本発明の実施の形態について以下説明する。
図1は、本実施形態に係る燃料電池の構成の一例を示す模式断面図である。図1に示すように、燃料電池1は、電解質膜10と電解質膜10の両側に設けられるアノード極12及びカソード極14とを備える膜電極接合体16、アノード極12及びカソード極14の外側に設けられる細孔層18,20、アノード極12側の細孔層18の外側に設けられるガス拡散層22、アノード極12側に設置されたガス拡散層22の外側及びカソード極14側の細孔層20の外側に設けられるセパレータ24,26、を備えている。
図1に示すセパレータ24,26には、直線状もしくは蛇行状等のガス流路溝28,30が形成されている。このガス流路溝28,30は、電極に供給される反応ガスの流路となるものである。なお、不図示であるが、セパレータ24,26の外周には、燃料ガス入口及び出口、酸化剤ガス入口及び出口が形成され、アノード極12側のセパレータ24のガス流路溝28は燃料ガス入口及び出口と連通し、カソード極14側のセパレータ26のガス流路溝30は酸化剤ガス入口及び出口と連通している。
セパレータの構造はこれに制限されるものではなく、ガス流路溝28,30が形成されていないフラットタイプ型のセパレータを用いてもよい。以下に、フラットタイプ型のセパレータを用いた燃料電池の構成を説明する。
図2は、本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。図2に示す燃料電池2において、図1に示す燃料電池1と同様の構成については同一の符号を付している。図2に示すように、燃料電池2は、電解質膜10と電解質膜10の両側に設けられるアノード極12及びカソード極14とを備える膜電極接合体16、アノード極12及びカソード極14の外側に設けられる細孔層18,20、アノード極12側の細孔層18の外側に設けられるガス拡散層22、アノード極12側に設置されたガス拡散層22の外側及びカソード極14側の細孔層20の外側に設けられる多孔体流路層32,34、多孔体流路層32,34の外側に設けられるセパレータ36,38、を備えている。
多孔体流路層32,34は、導電性多孔体から構成されるものであり、多孔体流路層32,34に供給される反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)を電極の面全体に供給するガス流路として機能する。多孔体流路層32,34に供給される反応ガスは、主に部材の積層面方向に流動する。
図2に示すセパレータ36,38は、平坦な導電性材料から構成されている(すなわち、ガス流路溝28,30が形成されていない)。なお、不図示であるが、セパレータ36,38の外周には、燃料ガス入口及び出口、酸化剤ガス入口及び出口が形成され、燃料ガス入口及び出口はアノード極12側の多孔体流路層32と連通し、酸化剤ガス入口及び出口はカソード極14側の多孔体流路層34と連通している。
本実施形態に用いられる細孔層18,20は、ガス透過性及び導電性を有する材料から構成され、集電層、マイクロポーラスレイヤー(MPL)等とも言う。アノード極12側に設けられる細孔層18は、アノード極12と電子の授受を行う機能を有するものであり、カソード極14側に設けられる細孔層20は、カソード極14と電子の授受を行う機能を有するものである。また、本実施形態で用いられる細孔層18,20は親水性(親水作用)を有するものである。ここで、親水性を有するとは、液滴法を利用した接触角測定装置を用いて測定した水の接触角が70度以下であることを言う。細孔層18,20の親水化処理については後述する。
本実施形態のアノード極12側に配置されるガス拡散層22は、ガス拡散性及び導電性を有する材料から構成される導電性多孔質基材であり、電極にガスを拡散させる機能を有する。ガス拡散層22に供給される燃料ガスは、主に電極に向かって拡散する。
本実施形態の膜電極接合体16を構成する電解質膜10は、プロトン電導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材料から構成されている。膜電極接合体16を構成するアノード極12は、燃料の酸化を促進する触媒を備え、該触媒上で燃料が酸化反応を起こすことにより、プロトンと電子を生成する。また、膜電極接合体16を構成するカソード極14は、酸化剤の還元を促進する触媒を備え、該触媒上で酸化剤がプロトンと電子を取り込み、還元反応が起きる。
次に、燃料電池の動作を図2の燃料電池2を用いて説明する。
