JP2022065161A - コールドスプレー法並びに摺動性物品及び人工骨等 - Google Patents

コールドスプレー法並びに摺動性物品及び人工骨等 Download PDF

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Abstract

【課題】コールドスプレー法でハイドロキシアパタイトとチタン系金属との複合材料からなる人工骨や人工歯を提供することを目的とする。【解決手段】チタン系粉末の粒子表面をハイドロキシアパタイトでコーティングした粉末を、コールドスプレーして、チタン系基材上に膜を形成するか、又は成形体を形成することにより、人工骨又は人工歯を製造する方法が提供される。またその製造方法を用いて製造される人工骨又は人工歯も提供される。【選択図】図3

Description

本発明は、新規なコールドスプレー法並びに摺動性物品及び人工骨等に関し、とりわけ脆性材料であるセラミックスをコールドスプレーする方法及びそれによって得られる摺動性物品及び人工骨や人工歯などの特異な物品に関する。
コールドスプレー法(CS)は、粉末状の粒子を溶融温度未満の温度で固体のまま高速で投射することで、粒子の熱変質なく基材上に堆積する方法あるが、厚く堆積できるので、成形体の製造にも応用できる技術である。
コールドスプレー用粉末は、コールドスプレーで堆積されるために塑性変形する材料である必要があり、主に金属粉末が用いられている。これに対して、堆積被膜の改良を目的として単純な金属粉末以外のコールドスプレー用粉末を用いる技術として、Cu-Sn合金粉末を用いた摺動性被膜(特開2016-113642号公報)、各種材料の混合系粉末(特開2008-524010号公報)、金属粉末と酸化チタン粉末との混合系による光触媒被膜(特開2012-139690号公報)、金属粉末と砥粒との混合粉末を用いた工具(特開2013-6228号公報)、セラミック粉末と金属粉末とグラファイト粉末を混合して焼結したグラファイト含有サーメット粉末による摺動性被膜(特開2011-10992号公報)、高分子粉末とセラミック粉末の混合系(特開2015-227497号公報)、酸化銅系皮膜を有する銅系粒子を用いた銅系被膜(特開2014-156634号公報)、バインダ被覆二硫化モリブデン粉末(特開2014-522362号公報)、金属で被覆した合金粉末(特開2011-132565号公報)、セラミックの微小粉末(特開2011-105992号公報)などの技術が開示されている。
特開2016-113642号公報 特表2008-524010号公報 特開2012-139690号公報 特開2013-6228号公報 特開2011-10992号公報 特開2015-227497号公報 特開2014-156634号公報 特表2014-522362号公報 特開2011-132565号公報 特開2011-105992号公報
コールドスプレー法では、金属系材料やプラスチック系材料は塑性変形するので、コールドスプレーで堆積できるが、塑性変形しないセラミック材料は堆積できないか、堆積しても投射材料を反発するので厚く堆積できないという問題がある。
そのため、上記のコールドスプレー用粉末のうち、セラミック材料を単独で用いる場合はいうまでもなく、セラミック材料に金属系材料やプラスチック系材料を混合した混合系を用いる場合にも、堆積されるときにセラミック材料が堆積物表面を覆い、堆積物表面が反発性を持つに至るので、結局、セラミック材料を含む混合系では厚く堆積することができないという問題がある。
したがって、セラミック材料を含みながら所望の厚さに堆積するコールドスプレー法に対して需要がある。
本発明は、この要望に答えて、コールドスプレー法でセラミック材料を含みながら所望の厚さに堆積する技術を提供すること、またその新規な技術を用いて、セラミック系摺動性被膜を有する摺動性物品やハイドロキシアパタイトとチタン系金属との複合材料からなる人工骨や人工歯などの応用を提供することを目的とする。
本発明は、上記目的が、コールドスプレー用粉末として、塑性材料の粒子表面にセラミックがコーティングされた粉末を用いることで達成可能であることを見出して完成されたものであり、下記を提供する。
すなわち、本発明は、第一の側面において、下記を提供する。
(1)塑性材料の粒子表面にセラミックがコーティングされた粉末を、コールドスプレーして、基材上に膜を形成するか、又は成形体を形成することを特徴とする物品の製造方法。
(2)前記塑性材料が、金属又はプラスチックである、上記(1)に記載の製造方法。
(3)前記セラミックが、炭素系、酸化物系、窒化物系、炭化物系、ホウ化物系のセラミックから選ばれる、上記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)前記セラミックが前記塑性材料及び前記基材と比べてより高い耐摩耗性及び/又はより小さい摩擦係数を有し、前記コールドスプレーにより前記基材表面に形成された前記膜が、前記基材に摺動性を付与するか、前記基材の摺動性を向上させ、前記物品が摺動性物品である、上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の製造方法。
(5)前記セラミックがハイドロキシアパタイトであり、前記塑性材料がチタン系金属であり、前記物品が人工骨又は人工歯である、上記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(6)前記チタン系金属に前記ハイドロキシアパタイトをコーティングした前記粉末をチタン系基材に前記コールドスプレーして、人工骨又は人工歯を製造する、上記(5)に記載の製造方法。
(7)前記膜又は前記成形体が0.5μm以上の厚さ又は寸法を有する、上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の製造方法。
また、本発明は、第二の側面において、下記を提供する。
(8)基材表面に摺動性被膜を有し、
前記摺動性被膜はセラミックでコーティングされた塑性材料からなる複合粒子同士が相互に結合して成り、
