以下、本発明に係る交通評価装置、該交通評価装置を実現するためのコンピュータプログラム及び前記交通評価装置による交通評価方法の実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本実施の形態に係る交通評価装置の一例である交通シミュレータにおける車両挙動の例を示す模式図である。交通シミュレータは、複数の模擬車両(以下、車両とも称する。)の模擬走行により交通評価指標を出力する。交通シミュレータは、入力データとして、例えば、車両の走行の起終点情報を含む交通量(例えば、OD交通量、OはOrigin、DはDestinationの意味である)、車両の走行速度、加速減速特性などの交通情報が所与として取り扱われている。OD交通量は、車両の起点(出発地)と終点(目的地)との間の交通量を求めたもので、例えば、市や町などの行政区域の単位毎に発生交通量と消滅交通量とを含む。OD交通量は、国又は自治体が定期的に実施する統計調査の結果得られた調査統計データなどが用いられる。
交通シミュレータは、予め車両の移動モデル、すなわち、車両の挙動を模した計算式を内包しており、上述の入力データを当該計算式に当てはめることにより、複数の車両を模擬的に走行させることにより、単独交差点、路線及び市街地などの道路網における渋滞長、旅行時間、待ち行列長(待ち行列台数)などの交通評価指標を出力する。この場合、道路網は、複数のリンク(例えば、交差点と交差点とを繋ぐ道路で上り及び下りの2つの方向を有する)とリンク同士が交差する点であるノード(例えば、交差点)などで構成される。図1では、道路網の一部として3つのノードと2つのリンクとを例示している。
図2は車両の起終点情報の一例を示す模式図である。交通シミュレータで交通評価指標を再現する場合、単独交差点または路線のように比較的単純な道路網では、車両の走行の起終点情報は、道路の両端点に設定される。しかし、市街地などの複数の路線が交差する比較的複雑な道路網では、シミュレーション区域Sの内外を出発地(起点)とする交通、目的地(終点)とする交通を再現するために、個々の車両に走行の起点(出発地)と終点(目的地)の情報を与える。
図2に示すように、道路網は、交差点に相当する複数のノードと、交差点同士を繋ぐ道路をリンクとして構成される。図2の例では、道路網の一部又は全部にシミュレーション区域Sを設定する。シミュレーション区域Sの外側には、起点終点A1、A2、…A12がある。また、シミュレーション区域Sの内側には、起点終点B1、B2、B3がある。なお、起点終点は一例であって、図2の例に限定されるものではない。図2に示すように、一例として、起点をA5とし終点をA6とする外々交通、起点をA5とし終点をB1とする外内交通、起点をB2とし終点をB3とする内々交通、起点をB2とし終点をA8とする内外交通などがある。OD交通量などに基づいて、個々の車両は、それぞれの起点と終点が与えられ、車両の移動モデルに従って、起点から終点までの走行経路等の車両の挙動を求めることができる。
図3はOD交通量の一例を示す説明図である。図3の例は、図2の起点終点A1、A5、A6、A10、A12とした場合の交通量が所与としている。なお、起点終点の例は一例であり、これに限定されるものではない。図3の例では、例えば、起点をA1とし終点をA5とする交通量が所定時間内に40台あることを示す。また、起点をA10とし終点をA5とする交通量が150台あることを示す。他も同様である。なお、図3に示す車両の台数は、単に模式的に示したものであり、値は例示であって限定されるものではない。
図4は所与のOD交通量に基づいた発生交通量及び消滅交通量の一例を示す模式図である。図4の例では、2つのリンク1、リンク2を例示している。交通シミュレータは、所与のOD交通量に基づいて、シミュレーション区域S内の各リンクでの発生交通量と消滅交通量とを算出する。図4に示すように、リンク1の上流で発生交通量が存在し、リンク1の下流で消滅交通量が存在する。なお、リンク1の途中で交通量の発生または消滅があってもよい。同様に、リンク2の上流で発生交通量が存在し、リンク1の下流で消滅交通量が存在する。なお、リンク1とリンク2とが交わる点(交差点)では、他のリンク(不図示)からの流入交通や流出交通が存在する。
図5は本実施の形態に係る交通評価装置の一例としての交通シミュレータ10の構成例を示すブロック図である。交通シミュレータ10は、車両の移動モデルを表す計算式に基づいて演算を行うシミュレータエンジン部11、所与のOD交通量に基づいて発生交通量及び消滅交通量を算出する交通量算出部12、交通量算出部12で算出された交通量に基づいて各リンクでの推定渋滞長を算出(推定)する推定渋滞長算出部13、交通量算出部12で算出された交通量に基づいて各リンクでの推定交通量を算出(推定)する推定交通量算出部14、交通量算出部12で算出された交通量に基づいて各リンクの下流交差点での対向直進車両と交差する方向の待ち行列長を算出(推定)する待ち行列長算出部15、各リンクの下流交差点の当該リンクに対する信号を判定する信号情報判定部16、推定渋滞長、推定交通量又は推定待ち行列長などの推定交通評価指標を実測した実測交通評価指標に一致させるべく起点交通量及び終点交通量を生成する起点終点生成部17、所定の情報を記憶する記憶部18、起点終点生成部17で生成した終点交通量又は起点交通量に対応させて当該リンクの下流側で交通量を発生又は消滅させる発生消滅部19、評価値を算出する評価値算出部20などを備える。
交通シミュレータ10には、入力データとして、例えば、車両の走行速度、加速減速特性、車両の走行の起点終点情報、交通量、実測渋滞長、実測交通量、リンクが交差する各交差点の信号灯器の信号情報などのデータが与えられる。
交通シミュレータ10は、入力データを用いて、各リンクの渋滞長、車両の旅行時間、交通量、待ち行列長(待ち行列台数)などの交通評価指標(推定交通評価指標)を出力する。なお、交通評価指標は、道路網を表す地図上で表示される。なお、交通評価指標に環境汚染物質(二酸化炭素など)の排出量(例えば、環境指標)を含めることもできる。渋滞長を再現性よく求めることができる場合、旅行時間や環境汚染物質の排出量も渋滞長に比例するので再現性よく求めることが可能となる。
交通量算出部12は、OD交通量(車両の走行の起終点情報を含む交通量)を用いて起点と終点との間の任意のリンクで発生する交通量(発生交通量)及び任意のリンクで消滅する交通量(消滅交通量)を算出する。任意のリンクで発生する交通量又は消滅する交通量は、OD情報(OD交通量)に従って起点から終点に向かって走行する正規車両による交通量である。なお、正規車両とは、車両(模擬車両)のうち後述のダミー車両以外の車両をいう。
推定渋滞長算出部13は、交通量算出部12で算出した交通量に基づいて、任意の補正周期毎に、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を算出(推定)する。なお、推定渋滞長を求める場合、車両の走行速度、加速減速特性、当該リンク両端の交差点での信号現示、リンク長などのパラメータを記憶部18に記憶しておき、当該パラメータを使用することができる。
