JP2012212782A - 希土類磁石及びその製造方法、並びに回転機 - Google Patents

希土類磁石及びその製造方法、並びに回転機 Download PDF

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Abstract

【課題】水が付着するような環境でも錆の発生を十分に抑制できる希土類磁石を簡便に製造することができる希土類磁石の製造方法を提供すること。
【解決手段】好適な実施形態の希土類磁石の製造方法は、軽希土類元素、Fe及びBを含む磁石素体と、この磁石素体の表面上に形成された、M(Mは、Si、Al、Zn、Mn、Ge、Sn、Bi、Pb、Ga、Cu、Ni及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)の酸化物又は水酸化物を含む皮膜とを備える複合体に、熱処理を行って、磁石素体の表面上に、軽希土類元素、Fe、並びに、Mを含む合金を含有する保護層を形成させる熱処理工程を有する。
【選択図】図2

Description

本発明は、希土類磁石及びその製造方法、並びにこの希土類磁石を備える回転機に関する。
希土類元素を含む希土類磁石は、優れた磁力を有するものの、主成分として酸化されやすい希土類元素を含有していることから耐食性が低い傾向にある。そのため、希土類磁石は、希土類元素を含む磁石素体の表面上に樹脂やめっき等からなる保護層が設けられた構成とされることが多い。
ところで、近年では、磁石素体そのものの耐食性が改善されていることや、希土類磁石の用途によっては従来ほどの耐食性が要求されないこと等の理由により、ある程度の耐食性を付与できる保護層を従来よりも簡便に低コストで形成することが求められる場合が増えている。
例えば、比較的簡便に磁石素体表面に保護層を形成し得る方法としては、磁石素体の表面に、無機質微粒子(SiO)で構成されるコロイダル溶液を塗装し、加熱固化させる方法(特許文献1)や、無機粒子を含む酸性溶液に磁石素体を接触させて、磁石素体の表面に、無機粒子と、磁石素体に含まれる金属元素の化合物を含む保護層を形成する方法(特許文献2)が知られている。このような方法によれば、比較的簡便且つ低コストで保護層を表面に備える希土類磁石を得ることが可能となる。
特開昭63−301506号公報 特開2007−251061号公報
しかしながら、上記従来技術の方法により形成された保護層は、簡便な方法で形成可能であるものの、希土類磁石の錆の発生を抑制する特性を十分に有していない場合も少なくなかった。これは、本発明者らが検討を行った結果、従来の簡便な方法によって形成された保護層では、一部に欠陥が発生してしまうことが避けられず、水が付着するような環境で希土類磁石を使用した場合に、保護層の欠陥を通って水分が磁石素体に到達し、それによって磁石素体の腐食が進行するためであることが判明した。
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、簡便な方法で製造することができ、しかも水が付着するような環境でも錆の発生を十分に抑制できる希土類磁石及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このような希土類磁石を備える回転機を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の希土類磁石は、軽希土類元素(以下、場合により「R」と表記する。)、Fe及びBを含む磁石素体と、この磁石素体の表面上に形成された保護層とを備えており、保護層は、R、Fe、並びに、M(Mは、Si、Al、Zn、Mn、Ge、Sn、Bi、Pb、Ga、Cu、Ni及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)を含む合金を含有するものであることを特徴とする。
このような構成を有する本発明の希土類磁石は、後述する本発明の製造方法によって簡便に製造することができる。そして、本発明の希土類磁石は、Rを含む磁石素体の表面に、R、Fe及びMを含む合金(以下、「R−Fe−M合金」と表記する。)を含有する保護層を備えることから、水が付着するような環境で用いられたとしても錆を発生し難く、優れた耐食性を有するものとなる。その要因については必ずしも明らかではないものの、本発明者らは次のように推測している。
すなわち、保護層に含まれるR−Fe−M合金は、磁石素体の主相を主に構成しているR、Fe及びBを含む合金よりも腐食電位が低いものである。そのため、希土類磁石が、水が付着するなどの腐食し易い環境で用いられた場合には、磁石素体よりも保護層中のR−Fe−M合金の方が腐食され易くなる。その結果、R−Fe−M合金を含む保護層を備える本発明の希土類磁石では、水が付着したとしても、磁石素体が電気化学的に保護されるので腐食し難く、それによって錆の発生が抑制されると考えられる。また、保護層中のR−Fe−M合金は、水などの付着によって腐食される際に腐食生成物を生じることが多いが、保護層が欠陥を有している場合は、この腐食生成物によって保護層の欠陥が塞がれることになる。このような作用によっても、水等が保護層を通って磁石素体に付着することが抑制され、その結果、錆が発生し難くなると考えられる。なお、作用は必ずしもこれらに限定されない。
本発明の希土類磁石は、保護層の表面上に、Rの酸化物を含む外部保護層を更に備えると好ましい。かかる外部保護層に含まれるRの酸化物は、既に酸化物であるため、水等による酸化に起因する腐食を生じ難いものである。したがって、このような外部保護層を、上述した保護層の表面上に更に備えることで、外部保護層よりも内部に水等の腐食物質が侵入することを抑制でき、また仮に侵入した場合でも保護層によって磁石素体の腐食を防止できるため、保護層と外部保護層との相乗効果によって一層優れた耐食性が得られるようになる。
