本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。図面において、同一の引用符号は、対応する又は同一の要素を示す。
[実施形態1]
まず、実施形態1に係る乗用田植機100の概略構成について説明する。
図1及び図2に示すように、田植機100は、走行部10と、植付部50とを備えている。
走行部10は、車体フレーム11と、動力源と、走行ミッション部13と、左右の前車輪(駆動輪)15と、左右の後車輪(駆動輪)18とを有する。
車体フレーム11は田植機100の車体長方向(前後方向)及び車体幅方向(左右方向)に延びるように設けられている。動力源であるエンジン12は、車体フレーム11の前端部に支持されて、ボンネット30によって覆われている。
走行ミッション部13は、エンジン12の後方に配置されて、車体フレーム11の前部に支持されている。走行ミッション部13の左側部には、左フロントアクスルケース17が設けられている。走行ミッション部13の右側部には、右フロントアクスルケース17が設けられている。
左側の前車輪15は、走行ミッション部13の左側方に配置されて、左フロントアクスルケース17に前車軸16を介して取り付けられている。右側の前車輪15は、走行ミッション部13の右側方に配置されて、右フロントアクスルケース17に前車軸16を介して取り付けられている。
走行ミッション部13の後部には、リヤアクスルケース20がパイプ状の連結体21を介して連結されている。リヤアクスルケース20は、走行ミッション部13の後方に配置されて、車体フレーム11の後部に支持されている。
左側の後車輪18は、リヤアクスルケース20の左側方に配置されて、このリヤアクスルケース20の左側部に後車軸19を介して取り付けられている。右側の後車輪18は、リヤアクスルケース20の右側方に配置されて、このリヤアクスルケース20の右側部に後車軸19を介して取り付けられている。
また、ボンネット30の後方には、カバー体31が車体フレーム11を上方から覆うように設けられている。カバー体31は段差を有し、この段差を境として前半部と後半部に分けられている。カバー体31の後半部は、田植機100の上下方向において前半部よりも高い位置に配置されている。
ボンネット30の後方であってカバー体31の上方には、運転席32が設けられている。運転席32は、ボンネット30と対向するように、カバー体31の後半部上に配置されている。カバー体31の前半部上は、運転席32に着席した田植機100の操縦者の足置き場、又は操縦者の通路となる。
ボンネット30の上端部には、操作部35が設けられている。操作部35は、表示部と、ステアリングホイール36と、主変速レバーと、昇降操作部材と、植付操作部材とを有する。前記昇降操作部材は植付部50を昇降操作するためのものであり、前記植付操作部材は植付部50を駆動操作するためのものである。本実施形態においては、前記昇降操作部材及び前記植付操作部材は、一つの操作レバー38として構成しているが、その構成は特に限定するものではない。
ステアリングホイール36は、ボンネット30の上方に配置され、支軸を介して回転可能に設けられている。操作レバー38は、ステアリングホイール36の右側方に配置されて、複数の方向へ傾動操作可能に設けられている。
図1及び図2に示すように、植付部50は、走行部10の後部に昇降リンク機構70を介して上下方向へ昇降可能に連結されている。植付部50は、植付フレーム51と、植付ミッション部52と、連動ケース53と、複数の植付ケース54と、複数のロータリケース55と、複数の植付爪56と、苗載台57とを有する。
植付ミッション部52は、植付部50の前部に配置されて、植付フレーム51に支持されている。連動ケース53は、植付ミッション部52から左右方向へ延びるように設けられている。
複数の植付ケース54は、それぞれ前後方向へ延びるように設けられ、連動ケース53の後方において左右方向へ所定間隔ごとに配置されている。複数の植付ケース54の前端部は、連動ケース53に連結されている。
複数のロータリケース55は2つ(2条分)ずつ各植付ケース54の後部に取り付けられている。各ロータリケース55は、その中央部で左右方向に延びる植付回転軸137を介して各植付ケース54に回転可能に支持され、植付回転軸137回りに回転可能とされている。
複数の植付爪56は、2つずつ各ロータリケース55に取り付けられている。2つの植付爪56はロータリケース55の回転軸心を中心とした対称位置に配置され、ロータリケース55に対して左右方向の軸線回りに回転可能とされている。2つの植付爪56は、ロータリケース55が植付回転軸137回りに回転することによって、植付回転軸137のまわりを駆動しつつ移動する。
苗載台57は、複数の植付ケース54の上方に配置され、植付フレーム51に取り付けられている。苗載台57は、上下方向へ延びるように設けられ、左右方向へ横送り可能に構成されている。苗載台57は、その上に載置した苗マットを上下方向へ縦送り可能に構成されている。
また、植付部50の底部には、複数のフロート58が備えられている。複数のフロート58は、それぞれ前後方向へ延びるように設けられ、複数の植付ケース54の下方において左右方向へ所定間隔ごとに配置されている。複数のフロート58は、圃場Gの圃場面(水面)Wに対して接地追従可能なように、前端部及び後端部で植付フレーム51及び植付ケース54にリンク機構60を介して支持されて、上下方向へ基準軸回りに揺動可能とされている。
複数のフロート58は、それぞれ植付部50の昇降時に圃場面Wに対し離間する方向又は近接する方向へ移動し、植付部50が下降したときに揺動角を変化させながら圃場面Wに接地可能とされている。植付部50は、複数のフロート58が圃場面Wに接地した接地状態となった場合に植付作業位置となり、複数のフロート58が圃場面Wに接地していない非接地状態となった場合に非植付作業位置となる。
図1に示すように、昇降リンク機構70は、植付部50を走行部10に上下方向へ昇降可能に連結するためのものであり、走行部10と植付部50との間に設けられている。昇降リンク機構70は、上部リンク71と、下部リンク72と、アーム73と、中間リンク74と、昇降アクチュエータ75とを備えている。
上部リンク71は、前後方向へ延びるように設けられている。上部リンク71の前端部は走行部10の車体フレーム11に左右方向の軸線回りに回動可能に連結されている。上部リンク71の後端部は植付部50の植付フレーム51に左右方向の軸線回りに回動可能に連結されている。
下部リンク72は、前後方に延びるように設けられて、上部リンク71よりも下方に配置されている。下部リンク72は、上部リンク71と平行に並べられている。下部リンク72の前端部は、車体フレーム11に左右方向の軸線回りに回動可能に連結されている。下部リンク72の後端部は、植付フレーム51に左右方向の軸線回りに回動可能に連結されている。
アーム73は、上部リンク71と下部リンク72との間に配置されている。アーム73は、下部リンク72の前端部に連結されて、上部リンク71側に向かって突出するように設けられている。
中間リンク74は、前後方向へ延びるように設けられて、上部リンク71と下部リンク72との間に配置されている。中間リンク74の前端部は、アーム73の突出端部に回動可能に連結されている。中間リンク74の後端部は、下部リンク72の前後中途部に左右方向の軸線回りに回動可能に連結されている。
昇降アクチュエータ75は、油圧シリンダで構成されている。昇降アクチュエータ75は、上部リンク71及び下部リンク72よりも前方に配置されて、車体フレーム11に支持されている。昇降アクチュエータ75のロッドは、アーム73の突出端部及び中間リンク74の前端部に左右方向の軸線回りに回動可能に連結されている。
植付部50が田植機100の上下方向において植付作業位置又は植付作業位置と最上昇位置との間に配置されている場合に、昇降アクチュエータ75が短縮したとき、上部リンク71及び下部リンク72はそれぞれの後端部が上方へ移動するように回動する。これにより、植付部50が現在位置から上昇することになる。
一方、植付部50が田植機100の上下方向において最上昇位置又は最上昇位置と植付作業位置との間に配置されている場合に、昇降アクチュエータ75が伸長したとき、上部リンク71及び下部リンク72はそれぞれの後端部が下方へ移動するように回動する。これにより、植付部50が現在位置から下降することになる。
このような構成において、田植機100の植付作業が開始される際には、操縦者によって操作レバー38が昇降操作されて、植付部50が昇降リンク機構70によってフロート58が圃場面Wに接地するまで下降させられる。そして、エンジン12の回転動力が後述の伝動経路を介して前後の車輪15・18、及び植付部50(複数のロータリケース55及び複数の植付爪56)に伝達される。その結果、各ロータリケース55は一方向へ等速回転し、各植付爪56は駆動する。
田植機100の走行時に、各ロータリケース55が1回転する間に、このロータリケース55に取り付けられた2つの植付爪56がそれぞれ1株分の苗を横送り及び縦送りされる苗載台57上の苗マットから取り出して、圃場面Wに接地追従するフロート58により整地された圃場Gに植え付ける。田植機100の移動中、この植え付けが連続的に行われて、植付作業が実施される。
次に、田植機100の動力伝達構造について説明する。
