(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図であり、図3(a)は図2のA−A′線断面図、図3(b)は図3(a)の要部拡大断面図である。図1〜図3に示すように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールドの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば厚さ30〜50nm程度の酸化チタン等からなり、弾性膜50等の第1電極60の下地との密着性を向上させるための密着層56が設けられている。本実施形態においては、密着層56として酸化チタンを用いたが、密着層56の材質は第1電極60とその下地の種類等により異なるが、例えば、ジルコニウム、アルミニウムを含む酸化物や窒化物や、SiO2、MgO、CeO2等とすることができる。なお、弾性膜50上に、必要に応じて酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜が設けられていてもよい。
さらに、この密着層56上には、第1電極60と、厚さが3μm以下、好ましくは0.3〜1.5μmの薄膜である圧電体層70と、第2電極80とが、積層形成されて、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段としての圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、密着層56、第1電極60及び必要に応じて設ける絶縁体膜が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50や密着層56が設けられていなくてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
また、圧電体層70は、図3(b)に示すように、本実施形態においては、第1電極60上に設けられた第1圧電体層71と、第1圧電体層71上に設けられた第2圧電体層72とで構成されている。
第1圧電体層71は、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる。ペロブスカイト構造、すなわち、ABO3型構造のAサイトは酸素が12配位しており、また、Bサイトは酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。このAサイトにBi及びBaが、BサイトにFe及びTiが位置している。
このような第1圧電体層71を構成するBi,Fe,Ba及びTiを含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物は、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムとの混晶のペロブスカイト構造を有する複合酸化物、または、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムが均一に固溶した固溶体としても表される。なお、X線回折パターンにおいて、鉄酸ビスマスや、チタン酸バリウムは、単独では検出されないものである。
ここで、鉄酸ビスマスやチタン酸バリウムは、それぞれペロブスカイト構造を有する公知の圧電材料であり、それぞれ種々の組成のものが知られている。例えば、鉄酸ビスマスやチタン酸バリウムとして、BiFeO3やBaTiO3以外に、元素が一部欠損する又は過剰であったり、元素の一部が他の元素に置換されたものも知られているが、本発明で鉄酸ビスマス、チタン酸バリウムと表記した場合、基本的な特性が変わらない限り、欠損・過剰により化学量論の組成からずれたものや元素の一部が他の元素に置換されたものも、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウムの範囲に含まれるものとする。
このようなペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる第1圧電体層71の組成は、例えば、下記式(1)で表される混晶として表される。また、この式(1)は、下記式(1’)で表すこともできる。ここで、式(1)及び式(1’)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による不可避な組成のずれは勿論元素の一部置換等も許容される。例えば、化学量論比が1とすると、0.85〜1.20の範囲内のものは許容される。
(1−x)[BiFeO3]−x[BaTiO3] (1)
(0<x<0.40)
(Bi1−xBax)(Fe1−xTix)O3 (1’)
(0<x<0.40)
また、第1圧電体層71を構成する複合酸化物は、Bi、Fe、Ba及びTi以外の元素をさらに含んでいてもよい。他の元素としては、例えば、MnやCoなどが挙げられる。勿論、他の元素を含む複合酸化物である場合も、ペロブスカイト構造を有する必要がある。
