図1は、本発明の実施例に係るドライブプレート10を構成するプレート部材11およびリングギヤ部材12と流体伝動装置3とを示す分解斜視図であり、図2は、ドライブプレート10の平面図であり、図3は、図2におけるA1−A2線に沿ったドライブプレート10の取付状態を示す断面図である。これらの図面に示すドライブプレート10は、車両に搭載された原動機としての図示しないエンジン(内燃機関)から出力される動力を動力伝達対象である流体伝動装置3へと伝達するのに用いられる。
実施例において、動力伝達対象としての流体伝動装置3は、原動機としてのエンジンを備えた車両に発進装置として搭載されるトルクコンバータである。すなわち、流体伝動装置3は、図1および図3に示すように、ドライブプレート10を介してエンジンのクランクシャフト2に連結されるフロントカバー30や、フロントカバー30に密に固定されるポンプシェル31aを含むポンプインペラ31、ポンプインペラ31と同軸に回転可能な図示しないタービンランナ、図示しない変速装置のインプットシャフトに固定されると共にタービンランナに接続される図示しないタービンハブ、タービンハブに接続されたダンパ機構32、フロントカバー30とダンパ機構32とを係合させる(連結する)と共に両者の係合(連結)を解除することができる例えば単板摩擦式のロックアップクラッチ33等を含む。実施例のロックアップクラッチ33は、フロントカバー30の径方向に延びる内面30aと摩擦係合可能な摩擦材34を有するロックアップピストン35を含む。
図1〜図3に示すように、実施例のドライブプレート10は、エンジンのクランクシャフト2に固定されるプレート部材11と、外周にリングギヤ120を有すると共にプレート部材11に締結可能であり、かつ流体伝動装置3に固定される環状のリングギヤ部材12とから構成される。すなわち、実施例のドライブプレート10は、エンジン側に取り付けられるプレート部材11と、流体伝動装置3に取り付けられるリングギヤ部材12とに2分割され得る。従って、エンジンのクランクシャフト2にプレート部材11を予め取り付けておくと共に流体伝動装置3にリングギヤ部材12を予め取り付けておいた上で、プレート部材11とリングギヤ部材12とを締結することができる。
図4および図5は、プレート部材11を示す斜視図である。プレート部材11は、例えば冷間圧延鋼板といった可撓性を有する板材から形成され、図示するように、クランクシャフト2の一端に取り付けられる平坦なクランクシャフト取付部110と、外周部から径方向外側に放射状に突出する平坦な複数のプレート側締結部111と、クランクシャフト取付部110と複数のプレート側締結部111との間で流体伝動装置3からエンジン側(図3における右側)に突出する絞り部112とを含む。クランクシャフト取付部110は、中心に形成された中心孔110aと、当該中心孔110aの周囲に等間隔に形成された複数(実施例では、8個)のクランクシャフト連結孔110bとを有する。クランクシャフト取付部110の中心孔110aには、クランクシャフト2の先端が嵌合され、クランクシャフト2の先端中心に形成された孔部には、流体伝動装置3のフロントカバー30の外面中央に固定された入力側センターピース4が嵌合される(図3参照)。また、クランクシャフト2とプレート部材11とは、プレート部材11の表面側および裏面側に配置される平坦な環状スペーサ(図3参照)を介してクランクシャフト連結孔110bに挿通されたボルトにより締結される。
プレート部材11の複数のプレート側締結部111は、ドライブプレート10をエンジンのクランクシャフト2および流体伝動装置3に取り付けた際にクランクシャフト取付部110よりも流体伝動装置3側に位置するように当該クランクシャフト取付部110から軸方向にオフセットされており(図3参照)、それぞれ径方向外側の端部近傍に形成された締結孔111oを有する。また、プレート部材11の絞り部112は、プレート側締結部111よりも内周側でクランクシャフト取付部110を囲むように環状に形成されており、ドライブプレート10をエンジンのクランクシャフト2および流体伝動装置3に取り付けた際に流体伝動装置3からエンジン側に突出するように形成される。このような環状の絞り部112をプレート部材11に形成することにより、プレート部材11ひいてはドライブプレート10の剛性をより一層向上させることができる。