前記動力伝達構造においては、走行系伝動経路及び作業機系伝動経路とを含む前記伝動経路が構成されている。図3に示すように、前記走行系伝動経路においては、静油圧式無段変速装置83、前車輪変速機構84、後車輪伝動機構85、及び動力取出機構86などが備えられている。静油圧式無段変速装置83(走行ミッション部13)の入力軸82は、エンジン12の出力軸81にベルト伝動機構を介して連結されている。
静油圧式無段変速装置83は、走行ミッション部13の入力軸82に連結されている。前車輪変速機構84は、静油圧式無段変速装置83にギヤ機構を介して連結されるとともに、前車軸16を介して左右の各前車輪15に連結されている。
後車輪伝動機構85は、静油圧式無段変速装置83にギヤ機構を介して連結されるとともに、リヤアクスル伝動軸87を介してリヤアクスルケース20内の後車輪変速機構88に連結されている。後車輪変速機構88は、後車軸19を介して左右の各後車輪18に連結されている。
動力取出機構86は、静油圧式無段変速装置83にギヤ機構を介して連結されるとともに、第1伝動軸91を介して伝動機構90に連結されている。前記走行系伝動経路うち動力取出機構86よりも伝動方向下流側には、前記作業機系伝動経路が構成されている。
前記作業機系伝動経路は、前記走行系伝動経路から取り出された回転動力を植付部50の植付爪56に伝達するためのものである。この作業機系伝動経路においては、伝動機構90、株間変速機構112、及び植付ミッション部52の伝動機構などが備えられている。
伝動機構90は、エンジン12から植付部50(ロータリケース55及び植付爪56)に至る伝動経路のうち、前記走行系伝動経路(走行ミッション部13)よりも伝動経路下流側に位置する前記作業機系伝動経路に配置され、第2伝動軸92及び第3伝動軸93を介して株間変速部110の入力軸115に連結されている。
伝動機構90は伝動クラッチ150を有する。伝動クラッチ150は、第1伝動軸(駆動軸)91と第2伝動軸(従動軸)92との間に設けられ、走行ミッション部13よりも伝動経路下流側であって、後述の植付クラッチ170よりも伝動経路上流側に配置されている。
伝動クラッチ150は、このように植付クラッチ170よりも伝動方向上流側において前記作業機系伝動経路に介挿されて、走行ミッション部13の動力取出機構86よりも伝動経路下流側に位置する植付部50(株間変速部110、植付ミッション部52及び植付爪56等)への動力を接続時に伝達し、切断時に遮断することができるように構成されている。
本実施形態において、伝動クラッチ150は、電磁式のクラッチであり、伝動クラッチ用アクチュエータ151を有する(図6参照)。伝動クラッチ用アクチュエータ151は、本実施形態においてはソレノイド式のアクチュエータであり、その動作により伝動クラッチ150の伝動状態(接続状態と切断状態)を切り替えることができるように構成されている。
伝動クラッチ150は、伝動クラッチケース145に収容されている。伝動クラッチケース145は、本実施形態においては走行ミッション部13の側部近傍に設けられている。但し、伝動クラッチケース145は、株間変速部110の株間変速ケース114と一体的に構成してもよい。
図4に示すように、株間変速部110は、株間変速機構112と、植付クラッチ170と、外部動力取出機構113を有する。この株間変速部110は、植付部50への動力を変速することによって、植付株間を調整するためのものである。
株間変速機構112は、複数のギヤ列を入力軸115、出力軸116、カウンター軸117、及びスライド軸118を備えている。株間変速機構112は、操作部35に設けられた株間変速レバー連結され、その操作に応じて変速段を変更させることができるように構成されている。
入力軸115は、株間変速ケース114の内外に延びるように設けられている。出力軸116は、株間変速ケース114の内外に延びるように設けられ、入力軸115と同軸線上に配置されている。出力軸116は、植付ミッション部52の入力軸と連結されている。
カウンター軸117は、入力軸115及び出力軸116と平行に並べられ、入力軸115及び出力軸116と対向するように配置されている。スライド軸118は、出力軸116に相対回転可能に外嵌され、カウンター軸117と対向するように配置されている。
入力軸115とカウンター軸117との間には、複数のギヤ列のうち高低速2段の主変速ギヤ列が介設されている。出力軸116とカウンター軸117との間には、前記複数のギヤ列のうち高低速3段の副変速ギヤ列が介設されている。
植付クラッチ170は、スライド軸(駆動軸)118と出力軸(従動軸)116との間に設けられ、動力取出機構86よりも前記作業機系伝動経路の下流側に位置する植付部50(ロータリケース55及び植付爪56)への動力を伝達又は遮断可能とする。つまり、前記作業機系伝動経路には、植付クラッチ170とこれよりも伝動経路上流側に位置する伝動クラッチ150との2つのクラッチが介挿されている。
外部動力取出機構113においては、伝動軸121が入力軸115に連結され、出力軸122が伝動軸121に連結されている。出力軸122は、株間変速ケース114の内部から外部へ突出するように設けられている。田植機100に装着される外部装置(例えば、施肥装置)は、この出力軸122から動力を取り出すことができるようになっている。
植付ミッション部52の入力軸は、前記伝動機構を介して複数の伝動軸135に連結されている。図2に示すように、各伝動軸135は、各植付ケース54内に設けられ、ロータリケース55の植付回転軸137に連結されている。ロータリケース55の植付回転軸137は、植付爪56の駆動軸に連結されている。
このような構成により、前記走行系伝動経路において、エンジン12からの回転動力は走行ミッション部13に伝達された後、前車輪15に伝達可能とされるとともに、走行ミッション部13に伝達された後、後車輪18に伝達可能とされている。また、前記作業機系伝動経路において、前記走行系伝動経路から取り出された回転動力が植付部50に伝達可能とされる。前記回転動力は植付部50に伝達されたとき、植付ミッション部52から複数のロータリケース55及び複数の植付爪56に伝達される。
本実施形態においては、二つのクラッチ、即ち伝動クラッチ150及び植付クラッチ170が走行ミッション部13と植付ミッション部52との間に設けられている。そのため、二つのクラッチがともに接続状態であれば、エンジン12の回転動力が植付部50の各ロータリケース55及び各植付爪56に伝達される一方、二つのクラッチのうち少なくとも一方が切断状態であれば、エンジン12の回転動力が各ロータリケース55及び各植付爪56に伝達されないようになっている。
次に、株間変速部110の植付クラッチ170について説明する。
植付クラッチ170は、エンジン12からの回転動力が入力される第1クラッチ形成体(駆動側部材)173、及び前記第1クラッチ形成体173に対して係脱可能とされた第2クラッチ形成体(従動側部材)174を備えている。
本実施形態においては、植付クラッチ170は、伝動状態の断接機能に加えて、上部停止機能を備えている。この上部停止機能とは、植付クラッチ170の接続状態から切断状態への移行時に、植付爪56が圃場面Wや苗載台57に接触する位置で回転停止されないように、植付爪56を後述する所定の上部停止位置(基準位置)まで回動させつつ動力伝達を遮断する機能である。
図5に示すように、植付クラッチ170は、カム体175と、植付クラッチ付勢部材177とをさらに備えている。植付クラッチ170には、植付クラッチ用アクチュエータ176が設けられている。植付クラッチ170は株間変速ケース114に収容されている。
第1クラッチ形成体173は、伝動方向上流側に配置される駆動側部材であり、その伝動方向上流側から回転動力が入力されるように構成されている。第1クラッチ形成体173は、爪部を有する。第1クラッチ形成体173は、スライド軸118の後端部に相対回転不能且つその軸線方向へ摺動不能に外嵌されている。
第2クラッチ形成体174は、伝動方向下流側に配置される従動側部材であり、植付爪56に作動連結された状態で第1クラッチ形成体173に対して係脱可能に構成されている。第2クラッチ形成体174は爪部及び連結部を有する。第2クラッチ形成体174は、出力軸116に相対回転不能且つその軸線方向へ摺動可能に外嵌され、爪部が第1クラッチ形成体173の爪部と対向するように配置されている。連結部は、爪部よりも前記伝動経路の下流側に配置されている。
第2クラッチ形成体174の爪部は、第2クラッチ形成体174が第1クラッチ形成体173に近づく近接方向へ移動したとき、第1クラッチ形成体173の爪部と係合可能とされている。第2クラッチ形成体174の爪部は、第2クラッチ形成体が第1クラッチ形成体173から離れる離間方向へ移動したとき、第1クラッチ形成体173の爪部との係合状態を解除可能とされている。
カム体175は、植付クラッチ用アクチュエータ176からの駆動力(クラッチ切断操作力)を受けて第2クラッチ形成体174(出力軸116)を軸線回りに所定位置(即ち、前記出力軸116に作動連結された前記植付爪56を後述の上部停止位置に位置させる位置)まで回転させつつ第1クラッチ形成体173(スライド軸118)から離間させるカム溝175aを有する。本実施形態において、カム溝175aは、カム体175の外周面の周方向の所定範囲に形成され、傾斜面からなるカム面を有している。なお、カム体175は、第2クラッチ形成体174の連結部に相対回転不能且つその軸線方向へ摺動不能に外嵌されて、この第2クラッチ形成体174と連結されているが、第2クラッチ形成体174と一体的に形成してもよい。
