以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態の炊飯器のハードウェアの概略構成図である。
図1に示すように、この炊飯器は、開口を有する本体1と、本体1に収納される内鍋31と、図示しない枢軸(ヒンジ軸)およびラッチの機構2Aにより開閉できるよう本体1に接続された蓋2とを備える。上記蓋2には、内蓋4が着脱可能に取り付けられるようになっている。上記本体1の内部には、内鍋31の収容部を構成する外鍋32、内鍋31に収容された調理物を加熱および保温するための加熱用シーズヒータ(以下、単にヒータという)12、炊飯器の動作を制御する制御装置8、内鍋31の温度を検出する温度センサ9、電源部10、攪拌部13およびファン7が配置されている。上記ヒータ12は、加熱部を構成し、温度センサ9は、温度計測部を構成し、攪拌部13は、擦り合わせ部を構成している。
上記蓋2の筐体には、炊飯中に内鍋31内に発生する水蒸気を外部に逃すための蒸気筒5、炊飯器の動作状態を指す情報を出力する表示部93、ユーザの命令を受付けるために操作されるボタンからなる操作部94が存在する。上記本体1の筐体側面には、ファン7に関連の空気取り入れ口6Aと送出口6Bとが、存在する。
上記内鍋31に収容された内容物(米、水)の温度は、温度センサ9によって予測計測されるようになっている。上記温度センサ9は、内鍋31の鍋底壁面温度を計測可能なように設置されている。この実施形態では、鍋底壁面温度が、内鍋31に収容された内容物(米、水)の温度に略等しいことが確認されている。
上記内鍋31は、外鍋32の中に自由に出し入れできる。内鍋31の調理物を収容する内面はフッ素樹脂加工が施され、外鍋32と接する側面は、中空ガラスビーズでコーティングされている。中空ガラスビーズコートにより、熱を、内鍋31内に封じ込めることができて、保温時等における蓄熱効果を向上させることができる。上記内蓋4は、蓋2が閉じられたとき内鍋31の開口を覆うようになっている。
上記攪拌部13は、内鍋31の底面に設けられる攪拌翼136を有する回転部14と、回転部14の攪拌翼136を回転させるためのモータ部(後述のモータ部15)とを有する。上記モータ部に接続された回転部14がモータ部の回転に連動して回転することにより、攪拌翼136が、内鍋31の底面と同一面内において回転するようになっている。上記内鍋31内に、水と、米とが収容され、内鍋31内で、米が水中に浸された状態で、攪拌翼136を回転させて、その回転に基づいて攪拌翼136と米とを衝突させて米から固形分を溶出させるようになっている。また、上記攪拌翼136の回転によって、内鍋31内に、水流(図中の細い矢印で示す)を生成して、その水流によって、水に浸された米粒同士を擦り合わせるようになっている。
上記表示部93と操作部94は、蓋2の筐体表面において一体的に設けられている。尚、表示部と操作部の取り付け位置は、ユーザが表示情報を視認可能であり、またボタン操作が可能な位置であれば、本実施形態に限定されないことは勿論である。
上記ファン7は、炊飯終了後の保温移行時に回転するようになっている。上記ファン7の回転により、図中の太い矢印で示す方向に、取り込み口6Aから空気を取り込み、取り込んだ空気を、内鍋31および外鍋32に送って、送出口6Bから外部に排出するようになっている。このようにして、上記内鍋31を、急速に冷却して、保温移行時の内鍋31内の米飯の酸化を抑制するようになっている。
炊飯器は、電源コード11を介して図示しない商用電源に接続されるようになっている。そして、商用電源からの供給電力を、電源部10を介して各部に供給するようになっている。
尚、本実施形態では、加熱・保温用の熱源として、ヒータ12を用いたが、熱源がこれに限定されないのは勿論であり、例えば、熱源を、IH(Induction Heating:電磁誘導加熱)で構成しても良く、IHの磁界と、攪拌部の回転機構のための磁界とが干渉を生じないように、両者を配置しても良い。
図2は、制御装置8の内部構成と、その周辺回路を示す図である。
図2に示すように、上記制御装置8は、CPU(Central Processing Unit)81と、プログラムおよびデータを格納するメモリ82と、時間を計時して計時データを出力するタイマ83と、各部とデータを入出力するためのI/F(Interface)84とを備える。
上記CPU81は、ヒータ12に通電して発熱動作を行わせるためのヒータ駆動部92、操作部94、表示部93の表示動作を制御する表示制御部931、攪拌部13のモータ駆動部95、ファン7のファン駆動部96、内鍋31内の収容物の重量を計測するための重量センサ97および温度センサ9の夫々と、I/F84を介してデータを入出力するようになっている。
図3は、CPU81およびその周辺部の諸機能を表すブロック図である。
図3に示すように、上記CPU81は、操作部94のボタン操作を介して入力する命令に従って炊飯工程に係る各部を制御するための手順を指す炊飯コースを選択的に決定するコース判定部71、決定された炊飯コースに基づきメモリ82を検索して対応する制御プログラムPRを読出す制御手順決定部72、重量センサ97の検出信号に基づき内鍋31の米の重量を検出する米量判定部73、米量判定部73の検出信号に基づき攪拌部13のモータの単位時間当たりの回転数を決定する回転数決定部74、決定された回転数に従ってモータが回転させるための電圧信号を生成して、モータ駆動部95に出力するモータ制御部75、およびヒータ12に供給する電流信号を生成してヒータ駆動部92に出力するヒータ制御部76を備える。
モータ制御部75は、モータ駆動部95を介して攪拌用モータ131を制御する。メモリ82には、各炊飯コースに対応して制御プログラムPRが予め格納されている。また、制御プログラムPRには、加熱手段であるヒータ12に通電する電流レベルを炊飯開始から終了までの期間にわたって時系列に制御するための情報および攪拌翼136の回転を制御するための情報が含まれ、米量判定部に判定結果に基づいて、モータ制御部の駆動を制御するための情報が含まれている。
尚、本実施形態では、内鍋31の米の重量は、重量センサ97を用いて計測するとしているが、計測方法はこれに限定されない。たとえば、内鍋31を回転させるモータの負荷に基づき検出してもよく、また内鍋31内の水位を検出するセンサの検出結果に基づき米の重量を検出するようにしてもよく、またユーザが操作部94から米の量を入力するとしてもよい。
