JP2012169400A - 強誘電体膜の製造方法とそれを用いた強誘電体素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】分極特性を向上させる強誘電体素子とその製造方法を提供する。
【解決手段】強誘電体素子は、基板1と、この基板1上に形成された拡散防止層2と、拡散防止層2の上に形成された下部電極層3と、下部電極層3の上に形成された強誘電体膜4と、強誘電体膜4の上に形成された上部電極層5とから構成されている。強誘電体膜4の化学溶液法を用いた製造方法は、基板1の主面に下部電極層3を形成する下部電極形成工程と、この下部電極層3上に強誘電体4の前駆体膜を形成する前駆体形成工程と、前駆体膜を加熱して結晶化させることで強誘電体膜4を形成する結晶化工程と、強誘電体膜4を一定の温度まで冷却する冷却工程と、を少なくとも含み、結晶化工程において、前駆体膜に応力を印加した後に結晶化させる。
【選択図】図1
【解決手段】強誘電体素子は、基板1と、この基板1上に形成された拡散防止層2と、拡散防止層2の上に形成された下部電極層3と、下部電極層3の上に形成された強誘電体膜4と、強誘電体膜4の上に形成された上部電極層5とから構成されている。強誘電体膜4の化学溶液法を用いた製造方法は、基板1の主面に下部電極層3を形成する下部電極形成工程と、この下部電極層3上に強誘電体4の前駆体膜を形成する前駆体形成工程と、前駆体膜を加熱して結晶化させることで強誘電体膜4を形成する結晶化工程と、強誘電体膜4を一定の温度まで冷却する冷却工程と、を少なくとも含み、結晶化工程において、前駆体膜に応力を印加した後に結晶化させる。
【選択図】図1
Description
本発明は、電気機械変換機能を有する強誘電体を駆動源とする、強誘電体素子とその製造方法に関するものである。
ペロブスカイト型構造を有する酸化物強誘電体薄膜は、一般式ABO3で表され、優れた強誘電性、圧電性、焦電性および電気光学特性を示し、各種センサやアクチュエータ、メモリなど幅広いデバイスに有効な材料として用いられており、今後その利用範囲はさらに拡大していくと思われる。
なかでもチタン酸ジルコン酸鉛(一般式Pb(ZrxTi1-x)O3(0<x<1)、以降「PZT」と記す)系薄膜は、高い圧電性を有することから、圧電センサや圧電アクチュエータなどの圧電変位素子として利用されている。圧電センサは、強誘電性の圧電効果を利用したものである。強誘電体は内部に自発分極を有しており、その表面に正および負電荷を発生させる。大気中における定常状態では大気中の分子が持つ電荷と結合して中性状態になっている。この圧電体に外圧がかかると圧電体から圧力量に応じた電気信号を取り出すことができる。また、圧電アクチュエータも同様の原理を用いたもので、圧電体に電圧を印加するとその電圧に応じて圧電体が伸縮し、伸縮方向あるいはその方向に直行する方向に変位を生じさせることができる。
PZT系薄膜はスパッタリング法、Chemical Vapor Deposition法(以降、「CVD法」と記す)、Pulsed Laser Deposition法(以降、「PLD法」と記す)等に代表される気相成長法、もしくは化学溶液法(Chemical Solution Deposition法、「以降CSD法」と記す)、水熱合成法等に代表される液相成長法を用いて作製が試みられている。この中で、CSD法は組成制御が容易で、再現性良く薄膜を作製しやすい、また製造設備が安価で大量生産が可能であるという特徴がある。
図7に、従来のPZT系薄膜の製造プロセスフロー図を示す。
この図に示すように、従来のPZT系薄膜は、所定の方法で前駆体溶液を調整する工程(工程I)と、基板の上にスピンコート法により塗布する工程(工程II)と、塗布した前駆体溶液を乾燥する工程(工程III)と、乾燥して得られた前駆体薄膜を仮焼成する工程(工程IV)と、仮焼成した前駆体薄膜を本焼成する工程(工程V)とからなる。
このような方法で得られたPZT系薄膜の強誘電性を測定した結果を図8に示す。分極値(P)を縦軸に、印加電界(E)を横軸にしたP−Eヒステリシスループである。
