JP2012223704A - 孔拡散型あるいは孔拡散ろ過型の膜カートリッジを設置した膜分離装置と該分離方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】
温和な条件下で分子および粒子の拡散を利用した物質の膜分離を行う方法において、一次側流路における流速および膜間差圧を制御することができる分離方法及び分離装置を提供する。
【解決手段】分子および粒子の拡散速度の差を主に利用した物質の分離方法で、一次側流路の入口側あるいは出口側あるいは両方にポンプを有し、流体を分離する装置において、ポンプの吐出力を調節することで、流速および膜間差圧を調整することができる。また流体に圧力をかける手段として一次側流路入口に連結した流体用タンク内にエア圧をかけるか、あるいは貯水高さを高くして水頭圧を生じさせることによっても流速および膜間差圧を調節することができる。
【選択図】図1
温和な条件下で分子および粒子の拡散を利用した物質の膜分離を行う方法において、一次側流路における流速および膜間差圧を制御することができる分離方法及び分離装置を提供する。
【解決手段】分子および粒子の拡散速度の差を主に利用した物質の分離方法で、一次側流路の入口側あるいは出口側あるいは両方にポンプを有し、流体を分離する装置において、ポンプの吐出力を調節することで、流速および膜間差圧を調整することができる。また流体に圧力をかける手段として一次側流路入口に連結した流体用タンク内にエア圧をかけるか、あるいは貯水高さを高くして水頭圧を生じさせることによっても流速および膜間差圧を調節することができる。
【選択図】図1
Description
本発明は平膜を利用した温和な低圧力条件下で、分子および粒子の拡散の速度差を主に利用した物質の孔拡散による分離法、および該分離法に膜間差圧によるろ過を併用した孔拡散ろ過による分離法および該分離法を実現した膜分離装置に関する。詳しくは多層構造を持つ多孔性平膜を用いたろ過分離方法、あるいは多孔性平膜中の孔を介した物質の拡散現象を利用した物質分離精製方法であり、特定の粒径を持つ分子あるいは粒子、たとえば有用な高分子、生理活性物質、ガス成分の分離精製および、有害性微粒子、感染性微生物等の高度な除去を実現する方法、およびその分離装置に関する。
平膜を利用した分離技術および分離装置としては主なものとして逆浸透膜を使用したろ過分離技術および限外ろ過膜を使用したろ過膜モジュールがある。逆浸透膜の利用される膜の平均孔径は約0.5nmであり、膜間差圧は30気圧以上でろ過する。そのためたとえば平板型のろ過膜モジュールとしては膜を硬質の支持体に設置し、ろ過液を集水する流路を持った装置の例として特開平11-216341平板型膜モジュール、および特開平10-180052 膜分離装置がある。また、流路を支持体に組み合わせ、トンネル状に連結させたものとして、特開2007-268388 膜カートリッジおよび浸漬型膜分離装置、および特開平07-096148 分離膜装置がある。これらは流路を流れる溶液に圧力をかけてろ過する、いわゆる加圧式ろ過膜モジュールである。平膜を用いた加圧式ろ過膜モジュールに負荷される膜間差圧は2気圧以上である。
上記のような、膜平面に対して垂直方向の流れ(結果的にろ液としての流れ)を大きくすることを目的としたろ過を行ういわゆるデッドエンド方式のろ過では、目詰まりが急速に進行してしまう。そうした目詰まりを防止するため、膜に対して平行に流体を流すタンジェンシャルフロー方式がある。たとえば、特開平5-309217や、あるいは特許第3828143号などである。膜表面へ濃縮される目詰まりの原因物質を流体の流れで膜表面からはぎとる効果を期待したり、あるいは膜表面で起こる濃度分極の寄与を極小化する効果を期待する。