実施例において、絞り部112は、クランクシャフト取付部110および各プレート側締結部111よりもエンジン側に位置する環状の平坦部112aを含む。そして、絞り部112は、図3に示すように、クランクシャフト取付部110の外周(平坦部と屈曲部との境界)と平坦部112aの内周との距離D1が、当該平坦部112aの外周とプレート側締結部111の内周(平坦部と屈曲部との境界)との距離D2よりも短くなるように形成される。これにより、絞り部112の平坦部112aと複数のプレート側締結部111との間に急峻な曲げ部を形成する必要が無くなることから、加工性を良好に維持しつつ、流体伝動装置3側からエンジン側に突出する絞り部112を容易に形成することが可能となる。更に、絞り部112の平坦部112aには、必要に応じて、プレート部材11やドライブプレート10の重量バランスを調整するためのバランス孔112bが形成される。すなわち、絞り部112に平坦部112aを含ませることで、バランス孔112bの形成が必要となった際に、既存の治具等を利用して平坦部112aに対して容易にバランス孔112bを形成することが可能となる。
更に、プレート部材11の隣り合うプレート側締結部111の間には、プレート部材11の周縁部に沿ってリブ部113が複数形成されている。リブ部113は、ドライブプレート10をエンジンのクランクシャフト2および流体伝動装置3に取り付けた際にエンジン側から流体伝動装置3側(図3における左側)に突出するようにプレート部材11の外周縁部を曲げ加工することにより形成される。これにより、各プレート側締結部111やプレート部材11全体の剛性を良好に確保することが可能となる。リブ部113は、中央部113aの頂部(中央)から両方の端部113bに向かうにつれてなだらかに低背化されており、中央部113aの高さは、エンジンからの動力が流体伝動装置3に伝達されている際に当該中央部113aの頂部が流体伝動装置3のフロントカバー30と当接しないように定められる。
リングギヤ部材12は、エンジンをクランキングする図示しないセルモータのロータに連結されると共にエンジン始動時にドライブプレート10に向けて移動されるピニオンギヤと噛合可能なリングギヤ120と、リングギヤ120が外周に固定されると共にプレート部材11に締結可能であり、かつ流体伝動装置3のフロントカバー30に固定される略円環状の環状支持部材121とを含む。実施例において、リングギヤ120は、例えば既存のリングギヤ製造設備を利用して環状支持部材121とは別に製造され、環状支持部材121の外周に溶接により固定される。
図6および図7は、環状支持部材121を示す斜視図である。環状支持部材121は、例えば冷間圧延鋼板といった可撓性を有する板材から形成され、図示するように、それぞれプレート部材11の複数のプレート側締結部111に対応するように内周部から径方向内側(中心側)に延出された複数(実施例では、6個)の締結部122を有する。各締結部122には、プレート部材11のプレート側締結部111に形成された締結孔111oにそれぞれ対応するように締結孔122oが形成される。そして、プレート部材11とリングギヤ部材12とは、プレート側締結部111の流体伝動装置3側の表面と締結部122のエンジン側の表面とが当接する状態で各プレート側締結部111の締結孔111oと環状支持部材121の各締結孔122oとに挿通されるボルト15とナット16とにより締結される。ここで、実施例では、ナット16として、環状支持部材121の締結部122を形成(プレス加工)する際に、ナットそれ自体で締結部122に締結孔122oを穿設可能であると共に当該締結部122にカシメ固定されるもの(例えば「ピアスナット」)が用いられる。
また、環状支持部材121は、内周部の互いに隣り合う締結部122同士の間からクランクシャフト2や流体伝動装置3の軸方向かつ流体伝動装置3側へと延出された複数(実施例では、6個)の延出溶接部123を有する。各延出溶接部123は、環状支持部材121側の基端部から遊端部123aまでの間に径方向に折り曲げられた2つの曲げ加工部123bおよび123cを有し(図3参照)、それぞれの遊端部123aが流体伝動装置3のフロントカバー30の外周部30bと当接するように形成される。このように、延出溶接部123を径方向に複数回折り曲げ加工することにより、各延出溶接部123の剛性をより高めて耐久性をより向上させることができると共に、異なるサイズ(外径)のフロントカバー30にドライブプレートを対応させることができる。なお、延出溶接部123は、基端部から遊端部123aまでの間で3回以上曲げ加工されてもよい。そして、各延出溶接部123の遊端部123aとフロントカバー30の外周部30bとは、両者の当接部に沿って互いに溶接される。各延出溶接部123の遊端部とフロントカバー30の外周部30bとの溶接長さは、エンジンからフロントカバー30に伝達されるトルクに耐えることができるように定められる。従って、必ずしも延出溶接部123の遊端部とフロントカバー30との当接部全体に沿って両者を溶接する必要はない。
