本発明は、入力信号の位相を任意に変調して出力する位相変調器に関するものである。
無線通信の分野ではフェーズアレイアンテナや周波数シンセサイザ等において、光通信の分野では光トランシーバのRZ変換やクロック再生回路等において、さらに計測器の分野では任意信号発生回路等において、信号の位相を任意に変更する機能、すなわち移相器が必要とされている。移相器においては、信号の広帯域動作、位相制御の線形性、制御電圧の単一化、低電力化などの特性が求められている。
図9に従来の位相変調器の構成を示す(特許文献1、非特許文献1参照)。この位相変調器は、90°分配器1と、2つの四象限乗算器2I,2Qと、合成器3と、制御回路4とから構成される。図10(A)、図10(B)、図10(C)は図9の位相変調器の各部の信号を平面上にコンスタレーション表示した図である。図10(A)は入力信号VINを表す。
90°分配器1は、入力信号VINを入力し、同相信号VINIと、これに対して位相が90°ずれた直交信号VINQとを出力する。すなわち、入力信号VIN(=sin(ωt))は、90度分配器1において同相信号VINI(=sin(ωt))と直交信号VINQ(=cos(ωt))に分配される。同相成分(I)を横軸、直交成分(Q)を縦軸とするコンスタレーション表示では、図10(B)に示すように、同相信号VINIは同相成分(I)のみで表すことができ、直交信号VINQは直交成分(Q)のみで表すことができる。この2つの信号VINI,VINQを仮に合成した場合には、図10(B)の20(角度45°、振幅21/2)に相当する信号を得ることができる。
一方、制御回路4は、出力させたい位相に対応した制御電圧VCを入力とし、四象限乗算器2I,2Qのための制御信号CI,CQを発生する。具体的には、制御電圧VCは、制御回路4において制御信号CI(=cos(VC))と制御信号CQ(=sin(VC))に変換される。四象限乗算器2I,2Qは、それぞれ制御信号CI,CQの符号とレベルに応じて出力の符号と利得とを変化させ、結果として同相信号VINI、直交信号VINQの振幅を変化させて出力する。すなわち、四象限乗算器2Iは同相信号VINIと制御信号CIとを乗算し、四象限乗算器2Qは直交信号VINQと制御信号CQとを乗算する。
四象限乗算器2I,2Qから出力される同相信号VXIと直交信号VXQは合成器3でベクトル合成され、出力信号VOUTとして外部へ出力される。位相変調器の出力信号VOUTは以下のように表わされる。
VOUT=cos(VC)・sin(ωt)+sin(VC)・cos(ωt)
・・・(1)
式(1)は加法定理により次式で表わされる。
VOUT=sin(ωt+VC) ・・・(2)
結果として、出力信号VOUTの位相は制御電圧VCに比例し、出力振幅は制御電圧VCに依らず一定となる。
例えば同相信号側の利得を1、直交信号側の利得を0と設定した場合、コンスタレーション表示では、出力信号VOUTとして図10(C)の21(角度0°、振幅1)の信号を得ることができる。同様に、同相信号側の利得をcos(22.5°)≒0.92、直交信号側の利得をsin(22.5°)≒0.38と設定した場合には、出力信号VOUTとして図10(C)の22(角度22.5°、振幅(0.922+0.382)1/2=1)の信号を得ることができ、同相信号側の利得をcos(45°)≒0.71、直交信号側の利得をsin(45°)≒0.71と設定した場合には、出力信号VOUTとして図10(C)の23(角度45°、振幅(0.712+0.712)1/2=1)の信号を得ることができる。
図11に従来の位相変調器の制御回路の構成例を示す。制御回路4は、抵抗ラダーにより複数の参照電圧Vn(n:1〜10)を発生する電圧発生器400Ib,400Qbと、制御電圧VCおよび2つの参照電圧を入力とし制御電圧VCが2つの参照電圧の範囲内にあるか範囲外にあるかを検出する差動増幅器対401I,401Q,402I,402Qと、PVT補償回路600とから構成されており、アナログ演算により擬似的な正弦波関数である制御信号CI(=cos(VC))と制御信号CQ(=sin(VC))とを発生させる。なお、図11では、制御信号CI,CQが差動信号である場合について記載しており、補信号にはバーを付記して区別している。
同相信号側の電圧発生器400Ibは、抵抗4011〜4015からなる抵抗ラダーによって構成され、直交信号側の電圧発生器400Qbは、抵抗4016〜4020からなる抵抗ラダーによって構成されている。同相信号側の抵抗ラダーと直交信号側の抵抗ラダーに参照電圧VRT,VRBを共通に与える。電源電圧VCCと電圧VRTとの間にレベルシフトダイオード4022,4023および抵抗4024を設け、電源電圧VEEと電圧VRBとの間に定電流源4021を設けることにより、参照電圧VRT,VRBを電圧発生器400Qbの内部で生成している。
レベルシフトダイオード4022,4023の1個あたりの電圧降下をVLS、定電流源4021の電流値をI、抵抗ラダー内の抵抗4011〜4020の合成抵抗値をRTL、抵抗4024の抵抗値をRRとし、差動増幅器440I〜444I,440Q〜444Qの入力への電流の流れこみを無視すると、電圧VRTはVRT=VCC−2×VLS−RR×Iと表すことができ、電圧VRBはVRB=VCC−2×VLS−(RR+RTL)×Iと表すことができる。
2つの抵抗ラダー内で使用される抵抗値は2種類である。抵抗4011,4020の抵抗値をRとすると、抵抗4012〜4019の抵抗値は2Rとなる。つまり、例えばV10とV9との間や、V2とV1との間のように隣接する参照電圧間に設けられる抵抗については抵抗値をRとし、V10とV8との間や、V9とV7との間のように1つおきの参照電圧間に設けられる抵抗については抵抗値を2Rとする。これにより、同相信号側の電圧発生器400Iが発生する参照電圧V1,V3,V5,V7,V9と直交信号側の電圧発生器400Qが発生する参照電圧V2,V4,V6,V8,V10とが交互に等間隔の電圧レベルになるようにする(V10−V9=V9−V8=V8−V7=・・・=V2−V1=一定)。
PVT補償回路600は、トランジスタ6000、レベルシフトダイオード6001,抵抗6002,6003、および定電流源6004から構成される。PVT補償回路600は、制御電圧VCのレベルをシフトするエミッタフォロアであり、以下の回路定数を電圧発生器400Qbと一致させる。まず、PVT補償回路600のエミッタフォロア(トランジスタ6000)とレベルシフトダイオード6001の合計の段数を、電圧発生器400Qbのレベルシフトダイオード4022,4023の段数と一致させる。また、PVT補償回路600の抵抗6002の抵抗値を、電圧発生器400Qbの電圧レベル微調整用の抵抗4024の抵抗値RRと一致させる。さらに、PVT補償回路600の定電流源6004の定電流値を、電圧発生器400Qbの定電流源4021の定電流値Iと一致させる。PVT補償回路600の抵抗6003の抵抗値RTDLは、任意に選ぶことができる。
