JP2012179047A - 肝細胞癌への進展予測マーカー - Google Patents

肝細胞癌への進展予測マーカー Download PDF

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Abstract

【課題】肝細胞癌(hepatocellular carcinoma、HCC)発症に関連するマーカー遺伝子多型、並びにそれを利用したHCC発症リスクの予測方法およびそのための試薬の提供。
【解決手段】特定の塩基配列で表されるDEP Domain Containing 5(DEPDC5)の特定遺伝子領域に存在する遺伝子多型において、各マイナー対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドを含んでなる、HCC発症リスクの予測用試薬。
【選択図】なし

Description

本発明は、肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症に関連するマーカー遺伝子に関する。
肝細胞癌 (HCC) は世界において、罹患者数が極めて多く、死亡率も高い癌種である。我が国においても、肝細胞癌は重要な位置を占めており、肝細胞癌による死亡者数は年間3万人を超えている。多くのHCCは、B型肝炎ウイルス (hepatitis B virus: HBV) やC型肝炎ウイルス (hepatitis C virus: HCV) といった肝炎ウイルスの持続感染に起因するものであり、我が国においてはHCC患者の実に約9割が肝炎ウイルス感染者であり、中でもHCV関連のHCCが全体の7割以上を占めている。
このため、HCV感染はHCCの最も重要な原因と考えられている。更に、HCV感染が慢性化して慢性肝炎から肝硬変へと線維化が進行することでHCC発症のリスクが顕著に高まることが知られている。その他にも、男性や高齢であることなどが臨床疫学的に肝発癌リスクを上昇させることが報告されている。
しかし、同じ年齢、性別のHCV感染患者であり、肝線維化のレベルが同程度であっても、肝細胞癌を発症する症例と発症しない症例が存在する。
現在、C型慢性肝炎患者に対しては、肝癌診療ガイドラインで肝線維化の進行度などを発癌リスクの指標として、癌の早期発見のためのサーベイランスアルゴリズムが提唱されているが、更に発癌リスクの評価の確度を挙げるための指標が求められている。
近年、病気の原因遺伝子を解析する方法として、ゲノムワイド関連解析 (Genome Wide Association Study (GWAS)) が行われるようになった。GWASとは、ヒトゲノム中に存在するSNPs (一塩基多型) を指標として用いて、特定の疾患に罹患した患者各個体が全ゲノム中にどのようなSNPsを有するかを網羅的に解析することにより、当該疾患に関連する遺伝子 (マーカー遺伝子) を同定する手法である。すなわち、患者と健常者のSNPsの頻度に有意差が見出された場合、当該SNPsの近傍にコードされる遺伝子が、当該疾患のマーカー遺伝子の候補と考えられる。HCCに関しては、HBVに起因するHCCに関するGWAS (非特許文献1を参照)、C型慢性肝炎患者におけるPEG-インターフェロン及びリバビリン併用療法の治療効果に関するGWAS (非特許文献2、3及び4)、HCVの自然排除に関連するGWAS (非特許文献5)、C型慢性肝炎患者におけるPEG-インターフェロン及びリバビリン併用療法による副作用としての貧血に関するGWAS (非特許文献6及び7)、B型慢性肝炎に関するGWAS (非特許文献8) 等が報告されている。
しかしながら、依然としてHCV感染患者における肝細胞癌発症の分子機構は明らかとなっていない。
一方、アストロサイトの腫瘍において、第22番染色体に異常があることが多数報告されており、異常が生じている領域や、がん遺伝子を正確にマッピングするためにtile pathアレイという特殊なDNAアレイが作成された (非特許文献9)。これを用いて幾つかのアストロサイト腫瘍が検討されており、第22番染色体上に多数の重複や欠失が認められた。非特許文献9には、欠失が検出された遺伝子の一つとしてDEPDC5が挙げられているが、肝臓癌又は肝炎ウイルスとの関係については全く記載されていない。
DEP Domain Containing 5 (DEPDC5) は、「human clone KIAA0645」としてそのcDNA配列及びコードするアミノ酸配列が報告された遺伝子であるが (非特許文献10)、その機能は未知である。また、非特許文献10には、DEPDC5の悪性腫瘍との関連について、脳の神経膠芽腫 (glioblastoma) のごく少数例において同遺伝子を含む領域に欠失が認められたことが報告されている。また、特許文献1には、肝臓腫瘍組織において同定されたcDNA約50個及び肺腫瘍組織において同定されたcDNA約40個が開示されており、DEPDC5は肺腫瘍組織において高発現している遺伝子として挙げられている。
しかしながら、DEPDC5と肝細胞癌又はHCV感染の関係は全く知られていなかった。
国際公開第2004/060270号パンフレット
Zang Hら著、Nat Genet 2010; 42: 755-8. Ge DL, Fellay J, Thompson AJら著、Nature 2009; 461: 399-401. Suppiah V, Moldovan M, Ahlenstiel Gら著、Nat Genet 2009; 41: 1100-4. Tanaka Y, Nishida N, Sugiyama Mら著、Nat Genet 2009; 41: 1105-9. Thomas DL, Thio CL, Martin MPら著、Nature 2009; 461: 798-801. Fellay Jら著、Nature 2010; 464: 405-8. Ochi Hら著、Gastroenterology 2010; 139: 1190-7. Kamatani Yら著、Nat Genet 2009; 41: 591-5. Seng TJ, et alら著、Genes Chromosomes Cancer 2005; 43: 181-93. K. Ishikawaら著、DNA Research 1998; 5(3): 169-76.
