JP2012221651A - 燃料電池用膜電極接合体およびその製造方法 - Google Patents

燃料電池用膜電極接合体およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】膜電極接合体において、電解質膜の劣化を抑制する技術を提供する。
【解決手段】膜電極接合体10は、電解質膜1と、2つの触媒層2c,3cと、2つのガス拡散層2g,3gとを備える。電解質膜1には、電解質膜1の外周端部の少なくとも一部を折り重ねて厚みを増した膜厚部1eが、アノード触媒層2cと連接して形成されている。また、アノードガス拡散層2gは、膜厚部1eの外表面とアノード触媒層2cの外表面とで形成される連続した面内において、膜厚部1eおよびアノード触媒層2cと面接触するように配置されている。
【選択図】図1

Description

この発明は、燃料電池に関する。
燃料電池は、通常、プロトン伝導性を有する電解質膜の両側に電極層が配置された膜電極接合体を備える。電極層は、反応ガスを電極面全体に行き渡らせるためのガス拡散層と、燃料電池反応(電気化学反応)を促進させるための触媒が担持された触媒層とを有する(下記特許文献1)。
ところで、ガス拡散層は、一般に、導電性を有する繊維基材によって構成されるが、繊維基材の外表面、特に、その端部には微細な突起である毛羽が存在する。膜電極接合体では、その毛羽が電解質膜に突き刺さり、電解質膜を貫通する微小穴(クラック)を生じさせてしまう可能性がある。こうした電解質膜の微小穴は、反応ガスが反応に用いられないまま供給された側とは反対側の電極に移動してしまう、いわゆるクロスリークの原因や、電極同士の短絡が発生する原因となる。
また、燃料電池では、上述した電解質膜の微小穴が生じていない場合であっても、その発電の際に、反応ガスである水素や酸素がそれぞれ電解質膜を透過して、供給された側の電極とは反対側の電極へと移動してしまう場合がある。この場合には、膜電極接合体の同じ電極の側に水素と酸素とが存在することとなり、それらの水素と酸素とが互いに反応して過酸化水素が生成されてしまう可能性がある。過酸化水素がラジカル化した過酸化水素ラジカルは、電解質膜を劣化させる原因となることが知られている。
これまで、こうした電解質膜の劣化を抑制することについて十分な工夫がなされてこなかったのが実情であった。
特開2007−109644号公報 特開2008−210664号公報
本発明は、燃料電池用の膜電極接合体において、電解質膜の劣化を抑制する技術を提供することを目的とする。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
燃料電池用の膜電極接合体であって、電解質膜と、前記電解質膜の両面にそれぞれ配置され、電気化学反応を促進する触媒が担持された第1と第2の触媒電極層と、を備え、前記電解質膜には、前記第1と第2の触媒電極層が形成されていない外周端部の少なくとも一部を折り重ねて厚みを増した膜厚部が形成されている、膜電極接合体。
この膜電極接合体であれば、電解質膜の外周端部に膜厚部が設けられているため、触媒電極層上に重ねて配置されるガス拡散層の外表面に存在する毛羽などによって、電解質膜の外周端部が損傷・劣化することが抑制される。即ち、この膜電極接合体では、膜厚部が電解質膜の外周端部の補強部として機能し、電解質膜の劣化が抑制される。
また、この膜電極接合体であれば、電解質膜の外周端部において、反応ガスが電解質膜を介して、供給されたのとは反対側の電極層へと透過移動(リーク)してしまうことが、膜厚部の厚みによって抑制され、過酸化水素ラジカルの発生が抑制される。さらに、この膜電極接合体であれば、電解質膜の外周端部における過酸化水素ラジカルに対する耐久性が、膜厚部によって向上する。
[適用例2]
適用例1記載の膜電極接合体であって、さらに、前記第1の触媒電極層の外表面上に配置された第1のガス拡散層を備え、前記膜厚部と、前記第1の触媒層とは、互いに隣接するように形成されており、前記第1のガス拡散層は、前記膜厚部の外表面上と、前記第1の触媒電極層の外表面上とに渡って配置されている、膜電極接合体。
この膜電極接合体であれば、第1のガス拡散層の外表面に存在する毛羽の突き刺しに対して、膜厚部の厚みによる補強と、第1の触媒電極層の被覆保護によって、電解質膜の損傷・劣化が抑制される。また、膜厚部と第1の触媒層とが、互いの間に隙間が生じないように隣接し合って形成されることにより、膜厚部と第1の触媒層の間の領域を介して反応ガスが透過移動してしまうことを抑制することができる。
[適用例3]
適用例1記載の膜電極接合体であって、前記第1の触媒電極層は、前記膜厚部と隣接する外周端部である隣接外周端部と、前記膜厚部とは隣接していない外周端部である非隣接外周端部とを有し、前記第1の触媒電極層の外表面に沿った方向において、前記隣接外周端部は、前記第2の触媒電極層の外周端部より内側に位置しており、前記非隣接外周端部は、前記電解質膜の外周端部とほぼ同じ位置に位置している、膜電極接合体。
この膜電極接合体によれば、膜厚部が形成されている電解質膜の外周端部では、膜厚部の厚みと、第1と第2の触媒電極層の外周端部の位置関係とによって、第2の触媒電極層側から第1の触媒電極層側へと反応ガスが透過移動することが抑制される。また、この膜電極接合体では、膜厚部が形成されていない電解質膜の外周端部が第1の触媒電極層によって被覆される。そのため、第1の触媒電極層側に過酸化水素ラジカル発生した場合であっても、過酸化水素ラジカルが電解質膜に到達する前に、触媒作用によって、過酸化水素ラジカルを消滅させることができる。さらに、この膜電極接合体では、膜厚部と第1の触媒電極層との間に隙間が形成されていないため、ガス拡散層の毛羽による突き刺しや、電解質膜を介した反応ガスの透過移動に起因する電解質膜の劣化が、より抑制される。
