JP2012173675A - レンズの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】紫外線が照射されることにより、レンズ内に異なる遮光率を形成するレンズを簡便かつ効率よく製造できるレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】
アイポイント11を含む高透光性領域12と、高透光性領域12の全周を囲むように設けられ、紫外線が照射されることにより遮光率が増加する低透光性領域14であって、高透光性領域12よりも遮光率の高い低透光性領域14とがレンズ基材表面に形成され、低透光性領域14は、周辺に向かって遮光率が変化する領域を含むレンズ10を製造する製造方法であって、フォトクロミック染料を含む組成物(A)と、フォトクロミック染料を含まない透明な組成物(B)とを、インクジェット方式によりレンズ基材表面に塗布する塗布工程と、塗布工程により形成された塗布層を乾燥することにより着色層として基材表面に定着させる定着工程とを備えることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、レンズの製造方法に関する。
サングラスを含む眼鏡は、視力の矯正および眼球の保護の目的で利用される。例えば、白内障などの障害がある場合、水晶体周辺部を通って眼底に達する光量を減らすことで、水晶体周辺部での光の乱反射を減らし、物を見え易くできる。したがって、白内障の場合には、眼鏡レンズ中央部の光の遮光率を低くし、その周辺部の光の遮光率を高くすることが有効であることが知られている(例えば、特許文献1)。
また、サングラスとしては、フォトクロミック性を有するレンズを使用し、日光など紫外線が含まれる屋外でレンズが速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明になり、通常の眼鏡として機能するものが知られている。
一方で、近年、サングラスを含む眼鏡には、視力の矯正および眼球の保護といった目的の他に、着用者の装身具あるいは装飾具としてのニーズがある。このニーズに対応し、レンズを所望の色合いに着色する方法として、インクジェット方式によるカラーレンズの製造方法が知られている(特許文献2〜4)。
特開平10−82975号公報 特開2008−528253号公報 特開平8−20080号公報 特開2006−264109号公報
しかしながら、特許文献1に示される上述の白内障用の眼鏡レンズは、レンズ部の前面に半透鏡のミラーコートを設け、これを、透孔を有するフレームに装着するもので、製造方法が煩雑なものである。
そして、特許文献2〜4に記載の発明は、均一な色合いのレンズを製造する方法であり、特許文献1に示されるような部分的に異なる遮光率を有するレンズやフォトクロミック性を有するレンズを製造する方法については記載がない。また、均一な色合いのレンズを得る場合においても、特許文献2に記載の発明では、インクジェット方式による着色に先立って、印刷プライマーをレンズ表面に積層させる必要がある。そして、特許文献3に記載の発明では、インクジェット方式によるプリント後、当該プラスチックレンズをオーブン中で100℃〜130℃で1時間加熱し、染料を拡散させる必要がある。さらに、特許文献4に記載の発明では、着色後、重合を行う必要がある。すなわち、特許文献2〜4に記載の発明では、いずれもインクジェット方式による着色の前か後で、着色層を均一にするための工程が必要であり、必ずしも生産効率が高いとは言えない。さらに、これらの製造方法が、部分的に異なる遮光率を有するレンズおよびフォトクロミック性を有するレンズの製造に適用できるかどうかは不明である。
そこで、本発明の目的は、紫外線が照射されることにより、レンズ内に異なる遮光率を形成するレンズを簡便かつ効率よく製造できるレンズの製造方法を提供することにある。
本発明のレンズの製造方法は、アイポイントを含む高透光性領域と、前記高透光性領域の全周を囲むように設けられ、紫外線が照射されることにより遮光率が増加する低透光性領域であって、前記高透光性領域よりも遮光率の高い低透光性領域と、がレンズ基材表面に形成され、前記低透光性領域は、周辺に向かって遮光率が変化する領域を含むレンズを製造する製造方法であって、フォトクロミック染料を含む組成物(A)と、フォトクロミック染料を含まない透明な組成物(B)とを、インクジェット方式により前記レンズ基材表面に塗布する塗布工程と、前記塗布工程により形成された塗布層を乾燥することにより着色層として前記基材表面に定着させる定着工程とを備えることを特徴とする。
ここで「透明な」とは、無彩色で透明である状態を言い、視感透過率が85%以上であることを言う。より正確には、塗布した層において、CIE 1976 (L*, a*, b*)色空間のa*が±5かつb*が±5未満(a*≦|5|かつb*≦|5|)で、さらに、視感透過率が85%以上である。
本発明によれば、アイポイントを含む高透光性領域と、前記高透光性領域の全周を囲むように設けられ、紫外線が照射されることにより遮光率が増加する低透光性領域であって、前記高透光性領域よりも遮光率の高い低透光性領域と、がレンズ基材表面に形成され、前記低透光性領域は、周辺に向かって遮光率が変化する領域を含むレンズをインクジェット方式で製造できる。
この際、フォトクロミック染料を含む組成物(A)を用いるので、紫外線の照射に応じてレンズの色が変化し、遮光率が変化するレンズとすることができる。したがって、紫外線により、より遮光率が高い色に変化するフォトクロミック染料を用いれば、紫外線が強い場所において、レンズの遮光率をより高くし、紫外線が弱く、暗い場所においては、遮光率を低くして、物が見え易いレンズとすることができる。
