本発明の樹脂/金属積層体は、450℃以上の熱処理を必要とする用途に用いられるものであり、従って、この高温の熱処理に耐えられる樹脂フィルム、すなわち450℃以上の高温で熱処理しても分解・劣化しないか、若しくは分解・劣化の少ない樹脂フィルムを使用する必要がある。
このような450℃以上の熱処理に耐えられる樹脂フィルムとしては、ポリイミドフィルム、アラミドフィルムが挙げられ、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とから得られるポリイミドフィルム、特に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸成分と、パラフェニレンジアミンを主成分とする芳香族ジアミン成分とから得られるポリイミドフィルムが好適に用いられる。また、特開2007−317834号公報に記載されている芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸無水物類とを重縮合してなるポリイミドフィルム、特にベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸無水物類とを重縮合してなるポリイミドベンゾオキサゾールフィルムも好適に用いることができる。樹脂フィルムは架橋されていてもよい。
特にCIS系太陽電池に用いる場合、好ましくは500℃以上の高温で熱処理する必要があるため、500℃以上の高温で熱処理しても分解・劣化しないか、若しくは分解・劣化の少ない樹脂フィルムを使用することが好ましい。
また、用いる樹脂フィルム、好ましくはポリイミドフィルムは、25℃から500℃までの寸法変化率、好ましくはMD方向の寸法変化率およびTD方向の寸法変化率の最大値と最小値が、初期の25℃での寸法を基準にして、−0.3%〜+0.6%、さらに−0.2%〜+0.6%、特に0%〜+0.6%の範囲内であることが好ましい。
ここで、25℃から500℃までの寸法変化率とは、測定対象の樹脂フィルムについて、熱機械的分析装置(TMA)により、下記の条件で、25℃から500℃の昇温過程とそれに続く500℃から25℃の降温過程の各温度において、MD方向(連続製膜方向;フィルムの長手方向)およびTD方向(MD方向に垂直な方向;フィルムの幅方向)の初期値(昇温前の25℃での寸法)に対する寸法変化率を測定し、その最大値と最小値を求めたものである。
測定モード:引張モード、荷重2g、
試料長さ:15mm、
試料幅:4mm、
昇温開始温度:25℃、
昇温終了温度:500℃(500℃での保持時間はなし)、
降温終了温度:25℃、
昇温および降温速度:20℃/min、
測定雰囲気:窒素。
つまり、25℃から500℃までの寸法変化率が−0.3%〜+0.6%の範囲内であるとは、25℃から500℃までの昇温時および500℃から25℃までの降温時において、MD方向の寸法変化率およびTD方向の寸法変化率が常に−0.3%〜+0.6%の範囲内にあるということである。
なお、寸法変化率は、下記式(1)で定義されるものである。
ただし、寸法変化率の最大値(%)は、昇温過程と降温過程において得られる最大寸法を式(1)のLとし、寸法変化率の最小値(%)は、降温過程において得られる最小寸法を式(1)のLとして求めることができる。
寸法変化率(%)=(L−L0)/L0×100 (1)
(ただし、Lは測定温度での長さ、L0は昇温前の25℃での長さである。)
25℃から500℃への昇温過程においても、それに続く降温過程においても、その寸法変化率が、MDおよびTDともに、初期(昇温前)の25℃での寸法を基準にして−0.3%〜+0.6%の範囲内である樹脂フィルムを基板として使用することにより、電極となる金属層や、その上に形成される半導体層のクラックの発生、基板からの剥離を防止することができ、よって変換効率が高い高品質のCIS系太陽電池を製造することができる。
また、CIS系太陽電池に用いる場合、用いる樹脂フィルム、好ましくはポリイミドフィルムは、耐熱性の点から、500℃、20分間熱処理後の重量減少率が1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。
ここで、500℃で20分間熱処理後の重量減少率は、測定対象の樹脂フィルムについて、室温から500℃まで50℃/分で昇温し、500℃になった時点と、それから500℃で20分間保持した後の樹脂フィルムの重量を測定して、下記式(2)から求めたものである。
重量減少率(%)=(W0−W)/W0×100 (2)
(ただし、W0は500℃昇温直後の重量、Wは500℃で20分間保持後の重量である。)
水分や残留溶媒などの揮発成分は500℃になる前に揮発するので、この重量減少率は樹脂フィルムの分解・熱劣化の指標となり、値が大きいほど劣化が大きいことを示している。
このような500℃以上の高温の熱処理においても高い寸法安定性を有する樹脂フィルムは、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを重合して得られたポリイミドフィルムを、実質的に応力がかからない状態で500℃以上、好ましくは500℃以上550℃以下、より好ましくは500℃以上540℃以下で、さらに好ましくは500℃以上530℃以下で、特に好ましくは500℃以上520℃以下で、好ましくは30秒〜10分間、より好ましくは1分〜5分間熱処理することによって得ることができる。
使用するポリイミドフィルムは、特に限定されるものではないが、500℃以上の高温で熱処理しても分解・劣化しないか、若しくは極めて分解・劣化の少ない、高い耐熱性を有するものであり、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとを主成分として得られるポリイミドフィルムが挙げられる。
また、CIS系太陽電池に用いる場合、基板となる樹脂フィルムの線膨張係数が電極となる金属層(通常、Mo層又はW層)の線膨張係数や、カルコパイライト構造半導体層の線膨張係数と大きく異なると、電極となる金属層や半導体層にクラックが発生したり、基板から電極となる金属層や半導体層が剥離したりしやすくなる。従って、CIS系太陽電池の基板として使用する樹脂フィルムは、25〜500℃の線膨張係数がMDおよびTDともに1〜10ppm/℃であることが好ましい。