[適用例4]
適用例2記載の膜電極接合体であって、前記膜厚部は、前記第1の触媒電極層の外周に沿って周状に形成されており、前記第1のガス拡散層は、外周端部の全ての部位が前記膜厚部の外表面上に存在するように配置されている、膜電極接合体。
この膜電極接合体によれば、第1の触媒電極層の外周端部近傍における電解質膜の耐久性が、第1の触媒電極層の外周に沿って周状に形成された膜厚部によって向上されている。従って、ガス拡散層の毛羽の突き刺しや過酸化水素ラジカルの発生によって、第1の触媒電極層の外周端部近傍領域において電解質膜が劣化してしまうことを抑制することができる。また、膜厚部によって第1の触媒電極層の外周端部の近傍領域全体の電解質膜の厚みが増大されており、当該領域における反応ガスの電解質膜を介した透過移動が抑制され、過酸化水素ラジカルの発生が抑制される。
[適用例5]
適用例4記載の膜電極接合体であって、前記第2の触媒電極層は、前記第2の触媒電極層の外表面に沿った方向において、全ての外周端部が、前記第1の触媒電極層の外周端部より外側に位置するように形成されている、膜電極接合体。
この膜電極接合体によれば、第1の触媒電極層の外周端部の近傍領域において、第2の触媒電極層側から第1の触媒電極層側へと反応ガスが電解質膜を介して透過移動してしまうことが抑制される。従って、過酸化水素ラジカルによる電解質膜の劣化が、より抑制される。
[適用例6]
適用例1〜5のいずれか一つに記載の膜電極接合体であって、さらに、前記第2の触媒電極層の外表面上に配置された第2のガス拡散層を備え、前記第2のガス拡散層は、外周端部の全ての部位が前記第2の触媒電極層の外表面上に存在するように配置されている、膜電極接合体。
この膜電極接合体によれば、第2の触媒電極層によって、第2のガス拡散層の外表面に存在する毛羽が、電解質膜に直接的に突き刺さることを抑制することができる。従って、電解質膜の劣化が、さらに抑制される。
[適用例7]
燃料電池用の膜電極接合体の製造方法であって、
(a)電解質膜を搬送しつつ、電気化学反応を促進する触媒が担持された触媒電極層を、前記電解質膜の搬送方向に沿った側端部に、前記触媒電極層が配置されない余剰部位が生じるように形成する工程と、
(b)前記余剰部を折り重ねて厚みを増した膜厚部を形成し、ガス拡散層を、前記膜厚部の外表面上と前記触媒電極層の外表面上とに渡って配置する工程と、
を備える製造方法。
この製造方法によれば、適用例1〜適用例6の膜電極接合体など、膜厚部が形成されることにより電解質膜の劣化が抑制された膜電極接合体を効率的に製造することができる。
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池用の膜電極接合体、その膜電極接合体を備えた燃料電池、その燃料電池を備えた燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。また、本発明は、例えば、燃料電池用の膜電極接合体の製造方法や、その製造方法を実行する製造装置、その製造装置を制御するためのプログラム、そのプログラムを記録した記録媒体などの形態で実現することができる。
膜電極接合体を備える燃料電池の構成を示す概略図。 膜電極接合体のより詳細な構成を説明するための概略図。 膜電極接合体における電解質膜の保護を説明するための模式図。 膜電極接合体を製造する製造装置の構成を示す概略図。 第1電極形成部におけるアノード触媒層の形成工程を示す模式図。 膜端部加工部の膜折機構の構成を示す概略図。 膜端部加工部における膜厚部の形成工程を示す模式図。 ガス拡散層配置部におけるガス拡散層の配置工程を説明するための模式図。 第2実施例としての膜電極接合体の構成を示す概略図。 第2実施例の膜電極接合体を製造する製造装置の構成を示す概略図。 第1電極形成部においてアノード触媒層が形成された後の電解質膜の一部を示す概略図。 膜折機構における第3と第4の膜厚部の形成工程の様子を順に示す模式図。
A.第1実施例:
図1は本発明の一実施例としての膜電極接合体を備える燃料電池の構成を示す概略図である。この燃料電池100は、反応ガスとして水素(燃料ガス)と酸素(酸化ガス)の供給を受けて発電する固体高分子型燃料電池である。燃料電池100は、複数の単セル110が積層されたスタック構造を有している。
単セル110は、膜電極接合体10と、膜電極接合体10を狭持する2枚のセパレータ21,22(以後、それぞれ「アノードセパレータ21」および「カソードセパレータ22」とも呼ぶ)とを備える。膜電極接合体10は、電解質膜1の外側に第1と第2の電極層2,3(以後、それぞれ「アノード電極層2」および「カソード電極層3」とも呼ぶ)が設けられた発電体である。
電解質膜1は、プロトン伝導性を有する固体高分子の薄膜である。電解質膜1としては、例えば、イオン交換基としてスルホン酸基を有するフッ素樹脂系のイオン交換膜を用いることができる。ここで、本実施例の電解質膜1には、外周端部をアノード電極層2側に折り重ねて膜厚を増大させた膜厚部1eが形成されている。この膜厚部1eの具体的な構成については後述する。
アノード電極層2およびカソード電極層3はそれぞれ、触媒層2c,3cと、ガス拡散層2g,3gとが積層された構成を有する。各触媒層2c,3c(以後、それぞれ「アノード触媒層2c」、「カソード触媒層3c」とも呼ぶ)は、電解質膜1の両面にそれぞれ形成されている。各触媒層2c,3cは、導電性およびガス拡散性を有し、電気化学反応を促進するための触媒が担持されている。各触媒層2c,3cは、例えば、触媒担持カーボンを用いて構成することができる。また、各触媒層2c,3cの触媒としては、白金(Pt)を用いることができる。