本発明が解決しようとする課題は、肝細胞癌 (HCC) 発症に関連するマーカー遺伝子を提供することにある。
本願発明者らは、HCV感染患者における肝細胞癌 (HCC) 発症の遺伝的背景を検討し、HCC発症に関連する遺伝子の同定を目的に、ゲノムワイド関連解析 (Genome Wide Association Study: GWAS) を行った。
まず、HCVに感染しており肝細胞癌を発症した群と、発症していない群とで、それぞれの患者がどのようなSNPを持つかを検討した。すなわち、C型慢性肝炎患者 (日本人) のうち、HCCを発症した群 (Case): 212例と発症していない群 (Control): 765例について、オリゴヌクレオチドが担持されているシリカゲルビーズ (Illumina HumanHap 610) を用いてゲノム全域の約50万個の一塩基多型 (Single Nucleotide polymorphism: SNP) をスクリーニングした。得られたタイピングデータのクオリティーコントロール後に、各SNPの効果をadditive modelと想定したカイ2乗検定により両群間での比較を行った。その結果、第22番染色体に位置するDEPDC5遺伝子上のSNP (rs1012068) がBonferroni補正後の有意水準を満たすマーカーとして同定された (P = 7.93 x 10-8, OR = 2.20, 95%CI = 1.64-2.97)。さらに独立したCase: 710例とControl: 1625例について、インベーダーアッセイ (Invader assay) による再現性確認試験 (Replication study) を行ったところ、再現性が確認された (P = 2.39 x 10-8, OR = 1.63, 95%CI = 1.37-1.93)。
GWASとReplication studyの結果を合わせると、Pcombine = 1.27 x 10-13 (OR = 1.75,95%CI = 1.51-2.03) となった。
以上のことから、肝細胞癌発症群ではDEPDC5上のSNP rs1012068のマイナー対立遺伝子を高頻度に持つことが示された。
次いで、HCC発症と関連の強い領域をさらに明確にするために目印 (landmark) となったマーカーSNP (rs1012068) を中心とし、DEPDC5遺伝子全域のみならず上流および下流の各遺伝子 (C22orf30、YWHAH) まで含めた22q12.2-3内350 kbの領域について、GWASに使用したサンプルセットを用いて、詳細なSNP解析 (Fine Mapping) を行った。Fine MappingでSNPタイピングを行った43のtag-SNP (MAF > 0.05、r2 > 0.8) については、いずれもrs1012068より強い関連を示すSNPはなく、また、このlandmark SNPを含むLD block (連鎖不平衡が強く残っている領域) はDEPDC5遺伝子(isoform 1) 上に限局しており、両隣の遺伝子とは独立していた。さらに、DEPDC5遺伝子の機能に影響するような未知のアミノ酸置換を生じるSNP (coding SNP: cSNP) が存在する可能性を想定し、同遺伝子の全42のexon領域について48症例分のサンプルを用いて直接シークエンス法 (direct sequence法) で再度配列解析 (re-sequencing) を行ったが、結果的に強い関連を示す新規のSNPは検出されなかった。また、landmark SNPを含む約38kbのLD blockの範囲についても同様の解析を行ったが、新規のSNPは検出されなかった。
最終的に、landmark SNP (rs1012068) は機能性SNP候補の一つであり、このSNPを含むDEPDC5遺伝子上のlocusがC型慢性肝炎患者におけるHCC発症と関連していると結論付けた。すなわち、HCC発症に関連する遺伝子座 (locus) が、DEPDC5遺伝子上に存在していることを見出した。
本発明は上記の知見をもとに完成するに至ったものである。
即ち本発明は、
〔1〕 DEP Domain Containing 5(DEPDC5)遺伝子領域に存在する遺伝子多型であって、
A)配列番号:1で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(T>G);
B)配列番号:2で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(T>C);及び/又は
C)配列番号:3で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(G>C)
(但し、カッコ内はメジャー対立遺伝子>マイナー対立遺伝子を示す。)
の遺伝子多型において、各マイナー対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドを含んでなる、肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクの予測用試薬;
〔2〕 メジャー対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドをさらに含む、上記〔1〕に記載の試薬;
〔3〕 対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドが、配列番号:1〜3で表わされる各塩基配列において該対立遺伝子を含む10〜200の連続した塩基配列もしくはその相補鎖配列からなるDEPDC5の遺伝子断片と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るプローブ、および/または該遺伝子断片を増幅し得るプライマーである、上記〔1〕または〔2〕に記載の試薬;
〔4〕 DEPDC5の遺伝子断片が10〜50の連続した塩基配列からなる、上記〔3〕に記載の試薬;
〔5〕 DEPDC5の遺伝子断片が15〜30の連続した塩基配列からなる、上記〔3〕に記載の試薬;
〔6〕 HCV感染者に対して、肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクの有無を予測するために用いられる、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の試薬;
〔7〕 HCV感染患者が東アジア人である、上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の試薬;
〔8〕 (1)被験者由来の遺伝子サンプルを使用し、DEP Domain Containing 5(DEPDC5)遺伝子領域に存在する遺伝子多型であって、
A)配列番号:1で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(T>G);
B)配列番号:2で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(T>C);及び/又は
C)配列番号:3で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(G>C)
(但し、括弧内はメジャー対立遺伝子>マイナー対立遺伝子を示す。)
の遺伝子多型を試験する工程、および
(2)(1)の試験の結果、マイナー対立遺伝子の存在が認められた場合、該被験者は、マイナー対立遺伝子を有しない者に比べて肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクが高いと判断する工程
を含む、HCV感染者の肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクの予測方法;
〔9〕 遺伝子サンプルが、ゲノムDNAを含む、上記〔8〕に記載の予測方法;並びに
〔10〕 被験者が、東アジア人である、上記〔8〕又は〔9〕に記載の予測方法;
に関する。
