JP2013129893A - 水蒸気バリア膜形成用蒸着材及び水蒸気バリア膜の成膜方法並びにこの方法で成膜された水蒸気バリア膜 - Google Patents
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Abstract
【課題】無色透明性と高い水蒸気バリア性の双方同時に備える水蒸気バリア膜を形成するための蒸着材及びその成膜方法並びにこの方法で成膜された水蒸気バリア膜を提供する。
【解決手段】純度が98%以上100%未満の第1酸化物と純度が98%以上100%未満の第2酸化物からなる水蒸気バリア膜形成用蒸着材であり、上記第1酸化物はWO3であり、上記第2酸化物はZnO又はSiOの少なくとも一方であり、上記第1酸化物と第2酸化物の含有モル量をそれぞれXモル、Yモルとするとき、組成比が0.05≦Xモル/(Xモル+Yモル)≦0.95であることを特徴とする。
【選択図】なし
【解決手段】純度が98%以上100%未満の第1酸化物と純度が98%以上100%未満の第2酸化物からなる水蒸気バリア膜形成用蒸着材であり、上記第1酸化物はWO3であり、上記第2酸化物はZnO又はSiOの少なくとも一方であり、上記第1酸化物と第2酸化物の含有モル量をそれぞれXモル、Yモルとするとき、組成比が0.05≦Xモル/(Xモル+Yモル)≦0.95であることを特徴とする。
【選択図】なし
Description
本発明は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ又は太陽電池等の電子機器、或いは食品、薬品等の包装材料等において、無色透明性と高い水蒸気バリア性の双方同時に備える水蒸気バリア膜を形成するための蒸着材及びその成膜方法並びにこの方法で成膜された水蒸気バリア膜に関するものである。
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ又は太陽電池等の機器は、一般に湿気に弱く、吸湿によって急速にその特性を劣化させるため、高防湿性、即ち酸素や水蒸気等の透過又は侵入を防止するガスバリア性を有する部品を装備することが不可欠である。
例えば、太陽電池の例では、太陽電池モジュールの受光面とは反対側の裏面にバックシートが設けられている。このバックシートは、基材に、蒸着材等を用いて成膜された高防湿性を有する水蒸気バリア膜と、それらを保護する部材等から構成されたものが代表的なものである。また、上記太陽電池等の機器の他に、食品や薬品等の包装材料等でも高い水蒸気バリア性が求められており、プラスチックの表面に酸化珪素、酸化アルミ又はアルミ金属箔等を蒸着させて成膜した水蒸気バリア膜を備える包装材料等が一般的に広く知られている。
また、水蒸気バリア膜は、水蒸気バリア性以外に透明性が求められる。例えば、食品や薬品の包装材料等では、水蒸気バリア性以外に透明性を備えることによって、開封せずに収容物を透視して確認できるためである。また、透明性を備えていれば、例えば有機ELディスプレイの発光面や、太陽電池の受光面側に用いた場合であっても、ディスプレイ表示の視覚的な弊害を起こすことなく、また、太陽光の受光を妨げることなく、耐湿性を付与することができる。そのため、これらの電子機器の分野においても透明性を備えるものが望まれる。
このような水蒸気バリア性と透明性を備えた水蒸気バリア膜に関する技術としては、SiO蒸着材を用い、電子ビーム蒸着法(Electron Beam Evaporation Method 以下、EB法という)により基材フィルム上にSiOX膜を形成したガスバリア性フィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に示されるガスバリア性フィルムでは、水蒸気バリア膜として、EB法によって形成されたSiOX膜を備えることで、可視光透過率85%以上の透明性と、水蒸気透過率5g/m2・day以下の非常に高いガスバリア性が得られることとされている。