図4は、表示部93および操作部94を示す図である。
図4に示すように、表示部93と、操作部94とは、一体的に構成されている。表示部93による表示動作は、CPU81の指示に基づき表示制御部931により制御される。表示部93には、炊飯コースを選択するための米の情報931および932と、時間情報934とが表示されるようになっている。
操作部94は、保温・取消ボタン941、予約炊飯の設定を行う際に操作される予約ボタン942、炊飯を開始するときや予約炊飯を決定するときに操作されるスタートボタン943、炊飯コースを選択する際に操作されるコースボタン946を有する。保温・取消ボタン941とスタートボタン943は、ランプを内蔵し、ボタン操作に従ってランプが点灯・消灯するようになっている。
保温・取消ボタン941は、保温の開始を指示するとき、または、保温状態を取消すために操作される。保温状態においては、保温・取消ボタン941のランプが点灯するようになっている。
予約ボタン942は、予約炊飯の設定を行うときに操作される。予約ボタン942の操作に連動して、表示部93の画面には時間情報934として予約した時間が表示される。予約は最大12時間後まで可能である。予約時間は、炊飯完了の時間を指す。炊飯時には、タイマ83の計時データに基づき炊飯終了までの残り時間が時間情報934によって表示される。
コースボタン946が操作される毎に、情報932に示すコースを変更できて、上記コースの選択ができて、炊飯における各コースの加熱(ヒータ)の制御を選択できるようになっている。例えば、コースボタン946の操作により情報932の白米コースを選択した場合は、表示部93の白米コースのランプが点灯する。さらに、左右の動作ボタン945を操作することで、炊飯の仕上がり状態として情報931に示す米飯の[粘り(強)・粘り(弱)・新米]の3パターン、すなわち、後述の擦り合わせのタイミングのうちのいずれかを選択できるようになっている。
ここでは、炊飯の仕上がり状態は、米飯の粘りの程度を指している。左右の動作ボタン945を操作しなければ粘り(強)が選択されて、情報931の粘り(強)が太字で表示される。動作ボタン945を右に操作することで粘り(弱)→新米と選択を切替えることができる。選択された情報931の文字は、太字の表示に変わるようになっている。粘りの程度として、新米の粘りである‘新米’が選択された後に、さらに動作ボタン945が右に操作されると、3パターンとも細字で表示される。その場合は、後述の攪拌翼136の回転による後述の擦り合わせが、省略されるようになっている。
なお、情報932の玄米コースが選択された場合には、情報931による炊飯の仕上がり状態の選択はできない一方、情報932の高速(高速炊飯)コース、おかゆコースが選択された場合には、白米コースと同様に、動作ボタン945を操作することにより仕上がり状態を選ぶことができるようになっている。尚、情報の玄米コースが選択された場合には、情報による炊飯の仕上がり状態の選択をできるようにしても良いことは、言うまでもない。
本実施の形態では、CPU81は、操作部94のボタン操作内容を検出し、検出した操作内容に基づき情報931と932のコースおよび粘りの仕上がりパターンが選択されたと判別したとき、操作内容に基づき選択された炊飯コースを検出する。したがって、本実施の形態では、炊飯コースは、情報932により選択された加熱制御と、情報931により選択された擦り合わせのタイミングとの組合わせにより決定される。
図5は、回転部14の取り付け構造を示す図である。
図5に示すように、内鍋31の底面の中央部には、回転部14の形状に適合する凹部190と、軸134とが形成されている。回転部14は、当該凹部190に嵌め込まれるようになっている。内鍋31が所定の位置に嵌め込まれると、回転軸134は、攪拌翼136の中心軸に連接されるようになっている。
外鍋32の底面外部における、内鍋31の凹部に対応する位置には、モータ部15が取付けられている。回転部14が取り付けられた内鍋31が外鍋32(図1参照)に収容されると、モータ部15から回転部14に回転のための駆動力が伝達可能な状態となる。攪拌翼136は回転部14に着脱自在であるので、使用後は回転部14をモータ部15から取り外して、または、攪拌翼136を回転部14から取り外して、それぞれを洗浄することが可能になっている。
図6は、攪拌翼136を回転させるための機構について説明する図である。
図6に示すように、本実施形態では、回転のための機構として、マグネットカップリング式非接触式攪拌機構を採用している。具体的には、外鍋32の底面外部に設けられたモータ部15は、攪拌用モータ131と、攪拌用モータ131の回転軸に接続される外箱138とを有する。
外箱138は、回転部14を受容れ可能な凹部191を有し、その内壁にアウターヨーク132が取付けられた中空状の箱である。また、アウターヨーク132の外箱138の内壁側とは反対側の面にはアウターマグネット133が固定されている。
内鍋31が外鍋32に収容されるとき、外箱138の凹部191に嵌め込むように内鍋31の回転部14が、凹部191に取付けられるようになっている。回転部14はフッ素樹脂であるテフロン(登録商標)で被膜され、内部は充填されて、完全防水されている。回転部14は、内鍋31の回転軸134の周囲に隙間を介して配されるインナーヨーク137と、インナーヨーク137に磁界を構成するために配されたインナーマグネット135とを有する。インナーマグネット135とアウターマグネット133とは、空隙を介して相対するように位置し互いに磁力により引き合うようになっている。
攪拌翼136は、樹脂素材の略円形部材(円の直径はたとえば約5〜7cm)であり、輪郭円形状の上面には、円の中心で直交する十字の凸部が形成され、その凸部は、回転により水流を生じやすいように山型の形状をしている。
攪拌用モータ131が回転するとモータ軸に連接された外箱138が回転し、アウターマグネット133が回転し、アウターマグネット133に磁力によって引き合うインナーマグネット135も回転する。その結果、回転部14自体が回転し、攪拌翼136が内鍋31の底面内において回転するようになっている。
図7(A)〜(D)は、本実施形態における炊飯の各工程を説明する図である。図7(A)において、縦軸は、水温を示し、横軸は、炊飯開始からの経過時間を示している。また、図7(B)〜(D)は、各コースにおける米の擦り合わせタイミングが示されている。尚、図7(A)〜(D)は、5.5合(米の1合は150グラム)炊きの炊飯器において、内鍋31に3合の白米を収容して炊飯した場合を示している。
