JP2013040876A - X線回折装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】測定試料およびX線照射装置の姿勢を制御する駆動機構を有さず、測定可能な試料の大きさや形状に特段の制約がなく、測定面上に標準試料を安定して固定することができ、かつX線回折測定を行う際にX線の漏洩が防止されたX線回折装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るX線回折装置は、X線照射装置と二次元X線検出器とを有し前記二次元X線検出器よりも大きい測定対象物に対してX線回折測定を行うX線回折装置であって、前記二次元X線検出器は平板状に設置されており、前記X線照射装置は前記二次元X線検出器を貫通するように配設され、前記二次元X線検出器と前記X線照射装置とが一体に固定され、前記X線照射装置の姿勢を規定しかつX線の漏洩を防止するための筒状シールド部材が前記二次元X線検出器の周縁に配設されており、前記測定対象物の表面に前記X線回折測定に用いる標準試料粉末を付着させ固定する付着固定機構を具備することを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、X線回折装置に関し、特にX線回折パターンを二次元で測定することにより、残留応力を測定するX線回折装置に関するものである。
X線回折装置は、非破壊的な材料検査装置として、結晶構造分析、成分分析、残留応力測定など様々な材料評価に適用されている。回折X線の回折角度や回折強度を検出するため、一般的に、ゴニオメータ、ゼロ次元のシンチレーションカウンタ(SC: scintillation counter)、一次元の位置敏感型検出器(PSD: position sensitive detector)などが広く利用されている。ただし、これらのX線回折装置では、1回の照射で零次元や一次元の回折情報しか得られないため、材料評価に必要十分な情報得るに複雑な位置駆動機構や長い測定時間を要する弱点がある。
そのような弱点に対し、短時間で広範囲の回折情報を取得できる二次元検出器を設けたX線回折装置がある。二次元検出器としては、例えば、二次元の位置敏感型比例計数管(PSPC: position sensitive proportional counter)やイメージングプレート(IP: imaging plate)などが使用される。なお、イメージングプレートとは、プラスチックなどの支持板上に輝尽発光体(BaFX:Eu2+, X=Br, I)が塗布された放射線画像検出器の一種である。
例えば、特許文献1(特開2000-146871)には、試料の微小部にX線を照射して、その微小部に発生する回折X線を二次元検出器で検出する微小部X線回折装置および測定方法が開示されている。該X線回折装置は、二次元検出器として円筒状の輝尽性蛍光体を試料の回りに配置し、試料から試料面接線方向に沿って出る回折X線と試料面垂直方向に沿って出る回折X線との両方が輝尽性蛍光体によって検知できるように、試料の試料面を輝尽性蛍光体に対して傾斜(例えば45°傾斜)させている。特許文献1によると、試料に対して従来行われていた2軸回転のうちの1軸を省略し、試料の面内回転だけで輝尽性蛍光体に回折線像が得られるため、装置構造が簡単になって測定精度の低下を回避し、さらに測定時間を短縮できるとされている。
また、特許文献2(特開2005-351780)には、二次元X線検出器を用いて透過法に基づいた測定を行うことができるX線分析装置が開示されている。該X線分析装置は、試料を水平に支持する試料台と、試料にX線を照射するX線照射装置と、試料に対するX線入射角度を0°〜90°の範囲で制御するようにX線照射装置を支持するX線源アームと、試料から出るX線を検出する蓄積性蛍光体プレートとを有している。蓄積性蛍光体プレートは、X線入射角度と同じ読取角度とするとき、X線入射点を通り入射X線ビームに直交する円筒中心軸線を中心とした円筒面上の180°〜360°(好ましくは100°〜360°)の角度範囲に設けられている。特許文献2によると、試料で反射する回折線に加えて、透過法に基づいたX線分析をも行うことができるとされている。
