JP2012214416A - 抗炎症性腸疾患剤 - Google Patents

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一美 緒方
Takayuki Noguchi
隆之 野口
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功 横井
Satoshi Hagiwara
聡 萩原
Hironori Koga
寛教 古賀
Masatake Kitano
正剛 北野
Masashi Inomata
雅史 猪股
Masatane Moriyama
正胤 守山
Tomohisa Uchida
智久 内田
Yohei Kono
洋平 河野
Takahiro Hiratsuka
孝宏 平塚
Fumitaka Yoshizumi
文孝 吉住
Takashi Masuda
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Abstract

【課題】従来治療が困難であった炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎の改善または緩解状態を維持するために有効な医薬組成物(抗炎症性腸疾患剤)を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする、抗炎症性腸疾患剤:
Figure 2012214416

〔式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3の低級アルキル基を示し、RおよびRは、異なって、水素原子であるか、またはS結合したSH化合物若しくはそのエステルを示し、Rは水酸基、N−置換アミノ酸若しくはそのエステル、またはアミンを示す〕
【選択図】なし

Description

本発明は、従来治療が困難であった炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎の改善または緩解状態を維持するために有効な医薬組成物(抗炎症性腸疾患剤)に関する。
クローン病と潰瘍性大腸炎に大別される炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease, IBD)は、特に若年成人に好発する難治性疾患であり、罹患数は年々増加傾向にある。特に、潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis, UC)は、主として大腸の粘膜を侵し、しばしばびらんや潰瘍を形成する大腸のびまん性非特異性炎症である。その主たる症状は、下血を伴う下痢または下血を伴わない下痢と頻発する腹痛である。その経過中に再燃と緩解を繰り返すことが多く、腸管外合併症を伴うことがある。また長期かつ広範囲に大腸を侵す場合には癌化の傾向があることも指摘されている。
しかしながら、これらの炎症性腸疾患の原因は不明であり、成因のひとつとして自己免疫反応の異常が挙げられて久しいものの、未だその詳細は不明な部分が多い。現在では、炎症性腸疾患についても多岐に亘る免疫関連因子の検討とともに遺伝的因子、環境因子、精神的因子などの検討がなされている。特に、潰瘍性大腸炎は家族内での発症も認められているため、何らかの遺伝的要因も関与していると考えられており、近年、3つの遺伝子がその発症に関わっているという報告がされている。なかでも、FGGR2A遺伝子は、さまざまな細胞のFcレセプターへのIgGの結合を強めることで、B細胞、単球、マクロファージ、好中球などの免疫細胞の活動性亢進、並びにサイトカインや炎症細胞の誘導をもたらしているとされている(非特許文献1)。
これらの炎症性腸疾患は、単なる炎症性疾患とは異なり、従来の抗炎症剤では効果が得られない難治性疾患であり、現時点で、これらの疾患を完治させる根本的な治療方法はない。このため、厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服対策研究事業「難治性炎症性腸管障害に対する調査研究」班による治療指針改定案では、栄養療法を基本に、薬物療法を組み合わせることにより上手く病勢をコントロールすることが提唱されている。つまり、薬物療法、栄養療法及び外科療法を組み合わせて、栄養状態を維持し、症状を抑え、炎症の再燃や再発を予防することで緩解状態を維持し、患者のQOLを高めることが治療の主目的とされている。再燃または再発した場合には、5−アミノサリチル酸製剤;プレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド剤;アザチオプリンなどの免疫抑制剤:インフルキシマブ、メトロニダゾールなどの抗菌剤;または免疫グロブリンやIL−10等の免疫調整剤などの投与が薬物療法として用いられる。
ところで、本発明が対象とする水溶性ビタミンE誘導体には、従来から、肝障害抑制作用、抗白内障作用、脳代謝改善作用、抗酸化作用、抗炎症作用及び抗アレルギー作用があることが知られている(特許文献1〜2参照)。しかしながら、当該水溶性ビタミンE誘導体に、難治性である上記炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎の治療や緩解状態の維持に効果があることは知られていない。
WO99/33818 特開2000-191528号公報
Asano K., Nat Genet. 2009 Dec;41(12):1325-9.