植付クラッチ付勢部材177はスプリングで構成されている。植付クラッチ付勢部材177は、第2クラッチ形成体174よりも伝動経路下流側に配置されて、出力軸116に外嵌されている。植付クラッチ付勢部材177は、第2クラッチ形成体174の爪部が第1クラッチ形成体173の爪部と係合するように、当該第2クラッチ形成体174を付勢する。
植付クラッチ用アクチュエータ176は、本実施形態においてはソレノイド式のアクチュエータであり、カム体175のカム溝175a(第2クラッチ形成体174)にクラッチ切断操作力を付加し得るものである。植付クラッチ用アクチュエータ176には、作動片178が設けられている。作動片178は、カム体175と対向するように配置され、植付クラッチ用アクチュエータ176からのクラッチ切断操作力によりカム体175のカム溝175aに対して進退可能とされている。即ち、作動片178は、カム体175のカム溝175aにクラッチ切断操作力を付加するように、カム溝175aと係合する進出位置まで進出可能とされている。作動片178は、前記進出位置からカム溝175aとの係合を解除される後退位置まで後退可能とされている。
このような構成において、植付クラッチ用アクチュエータ176の作動片178が前記後退位置にある場合に、カム体175のカム溝175aが植付クラッチ用アクチュエータ176からクラッチ切断操作力を受けないとき、第2クラッチ形成体174が植付クラッチ付勢部材177の付勢力によって前記近接方向へ移動する。この際、カム体175は作動片178に接触しない。その結果、第2クラッチ形成体174の爪部が第1クラッチ形成体173の爪部と係合して、植付クラッチ170が接続状態となる。したがって、動力が株間変速部110から植付部50(ロータリケース55及び植付爪56)へ伝達される。
ここで、カム体175のカム溝175aが植付クラッチ用アクチュエータ176からクラッチ切断操作力を受けたときであっても、必ずしも植付クラッチ170が接続状態から切断状態へ移行しないように、植付クラッチ用アクチュエータ176のクラッチ切断操作力が設定されている。
詳しく説明すると、従動側の第2クラッチ形成体174(出力軸116)が駆動側の第1クラッチ形成体173(スライド軸118)によって軸線回りに回転されている状態においてはカム体175のカム溝175aが植付クラッチ用アクチュエータ176からクラッチ切断操作力を受けると植付クラッチ170が切断状態となり、第1クラッチ形成体173が回転停止している状態においてはカム体175のカム溝175aが植付クラッチ用アクチュエータ176からクラッチ切断操作力を受けたとしても植付クラッチ170が接続状態を維持する。即ち、第1クラッチ形成体173の回転により第2クラッチ形成体174が軸線回りに回転している状態では、第2クラッチ形成体174を第1クラッチ形成体173から離間させつつ回転させることができるが、第1クラッチ形成体173が回転していない状態では第2クラッチ形成体174を第1クラッチ形成体173から離間させつつ回転させることはできない。
そして、第2クラッチ形成体174の爪部が第1クラッチ形成体173の爪部に係合し且つ第1クラッチ形成体173に回転動力が伝動方向上流側から入力されている伝動状態において、植付クラッチ用アクチュエータ176の作動片178が後退位置からカム体175のカム溝175aに対して進出し、作動片178とカム溝175aとが係合すると、作動片178が進出するに従って、カム体175及び第2クラッチ形成体174が植付クラッチ付勢部材177の付勢力に抗して前記離間方向へ移動しつつ軸線回りに一定量だけ回転する。このように前記伝動状態においてクラッチ切断操作力が植付クラッチ用アクチュエータ176から植付クラッチ170に付加された場合には、第2クラッチ形成体174の爪部と第1クラッチ形成体173の爪部との係合が解除されて、植付クラッチ170が接続状態から切断状態へ移行する。したがって、動力が株間変速部110から植付部50へ伝達されなくなる。
また、この際には、出力軸116の一定量の回転によって、出力軸116(第2クラッチ形成体174)に作動連結された植付回転軸137が出力軸116の回転量に応じて回転する。その結果、ロータリケース55が植付回転軸137回りに回転し、この回転に伴って植付爪56が駆動しつつ上部停止位置まで移動して停止する。こうして、植付クラッチ170が接続状態から切断状態に切り替えられる際には、植付爪56が植付クラッチ170の切断動作開始時にどのような位置にあろうと前記上部停止位置まで戻るようになっている。
ここで、前記上部停止位置とは、あらかじめ設定された植付爪56の基準位置であり、ロータリケース55の回転が停止した際に植付爪56が圃場面Wや苗載台57と接触しない位置である。植付爪56は上部停止位置にある場合、例えば図2に示すように苗載台57の下端部とフロート58の上面との間に位置することになる。
好ましくは、植付クラッチ用アクチュエータ176が駆動されてから作動片178がカム体175(第2クラッチ形成体174)に作用するまでの間に時間的な遅れが生じるように、植付クラッチ用アクチュエータ176と作動片178との間に融通機構が介挿される。
この融通機構によれば、植付クラッチ用アクチュエータ176の駆動開始後に即座に作動片178がカム体175に作用しないため、第1クラッチ形成体173が回転停止している状態(例えば、田植機100の発進直前の停止状態)で植付クラッチ用アクチュエータ176が駆動された場合に、植付クラッチ用アクチュエータ176が回転停止状態のカム体175に付加する駆動力を可及的に減少させることができる。従って、植付クラッチ用アクチュエータ176にかかる負荷の低減を図りつつ、作動片178をカム体175に有効に作用させることが可能となる。
具体的には、本実施形態においては、図5に示すように、前記融通機構はバネ179で構成されている。植付クラッチ170が接続状態から切断状態へ移行する際、例えば、第1クラッチ形成体173が回転停止している状態であれば、バネ179は次のように作用することになる。
即ち、植付クラッチ用アクチュエータ176が植付クラッチ切断方向へ駆動されると、植付クラッチ用アクチュエータ176の駆動によってバネ179を介して作動片178が押動されて、カム体175に接触する。植付クラッチ用アクチュエータ176が植付クラッチ切断方向へ駆動され続けると、バネ179が所定量だけ圧縮される。この状態では、作動片178はカム体175に接触したまま移動されない。
そして、バネ179が所定量だけ圧縮されて保有弾性(バネ179の付勢力)が高まると、バネ179が所定量だけ圧縮された状態で植付クラッチ用アクチュエータ176の植付クラッチ切断方向への駆動力がクラッチ切断操作力としてバネ179を介して作動片178に伝達されて、この作動片178が押される。この状態で、第2クラッチ形成体174(第1クラッチ形成体173)が回動して、作動片178がカム体175のカム溝175aに係合すると、作動片178はカム溝175aの周方向の端部に至るまで当該カム溝175aのカム面に沿って移動する。この作動片178の移動により第2クラッチ形成体174が第1クラッチ形成体173から離間しつつ軸線回りに回動し、その結果、植付クラッチ170が切断され、植付爪56が上部停止位置まで移動する。植付爪56が上部停止位置まで移動した後、植付クラッチ用アクチュエータ176がさらにクラッチ切断方向へ駆動されると、バネ179が最大圧縮状態となって、作動片178が移動されなくなる。
また、前記融通機構は、例えば、カム192で構成することも可能である。
図12(a)に、植付クラッチ170が接続状態である場合における前記融通機構の状態を示す。図12(b)に、植付クラッチ170が切断状態である場合における前記融通機構を示す。
この場合、図13(a)及び(b)に示すように、ソレノイド式のアクチュエータである植付クラッチ用アクチュエータ176の代わりに、ワイパーモータ191が用いられる。そして、このワイパーモータ191と作動片178との間に、大径部192aと小径部192bとを有し、回動軸194回りに回動可能とされたカム192と、ワイパーモータ191の駆動軸191aに噛合され、且つ回動軸194回りに回動可能とされたギヤ195と、一端部196aがカム192のカム面にバネ(図示せず)により押圧可能とされ、他端部196bが作動片178に連結された回動アーム196であって、回動軸194と平行な支軸197回りに回動可能とされた回動アーム196とが備えられる。回動アーム196は、略L字状をなすように一端部196aと他端部196bの間で屈曲又は湾曲され、その屈曲部分で支軸197に支持される。
このような構成において、植付クラッチ170が接続状態から切断状態へ移行する際、例えば、第1クラッチ形成体173が回転停止している状態であれば、カム192は次のように作用することになる。
即ち、図12(a)に示す状態で前記ワイパーモータ191が植付クラッチ切断方向へ駆動されると、その駆動軸191aの回動によりギヤ195が図12(a)の矢印方向へ回動軸194回りに回動し、これに伴ってカム192もギヤ195と同一方向に回動する。これにより、回動アーム196の一端部とカム192の大径部192aとの係合が解除され、前記バネによる付勢力によって回動アーム196が回動できる状態となる。回動アーム196は支軸197回りに図12(a)の矢印方向へ回動し、この回動アーム196の回動により作動片178が押動されて、カム体175に接触する。