特許文献3(特開平6-317484)には、入射X線の光路上のスリットおよび前置スクリーンを回転可能なゴニオメータに搭載した試料台の直前に配置し、入射X線の光軸を中心として回転可能なアームに、イメージングプレートを備えたイメージングプレート支持板を搭載し、イメージングプレートの前面に後置スクリーンを設置した微小領域応力測定用のX線露光装置が開示されている。スリット及び前置スクリーンを介してX線を試料上の微小領域に入射させ、試料上の微小領域(一辺が100μm〜1 mmの正方形などの小さな領域)から反射したX線回折アーク(X線回折により生じたデバイリングの一部)を、試料へのX線の入射角を数回変える毎に一枚の静止したイメージングプレートに多重露光させている。特許文献3によると、不連続なX線回折アークが検出可能で、かつ角度変化を精度良く読み取れ、多結晶材料の微小領域の応力測定が短時間で可能になるとされている。
特許文献4(特開2005-241308)には、測定対象物(鉄道レール)にX線を照射してこの測定対象物で回折した回折X線により発生する回折環の画像を撮像するためのX線回折装置であって、前記測定対象物に前記X線を照射するX線照射部と、前記回折X線のエネルギーを蓄積し前記回折環の画像を撮像する撮像部とを保持する保持部を備え、前記保持部は、前記測定対象物に対する前記X線の入射角が単一角度になるように、前記X線照射部と前記撮像部とを保持すること、を特徴とするX線回折装置が開示されている。特許文献4によると、取扱いが容易で安価な構造であり持ち運びに便利で簡単にX線回折環の画像を撮像することができるとされている。また、標準試料として鉄粉末を利用することで、撮像したX線回折環を解析して測定対象物(鉄道レール)の残留応力などを評価することができるとされている。
特開2000−146871号公報 特開2005−351780号公報 特開平6−317484号公報 特開2005−241308号公報
特許文献1や特許文献2に記載のX線回折装置は、測定試料またはX線照射装置の姿勢を制御する駆動機構を備えているため装置構成が複雑になり装置全体が大きくなりやすい弱点がある。また、二次元X線検出器が試料を囲む円筒面を形成しているため、測定可能な試料の大きさや形状が制約される弱点がある。すなわち、従来のX線回折装置は、実験室内に設置され比較的小さな測定試料にしか適用できない問題があった。
特許文献3に記載の微小領域応力測定用のX線露光装置も、測定試料が試料台に取り付けられ該試料台を回転するためのゴニオメータを備えているため、装置構成が複雑になると共に、測定可能な試料の大きさや形状が制約される弱点がある。また、測定試料の微小領域応力を測定するため標準試料粉を試料上に置いて試料と同時に露光させることが開示されているが、標準試料粉の固定の仕方などについては記載されていない。
一方、近年、プラント等で使用中の大型機器においては、該大型機器を構成する部材の健全性や劣化度合を検査するために、現場における非破壊検査の重要性が急速に高まっている。これに対し、上述したような特許文献1〜3のX線回折装置は、装置が大きくなりやすい上に測定可能な試料の大きさや形状が制約されることから、大型機器を構成する部材に対する設置現場における非破壊検査に適用することが極めて困難である。
特許文献4に記載のX線回折装置は、大きな測定対象物に対して安定した角度でX線照射部を設置することができると共に、該測定対象物を回転する駆動機構を必要としないという利点がある。しかしながら、残留応力などを測定・評価する際に必須となる標準試料の固定の仕方については記載されていない。これは、特許文献4において、測定対象物と測定面とが、実質的に鉄道レールとその頭頂面とに限定されていることに起因すると思われる。また、特許文献4には、X線照射部や測定対象物から散乱するX線に対する遮蔽について特段の記載がない。
プラント等で使用中の大型機器を構成する部材が測定対象物であり、大型機器の設置現場でX線回折測定を行う場合、測定しようとする面が、しばしば垂直面であったり鉛直下方を向く面であったりする。そのような場合、粉末状態の標準試料を測定面上に安定して固定することが困難になり、精度の高い測定・評価が困難になる問題が生じる。また、プラントの種類によっては異物混入厳禁の場合も多く、標準試料を飛散させずに測定面上に固定することは特に重要な課題である。さらに、作業者の安全確保のため、X線の漏洩を防止する対策があることが望ましい。
