータ(図示せず)を介してバッテリ(図示せず)に連結されている。すなわち、インバータによってモータ4とバッテリとの間で授受される電力を制御することにより、モータ4をモータとして機能させる場合の回転数やトルクを制御し、あるいはモータ4を発電機として機能させる場合の発電量を制御するように構成されている。
そして、上記に説明したようなエンジン1の運転状態、各クラッチ5,6の係合・解放状態、各係合機構17,〜20,24,25の動作状態、およびモータ4の運転状態等を制御するための電子制御装置(ECU)29が設けられている。この電子制御装置29には、車両Veの各車輪の回転速度を検出する車輪速センサ30、アクセルペダルの踏み込み角または踏み込み量を検出するアクセル開度センサ31、ブレーキペダルの踏み込み角または踏み込み量を検出するブレーキスイッチ32、エンジン1のクランク軸1aの回転速度を検出するエンジン回転速度センサ33、クランク軸1aのクランク角度を検出するクランク位置センサ34、モータ4の回転軸の回転速度を検出するためのレゾルバ(図示せず)などの各種センサ装置類からの検出信号が入力される。これに対して、電子制御装置29からは、エンジン1の回転を制御する信号、各クラッチ5,6の係合・解放状態を制御する信号、各係合機構17,〜20,24,25の動作状態を制御する信号、およびモータ4の回転状態を制御する信号などが出力されるように構成されている。
この発明では、上記のように構成された車両Veを制御の対象とすることにより、車両Veの走行中にエンジン1が運転を停止した場合に、エンジン1のクランク軸1aの回転位置を、予めエンジン1の燃焼運転を始動させるのに適した位置に調整して設定しておく、いわゆるエンジン停止位置制御を実行することができる。例えば、エンジン1が運転を停止し、車両Veが惰力走行している場合、またはモータ4の出力により走行している場合に、第1クラッチ5または第2クラッチ6の一方を係合することにより、駆動輪2側からのトルクをクランク軸1aに伝達し、クランク軸1aを回転させることができる。すなわちエンジン停止位置制御を実行することができる。また、前述したように、モータ4の出力トルクをクランク軸1aに伝達させることにより、クランク軸1aを回転させて、エンジン停止位置制御を実行することもできる。
そして、この発明では、上記のようにエンジン停止位置制御を実行する場合、各クラッチ5,6のいずれか一方を係合させる際に、クラッチ係合時の摩擦損失を低減するための制御を実行するように構成されている。その制御の一例を、図2のフローチャートに示してある。このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図2において、先ず、車両Veが走行中であるか否かが判断される(ステップS11)。これは、例えば車輪速センサ30の検出値から求まる車速の大きさに基づいて判断することができる。車両Veが走行中でないことにより、このステップS11で否定的に判断された場合は、以降の制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、車両Veが走行中であることにより、ステップS11で肯定的に判断された場合には、ステップS12へ進み、エンジン停止位置制御の実行要求があるか否かが判断される。前述したように、このエンジン停止位置制御は、車両Veの走行中にエンジン1に対する燃料の供給が停止され、エンジン1の燃焼運転が停止した際に、次回のエンジン1の始動をスムーズに行うため、エンジン1のクランク軸1aの回転位置を予め始動に適した位置に調整し設定しておく制御である。具体的には、このエンジン停止位置制御は、エンジン1を始動するのに最適な位置を要求停止位置とすると、その要求停止位置の前後に所定値αの幅を持たせた範囲(すなわち要求停止位置±α)内にクランク軸1aの停止位置が入るように、クランク軸を予め停止させておく制御である。
より具体的には、エンジン1のクランク軸1aの回転速度が0になった場合、または0に近い極低回転速度になった場合に、クランク軸1aの回転位置における停止位置が予測または推定され、その予測停止位置が、上記の「要求停止位置±α」の範囲外である場合に、エンジン停止位置制御に実行が要求される。したがって、このステップS12では、車両Veの走行中にエンジン1の運転を停止した場合に、クランク軸1aの停止位置が「要求停止位置±α」の範囲内にあると推定された場合は、エンジン停止位置制御を実行する必要がないので、このステップS12で否定的に判断され、以降の制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、車両Veの走行中にエンジン1の運転を停止した場合に、クランク軸1aの停止位置が「要求停止位置±α」の範囲外にあると推定された場合には、エンジン停止位置制御の実行が必要と判断され、すなわちステップS12で肯定的に判断されて、ステップS13へ進む。このステップS13では、エンジン停止位置制御を実行するために係合制御されるクラッチが配置されている側の伝動機構が、その伝動機構で設定可能な複数の変速段のうち変速比が最も小さい最高速段に設定される。この実施例では、自動変速機3の第1入力軸7と出力軸11との間において、第1伝動機構9の最高速段を形成する第5速ギヤ対14が動力伝達可能な状態に設定される。