なお、この出願に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
図8に示したP−Eヒステリシスループにおいて、最大分極値Pmaxの値は35μC/cm2程度となる。最大分極値が低いと、圧電変位素子として応用した場合に、変位量が小さくなる等の問題があるため、少しでも大きな値を得ることが重要となる。
そこで本発明は、荷重応力を印加することにより分極性を高めることを目的とする。
上記目的を達成するため本発明は、化学溶液法を用いた製造方法であって、基板の主面に下部電極層を形成する下部電極形成工程と、この下部電極層上に強誘電体の前駆体膜を形成する前駆体形成工程と、前記前駆体膜を加熱して結晶化させることで強誘電体膜を形成する結晶化工程と、前記強誘電体膜を一定の温度まで冷却する冷却工程と、を少なくとも含み、前記結晶化工程において、前駆体膜に応力を印加した後に結晶化させることを特徴とした。
以上のように本発明は、結晶化工程で前駆体膜に応力を印加した後に結晶化を行うものであり、こうすることによりヒステリシスループにおける最大分極値Pmaxを大きくし、成膜した強誘電体膜の分極性を高めることができる。その理由は、強誘電体層のドメイン構造に変化が生じているためであると考えられる。
そしてその結果、高い圧電性を有する強誘電体素子を実現することができる。
(実施の形態)
以下、実施の形態について、図面を用いて説明する。
以下、実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の実施の形態における強誘電体素子の構造を示す断面図である。
図1において、本実施の形態の強誘電体素子は、基板1と、この基板1上に形成された拡散防止層2と、拡散防止層2の上に形成された下部電極層3と、下部電極層3の上に形成された強誘電体膜4と、強誘電体膜4の上に形成された上部電極層5とから構成されている。
基板1はシリコンに代表される半導体単結晶基板を始め、ステンレス材料やチタン、アルミ、マグネシウム等の金属材料、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス等のガラス系材料、アルミナ、ジルコニア等のセラミック系材料等、種々の材料を用いることができる。
拡散防止層2は、第一の効果として基板1や強誘電体膜4の構成元素の相互拡散を抑制するものであり、さらに第二の効果として基板1の酸化を抑制するものである。拡散防止層2の材料としては、二酸化シリコンや酸化アルミニウム等の結晶粒界が存在しないアモルファス酸化物材料が望ましい。これにより、酸化しやすい金属材料等でも基板1として用いることができる。
本実施の形態においては、基板1の上に拡散防止層2を形成しているが、後述する製造方法において基板1の酸化が起こらない場合、もしくは基板1や強誘電体膜4からの元素拡散が発生しない場合には形成する必要はなく、基板1の上に下部電極層3を直接形成しても良い。
下部電極層3はニッケル酸ランタン(LaNiO3、以降「LNO」と記す)を主成分とする材料からなり、基板1上に形成した拡散防止層2の上に形成されている。
LNOはR−3cの空間群を持ち、菱面体に歪んだペロブスカイト型構造(菱面体晶系:a0=5.461Å(a0=ap)、α=60°、擬立方晶系:a0=3.84Å)を有し、抵抗率が1×10-3(Ω・cm、300K)で、金属的電気伝導性を有する酸化物であり、温度を変化させても金属と絶縁体間の転移が起こらないという特徴を持つ。
LNOを主成分とする材料としては、ニッケルの一部を他の金属で置換した材料等が用いられる。例えば鉄で置換したLaNiO3−LaFeO3系材料、アルミニウムで置換したLaNiO3−LaAlO3系材料、マンガンで置換したLaNiO3−LaMnO3系材料、コバルトで置換したLaNiO3−LaCoO3系材料等である。