従って、本発明の目的は、上記の課題を解決し、測定試料およびX線照射装置の姿勢を制御する駆動機構を有さず、測定可能な試料の大きさや形状に特段の制約がなく、かつ測定面上に標準試料を安定して固定することができるX線回折装置を提供することにある。さらに、X線回折測定を行うにあたって、X線の漏洩が防止されたX線回折装置を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するため、X線照射装置と二次元X線検出器とを有し前記二次元X線検出器よりも大きい測定対象物に対してX線回折測定を行うX線回折装置であって、前記二次元X線検出器は平面状に設置されており、前記X線照射装置は前記二次元X線検出器の中央領域を貫通するように配設され、前記二次元X線検出器と前記X線照射装置とが一体に固定され、前記X線照射装置の姿勢を規定しかつX線の漏洩を防止するための筒状シールド部材が前記二次元X線検出器の周縁に配設されており、前記測定対象物の表面に前記X線回折測定に用いる標準試料粉末を付着させ固定する付着固定機構を具備することを特徴とするX線回折装置を提供する。なお、本発明において、筒状シールド部材の「筒状」とは、横断面形状が円形に限定されるものではなく、二次元X線検出器の外形に沿った任意の形状(例えば、矩形状や多角形状など)を含む。
本発明によれば、測定試料およびX線照射装置の姿勢を制御する駆動機構を有さず、測定可能な試料の大きさや形状に特段の制約がなく、かつ測定面上に標準試料を安定して固定するX線回折装置を提供することができる。その結果、X線回折装置を小型化することができので、測定対象物が移動困難な場合(例えば、大型機器を構成する部材に対する設置現場における検査)においても、測定しようとする面の向く方向に関わらず精度の高いX線回折測定が可能となる。さらに、X線の漏洩を防止して作業者の安全を確保することができる。
本発明に係るX線回折装置の1例を示す斜視模式図である。 噴射装置の1例を示す斜視模式図である。 異なる傾斜角βを有する筒状シールド部材の例を示す斜視模式図である。 本発明に係るX線回折装置の他の1例を示す斜視模式図である。 本発明に係るX線回折装置に用いる二次元X線検出器の1例(イメージングプレート)を示す斜視模式図である。 本発明に係るX線回折装置の更に他の1例を示す斜視模式図である。 本発明に係るX線回折装置の好適な具体例を示す斜視模式図である。 本発明に係るX線回折装置を用いたX線回折測定の1例を示す側面模式図である。 読み取り装置を用いて画像化したX線回折環の1例を示す図である。 cosα法の計算に必要なパラメータを示すX線回折環の模式図である。
前述したように、本発明に係るX線回折装置は、X線照射装置と二次元X線検出器とを有し前記二次元X線検出器よりも大きい測定対象物に対してX線回折測定を行うX線回折装置であって、前記二次元X線検出器は平板状に設置されており、前記X線照射装置は前記二次元X線検出器を貫通するように配設され、前記二次元X線検出器と前記X線照射装置とが一体に固定され、前記X線照射装置の姿勢を規定しかつX線の漏洩を防止するための筒状シールド部材が前記二次元X線検出器の周縁に配設されており、前記測定対象物の表面に前記X線回折測定に用いる標準試料粉末を付着させ固定する付着固定機構を具備することを特徴とする。
また、本発明は、上記の発明に係るX線回折装置において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(1)前記付着固定機構は前記標準試料粉末と分散媒との混合溶液を吹き付ける噴射装置であり、前記噴射装置は前記二次元X線検出器を貫通するように配設され前記二次元X線検出器と一体に固定されている。
(2)前記付着固定機構は前記標準試料粉末が分散されたポリマーシートであり、前記ポリマーシートは前記筒状シールド部材の前記測定対象物の側の開口面を覆うように配設されており、前記筒状シールド部材を前記測定対象物に押し付けることにより前記ポリマーシートが前記測定対象物表面に付着固定される。
(3)前記ポリマーシートは、その厚さが0.1 mm以上0.5 mm以下である。
(4)前記筒状シールド部材が容易に交換できるように着脱可能に構成されている。
(5)前記X線照射装置は、照射位置表示装置を具備している。
(6)前記二次元X線検出器が、輝尽性蛍光体を用いたイメージングプレートである。
(7)前記筒状シールド部材が、前記イメージングプレートに対する可視光の遮光カバーを兼ねている。
(8)前記イメージングプレートが、可視光は遮光するがX線は透過するカートリッジに収容されている。
(9)前記イメージングプレートが容易に交換できるように着脱可能に構成されている。
