JP2012241213A - 銅微粒子の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】保護剤のゼラチン溶液の厳密な温度管理の必要がなく、合成後には余剰ゼラチンを容易に除去でき洗浄工程を簡略化することが可能で、均一な一次粒子を持ち再現性の高い銅微粒子を合成することが可能な銅微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】銅酸化物と保護剤とを含有する溶媒に、還元剤を添加して銅微粒子を生成させる銅微粒子の製造方法において、保護剤が強化脱塩したゼラチンであることを特徴としている。
【選択図】なし

Description

本発明は、銅微粒子の製造方法に関するものである。
銅微粒子の製造方法には大きく分けてガス中で合成する気相法と、液中で合成する液相法がある。
気相法はコンタミネーションが少なく高純度粒子の大量合成が可能であるが、製造過程が複雑で粒子の形態やサイズ制御が困難である。
一方、液相法は、純度の点では気相法に劣るが、pH調整・分散剤添加・粒子濃度等の簡便な操作で粒子形状の制御を行うことができ、合成装置の単純化の面からも近年再び注目されている。
一般的な液相法として、特許文献1にはアラビアゴム等の保護剤を含む水性溶媒中でヒドラジンにより銅酸化物を還元する方法が提案されており、粒子の凝集成長を保護剤により抑制し、粗大粒子の発生を防ぐことで平均粒子径400〜3200nmの銅粒子が得られている。
保護剤は高分子材料、界面活性剤、金属配位分子等の様々な物質が適用できるが、中でも安価で入手しやく耐酸化性被膜の形成が期待できるゼラチン等のタンパク質系保護剤が注目されている。
タンパク質系保護剤の欠点としては、保護剤として有効に作用する量を添加した場合、合成後の余剰保護剤の除去が難しいことや、固液分離工程の濾紙目詰まり発生により大量生産に不向きな限外濾過を余儀なくされること等がある。保護剤を少量にするとこれらの問題は改善されるが、保護剤としての機能が低下し粒子形状が不均一になる。
これに対して、特許文献2、特許文献3では、粒子合成後にタンパク質分解酵素を添加し保護剤を分解除去することで、重力濾過、吸引濾過、加圧濾過等の大量生産に向く手法を可能としている。また、少量の錯化剤添加により反応速度を変えることで粒子径の制御が可能となり、従来よりも微小な平均粒子径が50〜600nmの範囲の銅微粒子が得られている。
これらの手法で得られた銅微粒子は保護剤による被膜が形成されており、耐酸化性や耐蝕性の面で有利であるが、保護剤が絶縁体であるため導電性が低下する。この点を改善するものとして特許文献4には、この粒子を低酸素雰囲気化で加熱し、保護剤を熱分解することで銅微粒子に炭素被膜を形成することが提案されており、耐酸化性を損なうことなく保護被膜に導電性を付与している。
しかし一般的な市販ゼラチンは原料コラーゲン由来の大きな分子量分布(数万〜数百万)を持ち、そのまま保護剤として用いた場合には溶媒がゲル化しやすく温度管理の徹底を要するなど取扱いが難しい。
また特許文献2で提案されているタンパク質分解酵素は非常に高価であり大量生産におけるコスト高につながり、さらに微粒子を被覆しているゼラチンの分子量分布がより大きくなることが予測される。
以上のような技術的背景において、特許文献5ではゼラチンの添加量によって銅微粒子の粒子径を制御することも提案されている。
特公昭61−55562号公報 特開2007−039765号公報 国際公開第2006−019144号パンフレット 特開2008−285697号公報 特開2011−052283号公報
しかしながら、一般的にゼラチンは牛皮、豚皮、牛骨、鱗片等の生物由来原料から精製されるため、ナトリウム、カルシウム等の不純物を含んでいる。不純物の存在はゼラチンの保護剤としての機能を低下させ不揃いな凝集体を形成しやすい。また電子部品材料への適用の際には不純物残渣が金属劣化等につながる恐れがある。錯化剤添加による粒子径制御を行う場合、特にこの問題が発生しやすく、また特許文献3で提案されている少量の錯化剤添加では一次粒子の粗大化や凝集体が発生するなど再現性が低い。
また低酸素雰囲気下の熱処理により銅微粒子に炭素被膜を形成する場合、ゼラチン中の不純物により炭素の結晶成長が阻害され、導電性が十分に付与されないという問題がある。