第1圧電体層71が、MnやCoを含む場合、MnやCoはBサイトに位置し、MnやCoがBサイトに位置するFeの一部を置換した構造の複合酸化物であると推測される。例えば、Mnを含む場合、第1圧電体層71を構成する複合酸化物は、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムが均一に固溶した固溶体のFeの一部がMnで置換された構造、又は、鉄酸マンガン酸ビスマスとチタン酸バリウムとの混晶のペロブスカイト構造を有する複合酸化物として表され、基本的な特性は鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムとの混晶のペロブスカイト構造を有する複合酸化物と同じであるが、リーク特性が向上することがわかっている。また、Coを含む場合も、Mnと同様にリーク特性が向上するものである。なお、X線回折パターンにおいて、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、鉄酸マンガン酸ビスマス及び鉄酸コバルト酸ビスマスは、単独では検出されないものである。また、Mn及びCoを例として説明したが、その他遷移金属元素の2元素を同時に含む場合にも同様にリーク特性が向上することがわかっており、これらも第1圧電体層71とすることができ、さらに、特性を向上させるため公知のその他の添加物を含んでもよい。
このようなBi、Fe、Ba及びTiに加えてMnやCoも含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる第1圧電体層71は、例えば、下記式(2)で表される混晶である。また、この式(2)は、下記式(2’)で表すこともできる。なお式(2)及び式(2’)において、Mは、MnまたはCoである。ここで、式(2)及び式(2’)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による不可避な組成ずれは許容される。例えば、化学量論が1であれば、0.85〜1.20の範囲内のものは許容される。
(1−x)[Bi(Fe1−yMy)O3]−x[BaTiO3] (2)
(0<x<0.40、0.01<y<0.09)
(Bi1−xBax)((Fe1−yMy)1−xTix)O3 (2’)
(0<x<0.40、0.01<y<0.09)
また、第2圧電体層72は、第1圧電体層71と同様に、Bi、Fe、Ba及びTiを含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなるが、第2圧電体層72のTiとBaのモル比(Ti/Ba)は、第1圧電体層71のTiとBaのモル比(Ti/Ba)より大きい。そして、TiとBaのモル比(Ti/Ba)は好ましくは1.45以下、さらに好ましくは1.17以上1.45以下である。なお、Ti/Baを1.17以上1.45以下とすることにより第2圧電体層72は粒径が微細化してより均一で緻密な膜となる。また、圧電体層70を構成する上述した複合酸化物は、BiとBaのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下であるのが好ましい。
第2圧電体層72を構成する複合酸化物も、ペロブスカイト構造、すなわち、ABO3型構造であり、この構造のAサイトは酸素が12配位しており、また、Bサイトは酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。そして、このペロブスカイト構造のAサイトにBi及びBaを含み、Bサイトに、Fe及びTiを含んでいる。
このような第2圧電体層72を構成する複合酸化物は、例えば、Bi及びBaの総モル量と、Fe及びTiの総モル量との比(Bi+Ba):(Fe+Ti)=1:1のものが挙げられるが、第2圧電体層72を構成する複合酸化物も、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。そして、上述した通り、第2圧電体層72のTi/Baは、第1圧電体層71のTi/Baよりも大きく、好ましくは1.45以下である。また、Bi/Baは、2.3以上4.0以下であるのが好ましい。このような第2圧電体層72の組成は、第1圧電体層71が上記式(1’)で表される複合酸化物である場合、すなわち、第1圧電体層71のTi/Baが1である場合は、例えば、下記式(3)で表すことができる。ここで、式(3)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。例えば、化学量論が1であれば、0.85〜1.20の範囲内のものは許容される。
(Bi1−aBaa)(Fe1−bTib)O3 (3)
(1<b/a、好ましくは1.17≦b/a≦1.45、2.3≦(1−a)/a≦4.0。)
また、第2圧電体層72を構成する複合酸化物も、所望の特性を向上させるためにBi、Fe、Ba及びTi以外の元素を含んでいてもよい。他の元素としては、例えば、Mn、Coが挙げられ、Mn及びCoのいずれも含むものであってもよい。勿論、他の元素を含む複合酸化物である場合も、ペロブスカイト構造を有する必要がある。
第2圧電体層72が、MnやCoを含む場合、MnやCoはBサイトに位置し、MnやCoがBサイトに位置するFeの一部を置換した構造の複合酸化物であると推測される。例えば、Mnを含む場合、第2圧電体層72を構成する複合酸化物は、基本的な特性はMnやCoを含有しないものと同じであるが、MnやCoを含有することによりリーク特性が向上するものである。具体的には、リークの発生が抑制される。また、Mn及びCoを例として説明したが、その他Cr、Ni、Cu等の遷移金属元素を含む場合や、前記の遷移元素を2種以上同時に含む場合にも同様にリーク特性が向上することがわかっており、これらも第2圧電体層72とすることができ、さらに、特性を向上させるため公知のその他の添加物を含んでもよい。