製造にあたって、例えば、遮光率の変化をレンズの色の濃淡により制御する場合は、まず、色の濃淡を含むレンズの着色パターンをコンピューターで設計すればよい。そして、当該着色パターンが得られるよう、使用するフォトクロミック染料に応じて、レンズ基材表面の各位置におけるフォトクロミック染料を含む組成物(A)と、フォトクロミック染料を含まない透明な組成物(B)との吐出割合を決定しておく。次いで、当該コンピューターにより制御されるインクジェットヘッドを用いるインクジェット方式で、レンズ基材表面の各位置に、組成物(A)と組成物(B)とを所定の割合で吐出して塗布すれば、紫外線が照射されて色が変化する着色層を形成できる。すなわち、紫外線が照射されることにより、設計したパターンに着色され、遮光率が部分的に変化するレンズをインクジェット方式による両組成物の塗布で簡便に得ることができる。
また、本発明によれば、色ムラがなく、均一な層が形成できる。ここで、色ムラとは、前述した予め設計された色の濃淡以外のものであって、着色層が均一に形成されないことが原因で生じる色の変化を言う。従来は組成物(B)を塗布せず、組成物(A)のみを塗布したため、形成される着色層が十分に均一な層ではなかった。しかしながら本願発明によれば、組成物(B)を併せて塗布したので、組成物(A)と組成物(B)とが隙間なく塗布され、従来は塗布された組成物(A)間に出来ていた隙間をなくすことができたと考えられ、その結果、均一な層を形成することができたと考えられる。
さらに、本発明によれば、インクジェット方式により両組成物を塗布し、乾燥するだけで、レンズ基材に直接着色層を形成できる。すなわち、両組成物の塗布工程の前後に着色層を均一にするための工程が必要なく、製造効率が高い。
また、本発明では、前記組成物(A)におけるフォトクロミック染料の割合が0.5質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
この発明によれば、紫外線が照射されることにより色が変化する着色層を、均一かつ色ムラなく形成することができる。
そして、本発明では、前記組成物(A)は、N−メチルピロリドンを含むことが好ましい。
この発明によれば、フォトクロミック染料の分散性をよく保つことができ、組成物(A)の吐出がスムーズになる。したがって、均一な着色層を形成できる。
さらに本発明では、前記塗布工程において、前記低透光性領域を形成する際の前記組成物(A)と前記組成物(B)との吐出割合が質量比で、組成物(A)/組成物(B)が1/0.5から1/8までの範囲であることが好ましい。
この発明によれば、前述の効果をより一層発揮することができ、特にレンズ基材を所望の色合いとすることができる。
また、本発明では、前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくともいずれかが有機ポリマーを含む組成物であることが好ましい。
この発明によれば、上述の効果の他、レンズ基材と着色層との密着性の向上、耐衝撃性の向上という効果を発揮することができる。
本発明の一実施形態に係る製造方法により製造されたレンズの正面図。 図1に示すレンズのII−II端面図。 図2に示す着色層の遮光率の分布を示した図。 本発明の一実施形態に係る製造方法を実現する装置の概念図。 本発明の変形例に係るレンズの正面図。 図5の変形例に係るレンズの着色層の遮光率の分布を示した図。
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
本実施形態におけるレンズの製造方法により製造されるレンズは、眼鏡用のプラスチックレンズである。
〔レンズ10の構成〕
図1に本実施形態のレンズ10を正面図で示し、図2にレンズ10の概略構成を、縦方向の端面図(図1のII−II端面)で示す。
レンズ10は、紫外線の照射により、色が変化するレンズであり、図1〜2は、紫外線照射を受けた状態を示している。紫外線としては、例えば、日光および水銀灯の光が挙げられる。紫外線の照射を受けたレンズ10は、アイポイント(眼鏡を掛けたときの目の位置、瞳孔中心位置、フィッティングポイント)11を含む高透光性領域12と、高透光性領域12の全周を囲むように設けられた低透光性領域14とを含む。低透光性領域14は、周辺に向かって遮光率が変化する領域として、高透光性領域12よりも遮光率が高く、周辺15に向かって遮光率が増加する領域(グラディエント領域、グラデーション領域)16を含む。
このレンズ10は、裏面(眼球側の面)10bの色の濃度(濃淡)を徐々に濃くすることにより、レンズ中央部(高透光性領域)12からレンズ周辺部(低透光性領域)14にかけてドーナッツ状あるいはリング状のグラディエント領域16を形成している。
なお、レンズ10は、紫外線が遮断された状態においては、紫外線による変色部分、すなわち低透光性領域が高透光性領域と同じ色および遮光率に戻る。
図1においては、説明のため、レンズ10におけるアイポイント11を含む高透光性領域12と、その高透光性領域12の全周を囲むように設けられた低透光性領域14との境界13を破線で示している。この例では、周辺15に向かって遮光率が増加するグラディエント領域16は境界13に隣接するように設けられている。したがって、高透光性領域12と低透光性領域14との境界13において遮光率は滑らかに変化しており、破線で示された境界13は、レンズ10を眼鏡レンズとして装着したときに、外から眼鏡を見た人にも、また、眼鏡を装着しているユーザーにもほとんど意識されない、あるいは目立たないようになっている。
なお、レンズ10は、裏面(眼球側の面)10bの側から見た場合にも、表面(物体側の面)10aから見た場合と同様に、図1に示したデザインとして認識される。
図2に示すように、レンズ基材41の表面41aには、レンズ基材41表面側から順に、着色層20、ハードコート層43、反射防止層44および防汚層45が積層されており、レンズ10は、着色層20により、レンズ10の場所に依存した遮光率に制御されている。レンズ基材41の裏面41bには、レンズ基材41裏面側から順に、プライマー層42、ハードコート層43、反射防止層44、および防汚層45が積層されている。