ここで、第2クラッチ形成体174(第1クラッチ形成体173)が回転停止している状態のため、作動片178がそれ以上は移動されなくなって、回動アーム196の一端部196aがカム192と係合されない状態となる。この状態から第2クラッチ形成体174が回動して、作動片178がカム溝175aと係合すると、前記バネによる付勢力を利用し作動片178はカム溝175aの周方向の端部に至るまで当該カム溝175aのカム面に沿って移動する。この作動片178の移動により第2クラッチ形成体174が第1クラッチ形成体173から離間しつつ軸線回りに回動し、その結果、植付クラッチ170が切断され、植付爪56が上部停止位置まで移動する。植付爪56が上部停止位置まで移動したときには、図12(b)に示すように、回動アーム196の一端部196aが小径部192bと係合した状態となり、作動片178が移動されなくなる。
なお、カム192が図12(b)に示す回動位置にある状態で前記ワイパーモータ191が植付クラッチ接続方向へ駆動される際には、植付クラッチ用アクチュエータ176のクラッチ接続方向への駆動力が大径部192aと小径部192bとの間の押動面192cを介して回動アーム196、延いては作動片178に伝達されるため、前記植付クラッチ用アクチュエータ176が駆動されてから作動片178がカム体175のカム溝175aとの係合を解除するように移動するまでの間に時間的な遅れはほとんど生じることがない。
次に、伝動クラッチ150及び植付クラッチ170を接続状態又は切断状態にするための構造について説明する。
図6に示すように、田植機100は、伝動クラッチ150及び植付クラッチ170を接続状態又は切断状態に切り替えるために、制御装置260を備えている。この制御装置260は、田植機100に備えられるメインコントローラで構成してもよいし、若しくは、前記メインコントロータとは独立したコントローラを別途設けて当該コントローラで構成してもよい。
制御装置260は、演算装置(CPU)と記憶装置とを備えている。記憶装置は、例えば、制御プログラムや制御データ等を記憶するROM、設定値等を電源を切っても失われない状態で保存し且つ前記設定値等が書き換え可能とされたEEPROM、及び前記演算部による演算中に生成されるデータを一時的に保持するRAM等を含む記憶部を有する。
制御装置260は、上昇操作検出装置261、下降操作検出装置262、植付クラッチ接続操作検出装置263及び植付クラッチ切断操作検出装置264と接続されるとともに、接地状態検出装置267と接続されている。制御装置260は、伝動クラッチ用アクチュエータ151、植付クラッチ用アクチュエータ176、及び昇降アクチュエータ75の電磁弁268と接続されている。
上昇操作検出装置261は、例えばリミットスイッチで構成されて、操作レバー38の基端部に設けられる。上昇操作検出装置261は、操作レバー38に対して植付部50を上昇させるための上昇操作が行われたときに、この上昇操作を検出するように構成される。
下降操作検出装置262は、例えばリミットスイッチで構成されて、操作レバー38の基端部に設けられる。下降操作検出装置262は、操作レバー38に対して植付部を下降させるための下降操作が行われたときに、この下降操作を検出するように構成される。
植付クラッチ接続操作検出装置263は、例えばリミットスイッチで構成されて、操作レバー38の基端部に設けられる。植付クラッチ接続操作検出装置263は、操作レバー38に対して植付クラッチ170を接続するための接続操作(即ち、植付部50を駆動させるための駆動操作)が行われたときに、この接続操作を検出するように構成される。
植付クラッチ切断操作検出装置264は、例えばリミットスイッチで構成されて、操作レバー38の基端部に設けられる。植付クラッチ切断操作検出装置264は、操作レバー38に対して植付クラッチ170を切断するための切断操作(即ち、植付部50の駆動を停止させるための非動操作)が行われたときに、この接続操作を検出するように構成される。
接地状態検出装置267は、例えばロータリポテンショメータで構成され、複数のフロート58のうち左右中央に位置する中央フロートの前端部にロッド61を介して連結される。接地状態検出装置267は、前記中央フロートの揺動角の変化に応じて、この中央フロート(植付部50)が圃場面Wに対して接地状態であるか否か(接地状態又は非接地状態)を検出するように構成される。
制御装置260は、上昇操作検出装置261によって検出された検出信号に基づいて操作レバー38が上昇操作されたと判定した場合、電磁弁268に制御信号を出力して、昇降アクチュエータ75を収縮させる。これにより、植付部50が走行部10に対して上昇する。
制御装置260は、下降操作検出装置262によって検出された検出信号に基づいて操作レバー38が下降操作されたと判定した場合、電磁弁268に制御信号を出力して、昇降アクチュエータ75を伸長させる。これにより、植付部50が走行部10に対して下降する。
制御装置260は、植付クラッチ接続操作検出装置263によって検出された検出信号に基づいて操作レバー38が接続操作されたと判定した場合、植付クラッチ170の植付クラッチ用アクチュエータ176に制御信号を出力して、作動片178を後退位置まで後退させる。これにより、植付クラッチ170が接続状態となる。
制御装置260は、植付クラッチ切断操作検出装置264によって検出された検出信号に基づいて操作レバー38が接続操作されたと判定した場合、植付クラッチ170の植付クラッチ用アクチュエータ176に制御信号を出力して、作動片178を進出位置まで進出させ得る。作動片178を進出位置まで進出すると、植付クラッチ170が切断状態となる。
制御装置260は、接地状態検出装置267の検出信号に基づいてフロート58が接地しているか否かを常時判定する。制御装置260は、フロート58が接地状態であると判定した場合には、接地状態検出装置267の検出信号が目標値に維持されるように、電磁弁268に制御信号を出力して、昇降アクチュエータ75を作動させる。これにより、フロート58は圃場面Wに接地追従可能となる。
このような構成において、例えば、次のように伝動クラッチ150及び植付クラッチ170それぞれの接続状態と切断状態とが植付部50の昇降動作に関連して切り替えられる。
田植機100が直進走行しながら植付作業を行っているときに、畔際に至ると植付作業を一旦停止して方向転換のために旋回し、旋回後に再び直進走行しながら植付作業を行う。このように田植機100が旋回する場合、その旋回開始時に操作レバー38が操縦者によって上昇操作される。この上昇操作によって、制御装置260が昇降アクチュエータ75を作動制御し、植付部50を植付作業位置から上昇させる。
この植付部50の上昇にともなってフロート58が接地状態から非接地状態に移行する。これにより、制御装置260は、接地状態検出装置267の検出信号に基づいてフロート58が非接地状態に切り替わったと判定し、伝動クラッチ用アクチュエータ151に制御信号を出力して、伝動クラッチ150が接続状態から切断状態に切り替わるように伝動クラッチ用アクチュエータ151を作動させる。
制御装置260は、伝動クラッチ用アクチュエータ151を作動させたあと、所定時間経過後に自動的に、又は植付部50の上昇時における操作レバー38の切断操作に応じて、植付クラッチ用アクチュエータ176に制御信号を出力して、植付クラッチ170が接続状態から切断状態に切り替わるように植付クラッチ用アクチュエータ176を作動させようとする。この時点では、伝動クラッチ150が既に切断状態となっているため、植付クラッチ170は切断動作を開始するが切断状態にはならない。
すなわち、伝動クラッチ150が切断状態になっている場合、植付クラッチ170の第1クラッチ形成体173に回転動力が入力されないことから、植付クラッチ用アクチュエータ176がクラッチ切断操作力を植付クラッチ170に付加しようとしても、第1クラッチ形成体173に係合している第2クラッチ形成体174が軸線回りに回転しない。よって、植付クラッチ170の切断動作が進まず、出力軸116は前述のように一定量回転しない。ここでは、植付クラッチ用アクチュエータ176のクラッチ切断操作力が前述の通り設定されているため、植付クラッチ170(第2クラッチ形成体174)がクラッチ切断操作力を受けても第2クラッチ形成体174(出力軸116)は第1クラッチ形成体173(スライド軸118)に対して離間しつつ回転しない。そのため、ロータリケース55は植付爪56が前記上部停止位置まで移動するように回転せず、ひいてはこのロータリケース55に取り付けられた植付爪56は、伝動クラッチ150の切断時点における位置から移動しない。
したがって、田植機100の旋回のために植付部50が植付作業位置から上昇させられるとき、植付爪56が苗を苗載台57上の苗マットから取り出して保持している場合でも、植付爪56が上部停止位置に向かって移動せずに伝動クラッチ150の切断時点における位置で保持されるので、苗が上昇中の植付部50の植付爪56から放出されて捨てられない。この苗は、植付部50の上昇時は植付爪56に保持される。
そして、このように操作レバー38が上昇操作された後、田植機100の旋回が終了したとき、植付作業を再開するために、操縦者によって操作レバー38が下降操作される。この下降操作によって、植付部50が植付作業位置に向かって下降する。この際、伝動クラッチ150及び植付クラッチ170はともに切断状態に維持されている。