推定交通量算出部14は、交通量算出部12で算出した交通量に基づいて、任意の補正周期毎に、任意のリンクでの推定交通量を算出(推定)する。なお、推定交通量を求める場合、車両の走行速度、加速減速特性、当該リンク両端の交差点での信号現示、リンク長などのパラメータを記憶部18に記憶しておき、当該パラメータを使用することができる。
待ち行列長算出部15は、交通量算出部12で算出した交通量に基づいて、任意の補正周期毎に、任意のリンクの下流交差点での対向直進車両と交錯する方向の待ち行列長を推定する。対向直進車両と交錯する方向とは、例えば、日本のように左側通行では右折方向であり、米国のように右側通行では左折方向である。本実施の形態では、日本のように左側通行であるとして、対向直進車両と交錯する方向は右折方向であるとする。また、待ち行列長を求める場合、車両の走行速度、加速減速特性、当該リンク両端の交差点での信号現示、リンク長などのパラメータを記憶部18に記憶しておき、当該パラメータを使用することができる。
起点終点生成部17は、推定渋滞長、推定交通量、推定待ち行列長などの推定(算出)した交通評価指標を実測された交通評価指標に一致させるため(すなわち、補正項として)、交通量算出部12で算出した任意のリンクでの発生交通量及び消滅交通量とは別に、当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。
起点交通量は、推定した交通評価指標を実測値に一致させるためにリンクに放出する車両による交通量であり、正規車両又はダミー車両のいずれか一方又は両者を含む。また、終点交通量は、推定した交通評価指標を実測値に一致させるためにリンクから回収する車両による交通量であり、正規車両又はダミー車両のいずれか一方又は両者を含む。なお、ダミー車両は、推定した交通評価指標を実測値に一致させるためにリンクに放出又はリンクから回収する仮想(便宜上)の車両であり、車両のうち正規車両以外の車両である。
次に、推定交通評価指標として、推定渋滞長を採用する場合について説明する。起点終点生成部17は、任意のリンクでの車両の実測渋滞長と推定渋滞長算出部13で算出した推定渋滞長との差分である推定誤差がゼロ又は最小になる(推定誤差が後述のリンクの固有値に略一致する)ように起点交通量又は終点交通量を生成する。これにより、推定渋滞長を補正する。
図6は推定渋滞長の補正の一例を示す模式図である。図6に示すように、本実施の形態の交通シミュレータ10は、リンク単位であって所定の補正周期(例えば、5分など)の経過の都度、起点交通量(交通量の起点)としてダミー車両又は正規車両のいずれか又は両者を放出し、又は終点交通量(交通量の終点)としてダミー車両又は正規車両のいずれか又は両者を回収することにより、推定渋滞長が実測渋滞長と一致するように推定渋滞長を補正する。
図6の例では、リンク1では実測渋滞長が推定渋滞長より長いので、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)に相当する台数(補正台数)の車両をリンク1で放出する。すなわち、リンクを走行する車両に放出車両を加えることにより渋滞長を長くする。
また、リンク2では実測渋滞長が推定渋滞長より短いので、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)に相当する台数(補正台数)の車両をリンク2で回収する。すなわち、リンクを走行する車両から回収車両を差し引くことにより渋滞長を短くする。
上述のように、交通評価指標(例えば、渋滞長)を調整するために、任意のリンクで算出した交通量とは別に当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。すなわち、実測値として得られたOD交通量から求めた任意のリンクでの発生交通量又は消滅交通量とは別に、当該リンク単位で起点交通量又は終点交通量を生成することにより、各リンク単位で渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる。また、それぞれのリンクでの再現性を高めることができるので、道路網全体での再現性も向上させることができる。
発生消滅部19は、起点終点生成部17で任意のリンクで起点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅(再回収)させる。任意のリンクで起点交通量を生成した場合、すなわち、当該放出点から車両を放出した場合、当該リンクでの交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで起点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅(再回収)させることにより、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
また、発生消滅部19は、起点終点生成部17で任意のリンクで終点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)させる。任意のリンクで終点交通量を生成した場合、すなわち、当該回収点で車両を回収した場合、当該リンクでの交通量が減少するので下流への流入交通量が減少し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで終点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)させることにより、任意のリンクで終点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。また、任意のリンクで終点交通量を生成した場合(車両を回収した場合)に、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)するときには、回収時に回収した車両の終点(本来の消滅地点)を記憶しておき、再放出の際に各車両に記憶しておいた終点を与えることもできる。なお、他の方法で終点を与えてもよい。
図7はリンクの下流側の交通状況に影響を与えないための再放出及び再回収の一例を示す模式図である。交通シミュレータ10では、渋滞長又は旅行時間などの交通評価指標を実測値と合わせるために、推定渋滞長などを補正した場合、そのままでは、その影響が下流のリンクに及ぶために、下流の渋滞長及び旅行時間などが変化する。例えば、上流リンクで推定渋滞長を実測渋滞長に合わせるため、起点交通量として車両が放出された場合、当該リンクからの流出交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、これが下流リンクの推定渋滞長に差異を生じさせる可能性がある。
そこで、本実施の形態では、図7に示すように、各リンクでの補正要因(起点交通量又は終点交通量の生成)を下流リンクに伝えないように、リンクに放出された車両はリンク下流の交差点出口で再回収し、また、リンク上で回収された車両はリンク下流の交差点出口で再放出する。これにより、補正による影響を下流リンクに与えることはない。