図7(A)に示すように、この実施形態では、炊飯を、ヒータ12による加熱が行われない浸漬工程に続いて、ヒータ12による加熱を行う吸水・糊化工程を行い、その後、沸騰持続工程および蒸らし工程を行って完結させるようになっている。ここで、本明細書において、「浸漬」という文言を用いた場合、それは、液中の中に浸す「しんせき」でなくて、次第に浸透する「しんし」を意味するものとする。
上記浸漬工程および吸水・糊化工程では、米のデンプン質を糊化させるために、米の芯にまで充分水を吸わせるようになっている。米に水と熱を加えることにより、生デンプンの形が変化し、消化されやすいアルファ(α)化デンプンになる。この生デンプンからアルファ化デンプンへの変化を糊化と呼ぶ。糊化が開始すると、米のデンプンに水と熱を加えると糊状に変化する現象が見られ、米粒表面は徐々に粘りをもったやわらかいデンプンに変化する。そのため擦り合わせを続けると米粒同士がくっついてしまい。餅ようになってしまう。そのため、すり合わせは、糊化開始温度である水温60℃以下までとするのが好ましい。
動作において、まず、ユーザは、機構2A(図1参照)に関連する開閉ボタンを操作し、炊飯器の本体1から内鍋31を取出す。
次に、ユーザ側で、例えば、次の一連の動作を行い、内鍋に米および水を収容する。詳しくは、炊飯したい量の米を計量する。米の単位は合および升であり、1合は150グラム、1升は1500グラムに相当する。次に、家庭で使用する精米後の米は、まだ表面に糠層が残っているため、水道水等で洗米する(研ぐ)。洗米は、表面の糠層を取り除くために、手早く、数回、水を交換しながらかきまぜるといった方法が用いられる。次に、洗米後の米と、所定量の水(加水量は米に対する重量比1.4〜1.5倍)を内鍋31に投入する。尚、内鍋31の鍋底には、予め攪拌翼136を含む回転部14が取り付けられた状態にあり、底面から内容物(米または水)が外部にもれることはない。次に、米と水とを収容した内鍋31を本体1の外鍋32内にセットし、蓋2を閉じる。次に、スタートボタン943を押して炊飯を開始する。このとき、ユーザは操作部94を操作して炊飯のコースを選択しているので、選択内容に従って、CPU81はメモリ82から当該コースに対応した制御プログラムPRを読出す。以降は、CPU81は読出した制御プログラムPRの命令コードに基づき各部を制御する。これにより、炊飯が進行する。
上記ユーザ側の操作の後、ヒータ制御部76は、ヒータ駆動部92に対し制御信号を出力し、ヒータ駆動部92は、その制御信号に基づき、ヒータ12に通電する。これにより、内鍋31の内容物の加熱が行われる。炊飯の開始と同時に、CPU81には、温度センサ9によって計測された温度が入力され、CPU81は、入力された温度に基づき内鍋31内の水温を検出する。これにより、炊飯における温度管理が行われる。
図7(A)を参照して、室温(20℃)で15分程度浸漬させることで米が含有する水分が30%近くになり、浸漬工程が終了する。その後、加熱を開始し水温を上昇させながら、さらなる吸水を行い、60℃以上において米の糊化を行う。
加熱時にある一定温度でハンチングさせる場合には、温度センサ9の検出温度に基づきヒータ制御部76がヒータ12の通電量を制御することにより、一定温度を維持するようにする。
水が100℃に達してからは、ヒータ制御部76は、水の沸騰を15分以上継続できるようにヒータ12の通電量をヒータ駆動部92を介して制御する。
沸騰中に余分となった内鍋31内の蒸気は、蓋2の図示しない小孔および蒸気筒5を通して必要に応じて外部に排気される。15分沸騰継続後には、内鍋31には自由水はほとんどなくなっており、米は、デンプンが十分にアルファ化された飯となっている。その後は、蒸らし工程に移行する。
蒸らし工程では、ヒータ制御部76は、温度が90℃以下にならないようにヒータ12を制御する。この段階で、飯の表面に僅かに残ったおねばは、飯に吸水されるのでツヤのあるおいしいご飯に変化する。蒸らし工程が終了すると、炊飯完了となる。
このように、米からデンプン溶出する糊化工程、その後の沸騰持続工程および蒸らし工程で、それぞれの目的にあわせて温度制御が行われる。浸漬工程後の吸水工程は、水温が室温から60℃以下において、糊化工程は水温60℃以上で100℃まで、沸騰持続工程は98℃以上の維持20分以上、蒸らし工程では90℃以上の維持15分以上が基本である。
本実施の形態では、米の状態(古米または新米)、または品種に関係なく、粘り・つやの多い米飯に炊き上げるために、炊飯において、水中に浸された米粒同士を擦り合わせる。米同士の擦り合わせや、米と攪拌翼136との接触により、米粒表面部分を平滑にし、且つ削り取られた米表面のデンプン質を水側に移行させる。擦り合わせの期間は、水側に米のデンプン質を移行させるでんぷん質移行工程といえる。削られた表面の成分は、アミロースやアミロペクチンを含むデンプン粒子であり、炊飯時のおねばに、デンプン粒子として含有させることができるので、炊き上がった米の表面の粘り物質量を多くすることができる。したがって、米飯の粘りを向上させることが可能となる。また、米粒の表面が平滑であるために、光が米の表面において反射され易くなって、米のツヤを向上させることができる。また、表面をコーティングするアミロペクチン量も多くなるので、炊飯後冷めてからのツヤも向上させることができる。
具体的には、図7(B)〜(D)に示すように、炊飯を開始後から内鍋31内の水温が糊化開始温度以下の期間において、内鍋31の底面に設けた十字状の凸部を有した攪拌翼136を攪拌用モータ131で回転させることで、内鍋31に水流を発生させ、それに伴い米同士が水中で移動し、擦りあわされる。
図7(B)〜(D)には擦り合わせタイミングが、図7(A)の炊飯の時間経過に伴う温度変化と関連付けて示される。擦り合わせタイミングは米の状態または品種によって変えることが好ましい。例えば、水分の多い新米においては同じすり合わせ力をもってもより削られやすいので、擦り合わせは、図7(C)に示すように、浸漬工程程度の時間のみ行う等、短くした方がよい。
発明者らの実験によれば、粘りの少ない銘柄、たとえばキヌヒカリやキララ394といった米の場合は、図7(B)に示すように、浸漬工程の期間および吸水・糊化工程における水温が60℃以下の期間のすべてにおいて擦り合わせを行うことで、強い粘りを得ることができて、粘りをコシヒカリにより近づけることが可能となるとの知見を得た。