各ガス拡散層2g,3g(以後、それぞれ「アノードガス拡散層2g」、「カソードガス拡散層3g」とも呼ぶ)はそれぞれ、各触媒層2c,3cの上に配置され、水素又は酸素を電極面全体に拡散させて行き渡らせる。各ガス拡散層2g,3gは、導電性およびガス透過性・ガス拡散性を有する多孔質の繊維基材(例えば、炭素繊維や黒鉛繊維など)を用いて構成することができる。
膜電極接合体10の外周には発電領域を囲むシール部4が形成されている。シール部4は、電解質膜1の外周端を被覆するように樹脂部材を射出成形することにより、電解質膜1に一体的に形成されている。シール部4は、燃料電池100として組み付けられたときに、2枚のセパレータ21,22によって狭持されて押圧される。
シール部4は、各セパレータ21,22との接触面にシールライン(図示せず)を形成して、反応ガスや冷媒などの流体の漏洩を防止するとともに、各セパレータ21,22同士の間の短絡を防止する。なお、シール部4には、各単セル110に反応ガスや冷媒を供給するためのマニホールドが設けられるが、その図示および説明は省略する。
アノードセパレータ21およびカソードセパレータ22はそれぞれ、アノード電極層2およびカソード電極層3の外側に配置されている。各セパレータ21,22は、導電性を有するガス不透過の板状部材(例えば金属板)によって構成される。各セパレータ21,22の電極層2,3側の面には、反応ガスのための流路溝23が、発電領域全体に渡って形成されている。この構成により、各セパレータ21,22は、膜電極接合体10に反応ガスを供給するためのガス流路として機能するとともに、膜電極接合体10で発電された電気を集電する集電部材として機能する。
なお、アノードセパレータ21とカソードセパレータ22との間には冷媒のための流路が形成されるが、その図示および説明は省略する。また、各セパレータ21,22の流路溝23は省略されるものとしても良く、各セパレータ21,22と各ガス拡散層2g,3gとの間には、いわゆるエキスパンドメタルなどの導電性を有する流路部材が配置されるものとしても良い。
図2は、本実施例の膜電極接合体10のより詳細な構成を説明するための概略図である。図2には、膜電極接合体10のアノード電極層2が形成されたアノード側の面を図示してある。なお、図2では、ガス拡散層2gの下に配置されて隠れている触媒層2cの外周端を破線で図示するとともに、電解質膜1の反対側の面に形成されたカソード触媒層3cの外周輪郭線を一点鎖線で図示してある。
ここで、電解質膜1の膜厚部1eは、電解質膜1のアノード触媒層2cを挟んで互いに対向し合う2つの外周側辺を構成する端部を、アノード電極層2側に折り重ねることにより形成されている。より具体的には、膜厚部1eは、電解質膜1の端面と、アノード触媒層2cの端面とが互いに接触し合うように、電解質膜1の端部を折り曲げて形成されており、アノード触媒層2cと隣接する位置に形成されている。
アノード触媒層2cは、2つの膜厚部1eの間の電解質膜1の外表面全体を被覆するように形成されている。アノードガス拡散層2gは、膜厚部1eの外表面上と、アノード触媒層2cの外表面上とに渡って配置されている。より具体的には、アノードガス拡散層2gは、膜厚部1eの外表面とアノード触媒層2cの外表面とで形成される連続した面の面内において、膜厚部1eとアノード触媒層2cのそれぞれに接触するように配置されている。
即ち、アノードガス拡散層2gは、その外周端部が、膜厚部1e、または、アノード触媒層2cの上に存在するように配置されている。より具体的には、アノードガス拡散層2gは、互いに対向し合う1組の側端部e1,e2がそれぞれ膜厚部1eの上に存在し、互いに対向し合うもう1組の側端部e3,e4がアノード触媒層2cの上に存在するように配置されている。
なお、本実施例の膜電極接合体10では、カソードガス拡散層3gは、アノードガス拡散層2gとほぼ同じサイズで形成されている。そして、膜電極接合体10をその積層方向(図2の紙面に垂直な方向)に沿って見たときに、カソードガス拡散層3gは、アノードガス拡散層2gとほぼ重なり合う位置に配置されている。また、カソードガス拡散層3gは、その外周端部の全ての部位がカソード触媒層3cの外表面上に存在するように配置されている。
図3(A)〜(C)はそれぞれ、本実施例の膜電極接合体10における電解質膜1の保護を説明するための模式図である。図3(A),(B)はそれぞれ、図2に示すA−A切断およびB−B切断における膜電極接合体10の断面を示す概略断面図である。
ここで、膜電極接合体10のガス拡散層2g,3gは、前記したとおり、繊維基材によって構成されている。そのため、ガス拡散層2g,3gの外表面には微細な突起である毛羽fが存在する。ガス拡散層2g,3gの毛羽fが電解質膜1に突き刺さると、電解質膜1を貫通する微小穴(クラック)が形成されてしまい、反応ガスのクロスリークや、触媒層2c,3c同士の短絡が引き起こされる可能性がある。ガス拡散層2g,3gの毛羽fは、ガス拡散層2g,3gの外周端部に多く存在する。そのため、電解質膜1は、ガス拡散層2g,3gが積層配置された電極層2,3の外周端部近傍の部位において、毛羽fによる損傷・劣化が生じる可能性が特に高い。
しかし、本実施例の膜電極接合体10では、アノードガス拡散層2gは、その外周端部が、膜厚部1eの上、または、アノード触媒層2cの上に存在するように配置されている。即ち、アノードガス拡散層2gと電解質膜1とは、膜厚が増大された膜厚部1eにおいてのみ直接的に接触しており、毛羽fにより厚み方向に貫通する微小穴が形成されることが抑制されている。