平膜を用い、かつ分子および粒子の拡散の速度差を主に利用した物質の膜分離技術に関しては例えば、特開2008-260001大きさが15nm以下の微粒子の膜隔離膜除去および膜濃縮方法、および特開2005-349268多孔性平膜の拡散現象を利用した物質分離精製方法がある。拡散とは分子および粒子のブラウン運動の結果として濃度勾配を駆動力とした物質移動を意味し、特に多孔膜中の孔を介した拡散が主である拡散を孔拡散と呼ぶ。従来の膜中での物質の拡散は膜を構成する素材の基質部を介した拡散で、一般に溶解拡散と定義されている拡散である。孔拡散と溶解拡散との区別は拡散の見掛けの活性化エネルギーを測定すればよい。前者の拡散の場合、該エネルギーは0〜4kcal/mol、後者は8〜50kcal/molの値を示す。また孔拡散ろ過とは、孔拡散による分離行程において対象とする分子(または粒子)の拡散速度以下のろ過速度となる。一般的にはわずかな(たとえば0.15気圧以下)の膜間差圧が生じるように溶液に静圧をかけ、大きな目詰まりが生じないようにろ過速度でのろ過と孔拡散による物質移動とを組み合わせた分離法である。孔拡散が実現するには孔の大きさが孔拡散対象とする分子の分子径の5倍以上であることが必要である。
従来から利用されている膜中の拡散は、膜の素材である高分子基質内に物質が溶解し、溶解後膜中を拡散するいわゆる溶解拡散機構での移動である。この機構での低分子の拡散係数は約10-10cm2/秒である。そのため産業的には利用しにくいほど遅い物質移動速度である。これに対して孔拡散では拡散係数は約10-6cm2/秒であり、膜間差圧が1気圧で、膜間の濃度差が10重量%であれば、拡散速度は濾過速度のほぼ1/10以上であり、産業的に利用可能な値となる。
定常孔拡散法とは膜中の孔を介した拡散において、膜表面と膜裏面との物質の濃度の差が時間的にほぼ一定に保たれる拡散を意味する。従来より透析等で利用される拡散ではこの濃度差の時間変化が起こり拡散速度は経時的に減少し定常状態は達成できない。定常状態を保つためには、原液および拡散液を平膜平面に沿って平行に、かつ一定速度で流す必要がある。この際、濾過による物質移動を起こりにくくするために、流す方向は両者同一方向に設定することが望ましい。定常孔拡散は孔拡散法の典型的な特性を知るために不可欠な条件ではあるが、実用的な孔拡散法では必ずしも定常的である必要はない。定常孔拡散を現実的に実現させるには(1)ろ過を主体としての物質移動が起こらない工夫と、(2)原液と拡散液との両者が一定速度で流れ、かつ膜モジュールでの原液の入口側と出口側の濃度変化が10%以内であることが必要である。
被拡散液の膜表面におけるひずみ速度は1/秒以上であれば膜表面における20μm以上の物質の堆積を防止できることを発見し、本発明に至った。ひずみ速度の極端な増加は被拡散液中の生理活性物質の不活化をもたらしたり、あるいは大粒子を小粒子に変形させる場合もあるのでひずみ速度は被拡散液の組成に依存した最適値が存在する。
平膜分離方法において一次側流体を吸引する手法は、いわゆる逆洗による膜の洗浄方法において多く見られる。たとえば特許第3426964号や、特開平06-226013などである。これは膜の一次側表面に堆積した成分を除去するために行う手法である。また、活性汚泥法に使用される膜分離モジュールにおいては、二次側に吸引ポンプを設置して処理水を得る方法がある。この吸引方法を界面活性を示す成分を溶解した水溶液に適用すると二次側に泡が発生し、吸引するための圧力負荷が非効率となる。
ろ過圧力や流速などろ過条件を制御しながらろ過を行う手法は前述のタンジェンシャルフローにおける特許第3828143号がある。また吸引ポンプによってろ過条件を制御する技術は、上記のような活性汚泥法に使用される膜分離モジュールにおいて見られる。たとえば特開2003-290766などである。各膜分離モジュール毎に圧力計や積算流量計を設置し、モジュールの汚染状況に応じて吸引ポンプの吸い込み流量を制御し、ろ過する処理水の水量を調整する方法である。ろ過による処理水の清浄度の増加度とろ過速度との間にはほぼ反比例的な関係が得られているが、膜の表面汚染、孔の目詰まりあるいは濃度分極によるろ過速度の減少に対してタンジェンシャルフローにおける改善効果として認められているが、高い膜間差圧を維持しつつ、この改善効果を高めるにはエネルギーの消費と膜の力学的破損の可能性が増大する。そのため処理水の膜面での流れ速度を変化させる範囲は非常に狭い。