さらに、本発明の希土類磁石は、保護層が、Rの酸化物を更に含むものであると好ましい。このように、保護層がR−Fe−M合金とともにRの酸化物を組み合わせて含むことで、保護層自体の腐食も効果的に抑制されるようになり、上述したようなR−Fe−M合金による磁石素体の腐食防止効果と合わせて、更に優れた耐食性が得られるようになる。また特に、保護層の表面上に、上記の外部保護層を備える場合には、保護層と外部保護層の両方がRの酸化物を含むことで、これらの層間の接着性も良好となり、耐食性が一層向上する傾向にある。
また、本発明の希土類磁石の製造方法は、R、Fe及びBを含む磁石素体と、この磁石素体の表面上に形成された、M(Mは、Si、Al、Zn、Mn、Ge、Sn、Bi、Pb、Ga、Cu、Ni及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)の酸化物又は水酸化物を含む皮膜とを備える複合体に熱処理を行って、磁石素体の表面上に、Rと、Feと、上記Mのうちの少なくとも1種の元素とを含む合金を含有する保護層を形成させる熱処理工程を有する希土類磁石の製造方法を提供する。
上記本発明の希土類磁石の製造方法においては、磁石素体の表面上にMの酸化物又は水酸化物を含む皮膜が形成された複合体を熱処理し、磁石素体と皮膜との間で反応を生じさせ、それによって、磁石素体の表面上にR、Fe及びMを含む合金を含有する保護層を形成させる。このように、本発明の希土類磁石の製造方法によれば、上記複合体に対して熱処理を施すだけで保護層を形成できることから、簡便に磁石素体の表面上に保護層を形成することができる。また、本発明の製造方法により得られる希土類磁石は、Rを含む磁石素体の表面に、R−Fe−M合金を含有する保護層を備えることから、水が付着するような環境で用いられたとしても錆を発生し難く、優れた耐食性を発揮することができる。その要因は、上記本発明の希土類磁石について説明したのと同様の理由によると考えられる。
本発明の希土類磁石の製造方法においては、熱処理を、500℃以上、磁石素体の焼結温度以下の温度で行うことが好ましい。このような温度範囲で熱処理を行うことにより、R−Fe−M合金が十分に含まれており、それによって上述した効果を良好に発揮できる保護層を形成できるとともに、高い磁気特性を有する希土類磁石が得られる。
また、熱処理工程の前には、Mの酸化物又は水酸化物の粒子を含み酸性を有する水溶液に磁石素体を接触させることにより、上記の複合体を形成する複合体形成工程を実施することが好ましい。このような複合体形成工程によれば、優れた耐食性を有する希土類磁石を形成するのに有利な複合体を容易に得ることが可能となる。
本発明は更に、上記本発明の希土類磁石を備える回転機を提供する。本発明の回転機は、上記本発明の希土類磁石を備えることから、高湿度等の過酷な条件で使用されても、希土類磁石の錆等の発生による腐食が少ないため、長期間にわたって優れた性能を発揮することができる。
本発明によれば、水が付着するような環境でも錆の発生を十分に抑制できる希土類磁石及びその製造方法を提供することが可能となる。また、本発明によれば、そのような希土類磁石を備えることにより、水が付着し易い環境でも長期間に亘って優れた性能を維持することが可能な回転機を提供することが可能となる。
本発明の一実施形態に係る希土類磁石の斜視図である。 図1に示す希土類磁石のII−II線断面図である。 本発明の一実施形態に係る回転機の内部構造を示す説明図である。 実施例1の希土類磁石の切断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 実施例1の希土類磁石表面のX線回折(XRD)における分析結果である。
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略することとする。
まず、好適な実施形態に係る希土類磁石について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る希土類磁石の斜視図である。また、図2は、図1に示す希土類磁石のII−II線断面図である。図1及び2に示すように、本実施形態の希土類磁石100は、磁石素体10と、磁石素体10の表面を被覆する保護層20と、保護層20の表面を被覆する外部保護層22とを備える。
保護層20は、必ずしも磁石素体10の全ての表面を被覆している必要はなく、少なくとも一部を被覆していればよいが、磁石素体10の全ての表面を被覆していることで、錆の発生を抑制する効果がより良好に得られる。また、外部保護層22についても、必ずしも保護層20の全ての表面を被覆している必要はないが、全表面を被覆していることがより好ましい。これにより、希土類磁石100による錆の発生を防止する効果が一層得られ易くなる。
磁石素体10は、希土類元素(R)、鉄(Fe)及びホウ素(B)を含む希土類磁石であり、主としてR−Fe−B系合金から構成される。磁石素体10は、Rとして少なくとも軽希土類元素(R)を含む。ここで、Rには、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、及びユーロピウム(Eu)が含まれる。
磁石素体10は、Rとして少なくともRを含有しているが、Rに加えて重希土類元素(以下、場合により「R」と表記する。)を更に含んでいてもよい。Rには、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)が含まれる。磁石素体10がR及びRの両方を含む場合は、それらの合計中、70モル%以上がRであると好ましく、85モル%以上がRであるとより好ましい。以下、R及びRの両方をまとめて示す場合は、「希土類元素(R)」とのみ表記することとする。