つまり、レンズ10は、レンズ基材41の表面41a、すなわち物体側の面に遮光率を変化させる着色層20を含む。着色層20を裏面10bの側に設け、プライマー層42、ハードコート層43を表面10aの側に設けることも可能である。しかしながら、着色層20が紫外線により感度良く変色するためには、紫外線がレンズ基材41あるいは他の層により吸収されやすい裏面10bの側よりも紫外線に晒されやすい表面10aの側に着色層20を設けることが望ましい。
[着色層20]
レンズ10の表面(物体側の面)10aの着色層20は、フォトクロミック染料の濃度を変えることにより、紫外線の照射により遮光率を変化させるよう形成されている。この着色層20は、前述の高透光性領域12と、高透光性領域12に対して遮光率の高いグラディエント領域16を含む低透光性領域14と、を備えている。
低透光性領域14の一例としては、紫外線の強度により遮光率が変わり、可視光(460〜600nm、好ましくは400〜760nm)を0%から50%の範囲でカットし、近紫外光(310〜400nm)の範囲を0%から90%、さらに好ましくは0%から100%の範囲でカットするものである。
本実施形態においては、視野角θが10度以下の範囲を高透光性領域12、視野角θが10度を超える範囲を低透光性領域14、視野角θが10度から20度の範囲をグラディエント領域16とすることができる。なお、紫外線の照射がなくなった場合、低透光性領域14の色および遮光率は、高透光性領域12と同じ色、かつ同じ遮光率に速やかに変化する。
図3に、レンズ10の着色層20を抜き出して、視野角θに対する着色状態を示す。
着色層20の視野角θが0度〜10度の範囲は着色されておらず、着色層20による遮光性の制御は行われてない領域(遮光率が0%)となっている。弁別視のときに頭部の動きが伴わない領域(弁別視の際の眼球の運動領域)は、視野角θが約10度の領域とされている。したがって、視野角θが0度〜10度の範囲を遮光性の制御が行われてない領域として確保することにより、ユーザーが使用する上で違和感が少なく、使い方の相違も少ないレンズ10とすることができる。
着色層20の視野角θが10度から15度の範囲は、視野角θにほぼ比例して遮光率が0%から10%に徐々に変化し、着色層20の視野角θが15度から20度の範囲は、視野角θにほぼ比例して遮光率が10%から40%に徐々に変化するように着色されている。
指標(対象物)を大まかに認識するいわゆる自由視は、視野角θが15度程度以内であり、視野角θが15度を超えると対象物を視野に捉えてもその対象物の明確な把握に寄与する率(能力)は少ない領域であるといえる。したがって、視野角θが10度から20度の範囲では、クリアーな視界を得ることと、グレア光をカットまたは抑制することとをある程度のレベルで両立させたり、またはいずれか一方を優先してもよい。すなわち、視野角θが10度から20度程度の範囲は、ユーザーあるいは用途によりレンズ10の機能をフレキシブルに設定できる。
着色層20の視野角θが20度以上の範囲は、遮光率40%となるように着色されている。視野角θが20度よりも広いグレア(眩しさ)はソフトなグレア光(障害グレア光、減能グレア光)であり、視野角θの小さな領域の不快なグレア光(不快グレア光)と異なり、グレア光の侵入を避けなくても、そのグレア光を抑制することにより作業効率の低下を抑制できる。
また、遮光率が10%以下程度であれば夜間や屋内でも視野を狭める要因にほとんどならない。したがって、視野角θが15度以下の範囲を高透光性領域12、視野角θが15度を超える範囲を低透光性領域14、視野角θが15度から20度の範囲を低透光性領域14におけるグラディエント領域16と定義してもよい。
なお、本明細書において遮光率が0%とは、着色などにより遮光率の増加が図られていないことを示しており、レンズ基材41およびその他の層42〜45などによる光の吸収は考慮していない。したがって、レンズ基材41およびその他の層42〜45などによる光の吸収により、本明細書において遮光率が0%と記載しても、レンズ10により光の吸収(減衰)が認められることがある。
〔レンズ10の製造方法〕
次に本実施形態にかかるレンズ10の製造方法を着色層20の形成を中心に説明する。[レンズ基材41]
レンズ基材41の材質としては、特に限定されないが、屈折率が1.6以上の透明なプラスチック素材を使用することがレンズの軽量化の点で好ましい。例えば、イソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製造されるチオウレタン系プラスチックや、エピスルフィド基を持つ化合物を含む原料モノマーを重合硬化して製造されるエピスルフィド系プラスチックをレンズ基材の素材として使用することができる。
チオウレタン系プラスチックの主成分となるイソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。
イソシアネート基を持つ化合物の具体例としては、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート等が挙げられる。
また、メルカプト基を持つ化合物としても、公知の物を用いることができる。例えば、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール等の脂肪族ポリチオール、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン等の芳香族ポリチオールが挙げられる。また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、メルカプト基以外にも、硫黄原子を含むポリチオールがより好ましく用いられ、その具体例としては、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−3−メルカプトプロパン等が挙げられる。