(10)前記二次元X線検出器が二次元の位置敏感型比例計数管である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同義の部材には同じ符号を付して重複する説明を省略する。また、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
図1は、本発明に係るX線回折装置の1例を示す斜視模式図である。図1に示したように、本発明に係るX線回折装置10は、二次元X線検出器2よりも大きい測定対象物5に対してX線回折測定を行うX線回折装置であって、X線照射装置1が平板状の二次元X線検出器2を貫通するように配設され、X線照射装置1の姿勢を規定しかつX線の漏洩を防止するための筒状シールド部材3が二次元X線検出器2の周縁に配設されている。また、X線回折装置10は、測定対象物5の表面にX線回折測定用の標準試料粉末を付着させ固定する付着固定機構として、標準試料粉末と分散媒との混合溶液を吹き付ける噴射装置4を具備する。
X線照射装置(例えば、X線管球)1から照射された入射X線は測定対象物5によって回折され、その回折線が二次元X線検出器2に受光され回折パターンが記録される。このとき、X線光路(入射線および回折線)の周囲にはX線を遮蔽する筒状シールド部材3が配設されているため、X線が漏洩することなく安全に測定することができる。なお、X線照射装置1には、照射位置表示装置(例えばレーザーポインタ、図示せず)が具備されていることが好ましい。それにより、測定対象物5の測定したい箇所への位置合わせが容易になる。
X線照射装置1と二次元X線検出器2とは一体に固定されている。X線照射装置1(厳密には、入射X線の光軸)と二次元X線検出器2とのなす角は、測定対象物5の表面形状や測定しようとする回折パターンなどに応じて任意に設定できるが、二次元X線検出器2の受光面の有効利用および解析の容易性の観点から、両者が垂直関係になるように固定されることが好ましい。
また、X線照射装置1を配設する二次元X線検出器2の面内位置にも特段の制限はなく、測定しようとする回折パターンなどに応じて任意に設定できる。例えば、回折パターンとしてDebye ringを全周で記録することを主目的にする場合には、二次元X線検出器2の中央領域にX線照射装置1を配設することが好ましく、複数のDebye ringを記録することを主目的にする場合には、二次元X線検出器2の端領域にX線照射装置1を配設することが好ましい。
筒状シールド部材3は、X線を遮蔽する役割に加えてX線照射装置1の照射姿勢を規定する役割も担っている。X線照射装置1と二次元X線検出器2とが垂直に固定されている場合、図1に示したX線の入射角Ψと筒状シールド部材3の傾斜角βとの間には、式「Ψ=90°−β」の関係が成り立つ。すなわち、異なる傾斜角βを有する筒状シールド部材3を利用することにより、X線の入射角Ψを制御することができる。言い換えると、X線の入射角Ψを制御するため、筒状シールド部材3を容易に交換できるように着脱可能に構成されていることが好ましい。
噴射装置4は、混合溶液噴射の安定性の観点やX線光路(入射線および回折線)を阻害しないようにする観点から、二次元X線検出器2を貫通するように配設され二次元X線検出器2と一体に固定されることが好ましい。例えば、最も小さい直径を有する回折パターン(Debye ring)の内側に噴射装置4を設置することは好ましい。
図2は、噴射装置の1例を示す斜視模式図である。図2においては、簡単化のため、噴射装置4と測定対象物5以外の部品を省略した。図2に示したように、噴射装置4は、X線回折測定に用いる標準試料粉末と分散媒との混合溶液を測定対象物5の測定箇所の表面に吹き付ける装置である。吹き付けられた混合溶液の分散媒が乾燥することにより、測定対象物5の表面上に標準試料粉末の被膜Sが固定される。その結果、測定しようとする面が垂直面であったり鉛直下方を向く面であったりしても、標準試料を測定面上に安定して固定して測定することができる。測定終了後、標準試料粉末の被膜Sを拭き取り除去する。噴射装置4に特段の限定はないが、例えばエアーブラシなどを利用できる。
ここで、標準試料粉末とは、測定対象物5の残留応力などをX線回折測定により求めるときに用いるものであり、通常、無歪みの(内部歪みが十分緩和された)結晶粉末である。分散媒としては、吹き付けた混合溶液の乾燥性の観点から、アルコールおよび/または水が好適に用いられる。標準試料粉末の被膜Sの形成を容易にするため、混合溶液に有機バインダなどを添加してもよい。