磁石素体10は、Rとして、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm及びEuからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。特に、Rとして、Nd及びPrのうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。これにより、希土類磁石100の残留磁束密度(Br)及び保磁力(iHc)が顕著に向上する。
磁石素体10は、実質的に正方晶系の結晶構造の主相を有し、この主相の粒界部分に希土類元素(R)の配合割合が高いRリッチ相、及びホウ素原子の配合割合が高いホウ素リッチ相を有する構造となっている。これらのRリッチ相及びホウ素リッチ相は磁性を有していない非磁性相である。このような非磁性相は、例えば、磁石素体10中に0.5〜50体積%含有されている。また、主相の粒径は、例えば、1〜100μm程度である。
磁石素体10においては、磁石素体10の全体に対するRの含有量が8〜40原子%であると好ましい。Rの含有量が8原子%未満である場合、主相の結晶構造がα鉄とほぼ同じ結晶構造となり、保磁力(iHc)が小さくなる傾向にある。一方、40原子%を超えるとRリッチ相が過度に形成されてしまい、残留磁束密度(Br)が小さくなる傾向にある。
また、Feの含有量は、磁石素体10の全体に対して42〜90原子%であると好ましい。Feの含有量が42原子%未満であるとBrが小さくなり、また、90原子%を超えるとiHcが小さくなる傾向にある。さらに、Bの含有量は2〜28原子%であると好ましい。Bの含有量が2原子%未満であると菱面体構造が形成され易く、これによりiHcが小さくなる傾向にある。また、28原子%を超えると、ホウ素リッチ相が過度に形成されて、これによりBrが小さくなる傾向にある。
磁石素体10においては、Feの一部がコバルト(Co)で置換されていてもよい。このようにFeの一部をCoで置換すると、磁気特性を低下させることなく温度特性を向上させることができる。この場合、Coの置換量は、Feの含有量よりも大きくならない程度とすることが望ましい。Co含有量がFe含有量を超えると、磁石素体10の磁気特性が低下する傾向にある。
磁石素体10におけるBの一部は、炭素(C)、リン(P)、硫黄(S)又は銅(Cu)等の元素により置換されていてもよい。このようにBの一部を置換することによって、磁石素体10の製造が容易となるほか、製造コストの低減も図れるようになる。このとき、これらの元素の置換量は、磁気特性に実質的に影響しない量とすることが望ましく、構成原子総量に対して4原子%以下とすることが好ましい。
さらに、iHcの向上や製造コストの低減等を図る観点から、磁石素体10は、上記の各元素のほかに、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)、ハフニウム(Hf)等の元素を含んでいてもよい。これらの添加量も、磁気特性に影響を及ぼさない範囲とすることが好ましく、構成原子総量に対して10原子%以下とすることが好ましい。また、その他、不可避的に混入する成分としては、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、カルシウム(Ca)等が考えられ、これらは構成原子の総量に対して3原子%程度以下の量で含有されていても構わない。
保護層20は、R、Fe及びMを含む合金(R−Fe−M合金)を含有する層である。R−Fe−M合金に含まれるRとしては、磁石素体10に含まれ得るRと同じ元素が挙げられる。R−Fe−M合金に含まれるRは、磁石素体10に含まれているRの少なくとも1種と同じ元素であると好ましい。さらに、R−Fe−M合金が複数種類のRを含む場合は、それらのRの全てが磁石素体10に含まれるRと同種であるとより好ましい。保護層20中のR−Fe−M合金に含まれるRが、磁石素体10に含まれているRと同じであると、保護層20と磁石素体10との密着性が向上して耐食性が向上するほか、後述する製造方法によって希土類磁石100を簡便に製造することが可能となる。
保護層20に含まれるR−Fe−M合金におけるMは、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)及びジルコニウム(Zr)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。なお、本明細書においては、Siは金属に含まれることとする。
Mとしては、500℃における酸化物の標準生成自由エネルギーが希土類元素(R)よりも高い元素が好ましい。Mとしてこのような性質を有する元素を含むことで、保護層20による錆の発生を防ぐ効果が特に良好に得られるほか、後述するような製造方法によって容易に希土類磁石100を製造することが可能となる。具体的には、Mとしては、500℃における酸化物の標準生成自由エネルギーが−250kcal以上のものが好ましく、−230kcal以上のものがより好ましい。