ここで、25〜500℃の線膨張係数は、上記の25℃から500℃までの寸法変化率の測定における昇温過程でのMD方向およびTD方向の寸法変化から、下記式(3)によって求めた平均線膨張係数である。
線膨張係数(ppm/℃)=(L−L0)/{L0×(T−T0)}×106 (3)
(ただし、Lは500℃での長さ、L0は昇温前の25℃での長さ、Tは500℃、T0は25℃である。)
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとを主成分として化学イミド化によってポリイミドを製造することで、500℃以上の高温で熱処理しても分解・劣化しないか、若しくは極めて分解・劣化の少ない、高い耐熱性を有すると共に、線膨張係数が上記の範囲内であるポリイミドを得ることができる。また、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとを主成分として得られるポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムを延伸した後、あるいは延伸しながら熱イミド化してポリイミドを製造しても、上記の範囲の線膨張係数を有するポリイミドフィルムを得ることができる。
なお、上記の寸法変化率および重量減少率の測定において、温度はいずれも、ポリイミドフィルム表面の温度を測定したものである。
さらに、CIS系太陽電池の基板として使用するポリイミドフィルムは、引張破断強度が300MPa以上であることが好ましい。
ポリイミドフィルムは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させてポリイミド前駆体(ポリアミック酸)を合成し、得られたポリイミド前駆体の溶液を支持体上に流延塗布し、加熱してポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムを製造し、この自己支持性フィルムをイミド化することによって製造することができる。イミド化は、熱イミド化で行っても、化学イミド化で行ってもよい。
ポリイミドフィルムは、例えば次のようにして、熱イミド化によって製造することができる。
まず、ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムを製造する。ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムは、ポリイミドを与えるポリイミド前駆体の有機溶媒溶液に必要であればイミド化触媒、有機リン化合物や無機微粒子を加えた後、支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度(通常のキュア工程前の段階を意味する)にまで加熱して製造される。
ポリイミド前駆体としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとから製造されるものが好ましい。
中でも、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下単にs−BPDAと略記することもある。)を主成分とする芳香族テトラカルボン酸成分と、パラフェニレンジアミン(以下単にPPDと略記することもある。)を主成分とする芳香族ジアミン成分とから製造されるポリイミド前駆体が好ましい。具体的には、s−BPDAを75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含む芳香族テトラカルボン酸成分が好ましく、PPDを75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含む芳香族ジアミン成分が好ましい。
さらに、本発明の特性を損なわない範囲で、他のテトラカルボン酸およびジアミンを用いることもできる。
本発明において3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と併用が可能な芳香族テトラカルボン酸成分としては、ピロメリット酸二無水物、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エ−テル二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物などが挙げられる。また、パラフェニレンジアミンと併用可能な芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどが挙げられ、特にベンゼン核が1個または2個有するジアミンが好ましい。
ポリイミド前駆体の合成は、有機溶媒中で、略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとをランダム重合またはブロック重合することによって達成される。また、予めどちらかの成分が過剰である2種類以上のポリイミド前駆体を合成しておき、各ポリイミド前駆体溶液を一緒にした後反応条件下で混合してもよい。このようにして得られたポリイミド前駆体溶液はそのまま、あるいは必要であれば溶媒を除去または加えて、自己支持性フィルムの製造に使用することができる。
ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリイミド前駆体溶液には、必要に応じてイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えてもよい。
イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、5−メチルベンズイミダゾールなどの低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどのベンズイミダゾール、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジンなどの置換ピリジンなどを好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ポリアミド酸のアミド酸単位に対して0.01−2倍当量、特に0.02−1倍当量程度であることが好ましい。イミド化触媒を使用することによって、得られるポリイミドフィルムの物性、特に伸びや端裂抵抗が向上することがある。