分散媒に対する標準試料粉末の体積比(標準試料粉末の体積/分散媒の体積)は、0.5以上5以下が好ましい。該体積比が0.5未満であると、標準試料粉末からの十分なX線回折強度を得るのが困難になったり、吹き付けたときに液だれし易くなったりする。一方、該体積比が5超であると、吹き付けた混合溶液の流動性が低下し、被膜Sの付着性が低下する(標準試料粉末の一部が剥離・落下し易くなる)。
図3は、異なる傾斜角βを有する筒状シールド部材の例を示す斜視模式図である。図3に示したように、筒状シールド部材3の傾斜角を「β=75°」や「β=90°」とすることにより、X線の入射角を「Ψ=25°」や「Ψ=0°」に制御することができる。
図4は、本発明に係るX線回折装置の他の例を示す斜視模式図である。図4に示したように、本発明に係るX線回折装置11およびX線回折装置12は、筒状シールド部材3の測定対象物の側(二次元X線検出器の反対側)が測定対象物の表面形状に合うように整形されている。これにより、従来は測定困難であった湾曲形状を有する部材(例えば、大径管の外周面や圧力容器の内周面など)に対しても、容易にX線測定を行うことができる。なお、筒状シールド部材3は、整形性および軽量化の観点から、プラスチック材料からなることが好ましい。
また、X線回折装置11およびX線回折装置12には、測定対象物の表面にX線回折測定用の標準試料粉末を付着させ固定する付着固定機構として、標準試料粉末が分散されたポリマーシート6が、筒状シールド部材3の測定対象物の側の開口面を覆うように配設されている。X線回折測定を行うに際に、筒状シールド部材3を測定対象物に押し付けることによりポリマーシート6が測定対象物表面に付着固定される。ポリマーシート6は、標準試料粉末が飛散することがないので、異物混入厳禁の測定環境において特に好適に利用できる。なお、言うまでも無いが、図1に示したX線回折装置10がポリマーシート6を具備してもよいし、X線回折装置11やX線回折装置12が噴射装置4を具備してもよい。
ポリマーシート6のポリマー素材に特段の限定はなく、X線の減衰が少なく測定対象物の表面形状への追従性が高いものであればよい。例えば、シリコーンゴムなどが挙げられる。ポリマーシート6の厚さは、0.1 mm以上0.5 mm以下が好ましい。0.1 mm未満の厚さでは破損しやすく、0.5 mm超の厚さでは測定対象物の表面形状への追従性が低下する。
図5は、本発明に係るX線回折装置に用いる二次元X線検出器の1例(イメージングプレート)を示す斜視模式図である。図5に示したように、イメージングプレート21は、プラスチックなどの支持平板7上に受光部材8として輝尽発光体(BaFX:Eu2+, X=Br, I)が形成されている。なお、図5では矩形状のイメージングプレートを記したが、該形状に限定されるものではない。
BaFX:Eu2+(X=Br, I)輝尽発光体は、あらゆる放射線に対して高感度かつ広いダイナミックレンジを示し、さらに高い空間分解能で大面積の二次元分布計測が可能である特徴を有する。該輝尽発光体に放射線が照射されると結晶中に電子と正孔が形成され、該電子がトラップされて準安定状態の着色中心が形成される。電子のトラップ量は吸収線量に比例する。一方、着色中心を形成した輝尽発光体にHe-Neレーザーなどの励起光を照射すると、そこに貯えられていた放射線エネルギーは輝尽発光として放出される。そこで、X線測定に用いたイメージングプレート21にレーザー光を二次元走査して、発生する輝尽発光を光電子増倍管などで時系列信号として計測すれば、記録されたX線の線量分布を読み出すことができる。
なお、輝尽発光体を可視光で感光させると着色中心が消去され、繰り返し使用することが可能となる。言い換えると、X線測定途中では、着色中心が可視光で感光されないように遮光することが望ましい。そのため、二次元X線検出器2としてイメージングプレート21を使用する場合は、筒状シールド部材3が可視光の遮光カバーの役割を兼ねていることが好ましい。一方、可視光は遮光するがX線は透過するカートリッジに輝尽発光体が収容されたイメージングプレートを用いてもよい。その場合は、筒状シールド部材3が可視光を遮光していなくてもよい。X線測定の作業性・利便性の観点から、イメージングプレート21は容易に交換できるようにX線回折装置10から着脱可能に構成されていることが好ましい。