前記複合粒子は前記基材に向かう方向に圧潰された形状を有し、
前記複合粒子同士は前記塑性材料同士によって相互に結合しており、
前記セラミックは前記複合粒子の表面において破断されて、前記塑性材料は連続相を成し、前記セラミックは前記連続相を成す前記塑性材料中に内包されていることを特徴とする摺動性物品。
(9)前記摺動性被膜は0.05μm以上の厚さを有し、前記摺動性被膜の厚さ方向において前記塑性材料中に前記セラミックが均一に分散している、上記(8)に記載の摺動性物品。
(10)前記セラミックが、ダイヤモンドライクカーボンその他の炭素系セラミックから選ばれるセラミックである、上記(8)又は(9)に記載の摺動性物品。
(11)チタン系母材中にハイドロキシアパタイトが分散して成る成形体であるか、又はチタン系母材中にハイドロキシアパタイトが分散して成る膜をチタン系基材表面に有することを特徴とする人工骨又は人工歯。
(12)前記チタン系母材が前記膜において連続相であり、前記ハイドロキシアパタイトが前記チタン系母材の前記連続相中に分散する不連続相であり、前記膜中の前記チタン系母材の前記連続相は前記チタン系基材とも連続する相を成している、上記(11)に記載の人工骨又は人工歯。
(13)前記膜が0.1μm以上の厚さを有する、上記(11)又は(12)に記載の人工骨又は人工歯。
本発明によれば、コールドスプレー法においてセラミック材料を含む堆積を厚く形成できる効果があり、またその応用としてセラミック被膜を有する摺動性物品や、ハイドロキシアアパタイトとチタン系との複合材料からなる人工骨や人工歯などを提供することができる効果がある。
図1は、コールドスプレー法(CS)を説明する概略図である。 図2は、コールドスプレー法(CS)における粒子の衝突速度と基材上への堆積量との関係を示す図である。 図3(a)は、従来技術におけるセラミックの粉末またはセラミックと金属の混合粉末を投射する場合、図3(b)は、本発明におけるセラミックをコーティングした可塑材料の粉末を投射する場合を説明する模式図である。 図4は、金属粉末に対して堆積されたダイヤモンドライクカーボン層を模式的に示す。 図5は、第二の側面で提供される基材表面に摺動性被膜を有する摺動性物品を模式的に示す断面図である。 図6(a)は、実施例1で得られたダイヤモンドライクカーボン含有銅膜の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示し;図6(b)(c)、実施例1で得られたダイヤモンドライクカーボン含有銅膜のエネルギー分散型X線分光器(EDS)によるマッピングであり、図6(b)は炭素元素、図7(c)は銅元素の存在を示す。 図7は、実施例1で得られたダイヤモンドライクカーボン含有銅膜のラマン分光分析結果を示す。 図8は、実施例1における摩擦係数の測定の様子を説明する模式図である。 図9は、実施例1で得られたダイヤモンドライクカーボン含有銅膜被覆を有するアルミ基材と比較例の同アルミ基材上に形成した銅のみからなる皮膜について測定した摩擦係数を、回転累計数の関数として示すグラフである。 図10(a)は、実施例2でチタン基材に堆積したハイドロキシアパタイト(HA)含有チタン膜の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示し;図10(b)-(e)は、実施例2で作製したハイドロキシアパタイト(HA)含有チタン膜のエネルギー分散型X線分光器(EDS)によるマッピングであり、図10(b)は酸素元素、図10(c)はカルシウム元素、図10(d)はリン元素、図10(e)はチタン元素を示す。
(物品の製造方法)
本発明によれば、第一の側面において、塑性材料の粒子表面にセラミックがコーティングされた粉末を、コールドスプレーして、基材上に膜を形成するか、又は成形体を形成することを特徴とする物品の製造方法が提供される。
コールドスプレー法(CS)の概略を、図1及び図2を参照して説明する。図1において、ラバルノズル1はノズルへのガス導入部2と中間の狭窄部3と前方のノズル開口部4とを有し、空気、窒素ガス、アルゴンガスなどのキャリアガス5が、必要に応じてヒータ6で粉末の融解温度以下に加熱されてから、後室ガス導入部2に供給される。キャリアガス5は、後室ガス導入部2で圧力が上昇し、狭窄部3で高圧となり高速で通過し、低圧のノズル開口部4からノズル外へ超音速の流れ7として放出される。キャリアガス5のガス流7は狭窄部3を高速で通過するので、狭窄部3に開口しているパウダーフィーダ8に収容されている粉末9が、狭窄部3でガス流7中に吸引される。粉末を含むガス流7は、ノズル開口部4から超音速で基板10に向かって投射され、投射された粉末が基板10上に堆積して膜11が形成される。コールドスプレー法によれば、例えば、数mm以上の厚い膜を高速堆積できる特長がある。
図2を参照すると、コールドスプレー法によれば、粉末粒子(以下、単に粒子ともいう)が基材に衝突する速度が小さいときは基材表面で粒子が跳ね返るので堆積できないが(図2(a))、ある速度以上から基材表面で塑性変形して基材に付着するようになる(図2(b))。しかし、衝突速度が大きすぎると、基材表面が損傷するので(図2(c))、適当な衝突速度の範囲がある(図2(d))。例えば、軟鋼の基材に粒子直径25μmの銅粒子を600m/sで投射すれば、軟鋼基材上に銅被膜を堆積することができる。
コールドスプレー法は堆積材料が融解しない温度で投射される点で、溶射法と区別され、堆積材料を熱変性しないで堆積できる特長がある。コールドスプレー法自体は知られており、その装置も図1の態様に限定されないし、粉末の粒径や加熱温度、投射速度、基材の種類などは、基材上に粉末が堆積できる条件であればよい。
本発明では、塑性材料の粒子表面にセラミックがコーティングされた粉末をコールドスプレーする。
塑性材料の粒子は、塑性変形できる材料からなる粒子であればよく、例えば、金属、プラスチックなどであり、従来コールドスプレーに用いられている塑性材料の粒子を用いることができる。塑性変形とは、力を加えて変形させたとき、永久変形を生じる性質をいう。例えば、Cu,Ni,Co,Ti,W,Au,Ptなどの金属、塩化ビニル、ナイロン、テフロンなどのプラスチックを用いてよい。