OD交通量(OD表)に従って、交通量算出部12で算出した任意のリンクでの発生交通量及び消滅交通量は、ダミー車両でない正規車両に相当するものであり、補正項(起点交通量又は終点交通量)として放出又は回収される車両にはダミー車両又は正規車両のいずれか又は両者に相当するものである。以下、終点交通量として車両をリンクから回収する場合、及び起点交通量として車両をリンクへ放出する場合に方法について説明する。
図8はリンク上の車両の一例を示す説明図である。リンク1上には、例えば、ダミー車両でない正規車両(模様あり)が4台、ダミー車両(模様なし)が2台走行しているとする。リンク1、2には、それぞれ併設した形でダミーのリンクが存在する。
ダミーのリンク(ダミーリンクとも称する)は、各リンクに対して設けられた仮想のリンクであり、例えば、シミュレーション上で表現されていない細街路などの道路への車両の流入出を扱うために設けている。なお、ダミーリンクは、交通シミュレータの画面上で仮想のリンクとして表示されるものではなく、シミュレーション上、リンクから回収した車両(ダミー車両又はダミー車両でない車両)を待機させるスペースである。
シミュレーション上では、シミュレーション結果と実計測値との差分の車両をダミーリンクへ移動させること、すなわち、シミュレーション上で表現されていない道路であるダミーリンクへ移動させることで、シミュレーション結果と実計測値が一致するように補正する。
図9はリンクから車両を回収する方法の一例を示す説明図である。図9の例は、図8に例示したリンク1上の車両から3台の車両を回収する場合に、ダミー車両を優先的に回収する例を示す。図8の例では、リンク1上に2台のダミー車両と4台の正規車両が存在している。リンク1から3台の車両を回収する場合、ダミー車両を優先して、2台のダミー車両をすべて回収し、不足分である1台の回収車両を正規車両から回収する。また、ダミー車両の抜き取った部分の車間が空くため、渋滞長などを正しく表現するために後続の車両を前に詰める。
図9に示すように、回収した車両のうち、正規車両は、リンク1の下流側(例えば、リンク2)へ再放出すべくリンク1に併設のダミーリンクへ移動させ、リンク1の下流側での再放出待ちとする。また、回収した車両のうち、ダミー車両は、リンク1に併設のダミーリンクへ移動せずに消滅させ、リンクへ再放出しない。
次に、車両を回収する他の例を説明する。図10は渋滞末尾の車両から回収する方法の一例を示す説明図である。図10の例は、図8に例示したリンク1上の車両から3台の車両を回収する場合に、渋滞末尾から車両を回収する例を示す。図8の例では、リンク1上に2台のダミー車両と4台の正規車両が存在している。リンク1から3台の車両を回収する場合、渋滞末尾から、正規車両、ダミー車両、正規車両の3台を回収する。この場合には、結果として、正規車両を2台、ダミー車両を1台回収することになる。
車両を回収する場合に、回収した車両が正規車両であるときは、ダミーリンクへ移動してリンク1の下流側での再放出待ちとする。図10の例では、2台の正規車両をダミーリンクへ移動している。また、回収した車両がダミー車両であるときは、ダミーリンクへ移動せずに消滅させる。図10の例では、1台のダミー車両を再放出せずに消滅させる。渋滞末尾から車両を回収する場合には、車両を前に詰める処理が不要となる。
車両の回収方法は、渋滞末尾から回収する方法の他に、渋滞の先頭から回収する方法もある。例えば、車両を回収する際に、まずダミー車両を優先的に回収し、すべてのダミー車両を回収してもなお車両を回収する必要がある場合には、先頭の車両(正規車両)から回収する。先頭の車両から回収する場合には、後続の車両の前方に車間が空くため、後続の車両を前に詰める処理が必要となる。なお、渋滞末尾から車両を回収した場合、回収した車両が正規車両のときは、ダミーリンクを通ってリンク上の車両よりも先にリンク下流に流出することになり、回収した車両による追い越し状態が発生するが、追い越し状態が許容できる場合には、渋滞末尾から回収することにより、車両を前に詰める処理が不要となる。
次に車両をリンクへ放出する場合について説明する。図11はリンク上の車両の他の例を示す説明図である。リンク1、2には、それぞれ併設した形でダミーのリンクが存在する。リンク1上には、例えば、正規車両(模様あり)が3台走行し、リンク1に対応するダミーリンクには正規車両が2台走行しているとする。
図12はリンクに車両を放出する方法の一例を示す説明図である。図12の例は、図11に例示したリンク1上に、例えば、3台の車両を放出する例を示す。車両を放出する場合、直近(前回)の補正周期までに車両をリンクから回収し、今回の補正周期で当該リンク下流交差点にて再放出しきれていない車両があるときは、当該車両を優先的にリンク上に放出する。すなわち、補正項で車両をリンクへ放出する場合、ダミーリンク上に正規車両が存在するときには、ダミーリンク上の正規車両をリンク(本線)に戻した上で、(放出すべき台数−ダミーリンクから戻した台数)をダミー車両として放出する。
図12の例では、放出必要台数(リンク下流交差点での起点交通量)を3台とし、ダミーリンク上の正規車両を2台とすると、ダミーリンク上の2台の正規車両をリンク上に戻し(放出)、不足分(3台−2台)の1台をダミー車両として放出する。
補正周期(例えば、50秒など)の間に、再放出しきれない車両が残る場合がある理由は、下流交差点での再放出の際には、放出最大量(例えば、2500台/車線/時)を下回るように再放出させるためである。放出最大量は、正規リンクから流出する車両及びダミーリンクからの再放出車両の合計台数である。下流リンクに2500台以上の車両が流れ込むと下流の負荷が高くなるために、放出最大量を上限として設けている。
上述のように、任意のリンクで起点交通量として車両(正規車両、ダミー車両)をリンクへ放出し、あるいは終点交通量として車両(正規車両、ダミー車両)をリンクから回収した場合、リンク(本線、実車線)には、正規車両とダミー車両とが混在する。また、ダミーリンクには、正規車両が存在することになる。なお、リンクから回収したダミー車両はダミーリンクへ移動させずに消滅させるので、ダミーリンク上のダミー車両は考慮する必要はない。
交通シミュレータによる交通状況の再現性を評価するには、実際に計測された交通評価指標とシミュレーション結果(シミュレータで求めた交通評価指標)との相関関係を求める必要がある。そこで、交通シミュレータによる交通状況の再現性を評価する評価値(評価式)として、リンク上の正規車両とダミー車両とに注目し、これら車両の台数に基づいて評価値(評価式)を求める。
図13はシミュレーション上の車両の状態の一例を示す説明図である。図13の例では、リンク1(実車線)と対応するダミーリンクとを例示している。リンク1には、4台の正規車両が走行し、ダミーリンクには2台の正規車両が存在する。すなわち、シミュレーション上の車両としては、リンク(実車線)に存在する正規車両の台数である第1正規車両台数N1、リンク(実車線)に存在するダミー車両の台数であるダミー車両台数N2、ダミーリンクに存在する正規車両の台数である第2正規車両台数N3を考えることができる。