強誘電体膜4は菱面体晶系または正方晶系の(001)面配向のPZTからなり、基板1上に形成した下部電極層3の上に形成されている。PZTの組成は、正方晶系と菱面体晶系との相境界(モルフォトロピック相境界) 付近の組成(Zr/Ti=53/47)である。なお、強誘電体膜4におけるZr/Ti組成は、Zr/Ti=53/47に限らず、Zr/Ti=30/70〜70/30であればよい。また、強誘電体膜4の構成材料は、PZTにSr、Nb、Mg、Zn、Al等の添加物を含有したもの等、PZTを主成分とするペロブスカイト型酸化物強誘電体であればよく、PMN(化学式Pb(Mg1/3Nb2/3)O3) やPZN(化学式Pb(Zn1/3Nb2/3)O3)であってもよい。
ここで、本実施の形態で用いた正方晶系のPZTは、バルクセラミックスの値でa=b=4.036Å、c=4.146Åの格子定数を有する材料である。したがって、a=3.84Åの格子定数を有する擬立方晶構造のLNOは、PZTの(001)面および(100)面との格子マッチングが良好であると言える。
格子マッチングとは、PZTの単位格子とLNOの単位格子との格子整合性のことをいう。一般的に、ある種の結晶面が表面に露出している場合、その結晶格子と、その上に成膜する膜の結晶格子とがマッチングしようとする力が働き、界面でエピタキシャルな結晶核を形成しやすいことが報告されている。
なお、強誘電体膜4の(001)面および(100)面と下部電極層3の主配向面との格子定数の差が絶対値でおおよそ10%以内であれば、強誘電体膜4の(001)面もしくは(100)面のいずれかの面の配向性を高くすることができる。そして基板1と強誘電体膜4の界面でエピタキシャルな結晶核を形成することができる。なお、格子マッチングによる配向制御において、(001)面もしくは(100)面のいずれかに選択的に配向した膜を実現することは困難である。
LNOは後述する製造方法により作製することで、種々の基板上に(100)面に優先配向した膜を実現することができる。したがって、下部電極層3としての働きだけではなく、強誘電体膜4の配向制御層としての機能も有する。このことから(100)面に配向したLNOの表面(格子定数:3.84Å)と格子マッチングのよい、PZT(格子定数:a=4.036Å、c=4.146Å)の(001)面または(100)面が選択的に生成するものである。
上部電極層5は、0.3μm厚の金(Au)からなる。上部電極層5の材料はAuに限らず、導電性材料であればよく、膜厚は0.1〜0.5μmの範囲であればよい。上部電極層5の作製方法としては、応力の残留しにくい蒸着法が望ましい。
次に、本実施の形態の強誘電体膜4の製造方法について、主に図2を用いて説明する。
図2は本実施の形態の、特に強誘電体膜4の製造プロセスフロー図である。
まず初めに拡散防止層2と下部電極層3の形成方法について説明する。
基板1の表面に拡散防止層2を形成するため、SiO2前駆体溶液をスピンコート法により塗布する。スピンコート法は、その回転数を制御することで、膜厚が面内に均一な薄膜を簡便に塗布することができる、という大きな特徴がある。SiO2前駆体溶液としては、公知の方法により作製された種々の溶液を用いることが可能である。基板1の両面に塗布したSiO2前駆体溶液は150℃で10分間乾燥を行い、その後500℃で10分間の本焼成を行った。以上の工程を所望の膜厚になるまで繰り返すことにより、拡散防止層2を形成した。
次に、下部電極層3を形成するためのLNO前駆体溶液を、上述した拡散防止層2の上にスピンコート法により塗布する。
このLNO前駆体溶液の調整方法は次の通りとした。
出発原料としては、硝酸ランタン六水和物(La(NO3)3・6H2O)、酢酸ニッケル四水和物((CH3COO)2Ni・4H2O)を用い、溶媒として2−メトキシエタノールと2−アミノエタノールを用いた。2−メトキシエタノールはわずかに水分を含んでいるため、あらかじめモレキュラーシーブ0.3nmを用いて水分を除去したものを使用した。
まず、硝酸ランタン六水和物をビーカーに採り、水和物の除去のため150℃で1時間以上乾燥させる。次に室温まで冷却の後、2−メトキシエタノールを加えて、室温で3時間攪拌することで、硝酸ランタンを溶解させる(溶液A)。