塑性材料の粒子の形状は、球形に近い方が膜密度を高くする観点から好ましいが、扁平等であってもよく、限定されない。
塑性材料の粒子の寸法は、セラミックがコーティングされた粉末がコールドスプレーできる寸法であればよく、限定されず、材料の種類や堆積物の目的に依存してよいが、一般的には約300μm以下、さらには1~50μmの粒子がコールドスプレーで堆積する観点から好ましい。
塑性材料の粒子表面にコーティングされるセラミックは、塑性変形しない無機材料であり、力を加えると脆性破壊する脆性材料である。本発明で用いられるセラミックには、主に金属元素の各種の酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、酸炭化物、酸炭窒化物などの化合物やそれらの水和物のほか、ダイヤモンド、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの炭素材料も含まれる。
セラミックは塑性材料の粒子の全表面にコーティングされていてよいが、表面の一部でもよい。本発明のコールドスプレー方法において、セラミックはコールドスプレーされると、基材表面で破壊されて、粒子内部の塑性材料が露出して、露出した塑性材料が基材あるいは他の粒子の塑性材料と結合するのであるから、セラミックが塑性材料の粒子の全表面をコーティングしている必要はない。セラミックが塑性材料の粒子の表面をコーティングする割合は、限定されないが、粒子表面の4分の1以上、さらには3分の1以上、2分の1以上、3分の2以上であってよい。逆に、粒子表面の4分の3以下、3分の2以下、2分の1以下であってよく、このような被覆率が塑性材料を露出させ堆積中に連続相を形成させるために好ましい場合もある。セラミックが粒子の表面をコーティングする割合は、粒子の寸法や、セラミックの材質、厚さや、コーティングの容易性、基材の材質、形状や、物品の用途などを考慮して選択すればよい。
塑性材料の粒子の表面をコーティングするセラミックの厚さは、コールドスプレー後に目的とする製品にセラミックの特性を付与できる厚さであればよく、特に限定されず、50nm以上、また10μm以下でよいが、100nm~5μmが好ましく、またこれらの範囲外でもよい。セラミックの厚さが不足するとセラミックとしての特性が不十分になる恐れがあり、一方、セラミックの厚さが厚すぎると、投射されたとき破壊が不十分になって粒子内部の塑性材料同士の結合が不十分になる場合がある。
塑性材料の粒子の表面にセラミックをコーティングする方法も限定されず、従来公知の方法のいずれによってもよい。例えば、化学的気相堆積法(CVD)、スパッタ法などの物理的気相堆積法(PVD)、電解及び無電解のめっき法などを採用できる。特にコーティング方法が粒子表面に均一に堆積(成長)する方法、例えば、液中に粒子を浸漬して粒子表面にセラミックを堆積(成長)する方法であれば、コーティング後に粒子はそのままで、あるいは簡単な解砕によって、セラミックコーティングを有する粒子が得られるであろう。一方、基板上に粒子を敷き詰めて、その敷き詰められた粒子の集合体に向かって方向性をもって堆積する方法のうち、セラミックが粒子上のみならず粒子間にも堆積して粒子を結合する状態で堆積されるような場合には、堆積後に解砕あるいは軽い粉砕をして、セラミックコーティングを有する粒子を分離してもよい。基板上に粒子を敷き詰める場合でも、例えば、コーティング中、粒子を回転させて、粒子の全表面に均一にコーティングできれば、そのままで、あるいは簡単な解砕によって、コーティング粒子が得られ得る。
塑性材料の粒子表面にセラミックがコーティングされた粉末の寸法は、コールドスプレーできる寸法であればよく、限定されず、材料の種類や堆積物の目的に依存してよいが、一般的には約300μm以下、さらには1~100μmの粉末がコールドスプレーで堆積する観点から好ましい。
本発明の製造方法においてコールドスプレーされる粉末は、塑性材料の粒子表面にセラミックがコーティングされた粉末のほかに、塑性材料粒子やセラミック粒子を含んでもよい。塑性材料粒子は、本発明の製造方法におけるセラミック含有膜の堆積に対して障害にはならないが、堆積膜に含有されるセラミックの割合を低下させるので、大量すぎないことが好ましい。一方、セラミック粒子も含まれてよいが、セラミック粒子の相対量が多いと、セラミック粒子のコールドスプレーに近くなって、本発明のコーティング粉末を用いる効果を希薄化するので、多すぎないこと、少ないことが好ましい。追加される場合の塑性材料粒子やセラミック粒子の量は、セラミックコーティング粉末や、塑性材料粒子、セラミック粒子の種類(材質や寸法等)に依存するが、例えば、50質量%以下、特に30質量%以下、10質量%以下、5質量%以下であってよい。さらには1質量%以下、0質量%であってよい。
本発明の製造方法においてコールドスプレーされる基材は、従来のコールドスプレー法の対象と同様に、特に限定されない。目的とする用途に応じて適宜選択でき、例えば、金属、セラミックなどの無機材料、樹脂などの有機材料のいずれでもよい。また、基材の形状も特に限定されず、平板状、曲面形状のいずれでもよい。
本発明の製造方法におけるコールドスプレーの条件は、従来のコールドスプレー法におけると基本的に同様であることができる。投射される粉末が、塑性材料の粒子の表面にセラミックがコーティングされている粉末である以外は本質的な相違はなく、基本的に従来のコールドスプレーの条件で、本発明で用いるセラミックコーティングされている塑性材料の粉末は基材上に堆積可能である。
コールドスプレーの条件は、投射粒子や基材の種類やコールドスプレー装置に依存するので、限定するわけではないが、例えば、300~600℃の温度、600~900m/sの投射速度、空気、アルゴン、窒素などの投射ガスを用いることができる。