まず、水素ガス等の燃料ガスが、アノード極12側のセパレータ36の燃料ガス入口から多孔体流路層32に供給される。燃料ガスは、多孔体流路層32を流動しつつ、ガス拡散層22に到達し、ガス拡散層22およびアノード極12側の細孔層18を透過してアノード極12に到達する。アノード極12に到達した燃料ガス中の水素は、プロトンと電子とに分離される。プロトンは、電解質膜10を伝導し、カソード極14に到達する。電子は、アノード極12側の細孔層18により集められ、ガス拡散層22、セパレータ36へと伝達し、不図示の外部回路を通って、カソード極14側のセパレータ38、多孔体流路層34、細孔層20を介してカソード極14へ到達する。
一方、空気等の酸化剤ガスは、カソード極14側のセパレータ38の酸化剤ガス入口から多孔体流路層34に供給される。酸化剤ガスは、多孔体流路層34を流動しつつ、カソード極14側の細孔層20を透過してカソード極14に到達する。カソード極14においては、酸化剤ガス中の酸素とプロトンと電子とが反応して水が発生するとともに電力が発生する。以上の動作によって、燃料電池2は発電を行う。
発電に伴ってカソード極14で生成される生成水は、酸化剤排ガスと共に、細孔層20、多孔体流路層34を通って、主に、セパレータ38の酸化剤ガス出口から排出される。また、発電に伴ってカソード極14で生成される生成水は、電解質膜10を透過してアノード極12側に移動し、燃料排ガスと共に、細孔層18、ガス拡散層22、多孔体流路層32を通って、主に、セパレータ36の燃料ガス出口から排出される。
ここで、通常、燃料電池のカソード極側にガス拡散層が設置されていない場合(アノード極側にはガス拡散層が設置されている)、カソード極側の細孔層を流れる酸化剤ガスのガス流速は、ガス拡散層を設置した場合と比べて速くなる。そうすると、発電に伴ってカソード極で生成される生成水は、速い流速の酸化剤ガス(酸化剤排ガス)によって、カソード極から必要以上に持ち去られてしまう。特に、カソード極側の細孔層が撥水性の場合には、水を保持する能力が低くなるため、よりカソード極から水が持ち去られてしまう。その結果、カソード極側が乾燥(ドライアップ)してしまうため、電解質膜のイオン導電性等が低下し、燃料電池の発電性能の低下を引き起こすことになる。
そこで、本実施形態では、前述した親水性を有する細孔層18をアノード極12側及び親水性を有する細孔層20をカソード極14側に配置することにより、細孔層18,20中に多くの水分を保持することができる。したがって、燃料電池2のカソード極14側にガス拡散層22を設置しなくても、発電に伴ってカソード極14で生成される生成水が、速い流速の酸化剤ガス(酸化剤排ガス)によって、カソード極14から必要以上に持ち去られることを抑制することができる。また、カソード極14側のガス拡散層を廃しているため、燃料電池の小型化、低コスト化、高性能化が可能となる。
また、一般的に、燃料電池の発電過程等では、電解質膜が膨潤し、体積が増加する。そして、燃料電池からガス拡散層を廃した場合、電解質膜の膨潤によって生じる体積増加をガス拡散層の弾性変形により吸収することができず、膜電極接合体に圧縮力が加わり、膜電極接合体が損傷する場合がある。しかし、本実施形態において、フラットタイプ型のセパレータを用いること、また、膜電力接合体の両外側に細孔層を配置することで、膜電極接合体に加わる圧縮力を抑制し、膜電極接合体の損傷を防ぐことが可能である。
次に、燃料電池1,2の各部材の詳細について説明する。
本実施形態の細孔層18,20は、例えば、導電性材料と、メタノール、エタノール等の分散溶媒と、を混合した溶液を多孔体流路層、拡散層又は触媒層等に塗布することにより形成される。塗布方法は、スプレー、スクリーン印刷、アプリケータ、インクジェット等がある。細孔層18,20を構成する導電性材料としては、例えば、カーボン材料、Au、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su等の金属、Si、およびこれらの窒化物、炭化物、炭窒化物等、さらにステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金等を挙げることができる。より好ましくは、Pt、Ti、Au、Ag、Cu、Ni、Wからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む。かかる元素を含むことにより、細孔層18,20の比抵抗が小さくなるため、細孔層18,20の抵抗による電圧低下を軽減し、より高い発電特性を得ることが可能となる。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pd等の耐腐食性を有する貴金属および金属材質や、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性炭窒化物、導電性酸化物等を表面コーティングとして用いることができる。これにより、燃料電池の寿命を延ばすことができる。