一方、酢酸ニッケル四水和物を別のセパラブルフラスコに採り、水和物の除去のため200℃で2時間乾燥させる。次に、2−メトキシエタノールおよび2−アミノエタノールを加え、110℃で30分間攪拌する(溶液B)。
この溶液Bを室温まで冷却後、溶液Aを溶液Bが入っているセパラブルフラスコに投入する。これらの混合液を室温で3時間攪拌することにより、LNO前駆体溶液を作製する。
次に、基板1の一面に塗布したLNO前駆体溶液を150℃で10分間乾燥を行い、その後350℃で10分間の熱処理により、残留有機成分の熱分解を行った。乾燥工程は前駆体溶液中の物理吸着水分の除去を目的としたものであり、温度は100℃を超えて200℃未満であることが望ましい。これは、作製した膜中への水分の残留を防止するための工程であるが、200℃以上では前駆体溶液中の残留有機成分の分解が開始するため、それ未満の温度で行うことが望ましい。また、熱分解工程の温度は200℃以上500℃未満であることが好ましい。これは、作製した膜中への有機成分の残留を防止するための工程であるが、500℃以上では乾燥した前駆体溶液の結晶化が大きく進行してしまうため、それ未満の温度が望ましい。
このLNO前駆体溶液を、拡散防止層2の上に塗布する工程から熱分解を行うまでの工程を複数回繰り返し、所望の厚みになった時点で、急速加熱炉(Rapid Thermal Annealing、以降「RTA炉」と記す)を用いて急速加熱し、結晶化アニールを行う。結晶化アニールの条件は700℃で5分程度とし、昇温速度は毎分200℃とした。なお、結晶化アニール温度は500℃以上750℃以下が望ましい。これは、500℃以上で、LNOの結晶化が促進し、また、750℃より大きい温度では、LNOの結晶性が低下するためである。そしてその後、室温まで冷却させる。以上の工程で下部電極層3を形成することにより、(100)面方向に高配向のLNOが得られる。下部電極層3を所望の膜厚にするために、複数回の塗布から熱分解を繰り返した後に一括して結晶化を行う替わりに、毎回塗布から結晶化までの工程を繰り返しても良い。
以上が拡散防止層2および下部電極層3の形成工程である。
次に本発明のポイントである強誘電体膜4の製造方法について説明する。
まず初めに、PZT前駆体溶液の調整を行い(工程A)、下部電極層3、または拡散防止層2と下部電極層3を形成した基板1上に作製した前駆体溶液を塗布する(工程B)。
工程Aで用いたPZT前駆体溶液の調整方法は次のとおりである。
本調整方法に用いるエタノールは、含有水分による金属アルコキシドの加水分解を防止するため、予め脱水処理を行った無水エタノールとする。
まず、Pb前駆体溶液を調整する出発原料として、酢酸鉛(II)三水和物(Pb(OCOCH3)2・3H2O)を用いる。これをセパラブルフラスコに採り、水和物の除去のため150℃で2時間以上乾燥させる。次に無水エタノールを加えて溶解し、アンモニアガスをバブリングしながら78℃で4時間還流させ、Pb前駆体溶液を作製する。
Ti−Zr前駆体溶液を調整する出発原料としては、チタンイソプロポキシド(Ti(OCH(CH3)2)4)とジルコニウムノルマルプロポキシド(Zr(OCH2CH2CH3)4)を用いる。こちらも別のセパラブルフラスコに採り、無水エタノールを加えて溶解し、78℃で4時間還流することで、Ti−Zr前駆体溶液を作製する。Ti/Zr比はmol比でTi/Zr=47/53となるように秤量した。
このTi−Zr前駆体溶液をPb前駆体溶液に混合する。このとき、Pb成分を化学量論組成(Pb(Zr0.53,Ti0.47)O3)に対し20mol%過剰とした。これは、アニール時の鉛成分の揮発による不足分を補うためである。この混合溶液を78℃で4時間還流し、安定化剤としてアセチルアセトンを金属陽イオンの総量に対して0.5mol当量加え、さらに78℃で1時間還流することでPZT前駆体溶液を作製した。
また塗布方法としては、本実施の形態ではスピンコート法を用いたが、ディップコート法、スプレーコート法等の種々の塗布方法を用いることができる。