また、ガスバリア層として、酸化アルミニウムからなる水蒸気バリア膜を備えたガスバリア性積層フィルムが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この特許文献2に示されるガスバリア性積層フィルムでは、透明基材の上に、酸化アルミニウムからなるガスバリア層を積層し、更に所定の被覆層を所定の厚さで積層することにより、透明性を備え、かつ包装材料としての通常の加工を施してもガスバリア性が劣化しない高いガスバリア性が得られることとされている。
しかしながら、水蒸気バリア膜は、上記透明性及び水蒸気バリア性に加え、単に透明であることのみならず、無色透明であることが望まれる。上記従来の特許文献1等に示されるガスバリア性フィルムの場合、十分な水蒸気バリア性を備え、また、透明性についても、可視光透過率85%以上を達成しており、十分な透明度はあるものの、水蒸気バリア膜として備えるSiOX膜が、黄色味がかった透明になる傾向がみられ、無色透明の膜にはなりにくい。特に、食品用の包装材料の場合、黄色味は倦厭されるが、電子機器等の分野においても色味が少ない透明の方が、例えばディスプレイの表示面側へ使用したときの発色や色合いへの影響等からも好まれる。
また、量産性やコストの面から、より低エネルギーで成膜でき、かつ成膜速度が速いことが望まれる。一方、上記従来の特許文献2に示された積層フィルムでは、高い水蒸気バリア性を備えるものの、酸化アルミニウムが低蒸気圧材料であるため、成膜装置が限られ、また、蒸着膜を成膜する際に高エネルギーを必要とすることから、量産性やコストの面で課題を残している。このように、高品質の水蒸気バリア膜を製造する際に、成膜時の出力低減や成膜速度の高速化を、装置側の改良にのみ依存せずに、材料面からの改良等も求められている。
本発明の目的は、無色透明性と高い水蒸気バリア性の双方同時に備える水蒸気バリア膜を形成するための蒸着材及びその成膜方法並びにこの方法で成膜された水蒸気バリア膜を提供することにある。
本発明の別の目的は、無色透明性と高い水蒸気バリア性の双方同時に備える水蒸気バリア膜を、低エネルギーで、かつ高速で成膜することができる水蒸気バリア膜形成用蒸着材及びその成膜方法を提供することにある。
本発明の第1の観点は、純度が98%以上100%未満の第1酸化物と純度が98%以上100%未満の第2酸化物からなる水蒸気バリア膜形成用蒸着材であり、上記第1酸化物はWO3であり、上記第2酸化物はZnO又はSiOの少なくとも一方であり、上記第1酸化物と第2酸化物の含有モル量をそれぞれXモル、Yモルとするとき、組成比が0.05≦Xモル/(Xモル+Yモル)≦0.95である水蒸気バリア膜形成用蒸着材である。
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に蒸着材は、造粒処理された平均粒径1〜10mmの顆粒体からなることを特徴とする。
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に蒸着材は、プレス成型された直径5〜30mm、厚さ1〜20mmのペレットからなることを特徴とする。
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点の蒸着材を用いて、抵抗加熱法、電子ビーム蒸着法又は反応性プラズマ法により成膜を行う水蒸気バリア膜の成膜方法である。
本発明の第5の観点は、第1ないし第3の観点の蒸着材を用いて、真空成膜法により形成されたb*値の絶対値が3未満であり、かつ水蒸気透過率が0.1g/m2・day以上1.0g/m2・day未満である水蒸気バリア膜である。
本発明の第1の観点の蒸着材は、純度が98%以上100%未満の第1酸化物と純度が98%以上100%未満の第2酸化物からなる水蒸気バリア膜形成用蒸着材であり、上記第1酸化物はWO3であり、上記第2酸化物はZnO又はSiOの少なくとも一方である。そして、上記第1酸化物と第2酸化物の含有モル量をそれぞれXモル、Yモルとするとき、組成比が0.05≦Xモル/(Xモル+Yモル)≦0.95である。これにより、無色透明性と高い水蒸気バリア性の双方同時に備える水蒸気バリア膜を形成することができる。また、蒸着材に含まれる第1酸化物と第2酸化物が共に高蒸気圧材料であるため、上記高品質の水蒸気バリア膜を、低エネルギーで、かつ高速で成膜することができる。