このような第2圧電体層72を構成する複合酸化物の場合は、例えば、Aサイト元素の総モル量と、Bサイト元素の総モル量との比(Aサイト元素の総モル量):(Bサイト元素の総モル量)=1:1のものが挙げられるが、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。このようなBi、Fe、Ba及びTiに加えて、Mn、Co及びその他の遷移金属元素のうち1以上を含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる第2圧電体層72の組成は、第1圧電体層71が上記式(2’)で表される複合酸化物である場合は、例えば、下記式(4)で表される混晶である。なお式(4)において、M’は、Mn、Co、Cr、Ni、Cu等の遷移金属元素である。ここで、式(4)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による組成ずれは許容される。例えば、化学量論が1であれば、0.85〜1.20の範囲内のものは許容される。
(Bi1−aBaa)(Fe1−b−cM’cTib)O3 (4)
(1<b/a、好ましくは1.17≦b/a≦1.45、2.3≦(1−a)/a≦4.0。0<c<0.09、好ましくは0.01≦c≦0.05。)
また、第2圧電体層72は、ペロブスカイト構造を有するその他の化合物、例えば、Bi(Zn,Ti)O3、(Bi,K)TiO3、(Bi,Na)TiO3、(Li,Na,K)(Ta,Nb)O3等を含有していてもよい。
このような第1圧電体層71及び第2圧電体層72を有する圧電体層70とすることにより、後述する実施例に示すように、第2圧電体層72を設けない場合と比較して、圧電体層70のクラックの発生を抑制できる。したがって、信頼性に優れた液体噴射ヘッドとなる。また、このように第2圧電体層72を有する圧電体層70としても、第2圧電体層72を設けない圧電体層、すなわち、第1圧電体層71のみからなる圧電体層と同様の歪量を得ることができ、また、第2圧電体層72のみとした場合よりも、歪量を大きくすることができる。換言すると、第2圧電体層72を有する圧電体層70とすることによりクラックの発生を抑制することができるという効果を発揮しつつ、非鉛系の圧電材料の中でも比較的変位量が大きいBi、Ba、Fe及びTiを含有する第1圧電体層71の歪量が維持できる。
第1圧電体層71や、第2圧電体層72の厚さは限定されないが、例えば、第1圧電体層71の厚さは225nm〜1125nmである。また、第2圧電体層72の厚さは75nm〜375nmである。また、第1圧電体層71の厚さと第2圧電体層72の厚さとの比率は、第1圧電体層71の厚さ:第2圧電体層72の厚さ=1:0.2〜0.4とすることが好ましい。
このような圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、弾性膜50上や必要に応じて設ける絶縁体膜上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜50や必要に応じて設ける絶縁体膜及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、必要に応じて設ける絶縁体膜等)にマニホールド100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、密着層56、第1電極60、圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
次に、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法の一例について、図4〜図8を参照して説明する。なお、図4〜図8は、圧力発生室の長手方向の断面図である。
まず、図4(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)等からなる二酸化シリコン膜を熱酸化等で形成する。なお、弾性膜50上等に、酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜(図示なし)を設ける場合は、例えば、反応性スパッター法や熱酸化等で形成することができる。
次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜)上に、また、絶縁体膜を設けた場合は絶縁体膜上に、酸化チタン等からなる密着層56を、スパッターリング法や熱酸化等で形成する。
次に、図5(a)に示すように、密着層56の上に、白金、イリジウム、酸化イリジウム又はこれらの積層構造等からなる第1電極60をスパッターリング法や蒸着法等により全面に形成する。次に、図5(b)に示すように、第1電極60上に所定形状のレジスト(図示無し)をマスクとして、密着層56及び第1電極60の側面が傾斜するように同時にパターニングする。
次いで、レジストを剥離した後、この第1電極60上に、圧電体層70を積層する。具体的には、まず、第1電極60上に、第1圧電体層71を形成する。第1圧電体層71の製造方法は特に限定されないが、例えば、金属錯体を含む溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる第1圧電体層71を得るMOD(Metal−Organic Decomposition)法やゾル−ゲル法等の化学溶液法を用いて製造できる。その他、レーザーアブレーション法、スパッターリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、化学蒸着法(CVD法)、エアロゾル・デポジション法など、気相法、液相法や固相法でも第1圧電体層71を製造することができる。
第1圧電体層71を化学溶液法で形成する場合の具体的な形成手順例としては、まず、図5(c)に示すように、第1電極60上に、金属錯体、具体的にはBi、Fe、Ba及びTiを含む金属錯体を含むMOD溶液やゾルからなる第1圧電体層の前駆体溶液を、スピンコート法などを用いて塗布して、第1圧電体前駆体膜71aを形成する(第1圧電体層塗布工程)。