スピンコートが完了すると、前駆体溶液は、溶媒の蒸発と加水分解により、湿潤した皮膜を形成する。以降、形成した皮膜のうち、結晶化していない状態のものを前駆体膜と称する。この前駆体膜に含まれる水分、残留溶媒を取り除くために、115℃の乾燥炉で、10分間の乾燥を行う(工程C)。
次に、乾燥した前駆体膜に化学的に結合した有機物を分解するために、420℃の電気炉で、10分間の仮焼成を行う(工程D)。乾燥工程の温度は100℃を超えて200℃未満であることが望ましい。これは、200℃以上ではPZT前駆体溶液中の残留有機成分の分解が開始するためである。仮焼成工程の温度は200℃以上500℃未満であることが好ましい。これは、500℃以上では乾燥した前駆体膜の結晶化が大きく進行するためである。ここでは、工程Bから工程Dまでを3回繰り返して、前駆体膜を形成した。
その後、前駆体膜を結晶化せるために、結晶化工程を行う。この結晶化工程は、応力印加(工程E)と結晶化アニール(工程F)から構成される。結晶化工程において、工程Bから工程Dを繰り返して所望の厚みの前駆体膜に、応力を印加する。本実施の形態では室温の状態で応力を印加しているが、仮焼成(工程D)を終了後にそのまま応力を印加してもよい。
応力印加の方法の一例としては、短冊形状の基板1を用いた場合は、その短辺側の両端を固定し、その状態で基板の中央付近に裏面から荷重を印加すれば良い。もしくは、短辺側の両端を固定した状態で、その両端を中心に向けて略水平方向に荷重を印加すればよい。こうすることにより短冊状の基板1が撓み、この基板1を介して密着している前駆体膜に応力が印加される。円形状の基板1を用いる場合も同様であり、その外周部を固定した状態で基板1の中央付近に裏面から荷重を印加すればよい。なお、円形状の基板1にオリエンテーションフラット、ノッチ等の切り欠きが入っていても良い。
なお、印加する応力は25MPa以上が望ましい。25MPa未満だと、応力による強誘電性向上の効果が小さいためである。予め、両端を固定した両持ち梁の中央に、集中荷重を行う条件で計算した。
次に、結晶化アニールとして、応力を印加したまま電気炉を650℃まで昇温し、加熱することで、前駆体膜を結晶化させる(工程F)。前駆体膜が結晶化した後に、基板に印加していた応力を除去する(工程G)。その後、室温程度まで冷却することで、PZT系強誘電体膜4の成膜を完了する(工程H)。
なお、結晶化アニールの加熱温度は500℃以上750℃以下が望ましい。750℃よりも大きいと、結晶化時に前駆体膜中に含まれるPbが蒸発することにより不足し、成膜した強誘電体膜4の結晶性が低下するためである。また、結晶化アニールは少なくとも1分以上行う。これは、1分未満の場合、結晶化が不十分となるためである。
上述した結晶化工程において、応力の印加は500℃未満で行うことが望ましい。基板1に荷重を印加して撓ませることで、基板1と前駆体膜の両方に応力が印加されるが、前駆体膜の内部応力は結晶化時に一旦解放される。そして、結晶化を終了した後に基板1の応力を解放することにより、この基板1の応力はそのまま強誘電体膜4に印加される。このように、強誘電体膜4には応力が常に印加された状態となり、この応力により強誘電体膜4の結晶性を高める。そのため前駆体膜の状態で応力を印加し、その後に加熱して結晶化アニールを行うものである。
上記の工程(特に工程Bから工程H)で成膜される強誘電体膜4の厚みは50〜400nm程度となることから、それ以上の厚みが必要な場合には、本工程を複数回繰り返すことで、所望の厚みを得ることができる。なお所望の厚みを得るために、特に工程Bから工程Dを複数回繰り返し、所望の厚みに前駆体膜を成膜した後に一括して結晶化工程を行っても良い。
次に本実施の製造方法で強誘電体膜4を成膜し、X線回折を用いて結晶性を評価した。その結果を図3および図4に示す。
比較として、工程Eおよび工程Fにおいて、基板1の表面から25MPaの応力を印加して成膜した強誘電体膜4と、応力を印加しないで成膜した強誘電体膜4の結果も示した。