ろ過速度は膜間差圧と正の相関性があるため膜間差圧を可能な限り大きくしてろ過分離が行われる。しかし膜間差圧を高めると膜表面および膜内部の孔に次第に分離対象物質が堆積し、目詰まりが起り、濾過速度の減少と回収率の低下が起きる。さらに分離すべき分子の大きさが小さくなると該分子の分離除去用の平膜の平均孔径は小さく設計せざるを得ない。平均孔径を小さくするとろ過速度、濾過量が平均孔径の2乗あるいは4乗に反比例して小さくなる課題があった。逆洗により堆積物を除去する方法もあるが、根本的な解決にならない。膜内部の孔の目詰まりはろ過では不可避と考えられるが、これを極小化する膜分離方式を選定する必要がある。
上記のようなデッドエンド方式による目詰まりを防止するため、膜に対して流体を平行に流す平行ろ過、いわゆるタンジェンシャルフロー方式を採用する場合がある。しかし平膜モジュールにおいて一次側流路が狭い場合、安定した流速および均質な流速分布が得られず、その結果、膜表面に堆積した粒子を除去するだけの十分な膜表面でのひずみ速度が得られない。特に中空糸内部が一次側の場合、一次側流速を増加させると中空糸内部での流れによる圧力損失が生じ、その結果、中空糸の流れる入口部と出口部でのろ過速度の差が生じるのみでなく中空糸内での一定のひずみ速度が得られない。静水圧表示での膜間差圧を大きくすることでろ過分離を行う場合は、漏れを防止するために一次側流路は小さくせざるを得ず、その結果、十分なかつ安定的な流速、すなわちひずみ速度が得られない。また、大きな膜間差圧に耐える膜構造とモジュール構造にしなければならないため、高コストとなりがちである。膜表面でのひずみ速度をすべての膜表面で均質化するモジュール設計が必要である。
また従来のような一次側からの静水圧による加圧方式のみでは、膜間差圧と流速の制御が難しい。十分なかつ安定的なひずみ速度を保持しつつ、膜間差圧を制御するためには、一次側からの加圧方式のみでは、ろ液の透過速度によって流速と膜間差圧を同時にかつ精密に調整できないため、分離条件の最適化が難しい。
大きな膜間差圧による目詰まりを防止するため、本発明では孔拡散ろ過方法を採用する。すなわち、本発明の最大の特徴は孔拡散あるいは孔拡散ろ過方式による膜分離方法を採用した点にある。この孔拡散あるいは孔拡散ろ過は次のような特徴を持つ。すなわち(1)平膜の目詰まりが起こりにくい,(2)拡散速度の差に基づき孔径より小さな物質の分離精製が可能,(3)孔内での体積流がないことによる分離処理中での力学的孔破壊がない,(4)ろ過で中心となるふるい効果がほぼそのまま起こる。以上のような特徴を保持しつつ、拡散のもつ欠点すなわち物質移動速度が遅い、及び拡散液中の物質濃度が低い欠点も孔拡散ろ過方式では解消できる。従来から利用されている拡散は、膜の素材である高分子基質内に物質が溶解し、溶解後膜中を拡散するいわゆる溶解拡散機構での移動である。この機構での拡散係数は約10-10 cm2/秒である。そのため産業的には利用しにくいほど遅い速度である。これに対して孔拡散では拡散係数は約10-6 cm2/秒であり、濃度勾配が0.1重量%/ミクロンの条件下での拡散速度はろ過速度のほぼ1/10であり、産業的に利用可能な値となる。本発明で採用されるモジュールは孔拡散および孔拡散ろ過のいずれでも適用できるモジュールである。すなわち分離対象分子または粒子の径の3倍以上の平均孔径を持つ平膜を用い、膜の表面には一定のひずみ速度を与える一次側流路を持ち、膜の裏面にも同様の回路を持つモジュールである。