また、エピスルフィド系プラスチックの原料モノマーとして用いられる、エピスルフィド基を持つ化合物の具体例としては、公知のエピスルフィド基を持つ化合物が何ら制限なく使用できる。既存のエポキシ化合物のエポキシ基の一部あるいは全部の酸素を硫黄で置き換えることによって得られるエピスルフィド化合物が挙げられる。また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、エピスルフィド基以外にも硫黄原子を含有する化合物がより好ましい。具体例としては、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、ビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、ビス−(β−エピチオプロピル)ジスルフィド等が挙げられる。
[着色層20]
本実施形態の着色層20は、レンズ基材41表面に、フォトクロミック染料を含む組成物(A)と、フォトクロミック染料を含まない透明な組成物(B)とを塗布することにより形成される。
[組成物(A)]
組成物(A)としては、フォトクロミック染料の分散系が好ましく用いられる。フォトクロミック染料としては、特に限られることなくフォトクロミック性を有する化合物を使用することができる。 フォトクロミック性を有する化合物としては、有機系フォトクロミック化合物および無機系フォトクロミック化合物のいずれも用いることができ、適当な溶媒(水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒)に分散させて組成物(A)として使用できる。フォトクロミック染料は1種単独でも、2種以上併用しても用いることができ、紫外線の照射により所望の色を生成するよう選択すればよい。そして、これらのフォトクロミック染料の中でも、紫外線の照射がない場合に速やかに退色して、透明に変化するものがより好ましい。
有機系フォトクロミック化合物としては、例えば、クロメン化合物、スピロピラン化合物、スピロオキサジン化合物、水銀ジチゾネート(dithizonate)、フルギド化合物、フルギミド(fulgimide)、ジアリールエテン、ならびにこれらのフォトクロミック化合物の混合物が挙げられる。
クロメン化合物としては、例えば、ナフトピラン、ベンゾピラン、インデノ縮合ナフトピラン、キノピランおよびフェナントロピラン(phenanthorpyran)が挙げられ、ナフトピランとしては、例えば、ナフト[1,2−b]ピランおよびナフト[2,1−b]ピランが挙げられる。
スピロピラン化合物としては、例えば、スピロ(ベンゾインドリン)ナフトピラン、スピロ(インドリン)ベンゾピラン、スピロ(インドリン)ナフトピラン、スピロ(インドリン)キノピランおよびスピロ(インドリン)ピランが挙げられる。
スピロオキサジン化合物としては、例えば、スピロ(インドリン)ナフトオキサジン、スピロ(インドリン)ピリドベンゾオキサジン、スピロ(ベンゾインドリン)ピリドベンゾオキサジン、スピロ(ベンゾンドリン)ナフトオキサジンおよびスピロ(インドリン)ベンゾオキサジンが挙げられる。
フルギド化合物およびフルジミドとしては、例えば、3−フリルおよび3−チエニルファルギドおよびフルジミドが挙げられる。
無機系フォトクロミック化合物としては、例えば、銀ハライド化合物、カドミニウムライド化合物、および銅ハライド化合物を用いることができる。一般的に、これらのハライド化合物は、塩化物または臭化物である。
その他、ユーロピウム(II)および/またはセリウム(III)の鉱物ガラス(例えば、ケイ酸ソーダガラス)への添加によって調製される無機系フォトクロミック化合物を用いてもよい。
これらのフォトクロミック化合物の中でも、クロメン化合物は、フォトクロミック特性の耐久性が他のフォトクロミック化合物に比べ高く、さらに本発明における組成物中においてフォトクロミック特性の発色濃度および退色速度の向上が他のフォトクロミック化合物に比べて特に大きいために、特に好適に使用することができる。さらにこれらクロメン化合物中でもその分子量が540以上の化合物は、本発明における組成物中において、発色濃度および退色速度といったフォトクロミック特性の向上が特に大きいため、好適に使用することができる。中でも、ナフトピラン系化合物を用いることがより好ましい。
溶媒としては、透明で、前記フォトクロミック化合物の分散性が保たれ、かつ、インクジェット法による吐出に良好なものであれば、特に制限はなく公知の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば、N‐メチルピロリドン(以下、「NMP」ということがある。)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、「PGME」ということがある。)、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、トルエン、γ‐ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート、ブチルカルビトールアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジアセトンアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、シクロヘキサノンが挙げられる。これらは、1種を用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