トランジスタ6000のベース−エミッタ間電圧がレベルシフトダイオード4022,4023,6001の1個あたりの電圧降下VLSと同一と仮定すると、差動増幅器440I〜444I,440Q〜444Qに送られるレベルシフト後の制御電圧VCLSは、VCLS=VC−2×VLS−RR×Iとなる。以上により、VRT−VCLS=VCC−VC、VCLS−VRB=RTL×I−(VCC−VC)となり、電圧VRTとVCLS間の電圧差および電圧VCLSとVRB間の電圧差は、(VCC−VC)の関数で表すことができる。
差動増幅器対401I,401Q,402I,402Qは、制御電圧VCLSおよび2つの参照電圧Vm,Vnを入力とし、制御電圧VCLSが2つの参照電圧Vm,Vnの範囲内にあるか範囲外にあるかを検出する。差動増幅器対401I,401Q,402I,402Qに求められる機能は、制御電圧VCLSが2つの参照電圧の範囲内にあるか範囲外にあるか単純に2状態を検出することではなく、入力される制御電圧VCLSから制御信号CI=cos(VCLS)、CQ=sin(VCLS)への変換をアナログ演算することである。
差動増幅器対401Iは、差動増幅器440I,441Iによって構成され、差動増幅器対402Iは、差動増幅器442I,443Iによって構成されている。同様に、差動増幅器対401Qは、差動増幅器440Q,441Qによって構成され、差動増幅器対402Qは、差動増幅器442Q,443Qによって構成されている。同相信号側の差動増幅器440I〜444Iは第1の差動増幅器グループを構成し、直交信号側の差動増幅器440Q〜444Qは第2の差動増幅器グループを構成している。参照電圧の数N(Nは2以上の整数)は、位相変調器の必要な総移相量を得るために任意の整数から選択することが可能であり、図11の例ではN=10の場合を記載している。第1の差動増幅器グループに含まれる差動増幅器の個数と第2の差動増幅器グループに含まれる差動増幅器の個数との総和は、Nである。
第1の差動増幅器グループが制御信号CI(=cos(VCLS))を発生し、第2の差動増幅器グループが制御信号CQ(=sin(VCLS))を発生する。差動増幅器対401I,401Q,402I,402Qはそれぞれ360度相当の擬似的な正弦波または余弦波を発生するので、差動増幅器1個当たり180度相当の擬似的な正弦波または余弦波の発生を担うことになる。第1の差動増幅器グループ、第2の差動増幅器グループはそれぞれ900度相当の擬似的な正弦波、余弦波を発生するが、正弦波と余弦波とで90度ずれているので、擬似的な正弦波(制御信号CQ)と余弦波(制御信号CI)を同時に発生できる移相範囲は810度となる。
図12(A)、図12(B)、図12(C)は差動増幅器の回路構成とその動作を示す図であり、図12(A)は差動増幅器の回路図、図12(B)は図12(A)の差動増幅器の記号を示す図、図12(C)は図12(A)の差動増幅器の入出力特性(VC−CI特性)を示す図である。差動増幅器は、図12(A)に示すように、トランジスタ500,501,508,509と、電流源502,510と、レベルシフト用抵抗503と、負荷抵抗504,505,511,512と、エミッタ抵抗506,507,513,514とから構成される。制御信号CIは、トランジスタ508のコレクタと負荷抵抗511との接続点から出力され、制御信号バーCIは、トランジスタ509のコレクタと負荷抵抗512との接続点から出力される。この差動増幅器を記号で表すと、図12(B)のようになる。
図12(C)において、150は差動増幅器を1段使用した場合の入出力特性、151は図12(A)の差動増幅器の入出力特性を示している。図12(A)の構成では、複数の差動増幅器を縦続接続することにより、急峻な入出力特性(VC−CI特性)が得られるので、制御電圧VCの電圧範囲(すなわち、参照電圧の電圧範囲=VRT−VRB=V10−V1)を小さくすることが可能となり、設計の自由度を増やすことができる。
図13(A)、図13(B)は差動増幅器対401Iの回路構成とその動作を示す図であり、図13(A)は差動増幅器対401Iの記号を示す図、図13(B)は図13(A)の差動増幅器対401Iの入出力特性(VC−CI特性)を示す図である。差動増幅器対401Iを構成する一方の差動増幅器440Iの構成は図12(A)に示したとおりである。他方の差動増幅器441Iの構成は、図12(A)に示した構成において、参照電圧Vmの代わりに参照電圧Vn(ここでのVnはVmに対して1つおきの関係にある参照電圧)を入力し、出力を逆相にすればよい。つまり、差動増幅器441Iの場合、制御信号CIは、トランジスタ509のコレクタと負荷抵抗512との接続点から出力され、制御信号バーCIは、トランジスタ508のコレクタと負荷抵抗511との接続点から出力される。
制御電圧VCLSが参照電圧Vm,Vnよりも十分に大きい領域では2つの差動増幅器440I,441Iが両方ともオンとなり、制御信号CIは電圧VHの近傍に収束する。制御電圧VCLSが参照電圧Vm,Vnよりも十分に小さい領域では2つの差動増幅器440I,441Iが両方ともオフとなり、制御信号CIは電圧VHの近傍に収束する。制御電圧VCLSが参照電圧VmとVnの中間電圧となったときには、制御信号CIは最小電圧VLとなる。制御電圧VCLSが参照電圧Vmに近い領域では差動増幅器440Iがオフとなり差動増幅器441Iがオンとなるので、制御信号CIはVHとVLの中間的なレベルとなる。制御電圧VCLSが参照電圧Vnに近い領域では差動増幅器440Iがオンとなり差動増幅器441Iがオフとなるので、制御信号CIはVHとVLの中間的なレベルとなる。2つの差動増幅器440I,441Iは同一に製造されるので、差動増幅器対401Iの入出力特性は下に凸(または上に凸)の左右対称の形状となる。本実施の形態では、制御電圧VCLSを参照電圧Vmの近傍の値または参照電圧Vnの近傍の値にして、VHとVLの中間的なレベルを利用する。