上記孔拡散法あるいは孔拡散ろ過法を採用することで、膜への大きな加圧が不要となり、減圧下、あるいは低圧下で分離を行うことができる。低圧力帯で分離を行う結果、急速な目詰まりが生じず、膜表面あるいは膜内部の孔で物質の濃度がろ過によって高まる現象が起こっても、拡散の作用で濃度低下が急速に進む。
また、本発明のように低圧下の分離であれば、膜構造やモジュール構造を頑強にする必要がなくなり、一次側流路を大きくすることができる。その結果、一次側の流れに伴う大きな圧力損失を生じさせずに、十分な流速で流体を流すことが可能になる。また、モジュールとしては直列に、かつ膜をその表面に沿った形式で直列に長くつなぐことも可能になり、一つの膜ユニット内に大きな膜面積を確保することができる。膜構造設計とモジュールの組み合わせが簡素化され、コスト低減にもつながる。
孔拡散法あるいは孔拡散ろ過法は平均孔径と膜間差圧との関係で実現される。平均孔径より大きな流体中の成分の内、その存在量が最も大きい成分が明らかであれば、該成分のブラウン運動の速度が膜間差圧で生じる流体の流れ速度よりも大きくなるように膜間差圧を定める。該成分が特定できない場合、膜の平均孔径が20nm〜80nmの際には膜間差圧を0.15気圧以下に設定する。平均孔径が80nmを超える場合、膜間差圧を0.10気圧以下に設定する。平均孔径が20nm未満であれば、膜間差圧を0.20気圧以下に設定する。
本発明方法および装置において多孔性膜の形状が平膜である点に特徴がある。平膜にすることにより膜間距離の設定が膜特性と無関係に設計でき、さらに一次側の流体の流れによって生じる入口部と出口部を極小化することができ、孔拡散法あるいは孔拡散ろ過法での物質移動が実現される。さらに平膜を種々の形のモジュールに成形可能であり、平膜を複数枚重ねることによりろ過で輸送される成分に関して多段ろ過の特性を付与させることができる。
本発明の分離技術は、流体を一定速度以上の流速(ひずみ速度で20/秒以上)で流す場合においてもっとも分離効果を発揮できる。20/秒以上のひずみ速度を得るためには流路を相応に大きくする必要がある。中空糸の場合は、大きな流路が確保できないため、平膜の積層構造が望ましい。平膜を積層する際に一次側流路を大きくすることで、流体をスムーズに流すことができる。
一次側の流体のひずみ速度が2/秒以上になると流体中の粒子(分子を含めて)は膜表面より離れる現象を発見し本発明に至った。すなわち本発明では膜表面における分離対象溶液のひずみ速度が2/秒以上で200/秒未満に維持することが特徴である。200/秒以上になると該溶液中の粒子の変形が大きくなり、一部の分散粒子が微小化する傾向が現れる。
膜間差圧と流速を同時にかつ精密に制御するためには、加圧制御機能と、それに対応する流速制御機能を有する必要がある。加圧源としては、ポンプ吐出圧、気体圧、水頭圧などがある。流速制御機能としてはポンプが想定され、一次側流路の入口側あるいは出口側に設置できる。いずれかの加圧制御機能、流速制御機能を単一あるいは複数組み合わせることによって、一次側流路にかかる膜間差圧と流速を同時にかつ精密に制御することができる。ここで膜間差圧の値として静圧を意味する。膜間差圧は0.5気圧以下でなくてはならない。0.5気圧を超えると膜中の孔を通過する物質はろ過による寄与が大部分となり拡散の寄与が小さくなる。膜の平均孔径が小さくなると膜間差圧は大きくすることは可能であるが、10nmの場合でも0.5気圧以下でなければならない。
一次側流路の入口側あるいは出口側に一つのポンプを設置する場合、流速をポンプの吐出圧によって制御し、膜間差圧は、例えば一次側流路に接続された流体用タンク内にかかる気体圧か、あるいは水頭圧を調整して制御する。すなわち本発明方法の特徴は一次側流路において流速と膜間差圧とを膜の平均孔径に対応して設定する点にある。また一次側流路の入口側および出口側に二つのポンプを設置する場合、二つのポンプの流速および吐出圧を制御することで、その間にある一次側流路にかかる流速と膜間差圧を制御することができる。のぞましくは一次側流路の出口側に一つのポンプを設置し、流速を制御すると共に、一次側流路の入口側に接続された流体用タンク内の気体圧を制御することで、膜間差圧を制御する。
