JP2013089697A - 太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔及びその製造方法 - Google Patents

太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】リーク電流を上部電極3×3cmにおいて100V印加時に10−5A/cm未満でありかつ、500℃以上の温度での耐熱性がある被膜を有するステンレス箔を提供する。
【解決手段】基材であるステンレス箔に第1層、第2層の順に形成される2つの層からなり前記第1層は前記第2層よりも耐熱性が高いことを特徴とする被膜付きステンレス箔であって、前記第1層が金属酸化物被膜であり、前記第2層がメチル基含有シリカ系被膜である太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔である。
【選択図】図1

Description

本発明は、太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔及びその製造方法に関するものである。
被膜を有したステンレス箔は、電子ペーパー、有機ELディスプレイ、有機EL照明、太陽電池のデバイス用基板などへの応用が期待されており、太陽電池基板では耐熱性並びに絶縁性が重要な特性になる。
特にCIGS(CuInGaSe)のような化合物半導体系太陽電池では、製造プロセスの加熱工程において、500℃以上の温度に基板が晒される。ステンレス箔そのものはCIGSのプロセス温度に晒されても重量・ヤング率・硬さなどの特性に変化がないが、ステンレスを被覆している被膜には500℃以上の加熱温度に対する耐熱性が重要になる。
太陽電池のセル1つから得られる起電力や電流は小さいため、セルを直列或いは並列に複数個接続することが必要となる。ステンレス箔を用いた太陽電池基板の場合、ステンレス箔に直接セルを形成し基板ごと切断をして目的とするセル同士を導電性ワイヤなどで接続する方法と、絶縁被膜を有するステンレス箔をガラス基板と同様に扱ってセルを形成し集積型モジュールを作製する方法があり、後者は、モジュール構造がシンプルであるため生産性が高いが、被膜の絶縁性が不十分であるとセルを複数個接続したときに設計通りの太陽電池特性が得られなくなるため、ピンホールなどの欠陥がない被膜を作製することが重要である。
さて、ステンレス箔の表面には圧延スジや疵に起因する突起、圧延工程で巻きこんだ変質油に起因する付着異物などが存在している。これらの高さが被膜の膜厚に比べて十分に低い場合は健全な被膜が形成されるが、被膜の膜厚を超えるような突起や付着異物高さがある場合には、被膜にクラックが発生したり、成膜時にハジキやピンホールが発生したりして、短絡が生じることが多い。このような高さの高い突起や異物の存在確率はステンレス箔の製造プロセスに依存するが一般的に言って10cm角内で1個以下にすることは非常に困難であり、3cm角内に10個以上存在しても珍しいことではない。疵による突起の1例を図3に示す。
リーク電流は図4のような構成で測定するが、クラックなどの被膜欠陥が存在するため、電極3の電極面積にリーク電流は依存することが多く、電極面積が大きくなるほどリーク電流は高くなり短絡につながりやすい。また、印加電圧が高くなるほど被膜欠陥の薄い膜に高い電圧がかかることになり、短絡が生じやすくなる。
集積型デバイスを作製するには大面積で高電圧印加時に低リーク電流、例えば10×10cm角で50V印加時に1×10−6A/cm以下、1×1cm角で200V印加時に1×10−8A/cm以下であることが求められる。必要とされる面積とリーク電流は作製するデバイスによって異なるが、3×3cm角で100V印加時に1×10−5A/cmが1つの汎用的な指標となる。しかしながら、ステンレス箔表面の圧延スジ・疵・付着異物の影響を低減するには被膜の柔軟化が有効であるが、柔軟性に富む有機樹脂被膜は耐熱性が低いため用いることができない。
特許文献1には有機樹脂より耐熱性が高い無機・有機ハイブリッドで被覆されたステンレス箔が開示されているが、特許文献1に開示されている被膜付きステンレス箔では上部電極が1×1cm角のとき10V程度の低電圧の印加では絶縁性が維持されても100Vでは短絡をしてしまうという問題がある。