細孔層18,20を親水化処理する方法としては、例えば、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、レーザー処理、電子線による処理、イオン注入法による処理、イオンビームによる処理、イオン照射による処理、アルカリ水溶液等に浸漬させる溶剤処理等を採用することができる。好ましい親水化処理の方法としては、作業効率性等の点で、レーザー照射処理が望ましい。
本実施形態に用いられるガス拡散層22としては、例えば、導電性無機物質を主とするものを挙げることができ、この導電性無機物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等を挙げることができる。また、ガス拡散層22の導電性無機物質の形態は、ガスを拡散させることができる多孔質基材であれば特に限定されるものではなく、たとえば繊維状あるいは粒子状で用いられるが、ガス拡散性の点から無機導電性繊維であって、特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いたガス拡散層22としては、織布あるいは不織布いずれの構造のものも使用することができ、カーボンペーパーやカーボンクロスなどを挙げることができる。織布としては、平織、紋織、綴織など、特に限定されるものではなく、不織布としては、抄紙法、ウォータージェットパンチ法によるものなどが挙げられる。
本実施形態のアノード極12側に設置されるガス拡散層22は、撥水性を有することが好ましい。これにより、細孔層18からガス拡散層22側へ水が流れることが抑制されるため、アノード極12側の細孔層18中に多くの水を保持させることができる。ガス拡散層22を撥水化処理する方法としては、例えば、ガス拡散層22に撥水剤を塗布する方法が挙げられる。撥水剤は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という。)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などのフッ素樹脂を用いることができる。
セパレータ24,26(及びセパレータ36,38)は、ガス不透過性であって、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、チタン合金、ステンレス鋼等に代表される金属、カーボン、導電性樹脂等が挙げられる。
本実施形態に用いられる多孔体流路層32,34は、例えば、ステンレス鋼やチタン、或いはチタン合金などの発泡焼結金属や、金属メッシュなどの内部に多数の細孔を備えた多孔体によって形成される。多孔体流路層32,34は、反応ガスの圧力損失を抑える点で、比較的気孔率の大きい多孔体を使用することが好ましい。多孔体流路層32,34は、多孔体流路層32,34側へ移動してきた水を速やかにセパレータ36,38のガス出口から排出させることができる点で、親水性を有することが好ましい。
膜電極接合体16を構成する電解質膜10は、プロトン電導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材料であれば特に限定されないが、例えば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
また、アノード極12及びカソード極14は、例えば、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を電解質膜10等の基材に塗布することにより形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質等を挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(登録商標)(Nafion、デュポン社製)やフレミオン(登録商標)(Flemion、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類等の溶媒を挙げることができる。
触媒が担持される導電性担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができる。触媒(金属触媒)としては、例えば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどを挙げることができ、白金または白金合金を使用するのが好ましい。