本発明により、HCV感染者の肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクの予測を行うためのマーカーを提供することが可能になった。すなわち本発明により、将来の発癌リスクを勘案して治療介入を検討するという意味においては、遺伝子背景の違いまで含めた個々の患者の多様性を考慮したオーダーメイド医療の一翼を担うことが可能となる。
第22番染色体のDEPDC5遺伝子とその周辺領域 (22q12.2-3) のゲノム構造 (中段)、並びに当該領域における症例−対照相関解析結果のプロット (上段) 及び連鎖不平衡地図 (下段) を示す図である。第22番染色体上の位置30.39-30.74 Mbの領域 (2本の破線に挟まれた区間) について詳細なSNP解析 (Fine Mapping) を行った。上図のドットはゲノムワイド関連解析 (GWAS) 及びGWASサンプルを用いたFine Mappingにより得られた各SNPの-log10(P値)をまとめて表示している。GWASサンプルにおける症例群(Case)及び対照群(Control)のジェノタイプデータを用いて、D’値に基づく連鎖不平衡地図を作成した。landmark SNP (rs1012068) は一点鎖線で示している。 図1と同様、第22番染色体のDEPDC5遺伝子とその周辺領域 (22q12.2-3) のゲノム構造 (中段)、並びに当該領域における症例-対照相関解析結果のプロット (上段) 及び連鎖不平衡地図 (下段) を示す図である。
以下に本発明を詳細に説明する。
本明細書において、DEPDC5は公知のタンパク質であり、ヒトDEPDC5はGenbank Accession No.: NP_055477.1等として知られている、配列番号:5で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、すなわちDEP domain containing 5 variant 1又はこれと実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。本明細書において、タンパク質およびペプチドは、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端 (アミノ末端)、右端がC末端 (カルボキシル末端) で記載される。
本明細書において、DEPDC5は配列番号:5で表されるDEPDC5 Variant 1と約98%以上、好ましくは約99%以上の相同性を有するヒトアイソフォームも含む概念であり、ヒトアイソフォームとしては、Variant 2 (Genbank Accession No.: NP_001007189.1; 配列番号:7)、Variant 3 (Genbank Accession No.: NP_001129501.1; 配列番号:9) 等が知られている。
「配列番号:5で表されるアミノ酸配列またはこれと実質的に同一のアミノ酸配列」としては、以下の(a)〜(c)が挙げられる:
(a)配列番号:5、7または9で示されるアミノ酸配列;
(b)配列番号:5、7または9で表されるアミノ酸配列からなるヒトタンパク質のスプライスバリアントのアミノ酸配列;および
(c)(a)または(b)のアレル変異体もしくは多型バリアント〔例えば一塩基多型(SNPs)〕(本明細書ではマイナー対立遺伝子頻度が1%以上のものを多型バリアント、1%未満のものをアレル変異体と定義する) におけるアミノ酸配列。
「配列番号:5、7または9で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質」は、配列番号:5、7または9で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、かつ配列番号:5、7または9で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と実質的に同質の機能を有するタンパク質である。
ここで「実質的に同質の機能」とは、例えば生理学的に、あるいは薬理学的にみて、その性質が定性的に同じであることを意味し、機能の程度(例、約0.1〜約10倍、好ましくは0.5〜2倍)や、タンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。尚、現時点でDEPDC5の生体内での役割は未知であるが、タンパク質はその特異な立体構造に基づいて機能を発揮することから、ヒトDEPDC5タンパク質、すなわち配列番号:5、7または9で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質に特異的に結合する抗体により認識され得るタンパク質を、「実質的に同質の機能を有するタンパク質」と見なすことができる。
「DEPDC5をコードする遺伝子(DEPDC5遺伝子)」は、上記(a)〜(c)で示される、配列番号:5、7または9で表されるアミノ酸配列またはこれと実質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を表す。
ヒトDEPDC5遺伝子としては、配列番号:4(Genbank Accession No.:NM_014662.2)で表される、DEPDC5 Variant 1のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、配列番号:6(Genbank Accession No.:NM_001007188.1)で表される、DEPDC5 Variant 2のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、配列番号:8(GenBank Accession Number: NM_001136029.1)で表される、DEPDC5 Variant 3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含むヒトDEPDC5遺伝子等が挙げられる。また、DEPDC5遺伝子は、それらのスプライスバリアント、アレル変異体、多型バリアント等も含む概念である。アレル変異体または多型バリアントにおける変異または多型は、結果としてDEPDC5タンパク質のアミノ酸配列に改変をもたらすものであってもよいし、そうでなくてもよい。
ここで「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAを共に含む概念である。ここで「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖(正鎖とも言う)およびアンチセンス鎖(相補鎖または逆鎖とも言う)といった各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。
ここでアンチセンス鎖(相補鎖、逆鎖)とは、正鎖に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味するものである。
なお、遺伝子またはDNAは、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エクソン、またはイントロンを含むことができる。
また、「RNA」とは、1本鎖RNAのみならず、それに相補的な配列を有する1本鎖RNA、さらにはそれらから構成される2本鎖RNAを包含する趣旨で用いられる。
さらに、DNAとRNAとのキメラ分子やDNA:RNAハイブリッドもまた、本明細書におけるポリヌクレオチドに包含される。
具体的には、以下の(d)〜(g):
(d)配列番号:4、6または8で示される塩基配列;
(e)配列番号:4、6または8で示される塩基配列を含むヒトmRNAのスプライシングバリアントの塩基配列;
(f)配列番号:4、6または8で示される塩基配列を構成する各エクソン領域が包含される、ヒト第22番染色体上の塩基配列;および
(g)(d)〜(f)のアレル変異体もしくは多型バリアント〔例えば一塩基多型(SNPs)〕における塩基配列;
を有する遺伝子が挙げられる。