特許文献2には複数の無機ポリマー膜で被覆されたステンレス箔が開示されているが、特許文献2に開示された被膜付きステンレス箔では、無機ポリマー膜による被覆をステンレス箔に上部電極を1×1cm角で形成した場合、5V程度の低電圧の印加では絶縁性が維持されるが100Vでは短絡をしてしまうという問題がある。
特許文献1および特許文献2に開示された被膜付きステンレスでは、そもそも被膜は500℃以上の環境下で耐熱性については明確に開示されていない。
非特許文献1に耐熱性が500℃以上であるとして開示されたHT膜は無機有機ハイブリッド膜であるが、膜厚を1μm超にしようとするとクラックが発生すると言う問題があり、膜厚が1μm以下であってもステンレス箔に突起があると図5に示すようなクラックが発生し短絡の原因となっている。
これらより、特許文献1、特許文献2並びに非特許文献1に開示された被膜を有するステンレス箔は、リーク電流を上部電極3×3cmにおいて100V印加時に10−5A/cm未満であることと耐熱性500℃以上を満足することは困難である。
また、特許文献3にはアルミニウム、チタン等の基体上に表面絶縁層を有する電子材料用基板が開示され、基体表面は陽極酸化処理して皮膜を形成してから、その表面に非導電性物質の層を形成して陽極酸化皮膜のポアを補填している。
しかし、特許文献3にも、リーク電流を上部電極3×3cmにおいて100V印加時に10−5A/cm未満であることと耐熱性650℃以上の両方を満足する太陽電池用に好適に使用できる絶縁被膜付ステンレス箔は教示されていない。
特許第3882008号公報 特許第4245394号公報 特開平11−229187号公報
N. Yamada, T. Ogura, S. Ito and Y. Kubo, "Surface Morphology and Reliability Evaluation of Insulating Films on Stainless Steel Foil," Proc. IDW’09, pp. 775-778 (2009)
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであって、リーク電流を上部電極3×3cmにおいて100V印加時に10−5A/cm未満でありかつ、少なくとも500℃、さらには650℃以上の温度における耐熱性を有する被膜を有するステンレス箔及びその製造方法を提供することにある。
上記目的を達成する本発明の要旨は以下の通りである。
(1)基材であるステンレス箔に第1層、第2層の順に形成された絶縁被膜を有する太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔であって、
前記第1層は前記第2層よりも耐熱性が高く、
前記第1層が金属酸化物被膜であり、前記金属酸化物被膜の厚さが、ZrOの場合には0.1〜0.4μm、その他の金属酸化物被膜の場合には0.1〜0.2μmであり、
前記第2層がメチル基含有シリカ系被膜であり、前記メチル基含有シリカ系被膜の厚さが0.5〜2.0μmであり、
前記絶縁被膜の100℃加熱時に対する500℃加熱時における重量減少率が1.0%未満であり、
前記絶縁膜付きステンレス箔の3×3cmの面積に100Vの電圧を印加した時のリーク電流が10−5A/cm未満であることを特徴とする太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔。
(2)前記金属酸化物被膜がAl、SiO、ZrO、TiO、Nb、MgO、V、Ta、Crから構成されること特徴とする(1)に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔。
(3)前記メチル基含有シリカ系被膜が
(SiO-(CHSiO3/2(1−x) 0<x<1.0
で表現できる物質であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔。
(4)前記xの範囲が0.2≦x≦0.8であることを特徴とする(3)に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔。