図14(A)、図14(B)、図14(C)は差動増幅器対401Iの動作の参照電圧間隔依存性を示す図であり、図14(A)は参照電圧VmとVnとの差が定数VT(VT=kT/q=26mVであり、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは電子の電荷)と比較して十分に大きい場合(|Vm−Vn|>>8VT)の差動増幅器対401Iの入出力特性を示す図、図14(B)は参照電圧VmとVnとの差が定数VTの8倍程度である場合(|Vm−Vn|≒8VT)の差動増幅器対401Iの入出力特性を示す図、図14(C)は参照電圧VmとVnとの差が定数VTと比較して十分に小さい場合(|Vm−Vn|<<8VT)の差動増幅器対401Iの入出力特性を示す図である。
制御電圧VCLSが参照電圧VmとVnの中間電圧となったときに制御信号CIは最小となるが、参照電圧VmとVnの電圧差と定数VTとの大小関係によりその振る舞いは変化する。参照電圧VmとVnとの差が定数VTと比較して十分に大きい場合には、制御信号CIは、図14(A)に示すように広い制御電圧VCLSの範囲で最小電圧VLに張り付く。反対に、参照電圧VmとVnとの差が定数VTと比較して十分に小さい場合には、図14(C)に示すように制御電圧VCLSが参照電圧VmとVnの中間電圧となったときに制御信号CIは最小となるが、制御信号CIの電圧値はVLまで下がらない。
参照電圧VmとVnとの電圧差と、定数VTとの関係を適切に(例えば、参照電圧VmとVnとの電圧差を定数VTの8倍程度)に選択すると、図14(B)に示すように制御電圧VCLSが参照電圧VmとVnの中間電圧となったときに、制御信号CIは最小電圧VL近傍まで下がり、かつ余弦波形または正弦波形に似た極小値を持つことになる。
このように、参照電圧VmとVnとの電圧差と、定数VTとの関係を適切に選択すると、制御電圧VCLSに対する制御信号CIの変化の特性をcos(VCLS)またはsin(VCLS)に類似させることができる。さらに、制御電圧VCLSの変化に対して制御信号CIが大きく変化しており、雑音の影響を受けにくいことから、制御信号CIは制御信号として適している。参照電圧VmとVnとの電圧差が定数VTの2倍未満または定数VTの12倍よりも大きいときには、制御信号CIは余弦波形、正弦波形から外れた波形になる。このように、制御信号CIを余弦波形、正弦波形に類似した波形にするには、参照電圧VmとVnの電圧差を定数VTの2倍以上12倍以下程度に設定すると有効である。
なお、図12〜図14では、制御信号CI,バーCIを生成する差動増幅器対について説明しているが、制御信号CQ,バーCQを生成する差動増幅器対も同様の構成で実現することができる。
図15は制御回路4の入出力特性を示す図である。まず、参照電圧Vmとして電圧V9が入力され、参照電圧Vnとして電圧V7が入力される差動増幅器対401Iに注目して動作を説明する。制御電圧VCLSが電圧V6よりも大きく、電圧V10よりも小さい領域では、制御信号CIは図14(B)と同様な特性となっている。すなわち、電圧V6を位相の基準(0°)と考えると、制御信号CIのレベルは擬似的に、VCLS=V6においてcos(0°)、VCLS=Vn=V7においてcos(90°)、VCLS=V8においてcos(180°)、VCLS=Vm=V9においてcos(270°)と理解することができる。図14(B)によれば、cos(0°)の電圧値はVH、cos(180°)の電圧値はVL、cos(90°)、cos(270°)の電圧値はVHとVLの中間の値である。本実施の形態では、図15に示すようにVHを「1」、VLを「−1」、VHとVLの中間の値を「0」としている。
さらに、参照電圧Vmとして電圧V5が入力され、参照電圧Vnとして電圧V3が入力される差動増幅器対402Iに注目して動作を説明する。制御電圧VCLSが電圧V2よりも大きく、電圧V6よりも小さい領域では、制御信号CIは図14(B)と同様な特性となっている。すなわち、電圧V2を位相の基準(0°)と考えると、制御信号CIのレベルは擬似的に、VCLS=V2においてcos(0°)、VCLS=Vn=V3においてcos(90°)、VCLS=V4においてcos(180°)、VCLS=Vm=V5においてcos(270°)と理解することができる。
以上説明した2つの差動増幅器対401I,402Iにより、制御電圧VCLSが電圧V2からV10の領域で720°分に相当する疑似的な余弦波形が得られることが分かる。さらに、電圧V1が入力される差動増幅器444Iが設けられることにより、制御信号CIは電圧V1においてcos(270°)に相当する値となる。2つの差動増幅器対401I,402Iと差動増幅器444Iとを合わせると、制御電圧VCLSが電圧V1からV10の領域で810°分に相当する疑似的な余弦波形が得られることになる。
次に、参照電圧Vmとして電圧V10が入力され、参照電圧Vnとして電圧V8が入力される差動増幅器対401Qに注目して動作を説明する。制御電圧VCLSが電圧V7よりも大きい領域では、制御信号CQは図14(B)の制御信号CIと同様な特性となっている。90°基準をずらして考えて、V6を位相の基準(0°)と考えると、制御信号CQのレベルは擬似的に、VCLS=V6においてsin(0°)、VCLS=V7においてsin(90°)、VCLS=Vn=V8においてsin(180°)、VCLS=V9においてsin(270°)と理解することができる。
さらに、参照電圧Vmとして電圧V6が入力され、参照電圧Vnとして電圧V4が入力される差動増幅器対402Qに注目して動作を説明する。制御電圧VCLSが電圧V3よりも大きく、電圧V7よりも小さい領域では、制御信号CQは図14(B)の制御信号CIと同様な特性となっている。90°基準をずらして考えて、V2を位相の基準(0°)と考えると、制御信号CQのレベルは擬似的に、VCLS=V2においてsin(0°)、VCLS=V3においてsin(90°)、VCLS=Vn=V4においてsin(180°)、VCLS=V5においてsin(270°)と理解することができる。
以上説明した2つの差動増幅器対401Q,402Qにより、制御電圧VCLSが電圧V2からV10の領域で720°分に相当する疑似的な正弦波形が得られることが分かる。さらに、電圧V2が入力される差動増幅器444Qが設けられることにより、制御信号CQはVCLS=V2においてsin(0°)、VCLS=V1においてsin(270°)に相当する値となる。2つの差動増幅器対401Q,402Qと差動増幅器444Qとを合わせると、制御電圧VCLSが電圧V1からV10の領域で810°分に相当する疑似的な正弦波形が得られることになる。
このように、制御回路4は、制御電圧VCLSから、制御信号CI=cos(VCLS)、CQ=sin(VCLS)への変換をリアルタイムで行うアナログ演算回路となっている。同相信号側の制御信号CIと直交信号側の制御信号CQを同時に得ることができるのは、制御回路4内の電圧発生器400Ib,400Qbが発生する複数の参照電圧を、同相信号側の演算を行う差動増幅器対と直交信号側の演算を行う差動増幅器対に交互に入力するからである。例えば図11の例では、電圧V9,V7,V5,V3,V1を同相信号側の演算に使用し、電圧V10,V8,V6,V4,V2を直交信号側の演算に使用している。