本発明の第4の観点は、本発明の蒸着材を用いて、抵抗加熱法、電子ビーム蒸着法又は反応性プラズマ法により成膜を行う水蒸気バリア膜の成膜方法である。本発明の成膜方法では、上記本発明の蒸着材を用いて水蒸気バリア膜の成膜を行うため、無色透明性と高い水蒸気バリア性の双方同時に備える水蒸気バリア膜を、低エネルギーで、かつ高速で成膜することができる。そのため、成膜方法を限定せずに、上記のいずれの方法によっても高品質の水蒸気バリア膜を成膜することができる。
本発明の第5の観点は、本発明の蒸着材を用いて、真空成膜法により形成されたb*値の絶対値が3未満であり、かつ水蒸気透過率が0.1g/m2・day以上1.0g/m2・day未満である水蒸気バリア膜である。本発明の水蒸気バリア膜は、上記本発明の蒸着材を用いて成膜された、無色透明性と高い水蒸気バリア性の双方を同時に備える高品質の水蒸気バリア膜であるため、例えば有機ELディスプレイ等の発光面側(映像等の表示面側)にも好適に用いることができる。
次に本発明を実施するための形態を説明する。
本発明の水蒸気バリア膜形成用蒸着材は、純度が98%以上100%未満の第1酸化物と純度が98%以上100%未満の第2酸化物からなる水蒸気バリア膜形成用蒸着材であり、上記第1酸化物はWO3であり、上記第2酸化物はZnO又はSiOの少なくとも一方である。そして、上記第1酸化物と第2酸化物の含有モル量をそれぞれXモル、Yモルとするとき、組成比が0.05≦Xモル/(Xモル+Yモル)≦0.95である。
第1酸化物をWO3とし、また、第2酸化物をZnO又はSiOの少なくとも一方とする理由は、第一に、水蒸気バリア性が高く、しかも色味が少ない透明、即ち無色透明の膜の形成を可能にするためである。WO3は青味がかった膜を形成しやすく、一方ZnO及びSiOは黄色味がかった膜を形成しやすい傾向がみられる。そのため、WO3を第1酸化物として必須の構成材料とし、ZnO又はSiOのいずれか一方或いは双方を第2酸化物として他の構成材料とすることで、透明、かつ無色の膜を形成することができる。
また、第二に、WO3、ZnO及びSiOはいずれも高蒸気圧材料であるためである。高蒸気圧材料は、ある一定の温度にした場合に、非常に高い蒸気圧を示す材料である。このため、蒸着材の材料に用いられる酸化物として、いずれも高蒸気圧材料を用いることで、真空成膜法等により基材に水蒸気バリア膜を成膜する際、低蒸気圧材料を用いた蒸着材に比べ、低エネルギーで、かつ高速で行うことができる。なお、本明細書において、高蒸気圧材料とは、1200℃において1×10-1Pa以上の蒸気圧を示すものをいい、1200℃において1×10-1Pa未満の蒸気圧を示すものを低常気圧材料という。
また、本発明において、第1,第2酸化物の純度をそれぞれ98%以上100%未満とする理由は、純度が98%未満では不純物により結晶性が悪化し、結果的にバリア特性が低下するからであり、一方、純度100%とするのは現実的に不可能だからである。このうち、99.5%以上100%未満であることが好ましい。なお、第1,第2酸化物の純度は、それぞれ、蒸着材形成前の粉末時点で測定した値で表したものである。また、粉末の純度とは、分光分析法(誘導結合プラズマ発光分析装置:日本ジャーレルアッシュ製 ICAP−88)によって測定したものである。
また、上記第1酸化物と第2酸化物の含有モル量をそれぞれXモル、Yモルとするとき、組成比が0.05≦Xモル/(Xモル+Yモル)≦0.95とする理由は、組成比が下限値未満又は上限値を越えた場合、b*値の絶対値が3を越えてしまい、無色の膜が得られないからである。このうち、組成比は、0.01≦Xモル/(Xモル+Yモル)≦0.70とすることが好ましい。
また、蒸着材は、造粒処理された顆粒体であっても、プレス成型されたペレットであってもよい。顆粒体からなる蒸着材は、ペレット状のものに比べ、プレス成型を要しないため製造工程の単純化や低コスト化の面で優れる。一方、ペレットからなる蒸着材は、顆粒体状のものに比べ、よりスプラッシュが発生しにくい点で優れる。