また、実施例において、各延出溶接部123は、図6〜図8に示すように、環状支持部材121(ドライブプレート10やリングギヤ部材12)の径方向からみてリングギヤ120の中心軸の延在方向(図8における一点鎖線参照)に対して斜めに延出されるように形成される。更に、各延出溶接部123の2つの側縁部(側面)と環状支持部材121の内周縁(内周面)との間には、図6に示すように、コーナー部124a,124bが形成されている。ここで、図6における白抜き矢印は、エンジンからの動力がドライブプレート10を介して流体伝動装置3に伝達される際のエンジンやドライブプレート10、流体伝動装置3のフロントカバー30の回転方向を示す。そして、各延出溶接部123は、図6〜図8に示すように、2つの側縁部のうち、エンジン等の回転方向下流側に位置するコーナー部124aに対応した一方が、リングギヤ部材12すなわち環状支持部材121の流体伝動装置3側の表面と鈍角をなすと共に、エンジン等の回転方向上流側に位置するコーナー部124bに対応した他方が、リングギヤ部材12すなわち環状支持部材121の流体伝動装置3側の表面と鋭角をなすように形成される。これにより、エンジン等の回転方向上流側に位置するコーナー部124bに比べて、エンジン等の回転方向下流側に位置するコーナー部124aの曲率半径が大きくなる。
そして、実施例のドライブプレート10では、リングギヤ120と環状支持部材121とが複数の延出溶接部123の近傍で溶接により固定される。すなわち、リングギヤ120と環状支持部材121との溶接部12aは、各延出溶接部123の近傍に設けられる。これにより、リングギヤ120と環状支持部材121との溶接箇所と環状支持部材121の各締結部122との間隔を確保して溶接に伴う締結部122の熱変形を抑制すると共に、各延出溶接部123を熱硬化させて各延出溶接部123ひいてはドライブプレート10の剛性をより向上させることができる。ただし、リングギヤ120は、圧入やカシメにより環状支持部材121に固定されてもよい。
次に、図1や図9等を参照しながら、実施例のドライブプレート10を構成するプレート部材11およびリングギヤ部材12の製造手順ならびに流体伝動装置3に対するドライブプレート10の組付手順について説明する。
ドライブプレート10を構成するプレート部材11およびリングギヤ部材12の製造に際しては、まず、図9に示すように、例えば冷間圧延鋼板といった板材(母材)20からリングギヤ部材12の環状支持部材121の元となる環状体21を切り出し、板材20から環状体21を切り出すことによりプレート部材11の元となる残部22を環状体21と共に得る。この際、複数の延出溶接部123の元となる複数の第1延出部21aや、それぞれ締結孔122oを有する複数の締結部122の元となる複数の第2延出部21bが形成されるように、残部22から環状体21を切り出す。この際、各第1延出部21aは、隣り合う第2延出部21b同士の間に形成される。また、上述のように、環状支持部材121の各延出溶接部123は、当該環状支持部材121の径方向からみて軸方向に対して斜めに形成されることから、各第1延出部21aは、環状体21の内周から斜めに延びるように形成されることになる。次いで、環状体21の内周から延出された複数の第1延出部21aに曲げ加工等を施し、2つの曲げ加工部123bおよび123cを有する各延出溶接部123を成形し、図6および図7に示す環状支持部材121を得る。
更に、板材20から環状体21を切り出して得られた残部22に切削加工を施してプレート部材11の元となる部材23を得る。そして、部材23にプレス加工(曲げ加工)等を施すことにより、クランクシャフト取付部110や絞り部112、複数のプレート側締結部111、複数のリブ部113を有するプレート部材11を得る。この際、板材20から環状体21を切り出す前に第1延出部21aと第2延出部21bとの間に位置していた部分のうち、より幅の広い一方である幅広部22aが、プレート部材11の複数のプレート側締結部111の元となる部分23aとして利用される。