従来潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患に対して処置されている前述の薬物療法はいずれも対処療法であり、炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎の根治を目的とするものではない。特に炎症性腸疾患は、前述するように厚生労働省指定の難病に指定されており、国家的見地から炎症性腸疾患に対する根治的治療方法の確立が求められている。また、根治的治療ができないとしても、当該炎症性腸疾患の活動性(再燃・増悪・再発)をコントロールして緩解状態を維持することは、患者のQOLを高めるうえで、非常に有意義なことである。
本発明は、かかる従来からの課題を解決することを目的とするものであって、炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎の改善や緩解状態の維持に有効に使用できる抗炎症性腸疾患剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、下記の一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体を、人為的に潰瘍性大腸炎を発症させた潰瘍性大腸炎モデル動物に投与したところ、潰瘍性大腸炎特有の症状が用量依存的に有意に緩和・軽減することを確認した。これらのことから、本発明者らは、当該水溶性ビタミンE誘導体(I)が、潰瘍性大腸炎を初めとする難治性疾患である炎症性腸疾患の改善または当該疾患の活動性(再燃・増悪・再発)をコントロールすることで緩解状態の維持を可能とする薬剤として有用であると考え、本件発明を完成するにいたった。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を包含する。
(I)炎症性腸疾患の改善または緩解状態維持剤(抗炎症性腸疾患剤)
(I-1)下記一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする、抗炎症性腸疾患剤:
Figure 2012214416
〔式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3の低級アルキル基を示し、RおよびRは、異なって、水素原子であるか、またはS結合した下記式(1)〜(5)のいずれかに示されるSH化合物若しくはそのエステル(但し、当該エステルにはシステナミンは含まれない。)を示し、Rは水酸基、下記式(6)〜(11)のいずれかに示されるN−置換アミノ酸、そのエステル(但し、当該エステルにはアミノエタンスルホン酸、及びアミノエタンスルフィン酸は含まれない。)または下記式(12)に示されるアミンを示す〕
Figure 2012214416
(I-2)一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体が下記(a)〜(o)からなる群から選択されるいずれかである、(I-1)に記載する抗炎症性腸疾患剤:
(a)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン、
(b)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(c)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(d)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル] -3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ] プロピル]システニイルグリシン、
(e)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ] プロピル]システイン、
(f)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(g)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(5-カルボキシペンチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(h)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(トランス-4-カルボキシシクロヘキシルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(i)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システイン、
(j)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]ペニシラミン、
(k)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システナミン、
(l)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(エトキシカルボニルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(m)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン イソプロピルエステル、
(n)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフィノエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(o)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-(2-カルボキシピロリジノ)プロピル]システニイルグリシン。
(I-3)炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎である(I-1)または(I-2)に記載する抗炎症性腸疾患剤。
実験例1において、各被験群(対照群、DSS投与群、ETS-GS[100mg/kg]投与群、ETS-GS[1mg/kg]+DSS投与群、ETS-GS[10mg/kg]+DSS投与群、ETS-GS[100mg/kg]+DSS投与群)に対する投薬方法の概要を示した図である。 実験例1において、各被験群(対照群、DSS投与群、ETS-GS[100mg/kg]投与群、ETS-GS[1mg/kg]+DSS投与群、ETS-GS[10mg/kg]+DSS投与群、ETS-GS[100mg/kg]+DSS投与群)について、試験期間中(day-3〜day7の10日間)、体重変化、下痢及び血便の3項目から評価した「潰瘍性大腸炎の活性指数(DAIスコア)」を示す。なお、DAIスコアは、各3項目のスコアの和を3で割って平均化したものである。スコアデータについては、分散分析(反復)、Fisher分析を施行し、群間のデータを比較した。*はP<0.05であることを示し、統計的に有意であることを意味する。 実験例1において、各被験群(対照群、DSS投与群、ETS-GS[100mg/kg]投与群、ETS-GS[1mg/kg]+DSS投与群、ETS-GS[10mg/kg]+DSS投与群、ETS-GS[100mg/kg]+DSS投与群)について、試験開始から10日後(day7)に摘出した大腸の、(A)平均重量を比較した結果、及び(B)平均長さを比較した結果を示す。各データは、分散分析(要因)、Fisher分析を施行し、群間のデータを比較した。*はP<0.05であることを示し、統計的に有意であることを意味する。 実験例1において、各被験群((1)対照群(水+生食投与群)、(2)水+ETS-GS[10mg/kg]投与群、(3)DSS+生食投与群、及び(4)DSS+ETS-GS[10mg/kg]投与群)について、試験期間中(day1〜day9の9日間)、体重変化、下痢及び血便の3項目から評価した「潰瘍性大腸炎の活性指数(DAIスコア)」を示す。なお、DAIスコアは、各3項目のスコアの和を3で割って平均化したものである。