尚、ここで遺伝子とは、cDNAもしくはゲノムDNA等のDNA、またはmRNA等のRNAのいずれでもよく、また一本鎖の核酸配列および二本鎖の核酸配列を共に含む概念である。また、本明細書において、配列番号:4、6または8等に示される核酸配列は、便宜的にDNA配列であるが、mRNAなどRNA配列を示す場合には、チミン(T)をウラシル(U)として解する。
I.本発明のマーカー多型およびその検出用試薬
本発明の第一の態様は、上述の〔1〕〜〔7〕に記載の肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクの診断又は予測用試薬に関する。すなわち、上記〔1〕に記載の、第22番染色体に位置するDEP Domain Containing 5(DEPDC5)遺伝子領域に存在する、A) 配列番号:1で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(SNP)と、B) 配列番号:2で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(SNP)とは、互いに連鎖不平衡となる多型であり、本発明のマーカー多型として有用である。ここで「連鎖不平衡」とは、連鎖不平衡係数r2が0.64以上、好ましくは0.8以上の連鎖不平衡状態にある多型である。「連鎖不平衡係数r2」は、2つの遺伝子多型について第一の多型の各対立遺伝子を(A, a)、第二の多型の各対立遺伝子を(B, b)とし、4つのハプロタイプ(AB, Ab, aB, ab)の各頻度をPAB, PAb, PaB, Pabとすると、下記式により得られる。
r2=(PABPab−PAbPaB)2/(PAB+PaB)(PaB+Pab)(PAB+PAb)(PAb+Pab)
また上記遺伝子多型と連鎖不平衡となるその他の既知多型についても、例えば、HapMapデータベース (http://www.hapmap.org/index.html.ja) 等を用いて同定することができる。本明細書において「(遺伝子)多型」とは、ゲノムDNA上の1または複数の塩基の変化(置換、欠失、挿入、転位、逆位等)であって、その変化が集団内に1%以上の頻度で存在するものをいい、例えば、1個の塩基が他の塩基に置換されたもの(SNP)、1〜数十塩基が欠失もしくは挿入されたもの(DIP)、2〜数十塩基を1単位とする配列が繰り返し存在する部位においてその繰り返し回数が異なるもの(繰り返し単位が2〜4塩基のものをマイクロサテライト多型、数〜数十塩基のものをvariable number of tandem repeat (VNTR)という)等が挙げられるが、好ましくはSNPもしくはDIPである。
「対立遺伝子」とは、染色体上の同一の遺伝子座(座位)を占めることができる遺伝構成要素が複数存在する場合、その一つの型と定義される。
機能単位としての遺伝子を必ず含む概念ではなく、SNPなどの遺伝子多型についても同一遺伝子座に複数の塩基(配列)が存在する場合もある。すなわち、両親由来の1対の相同な染色体において相同な遺伝子座に位置する複数種の遺伝子や塩基を示し、本明細書の場合は相同な遺伝子座に位置するSNPなどの遺伝子多型を示す。例を挙げて説明すると、ある遺伝子座について父親由来の染色体ではA、母親由来の染色体ではGの場合、それぞれA対立遺伝子、G対立遺伝子という概念をしめす。英語表記はA allele、G alleleとなる。
本明細書において、「メジャー対立遺伝子(major allele)」とは、該当する遺伝子座で、遺伝子多型が存在する場合に高頻度で出現する方の塩基(配列)を表す。例えば、父親由来の染色体ではA、母親由来の染色体ではGのSNPを想定した場合、A対立遺伝子の頻度が80%、G対立遺伝子の頻度が20%の場合、50%を超える頻度を示すAのSNPをメジャー対立遺伝子と言う。一方、該当する遺伝子座で、遺伝子多型が存在する場合に低頻度で出現する方の塩基(配列)(上記の例においては、GのSNP)をマイナー対立遺伝子と言う。
本発明において、〔1〕のA)に記載のマーカー多型は、配列番号:1で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型であり、NCBI [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/]が提供するSNPデータベースdbSNP [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/] でのID番号:rs1012068で示されるSNPである。当該多型は、DEPDC5遺伝子の領域を含むゲノム配列NT_011520.12においてcontig番号11656472に相当する塩基がT>G(メジャー対立遺伝子>マイナー対立遺伝子で示す。以下同じ)である遺伝子多型(SNP)である。配列番号:1で表わされる塩基配列は、上記SNPの前後500bpのヒト第22番染色体のゲノム配列(NT_011520.12においてcontig番号11655972-11656972に相当する塩基配列)を示す。
本発明において、〔1〕のB)に記載のマーカー多型は、配列番号:2で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型であり、NCBI [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/]が提供するSNPデータベースdbSNP [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/] でのID番号:rs5998152で示されるSNPである。当該多型は、DECDC5の遺伝子の領域を含むゲノム配列NT_011520.12においてcontig番号11653731に相当する塩基がT>Cである遺伝子多型(SNP)である。配列番号:2で表わされる塩基配列は、上記SNPの前後500bpのヒト第22番染色体のゲノム配列(NT_011520.12においてcontig番号11653231-11654231に相当する塩基配列)を示す。
本発明において、〔1〕のC)に記載のマーカー多型は、配列番号:3で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型であり、NCBI [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/]が提供するSNPデータベースdbSNP [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/] でのID番号:rs5998140で示されるSNPである。当該多型は、DECDC5の遺伝子の領域を含むゲノム配列NT_011520.12においてcontig番号11632516に相当する塩基がG>Cである遺伝子多型(SNP)である。配列番号:3で表わされる塩基配列は、上記SNPの前後500bpのヒト第22番染色体のゲノム配列(NT_011520.12においてcontig番号11632016-11633016に相当する塩基配列)を示す。