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、保護剤のゼラチン溶液の厳密な温度管理の必要がなく、合成後には余剰ゼラチンを容易に除去でき洗浄工程を簡略化することが可能で、均一な一次粒子を持ち再現性の高い銅微粒子を合成することが可能な銅微粒子の製造方法を提供することを課題としている。
上記の課題を解決するために、本発明の銅微粒子の製造方法は、銅酸化物と保護剤とを含有する溶媒に、還元剤を添加して銅微粒子を生成させる銅微粒子の製造方法において、保護剤が強化脱塩したゼラチンであることを特徴としている。
この銅微粒子の製造方法においては、保護剤であるゼラチンの重量平均分子量が5000〜100000であることが好ましい。
この銅微粒子の製造方法においては、魚由来のゼラチンを用いることが好ましい。
この銅微粒子の製造方法においては、銅酸化物1molに対して3mol以下の錯化剤を添加することが好ましい。
この銅微粒子の製造方法においては、錯化剤は、2-アミノエタノールであることが好ましい。
この銅微粒子の製造方法においては、還元剤がヒドラジン水和物であり、銅酸化物1molに対してヒドラジン水和物の添加速度が0.02〜20mol/minであることが好ましい。
この銅微粒子の製造方法においては、前記生成した銅微粒子を不活性ガスもしくは還元性ガス雰囲気、または真空もしくは減圧下で熱処理することが好ましい。
本発明によれば、予め低分子化したゼラチン(短い鎖状構造を持つ)を保護剤に用いることで、ゼラチン溶液の厳密な温度管理の必要がなく、且つ、高価なタンパク質分解酵素を用いることなく濾別洗浄作業を行うことができる。また、例えばpH調整によるデカント法で上澄み液を除去するだけで余剰ゼラチンの除去が可能となるため洗浄工程を簡略化することができる。さらに、ゼラチンの分子量を変える(鎖状構造の長さを変える)ことにより、銅微粒子の一次粒子径を制御することが可能となる。
また、強化脱塩処理したゼラチンを保護剤に用いることで、均一な一次粒子を持ち再現性の高い銅微粒子を合成することが可能となる。
錯化剤を用いる場合、銅酸化物1molに対し3mol以下の範囲で添加するとより再現性の高い一次粒子径の制御が可能となる。
さらに生成した銅微粒子を低酸素雰囲気下で熱処理することで、炭素の結晶成長が促進され、十分な導電性が付与される。熱処理を施した粒子は十分に結晶成長した炭素被膜に銅が内包される構造を持つため、従来と比較して耐酸化性が向上する。
実施例1〜5におけるゼラチン分子量とSEM観察像の粒子径分布より算出したメディアン径(d50)、90%径(d90)、標準偏差の関係を示すグラフである。 実施例1の銅微粒子のSEM像である。 実施例5の銅微粒子のSEM像である。 実施例1、2、5のX線回折法の分析結果である。 実施例6〜9における酸化銅1molに対する2-アミノエタノールの添加量とSEM観察像の粒子径分布より算出したメディアン径(d50)、90%径(d90)、標準偏差の関係を示すグラフである。 実施例6の銅微粒子のSEM像である。 実施例9の銅微粒子のSEM像である。 実施例7、8のX線回折法の分析結果である。 実施例5で得られた銅微粒子についての熱処理前後における耐酸化特性をTG-DTAを用いて測定した結果である。 実施例11において得られた導電性薄膜のSEM断面写真である。 比較例1〜4における酸化銅1molに対する2-アミノエタノールの添加量とSEM観察像の粒子径分布より算出したメディアン径(d50)、90%径(d90)、標準偏差の関係を示すグラフである。 比較例2の銅微粒子(1回目作製)のSEM像である。 比較例2の銅微粒子(2回目作製)のSEM像である。 比較例5の銅微粒子のSEM像である。 実施例12〜17におけるヒドラジン添加速度とSEM観察像の粒子径分布より算出したメディアン径(d50)、90%径(d90)、標準偏差の関係を示すグラフである。 実施例13の銅微粒子のSEM像である。 実施例14の銅微粒子のSEM像である。 実施例17の銅微粒子のSEM像である。 実施例2、5、7、比較例2の銅微粒子の不純物残渣をICP−MSにより分析した評価3の結果である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明において保護剤として用いられるゼラチンは、牛や豚等の哺乳動物の骨、皮部や、サメやティラピア等の魚類の骨、皮、鱗部分等のコラーゲンを含有する原料から従来公知の方法で得ることができ、具体的には、例えば、熱水抽出、アルカリ処理、酸処理等により得ることができる。