本発明を採用することにより、有用な高分子、生理活性物質、有害性微粒子、感染性微生物等を分離、除去あるいは精製することが可能となる。熱的、力学的、化学的に不安定な物質の分離精製には膜分離が最適であると考えられていたが、工業的には膜分離には前述のような多くの障害がある。本発明では拡散の持つ最大の欠点であった分離速度の小さい点と処理容量を大きくする点を改善し、孔拡散を利用することにより、広い分子量範囲(粒子径範囲)での分離回収が可能となる。かつ、複雑になりがちであった分離装置も、孔拡散法あるいは孔拡散ろ過法に適した、かつ単純で操作が簡便な装置を発明することで、膜の目詰まりの進行が遅く、かつ再生が容易であり、繰り返し使用できるようになる。さらに装置が簡素化されることで低コスト化、低価格化の効果もある。生活排水や工業排水に対して本発明方法を適用することにより安全な水に変換させることが可能になり水のリサイクルが実現する。
本発明で使用する多孔性平膜1は、孔拡散あるいは孔拡散ろ過分離が可能な孔特性を持つ分離膜が一般的で、平均孔径5nm以上1.5μm以下、望ましくは平均孔径10nm〜500nmで、空孔率40%以上90%以下、膜厚1μm以上1mm未満の親水性高分子であるセルロース膜で、膜の再生の容易さと、目詰まりの起こりにくさが特徴である。平均孔径が2μmを超える場合にはセルロース製のろ紙状物や再生セルロース製の不織布を用いる場合もある。平均孔径が2nm未満であれば溶解・拡散機構による寄与が大きく、拡散係数が小さくなりすぎる。空孔率の上限は90%以下であり、これを超えると膜の力学的性質の低下が著しく、ピンホールなど欠陥の発生確率も高くなる。膜厚は望ましくは30μm以上で、膜厚を厚くすることで膜の強度、取り扱いやすさが増し、ピンホールの発生が減少する点から微生物除去にも効果的である。
平均孔径は「粘度・膜厚・濾過速度/膜間差圧・空孔率」の平方根で与えられる。ここで濾過速度は一平方メートル当りの純水の濾過速度でml/minの単位で測定され、膜厚はミクロン単位、粘度はセンチポイズ、膜間差圧はmmHg単位で、空孔率は無次元単位である。この際の平均孔径はnm単位となる。空孔率は「1−膜の密度/素材高分子の密度」で与えられる。膜の密度は「膜の重量/膜の面積*膜の厚さ」で算出される。素材高分子の密度は空孔率0%の時の膜の密度で、これはすでに文献で与えられている。多層構造膜とは膜の断面方向から電子顕微鏡で観察すると10〜1000nmの厚さの層が認められ、膜の表面からの観察では網目状または粒子間の隙間が孔として、また粒子相互は融着した様子が観察される膜である
多層構造を持つ多孔性平膜とは、フィールドエミッション型走査型電子顕微鏡によって膜中に孔の存在が認められる膜で平均孔径2nm以上、空孔率が40%以上で、厚さ約0.2μmの層が10層以上に積層された膜を意味する。
原液とは分離対象分子あるいは粒子を含む溶液であり、拡散液とは、該分離対象分子あるいは粒子を拡散させる溶液のことであり、孔拡散ろ過の場合にはろ過が拡散液の役割を果たす場合もある。
本発明で使用する多孔性平膜1は親水性素材である再生セルロース製の膜あるいはろ紙状物あるいは不織布であり、製膜法として湿式または乾式のミクロ相分離法で作製される。例えば銅安法再生セルロース平膜は親水性素材として最適であるが膜厚を100μm以上にまた平均孔径を100nm以上にするのが難しい。該膜の製法は特公昭62−044019号及び特公昭62−044017号と特公昭62−044018号に与えられている。広い範囲の平均孔径を持つ再生セルロース製の平膜の製法として多孔性アセテート膜を作成しこれを0.1規定の苛性ソーダでケン化処理することによって作製できる。アセテート膜の製法は上出健二,真鍋征一,松井敏彦,坂本富男,梶田修司,高分子論文集,34巻3号205頁〜216頁(1977年)に与えられている。この方法により0.01〜数ミクロンの平均孔径を持つ多孔性膜が得られ、膜厚は20μm〜数mmまで可能である。