スコアデータについては、分散分析(反復)、Fisher分析を施行し、群間のデータを比較した。*はP<0.05であることを示し、統計的に有意であることを意味する。 実験例2において、各被験群(左から (3)DSS+生食投与群、(4)DSS+ETS-GS[10mg/kg]投与群、(1)対照群(水+生食投与群)、及び(2)水+ETS-GS[10mg/kg]投与群)について、試験開始から10日後(day10)に摘出した大腸の、(A)平均重量を比較した結果、及び(B)平均長さを比較した結果を示す。各データは、分散分析(要因)、Fisher分析を施行し、群間のデータを比較した。*はP<0.05であることを示し、統計的に有意であることを意味する。 実験例2において、各被験群(左から (3)DSS+生食投与群、(4)DSS+ETS-GS[10mg/kg]投与群、(1)対照群(水+生食投与群))について、試験開始から10日後(day10)に摘出した大腸組織をHA染色してデジタルカメラで撮影した病理組織像である。 実験例2において、病理組織像から腸炎の活動性を組織学的スコアとして判定した結果を示す、縦軸は、組織学的スコアを示す。 実験例2において、各被験群(左から (1)対照群(水+生食投与群)、 (2)水+ETS-GS[10mg/kg]投与群、(3)DSS+生食投与群、及び(4)DSS+ETS-GS[10mg/kg]投与群)について、試験開始から10日後(day10)に採取した血清中のサイトカイン(1)IL-2、2)IL-6、及び3)KC)濃度を測定した結果を示す。
本発明の抗炎症性腸疾患剤は、下記一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とするものである。
Figure 2012214416
〔式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3の低級アルキル基を示し、RおよびRは、異なって、水素原子であるか、またはS結合した下記式(1)〜(5)のいずれかに示されるSH化合物若しくはそのエステル(但し、当該エステルにはシステナミンは含まれない。)を示し、Rは水酸基、下記式(6)〜(11)のいずれかに示されるN−置換アミノ酸、そのエステル(但し、当該エステルにはアミノエタンスルホン酸、及びアミノエタンスルフィン酸は含まれない。)または下記式(12)に示されるアミンを示す〕
Figure 2012214416
当該ビタミンE誘導体(以下、これを「本化合物」ともいう)は、式(I)で表されるように、ビタミンE(α,β,γ,δ−トコフェロール)マレイン酸(またはフマール酸)とSH化合物とがS結合した化学構造、並びにこれらにさらにアミノ酸またはアミンが結合した化学構造を有している。
なお、上記式(I)中、RまたはRで示される低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びイソプロピル基を挙げることができる。好ましくはメチル基及びエチル基であり、より好ましくはメチル基である。
また、上記式(I)中、RまたはRで示されるSH化合物としては、上記式に対応して(1)グルタチオン、(2)γ−グルタミルシステイン、(3)システイン、(4)ペニシラミン、これらのエステルまたは(5)システナミンを挙げることができる。なお、RおよびRは、いずれか一方が水素原子である場合は、他方は水素原子ではなく、SH化合物またはそのエステルである。
また、上記式(I)中、Rで示されるN−置換アミノ酸としては、上記式に対応して(6)グリシン(式中n=1)、β−アラニン(式中n=2)、γ−アミノ酪酸(式中n=3)、5−アミノ吉草酸(式中n=4)、ε−アミノカプロン酸(式中n=5)、(7)アントラニル酸、(8)トラネキサム酸、(9)プロリン、これらのエステル、(10)2−アミノエタンスルホン酸、(11)2−アミノエタンスルフィン酸を挙げることができる。なお、本発明において「N−置換アミノ酸」とは、上記の各アミノ酸が、その分子内の窒素原子(N)を介して、式(I)で示される化合物の基本骨格に結合していることを意味する用語である。
また、上記式(I)中、Rで示されるアミンとしては、上記式に対応して(12)セロトニンを挙げることができる。
本化合物の具体例としては、下記の化合物を挙げることができる。
(a)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン、
(b)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(c)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(d)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル] -3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ] プロピル]システニイルグリシン、
(e)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ] プロピル]システイン、
(f)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(g)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(5-カルボキシペンチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(h)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(トランス-4-カルボキシシクロヘキシルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(i)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システイン、
(j)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]ペニシラミン、
(k)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システナミン、
(l)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(エトキシカルボニルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(m)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン イソプロピルエステル、
(n)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフィノエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(o)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-(2-カルボキシピロリジノ)プロピル]システニイルグリシン。
本化合物は、遊離のものであっても、その薬理学的に許容できる塩であっても、本発明の目的のため適宜に用いることができる。その薬理学的に許容できる塩としては、たとえばナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、およびカルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、さらに有機アミン塩としてエタノールアミン塩やリジン塩などが例示される。これら以外の塩であっても薬理学的に許容できる塩であればいずれのものであっても適宜に使用することができる。
本化合物の第一の構成成分であるビタミンEとしては、α,β,γ,δ−トコフェロールのいずれもが適宜使用することができる。