図3は、本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。図3に示す燃料電池3において、図2に示す燃料電池2と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
図3に示す燃料電池3において、アノード極12側に設置される細孔層18は、細孔層18全体のうち燃料ガス供給における上流側1/10以上〜9/10以下の領域(上流側の領域18a)が撥水性を有するものである。ここで、図3に示す燃料電池3では、アノード極12側の細孔層18の燃料ガス供給における上流側とカソード極14側の細孔層20の酸化剤ガス供給における下流側とが対向する燃料電池構造になっている。すなわち、図3に示すように、例えば、図の上方から燃料ガスが導入され、図の下方から燃料排ガスが排出されるのに対し、図の下方から酸化剤ガスが導入され、図の上方から酸化剤排ガスが排出されるガス流れとなっている。
このように、アノード極12側の細孔層18全体のうち燃料ガス供給における上流側の領域18aを撥水性にすることにより、アノード極12側の細孔層18の燃料ガス供給における上流側の領域18aは乾燥し易くなる。そうすると、その上流側の領域18aに対向するカソード極14側の細孔層20の酸化剤ガス供給における下流側の領域との水の濃度差が大きくなるため、酸化剤ガス供給における下流側のカソード極14側から燃料ガス供給における上流側のアノード極12側への水の移動が促進され、酸化剤ガス供給における下流側のカソード極14から多くの水が排出され易くなる。また、アノード極12側の細孔層18全体のうち、燃料ガス供給における下流側の領域及びカソード極14側の細孔層20は親水性であるため、その下流側の領域に対向するカソード極14側の細孔層20の酸化剤ガス供給における上流側の領域との水の濃度差は小さくなる。したがって、酸化剤ガス供給における上流側のカソード極14側から燃料ガス供給における下流側のアノード極12側への水の移動が抑制され、酸化剤ガス供給における上流側のカソード極14に水が溜まり易くなる。そして、燃料電池内の水分状態をこのような状態にすることにより、以下に説明するように、燃料電池3の高温運転性能を向上させることが可能となる。
燃料電池の高温運転では、ガス流速及び生成水の増加から、酸化剤ガス供給における下流側のカソード極に水が滞留し易く、酸化剤ガス供給における上流側のカソード極が乾燥し易くなる。しかし、前述したように本実施形態では、酸化剤ガス供給における下流側のカソード極14から多くの水が排出されるため、燃料電池3の高温運転時でも、酸化剤ガス供給における下流側のカソード極14で多くの水が滞留することを抑制することができる。また、酸化剤ガス供給における上流側のカソード極14側の水の移動が抑制されるため、燃料電池3の高温運転時でも、酸化剤ガス供給における上流側のカソード極14の乾燥を抑制することができる。その結果、高温運転時でも燃料電池3を安定して発電させることが可能となる。
図4は、本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。図4に示すように、燃料電池100は、電解質膜110と電解質膜110の両側に設けられるアノード極112及びカソード極114とを備える膜電極接合体116、アノード極112及びカソード極114の外側に設けられる細孔層118,120、細孔層118,120の外側に設けられるセパレータ124,126、を備えている。そして、本実施形態の燃料電池100は、電極にガスを拡散させる機能を有するガス拡散層を備えていない。
図4に示すセパレータ124,126には、直線状もしくは蛇行状等のガス流路溝128,130が形成されている。このガス流路溝128,130は、電極に供給される反応ガスの流路となるものである。なお、不図示であるが、セパレータ124,126の外周には、燃料ガス入口及び出口、酸化剤ガス入口及び出口が形成され、アノード極112側のセパレータ124のガス流路溝128は燃料ガス入口及び出口と連通し、カソード極114側のセパレータ126のガス流路溝130は酸化剤ガス入口及び出口と連通している。
セパレータの構造はこれに制限されるものではなく、ガス流路溝128,130が形成されていないフラットタイプ型のセパレータを用いてもよい。以下に、フラットタイプ型のセパレータを用いた燃料電池の構成を説明する。
図5は、本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。図5に示すように、燃料電池102は、電解質膜110と電解質膜110の両側に設けられるアノード極112及びカソード極114とを備える膜電極接合体116、アノード極112及びカソード極114の外側に設けられる細孔層118,120、細孔層118,120の外側に設けられる多孔体流路層132,134、多孔体流路層132,134の外側に設けられるセパレータ136,138、を備えている。