植付部50の下降によって、フロート58は圃場面Wに接触し、接地状態から非接地状態に移行する。これにより、制御装置260は、接地状態検出装置267の検出信号に基づいてフロート58が非接地状態に切り替わったと判定し、伝動クラッチ用アクチュエータ151に制御信号を出力して、伝動クラッチ150が切断状態から接続状態に切り替わるように伝動クラッチ用アクチュエータ151を作動させる。
伝動クラッチ150が接続状態になったとき、伝動クラッチ150よりも伝動経路下流側に位置する株間変速部110においてスライド軸118から第1クラッチ形成体173に回転動力が入力される。そのため、植付クラッチ用アクチュエータ176の作動片178が進出位置に至るように第2クラッチ形成体174及びカム体175が軸線回りに回転し、植付クラッチ170の切断動作が終了する。
したがって、植付クラッチ170が切断状態になる。同時に、出力軸116が第2クラッチ形成体174ともに回転するため、その回転に応じてロータリケース55が回転し、このロータリケース55に取り付けられた植付爪56が上部停止位置まで移動して停止する。こうして、植付爪56が伝動クラッチ150の切断時点における位置から上部停止位置に戻される。すなわち、植付爪56は植付部50が下降して接地したときに上部停止位置に位置することになる。
この際、植付部50は植付爪56が圃場Gに近接した位置にあるため、植付爪56が苗を保持している場合には、この苗は植付爪56が上部停止位置まで移動する過程で圃場Gに植え付けられることになる。また、伝動クラッチ150は接続状態であるが、植付クラッチ170は切断状態に維持されているため、エンジン12の動力は植付部50に伝達されず、植付部50は駆動停止状態を維持する。
そして、伝動クラッチ150が接続状態である一方、植付クラッチ170が切断している状態、即ち植付部50の駆動停止状態であって、植付爪56が上部停止位置に位置する状態で、田植機100が植付作業のために適切な位置まで移動した後、操作レバー38が操縦者によって接続操作される。この接続操作によって、植付クラッチ170が切断状態から接続状態に切り替えられる。
その結果、伝動クラッチ150及びその前記作業機伝動経路の下流側にある植付クラッチ170の二つのクラッチがともに接続状態となって、エンジン12の動力が植付部50に伝達されることになる。したがって、植付部50(植付爪56)を駆動させて、植付作業を再開することが可能となる。
以上のように、本実施形態においては、走行部10と、植付部50と、昇降アクチュエータ75と、植付クラッチ170と、伝動クラッチ150と、フロート58と、伝動クラッチ用アクチュエータ151と、植付クラッチ用アクチュエータ176と、接地状態検出装置267と、操作レバー(昇降操作部材及び植付操作部材)38と、制御装置260とを備えている。
ここで、走行部10は、エンジン(動力源)12からの回転動力が走行系伝動経路(伝動経路)を介して前後の車輪(駆動輪)15・18に伝達されるように構成されている。植付部50は、植付爪56を有し、走行部10に昇降可能に連結されている。植付爪56は、前記走行系伝動経路から取り出された回転動力によって植付回転軸137回りに移動させられることで苗載台57上の苗マットから苗を取り出して圃場Gに植え付けるように構成されている。昇降アクチュエータ75は、植付部50を昇降させるためのものである。
植付クラッチ170は、前記走行系伝動経路から取り出された回転動力を植付爪56に伝達する作業機系伝動経路に介挿されている。植付クラッチ170は、第1クラッチ形成体(駆動側部材)173と第2クラッチ形成体(従動側部材)174とを有する。第1クラッチ形成体173には、前記回転動力が入力されるように構成されている。第2クラッチ形成体174は、第1クラッチ形成体173に対して形脱可能とされている。伝動クラッチ150は、植付クラッチ170よりも伝動方向上流側において前記作業機系伝動経路に介挿されている。
伝動クラッチ用アクチュエータ151は、伝動クラッチ150を断接させるためのものである。植付クラッチ用アクチュエータ176は、植付クラッチ170にクラッチ切断操作力を付加し得るものである。接地状態検出装置267は、植付部50(フロート58)が接地しているか否かを検出するためのものである。操作レバー38は、植付部50を昇降操作するためのもの、且つ植付部50を駆動操作するためのものである。制御装置260は、昇降アクチュエータ75、伝動クラッチ用アクチュエータ151、及び植付クラッチ用アクチュエータ176の作動制御を司るように構成されている。
そして、制御装置260は、操作レバー38への昇降操作に応じて植付部50が昇降するように昇降アクチュエータ75を作動させ、操作レバー38への駆動操作に応じて植付クラッチ170が断接するように植付クラッチ用アクチュエータ176を作動させ、且つ、植付部50の接地及び非接地に応じて伝動クラッチ150が接続状態及び切断状態となるように伝動クラッチ用アクチュエータ151を作動させる。
この構成によれば、植付作業時において植付部50を上昇させたい際に、植付操作部材としての操作レバー38によるクラッチ切断操作を要すること無く、昇降操作部材としての操作レバー38による上昇操作のみで植付爪56の動力伝達を遮断しつつ植付部50を上昇させることができる。
さらに、本実施形態においては、植付クラッチ170は、植付爪56に作動連結された第2クラッチ形成体174が第1クラッチ形成体173に係合し且つ第1クラッチ形成体173に回転動力が入力されている伝動状態において、植付クラッチ用アクチュエータ176からクラッチ切断操作力を受けた場合にのみ、第2クラッチ形成体174が植付爪56を植付回転軸137回り上部停止位置(基準位置)に位置させるように軸線回り位置へ回転されつつ第1クラッチ形成体173から離間されることで、接続状態から切断状態へ移行するように構成されている。
この構成によれば、植付部50を接地させた状態で操作レバー38を切断操作位置(非駆動操作位置)にした場合には、伝動クラッチ150が接続状態に維持されたままで植付クラッチ170が切断状態となる。したがって、走行部10を走行させた場合でも、植付爪56が上部停止位置(基準位置)に位置した状態で植付部50の駆動は停止した状態となる。そのため、植付部50を接地させた状態で走行部10を移動させても、植付爪56が耕盤(地面)gに入り込んだままで引きずられることを防止でき、苗の詰まりや植付爪56の変形を有効に防止できる。
一方、植付部50を接地させた状態で操作レバー38を上昇操作位置に位置させた場合には、伝動クラッチ150が切断状態とされる。したがって、植付クラッチ用アクチュエータ176から植付クラッチ170の第2クラッチ形成体174にクラッチ切断操作力が付加されても、第2クラッチ形成体174は植付爪56を上部停止位置に位置させるように軸線回りに回転されることはない。すなわち、伝動クラッチ150の接続状態から切断状態への移行によって植付爪56は、上部停止位置まで回転されることなく、その時点の位置に保持される。
したがって、苗を把持している植付爪56が上部停止位置まで回転されることによって生じる、苗捨て動作を有効に防止できる。つまり、植付作業の中断又は終了時点で植付爪56が苗載台57上の苗マットから苗を取り出して保持していた場合であっても、植付部50の上昇時に植付爪56が上部停止位置へ移動するのを阻止して、植付爪56に保持された苗が当該植付爪56から脱落したり飛散したりして圃場Gに放出されることを防止できる。
なお、この状態(植付部50を接地させた状態で操作レバー38を上昇操作位置に位置させることによって、植付爪56を上部停止位置に位置させることなく植付爪56の移動を中断させた状態)から操作レバー38を下降操作して植付部50を接地させると、伝動クラッチ150が切断状態から接続へ移行する。したがって、第2クラッチ形成体174が、植付爪56を植付回転軸137回り上部停止位置に位置させるように軸線回り位置へ回転されつつ第1クラッチ形成体173から離間され、これにより植付爪56が上部停止位置に位置まで移動して当該上部停止位置で保持されることになる。この際、植付爪56が圃場Gに近づいているため、苗が植付爪56に保持されている場合には、この苗が植付爪56が上部停止位置へ移動するまでの過程で圃場Gに植え付けられる。
[実施形態2]
次に、実施形態2に係る田植機について、前記実施形態1に係る田植機100の各要素と同様の機能を有する要素については同一の引用符号を付して説明する。なお、本実施形態においては、特に伝動クラッチの断接構成が前記実施形態1のものと比べて異なっており、この部分を中心に説明する。
まず、伝動クラッチ140について説明する。
図7、図8、図9、及び図10に示すように、伝動クラッチ140は、植付クラッチ170よりも伝動方向上流側において前記作業機系伝動経路に介挿され、外部から操作力が付加されない際には伝動状態とされるように構成されている。
本実施形態においては、伝動クラッチ140は機械式のクラッチ(爪クラッチ)で構成されている。伝動クラッチ140は、第3クラッチ形成体(駆動側部材)141と、第4クラッチ形成体(従動側部材)142と、伝動クラッチ付勢部材143とを備えている。伝動クラッチ140は、第1伝動軸(駆動軸)91と第2伝動軸(従動軸)92との間に設けられている。第2伝動軸92は、第1伝動軸91よりも伝動経路下流側に配置されている。
第3クラッチ形成体141は爪部141aを有する。第3クラッチ形成体141は、第1伝動軸91に相対回転不能且つその軸線方向へ摺動不能に外嵌されている。第1伝動軸91と第2伝動軸92とは、同軸線上に配置されて、相対回転可能に連結されている。