本化合物の第二の構成成分であるSH化合物としては、上記のように、(1)グルタチオン、(2)γ−グルタミルシステイン、(3)システイン、(4)ペニシラミン、これらのエステルまたは(5)システナミンが用いられる。グルタチオン、γ−グルタミルシステイン、システイン、ペニシラミンのエステルとしては、炭素数2〜6のアルキルエステルが挙げられる。具体的には、メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、iso−プロピルエステル、シクロプロピル、n−ブチルエステル、tert−ブチルエステル、sec−ブチルエステル、n−ペンチルエステル、l−エチルプロピルエステルおよびiso−ペンチルエステルなどが挙げられる。
さらに、本化合物の第三の構成成分であるN−置換アミノ酸としては、上記のように、(6)グリシン(式中n=1)、β−アラニン(式中n=2)、γ−アミノ酪酸(式中n=3)、5−アミノ吉草酸(式中n=4)、ε−アミノカプロン酸(式中n=5)、(7)アントラニル酸、(8)トラネキサム酸、(9)プロリン、これらのエステル、(10)2−アミノエタンスルホン酸、(11)2−アミノエタンスルフィン酸が用いられる。
N−置換アミノ酸のエステル(但し、アミノエタンスルホン酸、アミノエタンスルフィン酸は除く。)としては、炭素数2〜6のアルキルエステルが挙げられる。具体的には、メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、iso−プロピルエステル、シクロプロピル、n−ブチルエステル、tert−ブチルエステル、sec−ブチルエステル、n−ペンチルエステル、l−エチルプロピルエステルおよびiso−ペンチルエステルなどが挙げられる。
本化合物の第四の構成成分であるアミンとしては、(12)セロトニンが用いられる。
本化合物は、例えば次の合成経路により、またはこれに準じて適宜合成することができる。
Figure 2012214416
具体的には以下のとおりである。まずビタミンE(II)を無水マレイン酸(III)と炭酸アルカリ(炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)または酢酸アルカリ(酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなど)の存在下でアセトン、アセトニトリルまたはテトラハイドフラン(THE)などの無極性溶媒中で加熱して約1〜3時間反応させて、マレイン酸(またはフマール酸)モノトコフェロール(IV)とする。さらに、このように生成した化合物(IV)とアミノ酸(グリシン、β−アラニン、γ−アミノ酪酸、5−アミノ吉草酸、ε−アミノカプロン酸、アントラニル酸、トラネキサム酸、プロリン、これらのエステル、2−アミノエタンスルホン酸、2−アミノエタンスルフィン酸)またはアミン(セロトニン)とを、クロロホルムまたはテトラヒドロフランなどの溶媒中、有機アミン(ピリジン、トリエチルアミンなど)の存在下、クロル炭酸エチルなどによる混合酸無水物法により縮合し、マレイン酸(またはフマール酸)モノトコフェロール(IV)のそれぞれ対応する酸アミド(V)とする。次に、これらの化合物(IV)または(V)と本化合物の構成成分であるSH化合物(グルタチオン、γ−グルタミルシステイン、システイン、ペニシラミン、これらのエステルまたはシステナミン)とを室温下で約3〜6時間、加温下で約1〜3時間付加反応させることにより本化合物(I)を得ることができる。この際の反応溶媒としては、水または水と混和できる溶媒、たとえばアルコール、アセトニトリル、ジオキサンなどが挙げられ、好ましくは水との混合液がよい。
このようにして得られた本化合物(I)は、公知の方法により、薬理学的に許容できる塩として得てもよい。
後述する実験例1に示すように、ビタミンE、タウリン(アミノエタンスルホン酸)及びグルタチオンから構成される化合物(上記化合物(b)、以下「ETS-GS」ともいう)を始めとする本化合物は、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)によって誘発される潰瘍性大腸炎の発症を有意に抑制することができる。DSSによる潰瘍性大腸炎の誘発は、ヒトの炎症性腸疾患(IBD)の実験モデル動物、特にヒトの潰瘍性大腸炎の実験モデル動物を作製する技術として汎用されているものである。このことから、本化合物によれば、潰瘍性大腸炎の改善または増悪の抑制、緩解状態の維持に有効に使用することができると考えられる。
従って、本化合物を有効成分とする医薬組成物は、ヒトの炎症性腸疾患(IBD)、特にヒトの潰瘍性大腸炎の改善剤として、または増悪抑制若しくは緩解状態を維持するための医薬組成物(抗炎症性腸疾患剤、抗潰瘍性大腸炎剤)として有用である。
本発明の抗炎症性腸疾患剤の有効成分としては、上記本化合物のいずれをも用いることができるが、好ましくは、化合物(a)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン〔R1及びR2はメチル基、R3は水素原子、R4は水酸基、R5は(1)で示されるSH化合物(グルタチオン)である化合物(I)に相当する〕、(b)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン〔R1及びR2はメチル基、R3は(1)で示されるSH化合物(グルタチオン)、R4は(10)で示されるN-置換アミノ酸(2-アミノエタンスルホン酸)、R5は水素原子である化合物(I)に相当する〕、及び(d)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ] プロピル]システニイルグリシン〔R1及びR2はメチル基、R3は(1)で示されるSH化合物(グルタチオン)、R4は(6)で示されるN-置換アミノ酸(γ-アミノ酸酪酸:n=3)、R5は水素原子である化合物(I)に相当する〕であり、より好ましくは化合物(b)である。これらの化合物は、1種単独で用いても、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
ちなみに、化合物(a)、(b)および(d)の化学的な相違は(a)はビタミンEマレイン酸エステルに対して1位にグルタチオンが付加したものである。(b)、および(d)は2位にグルタチオンがそれぞれ付加し、更に3位のカルボン酸に2−アミノエタンスルホン酸(タウリン)またはγ−アミノ酪酸(GABA)がそれぞれ縮合したものである。
本化合物は、抗炎症性腸疾患剤として、経口的にあるいは非経口的〔静脈投与、皮下投与、経皮投与、経肺投与、経粘膜投与(点鼻など)、直腸投与など〕に投与される。抗サイトカイン介在疾患剤は、本化合物を、経口または非経口投与に通常用いられる薬学的に許容される担体(賦形剤、結合剤、崩壊剤、崩壊補助剤、滑沢剤、湿潤剤など)や添加剤などと混合し、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、バッカル剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁剤、クリーム剤、軟膏剤、点眼剤、注射剤、点滴剤、点鼻剤などの所望の形態に製剤化することにより調製することができる。
特に本化合物は、水に不溶性のビタミンEと異なり、非吸湿性の安定な結晶であって、且つ、水溶性であるので、経口液剤(アンプル剤、シロップ剤)、注射剤または点眼剤などの水性液剤としての適用も可能である。
これらの製剤には通常用いられる薬学的に許容される担体、例えば、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドン)、賦形剤(例えば、乳糖、砂糖、コーンスターチ、リン酸カリウム、ソルビット、グリシン)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモ澱粉)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、増粘剤、分散剤等、またその他の添加剤として、再吸収促進剤、pH調整剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤等を適宜使用してもよい。
本化合物を抗炎症性腸疾患剤として使用する際の投与量は、使用する本化合物の種類、患者の体重や年齢、対象とする疾患の程度やその状態および投与方法などによっても異なるが、たとえば、本化合物の量に換算して、注射剤の場合は成人1日1回約1mg〜約30mg、錠剤等の経口投与剤の場合は、成人1日数回、1回量約1mg〜約100mg程度投与するのがよい。
