JP2013159814A - 金属構造体、錠剤を打錠する杵又は臼、錠剤、及び金属構造体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】剥離性及び耐久性に優れた金属構造体及びその金属構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の1つの金属構造体の製造方法は、鉄を含む母材金属1の少なくとも一部の表面上にフッ化化合物が存在する状態を形成するフッ化化合物準備工程と、そのフッ化化合物及びその表面に対してエネルギービームを照射する照射工程を含む。その結果、母材金属1の少なくとも一部の表面において、母材金属1の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内に母材金属1に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成される。
【選択図】図1
【解決手段】本発明の1つの金属構造体の製造方法は、鉄を含む母材金属1の少なくとも一部の表面上にフッ化化合物が存在する状態を形成するフッ化化合物準備工程と、そのフッ化化合物及びその表面に対してエネルギービームを照射する照射工程を含む。その結果、母材金属1の少なくとも一部の表面において、母材金属1の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内に母材金属1に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成される。
【選択図】図1
Description
本発明は、金属構造体及びその製造方法、並びに錠剤を打錠する杵又は臼、及びその杵又は臼で打錠された錠剤に関する。
従来、金属構造体の表面を高分子膜で覆う塗料によるコーティングや各種めっき処理は、食品及び医薬分野等の工業用金型や家庭用金属製品の剥離性の向上のため、あるいは耐腐食性付与手段として広く採用されている。例えば、フライパン、電気炊飯器の内釜等の家庭用金属製品おいては、基材となる金属材料の表面にフッ素系樹脂層からなるコーティング層を形成することが一般的に行われている(例えば、特許文献1など)。
一方、医薬品分野における、薬剤粉末を加圧成形して錠剤に加工する打錠機を構成する杵と臼は、頻繁に繰り返される加圧成形操作に対応可能な高い機械的強度が要求される。そのため、その基材を超硬合金や合金工具鋼を用いて形成した上で、さらに腐食対策として杵や臼の表面をTi、窒化チタン、窒化クロム等によってコーティングする技術が開示されている(例えば、特許文献2など)。
しかしながら、金属構造体の表面を覆う材料を用いてその表面の改質や改良を検討する場合、その材料の耐熱性、耐久性、あるいは母材金属との密着性が常に問題となる。例えば、フッ素系樹脂をコーティング層とした場合、硬度や耐熱性が十分に得られない。また、フッ素樹脂コーティングされた金属構造体は、基材となる金属材料の表面とフッ素樹脂コーティング膜との結合力が比較的弱いため、長期間使用することによってフッ素樹脂コーティング膜が金属材料の表面から剥離するという問題が生じやすい。
また、上述の打錠機を例にとれば、母材金属に超硬合金や合金工具鋼を用いた杵や臼は、母材金属の表面を覆う膜の一部に剥がれ等が生じると、表面に現れた超硬合金や合金工具鋼に薬剤粉末が付着しやすくなる。特に薬剤粉末自身が付着性物質を含む場合には、打錠が頻繁に繰り返されることにより、杵又は臼の表面からの薬剤粉末の剥離性の悪化が顕著になる。このように、杵又は臼の表面からの薬剤粉末の剥離性が悪化すると、杵や臼の表面に薬剤粉末が付着した状態で打錠されたときに、錠剤表面の荒れ、割れ、又は欠け等という、いわゆる打錠障害が生じることになる。そのような問題の発生を極力抑えるため、例えば錠剤の生産現場では日常的に杵の表面を清掃する必要があるため、錠剤の生産性が著しく低下することになる。
本発明は、上述の技術課題の少なくとも1つを解消し、剥離性及び耐久性に優れた金属構造体及びその金属構造体の製造方法の実現に大いに貢献するものである。
本願発明者らは、金属構造体の表面を塗料等によって覆う技術や各種のめっき技術とは異なり、金属構造体自身の表面の物性、特に、鉄を含む合金、例えば、工具鋼、高速度工具鋼、更に、ステンレス鋼、アルミ合金、銅合金、チタン合金、ニッケル合金、マグネシウム合金等の合金鋼母材表面から深さ方向に非常に浅い領域の物性に着目し、その改質、改良に向けた研究と分析に鋭意取り組んだ。その結果、発明者らは、母材金属の表面から深さ方向に非常に浅い領域(例えば、最表面から2nm〜3nmの深さ)内にフッ素が導入されると、そのフッ素が母材金属の表面の物性の改質、改良に大きく寄与していると考えられる知見を得た。加えて、発明者らは、母材金属の表面上又はその近傍(以下、総称して「母材金属の表面上」というにフッ化化合物が存在する状態でエネルギービームを照射することにより、非常に簡単に前述の領域内にフッ素を導入することができることを見出した。本発明は、上述の視点に基づいて創出されたものである。
本発明の1つの金属構造体の製造方法は、鉄を含む母材金属の少なくとも一部の表面上に、フッ化化合物が存在する状態を形成する、フッ化化合物準備工程と、そのフッ化化合物及び前記表面に対してエネルギービームを照射する照射工程とを含む。
この金属構造体の製造方法によれば、鉄を含む母材金属の少なくとも一部の表面において、その母材金属の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内にその母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成される。その結果、良好な剥離性と、耐久性ないし信頼性を備えた金属構造体を形成することが可能となる。
また、本発明の1つの金属構造体は、鉄を含む母材金属の少なくとも一部の表面において、その母材金属の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内にその母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成されている。
この金属構造体によれば、母材金属の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内にその母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成されている。その結果、母材金属の表面を覆うコーティング膜が剥がれるというような現象は生じないため、耐久性ないし信頼性を向上させることができる。加えて、この金属構造体によれば、より良好な剥離性を有する金属構造体を提供することができる。
また、本発明の1つの金属構造体の製造方法によれば、鉄を含む母材金属の少なくとも一部の表面において、その母材金属の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内にその母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成される。その結果、良好な剥離性と、耐久性ないし信頼性を備えた金属構造体を形成することが可能となる。
本発明の1つの金属構造体によれば、耐久性ないし信頼性の高い金属構造体を実現することができる。加えて、この金属構造体によれば、より良好な剥離性を有する金属構造体を提供することができる。
本実施形態における金属構造体及びその製造方法、並びにその金属構造体を用いて製造されるもの(以下の各実施例では、錠剤)を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
<第1実施形態>
1.本実施形態の金属構造体の構成
図1は、本実施形態の金属構造体100の構成を示す図である。
1.本実施形態の金属構造体の構成
図1は、本実施形態の金属構造体100の構成を示す図である。
本実施形態の金属構造体100は、鉄を含む母材金属1と母材金属1の少なくとも一部の表面において、フッ化物形成領域5を備える。具体的な分析結果は後述するが、フッ化物形成領域5においては、母材金属1の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nm(例えば、2nm〜3nm)の深さまでの領域内で、その母材金属1に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成される。なお、母材金属1は、構造用鋼、鋳鉄以外の鉄を含有する金属であればよく、例えば成分に鉄を含む工具鋼、高速度工具鋼、超硬合金、更にステンレス鋼、アルミ合金、銅合金、チタン合金、ニッケル合金、マグネシウム合金等の合金鋼母材の他、炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼なども含まれる。
図2は、本実施形態の金属構造体の一例である打錠機10の要部構成を示す概略図である。打錠機10は、薬剤粉末を、上杵10A、下杵10B、及び臼12を用いて成形することにより錠剤に加工する。なお、本実施形態の錠剤は、打錠機に設けられた一対の杵と臼とを用いて薬剤粉末を圧縮成形することにより打錠される。具体的には、以下の(1)〜(3)の工程を経て錠剤が形成される。