中でも、有機溶媒にNMPを含むことが好ましく、NMPとその他の有機溶媒との混合溶媒であることが好ましい。NMPと混合されるその他の有機溶媒としては、PGMEを用いることが好ましい。また、NMP量は、組成物(A)全量中20質量%より多いことが好ましい。NMP量が20質量%以下になると、組成物(A)におけるフォトクロミック染料の安定性が低下し、インクジェット法による吐出が困難になる恐れがある。また、塗布しても、塗布層が収縮を起こし、均一な層を形成できない可能性がある。一方、有機溶媒がNMPのみの場合、塗布層は均一に形成できるが、定着工程の乾燥に時間を要し、生産性が低下する恐れがある。
分散剤としては、界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ラウリル硫酸塩などの陰イオン界面活性剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤などが挙げられる。これらの界面活性剤は、レンズ基材の目標とする着色濃度に応じて、使用するフォトクロミック染料の量(100質量部)に対して0.005質量部以上10質量部以下の範囲で使用するのが好ましい。
また、組成物の表面張力を下げるために使用する界面活性剤としては、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、炭化水素系界面活性剤を用いることができる。これらの界面活性剤は全組成物基準で0.005質量%以上2.0質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.5質量%以下含有されるのが好ましい。
そして、これらのフォトクロミック染料、界面活性剤の中から適宜選択して組成物(A)を調製すればよい。また、フォトクロミック染料に要求される特性として、分散性、可溶性およびフォトクロミック染料の安定性(使用溶剤に対して化学反応が起こらないこと)などがあり、このような特性を考慮して具体的なフォトクロミック染料を選択する。
フォトクロミック染料の配合量は、目的とするカラーレンズの色調に応じて適宜決定すればよく、組成物(A)中におけるフォトクロミック染料の割合が0.5質量%以上25質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1質量%以上20質量%以下である。特にフォトクロミック染料を25質量%より多量に使用すると、分散および溶解しないおそれがあるので、分散および溶解する程度の配合量が好ましい。逆に染料の使用量が0.5質量%よりも少量の場合、着色層を厚くする必要があるため、目的色となる着色層を形成するのは困難となる。このような点を踏まえて最終的な配合量を決定する。
本実施形態では、組成物(A)および後述する組成物(B)の少なくともいずれかが有機ポリマーを含むことも好ましい。
有機ポリマーとしては、極性基を有するものが好ましく、極性基を有する有機ポリマーとしては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等の各種樹脂を使用することが可能である。この内、硫黄原子を含むレンズ基材に対する密着性と、後述する金属酸化物ゾルの分散性の点から、ポリエステル樹脂を好ましく用いることができる。
ポリエステル樹脂を用いると、樹脂中のエステル結合および側鎖に付いたヒドロキシル基やエポキシ基が基材(プラスチック眼鏡レンズの表面分子)と相互作用を生じ易く、高い密着性を発現する。さらに、フォトクロミック染料に対する親和性も向上する。なお、ポリエステル樹脂のpHは弱酸性を示す場合が多く、フィラーとなる金属酸化物ゾルが安定に存在できるpHと合致する場合が多い。よって、着色層に金属酸化ゾルが局在化せずに均質に分散した状態となり、着色層の架橋密度を安定化もしくは向上させ、耐水性および耐光性も向上する。
[組成物(B)]
組成物(B)としては、視感透過率が85%以上である組成物を用いることができ、より正確には、塗布した層において、CIE 1976 (L*, a*, b*) 色空間のa*が±5かつb*が±5未満(a*≦|5|かつb*≦|5|)で、さらに、視感透過率が85%以上である。例えば、上記組成物(A)において、フォトクロミック染料を含まない組成物を使用すればよい。すなわち、組成物(B)は、組成物(A)からフォトクロミック染料を除いた無色透明な成分とすればよい。また、組成物(A)と同様に、さらに有機ポリマーを含むものが好ましい。
[組成物(A)と組成物(B)の表面張力および粘度について]
本実施形態における組成物(A)および組成物(B)のうち少なくとも一方の25℃における表面張力Xは、15mN/m≦X≦45mN/mであることが好ましい。さらには、前記組成物(B)の25℃における表面張力X[mN/m]が15≦X≦40であることがより好ましく、両組成物の表面張力Xがともに15≦X≦40の範囲にあることが最も好ましい。
両組成物の25℃における表面張力が15mN/m未満であると、フォトクロミック染料(固形分)を溶媒にうまく溶解あるいは分散させることができなくなるおそれがある。また、この表面張力Xが45mN/mを超えると、レンズ基材表面への濡れ性が悪化するおそれがある。また、少なくとも一方の組成物が表面張力Xを有することにより、液だれなどを防ぐこともできる。
ここで、前記組成物(B)の表面張力Xが上記範囲にあるときに上述した効果がより大きく、さらに、両組成物の表面張力Xがともに上記の範囲内にあるときに最も効果が大きい。
すなわち、本発明では、従来技術のように組成物(A)と組成物(B)を単に混ぜてフォトクロミック染料の濃度を薄くし、当該組成物を塗布した場合とは全く異なる効果を奏するのである。
また、本実施形態における組成物(A)および組成物(B)の25℃における粘度は、0.5mPa・s以上、20mPa・s以下であることが好ましい。当該組成物の25℃における粘度が0.5mPa・s未満であると、塗布層に組成物濃度のムラが生じ、結果として着色層の色ムラが生じやすくなる可能性がある。一方、25℃における粘度が20mPa・sを超えると、インクジェット方式を用いる際に、吐出が不安定となるおそれがあり、レンズ基材への塗布層の形成が困難となる。