(5)前記絶縁被膜の100℃加熱時に対する650℃加熱時における重量減少率が1.0%未満であることを特徴とする(1)〜(4)に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔。
(6)太陽電池がCIGS太陽電池用であることを特徴とする(1)〜(5)に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔。
(7)基材であるステンレス箔に第1層、第2層の順に形成し、
前記第1層は前記第2層よりも耐熱性が高く、
前記第1層が金属酸化物被膜であり、前記金属酸化物被膜の厚さが、ZrOの場合には0.1〜0.4μm、その他の金属酸化物被膜の場合には0.1〜0.2μmであり、
前記第2層がメチル基含有シリカ系被膜であり、前記メチル基含有シリカ系被膜が0.5〜2.0μmの厚さであることを特徴とする(1〜6のいずれか1項に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔の製造方法。
(8)前記絶縁被膜の100℃加熱時に対する650℃加熱時における重量減少率が1.0%未満であることを特徴とする(7)に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔の製造方法。
(9)太陽電池がCIGS太陽電池用であることを特徴とする(7)〜(8)に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔の製造方法。
本発明により、リーク電流を上部電極3×3cmにおいて100V印加時に10−5A/cm未満であり、少なくとも500℃、特に650℃以上での耐熱性を有する太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔が提供されるという顕著な効果を奏する。
本発明の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔を示す図である。 (a)突起を有するステンレス箔を表わした図である。(b)(a)に示すステンレス箔の上にメチル基含有シリカ系被膜を形成したステンレス箔である。(c)(a)に示すステンレス箔の上に金属酸化物被膜を形成したステンレス箔である。(d)(c)のステンレス箔の上にメチル基含有シリカ系被膜を形成したステンレス箔である。 (a)ステンレス箔表面の光顕微鏡写真である。(b)ステンレス箔表面のレーザー顕微鏡写真である。(c)(b)に示すステンレス箔表面のある断面の高さ測定結果である。 リーク電流、印加電圧の計測方法を説明する図である。 ステンレス箔上にメチル基含有シリカ系被膜を形成したときにステンレス箔上の付着異物を起因としてクラックが発生した例ところを示す図である。 CIGS太陽電池の構造例を示す図である。
本発明者らは、図1に示すようにステンレス箔1を第1層21と第2層22からなる被膜2で被覆し、第1層、第2層の順に被膜を形成するにあたって、第2層形成時にステンレス箔表面の疵や異物によるクラック発生を抑制するためには、ステンレス表面の大きな突起や異物などの影響を緩和する目的で、金属酸化物被膜の層を第1層として設け、第2層には平滑性・耐熱性・絶縁性のバランスのとれたデバイスとの整合性のあるメチル基含有シリカ系被膜層とすることでリーク電流を上部電極3×3cmにおいて100V印加時に10−5A/cm未満と少なくとも500℃、特に650℃以上の加熱温度における耐熱性を実現できることを見出した。
耐熱性の評価にあたっては、熱重量分析を用いることとし、所定の温度(本発明では500℃、さらに650℃)の加熱温度における被膜の重量減少率から100℃における重量減少率を引いた値が1%以下である場合に当該温度(500℃、さらに650℃)において耐熱性があると評価する。本発明のように第1層と第2層を重ねている場合には、被膜の耐熱性は2つの層の膜をまとめて剥がして熱分析装置で測定したものになる。100℃における重量減少率を引くのは、100℃までの重量減少分は殆ど吸着水に由来するもので、デバイス作製上問題となる被膜の有機成分の分解による脱ガスと区別するためである。