評価値算出部20は、上述の第1正規車両台数N1、ダミー車両台数N2及び第2正規車両台数N3を算出する。
また、評価値算出部20は、評価値Eを、第1正規車両台数N1/(第1正規車両台数N1+α×ダミー車両台数N2+β×第2正規車両台数N3)の式により算出する。ただし、α及びβは重み付け係数であり、例えば、α=0〜1、β=0〜1である。なお、第1正規車両台数N1、ダミー車両台数N2及び第2正規車両台数N3は、シミュレーション対象に含まれる複数のリンクそれぞれで算出した正規車両台数及びダミー車両台数の累積値、評価値算出対象時間の間に1又は複数回算出した評価値の累積値を含むものとする。
上述の重み付け係数は、例えば、α=1、β=0とすることができる。この場合、評価値Eは、E=N1/(N1+N2)の式により求めることができる。すなわち、評価値算出部20は、任意のリンク上の正規の車両の台数である第1正規車両台数N1及びダミー車両の台数であるダミー車両台数N2を算出し、算出した任意のリンク上の第1正規車両台数N1及びダミー車両台数N2に基づいて、出力する交通評価指標の再現性を評価する評価値を算出する。この場合には、例えば、評価値Eを、第1正規車両台数N1とダミー車両台数N2との合計値に対する第1正規車両台数N1の割合として求めることができる。
起点交通量としてリンクに放出するダミー車両の台数が多いほど交通シミュレータによる交通状況の再現性が低いので、この場合、評価値が小さいほど交通状況の再現性が低いということができる。逆に、起点交通量としてリンクに放出するダミー車両の台数が少ないほど交通シミュレータによる交通状況の再現性が高いので、この場合、評価値が大きいほど交通状況の再現性が高いということができる。評価値を求めることにより、交通状況の再現性を評価することができる。なお、上述の例では、評価値Eを、E=N1/(N1+N2)の式により算出するが、これに限定されるものではない。例えば、E=(N1+N2)/N1の式により求めてもよい。この場合、評価値が大きいほど交通シミュレータによる交通状況の再現性が悪いということになる。
また、上述の重み付け係数は、例えば、α=1、β=1とすることができる。この場合、評価値Eは、E=N1/(N1+N2+N3)の式により求めることができる。すなわち、評価値算出部20は、任意のリンク上の第1正規車両台数N1及びダミー車両台数N2並びに当該任意のリンクに対応するダミーリンク上の第2正規車両台数N3に基づいて、出力する交通評価指標の再現性を評価する評価値を算出する。例えば、評価値Eを、第1正規車両台数N1、ダミー車両台数N2及び第2正規車両台数N3の合計値に対する第1正規車両台数N1の割合として求めることができる。
起点交通量としてリンクに放出するダミー車両の台数又は終点交通量としてリンクから回収する正規車両が多いほど交通シミュレータによる交通状況の再現性が低いので、この場合、評価値が小さいほど交通状況の再現性が低いということができる。逆に、起点交通量としてリンクに放出するダミー車両の台数又は終点交通量としてリンクから回収する正規車両が少ないほど交通シミュレータによる交通状況の再現性が高いので、この場合、評価値が大きいほど交通状況の再現性が高いということができる。評価値を求めることにより、交通状況の再現性を評価することができる。
また、交通状況に応じて、任意のリンク上のダミー車両の台数(ダミー車両台数)に大きい値の係数で重み付けをしてもよく、あるいは交通状況に応じて、ダミーリンク上の正規車両の台数(第2正規車両台数)に大きい値の係数で重み付けをすることもでき、交通状況に応じて最適な評価式を用いて評価値を求めることができる。
また、図8乃至図10で説明したように、終点交通量として所要の車両(模擬車両)を任意のリンクから回収する場合に、回収した車両の中に正規車両があるときは、当該正規車両を任意のリンクに対応するダミーリンク上に移動し、回収した車両の中にダミー車両があるときは、当該ダミー車両を消滅させる。すなわち、回収したダミー車両はダミーリンクへ移動させずに消滅させて再放出させないことにより、ダミー車両が増加することを抑制することができるので、交通状況の再現性を高めることができる。
また、図11及び図12で説明したように、起点交通量として所要の車両(模擬車両)を任意のリンクに放出する場合に、当該リンクに対応するダミーリンク上に存在する(走行する)正規車両よりも所要の車両(放出すべき車両台数)が多いとき、すなわち、放出すべき車両台数が、ダミーリンクに存在する正規車両よりも多いときは、所要の車両とダミーリンク上の正規車両の台数との差分に相当するダミー車両を当該任意のリンクに放出する。ダミーリンク上の正規車両を優先的に放出し、不足分をダミー車両で補って放出することにより、ダミー車両が増加することを抑制することができるので、交通状況の再現性を高めることができる。
次に、本実施の形態の交通シミュレータ10の動作について説明する。図14、図15及び図16は本実施の形態の交通シミュレータ10の推定渋滞長を採用する場合の処理手順を示すフローチャートである。
交通シミュレータ10は、補正周期(例えば、50秒)が経過したか否かを判定し(S11)、補正周期を経過した場合(ステップS11でYES)、すなわち、前回の補正のタイミングから50秒経過した場合、実測渋滞長を取得し(S12)、推定渋滞長を算出し(S13)、推定誤差(実測渋滞長と推定渋滞長との差分)を算出(推定)する(S14)。補正周期を経過していない場合(ステップS11でNO)、交通シミュレータ10は、後述のステップS27以降の処理を行う。
交通シミュレータ10は、推定誤差がゼロより大きいか否かを判定し(S15)、推定誤差がゼロより大きい場合(S15でYES)、(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きいか否かを判定する(S16)。
リンクの固有値は、例えば、当該リンク(道路)に設置された車両感知器の設置密度に依存する許容範囲と、車両密度との乗算により求めることができる。車両感知器の設置密度が250mである場合、許容範囲は250mに設定することができる。車両感知器の設置密度(例えば、250m)内では車両が渋滞して停止していても実際上は計測することができない場合があり、車両感知器の設置密度を超えて車両が停止したときに渋滞していることを計測することが可能となるので、推定誤差からリンクの固有値を減算している。
(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きい場合(S16でYES)、交通シミュレータ10は、補正台数を算出し(S17)、算出した補正台数の車両を起点交通量としてリンクに放出する(S18)。
交通シミュレータ10は、補正台数及び補正周期を記録する(S19)。例えば、補正周期(時刻)が9:10である場合に、あるリンク1の補正台数(放出台数)が10台である場合、リンク1の時刻9:10での放出台数は10台であることを記録する。