得られた多孔性平膜1を図1、2に示すような波板あるいは格子状板の流路スペーサー2、3で挟み、固定する。平膜を固定する際に、厚さ0.1mm〜1mm程度の薄いプラスチック板の額縁4を用いてあらかじめ固定しておいてもよい。その後、膜を流路スペーサーで挟む。1対の膜と流路スペーサーを重ねた膜セットを作製しておいて、その後、該膜セットを積層してもよい。ピンホール発生を防止するためには該平膜を複数枚を重ね合わせた方が望ましい。
流路スペーサー2と3とは、平膜1を境に、波板状あるいは格子状の一次側流路スペーサー2と二次側流路スペーサー3とが、流路方向が互いに交差状になるように交互に積層する。流路スペーサー全体が波形あるいは格子状でも良いが、流路の入り口だけが波形あるいは格子状になっている額縁状のものでもよい。なお流路スペーサーの波形あるいは格子状とは、スペーサーの形状を限定するものではなく、流路スペーサーの役割を果たす中空状の板材であればよい。
平膜1と流路スペーサー2、3、場合によって額縁4を積層することで膜カートリッジ5が作製でき、この膜カートリッジ5の側面全体がそれぞれ一次側入口6、一次側出口7、二次側入口8、二次側出口9となる。この膜カートリッジ5に流体の導入口10と排出口11を連結したものが分離装置12となる。
流路スペーサーは、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタラートやナイロン等の高分子縮合重合体、さらにフッ素系樹脂やポリ塩化ビニルなどの側鎖として極性基を持つ樹脂製か、あるいは金属製の織物、編物あるいは不織布などが使用される。
流路スペーサー2は望ましくは接着せずに積層し、面に対して垂直方向に面圧をかけて膜カートリッジ5とする。あるいは少量の接着剤、たとえばシリコンやポリウレタン樹脂や溶剤などを用いて積層し、膜カートリッジ5とする。
以上の手順で組み立てた分離装置12に、原液と拡散液との静圧の差が該平膜の平均孔径によって指定される圧力以下となるように流体(液体)を供給する。該静圧の差△Pは数式(1)で与えられる。「 △P≦kdDη/rf 2 」(1)ここでdは膜厚、Dは微粒子の拡散係数、ηは分離対象とする液体の粘度rfは平均孔径、kは膜の孔構造を反映した定数で非多層構造膜では4000、多層構造膜では2×105である。この式を満足する△Pでの孔拡散ろ過法では目詰まりがほぼ完全に防止できる。
分離装置12には、流体を循環させるためのポンプ13と循環流路14、流体用タンク15があり、場合によってポンプ16、あるいは気体圧源19を有する。流体用タンク15に導入された流体は、ポンプ16、あるいはポンプ13によって一定のひずみ速度以上で膜カートリッジ5と分離装置内を一次側流体流れ17の方向に循環する。流路スペーサーの流路幅と、分離装置内の流路とポンプは、一定のひずみ速度で流体が流すことができるように、流体の粘度、流路の圧力損失から決定される。その結果、拡散液あるいはろ過液は二次側流体流れ18の方向に流れる。
ポンプ13およびポンプ16を同時に用いる場合は、二つのポンプの吐出力と流速を調整することで、膜カートリッジ5の一次側流路における流速と膜間差圧を制御する。その結果、十分なひずみ速度で流れる流体によって分離対象粒子は膜表面に堆積せずに一定のろ過速度を得ることができる。
ポンプ13のみを用いる場合は、一次側流路に接続された流体用タンク15に気体圧源19から気体圧をかけることによって、膜間差圧を制御する。あるいは、流体用タンク15に貯められた流体の水頭圧20を調節することによって膜間差圧を制御する。
膜分離処理を行った後は、装置をオートクレーブ処理などで滅菌処理したり、装置内に蒸気を通して滅菌したり、あるいは乾燥空気を通し、膜を乾燥させることができる。