蒸着材を、造粒処理された顆粒体とする場合には、顆粒体の平均粒径は1〜10mmであることが好ましい。顆粒体の平均粒径が下限値未満ではスプラッシュが頻発する場合があり、一方、上限値を越えると比表面積が小さくなるため成膜レートが低くなってしまう場合があるからである。このうち、平均粒径は2〜5mmであることが特に好ましい。
また、蒸着材を、プレス成型されたペレットとする場合には、ペレットの直径は5〜30mm、厚さは1〜20mmであることが好ましい。ペレットの直径又は厚さが下限値未満では、成型体の形状保持力が弱いため、欠けや割れが発生する場合がある。一方、ペレットの直径又は厚さが上限値を越えるとプレス金型壁面との摩擦によって、プレス圧力が成型体内部の場所により異なってしまうため、焼結後の形状歪みや内部構造が均質でなくなる場合があるからである。このうち、ペレットの直径は10〜25mm、厚さは1〜20mmであることが特に好ましい。
また、顆粒体からなる蒸着材、ペレットからなる蒸着材のいずれの場合も、蒸着材に含まれる上記第1酸化物粒子の平均粒径は0.1〜20μm、第2酸化物粒子の平均粒径は0.1〜20μmの範囲内であることが好ましい。蒸着材、即ち顆粒体又はペレットに含まれる第1酸化物粒子及び第2酸化物粒子の平均粒径を上記範囲に限定したのは、各々の平均粒径が下限値未満では、蒸着材の製造工程において、粉末の凝集が著しくなり、均一な混合が妨げられるからである。また、平均粒径が下限値未満の粉末を用いると、耐久性に優れた膜が得られ難い傾向がみられるからである。これは、平均粒径が非常に小さい粉末を原料に用いれば、より稠密な膜構造が得られるが、その一方で一粒界の比表面積が増大し、膜内に拡散した水蒸気によるダメージがより大きく影響するためと推察される。一方、各々の平均粒径が上限値を越えると、水蒸気バリア性向上に寄与する擬似固溶体を形成する効果が十分に得られない傾向がみられるからである。このうち、第1酸化物粒子の平均粒径が0.5〜10μm、第2酸化物粒子の平均粒径は0.5〜10μmの範囲内であることが特に好ましい。なお、本明細書中、平均粒径とは、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)に従い、日機装社製(FRA型)を用い、分散剤としてヘキサメタりん酸Naを使用し、1回の測定時間を30秒として3回測定した値を平均化したものである。また、第2酸化物がZnO及びSiOの双方である場合には、双方の第2酸化物粒子の平均粒径がそれぞれ上記範囲にあることが好ましい。
以上により、本発明の水蒸気バリア膜形成用蒸着材では、無色透明性と高い水蒸気バリア性の双方を同時に備える水蒸気バリア膜を形成することができる。具体的には、水蒸気透過率(Water Vapor Transmission Rate:WVTR)が0.1g/m2・day以上1.0g/m2・day未満の非常に高い水蒸気バリア性を備える。なお、水蒸気透過率が0.1g/m2・day未満の水蒸気バリア膜は、現状では製造するのが困難である。また、可視光領域の光透過率が75%以上の透明性を有する。そのため、本発明の水蒸気バリア膜は、太陽電池のバックシートを構成する防湿膜や、食品、薬品等の包装材料等のガスバリア材としての用途の他、太陽電池の受光面側や、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ又は照明用有機ELディスプレイ等の表示面側のガスバリア材としても好適に利用できる。そして、単に透明であるだけでなく、b*値の絶対値が3未満を示す、即ち無色透明であるため、特に食品の包装材料に用いた場合でも倦厭されることなく、また、ディスプレイの表示面側に用いても発色や色合いに影響を及ぼすことなく防湿効果等を付与することができる。なお、本発明において、b*値とは、国際照明委員会(CIE)が1976年に推奨した均等色空間L*、a*、b*に基づく値である。ここで、L*は明度指数で明るさを表し、a*とb*はクロマティクネス指数で彩度を表す。a*とb*が正の値のときは赤系から黄系を示し、負の値のときは青系を示す。この表色法はJIS Z 8729にも規定されている。本発明で用いたb*値は、多くのフィルムメーカーで膜の黄色味を評価する基準となっている。