また、本実施例の膜電極接合体10では、アノードガス拡散層2gにおける膜厚部1eの上に配置された部位以外は、アノード触媒層2cの上に配置されており、毛羽fが直接的に電解質膜1に突き刺さることが抑制されている。即ち、アノード触媒層2cが、アノードガス拡散層2gの毛羽fの電解質膜1への突き刺さりを抑制する保護層として機能している。このように、本実施例の膜電極接合体10のアノード側では、膜厚部1eやアノード触媒層2cによって、ガス拡散層2gの毛羽fによる電解質膜1の損傷・劣化が抑制されている。
さらに、本実施例の膜電極接合体10では、前記したとおり、カソードガス拡散層3gの全体が、カソード触媒層3cの面内に配置されており、カソードガス拡散層3gの毛羽fが電解質膜1に直接的に突き刺さることが抑制されている。即ち、本実施例の膜電極接合体10では、カソード触媒層3cが、アノード触媒層2cと同様に、ガス拡散層3gの毛羽fの電解質膜1への突き刺さりを抑制する保護層として機能し、電解質膜1の損傷・劣化が抑制されている。
図3(C)は、膜電極接合体における過酸化水素ラジカルによる電解質膜の劣化を説明するための模式図である。図3(C)には、参考例としての膜電極接合体10aの端部が模式的に図示してある。この参考例の膜電極接合体10aは、電解質膜1に膜厚部1eが形成されていない点と、2つの触媒層2c,3cのサイズが異なる点以外は、本実施例の膜電極接合体10と同様な構成を有している。なお、図3(C)では、ガス拡散層2g,3gの図示が省略されている。また、図3(C)では、過酸化水素ラジカルを「・OH」と表記してある。
一般に、燃料電池では、その発電の際に、反応ガスである水素や酸素がそれぞれ電解質膜を透過して、供給された側の電極とは反対側の電極へと移動してしまう場合がある。この場合には、膜電極接合体の同じ電極の側に水素と酸素とが存在することとなり、電解質膜の近傍領域において、それらの水素と酸素とが互いに反応して過酸化水素が生成されてしまう可能性がある。過酸化水素がラジカル化した過酸化水素ラジカルは、電解質膜を劣化させる原因となる。
ここで、参考例の膜電極接合体10aでは、触媒層2c,3cの外表面に沿った方向(図3(C)の紙面左右方向)において、アノード触媒層2cの外周端部の方が、カソード触媒層3cの外周端部よりも外側に位置している。2つの触媒層2c,3cの外周端部が、このような位置関係を有している場合には、カソード触媒層3cの外周端部近傍の領域において、アノード側へと電解質膜1を透過移動する酸素の量が増大してしまうことが知られている。また、過酸化水素は、電位の高いアノードにおいて生成されやすい。即ち、この参考例の膜電極接合体10aでは、アノード触媒層2cの外周端部近傍領域において過酸化水素が発生する可能性が高く、過酸化水素ラジカルが生成されてしまう可能性が高い。
これに対して、本実施例の膜電極接合体10の2つの膜厚部1eが形成されている側の外周端部では(図3(A))、厚みが増大された膜厚部1eによって、アノード側への酸素の透過移動が抑制されている。また、膜電極接合体10の当該外周端部では、カソード触媒層3cの外周端部3taが、アノード触媒層2cの外周端部2taより外側に位置しており、アノード側への酸素の透過移動の発生が、さらに抑制されている。
ところで、過酸化水素ラジカルは、触媒層における触媒の作用によって消滅させることができる。従って、過酸化水素ラジカルが電極層において生成された場合であっても、電解質膜の触媒層の形成領域では、触媒層に担持された触媒の作用によって、過酸化水素ラジカルを、電解質膜に到達する前に消滅させることができることが可能である。しかし、参考例の膜電極接合体10a(図3(C))では、電解質膜1がアノード触媒層2cの外周端部から突出した部位1pを有している。この突出部位1pは、アノード触媒層2cによって保護されていないため、過酸化水素ラジカルが到達してしまい、劣化する可能性が高い。
これに対して、膜電極接合体10の2つの膜厚部1eが形成されていない外周端部では(図3(B))、アノード触媒層2cの外表面に沿った方向(紙面左右方向)において、アノード触媒層2cの外周端部2tbが電解質膜1の外周端部1tとほぼ同じ位置にある。即ち、電解質膜10の当該外周端部では、電解質膜1の外表面がアノード触媒層2cによって被覆されている。従って、膜電極接合体10の当該外周端部において、過酸化水素ラジカルが生成された場合であっても、その過酸化水素ラジカルを、電解質膜1に到達する前に、アノード触媒層2cにおいて消滅させることが可能である。
このように、本実施例の膜電極接合体10であれば、膜厚部1eの形成された外周端部では、酸素が電解質膜1を透過してアノード側に移動することが抑制され、過酸化水素ラジカルの発生が抑制される。さらに、膜厚部1eが形成されていない外周端部では、アノード触媒層2cにおける触媒作用によって酸化水素ラジカルを消滅させることができ、過酸化水素ラジカルによる電解質膜1の劣化が抑制される。
図4は、本実施例の膜電極接合体10を製造する製造装置200の構成を示す概略図である。この製造装置200は、流れ工程によって複数の膜電極接合体10を連続的に製造することが可能である。製造装置200は、膜供給部210と、第1電極形成部220と、膜端部加工部230と、第2電極材料供給部240と、電極接合部250と、切断部260と、ガス拡散層配置部270とを備える。さらに、製造装置200は、帯状に連続した電解質膜1を、各構成部へと順に搬送していくための複数の搬送ローラ201を備えている。
膜供給部210には、帯状の電解質膜1がロール状に巻き取られた電解質膜ロール1rがセットされている。膜供給部210は、搬送ローラ201の回転駆動により、セットされた電解質膜ロール1rから電解質膜1を第1電極形成部220へとほぼ一定の速度で送出する。なお、本明細書では、電解質膜1が電解質膜ロール1rから繰り出され、搬送された方向を「MD(Machine Direction)方向」と呼ぶ。