積層した流路スペーサー2は膜カートリッジを分解して、洗浄、膜交換などを行うことができる。特に膜セット4は分解後、平膜を挟んだまま個別に乾燥させることができる。
アセテートのアセトン溶液よりミクロ相分離法によって平均孔径10nm、空孔率62%、膜厚160ミクロンのアセテート膜(酢化度54.2%)を作製し、これを30℃の0.1N苛性ソーダ水溶液に48時間浸漬して再生セルロース多孔性平膜1を得た(平均孔径23nm,空孔率83%,膜厚58ミクロン)。
この多孔性平膜1を、200mm角に切り取り、ポリカーボネート製流路スペーサーで挟んだ後、20層に積層して膜カートリッジを作製した。流路スペーサーは格子状(格子幅6.5mm、高さ4mm)で、幅10mmの額縁状(外寸210mm角)のものを使用した。
処理用原水(1)として牛乳を100倍希釈した疑似汚水を使用した。30L/分の送液ポンプをポンプ13およびポンプ16として使用し、二つのポンプの吐出圧および流速を調整することにより、一次側流路における膜間差圧を0.1気圧に設定した。流体の循環開始後、二次側流路18からろ液が排出され、ろ液の目視外観は透明であった。ろ液の排出速度は時間当たり43L/平米であり、12時間にわたり一定の流速であった。
処理用原水(2)として水酸化鉄コロイド溶液(コロイド粒径20nm)を使用し、処理用原水(1)と同様の条件で、微粒子除去性能試験を行った。分離装置内に1時間原液を循環させ、1時間後に二次側流路18から排出されたろ液の水酸化鉄コロイド濃度を測定した。水酸化鉄コロイド濃度分析は、KSCN法により鉄(III)イオンの濃度を測定することによって行った。測定の結果、除去率は対数除去率で3.5であった。膜中に残存するわずかな水酸化鉄コロイド粒子は還元剤により系外へ除去した。
処理用原水(1)および(2)のいずれの試験の結果でも液漏れは一切発生しなかった。試験後、オートクレーブによる滅菌処理の後、エタノールで水を置換し、乾燥空気を装置内に吹き込み、装置を乾燥させて、試験を終了した。
実施例1と同様にミクロ相分離法によって平均孔径10nm、空孔率62%、膜厚160ミクロンのアセテート膜(酢化度54.2%)を作製し、これを30℃の0.1N苛性ソーダ水溶液に48時間浸漬して再生セルロース多孔性平膜1を得た(平均孔径23nm,空孔率83%,膜厚58ミクロン)。
再生セルロース製多孔性平膜1を、200mm角に切り取り、ポリカーボネート製流路スペーサーで挟んだ後、20層に積層して膜カートリッジを作製した。流路スペーサーは格子状(格子幅6.5mm、高さ4mm)で、幅10mmの額縁状(外寸210mm角)のものを使用した。
処理用原水(1)として牛乳を100倍希釈した疑似汚水を使用した。30L/分の送液ポンプをポンプ13として使用し、一次側流路にかかる流速を制御した。また流体用タンク15に設置した圧力源19によって一次側流路における膜間差圧を0.1気圧に制御した。流体の循環開始後、二次側流路18からろ液が排出され、ろ液の目視外観は透明であった。ろ液の排出速度は時間当たり43L/平米であり、12時間にわたり一定の流速であった。
処理用原水(2)として水酸化鉄コロイド溶液(コロイド粒径20nm)を使用し、処理用原水(1)と同様の条件で、微粒子除去性能試験を行った。分離装置内に1時間原液を循環させ、1時間後に二次側流路18から排出されたろ液の水酸化鉄コロイド濃度を測定した。水酸化鉄コロイド濃度分析は、KSCN法により鉄(III)イオンの濃度を測定することによって行った。測定の結果、除去率は対数除去率で3.5であった。膜中に残存するわずかな水酸化鉄コロイド粒子は還元剤により系外へ除去した。
処理用原水(1)および(2)のいずれの試験の結果でも液漏れは一切発生しなかった。試験後、オートクレーブによる滅菌処理の後、エタノールで水を置換し、乾燥空気を装置内に吹き込み、装置を乾燥させて、試験を終了した。