(1)回転盤に付設された臼12内に臼孔13を形成し、臼孔13の下方に配置した下杵10Bの位置を調整して臼孔13内の空間を所定容積に設定する。
(2)この臼孔13内に粉末薬剤等の薬剤粉末を収納した後、さらに下杵10Bの位置を微調整し、臼孔13内の粉末薬剤量を定量化した後、上杵10Aで圧縮して錠剤を成形する。
(3)その後、下杵10Bで押し上げて成形された錠剤を臼孔13内から取り出す。
本実施形態の上杵10A、下杵10B、及び臼12を用いて打錠される錠剤は、薬剤、健康食品、菓子、医薬部外品を含む種々の用途に利用できる。
(1)回転盤に付設された臼12内に臼孔13を形成し、臼孔13の下方に配置した下杵10Bの位置を調整して臼孔13内の空間を所定容積に設定する。
(2)この臼孔13内に粉末薬剤等の薬剤粉末を収納した後、さらに下杵10Bの位置を微調整し、臼孔13内の粉末薬剤量を定量化した後、上杵10Aで圧縮して錠剤を成形する。
(3)その後、下杵10Bで押し上げて成形された錠剤を臼孔13内から取り出す。
本実施形態の上杵10A、下杵10B、及び臼12を用いて打錠される錠剤は、薬剤、健康食品、菓子、医薬部外品を含む種々の用途に利用できる。
より具体的には、図2に示すように、本実施形態の打錠機10における臼12は、上杵10A及び下杵10Bが摺動可能なように紙面上下方向に貫通する臼孔13を備えている。まず、成形される錠剤の容積分の空間を形成するために、臼孔13内の下杵10Bの位置を定める。その後、臼孔13内に薬剤粉末が導入される。その状態で、上杵10Aが臼孔13内に挿入され、薬剤粉末が上杵10Aと下杵10Bとによって圧縮成形される。その後、例えば下杵10Bを上昇させて臼孔13から離間させると、錠剤が製造される。
ここで、本実施形態の上杵10A及び下杵10Bは、薬剤粉末を圧縮する打錠表面14にフッ化物形成領域5を備えている。このフッ化物形成領域5は、打錠表面14に成形した薬剤粉末が付着して錠剤表面の荒れ、割れ、又は欠け等という、いわゆる打錠障害が生じるのを防ぐとともに、打錠表面14の耐久性ないし信頼性を向上させる。
2.金属構造体の製造方法
次に、金属構造体の製造方法を説明する。
次に、金属構造体の製造方法を説明する。
本実施形態の金属構造体の製造方法は、以下の(1)及び(2)の工程とを含む。
(1)フッ化化合物準備工程
(2)照射工程
これらの工程を経ることにより、母材金属1の少なくとも一部の表面において、母材金属1の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nm(例えば2nm〜3nm)の深さまでという表面から非常に浅い領域内で、母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成される。
(1)フッ化化合物準備工程
(2)照射工程
これらの工程を経ることにより、母材金属1の少なくとも一部の表面において、母材金属1の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nm(例えば2nm〜3nm)の深さまでという表面から非常に浅い領域内で、母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成される。
(1)フッ化化合物準備工程
本実施形態のフッ化化合物準備工程においては、フッ素化合物溶液を、母材金属1の表面に後述する噴霧部20を用いて噴霧することにより、母材金属1上にフッ化化合物が存在する状態を形成する。本実施形態では、さらに、照射工程において、母材金属1上のフッ化化合物及び母材金属1に対して電子ビームを照射する。なお、後述するように、前述の混合液を噴霧しながらエネルギービーム(本実施形態では、電子ビーム)を照射しても良いし、前述の混合液を噴霧した後でエネルギービームを照射しても良い。但し、より確度高く、母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態を形成するためには、混合液を噴霧しながらエネルギービームを照射することが好ましい。
本実施形態のフッ化化合物準備工程においては、フッ素化合物溶液を、母材金属1の表面に後述する噴霧部20を用いて噴霧することにより、母材金属1上にフッ化化合物が存在する状態を形成する。本実施形態では、さらに、照射工程において、母材金属1上のフッ化化合物及び母材金属1に対して電子ビームを照射する。なお、後述するように、前述の混合液を噴霧しながらエネルギービーム(本実施形態では、電子ビーム)を照射しても良いし、前述の混合液を噴霧した後でエネルギービームを照射しても良い。但し、より確度高く、母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態を形成するためには、混合液を噴霧しながらエネルギービームを照射することが好ましい。
該フッ素化合物溶液の代表的な例は、芳香族化合物の水素をフッ素に置換した化合物である。特に、該芳香族化合物がベンゼンの場合は、パーフルオロベンゼンをフッ素化合物溶液として適用できる。より具体的なパーフルオロベンゼンの例は、ヘキサフルオロベンゼン(C6H6),ペンタフルオロベンゼン(C6HF5)、及びトリフルオロベンゼン(C6H3F3)等である。また、該芳香族化合物がトルエンの場合は、例えば、オクタフルオロトルエンをフッ素化合物溶液として適用できる。なお、フッ素化合物溶液に、減圧環境下でのフッ素化合物溶液の凍結を防止することを目的としてアルコールを混合してもよい。アルコールとしては、例えば、エタノール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、イソプロピルアルコールを用いることができる。また、アルコールは、無水アルコール、含水アルコールのいずれでもよい。特に、無水アルコールを採用することは、凍結防止効果がより向上して、気温の低い環境下においてもフッ化化合物準備工程をスムーズに進めることが可能となるため、好適である。なお、上述の混合液におけるアルコールは、特に減圧環境下におけるフッ素化合物溶液の凍結を防止する目的で混合されているため、アルコールは上述の混合液に混合されなくてもよい。
次に、本実施形態における混合液の噴霧方法について説明する。図3は、本実施形態における金属構造体の製造装置200の構成を示す概略図である。この金属構造体の製造装置200は、密閉可能なチャンバー110と、噴霧工程を担う噴霧部20、及び照射工程を担うエネルギービーム(本実施形態では、電子ビーム)照射部30を備える。なお、上記構成に加えて、チャンバー110からの排気を促す排気ポンプ90が設けられている。また、図3中の丸印は、後述する「混合液のミスト」を便宜上表している。
本実施形態の噴霧部20は、フッ素化合物溶液(本実施形態では、ヘキサフルオロベンゼン)を貯留する容器23と、容器23から該混合液を金属構造体の製造装置200内に送給するポンプ24及び配管25を備える。図3に示すように、配管25の先端には、被処理対象となる母材金属1に対して該混合液を霧状に吐出するノズル22が設けられている。したがって、このポンプ24により、容器23内の混合液は、配管25を経由してノズル22からミストとして吐出される。
チャンバー110内には、ステージ60上に被処理対象となる母材金属1が載置される。ここで、本実施形態では、図3に示すように、母材金属1の表面のみを処理するために母材金属1の側面を保護する保護カバー61が設けられる。そのため、母材金属1にとっては、ノズル22より噴霧された混合液(ミスト状の混合液)が母材金属1の表面上にのみ付着又は存在することになる。
また、金属構造体の製造装置200内の気体及び混合液のミストは、排気ポンプ90によって金属構造体の製造装置200内から除去されるが、このミストの存在により、チャンバー110内の圧力は、図示しない制御部により、3Pa以上100Pa以下に制御される。加えて、図示しない制御部により、本実施形態では、ノズル22から吐出する混合液の量は、5μL(マイクロリットル)/秒以上100μL/秒以下に制御される。
(2)照射工程
本実施形態の照射工程では、ノズル22からアルコールとフッ素化合物溶液との混合液のミストを連続的に噴霧しながら、母材金属1上に付着又は存在するフッ化化合物及び母材金属1に対してエネルギービームを照射する。この場合は、少なくとも、フッ素化合物を含有する混合液のミストをノズル22から噴霧する「フッ化化合物準備工程」がエネルギービームの「照射工程」と同時に行われる時間帯が存在することになる。なお、本実施形態の他の採用例として、例えば、フッ素化合物を含有する混合液のミストをノズル22から噴霧する「フッ化化合物準備工程」後、母材金属1上に付着又は存在するフッ化化合物及び母材金属1に対してエネルギービームが照射することも採用し得る他の一態様である。また、本実施形態における金属構造体の製造方法に用いるエネルギービームには、電子ビーム、レーザービームが含まれる。