交通シミュレータ10は、評価値Eの算出対象時間帯であるか否かを判定する(S20)。例えば、シミュレーションの対象時間帯は、6:00〜20:00であり、評価値Eの算出対象時間帯は、7:00〜8:00及び17:00〜19:00などである。
評価値Eの算出対象時間帯である場合(S20でYES)、交通シミュレータ10は、評価値Eの算出周期が経過したか否かを判定する(S21)。評価値Eの算出周期は、渋滞補正の周期、交通量補正の周期と同期させる。
評価値Eの算出周期が経過した場合(S21でYES)、交通シミュレータ10は、OD情報に従って起点から終点に向かい、かつ現在時刻でリンク(実車線)を走行している第1正規車両台数の累積値Aを算出する(S22)。第1正規車両台数の累積値Aは、任意の時刻(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)を走行する第1正規車両台数の累積値としてもよく、あるいは、所要の時間帯(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)を走行する第1正規車両台数を複数回算出し、算出した値の累積値(合計値)としてもよい。
交通シミュレータ10は、OD情報に従って起点から終点に向かい、かつ現在時刻でダミーリンクを走行している第2正規車両台数の累積値Bを算出する(S23)。第2正規車両台数の累積値Bは、任意の時刻(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)に対応するダミーリンクを走行する第2正規車両台数の累積値としてもよく、あるいは、所要の時間帯(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)対応するダミーリンクを走行する第2正規車両台数を複数回算出し、算出した値の累積値(合計値)としてもよい。
交通シミュレータ10は、仮の終点が与えられ、現在時刻でリンク(実車線)を走行しているダミー車両台数の累積値Cを算出する(S24)。ダミー車両台数の累積値Cは、任意の時刻(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)を走行するダミー車両台数の累積値としてもよく、あるいは、所要の時間帯(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)を走行するダミー車両台数を複数回算出し、算出した値の累積値(合計値)としてもよい。
評価値Eの算出対象時間帯でない場合(S20でNO)、あるいは、評価値Eの算出周期が経過していない場合(S21でNO)、交通シミュレータ10は、後述のステップS27以降の処理を行う。
交通シミュレータ10は、評価値算出対象最終時刻であるか否かを判定する(S25)。例えば、評価値Eの算出時間帯が7:00〜8:00である場合、評価値算出対象最終時刻は、午前8時となり、評価値Eの算出時間帯が17:00〜19:00である場合、評価値算出対象最終時刻は、午後7時となる。
評価値算出対象最終時刻である場合(S25でYES)、交通シミュレータ10は、累積値A、B、Cに基づいて評価値Eを算出し、出力する(S26)。評価値算出対象最終時刻でない場合(S25でNO)、交通シミュレータ10は、ステップS26の処理を行わずに、後述のステップS27以降の処理を行う。
交通シミュレータ10は、リンクに放出した車両をリンク下流交差点で再回収し(S27)、リンクから回収した車両をリンク下流交差点で再放出する(S28)。交通シミュレータ10は、起点(出発地)から車両を発生し、終点(目的地)で車両を回収し(S29)、信号灯器の信号灯色を、例えば、0.1秒進め、車両の移動モデルに従って車両を走行させ(S30)、シミュレーション周期(例えば、0.1秒)を終了する。
(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きくない場合(S16でNO)、交通シミュレータ10は、ステップS27以降の処理を行う。また、補正周期を経過していない場合(ステップS11でNO)、交通シミュレータ10は、ステップS27以降の処理を行う。
推定誤差がゼロより大きくない場合(S15でNO)、交通シミュレータ10は、推定誤差がゼロより小さいか否かを判定し(S31)、推定誤差がゼロより小さい場合(S31でYES)、(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さいか否かを判定する(S32)。
(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さい場合(S32でYES)、交通シミュレータ10は、補正台数を算出し(S33)、算出した補正台数の車両を終点交通量としてリンクから回収する(S34)。交通シミュレータ10は、補正台数及び補正周期を記録し(S35)、ステップS20以降の処理を行う。
交通シミュレータ10は、推定誤差がゼロより小さくない場合(S31でNO)、推定誤差がゼロであるとして、補正を行わずにステップS20以降の処理を行う。また、(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さくない場合(S32でNO)、交通シミュレータ10は、補正を行わずにステップS20以降の処理を行う。
上述の図14乃至図16で例示した処理は、シミュレーション周期(例えば、0.1秒)経過の都度繰り返し行われる。また、ステップS27、S28の処理を行わずに省略することもできる。この場合は、当該リンクの下流リンクで車両の放出又は回収を行う補正で調整する。当該リンクでの補正は、下流リンクに影響を与えるが、下流リンクでも補正処理が行なわれるので、推定渋滞長と実測渋滞長の差異を小さくすることができる。
次に、推定交通評価指標として、推定交通量を採用する場合について説明する。起点終点生成部17は、任意のリンクでの実測交通量と推定交通量算出部14で算出した推定交通量とが一致するように起点交通量又は終点交通量を生成する。これにより、推定交通量を補正する。
図17は本実施の形態の交通シミュレータ10による交通量補正の一例を示す模式図である。図17に示すように、交通シミュレータ10は、リンク単位であって所定の補正周期(例えば、1分など)の経過の都度、起点交通量(交通量の起点)として車両を放出し、又は終点交通量(交通量の終点)として車両を回収することにより、推定交通量が実測交通量と一致するように推定交通量を補正する。
図17の例では、リンク1では実測交通量が推定交通量より多いので、実測交通量と推定交通量との差に相当する台数(補正台数)の車両をリンク1で放出する。すなわち、車両をリンク1に放出することにより交通量を多くする。
また、リンク2では実測交通量が推定交通量より少ないので、実測交通量と推定交通量との差に相当する台数(補正台数)の車両をリンク2で回収する。すなわち、リンク2から車両を回収することにより交通量を少なくする。