有機リン含有化合物としては、例えば、モノカプロイルリン酸エステル、モノオクチルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、モノミリスチルリン酸エステル、モノセチルリン酸エステル、モノステアリルリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのモノリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのモノリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのモノリン酸エステル、ジカプロイルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、ジカプリルリン酸エステル、ジラウリルリン酸エステル、ジミリスチルリン酸エステル、ジセチルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのジリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのジリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのジリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのジリン酸エステル等のリン酸エステルや、これらリン酸エステルのアミン塩が挙げられる。アミンとしてはアンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
無機微粒子としては、微粒子状の二酸化チタン粉末、二酸化ケイ素(シリカ)粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化アルミニウム(アルミナ)粉末、酸化亜鉛粉末などの無機酸化物粉末、微粒子状の窒化ケイ素粉末、窒化チタン粉末などの無機窒化物粉末、炭化ケイ素粉末などの無機炭化物粉末、および微粒子状の炭酸カルシウム粉末、硫酸カルシウム粉末、硫酸バリウム粉末などの無機塩粉末を挙げることができる。これらの無機微粒子は二種以上を組合せて使用してもよい。これらの無機微粒子を均一に分散させるために、それ自体公知の手段を適用することができる。
ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムは、上記のようなポリイミド前駆体の有機溶媒溶液、あるいはこれにイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えたポリイミド前駆体溶液組成物を支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度(通常のキュア工程前の段階を意味する)、例えば支持体上より剥離することができる程度に加熱して製造される。
ポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体を10〜30質量%程度含むものが好ましい。また、ポリイミド前駆体溶液としては、ポリマー濃度が8〜25質量%程度であるものが好ましい。
このときの加熱温度および加熱時間は適宜決めることができ、例えば、温度100〜180℃で3〜60分間程度加熱すればよい。
支持体としては、平滑な基材を用いることが好ましく、例えばステンレス基板、ステンレスベルトなどが使用される。連続生産するためには、エンドレスベルトなどのエンドレスな基材が好ましい。
自己支持性フィルムは、その加熱減量が20〜50質量%の範囲にあること、さらに加熱減量が20〜50質量%の範囲で且つイミド化率が8〜55%の範囲にあることが、自己支持性フィルムの力学的性質が十分となり、好ましい。また、自己支持性フィルムの上面にカップリング剤の溶液を塗工する場合には、カップリング剤溶液をきれいに塗布しやすくなり、イミド化後に得られるポリイミドフィルムに発泡、亀裂、クレーズ、クラック、ひびワレなどの発生が観察されないために好ましい。
なお、上記の自己支持性フィルムの加熱減量とは、自己支持性フィルムの質量W1とキュア後のフィルムの質量W2とから次式によって求めた値である。
加熱減量(質量%)={(W1−W2)/W1}×100
また、上記の自己支持性フィルムのイミド化率は、IR(ATR)で測定し、フィルムとフルキュア品との振動帯ピーク面積または高さの比を利用して、イミド化率を算出することができる。振動帯ピークとしては、イミドカルボニル基の対称伸縮振動帯やベンゼン環骨格伸縮振動帯などを利用する。またイミド化率測定に関し、特開平9−316199号公報に記載のカールフィッシャー水分計を用いる手法もある。
本発明においては、このようにして得られた自己支持性フィルムの片面または両面に、必要に応じて、カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の溶液を塗布してもよい。
表面処理剤としては、シランカップリング剤、ボランカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、アルミニウム系キレート剤、チタネート系カップリング剤、鉄カップリング剤、銅カップリング剤などの各種カップリング剤やキレート剤などの接着性や密着性を向上させる処理剤を挙げることができる。特に表面処理剤としては、シランカップリング剤などのカップリング剤を用いる場合に優れた効果が得られる。
シラン系カップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン系、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン系、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が例示される。また、チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート等が挙げられる。
カップリング剤としてはシラン系カップリング剤、特にγ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−(アミノカルボニル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−[β−(フェニルアミノ)−エチル]−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシランカップリング剤が好適で、その中でも特にN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。
カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の溶液の溶媒としては、ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒(自己支持性フィルムに含有されている溶媒)と同じものを挙げることができる。有機溶媒は2種以上の混合物であってもよい。
カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の有機溶媒溶液は、表面処理剤の含有量が0.5質量%以上、より好ましくは1〜100質量%、特に好ましくは3〜60質量%、さらに好ましくは5〜55質量%であるものが好ましい。また、水分の含有量は20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下であることが好ましい。表面処理剤の有機溶媒溶液の回転粘度(測定温度25℃で回転粘度計によって測定した溶液粘度)は0.8〜50000センチポイズであることが好ましい。
表面処理剤の有機溶媒溶液としては、特に、表面処理剤が0.5質量%以上、特に好ましくは1〜60質量%、さらに好ましくは3〜55質量%の濃度でアミド系溶媒に均一に溶解している、低粘度(特に、回転粘度0.8〜5000センチポイズ)のものが好ましい。
表面処理剤溶液の塗布量は適宜決めることができ、例えば、1〜50g/m2が好ましく、2〜30g/m2がさらに好ましく、3〜20g/m2が特に好ましい。塗布量は、両方の面が同じであってもよいし、異なっていてもよい。
表面処理剤溶液の塗布は、公知の方法を用いることができ、例えば、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などの公知の塗布方法を挙げることができる。
本発明においては、次いで、必要に応じて表面処理剤溶液を塗布した自己支持性フィルムを加熱・イミド化してポリイミドフィルムを得る。
加熱処理は、最初に約100〜400℃の温度においてポリマーのイミド化および溶媒の蒸発・除去を約0.05〜5時間、特に0.1〜3時間で徐々に行うことが適当である。特に、この加熱処理は段階的に、約100〜170℃の比較的低い温度で約0.5〜30分間第一次加熱処理し、次いで170〜220℃の温度で約0.5〜30分間第二次加熱処理して、その後、220〜400℃の高温で約0.5〜30分間第三次加熱処理することが好ましい。必要であれば、400〜550℃の高い温度で第四次高温加熱処理してもよい。
また、キュア炉中においては、ピンテンタ、クリップ、枠などで、少なくとも長尺の固化フィルムの長手方向に直角の方向、すなわちフィルムの幅方向の両端縁を固定し、必要に応じて幅方向に拡縮して加熱処理を行うことが好ましい。
本発明では、CIS系太陽電池に用いる場合、上記のような熱イミド化においては、必要に応じて、イミド化する前、またはイミド化時に、自己支持性フィルムをフィルムの長手方向および幅方向に延伸して、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数(25〜500℃)を1〜10ppm/℃の範囲に制御する。延伸倍率は特に限定されず、所望の線膨張係数が得られるように適宜選択すればよい。延伸は、逐次二軸延伸または同時二軸延伸のいずれで行ってもよく、また、所定の線膨張係数が得られるのであれば、フィルムの長手方向または幅方向に一軸延伸してもよい。
本発明においては、ポリイミドフィルムを、化学イミド化、または熱イミド化と化学イミド化とを併用した方法で製造することもできる。化学イミド化によってポリイミドフィルムを製造する場合、フィルムを延伸しなくても線膨張係数が比較的低いポリイミドフィルムを得ることができる。
化学イミド化は公知の方法に従って行えばよい。例えば、熱イミド化の場合と同様にしてポリイミド前駆体を合成して、ポリイミド前駆体溶液であるポリアミック酸溶液を調製し、これに脱水剤および触媒を加える。必要に応じて、熱イミド化で記載したような無機微粒子などをポリアミック酸溶液に加えてもよい。そして、この溶液を適当な支持体(例えば、金属ベルトなど)上に流延塗布して膜状物に形成し、この膜状物を熱風、赤外線等の熱源を利用して、200℃以下の温度、好ましくは40〜200℃の温度で自己支持性となる程度にまで加熱することによって自己支持性フィルム(ゲル化フィルムとも言う。)を製造する。そして、得られたゲル化フィルムを300℃以上、好ましくは300〜500℃の温度で熱処理・イミド化してポリイミドフィルムを得ることができる。この加熱処理は段階的に行うこともできる。
脱水剤としては、有機酸無水物、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、脂環式酸無水物、複素環式酸無水物、またはそれらの二種以上の混合物が挙げられる。この有機酸無水物の具体例としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、ギ酸無水物、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、安息香酸無水物、無水ピコリン酸等が挙げられ、無水酢酸が好ましい。
触媒としては、有機第三級アミン、例えば、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン、またはそれらの二種以上の混合物が挙げられる。この有機第三級アミンの具体例としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン、ピリジン、β−ピコリン、イソキノリン、キノリン等が挙げられ、イソキノリンが好ましい。
脱水剤の使用量は、溶液中の芳香族ポリアミック酸のアミック酸結合1モルに対して0.5モル以上であることが好ましい。触媒の使用量は、溶液中の芳香族ポリアミック酸のアミック酸結合1モルに対して0.1モル以上であることが好ましい。
化学イミド化の場合も、熱イミド化の場合と同様に、必要に応じて、イミド化する前に自己支持性フィルムの片面または両面に、カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の溶液を塗布してもよい。