従来の位相変調器は、信号の広帯域動作、位相制御の高い線形性、単一の制御電圧による制御、低電力動作などにおいて優れた特性を得ることができる。
従来の位相変調器では、制御回路の出力に振幅歪みが存在する場合や90度分配器に分配誤差が存在する場合には、移相特性の線形性が悪化するという問題点があった。以下、この問題点について詳細に説明する。図16は図9に示した従来の位相変調器の移相特性を示す図である。横軸は制御電圧VCLS、縦軸はVCLS=V1を基準にした場合の出力信号VOUTの移相量である。160は制御回路4が理想的な余弦波、正弦波を発生すると仮定した場合の位相変調器の移相特性を示し、161は実際の移相特性を示している。制御回路4が理想的な余弦波、正弦波を発生する場合、VCLS=V1で0度の移相量となり、VCLS=V10で810度の移相量となる直線的な移相特性となる。しかしながら、現実の制御回路4は、理想的な余弦波、正弦波を発生するものではなく、余弦波、正弦波の特性に近い特性(擬似正弦波、擬似余弦波)を発生するので、移相特性は理想的な直線にはならない。
現実の移相特性の形状は、擬似余弦波の理想的な余弦波に対する振幅歪み、擬似正弦波の理想的な正弦波に対する振幅歪みや、90°分配器1の分配誤差(振幅ばらつき、位相ばらつき)等によって影響を受ける。
まず、90°分配器1の分配誤差よりも擬似余弦波および擬似正弦波の振幅歪みの方が位相変調器の移相特性に大きな影響を与える場合を考える。振幅歪みは180度周期で理想からのずれとして現れるが、擬似余弦波にて180度毎に現れ、擬似正弦波にて180度毎に現れる。擬似余弦波と擬似正弦波には90度相当の差があるので、結果として出力には90度周期の位相誤差として現れる。図16の161で示した移相特性は、このような振幅歪みが支配的な場合の移相特性の例を表わしている。
次に、擬似余弦波および擬似正弦波の振幅歪みよりも90°分配器1の分配誤差の方が位相変調器の移相特性に大きな影響を与える場合を考える。90°分配器1の分配誤差は180度周期であるので、結果として出力には180度周期の位相誤差として現れる。
図17は擬似余弦波および擬似正弦波の振幅歪みよりも90°分配器1の分配誤差の方が移相特性に大きな影響を与える場合の位相変調器の移相特性を示す図である。170は理想的な移相特性を示し、171は実際の移相特性を示している。
以上のように、制御回路4の出力に振幅歪みが存在する場合や、90°分配器1に分配誤差が存在する場合には、移相特性の線形性が悪化する。
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、制御回路の出力に振幅歪みが存在する場合や90°分配器に分配誤差が存在する場合でも、移相特性の線形性の悪化を抑圧することができる位相変調器を提供することを目的とする。
本発明の位相変調器は、入力信号の位相を第1の制御電圧に応じて変調する第1の位相変調手段と、この第1の位相変調手段から入力される信号の位相を第2の制御電圧に応じて変調する第2の位相変調手段と、前記第1、第2の制御電圧のレベル調整と、前記第1、第2の制御電圧間のタイミング調整のうち少なくとも一方の調整を実施して、前記第1、第2の制御電圧を前記第1、第2の位相変調手段に供給する相殺回路とを備え、各位相変調手段は、入力信号から同相信号とこの同相信号に対して位相が90°ずれた直交信号とを生成する90°分配器と、同相信号側の第1の制御信号に応じて前記同相信号の振幅を変化させて出力する第1の四象限乗算器と、直交信号側の第2の制御信号に応じて前記直交信号の振幅を変化させて出力する第2の四象限乗算器と、前記第1、第2の四象限乗算器から出力される同相信号と直交信号とを合成して出力する合成器と、前記相殺回路から供給される制御電圧から、余弦波に類似する前記第1の制御信号と正弦波に類似する前記第2の制御信号とを発生する制御回路とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の位相変調器の1構成例において、前記相殺回路は、前記第1の位相変調手段の移相特性の誤差と前記第2の位相変調手段の移相特性の誤差とが相殺されるように前記調整を実施することを特徴とするものである。
また、本発明の位相変調器の1構成例において、前記相殺回路は、前記第1、第2の制御電圧のうち一方のレベルを調整するレベルシフト回路からなることを特徴とするものである。
また、本発明の位相変調器の1構成例において、前記相殺回路は、前記第1、第2の制御電圧のうち一方のタイミングを調整する遅延回路からなることを特徴とするものである。
また、本発明の位相変調器の1構成例において、前記制御回路は、複数の参照電圧を発生する電圧発生器と、前記制御電圧と前記参照電圧との差信号を制御信号として出力する差動増幅器群とを備え、前記差動増幅器群は、前記制御電圧と前記参照電圧とを入力とし同相信号側の前記第1制御信号を出力する第1の差動増幅器グループと、前記制御電圧と前記参照電圧とを入力とし直交信号側の前記第2の制御信号を出力する第2の差動増幅器グループとを備え、前記電圧発生器は、前記複数の参照電圧を前記第1の差動増幅器グループと前記第2の差動増幅器グループに交互に1つずつ入力し、前記第1の差動増幅器グループと前記第2の差動増幅器グループとは、それぞれ少なくとも1つずつの差動増幅器を備えることを特徴とするものである。
また、本発明の位相変調器の1構成例において、各差動増幅器は、前記制御電圧と前記参照電圧とを入力とする第1の単位差動増幅器と、この第1の単位差動増幅器の出力信号を入力とするエミッタフォロアと、このエミッタフォロアの出力信号を入力とする第2の単位差動増幅器とから構成されることを特徴とするものである。
また、本発明の位相変調器の1構成例において、前記90°分配器は、多段のポリフェーズフィルタで構成されることを特徴とするものである。
本発明によれば、第1、第2の位相変調手段を縦続接続し、第1、第2の制御電圧のレベル調整と、第1、第2の制御電圧間のタイミング調整のうち少なくとも一方の調整を実施して、第1、第2の制御電圧を第1、第2の位相変調手段に供給することにより、制御回路の出力に振幅歪みが存在する場合や90°分配器に分配誤差が存在する場合でも、移相特性の線形性の悪化を抑圧することができ、線形性の高い出力信号を得ることができる。