本発明の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔は、基材であるステンレス箔に第1層、第2層の順に形成された絶縁被膜を有し、前記第1層は前記第2層よりも耐熱性が高く、前記第1層が金属酸化物被膜であり、前記第2層がメチル基含有シリカ系被膜である太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔である。
具体的には、金属酸化物被膜はAl、SiO、ZrO、TiO、Nb、MgO、V、Ta、Crから構成され、メチル基含有シリカ系被膜が
(SiO-(CHSiO3/2(1−x) 0<x<1.0
で表現できる物質である。
(被膜の亀裂とリーク電流)
ステンレス箔表面には圧延に伴う疵・スパイクや工程中で生じると思われる付着異物があり、被膜欠陥の誘因となっており、大面積になると被膜欠陥を含む確率が高くなるために単位面積当たりのリーク電流が高くなったり、短絡が起きたりしやすい。また印加電圧が高くなると被膜の薄い部分に過度の電圧がかかり短絡しやすくなる。
リーク電流を減少させるには、膜厚を厚くすることで対応することが行われるが、無機膜では厚膜化すると被膜欠陥が生じるので、単位面積当たりのリーク電流が低く保って厚膜化することは難しい。有機系の被膜は厚膜化しやすい傾向があるが、耐熱性が低く、耐熱性を高めると無機膜に近い組成となり、やはり厚膜化が難しい。そのため、従来、高耐熱性を保ちつつ、膜厚を厚くすることは困難であった。
そのため、従来、500℃以上、特に650℃以上の耐熱性を有し、しかも、3×3cmの面積に100Vの電圧を印加した時のリーク電流が10−5A/cm未満と低い太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔は得られていない。
本発明者らは鋭意研究開発の結果、第1層として金属酸化物被膜を所定の厚さに形成した後に第2層としてメチル基含有シリカ系被膜を所定の厚さで形成することにより、メチル基含有シリカ系被膜の被膜欠陥を低減し、被膜の亀裂等を起因としたリーク電流を低減し、3×3cmの面積に100Vの電圧を印加した時のリーク電流が10−5A/cm未満とし、かつ高耐熱性を500℃以上、特に650℃以上に保った膜を形成できることを見出した。
メチル基含有シリカ系被膜は、耐熱性及びリーク電流に優れる膜としては、ステンレスの理想的な平滑面上には、最大で2.0μm程度、好適には1.5μm程度までの膜厚で成膜できるが、圧延されたステンレス箔上に高さ1〜2μm前後を越える突起や付着異物が頻繁に見られ、さらには2〜3μmを超える突起や付着異物も見られる。このような突起や付着異物があると、その上に形成する絶縁膜が局所的に薄くなったりクラックを生じたりするためにリーク電流が大きくなる。しかしながら、メチル基含有シリカ系被膜を形成する前に、下地層として金属酸化物系被膜を薄く形成しておくと、図2に示すような形でステンレス箔上の突起などに由来するクラックが抑制され、金属酸化物系被膜及びメチル基含有シリカ系被膜は、高い耐熱性を保ったままでリーク電流値を広い単位面積において所望の値まで低下できることを見出した。
圧延されたステンレス箔上に存在する突起や付着異物は、大きいものも含まれているので、本発明のように、500℃以上、とくに650℃以上の高い耐熱性を保って金属酸化物膜とメチル基含有シリカ系被膜の組合せで、リーク電流値を3×3cmの単位面積において100Vの電圧を印加した時のリーク電流が10−5A/cm未満、さらには10−6A/cm未満、10−7A/cm未満まで低下できることは従来技術の知見からは予想外のことである。
さらに、本発明によれば、リーク電流値を10×10cmの単位面積においても、100Vの電圧を印加した時のリーク電流が10−5A/cm未満、10−6A/cm未満、10−7A/cm未満まで低下することも可能である。
(ステンレス箔)
ステンレス箔としては、オーステナイト系SUS304、SUS316、フェライト系SUS430、SUS444などを用いることができる。これらの入手可能なステンレス箔は圧延して製造されるので、箔上に突起や付着異物が存在する。
金属酸化物被膜をゾルゲル法やスパッタ法で成膜する場合は、金属酸化物被膜との熱膨張係数差が小さい方がよいのでフェライト系の方が望ましい。
(金属酸化物被膜)
本発明の第1層は、金属酸化物被膜を用いる。