得られるポリイミドフィルムの線膨張係数(25〜500℃)を1〜10ppm/℃の範囲に制御するために、必要に応じて熱イミド化の場合と同じ方法で延伸を行うこともできる。
本発明においては、このようにして得られたポリイミドフィルムを、実質的に応力がかからない状態で、500℃以上で加熱処理することが好ましい。これにより、例えば500℃以上の高温の熱処理における寸法変化率、特に降温時のフィルムの収縮が小さいポリイミドフィルムを得ることができる。この熱処理は、500℃以上550℃以下、より好ましくは500℃以上540℃以下、さらに好ましくは500℃以上530℃以下、特に好ましくは500℃以上520℃以下で30秒〜10分間、より好ましくは1分〜5分間行うことが好ましい。
実質的に応力がかからない状態とは、外力(張力)が加えられていない状態、例えば、ポリイミドフィルムの少なくとも片端が固定されていない状態、好ましくはポリイミドフィルムの両端が固定されていない状態である。
この熱処理は、イミド化のための加熱処理に続けて行ってもよいし、イミド化後に得られたポリイミドフィルムを冷却した後、再度加熱してもよい。
なお、熱処理後の冷却も、実質的に応力がかからない状態で行うことが好ましい。
このように実質的に応力がかからない状態で500℃以上に加熱することによって、好ましくは加熱温度と加熱時間とを選択して、実質的に応力がかからない状態で500℃以上に加熱することによって、25℃から500℃までの寸法変化率が、初期の25℃での寸法を基準にして、−0.3%〜+0.6%の範囲内であり、さらに、500℃で20分間の熱処理後の重量減少率が1質量%以下であり、25〜500℃の線膨張係数が1〜10ppm/℃であるポリイミドフィルムを得ることができる。そして、このポリイミドフィルムを基板として用いることにより、変換効率が高いCIS系太陽電池を得ることができる。
このようにして得られるポリイミドフィルムは接着性、スパッタリング性や金属蒸着性が良好であり、スパッタリングや金属蒸着などのメタライジング法により金属層(合金も含む)を設けることにより、密着性に優れ、十分な剥離強度を有する金属積層ポリイミドフィルムを得ることができる。
本発明の樹脂/金属積層体は、樹脂フィルム、好ましくは上記のようなポリイミドフィルムの両面上に金属層を形成してなる積層体である。金属層は、樹脂フィルムに直接積層してもよく、必要に応じて他の層を介して積層してもよい。
樹脂フィルム、好ましくはポリイミドフィルムの厚みは適宜決められ、特に限定されないが、3〜250μm程度、好ましくは4〜150μm程度、より好ましくは5〜125μm程度、さらに好ましくは5〜100μm程度である。
金属層の積層は公知の方法に従って行うことができ、例えば、蒸着法、スパッタリング法などによって金属層を形成することができる。また、樹脂フィルムに接着剤を使用して金属箔を接着することによっても、樹脂/金属積層体を得ることができる。なお、製膜条件は、公知の方法に従って、適宜決めることができる。
金属層に用いる金属の種類は、使用する目的に応じて適宜選択でき、単一金属であっても、合金であってもよい。
本発明の樹脂/金属積層体は、樹脂フィルムの両面に金属層を有するものであるが、2つの金属層は、同一であっても、異なっていてもよい。通常、2つの金属層は同一であることが好ましい。
CIS系太陽電池の製造に使用する樹脂/金属積層体は、樹脂フィルム、好ましくはポリイミドフィルム上に電極となる金属層を形成してなる積層体である。CIS系太陽電池の電極となる金属層は、例えばモリブデン又はタングステンを含む層であり、より好ましくはモリブデンを含む層である。従って、CIS系太陽電池に用いる場合、本発明の積層体は、樹脂フィルムの片面上に、好ましくはモリブデン又はタングステンを含む層、さらに好ましくはモリブデンを含む層を有する。
また、この電極となる金属層の反対側の面上の金属層は、電極となる金属層と同一であることが好ましい。従って、CIS系太陽電池に用いる場合、本発明の積層体は、樹脂フィルムの両面上に、モリブデン又はタングステンを含む層、さらに好ましくはモリブデンを含む層を有することが好ましい。
なお、モリブデン又はタングステンを含む層も、スパッタリング法または蒸着法などにより形成することができる。
金属層の厚さは、使用する目的に応じて適宜選択することができる。CIS系太陽電池に用いる場合、金属層、好ましくはモリブデン又はタングステンを含む層の厚さは、好ましくは50nm〜500nm程度である。
また、金属層の層数も、使用する目的に応じて適宜選択でき、2層以上の多層であってもよい。金属層を2層以上設ける場合、金属層と金属層の間には、半導体層や他の層を設けてもよい。また、本発明の樹脂/金属積層体は、樹脂フィルムと金属層の間に他の層を有していてもよいし、金属層の上に、さらに他の層を形成してもよい。本発明の樹脂/金属積層体の構成は、使用する目的に応じて適宜決められ、特に限定されるものではない。
本発明の樹脂/金属積層体では、樹脂フィルムの表面または断面が露出する金属層の孔を1.8mm以下の間隔、好ましくは0.1mm〜1.8mmの間隔で形成する。孔の形状は特に限定されず、どのような形状でもよいが、円形、楕円形、三角形、四角形などの多角形が好ましい。孔が長方形の場合の一例として、ライン状に樹脂フィルムの表面または断面が露出する樹脂/金属積層体が挙げられる。
また、形成される金属層の孔の大きさも特に限定されず、適宜選択することができるが、非常に小さな孔でよい。金属層の孔の径は0.1mm以下が好ましく、30μm〜0.1mmがより好ましい。形成される金属層の孔の形状および大きさは全て同じでなくてもよく、異なる形状および大きさの孔が形成されていてもよい。ただし、ここで言う孔の径とは、孔が円形の場合は直径、孔が楕円形の場合は長径、孔が多角形の場合は外接円の直径のことを言う。
図1〜図4を用いて、本発明の樹脂/金属積層体について説明する。図1〜図4において、11は樹脂フィルム、12a及び12bは金属層、20及び20a〜20cは金属層の孔であり、Aは孔と隣接する孔との間の間隔(孔間距離)を示す。
図1は本発明の樹脂/金属積層体の一例の断面図であり、図2はその平面図である。
図1〜図2に示す樹脂/金属積層体は、樹脂フィルム11の両面上に金属層12a,12bを有している。そして、樹脂フィルムの表面または断面が露出する金属層の孔として、積層体を貫通する貫通孔20が形成されている。