本発明は、上記マーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドを提供する。このようなポリヌクレオチドはマーカー多型の検出用試薬として有用である。さらに本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドは、被験者の肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクを診断又は予測するために有用である。ここで被験者は好ましくはHCV感染者である。HCV感染患者において、本発明のマーカー多型におけるマイナー対立遺伝子の頻度は、肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC)を発症した群で有意に高いことが示された。従って、被験者が、本発明のマーカー多型においてマイナー対立遺伝子を有するか否かを試験することにより、該被験者が肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) を発症するリスクが高いか否かを予測することができる。したがって、本発明の肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクの診断又は予測用試薬は、本発明のマーカー多型において、少なくともマイナー対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドを含有するものである。即ち、上記〔1〕のA)のマーカー多型にあっては、配列番号:1で表わされる塩基配列中第501番目の塩基を含む、連続した10〜200塩基の配列またはその相補鎖配列であって、当該塩基がG(相補鎖配列にあってはC)である配列の存在を検出し得るものであり、上記〔1〕のB)のマーカー多型にあっては、配列番号:2で表わされる塩基配列中第501番目の塩基を含む、連続した10〜200塩基の配列またはその相補鎖配列であって、当該塩基がC(相補鎖配列にあってはG)である配列の存在を検出し得るものであり、上記〔1〕のC)のマーカー多型にあっては、配列番号:3で表わされる塩基配列中第501番目の塩基を含む、連続した10〜200塩基の配列またはその相補鎖配列であって、当該塩基がC(相補鎖配列にあってはG)である配列の存在を検出し得るものである。
具体的には、本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドは、Taqmanプローブ法、Invaderプローブ法(Third Wave社)、GENECHIP SNP ARRAY (AFFYMETRIX社)やBeadchip(ILLUMINA社)など遺伝子チップを用いたSNPタイピング法、ダイレクトシークエンス法、SSCP法 (single-stranded conformational polymorphism analysis) 、ASP-PCR法(allele-specific primer PCR analysis) などといった公知の遺伝子解析方法におけるプライマーまたはプローブとして用いられる。すなわち、プライマーであれば、本発明のマーカー多型部位を含むヒトDEPDC5遺伝子断片を増幅し得る1対のポリヌクレオチドであり、プローブであれば、当該多型部位を含むヒトDEPDC5遺伝子領域とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドである。ストリンジェントな条件とは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, 6.3.1-6.3.6, 1999に記載される条件、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1%SDS/50〜65℃での一回以上の洗浄等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドの長さは、当該多型部位を含む10〜200の連続した塩基配列を有するヒトDEPDC5遺伝子断片を検出し得るものであれば特に制限はなく、具体的には該ポリヌクレオチドの用途に応じて、長さを適宜選択し設定することができる。
本発明のポリヌクレオチドをプライマーとして用いる場合には、10bp〜200bp、好ましくは15bp〜50bp、より好ましくは15bp〜35bpの塩基長を有するものが例示できる。また検出プローブとして用いる場合には、10bp〜200bp、好ましくは10bp〜50bp、より好ましくは15bp〜30bpの塩基長を有するものが例示できる。
本発明のマーカー多型において、マイナー対立遺伝子は肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC)発症のハイリスク対立遺伝子であるのに対し、メジャー対立遺伝子はローリスク対立遺伝子である。すなわち、被験者がメジャー対立遺伝子のホモ接合型である遺伝子型を有する場合、ヘテロ接合型やマイナー対立遺伝子のホモ接合型と比較して、肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症へ至らない頻度が顕著に高い。したがって、本発明の肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクの診断もしくは予測用試薬は、本発明のマーカー多型において、メジャー対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドをさらに含有していることが望ましい。かかるポリヌクレオチドは、上記〔1〕のA)のマーカー多型にあっては、配列番号:1で表わされる塩基配列中第501番目の塩基を含む、連続した10〜200塩基の配列またはその相補鎖配列であって、当該塩基がT(相補鎖配列にあってはA)である配列の存在を検出し得るものであり、上記〔1〕のB)のマーカー多型にあっては、配列番号:2で表わされる塩基配列中第501番目の塩基を含む、連続した10〜200塩基の配列またはその相補鎖配列であって、当該塩基がT(相補鎖配列にあってはA)である配列の存在を検出し得るものであり、上記〔1〕のC)のマーカー多型にあっては、配列番号:3で表わされる塩基配列中第501番目の塩基を含む、連続した10〜200塩基の配列またはその相補鎖配列であって、当該塩基がG(相補鎖配列にあってはC)である配列の存在を検出し得るものである。
本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドがプローブとして用いられる場合、該プローブは多型性の検出に適した付加的配列(ゲノムDNAと相補的でない配列)を含んでいてもよい。例えば、Invaderプローブ法に用いられるアレルプローブは、多型部位の塩基の5’末端にフラップと呼ばれる付加的配列を有する。
また、該プローブは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート、Cy3、Cy5等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。あるいは、蛍光物質(例:FAM、VIC等)の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。かかる実施態様においては、検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドがプライマーとして用いられる場合、該プライマーは、多型性の検出に適した付加的配列(ゲノムDNAと相補的でない配列)、例えばリンカー配列を含んでいてもよい。
また、該プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート、Cy3、Cy5等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。
上記核酸プローブおよび/またはプライマーは、各々別個に(あるいは可能であれば混合した状態で)水もしくは適当な緩衝液(例:TEバッファーなど)中に適当な濃度(例:2×〜20×の濃度で1〜50μMなど)となるように溶解し、約-20℃で保存することができる。
本発明の肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクの診断もしくは予測用試薬は、多型検出法に応じて、当該方法の実施に必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。例えば、該試薬がTaqMan PCR法による多型検出用である場合には、該試薬は、10×PCR反応緩衝液、10×MgCl2水溶液、10×dNTPs水溶液、Taq DNAポリメラーゼ(5U/μL)等をさらに含むことができる。
II.肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC)発症リスクの予測方法