金属酸化物系被膜としては、Al、SiO、ZrO、TiO、Nb、MgO、V、Ta、Crなどが挙げられる。これらの金属酸化物は少なくとも650℃より低温ではプロセス上問題になるような重量変化(実施例で定義しているように1%以下)が観測されないので、メチル基含有シリカ膜の形成プロセスに悪影響を及ぼすことがない上、太陽電池などのデバイス形成プロセス温度に晒されても問題がない。
金属酸化物は金属であるステンレス箔に比べると熱膨張係数が小さく、例えばアルミナでは7.5×10−6/℃、シリカでは0.5×10−6/℃程度である。このため、金属酸化物被膜をクラックなしに形成することができる膜厚は極めて薄く、0.1〜0.2μm程度である。基板に突起があるとその部分は厚くなるが、図5に示すようにクラックが発生しうる。図5は、メチル基含有シリカ系被膜を形成したステンレス箔の表面の顕微鏡写真であるが、ステンレス表面の数μm以下の大きさの突起や異物がメチル基含有シリカ系被膜の上まで存在するとともに、突起や異物を起点として被膜に割れ(クラック)が見られる。
しかしながら、金属酸化物被膜のクラックの凹みは、第2層のメチル基含有シリカ系被膜を形成する時に塗布液が侵入して埋めることができる。また、突起や異物の部分は金属酸化物被膜の上に残るが、突起や異物の高さが軽減される。さらに、理由は明らかでないが、驚くべきことに、突起や異物の高さと第1層及び第2層の膜厚からは予想外に、本発明によれば、リーク電流が広い単位面積においてCIGS太陽電池に求められる所望のリーク電流値まで抑制できることが見出された。
理由は明らかでないが、第1層及び第2層によってクラックの発生が防止される突起や異物が意外の多いのではないかということと、突起や異物のある箇所では第1層及び第2層が盛り上がることでより大きいものに対しても有効であることが考えられる。
金属酸化物被膜の膜厚は厚いほどよいが、厚すぎると金属酸化物被膜自体にクラックが多数発生して、膜剥がれが起きるので一般的には0.1〜0.2μm程度にすることが望ましい。金属酸化物被膜の中では熱膨張係数が10.5×10-6/℃とフェライト系ステンレス鋼に近く靭性が高いジルコニアがクラックなしで0.3〜0.4μmの膜厚まで被膜形成しやすいので特に望ましい。
金属酸化物被膜の形成方法としては、ゾルゲル法、スパッタ法などが挙げられる。例えばゾルゲル法の場合、ジルコニア膜はジルコニウムアルコキシドを原料とし、有機溶媒中で加水分解したゾルをステンレス鋼の上に塗布する。加水分解には塩酸・酢酸などの酸触媒を用いてもよい。塗布方法はスピンコート、ディップコート、ロールコートなどが挙げられる。塗布はステンレス箔の両面に行っても片面のみでもよい。塗布後、70〜150℃で乾燥し、300〜600℃で熱処理を行う。乾燥・熱処理の雰囲気は大気でも不活性ガス雰囲気でもよい。ジルコニウムアルコキシドとしてはジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシドなどが挙げられる。また、ジルコニウムアルコキシドを加水分解する際に、イットリウム、マグネシウムまたはカルシウムの金属アルコキシドを同時に加水分解してそれぞれZrO−Y、ZrO−MgO、またはZrO−CaOの固溶体を作製してもよい。このとき、Zr+Yに対するYのモル比、Zr+Mgに対するMgのモル比、Zr+Caに対するCaのモル比はいずれも1〜20%であることが望ましい。Y、Mg、Caの添加により、ジルコニアの相転移に伴う体積変化が抑制されるため厚膜を形成してもクラックが入りにくくなることが期待できるからである。
アルミナ膜、チタニア膜、シリカ膜などについても同様に、それぞれアルミニウムアルコキシド、チタニウムアルコキシド、シリコンアルコキシドを用いて作製することができる。スパッタ法の場合は、成膜したい金属酸化物のターゲットを用いて金属酸化物被膜を作製することができる。