多孔体流路層132,134は、導電性多孔体から構成されるものであり、多孔体流路層132,134に供給される反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)を電極の面全体に供給するガス流路として機能する。多孔体流路層132,134に供給される反応ガスは、主に部材の積層面方向に流動する。
図5に示すセパレータ136,138は、平坦な導電性材料から構成されている(すなわち、ガス流路溝128,130が形成されていない)。なお、不図示であるが、セパレータ136,138の外周には、燃料ガス入口及び出口、酸化剤ガス入口及び出口が形成され、燃料ガス入口及び出口はアノード極112側の多孔体流路層132と連通し、酸化剤ガス入口及び出口はカソード極114側の多孔体流路層134と連通している。
本実施形態に用いられる細孔層118,120は、ガス透過性及び導電性を有する材料から構成され、集電層、マイクロポーラスレイヤ(MPL)等とも言う。アノード極112側に設けられる細孔層118は、アノード極112と電子の授受を行う機能を有するものであり、カソード極114側に設けられる細孔層120は、カソード極114と電子の授受を行う機能を有するものである。また、本実施形態で用いられるアノード極112側に設けられる細孔層118は、撥水性(撥水作用)を有するものであり、カソード極114側に設けられる細孔層120は、親水性(親水作用)を有するものである。ここで、親水性を有するとは、液滴法を利用した接触角測定装置を用いて測定した水の接触角が70度以下であることを言う。また、撥水性を有するとは、液滴法を利用した接触角測定装置を用いて測定した水の接触角が70度超であることを言う。細孔層118,120の撥水化処理及び親水化処理については後述する。
本実施形態の膜電極接合体116を構成する電解質膜110は、プロトン電導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材料から構成されている。膜電極接合体116を構成するアノード極112は、燃料(例えば、水素ガス)の酸化を促進する触媒を備え、該触媒上で燃料が酸化反応を起こすことにより、プロトンと電子を生成する。また、膜電極接合体116を構成するカソード極114は、酸化剤(例えば、空気)の還元を促進する触媒を備え、該触媒上で酸化剤がプロトンと電子を取り込み、還元反応が起きる。
次に、燃料電池の動作を図5の燃料電池102を用いて説明する。
まず、水素ガス等の燃料ガスが、アノード極112側のセパレータ136の燃料ガス入口から多孔体流路層132に供給される。燃料ガスは、多孔体流路層132を流動しつつ、アノード極112側の細孔層118を透過してアノード極112に到達する。アノード極112に到達した燃料ガス中の水素は、プロトンと電子とに分離される。プロトンは、電解質膜110を伝導し、カソード極114に到達する。電子は、アノード極112側の細孔層118により集められ、多孔体流路層132、セパレータ136へと伝達し、不図示の外部回路を通って、カソード極114側のセパレータ138、多孔体流路層134、細孔層120を介してカソード極114へ到達する。
一方、空気等の酸化剤ガスは、カソード極114側のセパレータ138の酸化剤ガス入口から多孔体流路層134に供給される。酸化剤ガスは、多孔体流路層134を流動しつつ、カソード極114側の細孔層120を透過してカソード極114に到達する。カソード極114においては、酸化剤ガス中の酸素とプロトンと電子とが反応して水が発生するとともに電力が発生する。以上の動作によって、燃料電池102は発電を行う。
発電に伴ってカソード極114で生成される生成水は、酸化剤排ガスと共に、細孔層120、多孔体流路層134を通って、主に、セパレータ138の酸化剤ガス出口から排出される。また、発電に伴ってカソード極114で生成される水は、電解質膜110を透過してアノード極112側に移動し、燃料排ガスと共に、細孔層118、多孔体流路層132を通って、主に、セパレータ136の燃料ガス出口から排出される。
ここで、通常、燃料電池のカソード極側にガス拡散層が設置されていない場合(アノード極側にはガス拡散層が設置されている)、カソード極側の細孔層を流れる酸化剤ガスのガス流速は、ガス拡散層を設置した場合と比べて速くなる。そうすると、発電に伴ってカソード極で生成される生成水は、速い流速の酸化剤ガス(酸化剤排ガス)によって、カソード極から必要以上に持ち去られてしまう。特に、カソード極側の細孔層が撥水性の場合には、水を保持する能力が低くなるため、よりカソード極から水が持ち去られてしまう。その結果、カソード極側が乾燥(ドライアップ)してしまうため、電解質膜のイオン導電性等が低下し、燃料電池の発電性能の低下を引き起こすことになる。