本化合物を含有する医薬組成物(抗炎症性腸疾患剤)には、本発明の目的に反しない限り、従来から炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎の治療に用いられている薬効成分を適宜含有させてもよいし、また、従来より抗炎症性腸疾患剤、特に潰瘍性大腸炎の治療や処置に用いられている薬物を組み合わせて処方することもできる。
以下、本発明の構成および効果を製造例及び実験例に基づいてより詳細に説明する。但し、これらの実験例等は一例であり、本発明はかかる実験例によって何ら拘束されるものではない。
[製造例]
製造例1
(1)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン(略称:EM-GS)のモノナトリウム塩の製造
dl−α−トコフェロール4.3g(0.01モル)、無水マレイン酸2.0g(0.02モル)および炭酸ナトリウム2.1g(0.02モル)にアセトン80mlを加えて1時間、加熱還流した後、無機塩を濾別し、溶媒を留去した。残渣油状物に水60mlを加え、さらに塩酸で酸性とした後、酢酸エチルで抽出した。次にこれを水で洗浄した後、酢酸エチルを留去させ、残渣油状物のマレイン酸モノα−トコフェロールエステル約5gを得た。次に70%メタノール100mlに水酸化ナトリウム0.6gおよびグルタチオン3.4g(0.011モル)を加えて溶解し、これに上記のマレイン酸モノα−トコフェロールエステルをメタノール30mlに溶解したものを加えて、40℃、3時間攪拌した。次にこれを冷却し析出した半固型油状物を集め、80%含水メタノールで2〜3回洗い、次にメタノールを加えて結晶化させ、結晶を濾取しアセトンで洗い4.0gを得た。これを水−エタノールから再結晶して、標題の化合物のモノナトリウム塩2.8gを得た。
(2)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシンの製造
dl−α−トコフェロール4.3g、無水マレイン酸3.0gおよび酢酸ナトリウム1.5gにアセトン80mlを加えて3時間、加熱還流した後、溶媒を留去し、残渣油状物に水60mlを加え、さらに塩酸で酸性とした後、ジイソプロピルエーテルで抽出し、水洗後、ジイソプロピルエーテルを留去させ、残渣油状物のマレイン酸モノα−トコフェロールエステル(放置すると結晶化)5.1gを得た。(これをn−ヘキサンから再結晶すると融点70〜72℃の白色結晶3.8gを得ることができる。)次にメタノール80mlに水酸化ナトリウム0.6gを加えて溶解し、これにグルタチオン3.4gおよび上記のマレイン酸モノα−トコフェロールエステルをエタノール30mlに溶解したものを加えて、50℃、3時間攪拌した。次に、これを冷却し析出した白色結晶を濾取し、アセトンで洗浄後、この結晶に水100mlを加えてのり状とし、これに塩酸を加えてpH3とし、析出する白色結晶を濾取、水洗し、乾燥後テトラハイドロフラン/エタノールから再結晶して、標題の遊離酸3.5gを得た。
(3)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン 2ナトリウム塩の製造
上記(2)で得られた遊離酸を3.5gテトラハイドロフラン60mlに溶かし、これに水酸化ナトリウム/メタノールを徐々に加えてpH6.5とした後、溶媒を留去し、これにメタノールを加えて析出する白色結晶を濾取し、これを水−メタノールから再結晶して、標題の化合物の2ナトリウム塩3.0gを得た。
製造例2 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン(略称:ETS-GS)のナトリウム塩の製造
製造例1の製造過程で得られたマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3gをクロロホルム30mlに溶かし、これにトリエチルアミン1.2gを加えて−5℃に冷却して置き、これにクロル炭酸エチル1.3gを徐々に滴下した後、15分後にこれにタウリン(2−アミノエタンスルホン酸)1.6gおよび水酸化ナトリウム0.5gをメタノール50mlに溶かしたものを一挙に加えて30分間攪拌し、更に室温にもどして1時間攪拌した。次に溶媒を留去させ、これにアセトンを加えて析出する白色結晶を濾取し、4.0gを得た。更に母液に水酸化ナトリウム/メタノールを加えてpH8として析出する結晶を濾取し1.6gを得た。これらを合わせてメタノール/エタノールから再結晶して、白色結晶のN−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩4.5gを得た。
次に、90(V/V)%メタノール溶液60mlに水酸化ナトリウム0.45gおよびグルタチオン3.3gを加えて溶解し、これに上記の化合物4.5gをメタノール50mlに溶解したものを加えて、50℃、3時間攪拌し、冷却後析出した白色結晶を濾取し、メタノールで洗浄し6.0gを得た。これを水200mlに溶かし、これに酢酸銅2.5gを水50ml、酢酸2mlに溶解したものを加えて析出する銅塩を濾取し、水洗後アセトン、メタノールで洗い5.3gを得た。これをテトロラハイドロフラン/メタノール(3:5)の混液100mlに懸濁して置き、これに硫化水素を通じて硫化銅として濾別後、濾液に水酸化ナトリウム/メタノールを加えてpH5として析出する白色結晶を濾取し、メタノールで洗浄して乾燥させて、標題の目的化合物のナトリウム塩3.9gを得た。
製造例3 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン(略称:E-Ant-S-GS)のナトリウム塩の製造
製造例1の製造過程で得られたマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3gをクロロホルム30mlに溶解し、製造例1と同様にトリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gを用いて混合酸無水物法によりアントラニル酸1.5g、ピリジン3mlをテトラハイドロフラン40mlに溶かしたものを反応させ、溶媒留去後、塩酸酸性として酢酸エチルで抽出、水洗後、酢酸エチルを留去し、残渣油状物7.5gを得た。
一方、メタノール70mlに水酸化ナトリウム0.8gを加えて溶かし、これにグルタチオン3.3gおよび上記の油秋物7.5gをメタノール20mlに溶かしたものを加えて、50℃、3時間攪拌する。次に冷却後、析出した白色結晶を濾取した。これに水50mlを加えてゲル状とし、これに酢酸3mlを加えて析出する白色結晶を濾取し、これを酢酸エチル/エタノールの混液に溶解し、水酸化ナトリウム/メタノール液を加えてPH6.5として析出する白色結晶を濾取し、テトラハイドロフラン/エタノールから再結晶して、標題の目的化合物のナトリウム塩3.7gを得た。
製造例4 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン(略称:EGABA-GS)のナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3gをクロロホルム30mlに溶かし、前記と同様にトリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gを用いて混合酸無水物法によりγ−アミノ酪酸 (GABA)1.3g、水酸化カリウム0.6gをN,N’−ジメチルホルムアミド50mlに溶解したものを加えて、以下製造例3と同様に反応処理して標題の目的化合物のナトリウム塩4.0gを得た。
製造例5 S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システインのナトリウム塩の製造
製造例2で示したN−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸のナトリウム塩2.4gをメタノール50mlに溶かし、これにL−システイン0.6gを加えて、50℃、2時間攪拌する。次に冷却後析出する白色結晶を濾取し、水/メタノールから再結晶して、白色結晶の標題の目的化合物のナトリウム塩1.8gを得た。