塗布する第1圧電体層の前駆体溶液は、焼成により第1圧電体層71を構成する複合酸化物を形成しうる金属錯体、本実施形態においては焼成によりBi、Fe、Ba及びTiを含む複合酸化物を形成しうる金属錯体を混合し、該混合物を有機溶媒に溶解または分散させたものである。また、MnやCo等を含む複合酸化物からなる第1圧電体層71を形成する場合は、さらに、MnやCo等を有する金属錯体を含有する前駆体溶液を用いる。各金属錯体の混合割合は、各金属が所望のモル比となるように、具体的には、例えばTiとBaのモル比(Ti/Ba)が1の複合酸化物となるように混合すればよい。金属錯体としては、例えば、アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを用いることができる。Biを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸ビスマス、酢酸ビスマスなどが挙げられる。Feを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸鉄、酢酸鉄、トリス(アセチルアセトナート)鉄などが挙げられる。Baを含む金属錯体としては、例えばバリウムイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸バリウム、バリウムアセチルアセトナートなどが挙げられる。Tiを含有する金属錯体としては、例えばチタニウムイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸チタン、チタン(ジ−i−プロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)などが挙げられる。Mnを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸マンガン、酢酸マンガンなどが挙げられる。Coを含む有機金属化合物としては、例えば2−エチルヘキサン酸コバルト、コバルト(III)アセチルアセトナートなどが挙げられる。勿論、金属を二種以上含む金属錯体を用いてもよい。また、前駆体溶液の溶媒としては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、オクタン、デカン、シクロヘキサン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸、オクチル酸などが挙げられる。
次いで、この第1圧電体前駆体膜71aを所定温度(例えば130〜200℃)に加熱して一定時間乾燥させる(第1圧電体層乾燥工程)。次に、乾燥した第1圧電体前駆体膜71aを所定温度(例えば350〜450℃)に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(第1圧電体層脱脂工程)。ここで言う脱脂とは、第1圧電体前駆体膜71aに含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。乾燥工程や脱脂工程の雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。なお、第1圧電体層塗布工程、第1圧電体層乾燥工程及び第1圧電体層脱脂工程はそれぞれ1回ずつでもよいが、第1圧電体層塗布工程、第1圧電体層乾燥工程や第1圧電体層脱脂工程を複数回行ってもよい。図5においては、第1圧電体層塗布工程、第1圧電体層乾燥工程及び第1圧電体層脱脂工程からなる一連の工程を3回おこなって、第1圧電体前駆体膜71aを3層積層した。
次に、図5(d)に示すように、第1圧電体前駆体膜71aを所定温度、例えば600〜850℃程度に加熱して、一定時間、例えば、1〜10分間保持することによって結晶化させ、Bi、Ba、Fe及びTiを含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる第1圧電体膜71bを形成する(第1圧電体層焼成工程)。本実施形態においては、複数の第1圧電体前駆体膜71aを設け一括して焼成する操作を複数回行ったので、図6(a)に示すように、複数の第1圧電体膜71bからなる第1圧電体層71が形成される。この第1圧電体層焼成工程においても、雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。第1圧電体層乾燥工程、第1圧電体層脱脂工程及び第1圧電体層焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
なお、複数の第1圧電体膜71bからなる第1圧電体層71を形成する際には、上記のように第1圧電体層塗布工程、第1圧電体層乾燥工程及び第1圧電体層脱脂工程を繰り返し行った後、複数層をまとめて焼成するようにしてもよいが、第1圧電体層塗布工程、第1圧電体層乾燥工程、第1圧電体層脱脂工程及び第1圧電体層焼成工程を順に行って積層していってもよい。また、本実施形態では、第1圧電体膜71bを積層して設けたが、1層のみでもよい。