図18はリンクの下流側の交通状況に影響を与えないための交通量補正時の再放出及び再回収の一例を示す模式図である。交通シミュレータ10では、推定交通量を実測値と合わせるために、推定交通量を補正した場合、そのままでは、その影響が下流のリンクに及ぶために、下流の交通量が変化する。例えば、上流リンクで推定交通量を実測交通量に合わせるため、起点交通量として車両が放出された場合、当該リンクからの流出交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、これが下流リンクの推定交通量に差異を生じさせる可能性がある。
そこで、図18に示すように、各リンクでの補正項(起点交通量又は終点交通量の生成)を下流リンクに伝えないように、発生消滅部19により、リンクに放出された車両はリンク下流の交差点出口で再回収し、また、リンク上で回収された車両はリンク下流の交差点出口で再放出する。これにより、補正による影響を下流リンクに与えることはない。
上述のように、各リンク単位で交通量の実測値と推定値を合わせるように、起点交通量又は終点交通量を生成するので、交通量が少ない場合などの交通状況にかかわらず、各リンクで現状を正しく再現することができ、工事又は交通事故等による交通規制などの評価条件の変化による影響を反映した交通状況も正しく評価又は予測することが可能となる。
また、シミュレーション対象のリンクで実測渋滞長及び推定渋滞長が渋滞閾値未満であるか否かを判定し、実測渋滞長及び推定渋滞長が渋滞閾値未満であると判定された場合、当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成して、推定交通量を実測交通量に一致させてもよい。この場合、シミュレーション対象のリンクで実際の渋滞とシミュレーション上での渋滞の両者が発生していない場合でも、起点交通量又は終点交通量を生成することにより、シミュレーション対象の全リンクでの交通状況を実際の交通状況に近似させることができる。
また、実測交通量が推定交通量より多い場合、起点交通量として、実測交通量と推定交通量との差分に応じた台数の車両を放出することにより、当該リンクで、交通量の実測値が推定された交通量より多い場合でも、推定交通量の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
また、実測交通量が推定交通量より少ない場合、終点交通量として、推定交通量と実測交通量との差分に応じた台数の車両を回収することにより、当該リンクで、交通量の実測値が推定された交通量より少ない場合でも、推定交通量の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
なお、交通評価指標として交通量を採用する場合でも、渋滞長の場合の図13に示す例と同様に、評価値Eを、第1正規車両台数N1/(第1正規車両台数N1+α×ダミー車両台数N2+β×第2正規車両台数N3)の式により算出することができる。
図19及び図20は本実施の形態の交通シミュレータ10の推定交通量を採用する場合の処理手順を示すフローチャートである。
交通シミュレータ10は、補正周期(例えば、50秒)が経過したか否かを判定し(S41)、補正周期を経過した場合(ステップS41でYES)、すなわち、前回の補正のタイミングから50秒経過した場合、実測交通量を取得し(S42)、推定渋滞長を算出する(S43)。
交通シミュレータ10は、実測交通量から推定交通量を差し引いて補正台数を算出し(S44)、算出した補正台数が0より大きいか否かを判定する(S45)。補正台数が0より大きい場合(S45でYES)、交通シミュレータ10は、補正台数の車両を起点交通量としてリンクに放出し(S46)、補正台数が0より大きくない場合(S45でNO)、交通シミュレータ10は、補正台数が0より小さいか否かを判定する(S47)。
補正台数が0より小さい場合(S47でYES)、交通シミュレータ10は、補正台数の車両を終点交通量としてリンクから回収する(S48)。補正台数が0より小さくない場合(S47でNO)、すなわち、補正台数が0である場合、交通シミュレータ10は、後述のステップS49の処理を行う。
交通シミュレータ10は、補正台数及び補正周期を記録する(S49)。例えば、補正周期(時刻)が9:10である場合に、あるリンク1の補正台数(放出台数)が10台である場合、リンク1の時刻9:10での放出台数は10台であることを記録する。
交通シミュレータ10は、評価値Eの算出対象時間帯であるか否かを判定する(S50)。例えば、シミュレーションの対象時間帯は、6:00〜20:00であり、評価値Eの算出対象時間帯は、7:00〜8:00及び17:00〜19:00などである。
評価値Eの算出対象時間帯である場合(S50でYES)、交通シミュレータ10は、評価値Eの算出周期が経過したか否かを判定する(S51)。評価値Eの算出周期は、渋滞補正の周期、交通量補正の周期と同期させる。
評価値Eの算出周期が経過した場合(S51でYES)、交通シミュレータ10は、OD情報に従って起点から終点に向かい、かつ現在時刻でリンク(実車線)を走行している第1正規車両台数の累積値Aを算出する(S52)。第1正規車両台数の累積値Aは、任意の時刻(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)を走行する第1正規車両台数の累積値としてもよく、あるいは、所要の時間帯(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)を走行する第1正規車両台数を複数回算出し、算出した値の累積値(合計値)としてもよい。
交通シミュレータ10は、OD情報に従って起点から終点に向かい、かつ現在時刻でダミーリンクを走行している第2正規車両台数の累積値Bを算出する(S53)。第2正規車両台数の累積値Bは、任意の時刻(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)に対応するダミーリンクを走行する第2正規車両台数の累積値としてもよく、あるいは、所要の時間帯(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)対応するダミーリンクを走行する第2正規車両台数を複数回算出し、算出した値の累積値(合計値)としてもよい。
交通シミュレータ10は、仮の終点が与えられ、現在時刻でリンク(実車線)を走行しているダミー車両台数の累積値Cを算出する(S54)。ダミー車両台数の累積値Cは、任意の時刻(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)を走行するダミー車両台数の累積値としてもよく、あるいは、所要の時間帯(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)を走行するダミー車両台数を複数回算出し、算出した値の累積値(合計値)としてもよい。
評価値Eの算出対象時間帯でない場合(S50でNO)、あるいは、評価値Eの算出周期が経過していない場合(S51でNO)、交通シミュレータ10は、後述のステップS57以降の処理を行う。