なお、このエンジン停止位置制御における「要求停止位置」は、例えば実験やコンピュータによるシミュレーションなどの結果を基に、この車両Veに搭載されるエンジン1の種類や形式に応じて予め設定される。例えば、エンジン1として、気筒内にガソリン燃料を直接噴射する直噴エンジンを用いた場合、この「要求停止位置」は、直噴エンジンを適切に着火始動できるクランク角度の範囲として規定される。これは、直噴エンジンのポンピングエネルギが極小となる領域と重なる範囲であり、例えば、8気筒の直噴エンジンの場合は、圧縮上死点から30°〜60°の範囲内の位置として予め定められる。また、6気筒の直噴エンジンの場合は、圧縮上死点から40°〜80°の範囲内の位置として、また、4気筒の直噴エンジンの場合は、圧縮上死点から40°〜120°の範囲内の位置として予め定められる。
ステップS13で第1伝動機構9における変速段が、上記のように最高速段に設定されると、第1クラッチ5が係合され、駆動輪2側から伝達されるトルクによってクランク軸1aが回転させられる(ステップS14)。具体的には、第1クラッチ5が半係合状態に制御されて、クランク軸1aが徐々に回転させられる。上記のステップS13で第1伝動機構9が最高速段を形成する第5速ギヤ対14に設定されていることにより、このステップS14で第1クラッチ5を半係合させて、駆動輪2からのトルクをクランク軸1aへ伝達する場合には、その駆動輪2からのトルクは第1伝動機構5の第5速ギヤ対14で減速されてクランク軸1aへ伝達される。そのため、第1クラッチ5を半係合状態に制御する際に、第1クラッチ5のクランク軸1a側の係合部材5aと、自動変速機3側の係合部材5bとの間における回転数差を可及的に少なくすることができる。その結果、第1クラッチ5を係合制御する際の摩擦損失を可及的に低減することができ、このエンジン停止位置制御を速やかにかつ効率的に実行することができる。
第1クラッチ5が半係合状態に制御されてクランク軸1aが回転させられると、そのクランク軸1aの停止位置が、前述の「要求停止位置±α」の範囲内に入ったか否かが判断される(ステップS15)。クランク軸1aの停止位置が未だ「要求停止位置±α」の範囲内に入っていないことにより、このステップS15で否定的に判断された場合は、このステップS15の制御が再度実行される。すなわち、このステップS15の制御は、クランク軸1aの停止位置が「要求停止位置±α」の範囲内に入るまで繰り返し実行される。
そして、クランク軸1aの停止位置が「要求停止位置±α」の範囲内に入ったことにより、ステップS15で肯定的に判断されると、ステップS16へ進み、第1クラッチ5が解放状態に制御される。すなわち、このエンジン停止位置制御が終了する。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
上記のように、図2のフローチャートに示す制御を実行することにより、第1クラッチ5(または第2クラッチ6)を係合させることによるエンジン停止位置制御の際に、第1クラッチ5における摩擦損失を低減することができる。一方、上記の制御例では、第1クラッチ5の摩擦損失を低減するために、第1伝動機構9における変速段が最高速段の第5速に設定される。そのため、エンジン停止位置制御の後に、エンジン1を再始動する際の加速要求が大きい場合には、その加速走行のために自動変速機3の変速比を、変速比が大きい低速段に設定する必要がある。そこでこの発明では、エンジン停止位置制御の後の加速要求に対しても適切に対応するために、以下の図3のフローチャートで示す制御を実行するように構成されている。
図3において、先ず、車両Veが走行中であるか否かが判断される(ステップS21)。車両Veが走行中でないことにより、このステップS21で否定的に判断された場合は、以降の制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。これに対して、車両Veが走行中であることにより、ステップS21で肯定的に判断された場合には、ステップS22へ進み、エンジン停止位置制御の実行要求があるか否かが判断される。
これらステップS21およびステップS22の制御内容は、それぞれ、前述の図2のフローチャートにおけるステップS11およびステップS12の制御内容と同一である。したがって、車両Veの走行中にエンジン1の運転を停止した場合に、クランク軸1aの停止位置が「要求停止位置±α」の範囲内にあると推定され、エンジン停止位置制御を実行する必要がないと判断されたことにより、ステップS22で否定的に判断された場合は、以降の制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、車両Veの走行中にエンジン1の運転を停止した場合に、クランク軸1aの停止位置が「要求停止位置±α」の範囲外にあると推定され、エンジン停止位置制御の実行が必要と判断されたことにより、ステップS22で肯定的に判断された場合には、ステップS23へ進み、加速待機していない側の伝動機構が高速段(ハイギヤ)に設定される。