また、本発明では、第1、第2の単位差動増幅器の間にエミッタフォロアを挿入して駆動力を高めた差動増幅器を用いて制御回路を構成するので、制御電圧の帯域不足を解消することができ、単一の制御電圧によりGHzオーダーの高周波の位相変調が可能な位相変調器を実現することができる。
また、本発明では、90°分配器を多段のポリフェーズフィルタで構成することにより、縦続接続による位相変調器であっても、後段の位相変調器の広帯域動作を担保することができるので、位相変調器の変調度を高くすることができる。
本発明の第1の実施の形態に係る位相変調器の構成を示すブロック図である。
本発明の第2の実施の形態に係る位相変調器の構成を示すブロック図である。
本発明の第2の実施の形態に係る位相変調器の移相特性を示す図である。
本発明の第2の実施の形態に係る位相変調器の別の移相特性を示す図である。
本発明の第3の実施の形態に係る位相変調器の構成を示すブロック図である。
本発明の第4の実施の形態に係る位相変調器における90°分配器の構成を示す回路図である。
ポリフェーズフィルタの帯域特性を示す図である。
本発明の第5の実施の形態に係る位相変調器における制御回路の構成要素となる差動増幅器の構成を示す回路図である。
従来の位相変調器の構成を示すブロック図である。
図9の位相変調器の各部の信号を平面上にコンスタレーション表示した図である。
図9の位相変調器の制御回路の構成を示すブロック図である。
図9の位相変調器における差動増幅器対の構成要素となる差動増幅器の回路構成と動作を示す図である。
図9の位相変調器における差動増幅器対の回路構成とその動作を示す図である。
図9の位相変調器における差動増幅器対の動作の参照電圧間隔依存性を示す図である。
図9の位相変調器における制御回路の入出力特性を示す図である。
図9の位相変調器の移相特性を示す図である。
図9の位相変調器の別の移相特性を示す図である。
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る位相変調器の構成を示すブロック図である。本実施の形態の位相変調器は、90°分配器1−1,1−2と、四象限乗算器2I−1,2Q−1,2I−2,2Q−2と、合成器3−1,3−2と、制御回路4−1,4−2と、相殺回路5とから構成される。本実施の形態は、90°分配器1−1と四象限乗算器2I−1,2Q−1と合成器3−1と制御回路4−1とからなる第1の位相変調器と、90°分配器1−2と四象限乗算器2I−2,2Q−2と合成器3−2と制御回路4−2とからなる第2の位相変調器とを縦続接続した構成になっている。
90°分配器1−1,1−2は図9の90°分配器1と同一であり、四象限乗算器2I−1,2Q−1,2I−2,2Q−2は図9の四象限乗算器2I,2Qと同一であり、合成器3−1,3−2は図9の合成器3と同一であり、制御回路4−1,4−2は図9の制御回路4と同一である。したがって、これら構成要素の説明は省略する。
すでに述べたように、図9に示した従来の位相変調器では、移相特性の誤差は90度または180度の周期で現れる。そこで、図9で説明した位相変調器を2つ用意し、これらの位相変調器を縦続接続し、移相特性の誤差の周期を相殺する2つの制御電圧VC1,VC2を発生する相殺回路5を設ける。相殺回路5は、単一の制御電圧VCから制御電圧VC1,VC2を生成して制御回路4−1,4−2に入力する。このとき、相殺回路5は、外部から入力される調整指示信号(不図示)に応じて制御電圧VC1,VC2の電圧レベルを調整したり、調整指示信号に応じて制御電圧VC1,VC2間のタイミングを調整したりすることで、位相変調器の2つの移相特性の誤差を相殺する。
つまり、90°分配器1−1と四象限乗算器2I−1,2Q−1と合成器3−1と制御回路4−1とからなる第1の位相変調器の移相特性と、90°分配器1−2と四象限乗算器2I−2,2Q−2と合成器3−2と制御回路4−2とからなる第2の位相変調器の移相特性との間には、45度または90度に相当するずれが存在するので、制御電圧VC1,VC2の電圧レベルを調整したり、制御電圧VC1,VC2間のタイミングを調整したりすることで、これら2つの移相特性の誤差を相殺することができる。
以上の構成により、本実施の形態では、制御回路4−1,4−2の出力に振幅歪みが存在する場合や、90°分配器1−1,1−2に分配誤差が存在する場合でも、移相特性の線形性の悪化を抑圧することができる。
なお、制御電圧VC1,VC2の調整は、電圧レベルのみを調整してもよいし、タイミングのみを調整してもよいし、これら2つの調整を同時に実施してもよい。また、制御電圧VC1,VC2の両方を調整するようにしてもよいし、どちらか一方のみを調整するようにしてもよい。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図2は本発明の第2の実施の形態に係る位相変調器の構成を示すブロック図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態の位相変調器は、90°分配器1−1,1−2と、四象限乗算器2I−1,2Q−1,2I−2,2Q−2と、合成器3−1,3−2と、制御回路4−1,4−2と、レベルシフト回路6とから構成される。
本実施の形態は、第1の実施の形態の相殺回路5の具体例としてレベルシフト回路6を用いるものである。制御回路4−1には、制御電圧VCが制御電圧VC1としてそのまま入力される。レベルシフト回路6は、入力される制御電圧VCの高周波特性は維持しながら、制御電圧VCの直流成分のみ電圧レベルをシフトさせて制御電圧VC2として出力する機能を有する。レベルシフト回路6による調整量は、外部から入力される調整指示信号に応じて決定される。このように外部からの電気信号に応じて動作が決定されるレベルシフト回路6の構成は周知であるので、詳細な説明は省略する。
図16で説明したように制御回路4が発生する擬似余弦波および擬似正弦波に振幅歪みが存在する場合、図9に示した従来の位相変調器の移相特性は90度周期の位相誤差を持つ。この位相誤差は、制御電圧VCではV(n+1)−Vnの電圧レベル、すなわち参照電圧の間隔に相当する。そこで、90°分配器1−1,1−2の分配誤差よりも制御回路4−1,4−2が発生する擬似余弦波および擬似正弦波の振幅歪みの方が位相変調器の移相特性に大きな影響を与える場合、レベルシフト回路6は、制御電圧VC1とVC2の電圧レベル差が(V(n+1)−Vn)の1/2に相当する値になるように制御電圧VC2の電圧レベルをシフトさせればよい。