[着色層20の形成]
(塗布工程)
本実施形態では、組成物(A)および組成物(B)をレンズ基材41の上にインクジェット方式で塗布する。本実施形態に用いる装置Mとしては、図4に示す装置が挙げられる。装置Mは、レンズ基材41を配置するテーブルTと、テーブルTの両側に設けられた一対のガイドG1と、ガイドG1間に架け渡して設けられたガイドG2と、ガイドG2に取り付けられたインクジェットヘッドHと、このインクジェットヘッドHに接続されるコンピューターPとを備える。
インクジェットヘッドHとしては、組成物(A)と組成物(B)が各々充填され、テーブルTおよびレンズ基材41に対向する先端にノズル開口部を有するものを使用できる。そして、インクジェットヘッドHは、コンピューターPからの指令を受けて、ガイドG2に沿ってX方向に移動し、ガイドG2はガイドG1に沿ってY方向に移動する。すなわち、インクジェットヘッドHはコンピューターPからの指令により、XY方向に自在に移動可能になっている。
ここで、インクジェット方式とは、一般に10〜100μm径の微小なノズル開口部と圧力発生素子とが設けられた圧力室にインクが充填され、圧力発生素子を電子的に制御することによって圧力室内のインクを加圧し、その圧力で、ノズル開口部からインクを微小な液滴として吐出するものである。圧力発生素子の種類により、ピエゾ素子による圧電振動子を用いたピエゾ方式や、発熱素子を用い、インクを加熱して気泡を発生させ、その圧力を利用するインクジェット方式など、種々の方式がある。本実施形態では、いずれのインクジェット方式も用いることができる。
具体的な塗布方法としては、例えば、まず、紫外線が照射されることにより着色層20に形成される色の濃淡を設けたパターンをコンピューターP上で設計する。そして、使用するフォトクロミック染料の紫外線による変色度合いをコンピューターP上でシミュレートすることにより、このパターンに応じた組成物(A)と組成物(B)の吐出割合を決定しておく。
次いで、当該コンピューターPにより、インクジェットヘッドHをレンズ基材41の表面と略等間隔を保つように制御しつつ、レンズ基材41の表面を走査させる。走査の方向としては、レンズ基材の表面と略等間隔を保てる方向であれば、特に制限はない。すなわち、図4に示すXY方向に走査すればよい。そして、同時にコンピューターPにより組成物(A)と組成物(B)のノズル開口部からの吐出を制御し、レンズ基材41の必要な部分に両組成物を塗布する。このとき、両組成物は着色層20が均一になるよう塗布される。
低透光性領域14を形成する際の組成物(A)と組成物(B)との吐出割合は質量比で、組成物(A)/組成物(B)が1/0.5から1/8までの範囲であることが好ましい。前記割合が1/0.5より大きいと、フォトクロミック染料が均一に塗布されず、色ムラが発生したり、干渉縞が生じたりする可能性がある。一方、前記割合が1/8より小さいと、フォトクロミック染料の割合が少なすぎて、目的の色合いが得られない可能性がある。
なお、色の濃淡は、組成物(A)と組成物(B)との吐出割合を変更することにより変化させてもよいし、組成物(A)で予めフォトクロミック染料の割合を調整することにより変化させ、組成物(A)と組成物(B)とは、一定の吐出割合で吐出させてもよい。
また塗布の際、インクジェットヘッドHだけを動かしてもよく、あるいはインクジェットヘッドHを特定の方向に移動させ、タイミングをとってレンズ基材41を前記方向と直交する方向に移動させてもよい。
また、レンズ基材の支持体に首振り運動させることで、インクジェットヘッドHとレンズ基材41の表面との間隔を概ね一定にするような塗布方法を採用してもよい。
また、塗布面としては、レンズ基材の両面に塗布しても、片面のみに塗布しても良い。
そして、塗布の際、フォトクロミック染料またはフォトクロミック染料を含む組成物(A)に紫外線を照射し、フォトクロミック染料の色を予め変化させた状態でインクジェットヘッドHに充填し、塗布を行ってもよい。
(定着工程) インクジェット方式で塗布した後は、塗布された組成物をレンズ基材41のガラス転移点Tg以下かつ20℃以上、好ましくは50℃以上の温度で乾燥してレンズ基材表面に定着させる。これにより、フォトクロミック染料を含む着色層20をレンズ基材41表面に形成することができる。
[その他の層の形成]
レンズ10の表面10aに形成される着色層20以外の層、および裏面10bの層については、公知の各種方法を用いて形成することができる。例えば、裏面10b側の各層は、以下のように形成すればよい。
レンズ基材41およびハードコート層43の密着性を向上させるプライマー層(下地層)42は、レンズ基材41の裏面10bに浸漬法により形成する。プライマー層42を形成するための塗布液P1は、例えば、市販のポリエステル樹脂「ペスレジンA−160P」(高松樹脂(株)製、水分散エマルジョン、固形分濃度27%)100部に、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)84部、希釈溶剤としてメチルアルコ−ル640部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名「SILWETL−77」)1部を混合し、均一な状態になるまで撹拌して調製する。この塗布液P1を、レンズ基材41の表面10aに、スピン方式(700rpm)により塗布し、塗布後のレンズ基材41を80℃で20分間風乾することにより、プライマー層42を形成する。塗布液P1により形成されたプライマー層42の焼成後の固形分は、62重量%のポリエステル樹脂と、38重量%のルチル型酸化チタン複合ゾルとを含んでいる。また、上記スピン方式でなく、着色層がプライマー層を兼ねる役割もあることから、着色層を41b側にもインクジェット方式により塗布することでプライマー層42として使用することも可能である。