製造例6 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アミノ]プロピル]システニイルグリシンのナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3g、トリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gをクロロホルム中で製造例1と同様に混合酸無水物法によりセロトニン塩酸塩2.4g、トリエチルアミン1.5gをメタノール40mlに溶かしたものを加え、製造例2と同様に反応させ、溶媒を留去後、残渣油状物を酢酸エチルで抽出し、1%酢酸、水で洗った後、酢酸エチルを留去した。これにメタノールを加えて放置し、析出する白色結晶をメタノールから再結晶して、N−(α−トコフェロールマレイニル)セロトニンなる化合物4.5gを得た。次に、これとグルタチオン3.4g、水酸化ナトリウム0.4gにメタノール70mlを加えて、50℃、3時間攪拌後、反応液を30mlまで濃縮し、析出した結晶を濾取し、以下製造例3と同様に処理して、標題の目的化合物のナトリウム塩3.7gを得た。
製造例7 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(5-カルボキシペンチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシンのナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3g、トリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gおよびε−アミノカプロン酸1.5gを用いて、製造例2と同様に混合酸無水物法により反応処理して、溶媒を留去後残渣に水を加え、更に塩酸酸性として酢酸エチルで抽出し水洗後留去した。これをメタノール70mlに溶かし、これにグルタチオン3.3gを加え、さらに水酸化ナトリウム/メタノールでpH6.5として、50℃、3時間攪拌した後冷却し、析出する結晶を濾取し、これに水50mlを加えた。更にこれを酢酸酸性として結晶を濾取し、水洗後THF/エタノールに溶解し、THF留去後、水酸化ナトリウム/メタノールでpH7として析出する白色結晶を濾取し、これをメタノール/エタノールから再結晶して標題の目的化合物の2−ナトリウム塩2.5gを得た。
製造例8 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(トランス-4-カルボキシシクロヘキシルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシンのナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3g、トリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gおよびトラネキサム酸(トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸)1.7gを用いて、製造例7と同様に反応処理して目的化合物の2−ナトリウム塩2.2gを得た。
製造例9 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システインのナトリウム塩の製造
製造例2で得た中間体、N−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩2.6gおよびγ−グルタミルシステイン1.0gにメタノール50mlを加え、更に水酸化ナトリウム/メタノールでPH6.5として、50℃、3時間攪拌した。次に反応液を20mlまで濃縮し、析出した白色結晶を濾取し、これに水70mlを加えて溶かし、塩酸でpH3として析出する白色結晶を濾取した。次に、これをTHF/エタノールに溶かし、水酸化ナトリウム/メタノールでpH6.5として、THEを留去後、析出した結晶を濾取し、少量のメタノールで洗い、メタノール/エタノールから再結晶して、標題の目的化合物の2−ナトリウム塩1.3gを得た。
製造例10 S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]ペニシラミンのナトリウム塩の製造
製造例2で得た中間体、N−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩3.2gおよびD−ペニシラミン0.8gを用いて、製造例5と同様に反応処理して得られる結晶をメタノール/エタノールから再結晶させて、目的化合物のナトリウム塩2.5gを得た。
製造例11 S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システナミンの製造
製造例2で得た中間体、N−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩2.4gおよびシステナミン0.5gをメタノール70mlに溶解し、酢酸を加えてpH6とし、50℃、3時間攪拌した。冷後析出した結晶を濾取し、これをメタノールに懸濁しておき、水酸化ナトリウム/メタノールでpH7として溶解後、酢酸酸性として析出する白色結晶を濾取し、メタノールで洗って乾燥させて、白色結晶の標題の目的化合物1.3gを得た。
製造例12 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(エトキシカルボニルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシンのナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3g、トリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gおよびグリシンエチル塩酸塩1.5gを用いて、製造例2と同様に混合酸無水物法により反応処理して、溶媒を留去後、酢酸エチルで抽出し、3%炭酸水素ナトリウム、1N−塩酸、水の順で洗浄し、酢酸エチル留去後、残渣油状物約6gを得た。これをメタノール50mlに溶かした。一方、グルタチオン3.3g、水酸化ナトリウム0.5gを70%メタノール50mlに溶かし、上記のメタノール溶液に加えて50℃、2時間攪拌する。次に溶媒を留去しエタノールを加えて析出した結晶を濾取し、これに水50mlを加えて溶解し、これに塩酸を加えて析出する白色結晶を濾取し、THF/エタノール(1:1)に溶解し、製造例7と同様にして標題の目的化合物のナトリウム塩2.0gを得た。
製造例13 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン イソプロピルエステルのナトリウム塩の製造
グルタチオンイソプロピルエステル硫酸塩(γ−グルタミル−システニルグリジンイソプロピルエステル硫酸塩)4.0gを水60mlに懸濁しておき、これに2N−水酸化ナトリウムを徐々に加えてpH4として溶解後、濃縮した。これに80%メタノール100mlを加え、更に製造例2で得た中間体、N−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸のナトリウム塩4.8gを加えて、50℃、3時間攪拌する。次に溶媒を約60ml留去し、析出する結晶を濾取した。これにTHE−メタノール(1:1)に溶解し、不溶物を濾別した後、溶媒を留去、残渣結晶物にエタノールを加えて結晶を濾取した。これをメタノール/エタノールから再結晶させて白色結晶の標題の目的化合物のナトリウム塩3.6gを得た。
製造例14 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフィノエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシンのナトリウム塩の製造
製造例7のε−アミノカプロン酸の代わりにヒポタウリン(2−アミノエタンスルフィン酸)1.5gを用いて、製造例2と同様に反応処理して、標題の目的化合物のナトリウム塩3.9gを得た。