次に、第1圧電体層71上に、Bi、Fe、Mn、Ba及びTiを含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなり、TiとBaのモル比であるTi/Baが第1圧電体層71よりも高い第2圧電体層72を形成する。第2圧電体層72の製造方法も特に限定されないが、第1圧電体層71の製造方法と同様に、金属錯体を含む溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる第2圧電体層72を得るMOD法やゾル−ゲル法等の化学溶液法を用いて製造できる。その他、レーザーアブレーション法、スパッターリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、化学蒸着法(CVD法)、エアロゾル・デポジション法など、気相法、液相法や固相法でも、第2圧電体層72を製造できる。
第2圧電体層72を化学溶液法で形成する場合の具体的な形成手順例としては、まず、図6(b)に示すように、第1圧電体層71上に、金属錯体、具体的にはBi、Fe、Ba及びTiを含む金属錯体を含むMOD溶液やゾルからなる第2圧電体層の前駆体溶液を、スピンコート法などを用いて塗布して、第2圧電体前駆体膜72aを形成する(第2圧電体層塗布工程)。
塗布する第2圧電体層の前駆体溶液は、焼成により第2圧電体層72を構成する複合酸化物を形成しうる金属錯体、本実施形態においては焼成によりBi、Ba、Fe及びTiを含む複合酸化物を形成しうる金属錯体を混合し、該混合物を有機溶媒に溶解または分散させたものである。また、MnやCo等を含む複合酸化物からなる第2圧電体層72を形成する場合は、さらに、MnやCo等を有する金属錯体を含有する前駆体溶液を用いる。各金属錯体の混合割合は、各金属が所望のモル比となるように、具体的には、TiとBaのモル比(Ti/Ba)が第1圧電体層71より大きい複合酸化物となるように、好ましくはTi/Baが1.17以上1.45以下やBiとBaのモル比(Bi/Ba)が2.3以上4.0以下の複合酸化物となるように混合すればよい。金属錯体としては、例えば、アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを用いることができる。Biを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸ビスマス、酢酸ビスマスなどが挙げられる。Feを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸鉄、酢酸鉄、トリス(アセチルアセトナート)鉄などが挙げられる。Baを含む金属錯体としては、例えばバリウムイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸バリウム、酢酸バリウム、バリウムアセチルアセトナートなどが挙げられる。Tiを含有する金属錯体としては、例えばチタニウムイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸チタン、チタン(ジ−i−プロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)などが挙げられる。Mnを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸マンガン、酢酸マンガンなどが挙げられる。Coを含む有機金属化合物としては、例えば2−エチルヘキサン酸コバルト、コバルト(III)アセチルアセトナートなどが挙げられる。勿論、Bi、Ba、FeやTi等の金属を二種以上含む金属錯体を用いてもよい。また、第2圧電体層の前駆体溶液の溶媒としては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、オクタン、デカン、シクロヘキサン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸、2−エチルヘキサン酸などが挙げられる。
次いで、この第2圧電体前駆体膜72aを所定温度(例えば、150〜200℃)に加熱して一定時間乾燥させる(第2圧電体層乾燥工程)。次に、乾燥した第2圧電体前駆体膜72aを所定温度(例えば、350〜450℃)に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(第2圧電体層脱脂工程)。ここで言う脱脂とは、第2圧電体前駆体膜72aに含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。第2圧電体層乾燥工程や第2圧電体層脱脂工程の雰囲気も限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。なお、第2圧電体層塗布工程、第2圧電体層乾燥工程及び第2圧電体層脱脂工程はそれぞれ1回ずつでもよいが、第2圧電体層塗布工程、第2圧電体層乾燥工程及び第2圧電体層脱脂工程を複数回行ってもよい。図6(b)においては、第2圧電体層塗布工程、第2圧電体層乾燥工程及び第2圧電体層脱脂工程からなる一連の工程を3回おこなって、第2圧電体前駆体膜72aを3層積層した。
次に、図6(c)に示すように、第2圧電体前駆体膜72aを所定温度、例えば600〜850℃程度に加熱して、一定時間、例えば、1〜10分間保持することによって結晶化させ、Bi、Ba、Fe及びTiを含みペロブスカイト構造を有し、Ti/Baが第1圧電体膜71bよりも高い複合酸化物からなる第2圧電体膜72bを形成する(第2圧電体層焼成工程)。図6においては、複数の第2圧電体前駆体膜72aを設けたので、複数の第2圧電体膜72bからなる第2圧電体層72が形成される。この第2圧電体層焼成工程の雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。第2圧電体層乾燥工程、第2圧電体層脱脂工程及び第2圧電体層焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA装置やホットプレート等が挙げられる。なお、複数の第2圧電体膜72bからなる第2圧電体層72を形成する際には、上記のように第2圧電体層塗布工程、第2圧電体層乾燥工程及び第2圧電体層脱脂工程を繰り返し行った後、複数層をまとめて焼成するようにしてもよいが、第2圧電体層塗布工程、第2圧電体層乾燥工程、第2圧電体層脱脂工程及び第2圧電体層焼成工程を順に行って積層していってもよい。また、本実施形態では、第2圧電体膜72bを積層して設けたが、1層のみでもよい。