このように、実施例のドライブプレート10では、少なくともリングギヤ部材12の環状支持部材121とプレート部材11とをいわゆる親子取りにより作成することができるので、板材20を有効に利用して歩留まりを向上させることが可能となる。そして、第1延出部21aを環状体21の内周から斜めに延びるように形成することで、第1延出部21aを環状体21の内周から中心に向けて真っ直ぐに延びるように形成する場合に比して、残部22における板材20の中心部から当該第1延出部21aまでの距離L1を大きくすることができると共に、残部22における第1延出部21aから一方の第2延出部21bまでの距離L2、すなわち残部22の幅広部22aの幅を大きくすることができる。この結果、残部22から切り出される部材23の外径やプレート側締結部111の元となる部分23aをより大きく形成することができることから、プレート部材11の外径やプレート側締結部111の幅を大きくすると共に、各リブ部113の突出高さを確保することが可能となり、プレート部材11の剛性をより一層向上させることができる。
次いで、環状支持部材121とは別に製造された図2に示すリングギヤ120の内周に環状支持部材121を溶接により固定すれば、図2に示すリングギヤ部材12を得ることができる。ここで、エンジンのクランキングに際しては、セルモータからリングギヤ120や環状支持部材121に対してさほど大きなトルクが印加されない。従って、リングギヤ120と環状支持部材121とを溶接により固定する場合には、両者間の溶接箇所(溶接長さ)を大幅に削減することできる。なお、リングギヤ120は、環状体21を切出した後の板材20の残部(環状体21の外側部分)を元に作成されてもよい。
上述のようにして製造されるプレート部材11は、例えばエンジンの組立工場等において表裏に配置されるスペーサを介してクランクシャフト連結孔110bに挿通されたボルトによりクランクシャフト2に締結される。また、プレート部材11と共に実施例のドライブプレート10を構成するリングギヤ部材12は、例えば流体伝動装置3の組立工場等において環状支持部材121の各延出溶接部123の遊端部123aをフロントカバー30の外周部30bに溶接することにより流体伝動装置3に対して固定される。このように、リングギヤ部材12のリングギヤ120よりも内周側の部分すなわち環状支持部材121の内周側の部分から流体伝動装置3側へと複数の延出溶接部123を延出させると共に各延出溶接部123の遊端部123aを流体伝動装置3のフロントカバー30の外周部30bに溶接することで、フロントカバー30の径方向に延びる部分すなわちロックアップピストン35の摩擦材34と対向するフロントカバー30の径方向に延びる内面30aを含む部分への溶接による熱の影響を低減すると共に、延出溶接部123の遊端部と流体伝動装置3のフロントカバー30との溶接部とリングギヤ120との間隔を充分に確保してリングギヤ120への溶接による熱の影響を低減することができる。
こうしてエンジン側に取り付けられたプレート部材11と、流体伝動装置3に取り付けられたリングギヤ部材12とは、例えば車両の組立工場等においてプレート部材11の各締結孔111oおよびリングギヤ部材12の各締結孔122oにボルト15を挿通すると共に各ボルト15を環状支持部材121に固定されたナット16に螺合することにより互いに締結される。なお、実施例のリングギヤ部材12において各ナット16は、環状支持部材121のプレス加工時等に締結部122にカシメ固定されるものであるが、図1では、ドライブプレート10の構造を解りやすくするために、各ナット16を環状支持部材121(締結部122)から分離して示す。また、エンジンと流体伝動装置3との間にドライブプレート10を介設する手順は上述のものに限られるものではなく、プレート部材11とリングギヤ部材12とを互いに固定した後、ドライブプレート10をエンジンと流体伝動装置3との間に介設してもよい。
引き続き、エンジンから流体伝動装置3のフロントカバー30に動力が伝達される際のドライブプレート10の状態等について説明する。