また、本発明の蒸着材は、上述のように、材料に用いられる酸化物として、いずれも高蒸気圧材料を用いているため、基材に水蒸気バリア膜を成膜する際に、成膜装置が限定されることなく、低エネルギーで、かつ高速で行うことができる。そのため、いずれの真空成膜法によっても、高品質の水蒸気バリア膜を成膜することができるが、具体的には、EB法、抵抗加熱法又は反応性プラズマ蒸着法(Reactive Plasma Deposition Method 以下、RPD法という)等が挙げられる。
続いて、本発明の蒸着材の製造方法を焼結法により作製する場合を代表して説明する。最初にペレットからなる蒸着材の製造方法について説明する。先ず、第1酸化物粉末として純度が、好ましくは98%以上の高純度粉末と、第2酸化物粉末として純度が、好ましくは98%以上の高純度粉末と、バインダと、有機溶媒とを混合して、濃度が30〜75質量%のスラリーを調製する。好ましくは40〜65質量%のスラリーを調製する。なお、第1酸化物粉末と第2酸化物粉末は、製造後の蒸着材中の第1酸化物と第2酸化物との組成比が上述の範囲を満たすように調整し混合する。スラリーの濃度を30〜75質量%に限定したのは、75質量%を越えると上記スラリーが非水系であるため、安定した混合造粒が難しい問題点があり、30質量%未満では均一な組織を有する緻密な焼結体が得られないからである。また、使用する第1酸化物粉末の平均粒径、第2酸化物粉末の平均粒径は、製造後の蒸着材に含まれる第1酸化物粉末の平均粒径、第2酸化物粒子の平均粒径を上述した範囲に調整する理由から、第1酸化物粉末を0.1〜20μmの範囲内、第2酸化物粉末を0.1〜20μmの範囲内とするのが好ましい。
バインダとしてはポリエチレングリコールやポリビニールブチラール等を、有機溶媒としてはエタノールやプロパノール等を用いることが好ましい。バインダは0.2〜5.0質量%添加することが好ましい。
また、高純度粉末とバインダと有機溶媒との湿式混合、特に高純度粉末と分散媒である有機溶媒との湿式混合は、湿式ボールミル又は撹拌ミルにより行われる。湿式ボールミルでは、ZrO2製ボールを用いる場合には、直径5〜10mmの多数のZrO2製ボールを用いて8〜24時間、好ましくは20〜24時間湿式混合される。ZrO2製ボールの直径を5〜10mmと限定したのは、5mm未満では混合が不十分となることからであり、10mmを越えると不純物が増える不具合があるからである。また混合時間が最長24時間と長いのは、長時間連続混合しても不純物の発生が少ないからである。
撹拌ミルでは、直径1〜3mmのZrO2製ボールを用いて0.5〜1時間湿式混合される。ZrO2製ボールの直径を1〜3mmと限定したのは、1mm未満では混合が不十分となるからであり、3mmを越えると不純物が増える不具合があるからである。また混合時間が最長1時間と短いのは、1時間を越えると原料の混合のみならずボール自体が摩損するため、不純物の発生の原因となり、また1時間もあれば十分に混合できるからである。
次に、上記スラリーを噴霧乾燥する造粒処理を施して、所望の平均粒径を有する混合造粒粉末を得る。上記噴霧乾燥はスプレードライヤを用いて行われることが好ましい。
ペレットからなる蒸着材を得る場合には、上記造粒処理に続いて、所定の型に入れて所定の圧力でプレス成型を行う。所定の型は一軸プレス装置又は冷間静水圧(CIP;Cold Isostatic Press)成型装置が用いられる。一軸プレス装置では、造粒粉末を750〜2000kg/cm2(73.55〜196.1MPa)、好ましくは1000〜1500kg/cm2(98.1〜147.1MPa)の圧力で一軸加圧成型し、CIP成型装置では、造粒粉末を1000〜3000kg/cm2(98.1〜294.2MPa)、好ましくは1500〜2000kg/cm2(147.1〜196.1MPa)の圧力でCIP成型する。圧力を上記範囲に限定したのは、成型体の密度を高めるとともに焼結後の変形を防止し、後加工を不要にするためである。