このような第1圧電体層71及び第2圧電体層72からなる圧電体層70は、後述する実施例に示すように、クラックの発生が抑制されたものとすることができる。また、所定の第2圧電体層72を有する圧電体層70としても、第1圧電体層71のみからなる圧電体層と同様の歪量を得ることができる。
また、このような製造方法においては、第2圧電体層72は、この第2圧電体層72と同様にBi、Ba、Fe及びTiを含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる第1圧電体層71上に設けられるため、第2圧電体層72は第1圧電体層71に連続して結晶を成長させることができる。
このように圧電体層70を形成した後は、図7(a)に示すように、圧電体層70上に白金等からなる第2電極80をスパッターリング法等で形成し、各圧力発生室12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、第1電極60と圧電体層70と第2電極80を有する圧電素子300を形成する。なお、圧電体層70と第2電極80とのパターニングでは、所定形状に形成したレジスト(図示なし)を介してドライエッチングすることにより一括して行うことができる。その後、必要に応じて、600℃〜800℃の温度域でポストアニールを行ってもよい。これにより、圧電体層70と第1電極60や第2電極80との良好な界面を形成することができ、かつ、圧電体層70の結晶性を改善することができる。
次に、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングする。
次に、図7(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後に、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
次に、図8(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、マスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
そして、図8(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜52を除去した後にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(サンプル1)
まず、(110)に配向した単結晶シリコン基板の表面に熱酸化により膜厚1170nmの二酸化シリコン膜を形成した。次に、二酸化シリコン膜上にRFマグネトロンスパッター法により膜厚20nmのチタン膜を形成し、熱酸化することで酸化チタン膜を形成した。次に、酸化チタン膜上にRFマグネトロンスパッター法により膜厚130nmの白金膜を形成して第1電極60とした。
次いで、第1電極60上に、Bi、Ba、Fe、Mn及びTiを含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる第1圧電体層71を形成した。その手法は以下のとおりである。まず、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸チタンの各n−オクタン溶液を混合し、Bi:Ba:Fe:Mn:Tiのモル比が、Bi:Ba:Fe:Mn:Ti=75.0:25.0:71.3:3.8:25.0となるように混合して、第1圧電体層の前駆体溶液を調製した。
次いで、第1圧電体層の前駆体溶液を、第1電極60上に滴下し、500rpmで5秒間回転後、3000rpmで基板を20秒回転させてスピンコート法により第1圧電体前駆体膜71aを形成した(第1圧電体層塗布工程)。次に、ホットプレート上に基板を載せ、180℃で3分間乾燥した(第1圧電体層乾燥工程)。次いで、ホットプレート上に基板を載せ、350℃で3分間脱脂を行った(第1圧電体層脱脂工程)。この第1圧電体層塗布工程、第1圧電体層乾燥工程及び第1圧電体層脱脂工程からなる工程を3回繰り返した後に、酸素雰囲気中で、RTA装置で、800℃で5分間焼成を行った(第1圧電体層焼成工程)。次いで、上記の工程を3回繰り返し、計9回の塗布により第1圧電体層71を形成した。
次いで、この第1圧電体層71上に、Bi、Ba、Fe、Mn及びTiを含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる第2圧電体層72を形成した。その手法は以下のとおりである。まず、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸チタンの各n−オクタン溶液を混合し、Bi、Ba、Fe、Mn、Tiのモル比が、Bi:Ba:Fe:Mn:Ti=75.0:25.0:71.3:3.8:25.0となるように混合して、第2圧電体層の前駆体溶液を調製した。