交通シミュレータ10は、評価値算出対象最終時刻であるか否かを判定する(S55)。例えば、評価値Eの算出時間帯が7:00〜8:00である場合、評価値算出対象最終時刻は、午前8時となり、評価値Eの算出時間帯が17:00〜19:00である場合、評価値算出対象最終時刻は、午後7時となる。
評価値算出対象最終時刻である場合(S55でYES)、交通シミュレータ10は、累積値A、B、Cに基づいて評価値Eを算出し、出力する(S56)。評価値算出対象最終時刻でない場合(S55でNO)、交通シミュレータ10は、ステップS56の処理を行わずに、ステップS57以降の処理を行う。
交通シミュレータ10は、リンクに放出した車両をリンク下流交差点で再回収し(S57)、リンクから回収した車両をリンク下流交差点で再放出する(S58)。交通シミュレータ10は、起点(出発地)から車両を発生し、終点(目的地)で車両を回収し(S59)、信号灯器の信号灯色を、例えば、0.1秒進め、車両の移動モデルに従って車両を走行させ(S60)、シミュレーション周期(例えば、0.1秒)を終了する。
補正周期を経過していない場合(ステップS41でNO)、交通シミュレータ10は、補正を行わずにステップS57以降の処理を行う。
上述の図19及び図20で例示した処理は、シミュレーション周期(例えば、0.1秒)経過の都度繰り返し行われる。また、ステップS57、S58の処理を行わずに省略することもできる。この場合は、当該リンクの下流リンクで車両の放出又は回収を行う補正で調整する。当該リンクでの補正は、下流リンクに影響を与えるが、下流リンクでも補正処理が行なわれるので、推定渋滞長と実測渋滞長の差異を小さくすることができる。
次に、右折車の処理について説明する。信号情報判定部16は、任意のリンクを交差点に向かって走行する車両に対する当該リンク下流交差点での信号が、現在の周期で赤であり、かつ直近の周期で青である所定条件を充足するか否かを判定する。
現在の周期とは、後述の起点終点生成部17で終点交通量(リンクからの回収車両の台数に相当)を求める際の現在の補正周期であり、直近の周期とは、現在の補正周期の1つ前の補正周期である。例えば、補正周期が10秒である場合、現在の周期を現時点とすると、直近の周期は、現時点から10秒前の時点となる。また、現在の周期で赤であり、かつ直近の周期で青である条件は、信号の切り替わりを判定するための条件であり、青信号(青矢)から赤信号へ切り替わったか否かを判定している。
上述の所定条件を充足しない場合とは、例えば、補正周期を10秒としたときに、現時点から10秒前の時点と現時点とで、どちらも赤信号の場合、赤信号から青信号に切り替わった場合、どちらも青信号の場合などである。また、所定条件を充足する場合とは、例えば、補正周期を10秒としたときに、現時点から10秒前の時点と現時点とで、青(青矢)信号から赤信号へ切り替わった場合である。
起点終点生成部17は、信号情報判定部16で上述の所定条件を充足しないと判定した場合には、推定した待ち行列長から所定長を減算した長さに相当する台数の車両を当該リンクから回収する。所定長は、交差点の位置(停止視の位置)からの長さであり、車両を回収する位置に相当する。右折待ちの車両から所定長に相当する車両を差し引いた残りの車両をシミュレーション上右折車線から回収することで直進車線の閉塞を生じさせないようにすることができる。なお、直進車線の閉塞とは、右折車両又は左折車両が交差点手前で集中することにより、当該交差点を直進する直進車両が交差点をスムーズに通過できない状態をいう。
車両をリンクから回収することにより、シミュレーション上対象外の道路が存在する場合に起こり得る直進車線の閉塞を防止して、交通状況を実際の状況に合わせることができる。
図21はリンクから車両を回収する場合のダミーリンクの一例を示す模式図である。図21に示すように、リンクと流出方向のリンクとを接続するダミーリンクを備える。ダミーリンクとは、交差点の信号灯色に関係なく車両を回収することができる仮想の車線である。ダミーのリンクを通じて車両を回収することにより、シミュレーション上の所望の交差点へ向かうリンクで車両を回収することができる。
起点終点生成部17は、信号情報判定部31での判定結果が前述の所定条件を充足する場合には、推定した待ち行列長に相当する台数の車両を回収する。所定条件を充足する場合とは、例えば、補正周期を10秒としたときに、現時点から10秒前の時点と現時点とで、青(青矢)信号から赤信号へ切り替わった場合である。
所定条件を充足する場合には、青信号から赤信号に切り替わる間に右折待ちの車両がすべて交差点から所望の流出方向へ走行したとして、シミュレーション上右折待ちのすべての車両を回収することで、右折のための青信号時間は適切(例えば、右折感応制御が適切)であるとする。すなわち、右折感応制御によって青時間を延長する代わりに、赤信号に切り替わった時点で右折待ち車両をすべて回収することにより、右折待ち車両を適切に捌くことを可能としている。
これにより、シミュレーション上対象外の道路が存在する場合でも、直進車線の閉塞が生じることを防止して、交通評価指標を正しく再現することができる。また、交通環境などの評価条件を設定する前では、シミュレーション上信号制御が適切である状態を再現することができ、交通環境の変化などで評価条件を設定した後のシミュレーションでは、交通環境の変化を忠実に再現することが可能となる。
発生消滅部19は、任意のリンクから車両(右折待ち車両)を回収した場合、当該リンクの下流側で同等の車両を再放出する。任意のリンクで車両(右折車両)を回収した場合、当該リンクでの交通量が減少するので下流への流入交通量が減少し、下流リンクでの交通評価指標の推定値と実測値との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで車両を回収した場合に、当該リンクの下流側で同等の車両を再放出することにより、リンクで車両を回収したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。また、任意のリンクで車両を回収した場合に、当該リンクの下流側で同等の車両を再放出するときには、回収時に回収した車両の終点(本来の消滅地点)を記憶しておき、再放出の際に各車両に記憶しておいた終点を与えることもできる。なお、他の方法で終点を与えてもよい。
本実施の形態において、発生消滅部19は必須の構成ではない。すなわち、車両の再回収及び再放出は、必須ではなく省略することができる。再回収及び再放出を省略した場合には、放出または回収する補正台数による下流リンクへの影響は、下流リンクでの補正処理に委ねることができる。
図22及び図23は本実施の形態の交通シミュレータ10の待ち行列長を採用する場合の処理手順を示すフローチャートである。図22及び図23では、待ち行列長として右折待ち行列長を用いる場合について説明する。交通シミュレータ10は、補正周期(例えば、10秒)が経過したか否かを判定し(S71)、補正周期を経過した場合(ステップS71でYES)、すなわち、前回の補正のタイミングから10秒経過した場合、信号情報を取得し(S72)、右折待ち行列長を算出する(S73)。