図5は、第1電極形成部220におけるアノード触媒層2cの形成工程を示す模式図である。第1電極形成部220は、電解質膜1に触媒インクを塗布する塗工機221を備えている。ここで、「触媒インク」とは水溶性溶媒または有機溶媒に、触媒担持カーボンと、電解質膜1に含まれる電解質ポリマーと同種の電解質ポリマーと、を分散させた混合溶液を意味する。
第1電極形成部220では、搬送ローラ201によって搬送されていく電解質膜1の一方の外表面上に、塗工機221から触媒インクを一定の流量で連続的に吐出させて、触媒インクの塗布層を形成する。この触媒インクの塗布層が乾燥することにより、電解質膜1の外表面においてMD方向に沿って一定の幅で連続的に延びるアノード触媒層2cが形成される。第1電極形成部220は、塗工機221の後段に触媒インクの塗布層を乾燥させるための乾燥部が設けられているものとしても良い。
ここで、本実施例の第1電極形成部220では、塗工機221の触媒インクを吐出する開口幅は、電解質膜1の幅より狭く構成されており、塗工機221は、電解質膜1の幅方向における中央領域に触媒インクを塗布する。即ち、第1電極形成部220では、アノード触媒層2cの両端に電解質膜1の外表面が露出した膜余剰部1mが形成されるように、電解質膜1に触媒インクを塗布する。これによって、第1電極形成部220では、電解質膜1以外の、搬送ローラ201等の他の構成部に余分な触媒インクが付着してしまうことを抑制する。
第1電極形成部220においてアノード触媒層2cが形成された電解質膜1は、搬送ローラ201によって膜端部加工部230へと搬送される(図4)。膜端部加工部230は、膜折機構231を備えており、第1電極形成部220において形成された膜余剰部1mを利用して膜厚部1eを形成する。
図6,図7は、膜端部加工部230における膜折機構231によって膜厚部1eの形成工程を説明するための模式図である。図6(A)は、一例としての膜折機構231を示す概略斜視図であり、図6(B)は膜折機構231を、搬送される電解質膜1の面に垂直な方向に沿って見たときの概略正面図である。
図7(A)〜(D)は、膜折機構231において膜厚部1eが形成される様子を順に示す模式図である。図7(A)〜(D)にはそれぞれ、図6(B)に示すA−A切断,B−B切断,C−C切断,D−D切断における膜折機構231および膜折機構231を通過中の電解質膜1の概略断面図を図示してある。
膜折機構231は、搬送される電解質膜1の両側端部をガイドする2つの側壁部231a,231bを有するように、板状部材を曲げ加工することにより形成されている。膜折機構231の2つの側壁部231a,231bはそれぞれ、略U字断面を有するように湾曲しており、その開口方向が電解質膜1の搬送路を挟んで互いに対向し合うように配置されている(図6(A),(B))。また、2つの側壁部231a,231bは、電解質膜1の搬送方向における上流側から下流側にかけて内壁面同士の間の幅が縮小されるとともに、各内壁面の曲率半径が縮小されるように構成されている。
膜折機構231において、2つの側壁部231a,231bの間を電解質膜1が搬送されるときには、膜余剰部1mは、下流側に搬送されるにつれて、各側壁部231a,231bの内壁面に沿って徐々に反り返っていく(図7(A),(B))。そして、膜余剰部1mは、その側部端面がアノード触媒層2cの側端面と接触するように折り重ねられ、膜厚部1eが形成される((図7(C),(D)))。
膜厚部1eが形成された電解質膜1は、搬送ローラ201によって、電極接合部250へと搬送される(図4)。ここで、電極接合部250には、電解質膜1とともに、カソード触媒層3cを形成するための電極材料が第2電極材料供給部240から供給される。
第2電極材料供給部240は、触媒担持膜3fを搬送する帯状の搬送ベルト202と、搬送ベルト202を駆動する搬送ローラ203とを備える。ここで、「触媒担持膜3f」とは、カソード触媒層3cを形成するための材料であり、アノード触媒層2cの形成の際に用いたのと同様な触媒インクを塗布・乾燥させることにより形成された薄膜である。
触媒担持膜3fは、搬送ベルト202の面上において、搬送ベルト202の延伸方向(搬送方向)に沿って等間隔で配列されている。第2電極材料供給部240は、電解質膜1の搬送速度に同期させて、触媒担持膜3fが配列された搬送ベルト202を電極接合部250へと送出する。
電極接合部250は、第1と第2の熱厚着ローラ251,252を備える。電極接合部250では、電解質膜1と搬送ベルト202とは、電解質膜1のアノード触媒層2cが形成された面の反対側の面に触媒担持膜3fが面接触する状態で、第1と第2の熱厚着ローラ251,252に狭持される。これによって、電解質膜1とアノード触媒層2cとが加熱接合されるとともに、電解質膜1のアノード触媒層2cの反対側の面に触媒担持膜3fが加熱転写され、カソード触媒層3cが形成される。
なお、電極接合部250における熱厚着工程により、電解質膜1とアノード触媒層2cとは、その厚み方向に圧縮されるため、アノード触媒層2cの外表面と膜厚部1eの外表面との間の段差が低減される。2つの触媒層2c,3cが形成された電解質膜1は、切断部260へと搬送される。
切断部260は、カッター261を備えている。切断部260では、カッター261を駆動することにより、搬送されてきた電解質膜1を、隣り合って配列されたカソード触媒層3c同士の間で切断する。切断・分離された、電解質膜1と2つの触媒層2c,3cの積層体10fは、ガス拡散層配置部270へと搬送される。