更に、成型体を所定の温度で焼結する。焼結は大気、不活性ガス、真空又は還元ガス雰囲気中で1000℃以上、好ましくは1200〜1400℃の温度で1〜10時間、好ましくは2〜5時間行う。上記焼結は大気圧下で行うが、ホットプレス(HP)焼結や熱間静水圧プレス(HIP;Hot Isostatic Press)焼結のように加圧焼結を行う場合には、不活性ガス、真空又は還元ガス雰囲気中で1000℃以上の温度で1〜5時間行うことが好ましい。以上により、本発明のプレス成型されたペレットからなる蒸着材を得ることができる。
次いで、顆粒体からなる蒸着材の製造方法について説明する。具体的には、先ず、上述のペレットからなる蒸着材の製造方法と同様に、第1酸化物粉末、第2酸化物粉末を用意する。バインダ樹脂としてポリビニルブチラール樹脂等のブチラール系樹脂やエチルセルロース等のセルロース系樹脂を、また溶媒としてアセトン等の汎用溶剤を用意し、バインダ樹脂を溶媒に溶解させてバインダ液を調製する。バインダ液は、ブチラール:アセトン:エタノールが重量比で2.5:12.5:85の割合で混合されたものが好適である。バインダであるブチラールを汎用溶剤のアセトンで溶解し、エタノールを加えることによりバインダ液の液量を調整している。
上記例示ではエタノールを液量調整及び顆粒サイズ調整に用いているがここで使用する溶媒を表面張力及び蒸気圧で定義すると、表面張力が15〜50mN/mの範囲内、25℃における蒸気圧が25〜250mmHgの範囲内の材料が好適である。溶媒の表面張力を上記範囲内としたのは、15mN/m未満であると原料粉末が凝集せず、顆粒を形成するのが困難となるためである。また50mN/mを越えると凝集力が強いので顆粒サイズの制御が困難となるためである。各物質の表面張力を例示すると、水が72mN/m、ベンゼンが28.9mN/m、アセトンが23.3mN/m、メタノールが22.6mN/m、エタノールが22.55mN/mである。また、溶媒の蒸気圧を上記範囲内としたのは、25mmHg未満であると造粒後の乾燥過程に多くの時間を要してしまい、250mmHgを越えると造粒作業中に蒸発してしまうことから、顆粒を形成するのが困難となるためである。各物質の蒸気圧を例示すると、水が23.8mmHg、アセトンが231.06mmHg、エタノールが59.0mmHgである。
次に、原料粉末とバインダ液とを回転羽根式小型造粒機に投入し、所望の回転速度で一定時間撹拌することにより、顆粒の粒径を所望の大きさにまで造粒する。バインダ液の投入量は原料粉末の投入量を100質量%としたとき、5〜50質量%が好ましく、20質量%が特に好ましい。バインダ液の投入量が下限値未満であるとバインダの絶対量が少なすぎて均一に分散せずに原料粉が粒状に形成されないという不具合が、バインダ液の投入量が上限値を越えると混合原料の粘度が高すぎて粒径の制御が困難になるという不具合が生じる。ここでバインダ液は複数回に分けて投入することが均一分散のために好ましい。回転速度は500〜1500rpmが好ましく、750rpmが特に好ましい。また、1回の撹拌保持時間は30秒程度である。この時点で顆粒の粒径が所望の大きさであれば、そのまま焼成工程に進む。もし、顆粒の粒径が所望の大きさよりも小さい場合には、羽根の回転速度を低くし、エタノールを少量ずつ入れながら撹拌することで粒を成長させる。また、顆粒の粒径が所望の大きさよりも大きい場合には、羽根の回転速度を上げて2〜5秒間撹拌することで粒を小さくする。
焼成工程では、先ず、室温〜70℃まで1時間で昇温し、70℃を1時間保持してバインダ液中の有機溶媒を除去する。次に、600℃まで50℃/hrで昇温し、600℃を2時間保持してバインダ液中のバインダを除去する。最後に、焼結温度(1000〜1500℃)まで100℃/hrで昇温し、5時間保持して焼結する。その後、500℃まで100℃/hrで降温してから炉中で自然冷却させる。
以上により、顆粒体からなる蒸着材を得ることができる。この製造方法では、原料粉末を撹拌して造粒する際、バインダ液のみを投入し、所望の粒径の顆粒を造粒する。そのため、顆粒サイズの調整が容易である。また万が一、顆粒の粒径を大きくし過ぎたとしても、乾燥及び粉砕をして、エタノールのみで調整することで容易に造粒し直すことが可能である。特に顆粒体からなる蒸着材は、高圧をかけて成型するペレットと異なり、焼成前に圧力を加えずに成形して作られる。