本発明の製造方法により、塑性材料の粒子表面にセラミックがコーティングされた粉末をコールドスプレーすることにより、基材上に塑性材料とセラミックの混合膜が堆積する。セラミックコーティングを有する塑性材料粒子が基材に衝突すると、セラミックコーティングは破断し、塑性材料が塑性変形するとともに破断したセラミック片の間から露出して、基材上に堆積する。基材上に堆積した膜は、セラミックコーティングが破断し、塑性材料が表面に露出しているので、堆積膜に新たに衝突する粒子がセラミックコーティングによって反発されることなく、既存の堆積膜に対して連続的に堆積を継続することが可能にされる。このようにして形成される堆積膜は、塑性材料が連続相(母相)となり、その中に破断したセラミック片が分散して存在する組織を有する、塑性材料とセラミックの混合膜である。概して言えば、連続相(母相)が海、分散相が島の関係にある構造である。結果として、本発明の製造方法によれば、セラミックを含む粉末でありながら、従来技術のように投射されるセラミック含有粉末が堆積膜によって反射されないで、継続して堆積して、塑性材料とセラミックの混合膜を所望の厚みに堆積することが可能にされる。塑性材料とセラミックの混合膜の厚さとしては、例えば、0.01μm以上、0.5μm以上、1μm以上、10μm以上、30μm以上、100μm以上、1mm以上、3mm以上、5mm以上、10mm以上、さらにそれ以上であることができる。
図3(a)に示されるように、従来技術において、セラミックの粉末またはセラミックと金属の混合粉末を投射した場合、基板21の表面側に集積し易いセラミック23の表面層が次に投射される粉末粒子22を反射するために、それ以上の堆積が困難であった。これに対して、本発明によれば、図3(b)に示されるように、投射される粉末粒子32は金属などの塑性材料34の表面をセラミック33でコーティングされている粉末粒子32であり、粉末粒子32が基板31に投射されて基板31に衝突すると、粉末粒子32のセラミック33が破損して、内部の塑性材料34が露出する形で基板31上に堆積する。そのため、新たに投射される粉末粒子32は、基板31の表面にはその前に堆積して露出している塑性材料34が常に存在するので、セラミック33の表面層によって反射されることなく、累積的に堆積することが可能にされる。なお、本発明の製造方法によって得られるセラミックを含有する堆積物の内部構造の詳細については、図5とその説明(後出)が参照される。
また、本発明の製造方法によれば、塑性材料とセラミックの混合膜を所望の厚みに堆積できるとともに、例えば、堆積すべきでない部位にマスクを適用することで、あるいは三次元印刷堆積法によれば、基材の選択的な部位に選択的な厚みに堆積させることも可能である。さらに、基材に対して方向性をもって粉末を投射することで、三次元形状の基材の方向性を有する表面に対しても、それぞれ所望の厚みに堆積させることが可能である。
本発明の製造方法によれば、塑性材料とセラミックの混合膜を所望の厚みに堆積できるので、例えば、三次元印刷堆積法によって所望の形状に堆積してから、所望の厚み(形状)を有する堆積物を基材から分離することで、基材のない分離された堆積物からなる成形体を製造することも可能である。また、三次元形状の基材の表面に堆積することで表面が塑性材料とセラミックの混合膜で被覆された成形体、さらには大小の基材が堆積物中に埋没され実質的に塑性材料とセラミックの混合物からなる成形体や、堆積物の内部空間にある基材だけを後工程で選択的に除去して得られる塑性材料とセラミックの混合物からなる成形体を製造することも可能である。
また、本発明の製造方法によれば、セラミックを含む粉末をコールドスプレーして堆積できる付着効率(生産効率)が従来技術と比べて顕著に向上する。限定するわけではないが、従来、セラミック粉末又はセラミックを含む粉末をコールドスプレーして堆積できる付着効率(生産効率)は、投射したコールドスプレー用粉末の質量を基準に30%程度であったが、本発明によれば例えば、80%程度あるいはそれ以上に向上することが可能である。
本発明の製造方法により提供される塑性材料とセラミックの混合膜又は成形体は、塑性材料の特性とセラミックの性質を有する物品として、様々の用途に適用できる。限定するものではないが、例えば、自動車等のエンジン摺動部品や生体向け人口骨として有用である。
(摺動性物品)
本発明によれば、第二の側面において、第一の側面に開示した物品の製造方法の有用な応用例として、
基材表面に摺動性被膜を有し、
前記摺動性被膜はセラミックでコーティングされた塑性材料からなる複合粒子同士が相互に結合して成り、
前記複合粒子は前記基材に向かう方向に圧潰された形状を有し、
前記複合粒子同士は前記塑性材料同士によって相互に結合しており、
前記セラミックは前記複合粒子の表面において破断されて、前記塑性材料は連続相を成し、前記セラミックは前記連続相を成す前記塑性材料中に内包されていることを特徴とする摺動性物品を提供する。
第一の側面で開示した本発明の物品の製造方法によれば、基材上に摺動性を有するセラミックを含む膜を堆積できるので、基材に対して摺動性を付与し、あるいは摺動性を向上させることが可能である。本発明において摺動性とは、摺動部位を有する物品の摺動部位に用いるのに適した特性をいい、主として耐摩耗性及び/又は摩擦係数に優れることをいう。物品の摺動部位は摩耗が激しいので、耐摩耗性に優れることが重視される。また物品の摺動部位は摺動の容易性のために、用途によっては摩擦係数も重要であり得る。耐摩耗性は、例えば、被測定物品に対して特定の剛体を特定の圧力で押圧しながら両者を相対運動させて、所定の時間における被測定物品の摩耗量を測定することにより測定できる。また摺動性被膜中のセラミックの硬度が基材の硬度より高いと摺動性被膜が耐摩耗性を付与することができる。摩擦係数の測定方法は知られており、静止摩擦係数、動摩擦係数などがあるが、少なくとも一つの摩擦係数を小さくできればよい。摩擦は相手があるが、本発明の摺動性物品では、目的とする用途において有用な摺動性に向上があればよい。