図8(A),(B)は、ガス拡散層配置部270におけるガス拡散層2g,3gの配置工程を説明するための模式図である。図8(A)は、切断部260からガス拡散層配置部270に搬送される積層体10fを示す概略斜視図である。図8(B)は、積層体10fに2つのガス拡散層2g,3gが配置されることにより完成された膜電極接合体10を示す概略斜視図である。なお、図8(B)は、2つのガス拡散層2g,3gが設けられている点以外は、図8(A)とほぼ同じである。
ガス拡散層配置部270では、積層体10fの各触媒層2c,3cの外側に、ガス拡散層2g,3gを構成する繊維基材が配置されるとともに加熱接合される。なお、アノードガス拡散層2gは、膜厚部1eの外表面とアノード触媒層2cの外表面とで形成された連続した面内に繊維基材が配置されることによって形成される。また、カソードガス拡散層3gは、カソード触媒層3cの外表面内に繊維基材が配置されることによって形成される。
このように、本実施例の製造装置200であれば、ガス拡散層2g,3gの毛羽fや過酸化水素ラジカルによる電解質膜1の劣化が抑制された膜電極接合体10を、一連の連続した工程によって効率的に製造することができる。
B.第2実施例:
図9(A)〜(C)は本発明の第2実施例としての膜電極接合体10Aの構成を示す概略図である。図9(A)は、膜電極接合体10Aのアノード電極層2側の面を示す概略正面図である。図9(A)は、アノード触媒層2c(破線で図示)の全体がアノードガス拡散層2gの下に配置されて隠れている点と、アノード触媒層2cの外周が膜厚部1ea〜1edに囲まれている点以外は、図2とほぼ同じである。図9(B),(C)はそれぞれ、図9(A)に示すB−B切断およびC−C切断における膜電極接合体10Aの断面を示す概略断面図である。
第2実施例の膜電極接合体10Aでは、アノード触媒層2cの外周より外側に突出した電解質膜1の外周端部をそれぞれアノード電極層2側に折り重ねることにより、アノード触媒層2cを囲む周状の膜厚部1ea〜1edが形成されている。より具体的には、アノード触媒層2cを挟んで互いに対向し合う1組の側端部をそれぞれ折り重ねることにより、第1と第2の膜厚部1ea,1ebが形成されている。そして、さらに、アノード触媒層2cを挟んで互いに対向し合う、もう1組の側端部をそれぞれ折り重ねることにより、第3と第4の膜厚部1ec,1edが形成されている。以下では、膜厚部1ea〜1edを合わせて、単に「膜厚部1e」とも呼ぶ。
なお、上述のように膜厚部1eを形成したときに、電解質膜1の四隅であるコーナー部1cはそれぞれ、電解質膜1の4枚分の厚みを有することになる。即ち、コーナー部1cは、電解質膜1の2枚分の厚みを有する膜厚部1eの他の部位よりも厚く形成されてしまう。そこで、コーナー部1cは、押厚加工によって、その厚みが圧縮されるものとしても良い。
ここで、第2実施例の膜電極接合体10Aでは、アノードガス拡散層2gは、その外周端部の全ての部位が、膜厚部1eの外表面上に存在するように配置されている。即ち、アノードガス拡散層2gは、互いに対向し合う1組の側端部e1,e2が、第1と第2の膜厚部1ea,1ebの外表面上に配置され、互いに対向し合う、残余の1組の側端部e3,e4が、第3と第4の膜厚部1ec,1edの外表面上に配置されている。また、第2実施例の膜電極接合体10Aでは、アノード触媒層2cは、膜厚部1ea〜1edによって囲まれた領域を被覆している。
即ち、第2実施例の膜電極接合体10Aでは、アノードガス拡散層2gの外周端部に存在する毛羽fの突き刺しに対しては、周状の膜厚部1eによって、電解質膜1を補強している。そして、アノードガス拡散層2gの外周端部以外に存在する毛羽fの突き刺しに対しては、アノード触媒層2cによって、電解質膜1を保護している。なお、第2実施例の膜電極接合体10Aでは、第1実施例の膜電極接合体10と同様に、カソードガス拡散層3gの全体がカソード触媒層3cの面内に配置されることにより、カソードガス拡散層3gの毛羽fから電解質膜1が保護されている。
さらに、第2実施例の膜電極接合体10Aでは、触媒層2c,3cの外表面に沿った方向(図9(A)の紙面に沿った方向)において、アノード触媒層2cの外周端部の全ての部位が、カソード触媒層3cの外周端部より内側の位置に存在している。即ち、第2実施例の膜電極接合体10Aでは、カソード触媒層3cが、アノード触媒層2cの外周端部から外側に突出した部位を有していない。従って、カソード電極層3からアノード電極層2へと、酸素が電解質膜1を介して透過移動することが抑制され、過酸化水素ラジカルの発生が抑制される。
このように、第2実施例の膜電極接合体であれば、ガス拡散層2g,3gの毛羽fや、過酸化水素ラジカルによって電解質膜1が劣化してしまうことが抑制される。
図10は、第2実施例の膜電極接合体10Aを製造する製造装置200Aの構成を示す概略図である。この製造装置200Aは、第1電極形成部220においてアノード触媒層2cがMD方向に沿って連続して形成されていない点と、切断部260Aに膜折機構262が設けられている点以外は、第1実施例の製造装置200(図4)とほぼ同じである。
第2実施例の製造装置200Aでは、第1電極形成部220は、触媒インクの塗布工程を一定の周期で断続的に実行する。これによって、搬送される電解質膜1の外表面には、ほぼ同一のサイズの複数のアノード触媒層2cが、MD方向に沿って一定の間隔で配列された状態で形成される。