上述のように、ドライブプレート10は、プレート部材11をエンジンのクランクシャフト2に固定すると共にリングギヤ部材12を流体伝動装置3のフロントカバー30に固定し、更にプレート部材11とリングギヤ部材12とを締結することによりエンジンのクランクシャフト2と流体伝動装置3との間に介設される。そして、エンジンから出力された動力は、クランクシャフト2、プレート部材11、リングギヤ部材12の環状支持部材121、および環状支持部材121の各延出溶接部123を介して流体伝動装置3のフロントカバー30へと伝達され、更に流体伝動装置3により図示しない変速装置へと伝達される。また、エンジンをセルモータによりクランキングして始動させる際には、セルモータからのクランキングトルクが、当該セルモータのピニオンギヤと噛合したリングギヤ120、環状支持部材121およびプレート部材11を介してエンジンのクランクシャフト2へと伝達される。
ドライブプレート10を介してエンジンから流体伝動装置3のフロントカバー30に動力が伝達される際には、上述のように、ドライブプレート10(環状支持部材121)は、図6における白抜き矢印の方向に回転する。この際、ドライブプレート10のリングギヤ部材12(環状支持部材121)に形成された各延出溶接部123は、流体伝動装置3のフロントカバー30から反力を受けるため、各延出溶接部123の近傍には、図6に実線で示すように矢印方向すなわちエンジン等の回転方向とは逆向きの応力が生じる。従って、ドライブプレート10がエンジンからの動力を流体伝動装置3へと伝達する際には、エンジン等の回転方向下流側に位置するコーナー部124aには引張応力が作用する一方、エンジン等の回転方向上流側に位置するコーナー部124bには圧縮応力が作用する。このため、実施例のドライブプレート10では、各延出溶接部123を、2つの側縁部のうち、エンジン等の回転方向下流側に位置するコーナー部124aに対応した一方がリングギヤ部材12すなわち環状支持部材121の流体伝動装置3側の表面と鈍角をなすように斜めに傾け、それによりコーナー部124aの曲率半径をエンジン等の回転方向上流側に位置するコーナー部124bよりも大きくしている。この結果、ドライブプレート10がエンジンからの動力を流体伝動装置3へと伝達する際に引張応力が作用するコーナー部124aにおける応力集中を低減させて、延出溶接部123ひいてはドライブプレート10の剛性および耐久性をより向上させることが可能となる。
また、ドライブプレート10を介してエンジンからの動力が流体伝動装置3のフロントカバー30に伝達される際には、フロントカバー30の内部に図示しない油圧制御装置から油圧が供給されることから、流体伝動装置3では、当該油圧の作用によりフロントカバー30が膨張する、いわゆるバルーニングが発生する。そして、このようなフロントカバー30のバルーニングが発生すると、ドライブプレート10は、フロントカバー30の外周に固定された各延出溶接部123を介して外周側で当該フロントカバー30によりエンジン側(図3における右側)へと押圧され、それにより各延出溶接部123が形成された環状支持部材121に締結されたプレート部材11が変形しようとする。
これを踏まえて、実施例のドライブプレート10では、プレート部材11の剛性を向上させるべく、上述のように互いに隣り合うプレート側締結部111の間のプレート部材11の周縁部にエンジン側から流体伝動装置3側に突出するリブ部113が形成されている。ここで、本発明者らは、エンジン側に取り付けられるプレート部材11と流体伝動装置3に取り付けられるリングギヤ部材12とに2分割され得るドライブプレート10において、プレート部材11やドライブプレート10全体の剛性をより向上させるべく鋭意研究を行い、その課程で、プレート部材11の剛性を向上させるべく当該プレート部材11に形成されるリブ部113の突出方向に着目した。そして、解析の結果、プレート部材11とリングギヤ部材12とに2分割され得るドライブプレート10では、プレート部材11の各リブ部113を流体伝動装置3側からエンジン側に突出させるよりも、エンジン側から流体伝動装置3側に突出させた方がプレート部材11の剛性が向上し、フロントカバー30のバルーニングに伴うプレート部材11やドライブプレート10全体の変形量が低減することを見出した。