また、燃料電池のアノード極側にガス拡散層が設置されていない場合(カソード極側にはガス拡散層が設置されている)、アノード極側のセパレータ付近で凝縮する液水が親水性のアノード極側の細孔層に侵入し、アノード極とカソード極との間の水分濃度勾配が小さくなるから、カソード極側で生成される水が、電解質膜を透過してアノード極側へ移動し難くなり、カソード極側でフラッディングが発生する。特に、アノード極側の細孔層を親水性にすると、アノード極側の細孔層で十分な水分が保持されるため、アノード極側とカソード極側とで水の濃度差が小さくなり、カソード極側からアノード極側への水の移動も小さくなる。その結果、カソード極側に多くの液水が滞留するため、フラッディングが発生し易くなる。フラッディングの発生によって、燃料電池の電圧低下等が起こり、燃料電池の発電性能の低下を引き起こすことになる。
そして、燃料電池のアノード極側及びカソード極側にガス拡散層が設置されていない場合には、燃料電池の温度によって、カソード極側にガス拡散層が設置されていないことに起因するカソード極側の乾燥(ドライアップ)が発生したり、アノード極側にガス拡散層が設置されていないことに起因するカソード極側のフラッディングが発生したりする。
そこで、本実施形態では、前述した撥水性を有する細孔層118をアノード極112側に配置し、親水性を有する細孔層120をカソード極114側に配置する燃料電池構成を採用した。上記構成を採用することにより、カソード極114側の乾燥(ドライアップ)が発生し易い状況でも、カソード極114側の細孔層120が親水性であるため、カソード極114内の水は十分に保持され、カソード極114側の乾燥は抑制される。また、カソード極114側のフラッディングは発生し易い状況でも、カソード極114側の細孔層120が親水性でアノード極112側の細孔層118が撥水性であるため、極間の水の濃度差は大きく、カソード極114側からアノード極112側への水の移動が起こり、カソード極114側のフラッディングの発生は抑制される。また、カソード極114側及びアノード極112側のガス拡散層を廃しているため、燃料電池の小型化、低コスト化、高性能化が可能となる。
また、一般的に、燃料電池の発電過程等では、電解質膜が膨潤し、体積が増加する。そして、燃料電池からガス拡散層を廃した場合、電解質膜の膨潤によって生じる体積増加をガス拡散層の弾性変形により吸収することができず、膜電極接合体に圧縮力が加わり、膜電極接合体が損傷する場合がある。しかし、本実施形態において、フラットタイプ型のセパレータを用いること、また、膜電力接合体の両外側に細孔層を配置することで、膜電極接合体に加わる圧縮力を抑制し、膜電極接合体の損傷を防ぐことが可能である。
次に、燃料電池100,102の各部材の詳細について説明する。
本実施形態の細孔層118,120は、例えば、導電性材料と、メタノール、エタノール等の分散溶媒と、を混合した溶液を多孔体流路層又は触媒層等に塗布することにより形成される。塗布方法は、スプレー、スクリーン印刷、アプリケータ、インクジェットなどがある。細孔層118,120を構成する導電性材料としては、例えば、カーボン材料、Au、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cr、Ag、Cu、Zn、Su等の金属、Si、およびこれらの窒化物、炭化物、炭窒化物等、さらにステンレス、Cu−Cr、Ni−Cr、Ti−Pt等の合金等を挙げることができる。より好ましくは、Pt、Ti、Au、Ag、Cu、Ni、Wからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む。かかる元素を含むことにより、細孔層118,120の比抵抗が小さくなるため、細孔層118,120の抵抗による電圧低下を軽減し、より高い発電特性を得ることが可能となる。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pd等の耐腐食性を有する貴金属および金属材質や、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性炭窒化物、導電性酸化物等を表面コーティングとして用いることができる。これにより、燃料電池の寿命を延ばすことができる。