プライマー層42が積層されたレンズ基材41の表面に、ハードコート層43を形成する。ハードコート層43は、ガラス製に比べて傷つきやすいプラスチック製のレンズ基材41の表面硬度を向上させる層である。ハードコート層43を形成するための塗布液H1は、例えば、プロピレングリコールメチルエーテル138部、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)688部を混合した後、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン106部、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業(株)製、商品名デナコールEX313)38部を混合して得た混合液に、0.1N塩酸水溶液30部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後、一昼夜熟成させる。その後、この混合液に、Fe(III)アセチルアセトネート1.8部、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−7001)0.3部を添加して調製する。この塗布液H1を、プライマー層42の表面に、ディッピング方式(引き上げ速度35cm毎分)により塗布し、塗布後のレンズ基材41を80℃で30分間風乾し、さらに、120℃で120分焼成を行うことにより、2.3μm厚のハードコート層43を形成する。塗布液H1により形成されたハードコート層43の焼成後の固形分は、55重量%の金酸化物微粒子(ルチル型 酸化チタン複合ゾル)と、30重量%の有機ケイ素(γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)と、15重量%の多官能エポキシ化合物(グリセロールポリグリシジルエーテル)とを含んでいる。
ハードコート層43または着色層20が積層されたレンズ基材41の表面に、光の表面反射を防止する反射防止層44を形成する。具体的には、プラズマ処理(アルゴンプラズマ400W×60秒)を行い、ハードコート層側から大気側に向かって順に、SiO、ZrO、SiO、ZrO、SiOの5層で構成される多層の反射防止層を、真空蒸着機((株)シンクロン製)にて形成する。各層の光学的膜厚は、最初のSiO層、次のZrOとSiOの等価膜層および次のZrO層、最上層のSiO層について、設計波長λを520nmとしてそれぞれλ/4となるように形成する。

反射防止層44が積層されたレンズ基材41の表面にフッ素系シラン化合物で撥水処理し、撥水膜(防汚層)45を形成する。
〔本実施形態の作用効果〕
本実施形態によれば、高透光性領域12と、紫外線が照射されることにより、周辺に向かって遮光率が変化する低透光性領域14を含むレンズをインクジェット方式で製造できる。この際、フォトクロミック染料を含む組成物(A)を用いるので、紫外線の照射に応じてレンズ10の色が変化し、遮光率が変化する。したがって、紫外線により、より遮光率が高い色に変化するフォトクロミック染料を用いれば、紫外線が強い場所において、レンズ10の遮光率をより高くし、紫外線が弱く、暗い場所においては、遮光率を低くして、物が見え易いレンズ10とすることができる。
製造にあたっては、まず色の濃淡を含むレンズの着色パターンをコンピューターPで設計すればよい。そして、当該着色パターンが得られるよう、使用するフォトクロミック染料に応じて、レンズ基材41表面の各位置における両組成物の吐出割合を決定しておく。次いで、当該コンピューターPにより制御されるインクジェットヘッドHを用いるインクジェット方式で、レンズ基材41表面の各位置に、組成物(A)と組成物(B)とを所定の割合で吐出して塗布すれば、レンズ基材41に着色層20を形成できる。すなわち、紫外線が照射されることにより、設計したパターンに着色され、遮光率が部分的に変化するレンズ10をインクジェット方式による塗布で簡便に得ることができる。
また、本実施形態によれば、組成物(A)と組成物(B)とを併せて塗布したので、色ムラなく均一な着色層を簡単に形成することができる。また、周辺に向かって遮光率が変化する領域、すなわちグラディエント領域16も、所望の色合いで、色ムラなく、かつ、干渉縞なく形成できる。
また、インク受容層等を形成する必要がなく、レンズ基材41に直接組成物を吐出し、乾燥するだけで、着色層20を形成できるため、生産性が向上する。
〔変形例〕
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、レンズ10の高透光性領域12を視野角θが10度以下の範囲とし、グラディエント領域16を視野角θが10度から20度の範囲としたが、これに限らない。すなわち、図5に示すレンズ100Aとしてもよい。なお、図5はレンズ100Aを物体側から見た正面図で示している。また、図6に着色層20により実現される遮光率の分布を示している。
レンズ100Aにおいては、遮光率がほとんどない(たとえば遮光率が0%)透光性の高い高透光性領域12が、視野角θが20度の範囲まで広がっている。また、周辺15に向かって遮光率が増加するグラディエント領域16では、視野角θが20度から40度の範囲で遮光率が0%から40%程度まで高くなっている。このような、レンズ100Aでは、視野角θが10度から20度の領域において、本実施形態のレンズ10と比較して、グレアカットよりもクリアーな像が得られることを優先できる。すなわち、レンズ100Aにおいて、遮光率が変化せずに全体として透明な高透光性領域12は、視野角θが20度の範囲まで確保されている。したがって、弁別視および自由視を含め、より広い視野が確保しやすい設計とできる。