本発明者によるリブ部113についての解析は、有限要素法に基づく数値解析法を用いたものである。また、リブ部113についての数値解析に際しては、上述のドライブプレート10のモデルと、各リブ部113を当該ドライブプレート10とは逆方向(流体伝動装置3側からエンジン側)に突出させた比較例としてのドライブプレート10Xのモデルとを用意した。そして、ドライブプレート10または10Xのプレート部材11をクランクシャフト連結孔110bの近傍でエンジン側から支持すると共に、リングギヤ部材12の各延出溶接部123に流体伝動装置3側からエンジン側に向けて同一の荷重を印加したときのドライブプレート10および10Xの軸方向における変形量を流体伝動装置3のフロントカバー30にバルーニングが生じた際の変形量として算出した。
図10および図11は、フロントカバー30のバルーニングが発生した際にドライブプレート10が変形する様子を模式的に示す断面図であり、図10は、図2中のA3−A1線に沿ったドライブプレート10の断面を示し、図11は、図2中のA4−A2線に沿ったドライブプレート10の断面を示す。そして、図10および図11には、比較例であるドライブプレート10Xの変形の様子を破線で示す。また、図12は、上記解析により得られた図2中のA3−A1線に沿ったドライブプレート10の径方向位置に対応した軸方向の変形量を示し、図13は、当該解析により得られた図2中のA4−A2線に沿ったドライブプレート10の径方向位置に対応した軸方向の変形量を示す。図12および図13において、実線は、実施例のドライブプレート10についての解析結果を示し、破線は、比較例であるドライブプレート10Xについての解析結果を示す。
図10〜図13に示すように、A3−A1線に沿った断面およびA4−A2線に沿った断面の双方において、リブ部113をエンジン側から流体伝動装置3側に向けて突出させた実施例のドライブプレート10の方が、リブ部113を流体伝動装置3側からエンジン側に向けて突出させたドライブプレート10Xよりも軸方向の変形量が少ない。すなわち、プレート部材11とリングギヤ部材12とに2分割され得るドライブプレート10では、プレート部材11の各リブ部113を流体伝動装置3側からエンジン側に突出させるよりも、エンジン側から流体伝動装置3側に突出させた方がプレート部材11の剛性が向上し、フロントカバー30のバルーニングに伴うプレート部材11やドライブプレート10全体の変形量が低減するが理解されよう。従って、実施例のドライブプレート10のように、各リブ部113をエンジン側から流体伝動装置3側に突出させることで、プレート部材11の剛性を向上させ、流体伝動装置3にバルーニングが生じたとしても、プレート部材11およびドライブプレート10が変形するのを良好に抑制することが可能となる。
更に、実施例のドライブプレート10では、プレート部材11の剛性を向上させるべく、プレート部材11にクランクシャフト取付部110と複数のプレート側締結部111との間で流体伝動装置3側からエンジン側に突出する絞り部112が形成されている。ここで、本発明者らは、エンジン側に取り付けられるプレート部材11と流体伝動装置3に取り付けられるリングギヤ部材12とに2分割され得るドライブプレート10において、プレート部材11やドライブプレート10全体の剛性をより向上させるべく鋭意研究を行い、その課程で、プレート部材11の剛性を向上させるべく当該プレート部材11に形成される絞り部112の突出方向にも着目した。そして、解析の結果、プレート部材11とリングギヤ部材12とに2分割され得るドライブプレート10では、プレート部材11の絞り部112をエンジン側から流体伝動装置3側に突出させるよりも、流体伝動装置3側からエンジン側に突出させた方がプレート部材11の剛性が向上し、フロントカバー30のバルーニングに伴うプレート部材11やドライブプレート10全体の変形量が低減することを見出した。
本発明者による絞り部112についての解析も、有限要素法に基づく数値解析法を用いたものである。また、絞り部112についての数値解析に際しては、図14に示すように、上述のプレート部材11を含むドライブプレート10のモデルと、流体伝動装置3側からエンジン側に突出すると共に平坦部を含まない湾曲した断面形状をもった絞り部112Bを有するプレート部材11Bを含む変形例に係るドライブプレート10Bのモデルと、絞り部をドライブプレート10とは逆方向(エンジン側から流体伝動装置3側)に突出させた比較例としてのドライブプレート10Yのモデルとを用意した。なお、ドライブプレート10,10Bおよび10Yにおいて、クランクシャフト取付部の外周からプレート側締結部の内周までの距離は図14に示すように同一であるものとした。そして、ドライブプレート10,10B,10Yのプレート部材11,11B,11Yをクランクシャフト連結孔110bの近傍でエンジン側から支持すると共に、リングギヤ部材12の各延出溶接部123に流体伝動装置3側からエンジン側に向けて同一の荷重を印加したときのドライブプレート10,10B,10Yの軸方向における変形量を流体伝動装置3のフロントカバー30にバルーニングが生じた際の変形量として算出した。