すなわち、エンジン停止位置制御を実行するために係合制御されるクラッチが配置されている側の一方の伝動機構が、その伝動機構で設定可能な複数の変速段のうち変速比が最も小さい最高速段に設定される。それとともに、エンジン停止位置制御を実行するために係合制御されるクラッチが配置されていない側の他方の伝動機構が、その伝動機構で設定可能な複数の変速段のうち変速比が大きく、加速走行に適した低速段に設定される。具体的には、自動変速機3の第1入力軸7と出力軸11との間において、第1伝動機構9の最高速段を形成する第5速ギヤ対14が動力伝達可能な状態に設定されるとともに、自動変速機3の第2入力軸8と出力軸11との間において、第2伝動機構10の最低速段を形成する第2速ギヤ対24が、加速待機側として、動力伝達可能な状態に設定される。
なお、加速待機側で設定される低速段は、上記のような第2速に限らず、変速比が1よりも小さい変速段であってもよい。例えば、エンジン停止位置制御を実行するために第2伝動機構10側の第2クラッチ6が係合制御される場合には、加速待機側として、第1伝動機構9で第1速または第3速、もしくは変速比が1よりも大きい変速段が設定される。
ステップS23で第1伝動機構9における変速段が、上記のように最高速段に設定されると、第1クラッチ5が係合され、駆動輪2側から伝達されるトルクによってクランク軸1aが回転させられる(ステップS24)。そして、そのクランク軸1aの停止位置が、前述の「要求停止位置±α」の範囲内に入ったか否かが判断される(ステップS25)。
上記のステップS24、ステップS25、および後述するステップS26の制御内容は、それぞれ、前述の図2のフローチャートにおけるステップS14、ステップS15、およびステップS16の制御内容と同一である。したがって、ステップS25の制御が、クランク軸1aの停止位置が「要求停止位置±α」の範囲内に入るまで繰り返し実行され、そして、クランク軸1aの停止位置が「要求停止位置±α」の範囲内に入ったことにより、ステップS25で肯定的に判断されると、ステップS26へ進み、第1クラッチ5が解放状態に制御される。すなわち、このエンジン停止位置制御が終了する。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
上記のように、図3のフローチャートに示す制御を実行することにより、第1クラッチ5を係合させることによるエンジン停止位置制御の際に、第1クラッチ5における摩擦損失を低減することができる。それとともに、エンジン停止位置制御の際に係合制御されない第2クラッチ6側の第2伝動機構10が、加速待機のために、最低速段である第2速に設定される。したがって、エンジン停止位置制御の後の加速要求が大きい場合には、第2クラッチ6を係合することにより、即座に加速走行に適した低速段、すなわち上記の制御例では第2速が設定される。そのため、エンジン停止制御が実行された後に加速要求がある場合であっても、運転者に違和感を与えることなく、加速要求に対応した適切な加速走行を実現することができる。
この発明の更に他の制御例を、図4のフローチャートに示してある。図4において、先ず、車両Veが走行中であるか否かが判断される(ステップS31)。車両Veが走行中でないことにより、このステップS31で否定的に判断された場合は、以降の制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。これに対して、車両Veが走行中であることにより、ステップS31で肯定的に判断された場合には、ステップS32へ進み、エンジン停止位置制御の実行要求があるか否かが判断される。
これらステップS31およびステップS32の制御内容は、それぞれ、前述の図2のフローチャートにおけるステップS11およびステップS12の制御内容と同一である。したがって、車両Veの走行中にエンジン1の運転を停止した場合に、クランク軸1aの停止位置が「要求停止位置±α」の範囲内にあると推定され、エンジン停止位置制御を実行する必要がないと判断されたことにより、ステップS32で否定的に判断された場合は、以降の制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、車両Veの走行中にエンジン1の運転を停止した場合に、クランク軸1aの停止位置が「要求停止位置±α」の範囲外にあると推定され、エンジン停止位置制御の実行が必要と判断されたことにより、ステップS32で肯定的に判断された場合には、ステップS33へ進み、エンジン停止位置制御後の再加速の可能性が小さいか否かが判断される。車両Veの再加速の可能性については、エンジン停止位置制御の実行が判断された時点、またはエンジン停止位置制御が開始された時点における車両Veの車速、アクセル開度、およびブレーキスイッチ信号、あるいは走行環境の情報などに基づいて推定される。そしてその再加速の可能性が、閾値として予め設定した所定の基準値よりも小さいか否かが判断される。例えば、ブレーキスイッチ32がONの場合は、再加速の可能性は低いと判断することができる。反対に、ブレーキスイッチ32がOFFの場合には、再加速の可能性は高いと判断することができる。