第4クラッチ形成体142は爪部142a及び係合部142bを有する。第4クラッチ形成体142は、第2伝動軸92に相対回転不能且つその軸線方向へ摺動可能に外嵌されて、爪部142aが第3クラッチ形成体141の爪部141aと対向するように配置されている。
第4クラッチ形成体142の爪部142aは、第4クラッチ形成体142が第3クラッチ形成体141に近づく近接方向へ移動したとき、第3クラッチ形成体141の爪部141aと係合可能とされている。第4クラッチ形成体142の爪部142aは、第4クラッチ形成体142が第3クラッチ形成体141から離れる離間方向へ移動したとき、第3クラッチ形成体141の爪部141aとの係合状態を解除可能とされている。
第4クラッチ形成体142の係合部142bは、爪部142aよりも伝動経路下流側に配置されている。係合部142bは、凹状の溝として第4クラッチ形成体142の周面に形成され、その内部に後述する連動機構200の伝動クラッチ側連動部材210を係合させることができるようになっている。
伝動クラッチ付勢部材143はスプリングで構成されている。伝動クラッチ付勢部材143は、第4クラッチ形成体142よりも伝動経路下流側に配置されて、第2伝動軸92に外嵌されている。伝動クラッチ付勢部材143は、第4クラッチ形成体142の爪部142aが第3クラッチ形成体141の爪部141aと係合するように、当該第4クラッチ形成体142を付勢する。
このような構成において、伝動クラッチ140が図10に示すように切断状態である場合に外部から操作力を受けなければ、第4クラッチ形成体142が伝動クラッチ付勢部材143の付勢力によって前記近接方向へ移動して、図9に示すように第4クラッチ形成体142の爪部142aが第3クラッチ形成体141の爪部141aと係合する。これにより、伝動クラッチ140が接続状態になって、動力が第1伝動軸91から第2伝動軸92に伝達可能となる。
一方、図8に示すように伝動クラッチが接続状態である場合に、連動機構200の動作に応じて、第4クラッチ形成体142が伝動クラッチ付勢部材143の付勢力に抗して前記離間方向へ移動したとき、図7に示すように第4クラッチ形成体142の爪部142aと第3クラッチ形成体141の爪部141aとの係合が解除される。これにより、伝動クラッチ140が接続状態から切断状態に切り替えられて、動力が第1伝動軸91から第2伝動軸92に伝達されなくなる。
次に、伝動クラッチ140及び植付クラッチ170を接続状態又は切断状態にするための構造について説明する。
図7、図8、図9、及び図10に示すように、田植機100は、連動機構200と牽制機構250とを備える。
連動機構200は、植付クラッチ170の伝動状態(接続状態と切断状態)の切替に応じて伝動クラッチ140の伝動状態(接続状態と切断状態)が切り替わるように、植付クラッチ170及び伝動クラッチ140間を作動連結する。
本実施形態において、連動機構200は、基本的に、植付クラッチ170が切断状態に切り替えられるとき、伝動クラッチ140を切断状態に切り替え、且つ、植付クラッチ170が接続状態に切り替えられるとき、伝動クラッチ140を接続状態に切り替えられるように、植付クラッチ170及び伝動クラッチ140間を作動連結する。
図7、図8、図9、及び図10に示すように、連動機構200は、伝動クラッチ側連動部材210と、植付クラッチ側連動部材220とを備える。
伝動クラッチ側連動部材210は、伝動クラッチ140の伝動状態の切替に応じて移動する。伝動クラッチ側連動部材210は、伝動クラッチ側第1連動部材211と、伝動クラッチ側第2連動部材212とを有する。
伝動クラッチ側第1連動部材211は、伝動クラッチケース145内で第4クラッチ形成体142近傍に設けられている。伝動クラッチ側第1連動部材211の長手方向の一端部は、第4クラッチ形成体142の係合部142bに係合されている。伝動クラッチ側第1連動部材211の長手方向の他端部は、第1基準軸241に連結されている。第1基準軸241は、第2伝動軸92と略直交する方向へ延びるように設けられ、伝動クラッチケース145に回動可能に支持されている。
こうして、伝動クラッチ側第1連動部材211は、第1基準軸241回りにクラッチ接続方向又はクラッチ切断方向へ揺動可能とされている。ここで、クラッチ接続方向とは第1伝動軸91及び第2伝動軸92の軸線方向のうち第4クラッチ形成体142が第3クラッチ形成体141に近づく近接方向であり、クラッチ切断方向とは第1伝動軸91及び第2伝動軸92の軸線方向のうち第4クラッチ形成体142が第3クラッチ形成体141から離れる離間方向である。
伝動クラッチ側第2連動部材212は、伝動クラッチケース145外で伝動クラッチ側第1連動部材211に沿って延びるように設けられている。伝動クラッチ側第2連動部材212の長手方向の一端部は第1基準軸241に連結されている。伝動クラッチ側第2連動部材212の長手方向の他端部は自由端とされている。
こうして、伝動クラッチ側第2連動部材212は、伝動クラッチ側第1連動部材211と一体的に、第1基準軸241回りにクラッチ接続方向又はクラッチ切断方向へ揺動可能とされている。
また、伝動クラッチ側第2連動部材212の自由端側である他端部には、第1基準軸241の軸線方向へ延びる係合突起215が設けられている。
植付クラッチ側連動部材220は、植付クラッチ170の伝動状態の切替に応じて移動する。植付クラッチ側連動部材220は、植付クラッチ側第1連動部材221と、植付クラッチ側第2連動部材222と、植付クラッチ側連動部材係合用付勢部材223とを有する。
植付クラッチ側第1連動部材221は、伝動クラッチケース145外で伝動クラッチ側第2連動部材212よりもクラッチ切断方向側に配置されている。植付クラッチ側第1連動部材221の長手方向の一端部は第1基準軸241に相対回転可能に外嵌されている。植付クラッチ側第1連動部材221の長手方向の他端部は伝動クラッチ側第2連動部材212の先端部付近に配置されている。
こうして、植付クラッチ側第1連動部材221は、第1基準軸241回りにクラッチ接続方向又はクラッチ切断方向へ揺動可能とされている。本実施形態においては、構造を簡略化するために、植付クラッチ側第1連動部材221を第1基準軸241回りに揺動可能としているが、第1基準軸241と平行な第2基準軸を設けて、植付クラッチ側第1連動部材221をこの第2基準軸回りに揺動可能としてもよい。
植付クラッチ側第2連動部材222は係合面222aを有する。植付クラッチ側第2連動部材222は、概ね第2伝動軸92の軸線方向へ延びるように設けられている。植付クラッチ側第2連動部材222の長手方向の一端部は、植付クラッチ側第1連動部材221の先端部に第1基準軸241と平行な第3基準軸243を介して連結されている。植付クラッチ側第2連動部材222の長手方向の他端部は、自由端とされ、伝動クラッチ側第2連動部材212の先端部近傍であって係合突起215よりも第1基準軸241から離れた位置に配置されている。
そして、植付クラッチ側第2連動部材222は、第3基準軸243回りに伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215に近づく一方側、又は係合突起215から離れる他方側へ揺動可能とされている。
係合面222aは、押動面222bを有する。係合面222aは、植付クラッチ側第2連動部材222の一端部と他端部との間であって、植付クラッチ側第2連動部材222の係合突起215と対向する端面に長手方向へわたって形成されて、この係合突起215と係合可能とされている。
押動面222bは、植付クラッチ側第2連動部材222の長手方向中途部に備えられている。押動面222bは、伝動クラッチ側連動部材210が第1基準軸241回りにクラッチ接続方向へ揺動している場合に、係合面222aが係合突起215に係合された状態で、植付クラッチ側第1連動部材221が第1基準軸241回りにクラッチ切断方向へ揺動されると、係合突起215を介して伝動クラッチ側連動部材210を第1基準軸241回りにクラッチ切断方向へ押動することができるように構成されている。
植付クラッチ側連動部材係合用付勢部材223は、植付クラッチ側第2連動部材222の長手方向の中途部と、植付クラッチ側第1連動部材221のうち第3基準軸243よりも第1基準軸241に近い部分との間に介設されている。この植付クラッチ側第2連動部材222はスプリングで構成されている。
植付クラッチ側連動部材係合用付勢部材223は、伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215が植付クラッチ側第2連動部材222の係合面222aと係合するように、植付クラッチ側第2連動部材222を第3基準軸243回りに一方側へ付勢する。
また、植付クラッチ側連動部材220と植付クラッチ用アクチュエータ176との間には、リンク部材225が介設されている。リンク部材225は、植付クラッチ用アクチュエータ176(植付クラッチ170)の接続動作に連動して、植付クラッチ側第2連動部材222をクラッチ接続方向へ移動させることができるように構成されている。リンク部材225は、植付クラッチ用アクチュエータ176(植付クラッチ170)の切断動作に連動して、植付クラッチ側第2連動部材222をクラッチ切断方向へ移動させることができるように構成されている。