なかでも、Mとしては、Si、Al、Zn、Mn、Ge、Sn、Bi、Pb、Ga、Cu、Ni及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が好ましく、Si、Al、Zn及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素がより好ましく、Si、Al及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素がさらに好ましい。Mとしてこれらの元素を含むことによって、R−Fe−M合金の腐食電位が磁石素体の主相を主に構成しているR、FeおよびBを含む合金と比して極めて低くなるので、R−Fe−M合金が磁石素体よりも優先して腐食されることにより磁石素体の腐食を抑制する効果(犠牲防食効果)がさらに得られ易くなる。その結果、希土類磁石100による耐食性が一層向上する。また、Mが特にSiである場合は、R−Fe−M合金の腐食により生じる腐食生成物の安定性が高い傾向にあり、このような腐食生成物が生じることによる耐食性の向上効果も一層高くなる。
保護層20中のR−Fe−M合金は、例えば、R Fe14−x(x≧1)で表される組成の金属間化合物から構成される。保護層は、このようなR−Fe−M合金によって構成される正方晶系の結晶構造を有する相を有することが好ましい。このような相を有することで、保護層30による上述したような犠牲防食効果が得られ易くなり、高い耐食性が得られるようになる。
なお、R−Fe−M合金は、主としてR、Fe及びMを含む合金であればよく、これらの元素の一部が他の元素で置換されていてもよい。ただし、保護層20による錆の防止効果を良好に得るためには、各元素の置換量は、それぞれ50原子%以下であることが好ましい。例えば、R Fe14−xの場合、Feの一部がCoに置換されていてもよい。また、Rの一部が重希土類元素(R)に置換されていてもよいが、R−Fe−M合金の腐食電位の観点からは、保護層20は、Rを含まないことが好ましい。
保護層20は、上記のR−Fe−M合金以外に、他の化合物を含んでいてもよい。例えば、保護層20は、R−Fe−M合金に加えて、Rの酸化物を更に含むと好ましい。Rの酸化物としては、R が挙げられる。保護層20に含まれるRの酸化物におけるRとしては、磁石素体10に含まれ得るRと同じ元素が挙げられ、磁石素体10に含まれているRの少なくとも1種と同じ元素であると好ましい。Rの酸化物を構成するRが複数種類含まれる場合は、その全てが磁石素体10に含まれているRと同じ元素であると好ましい。
保護層20が、磁石素体10に含まれているのと同じRの酸化物を含むことにより、磁石素体10と保護層20との密着性が向上するほか、保護層20と外部保護層22との密着性も向上し、耐食性が更に向上する傾向にある。ただし、R−Fe−M合金による犠牲防食効果を十分に得るために、保護層20におけるR−Fe−M合金の含有割合は、10質量%以上であることが好ましい。
保護層20の厚み(図2中、D1で示す。)は、0.1〜50μmであることが好ましい。保護層20の厚みD1がこのような範囲内にあることで、希土類磁石100の耐食性及び磁石特性が良好なものとなり易い。
外部保護層22は、Rの酸化物を含み、Rの酸化物のみから形成されると好ましい。かかる酸化物としては、例えば、R が挙げられる。外部保護層22中のR におけるRとしては、磁石素体10に含まれ得るRと同じ元素が挙げられ、磁石素体10に含まれているRの少なくとも1種と同じ元素であると好ましい。外部保護層22中に、Rの酸化物を構成するRが複数種類含まれる場合は、その全てが磁石素体10に含まれているRと同じ元素であると好ましい。このように、外部保護層22が、磁石素体10に含まれているものと同じRを含有することにより、保護層20との密着性が向上し、耐食性が更に向上する傾向にある。
外部保護層22の厚み(図2中、D2で示す。)は、0.1〜5μmであることが好ましい。外部保護層22の厚みD2がこのような範囲内にあることで、希土類磁石100の耐食性及び磁石特性が良好なものとなり易い。
希土類磁石100において、磁石素体10と保護層20の界面、及び保護層20と外部保護層22の界面は、磁石素体10と、保護層20と、外部保護層22との間で元素組成に差があるため、例えば、電子顕微鏡写真の目視によって判定することができる。
また、保護層20および外部保護層22中に、上記の合金や酸化物が含まれることは、例えば、電子線マイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)、X線光電子分光(X−ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)、オージェ電子分光(Auger Electron Spectroscopy:AES)又はエネルギー分散型蛍光X線分光(Energy Dispersive x−ray Spectroscopy:EDS)等の公知の組成分析法、および、X線回折(X−ray Diffraction:XRD)、又は電子線回折(Electron Diffraction)等の公知の構造解析法により、分析を行うことによって確認することが可能である。
希土類磁石100の寸法は、特に限定されないが、例えば、縦の長さが1〜200mm、横の長さが1〜200mm、高さが1〜30mm程度である。なお、希土類磁石100の形状は、図1及び2に示す直方体に限定されず、リング状や円板状であってもよい。
本発明の希土類磁石は、上述した希土類磁石100の構造に限定されず、適宜変更することが可能である。例えば、希土類磁石は、外部保護層22の表面上に、希土類磁石100を保護するための他の層を更に備えていてもよい。このような層としては、例えば、樹脂層やめっき層等が挙げられる。
また、希土類磁石は、必ずしも上述した外部保護層22を備えていなくてもよい。外部保護層22を備えていなくても、磁石素体10の表面上に保護層20を備えていることで、保護層20中のR−Fe−M合金による犠牲防食効果や、さらにはR−Fe−M合金から生じた腐食生成物により保護層20の欠陥が修復される効果によって、希土類磁石100は十分に錆を発生し難くなるので、高い耐食性を発揮することができる。