図3より、応力の有無、印加方向に関わらず、強誘電体膜4は、(001)面および(100)面に優先配向していることがわかる。なお、この強誘電体膜4は、(001)面の面間隔と(100)面の面間隔が近いため、図3に示したX線回折パターンでは、回折ピークが重なっており、見かけ上、1つのピークとして表されている。したがって、(001)面と(100)面に配向した成分の、それぞれの体積分率を求めることは困難である。
また、図4より、強誘電体膜4の応力の有無、印加方向により、回折ピーク位置が異なることがわかる。実施例で示した、基板1の裏面から応力を印加して作製した強誘電体膜4のピーク位置は、最も低角側に位置していた。それと比較して、応力を印加しないで成膜した強誘電体膜4のピーク位置と、基板1の表面から応力を印加して作製した強誘電体膜4のピーク位置は高角側にシフトしていた。これは、基板1の裏面から応力を印加して作製した強誘電体膜4は、応力を印加しないで成膜した強誘電体膜4と比較して、相対的に圧縮方向の応力が残留しているためと考えられる。
また、この強誘電体膜4の特性(P−Eヒステリシスループ)の測定を行った。その結果を図5に示す。なお比較として、工程Eおよび工程Fにおいて、基板1の表面から25MPaの応力を印加して成膜した強誘電体膜4と、応力を印加しないで成膜した強誘電体膜4の結果も同時に示している。
図5より、工程Eおよび工程Fにおいて、基板1の裏面から応力を印加して成膜することで、応力を印加しないで成膜した場合および基板1の表面から応力を印加して成膜した強誘電体膜4と比較して、P−Eヒステリシスループの最大分極値が大きく向上することがわかる。これは、強誘電体膜4に圧縮応力が印加され、(100)配向成分の90°ドメイン回転が起こりやすくなり、分極に寄与する成分が多くなったためであると考えられる。
強誘電体膜4の圧電特性については、分極値が大きいほど変位量が大きくなることから、本実施の製造方法により成膜した強誘電体膜4を用いた強誘電体素子は、従来と比較して大きな変位量が期待できる。
上記の製造方法により成膜した強誘電体膜4の上に、適宜上部電極層5を形成して強誘電体素子とする。
なお上部電極層5の形成方法については、イオンビーム蒸着法や抵抗加熱蒸着法等を用いる。
本実施の形態によれば、LNOからなる下部電極層3上にPZT系強誘電体膜4を形成しているので、従来の強誘電体素子のようにPt電極上に形成した場合と比較して、格段に高い結晶配向性を得ることができる。
LNOよりもさらに高い電気伝導性を有する下部電極層3を用いる場合は、図6に示すように下部電極層3と拡散防止層2の間に、下部電極層3より抵抗率が低い伝導層6を配置しても良い。伝導層6としては、貴金属材料や貴金属酸化物が望ましく、例えば白金、ルテニウム、イリジウム、レニウム、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化レニウム等が用いられる。
また、本実施の形態によれば、拡散防止層2、下部電極層3および強誘電体膜4はCSD法により作製しているため、スパッタ法等の気相成長法で必要となる真空プロセスが不要であり、コストが低減できる。さらに下部電極層3に用いるLNOは、本実施の形態の製造方法により成膜することで、(100)面方向に自己配向させることができるため、配向方向は基板1の材料には依存しにくい。したがって、基板1の材料に制限を与えないという特徴を有する。
例えば、基板1にステンレス材等の破壊靱性が大きい種々の材料を用いることで、脆性材料であるシリコン基板を用いていた場合と比較して、センサやアクチュエータのような、振動を繰り返すデバイスに好適で、製品としての信頼性を高めた強誘電体素子を作製することができる。このような破壊靱性が高い材料は、デバイスの製造工程において微小なクラック等の欠陥が発生した場合でも、そこを起点として劈開する危険性をシリコン基板と比較して飛躍的に低減することができることから、デバイスの製造歩留りを向上させることができる。
さらに、シリコン基板と比較してステンレス材料は非常に安価であり、基板コストを一桁程度安価にできるという作用効果も有する。