本実施形態の照射工程では、ノズル22からアルコールとフッ素化合物溶液との混合液のミストを連続的に噴霧しながら、母材金属1上に付着又は存在するフッ化化合物及び母材金属1に対してエネルギービームを照射する。この場合は、少なくとも、フッ素化合物を含有する混合液のミストをノズル22から噴霧する「フッ化化合物準備工程」がエネルギービームの「照射工程」と同時に行われる時間帯が存在することになる。なお、本実施形態の他の採用例として、例えば、フッ素化合物を含有する混合液のミストをノズル22から噴霧する「フッ化化合物準備工程」後、母材金属1上に付着又は存在するフッ化化合物及び母材金属1に対してエネルギービームが照射することも採用し得る他の一態様である。また、本実施形態における金属構造体の製造方法に用いるエネルギービームには、電子ビーム、レーザービームが含まれる。
本実施形態では、フッ化化合物が存在する状態を形成している母材金属1の表面に電子ビームを照射する。電子ビームのエネルギーによって、フッ化化合物及び母材金属が局所的に加熱される。その結果、後述するX線光電子分光法を用いた分析結果によれば、母材金属1の少なくとも一部の表面において、母材金属1の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内で、母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成される。
図4は、ビーム照射工程に使用するエネルギービーム照射部30の構成を示す概略図である。気体が排気され、混合液のミストによって上述の圧力範囲内に制御されたチャンバー110内に配置されるエネルギービーム照射部30は、フッ化化合物が付着又は存在する状態を形成している母材金属1に対してエネルギービーム(電子ビーム)4を照射する。本実施形態のエネルギービーム照射部30は、図4に示すように、ヒーター38を加熱して電子を放射する電子銃32と、電子銃32から放射される電子線を電子ビーム4となるように磁界で集束させる集束コイル33と、磁界を利用して集束された電子ビーム4を母材金属1の表面に対して走査させるための偏向コイル34とを備える。
電子銃32は、ヒーター38が加熱されて熱電子を放出するカソード35と、カソード35から放出される電子の数、すなわち電子ビーム4の電流値をコントロールするバイアス電極36と、電子ビーム4を加速するアノード37とを備える。電源70から、カソード35とバイアス電極36に対しては負電圧が、アノード37に対しては高電圧の正電圧が、それぞれ供給される。電子銃32から放射される電子ビーム4は、集束コイル33により母材金属1の表面に所定の面積のスポットとなるように集束される。さらに、偏向コイル34を用いて電子ビーム4を走査することにより、母材金属1の全面に電子ビーム4を照射することが可能となる。
電子ビーム4のエネルギーは、アノード37の加速電圧と、バイアス電極36の負電圧による電子ビーム4の電流値と、偏向コイル34による走査速度とによって制御することができる。例えば、アノード37の加速電圧を高く、バイアス電極36の負電圧を小さく、電子ビーム4を集束するスポットの面積を小さく、さらに電子ビーム4の走査速度を遅くすることによって、照射領域のエネルギー密度を高くできる。なお、照射される電子ビームの運動エネルギー値を適切に設定する観点から、電子ビームの加速電圧は、20kV以上100kV以下であることが好ましい。
エネルギービーム照射部30が母材金属1の表面に照射する電子ビーム4のエネルギーの値は、混合液の組成と母材金属1の種類により適宜調整される。上述の方法により、図1に示すように、母材金属1の照射部位にフッ化物形成領域5が形成される。なお、図1では、母材金属1の表面全体がフッ化物形成領域5を形成している例を示している。
上述のとおり、金属フッ化物含有層に電子ビーム4を照射することよって、母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成されるが、電子ビームの代わりにレーザービームが照射されても、同様の結果が得られる。したがって、電子ビームの代わりにレーザービームのエネルギーを用いることにより、母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態を形成することも採用し得る他の一態様である。
本実施形態の金属構造体の製造方法は、フッ素化合物溶液(例えば、パーフルオロベンゼンの溶液)を、母材金属の表面に噴霧するという、極めて簡易なフッ化化合物準備工程と、エネルギービームを照射する照射工程とを含む。これらの工程により、母材金属の少なくとも一部の表面において、母材金属の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内で、母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成される。その結果、後述するように、良好な剥離性と耐久性を備えた金属構造体を形成することが可能となる。
<第2実施形態>
本実施形態では、第1実施形態におけるフッ化化合物準備工程が、母材金属の表面をフッ素化合物溶液の蒸気に曝露することによってその母材金属上にフッ化化合物が存在する状態を形成するという工程に変更された点を除いて、第1実施形態と同じである。従って、第1実施形態の金属構造体の製造方法と重複する説明は省略され得る。
本実施形態では、第1実施形態におけるフッ化化合物準備工程が、母材金属の表面をフッ素化合物溶液の蒸気に曝露することによってその母材金属上にフッ化化合物が存在する状態を形成するという工程に変更された点を除いて、第1実施形態と同じである。従って、第1実施形態の金属構造体の製造方法と重複する説明は省略され得る。
(1)フッ化化合物準備工程
本実施形態においては、フッ化化合物準備工程において、フッ素化合物溶液を加熱して蒸気にした後、母材金属1の表面に該混合液の蒸気を曝露させる。本実施形態では、この蒸気に曝露することにより、母材金属1上にフッ化化合物が存在する状態が形成される。具体的には、以下のとおりである。
本実施形態においては、フッ化化合物準備工程において、フッ素化合物溶液を加熱して蒸気にした後、母材金属1の表面に該混合液の蒸気を曝露させる。本実施形態では、この蒸気に曝露することにより、母材金属1上にフッ化化合物が存在する状態が形成される。具体的には、以下のとおりである。
図5は、本実施形態における金属構造体の製造装置300の構成を示す概略図である。
この金属構造体の製造装置300は、密閉可能なチャンバー110と、曝露工程を担う混合液の蒸気生成部40、及び照射工程を担うエネルギービーム(本実施形態では電子ビーム)照射部30を備える。なお、本実施形態においても、上記構成に加えて、チャンバー110からの排気を促す排気ポンプ90が設けられている。また、図5中の丸印は、後述する「混合液の蒸気」を便宜上表している。
この金属構造体の製造装置300は、密閉可能なチャンバー110と、曝露工程を担う混合液の蒸気生成部40、及び照射工程を担うエネルギービーム(本実施形態では電子ビーム)照射部30を備える。なお、本実施形態においても、上記構成に加えて、チャンバー110からの排気を促す排気ポンプ90が設けられている。また、図5中の丸印は、後述する「混合液の蒸気」を便宜上表している。
本実施形態の蒸気生成部40は、フッ素化合物溶液を加熱して蒸気化させたものを貯留する容器43、必要に応じて容器43からフッ素化合物溶液の蒸気を金属構造体の製造装置300内に送給するキャリアガス(本実施形態では、窒素ガス)の供給部42、該混合液の蒸気と、キャリアガスとの混合室44、及び配管45を備える。したがって、混合室44においてキャリアガスと混合された蒸気が、配管45を経由してチャンバー110内に送られる。なお、キャリアガスが無く容器43からのフッ素化合物溶液の蒸気のみが送給されることも採用し得る他の一態様である。
チャンバー110内には、ステージ60上に被処理対象となる母材金属1が載置される。本実施形態においても、母材金属1の表面のみを処理するために母材金属1の側面を保護する保護カバー61が設けられる。そのため、母材金属1にとっては、チャンバー110内に存在する混合液の蒸気は母材金属1の表面上にのみ付着又は存在することになる。
また、金属構造体の製造装置300内の気体及び混合液の蒸気は、排気ポンプ90によって金属構造体の製造装置300内から除去されるが、この蒸気の存在により、チャンバー110内の圧力は、図示しない制御部により、3Pa以上100Pa以下に制御される。加えて、図示しない制御部により、本実施形態では、チャンバー110内に導入される混合液の蒸気の量は、5μL(マイクロリットル)/秒以上100μL/秒以下に制御される。なお、本実施形態では、混合室44において、混合液の蒸気の濃度が所望の濃度になるように調整される。
ところで、本実施形態におけるキャリアガスの供給部42には、清浄な空気を送給するコンプレッサが用いられても良く、また、窒素ガス又はその他の不活性ガスのガスボンベが用いられても良い。また、これらのキャリアガスは必要に応じて水分量(湿度)が調整されたものであってもよい。母材金属1の表面上に付着又は存在させる蒸気の混合液の濃度制御は、例えば、混合液の曝露時間を調整することによって実現され得る。
(2)照射工程