本発明において、孔と隣接する孔との間の間隔(孔間距離)Aは1.8mm以下であり、1.7mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましい。また、孔間距離Aは0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上が特に好ましい。
図3は本発明の樹脂/金属積層体の他の一例の平面図である。図3に示す樹脂/金属積層体は、金属層の孔20の形成位置が図1〜図2に示す樹脂/金属積層体と異なっている。この場合、孔と隣接する孔との間の間隔(孔間距離)Aは図3に示すようになり、この距離が1.8mm以下である。
図1〜図2に示す樹脂/金属積層体および図3に示す樹脂/金属積層体では金属層の孔(貫通孔)20は規則的に形成されているが、全ての金属層の孔について孔間距離が1.8mm以下であれば孔間距離は一定でなくてもよく、金属層の孔20はランダムに形成されていてもよい。
また、金属層の孔は、樹脂フィルムの表面または断面が露出するものであれば積層体を貫通しない孔(非貫通孔)であってもよい。
図4は本発明の樹脂/金属積層体の他の一例の断面図である。図4に示す樹脂/金属積層体では、樹脂フィルムの表面または断面が露出する金属層の孔として、樹脂フィルムに達する非貫通孔20aと、反対面の金属層に達する非貫通孔20b,20cが形成されている。金属層の孔(非貫通孔)は、全て同じ金属層に形成されていてもよいし、図4に示すように、両方の金属層に形成されていてもよい。
本発明の樹脂/金属積層体では、金属層の孔の外周縁と隣接する金属層の孔の外周縁との間の最小距離(孔間距離)が1.8mm以下であるが、樹脂フィルムの両面の金属層12a,12bの両方を含めて水平方向の距離で最も近い孔を隣接する孔とする。図4に示す樹脂/金属積層体では、金属層12aに形成された孔20aの隣接する孔は、同じ金属層12aに形成された孔20cではなく、反対面の金属層12bに形成された孔20bであり、従って、孔の外周縁と隣接する孔の外周縁との間の最小距離(孔間距離)Aは図4に示すようになる。この孔間距離Aがそれぞれ1.8mm以下であればよい。
また、本発明の樹脂/金属積層体においては、貫通孔と、樹脂フィルムや反対面の金属層に達する非貫通孔とが混在していてもよい。なお、形成される非貫通孔は図4に示すものに限定されず、樹脂フィルムの表面または断面が露出するものであればよい。
図1〜図2に示す樹脂/金属積層体および図3に示す樹脂/金属積層体では円形の孔20を形成しているが、形成される金属層の孔の形状は特に限定されず、適宜選択することができる。
金属層の孔は公知の方法で形成することができ、例えば、所定の箇所にレーザー光を照射することによって孔を形成することができる。また、パンチング等によっても孔を形成することができる。
金属層の孔は、樹脂フィルムの両面上に金属層を形成した後に形成してもよいし、樹脂フィルムの片面上に金属層を形成した後に金属層の孔を形成し、その後に樹脂フィルムの反対側の面上に金属層を形成してもよい。
本発明の樹脂/金属積層体は、金属層の上に、半導体層や有機層などの金属層以外の層を有していてもよいが、これらの層には孔が形成されていてもよいし、形成されていなくてもかまわない。
本発明において形成する金属層の孔は、孔内に露出する樹脂フィルム表面に導電性皮膜を形成して、両面を導通させるビア(スルーホールビア)またはブラインドビアとして使用することができる。形成した金属層の孔をビアとして使用することは工程の簡略化、生産性の向上などの点から好ましい。導電性皮膜の形成は公知の方法に従って行うことができる。
CIS系太陽電池に使用される場合、樹脂フィルム上に形成した金属層のうち片方はCIS系太陽電池の電極(下部電極)となる。そして、この下部電極となる金属層の上に、カルコパイライト構造半導体層、上部電極(通常、透明電極)を形成して太陽電池を製造する。一方、電極となる金属層の反対側の面上の金属層は背面電極となる。本発明の樹脂/金属積層体において形成される金属層の孔(スルーホール)は、樹脂フィルムの両面上に存在する電極を接続するビア、すなわち太陽電池の下部電極と背面電極を接続するビア、または上部電極と背面電極を接続するビアとして使用することができる。
具体的には、発電領域に形成されたスルーホールの一部は、太陽電池の上部電極と、基板の反対面に形成された背面電極とのスルーホールコンタクトを行う「電流収集穴」として利用することができる。この電流収集穴は、上部電極における集電を助け、抵抗ロスを低減する役割が期待できる。また、発電領域以外に形成されたスルーホールの一部は、太陽電池の下部電極と背面電極とを接続する「直接接続穴」として利用することができる。この穴を通して各々のユニットセルが外部配線無しで直列接続されるようなセルの設計も可能である。
本発明の樹脂/金属積層体は、450℃以上、さらには500℃以上、さらには520℃以上、特には550℃以上の熱処理に供することができるものである。加熱温度および加熱時間などの熱処理条件は、使用する目的に応じて適宜選択することができる。なお、加熱温度の上限については、樹脂フィルムが分解するか、激しく劣化して使用できなくなったりしない程度にまで加熱することができる。
次に、本発明のCIS系太陽電池について説明する。本発明のCIS系太陽電池は、上記のような本発明の樹脂/金属積層体を使用することを特徴とするものである。
本発明のCIS系太陽電池は、公知の方法、例えば特開2003−179238号公報に記載の方法に準じて製造することができる。本発明のCIS系太陽電池の製造方法の一例を、図5〜図6を用いて、説明する。
まず、図5(a)に示すように、基板であるポリイミドフィルム1上に下部電極となる金属層(電極層)2を形成する。電極層2は、好ましくはモリブデン層である。電極層2は、スパッタリング法や蒸着法によって形成することができる。
本発明においては、ポリイミドフィルム作製時にポリイミド前駆体溶液を金属支持体上にキャスティングしたときの金属支持体側の面(B面)に電極層2を積層することが好ましい。B面に電極層を形成した場合、B面の反対側の面(A面)に電極層を形成するよりも、電極層や半導体層のクラックの発生が少なくなることがある。
また、必要に応じて、基板であるポリイミドフィルム1と電極層2の間に下地金属層を設けることもできる。下地金属層は、例えばスパッタリング法や蒸着法などのメタライジング法によって形成することができる。