金属酸化物被膜については、ステンレス鋼を高温で熱酸化させて表面に金属酸化物の被膜を形成することもできる。高温熱酸化で金属酸化物の被膜を形成する場合は、ステンレス鋼中にAlやSiを比較的高濃度で含んでいる材料を用いると表面にアルミナやシリカの被膜ができやすい。具体的には、アルミナ被膜を形成するにはアルミニウムを鋼中に5%程度含んでいるYUS205M1、シリカ被膜を形成するにはシリコンを鋼中に2.5%程度含んでいるNSSCFH11を用いることができる。熱酸化は大気中でも不活性ガス雰囲気中でもよいが、絶縁性の低い酸化鉄の生成を抑制するには酸素を含まない不活性ガス雰囲気中の方が望ましい。不活性ガスは水中でバブリングするなどして露点を挙げてもよい。熱酸化温度は500℃以上が望ましい。予め熱酸化したステンレス鋼の上に第2層を成膜してもよいが、YUS205M1の上にメチル系シリカ膜を直接塗布し、メチル系シリカ膜の熱処理中に、メチル系シリカ膜の脱水縮合反応を進ませつつ、ステンレス鋼YUS205M1からはアルミナを表層に析出させるというように第1層の金属酸化物被膜と第2層のメチル系シリカ膜を同時に形成してもよい。
(メチル基含有シリカ系被膜)
本発明の第2層は、メチル基含有シリカ系被膜を用いる。
メチル基含有シリカ系被膜とは、メチル基で修飾されたシロキサン骨格で形成される被膜であり、
(SiO-(CHSiO3/2(1−x) 0<x<1.0
で表すことができる。
昇温脱離スペクトルによると脱ガス開始温度はxの範囲によらず600℃以上である。熱重量分析による500℃における被膜の重量減少率から100℃における重量減少率を引いた値はxによらず1%未満であり、CIGS太陽電池の作製プロセスに耐えられる耐熱性を有している。xは大きいほど膜の中のメチル基の量が多くなるため被膜が柔軟化され、クラックなく成膜することができる厚膜化限界を厚くできるが、耐熱性が低下する傾向がある。xの好適な範囲は0.2≦x≦0.8、さらには0.4≦x≦0.6である。
メチル基含有シリカ系被膜はゾルゲル法により作製することができる。作製方法について説明する。テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランから選ばれる少なくとも1種以上のシランと、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシチタン、メチルトリブトキシシランから選ばれる少なくとも1種以上のシランを有機溶媒中で混合し加水分解する。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、MEK、MIBKなどをそれぞれ単独、或いは混合して用いることができる。加水分解に使う水は全アルコキシ基に対して0.3モル〜3モル倍であることが望ましい。加水分解時には、シリコン以外の金属アルコキシド触媒、有機酸、無機酸を用いてもよい。作製した塗布液を第1層の金属酸化物で被覆されたステンレス箔上に塗布するには、スピンコート、ディップコート、ロールコートなどの方法がある。塗布後、80〜150℃程度で0.5〜5分乾燥後、400〜600℃で窒素中0.5〜10時間熱処理をすることでメチル基含有シリカ系被膜を得ることができる。
メチル基含有シリカ系被膜の好ましい膜厚は、2.0μm以下であり、さらに好ましく歯1.8μm以下である。この膜厚が厚くなると、膜にクラックが発生してリーク電流が不所望に高くなる恐れがある。膜厚の好ましい下限は0.5μmであり、より好ましくは0.9μm、さらに1.2μmである。膜厚が薄いとリーク電流が低くなる。
(太陽電池)
本発明の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔は、CGIS太陽電池用に好適に使用することができる。
CIGS太陽電池の構造及び製造方法は公知である。図6に典型的な構造の例を示す。図6において、41は基板、42はMo等の裏面電極、43はCuIGeSe光吸収層、44はCdSバッファ層、45はZnO半絶縁層、46はZnO:Al窓層、47はAl電極、48はMgF反射防止膜である。膜厚の例は、裏面電極42から窓層順46まで順に、0.8μm、1.7μm、50nm、0.1μm、0.6μmである。
(リーク電流の測定)
リーク電流は第1層及び第2層を形成した膜付きステンレス箔に3×3cmの金製上部電極を形成し100Vを印加して測定した。図4の測定装置の例を示すが、1はステンレス箔、2は絶縁被膜、3は上部電極、4は電圧計、5は電流計、6は電源である。
(耐熱性の評価)
熱重量分析を用い、所定の加熱温度における被膜の重量減少率から100℃における重量減少率を引いた値が1%以下である場合に当該温度において耐熱性があると評価する。 650℃における被膜の重量減少率から100℃における重量減少率を引いた値が1%以下である場合に少なくとも650℃の耐熱性があると評価した。