また、品種自体が粘りを有する銘柄、例えば、粘りの強いコシヒカリであれば、図7(D)に示すように、浸漬工程の擦りあわせは省略して、吸水・糊化工程(ただし、水温が60℃以下)のみで擦り合わせを行って、擦り合わせに基づく粘りを弱くしても、十分な粘りを獲得できるとの知見を得た。
尚、図7(A)では、吸水・糊化工程の55℃付近で一定時間温度をハンチングさせて、温度を一定時間55℃に維持している。このようにすると、米の酵素活性を上げることができて、糖の生成を助長する効果を獲得することができる。
また、グラフには示さないが、炊飯が開始されると浸漬工程を経ずに吸水・糊化工程を開始し、吸水・糊化工程後は、ただちに沸騰持続工程まで一気に温度を上昇させるようにしてもよい。この場合には、飯の弾力が大きくなる。なお、このケースでも糊化温度以下において攪拌動作が行われる。
このように、攪拌翼136により米が浸された水を攪拌することにより、米同士の擦り合わせによる米の粘り増加を獲得できると共に、水温を均一化することも可能になる。
発明者らの実験によれば、図7(B)〜(C)に示す期間において擦り合わせによって米自体が割れたり、また過剰に削り取られるのを回避するには、攪拌翼136の回転速度、すなわち攪拌用モータ131の回転速度は、内鍋31に収容される米の量に応じて変化させるべきであるとの知見を得た。一実験によれば、5.5合炊きの内鍋31(たとえば、内径は深さ方向に一様に約19cm、深さは約11cmである)で1〜3合の米を炊く場合には、回転速度は500rpm(回転数/分)であり、5合の場合には750rpmであることが好ましい。
また、発明者らの実験によれば、擦り合わせ期間における攪拌用モータ131の運転、すなわち攪拌翼136の回転は連続していてもよく、また間欠していてもよいとの知見を得た。単位時間(10秒)当たりの運転率として、たとえば2秒運転8秒停止の間欠運転の場合を、運転率20%とした場合、実験によれば、上述した擦り合わせによる効果を得るには運転率は36%〜100%であることが望ましいとの知見を得た。また、少なくも36%であれば、内鍋31内の水温均一化の効果も得られるとの知見を得た。
また、本発明者は、攪拌用モータ131の運転、すなわち攪拌翼136の回転に関して、次の図8を用いて説明される上記以外の他の知見も得た。
図8は、本発明における浸漬工程および吸水工程(60℃以下)中に水中で米を擦り合わせた場合の溶出固形分量を変えた場合の官能試験の結果を示す。ここで、水中に溶出される米の溶出固形分は8乃至9割方が米の表面デンプン質であり、擦り合わせにより溶出する米の溶出固形分量は、実質上、米の表面デンプン質量と見なすことができる。
試験に用いた米はヒノヒカリとコシヒカリである。また、本実験は米3合(450g)で行った。官能試験は、デンプン質を全く溶出させないものに比べて好まれるか否かを調査したものである。図8において、○は、好まれた場合を示し、×は、好まれなかった場合を示す。
官能試験の結果、デンプンの溶出は、少なすぎても、多すぎても好ましくないことがわかった。例えば、図8に示す一試験結果によると、3合の場合、米飯の状態を改善できる範囲は、溶出量として1.8gから4.0gの範囲であった。ここで、溶出量が1.2g以下の場合、好まれないし、5.0gを超えると焦げ付きの原因となることがわかった。
言い換えると、溶出させるでんぷん量は、多すぎても少なすぎても問題があるのである。すなわち、様々な条件を検討した結果によれば、こすり合わせを行わないよりも多めの成分を溶出させた方が好まれるが、溶出させすぎると、ヒータのパワーをフルパワーにする立ち上げ期にデンプンの沈澱が生じてしまい、熱伝達不良の原因(こげつき)が生じてしまうのである。
この官能試験から明らかなように、炊飯時の吸水工程における溶出でんぷん固形分量をコントロールすることにより同じ品種の米を用いた際でも粘りを増強し、食味を変えることが可能となる。
炊飯の処理フローチャートは、炊飯コースに応じて予め制御プログラムPRとしてメモリ82に格納されている。いずれの制御プログラムPRに基づいて炊飯を実行するかは、前処理においてユーザが操作部94を操作する内容に基づき決定される。
前処理では、ユーザは、炊飯開始に際して、所定量の米と水を収容した内鍋31を本体1の外鍋32にセットし、蓋2を閉めて、その後、操作部94を操作して炊飯コースを選択する。コース判定部71は操作部94の操作内容を検出し、操作内容に基づき選択がされた炊飯コースを判別する。判別した炊飯コースは、制御手順決定部72に与えられる。以上が前処理である。
その後、ユーザがスタートボタン943を操作することにより、炊飯の開始が指示される。
以下、炊飯コース別に炊飯工程の処理手順を説明する。なお、ここでは情報932による加熱手順として白米に対応の手順が選択されるものと想定する。
図9は、炊飯コースとして、‘白米+粘り(強)コース’が選択された場合の炊飯手順のフローチャートである。
スタートボタン943が操作されたことを検知すると、制御手順決定部72は、前処理において与えられている炊飯コースの情報に対応する制御プログラムPRをメモリ84から検索して読出す(ステップS(以下、単にSと略す)101)。その後、CPU81は、読出した制御プログラムPRの命令コードを実行し、各部を制御することにより、選択された炊飯コースに応じた炊飯が行われる。まず、米量判定部73は、重量センサ97の検出データに基づき、内鍋31に収容されている米の量を検出し、検出した米量のデータを回転数決定部74に与える。回転数決定部74は、与えられた米量データに基づき攪拌翼136の回転数および攪拌時間を決定し、モータ制御部75に出力する(S103)。この回転数決定部74は、擦り合わせ制御部を構成している。この実施形態では、米量と回転数および攪拌時間を対応付けたテーブルがメモリ84に予め格納されているので、検出した米量データに基づき当該テーブルを検索することで、対応する回転数および攪拌時間を読出すことができる。
尚、ここでは攪拌用モータ131は、少なくとも36%の運転率で回転する。また、図9に示す実施形態では、攪拌用モータの回転速度を適切に調整することによって、攪拌翼136の駆動による米の適切な量(焦げ付きや、黄変が起ならい適切な量という意味)の固形物の溶出が、浸漬工程が終わるまでに終了する場合、つまり、浸漬工程の始まりからa<15分で、攪拌(米の擦り合わせ)を終了する場合について説明する。