次に、図5(b)に示すように、ポリイミド基板1の裏面に、背面電極となる金属層(背面電極層)8を形成する。背面電極層は、25〜500℃の線膨張係数が1〜20ppm/℃程度のものが好ましく、1〜10ppm/℃程度のものが特に好ましい。このような背面電極層を設けることにより、電極層や半導体層のクラックの発生、基板の反りをさらに抑制することができる。
背面電極層8は、特に限定されるものではないが、基板の反りを抑制する観点から、電極層2と同じ金属層であることが好ましい。背面電極層8は、スパッタリング法や蒸着法によって形成することができる。
本発明においては、背面電極層8を形成した後に電極層2を形成してもよいが、電極層2を形成した後に背面電極層8を形成することが好ましい。電極層2、背面電極層8の順に形成する方が、言い換えると、先に積層した金属層(モリブデン層)を電極として使用する方が、電極層や半導体層のクラックの発生が少なくなることがある。
前述の通り、電極層はB面に形成することが好ましい。従って、本発明の太陽電池の製造方法としては、ポリイミドフィルムからなる基板のB面に電極層を形成した後、A面に背面電極層を形成することが特に好ましい。
次に、図5(c)に示すように、電極層2上に、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とを含む薄膜層3を形成する。この薄膜層3は、典型的には、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素のみからなる薄膜であり、後の熱処理によって太陽電池の光吸収層となる。Ib族元素としては、Cuを用いることが好ましい。IIIb族元素としては、InおよびGaからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を用いることが好ましい。VIb族元素としては、SeおよびSからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を用いることが好ましい。
薄膜層3は、蒸着法やスパッタリング法によって形成することができる。薄膜層3を形成する際の基板温度は、例えば室温(20℃程度)〜400℃程度であり、後の熱処理における最高温度よりも低い温度である。
薄膜層3は、複数の層からなる多層膜であってもよい。
電極層2と薄膜層3の間には、例えば、Li、Na、KなどのIa族元素を含む層や、他の層を形成してもよい。Ia族元素を含む層としては、例えば、Na2S、NaF、Na2O2、Li2SまたはLiFからなる層が挙げられる。これらの層は、蒸着法やスパッタリング法によって形成することができる。
次に、図6(d)に示すように、レーザー加工などにより、積層体を貫通する貫通孔20を1.8mm以下の間隔で形成する。この貫通孔は、上部電極と背面電極を接続するビア(電流収集穴)または下部電極と背面電極を接続するビア(直接接続穴)として使用することができる。貫通孔20の形成位置、形状および大きさは、所望の構成に応じて適宜決められる。また、所望の構成に応じて、貫通孔ではなく、樹脂フィルムの表面または断面が露出する非貫通孔を形成してもよい。
図5〜図6に示す例では、電極層2、背面電極層8、薄膜層3を形成した後に貫通孔20を形成しているが、背面電極層を形成した後、薄膜層を形成する前に金属層の孔を形成することもできる。また、電極層を形成した後、背面電極層を形成する前に金属層の孔を形成することもできる。
次に、薄膜層3を熱処理することによって、図6(e)に示すように、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とを含む半導体層(カルコパイライト構造半導体層)3aを形成する。この半導体層3aが太陽電池の光吸収層として機能する。
薄膜層を半導体層に変換するための熱処理は、窒素ガス、酸素ガスまたはアルゴンガス雰囲気中で行うことが好ましい。あるいは、SeおよびSからなる群より選ばれる少なくとも1つの蒸気雰囲気中で行うことが好ましい。
熱処理は、薄膜層3を、好ましくは10℃/秒〜50℃/秒の範囲内の昇温速度で、500℃〜550℃の範囲内、好ましくは500℃〜540℃の範囲内、さらに好ましくは500℃〜520℃の範囲内の温度にまで加熱した後、好ましくは10秒〜5分間、この範囲内の温度で保持することが好ましい。その後、薄膜層3を自然冷却するか、または、ヒータを用いて自然冷却よりも遅い速度で薄膜層3を冷却する。
この熱処理は段階的に行うこともできる。例えば、薄膜層3を、100℃〜400℃の範囲内の温度にまで加熱し、好ましくは10秒〜10分間、この範囲内の温度で保持した後、好ましくは10℃/秒〜50℃/秒の範囲内の昇温速度で、500℃〜550℃の範囲内、好ましくは500℃〜540℃の範囲内、さらに好ましくは500℃〜520℃の範囲内の温度にまで加熱し、好ましくは10秒〜5分間、この範囲内の温度で保持することが好ましい。その後、薄膜層3を自然冷却するか、または、ヒータを用いて自然冷却よりも遅い速度で薄膜層3を冷却する。
このようにして、光吸収層となるIb族元素とIIIb族元素とVIb族元素とを含む半導体層3aを形成する。形成される半導体層3aは、例えば、CuInSe2、Cu(In,Ga)Se2、またはこれらのSeの一部をSで置換したCuIn(S,Se)2、Cu(In,Ga)(S,Se)2半導体層である。
半導体層3aは、次のようにして形成することもできる。
電極層2上に、VIb族元素を含まない、Ib族元素とIIIb族元素とを含む薄膜層3、典型的には、Ib族元素とIIIb族元素のみからなる薄膜を形成する。そして、この薄膜層を半導体層に変換するための熱処理を、VIb族元素を含む雰囲気中で、好ましくはSeおよびSからなる群より選ばれる少なくとも1つの蒸気雰囲気中で行うことで、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とを含む半導体層を形成することができる。なお、薄膜層の形成方法および熱処理条件は上記と同様である。
半導体層3aを形成した後は、公知の方法に従って、例えば図6(f)に示すように、窓層(またはバッファ層)4、上部電極層5を順に積層し、取り出し電極6および7を形成して太陽電池を製造する。貫通孔20内にも上部電極層5が形成され、上部電極と背面電極を接続するビア(電流収集穴)となっている。窓層4としては、例えばCdSや、ZnO、Zn(O,S)からなる層を用いることができる。窓層は2層以上としてもよい。上部電極層5としては、例えばITO、ZnO:Al等の透明電極を用いることができる。上部電極層5上には、MgF2等の反射防止膜を設けることもできる。