製造例15 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-(2-カルボキシピロリジノ)プロピル]システニイルグリシンのナトリウム塩の製造
製造例7のε−アミノカプロン酸の代わりにL−プロリン1.5gを用いて、製造例2と同様に反応処理して、標題の目的化合物のナトリウム塩3.9gを得た。
[実験例]
以下の実験で、DSS誘発潰瘍性大腸炎モデル動物を用いて、潰瘍性大腸炎に対する本化合物の有効性を評価した。有効性は、基本的に、体重変化及び下痢や血便の状態の3項目の改善をスコア化(潰瘍性大腸炎の活性指数)して評価するとともに、大腸の重量と長さを測定して行った。
なお、DSS誘発潰瘍性大腸炎モデル動物は、マウスなどの実験動物にデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)溶液を飲水させることによって、人工的に潰瘍性大腸炎を誘導させたモデル動物であり、薬効評価研究に汎用されている実験系である(大草敏史、「デキストラン硫酸投与による実験的潰瘍性大腸炎の作製と腸内菌叢の変動に関する研究、日消病会誌、82:1327-1336(1985))。
マウスはすべて、実験前後に食物と水を無制限に摂取できるようにした。研究は大分大学医学部の動物研究の倫理委員会によって承認された。すべてのプロトコルは国立衛生研究所(NIH)のガイドラインに沿って行った。
なお実験では、本化合物の一例として、下式で示される化合物を用いた。この化合物は、他の化合物と同様、水溶性で安定であることを特徴とする。
式(VI)で示す構造を有するETS−GS(製造例2のγ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン(略称:ETS-GS)のナトリウム塩):
Figure 2012214416
実験例1 潰瘍性大腸炎に対する有効性の評価(プレトリートメント)
(1)試験方法
試験に供するマウス(ICR)(7週齢、雄)を6群(各群n=5匹)に分け、それぞれ(1)対照群(水投与群)、(2) DSS投与群、(3)ETS-GS[100mg/kg]投与群、(4)ETS-GS[1mg/kg]+DSS投与群、(5)ETS-GS[10mg/kg]+DSS投与群、及び(6)ETS-GS[100mg/kg]+DSS投与群とした。
試験は、試験開始日(day-3)から試験終了日(day7)まで計10日間にわたり行った。
試験開始日(day-3)から3日間(day-3〜day-1の3日間)、全ての被験群のマウスに水道水を自由飲水させながら、(1)対照群(水投与群)と(2)DSS投与群の2群には、精製水を毎日1回、皮下注射し、また(3)ETS-GS[100mg/kg]投与群、(4)ETS-GS[1mg/kg]+DSS投与群、(5)ETS-GS[10mg/kg]+DSS投与群、及び(6)ETS-GS[100mg/kg]+DSS投与群の4群には、ETS-GSを体重あたり[ ]内に記載する割合で毎日1回、皮下注射した。
また試験開始日(day-3)から4日目(day1)から試験終了日(day7)まで計7日間、 (1)対照群(水投与群)には、引き続き水道水を自由飲水させながら、精製水を毎日1回、皮下注射し、また(3)ETS-GS[100mg/kg]投与群、水道水を自由飲水させながら、ETS-GSを体重あたり100mgの割合で毎日1回、皮下注射した。また、(2) DSS投与群には、水道水に代えてデキストラン硫酸ナトリウム(分子量36000-50000)の5%水溶液を自由に飲水させながら、精製水を毎日1回、皮下注射した。さらに、(4)ETS-GS[1mg/kg]+DSS投与群、(5)ETS-GS[10mg/kg]+DSS投与群、及び(6)ETS-GS[100mg/kg]+DSS投与群の3群には、水道水に代えてデキストラン硫酸ナトリウム(分子量36000-50000)の5%水溶液を自由に飲水させながら、ETS-GSを体重1kgあたり[ ]内に記載する割合で毎日1回、皮下注射した(図1参照)。
試験期間前(day-3前)と試験期間後(day7後)における被験マウスの体重を測定するとともに、試験期間後(day7後)に、表1に示す基準に従って下痢と血便の状態を観察して、3項目(体重、下痢、血便)をスコア化した(潰瘍性大腸炎の活性指数:Disease Activity Index [DAI])。さらに、試験終了後(試験開始から10日後)に、4%のセボフルラン(丸石製薬(株)製)を用いて麻酔して安楽死させ、大腸組織を摘出し、その重量と長さを測定した。
Figure 2012214416
(2)試験結果
上記基準に従って体重変化、下痢及び血便の状態をそれぞれスコア化し、各スコアの和を3で割って平均化した結果を「潰瘍性大腸炎の活性指数(DAI)」として図2に、試験終了後に大腸の重量と長さを測定した結果を図3に示す。
これからわかるように、本発明の化合物(ETS-GS)を、体重1kgあたり10 mg/kg以上、1日1回皮下注射することにより、潰瘍性大腸炎惹起5日目から有意な病態スコア改善作用が確認された。また、大腸の重量と長さの測定では、(2)陽性対照群(DSS投与群)で顕著な重量の低下と長さの短縮化が認められたのに対して、(4)ETS-GS[1mg/kg]+DSS投与群、(5)ETS-GS[10mg/kg]+DSS投与群、及び(6)ETS-GS[100mg/kg]+DSS投与群では、その低下と長さの短縮化が有意に抑制されていた。
このことから、本化合物(ETS-GS)を皮下注射することにより、潰瘍性大腸炎の発症を有意に抑制することができることが認められた。
実験例2 潰瘍性大腸炎に対する有効性の評価(ポストトリートメント)
(1)被験動物の作製
試験に供するマウス(ICR)(7週齢、雄)を4群(各群n=20匹)に分け、それぞれ(1)対照群(水+生食投与群)、(2)水+ETS-GS[10mg/kg]投与群、(3)DSS+生食投与群、及び(4)DSS+ETS-GS[10mg/kg]投与群とした。(1)対照群(水+生食投与群)と(2)水+ETS-GS[10mg/kg]投与群には、試験開始から5日間(day1〜day5)、自由に水道水を飲用させた後、試験開始から6日目から4日間(day6〜day9)、(1)対照群(水+生食投与群)には生理食塩水を毎日1回、皮下注射し、また(2)水+ETS-GS[10mg/kg]投与群には、ETS-GSを体重1kgあたり10mgの割合で毎日1回、皮下注射した。なお、これらの被験群にはday6〜day9の期間中も自由に水道水を飲用させた。
(3)DSS+生食投与群と(4)DSS+ETS-GS[10mg/kg]投与群には、試験開始から5日間(day1〜day5)、上記の水道水に代えてデキストラン硫酸ナトリウム(分子量36000-50000)の5%水溶液を自由飲水させてDSS誘発潰瘍性大腸炎モデル動物とした後、試験開始から6日目から4日間(day6〜day9)、(3)DSS+生食投与群には、生理食塩水を毎日1回、皮下注射し、また(4)DSS+ETS-GS[10mg/kg]投与群には、ETS-GSを体重1kgあたり10mgの割合で毎日1回、皮下注射した。なお、これらの被験群にはday6〜day9の期間中も自由に1%のDSS水溶液を飲用させた。
(2)潰瘍性大腸炎の活性指数の測定
試験開始前(day0)と試験終了後(day9後)に各群の被験マウスの体重を測定するとともに、試験終了後(day9後)に、上記表1に示す基準に従って下痢と血便の状態を観察して、3項目(体重、下痢、血便)をスコア化した(潰瘍性大腸炎の活性指数:DAI)。
結果を図4に示す。これからわかるように、DSS誘発潰瘍性大腸炎モデル動物に対して、本発明の化合物(ETS-GS)を、体重1kgあたり10 mg/kg、1日1回皮下注射することにより、2日目(day7)から病態スコア改善が認められ、4日目(day9)には有意な病態スコア改善作用が確認された((4)DSS+ETS-GS[10mg/kg]投与群の結果参照)。
(3)大腸の重量と長さの測定
また、試験終了後(試験開始から10日後)に、血清サイトカイン量(IL-2、IL-6及びKC[keratinocyte-derived chemokine])を測定するために血液を採取した後、4%のセボフルラン(丸石製薬(株)製)を用いて麻酔して安楽死させ、大腸組織を摘出した。摘出した大腸について重量と長さを測定した。