次に、上述した希土類磁石100の製造方法の好適な実施形態について説明する。
本実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、R、Fe及びBを含む磁石素体と、Mの酸化物又は水酸化物を含む皮膜とを備える複合体に熱処理を行って、磁石素体の表面上に、R、Fe、並びに、Mを含む合金を含有する保護層を形成させる熱処理工程を有する。
本実施形態の希土類磁石の製造方法では、まず、R、Fe及びBを含む磁石素体10を準備する。
、Fe及びBを含む磁石素体10は、例えば、粉末冶金法によって製造することができる。この方法においては、まず、鋳造法やストリップキャスト法等の公知の合金製造プロセスにより所望の組成を有する合金を作製する。次に、この合金をジョークラッシャー、ブラウンミル、スタンプミル等の粗粉砕機を用いて10〜100μmの粒径となるように粉砕(粗粉砕)した後、更にジェットミル、アトライター等の微粉砕機により0.5〜5μmの粒径となるように微粉砕する。それから、こうして得られた粉末を、好ましくは600kA/m以上の磁場強度を有する磁場のなかで、0.5〜5t/cmの圧力で成形して、成形体を得る。成形方法としては、一軸加圧法又はCIPなどの等方加圧法のいずれを用いてもよい。
その後、得られた成形体を、好ましくは不活性ガス雰囲気又は真空中、1000〜1200℃、0.5〜100時間の条件で焼成する。焼成は、複数回行ってもよい。焼成後、得られた焼結体を急冷してもよい。
さらに、この焼結体に対して時効処理を施すことが好ましい。時効処理では、焼結体を450〜950℃程度で加熱すればよい。また、時効処理では、焼結体を0.1〜100時間程度加熱すればよい。時効処理は不活性ガス雰囲気中で行えばよい。このような時効処理を行うことにより、希土類磁石の保磁力が更に向上する。なお、時効処理は、多段階の加熱によって施してもよい。例えば、2段階の加熱からなる時効処理では、1段階目で焼結体を700℃以上焼成温度未満の温度で0.1〜50時間加熱すればよい。2段階目で焼結体を450〜700℃で0.1〜100時間加熱すればよい。
以上の処理により得られた焼結体(磁石素体10)は、必要に応じて、所望の形状に加工してもよい。加工方法は、例えば、切断、研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などが挙げられる。
このようにして得られた磁石素体10に対しては、表面の凹凸や表面に付着した不純物等を除去するため、適宜、前処理を施してもよい。前処理は、上記加工前の焼結体に施してもよいし、加工後の焼結体に施してもよい。前処理としては、例えば、酸溶液を用いた酸洗浄(エッチング)、アルカリ溶液を用いた洗浄、ショットブラスト等が挙げられ、なかでも酸洗浄が好ましい。酸洗浄によれば、磁石素体10の表面の凹凸や不純物を溶解除去して平滑な表面を有する磁石素体10が得られ易くなり、後述する保護層や外部保護層の形成を効率よく行える。
このような酸洗浄による焼結体(磁石素体10)の表面の溶解量は、表面から平均厚みで5μm以上、好ましくは10〜15μmとするのが好適である。こうすれば、磁石素体の表面の加工による変質層や酸化層をほぼ完全に除去することができ、後述する保護層や外部保護層の形成工程において、所望の保護層や外部保護層をより精度よく形成することができる。
また、磁石素体10には、上記酸洗浄後、水洗により酸洗浄に用いた処理液を除去した後、表面に残存した少量の未溶解物や残留酸成分を完全に除去するために、超音波を使用した洗浄を実施することが好ましい。この超音波洗浄は、例えば、磁石素体10の表面に錆を発生させる塩素イオンが極めて少ない純水中や、アルカリ性溶液中等で行うことができる。この超音波洗浄後には、必要に応じて水洗を行ってもよい。
次に、上述した磁石素体10の表面に、Mの酸化物又は水酸化物を含む皮膜を形成して、複合体を得る(複合体形成工程)。Mは、希土類磁石100の保護層20に含まれる元素Mと同じである。Mの酸化物、水酸化物としては、例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、オキシ水酸化アルミニウム(AlOOH)、水酸化アルミニウム(Al(OH))、酸化亜鉛(ZnO)等が挙げられる。
Mの酸化物又は水酸化物を含む皮膜を磁石素体10の表面に形成する手法としては、スパッタ法、イオンプレーティング法などの気相法や、Mのアルコキシド溶液を塗布する方法、Mの酸化物又は水酸化物の粒子の分散液を塗布する方法、Mの酸化物又は水酸化物の粒子を含む酸性の水溶液を磁石素体10に接触させる方法などが挙げられる。
これらのなかでも、Mの酸化物又は水酸化物の粒子を含む酸性の水溶液(以下、「処理液」という。)を磁石素体10に接触させる方法が好ましい。この手法によれば、磁石素体10を酸性を有する処理液に接触させたことで生じる磁石素体10の溶解を駆動力として、処理液の接触した磁石表面10の全領域で均一にMの酸化物又は水酸化物の粒子を含む皮膜を析出させることができる。そのため、この手法によると、簡便に膜厚の均一性が高い皮膜を得ることができ、その結果、膜厚の均一性が高く、優れた耐食性を発揮し得る保護層を形成することが可能となる。
処理液は、例えば、Mの酸化物又は水酸化物の粒子と、硝酸等の酸化性を有する酸と、水とを混合して得られ、pH0〜6の酸性を有することが好ましい。このような酸性を有する処理液によれば、磁石素体10の溶解が良好に生じることから、皮膜を形成し易い傾向にある。また、Mの酸化物又は水酸化物の粒子の平均粒径は、1〜1000nmであると好ましく、5〜100nmであるとより好ましい。このような粒径を有するMの酸化物又は水酸化物の粒子を用いることによって、処理液中の粒子の分散性が良好となり、より膜厚の均一性が高い皮膜を形成することが可能となる。