本実施形態では、蒸気に含まれるフッ化化合物が存在する状態を形成している母材金属1の表面に電子ビームを照射する。電子ビームのエネルギーによって、フッ化化合物及び母材金属が局所的に加熱される。その結果、後述するX線光電子分光法を用いた分析結果によれば、母材金属1の少なくとも一部の表面において、母材金属1の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内でフッ素が母材金属1に含まれる鉄と結合している状態が形成される。
本実施形態では、蒸気に含まれるフッ化化合物が存在する状態を形成している母材金属1の表面に電子ビームを照射する。電子ビームのエネルギーによって、フッ化化合物及び母材金属が局所的に加熱される。その結果、後述するX線光電子分光法を用いた分析結果によれば、母材金属1の少なくとも一部の表面において、母材金属1の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内でフッ素が母材金属1に含まれる鉄と結合している状態が形成される。
なお、照射工程においては、母材金属1の表面をフッ素化合物溶液の蒸気に曝露させながら、上述のエネルギービームを照射してもよい。
本実施形態の金属構造体の製造方法は、母材金属1の表面を、フッ素化合物溶液の蒸気に曝露するという、極めて簡易なフッ化化合物準備工程と、エネルギービームでフッ素を母材金属の表面に含まれる鉄と効率よく結合させる照射工程とを備える。これらの工程により、第1実施形態と同様の効果が奏され得る。
<第3実施形態>
本実施形態は、第1実施形態におけるフッ化化合物準備工程が変更された点を除いて、第1実施形態と同じである。従って、第1実施形態の金属構造体の製造方法と重複する説明は省略され得る。
本実施形態は、第1実施形態におけるフッ化化合物準備工程が変更された点を除いて、第1実施形態と同じである。従って、第1実施形態の金属構造体の製造方法と重複する説明は省略され得る。
本実施形態のフッ化化合物準備工程は、以下の(a)〜(c)の工程を含む。
(a)母材金属1の表面にバインダーを塗布する
(b)その後、ショットピーニング処理により金属フッ化物からなる金属粉末をその表面に投射する
(c)さらにその後、フッ素化合物溶液をその表面に噴霧するか、又はフッ素化合物溶液の蒸気にその表面を曝露する
具体的には、以下のとおりである。
(a)母材金属1の表面にバインダーを塗布する
(b)その後、ショットピーニング処理により金属フッ化物からなる金属粉末をその表面に投射する
(c)さらにその後、フッ素化合物溶液をその表面に噴霧するか、又はフッ素化合物溶液の蒸気にその表面を曝露する
具体的には、以下のとおりである。
(1)フッ化化合物準備工程
A.金属フッ化物含有層の形成工程
本工程では、まず、母材金属1の表面にバインダーを塗布し、その後、ショットピーニング処理により、母材金属1と異なる金属のフッ化物である金属フッ化物の粉末を母材金属1の表面に投射する。これにより、母材金属1の表面に金属フッ化物を含有する膜(金属フッ化物含有層という)を付着させる。なお、前述の金属フッ化物は、代表的には、W、C、B、Ti、Ni、Cr、Si、Mo、Ba、Be、Ca、Co、Cu、Mg、Mn、Nb、V、Sの金属のフッ化物である。また、金属フッ化物は、上述の2以上の異なる金属フッ化物の粒を混合したものを使用することも採用し得る他の一態様である。
A.金属フッ化物含有層の形成工程
本工程では、まず、母材金属1の表面にバインダーを塗布し、その後、ショットピーニング処理により、母材金属1と異なる金属のフッ化物である金属フッ化物の粉末を母材金属1の表面に投射する。これにより、母材金属1の表面に金属フッ化物を含有する膜(金属フッ化物含有層という)を付着させる。なお、前述の金属フッ化物は、代表的には、W、C、B、Ti、Ni、Cr、Si、Mo、Ba、Be、Ca、Co、Cu、Mg、Mn、Nb、V、Sの金属のフッ化物である。また、金属フッ化物は、上述の2以上の異なる金属フッ化物の粒を混合したものを使用することも採用し得る他の一態様である。
ここで、バインダーは、後の工程におけるエネルギービームの照射によって消失されるものが選択される。すなわち、このバインダーは、電子ビームやレーザービームのエネルギーによって金属フッ化物の粒が母材金属に溶融状態で結合するよりも前に、金属フッ化物の粒を母材金属に、いわば仮に結合させることに寄与する。したがって、本実施形態のバインダーは、電子ビームやレーザービームの照射によって金属フッ化物粒が溶融して母材金属に結合するまで、金属フッ化物の粒を母材金属に一時的に結合する状態を維持すれば足りる。前述のとおり、このバインダーはエネルギービームによって消失し得るが、必ずしもバインダーの全ての成分を完全に消失させる必要はない。エネルギービームによって、バインダーに含まれる成分の一部(例えば、シリコン)を母材金属又は、金属フッ化物粒と母材金属1との化合物に含ませることもできる。
また、水や有機溶媒などの溶媒や接着剤をバインダーとして用いることができる。例えば、代表的には、有機溶媒の例は、第1実施形態で述べたアルコールである。また、バインダーに水などの粘度の低い溶媒を使用する場合には、増粘剤を添加してバインダーの粘度を調整してもよい。これにより、母材金属1の表面に所定の厚さに比較的容易に塗布することができる。但し、必ずしもバインダーに増粘剤を添加する必要はない。増粘剤として、天然系およびその誘導体や合成系のものを使用することができる。天然系の増粘剤の例は、デンプン、アルギン酸、寒天、多糖類、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、アルブミン、カゼインである。また、合成系の増粘剤の例は、ビニル系,ビニリデン系化合物、ポリエステル系化合物、ポリアミド系化合物、ポリエーテル系化合物、ポリグリコ―ル系化合物、ポリビニルアルコ―ル系化合物、ポリアルキレンオキサイド系化合物、ポリアクリル酸系化合物である。
加えて、接着剤をバインダーとする場合は、水溶性又は有機溶媒溶解性のものが採用される。例えば、糖類やセルロース類をバインダーとして使用することができる。さらに具体的なバインダーの例は、アラビアゴム、トラガント、ガラヤゴム、カラメル、デンプン、可溶性デンプン、デキストリン、αデンプン、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、ローカストビーンガム、カゼインである。また、半合成品のバインダーの例は、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチル化デンプンナトリウム塩、ヒドロキシエチル化デンプン、デンプンリン酸エステルナトリウム塩、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、アセチルセルロース、エステルガムのいずれかからなる天然物、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム塩、水溶性共重合体、部分けん化酢酸ビニルとビニルエーテルの共重合体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びそのエステル又は塩の重合体又は共重合体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、クマロン樹脂、石油樹脂、フェノール樹脂のいずれかからなる合成物のいずれかを単独であるいは複数種を混合したものである。さらに、油のように金属フッ化物粒を付着する作用のある液体もバインダーとして用いることができる。
バインダーを介して母材金属の表面に一時的に結合する金属フッ化物含有層の膜厚は、バインダーの粘度と、バインダーを塗布する膜厚によって制御することができる。例えば、バインダーの粘度を高くすれば、金属フッ化物含有層の膜厚を厚くすることができる。また、母材金属1の表面に塗布する塗膜を厚くすることにより、金属フッ化物含有層の膜厚を厚くすることもできる。また、バインダーの粘度は、溶剤による希釈量によって制御することができる。例えば、溶剤量を多くすれば希釈化されるため、バインダーの粘度を低くすることができる。
次に、ショットピーニング処理により、加速させた金属フッ化物の粒52を、バインダー56を設けた母材金属1の表面に向かって投射することにより、その金属フッ化物の粒を母材金属1の表面に衝突させる。その結果、バインダー56内に金属フッ化物含有層53が形成される。図6は、ショットピーニング処理を用いて金属フッ化物含有層53を形成する様子を示す模式図である。ノズル50から噴射され、母材金属1の表面に衝突する金属フッ化物の粒52は、その運動エネルギーを利用してバインダー56の内部に侵入して母材金属1の表面と結合することにより、金属フッ化物含有層53が形成される。
ここで、金属フッ化物の粒52を加速する空気圧は、バインダー56の種類に応じて適宜変更され得る。例えば、未硬化なバインダー56に向かって金属フッ化物の粒52を加速する空気圧は、硬化したバインダー56に金属フッ化物の粒52を加速する空気圧よりも低くすることができる。なお、バインダー56は、硬化した場合であっても母材金属よりも硬度が低い。そのため、ショットピーニング処理により金属フッ化物の粒52をバインダー56の内部に侵入させることにより、金属フッ化物の粒52を母材金属の表面に密に結合させることができる。