話を戻して、モータ制御部75は、与えられる回転数に基づいた制御信号をモータ駆動部95に出力する。モータ駆動部95は制御信号に基づき攪拌用モータ131に通電する。これにより、攪拌用モータ131は米量に応じた速度で回転する。モータの回転に連動して攪拌翼136は回転し、米の擦り合わせ(S104a)および浸漬工程(S105a)が同時に開始する。
ここから浸漬工程が開始する(S105a)。浸漬工程が開始されるとタイマ83によって浸漬時間のタイムカウントが開始される(S106a)。モータ制御部95は、タイマ83からの計測データに基づき攪拌用モータの駆動からの時間がa分を経過したと判定すると(S129aでYES)、攪拌用モータの回転を停止して、擦り合わせ部を構成する攪拌部13の攪拌翼136の運転を停止する(S130a)と共に、タイマ83で浸漬時間(T1)の測定を継続する(S131a)。このようにして、適切に米の擦り合わせを終了して、米のデンプンの適量を水中に溶出させて、炊きあがった米に、粘りや、つやがある一方、焦げ付きや、黄変がないようにする。
その後、ヒータ制御部76は、タイマ83からの計時データに基づき浸漬時間が15分を経過したと判定すると(S105でYES)、ヒータ駆動部92を介してヒータ12に通電を開始する(S108a)。これにより、内鍋31の内容物(米と水)の加熱が開始される。上記ヒータ制御部76は、加熱制御部を構成している。
加熱が開始すると吸水・糊化工程に入る(S109a)。次いで、ヒータ制御部76は温度センサ9の検出温度に基づき内鍋31の鍋底壁面温度K1を計測する(S110a)。ここでは、鍋底壁面温度K1は、内鍋31の水温に等しいと想定する。
ヒータ制御部76は鍋底壁面温度K1が所定温度、たとえば、55℃を指示すると検知すると(S111aでYES)、温度センサ9の検出温度が所定温度を保持するようにヒータ駆動部92を介してヒータ12への通電量を制御する(S112a)。
モータ制御部75は、タイマ83の計時データに基づき吸水時間T2の計測を開始する(S113a)。次いで、タイマ83が、設定された吸水時間T2(=15分間)が経過したことを検出する(S115aでYES)と、米の糊化を促進するため、内鍋31内を沸騰させるために、ヒータ制御部76は、ヒータ駆動部95を介して、フルパワーで加熱が行われるようにヒータ12に通電する(S118)。次に、温度センサ9の検出温度に基づき内鍋31の鍋底壁面温度K3が計測される(S119)。ヒータ12の連続加熱による内鍋31内の沸騰と蒸発がしばらく継続すると(沸騰持続工程)、内鍋31の鍋底の水がほとんどない状態に変化する。
ヒータ制御部76は、温度センサ9の検出温度に基づき、鍋底壁面温度K3が103℃を指示することを検出すると(S120でYES)、ヒータ駆動部92を介してヒータ12への通電を停止する。これにより、内鍋31に対する加熱動作は停止する(S121)。
その後、蒸らし工程に移行する。CPU81は、加熱動作を停止した(沸騰持続工程を終了)後は、内鍋31内の米飯を蒸らすために、タイマ83の計時データに基づき、蒸らし時間T3の計測を開始する(S122)。蒸らし工程においても温度センサ9の検出温度に基づき鍋底壁面温度K4が検出される(S123)。ヒータ制御部76は、蒸らし工程においては、温度センサ9の検出温度に基づく鍋底壁面温度K4と95℃とを比較しながら、比較結果に基づき鍋底壁面温度K4が95℃を下回らないように、ヒータ駆動部92を介しヒータ12の通電量を制御し、加熱量を制御する(S123〜S125)。
CPU81は、タイマ83の計時データに基づき蒸らし時間T3が15分を指示するか否かを判定する(S126)。蒸らし時間T3が15分を指示する、すなわち蒸らし工程開始から15分が経過したと判定すると(S126でYES)、炊飯工程は終了する(S127)。尚、炊飯終了時には、CPU81は図示のない音声出力部などを介して炊飯終了を報知する音またはメッセージを出力するようにしてもよい。
その後、保温工程に移行する。詳しくは、ヒータ制御部76は、ヒータ駆動部92を介してヒータ12の通電量を制御し、内鍋31内の米飯を保温するよう動作する(S128)。CPU81は、保温工程時には保温・取消ボタン941のランプを点灯し、保温状態であることを報知する。また、保温開始時にはファン駆動部96を介してファン7を回転させて急速冷却し米飯の酸化を抑制する。
以上の例では、白米+粘り(強)コースにおいて、炊飯開始から内鍋31内の水温が糊化開始温度(60℃)になるまでの期間に、詳しくは、浸漬工程の間のみに、攪拌翼136が所定時間の間、所定の回転速度で、連続または間欠的に駆動する。
図10は、炊飯コースとして、‘白米+粘り(弱)コース’が選択された場合の炊飯手順のフローチャートである。
スタートボタン943が操作されたことをCPU81が検知すると、図8のS101〜103と同様の処理が行われる。前処理において判定した炊飯コースに対応する制御プログラムPRの命令コードを実行し、各部を制御することにより、選択された炊飯コースに応じた炊飯工程が行われる。
尚、図10のS118〜S128の処理は、図8のフローチャートのそれと同一処理なので説明は省略する。
また、図10に示す例では、攪拌用モータの回転速度を適切に調整することによって、攪拌翼136の駆動による米の適切な量(焦げ付きや、黄変が起ならい適切な量という意味)の固形物の溶出が、給水工程の間に行われる場合、詳しくは、給水工程における温度が55℃に保たれる最初の時から攪拌(米の擦り合わせ)が始まりその最初の時からの時間b≦15で、攪拌が終了する場合を説明する。このようにすると、攪拌によって、温度を所定温度に維持している際において、温度の局所的なばらつきも抑制することができる。
まず浸漬工程が開始する(S204b)。浸漬工程が開始されると、タイマ83によって浸漬時間T1のタイムカウントが開始される(S205b)。モータ制御部75は、タイムカウント値に基づき、浸漬時間T1が15分を指示していると判定すると(S206bでYES)、ヒータ制御部76によりヒータ9に通電されて、内鍋31の水・米の加熱が開始される(S208b)。加熱開始すると吸水・糊化工程に入る(S209b)。