ゼラチンとしては、加水分解ゼラチンを好適に用いることができる。加水分解ゼラチンは、コラーゲンに抽出処理を行った後に加水分解処理することにより得ることができる。加水分解ゼラチンを得るための加水分解方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、酵素を用いる方法、塩酸、硫酸、硝酸等の酸や水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリで化学的に処理する方法等を用いることができる。
酵素としては、ゼラチンのペプチド結合を切断する機能を有する酵素であればよい。例えば、タンパク質分解酵素またはプロテアーゼを用いることができ、具体的には、コラゲナーゼ、チオールプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、メタルプロテアーゼ等を用いることができる。
チオールプロテアーゼとしては、例えば、植物由来のキモパパイン、パパイン、プロメライシン、フィシン、動物由来のカテプシン、カルシウム依存性プロテアーゼ等を用いることができる。
セリンプロテアーゼとしては、例えば、トリプシン、カテプシンD等を用いることができる。
酸性プロテアーゼとしては、例えば、ペプシン、キモシン等を用いることができる。
加水分解処理に酵素を用いる場合、酵素の配合量は、加水分解処理前のゼラチン100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましい。加水分解は、例えば30〜70℃で行うことができ、処理時間は例えば0.5〜24時間とすることができる。
酵素により加水分解した場合には、処理後に酵素失活を行う。酵素失活は加熱により行うことができ、加熱温度は、例えば、70〜100℃である。
加水分解処理に酸またはアルカリを用いる場合、例えば、ゼラチン溶液をpH3〜10とし、50〜90℃の温度条件、1〜8時間の処理時間で加水分解を行うことができる。
酸またはアルカリにより加水分解した場合には、中和剤による中和やイオン交換樹脂等による脱塩を行う。
以上のような加水分解処理を終えた段階では、加水分解ゼラチンは加水分解処理液中に溶解または分散した状態である。この溶液に、通常採用される精製処理を施すことができる。
精製処理としては、特に限定されないが、例えば、活性炭の添加や、ろ過や遠心分離等の従来公知の固液分離処理により不純物除去を行うことができる。
本発明に用いられるゼラチンの重量平均分子量は、5000〜100000、好ましくは5000〜50000である。このように加水分解により低分子量化された加水分解ゼラチンは、得られる銅微粒子の粒径分布のばらつきが小さいものとなる。ゼラチンの重量平均分子量を5000〜100000の範囲内で変える(鎖状構造の長さを変える)ことにより、銅微粒子の一次粒子径を制御することが可能となる。重量平均分子量が小さ過ぎると保護剤としての機能が十分に果たせない場合があり、重量平均分子量が大き過ぎると平均粒径の制御が困難となる場合がある。
そして溶媒のゲル化や濾紙の目詰まり問題は、ゼラチンの高分子成分(長い鎖状構造)が要因であり、低分子化したゼラチンを保護剤として用いることで常温でのゲル化を抑制することができる。
また、低分子化したゼラチンは鎖状構造が短いため、高価なタンパク質分解酵素を用いなくても濾過等の操作が可能となる上、pH調整によるデカント法で上澄み液を除去するだけで余剰ゼラチンの除去が可能となる。
本発明においては、ゼラチンとして強化脱塩処理したものが用いられる。ゼラチンの脱塩には、イオン交換樹脂が用いられるが、強化脱塩では、H型強酸樹脂およびOH型強塩基樹脂を繰り返し通じてイオンを取り除く処理を行う。H型強酸樹脂としては、例えば、交換基として-SO3Hの構造を持つ樹脂、例えば、商品名ダイヤイオンPK216、PK218、ピュロライトC150などを用いることができる。OH型強塩基樹脂としては、例えば、交換基としてR-N(CH3)3 +OH-の構造を持つ、商品名ダイヤイオンWA30、WA21、ピュロライト A103などを用いることができる。これらを量に応じた長さ(30 cm以上)の1本もしくは2本のカラムに充填し、溶媒として脱イオン水・超純水などを用いて、ゼラチンを例えば1〜5回これらのカラムに繰り返し通してイオンを取り除く処理を行う。