図15は、上記解析により得られた図2中のA3−A1線に沿ったドライブプレート10,10Bおよび10Yの径方向位置に対応した軸方向の変形量を示し、図16は、当該解析により得られた図2中のA4−A2線に沿ったドライブプレート10,10Bおよび10Yの径方向位置に対応した軸方向の変形量を示す。図15および図16において、実線は、実施例のドライブプレート10についての解析結果を示し、一点鎖線は、変形例としてのドライブプレート10Bについての解析結果を示し、二点鎖線は、比較例であるドライブプレート10Yについての解析結果を示す。
図15および図16に示すように、A3−A1線に沿った断面およびA4−A2線に沿った断面の双方において、絞り部112等を流体伝動装置3側からエンジン側に向けて突出させた実施例のドライブプレート10や変形例のドライブプレート10Bの方が、絞り部112Yをエンジン側から流体伝動装置3側に向けて突出させたドライブプレート10Yよりも軸方向の変形量が少ない。すなわち、プレート部材11とリングギヤ部材12とに2分割され得るドライブプレート10では、プレート部材11の絞り部112をエンジン側から流体伝動装置3側に突出させるよりも、流体伝動装置3側からエンジン側に突出させた方がプレート部材11の剛性が向上し、フロントカバー30のバルーニングに伴うプレート部材11やドライブプレート10全体の変形量が低減するが理解されよう。従って、実施例のドライブプレート10あるいは変形例のドライブプレート10Bのように、絞り部112を流体伝動装置3側からエンジン側に突出させることで、プレート部材11の剛性を向上させ、流体伝動装置3にバルーニングが生じたとしても、プレート部材11およびドライブプレート10が変形するのを良好に抑制することが可能となる。なお、図15および図16の解析結果からわかるように、実施例のドライブプレート10や変形例のドライブプレート10Bとでは、バルーニングに伴うプレート部材11やドライブプレート10全体の変形量の差はさほど大きくない。従って、バランス孔112bの形成に要する手間を考慮しなければ、上述のプレート部材11の代わりに、図14に示すようなプレート部材11Bを用いてもよい。
以上説明したように、ドライブプレート10は、エンジンのクランクシャフト2に固定されるプレート部材11と、リングギヤ120を外周に有すると共にプレート部材11に締結される環状部材であるリングギヤ部材12とから構成される。そして、リングギヤ部材12は、それぞれリングギヤ120よりも内周側でプレート部材11に締結される複数の締結部122と、それぞれリングギヤ120よりも内周側から流体伝動装置3側へと延出されると共に流体伝動装置3のフロントカバー30の外周に溶接される遊端部123aを有する複数の延出溶接部123とを含む。このように、リングギヤ部材12のリングギヤ120よりも内周側の部分から流体伝動装置3側へと複数の延出溶接部123を延出させると共に各延出溶接部123の遊端部123aを流体伝動装置3のフロントカバー30の外周に溶接することで、当該フロントカバー30の径方向に延びる部分への溶接による熱の影響を低減すると共に、延出溶接部123の遊端部123aと流体伝動装置3のフロントカバー30との溶接部とリングギヤ120との間隔を充分に確保してリングギヤ120への溶接による熱の影響を低減することができる。
そして、ドライブプレート10を構成するプレート部材11には、エンジン側から流体伝動装置3側に突出するようにリブ部113が形成されている。これにより、プレート部材に流体伝動装置3側からエンジン側に突出するようにリブ部113を形成する場合に比べて、プレート部材11ひいてはドライブプレート10の剛性をより向上させることができる。この結果、流体伝動装置3のフロントカバー30やリングギヤ120への溶接による熱の影響を低減させると共に、ドライブプレート10の剛性をより向上させることが可能となり、流体伝動装置3の作動に伴ってフロントカバー30のバルーニングが発生した際に当該バルーニングに伴うドライブプレート10の変形を良好に抑制することが可能となる。なお、上記ドライブプレート10では、エンジン側から流体伝動装置3側へとリブ部113を突出させても、リングギヤ部材12の各延出溶接部123の長さを適正に設定することで、流体伝動装置3のフロントカバー30とリブ部113との接触を容易に抑制することが可能となる。