細孔層118,120を親水化処理する方法としては、例えば、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、レーザー処理、電子線による処理、イオン注入法による処理、イオンビームによる処理、イオン照射による処理、アルカリ水溶液等に浸漬させる溶剤処理等を採用することができる。好ましい親水化処理の方法としては、作業効率性等の点で、レーザー照射処理が望ましい。
セパレータ124,126(及びセパレータ136,138)は、ガス不透過性であって、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、チタン合金、ステンレス鋼等に代表される金属、カーボン、導電性樹脂等が挙げられる。
本実施形態に用いられる多孔体流路層132,134は、例えば、ステンレス鋼やチタン、或いはチタン合金などの発泡焼結金属や、金属メッシュなどの内部に多数の細孔を備えた多孔体によって形成される。多孔体流路層132,134は、反応ガスの圧力損失を抑える点で、比較的気孔率の大きい多孔体を使用することが好ましい。多孔体流路層132,134は、多孔体流路層132,134側へ移動してきた水を速やかにセパレータ136,138のガス出口から排出させることができる点で、親水性を有することが好ましい。
膜電極接合体116を構成する電解質膜110は、プロトン電導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材料であれば特に限定されないが、例えば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
また、アノード極112及びカソード極114は、触媒が担持された導電性担体(粒子状のカーボン担体など)と、電解質と、分散溶媒(有機溶媒)と、を混合して触媒溶液(触媒インク)を電解質膜110等の基材に塗布することにより形成される。ここで、触媒溶液を形成する電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質等を挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(登録商標)(Nafion、デュポン社製)やフレミオン(登録商標)(Flemion、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類等の溶媒を挙げることができる。
触媒が担持される導電性担体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができる。触媒(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどを挙げることができ、白金または白金合金を使用するのが好ましい。
図6は、本実施形態に係る燃料電池の構成の他の一例を示す模式断面図である。図6に示す燃料電池103において、図5に示す燃料電池102と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
図6に示す燃料電池103において、アノード極112側に設置される細孔層118は、細孔層118全体のうち燃料ガス供給における上流側1/10以上〜9/10以下の領域(上流側の領域118a)が撥水性を有し、細孔層118全体のうち燃料ガス供給における下流側の領域が親水性を有することが好ましい。ここで、図6に示す燃料電池103では、アノード極112側の細孔層118の燃料ガス供給における上流側とカソード極114側の細孔層120の酸化剤ガス供給における下流側とが対向する燃料電池構造になっている。すなわち、図6に示すように、例えば、図の上方から燃料ガスが導入され、図の下方から燃料排ガスが排出されるのに対し、図の下方から酸化剤ガスが導入され、図の上方から酸化剤排ガスが排出されるガス流れとなっている。
このように、アノード極112側の細孔層118全体のうち、燃料ガス供給における下流側の領域を親水性にすることにより、その下流側の領域に対向するカソード極114側の細孔層120の酸化剤ガス供給における上流側の領域との水の濃度差は小さくなる。したがって、酸化剤ガス供給における上流側のカソード極114側から燃料ガス供給における下流側のアノード極112側への水の移動が抑制され、酸化剤ガス供給における上流側のカソード極114に水が溜まり易くなる。また、アノード極112側の細孔層118全体のうち燃料ガス供給における上流側の領域118aは撥水性であるため、その上流側の領域118aに対向するカソード極114側の細孔層120の酸化剤ガス供給における下流側の領域との水の濃度差が大きくなる。したがって、酸化剤ガス供給における下流側のカソード極114側から燃料ガス供給における上流側のアノード極112側への水の移動が促進され、酸化剤ガス供給における下流側のカソード極114から多くの水が排出され易くなる。そして、燃料電池内の水分状態をこのような状態にすることにより、以下に説明するように、燃料電池103の高温運転性能を向上させることが可能となる。