強化脱塩処理したゼラチンを用いることで凝集体の発生が抑制される。不純物イオンの価数が大きいほど影響が大きいと考えられるため、2価のカルシウムやマグネシウム成分を除去することが重要であるが、強化脱塩処理によりこれらを除去することができる。
また、最終的に得られた銅微粒子を質量分析した結果より、魚由来原料より精製されたゼラチンは、牛骨由来等の他原料から精製されたゼラチンよりもNa残渣の少ない銅微粒子が合成できる知見を得ており、電子部品材料としての銅微粒子には金属腐食発生等を防止する意味で魚由来ゼラチンが好適である。
ゼラチン量は、生成した銅微粒子の分散安定化等を考慮すると、銅酸化物100重量部に対して5〜60重量部の範囲が好ましい。
本発明において銅酸化物としては、酸化第二銅等を用いることができる。例えば、電解法、化成法、加熱酸化法、熱分解法、間接湿式法等で工業的に製造されたものを用いることができる。
本発明においては、錯化剤を添加することができる。還元反応の際に錯化剤を存在させると金属微粒子の大きさを適宜に制御することができる。錯化剤としては、特に限定されないが、例えば、配位子のドナー原子が銅イオンまたは銅と結合して銅錯体化合物を形成し得る化合物を用いることができる。具体的には、例えば、2-アミノエタノール等のアルカノールアミン、グリシン、アラニン等の中性アミノ酸、ヒスチジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸等を用いることができる。中でも、2-アミノエタノールが好ましい。
錯化剤の添加量は、銅酸化物1molに対して3mol以下が好ましく、0.1〜3molがより好ましい。このような範囲で錯化剤を添加することで、一次粒子径を精度良く制御することができ、得られる粒子は均一で再現性が高くなる。
本発明において、還元剤としては、例えば、ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、抱水ヒドラジン等のヒドラジン系還元剤、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化ホウ素酸塩、クエン酸、アスコルビン酸類等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また還元剤の添加量は、銅酸化物から銅微粒子を生成できる量であれば適宜設定することができ、反応の適切な進行や粒子径の制御等を考慮すると、銅酸化物に含まれる銅元素1molに対して0.2〜5molの範囲が好ましい。
還元剤の還元作用を促すために、必要に応じて、温度やpHを調整することができる。温度は、例えば10℃〜用いた溶媒の沸点の範囲、特に40〜95℃の範囲とすることができる。反応液のpHは、ヒドラジン系還元剤を用いた場合には例えば11〜12の範囲にすることができる。
また、還元剤としてヒドラジン水和物を用いて、銅酸化物1molに対してヒドラジン水和物の添加速度を0.02〜20mol/minとすると、ヒドラジン添加速度により粒子径を精度良く制御することができ、得られた粒子の均一性も高い。
還元反応は、銅酸化物と還元剤とを、保護剤のゼラチンの存在下に水系溶媒等の溶媒中で混合して行われ、これにより銅微粒子が生成、析出する。
銅微粒子を析出させた後は、ろ過や遠心分離等による銅微粒子の回収、洗浄、乾燥等の通常の処理を行うことができる。
このようにして得られた銅微粒子は、真空中または水素雰囲気下で熱処理することができる。熱分解の条件は、高分子保護コロイドの全部が二酸化炭素、一酸化炭素等に分解されない条件で行う必要がある。そのため、高分子保護コロイドを熱分解する際の雰囲気、特に酸素分圧を調整しながら適当な温度で加熱する。
酸素分圧を調整するには、高純度の窒素、アルゴン等の不活性ガス、水素等の還元性ガスを用い、あるいは所定の酸素分圧になるように加熱装置内を真空または減圧にする。熱処理温度は適宜に設定することができるが、例えば150〜800℃で行うことができる。
本発明により得られる銅微粒子は、積層セラミックコンデンサの薄膜電極、プリント基板等の回路形成材料、その他の微小配線材料、導電性ペースト、帯電防止材、電磁波遮断材、赤外線遮断材、発色・着色剤等に好適に用いることができる。