続いて、ヒータ制御部76は、温度センサ9により鍋底壁面温度K1を計測して(S210b)、鍋底壁面温度K1が所定値、たとえば、55℃に達したことを検知すると(S211b)、温度センサ9の検出温度が所定温度を指示するように、ヒータ駆動部92を介してヒータ9の通電量を制御する(S212b)と共に、タイマ83の計時データに基づき吸水時間T2の計測を開始する(S213b)。また、これと同時に、モータ駆動部95を介して攪拌用モータ131を回転させる。これにより攪拌翼136の回転を開始し、内鍋31内の浸漬した米の攪拌を開始する(S229b)。
次に、設定された加熱制御時間T2(=b分間)が経過したしたことを検出すると(S230bでYES)、攪拌用モータの回転を停止して、擦り合わせ部を構成する攪拌部13の攪拌翼136の運転を停止する(S231b)と共に、タイマ83で加熱制御時間(T2)の測定を継続する(S232b)。このようにして、適切に米の擦り合わせを終了して、米のデンプンの適量を水中に溶出させて、炊きあがった米に、粘りや、つやがある一方、焦げ付きや、黄変がないようにする。
続いて、設定された加熱制御時間T2(=15分間)が経過したしたことを検出すると(S215bでYES)、フルパワー加熱を行う(S118)。
以上のように白米+粘り(弱)コースでは、浸漬工程の終了後から内鍋31内の水温が糊化開始温度になるまでの期間において、所定回転数および所定時間の攪拌翼136による攪拌が連続または間欠に行われる。このように、適切に米の擦り合わせを終了することにより、米のデンプンの適量を水中に溶出させて、炊きあがった米に、粘りや、つやがある一方、焦げ付きや、黄変がないようにしている。
図11は、炊飯コースとして、‘白米+新米コース’が選択された場合の炊飯手順のフローチャートである。
スタートボタン943が操作されたことをCPU81が検知すると、図9のS101〜103と同様の処理が行われる。つまり、前処理において判定した炊飯コースに対応する制御プログラムPRの命令コードを実行し、各部を制御することにより、選択された炊飯コースに応じた炊飯が行われる。
この実施形態では、S101〜S103、S118〜S128の処理は図9のフローチャートのそれと同じであるので説明は省略する。
尚、この実施形態では、CPU81が、重量センサ97からの信号に基づいて、攪拌用モータの回転速度を適切に調整することによって、攪拌翼136の駆動による米の適切な量(焦げ付きや、黄変が起ならい適切な量という意味)の固形物の溶出が、浸漬工程が終わると同時に終了する場合について説明する。
まず、モータ制御部75によりモータ駆動部95を介して攪拌用モータ131を回転開始されて内鍋31内の米・水が攪拌開始されるとともに、浸漬工程が開始される(S304c、S305c)。浸漬工程が開始されるとタイマ83によって浸漬時間T1のタイムカウントが開始され(S306c)、モータ制御部75は、タイムカウント値に基づき浸漬時間T1が15分を指示していると判定すると(S307cでYES)、浸漬工程は終了するので、モータ駆動部95を介して攪拌用モータ131を停止させる(S308c)。これにより、内鍋31内の攪拌動作は停止する。
その後、ヒータ12が通電されて、加熱が開始される(S309c)。加熱開始されると吸水・糊化工程に入る(S310c)。温度センサ9の検出温度に基づき鍋底壁面温度K1が計測される(S311c)。計測に基づき鍋底壁面温度K1が所定値、たとえば55℃に達したことを検知すると(S312c)、温度センサ9の検出温度が所定温度を指示するように、ヒータ制御部76はヒータ駆動部92を介してヒータ9の通電量を制御しながら(S313c)、タイマ83の計時データに基づき吸水時間T2の計測を開始する(S314c)。次いで、設定された吸水時間T2(=15分間)が経過したしたことが検出され(S316cでYES)ると、フルパワーによる加熱が開始される(S118)。
以上のように白米+新米コースでは、糊化開始温度以下の浸漬工程と同じ期間においてのみ、攪拌翼136による連続または間欠の攪拌が行われる。
尚、上述の実施の形態では、攪拌翼136は内鍋31の底面と同一面内において回転するように設けられるが、攪拌用の部材の構成および取付態様はこれに限定されるものではない。
図12は、他の実施形態の炊飯器の攪拌部の構成を示す図である。
図12において、401は、炊飯器本体であり、402は、鍋上部に開閉可能に設置された蓋体であり、402Aは、開閉ボタンである。また、404は、内蓋であり、405は、蒸気筒であり、407は、ファンである。また、431は、内鍋であり、432は、外蓋であり、408は、制御装置である。また、409は、鍋温度を検知する温度センサであり、410は、電源であり、411は、電源コードであり、412は、炊飯鍋を加熱するヒータであり、433は、米および水である。また、531は、攪拌翼を回転させるモータであり、538は、プロペラ型の攪拌翼の軸を収容するための攪拌翼軸収納ケースであり、539は、モータに直結したプロペラ型攪拌翼である。
上記攪拌翼軸収納ケース538は、プロペラ型の攪拌翼539を保持する軸上部に存在している。上記攪拌翼軸収納ケース538は、軸を多段に収容可能になっている。上記攪拌翼軸収納ケース538は、蓋開閉時に軸を収容するようになっている。上記攪拌翼539を先端に保持する軸は、攪拌用モータ531のモータ軸に連結されており伸縮自在になっている。上記内蓋31は、蓋体402が閉まった状態で炊飯鍋を密閉するために設けられている。また、上記内蓋31には、沸騰時には蒸気が排気可能なように表面に小孔が設けてある。上記蒸気筒405は、沸騰工程時の余分な蒸気を排気するために設けられている。
この変形例の炊飯器では、攪拌部材は、蓋402に一体的に取付けられるようになっている。攪拌部材は、蓋402に内蔵される攪拌用モータ531、攪拌用モータ531のモータ軸に連結されるプロペラ型の攪拌翼539、プロペラ型の攪拌翼539を保持する軸(モータ軸に連結される軸)を収容するためのケース538を有している。
上記ケース538は、プロペラ型の攪拌翼539を保持する軸を、伸縮させることにより収容したり、または、内鍋431の底面方向に伸ばしたりするようになっている。蓋402がユーザにより開閉される時には、軸はケース538に収容された状態にある。
蓋402が閉じられて炊飯が開始すると、図9〜図11に示した攪拌期間のみにおいて、攪拌翼539を保持する軸がケース538から内鍋431の底面方向に伸びて、プロペラ型の攪拌翼539は浸漬状態の米中に位置して、回転する。その他の期間は、軸はケース538内に収容された状態にある。