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
先ず、第1酸化物粉末として平均粒径が1.2μm、純度が99.7%の高純度WO3粉末を、第2酸化物粉末として平均粒径が0.9μm、純度が99.7%のSiO粉末を、バインダとしてポリビニルブチラールを、有機溶媒としてエタノールを用意し、これらをボールミルによる湿式混合により混合して、濃度が50質量%のスラリーを調製した。
先ず、第1酸化物粉末として平均粒径が1.2μm、純度が99.7%の高純度WO3粉末を、第2酸化物粉末として平均粒径が0.9μm、純度が99.7%のSiO粉末を、バインダとしてポリビニルブチラールを、有機溶媒としてエタノールを用意し、これらをボールミルによる湿式混合により混合して、濃度が50質量%のスラリーを調製した。
このとき、第1酸化物粉末及び第2酸化物粉末の混合比は、第1酸化物(WO3)をXモル、第2酸化物(SiO)をYモルとしたときの組成比:X/(X+Y)が0.05となるよう調整した。
次に、上記調製したスラリーをスプレードライヤを用いて噴霧乾燥し、平均粒径が0.9μmの混合造粒粉末を得た後、この造粒粉末を所定の型に入れて一軸プレス装置によりプレス成型した。得られた成型体を、大気雰囲気中1300℃の温度で5時間焼結させて、直径20mm、厚さ10mmのペレットからなる蒸着材を得た。
次に、上記得られた蒸着材を用いて、EB法により、ガラス基板上に膜厚が100μmの水蒸気バリア膜を成膜した。以下の表1に、上記得られた蒸着材の組成比:X/(X+Y)を示す。
<実施例2〜7、比較例1〜3>
第1酸化物(WO3)をXモル、第2酸化物(SiO)をYモルとしたときの組成比:X/(X+Y)を、以下の表1に示す値なるように調整した以外は、実施例1と同様に、蒸着材を形成し、水蒸気バリア膜を成膜した。
第1酸化物(WO3)をXモル、第2酸化物(SiO)をYモルとしたときの組成比:X/(X+Y)を、以下の表1に示す値なるように調整した以外は、実施例1と同様に、蒸着材を形成し、水蒸気バリア膜を成膜した。
<実施例8〜14、比較例4〜6>
第2酸化物粉末として、平均粒径が1.0μm、純度が99.7%のZnO粉末を用い、第1酸化物(WO3)をXモル、第2酸化物(ZnO)をYモルとしたときの組成比:X/(X+Y)を、以下の表2に示す値なるように調整した以外は、実施例1と同様に、蒸着材を形成し、水蒸気バリア膜を成膜した。
第2酸化物粉末として、平均粒径が1.0μm、純度が99.7%のZnO粉末を用い、第1酸化物(WO3)をXモル、第2酸化物(ZnO)をYモルとしたときの組成比:X/(X+Y)を、以下の表2に示す値なるように調整した以外は、実施例1と同様に、蒸着材を形成し、水蒸気バリア膜を成膜した。
<実施例15〜21、比較例7〜9>
以下の表3に示すように、第2酸化物粉末として、実施例1で用いたSiO粉末及び実施例8で用いたZnO粉末を用い、第1酸化物(WO3)をXモル、第2酸化物(SiO)をY1モル、第2酸化物(ZnO)をY2モルとしたときの組成比:X/(X+Y1+Y2)を、以下の表3に示す値となるように調整した以外は、実施例1と同様に、蒸着材を形成し、水蒸気バリア膜を成膜した。
以下の表3に示すように、第2酸化物粉末として、実施例1で用いたSiO粉末及び実施例8で用いたZnO粉末を用い、第1酸化物(WO3)をXモル、第2酸化物(SiO)をY1モル、第2酸化物(ZnO)をY2モルとしたときの組成比:X/(X+Y1+Y2)を、以下の表3に示す値となるように調整した以外は、実施例1と同様に、蒸着材を形成し、水蒸気バリア膜を成膜した。
<実施例22〜31、比較例10〜13>
水蒸気バリア膜の膜厚を、以下の表4に示す厚さとした以外は、実施例3と同様に、蒸着材を形成し、水蒸気バリア膜を成膜した。
水蒸気バリア膜の膜厚を、以下の表4に示す厚さとした以外は、実施例3と同様に、蒸着材を形成し、水蒸気バリア膜を成膜した。
<実施例32,34>