図3は本実施の形態の位相変調器の移相特性を示す図である。90°分配器1−1と四象限乗算器2I−1,2Q−1と合成器3−1と制御回路4−1とからなる第1の位相変調器の移相特性は図3の30で表わされる90度周期の位相誤差を持ち、90°分配器1−2と四象限乗算器2I−2,2Q−2と合成器3−2と制御回路4−2とからなる第2の位相変調器の移相特性は図3の31で表わされる90度周期の位相誤差を持つ。本実施の形態では、レベルシフト回路6を設け、制御電圧VC1とVC2の電圧レベル差を(V(n+1)−Vn)の1/2に相当する値にすることにより、2つの移相特性が45度に相当するずれを持つことになるので、2つの移相特性の誤差を相殺することができ、位相変調器のトータルの移相特性として図3の32で示す直線の移相特性を実現することができる。
また、図17で説明したように90°分配器1に分配誤差が存在する場合、図9に示した従来の位相変調器の移相特性は180度周期の位相誤差を持つ。この位相誤差は、制御電圧VCではV(n+2)−Vnの電圧レベル、すなわち参照電圧の間隔の2倍の電圧レベルに相当する。そこで、制御回路4−1,4−2が発生する擬似余弦波および擬似正弦波の振幅歪みよりも90°分配器1−1,1−2の分配誤差の方が位相変調器の移相特性に大きな影響を与える場合、レベルシフト回路6は、制御電圧VC1とVC2の電圧レベル差が(V(n+2)−Vn)の1/2に相当する値になるように制御電圧VC2の電圧レベルをシフトさせればよい。
図4は本実施の形態の位相変調器の別の移相特性を示す図である。90°分配器1−1と四象限乗算器2I−1,2Q−1と合成器3−1と制御回路4−1とからなる第1の位相変調器の移相特性は図4の40で表わされる180度周期の位相誤差を持ち、90°分配器1−2と四象限乗算器2I−2,2Q−2と合成器3−2と制御回路4−2とからなる第2の位相変調器の移相特性は図4の41で表わされる180度周期の位相誤差を持つ。本実施の形態では、レベルシフト回路6を設け、制御電圧VC1とVC2の電圧レベル差を(V(n+2)−Vn)の1/2に相当する値にすることにより、2つの移相特性が90度に相当するずれを持つことになるので、2つの移相特性の誤差を相殺することができ、位相変調器のトータルの移相特性として図4の42で示す直線の移相特性を実現することができる。
以上の構成により、本実施の形態では、制御回路4−1,4−2の出力に振幅歪みが存在する場合や、90°分配器1−1,1−2に分配誤差が存在する場合でも、移相特性の線形性の悪化を抑圧することができる。
なお、レベルシフト回路6は、制御電圧VC2のレベルを調整しているが、制御電圧VC1のレベルを調整するようにしてもよい。
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図5は本発明の第3の実施の形態に係る位相変調器の構成を示すブロック図であり、図1、図2と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態の位相変調器は、90°分配器1−1,1−2と、四象限乗算器2I−1,2Q−1,2I−2,2Q−2と、合成器3−1,3−2と、制御回路4−1,4−2と、遅延回路7とから構成される。
本実施の形態は、第1の実施の形態の相殺回路5の具体例として遅延回路7を用いるものである。制御回路4−1には、制御電圧VCが制御電圧VC1としてそのまま入力される。遅延回路7は、入力される制御電圧VCの高周波特性は維持しながら、制御電圧VCのタイミングをずらして制御電圧VC2として出力する機能を有する。遅延回路7による調整量は、外部から入力される調整指示信号に応じて決定される。このように外部からの電気信号に応じて動作が決定される遅延回路7の構成は周知であるので、詳細な説明は省略する。
図16で説明したように制御回路4が発生する擬似余弦波および擬似正弦波に振幅歪みが存在する場合、図9に示した従来の位相変調器の移相特性は90度周期の位相誤差を持つ。この位相誤差は、制御電圧VCのタイミングを、入力信号VINで90度の位相に相当するタイミングずらした場合に相当する。そこで、90°分配器1−1,1−2の分配誤差よりも制御回路4−1,4−2が発生する擬似余弦波および擬似正弦波の振幅歪みの方が位相変調器の移相特性に大きな影響を与える場合、遅延回路7は、制御電圧VC1とVC2のタイミング差が、入力信号VINで45度の位相に相当する値になるように制御電圧VC2のタイミングをずらせばよい。この場合の位相変調器の動作は図3で説明することができる。
90°分配器1−1と四象限乗算器2I−1,2Q−1と合成器3−1と制御回路4−1とからなる第1の位相変調器の移相特性は図3の30で表わされる90度周期の位相誤差を持ち、90°分配器1−2と四象限乗算器2I−2,2Q−2と合成器3−2と制御回路4−2とからなる第2の位相変調器の移相特性は図3の31で表わされる90度周期の位相誤差を持つ。本実施の形態では、遅延回路7を設け、制御電圧VC1とVC2のタイミング差を、入力信号VINで45度の位相に相当する値にすることにより、2つの移相特性が45度に相当するずれを持つことになるので、位相変調器のトータルの移相特性として図3の32で示す直線の移相特性を実現することができる。
また、図17で説明したように90°分配器1に分配誤差が存在する場合、図9に示した従来の位相変調器の移相特性は180度周期の位相誤差を持つ。この位相誤差は、制御電圧VCのタイミングを、入力信号VINで180度の位相に相当するタイミングずらした場合に相当する。そこで、制御回路4−1,4−2が発生する擬似余弦波および擬似正弦波の振幅歪みよりも90°分配器1−1,1−2の分配誤差の方が位相変調器の移相特性に大きな影響を与える場合、遅延回路7は、制御電圧VC1とVC2のタイミング差が、入力信号VINで90度の位相に相当する値になるように制御電圧VC2のタイミングをずらせばよい。この場合の位相変調器の動作は図4で説明することができる。
90°分配器1−1と四象限乗算器2I−1,2Q−1と合成器3−1と制御回路4−1とからなる第1の位相変調器の移相特性は図4の40で表わされる180度周期の位相誤差を持ち、90°分配器1−2と四象限乗算器2I−2,2Q−2と合成器3−2と制御回路4−2とからなる第2の位相変調器の移相特性は図4の41で表わされる180度周期の位相誤差を持つ。本実施の形態では、遅延回路7を設け、制御電圧VC1とVC2のタイミング差を、入力信号VINで90度の位相に相当する値にすることにより、2つの移相特性が90度に相当するずれを持つことになるので、位相変調器のトータルの移相特性として図4の42で示す直線の移相特性を実現することができる。