エンジン停止位置制御後の再加速の可能性が小さいことにより、このステップS33で肯定的に判断された場合は、ステップS34へ進み、エンジン停止位置制御を実行するために係合制御されるクラッチが配置されている側の一方の伝動機構が、その伝動機構で設定可能な複数の変速段のうち変速比が最も小さい最高速段(ハイギヤ)に設定される。
ステップS34で第1伝動機構9または第2伝動機構10における変速段が、上記のように最高速段(すなわち、第5速または第4速)に設定されると、第1クラッチ5または第2クラッチ6が係合され、駆動輪2側から伝達されるトルクによってクランク軸1aが回転させられる(ステップS35)このステップS35ならびに以降のステップS36およびステップS37の制御内容は、それぞれ、前述の図2のフローチャートにおけるステップS14ならびにステップS15およびステップS16の制御内容と同一である。
一方、エンジン停止位置制御後の再加速の可能性が小さくないことにより、ステップS33で否定的に判断された場合には、次のステップS34を飛ばし、ステップS35へ進む。そして、従前の制御が同様に実行される。この場合に第1伝動機構9または第2伝動機構10で設定される変速段は、自動変速機3に対する通常の変速制御に基づいて設定されるべき変速段に設定される。例えば、通常の変速制御における変速線図または変速マップに基づいて設定される。そしてその後、ステップS36およびステップS37の制御が同様に実行される。
上記のように、図4のフローチャートに示す制御では、エンジン停止位置制御を実行する際に、再加速の可能性が推定される。そして、再加速の可能性が低いと判断される場合は、エンジン停止位置制御のためのクラッチ係合時の摩擦損失の低下を優先して、クラッチが係合される側の伝動機構が変速比が小さい最高速段に設定される。一方、再加速の可能性が高いと判断される場合には、その再加速の際の加速応答性の確保を優先して、通常の変速制御に基づいて変速段が設定される。そのため、エンジン停止位置制御の際に、クラッチ係合時の摩擦損失の低減と、エンジン停止位置制御の後の加速応答性の確保とを、可及的に両立させることができる。
なお、この図4のフローチャートに示す制御は、自動変速機3として、上述したようなデュアルクラッチ式変速機以外に、遊星歯車式の自動変速機、ベルト式あるいはトロイダル式の無段変速機、あるいは常時噛み合い歯車式の多段変速機をベースにした自動変速機を制御の対象にすることができる。すなわち、この図4のフローチャートに示す制御によれば、上記のようなデュアルクラッチ式変速機以外の自動変速機を制御の対象とした場合でも、可及的に、再加速時の加速応答性を確保しつつ、クラッチの摩擦損失を低減することができる。
以上のように、この発明に係る車両の制御装置によれば、走行中にエンジン1の燃焼運転が停止されると、自動変速機3、すなわちデュアルクラッチ式変速機のいずれか一方のクラッチ5(または6)を係合し、駆動輪2側からのトルクをエンジン1のクランク1a軸に伝達することにより、クランク1a軸が回転させられて、その停止位置がエンジン1の着火始動に適した位置に設定される。すなわち、エンジン停止位置制御が実行される。したがって、クラッチ5(または6)の係合・解放状態を制御することにより、容易にエンジン停止位置制御を実行することができる。
そして、上記のようにしてエンジン停止位置制御が実行される際には、エンジン停止位置制御のために制御されるクラッチ5(または6)が連結されている側の伝動機構9(または10)が最高速段(すなわち、第5速または第4速)に設定される。その結果、駆動輪2側からクランク軸1aに伝達されるトルクは伝動機構9(または10)で減速されることになり、クラッチ5(または6)のクランク軸1a側の係合部材5a(または6a)と自動変速機3側の係合部材5b(または6b)との間における回転数差が小さくなる。そのため、クラッチ5(または6)を係合制御する際の損失を低減することができるとともに、エンジン停止位置制御を速やかにかつスムーズに実行することができる。
さらに、この発明における自動変速機3がいわゆるデュアルクラッチ式変速機であることから、エンジン停止位置制御が実行される際には、上記のように一方の入力軸7(または8)に連結されている伝動機構9(または10)が最高速段(すなわち、第5速または第4速)に設定されることに加えて、クラッチ5(または6)の係合制御に関与しない他方の入力軸8(または7)に連結されている伝動機構10(または9)が、車両Veを加速走行させるのに適した低速段(すなわち、第2速、もしくは第1速または第3速、もしくは変速比が1よりも小さい変速段)に設定される。すなわち、エンジン停止位置制御が実行される際には、他方の伝動機構10(または9)が加速走行のための低速段に設定されて待機させられる。そのため、エンジン停止制御が実行された後に加速要求がある場合であっても、加速応答性を良好に確保することができ、運転者に違和感を与えることなく、加速要求に対応した適切な加速走行を実現することができる。
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、ステップS21,S22,S24,S25を実行する機能的手段が、この発明における「停止位置制御手段」に相当し、ステップS23を実行する機能的手段が、この発明における「待機手段」に相当する。