処理液を磁石素体10に接触させる方法としては、磁石素体10に対して処理液を塗布又は噴霧したり、或いは、処理液中に磁石素体10を浸漬したりする方法が挙げられる。なかでも、処理液中に磁石素体10を浸漬させる方法が、均一な膜厚を有する皮膜を形成し易いことから、より好ましい。
Mの酸化物又は水酸化物を含む皮膜の膜厚は、0.1μm〜30μmの範囲が好ましい。0.1μm以下では、薄すぎて十分な耐食性を有する保護層を形成できないおそれがある。また、30μmを超えると、保護層が厚くなり過ぎ、寸法精度よく希土類磁石100を製造することが困難となるおそれがある。
次に、熱処理工程において、磁石素体10の表面上に上記の皮膜が形成された複合体に熱処理を施して、磁石素体10の表面上に、R、Fe及びMを含む合金(R−Fe−M合金)を含有する保護層20及び外部保護層22を形成させる。
このような熱処理においては、まず、磁石素体10のRリッチ相が溶融すると考えられる。ここで、R(Rや必要に応じて含まれるR)は、複合体の表面に形成された皮膜中に含まれるMよりも酸化され易い。そのため、熱処理により溶融したRリッチ相が皮膜中のMの酸化物又は水酸化物に接触すると、Mの酸化物や水酸化物がRリッチ相による還元反応を受け、その結果、Mの酸化物又は水酸化物を含む皮膜が形成されていた部分にR−Fe−M合金が生じて保護層20が形成されると考えられる。そして、このような反応によってRリッチ相の酸化が多く生じることで、保護層20の表面上に、更にRの酸化物を含む外部保護層22が形成されると考えられる。なお、保護層20及び外部保護層22の形成メカニズムは必ずしもこれに限定されない。
Mとしては、500℃における酸化物の標準生成自由エネルギーが希土類元素(R)よりも高い元素が好ましく、Si、Al、Zn及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素がより好ましく、Si、Al及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素が更に好ましい。これらから選択されるMの酸化物又は水酸化物によれば、上述した還元反応が生じ易くなるため、保護層20及び外部保護層22が容易に形成されるようになる。
熱処理の温度は、500℃以上、磁石素体の焼結温度以下の温度とすることが好ましい。この温度領域で熱処理を施すことで、磁石素体10内の粒界部に存在するRリッチ相が溶融し易くなり、上述した還元反応による保護層20や外部保護層22の形成に有利となる。熱処理温度が低すぎる場合、Rリッチ相と金属酸化物の反応が十分に起こらず、耐食性に優れた保護層20や外部保護層22が形成されにくい傾向がある。また、熱処理温度が高すぎる場合、磁石素体10の磁気特性が劣化する傾向がある。優れた特性を有する保護層20や外部保護層22を形成するために、熱処理温度は、500〜900℃とすることがより好ましい。
また、熱処理の時間は、10〜600分であることが好ましい。熱処理時間が短すぎる場合、熱処理時間が上記の数値範囲内である場合に比べて、十分な保護層が形成されにくい傾向がある。熱処理時間が長すぎる場合、熱処理時間が上記の数値範囲内である場合に比べて、磁気特性が劣化しやすい傾向がある。
熱処理は、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気中、または真空中などの低酸素雰囲気中で行うことが好ましく、具体的には酸素分圧10Pa以下の雰囲気が好ましい。熱処理時の酸素分圧が高くなると、酸化により磁気特性が劣化する傾向がある。
なお、本実施形態の製造方法により得られる希土類磁石100は、必ずしも保護層20及び外部保護層22の両方を備える必要はなく、少なくとも保護層20を備えていれば、錆の発生を抑制する効果を十分に発揮することができる。本実施形態の製造方法においては、例えば、熱処理の温度条件や時間、或いは熱処理を行う雰囲気を調整することにより、上述したような溶融したRリッチ相による還元反応が生じる程度を制御することができるので、上記の条件を適宜調整することで、目的に応じて保護層20のみを形成させることや、保護層20と外部保護層22の両方を形成させることが可能である。
上述した熱処理により、磁石素体10の表面上に保護層20及び外部保護層22が形成された希土類磁石100が得られるが、この希土類磁石100に対しては、上述した磁石素体10の製造時と同様の時効処理を施すことが好ましい。時効処理により、希土類磁石100の保磁力が更に向上する傾向にある。時効処理温度は、上記熱処理工程における熱処理温度以下であることが好ましい。このような時効処理において昇温させた希土類磁石100は、さらに、30℃/分以上の冷却速度で急冷することが好ましい。これによって、希土類磁石100の磁気特性が向上し易くなる。
以上のような製造方法によって、R、Fe及びBを含む磁石素体10と、この磁石素体10の表面上に形成されたR−Fe−M合金を含む保護層20と、保護層20の表面上に形成されたRの酸化物を含む外部保護層22を備える希土類磁石100が得られる。このようにして得られた希土類磁石100は、水が付着するような環境下においても、錆の発生による腐食を生じ難く、高い耐食性を有するため、優れた磁気特性を長期間に亘って維持することができる。したがって、このような特性を有する希土類磁石は、例えば、優れた耐食性が求められる回転機用の永久磁石として好適に用いられる。
次に、好適な実施形態に係る回転機について説明する。