本発明はまた、被験者が肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC)発症のリスクを、当該被験者の遺伝子型を調べることによって予測する、上記〔8〕〜〔10〕に記載の予測方法を包含する。
ここで測定対象試料となる被験者由来の遺伝子サンプルは、被験者(患者等)の遺伝子、すなわちゲノムDNAおよびRNAを含む生体試料であれば特に限定はなく、使用する検出方法の種類に応じて適宜選択することができる(但し、RNAもしくはそれに由来するポリヌクレオチド(例、cDNA)を遺伝子サンプルとする場合、検出すべきマーカー多型としては、ヒトDEPDC5遺伝子のエクソン部分に存在するものが選択される)。上記〔1〕のA)、B)およびC)のマーカー多型を検出する場合、これらの多型はいずれもDEPDC5 variant 1およびvariant 3遺伝子のイントロン(A)、B)は第32イントロン、C)は第30イントロン)内に存在するため、遺伝子サンプルはゲノムDNAを含む生体試料であることが望ましい。
該試料は、例えば、被験者の生体組織、具体的には、血液、肝生検、頬粘膜などを採取し、そこから常法に従って調製したゲノムDNAまたはtotal RNAを用いてもよいし、さらに該RNAをもとにして調製される各種のポリヌクレオチドを用いてもよい。被験者由来サンプルからのゲノムDNAおよびRNAの調製は、当業者に周知の任意の方法を用いればよい。
被験者としては、例えばHCV感染者が挙げられる。
また、被験者の人種は特に限定されないが、好ましくは東アジア人、更に好ましくは日本人である。更に好ましくは、日本人男性である。
具体的には、上述の本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドを、常法に従ってプライマーまたはプローブとして利用し、Taqmanプローブ法、Invaderプローブ法(Third Wave Technologies社)、GENECHIP SNP ARRAY (AFFYMETRIX社)やBeadchip (ILLUMINA社)など遺伝子チップを用いたSNPタイピング法、ダイレクトシークエンス法、SSCP法 (single-stranded conformational polymorphism analysis)、ASP-PCR法 (allele-specific primer PCR analysis)、などといった、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法で試験すればよい。
例えば、Taqmanプローブ法およびInvaderプローブ法を用い、
A) 配列番号:1で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(T>G);
B) 配列番号:2で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(T>C);および
C) 配列番号:3で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(G>C)
(但し、括弧内はメジャー対立遺伝子>マイナー対立遺伝子を示す。)
から選択される遺伝子多型の当該多型部位を含むヒトDEPDC5遺伝子断片が特異的に生成されることを確認することができる。Taqmanプローブ法を利用してSNP遺伝子型を予測する方法は当業者に周知であり、例えばApplied Biosystems社が市販するTaqMan(登録商標)SNP Genotyping Assays試薬を用い、SNP領域を検出するPCRプライマーおよびSNP対立遺伝子を識別する蛍光標識されたTaqManプローブおよび被験者の遺伝子サンプル由来のゲノムDNAを混合して、キットの添付文書に従って反応させ、蛍光シグナルを解析することにより、サンプル中に含まれるSNP対立遺伝子の遺伝子型を検出する方法を例示することができる(Nat Genet 2003; 34: 395-402)。
また、Invaderプローブを用いてSNP遺伝子型を同定する方法も当業者に周知であり、Third Wave Technologies社が市販するSNP対立遺伝子を識別するInvaderプローブおよび反応試薬を混合し、被験者の遺伝子サンプル由来のゲノムDNAを鋳型としてkit推奨の方法に従い反応させ、汎用の蛍光プレートリーダーで蛍光シグナルを検出することにより、サンプル中に含まれるSNP対立遺伝子の遺伝子型を検出する方法を例示することができる(J Hum Genet 2001; 46: 471-477)。
ノーザンブロット法を利用する場合、上述の〔1〕に記載のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドをプローブとして用いればよい。具体的には、前記プローブを放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された前記プローブ(DNAまたはRNA)とRNAとの二重鎖を、前記プローブの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルとして放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従って前記プローブを標識し、細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、前記プローブの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
また、被験者の遺伝子型は、GENECHIP SNP ARRAY (AFFYMETRIX社)やBeadchip (ILLUMINA社)など遺伝子チップを利用して検出することもでき、本発明のマーカー多型を検出し得るポリヌクレオチドの配列を含む10-100bpまでの任意の長さのポリヌクレオチドをプローブとして用いることが可能である。GENECHIP SNP ARRAY (AFFYMETRIX社)やBeadchip (ILLUMINA社)を用いた方法は当業者に周知であり、AFFYMETRIX社およびILLUMINA社からのkit推奨の方法に従い、本発明のポリヌクレオチドをプローブに含むDNAチップを、被験者由来の遺伝子サンプルとハイブリダイズさせることにより、サンプル中に含まれるSNP対立遺伝子の遺伝子型を検出する方法を例示することができる。
「肝細胞癌」への罹患は、CT(Computed Tomography)、MRI(magnetic resonance imaging)、アンジオグラフィー(Angiography)、CT angiography等の画像診断によって診断される。また、患者血清中の、アルファフェトプロテイン(AFP;alpha-fetoprotein)又はPIVKA-II (protein induced in the absence of vitamin K or antagonist II) 等のHCC関連腫瘍マーカーの検出、または腫瘍由来組織の生検によって診断することもできる。「肝細胞癌」への罹患には、例えばHCV感染が慢性化して慢性肝炎から肝硬変へと線維化が進行し肝細胞癌を発症するといった、いわゆる肝細胞癌への進展による罹患も含まれ、また、本発明の好適な診断・予測対象となる。
「肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症のリスクが高い」とは、具体的には、上記の通常の診断方法によってHCCに罹患していないと診断される状態の、ある対立遺伝子を保有する被験者が、当該対立遺伝子を保有しない者に比べて、将来的に肝細胞癌に罹患する可能性が高いことを意味する。