図6は、本発明に係るX線回折装置の他の1例を示す斜視模式図である。図6に示したように、本発明に係るX線回折装置13は、平板状の二次元X線検出器2として二次元の位置敏感型比例計数管22が用いられている。二次元の位置敏感型比例計数管22を用いることにより、X線回折パターンの測定および画像化を同時に行うことができる。なお、図6においては、標準試料粉末の付着固定機構としてポリマーシート6を用い、二次元X線検出器2の側の筒状シールド部材3に傾斜角βを形成してX線照射装置1の照射姿勢を制御した場合を示した。
以上説明したように、本発明に係るX線回折装置は、平板状の二次元X線検出器とX線照射装置とを一体に固定し、X線照射装置の姿勢を規定する筒状シールド部材を有することから、測定対象物およびX線照射装置の姿勢を制御するための駆動機構を省略することができ、従来の装置に比して小型化・軽量化することができる。さらに、筒状シールド部材が、X線照射装置の姿勢制御とX線の漏洩防止を兼ねていることから、測定対象物の大きさや形状に特段の制約がない利点もある(図3、図4参照)。
また、本発明に係るX線回折装置は、標準試料粉末と分散媒との混合溶液を吹き付ける噴射装置、または標準試料粉末が分散されたポリマーシートを具備することから、測定対象物の表面にX線回折測定に用いる標準試料粉末を安定して固定することができる。その結果、測定しようとする面の向く方向に関わらず精度の高いX線回折測定が可能となる。すなわち、本発明に係るX線回折装置は、姿勢を動かすことができない測定対象物やサイズの大きい測定対象物に対して特に好適に用いることができる。
二次元X線検出器としてのイメージングプレートおよび二次元の位置敏感型比例計数管は、いずれも本発明の効果を果たすことができる。イメージングプレートは、構造が簡単でありコストが低い。また、測定対象物に合わせてサイズおよび形状の設計も容易である。一方、二次元の位置敏感型比例計数管は、イメージングプレートに比して構造が複雑でコストが高いが、X線回折パターンの測定および画像化を高精度かつ同時に可能である。これらの二次元X線検出器は、用途に応じて適宜選択することができる。
前述したように、プラント等で使用される大型機器(例えば、圧力容器)において、応力腐食割れに対する健全性を検査するために、圧力容器内壁の残留応力をX線回折によって測定・評価することがある。この場合、測定しようとする面が、しばしば垂直面であったり鉛直下方を向く面であったりする。本発明は、そのような測定環境において好適に利用することができる。以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図7は、本発明に係るX線回折装置の好適な具体例を示す斜視模式図である。図中の各寸法は、a=30 mm、b=10 mm、m=20 mm、n=25 mm、p=8 mm、β=60°である。X線照射装置1は二次元X線検出器2の中心を直角に貫通するように配設され、二次元X線検出器2とX線照射装置1とが一体に固定されている。筒状シールド部材3は二次元X線検出器2の周縁に密着するように配設されている。噴射装置4は、二次元X線検出器2を貫通するように配設されており、測定対象物5の測定箇所(X線照射箇所)に向かって混合溶液を吹き付けるように、二次元X線検出器2と一体に固定されている。また、二次元X線検出器2としてはイメージングプレートを用い、X線照射装置1としてはMn(マンガン)ターゲットのX線管球を用いた。
測定対象物5としては、ステンレス鋼(JIS SUS304)製の板材試験片(寸法=1000 mm×500 mm×20 mm)を用意した。板材試験片は、圧力容器の内壁を模擬して、測定表面に対して機械加工により引張残留応力を導入し、その長手方向が地面と垂直になるように設置した。
図8は、本発明に係るX線回折装置を用いたX線回折測定の1例を示す側面模式図である。まず、図8(a)に示したように、地面と垂直に設置した測定対象物5の測定表面に対して図7のX線回折装置を押し当てる。測定表面とX線回折装置との幾何学的関係は、イメージングプレート21中心部と測定表面との距離が約20 mmとなり、X線の入射角(測定表面の法線とX線照射装置1の軸方向との成す角)がΨ0=30°となる。測定箇所Aに対してMn-Kα線(波長=2.10314×10-10 m)を5〜10分間照射してX線回折測定を行った。入射X線は回折角θで回折し、イメージングプレート21の受光部材8には、測定箇所のX線回折環(Debye ring)81が記録される。