(ステンレス箔)
SUS430:Crを16〜18%含む鉄からなるステンレス鋼
YUS205M1:アルミニウムをステンレス鋼中に5%程度含んでいる
NSSCFH11:シリコンをステンレス鋼中に2.5%程度含んでいる
NSSC190SB:NSSC190は新日鉄住金ステンレスの独自鋼種でSUS444とほぼ同じであり、SBはスーパーブライト仕上げで新日鉄マテリアルズの独自仕上げを意味する。
(本発明例1〜15)
本発明例1〜10で用いたステンレス箔は、NSSC190SBであった。
本発明例の第1層の形成方法について述べる。
本発明例1〜3はブタノール10モル中でアルミニウムブトキシド1モルをアセト酢酸エチル2モルと混ぜ、2モルの水で加水分解させたゾルを1000rpmでスピンコート後、大気中550℃で30分焼成したゾルゲル法によるアルミナ膜を用いた。得られた膜厚は100nmであった。
本発明例4はエタノール15モル中でテトラエトキシシラン1モルを塩酸触媒下で3モルの水で加水分解したゾルを1500rpmでスピンコート後、大気中600℃で30分焼成したゾルゲル法によるシリカ膜を用いた。得られた膜厚は70nmであった。
本発明例5〜7はブタノール10モル中でジルコニウムブトキシド1モルをアセト酢酸エチル2モルと混ぜ、4モルの水で加水分解させたゾルを800rpmでスピンコート後、大気中600℃で30分焼成したゾルゲル法によるジルコニア膜を用いた。得られた膜厚は250nmであった。
本発明例8〜10はマグネトロンスパッタにより、それぞれアルミナ、シリカ、ジルコニアをターゲットとして100nm、100nm、200nmの膜を形成した。
本発明例11はYUS205M1を室温でバブリングした窒素ガスを流しながら700℃で5時間熱処理した。本発明例12はNSSC FH11を室温でバブリングした窒素ガスを流しながら700℃で5時間熱処理した。
本発明例13はSUS430を室温でバブリングした窒素ガスを流しながら700℃で5時間熱処理した。
本発明例14と15はそれぞれYUS205M1,NSSC FH11を大気中で700℃5時間の熱処理をした。
本発明例の第2層としてはメチル基含有シリカ膜(SiO-(CHSiO3/2(1−x) においてxを0.05、0.5、0.9と変えた3種類の膜を作製した。いずれも2−エトキシエタノール溶媒中で、テトラメトキシシランxモルに対してメチルトリエトキシシランを(1-x)モルの比で混合し、酢酸触媒下で全アルコキシ基に対して等モルの水で加水分解してゾルを作製した。
スピンコーターで回転数を変えながらクラックが発生しないで成膜できる限界膜厚を調べ、x=0.05のときは1.8μm、x=0.5のときは1.1μm、x=0.9のときは0.9μmで成膜した。塗布後150℃で1分乾燥し、窒素中480℃で30分の熱処理を行った。
本発明例1〜15を評価した結果を表1に示した。本発明例5と11については、上部電極面積5cm角となるように金をイオンコーターで成膜しリーク電流を測定したところ、それぞれ2×10-8、70×10-8A/cm2であり大面積化しても低リーク電流が保たれることを確認した。
本発明例1〜15について評価した結果を表1に示す。特性として良好であった。
(比較例)
比較例の評価結果については表2に示した。
比較例1は第1層にメチル基含有シリカ系被膜のみを形成した場合で、ステンレス箔上の突起によるクラック発生のために短絡したので、特性として不良(×)と判断した。
比較例2はエタノール中で平均分子量3000のポリジメチルシロキサン0.25モルを1モルのチタニウムエトキシドと2モルのアセト酢酸エチルと混ぜ合わせたところに、2モルの水を加えて作製したゾルを1000rpmでスピンコートし、350℃窒素中で30分熱処理をして作製した。ポリジメチルシロキサン(PDMS)系被膜は300〜400℃で熱分解するため、第2層の熱処理中に被膜が剥離したので、特性として不良(×)と判断した。
比較例3はフェニルトリエトキシシランをエタノール中で酢酸触媒を用いて加水分解したゾルを1000rpmでスピンコート後、400℃で30分窒素中において熱処理した。この膜は400℃付近からフェニル基の分解などが生じるため、第2層の熱処理中に被膜が剥離したので、特性として不良(×)と判断した。