以下の表5に示すように、水蒸気バリア膜の成膜を、それぞれ抵抗加熱法、RPD法により成膜したこと以外は、実施例23と同様に、蒸着材を形成し、水蒸気バリア膜を成膜した。なお、比較のため、表5には上記実施例23を併せて示す。
以下の表5に示すように、水蒸気バリア膜の成膜を、それぞれ抵抗加熱法、RPD法により成膜したこと以外は、実施例23と同様に、蒸着材を形成し、水蒸気バリア膜を成膜した。なお、比較のため、表5には上記実施例23を併せて示す。
<実施例33,35>
以下の表5に示すように、水蒸気バリア膜の成膜を、それぞれ抵抗加熱法、RPD法により成膜したこと以外は、実施例3と同様に、蒸着材を形成し、水蒸気バリア膜を成膜した。なお、比較のため、表5には上記実施例3を併せて示す。
以下の表5に示すように、水蒸気バリア膜の成膜を、それぞれ抵抗加熱法、RPD法により成膜したこと以外は、実施例3と同様に、蒸着材を形成し、水蒸気バリア膜を成膜した。なお、比較のため、表5には上記実施例3を併せて示す。
<比較試験及び評価>
実施例1〜35及び比較例1〜13で成膜した水蒸気バリア膜について、膜厚、水蒸気透過率、b*値及び光透過率を測定した。その結果を以下の表1〜5に示す。
実施例1〜35及び比較例1〜13で成膜した水蒸気バリア膜について、膜厚、水蒸気透過率、b*値及び光透過率を測定した。その結果を以下の表1〜5に示す。
(1) 水蒸気バリア膜の膜厚:触針式表面形状測定器を用いて基板上に成膜した水蒸気バリア膜の膜厚を測定した。
(2) 水蒸気透過率:MOCON社製の水蒸気透過率測定装置(型名:PERMATRAN−Wタイプ3/33)を用い、バリア膜を、温度40℃、相対湿度90%RHに設定した上記水蒸気透過率測定装置内で1時間保持した後、温度40℃、相対湿度90%RHの条件で水蒸気透過度を測定した。
(3) b*値:カラーコンピュータ(スガ試験機社製)を用いたLab系色差におけるb*値を測定した。
(4) 光透過率:株式会社日立製作所社製の分光光度計(型名:U−4000)を用いて、波長380〜780nmにおける水蒸気バリア膜の光透過率を測定した。
これに対し、実施例1〜7では、水蒸気透過率及び光透過率が十分な値を示すとともに、b*値の絶対値が3未満となり、無色の透明膜を得ることができた。
これに対し、実施例8〜14では、水蒸気透過率及び光透過率が十分な値を示すとともに、b*値の絶対値が3未満となり、無色の透明膜を得ることができた。
これに対し、実施例15〜21では、水蒸気透過率及び光透過率が十分な値を示すとともに、b*値の絶対値が3未満となり、無色の透明膜を得ることができた。
一方、膜厚を30〜500mmとした実施例3及び実施例22〜31では、水蒸気透過率及び光透過率が十分な値を示すとともに、b*値の絶対値が3未満となり、無色の透明膜を得ることができた。このことから、組成比を0.30とする場合には、膜厚を30〜500mmの範囲とするのが効果的であることが確認された。
Claims (5)
- 純度が98%以上100%未満の第1酸化物と純度が98%以上100%未満の第2酸化物からなる水蒸気バリア膜形成用蒸着材であり、
前記第1酸化物はWO3であり、前記第2酸化物はZnO又はSiOの少なくとも一方であり、
前記第1酸化物と前記第2酸化物の含有モル量をそれぞれXモル、Yモルとするとき、組成比が0.05≦Xモル/(Xモル+Yモル)≦0.95である水蒸気バリア膜形成用蒸着材。 - 前記蒸着材は、造粒処理された平均粒径1〜10mmの顆粒体からなる請求項1記載の水蒸気バリア膜形成用蒸着材。
- 前記蒸着材は、プレス成型された直径5〜30mm、厚さ1〜20mmのペレットからなる請求項1記載の水蒸気バリア膜形成用蒸着材。
- 請求項1ないし3いずれか1項に記載の蒸着材を用いて、抵抗加熱法、電子ビーム蒸着法又は反応性プラズマ蒸着法により成膜を行う水蒸気バリア膜の成膜方法。
- 請求項1ないし3いずれか1項に記載の蒸着材を用いて、真空成膜法により形成されたb*値の絶対値が3未満であり、かつ水蒸気透過率が0.1g/m2・day以上1.0g/m2・day未満である水蒸気バリア膜。
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