以上の構成により、本実施の形態では、制御回路4−1,4−2の出力に振幅歪みが存在する場合や、90°分配器1−1,1−2に分配誤差が存在する場合でも、移相特性の線形性の悪化を抑圧することができる。
なお、遅延回路7は、制御電圧VC2のタイミングを調整しているが、制御電圧VC1のタイミングを調整するようにしてもよい。
上記のとおり、第1〜第3の実施の形態の相殺回路5、レベルシフト回路6および遅延回路7による調整量は、外部から入力される調整指示信号に応じて決定される。調整指示信号の値は、位相変調器の出力信号VOUTに重畳している誤差を見て予め決定しておけばよい。具体例には、90°分配器1−1と四象限乗算器2I−1,2Q−1と合成器3−1と制御回路4−1とからなる第1の位相変調器の移相特性の誤差と、90°分配器1−2と四象限乗算器2I−2,2Q−2と合成器3−2と制御回路4−2とからなる第2の位相変調器の移相特性の誤差とが相殺されるように、調整指示信号の値(調整量)を決定すればよい。
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。図6(A)、図6(B)は本発明の第4の実施の形態に係る位相変調器の90°分配器の構成を示す回路図である。図6(A)は第1〜第3の実施の形態の90°分配器1−1,1−2を1段のポリフェーズフィルタで実現する場合の回路図であり、図6(B)は90°分配器1−1,1−2を2段のポリフェーズフィルタで実現する場合の回路図である。なお、図6(A)、図6(B)では、入力信号VINと同相信号VINIと直交信号VINQとが差動信号である場合について記載しており、補信号にはバーを付記して区別している。
図6(A)に示すポリフェーズフィルタは、一端が入力信号VINの入力端子に接続され、他端が同相信号VINIの出力端子に接続された抵抗300と、一端が入力信号VINの入力端子に接続され、他端が直交信号VINQの出力端子に接続された抵抗301と、一端が入力信号バーVINの入力端子に接続され、他端が同相信号バーVINIの出力端子に接続された抵抗302と、一端が入力信号バーVINの入力端子に接続され、他端が直交信号バーVINQの出力端子に接続された抵抗303と、一端が入力信号VINの入力端子に接続され、他端が直交信号VINQの出力端子に接続された容量304と、一端が入力信号VINの入力端子に接続され、他端が同相信号バーVINIの出力端子に接続された容量305と、一端が入力信号バーVINの入力端子に接続され、他端が直交信号バーVINQの出力端子に接続された容量306と、一端が入力信号バーVINの入力端子に接続され、他端が同相信号VINIの出力端子に接続された容量307とから構成される。
図6(B)に示すポリフェーズフィルタは、一端が入力信号VINの入力端子に接続された抵抗308,309と、一端が入力信号バーVINの入力端子に接続された抵抗310,311と、一端が抵抗308の他端に接続され、他端が同相信号VINIの出力端子に接続された抵抗312と、一端が抵抗309の他端に接続され、他端が直交信号VINQの出力端子に接続された抵抗313と、一端が抵抗310の他端に接続され、他端が同相信号バーVINIの出力端子に接続された抵抗314と、一端が抵抗311の他端に接続され、他端が直交信号バーVINQの出力端子に接続された抵抗315と、一端が入力信号VINの入力端子に接続され、他端が抵抗309,313の接続点に接続された容量316と、一端が入力信号VINの入力端子に接続され、他端が抵抗310,314の接続点に接続された容量317と、一端が入力信号バーVINの入力端子に接続され、他端が抵抗311,315の接続点に接続された容量318と、一端が入力信号バーVINの入力端子に接続され、他端が抵抗308,312の接続点に接続された容量319と、一端が抵抗308,312の接続点に接続され、他端が直交信号VINQの出力端子に接続された容量320と、一端が抵抗309,313の接続点に接続され、他端が同相信号バーVINIの出力端子に接続された容量321と、一端が抵抗310,314の接続点に接続され、他端が直交信号バーVINQの出力端子に接続された容量322と、一端が抵抗311,315の接続点に接続され、他端が同相信号VINIの出力端子に接続された容量323とから構成される。
第1〜第3の実施の形態では、位相変調器を縦続接続するので、後段の第2の位相変調器には前段の第1の位相変調器によって位相変調された信号が入力される。したがって、第2の位相変調器の各構成要素は広帯域での動作が担保されている必要がある。
90°分配器1−1,1−2は、利用する回路構成により広帯域性に大きく差が生じる。ポリフェーズフィルタは広帯域性に優れた90度分配を実現することができるが、前段の第1の位相変調器の変調度が大きい場合には、1段のポリフェーズフィルタでは必要な帯域をカバーできないケースが生じる。
そこで、図6(A)に示した1段のポリフェーズフィルタでは必要な帯域をカバーできない場合には、図6(B)に示すように90°分配器1−1,1−2として多段のポリフェーズフィルタを使用すればよい。
図7は1段、2段、3段、4段のポリフェーズフィルタの帯域特性を示す図である。横軸は周波数、縦軸は位相である。図7の70は1段のポリフェーズフィルタの帯域特性を示し、71は2段のポリフェーズフィルタの帯域特性を示し、72は3段のポリフェーズフィルタの帯域特性を示し、73は4段のポリフェーズフィルタの帯域特性を示している。図7によれば、ポリフェーズフィルタの段数を増やすことにより、90度分配の広帯域性が良好になることが分かる。
以上の構成により、本実施の形態では、縦続接続による位相変調器であっても、後段の位相変調器の広帯域動作を担保することができるので、位相変調器の変調度を高くすることができる。
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。第1〜第4の実施の形態で説明した位相変調器には、GHzオーダーの高周波にて位相制御を行う用途には対応できないという問題がある。その理由は、制御回路4−1,4−2を構成する差動増幅器に十分な駆動力がないためである。本実施の形態は、このような問題を解決する制御回路の構成を提供するものである。
図8(A)、図8(B)は本実施の形態に係る位相変調器における制御回路の構成要素となる差動増幅器の回路構成を示す図である。この差動増幅器は、第1〜第4の実施の形態で説明した位相変調器の制御回路4−1,4−2を構成するものである。制御回路4−1,4−2の概略の構成は図11に示したとおりであるので、図11の符号を用いて説明する。図8(A)は差動増幅器440I,442I,444Iの構成を示しており、図8(B)は差動増幅器441I,443Iの構成を示している。