攪拌期間においては、攪拌用モータ531が、前述と同様に米量に応じた回転数および駆動時間で回転する。モータの回転に連動してプロペラ型の攪拌翼539が回転するので、内鍋431内では水流が発生し、それに伴い米同士が水中で移動し、擦りあわされる。これにより、内鍋431の底面に設けられる攪拌翼536を用いる場合と同様に擦り合わせの効果が得られる。
以下、この変形例の炊飯器における炊飯について簡単に述べる。
先ず、炊飯鍋をセットし、蓋体を閉じる。この状態で、軸収容ケースからプロペラ型攪拌翼が伸び、蓋体から伸びた攪拌翼は米とともに水に漬かるようになっている。
攪拌翼539は、プロペラ型の攪拌翼であり、軸に対して斜めに複数羽が取り付けられた構造を有している。この攪拌翼539は、斜めに水をすくいあげる構成となっていることで、水流を生じさせるだけで、米に衝撃を与えることがないようになっている。攪拌翼539は、使用後は、モータから取り外して洗浄することが可能になっている。
炊飯に話を戻すと、炊飯器本体上部にある炊飯スイッチ(図示せず)を押すと、制御装置408の指令により加熱ヒータ412が通電され、炊飯が開始する。炊飯開始と同時に、温度センサ409も起動し、炊飯の各工程の温度管理を行う。
炊飯では、室温で20分程度浸漬させることで米の水分が30%近くになり、吸水工程が終了する。その後、水温を上昇させながら、さらなる吸水と、60℃以上では糊化をおこなうこととなる。ここで、米の糊化が始まる前において、適切な時間、適切な回転速度で、攪拌翼539を駆動して、米から適切な量の固形分を水中に溶出する。
水温の変化は鍋温度を検知する温度センサによって行う。先に述べたように、ある一定温度でハンチングする場合は、温度センサと制御回路の連携により一定温度が維持される。
水が100℃に達してからはその沸騰を15分以上継続できるように、制御装置408は、電源ヒータ412の制御をおこなう。沸騰中に余分となった蒸気は必要に応じ内蓋404の小孔、蒸気筒405を通して外部に排気される。15分沸騰継続後には炊飯鍋に自由水はほとんどなくなっており、米は十分にα化され飯となっている。その後の蒸らし工程に移る。蒸らし工程では温度が90℃以下にならないようにヒータ412の制御が行われる。この段階で表面に僅かにのこったおねばは飯に吸水されツヤのあるおいしいご飯に変化する。蒸らし工程が終了すると炊飯完了である。
本炊飯の特徴を繰り返すと、吸水工程および立ち上げ工程中の一部で、米同士をすり合わせることで、表面が僅かに削られ、削られた米粉は水側に移行する。それらの微粒子はデンプン粒子を含むので、加熱により粘りを生じる。炊飯の後半では米の周りに存在していた水分は米表面にもどり飯の一部となる。ここで、本炊飯では、従来よりもデンプン粒子がより多く含まれている「おねば」をご飯の表面にコーティングすることとなるから、粘りを向上させることができる。
尚、上述した攪拌部は浸漬した米内で羽が回転する構成であったが、内鍋自体が回転するようにしてもよい。具体的には、回転台にシャフトを介してモータを接続し、回転台に内鍋を載置する。動作においては、モータが駆動されて回転すると、シャフトを介して回転台が回転し、回転台に載せられた内鍋が回転する。これにより、内鍋内において米と水が流動しながら攪拌される。
発明者らは、米の擦り合わせを一切行わない場合と、米の擦り合わせを行う場合とで、炊飯後の飯の粘りを、テクスチャー(咀嚼模擬)メータで測定した。
図13は、その咀嚼模擬試験の一試験例の結果を示す図である。
テクスチャーの測定は、以下のように行う。すなわち、H15×φ30mmのステンレス容器に薄膜の樹脂フィルム(食品用ラップフィルム)を敷き、樹脂フィルム上に飯15.0gを載せる。飯に荷重するプランジャーと同一素材の台を用いてステンレス容器を抑え、おにぎり形を作る。おにぎりは台の上にとりだす。これにより、同一量の加重をかけて同一形状に整形されたおにぎりが作られる。
上述の手順で2つのおにぎりを作った。おにぎりに使用した米は滋賀県産キヌヒカリ、加水比1.5倍で炊飯した。1つのおにぎりは従来の炊飯器を使用して炊飯した米飯(擦り合わせなし)によるおにぎりであり、他方のおにぎりは、図7(B)に示すタイミングで擦り合わせを行う炊飯工程を経た米飯(擦り合わせあり)によるおにぎりである。
これら2個のおにぎりを用いて炊飯の仕上がり(粘り強度)の評価を行う。具体的には、2個のおにぎりそれぞれの中央に、φ16mmの円柱型プランジャーを突き刺し、90%貫入時の硬さと90%変形させた後同じスピードで引き上げ時のマイナス側の荷重値を測定する。荷重スピードは1mm/sである。ここでプラス側の荷重値を硬さ、マイナス側の荷重値のピークを飯粒の粘り、あるいは、マイナス側の面積を付着性による粘りとし、仕上がり(粘り強度)の評価を行なった。
図13に示す飯粒の粘り強度の試験結果によると、擦り合わせありの方が、従来の擦り合わせなしの炊飯よりも付着性による粘りの値が大きくなった。
尚、粘り荷重値はマイナス値が大きいほど粘りが大きくなる指標である。なお、図13においては、試料毎の粘り加重のバラツキEも示されている。
図14は、変形例の炊飯器における米同士の擦り合わせタイミングを示した図である。縦軸に温度、横軸に時間を示したグラフの下に、米同士のこすり合わせを行う期間を示してある。
この変形例では、図7で図示されている、浸漬工程と、給水・糊化工程という文言を使用する代わりに、給水工程と、立ち上げ工程という文言を使用している。
炊飯は、吸水工程、立ち上げ工程、沸騰工程、蒸らし工程の夫々で、それらの夫々の目的にあわせて温度制御が行われる。この変形例では、吸水工程は、水温が室温から60℃以下の期間を言い、立ち上げ工程は、それ以上で100℃までの期間を言う。また、沸騰工程は、98℃以上を20分以上維持して行い、蒸らし工程は、90℃以上を15分以上維持して行うのが基本である。
本発明では、先の吸水工程から立ち上げ工程の途中まで、水中に設けたプロペラ型の攪拌翼を回転モータで回転させることで、水流を発生させ、それに伴い米同士が水中で移動し、擦りあわされる。尚、この変形例でも、給水期に、55℃付近で温度をハンチングさせている。このようにして、米の酵素活性を挙げて、糖の生成を助長している。
また、グラフには示さないが、この変形例でも、吸水工程からただちに沸騰継続工程まで一気に立ち上げることも可能で、この場合は飯の弾力が大きくなる。
尚、上述のように、この変形例でも、擦り合わせのタイミングは、米の状態によって変えることができる。例えば、水分の多い新米においては同じすり合わせ力をもってもより削られやすいので、すり合わせタイミングは短くした方がよい。例えば、粘りの少ないキララ394の場合は、吸水工程、立ち上げ工程すべてにおいてすり合わせることでよりコシヒカリに近づけることが可能となる。(図1上段の例)