次に、図8(b)に示したように、測定箇所Aに対して噴射装置4から標準試料粉末を含む混合溶液を吹き付け、標準試料粉末の被膜Sを形成した。標準試料粉末としては、内部歪みを十分緩和した純銅粉末を用いた。その後、被膜Sに対してMn-Kα線を5〜10分間照射してX線回折測定を行った。入射X線は回折角θSで回折し、イメージングプレート21の受光部材8には、標準試料粉末のX線回折環(Debye ring)82が記録される。測定終了後、被膜Sを湿布で完全に拭き取った。
イメージングプレート21を用いて測定箇所Aの残留応力を高い精度で測定・評価するためには、測定箇所のX線回折環81の回折角θを正しく見積もる必要があるが、そのためには、言うまでも無く、標準試料粉末のX線回折環82を正確に記録する必要がある。図9は、読み取り装置を用いて画像化したX線回折環の1例を示す図である。図9に示したように、イメージングプレート21の受光部材8には、測定箇所のX線回折環81と標準試料粉末のX線回折環82とが記録されていることが確認された。
測定箇所Aの残留応力は、弾性学に基づいた残留応力評価法であるcosα法に従って計算することができる。図8に示したように、ηは入射X線と回折線のなす角であり、測定箇所Aを通る測定表面の法線を基準としてΨ0に加算する側を「+η side」とし、Ψ0に減算する側を「−η side」とする。言い換えると、図8に示すように、イメージングプレート21と測定表面との距離において、中心Oと測定箇所Aとの間の距離より小さい側を「+η side」とし、大きい側を「−η side」とする。また、θ0は測定対象物5の無歪み状態における回折角であり、θSは標準試料粉末の回折角である。
図10は、cosα法の計算に必要なパラメータを示すX線回折環の模式図である。まず、測定箇所のX線回折環81と標準試料粉末のX線回折環82のそれぞれのX線強度プロファイルにおいて、半価幅法によって円弧の線幅方向のピーク位置を全周に渡って求め、該ピーク位置に対して最小二乗法を用いてそれぞれの近似円を求める。次に、標準試料粉末のX線回折環82の近似円から中心O(すなわち、X線入射点、測定箇所A)およびこの近似円の半径L”を求める。次に、図10に示したように、標準試料粉末のX線回折環82の近似円における中心角「+α」、「−α」、「π+α」、「π−α」の方向において、標準試料粉末のX線回折環82の近似円と測定箇所のX線回折環81の近似円との間隔を、それぞれ「ΔL+α」、「ΔL−α」、「ΔLπ+α」、「ΔLπ−α」と定義し、α=5°〜80°(5°刻み)における「ΔL+α」、「ΔL−α」、「ΔLπ+α」、「ΔLπ−α」を求める。なお、「α」は「−η side」の中央を「0°」とし、反時計回りの中心角とした。
残留応力σxを求める計算式を式(1)〜式(4)に示す。
Figure 2013040876
Figure 2013040876
Figure 2013040876
Figure 2013040876
上記で求めた「ΔL+α」、「ΔL−α」、「ΔLπ+α」、「ΔLπ−α」を式(1)に代入して各αにおけるLαを求め、Lα−cosα線図を作成する。次に、Lα−cosα線図の傾きMαを最小二乗法により求める(式(2)参照)。式(3)に代入し、残留応力を測定した。
式(3)における「Ehkl/(1+νhkl)」は、測定対象物5の(hkl)回折面おけるX線的弾性定数(回折弾性定数)である。本実施では、測定対象物5の回折面はステンレス鋼(JIS SUS304)の(311)面であるが、簡単化のためJIS SUS304の一般値であるヤング率E=200 GPa、ポアソン比ν=0.3を用いた。なお、式(3)から解るように、Kαは、各種物性値から算出できることから、定数となる。
上記で得られた各値を式(4)に代入することで、測定箇所Aの残留応力σxを求めることができる。以上のような方法で、測定対象物5の表面の数箇所において残留応力を測定・解析した結果、機械加工を施した板材試験片の表面には200〜300 MPaの引張残留応力が存在することが確認された。すなわち、本発明に係るX線回折装置は、測定可能な試料の大きさや形状に特段の制約がなく、かつ測定しようとする面の向く方向に関わらず精度の高いX線回折測定が可能であることが実証された。