結果を図5に示す。これからわかるように、 (3)DSS+生食投与群で顕著な重量の低下と長さの短縮化が認められたのに対して、(4)DSS+ETS-GS[10mg/kg]投与群では、その低下と長さの短縮化が有意に抑制されていた。
(4)病理組織検査
(3)DSS+生食投与群、(4)DSS+ETS-GS[10mg/kg]投与群、及び(1)対照群(水+生食投与群)から採取した大腸組織を、10%ホルマリン中性リン酸緩衝液で固定化し、定法に従ってパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン・エオシン染色(HA染色)した。染色した各被験群の組織を、デジタルカメラ(オリンパス社製のDP11)で撮影した結果を図6に示す。左から(3)DSS+生食投与群(図中、「生食+DSS」と記載)、(4)DSS+ETS-GS[10mg/kg]投与群(図中、「ETS-GS+DSS」と記載)、及び(1)対照群(水+生食投与群)(図中、「生食のみ」と記載)の結果を示す。また、HA染色により得られた病理組織像から、腸炎の活動性を組織学的スコアとして判定した結果を図7に示す。
これらの結果からわかるように、中央の(4)DSS+ETS-GS[10mg/kg]投与群の大腸組織は、左端の(3)DSS+生食投与群の組織よりも、正常な腺管構造の割合が多く、組織学的スコアにおいても有意に低かった。
上記(2)〜(4)の結果から、本化合物(ETS-GS)を皮下注射することにより、潰瘍性大腸炎を有意に改善し、また増悪を抑制することができることが認められた。
(5)血清サイトカイン量の測定
試験終了後(試験開始から10日後)に各被験群(n=8)から採血し、血清サイトカイン量(IL-2、IL-6及びKC[keratinocyte-derived chemokine])を測定した。結果を図7(1:IL-2、2:IL-6、及び3:KC)に示す。これからわかるように、 (3)DSS+生食投与群では、これらのサイトカイン(IL-2、IL-6及びKC)の量が有意に上昇することが認められたのに対して、(4)DSS+ETS-GS[10mg/kg]投与群では、それらがいずれも有意に低下していた。ちなみにKCは、ヒトIL-8に相当するマウスのケモカインであり、IL-6の刺激により単球やマクロファージから分泌され、好中球遊走を誘導する作用を有する。ヒトにおいてIL-8およびIL-6は炎症性腸疾患の病勢を示すマーカーとして知られている(Sartor RB. Current concepts of the etiology and pathogenesis of ulcerative colitis and crohn’s disease. Gastroenterol Clin North Am, 1995,24(3):475-507)。KC及びIL-6はDSS大腸炎マウスの血清で上昇し、マウスにおいてもこれらのケモカインおよびサイトカインが病勢を反映するマーカーとなりうること報告されている(Alex P, Zachos NC, Nguyen T, Gonzales L, Chen TE, Conklin LS, Centola M, Li X. Distinct cytokine patterns identified from multiplex profiles of murine DSS and TNBS-induced colitis. Inflamm Bowel Dis. 2009 Mar;15(3):341-52)。このことから、本化合物による潰瘍性大腸炎の改善効果は、KC(ヒトIL-8)またはIL-6低下作用に起因するものと考えられる。

Claims (3)

  1. 下記一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする、抗炎症性腸疾患剤:
    Figure 2012214416
    〔式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3の低級アルキル基を示し、RおよびRは、異なって、水素原子であるか、またはS結合した下記式(1)〜(5)のいずれかに示されるSH化合物若しくはそのエステル(但し、当該エステルにはシステナミンは含まない。)を示し、Rは水酸基、下記式(6)〜(11)のいずれかに示されるN−置換アミノ酸、そのエステル(但し、当該エステルにはアミノエタンスルホン酸、及びアミノエタンスルフィン酸は含まれない。)または下記式(12)に示されるアミンを示す〕
    Figure 2012214416
  2. 一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体が下記(a)〜(o)からなる群から選択されるいずれかである、請求項1に記載する抗炎症性腸疾患剤:
    (a)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン、
    (b)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
    (c)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
    (d)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル] -3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ] プロピル]システニイルグリシン、
    (e)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ] プロピル]システイン、
    (f)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
    (g)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(5-カルボキシペンチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
    (h)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(トランス-4-カルボキシシクロヘキシルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
    (i)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システイン、
    (j)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]ペニシラミン、
    (k)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システナミン、
    (l)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(エトキシカルボニルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
    (m)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン イソプロピルエステル、
    (n)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフィノエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
    (o)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-(2-カルボキシピロリジノ)プロピル]システニイルグリシン。
  3. 抗炎症性腸疾患剤が、潰瘍性大腸炎である請求項1または2に記載する抗炎症性腸疾患剤。
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