金属フッ化物粒の平均粒径は、金属フッ化物含有層の膜厚に影響を与えるので、金属フッ化物粒の平均粒径は、0.03μm以上500μm以下であることが好ましい。母材金属1に対して噴射される金属フッ化物の粒52の平均粒径は、金属フッ化物含有層53の膜厚を考慮して最適値のものが適宜使用される。0.03μm以下であれば、母材金属を十分に加熱する前に金属フッ化物粒が昇華してしまい、500μm以上であれば、母材金属の加熱条件では金属フッ化物粒が溶融しない。前述の観点から言えば、金属フッ化物の粒52の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上50μm以下、より好ましくは0.3μm以上10μm以下がよい。
B.混合液の噴霧処理又は混合液の蒸気の曝露処理
次に、金属フッ化物からなる金属粉末をフッ化化合物準備工程としてのショットピーニング処理によって形成された金属フッ化物含有層を備える母材金属1の表面に向けて、フッ素化合物溶液を噴霧する。これにより、母材金属1の少なくとも一部の表面上に、フッ化化合物が存在する状態が形成される。また、母材金属1の表面をフッ素化合物溶液の蒸気に曝露することによっても、母材金属1の少なくとも一部の表面上にフッ化化合物が存在する状態が形成される。なお、本実施形態の噴霧工程は、上述の第1実施形態と同様であり、本実施形態の曝露工程は、上述の第2実施形態と同様である。
次に、金属フッ化物からなる金属粉末をフッ化化合物準備工程としてのショットピーニング処理によって形成された金属フッ化物含有層を備える母材金属1の表面に向けて、フッ素化合物溶液を噴霧する。これにより、母材金属1の少なくとも一部の表面上に、フッ化化合物が存在する状態が形成される。また、母材金属1の表面をフッ素化合物溶液の蒸気に曝露することによっても、母材金属1の少なくとも一部の表面上にフッ化化合物が存在する状態が形成される。なお、本実施形態の噴霧工程は、上述の第1実施形態と同様であり、本実施形態の曝露工程は、上述の第2実施形態と同様である。
(2)照射工程
照射工程では、第1実施形態と同様、母材金属1の表面上に付着又は存在するフッ化化合物及び母材金属1に対してエネルギービームが照射される。その結果、母材金属1の表面の少なくとも一部において、後述するように、母材金属1の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内に、その母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成される。
照射工程では、第1実施形態と同様、母材金属1の表面上に付着又は存在するフッ化化合物及び母材金属1に対してエネルギービームが照射される。その結果、母材金属1の表面の少なくとも一部において、後述するように、母材金属1の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内に、その母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成される。
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、母材金属の表面にフッ素化合物溶液を噴霧しながら、エネルギービームを照射してもよい。また、第2実施形態と同様に、該混合液の蒸気に曝露しながら、エネルギービームを照射してもよい。
本実施形態においては、フッ化化合物準備工程において、
(1)母材金属1の表面にバインダーを塗布し、
(2)ショットピーニング処理により金属フッ化物からなる金属粉末をその表面に投射した後に、
(3)フッ素化合物溶液をその表面に噴霧するか、又はフッ素化合物溶液の蒸気にその表面を曝露する
ことにより、母材金属1の表面上にフッ化化合物が存在する状態を形成している。
このようなフッ化化合物準備工程を採用しても、エネルギービームによってフッ素を母材金属の表面に効率よく結合させる照射工程を行うことにより、第1実施形態と同様の効果が奏され得る。
(1)母材金属1の表面にバインダーを塗布し、
(2)ショットピーニング処理により金属フッ化物からなる金属粉末をその表面に投射した後に、
(3)フッ素化合物溶液をその表面に噴霧するか、又はフッ素化合物溶液の蒸気にその表面を曝露する
ことにより、母材金属1の表面上にフッ化化合物が存在する状態を形成している。
このようなフッ化化合物準備工程を採用しても、エネルギービームによってフッ素を母材金属の表面に効率よく結合させる照射工程を行うことにより、第1実施形態と同様の効果が奏され得る。
<第4実施形態>
本実施形態においては、フッ化化合物準備工程において、金属フッ化物を含有する金属粉末をバインダーと混合して母材金属上に塗布することにより、母材金属上にフッ化化合物が存在する状態を形成する点を除いて、第1実施形態又は第3の実施形態と同様である。従って、第1実施形態又は第3の実施形態の金属構造体の製造方法と重複する説明は省略され得る。
本実施形態においては、フッ化化合物準備工程において、金属フッ化物を含有する金属粉末をバインダーと混合して母材金属上に塗布することにより、母材金属上にフッ化化合物が存在する状態を形成する点を除いて、第1実施形態又は第3の実施形態と同様である。従って、第1実施形態又は第3の実施形態の金属構造体の製造方法と重複する説明は省略され得る。
(1)フッ化化合物準備工程
本実施形態において採用できる金属フッ化物及びバインダーは、第3実施形態において示した例と同じである。
本実施形態において採用できる金属フッ化物及びバインダーは、第3実施形態において示した例と同じである。
ここで、金属粉末とバインダーの混合比は、重量比で、バインダーを1としたときに、金属粉末が1以上50以下となることが好ましい。金属粉末の重量比がバインダーを1としたときに50を超えることは、バインダーの粘度が不足し、金属粉末が粉末状になる観点から好ましくない。一方、金属粉末の重量比がバインダーを1としたときに1よりも小さくすることは、金属粉末が液状となり、金属母材に固着できなくなるので好ましくない。
(2)照射工程
照射工程では、第1実施形態と同様、母材金属1の表面上に付着又は存在するフッ化化合物及び母材金属1に対してエネルギービームが照射される。その結果、母材金属1の表面の少なくとも一部において、後述するように、母材金属1の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内に、その母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成される。
照射工程では、第1実施形態と同様、母材金属1の表面上に付着又は存在するフッ化化合物及び母材金属1に対してエネルギービームが照射される。その結果、母材金属1の表面の少なくとも一部において、後述するように、母材金属1の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内に、その母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成される。
本実施形態においては、フッ化化合物準備工程において、バインダーと金属粉末とを混合して母材金属1の表面上に塗布するという非常に容易な工程により、母材金属1の表面上にフッ化化合物が存在する状態を形成している。このようなフッ化化合物準備工程を採用しても、エネルギービームによってフッ素を母材金属の表面に効率よく結合させる照射工程を行うことにより、第1実施形態と同様の効果が奏され得る。
<実施例>
以下、上述の各実施形態をより詳細に説明するために、実施例及び比較例をあげて説明するが、上述の各実施形態がこれらの例によって限定されるものではない。
以下、上述の各実施形態をより詳細に説明するために、実施例及び比較例をあげて説明するが、上述の各実施形態がこれらの例によって限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1においては、第1実施形態の製造方法に基づき、打錠用杵を作成した。基材となる母材金属は、冷間ダイス鋼SKD−11である。
実施例1においては、第1実施形態の製造方法に基づき、打錠用杵を作成した。基材となる母材金属は、冷間ダイス鋼SKD−11である。
本実施例では、打錠面である母材金属の表面に対して、アルコールとフッ素化合物溶液との混合液(以下の各実施例において、単に「混合液」ともいう。)を噴霧しながら電子ビームを照射した。混合液における、無水エタノールとヘキサフルオロベンゼンとの重量比は、1:1とした。また、母材金属の表面に対して、混合液を噴霧した。チャンバー110の圧力は、30Pa以上35Pa以下とした。
なお、電子ビームの照射条件は、以下の通りである。
電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 1.3A
ビーム照射時間 150秒
なお、電子ビームの照射条件は、以下の通りである。