温和な条件下で分離、精製が求められる産業(例、製薬産業、食品産業)、特にタンパク質などの生理活性を持つ物質の分離、精製に本発明は利用できる。また、コロイド系を取り扱う工業においてコロイド粒子を含めて特定の微粒子を精製、分離する方法として工業的プロセスに組み込むことが出来る。また医療用、環境用、特に水処理用として、ウイルスや細菌、重金属類、COD原因物質、染料などの汚染物質、有害性微粒子の除去に用いられる。
1,多孔性平膜
2,一次側流路スペーサー
3,二次側流路スペーサー
4,額縁
5,膜カートリッジ
6,一次側入口
7,一次側出口
8,二次側入口
9, 二次側出口
10,流体導入口
11,流体排出口
12,膜分離装置
13,ポンプ1
14,循環流路
15,タンク
16,ポンプ2
17,一次側流体流れ
18,二次側流体流れ
19,気体圧源
20,水頭圧
Claims (4)
- 孔拡散型あるいは孔拡散ろ過型の膜カートリッジを用いた分離方法において、膜表面における分離対象溶液のひずみ速度が2/秒以上で200/秒未満でかつ該カートリッジの出口部における静圧表示での膜間差圧が0.5気圧以下となるように、一次側流路に接続したポンプの流量および吐出圧を調節することを特徴とする分離方法。
- 請求項1において一次側流路に圧力をかける方法として、流速を制御するためのポンプの吐出圧を用いるか、あるいは一次側流路に連結した流体用タンク内にかかる気体圧を負荷する加圧装置を用いるか、あるいは液体の水頭圧を利用するために該タンクの高さを維持する装置を用いて膜間差圧を調節し、一次側流路の出口側に設置したポンプが流体の流速をポンプの吐出圧と無関係に制御できる定速流量ポンプであることを特徴とする分離方法および分離装置。
- 請求項1の分離方法において、膜間差圧が0.5気圧以下でありかつ該平膜の平均孔径によって指定される圧力以下であり、かつ一次側流路の流れによる膜表面のひずみ速度において10/秒以上でかつ100/秒未満であることを特徴とする分子量1000以上で1000万未満の分子の分離方法。
- 請求項1あるいは3の分離方法において、多層構造を持つ再生セルロース製の多孔質平膜の平均孔径が5nm以上1500nm以下であり、分子および粒子の孔中での拡散速度の差を主に利用した孔拡散法あるいは孔拡散ろ過法で物質を分離する分離方法。
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JP2011093427A JP2012223704A (ja) | 2011-04-19 | 2011-04-19 | 孔拡散型あるいは孔拡散ろ過型の膜カートリッジを設置した膜分離装置と該分離方法 |
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---|---|---|---|---|
JP2015100774A (ja) * | 2013-11-27 | 2015-06-04 | 株式会社セパシグマ | 孔拡散型膜分離方法 |
JP2017087097A (ja) * | 2015-11-04 | 2017-05-25 | 日本特殊膜開発株式会社 | 流動分別型の濃縮用孔拡散膜分離モジュール |
JP2017209635A (ja) * | 2016-05-26 | 2017-11-30 | 日本特殊膜開発株式会社 | 円形断面を有する流路で構成される流動分別型孔拡散膜分離用モジュール。 |
-
2011
- 2011-04-19 JP JP2011093427A patent/JP2012223704A/ja not_active Withdrawn
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JP2017087097A (ja) * | 2015-11-04 | 2017-05-25 | 日本特殊膜開発株式会社 | 流動分別型の濃縮用孔拡散膜分離モジュール |
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