そして、植付クラッチ側連動部材220及び伝動クラッチ側連動部材210は、連係状態と解除状態とをとり得るように構成されている。前記連係状態は、植付クラッチ170の接続状態から切断状態への切替動作に応じて伝動クラッチ140が伝動クラッチ付勢部材143の付勢力に抗して接続状態から切断状態へ切り替わるように互いに連係された状態である。前記解除状態は、植付クラッチ170の伝動状態の如何に拘わらず伝動クラッチ140が伝動クラッチ付勢部材143の付勢力によって接続状態をとることを許容するように互いの連係状態が解除された状態である。
牽制機構250は、植付クラッチ170がクラッチ切断状態のままで伝動クラッチ140が接続状態となることを許容するように、連動機構200の作用を禁止するためのものである。そして、牽制機構250は、植付部50(フロート58)の接地状態に応じて植付クラッチ側連動部材220及び伝動クラッチ側連動部材210が前記解除状態となるように、植付部50及び連動機構200間を作動連結する。
図7、図8、図9、及び図10に示すように、牽制機構250は、牽制アクチュエータ251と、長尺の連係部材253とを備えている。
牽制アクチュエータ251は、ソレノイド式のアクチュエータであり、牽制動作を行うことができるように構成されている。牽制アクチュエータ251は、作動片251aを有する。作動片251aはアクチュエータ本体251bに対して進退可能とされている。図11に示すように、牽制アクチュエータ251は、制御装置260に電気的に接続されている。制御装置260は、牽制アクチュエータ251の作動制御を司るように構成されている。
長尺の連係部材253は、ワイヤで構成され、植付クラッチ側第2連動部材222と牽制アクチュエータ251との間に介設されている。連係部材253の一端部は、植付クラッチ側第1連動部材221の他端部にて支持されながら、この支持部側から植付クラッチ側第2連動部材222の中途部に連結されている。連係部材253の他端部は、牽制アクチュエータ251の作動片251aに連結されている。
ここで、牽制アクチュエータ251の牽制動作とは、長尺の連係部材253を引っ張るように、牽制アクチュエータ251が作動片251aをアクチュエータ本体251bに向かって後退させる動作である。牽制アクチュエータ251が牽制動作した場合、牽制機構250は、植付クラッチ170がクラッチ切断状態のままで伝動クラッチ140が接続状態となることを許容するように、連動機構200の作用を禁止する。
このような構成において、例えば、次のように伝動クラッチ140及び植付クラッチ170それぞれの接続状態と切断状態とが植付部50の昇降動作に関連して切り替えられる。
田植機100が直進走行しながら植付作業を行っているときに、畔際に至ると植付作業を一旦停止して方向転換のために旋回し、旋回後に再び直進走行しながら植付作業を行う。このように田植機100が旋回する場合、その旋回開始時に操縦者によって操作レバー38が上昇操作される。この上昇操作によって、制御装置260は昇降アクチュエータ75を作動制御し、植付部50を植付作業位置から上昇させる。
なお、植付部50の上昇前(即ち、接地時)には、牽制機構250は連動機構200の作用を禁止する状態となっている。すなわち、植付クラッチ側第2連動部材222が長尺の連係部材253を介して牽制アクチュエータ251の作動片251aに引っ張られて、図9に示すように伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215から離れる方向(他方側)へ揺動した状態に保持されている。ここで、植付クラッチ側第2連動部材222の押動面222bと伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215との係合状態は解除されている。
フロート58は、植付部50の上昇にともなって接地状態から非接地状態に移行する。このときのフロート58の接地状態の変化によって、制御装置260は、接地状態検出装置267の検出信号に基づいてフロート58が非接地状態に切り替わったと判定し、牽制機構250の牽制アクチュエータ251に制御信号を出力して、作動片251aが前記アクチュエータ本体251bから進出するように牽制アクチュエータ251を作動させる。
その結果、連係部材253が作動片251aによって引っ張られなくなって、植付クラッチ側第2連動部材222が植付クラッチ側連像部材係合用付勢部材223の付勢力によって伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215に近づく方向(一方側)へ揺動し、その押動面222bと伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215とが係合される。すなわち、牽制機構250が連動機構200の作用を禁止しない状態となる。
また、制御装置260は、フロート58が非接地状態に切り替わったと判定した場合、この判定時点から設定時間経過後に、植付クラッチ用アクチュエータ176に制御信号を出力して、操作レバー38の操作に拘わらず植付クラッチ170を接続状態から図5に示す切断状態に切り替える。この設定時間は、牽制機構250が連動機構200の作用を禁止する状態から禁止しない状態に移行した後に、植付クラッチ170が切断状態に切り替えられるように設定される。
そして、植付クラッチ170の接続状態から切断状態への切替に連動して、伝動クラッチ140が連動機構200により図8に示す接続状態から図7に示す切断状態に切り替えられる。この際、連動機構200において、植付クラッチ側連動部材220及び伝動クラッチ側連動部材210は連係状態となっている。
具体的には、植付クラッチ170が切断動作を開始すると、連動機構200が作動して、伝動クラッチ140が切断動作を開始する。連動機構200において、植付クラッチ用アクチュエータ176の動作によって植付クラッチ側第2連動部材222がリンク部材225を介してクラッチ切断方向へ引っ張られて移動する。
この際には植付クラッチ側第2連動部材222の押動面222bが伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215と係合していることから、植付クラッチ側第2連動部材222の移動によって伝動クラッチ側連動部材210(伝動クラッチ側第1連動部材211及び伝動クラッチ側第2連動部材212)が第1基準軸241回りにクラッチ切断方向へ揺動する。
そのため、伝動クラッチ140の第4クラッチ形成体142がクラッチ切断方向へ移動し、第4クラッチ形成体142の爪部142aと第3クラッチ形成体141の爪部141aとの係合が解除される。これにより、伝動クラッチ140の切断動作が終了し、伝動クラッチ140が接続状態から切断状態に切り替えられる。
ここで、伝動クラッチ140は、植付クラッチ用アクチュエータ176の作動片178が切断動作を行うために例えば若干量だけ動作した時点で切断状態となるようにリンク部材225で植付クラッチ170と作動連結されて、その切断動作が植付クラッチ170の切断動作よりも早く終了するように構成されている。
伝動クラッチ140が切断状態になっている場合、植付クラッチ170の第1クラッチ形成体173に回転動力が入力されないことから、植付クラッチ用アクチュエータ176がクラッチ切断操作力を植付クラッチ170に付加しようとしても、第1クラッチ形成体173に係合している第2クラッチ形成体174が軸線回りに回転しない。よって、植付クラッチ170の切断動作が進まず、出力軸116は前述のように一定量回転しない。ここでは、植付クラッチ用アクチュエータ176のクラッチ切断操作力が前述の通り設定されているため、植付クラッチ170(第2クラッチ形成体174)がこの操作力を受けても第2クラッチ形成体174(出力軸116)が第1クラッチ形成体173(スライド軸118)に対して離間しつつ回転しない。そのため、ロータリケース55は植付爪56が前記上部停止位置まで移動するように回転せず、ひいてはこのロータリケース55に取り付けられた植付爪56は、伝動クラッチ140の切断時点における位置から移動しない。
したがって、田植機100の旋回のために植付部50が最下降位置から上昇させられるとき、植付爪56が苗を苗載台57上の苗マットから取り出して保持している場合でも、可及的速やかに植付爪56が実質的に停止した状態となって移動することもないので、苗が上昇中の植付部50の植付爪56から放出されて捨てられない。この苗は、植付部50の上昇時は植付爪56に保持される。
そして、このように操作レバー38が上昇操作された後、田植機100の旋回が終了したとき、植付作業を再開するために、操縦者によって操作レバー38が下降操作される。この下降操作によって、植付部50が最上昇位置から最下降位置まで下降させられる。この際、伝動クラッチ140及び植付クラッチ170はともに切断状態に維持されている。
植付部50の下降によって、フロート58は圃場面Wに接触し、接地状態から非接地状態に移行する。これにより、制御装置260は、接地状態検出装置267の検出信号に基づいてフロート58が非接地状態に切り替わったと判定し、牽制アクチュエータ251に制御信号を出力して、作動片251aが前記アクチュエータ本体251bに向かって後退するように牽制アクチュエータ251を牽制動作させる。その結果、長尺の連係部材253は、牽制アクチュエータ251の作動片251aによって引っ張られる。