例えば、インクペースト化することで電極材料や配線材料に好適に用いることができ、特に、積層セラミックスコンデンサ向けの電極材料に好適に用いることができる。
銅微粒子をペースト化する方法としては、例えば、銅微粒子を有機溶媒に添加し混練する方法を用いる。有機溶媒としては、例えば、テルピネオール、デカノール、ヘキサノール、メタノール、エタノール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジオール類、グリコール類、ポリオール類等のアルコール類、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミン類、ヘキサン、トルエン、キシレン、オクタン、デカン、ウンデカン、テトラウンデカン等の炭化水素類、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル類等を用いることができる。
銅微粒子と有機溶媒との重量比率は、例えば、1:1〜1.1とすることができる。また、ペーストの物性安定化や品質向上のために、エチルセルロース等の有機バインダーや、可塑剤、増粘防止剤、分散剤等の添加剤を加えてもよい。
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において銅微粒子の平均粒子径はSEM写真観察により視野から無作為に粒子を選択して求めた。
また、ゼラチンの重量平均分子量は、パギイ法により測定した。ここでパギイ法とは、高速液体クロマトグラフィーを用いたゲルろ過法により、試料溶液のクロマトグラムを求め、分子量分布を推定する方法である。具体的には、次の方法により測定した。
試料2.0gを100mLメスフラスコに取り、0.1Mリン酸ニ水素カリウムと0.1Mリン酸ニ水素ナトリウムの等量混合液からなる溶離液を加えて1時間膨張させた後、40℃で60分間加熱して溶かし、室温に冷却後、溶離液を正確に10倍に希釈して、得られた溶液を検液とした。
この検液のクロマトグラムを次の条件によるゲルろ過法により測定した。
カラム:Shodex Asahipak GS 620 7Gを2本直列に装着したものを用いた。
流速:1.0mL/min
カラム温度:50℃
測定波長:230nm
分子量既知のプルラン(P-82、昭和電工社製)で溶出時間を求めて検量線を作成した。その後、ゼラチンを分析し、検体の重量平均分子量を下式から求めた。
重量平均分子量=(ΣSi×Mi)/ΣSi
ここでSiは各ポイントでの吸光度、Miは溶出時間Tiでの分子量である。
[評価1]
分子量の異なるゼラチン(新田ゼラチン製)32gを950ccの純水に添加し、20℃にて撹拌放置した場合のゲル化の有無を目視調査した。
その結果、分子量238000の一般的なゼラチンではゲル化したが、分子量を7000〜42000に制限したゼラチンではゲル化が認められなかった(表1)。
下記の実施例にはゲル化が認められなかった分子量を7000〜42000のゼラチンを用いた。
[評価2]
脱塩処理の有無に伴うゼラチンの不純物残渣について、原子吸光法、イオンクロマトグラフにて分析した。
その結果、不純物の影響が大きいと思われる2価のマグネシウム、カルシウムイオンが強化脱塩により大きく減少した(表2)。
下記の実施例には上記のように強化脱塩したゼラチンを用いた。
<実施例1〜5>
(手法)
表3に示す分子量の異なる強化脱塩牛骨ゼラチン32g(新田ゼラチン製)を950ccの純水に十分に溶かした後、酸化第二銅(日進ケムコ製N-130)80gを添加し、アンモニア水(関東化学製01266-00)を用いて混合液のpHを11に調整した後、撹拌しながら1時間かけて80℃まで昇温した。
昇温後、ヒドラジン一水和物(関東化学製18383-00)120ccを添加し2時間かけて反応させた後、クエン酸飽和水溶液によりpHを8.5に調整し一次粒子を凝集させ、デカント法により上澄み除去・水洗を行った後、乾燥させ銅微粒子を回収した。
(結果)
ゼラチン分子量とSEM観察像の粒子径分布より算出したメディアン径(d50)、90%径(d90)、標準偏差の関係を図1に示す。
図1よりゼラチン分子量により粒子径が制御可能であると言える。
図2、図3に示す実施例1と実施例5のSEM像の比較では粒子径の差異が容易に確認できる。SEM像と、各々の粒子径分布の標準偏差が50nm以下であることからこの製法で得られた粒子は均一性が高いと言える。