また、強誘電体膜4として多結晶材料を用いた場合、単結晶材料を用いた場合と比較して振動による破壊耐性を向上させることができる。これは、単結晶材料の場合には基板面内方向の結合力が強いため、振動による応力を緩和することができず破壊しやすいが、多結晶材料の場合には面内方向に粒界が存在するために応力緩和が可能なためである。
なお、本実施の形態の強誘電体膜4の結晶化アニールに用いる加熱炉としては、電気炉に限定するものではなく、RTA炉やレーザアニールを用いても良い。
また、本実施の形態においては、下部電極層3としてLNOを用いているが、本材料に限るものではなく、種々の導電性酸化物結晶体を用いることができ、例えば擬立方晶系の、(100)面に優先配向したルテニウム酸ストロンチウム、ランタン−ストロンチウム−コバルト酸化物等を主成分とするペロブスカイト型酸化物を用いることができる。これらの場合も、主配向面の格子定数が強誘電体膜4の主配向面の格子定数のおおよそ10%以内であることから、強誘電体膜4の(001)面および(100)面の配向性を高くすることができる。
また、本実施の形態においては、前駆体膜の作製にCSD法を用いているが、本手法に限定されるものではなく、CVD法、スパッタ法などの種々の方法により前駆体膜を作製し、その後に、基板裏面方向から25MPa以上の応力を印加しながら結晶化アニールを行い、応力を除去した後に冷却を行っても良い。
また、本実施の形態は、基板1として平板を用いて説明をしたが、形状は平板に限定されるものではなく、複数の面を有する立体形状の基板1においても適用可能である。前駆体膜を所定の面に塗布、形成した後、基板1の塗布面または前駆体膜に対して裏面から応力を印加することで同様の効果が得られるものである。このように立体形状の任意の箇所に結晶配向性の高い強誘電体膜4を形成することができるので、多方向に変位が可能なアクチュエータ等を実現することができる。
以上のように、本発明を用いることで、結晶配向性が高く、P−Eヒステリシスループの最大分極値Pmaxの値が非常に大きい強誘電体膜を形成することができ、延いては圧電変位量の大きい優れた圧電特性を示す強誘電体素子を形成できる。したがって、各種電子機器に用いる角速度センサや赤外線センサ等の各種センサ、圧電アクチュエータや超音波モータ等の各種アクチュエータ等の用途として有用である。
1 基板
2 拡散防止層
3 下部電極層
4 強誘電体膜
5 上部電極層
2 拡散防止層
3 下部電極層
4 強誘電体膜
5 上部電極層
Claims (6)
- 化学溶液法を用いた製造方法であって、
基板の主面に下部電極層を形成する下部電極形成工程と、
この下部電極層上に強誘電体の前駆体膜を形成する前駆体形成工程と、
前記前駆体膜を加熱して結晶化させることで強誘電体膜を形成する結晶化工程と、前記強誘電体膜を一定の温度まで冷却する冷却工程と、
を少なくとも含み、前記結晶化工程において、前駆体膜に応力を印加した後に結晶化させることを特徴とした強誘電体膜の製造方法。 - 強誘電体膜に対し、主配向面の格子定数の差が約10%以内となるように下部電極層を形成することを特徴とした請求項1に記載の強誘電体膜の製造方法。
- 結晶化工程の応力の印加は500℃未満で行うことを特徴とした請求項2に記載の強誘電体膜の製造方法。
- 応力を25MPa以上とすることを特徴とした請求項3に記載の強誘電体膜の製造方法。
- 基板の主面に下部電極層より抵抗率の小さい伝導層を形成した後に、下部電極形成工程を行うことを特徴とした請求項4に記載の強誘電体膜の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法を用いて形成された強誘電体膜と、この強誘電体膜上の上部電極層と、からなることを特徴とした強誘電体素子。
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- 2011-02-14 JP JP2011028210A patent/JP2012169400A/ja not_active Withdrawn
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