この引っ張りによって、植付クラッチ側連動部材220及び伝動クラッチ側連動部材210が解除状態となる。すなわち、連動機構200において、植付クラッチ側第2連動部材222が植付クラッチ側連像部材係合用付勢部材223の付勢力に抗して伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215から離れる方向(他方側)へ揺動し、図10に示すように、その押動面222bと伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215との係合状態が解除される。こうして、牽制機構250が連動機構200の作用を禁止する状態となる。
この状態では、伝動クラッチ側第2連動部材212が植付クラッチ側第2連動部材222によって規制されずにクラッチ接続方向へ揺動可能となる。そのため、伝動クラッチ140において、伝動クラッチ付勢部材143の付勢力によって、第4クラッチ形成体142がクラッチ接続方向へ移動し、その爪部142aが第3クラッチ形成体141の爪部141aと係合する。こうして、伝動クラッチ140は、植付部50の下降途中に、連動機構200の動作に応じて接続動作を行い、切断状態から接続状態に切り替えられる。
伝動クラッチ140が接続状態になったとき、伝動クラッチ140よりも伝動経路下流側に位置する株間変速部110においてスライド軸118から第1クラッチ形成体173に回転動力が入力される。そのため、植付クラッチ用アクチュエータ176の作動片178が進出位置に至るように第2クラッチ形成体174(カム体175)が軸線回りに回転し、植付クラッチ170の切断動作が終了する。
したがって、植付クラッチ170が切断状態になる。同時に、出力軸116が第2クラッチ形成体174ともに回転するため、その回転に応じてロータリケース55が回転し、このロータリケース55に取り付けられた植付爪56が上部停止位置まで移動して停止する。こうして、植付爪56が伝動クラッチ140の切断時点における位置から上部停止位置に戻される。すなわち、植付爪56は植付部50が下降して接地したときに上部停止位置に位置することになる。
この際、植付部50は植付爪56が圃場Gに近接した位置にあるため、植付爪56が苗を保持している場合には、この苗は植付爪56が上部停止位置まで移動する過程で圃場Gに植え付けられることになる。また、伝動クラッチ140は接続状態であるが、植付クラッチ170は切断状態に維持されているため、エンジン12の動力は植付部50に伝達されず、植付部50は駆動停止状態を維持する。
そして、伝動クラッチ140が接続状態である一方、植付クラッチ170が切断している状態、即ち植付部50の駆動停止状態であって、植付爪56が上部停止位置に位置する状態で、田植機100が植付作業のために適切な位置まで移動した後、操作レバー38が操縦者によって接続操作される。この接続操作によって、植付クラッチ170が切断状態から接続状態に切り替えられる。植付クラッチ170が接続されたとき、これに連動して植付クラッチ側第2連動部材222はクラッチ接続方向へ揺動し、図10に示す状態から図9に示す状態となる。
その結果、伝動クラッチ140及びその前記作業機伝動経路の下流側にある植付クラッチ170の二つのクラッチがともに接続状態となって、エンジン12の動力が植付部50に伝達されることになる。したがって、植付部50を接地させた状態で、植付部50(植付爪56)を駆動させて、植付作業を再開することが可能となる。
以上のように第2の実施形態に係る田植機は、走行部10と、植付部50と、昇降アクチュエータ75と、植付クラッチ170と、伝動クラッチ140と、植付クラッチ用アクチュエータ176と、連動機構200と、牽制機構250と、接地状態検出装置267と、操作レバー(昇降操作部材及び植付操作部材)38と、制御装置260とを備えている。
田植機100において、走行部10は、エンジン(動力源)12からの回転動力が走行系伝動経路を介して前車輪(駆動輪)15及び後車輪(駆動輪)18に伝達されるように構成されている。植付部50は、植付爪56を有し、走行部10に昇降可能に連結されている。植付爪56は、前記走行系伝動経路から取り出された回転動力によって植付回転軸137回りに移動させられることで苗載台57上の苗マットから苗を取り出して圃場Gに植え付けるように構成されている。昇降アクチュエータ75は、植付部50を昇降させるためのものである。
植付クラッチ170は、前記走行系伝動経路から取り出された回転動力を植付爪56に伝達する作業機系伝動経路に介挿されている。植付クラッチ170は、第1クラッチ形成体(駆動側部材)173と第2クラッチ形成体(従動側部材)174とを有する。第1クラッチ形成体173には、前記回転動力が入力されるように構成されている。第2クラッチ形成体174は、植付爪56に作動連結された状態で第1クラッチ形成体173に対して形脱可能とされている。伝動クラッチ140は、植付クラッチ170よりも伝動方向上流側において前記作業機系伝動経路に介挿されている。
植付クラッチ用アクチュエータ176は、植付クラッチ170にクラッチ切断操作力を付加し得るものである。連動機構200は、植付クラッチ170の伝動状態の切替に応じて伝動クラッチ140の伝動状態が切り替わるように植付クラッチ170及び伝動クラッチ140間を作動連結する。牽制機構250は、牽制アクチュエータ251を有し、前記植付クラッチ170がクラッチ切断状態のままで伝動クラッチ140がクラッチ接続状態となることを許容するように連動機構200の作用を牽制アクチュエータ251の牽制動作により禁止する。
接地状態検出装置267は、植付部50(フロート58)が接地しているか否かを検出するためのものである。操作レバー38は、植付部50を昇降操作するためのもの、且つ植付部50を駆動操作するためのものである。制御装置260は、昇降アクチュエータ75、植付クラッチ用アクチュエータ176、及び牽制アクチュエータ251の作動制御を司るように構成される。
植付クラッチ170は、第2クラッチ形成体174が第1クラッチ形成体173に係合し且つ第1クラッチ形成体173に回転動力が入力されている伝動状態において、植付クラッチ用アクチュエータ176からクラッチ切断操作力を受けた場合にのみ、第2クラッチ形成体174が植付爪56を植付回転軸137回り上部停止位置(基準位置)に位置させるように軸線回り位置へ回転されつつ第1クラッチ形成体173から離間されることで、接続状態から切断状態へ移行するように構成されている。
そして、制御装置260は、操作レバー38への昇降操作に応じて植付部50が昇降するように昇降アクチュエータ75を作動させ、操作レバー38への駆動操作に応じて植付クラッチ170が断接するように植付クラッチ用アクチュエータ176を作動させ、且つ、植付部50の接地に応じて牽制アクチュエータ251を牽制動作させる。
この構成によれば、植付部50を接地させた状態で操作レバー38を切断操作位置(非駆動操作位置)にした場合には、伝動クラッチ140が接続状態に維持されたままで植付クラッチ170が切断状態となる。したがって、走行部10を走行させた場合でも、植付爪56が上部停止位置(基準位置)に位置した状態で植付部50の駆動は停止した状態となる。そのため、植付部50を接地させた状態で走行部10を移動させても、植付爪56が耕盤(地面)gに入り込んだままで引きずられることを防止でき、苗の詰まりや植付爪56の変形を有効に防止できる。
一方、植付部50を接地させた状態で操作レバー38を上昇操作位置に位置させた場合には、伝動クラッチ140が切断状態とされる。したがって、植付クラッチ用アクチュエータ176から植付クラッチ170の第2クラッチ形成体174にクラッチ切断操作力が付加されても、第2クラッチ形成体174は植付爪56を上部停止位置に位置させるように軸線回りに回転されることはない。すなわち、伝動クラッチ140の接続状態から切断状態への移行によって植付爪56は、上部停止位置まで回転されることなく、その時点の位置(又はそこから若干移動した位置)に保持される。
したがって、苗を把持している植付爪56が上部停止位置まで回転されることによって生じる、苗捨て動作を有効に防止できる。つまり、植付作業の中断又は終了時点で植付爪56が苗載台57上の苗マットから苗を取り出して保持していた場合であっても、植付部50の上昇時に植付爪56が上部停止位置へ移動するのを阻止して、植付爪56に保持された苗が当該植付爪56から脱落したり飛散したりして圃場Gに放出されることを防止できる。
なお、この状態(植付部50を接地させた状態で操作レバー38を上昇操作位置に位置させることによって、植付爪56を上部停止位置に位置させることなく植付爪56の移動を中断させた状態)から操作レバー38を下降操作して植付部50を接地させると、伝動クラッチ140が切断状態から接続状態へ移行する。したがって、第2クラッチ形成体174が、植付爪56を植付回転軸137回り上部停止位置に位置させるように軸線回り位置へ回転されつつ第1クラッチ形成体173から離間され、これにより植付爪56が上部停止位置に位置まで移動して当該上部停止位置で保持されることになる。この際、植付爪56が圃場Gに近づいているため、苗が植付爪56に保持されている場合には、この苗が植付爪56が上部停止位置へ移動するまでの過程で圃場Gに植え付けられる。
なお、本発明は、ここで説明した実施形態の他にも、前述の説明の観点からさまざまな変更形態及び変形形態をとり得る。そのため、添付の請求の範囲内において、本発明をここでの説明とは異なる他の方法で実行することは考えられることである。