次いで、この第2圧電体層の前駆体溶液を第1圧電体層71上に滴下し、500rpmで5秒間回転後、3000rpmで基板を20秒回転させてスピンコート法により第2圧電体前駆体膜72aを形成した(第2圧電体層塗布工程)。次に、ホットプレート上に基板を載せ、180℃で3分間乾燥した(第2圧電体層乾燥工程)。次いで、ホットプレート上に基板を載せ、350℃で3分間脱脂を行った(第2圧電体層脱脂工程)。この第2圧電体層塗布工程、第2圧電体層乾燥工程及び第2圧電体層脱脂工程からなる工程を3回繰り返した後に、酸素雰囲気中で、RTA装置で、800℃で5分間焼成を行うことにより、第2圧電体層72を形成した(第2圧電体層焼成工程)。以上の工程により、9回の第1圧電体層の前駆体溶液の塗布による厚さ675nmの第1圧電体層71と、3回の第2圧電体層の前駆体溶液の塗布による厚さ225nmの第2圧電体層72とからなる圧電体層70を形成した。
その後、圧電体層70上に、第2電極80としてDCスパッター法により膜厚100nmの白金膜を形成した後、RTA装置を用いてO2フローのもと700℃で5分間焼成を行うことで、圧電素子を形成した。
(サンプル2〜9)
第2圧電体層の前駆体溶液のBi:Ba:Fe:Mn:Tiのモル比を、表1に示す組成比となるようにした以外はサンプル1と同様の操作を行った。表1に、TiとBaのモル比であるTi/Baの値も併記する。
(試験例1)
サンプル1〜9について、第2電極80を形成する前の圧電体層70について、形成直後の断面を、50,000倍の走査電子顕微鏡(SEM)により観察した。結果の一例として、サンプル3をSEM観察した結果を図9に示す。この結果、サンプル1は圧電体層70が単層であったが、図9に示すように、サンプル2〜9では第1圧電体層71と第2圧電体層72の境界が明確であり2層構造になっていた。
(試験例2)
サンプル1〜9について、Bruker AXS社製の「D8 Discover」を用い、X線源にCuKα線を使用し、室温で、第1圧電体層71及び第2圧電体層72からなる圧電体層70のX線回折パターンを求めた。回折強度−回折角2θの相関関係を示す図であるX線回折パターンの一例を、図10及び図11に示す。この結果、サンプル1〜9の全てにおいて、ペロブスカイト構造に起因するピークと、基板由来のピークが観測された。具体的には、ペロブスカイト構造単相からなる圧電体層70に起因する(100)のピークが23°付近に、(110)のピークが32°付近に、白金に起因する(111)のピークが40°付近に確認され、異相は確認されなかった。
(試験例3)
サンプル1〜9において、第2電極80を形成する前の圧電体層70について、5日間放置した後、圧電体層70のクラックの発生の有無を確認した。圧電体層70の表面を500倍の金属顕微鏡により観察した。結果を表1に示す。
第2圧電体層72のTiとBaのモル比(Ti/Ba)が、第1圧電体層71のTiとBaのモル比(Ti/Ba)より大きいサンプル2〜9では、クラックが発生していなかった。一方、第2圧電体層72と、第1圧電体層71が同じであるサンプル1では、クラックが発生していた。
(試験例4)
サンプル1〜9の各圧電素子について、アグザクト社製の変位測定装置(DBLI)を用い室温で、φ=500μmの電極パターンを使用し、周波数1kHzで30Vの電圧を印加して、電界誘起歪(変位量)を求めた。結果を表1に示す。
この結果、表1に示すように、第2圧電体層72のTi/Baが、第1圧電体層71のTi/Baより大きいサンプル2〜9は、第2圧電体層72と第1圧電体層71が同じであるサンプル1と同等の変位量であり、Ti/Baが第1圧電体層71のTi/Baより大きい第2圧電体層72を設けることにより、変位量が低下しないことが確認された。
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
さらに、上述した実施形態では、基板(流路形成基板10)上に第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を順次積層した圧電素子300を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子にも本発明を適用することができる。
また、これら実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図12は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
図12に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動可能に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
なお、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
また、本発明にかかる圧電素子は、液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子に限定されず、その他のデバイスにも用いることができる。その他のデバイスとしては、例えば、超音波発信器等の超音波デバイス、超音波モーター、温度−電気変換器、圧力−電気変換器、強誘電体トランジスター、圧電トランス、赤外線等の有害光線の遮断フィルター、量子ドット形成によるフォトニック結晶効果を使用した光学フィルター、薄膜の光干渉を利用した光学フィルター等のフィルターなどが挙げられる。また、センサーとして用いられる圧電素子、強誘電体メモリーとして用いられる圧電素子にも本発明は適用可能である。圧電素子が用いられるセンサーとしては、例えば、赤外線センサー、超音波センサー、感熱センサー、圧力センサー、焦電センサー、及びジャイロセンサー(角速度センサー)等が挙げられる。