比較例4〜5はメチル基含有シリカを重ね塗りした例である。比較例4のように1層目を厚塗りした場合は顕著な膜剥離が生じた。比較例5では1層目を薄くしたが、第2層形成中に皮膜にクラックが発生した。第1層に含まれるメチル基が第2層を形成するための熱処理中に一部熱分解しているためではないかと推定される。
比較例6ではメチル基含有シリカを単層で厚塗りしたがクラックが発生した。
比較例7〜8は、金属酸化物膜としてシリカ膜の膜厚を厚くした例である。比較例7に見られるように、金属酸化物膜の単独膜の膜厚を厚くすると、クラックが発生し、リーク電流測定において短絡が生じた。比較例8では、厚い金属酸化物膜の上にメチル基含有シリカを重ね塗りしたが、短絡が生じ、リーク電流を低減することはできなかった。
1 ステンレス箔
2 被膜
3 電極
4 電圧計
5 電流計
6 電源
21 第1層被膜
22 第2層被膜
31 金属酸化物被膜
32 メチル基含有シリカ系被膜
33 亀裂

Claims (9)

  1. 基材であるステンレス箔に第1層、第2層の順に形成された絶縁被膜を有する太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔であって、
    前記第1層は前記第2層よりも耐熱性が高く、
    前記第1層が金属酸化物被膜であり、前記金属酸化物被膜の厚さが、ZrOの場合には0.1〜0.4μm、その他の金属酸化物被膜の場合には0.1〜0.2μmであり、
    前記第2層がメチル基含有シリカ系被膜であり、前記メチル基含有シリカ系被膜の厚さが0.5〜2.0μmであり、
    前記絶縁被膜の100℃加熱時に対する500℃加熱時における重量減少率が1.0%未満であり、
    前記絶縁膜付きステンレス箔の3×3cmの面積に100Vの電圧を印加した時のリーク電流が10−5A/cm未満であることを特徴とする太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔。
  2. 前記金属酸化物被膜がAl、SiO、ZrO、TiO、Nb、MgO、V、Ta、Crから構成されること特徴とする請求項1に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔。
  3. 前記メチル基含有シリカ系被膜が
    (SiO-(CHSiO3/2(1−x) 0<x<1.0
    で表現できる物質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔。
  4. 前記xの範囲が0.2≦x≦0.8であることを特徴とする請求項3に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔。
  5. 前記絶縁被膜の100℃加熱時に対する650℃加熱時における重量減少率が1.0%未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔。
  6. 太陽電池がCIGS太陽電池用であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔。
  7. 基材であるステンレス箔に第1層、第2層の順に形成し、
    前記第1層は前記第2層よりも耐熱性が高く、
    前記第1層が金属酸化物被膜であり、前記金属酸化物被膜の厚さが、ZrOの場合には0.1〜0.4μm、その他の金属酸化物被膜の場合には0.1〜0.2μmであり、 前記第2層がメチル基含有シリカ系被膜であり、前記メチル基含有シリカ系被膜が0.5〜2.0μmの厚さであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔の製造方法。
  8. 前記絶縁被膜の100℃加熱時に対する650℃加熱時における重量減少率が1.0%未満であることを特徴とする請求項7に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔の製造方法。
  9. 太陽電池がCIGS太陽電池用であることを特徴とする請求項7又は8に記載の太陽電池用絶縁被膜付きステンレス箔の製造方法。
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