電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 1.3A
ビーム照射時間 150秒
(実施例2)
実施例2においては、第2実施形態の製造方法に基づき、打錠用杵を作成した。基材となる母材金属は、冷間ダイス鋼SKD−11である。
実施例2においては、第2実施形態の製造方法に基づき、打錠用杵を作成した。基材となる母材金属は、冷間ダイス鋼SKD−11である。
本実施例では、打錠面である母材金属の表面に対して、混合液の蒸気を曝露しながら電子ビームを照射した。混合液における、ヘキサフルオロベンゼンと無水エタノールとの重量比は、1:1とした。混合液の蒸気の曝露条件としては、蒸気温度は室温とし、蒸気の曝露時間は10秒とした。チャンバー110の圧力は、30Pa以上35Pa以下とした。
なお、電子ビームの照射の際には、以下の工程(1),(2)を3回繰り返した。
工程(1)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 1.3A
ビーム照射時間 150秒
工程(2)電子ビームの照射を停止して、50秒間基材を冷却。冷却中は常に混合液を噴霧し続ける。
なお、電子ビームの照射の際には、以下の工程(1),(2)を3回繰り返した。
工程(1)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 1.3A
ビーム照射時間 150秒
工程(2)電子ビームの照射を停止して、50秒間基材を冷却。冷却中は常に混合液を噴霧し続ける。
(実施例3)
実施例3においては、第3実施形態の製造方法に基づき、打錠用杵を作成した。基材となる母材金属は、冷間ダイス鋼SKD−11である。
実施例3においては、第3実施形態の製造方法に基づき、打錠用杵を作成した。基材となる母材金属は、冷間ダイス鋼SKD−11である。
本実施例では、打錠面である母材金属の表面にペースト状のバインダーを塗布した。本実施例のバインダーは、アラビアゴムである。このバインダーが未硬化な状態で、ショットピーニング処理により、金属フッ化物粒としてフッ化マグネシウムの粉末を母材金属の表面に投射した。なお、フッ化マグネシウム粉末の平均粒径は10μmであり、ショットピーニング処理の際の空気の圧力は2MPaであった。その後、バインダーを硬化させて、母材金属の表面上に、膜厚を0.5mmとするフッ化マグネシウムの金属フッ化物含有層を形成した。
次に、母材金属の表面に対して、混合液を噴霧しながら電子ビームを照射した。混合液における、ヘキサフルオロベンゼンと無水エタノールとの重量比は、1:1とした。また、母材金属の表面に対して、混合液を噴霧した。チャンバー110の圧力は、30Pa以上35Pa以下とした。
なお、電子ビームの照射の際には、以下の工程(1)〜(5)を行った。
工程(1)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.6A
ビーム照射時間 25秒
工程(2)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 1.2A
ビーム照射時間 35秒
工程(3)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 1.2A
ビーム照射時間 35秒
工程(4)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.6A
ビーム照射時間 35秒
工程(5)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.6A
ビーム照射時間 20秒
なお、電子ビームの照射の際には、以下の工程(1)〜(5)を行った。
工程(1)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.6A
ビーム照射時間 25秒
工程(2)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 1.2A
ビーム照射時間 35秒
工程(3)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 1.2A
ビーム照射時間 35秒
工程(4)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.6A
ビーム照射時間 35秒
工程(5)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.6A
ビーム照射時間 20秒
(実施例4)
実施例4においては、第4実施形態の製造方法に基づき、打錠用杵を作成した。基材となる母材金属は、冷間ダイス鋼SKD−11である。
実施例4においては、第4実施形態の製造方法に基づき、打錠用杵を作成した。基材となる母材金属は、冷間ダイス鋼SKD−11である。
本実施例では、打錠面である母材金属の表面に、フッ化カルシウム及び硫化タングステン(重量比1:1)からなる金属粉末をバインダーと混合してゲル状の混合体とした。その後、この混合体を母材金属の表面上に2g塗布した。本実施例のバインダーは、無水エタノールと水との混合溶媒にデンプンを添加したものである。このバインダーは、無水エタノール5ml、水5mlに対してデンプン5gを混ぜたものとした。金属粉末の平均粒径は10μmとした。また、バインダーと金属粉末の重量比は、1:3とした。
その後、混合体及び母材金属の表面に対して電子ビームを照射した。チャンバー110の圧力は、30Pa以上35Pa以下とした。
なお、電子ビームの照射の際には、以下の工程(1)〜(3)を行った。
工程(1)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.6A
ビーム照射時間 45秒
工程(2)電子ビームの照射を30秒間停止する。
工程(3)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.5A
ビーム照射時間 65秒
その後、混合体及び母材金属の表面に対して電子ビームを照射した。チャンバー110の圧力は、30Pa以上35Pa以下とした。
なお、電子ビームの照射の際には、以下の工程(1)〜(3)を行った。
工程(1)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.6A
ビーム照射時間 45秒
工程(2)電子ビームの照射を30秒間停止する。
工程(3)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.5A
ビーム照射時間 65秒
(実施例5)
実施例5においては、第4実施形態の製造方法に基づき、打錠用杵を作成した。基材となる母材金属は、冷間ダイス鋼SKD−11である。
実施例5においては、第4実施形態の製造方法に基づき、打錠用杵を作成した。基材となる母材金属は、冷間ダイス鋼SKD−11である。
本実施例では、打錠面における母材金属の表面に、フッ化ナトリウム及び硫化モリブデン(重量比1:1)からなる金属粉末をバインダーと混合してゲル状の混合体とした。その後、この混合体を母材金属の表面上に2g塗布した。本実施例のバインダーは、無水エタノールと水との混合溶媒にデンプンを添加したものである。このバインダーは、無水エタノール5ml、水5mlに対してデンプン30gを混ぜたものとした。金属粉末の平均粒径は10μmとした。また、バインダーと金属粉末の重量比は、1:3とした。
その後、混合体及び母材金属の表面に対して電子ビームを照射した。チャンバー110の圧力は、30Pa以上35Pa以下とした。
なお、電子ビームの照射の際には、以下の工程(1)〜(3)を行った。
工程(1)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.6A
ビーム照射時間 60秒
工程(2)電子ビームの照射を30秒間停止する。
工程(3)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.5A
ビーム照射時間 65秒
その後、混合体及び母材金属の表面に対して電子ビームを照射した。チャンバー110の圧力は、30Pa以上35Pa以下とした。
なお、電子ビームの照射の際には、以下の工程(1)〜(3)を行った。
工程(1)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.6A
ビーム照射時間 60秒
工程(2)電子ビームの照射を30秒間停止する。
工程(3)電子ビーム照射
照射条件 電子ビームのスポットの直径 13mm
ビーム電流 0.5A
ビーム照射時間 65秒
(比較例1)
比較例1においては、基材となる母材金属として、冷間ダイス鋼SKD−11を使用し、打錠用杵を作成した。この基材の寸法は、直径20mm、厚さ2mmの円柱形状とした。また、打錠用杵の打錠部分の表面のコーティングとして、杵表面の全体に硬質クロムメッキを行った。このメッキ層の厚さは、3μmとした。