基材の摺動性を付与あるいは向上させるために第二の側面で用いるセラミックは、基材と比べて、耐摩耗性及び/又は摩擦係数に優れるセラミック材料であればよい。耐摩耗性は主に硬度に依存し、セラミック材料は一般に硬度が高い。耐摩耗性又は硬度に優れるセラミック材料の例としては、アルミナ、酸化六ホウ素などの代表的な酸化物系や窒化物系のセラミック材料のほか;ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、グラファイトなどの炭素系材料;窒化ホウ素などのダイヤモンド類似材料;炭化タングステンなどのサーメット材料などを挙げることができる。とりわけ、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの炭素系材料は、耐摩耗性又は硬度に優れるが、高温の空気など酸素含有雰囲気中では燃焼や熱分解して溶射法などの熱的方法を利用できないので、本発明のコールドスプレー法によって堆積可能にされ、その被膜を有する物品が提供されることは、大きな利点である。
好ましい摺動性被膜の材料としてダイヤモンドライクカーボン(DLC)を金属粉末にコーティングする例を説明する。反応容器内において、盆の形状のパットに金属粉末を敷き詰め、反応容器中にアルゴンを含むガスを供給しながら、パットを一方の電極とし、金属粉末の上方に配置した対極との間に電圧を印加して、必要に応じて金属粉末に対してアルゴンエッチングした後、加熱しながらアセチレンを供給してダイヤモンドライクカーボンを化学的気相堆積(CVD)する。このCVD法では、敷き詰められた金属粉末上に堆積されたダイヤモンドライクカーボンは、金属粉末の片面側から堆積されるので、敷き詰められた金属粉末の最上部の粉末でもその全表面を覆わないが、下方の金属粉末ではコーティングされない粉末もあるが、少なくとも最上部の金属粉末については表面の実質的な部分を覆う。図4にこのようにして金属粉末41に対して堆積されたダイヤモンドライクカーボン層42を模式的に示す。CVD後、コーティングされた金属粉末を必要に応じて解砕し、コールドスプレー用粉末を製造することができる。DLC膜は例えば100nm~5μmの厚みに形成してよい。
従来、基材上に膜状に堆積する方法しか知られていないダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの非平衡プラズマ等の特徴的な非平衡プロセスによって得られる非晶質の膜はその粒子自体を得ることができない、若しくは膜を剥離粉砕して得たとしてもその特性が変化してしまうことから、コールドスプレー法を適用できない。本発明の製造方法によれば、そのようなダイヤモンドライクカーボン(DLC)などを含む粉末を用いてコールドスプレーできること、所望の厚さに堆積できることは新規なことであり、有意義であり、従来ない物品、摺動性物品を提供する効果がある。
第二の側面で用いる塑性材料は、第一の側面に記載した塑性材料のいずれでもよいが、摺動性物品に多用されている材料であることは好ましい。例示すれば、チタン、銅、ステンレスや炭素鋼などがある。
第二の側面における複合粒子は基本的に基材に向かう方向に圧潰された形状を有しているが、一部の粒子が圧潰方向に一致しない形状であってもよい複合粒子の寸法は電子顕微鏡で観察した寸法とし、任意に10個以上の複合粒子について測定して平均値を算出する。このような複合粒子は、コールドスプレー用粉末として、平均粒径が1μm~100μm、さらには10μm~30μmである複合粒子粉末(塑性材料をセラミックでコーティングした複合粒子)を用いて得られるものであってよい。複合粒子は、圧潰された形状を有し、例えば、複合粒子の圧潰方向の最大寸法に対するそれに垂直な方向(扁平方向)の最大寸法が1~100倍、さらには1~1000倍であってよい。
第二の側面における破断されたセラミックの寸法は、複合粒子の寸法より小さくて、複合粒子の表面において破断されていればよい。セラミックの破断のされ方は一概ではないが、セラミックコーティングが破断して塑性材料が露出していれば(塑性材料が連続相であれば)よいので、破断したセラミック片の寸法は、比較的に大き目でも、小さ目でもよい。
第二の側面で用いる摺動性被膜の膜厚は、限定されないが、例えば、0.05μm以上でよく、さらには0.1μm以上、0.5μm以上、1μm以上、3μm以上、10μm以上、20μm以上などであってよい。また、10μm以下、1μm以下、0.5μm以下であってよい。
第二の側面で用いる基材は、摺動性物品に多用されている材料であることが好ましい。例示すれば、炭素鋼やジュラルミンなどがある。しかし、本発明により摺動性被膜によって摺動性が付与又は向上されるので、従来は特定の用途において、摺動性物品に使用されていない材料であっても、摺動性物品の基材とすることができる。例えば、従来摺動性物品に使用されていない用途においてプラスチックを摺動性物品の基材とすることも可能である。
図5に、第二の側面で提供される基材51表面に摺動性被膜52を有する摺動性物品50を、説明のための模式的な断面図として示す。しかし、図5は、簡単のために、基材51とその上に堆積中の摺動性被膜52の一部だけを模式的に示すものである。図5において、摺動性物品50は、基材51と基材表面に摺動性被膜52とを有する。
摺動性被膜52は、塑性材料54とその塑性材料54中に分散して存在するセラミック53とを含んでいる。摺動性被膜52は、塑性材料54をセラミック53がコーティングした複合粒子55同士が結合して形成されている。摺動性被膜52において塑性材料54同士は相互に結合して連続相を成しているので、その意味では複合粒子55は仮想粒子であるが、コールドスプレー法で投射される前に実在した複合粒子であるのみならず、摺動性被膜52の横断面における少なくともセラミック53の形状から存在を認識できるという意味で実在の複合粒子である。図5において、複合粒子55に区別のために向きが異なるハッチングを施したが、それらの複合粒子55に相違はなく、特に意味はない。