図11は、第1電極形成部220においてアノード触媒層2cが形成された後の電解質膜1の一部を示す概略図である。第2実施例の製造装置200では、第1電極形成部220を経た後の電解質膜1には、アノード触媒層2cの外周を囲む膜余剰部1ma〜1mdが形成される。より具体的には、電解質膜1には、電解質膜1の幅方向(MD方向に垂直な方向)にアノード触媒層2cを挟む第1と第2の膜余剰部1ma,1mbと、MD方向にアノード触媒層2cを挟む第3と第4の膜余剰部1mc,1mdとが形成される。
膜端部加工部230(図10)では、第1実施例の製造装置200と同様に、膜折機構231によって、第1と第2の膜余剰部1ma,1mbを折り重ねて、第1と第2の膜厚部1ea,1ebが形成される。第2電極材料供給部240は、電極接合部250において、電解質膜1における各アノード触媒層2cの位置に対応する位置に各触媒担持膜3fが配置されるように、搬送ベルト202による触媒担持膜3fの搬送速度を電解質膜1の搬送速度に同期させる。
切断部260Aでは、カッター261が、各アノード触媒層2cの間の中間部位(即ち、各カソード触媒層3cの間の中間部位)において、電解質膜1を切断し、電解質膜1の両面に触媒層2c,3cが形成された積層体10Afを分離する。積層体10Afは、膜折機構262へと搬送される。
図12(A)〜(C)は、膜折機構262における第3と第4の膜厚部1ec,1cdの形成工程の様子を順に示す模式図である。図12(A)〜(C)にはそれぞれ、積層体10Afを、第1の膜厚部1eaが形成された側面側から見たときの側面図が示されている。膜折機構262では、積層体10Afの第3と第4の膜余剰部1mc,1mdを、それらの端面がアノード触媒層2cの側端面と接触するように折り重ね、第3と第4の膜厚部1ec,1edを形成する。なお、前記したとおり、電解質膜1のコーナー部1cについては圧縮加工して厚みを低減させるものとしても良い。
ガス拡散層配置部270では、アノード触媒層2cの外周を囲む膜厚部1ea〜1edが形成された積層体10Afの両面に、ガス拡散層2g,3gの基材を配置し、ホットプレスすることにより接合する。なお、2つのガス拡散層2g,3gの配置位置は、図9で説明した通りである。このように、第2実施例の製造装置200Aであれば、膜厚部1ea〜1edが形成され、電解質膜1の劣化が抑制された膜電極接合体10Aを、流れ工程により、連続して効率的に製造することができる。
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
C1.変形例1:
上記実施例において、膜厚部1eは、電解質膜1の膜余剰部1m,1ma〜1mdをアノード側に1回だけ折り重ねることにより形成されていた。しかし、膜厚部1eは、電解質膜1の膜余剰部1m,1ma〜1mdを、2回以上折り重ねて形成されるものとしても良い。また、膜厚部1eは、電解質膜1の膜余剰部1m,1ma〜1mdをカソード側に折り重ねて形成されるものとしても良い。
C2.変形例2:
上記実施例において、膜厚部1e,1ea〜1edは、電解質膜1の側端面とアノード触媒層2cの側端面とが互いに接触し合うように、電解質膜1の外周端部を折り重ねることにより、アノード触媒層2cと隣接する位置に形成されていた。しかし、膜厚部1eは、電解質膜1の側端面とアノード触媒層2cの側端面とが互いに接触し合っていなくとも良く、膜厚部1eとアノード触媒層2cとの間には、隙間が形成されるものとしても良い。ただし、ガス拡散層2gの毛羽fの突き刺しや反応ガスの透過移動を抑制するためには、膜厚部1eとアノード触媒層2cとは互いに隣接することが好ましい。なお、膜厚部1eは、アノード触媒層2cと互いに隣接するために、電解質膜1の一部がアノード触媒層2cの外表面上に重なって配置されるように、電解質膜1の外周端部を折り重ねて形成されるものとしても良い。
C3.変形例3:
上記第1実施例では、アノード触媒層2cは、膜厚部1eと接触していない外周端部2tbが、電解質膜1の外周端部1tとほぼ同じ位置に位置しており、電解質膜1の膜厚部1e以外の領域を被覆していた(図3(B))。しかし、アノード触媒層2cは、電解質膜1の膜厚部1e以外の領域を被覆していなくとも良い。なお、この場合には、膜厚部1eとは接触していないアノード触媒層2cの外周端部2tbは、電解質膜1の厚み方向に沿って見たときに、カソード触媒層3cの外周端部3tbより内側に位置していることが好ましい。これによって、当該部位におけるアノード側への酸素の透過移動を抑制することができる。
C4.変形例4:
上記第2実施例では、触媒層2c,3cの外表面に沿った方向において、カソード触媒層3cの全ての外周端部が、アノード触媒層2cの外周端部より外側に形成されていた。しかし、カソード触媒層3cの外周端部は、アノード触媒層2cの外周端部とほぼ同じ位置、または、アノード触媒層2cの外周端部より内側に形成されているものとしても良い。
C5.変形例5:
上記実施例では、膜電極接合体10の第1の電極層2をアノードとして機能させ、第2の電極層3をカソードとして機能させていた。しかし、燃料電池100では、水素と酸素の供給先を入れ替えることにより、膜電極接合体10の第1の電極層2をカソードとして機能させ、第2の電極層3をアノードとして機能させるものとしても良い。この場合には、膜電極接合体10,10Aでは、膜厚部1eの厚みによって、触媒層2cの外周端部近傍におけるアノード側への酸素の透過移動が抑制される。また、第1実施例の膜電極接合体10では、膜厚部1eが形成されていない外周端部において、酸素が供給される触媒層2cの外周端部2tbが、水素が供給される触媒層3cの外周端部3tbより外側に位置することになる(図3(B))。そのため、当該外周端部においても、酸素のアノード側への透過移動が抑制される。
C6.変形例6:
上記第1実施例では、膜厚部1eは、アノード触媒層2cを挟んで互いに対向するように、電解質膜1の互いに対向し合う2つの側端部を折り重ねて形成されていた。また、上記第2実施例では、膜厚部1ea〜1edは、アノード触媒層2cを囲むように、電解質膜1の全ての外周端部を折り重ねて、周状に形成されていた。しかし、電解質膜1の膜厚部は、電解質膜1の外周端部の少なくとも一部を折り重ねて形成されていれば良く、例えば、電解質膜1の1つの側端部にのみ形成されるものとしても良い。
C7.変形例7:
上記実施例において、膜電極接合体10,10Aの製造装置200,200Aは、電解質膜1の側端部が搬送方向下流側ほどめくれ上がるようにガイドして、最終的に電解質膜1の側端部が折り重なって膜厚部1e(1ea,1eb)が形成される膜折機構231を備えていた。しかし、膜折機構231は、他の方法で膜厚部1eを形成する装置によって構成されるものとしても良い。例えば、膜折機構231は、ヒンジ機構によって開閉動作する2枚のプレス板によって、電解質膜1の外周端部を折り曲げつつ狭持・押厚することにより、膜厚部1eを形成する装置であるものとしても良い。
C8.変形例8:
上記実施例において、膜電極接合体10,10Aは、第1と第2のガス拡散層2g,3gを備えていたが、第1と第2のガス拡散層2g,3gのうちの一方、または両方は省略されるものとしても良い。燃料電池100を構成する際には、第1と第2の触媒層2c,3cの外表面上には、第1と第2のガス拡散層2g,3gに換えて、反応ガスを拡散するガス流路として機能する流路部材が配置されるものとしても良い。
C9.変形例9:
上記実施例では、カソードガス拡散層3gは、カソード触媒層3cの面内に配置されていた。しかし、カソードガス拡散層3gは、その外周端の一部または全部が、カソード触媒層3cの外周端より外側に位置するように配置されるものとしても良い。
1…電解質膜
1c…コーナー部
1e,1ea〜1ed…膜厚部
1m,1ma〜1md…膜余剰部
1r…電解質膜ロール
1t…外周端部
2…アノード電極層
2c…アノード触媒層
2g…アノードガス拡散層
2ta…外周端部
2tb…外周端部
3…カソード電極層
3c…カソード触媒層
3f…触媒担持膜
3g…カソードガス拡散層
3ta…外周端部
3tb…外周端部
4…シール部
10,10A,10a…膜電極接合体
10f,10Af…積層体
10a…膜電極接合体
21…アノードセパレータ
22…カソードセパレータ
23…流路溝
100…燃料電池
110…単セル
200,200A…製造装置
201…搬送ローラ
202…搬送ベルト
203…搬送ローラ
210…膜供給部
220…第1電極形成部
221…塗工機
230…膜端部加工部
231…膜折機構
231a,231b…側壁部
240…第2電極材料供給部
250…電極接合部
251,252…熱厚着ローラ
260,260A…切断部
261…カッター
262…膜折機構
270…ガス拡散層配置部
f…毛羽

Claims (7)

  1. 燃料電池用の膜電極接合体であって、
    電解質膜と、
    前記電解質膜の両面にそれぞれ配置され、電気化学反応を促進する触媒が担持された第1と第2の触媒電極層と、
    を備え、
    前記電解質膜には、前記第1と第2の触媒電極層が形成されていない外周端部の少なくとも一部を折り重ねて厚みを増した膜厚部が形成されている、膜電極接合体。
  2. 請求項1記載の膜電極接合体であって、さらに、
    前記第1の触媒電極層の外表面上に配置された第1のガス拡散層を備え、
    前記膜厚部と、前記第1の触媒層とは、互いに隣接するように形成されており、
    前記第1のガス拡散層は、前記膜厚部の外表面上と、前記第1の触媒電極層の外表面上とに渡って配置されている、膜電極接合体。
  3. 請求項2記載の膜電極接合体であって、
    前記第1の触媒電極層は、前記膜厚部と隣接する外周端部である隣接外周端部と、前記膜厚部とは隣接していない外周端部である非隣接外周端部とを有し、
    前記第1の触媒電極層の外表面に沿った方向において、前記隣接外周端部は、前記第2の触媒電極層の外周端部より内側に位置しており、前記非隣接外周端部は、前記電解質膜の外周端部とほぼ同じ位置に位置している、膜電極接合体。
  4. 請求項2記載の膜電極接合体であって、
    前記膜厚部は、前記第1の触媒電極層の外周に沿って周状に形成されており、
    前記第1のガス拡散層は、外周端部の全ての部位が前記膜厚部の外表面上に存在するように配置されている、膜電極接合体。
  5. 請求項4記載の膜電極接合体であって、
    前記第2の触媒電極層は、前記第2の触媒電極層の外表面に沿った方向において、全ての外周端部が、前記第1の触媒電極層の外周端部より外側に位置するように形成されている、膜電極接合体。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の膜電極接合体であって、さらに、
    前記第2の触媒電極層の外表面上に配置された第2のガス拡散層を備え、
    前記第2のガス拡散層は、外周端部の全ての部位が前記第2の触媒電極層の外表面上に存在するように配置されている、膜電極接合体。
  7. 燃料電池用の膜電極接合体の製造方法であって、
    (a)電解質膜を搬送しつつ、電気化学反応を促進する触媒が担持された触媒電極層を、前記電解質膜の搬送方向に沿った側端部に、前記触媒電極層が配置されない余剰部位が生じるように形成する工程と、
    (b)前記余剰部を折り重ねて厚みを増した膜厚部を形成し、ガス拡散層を、前記膜厚部の外表面上と前記触媒電極層の外表面上とに渡って配置する工程と、
    を備える製造方法。
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