比較例1においては、基材となる母材金属として、冷間ダイス鋼SKD−11を使用し、打錠用杵を作成した。この基材の寸法は、直径20mm、厚さ2mmの円柱形状とした。また、打錠用杵の打錠部分の表面のコーティングとして、杵表面の全体に硬質クロムメッキを行った。このメッキ層の厚さは、3μmとした。
(比較例2)
比較例2においては、基材となる母材金属として、冷間ダイス鋼SKD−11を使用し、打錠用杵を作成した。また、打錠用杵の打錠部分の表面のコーティングとして、イオンプレーティング法により杵表面の全体に窒化クロムコーティングを行った。このコーティング層の厚さは、3μmとした。
比較例2においては、基材となる母材金属として、冷間ダイス鋼SKD−11を使用し、打錠用杵を作成した。また、打錠用杵の打錠部分の表面のコーティングとして、イオンプレーティング法により杵表面の全体に窒化クロムコーティングを行った。このコーティング層の厚さは、3μmとした。
<実施例及び比較例の分析結果>
1.フッ素の結合状態とフッ素の含有量
実施例1〜5について、X線光電子分光法(XPS:X−Ray Photoelectron Spectroscopy)によって、母材金属の最表面から数nm(代表的には2nm〜3nm)の深さまでの領域内における母材金属に含まれるフッ素の結合状態とフッ素の含有量を測定した。なお、本実施例のX線光電子分光法による評価に用いた装置は、VG社製、ESCALAB220i−XLである。
1.フッ素の結合状態とフッ素の含有量
実施例1〜5について、X線光電子分光法(XPS:X−Ray Photoelectron Spectroscopy)によって、母材金属の最表面から数nm(代表的には2nm〜3nm)の深さまでの領域内における母材金属に含まれるフッ素の結合状態とフッ素の含有量を測定した。なお、本実施例のX線光電子分光法による評価に用いた装置は、VG社製、ESCALAB220i−XLである。
図7は、実施例1〜5について、X線光電子分光法を用いて測定した結果を示すグラフである。また、表1は、X線光電子分光法を用いて測定された、実施例1〜5における、母材金属(表面層)に含まれる鉄原子とフッ素原子の総数を1としたときのフッ素原子数の割合と打錠試験結果の関係を示している。
図7に示すように、実施例1〜5のいずれについても、炭素と結合しているフッ素に起因すると考えられる689eV付近にピークが見られた。従って、上述の各実施例によって得られた金属構造体(例えば、打錠用杵)の表面は、フッ素含有材料によって覆われたのではなく、母材金属の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内に、その母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成されていると考えられる。すなわち、上述の各実施形態に示す方法は、少なくとも最表面から非常に浅い深さ(2nm〜3nm)の領域内に、炭素と結合しているフッ素を導入する有効な手段であるといえる。
加えて、上述の領域内のフッ素の少なくとも一部は、炭素と結合していることも確認された。従って、その領域内のフッ素の一部は炭素との結合状態で存在し、それらが、その領域内に揮発せずに留まっていることが分かった。これは、フッ素と炭素の化合物(又は、フッ素と炭素とが結合したもの)が母材に含まれる金属のうちの少なくとも1つの元素とも結合していることを示唆している。その結果、後述する各効果が奏され得ると考えられる。
なお、フッ素と結合していると考えられる炭素は、実施例1〜2については、ヘキサフルオロベンゼンに由来し、実施例4〜5については、溶媒の無水エタノールに由来し、実施例3については、ヘキサフルオロベンゼン及び/又は溶媒の無水エタノールに由来するものと考えられる。
また、表1に示すように、鉄原子とフッ素原子の総数を1としたときにおけるフッ素原子数の割合は、実施例1では0.57、実施例2では、0.41、実施例3では、0.53、実施例4では、0.52、実施例5では、0.28であった。これらの結果より、製造方法によってフッ素原子数の割合に差がみられるものの、鉄原子とフッ素原子の総数を1としたときにおけるフッ素原子数の割合は、0.2以上0.6以下であることが分かった。従って、フッ素原子数の割合が前述の範囲内にあれば、後述する各効果が奏され得る。
2.打錠試験
実施例1〜5について、以下の方法によって、打錠試験を実施することにより、下記の錠剤組成を有する錠剤を製造した。比較例1〜2についても、同様に、上記2種類のコーティングが施された各打錠用杵を用いて打錠試験を実施することにより、下記の錠剤組成を有する錠剤を製造した。なお、実施例1〜5及び比較例1〜2においては、下記の組成1及び組成2の成分からなる打錠用顆粒に対して、400kg重で10分間の連続打錠を行った。
実施例1〜5について、以下の方法によって、打錠試験を実施することにより、下記の錠剤組成を有する錠剤を製造した。比較例1〜2についても、同様に、上記2種類のコーティングが施された各打錠用杵を用いて打錠試験を実施することにより、下記の錠剤組成を有する錠剤を製造した。なお、実施例1〜5及び比較例1〜2においては、下記の組成1及び組成2の成分からなる打錠用顆粒に対して、400kg重で10分間の連続打錠を行った。
(1)錠剤の製造
本実施例では、下記の2つの組成を有する錠剤を製造した。
本実施例では、下記の2つの組成を有する錠剤を製造した。
A.打錠用顆粒1(イブプロフェン製剤)
[成分]
打錠用顆粒1は、主成分としてイブプロフェンを用いており、その組成は下記の通りである。
組成1
イププロフェン 50.0重量%
乳糖 32.9重量%
30重量% 14.1重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 3.0重量%
合計 100.0重量%
[製造方法]
上述の処方の試料505gを、高速撹拌造粒機を用いて1分間混合した。次に、精製水94.1gを加えてさらに5分間混合し、解砕した後に造粒した。得られた造粒物を流動層造粒機を用いて乾燥し、これを整粒した。その結果、平均粒子径が100μmのイブプロフェン製剤の打錠用顆粒が得られた。
[成分]
打錠用顆粒1は、主成分としてイブプロフェンを用いており、その組成は下記の通りである。
組成1
イププロフェン 50.0重量%
乳糖 32.9重量%
30重量% 14.1重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 3.0重量%
合計 100.0重量%
[製造方法]
上述の処方の試料505gを、高速撹拌造粒機を用いて1分間混合した。次に、精製水94.1gを加えてさらに5分間混合し、解砕した後に造粒した。得られた造粒物を流動層造粒機を用いて乾燥し、これを整粒した。その結果、平均粒子径が100μmのイブプロフェン製剤の打錠用顆粒が得られた。
B.打錠用顆粒2(エテンザミド製剤)
[成分]
打錠用顆粒2は、主成分としてエテンザミドを用いており、その組成は下記の通りである。
組成2
エテンザミド 50.0重量%
乳糖 32.9重量%
30重量% 14.1重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 3.0重量%
合計 100.0重量%
[製造方法]
上述の処方の試料505gを、高速撹拌造粒機を用いて1分間混合した。次に、精製水73.5gを加えてさらに5分間混合し、解砕した後に造粒した。得られた造粒物を、流動層造粒機を用いて乾燥し、これを整粒した。その結果、平均粒子径が100μmのエテンザミド製剤の打錠用顆粒が得られた。
[成分]
打錠用顆粒2は、主成分としてエテンザミドを用いており、その組成は下記の通りである。
組成2
エテンザミド 50.0重量%
乳糖 32.9重量%
30重量% 14.1重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 3.0重量%
合計 100.0重量%
[製造方法]
上述の処方の試料505gを、高速撹拌造粒機を用いて1分間混合した。次に、精製水73.5gを加えてさらに5分間混合し、解砕した後に造粒した。得られた造粒物を、流動層造粒機を用いて乾燥し、これを整粒した。その結果、平均粒子径が100μmのエテンザミド製剤の打錠用顆粒が得られた。
(2)評価方法
実施例1〜5及び比較例1〜2の評価を行うために、上述の組成1及び組成2の成分からなる打錠用顆粒に対して、10分間、400kg重で連続打錠を行った。その後、打錠用杵の打錠部分の表面を観察し、以下の基準で評価した。
丸印:打錠部分の表面に薬剤粉末の付着が全く見られなかった。
バツ印:打錠部分の表面の全てに薬剤粉末の付着が認められた。
実施例1〜5及び比較例1〜2の評価を行うために、上述の組成1及び組成2の成分からなる打錠用顆粒に対して、10分間、400kg重で連続打錠を行った。その後、打錠用杵の打錠部分の表面を観察し、以下の基準で評価した。
丸印:打錠部分の表面に薬剤粉末の付着が全く見られなかった。
バツ印:打錠部分の表面の全てに薬剤粉末の付着が認められた。
(3)評価結果
表1に示すように、上述の各実施例に係る錠剤の製造方法を用いて錠剤を製造した実施例1においては、打錠用杵の打錠部分の表面は、全く薬剤粉末の付着が全く見られず、評価結果が極めて良好であった。