複合粒子55は、コールドスプレー法で投射された結果として、基材51に向かう方向に圧潰された形状を有している。摺動性被膜52中の複合粒子55は、複合粒子55の表面においてセラミック53が破断されている。また、複合粒子55は、コールドスプレー法で投射される前においてセラミック53が複合粒子55の表面の一部だけをコーティングしていてもよいので、元々セラミック53が複合粒子55を覆っていなかった部位では、複合粒子55の表面にセラミック53が存在しないことができる。そして、摺動性被膜52において、塑性材料54同士は、破断されたセラミック53の間を介して、または元々セラミック53が複合粒子55を覆っていなかった部位を介して、相互に結合して連続相を成している。一方、セラミック53は、複合粒子55の表面において破断されており、連続相を成す塑性材料54中に内包(分散)されている。概して言えば、連続相が海、分散相が島の関係にある構造である。なお、セラミック53の破断のされ方は一様ではなく、図5はあくまでも破断を説明するために模式的に描かれたものである。また、塑性材料54同士は相互に結合して連続相を成しているが、例外的に分離相をなす塑性材料54が存在してもよい。塑性材料が摺動性被膜全体に亘る連続相を形成していれば、摺動性被膜の強度は保持される。連続相を成していない塑性材料は、塑性材料の全体を基準に30体積%以下、10体積%以下、5体積%以下、1体積%以下、さらには実質的にゼロがよい。また、摺動性被膜中の複合粒子は、コールドスプレーされた粉末と必ずしも一対一対応するものではなく、一部(あるいは全部)の粒子はコールドスプレーの際に破砕された粒子であってもよい。このような摺動性被膜の構造、複合粒子の形態を分析する方法は当業者には理解されるものであるが、例えば、高性能の電子顕微鏡を駆使する(例えば電子エネルギー損失分光法(EELS)を併用した超高分解能走査透過電子顕微鏡(STEM)による高分解能での観察)などの手法によれば分析できる。
第二の側面の摺動性物品は、基材及びコールドスプレー用粉末を適当に選択して、第一の側面で説明したコールドスプレー法による物品の製造方法によって製造できる。
第二の側面の摺動性物品は、各種の摺動物品に適用できる。例えば、接触式検査用電極、パンタグラフ、ベアリング、ガイドレール、ピストンリングなどが挙げられる。
(人工骨及び人工歯)
本発明によれば、第三の側面において、第一の側面に開示した物品の製造方法の有用な応用例として、チタン系母材中にハイドロキシアパタイトが分散して成る成形体であるか、又はチタン系母材中にハイドロキシアパタイトが分散して成る膜をチタン系基材表面に有することを特徴とする人工骨又は人工歯が提供される。
第三の側面では、第一の側面に開示した物品の製造方法において、コールドスプレー用粉末として、チタン系粉末の粒子表面をハイドロキシアパタイトでコーティングした複合粒子を用いることで、上記の構造を有する人工骨又は人工歯を製造することができる。
第三の側面の人工骨又は人工歯において、チタン系材料は母材であり、連続相である。一方、ハイドロキシアパタイトは、連続相であるチタン系母材中に分散している。概して言えば、連続相(母材)が海、分散相が島の関係にある構造である。チタン系基材を有する場合、チタン系母材はチタン系基材とも連続相を形成していることが好ましい。チタン系母材はチタン系基材とも連続相を形成していることにより、人工骨又は人工歯が体内に設置されたとき、チタン系母材を介して進行する骨化がチタン系基材にまで進行することができる。第三の側面の人工骨又は人工歯におけるチタン系母材中にハイドロキシアパタイトが分散して成る成形体又は膜の組織は、第二の側面で図5を参照して説明したような複合粒子同士が結合して成る組織であることができるが、複合粒子を構成する塑性材料であるチタン系母材とセラミックであるハイドロキシアパタイトとの割合は、ハイドロキシアパタイトのチタン系母材粒子表面への堆積(成長)に比較的に自由度がある特長がある。チタン系材料は相互に結合して連続相を成して母材を成すが、例外的にハイドロキシアパタイトによって包囲されたチタン系材料の分離相が存在してもよい。連続相を成していないチタン系材料は、チタン系材料の全体を基準に30体積%以下、10体積%以下、5体積%以下、1体積%以下、さらには実質的にゼロがよい。
第三の側面の人工骨又は人工歯は、第一の側面の製造方法で作製できるものであるので、基本的に、第二の側面で定義した塑性材料とセラミックとからなる組織(図5に例示した)を有していてもよい。すなわち、第三の側面の人工骨又は人工歯は、ハイドロキシアパタイトでコーティングされたチタン系材料からなる複合粒子同士が相互に結合して成り、複合粒子は特定方向に圧潰された形状を有し、複合粒子同士はチタン系材料同士によって相互に結合しており、ハイドロキシアパタイトは複合粒子の表面において破断されて、チタン系材料は連続相(母材)を成し、ハイドロキシアパタイトは連続相を成すチタン系材料(母材)中に内包されている、成形体であるか、又はそのような内部構造を有するハイドロキシアパタイト含有チタン系材料膜をチタン系基材表面に有していてもよい。
このような人工骨又は人工歯は、コールドスプレー用粉末として、限定されないが、平均粒径が1μm~100μm、さらには5μm~30μmである複合粒子粉末(チタン系粉末をハイドロキシアパタイトでコーティングした複合粒子)を用いて得られるものであってよい。チタン系粉末は、金属チタンのみならず、チタン-6アルミニウム-7ニオブなどのチタン合金でもよい。チタン系粉末がこのような寸法を有していると、粉体流動性を担保できる為、好ましい。チタン系粉末粒子の寸法は、電子顕微鏡で観察した寸法とし、任意に10個以上の粒子について測定して平均値を算出する。複合粒子は、圧潰された形状を有してよいが、圧潰方向に一致しない形状を有する粒子を含んでもよい。例えば、複合粒子の圧潰方向の最大寸法に対するそれに垂直な方向(扁平方向)の最大寸法(平均値)が、1~10倍、1~100倍、さらには1~1000倍であってよいが、その下限値は1.5倍、2倍、3倍、5倍、10倍であってもよい。