なお、上記実施例においては、「測定対象物のX線回折測定」を行った後に、「標準試料粉末の被膜形成」と「標準試料粉末のX線回折測定」とを行ったが、本発明はそれに限定されるものではない。入射X線が標準試料粉末の被膜を透過して下地の測定対象物の回折線の強度が十分確保できるならば、「標準試料粉末の被膜形成」を行った後に、「測定対象物のX線回折測定」と「標準試料粉末のX線回折測定」とを同時に行ってもよい。また、標準試料粉末の付着固定機構として標準試料粉末が分散されたポリマーシートを用いた場合は、必然的に「測定対象物のX線回折測定」と「標準試料粉末のX線回折測定」とが同時に行われる。
1…X線照射装置、2…二次元X線検出器、
21…イメージングプレート、22…位置敏感型比例計数管、
3…シールド部材、4…噴射装置、5…測定対象物、6…ポリマーシート、
7…支持平板、8…受光部材、
81…測定箇所のX線回折環、82…標準試料粉末のX線回折環、
10,11,12,13…X線回折装置。

Claims (11)

  1. X線照射装置と二次元X線検出器とを有し前記二次元X線検出器よりも大きい測定対象物に対してX線回折測定を行うX線回折装置であって、
    前記二次元X線検出器は平板状に設置されており、
    前記X線照射装置は前記二次元X線検出器を貫通するように配設され、
    前記二次元X線検出器と前記X線照射装置とが一体に固定され、
    前記X線照射装置の姿勢を規定しかつX線の漏洩を防止するための筒状シールド部材が前記二次元X線検出器の周縁に配設されており、
    前記測定対象物の表面に前記X線回折測定に用いる標準試料粉末を付着させ固定する付着固定機構を具備することを特徴とするX線回折装置。
  2. 請求項1に記載のX線回折装置において、
    前記付着固定機構は前記標準試料粉末と分散媒との混合溶液を吹き付ける噴射装置であり、
    前記噴射装置は前記二次元X線検出器を貫通するように配設され前記二次元X線検出器と一体に固定されていることを特徴とするX線回折装置。
  3. 請求項1に記載のX線回折装置において、
    前記付着固定機構は前記標準試料粉末が分散されたポリマーシートであり、
    前記ポリマーシートは前記筒状シールド部材の前記測定対象物の側の開口面を覆うように配設されており、前記筒状シールド部材を前記測定対象物に押し付けることにより前記ポリマーシートが前記測定対象物表面に付着固定されることを特徴とするX線回折装置。
  4. 請求項3に記載のX線回折装置において、
    前記ポリマーシートは、その厚さが0.1 mm以上0.5 mm以下であることを特徴とするX線回折装置。
  5. 請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のX線回折装置において、
    前記筒状シールド部材が容易に交換できるように着脱可能に構成されていることを特徴とするX線回折装置。
  6. 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のX線回折装置において、
    前記X線照射装置は、照射位置表示装置を具備していることを特徴とするX線回折装置。
  7. 請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のX線回折装置において、
    前記二次元X線検出器が輝尽性蛍光体を用いたイメージングプレートであることを特徴とするX線回折装置。
  8. 請求項7に記載のX線回折装置において、
    前記筒状シールド部材が、前記イメージングプレートに対する可視光の遮光カバーを兼ねていることを特徴とするX線回折装置。
  9. 請求項7に記載のX線回折装置において、
    前記イメージングプレートが、可視光は遮光するがX線は透過するカートリッジに収容されていることを特徴とするX線回折装置。
  10. 請求項7乃至請求項9のいずれかに記載のX線回折装置において、
    前記イメージングプレートが容易に交換できるように着脱可能に構成されていることを特徴とするX線回折装置。
  11. 請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のX線回折装置において、
    前記二次元X線検出器が位置敏感型比例計数管であることを特徴とするX線回折装置。
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