図3は、本実施形態の回転機(永久磁石回転機)の内部構造を示す説明図である。本実施形態の回転機200は、永久磁石同期回転機(SPM回転機)であり、円筒状のロータ50と、このロータ50の内側に配置されるステータ30とを備えている。ロータ50には、円筒状のコア52と円筒状のコア52の内周面に沿ってN極とS極が交互になるように複数の希土類磁石100が設けられている。ステータ30は、内周面に沿って設けられた複数のコイル32を有している。このコイル32と希土類磁石100とは互いに対向するように配置されている。
回転機200は、ロータ50に、上述した実施形態に係る希土類磁石100を備える。希土類磁石100は耐食性に優れるため、経時的な磁気特性の低下を十分に抑制することができる。したがって、回転機200は優れた性能を長時間に亘って維持することができる。回転機200は、希土類磁石100以外の部分について、通常の回転機部品を用いて通常の方法によって製造することができる。
回転機200は、コイル32に通電することによって生成する電磁石による界磁と希土類磁石100による界磁との相互作用により、電気エネルギーを機械的エネルギーに変換する電動機(モータ)であってもよい。また、回転機200は、希土類磁石100による界磁とコイル32との電磁誘導相互作用により、機械的エネルギーから電気的エネルギーに変換する発電機(ジェネレータ)であってもよい。
電動機(モータ)として機能する回転機200としては、例えば、永久磁石直流モータ、リニア同期モータ、永久磁石同期モータ(SPMモータ、IPMモータ)、往復動モータなどが挙げられる。往復動モータとして機能するモータとしては、例えば、ボイスコイルモータ、振動モータなどが挙げられる。発電機(ジェネレータ)として機能する回転機200としては、例えば、永久磁石同期発電機、永久磁石整流子発電機、永久磁石交流発電機などが挙げられる。以上に記載した回転機は、自動車、産業機械、家庭用電化製品等に用いられる。
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明は必ずしもこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
粉末冶金法により、組成が22.5重量%Nd−5.2重量%Pr−2.7重量%Dy−0.5重量%Co−0.3重量%Al−0.07重量%Cu−1.0重量%B−残部Feである鋳塊を作製した。鋳塊を粗粉砕して得た粗粉末を、不活性ガス中でジェットミルにより粉砕して、平均粒径が約3.5μmの微粉末を得た。微粉末を金型内に充填し、磁場中で加圧成形して成形体を得た。成形体を真空中で焼成した後、時効処理を施して焼結体を得た。焼結体を切り出し加工し、13mm×8mm×2mmの寸法を有する磁石素体を作製した。
得られた磁石素体の表面に対して脱脂処理を施し、次に、2%HNO水溶液中に2分間浸漬し、その後、超音波水洗を施すことにより、磁石素体の表面のエッチングを行った。
また、シリカ粒子分散水溶液(スノーテックスC:日産化学工業製)を、シリカ粒子濃度20重量%になるように希釈した後、硝酸を滴下することによりpHを2に調整して、処理液を調整した。
エッチング後の磁石素体を処理液中に2分間浸漬させ、その後十分に水洗することにより、磁石素体の表面上にシリカを含有する皮膜が形成された複合体を得た。皮膜の厚みを走査型電子顕微鏡(SEM)により確認したところ、約1μmであった。
得られた複合体を、Ar雰囲気において600℃で60分熱処理した。さらに、熱処理後の複合体をAr雰囲気において550℃で1時間時効処理した後、50℃/分で急冷することで、実施例1の希土類磁石を作製した。
実施例1の希土類磁石を切断し、その切断面をクロスセクションポリッシャーで研磨した。図4は、実施例1の希土類磁石の切断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図4に示すように、実施例1の希土類磁石では、磁石素体の表面を被覆する保護層(図中、「A1」で示した層)と、保護層の表面を被覆する外部保護層(図中、「A2」で示した層)が形成されていることが確認された。さらに、保護層及び外部保護層における元素組成をEPMAで確認したところ、保護層には、Nd、Pr、Fe、Si及びAlが含まれ、外部保護層には、Nd、Pr及びOが含まれることが確認された。
また、実施例1の希土類磁石の保護層及び外部保護層中に含まれる結晶相を、表面からX線回折装置(X’pert MPD:PANalytical社製)を用いて分析した結果を図5に示す。図5に示されるように、保護層及び外部保護層には、RFe13Si相(正方晶系結晶)とR相とが含まれることが分かった。以上の分析により、保護層にRFe13Si、外部保護層にRが存在することが確認された(Rは、Nd及びPrを含む。)。
(実施例2)
まず、実施例1と同様にして、磁石素体を作製した後、その表面のエッチングを行った。また、平均粒径50nmの酸化亜鉛粒子を2−プロパノールに分散し、バインダーとしてポリビニルブチラールを加えることにより、処理液を調製した。
この処理液をディップコートにより磁石素体の表面に塗布した後、120℃20分で乾燥させることで、磁石素体の表面上に酸化亜鉛を含有する皮膜が形成された複合体を得た。皮膜の厚みを電子顕微鏡により確認したところ、約1.4μmであった。
得られた複合体を、Ar雰囲気において550℃で180分熱処理した後、50℃/分で急冷することで、実施例2の希土類磁石を作製した。
実施例2の希土類磁石について、実施例1と同様にして保護層及び外部保護層の分析を行ったところ、磁石素体の表面上に、RFe13Znを含む保護層と、Rを含む外部保護層とがこの順に形成されていることが確認された(Rは、Nd及びPrを含む。)。
(実施例3)