また、例えば、新米時期のやわらかい米の場合は、吸水工程のみのすりあわせを行うだけでも十分に表面を平滑化できるので、後半の立ち上げ工程のすり合わせはなしにすることも可能である。(図1中段の例)
また、例えば、粘りのつよいコシヒカリであれば、炊飯初期のヒータ稼働から、立ち上げ工程までの擦り合わせだけでも、十分粘りの向上に寄与できる。(図1下段の例)。
図15に、本実施の形態に従って炊飯工程中に水中で米同士を擦り合わせた場合(図15の右側)と、擦り合わせしなかった場合(図15の左側)それぞれの、浸漬工程終了直後の米の表面を撮影した写真を示す。両方のケースともに、同一の種類の同一量の米について同一条件で米研ぎをした後に、加水比1.5倍の水(水温20度)に20分浸漬した直後の状態を示す。
図15の左側は、浸漬期間において擦り合わせをしていない為に米表面の色調にムラがあり、あまりツヤがない。
これに対し、図15の右側は浸漬期間(20分)のうち10分間は擦り合わせをした(攪拌用モータ131を500rpmで運転率80%で運転)ケースを指すが、色調にムラが少なく、よりつややかになっており、表面が僅かに削られ、平滑化されているのがわかる。参考までに、米の含水率を測定したところ、擦り合わせなしのケースでは28.7%であり、擦り合わせありでは29.2%であった。
上記実施形態の炊飯器によれば、炊飯工程を開始後、内鍋31の水温が糊化開始温度以下である期間において、米同士を擦り合わせることで表面を僅かに削り、削られた米粉を水側に移行させ、その削られた米粉を含んだ水を一切除去せずに、沸騰させるようになっている。したがって、それらの米粉はデンプン粒子を含むので、その後の加熱により粘りを生じる。また、炊飯工程の後半(蒸らし工程)では米の周りに存在していた水は米表面にもどり、飯の一部となることから、従来よりもデンプン粒子がより多く含まれている「おねば」をコーティングすることとなり、米の粘りを、向上させることができる。また、米表面は擦り合わせで均一化されているので、おねばを米表面に均一にコーティングすることが可能となる。
また、上記実施形態の炊飯器によれば、上記モータ制御部95で、攪拌部での米の擦り合わせ動作を制御して、水中に溶出する溶出固形分を予め定められた量以下に抑えるようになっているから、炊きあがったご飯の黄変や焦げ付きを抑制することができる。
尚、本発明では、擦り合わせ部は、炊飯の最初から米が糊化する(60℃)までの期間の一部(この期間であれば、如何なる期間でも駆動可能)に駆動させることが好ましいが、擦り合わせ部は、糊化が始まってから後も、駆動させても良い。
また、本発明によれば、格納メモリに、重量センサに基づいて測定された重量米の重量と、米から削る予め定められた固形分の量との対応表が記憶されていて、重量センサに基づいて測定された重量に対応する量の固形分を、米から削るように、攪拌翼の回転速度と、攪拌翼の駆動時間とを決定するようになっていた。ここで、対応表は、米の銘柄、例えば、粘りが強い米、新米、古米および粘りが弱い米の夫々で、各質量に基づいて、予め定められた削る固形量が、決定されていても良く、単に、如何なる米でも、質量に対応する削り量が、一通りしかなくても良い。また、この対応表は、無洗米、無洗米以外で、区別されていても良く、また、代表的な銘柄、例えば、コシヒカリ、標準米、ササニシキ、あきたこまちといった銘柄毎に区別されていても良い。
尚、本発明者が行った一試験例では、削り量は、水の量と無関係であるとのデータがある。これは、固形物であるデンプン質は、水の底に溜まる傾向があるからであると考えられる。
また、上述のように、発明者が行った一試験では、固形分適量溶出工程で、水中に溶出される米の溶出固形分の重量が、3合の場合、米の炊飯前の総重量の0.5%から1%の間であると、好ましい結果がでている。しかし、このデータは、米が、新米、古米でも異なり、また、無洗米、有洗米でも異なり、また、銘柄によっても異なると考えられるから、予め定けられた削る固形分の量は、各米の性質によって、定めるべきであって、固形分を溶出させる工程で、水中に溶出される米の溶出固形分の重量が、米の炊飯前の総重量の0.5%から1%の範囲と異なる範囲であっても良い。そして、例えば、固形分を溶出させる工程で、米の炊飯前の総重量に対する水中に溶出される米の溶出固形分の重量の下限は、0.2%、0.3%、0.4%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%またはそれ以外の%であっても良い。また、例えば、固形分を溶出させる工程で、米の炊飯前の総重量に対する水中に溶出される米の溶出固形分の重量の上限は、0.7%、0.8%、0.9%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%またはそれ以外の%であっても良い。擦り合わせ部の駆動によって米から水中に溶出する溶出固形分としては、炊飯する各米の性質によって、炊飯後に焦げ付きが起こらない量を選択することができる。また、擦り合わせ部の駆動によって米から水中に溶出する溶出固形分としては、炊飯する各米の性質によって、炊飯後に黄変が起こらない量を選択することができる。
また、上記実施形態では、重量センサで、炊飯される米の質量を計測したが、炊飯される米の質量は、ユーザーが、直接入力する構成であっても良い。
また、上記実施形態では、擦り合わせ部は、蓋に固定される構成では、蓋から垂直に延在する軸の先端に存在するプロペラ型の攪拌翼が存在するものであったが、この発明では、擦り合わせ部は、蓋の内側に収容可能な上下動可能なアームの先端に米を攪拌する部分を有する構成であって、アームの遠心力によって、アームが、蓋の内側に収容されるような構成であっても良い。
また、上記実施形態では、水に溶出させる米の固形分を、予め定められた量以下にするために、擦り合わせ部の駆動時間および回転速度を適切に制御するようになっていたが、この発明では、水に溶出させる米の固形分を、予め定められた量以下にするために、駆動時間および回転速度のうちの一方を一定にして、他方を変動させるようにしても良く、駆動時間および回転速度の両方を変動させるようにしても良い。
尚、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。