チタン系粉末の粒子表面をハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)でコーティングするには、疑似体液中にチタン系金属粉末を浸漬すればよい。疑似体液中にチタン系粉末を浸漬すれば、自然にチタン系粉末の粒子表面にハイドロキシアパタイトが堆積し成長してコーティングが形成される。このような疑似体液は知られている(例えば、非特許文献1が参照される)。限定するものではないが、実施例では、Na142.0mM、K5.0mM、Mg2+1.5mM、Ca2+2.5mM、Cl103.0mM、HCO3 10.0mM、HPO4 2-1.0mM、SO4 2-0.5mMを含む水溶液からなる疑似体液を用いた。ハイドロキシアパタイトコーティングの好ましい厚さは、人工骨又は人工歯の使用部位によって異なるが、例えば、1μm以上、3μm以上、10μm以上であってよい。ハイドロキシアパタイトコーティングがチタン系粒子の半分をアパタイトが占めるような厚さ、チタン系金属粉末の粒径の約0.13倍の厚さ、例えば、40μmのチタン系金属粉末のとき約10μmの厚さは好ましい。
人工骨又は人工歯において、コールドスプレーの結果として得られる破断されたハイドロキシアパタイトの寸法は、破断されていればよい。ハイドロキシアパタイトコーティングが破断して塑性材料が露出していれば(チタン系母材が連続相であれば)よいので、破断したセラミック片の寸法は比較的に大きくても、小さくてもよい。ハイドロキシアパタイトは寸法より、含有率が重要であり、チタン系母材とハイドロキシアパタイトとの総量に対してハイドロキシアパタイトが体積基準で5~60%、さらには20~40%含まれることが好ましい。
チタン系基材の形状は、人工骨又は人工歯の用途に応じて形成されるので、一般的には三次元形状であるが、三次元形状のチタン系基材の表面にコールドスプレーする方法は知られている。チタン系基材の表面に形成されるハイドロキシアパタイト含有チタン系材料膜の膜厚は均一であることは好ましいが、必ずしも均一である必要はない。
第三の側面の人工骨又は人工歯において、チタン系母材中にハイドロキシアパタイトが分散して成る膜の厚さ(成形体の最小寸法)は、限定されず、使用される人体の部位などの用途にもよるが、例えば、0.1μm以上であればよい。1μm以上、5μm以上、10μm以上、100μm以上、また50μm以上以下、10μm以上以下、5μm以上以下でもよい。
第三の側面の人工骨又は人工歯を人体内に設置すると、体液と接触することで、チタン表面でチタン表面の不動態皮膜が、部分溶解と再析出を繰り返し、生体骨を構成する主な成分であるハイドロキシアパタイトを他の金属に比べて高速に且つ、高密度にチタン表面に析出する。このため、チタンは他の金属に比べ、ハイドロキシアパタイトを介して人体と効率的に密着され、高い硬組織適合性を示す。ハイドロキシアパタイトコーティングを有するチタン系金属の骨結合性については知られている(例えば、青木他、「驚異の生体物質アパタイトと表面技術」、表面技術、Vol.58,No.12,2007、pp744-750)。
従来、ハイドロキシアパタイトはチタン表面への擬似体液等の反応用液の接触による表面からの拡散を伴う反応を使用して形成され、チタン中にハイドロキシアパタイトを導入しようとした場合、焼結等のプロセスが必要となり、チタンの酸化とハイドロキシアパタイトの組成の変化が進行してしまうため、チタン系母材中にハイドロキシアパタイトを分散させることは、困難であったので、本発明によりハイドロキシアパタイトをチタン系母材中に分散させた人工骨又は人工歯が提供されること、特にコールドスプレー法で温度による反応を抑制しながら作製できることは、有意義である。
人工骨の例としては、大腿骨、股関節、などを挙げることができるが、限定されない。
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
(実施例1)
市販の銅粉末(平均粒径20μm)をパッドに敷き詰め、反応装置内に配置し、パッドを一方の電極、パッド上方の電極を対極として、エッチング及びダイヤモンドライクカーボンのCVDを実施した。エッチングは、アルゴンガスを用い、圧力3.0Pa、流量20cm3/分で、印加電圧-3.5kV、5分間とした。ダイヤモンドライクカーボンのCVDは、アセチレンガスを用い、圧力3.0Pa、流量20cm3/分で、印加電圧-3.5kV、30分間とした。ダイヤモンドライクカーボンはパット上の最上層にある銅粉末を深さ方向の大部分で覆うように堆積したが、最上層の銅粉末の下には第2層として存在する銅粉末があるので、最上層にある銅粉末の裏側はダイヤモンドライクカーボンによって完全には被覆されなかった。銅粉末41と堆積されたダイヤモンドライクカーボン層42との関係は図4に模式的に示されている。ダイヤモンドライクカーボンがコーティングされた銅粉末を分離して、次のコールドスプレー用粉末として用いた。ダイヤモンドライクカーボンが生成していることはラマンスペクトル分析を用いて確認し、その分散状況をエネルギー分散型X線分光器(EDS)等により確認した。選別したコールドスプレー用粉末の平均粒径はSEM観察で20μm、ダイヤモンドライクカーボンの平均被覆率は目視で20%程度、コーティング厚さはコーティング前後の粒径の差から計算して約500nmであった。
図1に示したようなコールドスプレー装置(ロシアOCPS社製DYMET)を用い、上記で作成したダイヤモンドライクカーボンコーティングした銅粉末をコールドスプレー用粉末として用い、キャリアガスとして圧力6×10Paの圧縮空気を400℃に加熱して0.335m3/分でラバルノズルの後方に供給し、ラバルノズルから粉末供給量19.44g/分、スキャン速度100mm/秒で、アルミニウム基板にコールドスプレーした。
得られたダイヤモンドライクカーボン含有銅膜(簡単のためにDLC膜という。)の平均厚みは130μm、付着効率は約80%であった。膜を基板に平行な面で研磨して走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真を図6(a)に示すが、ダイヤモンドライクカーボンコーティングした銅粉末の粒子が観察される。大視野で10個の粒子について測定した粒径(円相当径)の平均値は40μmであった。膜中の粒子は重なり合っているので、測定される粒径は実際の粒子寸法より小さく、コールドスプレー用粉末の平均粒径は20μmであるので、基板平行方向に粉末粒子の寸法は圧潰されて大きくなっていることが確認される。粒子の圧潰方向の最大寸法に対して扁平方向の最大寸法は約2倍であった。