まず、実施例1と同様にして、磁石素体を作製した後、その表面のエッチングを行った。また、アルミニウムトリsec−ブトキシドを2−メトキシエタノールに溶解させることで、処理液を調製した。
この処理液をディップコートにより磁石素体表面に塗布した後、250℃20分で乾燥させることにより、磁石素体の表面上にアルミニウム酸化物を含有する皮膜が形成された複合体を得た。皮膜の厚みを電子顕微鏡により確認したところ、約0.6μmであった。
得られた複合体を、Ar雰囲気において620℃で60分熱処理した。さらに、熱処理後の複合体をAr雰囲気において550℃で1時間時効処理した後、50℃/分で急冷することで、実施例3の希土類磁石を作製した。
実施例3の希土類磁石について、実施例1と同様にして保護層及び外部保護層の分析を行ったところ、磁石素体の表面上に、RFe11Alを含む保護層と、Rを含む外部保護層とがこの順に形成されていることが確認された(Rは、Nd及びPrを含む。)。
(比較例1)
磁石素体の表面のエッチング以降の工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で比較例1の希土類磁石を作製した。つまり、保護層及び外部保護層の形成を行わずに、比較例1の希土類磁石を作製した。
(比較例2)
まず、実施例1と同様の方法により、磁石素体の表面上にシリカを含有する皮膜が形成された複合体を得た。この複合体を、Ar雰囲気において400℃60分熱処理して、比較例2の希土類磁石を作製した。
比較例2の希土類磁石について、実施例1と同様にして保護層等の分析を行ったが、シリカ含有皮膜が確認されるのみで、実施例1のようなRFe13Siを含む保護層は形成されていなかった。
(比較例3)
まず、実施例2と同様の方法により、磁石素体の表面上に酸化亜鉛を含有する皮膜が形成された複合体を得た。この複合体を、Ar雰囲気において400℃60分熱処理して、比較例3の希土類磁石を作製した。
比較例3の希土類磁石について、実施例1と同様にして保護層等の分析を行ったが、酸化亜鉛粒子が確認されるのみで、実施例2のようなRFe13Znを含む保護層は形成されていなかった。
(比較例4)
まず、実施例3と同様にして、磁石素体の表面上にアルミニウム酸化物を含有する皮膜が形成された複合体を得た。この複合体を、Ar雰囲気において400℃60分熱処理して、比較例4の希土類磁石を作製した。
比較例4の希土類磁石について、実施例1と同様にして保護層等の分析を行ったが、アルミニウム酸化物の皮膜が確認されるのみで、実施例3のようなRFe11Alを含む保護層は形成されていなかった。
[耐食性の評価]
各実施例及び比較例の希土類磁石の耐食性を、JIS K5600−7−1に準拠する塩水噴霧試験により評価した。塩水噴霧試験では、35℃の環境下で各希土類磁石に5%の塩水を5時間噴霧した。そして、試験後の各希土類磁石の表面において赤錆が発生した部分の面積の割合(錆面積率)を算出した。なお、錆面積率とは、希土類磁石の表面全体の面積に対する、赤錆が発生していた部分の面積の割合(単位:%)である。錆面積率は、塩水噴霧試験後の希土類磁石の写真を画像処理することにより算出した。表1に各実施例及び比較例の希土類磁石で得られた錆面積率を示す。
表1に示すように、実施例1〜3の希土類磁石の錆面積率は、比較例1〜4の希土類磁石の場合よりも著しく低いことが確認された。特に、RFe13Siを含む保護層を備える実施例1の希土類磁石では、塩水噴霧試験後に全く赤錆が発生していなかった。
以上のことから、実施例1〜3の希土類磁石は、比較例の希土類磁石に比べて、耐塩食性に著しく優れていることが確認された。特に実施例1の希土類磁石は、顕著に耐塩食性に優れていた。
10…磁石素体、20…保護層、22…外部保護層、30…ステータ、32…コイル、50…ロータ、52…コア、100…希土類磁石、200…回転機。

Claims (7)

  1. 軽希土類元素、Fe及びBを含む磁石素体と、前記磁石素体の表面上に形成された保護層と、を備えており、
    前記保護層は、軽希土類元素、Fe、並びに、M(Mは、Si、Al、Zn、Mn、Ge、Sn、Bi、Pb、Ga、Cu、Ni及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)を含む合金を含有するものである、希土類磁石。
  2. 前記保護層の表面上に、軽希土類元素の酸化物を含む外部保護層を更に備える、請求項1記載の希土類磁石。
  3. 前記保護層は、軽希土類元素の酸化物を更に含む、請求項1又は2記載の希土類磁石。
  4. 軽希土類元素、Fe及びBを含む磁石素体と、該磁石素体の表面上に形成された、M(Mは、Si、Al、Zn、Mn、Ge、Sn、Bi、Pb、Ga、Cu、Ni及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)の酸化物又は水酸化物を含む皮膜と、を備える複合体に、熱処理を行って、前記磁石素体の表面上に、軽希土類元素と、Feと、前記Mのうちの少なくとも1種の元素とを含む合金を含有する保護層を形成させる熱処理工程を有する、希土類磁石の製造方法。
  5. 前記熱処理を、500℃以上、前記磁石素体の焼結温度以下の温度で行う、請求項4記載の希土類磁石の製造方法。
  6. 前記熱処理工程の前に、前記Mの酸化物又は水酸化物の粒子を含み酸性を有する水溶液に前記磁石素体を接触させることにより前記複合体を形成する複合体形成工程を実施する、請求項4又は5記載の希土類磁石の製造方法。
  7. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の希土類磁石を備える回転機。
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