なお、各層の構成や形成方法については特に限定されず、適宜選択することができる。
本発明では、可撓性の樹脂基板を用いるので、ロール・ツー・ロール方式によりCIS系太陽電池を製造することができる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
ポリイミドフィルムの物性(25℃〜500℃の寸法変化率および線膨張係数と、500℃、20分間熱処理後の重量減少率)は上記のようにして求めた。なお、ポリイミドフィルムの25℃〜500℃の寸法変化率および線膨張係数の測定には、エスアイアイ・テクノロジー社製 TMA/SS6100を用いた。
〔参考例1〕
(ポリアミック酸溶液の調製)
重合槽に、N,N−ジメチルアセトアミド2470質量部を入れ、次いで3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)294.33質量部と、p−フェニレンジアミン(PPD)108.14質量部とを加え、30℃で10時間重合反応させて、ポリアミック酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)を得た。得られたポリアミック酸溶液のポリマーの対数粘度(測定温度:30℃、濃度:0.5g/100ml溶媒、溶媒:N,N−ジメチルアセトアミド)は2.66であり、溶液の30℃での回転粘度は3100ポイズであった。
(ポリイミドフィルムの製造)
得られたポリアミック酸溶液に、ポリアミック酸の繰り返し単位1モルに対して0.55モルの無水酢酸と0.55モルのイソキノリンを添加し、十分に攪拌して、約0℃の製膜用ドープ液を調製した。
得られたドープ液をTダイより平滑な金属製エンドレスベルト上に連続的に流延塗布し、ベルトを回転させながら熱風乾燥した。この時のベルト室の温度条件は、ベルト温度120℃×2分、冷却プーリーの温度85℃とした。乾燥後、エンドレスベルトから剥離してゲルフィルムを得た。このゲルフィルムの残揮発物量は31%であった。
次いで、このゲルフィルムをテンター室で200℃×30秒、その後350〜500℃の範囲で徐々に昇温し、合計時間120秒の熱処理を行ってイミド化した。その後、室温まで徐々に降温して、平均膜厚が35μmのポリイミドフィルムを得た。そして、得られたポリイミドフィルムを、実質的に応力がかからない状態(無応力状態)で、500℃で2.5分間熱処理した。
得られたポリイミドフィルムについて、25℃〜500℃の寸法変化率および線膨張係数、500℃で20分間熱処理後の重量減少率を測定・評価したところ、25〜500℃の寸法変化率の最大値は0.55%/0.45%(MD/TD)、最小値は0.05%/0.15%(MD/TD)であり、25〜500℃の線膨張係数は7ppm/℃、500℃で20分熱処理後の重量減少率は0.351%であった。
(モリブデン積層ポリイミドフィルムの製造)
RFスパッタ(パワー:2.0kW/m2)により前処理した後、得られたポリイミドフィルムの両面に、下記の条件でDCスパッタにより厚み100nmのモリブデン層をB面、A面の順で形成して、モリブデン両面積層ポリイミドフィルムを得た。
(Moスパッタ条件)
パワー:70kW/m2(DC)、
スパッタガス:Ar、
チャンバーガス圧:0.6Pa、
ポリイミドフィルム幅:300mm、
搬送速度:0.3m/分。
〔参考例2〕
ポリイミドフィルムのB面にのみ、厚み100nmのMo層を形成した以外は参考例1と同様にしてモリブデン片面積層ポリイミドフィルムを得た。
〔実施例1〕
参考例1で得られたモリブデン両面積層ポリイミドフィルムに、レーザー加工機を用いて、それぞれの孔の中心と隣接する孔の中心との間の距離が0.5mm(孔間距離A:0.42mm)となるように、トップ径80μm、ボトム径50μmの貫通孔を図3に示すように形成した。この積層フィルムをリンカム社ホットステージ上において560℃で10分間加熱しながらデジタルマイクロスコープで観察したところ、加熱中及び加熱後にモリブデン面のクラック及び膨れは観察されなかった。また、加熱後の積層フィルムの反りの度合いについて曲率半径rを測定して評価したところ、r=100mm以上で、反りも小さかった。
〔実施例2〕
それぞれの孔の中心と隣接する孔の中心との間の距離を1.0mm(孔間距離A:0.92mm)とした以外は実施例1と同様にしてモリブデン両面積層ポリイミドフィルムに貫通孔を形成し、この積層フィルムを560℃で10分間加熱しながらデジタルマイクロスコープで観察したところ、加熱中及び加熱後にモリブデン面のクラック及び膨れは観察されなかった。また、加熱後の積層フィルムの反りの度合いについて曲率半径rを測定して評価したところ、r=100mm以上で、反りも小さかった。
〔実施例3〕
それぞれの孔の中心と隣接する孔の中心との間の距離を1.5mm(孔間距離A:1.42mm)とした以外は実施例1と同様にしてモリブデン両面積層ポリイミドフィルムに貫通孔を形成し、この積層フィルムを560℃で10分間加熱しながらデジタルマイクロスコープで観察したところ、加熱中及び加熱後にモリブデン面のクラック及び膨れは観察されなかった。また、加熱後の積層フィルムの反りの度合いについて曲率半径rを測定して評価したところ、r=100mm以上で、反りも小さかった。
〔比較例1〕
それぞれの孔の中心と隣接する孔の中心との間の距離を2.0mm(孔間距離A:1.92mm)とした以外は実施例1と同様にしてモリブデン両面積層ポリイミドフィルムに貫通孔を形成し、この積層フィルムを560℃で10分間加熱しながらデジタルマイクロスコープで観察したところ、加熱中にモリブデン面が膨れる現象が観察された。
〔比較例2〕
参考例1で得られたモリブデン両面積層ポリイミドフィルム(スルーホール加工およびエッチング加工無し)を実施例1と同様にして560℃で10分間加熱しながらデジタルマイクロスコープで観察したところ、加熱中にモリブデン面が膨れる現象が観察された。
〔比較例3〕
参考例2で得られたモリブデン片面積層ポリイミドフィルムを実施例1と同様にして560℃で10分間加熱したところ、モリブデン面のクラック及び膨れは観察されなかったが、積層フィルムに非常に大きな反りが生じ、その曲率半径rは5mm程度であった。