図6(a)に示すDLC膜のエネルギー分散型X線分光器(EDS)によるマッピングを図6(b)(c)に示すが、図6(b)は炭素元素、図6(c)は銅元素の存在を示す。銅元素の分布に比べ炭素原子の分布は狭く、中央粒子表面にのみ強度があることからDLCは前面ではなく局所的に導入されている。また、図7にDLC膜のラマン分光分析結果を示すが、1600cm-1炭素のsp結合に起因するブロードなピークを確認することができる。これらの分析からダイヤモンドライクカーボンの存在が確認される。
図8を参照すると、DLC膜を有する銅を形成したアルミ基板61を400rpmで回転させながら、半径3mmのベアリング鋼球(SUJ2)を基板の回転半径3.0mmの位置で、基板面に垂直に荷重1Nで押し付けて、累計回転数50,000回までのDLC膜の摩擦係数を測定した。測定時の温度25.5℃、湿度50%であった。比較のために、DLC膜を有していない同じ銅を形成したアルミ基板について、全く同じ方法で、摩擦係数を測定した。
測定した摩擦係数を回転累計数の関数として図9に示す。比較例の基板と比べて、実施例1のDLC膜を有する銅を形成したアルミ基板では、摩擦係数が実質的に小さいことが認められる(回転累計数10,000までの摩擦係数は、比較例が約0.6、実施例1が約0.2であることが認められる)。回転累計数が増加すると実施例1の摩擦係数が大きくなるのは銅膜がボール側へ凝着していく為である。また、この摩擦試験の結果から、実施例1のDLC膜は基板に対して強く付着していること、膜強度が高いことが確認され、これは膜中において銅粉末粒子同士が相互に結合し、DLCはその中に内包され、分散しているからである。
累計回転数50,000回までの比摩耗量は、レーザー顕微鏡で測定して、比較例が2.0×10-2mm3/(N・m)、実施例1が1.6×10-2mm3/(N・m)であり、DLCの耐摩耗性を銅に付与している。
(実施例2)
下記の組成:Na+142.0mM、K+5.0mM、Mg2+1.5mM、Ca2+2.5mM、Cl-103.0mM、HCO3 -10.0mM、HPO4 2-1.0mM、SO4 2-0.5mMを有する疑似体液中に、市販のチタン粉末(平均粒径40μm)を室温で4時間浸漬して、チタン粉末粒子の表面にハイドロキシアパタイト(HA)膜を堆積させた。解砕後、ハイドロキシアパタイト(HA)膜の膜厚は平均3μmであった。
実施例1と同様に、図1に示したようなコールドスプレー装置(ロシアOCPS社製DYMET)を用い、上記で作成したハイドロキシアパタイト(HA)コーティングしたチタン粉末をコールドスプレー用粉末として用い、キャリアガスとして圧力5×10Paの窒素ガスを500℃に加熱して0.308m3/分でラバルノズルの後方に供給し、ラバルノズルから粉末供給量11.57g/分、スキャン速度100mm/秒で、チタン基材にコールドスプレーした。コールドスプレーによって堆積したハイドロキシアパタイト(HA)含有チタン膜の膜厚は平均500μm、付着効率70%であった。
コールドスプレー後に得られたハイドロキシアパタイト(HA)含有チタン膜のチタン基材表面に平行な面における走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図10(a)に示す。
また、図10(a)に示すハイドロキシアパタイト(HA)含有チタン膜のエネルギー分散型X線分光器(EDS)によるマッピングを図10(b)~(e)に示すが、図10(b)は酸素元素、図10(c)はカルシウム元素、図10(d)はリン元素、図10(e)はチタン元素の存在を示す。これらからハイドロキシアパタイト(HA)の存在が確認される。チタンの分布に比べてHAの構成元素の分布領域が小さいことからハイドロキシアパタイト(HA)は全ての部分を覆っているのではなく、チタンの連続体中にハイドロキシアパタイト(HA)が分布していることが確認される。
このようにチタン母相中にハイドロキシアパタイト(HA)が分散していると、人工骨及び人工歯として有用であることは知られている。
なお、実施例1及び2では、コールドスプレー法で厚さ約130μm及び約500μmのセラミック含有膜が得られ、これらは従来の方法では得られない膜厚のセラミック含有膜であるが、実施例1及び2において、さらにコールドスプレーを繰り返すことで、さらに厚いセラミック含有膜を得ることに何ら障害はなかった。
1:ラバルノズル、 2:ガス導入部、 3:狭窄部、 4:ノズル開口部4、 5:キャリアガス、 6:ヒータ、 7:ガス流、 8:パウダーフィーダ、 9:粉末、 10:基板、 11:膜、
21:基板、 22:粉末粒子、 23:セラミック、
31:基板、 32:粉末粒子、 33:セラミック、 34:塑性材料、
41:金属粉末、 42:ダイヤモンドライクカーボン層、
50:摺動性物品、 51:基材、 52:摺動性被膜、 53:セラミック、 54:塑性材料、 55:複合粒子。

Claims (5)

  1. チタン系粉末の粒子表面をハイドロキシアパタイトでコーティングした粉末を、コールドスプレーして、チタン系基材上に膜を形成するか、又は成形体を形成することにより、人工骨又は人工歯を製造することを特徴とする人工骨又は人工歯の製造方法。
  2. 前記膜又は前記成形体が0.5μm以上の厚さ又は寸法を有する、請求項1に記載の製造方法。
  3. チタン系母材中にハイドロキシアパタイトが分散して成る成形体であるか、又はチタン系母材中にハイドロキシアパタイトが分散して成る膜をチタン系基材表面に有することを特徴とする人工骨又は人工歯。
  4. 前記チタン系母材が前記膜において連続相であり、前記ハイドロキシアパタイトが前記チタン系母材の前記連続相中に分散する不連続相であり、前記膜中の前記チタン系母材の前記連続相は前記チタン系基材とも連続する相を成している、請求項3に記載の人工骨又は人工歯。
  5. 前記膜が0.1μm以上の厚さを有する、請求項3又は4に記載の人工骨又は人工歯。
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