被験者由来の遺伝子サンプルにおいて、上述の遺伝子多型について試験した結果、被験者がマイナー対立遺伝子を有する場合、該被験者は肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症のリスクが高いと予測することができる。より好ましくは、上述の遺伝子多型について試験した結果、メジャー対立遺伝子をホモにもつ場合、肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症のリスクが低く、ヘテロ接合型の場合、メジャー対立遺伝子をホモにもつ場合に比べて肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症のリスクが高く、マイナー対立遺伝子をホモにもつ場合、肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症のリスクがさらに高いと予測することができる。
肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症のリスクが高いと予測された患者は、特にHCCの予防的治療を開始することが期待され得る。具体的な予防的治療としては、インターフェロン、好ましくはインターフェロンαを少量で長期間投与する治療や、グリチルリチン・グリシン・システイン配合剤、ウルソデオキシコール酸等の肝庇護剤や瀉血療法で炎症を抑えることによりトランスアミナーゼ(AST, ALT)値を低く保つ治療等が挙げられる。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕HCV慢性感染における肝細胞癌(HCC)発症と相関するSNPの探索
(1)サンプル
GWAS試験(ゲノムワイド関連解析 genome-wide association study)には、虎ノ門病院肝臓センター、広島大学病院及び広島大学医学部関連病院で慢性HCV感染と診断された患者977例の患者(55歳以上の日本人)由来の血液サンプル(末梢血の白血球)を用いた。全ての患者は血清中のアラニントランスアミナーゼレベルが6ヶ月以上に渡って異常値を示しており、抗HCV抗体と血清中のHCV RNAが陽性であった。全ての患者はB型肝炎表面抗原が陰性であり、その他の肝臓疾患の兆候は認められなかった。また、全ての患者は本試験への登録前に免疫抑制的な治療は受けていなかった。
これらの患者のうち、212例は肝細胞癌に進展し(症例群(Case))、残りの765例は肝細胞癌を発症しなかった(対照群(Control))。肝細胞癌の診断は多血性に基づいて行い、αフェトプロテインやPIVKA-II(protein induced in the absence of vitamin K or antagonist II)などの肝細胞癌関連腫瘍マーカーの血清レベルが増大するか、あるいは超音波診断で腫瘤性病変が検出された場合に、ダイナミックコンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴造影法(MRI)、血管造影検査、CT血管造影検査などで確認した。結節が多血性であると証明されなかった場合には、超音波診断下での経皮的な組織生検を実施し、肝細胞癌の確定診断を行った。
年齢、性別、血小板数といった臨床情報は全ての患者について利用可能であった。症例群については、最初の肝細胞癌の診断時の年齢、血小板数を本試験における臨床情報として採用された。
独立した再現性確認試験でも、ゲノムワイド関連解析の場合と同じ基準で被験者集団を選択し、710例の症例群と1625例の対照群を用いた。再現性確認試験の患者には上記の病院に加え、札幌厚生病院で慢性HCV感染と診断された患者を含んでいる。本試験に採用した患者の特徴を表1に示した。
GWAS試験および再現性確認試験に参加した全ての患者は、当該試験についての詳細な説明を受け、書面でのインフォームドコンセントに署名した。これらの試験は参加した各医療センターならびに理化学研究所ゲノム医科学研究センターの倫理委員会の承認を得ている。
(2)遺伝子多型ジェノタイピング
ゲノムDNAは標準的な手法を用いて末梢血白血球から抽出した。ゲノムワイド関連解析では、慢性HCV感染の日本人患者981例中、コールレート98%未満の2例と近い血縁関係もしくはサンプルの重複と判断された別の2例とを除いた977例(症例群212例、対照群765例)について、HumanHap 610- QuadBeadChip (Illumina社) を用いてSNPの遺伝子型の判定を行った。常染色体上の467538のSNP(症例群、対照群双方でコールレート99%以上、マイナー対立遺伝子頻度(MAF)0.01以上、対照群においてHardy-Weinberg平衡にある (p≧1×10-6))が解析対象となった。
再現性確認試験(症例群710例、対照群1625例)においては、マルチプレックスPCRに基づいたインベーダーアッセイ(Third Wave Technologies社)を用いた(J. Hum. Genet. 46: 471-7 (2001))。
(3)統計解析
遺伝子型に基づく関連解析は、自由度1のコクラン・アーミテージ検定で行った。オッズ比(OR)および信頼区間(CI)は2×2アレル頻度テーブルから算出した。解析結果を統合評価するためにMantel-Haenszel検定を行った。試験間の不均一性テストはBreslow-Day検定を用いて行なった。一般的な統計解析にはR statistical environment version 2.11.1もしくはPLINK 1.03(J. Hum. Genet. 81: 559-75 (2007))を用いた。
ハプロタイプ解析、DEPDC5遺伝子内およびその周辺領域に存在するSNP間のLD値の解析並びに連鎖不平衡地図の作成には、Haploviewソフトウェア(Bioinformatics 21: 263-5 (2005))を用いた。
(4)結果
症例群212例と対照群765例において、Illumina チップ上の467538個のSNPを解析対象として、各SNPの遺伝子型と肝細胞癌への進展との関連性について解析した。Genomic control法を用いたinflation factorは1.00であり、患者のサブストラクチャーの効果は無視してよいことを示しているので、ゲノムワイド関連解析におけるジェノミックコントロールに対する補正は行なわなかった。
その結果、DEPDC5のアイソフォーム1をコードする、第22番染色体上のDEPDC5 variant 1遺伝子の第32イントロン内に存在するSNPであるrs1012068(T>G)が、HCV慢性感染からの肝細胞癌への進展と強い相関性があることが示された(P = 7.93 × 10-8、オッズ比(OR)2.20、95%信頼区間(CI)1.64- 2.97)。即ち、マイナー対立遺伝子頻度(MAF)は対照群で0.095であるのに対し、症例群では0.189と顕著に高かった(表2)。Bonferroni補正後も、SNP rs1012068はHCVに関連した肝細胞癌と統計学的に有意な相関性を示した (P < 0.05/467,538)。その他のSNPは統計学的に有意な相関を示さなかった。
症例群710例、対照群1625例を用いた再現性確認試験においても、SNP rs1012068は肝細胞癌と強く相関することが確認された(P = 2.39 × 10-8; オッズ比1.63)。マイナー対立遺伝子頻度は症例群で0.182、対照群で0.121であった(表2)。さらに、ゲノムワイド関連解析と再現性確認試験の結果をMantel-Haenszel検定で統合した場合も、rs1012068は肝細胞癌と強く相関することが確認された(P = 1.27 × 10-13、オッズ比1.75)。オッズ比は2つの試験間で同様な値であり、統計学的な不均一性は認められなかった。
年齢、性別とともに、肝線維化がHCVが関係する肝細胞癌の進展に強く影響することは周知である。また、血小板数がHCV患者の肝線維化のステージと有意に相関することが知られており、血小板数が10 × 104/μl未満であることが肝硬変のマーカーとして用いられている。そのため、これらの因子を調整した後に、上記SNPと肝細胞癌の相関性を再評価した。多重ロジスティック回帰分析を用いて年齢、性別、血小板数を調整すると、rs1012068はより高い有意な相関性を示した(P = 1.35 × 10-14; オッズ比1.96)(表3)。