また、図3に示す実施例1、2、5のX線回折法の分析結果では、銅以外の回折ピークが見られないことから、ゼラチンが耐酸化性被膜として有効に機能していることがわかる。
<実施例6〜9>
(手法)
強化脱塩魚ゼラチン32g(新田ゼラチン製)を950ccの純水に十分に溶かした後、酸化第二銅(日進ケムコ製N-130)80gを添加し、表4に示す錯化剤を添加した後、撹拌しながら1時間かけて90℃まで昇温した。
昇温後、ヒドラジン一水和物(関東化学製18383-00)120ccを添加し2時間かけて反応させた後、クエン酸飽和水溶液によりpHを8.5に調整し一次粒子を凝集させ、デカント法により上澄み除去・水洗を行った後、乾燥させ銅微粒子を回収した。
(結果)
酸化銅1molに対する2-アミノエタノールの添加量とSEM観察像の粒子径分布より算出したメディアン径(d50)、90%径(d90)、標準偏差の関係を図5に示す。
図5より2-アミノエタノールの添加量で粒子径が制御可能であると言える。
図6、図7に示す実施例6と実施例9のSEM像の比較では粒子径の差異が容易に確認できる。SEM像と、各々の粒子径分布の標準偏差が64nm以下であることからこの製法で得られた粒子は均一性が高いと言える。
また図8に示す実施例7、8のX線回折法の分析結果では、銅以外の回折ピークが見られないことから、ゼラチンが耐酸化性被膜として有効に機能していることがわかる。
<実施例10>
実施例5で得られた銅微粒子を真空中にて600℃1時間の熱処理を実施した。熱処理後、TG-DTAを用いて、空気中で800℃まで加熱したときの重量変化を見ることで耐酸化特性を熱処理前後で比較した。
図9に示す結果は、熱処理をすることで温度上昇に対する重量増が少なくなることから、耐酸化特性が向上したことがわかる。
<実施例11>
(手法)
実施例2で得られた銅微粒子に、2-プロパノールで約50倍に希釈した高分子カチオン型分散剤(Croda Japan製)200ccを添加し十分に撹拌した後、乾燥、ブレードミル粉砕により分散剤被覆微粒子を作製した。
その後、得られた粒子と印刷用ビヒクル(日新化成製EC-100FTD)をαテルピネオール(関東化学製40022-01)により2倍希釈した溶液を重量比1:1で混合し、高圧噴射法により分散させ導電性ペーストを得た。
得られた印刷ペーストを10μmのドクターブレードにより塗布・仮焼成することで最終的に導電性薄膜を形成した。
(結果)
図10に示すSEM断面写真より、基材上に塗布形成した約0.8μmの均一な導電性薄膜が確認できる。これは本製法で得られた銅微粒子が薄膜電極材料への適用が可能であることを示唆している。
<比較例1〜4>
(手法)
強化脱塩未実施の魚ゼラチン32g(新田ゼラチン製)を950ccの純水に十分に溶かした後、酸化第二銅(日進ケムコ製N-130)80gを添加し、表5に示す錯化剤を添加した後、撹拌しながら1時間かけて90℃まで昇温した。
昇温後、ヒドラジン一水和物(関東化学製18383-00)120ccを添加し2時間かけて反応させた後、クエン酸飽和水溶液によりpHを8.5に調整し一次粒子を凝集させ、デカント法により上澄み除去・水洗を行った後、乾燥させ銅微粒子を回収した。
(結果)
酸化銅1molに対する2-アミノエタノールの添加量とSEM観察像の粒子径分布より算出したメディアン径(d50)、90%径(d90)、標準偏差の関係を図11に示す。
実施例6〜9で見られた錯化剤添加量に対する粒子径の相関関係は殆ど見られない上、同条件で2回実施した比較例2は、粗大粒子が発生し再現が取れないケースもあった(図12、図13)。また、得られた粒子の標準偏差は30〜130nmと大きな値を示し粒子が不均一であることを示している。
<比較例5>
(手法)
実施例2で用いた強化脱塩牛骨ゼラチン32g(新田ゼラチン製)と、水酸化カルシウム0.178gを950ccの純水に十分に溶かした後、酸化第二銅(日進ケムコ製N-130)80gを添加し、アンモニア水(関東化学製01266-00)を用いて混合液のpHを11に調整した後、撹拌しながら1時間かけて80℃まで昇温した。
昇温後、ヒドラジン一水和物(関東化学製18383-00)120ccを添加し2時間かけて反応させた後、クエン酸飽和水溶液によりpHを8.5に調整し一次粒子を凝集させ、デカント法により上澄み除去・水洗を行った後、乾燥させ銅微粒子を回収した。
(結果)