図8(A)の差動増幅器は、ベースに制御電圧VCLSが入力されるトランジスタ100と、ベースに参照電圧Vmが入力されるトランジスタ101と、一端に電源電圧VEEが与えられる定電流源102と、一端に電源電圧VCCが与えられ、他端がトランジスタ100のコレクタに接続される負荷抵抗103と、一端に電源電圧VCCが与えられ、他端がトランジスタ101のコレクタに接続される負荷抵抗104と、一端がトランジスタ100のエミッタに接続され、他端が定電流源102の他端に接続されるエミッタ抵抗105と、一端がトランジスタ101のエミッタに接続され、他端が定電流源102の他端に接続されるエミッタ抵抗106と、ベースがトランジスタ101のコレクタと負荷抵抗104との接続点に接続され、コレクタに電源電圧VCCが与えられるトランジスタ107と、ベースがトランジスタ100のコレクタと負荷抵抗103との接続点に接続され、コレクタに電源電圧VCCが与えられるトランジスタ108と、ベースおよびコレクタがトランジスタ107のエミッタに接続されたトランジスタ109と、ベースおよびコレクタがトランジスタ108のエミッタに接続されたトランジスタ110と、一端に電源電圧VEEが与えられ、他端がトランジスタ109のエミッタに接続された定電流源111と、一端に電源電圧VEEが与えられ、他端がトランジスタ110のエミッタに接続された定電流源112と、ベースがトランジスタ108のエミッタとトランジスタ110のベースおよびコレクタとの接続点に接続されたトランジスタ113と、ベースがトランジスタ107のエミッタとトランジスタ109のベースおよびコレクタとの接続点に接続されたトランジスタ114と、一端に電源電圧VEEが与えられる定電流源115と、一端に電源電圧VCCが与えられ、他端がトランジスタ113のコレクタに接続される負荷抵抗116と、一端に電源電圧VCCが与えられ、他端がトランジスタ114のコレクタに接続される負荷抵抗117と、一端がトランジスタ113のエミッタに接続され、他端が定電流源115の他端に接続されるエミッタ抵抗118と、一端がトランジスタ114のエミッタに接続され、他端が定電流源115の他端に接続されるエミッタ抵抗119とから構成される。制御信号CIは、トランジスタ113のコレクタと負荷抵抗116との接続点から出力され、制御信号バーCIは、トランジスタ114のコレクタと負荷抵抗117との接続点から出力される。
トランジスタ100,101と定電流源102と負荷抵抗103,104とエミッタ抵抗105,106とは、制御電圧VCLSと参照電圧Vmとを入力とするエミッタ結合形式の第1の単位差動増幅器を構成している。トランジスタ107,108,109,110と定電流源111,112とは、第1の単位差動増幅器から出力される差動出力信号を入力とするエミッタフォロアを構成している。トランジスタ113,114と定電流源115と負荷抵抗116,117とエミッタ抵抗118,119とは、エミッタフォロアから出力される差動出力信号を入力とするエミッタ結合形式の第2の単位差動増幅器を構成している。本実施の形態では、駆動力が大きく高速性に優れるエミッタフォロアを第1、第2の単位差動増幅器の間に挿入することにより、図12(A)に示した差動増幅器と比較して高周波帯域の信号を扱うことが可能となる。
図8(B)の差動増幅器は、図8(A)と同様の構成であり、トランジスタ200,201,207,208,209,210,213,214と、定電流源202,211,212,215と、負荷抵抗203,204,216,217と、エミッタ抵抗205,206,218,219とから構成される。トランジスタ200,201と定電流源202と負荷抵抗203,204とエミッタ抵抗205,206とは、制御電圧VCLSと参照電圧Vn(VnはVmに対して1つおきの関係にある参照電圧)とを入力とするエミッタ結合形式の第1の単位差動増幅器を構成している。トランジスタ207,208,209,210と定電流源211,212とは、第1の単位差動増幅器から出力される差動出力信号を入力とするエミッタフォロアを構成している。トランジスタ213,214と定電流源215と負荷抵抗216,217とエミッタ抵抗218,219とは、エミッタフォロアから出力される差動出力信号を入力とするエミッタ結合形式の第2の単位差動増幅器を構成している。図8(A)との違いは、参照電圧Vmの代わりに参照電圧Vnが入力されることと、出力が逆相になっていることである。つまり、制御信号CIは、トランジスタ214のコレクタと負荷抵抗217との接続点から出力され、制御信号バーCIは、トランジスタ213のコレクタと負荷抵抗216との接続点から出力される。
なお、図8では、制御信号CIを演算する構成について説明しているが、制御信号CQを演算する構成も同様である。すなわち、差動増幅器440Q,442Q,444Qの場合には図8(A)の構成においてCI,バーCIをCQ,バーCQとすればよく、差動増幅器441Q,443Qの場合には図8(B)に示した構成においてCI,バーCIをCQ,バーCQとすればよい。
以上のように、本実施の形態では、第1、第2の単位差動増幅器の間にエミッタフォロアを挿入して駆動力を高めた差動増幅器を用いて制御回路4−1,4−2を構成するので、制御電圧VCの帯域不足を解消することができ、GHzオーダーの高周波にて位相制御を行う用途に対応可能な制御回路4−1,4−2を実現することができる。したがって、本実施の形態を第1〜第4の実施の形態に適用すれば、単一の制御電圧VCにより高周波の位相変調が可能な位相変調器を実現することができる。
本発明は、特に、位相変調を高周波(RF)帯域で行う無線通信、光通信、計測器の分野に適している。
1−1,1−2…90°分配器、2I−1,2Q−1,2I−2,2Q−2…四象限乗算器、3−1,3−2…合成器、4−1,4−2…制御回路、5…相殺回路、6…レベルシフト回路、7…遅延回路、100,101,107〜110,113,114,200,201,207〜210,213,214,6000…トランジスタ、102,111,112,115,202,211,212,215,4021,6004…定電流源、103〜106,116〜119,203〜206,216〜219,300,300,308〜315,4011〜4020,4024,6002,6003…抵抗、304,307,316〜323…容量、400Ib,400Qb…電圧発生器、401I,401Q,402I,402Q…差動増幅器対、440I〜444I,440Q〜444Q…差動増幅器、600…PVT補償回路、4021,6004…定電流源、4022,4023,6001…レベルシフトダイオード。