以下に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
〔実施例1〕
(レンズ基材)
レンズ基材として、屈折率1.74のエピスルフィド系プラスチック(セイコーエプソン(株)製、SEIKO プレステージ)を使用した。
(組成物Aの調製)
NMP 60質量%、PGME 23質量%、市販フォトクロミック染料であるナフトピランフォトクロミック化合物(Reversacol Berry Red、james robinson ltd.社製 2,2−ジ(4−メトキシフェニル)−5,6−ジメチル−2H−ナフト[2,1−b]ピラン) 7質量%、ポリエステル樹脂が固形分10質量%となるよう配合し、表面張力コントロールのための界面活性剤であるL7604(日本ユニカー社製)を微量添加した。これを、ろ過および脱泡して、組成物(A)とした。
(組成物Bの調製)
組成物(B)は、組成物(A)で、フォトクロミック染料を加えず、代わりにPGMEを増量し、30質量%とすることにより調製した。
表1に組成物(A)および(B)の組成を示す。
(インクジェット方式による塗布)
これらの組成物をインクジェットプリンター(MMP183T、Mastermind製)を用いて、前述のレンズ基材表面に吐出して塗布し、80℃30分で乾燥(硬化)させることにより組成物を定着させ、着色層を形成した。
この着色層に関して、組成物(A)のみを吐出したときと、組成物(A)と組成物(B)を吐出して塗布した時の層の均一性を目視により評価した。さらに、ソーラーシミュレータ(YSS−100A、山下電装社製)を用い、擬似太陽光を照射し、色の変化が生じた後の色ムラを目視により評価した。結果を表2に示す。以下、各実施例の評価において、現行製品のメガネレンズと同程度の場合は○、製品として許容範囲ではあるがやや劣る場合を△、製品として許容できない場合は×とする。
表2より組成物(A)と組成物(B)とを吐出することで、均一な着色層を色ムラなく形成できることがわかる。また、この際、グラディエント領域も良好に形成できた。
〔実施例2から5まで、および比較例1〕
組成物(A)のフォトクロミック染料の量を変化させた以外は実施例1の組成物と同様の組成で組成物を作成し、実施例1と同様の手法でプラスチックレンズに着色層を形成した。表3に組成物(A)の組成および実施例2から5まで、および比較例1で作成した着色層の評価(層の均一性および色ムラ)結果を示す。
前述した実施例1の結果および表3から、組成物(A)中のフォトクロミック染料が0.5質量%以上25質量%以下のとき、均一な着色層を色ムラなく形成可能であることがわかる。また、この際、グラディエント領域も良好に形成できた。なお、フォトクロミック染料が含まれない比較例1では、着色層が透明なままであった。
〔実施例6〕
実施例1において、ナフトピランフォトクロミック化合物の代わりに1,3−ジメチル−3−ピぺリジルスピロ[インドリノ−2,3’−ナフト〔2,1−b〕(1,4)−オキサジン](スピロナフトオキサジン系化合物)7質量%を用いた以外は、実施例1と同様にしてプラスチックレンズに着色層を形成した。
得られた着色層は均一かつ色ムラのないものであった。
〔実施例7〜10〕
実施例1において、NMPとPGMEの割合を変化させた以外は、実施例1と同様にしてプラスチックレンズに着色層を形成した。
表4からわかる通り、NMPの割合が20質量%以上において、均一かつ色ムラのない着色層が形成できた。NMPの割合が20質量%未満になるとインク安定性が悪く、吐出が困難になる可能性がある。また、塗布後、膜が収縮して均一にならない可能性がある。また、溶媒がNMPのみになる実施例10では、均一な層ができるが、乾燥に時間を要するため、生産性が悪くなる恐れがある。
10,100A…レンズ、11…アイポイント、12…高透光性領域、14…低透光性領域、16…グラディエント領域、20…着色層、41…レンズ基材

Claims (5)

  1. アイポイントを含む高透光性領域と、
    前記高透光性領域の全周を囲むように設けられ、紫外線が照射されることにより遮光率が増加する低透光性領域であって、前記高透光性領域よりも遮光率の高い低透光性領域と、
    がレンズ基材表面に形成され、
    前記低透光性領域は、周辺に向かって遮光率が変化する領域を含むレンズを製造する製造方法であって、
    フォトクロミック染料を含む組成物(A)と、フォトクロミック染料を含まない透明な組成物(B)とを、インクジェット方式により前記レンズ基材表面に塗布する塗布工程と、
    前記塗布工程により形成された塗布層を乾燥することにより着色層として前記基材表面に定着させる定着工程とを備える
    ことを特徴とするレンズの製造方法。
  2. 請求項1に記載のレンズの製造方法であって、
    前記組成物(A)におけるフォトクロミック染料の割合が0.5質量%以上25質量%以下であることを特徴とするレンズの製造方法。
  3. 請求項1または請求項2に記載のレンズの製造方法であって、
    前記組成物(A)は、N−メチルピロリドンを含むことを特徴とするレンズの製造方法。
  4. 請求項1から請求項3までのいずれかに記載のレンズの製造方法であって、
    前記塗布工程において、前記低透光性領域を形成する際の前記組成物(A)と前記組成物(B)との吐出割合が質量比で、組成物(A)/組成物(B)が1/0.5から1/8までの範囲である
    ことを特徴とするレンズの製造方法。
  5. 請求項1から請求項4までのいずれかに記載のレンズの製造方法であって、
    前記組成物(A)および前記組成物(B)のうち少なくともいずれかが有機ポリマーを含む組成物であることを特徴とするレンズの製造方法。
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