得られた粒子のSEM写真を図14に示す。カルシウムの意図的な添加により粒子の凝集粗大化が確認でき、不純物残渣が不均一な粗大粒子を発生させる要因であることがわかる。また、この結果は銅微粒子を合成する際に用いる水について、製造コストが許す範囲で不純物残渣の少ない超純水を適用することが望ましいことも示唆している。
[評価3]
実施例2、実施例5、実施例7、比較例2の製法で合成した銅微粒子の不純物残渣をICP−MSにより分析した。その結果、図19に示すように魚由来ゼラチンを用いると、ナトリウム成分が牛骨由来ゼラチンよりも大幅に少ないことが判明した。ナトリウムイオンは金属腐食発生の要因となり、電子部品に禁忌であることから、電子部品材料としての銅微粒子には魚由来ゼラチンを用いることが好ましいと言える。
<実施例12〜17>
(手法)
強化脱塩牛骨ゼラチン32g(新田ゼラチン製)を950ccの純水に十分に溶かした後、酸化第二銅(日進ケムコ製N-130)80gを添加し、アンモニア水(関東化学製01266-00)を用いて混合液のpHを11に調整した後、撹拌しながら1時間かけて80℃まで昇温した。
昇温後、ヒドラジン一水和物(関東化学製18383-00)120ccを表6に示す速度で添加し2時間かけて反応させた後、クエン酸飽和水溶液によりpHを8.5に調整し一次粒子を凝集させ、デカント法により上澄み除去・水洗を行った後、乾燥させ銅微粒子を回収した。
(結果)
ヒドラジン添加速度とSEM観察像の粒子径分布より算出したメディアン径(d50)、90%径(d90)、標準偏差の関係を図15に示す。図15よりヒドラジン添加速度により粒子径が制御可能であると言える。図16〜図18に示す実施例13、14、17のSEM像の比較から粒子径の差異が明確に確認できる。SEM像と、各々の粒子径分布の標準偏差が概ね50nm以下であることからこの製法で得られた粒子は均一性が高いと言える。
この結果は、還元速度の差異により粒子径が決定することを示唆している。用いた酸化第二銅(日進ケムコ製N-130)の粒子径が1〜10μmと大きく表面積が小さいことから銅イオンの供給律速によりヒドラジン添加速度が20cc/min以上の領域で粒子径が飽和すると考えられ、例えば原料酸化銅の表面改質や粉砕により予め表面積の大きいものを使用すると、飽和点はヒドラジン添加速度が高い領域に移動することが予測され、原料表面積に応じて添加速度を決定することが望ましい。
また、ヒドラジン添加速度を固定とする場合は、原料酸化銅の表面積を変化させることによっても粒子径が制御可能と考えられる。また、実施例6〜9のように錯化剤の添加量等により銅イオンの供給速度を変えることによっても、粒子径を制御することが可能である。
もちろん、添加するヒドラジンの濃度を変えたり、還元力の異なる他の還元剤(水素、水素化ホウ素酸塩、クエン酸、アスコルビン酸等)を用いて粒子径を制御することも可能と考えられる。

Claims (7)

  1. 銅酸化物と保護剤とを含有する溶媒に、還元剤を添加して銅微粒子を生成させる銅微粒子の製造方法において、保護剤が強化脱塩したゼラチンであることを特徴とする銅微粒子の製造方法。
  2. 保護剤であるゼラチンの重量平均分子量が5000〜100000であることを特徴とする請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
  3. 魚由来のゼラチンを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の銅微粒子の製造方法。
  4. 銅酸化物1molに対して3mol以下の錯化剤を添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
  5. 錯化剤は、2-アミノエタノールであることを特徴とする請求項4に記載の銅微粒子の製造方法。
  6. 還元剤がヒドラジン水和物であり、銅酸化物1molに対してヒドラジン水和物の添加速度が0.02〜20mol/minであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
  7. 前記生成した銅微粒子を不活性ガスもしくは還元性ガス雰囲気、または真空もしくは減圧下で熱処理することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
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