交通シミュレータ10は、現在の補正周期での信号が赤であり、かつ直近の補正周期での信号が青であるか否を判定し(S74)、当該条件を充足する場合(S74でYES)、右折車線上の全車両(右折車両)を回収し(S75)、後述のステップS77の処理を行う。
交通シミュレータ10は、前述の条件を充足しない場合(S74でNO)、右折車線上で停止線から閾値(所定長)以上(上流)の位置で停止している車両(右折車両)を回収する(S76)。交通シミュレータ10は、回収台数を時刻とともに記憶部18に記録する(S77)。
交通シミュレータ10は、評価値Eの算出対象時間帯であるか否かを判定する(S78)。例えば、シミュレーションの対象時間帯は、6:00〜20:00であり、評価値Eの算出対象時間帯は、7:00〜8:00及び17:00〜19:00などである。
評価値Eの算出対象時間帯である場合(S78でYES)、交通シミュレータ10は、評価値Eの算出周期が経過したか否かを判定する(S79)。評価値Eの算出周期は、渋滞補正の周期、交通量補正の周期と同期させる。
評価値Eの算出周期が経過した場合(S79でYES)、交通シミュレータ10は、OD情報に従って起点から終点に向かい、かつ現在時刻でリンク(実車線)を走行している第1正規車両台数の累積値Aを算出する(S80)。第1正規車両台数の累積値Aは、任意の時刻(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)を走行する第1正規車両台数の累積値としてもよく、あるいは、所要の時間帯(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)を走行する第1正規車両台数を複数回算出し、算出した値の累積値(合計値)としてもよい。
交通シミュレータ10は、OD情報に従って起点から終点に向かい、かつ現在時刻でダミーリンクを走行している第2正規車両台数の累積値Bを算出する(S81)。第2正規車両台数の累積値Bは、任意の時刻(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)に対応するダミーリンクを走行する第2正規車両台数の累積値としてもよく、あるいは、所要の時間帯(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)対応するダミーリンクを走行する第2正規車両台数を複数回算出し、算出した値の累積値(合計値)としてもよい。
交通シミュレータ10は、仮の終点が与えられ、現在時刻でリンク(実車線)を走行しているダミー車両台数の累積値Cを算出する(S82)。ダミー車両台数の累積値Cは、任意の時刻(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)を走行するダミー車両台数の累積値としてもよく、あるいは、所要の時間帯(評価値算出対象時刻)におけるシミュレーション対象に含まれる各リンク(実車線)を走行するダミー車両台数を複数回算出し、算出した値の累積値(合計値)としてもよい。
評価値Eの算出対象時間帯でない場合(S78でNO)、あるいは、評価値Eの算出周期が経過していない場合(S79でNO)、交通シミュレータ10は、後述のステップS85以降の処理を行う。
交通シミュレータ10は、評価値算出対象最終時刻であるか否かを判定する(S83)。例えば、評価値Eの算出時間帯が7:00〜8:00である場合、評価値算出対象最終時刻は、午前8時となり、評価値Eの算出時間帯が17:00〜19:00である場合、評価値算出対象最終時刻は、午後7時となる。
評価値算出対象最終時刻である場合(S83でYES)、交通シミュレータ10は、累積値A、B、Cに基づいて評価値Eを算出し、出力する(S84)。評価値算出対象最終時刻でない場合(S83でNO)、交通シミュレータ10は、ステップS84の処理を行わずに、ステップS85以降の処理を行う。
交通シミュレータ10は、リンクから回収した車両をリンク下流交差点で再放出する(S85)。交通シミュレータ10は、起点(出発地)から車両を発生し、終点(目的地)で車両を回収し(S86)、信号灯器の信号灯色を、例えば、0.1秒進め、車両の移動モデルに従って車両を走行させ(S87)、シミュレーション周期(例えば、0.1秒)を終了する。
補正周期を経過していない場合(ステップS71でNO)、交通シミュレータ10は、補正を行わずにステップS85以降の処理を行う。
上述の図22及び図23で例示した処理は、シミュレーション周期(例えば、0.1秒)経過の都度繰り返し行われる。また、ステップS85の処理を行わずに省略することもできる。
図14乃至図16の渋滞長補正、図19及び図20の交通量補正、図22及び図23の右折車補正の各処理において、累積値A、B、Cに基づいて評価値Eを算出する処理があるが、かかる評価値Eの算出処理は、渋滞長補正、交通量補正及び右折車補正それぞれの処理で独立に行うのではなく、各処理で共通に行われる。すなわち、図14のステップS19、図19のステップS49及び図22のステップS77の各処理が終わった段階で、リンクとダミーリンク上の各車両(第1正規車両、第2正規車両、ダミー車両)の台数の累積値A、B、Cを求める。
なお、交通評価指標として待ち行列長を採用する場合でも、渋滞長の場合の図13に示す例と同様に、評価値Eを、第1正規車両台数N1/(第1正規車両台数N1+α×ダミー車両台数N2+β×第2正規車両台数N3)の式により算出することができる。
上述の交通シミュレータ10は、CPU、RAMなどを備えた汎用コンピュータを用いて実現することもできる。すなわち、図14乃至図16、図19及び図20、図22及び図23に示すような、各処理手順を定めたコンピュータプログラムをコンピュータに備えられたRAMにロードし、コンピュータプログラムをCPUで実行することにより、コンピュータ上で交通シミュレータ10を実現することができる。
上述の実施の形態では、交通評価指標の推定手段として、推定渋滞長算出部13、推定交通量算出部14、待ち行列長算出部15の3つの機能部をすべて具備する構成であったが、これに限定されるものではなく、これら3つの機能部のうち1つだけ具備する構成でもよく、あるいは2つだけ具備する構成でもよい。
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
そして、任意のリンクでの実測交通評価指標(実際に計測された交通評価指標)及び当該リンクで推定された推定交通評価指標が一致するように、当該リンクで正規の模擬車両(以下、正規車両とも称する)及び/又はダミーの模擬車両(以下、ダミー車両とも称する)として起点交通量(補正出発交通量)又は終点交通量(補正到着交通量)を生成する。ダミーの模擬車両は、模擬車両のうち正規の模擬車両以外の車両である。起点交通量は、交通評価指標を実測値に一致させるためにリンクに放出する車両による交通量であり、正規車両又はダミー車両のいずれか一方又は両者を含む。また、終点交通量は、交通評価指標を実測値に一致させるためにリンクから回収する車両による交通量であり、正規車両又はダミー車両のいずれか一方又は両者を含む。