rs1012068の肝細胞癌に対する影響を他の予測因子とは独立に調べるために、性別と血小板数を用いた層別解析を行なった(表4)。
興味深いことに、該SNPの肝細胞癌との関係は、男性におけるオッズ比1.99(95%信頼区間1.63-2.42)に対して女性におけるオッズ比は1.51(95%信頼区間1.18-1.93)と、男性においてより強かった。また、血小板数が低値の患者(< 10 x 104/μl)におけるオッズ比2.26(95%信頼区間1.67-3.31)に対して、血小板数10 x 104/μl以上の患者におけるオッズ比は1.71(95%信頼区間1.42-2.05)と、血小板数が低値の患者において該SNPの肝細胞癌との関係がより強かった。更に、血小板数が低値の男性におけるオッズ比2.54(95%信頼区間1.48-4.35)に対して、血小板数が高値の女性ではオッズ比は1.21(95%信頼区間0.84-1.74)であり、前者は後者の約2倍も該SNPの肝細胞癌との関係が強かった。
〔実施例2〕rs1012068の周辺領域の詳細な探索
(1)ファインマッピング
rs1012068の周囲の領域についてより詳細に探索するために、ゲノムワイド関連解析の患者サンプルにおいて、DEPDC5遺伝子座の上流、下流の染色体位置22q12.2から22q12.3におよぶ350kbを含む遺伝子領域(DEPDC5に隣接する遺伝子C22orf30とYWHAHを含む)をファインマッピングした(図1)。ゲノムワイド関連解析の全ての症例群サンプル、対照群サンプルを用いた。HapMap JPT dataに基づいて、landmark SNP(rs1012068)と連鎖不平衡(r2 > 0.8)の関係にある、マイナー対立遺伝子頻度(MAF)が0.05以上のタグSNP(43個)を、Haploviewソフトウェアを用いて選択し、LDブロック(連鎖不平衡地図)を作成した。さらに、実施例1の再現性確認試験と同様に、マルチプレックスPCRに基づいたインベーダーアッセイ(Third Wave Technologies社)により、患者サンプルにおける各SNPの遺伝子型を解析した。その結果、肝細胞癌への進展と強い相関を示す別のイントロンSNP rs5998152を同定した(図1)。このSNPはrs1012068の上流2.7kbに位置しており、rs1012068とは強い連鎖不平衡にあった(r2 = 0.99)。しかし、rs1012068以上に肝細胞癌への進展と強い相関を有するSNPは見出されなかった。
(2)再シーケンシング
rs1012068と高度に連鎖した機能的なコーディングSNPの存在を調べるために、HCV感染患者48例から得たジェノミックDNAを用いて、DEPDC5 variant 1遺伝子の42個のエクソンの配列を、直接シーケンシングにより調べた。その結果、dbSNPデータベースに登録されていない2つの新規なSNPが同定されたが、これらはいずれもマイナー対立遺伝子頻度(MAF)が低く(0.010)、rs1012068とは連鎖していなかった(r2 = 0.00)。更に、これらのSNPは肝細胞癌とは有意な相関性を示さなかった。landmark SNP(rs1012068)を含む約38kbのLD blockの範囲についても同様の解析を行ったところ、rs1012068の上流24kbのイントロン上にrs1012068と強い連鎖不平衡にある(r2 = 1)SNP rs5998140が同定された(図2)が、新規のSNPは同定されなかった。
また、肝細胞癌への感受性と高度に相関するようなSNPの組み合わせについて調べるためにハプロタイプ解析を行なったが、単一マーカーであるrs1012068以上に強い相関性を示すハプロタイプはなかった。
すなわち、SNP rs101268はHCVが関係する肝細胞癌と最も強い独立した相関性を持っていた。
DEPDC5又はDEPDC5遺伝子を検出するためのプローブもしくはプライマー等は、HCV感染者の肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC)発症リスクを予測するために有用である。

Claims (10)

  1. DEP Domain Containing 5(DEPDC5)遺伝子領域に存在する遺伝子多型であって、
    A)配列番号:1で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(T>G);
    B)配列番号:2で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(T>C);及び/又は
    C)配列番号:3で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(G>C)
    (但し、カッコ内はメジャー対立遺伝子>マイナー対立遺伝子を示す。)
    の遺伝子多型において、各マイナー対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドを含んでなる、肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクの予測用試薬。
  2. メジャー対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドをさらに含む、請求項1に記載の試薬。
  3. 対立遺伝子を検出し得るポリヌクレオチドが、配列番号:1〜3で表わされる各塩基配列において該対立遺伝子を含む10〜200の連続した塩基配列もしくはその相補鎖配列からなるDEPDC5の遺伝子断片と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るプローブ、および/または該遺伝子断片を増幅し得るプライマーである、請求項1または2に記載の試薬。
  4. DEPDC5の遺伝子断片が10〜50の連続した塩基配列からなる、請求項3に記載の試薬。
  5. DEPDC5の遺伝子断片が15〜30の連続した塩基配列からなる、請求項3に記載の試薬。
  6. HCV感染者に対して、肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクの有無を予測するために用いられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の試薬。
  7. HCV感染患者が東アジア人である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の試薬。
  8. (1)被験者由来の遺伝子サンプルを使用し、DEP Domain Containing 5(DEPDC5)遺伝子領域に存在する遺伝子多型であって、
    A)配列番号:1で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(T>G);
    B)配列番号:2で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(T>C);及び/又は
    C)配列番号:3で表わされる塩基配列中第501番目の塩基における遺伝子多型(G>C)
    (但し、括弧内はメジャー対立遺伝子>マイナー対立遺伝子を示す。)
    の遺伝子多型を試験する工程、および
    (2)(1)の試験の結果、マイナー対立遺伝子の存在が認められた場合、該被験者は、マイナー対立遺伝子を有しない者に比べて肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクが高いと判断する工程
    を含む、HCV感染者の肝細胞癌hepatocellular carcinoma (HCC) 発症リスクの予測方法。
  9. 遺伝子サンプルが、ゲノムDNAを含む、請求項8に記載の予測方法。
  10. 被験者が、東アジア人である、請求項8又は9に記載の予測方法。
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