表1に示すように、上述の各実施例に係る錠剤の製造方法を用いて錠剤を製造した実施例1においては、打錠用杵の打錠部分の表面は、全く薬剤粉末の付着が全く見られず、評価結果が極めて良好であった。
また、実施例2〜5においても、実施例1と同様に、打錠用杵の打錠部分の表面に関する評価結果は良好であった。
これに対し、打錠用杵の打錠部分の表面を硬質クロムメッキ処理した比較例1及び該表面を硬質クロムコーティングした比較例2は、打錠用杵の打錠部分の表面全体に薬剤粉末の付着が確認された。
以上の結果より、上述の各実施例に係る金属構造体からなる打錠用杵は、打錠工程において、打錠面、すなわち母材金属の表面に打錠用顆粒の薬剤粉末が付着するのを防止できるので、錠剤の品質を損なうことなく、連続的に安定して錠剤の打錠を行うことが可能となることが明らかとなった。
上述のとおり、上述の各実施例における金属構造体は、その母材金属に対して極めて優れた剥離性を付与することが確認された。
<その他の実施形態>
上述の各実施形態における各「フッ化化合物の準備工程」に加えて、さらに、そのような「フッ化化合物の準備工程」が行われながら、上述の照射工程が行われることも、採用し得る他の一態様である。例えば、最初に、一旦、アルコールとヘキサフルオロベンゼンとの混合液を母材金属1の表面に噴霧した後で、さらにアルコールとヘキサフルオロベンゼンとの混合液を母材金属1の表面に連続噴霧しながらエネルギービームを照射することも、好適な一態様である。そのような態様であっても、上述の各実施形態と同様の効果が奏され得る。
上述の各実施形態における各「フッ化化合物の準備工程」に加えて、さらに、そのような「フッ化化合物の準備工程」が行われながら、上述の照射工程が行われることも、採用し得る他の一態様である。例えば、最初に、一旦、アルコールとヘキサフルオロベンゼンとの混合液を母材金属1の表面に噴霧した後で、さらにアルコールとヘキサフルオロベンゼンとの混合液を母材金属1の表面に連続噴霧しながらエネルギービームを照射することも、好適な一態様である。そのような態様であっても、上述の各実施形態と同様の効果が奏され得る。
また、上述の各実施形態における金属構造体は、打錠機の杵と臼における打錠面を備えた構造体であるが、上述の各実施形態における金属構造体はその構造体に限定されない。例えば、各種の工業用部品の摺動部材、金型、半導体製造装置等の金属製品にも上述の各実施形態における金属構造体を適用することができる。
また、上述の各実施形態における金属構造体の製造方法は、種々広範囲な製品の金属表面の物性の改質、改良を目的として適宜採用することができる。
加えて、上述の各実施形態において採用されているフッ化化合物準備工程の代わりに、公知のガス供給装置を用いてフルオロカーボンガス(例えば、C6F6)を母材金属1の表面に接触させることにより、その表面上にフッ化化合物が存在する状態を形成することも採用し得る他の一態様である。この場合も、その後に又は該ガスを供給しながら、例えば第1実施形態における照射工程が行われることにより、第1実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。
上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
1 母材金属
4 電子ビーム
5 フッ化物形成領域
10 打錠機
10A 上杵
10B 下杵
12 臼
13 臼孔
14 打錠表面
20 噴霧部
22 ノズル
23,43 容器
24 ポンプ
25,45 配管
30 エネルギービーム照射部
32 電子銃
33 集束コイル
35 カソード
34 偏向コイル
36 バイアス電極
37 アノード
38 ヒーター
40 蒸気生成部
42 キャリアガス供給部
44 混合室
50 ノズル
52 金属フッ化物の粒
53 金属フッ化物含有層
56 バインダー
60 ステージ
61 保護カバー
70 電源
90 排気ポンプ
100 金属構造体
200,300 金属構造体の製造装置
4 電子ビーム
5 フッ化物形成領域
10 打錠機
10A 上杵
10B 下杵
12 臼
13 臼孔
14 打錠表面
20 噴霧部
22 ノズル
23,43 容器
24 ポンプ
25,45 配管
30 エネルギービーム照射部
32 電子銃
33 集束コイル
35 カソード
34 偏向コイル
36 バイアス電極
37 アノード
38 ヒーター
40 蒸気生成部
42 キャリアガス供給部
44 混合室
50 ノズル
52 金属フッ化物の粒
53 金属フッ化物含有層
56 バインダー
60 ステージ
61 保護カバー
70 電源
90 排気ポンプ
100 金属構造体
200,300 金属構造体の製造装置
Claims (15)
- 鉄を含む母材金属の少なくとも一部の表面上に、フッ化化合物が存在する状態を形成する、フッ化化合物準備工程と、
前記フッ化化合物及び前記表面に対してエネルギービームを照射する照射工程とを含む、
金属構造体の製造方法。 - 前記フッ化化合物準備工程において、
フッ素化合物溶液を前記表面に噴霧することにより、前記表面上に前記フッ化化合物が存在する状態を形成する、
請求項1に記載の金属構造体の製造方法。 - 前記フッ化化合物準備工程における前記混合液を前記表面に噴霧しながら、前記照射工程を行う、
請求項2に記載の金属構造体の製造方法。 - 前記フッ化化合物準備工程において、
前記表面を、フッ素化合物溶液の蒸気に曝露することにより、前記表面上に前記フッ化化合物が存在する状態を形成する、
請求項1に記載の金属構造体の製造方法。 - 前記フッ化化合物準備工程における前記混合液の蒸気に前記表面を曝露しながら、前記照射工程を行う、
請求項4に記載の金属構造体の製造方法。 - 前記フッ化化合物準備工程において、
(1)前記表面にバインダーを塗布し、
(2)ショットピーニング処理により金属フッ化物からなる金属粉末を前記表面に投射した後に、
(3)フッ素化合物溶液を前記表面に噴霧するか、又はフッ素化合物溶液の蒸気に前記表面を曝露する
ことにより、前記表面上にフッ化化合物が存在する状態を形成する、
請求項1に記載の金属構造体の製造方法。 - 前記フッ化化合物準備工程において、
フッ素化合物溶液の揮発ガスを前記表面に接触させることにより、前記表面上に前記フッ化化合物が存在する状態を形成する、
請求項1に記載の構造体の製造方法。 - 前記フッ化化合物準備工程において、
バインダーと混合した金属フッ化物からなる金属粉末を前記表面上に塗布することにより、前記表面上に前記フッ化化合物が存在する状態を形成する、
請求項1に記載の金属構造体の製造方法。 - 前記照射工程において、前記エネルギービームが電子ビームである、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の金属構造体の製造方法。 - 前記電子ビームの加速電圧が、20kV以上100kV以下である、
請求項9に記載の金属構造体の製造方法。 - 前記母材金属の少なくとも一部の表面において、前記母材金属の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内に前記母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成されている、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の金属構造体の製造方法。 - 鉄を含む母材金属の少なくとも一部の表面において、前記母材金属の最表面からX線光電子分光法によって測定される数nmの深さまでの領域内に前記母材金属に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種が、フッ素と炭素の化合物に結合している状態が形成されている、
金属構造体。 - 前記領域内において、前記鉄原子と前記フッ素原子の総数を1としたときに、フッ素原子数の割合が、0.1以上0.8以下である、
請求項12に記載の金属構造体。 - 錠剤を打錠するための、請求項12又は請求項13の金属構造体からなる、
杵又は臼。 - 請求項12又は請求項13に記載の杵又は臼を備える打錠機を用いて成形された、
錠剤。
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-
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- 2012-02-03 JP JP2012022178A patent/JP2013159814A/ja active Pending
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- 2013-01-30 WO PCT/JP2013/051987 patent/WO2013115218A1/ja active Application Filing
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Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20160216 |