また、プレート部材11は、それぞれ径方向外側に突出すると共にリングギヤ部材12の対応する締結部122に締結される複数のプレート側締結部111を含み、リブ部113は、プレート部材11の互いに隣り合うプレート側締結部111間の周縁部に沿って複数形成される。これにより、リングギヤ部材12の締結部122に締結される各プレート側締結部111やプレート部材11全体の剛性を良好に確保することが可能となる。ただし、上記実施例のようにプレート部材11の互いに隣り合うプレート側締結部111間の周縁部のすべてにリブ部113を形成しなくてもよく、例えば、プレート部材11の互いに隣り合うプレート側締結部111間の周縁部に対して1つおきにリブ部113を形成してもよい。
更に、リブ部113のそれぞれを、中央部113aから両方の端部113bに向かうにつれて低背化することで、各プレート側締結部111やプレート部材11全体の剛性を確保しつつ、リブ部113の突出高さをより適正に削減し、それにより、リングギヤ部材12の環状支持部材121とプレート部材11とを親子取りにより容易に作成することが可能となる。
また、プレート部材は、クランクシャフトに取り付けられる平坦なクランクシャフト取付部110と、当該クランクシャフト取付部110よりも外側でリングギヤ部材12の対応する締結部122に締結される平坦な複数のプレート側締結部111と、クランクシャフト取付部110と複数のプレート側締結部111との間で当該クランクシャフト取付部110を囲むように環状に形成された絞り部112とを含む。このような環状の絞り部112をプレート部材11に形成することで、プレート部材11ひいてはドライブプレート10の剛性をより一層向上させることが可能となる。
更に、リングギヤ部材12は、複数の締結部122および複数の延出溶接部123を内周側に有すると共にリングギヤ120が外周に固定される環状支持部材121を含み、複数の延出溶接部123のそれぞれは、リングギヤ部材12の互いに隣り合う締結部122間に形成され、リングギヤ120と環状支持部材121とは、複数の延出溶接部123の近傍で溶接により固定される。これにより、リングギヤ120と環状支持部材121との溶接箇所とリングギヤ部材12の締結部との間隔を確保して溶接に伴う締結部122の熱変形を抑制すると共に、各延出溶接部123を熱硬化させて当該延出溶接部123ひいてはドライブプレート10の剛性をより向上させることができる。
ここで、上記実施例や変形例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。すなわち、上記実施例においては、エンジンをクランキングするセルモータのピニオンギヤと噛合可能なリングギヤ120を有すると共に、エンジンからの動力を流体伝動装置3へと伝達するドライブプレート10,10Bが「ドライブプレート」に相当し、エンジンのクランクシャフト2に固定されるプレート部材11が「プレート部材」に相当し、リングギヤ120を外周に有する環状部材として構成されると共に、それぞれリングギヤ120よりも内周側でプレート部材11に締結される複数の締結部122と、それぞれリングギヤ120よりも内周側から流体伝動装置3側へと延出されると共に流体伝動装置3のフロントカバー30の外周部30bに溶接される遊端部123aを有する複数の延出溶接部123とを含むリングギヤ部材12が「リングギヤ部材」に相当し、複数の締結部122および複数の延出溶接部123を内周側に有すると共にリングギヤ120が外周に固定される環状支持部材121が「環状支持部材」に相当し、フロントカバー30と、フロントカバー30の径方向に延びる内面30aと摩擦係合可能なロックアップピストン35を有するロックアップクラッチ33とを含む流体伝動装置3が「流体伝動装置」に相当する。
ただし、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施例はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更をなし得ることはいうまでもない。