燃料電池の高温運転では、ガス流速及び生成水の増加から、酸化剤ガス供給における上流側のカソード極が乾燥し易く、酸化剤ガス供給における下流側のカソード極に水が滞留し易くなる。しかし、前述したように本実施形態では、酸化剤ガス供給における上流側のカソード極114側の水の移動が抑制されるため、燃料電池103の高温運転時でも、酸化剤ガス供給における上流側のカソード極114の乾燥を抑制することができる。また、酸化剤ガス供給における下流側のカソード極114から多くの水が排出されるため、燃料電池103の高温運転時でも、酸化剤ガス供給における下流側のカソード極114で多くの水が滞留することを抑制することができる。その結果、高温運転時でも燃料電池103を安定して発電させることが可能となる。
以下に、アノード極側にガス拡散層が設置されない燃料電池の構成を参考例として説明する。
図7は、参考例1の燃料電池の構成の一例を示す模式断面図である。図7の燃料電池200は、電解質膜210と電解質膜210の両側に設けられるアノード極212及びカソード極214とを備える膜電極接合体216、アノード極212及びカソード極214の外側に設けられる細孔層218,220、カソード極214側の細孔層220の外側に設けられるガス拡散層222、カソード極214側のガス拡散層222及びアノード極212側の細孔層218の外側に設けられる多孔体流路層232,234、多孔体流路層232,234の外側に設けられるセパレータ236,238、を備えている。また、アノード極212側の細孔層218は撥水性である。また、ガス拡散層222は撥水性であり、多孔体流路層232,234は親水性である。
通常、燃料電池のアノード極側にガス拡散層が設置されていない場合(カソード極側にはガス拡散層が設置されている)、アノード極側のセパレータ付近で凝縮する液水が親水性のアノード極側の細孔層に侵入し、アノード極とカソード極との間の水分濃度勾配が小さくなるから、カソード極側で生成される水が、電解質膜を透過してアノード極側へ移動し難くなり、カソード極側でフラッディングが発生する。フラッディングの発生によって、燃料電池の電圧低下等が起こり、燃料電池の発電性能の低下を引き起こすことになる。しかし、参考例の燃料電池200のように、アノード極212側の細孔層218を撥水性にすることにより、アノード極212側の細孔層218の水の保持性を低下させ、カソード極214側とアノード極212側との水の濃度差を大きくして、極間の水の移動を促進させることができる。その結果、カソード極214側で生成した水は、電解質膜210を介してアノード極212側へ移動し易くなり、カソード極214側のフラッディングを抑制することができる。
図8は、参考例2の燃料電池の構成の一例を示す模式断面図である。図8の燃料電池202において、図7の燃料電池200と同様の構成については同一の符号を付している。図8に示す燃料電池202において、アノード極212側に設置される細孔層218は、細孔層218全体のうち燃料ガス供給における上流側1/10以上〜9/10以下の領域(上流側の領域218a)が撥水性を有し、細孔層218全体のうち燃料ガス供給における下流側の領域を親水性にする。ここで、図8に示す燃料電池202では、アノード極212側の細孔層218の燃料ガス供給における上流側とカソード極214側の細孔層220の酸化剤ガス供給における下流側とが対向する燃料電池構造になっている。すなわち、図8に示すように、例えば、図の上方から燃料ガスが導入され、図の下方から燃料排ガスが排出されるのに対し、図の下方から酸化剤ガスが導入され、図の上方から酸化剤排ガスが排出されるガス流れとなっている。
アノード極212側の細孔層218全体のうち、燃料ガス供給における下流側の領域を親水性にすることにより、前述したように、酸化剤ガス供給における上流側のカソード極214に水が留まり易くなる。また、アノード極212側の細孔層218全体のうち燃料ガス供給における上流側の領域218aは撥水性であるため、前述したように、酸化剤ガス供給における下流側のカソード極214側から多くの水が排出され易くなる。そして、燃料電池内の水分状態をこのような状態にすることにより、燃料電池202の高温運転性能を向上させることが可能となる。
本実施形態の燃料電池は、例えば、携帯電話、携帯用パソコン等のモバイル機器用小型電源、自動車用電源、家庭用電源等として好適に使用することができるが、これらに制限されるものではない。